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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151116
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】推定装置および推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/569 20060101AFI20231005BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01N33/569 A
G01N33/483 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060558
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100180806
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100207778
【弁理士】
【氏名又は名称】阿形 直起
(72)【発明者】
【氏名】和田 花奈
(72)【発明者】
【氏名】野崎 孝明
(72)【発明者】
【氏名】栗田 浩
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA40
2G045CA11
2G045CA12
2G045CA17
2G045CA18
2G045CA19
2G045CB21
2G045DA36
2G045DA38
2G045FB03
2G045FB07
(57)【要約】
【課題】簡易にバイタルデータを推定することを可能とする推定装置および推定方法を提供する。
【解決手段】推定装置は、口腔真菌に標識物質が結合した複合粒子と夾雑物とを含む検体を収容する容器と、複合粒子を撮像して画像を生成する撮像部と、生成された画像に基づいて、口腔真菌の数を複数の状態ごとに計数する計数部と、各状態の口腔真菌のうちの少なくとも一つの状態の口腔真菌の数に基づいて、検体を提供した被検者のバイタルデータを推定する推定部と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔真菌に標識物質が結合した複合粒子と夾雑物とを含む検体を収容する容器と、
前記複合粒子を撮像して画像を生成する撮像部と、
前記生成された画像に基づいて、前記口腔真菌の数を複数の状態ごとに計数する計数部と、
各状態の口腔真菌のうちの少なくとも一つの状態の口腔真菌の数に基づいて、前記検体を提供した被検者のバイタルデータを推定する推定部と、
を有することを特徴とする推定装置。
【請求項2】
前記複数の状態は、一次付着の酵母状態、二次付着の酵母状態および仮性菌糸状態である、
請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記バイタルデータは、前記被検者の血中の免疫細胞数である、
請求項2に記載の推定装置。
【請求項4】
前記被検者の血中の免疫細胞数は、白血球数であって、前記二次付着の酵母状態の口腔真菌の数および前記仮性菌糸状態の口腔真菌の数のうちの少なくとも一つに基づいて推定される、
請求項3に記載の推定装置。
【請求項5】
前記被検者の血中の免疫細胞数は、好中球数であって、前記二次付着の酵母状態の口腔真菌の数および前記仮性菌糸状態の口腔真菌の数のうちの少なくとも一つに基づいて推定される、
請求項3または4に記載の推定装置。
【請求項6】
前記被検者の血中の免疫細胞数は、リンパ球数であって、各状態の口腔真菌の合計数に基づいて推定される、
請求項3-5のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項7】
前記被検者の血中の免疫細胞数は、T細胞数である、
請求項3-6のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項8】
前記被検者の血中の免疫細胞数は、B細胞数である、
請求項3-7のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項9】
前記被検者の血中の免疫細胞数は、NK細胞数である、
請求項3-8のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項10】
前記推定部は、複数種類の前記免疫細胞数を推定し、
前記推定された複数種類の免疫細胞数に基づいて前記被検者の免疫力を判定する判定部をさらに有する、
請求項3-9のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項11】
前記計数部は、前記生成された画像に含まれる画素の輝度値に基づいて、各状態の口腔真菌の数を重み付けして計数する、
請求項1-10のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項12】
口腔真菌と夾雑物とを含む検体を容器に収容する工程と、
前記口腔真菌に標識物質を結合させて複合粒子を生成する工程と、
前記複合粒子を撮像して画像を生成する工程と、
前記生成された画像に基づいて、前記口腔真菌の数を複数の状態ごとに計数する工程と、
各状態の口腔真菌のうちの少なくとも一つの状態の口腔真菌の数に基づいて、前記検体を提供した被検者のバイタルデータを推定する工程と、
を含むことを特徴とする推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定装置および推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種疾患の予防やリスク判断のために、人体のバイタルデータに基づいて様々な方法で人体の免疫力を評価することがなされている。免疫力の評価方法は、高精度であることに加えて、簡便であることや人体への侵襲が小さいことが望まれる。例えば、特許文献1には、抗体抗原反応を用いて、口腔内から採取された唾液に含まれるカンジダマンナン抗原の量を測定し、カンジダマンナン抗原の量に基づいて免疫力の大きさを評価する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6574713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、口腔真菌は、病原性の異なる複数の形態をとることがある。例えば、口腔内のカンジダ菌は、分子間力により口腔粘膜上皮に一次付着した後、唾液や血液中の蛋白質を介して上皮に二次付着する。二次付着したカンジダ菌は、病原性のある仮性菌糸の形態に変化して上皮下に侵入する。このような口腔真菌の形態を考慮することにより、被検者の免疫力を高精度に評価するためのバイタルデータを簡易に推定することができると考えられる。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、簡易にバイタルデータを推定することを可能とする推定装置および推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る推定装置は、口腔真菌に標識物質が結合した複合粒子と夾雑物とを含む検体を収容する容器と、複合粒子を撮像して画像を生成する撮像部と、生成された画像に基づいて、口腔真菌の数を複数の状態ごとに計数する計数部と、各状態の口腔真菌のうちの少なくとも一つの状態の口腔真菌の数に基づいて、検体を提供した被検者のバイタルデータを推定する推定部と、を有することを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る推定装置において、複数の状態は、一次付着の酵母状態、二次付着の酵母状態および仮性菌糸状態であることが好ましい。
