(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151103
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】フィルムの製造方法及びドープ液
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20231005BHJP
C08F 224/00 20060101ALI20231005BHJP
C08F 220/12 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08J5/18
C08F224/00
C08F220/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060542
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】井本 慎也
(72)【発明者】
【氏名】寳來 健介
【テーマコード(参考)】
4F071
4J100
【Fターム(参考)】
4F071AA33
4F071AA81
4F071AF13
4F071AF30Y
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4J100AL03Q
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4J100AU29P
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4J100GC22
4J100JA32
4J100JA33
4J100JA43
4J100JA67
(57)【要約】
【課題】
フィルムの外観不良の発生、並びにフィルムの強度、硬度及び透明性の低下を抑制することが可能なフィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】
ラクトン環構造を有する共重合体を含むフィルムの製造方法であって、共重合体と第一の溶媒、第二の溶媒及び第三の溶媒とを含むドープ液を溶液製膜法により製膜してフィルムを得る工程を含み、第一の溶媒の沸点が60℃未満であり、第二の溶媒の沸点が60~110℃であり、第三の溶媒の沸点が110℃超である、フィルムの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトン環構造を有する共重合体を含むフィルムの製造方法であって、
前記共重合体と第一の溶媒、第二の溶媒及び第三の溶媒とを含むドープ液を溶液製膜法により製膜してフィルムを得る工程を含み、
前記第一の溶媒の沸点が60℃未満であり、
前記第二の溶媒の沸点が60~110℃であり、
前記第三の溶媒の沸点が110℃超である、フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記フィルムを延伸する工程を更に含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ドープ液が、前記第一の溶媒、第二の溶媒及び第三の溶媒の合計量を基準として、前記第一の溶媒を5~80質量%含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ドープ液が、前記第一の溶媒、第二の溶媒及び第三の溶媒の合計量を基準として、前記第二の溶媒を3~50質量%含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記共重合体が、炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位を更に有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ドープ液の粘度が0.1~500000cPである、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
未延伸の前記フィルムの膜厚が60~200μmである、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
ラクトン環構造を有する共重合体と第一の溶媒、第二の溶媒及び第三の溶媒とを含むドープ液であって、
第一の溶媒の沸点が60℃未満であり、
第二の溶媒の沸点が60~110℃であり、
第三の溶媒の沸点が110℃超である、ドープ液。
【請求項9】
粘度が0.1~500000cPである、請求項8に記載のドープ液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムの製造方法及びドープ液に関する。
【背景技術】
【0002】
ラクトン環構造を有する共重合体は、透明性、耐熱性、光学等方性に優れ、光学用途への適用が期待されている。例えば、特許文献1には、所定のラクトン環含有単量体単位を含有する熱可塑性共重合体を含有し、所定の物性を満たす光学等方性アクリル樹脂フィルムが、偏光子保護フィルム等の光学用フィルムに用いられることが好ましいと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、フィルムの製膜方法としては、例えば、溶媒とポリマーなどを含むドープ液を調製して製膜する溶液製膜法がある。この溶液製膜法を適用して、ラクトン環構造を有する共重合体からのフィルムの製膜を検討したところ、本発明者等は、溶液製膜法に通常用いられる溶媒を用いた場合には、得られるフィルムに外観不良や、強度、硬度、透明性等の問題が発生することを見出した。外観不良の問題については、溶媒の除去時(乾燥時)に溶媒が突沸することでフィルムの表面に泡が生じる等といったことが原因であると考えられる。また、フィルムの強度、硬度、透明性等の問題については、溶媒の除去時(乾燥時)に溶媒を十分に除くことができず、比較的多い量の残存溶媒がフィルム中に残ってしまうこと等が原因であると考えられる。また、残存溶媒を除くためには乾燥時間を伸ばし、さらに200℃以上での高温乾燥を行う必要があるが、生産性が著しく低下し、またフィルムの着色など外観不良が生じやすい。
【0005】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、フィルムの外観不良の発生、並びにフィルムの強度、硬度及び透明性の低下を抑制することが可能なフィルムの製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の[1]~[7]に記載のフィルムの製造方法、[8]、[9]に記載のドープ液を提供する。