【0008】
また、本発明に係る推定装置において、バイタルデータは、被検者の血中の免疫細胞数であることが好ましい。
【0009】
また、本発明に係る推定装置において、被検者の血中の免疫細胞数は、白血球数であって、二次付着の酵母状態の口腔真菌の数および仮性菌糸状態の口腔真菌の数のうちの少なくとも一つに基づいて推定されることが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る推定装置において、被検者の血中の免疫細胞数は、好中球数であって、二次付着の酵母状態の口腔真菌の数および仮性菌糸状態の口腔真菌の数のうちの少なくとも一つに基づいて推定されることが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る推定装置において、被検者の血中の免疫細胞数は、リンパ球数であって、各状態の口腔真菌の合計数に基づいて推定されることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る推定装置において、被検者の血中の免疫細胞数は、T細胞数であることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る推定装置において、被検者の血中の免疫細胞数は、B細胞数であることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る推定装置において、被検者の血中の免疫細胞数は、NK細胞数であることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る推定装置において、推定部は、複数種類の免疫細胞数を推定し、推定装置は、推定された複数種類の免疫細胞数に基づいて被検者の免疫力を判定する判定部をさらに有することが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る推定装置において、計数部は、生成された画像に含まれる画素の輝度値に基づいて、各状態の口腔真菌の数を重み付けして計数することが好ましい。
【0017】
本発明に係る推定方法は、口腔真菌と夾雑物とを含む検体を容器に収容する工程と、口腔真菌に標識物質を結合させて複合粒子を生成する工程と、複合粒子を撮像して画像を生成する工程と、生成された画像に基づいて、口腔真菌の数を複数の状態ごとに計数する工程と、各状態の口腔真菌のうちの少なくとも一つの状態の口腔真菌の数に基づいて、検体を提供した被検者のバイタルデータを推定する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る推定装置および推定方法は、簡易にバイタルデータを推定することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】免疫力判定装置1の構成を示す模式図である。
図2】免疫力判定装置1の機能ブロック図である。
図3】免疫力判定処理の流れを示すフロー図である。
図4】判定結果画面100を示す図である。
図5】(A)は血中の総蛋白量と一次付着状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図であり、(B)は血中の総蛋白量と二次付着状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図であり、(C)は血中の総蛋白量と仮性菌糸状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図である。
図6】(A)は血中の総蛋白量と一次付着状態の口腔真菌および二次付着状態の口腔真菌の合計数との間の関係を示す図であり、(B)は血中の総蛋白量と一次付着状態の口腔真菌、二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の合計数との間の関係を示す図である。
図7】(A)は血中のアルブミン量と一次付着状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図であり、(B)は血中のアルブミン量と二次付着状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図であり、(C)は血中のアルブミン量と仮性菌糸状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図であり、(D)は血中のアルブミン量と各状態の口腔真菌の合計数との間の関係を示す図である。
図8】(A)は血中のCRP量と一次付着状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図であり、(B)は血中のCRP量と二次付着状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図であり、(C)は血中のCRP量と仮性菌糸状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図である。
図9】(A)は血中の白血球数と二次付着状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図であり、(B)は血中の白血球数と仮性菌糸状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図であり、(C)は血中の白血球数と二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の合計数との間の関係を示す図である。
図10】(A)は血中の好中球数と二次付着状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図であり、(B)は血中の好中球数と仮性菌糸状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図であり、(C)は血中の好中球数と二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の合計数との間の関係を示す図である。
図11】(A)は血中のリンパ球数と一次付着状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図であり、(B)は血中のリンパ球数と二次付着状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図であり、(C)は血中のリンパ球数と仮性菌糸状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図であり、(D)は血中のリンパ球数と各状態の口腔真菌の合計数との間の関係を示す図である。
図12】(A)は血中の白血球数と二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の重み付けされた合計数との間の関係を示す図であり、(B)は血中の好中球数と二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の重み付けされた合計数との間の関係を示す図である。
図13】免疫力判定装置2の構成を示す模式図である。
図14】免疫力判定装置3の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の様々な実施形態について説明する。本発明の技術的範囲はそれらの実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明およびその均等物に及ぶ点に留意されたい。
【0021】
図1は、実施形態に係る免疫力判定装置1の構成を示す模式図であり、図2は、免疫力判定装置1の機能ブロック図である。免疫力判定装置1は、推定装置の一例であり、唾液または口腔粘膜等の検体に含まれる口腔真菌を計数して被検者のバイタルデータを推定し、推定されたバイタルデータに基づいて被検者の免疫力を判定する。免疫力判定装置1は、検出容器11、磁場印加部12、照射部13、光学系14、撮像部15、記憶部16、表示部17および処理部18を有する。
【0022】
検出容器11は、口腔内に存在する口腔真菌である測定対象Uと、口腔内の夾雑物Bとを含む検体を収容する。検体は、測定対象Uの形状が維持され、測定対象Uが相互に形状の異なる複数の状態で存在することが可能な非加熱の検体である。図1に示す例では、検出容器11は検体で満たされている。検出容器11の、光学系14および撮像部15に対向する観察面111は、透光性の材料により形成される。好ましくは、検出容器11の観察面111は、透光性の、アクリル、ポリスチレン、シクロオレフィンポリマー、ポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンのうちの一つ以上の材料により形成される。好ましくは、検出容器11の観察面111以外の面である底面および側面は、黒色塗装が施されること等により、外部からの光を遮光する材料で形成される。好ましくは、検出容器11の底面および側面は、照射部13が照射する励起光による自家蛍光を放射しない材料で形成される。
【0023】
検出容器11に収容された検体に含まれる測定対象Uは、蛍光標識物質Eおよび磁気標識物質Mと結合して複合粒子Cを形成している。蛍光標識物質Eは、測定対象Uに特異的に結合する標識物質が染色液等により蛍光色素と結合されたものである。蛍光標識物質Eとしては、550nm以上の波長帯で励起するものが用いられる。蛍光標識物質Eとして、700nmの波長帯で励起するものが用いられることが好ましく、800nm以上の波長帯で励起するものが用いられることがより好ましい。磁気標識物質Mは、測定対象Uに特異的に結合する標識物質が化学結合、物理吸着、アビジン-ビオチン結合等により磁性粒子と結合されたものである。なお、蛍光標識物質Eおよび磁気標識物質Mは、標識物質の一例である。
【0024】
標識物質は、例えば抗体である。測定対象Uがカンジダアルビカンスである場合、標識物質として、例えば抗カンジダアルビカンス抗体、β-1,3-グルカン抗体が用いられる。測定対象Uがカンジダトロピカリスである場合、標識物質として、例えばβ-1,3グルカン抗体が用いられる。
【0025】
検出容器11に収容された検体は、測定対象Uが蛍光標識物質Eおよび磁気標識物質Mと結合する前に夾雑物分解酵素処理されたものであってもよい。これにより、検体に含まれる夾雑物Bが減少する。なお、夾雑物分解酵素処理によってすべての夾雑物が除去されるわけではないため、この場合も、検体は一定量の夾雑物Bを含む。
【0026】
磁場印加部12は、複合粒子Cを検出容器11の内部の検出領域Dに移動させるように、検出容器11の内部に磁場を印加するための構成であり、一対の磁石121を備える。一対の磁石121は、所定の間隔だけ離間して、同極(図1に示す例では、N極)の磁極面同士が対向するように配置される。
【0027】
一対の磁石121は、例えば検出容器11の上方に配置される。この場合、磁気標識物質Mを含む複合粒子Cは、磁石121の磁力により検出容器11の上部である検出領域Dに移動する。他方で、検体に含まれる夾雑物Bは重力により検出容器11の下部に移動する。したがって、複合粒子Cと夾雑物Bとが分離される。
【0028】
照射部13は、複合粒子Cの蛍光標識物質Eを励起させるための励起光を照射するための構成であり、例えばLED(Light Emitting Diode)光源を備える。照射部13が照射する励起光は、検体内の夾雑物Bの励起を抑制する550nm以上の波長帯の光である。励起光は、蛍光標識物質Eの励起波長帯に応じて、700nm以上の波長帯の光であることが好ましく、800nm以上の波長帯の光であることがより好ましい。
【0029】
光学系14は、照射部13から照射された励起光を検出容器11の内部に導くとともに、検出容器11から放射された光を撮像部15に導くための構成であり、励起光フィルタ141、ダイクロイックミラー142、対物レンズ143および検出フィルタ144を有する。なお、検出フィルタ144は光学部材の一例である。
【0030】
励起光フィルタ141は、帯域通過型の光学フィルタであり、所定の励起波長帯の光を透過させ、他の波長帯の光を遮光する。励起波長帯は、照射部13から照射された励起光の波長を含む波長帯である。ダイクロイックミラー142は、励起光フィルタ141を透過した励起光を反射させて検出容器11の内部に導くとともに、検出容器11の蛍光標識物質Eから放射された蛍光を透過させて撮像部15に導く。対物レンズ143は、検出容器11の観察面111に対向する凸レンズである。検出フィルタ144は、帯域通過型の光学フィルタであり、検出容器11から撮像部15に向かう光のうち、所定の検出波長帯の光を透過させ、他の波長帯の光を遮光する。検出波長帯は、蛍光標識物質Eが放射する蛍光の波長を含む波長帯であり、例えば650nm以上の波長帯である。
【0031】
撮像部15は、容器の内部を撮像して画像を生成するための構成であり、例えばカメラを備える。撮像部15は、複数の磁石121が検出容器11と撮像部15との間に配置されるように、検出容器11および磁石121の上方に配置される。撮像部15は、生成された画像を処理部18に供給する。
【0032】
記憶部16は、プログラムまたはデータを記憶するための構成であり、例えば半導体メモリを備える。記憶部16は、処理部18による処理に用いられるオペレーティングシステムプログラム、ドライバプログラム、アプリケーションプログラム、データ等を記憶する。プログラムは、CD(Compact Disc)-ROM(Read Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disc)-ROM等のコンピュータ読み取り可能かつ非一時的な可搬型記憶媒体から記憶部16にインストールされる。
【0033】
表示部17は、画像を表示するための構成であり、例えば液晶ディスプレイまたは有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイを備える。表示部17は、処理部18から供給された表示データに基づいて画像を表示する。
【0034】
処理部18は、免疫力判定装置1の動作を統括的に制御するための構成であり、例えばCPU(Central Processing Unit)を備える。処理部18は、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等を備えてもよい。処理部18は、記憶部16に記憶されているプログラムに基づいて免疫力判定装置1の各種処理が適切な手順で実行されるように、各構成の動作を制御するとともに、各種の処理を実行する。