[1] ラクトン環構造を有する共重合体を含むフィルムの製造方法であって、共重合体と第一の溶媒、第二の溶媒及び第三の溶媒とを含むドープ液を溶液製膜法により製膜してフィルムを得る工程を含み、第一の溶媒の沸点が60℃未満であり、第二の溶媒の沸点が60~110℃であり、第三の溶媒の沸点が110℃超である、フィルムの製造方法。
[2] 上記フィルムを延伸する工程を更に含む、[1]に記載の製造方法。
[3] 上記ドープ液が、第一の溶媒、第二の溶媒及び第三の溶媒の合計量を基準として、第一の溶媒を5~80質量%含む、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4] 上記ドープ液が、第一の溶媒、第二の溶媒及び第三の溶媒の合計量を基準として、第二の溶媒を3~50質量%含む、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] 上記共重合体が、炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位を更に有する、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] 上記ドープ液の粘度が0.1~500000cPである、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7] 未延伸の上記フィルムの膜厚が60~200μmである、[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8] ラクトン環構造を有する共重合体と第一の溶媒、第二の溶媒及び第三の溶媒とを含むドープ液であって、第一の溶媒の沸点が60℃未満であり、第二の溶媒の沸点が60~110℃であり、第三の溶媒の沸点が110℃超である、ドープ液。
[9] 粘度が0.1~500000cPである、[8]に記載のドープ液。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フィルムの外観不良の発生、並びにフィルムの強度、硬度及び透明性の低下を抑制することが可能なフィルムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0009】
[共重合体]
本実施形態のフィルムにおける共重合体は、ラクトン環構造を有する。
【0010】
ラクトン環構造としては、特に限定されず、例えば、4から8員環であってもよいが、環構造の安定性に優れることから5員環又は6員環であることが好ましい。
【0011】
共重合体は、ラクトン環構造を形成するための構成単位として、特に制限されないが、α-メチレンラクトン由来の構成単位を有することが好ましい。
【0012】
α-メチレンラクトン由来の構成単位は、α位の炭素にメチレン基が結合したα-メチレンラクトンの重合により形成される。α-メチレンラクトン由来の構成単位の具体的な構造は特に限定されない。
【0013】
5員環又は6員環であるα-メチレンラクトンの具体例は、α-メチレン-γ-ブチロラクトン、α-メチレン-δ-バレロラクトンである。これらは置換基を有するものであってもよい。
【0014】
α-メチレンラクトン由来の構成単位は、好ましくは以下の式(1)に示す構造を有する構成単位である。
【0015】
【0016】
式(1)におけるR1~R4は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1~18の炭化水素基である。
【0017】
式(1)に示す構造を有する構成単位は、以下の式(2)に示すα-メチレン-γ-ブチロラクトンを含む単量体の重合により形成できる。
【0018】
【0019】
式(2)におけるR1~R4は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1~18の炭化水素基である。
【0020】
炭化水素基は、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基である。脂肪族炭化水素基は、例えば、アルキル基である。アルキル基の炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~8である。アルキル基は直鎖でも分岐を有していてもよく、環状でもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0021】
芳香族炭化水素基は特に限定されず、例えば、複素環構造を含んでいてもよい。芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、ベンジル基等が挙げられる。
【0022】
R1~R4は、好ましくは、互いに独立して、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基、より好ましくは全て水素原子である。
【0023】
共重合体は、ラクトン環構造を形成するための構成単位以外に、任意のその他の単量体の構成単位を含む。その具体例としては、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2-クロロエチル、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル等の単量体由来の構成単位が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
共重合体は、上記の任意のその他の単量体の構成単位のなかでも、得られるフィルムの耐熱性、透明性等をより向上させる観点から、(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位を含むことが好ましく、特に炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位を含むことが好ましい。
【0025】
炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位は、(メタ)アクリル酸アルキルの重合により形成される。(メタ)アクリル酸アルキルにおける炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてよい。