【0035】
処理部18は、撮像制御部181、計数部182、推定部183、判定部184および出力部185を機能ブロックとして備える。これらの各部は、処理部18によって実行されるプログラムに基づいて実現される機能モジュールである。これらの各部は、ファームウェアとして免疫力判定装置1に実装されてもよい。
【0036】
図3は、免疫力判定装置1によって実行される免疫力判定処理の流れを示すフロー図である。免疫力判定処理は、記憶部16に記憶されたプログラムに基づいて、処理部18が免疫力判定装置1の各構成と協働することにより実現される。
【0037】
最初に、口腔真菌である測定対象Uを含む検体が反応容器に収容される(ステップS101)。検体は、口腔内の夾雑物Bを含む、唾液または口腔粘膜等である。検体は、例えば綿棒等を被検者の口腔内に挿入することで採取される。検体が唾液である場合、検体は、被検者が滅菌されたチューブや遠沈管に唾液を吐きだすことによって採取されてもよい。なお、検体には、夾雑物分解酵素処理や超音波処理、ろ過処理または遠心分離処理が施されてもよい。これにより、検体中の上皮細胞や細菌等の夾雑物Bが減少するため、より高精度に測定対象Uを検出することが可能となる。
【0038】
次に、測定対象Uに蛍光標識物質Eが結合される(ステップS102)。蛍光標識物質Eが反応容器に収容されて攪拌されることにより、測定対象Uに蛍光標識物質Eが結合される。
【0039】
次に、蛍光標識物質Eが結合された測定対象Uに磁気標識物質Mがさらに結合される(ステップS103)。磁気標識物質Mが反応容器に収容されて攪拌されることにより、測定対象Uに磁気標識物質Mが結合される。これにより、測定対象Uに蛍光標識物質Eおよび磁気標識物質Mが結合した複合粒子Cが生成される。
【0040】
なお、ステップS102とS103は同時に実行されてもよく、ステップS103の後にステップS102が実行されてもよい。また、ステップS103の後に、反応容器に収容された検体に対して磁気濃縮洗浄が施されてもよい。これにより、測定対象Uと結合しなかった蛍光標識物質Eおよび夾雑物Bが除去されるため、より高精度に測定対象Uを検出することが可能となる。
【0041】
次に、複合粒子Cを含む検体が検出容器11に収容される(ステップS104)。検体は、反応容器から検出容器11に移し替えられる。検出容器11が検体で満たされた状態で、検出容器11の上面に透光性の樹脂材料で形成された観察面111が載置される。検体を収容した検出容器11は、免疫力判定装置1の所定の位置に設置される。
【0042】
なお、ステップS102の前に、ステップS101に代えてステップS104が実行されてもよい。すなわち、検体は反応容器に収容されることなく最初から検出容器11に収容され、測定対象Uは、検出容器11の内部で蛍光標識物質Eおよび磁気標識物質Mと結合されてもよい。この場合、ステップS104は省略される。
【0043】
次に、磁場印加部12は、複合粒子Cを検出容器11の上部の検出領域Dに移動させるように磁場を印加する(ステップS105)。例えば、複数の磁石121が所定の位置関係で検出容器11と撮像部15との間に配置されることにより、磁場印加部12は複合粒子Cを検出容器11の上部の検出領域Dに移動させるような磁場を印加する。これにより、複合粒子Cと夾雑物Bとが分離される。
【0044】
次に、照射部13は、蛍光標識物質Eを励起させるための励起光を検出容器11の内部に照射する(ステップS106)。例えば、照射部13は励起光を照射する。照射された励起光は、光学系14により検出容器11の内部に導かれる。これにより、蛍光標識物質Eが励起される。
【0045】
次に、撮像部15は、複合粒子Cを撮像して画像を生成する(ステップS107)。撮像制御部181は、制御信号を撮像部15に供給する。撮像部15は、制御信号に応じて、検出容器11の検出領域D内の複合粒子Cを撮像して画像を生成する。撮像部15は、生成した画像を処理部18に供給する。
【0046】
次に、計数部182は、生成された画像に基づいて、口腔真菌の数を複数の状態ごとに計数する(ステップS108)。例えば、計数部182は、生成された画像を構成する画素の輝度値の分布に基づいて、生成された画像に含まれる複合粒子Cを口腔真菌の状態ごとに計数する。
【0047】
計数部182は、生成された画像を構成する画素のうち、輝度値が所定値以上である画素を、励起した蛍光標識物質Eに対応する画素として抽出する。計数部182は、画素を抽出する前に、画像に対してガウシアンフィルタ等の平滑化処理を適用してノイズを除去してもよい。計数部182は、公知のクラスタリング手法等により、抽出された画素を複数のグループに分類する。計数部182は、例えば、相互の距離が近い画素が同一のグループとなるように、抽出された画素を複数のグループに分類する。各グループは、同一の測定対象Uに結合している蛍光標識物質Eを示しており、一つの複合粒子Cに対応する。
【0048】
計数部182は、各グループについて、グループに含まれる画素を包含する最小の領域(例えば、矩形領域)を設定し、各領域の大きさを画素の輝度値の分布として算出する。各領域の大きさは、例えば領域の面積または領域の外周の長さである。領域が矩形領域である場合には、各領域の大きさは、長辺の長さまたは短辺の長さでもよい。領域の大きさとして、領域の面積、外周の長さ、長辺の長さおよび領域の短辺の長さのうちの二つ以上が用いられてもよい。また、計数部182は、各グループについて、グループに含まれる、輝度値が所定値以上である画素の数および輝度値が所定値以上である画素の輝度値の代表値をそれぞれ画素の輝度値の分布として算出する。代表値は、平均値、中央値等の各画素の輝度値に基づく値である。計数部182は、算出された画素の輝度値の分布に基づいて各グループに対応する口腔真菌の状態を判定することにより、複合粒子Cを口腔真菌の状態ごとに計数する。
【0049】
口腔真菌の一種であるカンジダアルビカンスは、酵母状態と仮性菌糸状態をとる。酵母状態のカンジダアルビカンスは、口腔粘膜の上皮と分子間力により一次付着した後に、タンパク質を介して二次付着し、さらに仮性菌糸状態に変化して上皮下に侵入することにより口腔カンジダ症の病原性を示す。したがって、口腔カンジダ症の進行状況を判定するために、カンジダアルビカンスを一次付着の酵母状態(一次付着状態)、二次付着の酵母状態(二次付着状態)、仮性菌糸状態の三種類の状態ごとに検出することが有用となる可能性がある。
【0050】
一次付着状態のカンジダアルビカンスは球状であるため、単一の一次付着状態のカンジダアルビカンスに結合した蛍光標識物質Eは相対的に密集する。したがって、そのような蛍光標識物質Eに対応するグループの領域の大きさおよび画素の総数は小さく、輝度値の代表値は大きくなる。他方で、仮性菌糸状態のカンジダアルビカンスは糸状であるため、単一の仮性菌糸状態のカンジダアルビカンスに結合した蛍光標識物質Eは相対的に分散する。したがって、そのような蛍光標識物質Eに対応するグループの領域の大きさおよび画素の総数は大きく、輝度値の代表値は小さくなる。また、二次付着状態のカンジダアルビカンスは上皮組織片と吸着して球状とも糸状とも異なる形状となっているため、単一の二次付着状態のカンジダアルビカンスに結合した蛍光標識物質Eは、一次付着状態の分布と仮性菌糸状態の分布の中間的な分布をとる。したがって、計数部182は、各グループの領域の大きさ、画素の総数または輝度値の代表値に基づいて、各グループが一次付着状態、二次付着状態、仮性菌糸状態のいずれのカンジダアルビカンスに対応するかを判定することができる。