【0026】
(メタ)アクリル酸アルキルにおけるアルキル基の炭素数は、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2、更に好ましくは1である。
【0027】
共重合体におけるラクトン環構造を形成するための構成単位の含有量は、耐熱性等をより向上させる観点から、好ましくは5~60質量%、より好ましくは7.5~50質量%、更に好ましくは10~45質量%である。なお、共重合体における各構成単位の含有量は、共重合体を重溶媒に溶解させ、1H-NMRを測定し各構成単位に対応するピークの面積比を算出することで求めることができる。
【0028】
共重合体における炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位の含有量は、好ましくは95~40質量%、より好ましくは92.5~45質量%、更に好ましくは90~50質量%である。
【0029】
共重合体における、ラクトン環構造を形成するための構成単位及び炭素数1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位以外の構成単位の含有量は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0030】
共重合体の重量平均分子量(Mw)は、50000~1500000であると好ましく、100000~1000000であるとより好ましく、150000~500000であると更に好ましい。特に、得られるフィルムの強度を向上させる観点から、共重合体の重量平均分子量は200000超であることが好ましい。共重合体の数平均分子量(Mn)は、例えば30000~500000、分散度(Mw/Mn)は、例えば5以下である。
【0031】
共重合体のガラス転移温度(Tg)は、フィルムを作製する際に乾燥を促進する目的で乾燥温度を上げやすいという観点から110℃以上であることが好ましく、115℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることが更に好ましく、125℃以上であることが特に好ましい。また、フィルムの強度をより高める観点からTgは200℃以下であることが好ましく、190℃以下であることがより好ましい。
【0032】
共重合体のHSP値(HansenSolubility Parameters)は、フィルムの疎水性が高く、水によるフィルム特性の悪化やデバイスに組み込まれた際の透湿によるトラブルを抑制する観点からδDが14~22MPa1/2、δPが8~15MPa1/2、δHが5~10MPa1/2であることが好ましく、δDが16~21MPa1/2、δPが10~13MPa1/2、δHが6~9MPa1/2であることがより好ましく、δDが17~20MPa1/2、δPが11~13MPa1/2、δHが6~9MPa1/2であることが更に好ましい。共重合体のHSP値はHansen Solubility Parameters:A User’s Handbook, Second Edition. CharlesM. Hansenの記載に準拠した方法で、HSP値が公知の溶媒への溶解性試験を行いその結果に基づいて、HSPiPversion:5.3.08を用いて算出した。なお、計算方法はClassic GAを用いて求めた。
【0033】
共重合体の製造方法は、特に限定されないが、例えば、溶液重合や水溶媒中での重合により製造される。水溶媒中での重合では、ラクトン環構造を形成するための構成単位を有する化合物及び任意のその他の単量体を重合させる重合工程を備え、単量体の全量を重合工程の初期から系中に存在させることを特徴とする方法で製造することができる。
【0034】
水溶媒は、水単独であってもよく、非水溶媒(特に水溶性有機溶媒)を含んでいてもよい。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2-メチルプロピルアルコール、2-メチル-2-プロパノール等のアルコール溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒;ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル溶媒;等が挙げられる。
【0035】
水溶媒中、有機溶媒の割合は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。
【0036】
重合工程においては、単量体の全量を重合工程の初期から系中に存在させることが好ましい。単量体の全量を重合工程の初期から系中に存在させる方法としては、実質的に重合が開始する前に単量体の全量が反応器へ投入されていればよく、例えば、反応器の温度を重合温度まで上昇させる前に単量体の全量を反応器へ投入することができる。
【0037】
単量体を水溶媒中に分散させるときには、パドル翼等で攪拌して分散させてもよく、高速せん断タービン型分散機、高圧ジェットホモジナイザー、超音波式乳化分散機、媒体攪拌分散機、強制間隙通過型分散機等の乳化分散装置を用いて分散させてもよい。
【0038】
単量体を重合させる際には、必要に応じて、重合開始剤、連鎖移動剤、分散剤及び/又は添加剤を添加してもよい。
【0039】
重合開始剤としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等の有機過酸化物;2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)等のアゾ化合物などが挙げられる。重合開始剤の含有割合は、用いる単量体の組み合わせ、反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、全単量体に対して、好ましくは100~50000質量ppm、より好ましくは500~30000質量ppm、更に好ましくは1000~20000質量ppmである。
【0040】
連鎖移動剤としては、例えば、n-ドデシルメルカプタン、β-メルカプトプロピオン酸等の単官能チオール化合物;両末端メルカプト変性ポリシロキサン等の2官能チオール化合物;側鎖がメルカプト変性された側鎖多官能メルカプト変性ポリシロキサンなどが挙げられる。連鎖移動剤の添加の有無、及び添加する場合には添加量によって、得られる共重合体の分子量を調整することができる。連鎖移動剤の含有割合は、用いる単量体の組み合わせ、反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、全単量体に対して、好ましくは10~10000質量ppm、より好ましくは100~3000質量ppmである。
【0041】
分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、セルロース、ゼラチン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸ナトリウム等の水溶性高分子系分散安定剤;ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩(例えば、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム)等のアニオン性界面活性剤;アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤;ラウリルジメチルアミンオキサイド等の両性イオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のノニオン性界面活性剤;その他アルギン酸塩、ゼイン、カゼイン;硫酸バリウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、タルク、粘土、ケイソウ土、ベントナイト、水酸化チタン、水酸化トリウム、金属酸化物粉末等の無機分散剤などが挙げられる。分散剤の添加により、重合反応の安定性を向上させることができる。分散剤の含有割合は、特に制限されないが、全単量体に対して、好ましくは0.1~3質量%、より好ましくは0.2~1質量%である。
【0042】
本実施形態の共重合体は、分散剤以外の種々の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、サリシレート系化合物、ベンゾエート系化合物、トリアゾール系化合物、トリアジン系化合物等の紫外線吸収剤;フェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;4-ターシャリーブチルカテコール(TBC)、ヒドロキノン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(4H-TEMPO)等の重合禁止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃剤;位相差上昇剤、位相差低減剤、位相差安定剤等の位相差調整剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤を含む帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;等が挙げられる。本実施形態の共重合体における添加剤の含有量は、0~5質量%であってもよく、0~3質量%であってもよい。
【0043】
重合反応の形態としては、例えば、懸濁重合、乳化重合等が挙げられる。これらの中で、得られる共重合体の透明性をより向上できる点等から、分散剤の存在下で、水溶媒中に単量体を懸濁させて反応を行う懸濁重合が好ましい。
【0044】
重合工程後に、固液分離することにより、共重合体粒子を回収することができる。固液分離の方法としては、濾取、遠心分離、それらの組み合わせ等が挙げられる。
【0045】
得られた共重合体は、乾燥させることが好ましい。乾燥温度は例えば60℃以上120℃以下とすることができる。
【0046】
また固液分離をせずに直接乾燥により水を取り除いてもよい。各種ドライヤーを用いて乾燥させることで直接共重合体を粉体として取得することができる。
【0047】
[フィルムの製造方法]
本実施形態のフィルムの製造方法は、上記ラクトン環構造を有する共重合体と第一の溶媒、第二の溶媒及び第三の溶媒とを含むドープ液を溶液製膜法により製膜してフィルムを得る工程を含み、更に、上記第一の溶媒の沸点が60℃未満であり、上記第二の溶媒の沸点が60~110℃であり、上記第三の溶媒の沸点が110℃超であることを特徴とする。
【0048】
溶液製膜法としては、従来公知の方法を適用することができるが、例えば、上記ラクトン環構造を有する共重合体と第一の溶媒、第二の溶媒及び第三の溶媒とを含むドープ液を調製する工程と、当該ドープ液を支持体上に塗工する工程と、塗工されたドープ液から溶媒を除去してフィルムを得る工程とを備える溶液製膜法を適用することができる。
【0049】
第一の溶媒としては、沸点が60℃未満であれば特に制限されず、例えば、アセトン、塩化メチレン、1,1-ジクロロエタン、ジエチルエーテル、ギ酸エチル、酢酸メチル、ペンタンなどを含んでいてもよい。なかでも、アセトン又は塩化メチレンを含むことが好ましい。これらの溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、第一の溶媒の沸点の下限は、特に限定されないが、例えば30℃以上とすることができる。
【0050】
第二の溶媒としては、沸点が60~110℃であれば特に制限されず、例えば、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、アセトニトリル、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼンなどを含んでいてもよい。なかでも、メチルエチルケトン又はエタノールを含むことが好ましい。これらの溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
第三の溶媒としては、沸点が110℃超であれば特に制限されず、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N’-ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、シクロヘキサノン(アノン)、シクロペンタノン、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、ジメチルスルホキシド、トルエン、キシレン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどを含んでいてもよい。なかでも、N,N-ジメチルホルムアミドなどアミド系の溶媒を含むことが好ましい。これらの溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、第三の溶媒の沸点の上限は、特に限定されないが、例えば210℃以下とすることができる。