【0051】
計数部182は、状態ごとの口腔真菌の数を、画像に含まれる画素の輝度値に基づいて重み付けして計数してもよい。例えば、重み付けは、各グループの輝度値若しくはその代表値または各グループに対応する領域の大きさに基づいてなされる。例えば、計数部182は、各グループの輝度値の代表値として、輝度値の合計値に基づいて重み付けして口腔真菌の数を計数してもよい。言い換えると、計数部182は、各状態の口腔真菌の数として、各状態に分類されたグループの輝度値の合計値を算出してもよい。また、計数部182は、各グループに対応する領域の大きさとして、各領域の面積(すなわち、各領域に含まれる画素の総数)に基づいて重み付けして口腔真菌の数を計数してもよい。言い換えると、計数部182は、各状態の口腔真菌の数として、各状態に分類されたグループに含まれる画素の総数を計数してもよい。また、計数部182は、輝度値の代表値または領域の大きさと、重み付けせずに計数された口腔真菌の数との合計値を算出してもよい。
【0052】
輝度値の代表値が大きいほど、口腔真菌に多くの蛍光標識物質Eが結合しており、口腔真菌が仮性菌糸として成長していたり、広い範囲の上皮組織片と吸着していたりすると考えられる。また、各グループに対応する領域の大きさが大きいほど、口腔真菌が仮性菌糸として成長していたり、広い範囲の上皮組織片と吸着していたりすると考えられる。このような口腔真菌は、バイタルデータに対して大きい影響を示す。したがって、計数部182が口腔真菌の数を重み付けして計数することにより、よりバイタルデータを高精度に推定することができる。
【0053】
次に、推定部183は、各状態の口腔真菌のうちの少なくとも一つの状態の口腔真菌の数に基づいて、検体を提供した被検者のバイタルデータを推定する(ステップS109)。口腔真菌の複数の状態は、例えば、一次付着状態、二次付着状態および仮性菌糸状態である。推定部183は、記憶部16にあらかじめ記憶された一次付着状態の口腔真菌の数、二次付着状態の口腔真菌の数および仮性菌糸状態の口腔真菌の数とバイタルデータとの間の関係に基づいて、被検者のバイタルデータを推定する。バイタルデータは、例えば、被検者の血中の総蛋白量、アルブミン量、CRP(C-Reactive Protein)量または免疫細胞数である。免疫細胞数は、例えば、白血球数、好中球数またはリンパ球数である。リンパ球数は、例えば、T細胞数、B細胞数およびNK細胞数である。一次付着状態の口腔真菌の数、二次付着状態の口腔真菌の数および仮性菌糸状態の口腔真菌の数とバイタルデータとの間の関係については、図5図12を用いて後述する。
【0054】
例えば、推定部183は、一次付着状態の口腔真菌の数、二次付着状態の口腔真菌の数および仮性菌糸状態の口腔真菌の数のうちの少なくとも一つに基づいて、被検者の血中の総蛋白量を推定する。好ましくは、推定部183は、一次付着状態の口腔真菌および二次付着状態の口腔真菌の合計数に基づいて、被検者の血中の総蛋白量を推定する。好ましくは、推定部183は、一次付着状態の口腔真菌の数、二次付着状態の口腔真菌の数および仮性菌糸状態の口腔真菌の数の合計数に基づいて、被検者の血中の総蛋白量を推定してもよい。また、推定部183は、一次付着状態の口腔真菌の数、二次付着状態の口腔真菌の数および仮性菌糸状態の口腔真菌の数のうちの少なくとも一つに基づいて、被検者の血中のアルブミン量を推定する。好ましくは、推定部183は、一次付着状態の口腔真菌の数、二次付着状態の口腔真菌の数および仮性菌糸状態の口腔真菌の数の合計値に基づいて、被検者の血中のアルブミン量を推定する。また、推定部183は、一次付着状態の口腔真菌の数、二次付着状態の口腔真菌の数および仮性菌糸状態の口腔真菌の数のうちの少なくとも一つに基づいて、被検者の血中のCRP量を推定する。
【0055】
例えば、推定部183は、二次付着状態の口腔真菌の数および仮性菌糸状態の口腔真菌の数のうちの少なくとも一つに基づいて、被検者の血中の白血球数を推定する。好ましくは、推定部183は、二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の合計数に基づいて、被検者の血中の白血球数を推定する。また、推定部183は、二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の合計数のうちの少なくとも一つに基づいて、被検者の血中の好中球数を推定する。好ましくは、推定部183は、二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の合計数に基づいて、被検者の血中の好中球数を推定する。また、推定部183は、一次付着状態の口腔真菌の数、二次付着状態の口腔真菌の数および仮性菌糸状態の口腔真菌の数のうちの少なくとも一つに基づいて、被検者の血中のリンパ球数を推定する。好ましくは、推定部183は、一次付着状態の口腔真菌、二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の合計数に基づいて、被検者の血中のリンパ球数を推定する。
【0056】
推定部183は、一次付着状態の口腔真菌の数、二次付着状態の口腔真菌の数および仮性菌糸状態の口腔真菌の数のうちの少なくとも一つに基づいて、被検者の血中のT細胞数を推定する。推定部183は、一次付着状態の口腔真菌の数、二次付着状態の口腔真菌の数および仮性菌糸状態の口腔真菌の数のうちの少なくとも一つに基づいて、被検者の血中のB細胞数を推定する。推定部183は、一次付着状態の口腔真菌の数、二次付着状態の口腔真菌の数および仮性菌糸状態の口腔真菌の数のうちの少なくとも一つに基づいて、被検者の血中のNK細胞数を推定する。
【0057】
次に、判定部184は、被検者のバイタルデータに基づいて、被検者の免疫力を判定する(ステップS109)。例えば、判定部184は、複数種類の免疫細胞数に基づいて被検者の免疫力を判定する。
【0058】
例えば、判定部184は、推定されたバイタルデータのうち、複数種類の免疫細胞数が、あらかじめ設定された正常範囲に含まれているか否かをそれぞれ判定する。判定部184は、正常範囲に含まれていると判定された免疫細胞数の種類の数に応じて、被検者の免疫力の高さが、あらかじめ定められた複数の区分のいずれに属するかを示す免疫グレードを判定する。
【0059】
次に、出力部185は、被検者の免疫力の判定の結果を出力する(ステップS110)。出力部185は、判定の結果を示す判定結果画面を表示部17に表示させることにより、判定の結果を出力する。
【0060】
図4は、表示部17に表示される判定結果画面100を示す図である。判定結果画面100は、バイタルデータ表示110と、免疫力判定表示120とを含む。バイタルデータ表示110は、推定部183によって推定されたバイタルデータの推定値を項目ごとに表示する。また、バイタルデータ表示110は、バイタルデータの推定値が正常範囲に含まれているか否かを表示する。図4に示す例では、正常範囲に含まれていないバイタルデータの推定値には下線が付されている。免疫力判定表示120は、被検者の免疫力の判定の結果として、被検者の免疫グレードを表示する。図4に示す例では、被検者の免疫グレードが「C」であること、すなわち被検者の免疫力が高い方から三番目の区分に属することが示されている。
【0061】
以下では、記憶部16に記憶される、各状態の口腔真菌の数とバイタルデータとの間の関係について説明する。なお、以下の説明に用いられるデータは、10代から80代までの10名の男女を被検者として、各被験者の唾液を検体として用いた場合に、免疫力判定装置1によって計数された各状態のカンジダ菌の数と、各被験者の血液検査の結果との関係を示すものである。
【0062】
図5(A)は、被検者の血中の総蛋白量と一次付着状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図である。図5(B)は、被検者の血中の総蛋白量と二次付着状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図である。図5(C)は、被検者の血中の総蛋白量と仮性菌糸状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図である。図6(A)は、被検者の血中の総蛋白量と、一次付着状態の口腔真菌および二次付着状態の口腔真菌の合計数との間の関係を示す図である。図6(B)は、被検者の血中の総蛋白量と、一次付着状態の口腔真菌、二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の合計数との間の関係を示す図である。
【0063】
図5(A)および(B)に示すように、血中の総蛋白量と、一次付着状態および二次付着状態の口腔真菌の数との間には、総蛋白量が多いほど口腔真菌の数が少なくなるという負の相関がそれぞれ存在する。図5(C)に示すように、血中の総蛋白量と仮性菌糸状態の口腔真菌の数との間には、総蛋白量が正常範囲から大きく外れて小さい場合に仮性菌糸状態の口腔真菌の数が多くなるという負の相関が存在する。したがって、推定部183は、一次付着状態の口腔真菌の数、二次付着状態の口腔真菌の数および仮性菌糸状態の口腔真菌の数のうちの少なくとも一つに基づいて、バイタルデータとして、被検者の血中の総蛋白量を推定することができる。
【0064】
また、図6(A)に示すように、血中の総蛋白量と、一次付着状態の口腔真菌および二次付着状態の口腔真菌の合計数との間には、線形に近く強い負の相関が存在する。したがって、推定部183は、一次付着状態の口腔真菌および二次付着状態の口腔真菌の合計数に基づいて、被検者の血中の総蛋白量を高精度に推定することができる。また、図6(B)に示すように、血中の総蛋白量と、一次付着状態の口腔真菌、二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の合計数との間には、線形に近く特に強い負の相関が存在する。したがって、推定部183は、一次付着状態の口腔真菌、二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の合計数に基づいて、被検者の血中の総蛋白量をより高精度に推定することができる。
【0065】
図7(A)は、被検者の血中のアルブミン量と一次付着状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図である。図7(B)は、被検者の血中のアルブミン量と二次付着状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図である。図7(C)は、被検者の血中のアルブミン量と仮性菌糸状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図である。図7(D)は、被検者の血中のアルブミン量と、一次付着状態の口腔真菌、二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の合計数との間の関係を示す図である。
【0066】
図7(A)および(B)に示すように、血中のアルブミン量と、一次付着状態および二次付着状態の口腔真菌の数との間には、アルブミン量が多いほど口腔真菌の数が少なくなるという負の相関が存在する。したがって、推定部183は、一次付着状態の口腔真菌の数および二次付着状態の口腔真菌の数のうちの少なくとも一つに基づいて、バイタルデータとして、被検者の血中のアルブミン量を推定することができる。また、図7(C)に示すように、血中のアルブミン量と、仮性菌糸状態の口腔真菌の数との間には、アルブミン量が多いほど口腔真菌の数が多くなるという正の相関が存在する。したがって、推定部183は、仮性菌糸状態の口腔真菌の数に基づいて、バイタルデータとして、被検者の血中のアルブミン量を推定することができる。また、図7(D)に示すように、血中のアルブミン量と、一次付着状態の口腔真菌、二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の合計数との間には強い相関が存在する。したがって、推定部183は、一次付着状態の口腔真菌、二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の合計数に基づいて、被検者の血中のアルブミン量を高精度に推定することができる。
【0067】
図8(A)は、被検者の血中のCRP量と一次付着状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図である。図8(B)は、被検者の血中のCRP量と二次付着状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図である。図8(C)は、被検者の血中のCRP量と仮性菌糸状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図である。また、図8(A)-(C)において破線円で囲まれているデータは、義歯を使用している被検者のデータである。
【0068】
図8(A)-(C)に示すように、義歯を使用していない被検者については、血中のCRP量と、一次付着状態、二次付着状態および仮性菌糸状態の口腔真菌の数との間には、CRP量が多いほど口腔真菌の数が少なくなるという負の相関が存在する。また、義歯を使用している被検者については、血中のCRP量が少なく口腔真菌の数が特に多いデータ(図8(A)-(C)中に破線円で図示)が得られた。したがって、被検者が義歯を使用していない場合には、推定部183は、一次付着状態の口腔真菌の数、二次付着状態の口腔真菌の数および仮性菌糸状態の口腔真菌の数のうちの少なくとも一つに基づいて、バイタルデータとして、被検者の血中のCRP量を推定することができる。
【0069】
図9(A)は、被検者の血中の白血球数と二次付着状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図である。図9(B)は、被検者の血中の白血球数と仮性菌糸状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図である。図9(C)は、被検者の血中の白血球数と、二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の合計数との間の関係を示す図である。
【0070】