【0052】
ドープ液は、第一の溶媒、第二の溶媒及び第三の溶媒の合計量を基準として、第一の溶媒を5~80質量%含むことが好ましく、15~70質量%含むことがより好ましく、25~60質量%含むことが更に好ましい。第一の溶媒の量が上記の範囲内であることで、効率よくフィルムを乾燥できるため生産性が向上し、更に、フィルム中の残存溶媒量を低減しやすくなり、強度、硬度、透明性等のフィルム特性が損なわれることを抑制できる。また、第一の溶媒の量が、第一の溶媒、第二の溶媒及び第三の溶媒の合計量を基準として80質量%以下であることで、塗工直後の乾燥の進行を遅らせることができ、白化や表面荒れなどの発生を抑制できる。
【0053】
また、ドープ液は、第一の溶媒、第二の溶媒及び第三の溶媒の合計量を基準として、第二の溶媒を3~50質量%含むことが好ましく、5~40質量%含むことがより好ましく、7~30質量%含むことが更に好ましい。第二の溶媒の量が上記の範囲内であることで、フィルムの乾燥効率を向上し、塗工直後に乾燥しすぎることで生じる白化や表面荒れなどの発生を抑制できる。
【0054】
さらに、ドープ液は、第一の溶媒、第二の溶媒及び第三の溶媒の合計量を基準として、第三の溶媒を5~40質量%含むことが好ましく、7~35質量%含むことがより好ましく、10~30質量%含むことが更に好ましい。第三の溶媒の量が、第一の溶媒、第二の溶媒及び第三の溶媒の合計量を基準として5質量%以上であることで、フィルム表面が皮張りしにくくなり乾燥時に突沸が発生しにくくなる。また、第三の溶媒の量が、第一の溶媒、第二の溶媒及び第三の溶媒の合計量を基準として40質量%以下であることで、フィルム中の残存溶媒量を低減しやすくなり、強度、硬度、透明性等のフィルム特性が損なわれることを抑制できる。
【0055】
ドープ液の粘度は、フィルムを効率よく製造する観点から、好ましくは0.1~500000cPであり、より好ましくは0.2~250000cPであり、更に好ましくは0.3~150000cPである。
【0056】
ドープ液の固形分濃度は、フィルムを効率よく製造する観点から、ドープ液の全量を基準として、好ましくは5~40質量%であり、より好ましくは8~35質量%であり、更に好ましくは10~30質量%である。
【0057】
ドープ液は、所望のフィルムの特性に合わせて、上述のラクトン環構造を有する共重合体に加えて、その他の重合体、その他の添加剤等を含有していてもよい。
【0058】
その他の重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)等のオレフィン系ポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂等の含ハロゲン系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系ポリマー;ポリスチレン、スチレン-メタクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンブロック共重合体等のスチレン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;;トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セルロースプロピオネート等のセルロース誘導体;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴム等の弾性有機微粒子;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムを配合したABS樹脂、ASA樹脂等のゴム質重合体などが挙げられる。その他の重合体の含有量は、延伸フィルム(樹脂組成物)の全量を基準として、好ましくは0~50質量%、より好ましくは0~40質量%、更に好ましくは0~30重量%、特に好ましくは0~20質量%、最も好ましくは0~10質量%である。
【0059】
その他の添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;フェニルサリチレート、(2,2’-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシベンゾフェノン等の紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤等の帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機フィラー;酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化チタン等の無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤又は無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;流動化剤;相溶化剤などが挙げられる。フィルムは、1種又は2種以上のその他の添加剤を含有することができる。その他の添加剤の含有量は、延伸フィルムの全量を基準として、好ましくは0~5質量%、より好ましくは0~4質量%、更に好ましくは0~3質量%である。
【0060】
ドープ液は、ラクトン環構造を有する共重合体、及び任意のその他の重合体や添加剤を溶媒(第一の溶媒、第二の溶媒及び第三の溶媒の混合液)に溶解又は分散することにより調製できる。ラクトン環構造を有する共重合体、及び任意のその他の重合体や添加剤を溶媒に溶解又は分散する方法としては、例えば、ラクトン環構造を有する共重合体、及び任意のその他の重合体や添加剤を溶媒に投入し、適宜剪断及び/又は攪拌により混合してもよい。ラクトン環構造を有する共重合体、及び任意のその他の重合体や添加剤を投入する溶媒への投入順は特に限定されず、ラクトン環構造を有する共重合体、及び任意のその他の重合体や添加剤を全て同時に投入してもよく、順次投入してもよい。また、ラクトン環構造を有する共重合体、及び任意のその他の重合体や添加剤を予め混合、好ましくは加熱溶融させた上で適宜剪断力を加えて溶融混練し、樹脂組成物(例えば、ペレット状又は粉体状の樹脂組成物)を調製した後に、当該樹脂組成物を溶媒と混合して、ドープ液を調製してもよい。これらの混合工程においては、温度及び圧力を適宜調節することができる。なお、ドープ液の調製に使用する原料は、液体(溶媒に原料を溶解させてから添加する場合も含む)であればろ過してから使用してもよく、上記の混合工程の後、得られたドープ液をろ過及び/又は脱泡してもよい。