図9(A)に示すように、血中の白血球数と二次付着状態の口腔真菌の数との間には、白血球数が多いほど口腔真菌の数が少なくなるという線形に近い負の相関が存在する。図9(B)に示すように、血中の白血球数と仮性菌糸状態の口腔真菌の数との間には、白血球数が正常範囲から外れて小さい場合に仮性菌糸状態の口腔真菌の数が多くなるという負の相関が存在する。したがって、推定部183は、二次付着状態の口腔真菌の数および仮性菌糸状態の口腔真菌の数のうちの少なくとも一つに基づいて、バイタルデータのうちの免疫細胞数として、被検者の血中の白血球数を推定することができる。また、図9(C)に示すように、血中の白血球数と二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の合計数との間には、より強い負の相関が存在する。したがって、推定部183は、二次付着状態の口腔真菌の数および仮性菌糸状態の口腔真菌の数に基づいて、バイタルデータのうちの免疫細胞数として、被検者の血中の白血球数を高精度に推定することができる。
【0071】
図10(A)は、被検者の血中の好中球数と二次付着状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図である。図10(B)は、被検者の血中の好中球数と仮性菌糸状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図である。図10(C)は、被検者の血中の好中球数と、二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の合計数との間の関係を示す図である。
【0072】
図10(A)に示すように、血中の好中球数と二次付着状態の口腔真菌の数との間には、好中球数が多いほど口腔真菌の数が少なくなるという線形に近い負の相関が存在する。図10(B)に示すように、血中の好中球数と仮性菌糸状態の口腔真菌の数との間には、好中球数が正常範囲から外れて小さい場合に仮性菌糸状態の口腔真菌の数が多くなるという負の相関が存在する。したがって、推定部183は、二次付着状態の口腔真菌の数および仮性菌糸状態の口腔真菌の数のうちの少なくとも一つに基づいて、バイタルデータのうちの免疫細胞数として、被検者の血中の好中球数を推定することができる。また、図10(C)に示すように、血中の好中球数と二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の合計数との間には、より強い負の相関が存在する。したがって、推定部183は、二次付着状態の口腔真菌の数および仮性菌糸状態の口腔真菌の数に基づいて、バイタルデータのうちの免疫細胞数として、被検者の血中の好中球数を高精度に推定することができる。
【0073】
図11(A)は、被検者の血中のリンパ球数と一次付着状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図である。図11(B)は、被検者の血中のリンパ球数と二次付着状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図である。図11(C)は、被検者の血中のリンパ球数と仮性菌糸状態の口腔真菌の数との間の関係を示す図である。図11(D)は、被検者の血中のリンパ球数と、一次付着状態の口腔真菌、二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の合計数との間の関係を示す図である。
【0074】
図11(A)に示すように、血中のリンパ球数と一次付着状態の口腔真菌の数との間には、リンパ球数が多いほど口腔真菌の数が多くなるという正の相関が存在する。図11(B)および(C)に示すように、血中のリンパ球数と、二次付着状態および仮性菌糸状態の口腔真菌の数との間には、リンパ球数が多いほど口腔真菌の数が少なくなるという負の相関が存在する。したがって、推定部183は、一次付着状態の口腔真菌の数、二次付着状態の口腔真菌の数および仮性菌糸状態の口腔真菌の数のうちの少なくとも一つに基づいて、バイタルデータのうちの免疫細胞数として、被検者の血中のリンパ球数を推定することができる。また、図11(D)に示すように、血中のリンパ球数と、一次付着状態の口腔真菌、二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の合計数との間には特に強い相関が存在する。したがって、推定部183は、一次付着状態の口腔真菌、二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の合計数に基づいて、被検者の血中のリンパ球数を高精度に推定することができる。
【0075】
なお、記憶部16は、各状態の口腔真菌の重み付けされた数とバイタルデータとの間の関係を記憶してもよい。
【0076】
図12(A)は、被検者の血中の白血球数と、二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の重み付けされた合計数との間の関係を示す図である。図12(A)のグラフの縦軸は、計数部182によって定められた各グループの輝度値の合計値に基づいて重み付けされて計数された二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の合計数である。言い換えると、縦軸は、二次付着状態または仮性菌糸状態であると判定されたグループに含まれる画素の輝度値の合計値である。図12(A)に示すように、被検者の血中の白血球数と、二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の重み付けされた合計数との間には、白血球数が少ないほど重み付けされた合計数が大きくなるという線形に近い負の相関が存在する。図12(A)に示す相関は、図9(C)に示す相関と比較しても特に強い相関である。したがって、推定部183は、二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の重み付けされた合計数に基づいて、被検者の血中の白血球数を特に高精度に推定することができる。
【0077】
図12(B)は、被検者の血中の好中球数と、二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の重み付けされた合計数との間の関係を示す図である。図12(B)のグラフの縦軸は、図12(A)のグラフの縦軸と同様、各グループの輝度値の合計値に基づいて重み付けされて計数された二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の合計数である。図12(B)に示すように、被検者の血中の好中球数と、二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の重み付けされた合計数との間には、好中球数が正常範囲から外れて少ない場合に重み付けされた合計数が顕著に大きくなるという負の相関が存在する。図12(A)に示す相関は、図10(C)に示す相関と比較しても特に強い相関である。したがって、推定部183は、二次付着状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の重み付けされた合計数に基づいて、被検者の血中の好中球数を特に高精度に推定することができる。
【0078】
以上説明したように、免疫力判定装置1は、複合粒子Cを含む検体を収容する検出容器11と、複合粒子Cを撮像して画像を生成する撮像部15と、画像に基づいて口腔真菌の数を複数の状態ごとに計数する計数部182と、各状態の口腔真菌の数に基づいて被検者のバイタルデータを推定する推定部183とを有する。これにより、免疫力判定装置1は、簡易にバイタルデータを推定することを可能とする。
【0079】
また、推定部183は、バイタルデータとして、被検者の血中の免疫細胞数を推定する。血中の免疫細胞数は被検者の免疫力と強い相関を有するため、これにより、免疫力判定装置1は、被検者の免疫力の判定に有用なバイタルデータを簡易に推定することを可能とする。
【0080】
また、推定部183は、二次付着の酵母状態の口腔真菌の数に基づいて、免疫細胞数として、被検者の血中の白血球数を推定する。二次付着状態の口腔真菌の数と血中の白血球数との間には強い相関が存在するため、これにより、免疫力判定装置1は、被検者の免疫力の判定に有用なバイタルデータを簡易かつ高精度に推定することを可能とする。
【0081】
また、推定部183は、二次付着の酵母状態の口腔真菌の数に基づいて、免疫細胞数として、被検者の血中の好中球数を推定する。二次付着状態の口腔真菌の数と血中の好中球数との間には強い相関が存在するため、これにより、免疫力判定装置1は、被検者の免疫力の判定に有用なバイタルデータを簡易かつ高精度に推定することを可能とする。
【0082】
また、推定部183は、一次付着の酵母状態の口腔真菌、二次付着の酵母状態の口腔真菌および仮性菌糸状態の口腔真菌の合計数に基づいて、免疫細胞数として、被検者の血中のリンパ球数を推定する。各状態の口腔真菌の合計数と血中のリンパ球数との間には強い相関が存在するため、これにより、免疫力判定装置1は、被検者の免疫力の判定に有用なバイタルデータを簡易かつ高精度に推定することを可能とする。
【0083】
また、推定部183は、複数種類の免疫細胞数を推定する。免疫力判定装置1は、複数種類の免疫細胞数に基づいて被検者の免疫力を判定する判定部184をさらに有する。これにより、免疫力判定装置1は、高精度に免疫力を判定することを可能とする。
【0084】
また、推定部183は、免疫細胞数として、被検者の血中の白血球数を推定する。白血球は、好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球から構成される。リンパ球は、NK細胞、T細胞、B細胞を含む。推定部183は、上述した免疫細胞のうちの一つ以上の免疫細胞の数を推定することが好ましい。
【0085】
また、免疫力判定装置1は、非加熱の検体を用いて口腔微生物を検出する。これにより、口腔微生物を形状の異なる複数の状態ごとに検出することが可能となる。従来、口腔真菌から抗原を抽出して測定することにより口腔真菌を検出する方法が知られている。しかしながら、口腔真菌から抗原を抽出するためには加熱処理を行う必要があり、加熱処理に伴い口腔真菌の菌体が維持されなくなる。したがって、従来の方法では、口腔微生物をその形状に基づいて状態ごとに検出することはできない。免疫力判定装置1は、菌体が維持されている非加熱の検体を用いて口腔微生物を検出するため、口腔微生物を複数の状態ごとに検出することができる。
【0086】
免疫力判定装置1には、次に述べるような変形例が適用されてもよい。
【0087】
上述した実施形態では、計数部182は、一次付着状態の口腔真菌の数、二次付着状態の口腔真菌の数、仮性菌糸状態の口腔真菌の数をそれぞれ計数するものとしたが、このような例に限られない。例えば、計数部182は、酵母状態の口腔真菌の数と仮性菌糸状態の口腔真菌の数をそれぞれ計数してもよい。
【0088】
上述した実施形態では、判定部184は、被検者の免疫力として免疫グレードを判定するものとしたが、このような例に限られない。判定部184は、被検者の免疫力の高さを数値指標によって判定してもよい。数値指標は、例えば免疫力の高さを同年代の平均値と比較した場合の比率や、免疫力の高さを年齢に換算したものである。
【0089】
上述した実施形態では、出力部185は判定結果画面100を表示させることにより判定の結果を出力するものとしたが、このような例に限られない。出力部185は、判定の結果を示す情報を他の装置に送信することにより、判定の結果を出力してもよい。また、出力部185は、バイタルデータそのものを判定の結果として出力してもよい。バイタルデータが正常であれば免疫力も正常であると考えられるため、このようにしても、免疫力判定装置1は、被検者の免疫力を高精度に判定することができる。
【0090】
上述した実施形態では、複合粒子Cは、口腔真菌に磁気標識物質Mおよび蛍光標識物質Eが結合したものであるとしたが、このような例に限られない。例えば、複合粒子Cは、口腔真菌に蛍光標識物質Eのみが結合したものであってもよい。この場合、免疫力判定装置1は磁場印加部12を有しなくてもよい。
【0091】
図13は、他の実施形態に係る免疫力判定装置2の構成を示す模式図である。免疫力判定装置2は、磁場印加部12を有しない点で免疫力判定装置1と相違する。免疫力判定装置2の他の構成は免疫力判定装置1と同様であるため、同一の符号を付して説明を省略する。
【0092】
免疫力判定装置2は磁場印加部を有しないため、複合粒子Cは、重力により夾雑物Bとともに検出容器11の下方の検出領域Dに移動する。
【0093】
免疫力判定装置2は磁場印加部を有しないため、免疫力判定装置2が実行する免疫力判定処理において、ステップS103およびステップS105は省略される。免疫力判定装置2は、磁場印加部を有しないため、より簡易にバイタルデータを推定することを可能とする。特に、免疫力判定装置2は、臨床現場においてベッドサイドでの検出を容易にするほか、在宅医療の場面においても有用である。また、免疫力判定装置2が実行する測定処理において、免疫力判定装置1が実行する測定処理と同様に、反応容器に収容された検体にろ過処理または遠心分離処理が施され、夾雑物が分離されてもよい。
【0094】
図14は、他の実施形態に係る免疫力判定装置3の構成を示す模式図である。免疫力判定装置3は、光学系14を有しない点、並びに検出容器11および照射部13に代えて検出容器31および照射部33を有する点で免疫力判定装置3と相違する。免疫力判定装置3の他の構成は免疫力判定装置1の構成と同様であるため、同一の符号を付して説明を省略する。
【0095】
検出容器31は、観察面111を有しない点並びに下面が透光性の樹脂により形成される点で検出容器11と相違する。検出容器31は観察面111を有しないため、検出容器31の上方は開放されている。好ましくは、検出容器31の下面は、透光性の、アクリル、ポリスチレン、シクロオレフィンポリマー、ポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンのうちの一つ以上の材料により形成される。
【0096】
照射部33は、検出容器31の外側に、透光性の樹脂により形成される面に対向して配置される点で照射部13と相違する。照射部33から照射された励起光は、検出容器31の下面を透過して検出容器31の内部に導かれる。
【0097】
免疫力判定装置3は光学系を有しないため、より簡易にバイタルデータを推定することを可能とする。なお、免疫力判定装置3は、さらに磁場印加部12を有しなくてもよい。これにより、免疫力判定装置3は、さらに簡易にバイタルデータを推定することを可能とする。
【0098】
当業者は、本発明の精神および範囲から外れることなく、様々な変更、置換及び修正をこれに加えることが可能であることを理解されたい。例えば、上述した実施形態及び変形例は、本発明の範囲において、適宜に組み合わせて実施されてもよい。
【符号の説明】
【0099】
1 免疫力判定装置
11 検出容器
15 撮像部
182 計数部
183 推定部
184 判定部
図1
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