ろ過の方法としては、ディスクフィルタ―、プリーツフィルター等公知のフィルターが使用でき、ろ過前に金網などで荒濾ししてもよく、孔径の大きいものから小さいものへ順に通してもよい。好ましいろ過精度は0.1~20μmであり、より好ましくは1~15μm、更に好ましくは2~10μmである。
脱泡方法としては、減圧脱泡、超音波脱泡、など公知の方法が使用できる。減圧脱泡する際には、溶解槽内に静置したドープ表面に皮張りが起こらないよう減圧度を適宜調整することが好ましい。また、溶解槽内を使用する溶媒の蒸気で満たした状態で保持することも好ましい。
【0061】
支持体は、特に制限されず、溶液製膜に使用される従来公知の支持体を使用することができる。支持体としては、例えば、ステンレス鋼のエンドレスベルト、回転する金属ドラム等の金属支持体、フィルム(例えば、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム(二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム)等のプラスチックフィルム)などが挙げられる。ドープ液を塗工する方法は、特に限定されないが、従来公知の方法を用いることができる。ドープ液を塗工する方法としては、例えば、ダイコーター、ドクターブレードコーター、ロールコーター、コンマコーター、リップコーター等を用いて塗工する方法が挙げられる。
【0062】
ドープ液から溶媒を除去して未延伸フィルムを製造する方法としては、特に限定されないが、例えば、ドープ液を加熱して溶媒を揮発させる方法等が挙げられる。乾燥温度は、使用される溶媒に合わせて適宜設定することができるが、本実施形態に係るフィルムの製造方法では、第一の溶媒、第二の溶媒及び第三の溶媒を組み合わせて使用しているため、200℃以上のような高温の条件下でなくても十分に残存溶媒量を低減することができる。したがって、本実施形態に係るフィルムの乾燥工程では、溶媒の突沸などによる発泡を抑制する観点から残存溶媒量に応じて例えば、40~180℃の範囲で徐々に温度を上げていってもよい。また、フィルム面上での結露を抑制する観点から乾燥エアー中で乾燥することが好ましい。さらに、塗液表面が固まるまでに温風等を塗液に直接吹き付けることは表面性が悪化するため、支持体側からヒーター等による輻射熱で乾燥することが好ましい。フィルムは乾燥後に支持体から剥離してもよいし、自己支持性を有する程度まで乾燥後に支持体から剥離して追加乾燥を行ってもよい。
フィルムを更に乾燥させる場合は、テンターにて幅方向両端部を把持しながら、場合によってはフィルムのたるみや乾燥による収縮に応じた拡縮調整を行いながら乾燥する方法、又は、オーブン内の上下に配置した多数のロールにフィルムを交互に通し乾燥させる方式(垂直パス方式)にて乾燥する方法を用いることが好ましい。テンター方式又は垂直パス方式のどちらの乾燥方法を用いるかは、フィルムの残存溶媒量に応じて適宜選定すればよく、両方とも実施してもよいし複数回実施してもよい。
【0063】
未延伸フィルムの膜厚は、後の延伸工程において十分な面倍率で延伸する観点から、好ましくは60~200μmであり、より好ましくは70~180μmであり、更に好ましくは80~160μmである。
【0064】
未延伸フィルム中には、ドープ液の調製時に使用した溶媒(残存溶媒)が含まれる。本実施形態の未延伸フィルム中の残存溶媒量は、フィルムの強度や硬度の特性を発現すること、また延伸後のフィルムの拡縮を抑制する観点から、好ましくは0.12~3質量%であり、より好ましくは0.15~2質量%であり、更に好ましくは0.17~1.8質量%であり、特に好ましくは0.2~1.6質量%である。
【0065】
本実施形態に係るフィルムの製造方法では、未延伸フィルムの膜厚(ドライ膜厚)が100μm以上であっても、突沸等により表面が悪化することなく未延伸フィルム中の残存溶媒量を上記の範囲まで低減することができる。
【0066】
上記溶液製膜法により得られた未延伸フィルムは、延伸することによって優れた強度や硬度、位相差等を有するフィルム(延伸フィルム)を得ることができる。
【0067】
フィルムを延伸する方法としては、従来公知の延伸方法が適用でき、例えば、自由幅一軸延伸、定幅一軸延伸等の一軸延伸;逐次二軸延伸、同時二軸延伸等の二軸延伸等が挙げられる。フィルム面内の任意の直交する二方向に対する耐折れ曲げ性が向上するという点で、フィルムを延伸する方法は好ましくは二軸延伸である。
【0068】
フィルムを延伸する際の延伸温度は、好ましくは上述の共重合体のガラス転移温度近辺である。より具体的には、好ましくは(ガラス転移温度-30)℃~(ガラス転移温度+100)℃、より好ましくは(ガラス転移温度-20)℃~(ガラス転移温度+50)℃、更に好ましくは(ガラス転移温度-10)℃~(ガラス転移温度+30)℃である。
【0069】
本実施形態のフィルムを延伸する際の面倍率は、1.8~10倍であり、延伸後のフィルムの強度及び硬度を向上させる観点から、好ましくは2~7倍であり、より好ましくは2.2~6倍であり、更に好ましくは2.5~5倍であり、特に好ましくは2.6~4.5倍である。
【0070】
上述のフィルムの製造方法によって得られる延伸フィルムの厚さは、好ましくは10~60μmであり、より好ましくは15~55μmであり、更に好ましくは20~50μmである。
【0071】
本実施形態のフィルムは、種々の用途に適用でき、例えば、光学用途に好適に適用することができる。具体的な用途の例としては、例えば、導光部材、フィルム用途、レンズ(光学レンズ等)、カバー、発泡体用途(例えば、緩衝材、保温・断熱材、制振材、防音材、シール材、パッキング材等)などの各種用途が挙げられる。また、本実施形態のフィルムは強度及び硬度に優れるので、フレキシブルディスプレイ用途に好適に用いることができ、特に、最表面のカバーウィンドウとしてより一層好適に用いることができる。また、フレキシブルディスプレイの各層の保護フィルム等として用いることも可能である。具体的には、薄膜ガラスや透明ポリイミドといった別のフィルムと積層させて使用することができる。さらに、反射防止層やタッチパネル、基盤部などの保護フィルム等として用いることもできる。
【実施例0072】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」、「ppm」は「質量ppm」を意味する。また、各種物性は、次のようにして測定・評価した。
【0073】
[共重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)]
共重合体の重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置及び測定条件は、以下のとおりである。
システム:東ソー製GPCシステムHLC-8220
測定側カラム構成:
・ガードカラム(東ソー製、TSKguardcolumn SuperHZ-L)
・分離カラム(東ソー製、TSKgel SuperHZM-M) 2本直列接続
リファレンス側カラム構成:
・リファレンスカラム(東ソー製、TSKgel SuperH-RC)
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)
展開溶媒の流量:0.6mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー製、PS-オリゴマーキット)
カラム温度:40℃
【0074】
[共重合体のガラス転移温度(Tg)]
共重合体のガラス転移温度は、JIS K 7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク社製、Thermo plus EVO DSC-8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには、α-アルミナを用いた。
【0075】
[ドープ液の粘度]
ドープ液の粘度は、BHII型粘度計(東機産業株式会社製)を用いて25℃にて測定した。
【0076】
[未延伸フィルムの厚さ(ドライ膜厚)]
フィルムの厚さは、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ製)により求めた。
【0077】
[未延伸フィルム中の残存溶媒量]
未延伸フィルム中の残存溶媒量は、示差熱-熱重量同時測定装置(リガク製、Thermo plus EVO TG-DTA-8120)を用いて測定した。具体的には、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から300℃まで昇温(昇温速度10℃/分)させ、230℃到達時の重量減少分(%)を残存溶媒量とした。リファレンスには、α-アルミナを用いた。
【0078】
[未延伸フィルムの外観]
未延伸フィルムの外観は10cm各に切り出したフィルム内に気泡が0個以上2個以下であれば〇、2個超5個以下であれば△、5個超であれば×とした。
【0079】
[延伸フィルムの強度試験]
延伸フィルムを15mm×80mmの大きさに切り出して試験片とし、Tension-FreeFolding Clamshell-type(ユアサシステム機器製、DMLHP-CS)にテープで固定した。また、試験片を長辺の半分の位置で折り曲げ、折り畳まれた状態の試験片の長辺の両端部間の距離が5mmとなり、試験片の折り曲げ部分の曲率半径が2.5mmとなるように折り畳まれた状態を設定した。その後、25℃の環境下で、平坦に開いた状態から折り畳まれた状態にすることを1回の屈曲として、1分間に30回の屈曲回数で、10万回屈曲を繰り返した。試験後の折り畳まれた部分の延伸フィルムが破断していなければ○、破断があれば×と判断した。
【0080】
[延伸フィルムの引張試験(弾性率測定)]
延伸フィルムを120mm×10mmの大きさに切り出して試験片とし、温度25℃、相対湿度50%の雰囲気下で、JIS K7127に準拠し、オートグラフ(島津製作所製:AG-X)を用いて引張試験を実施した。条件は引張速度を3mm/分、チャック間距離を100mm、変位計での測定する標線間隔を80mmとして、25℃で3回試験を行い、その平均値を測定値とした。変位は非接触伸び幅計(島津製作所製:TRViewX)を用いて計測し、弾性率は歪が0.2%から0.5%までの間の傾きとして評価した。なお、弾性率が4GPaを超えていれば○、4GPa以下であれば×とした。
【0081】
[延伸フィルムのヘイズ]
ヘイズはJIS K7136の規定に準拠して求めた。具体的には、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH-1001DP)を用いて延伸フィルムを測定した。
【0082】
なお、メタクリル酸メチル(MMA)、α-メチレン-γ-ブチロラクトン(ML)は東京化成工業から入手した。パーロイルL(ジラウロイルパーオキサイド、LPO)は日油株式会社より、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(商品名「ハイテノール(登録商標)NF-08」は第一工業製薬株式会社より入手した。
【0083】
<共重合体1の製造>
攪拌装置、温度センサー、冷却管、及び窒素導入管を備えた反応器を用意した。容器に分散剤としてハイテノール(登録商標)NF-08を1部溶解した脱イオン水75部を仕込んだ。そこへあらかじめ調製しておいたモノマーとしてMMAを37.5部、MLを12.5部、重合開始剤としてLPOを0.25部混合した液を仕込み、T.K.ホモミクサーMARK II model2.5(プライミクス株式会社製)を用い、3000rpmで15分間攪拌して均一な懸濁液とした。
懸濁液に脱イオン水を125部追加してから反応器に移送し、攪拌しながら窒素ガスを吹き込み、反応液(懸濁液)が65℃になるまで加熱した。内温65℃になった時点を反応開始とし、そのまま65℃で反応器を保温して自己発熱により液温がピーク温度に到達した後に75℃に保ち、さらに反応開始2時間後に反応液(懸濁液)を90℃まで昇温して4時間攪拌することで重合反応を完了させた。その後、反応液(懸濁液)を冷却し、濾過により共重合体を濾取し、さらに熱風乾燥機を用いて乾燥して共重合体1(粉体)を得た。共重合体の分子量Mwは283000、Mnは129000、Tgは127℃あった。
【0084】
<共重合体2の製造>
MMAを30部、MLを20部とした以外は、共重合体1の製造と同様にして、共重合体2(粉体)を得た。共重合体の分子量Mwは263000、Mnは117000、Tgは136℃あった。
【0085】
(実施例1)
アセトン42部、メチルエチルケトン(MEK)7部、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)21部をミキシングタンクに投入し、攪拌しながら上記共重合体1を30部投入し溶解させた後、10μmフィルタで濾過し、さらに減圧脱泡を行って製膜用ドープ液1を得た。製膜用ドープ液1の粘度は10000cPであった。
【0086】
上記ドープ液1をドライ膜厚で160μmとなるようにコーターを用いて支持体(カプトンフィルム)上に流延し、40~180℃まで1時間で昇温し、さらに1時間維持を行い加熱して溶媒を蒸発させることにより未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルム中の残存溶媒量は0.9質量%であった。得られた未延伸フィルムを96mm×96mmの大きさに切り出し、逐次二軸延伸機(東洋精機製作所社製、X6-S)を用いて、Tg+18℃の温度にて300%/分の延伸速度で縦方向(MD方向)および横方向(TD方向)の順に面倍率が4.0倍となるように逐次二軸延伸を行い、冷却することにより延伸フィルムを得た。得られたフィルムの各物性の評価結果について表1に示す。
【0087】
(実施例2)
アセトン48部、MEK8部、DMF24部をミキシングタンクに投入し、攪拌しながら上記共重合体1を20部投入し溶解させた後、10μmフィルタで濾過し、さらに減圧脱泡を行って製膜用ドープ液2を得た。製膜用ドープ液2の粘度は2000cPであった。
【0088】
上記ドープ液2をドライ膜厚で100μmとなるようにコーターを用いて支持体(カプトンフィルム)上に流延し、40~180℃まで1時間で昇温し、さらに1時間維持を行い加熱して溶媒を蒸発させることにより未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルム中の残存溶媒量は0.9質量%であった。得られた未延伸フィルムを96mm×96mmの大きさに切り出し、逐次二軸延伸機(東洋精機製作所社製、X6-S)を用いて、Tg+18℃の温度にて300%/分の延伸速度で縦方向(MD方向)および横方向(TD方向)の順に面倍率が4.0倍となるように逐次二軸延伸を行い、冷却することにより延伸フィルムを得た。得られたフィルムの各物性の評価結果について表1に示す。
【0089】
(実施例3)
アセトン42部、MEK7部、DMF21部をミキシングタンクに投入し、攪拌しながら上記共重合体2を30部投入し溶解させた後、10μmフィルタで濾過し、さらに減圧脱泡を行って製膜用ドープ液3を得た。製膜用ドープ液3の粘度は13000cPであった。
【0090】
上記ドープ液3をドライ膜厚で160μmとなるようにコーターを用いて支持体(カプトンフィルム)上に流延し、40~180℃まで1時間で昇温し、さらに1時間維持を行い加熱して溶媒を蒸発させることにより未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルム中の残存溶媒量は0.8質量%であった。得られた未延伸フィルムを96mm×96mmの大きさに切り出し、逐次二軸延伸機(東洋精機製作所社製、X6-S)を用いて、Tg+18℃の温度にて300%/分の延伸速度で縦方向(MD方向)および横方向(TD方向)の順に面倍率が4.0倍となるように逐次二軸延伸を行い、冷却することにより延伸フィルムを得た。得られたフィルムの各物性の評価結果について表1に示す。
【0091】
(実施例4)
塩化メチレン42部、エタノール(EtOH)7部、DMF21部をミキシングタンクに投入し、攪拌しながら上記共重合体1を30部投入し溶解させた後、10μmフィルタで濾過し、さらに減圧脱泡を行って製膜用ドープ液4を得た。製膜用ドープ液4の粘度は10000cPであった。
【0092】
ドープ液4をドライ膜厚で160μmとなるようにコーターを用いて支持体(カプトンフィルム)上に流延し、40~180℃まで1時間で昇温し、さらに1時間維持を行い加熱して溶媒を蒸発させることにより未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルム中の残存溶媒量は0.9質量%であった。得られた未延伸フィルムを96mm×96mmの大きさに切り出し、逐次二軸延伸機(東洋精機製作所社製、X6-S)を用いて、Tg+18℃の温度にて300%/分の延伸速度で縦方向(MD方向)および横方向(TD方向)の順に面倍率が4.0倍となるように逐次二軸延伸を行い、冷却することにより延伸フィルムを得た。得られたフィルムの各物性の評価結果について表1に示す。
【0093】
(比較例1)
アセトン56部、MEK14部をミキシングタンクに投入し、攪拌しながら上記共重合体1を30部投入し溶解させた後、10μmフィルタで濾過し、さらに減圧脱泡を行って製膜用ドープ液5を得た。製膜用ドープ液5の粘度は9000cPであった。
【0094】
ドープ液5をドライ膜厚で160μmとなるようにコーターを用いて支持体(カプトンフィルム)上に流延し、40~180℃まで1時間で昇温し、さらに1時間維持を行い加熱して溶媒を蒸発させることにより未延伸フィルムを得た。上記溶媒の蒸発の過程で突沸が生じた。得られた未延伸フィルム中の残存溶媒量は0.9質量%であった。得られたフィルムは気泡が多く延伸できなかった。
【0095】
(比較例2)
DMF70部をミキシングタンクに投入し、攪拌しながら上記共重合体1を30部投入し溶解させた後、10μmフィルタで濾過し、さらに減圧脱泡を行って製膜用ドープ液6を得た。製膜用ドープ液6の粘度は11000cPであった。
【0096】
ドープ液6をドライ膜厚で160μmとなるようにコーターを用いて支持体(カプトンフィルム)上に流延し、80~180℃まで1時間で昇温し、さらに1時間維持を行い加熱して溶媒を蒸発させることにより未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルム中の残存溶媒量は5質量%であった。得られた未延伸フィルムを96mm×96mmの大きさに切り出し、逐次二軸延伸機(東洋精機製作所社製、X6-S)を用いて、Tg+18℃の温度にて300%/分の延伸速度で縦方向(MD方向)および横方向(TD方向)の順に面倍率が4.0倍となるように逐次二軸延伸を行い、冷却することにより延伸フィルムを得た。得られたフィルムの各物性の評価結果について表2に示す。
【0097】
【0098】