(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151125
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】自動キサゲ加工装置及び自動キサゲ加工方法
(51)【国際特許分類】
B23D 79/02 20060101AFI20231005BHJP
B25J 13/08 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B23D79/02
B25J13/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060569
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】町田 港
(72)【発明者】
【氏名】三ツ橋 正
【テーマコード(参考)】
3C050
3C707
【Fターム(参考)】
3C050FC09
3C707AS12
3C707BS12
3C707KS07
3C707KS33
3C707KS36
3C707KT03
3C707KX06
3C707LU08
(57)【要約】
【課題】被加工物の加工対象面に対して自動でキサゲ加工を行う自動キサゲ加工に関し、切削痕を滑らかに仕上げる技術を提供する。
【解決手段】自動キサゲ加工装置は、切削刃を有するスクレーパを保持して動作させるキサゲ加工用ロボットと、加工指示データに従い、加工対象面に切削刃の刃先を押し付けた状態で加工パスに沿って切削刃がストロークするようにキサゲ加工用ロボットを制御するキサゲ加工制御を実行する制御装置と、を備え、制御装置は、キサゲ加工制御時に、刃先を加工パス方向に対して傾斜させた状態で切削刃をストロークさせる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の加工対象面に対して自動でキサゲ加工を行う自動キサゲ加工装置であって、
切削刃を有するスクレーパを保持して動作させるキサゲ加工用ロボットと、
加工指示データに従い、前記加工対象面に前記切削刃の刃先を押し付けた状態で加工パスに沿って前記切削刃がストロークするように前記キサゲ加工用ロボットを制御するキサゲ加工制御を実行する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、キサゲ加工制御時に、前記刃先を加工パス方向に対して傾斜させた状態で前記切削刃をストロークさせる、
自動キサゲ加工装置。
【請求項2】
前記制御装置は、刃先傾斜ストローク制御時に、前記刃先における所定の基準点が前記加工パス上を通過するように、且つ、前記刃先における前記基準点での法線方向と前記加工パス方向がなす刃先傾斜角度が鋭角となるように、前記切削刃をストロークさせる、
請求項1に記載の自動キサゲ加工装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記加工対象面の凸部を複数の加工領域層に区分して段階的に切削する平面出し加工処理を行う際、任意の一の加工領域層と他の少なくとも何れかの加工領域層とにおいて、切削時における前記刃先傾斜角度を異なる角度に設定する、
請求項2に記載の自動キサゲ加工装置。
【請求項4】
前記制御装置は、一の加工領域層と、当該一の加工領域層の直下に位置する加工領域層同士で、切削時における前記刃先傾斜角度を異なる角度に設定する、請求項3に記載の自動キサゲ加工装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記加工パス方向を始線として、少なくとも一の加工領域層の切削時における前記刃先傾斜角度を正の角度に設定し、且つ、他の少なくとも何れかの加工領域層の切削時における前記刃先傾斜角度を負の角度に設定する、
請求項3又は4に記載の自動キサゲ加工装置。
【請求項6】
前記制御装置は、一の加工領域層と当該一の加工領域層の直下に位置する加工領域層の一方の切削時における前記刃先傾斜角度を正の角度に設定し、他方の切削時における前記刃先傾斜角度を負の角度に設定する、
請求項5に記載の自動キサゲ加工装置。
【請求項7】
自動キサゲ加工装置の制御装置が、切削刃を有するスクレーパを保持して動作させるキサゲ加工用ロボットを制御する際に実行する自動キサゲ加工方法であって、
前記制御装置は、加工指示データに従い、被加工物の加工対象面に前記切削刃の刃先を押し付けた状態で加工パスに沿って前記切削刃がストロークするように前記キサゲ加工用ロボットを制御するキサゲ加工制御を実行する際、前記刃先を加工パス方向に対して傾斜させた状態で前記切削刃をストロークさせる、
自動キサゲ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キサゲ加工を自動で行うための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
移動部を有した工作機械等の摺動面には、その平面度を高めて摺動摩擦係数を低減するために、キサゲ加工(「スクレーピング加工」ともいう)が行われる。キサゲ加工は、金属加工の一種であり、従来、被加工物(ワーク)の加工対象面(被加工面)に光明丹(鉛丹)や顔料を塗り、先端が幅広でノミ状(ヘラ状)のキサゲ工具(スクレーパ)を作業者が使って、色の違いを見ながら手作業で凸部を削り除去する作業を行っていた。
【0003】
キサゲ加工の本来の目的は、摺動面を高精度な平面に仕上げることにあるが、このキサゲ加工によって摺動面に形成されたミクロン単位の微小な凹みは、摺動時に潤滑油の油溜まりの作用をするため、摺動面の潤滑性が向上し、摺動時のリンギングを防止する効果がある。しかしながら、作業者の手作業によるキサゲ加工は、熟練が要求される作業であり、また、大変な重労働でもあった。
【0004】
これに関連して、切削刃を有するスクレーパを保持する加工用ロボットを自動制御することによって被加工物の加工対象面に対してキサゲ加工を行う自動キサゲ加工装置が提案されている(例えば、特許文献1~4等を参照)。この種の自動キサゲ加工装置は、通常、被加工物の加工対象面に切削刃を押し付けた状態で加工パスに沿ってスクレーパ(切削刃)をストロークさせることによって加工対象面のキサゲ加工を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-240809号公報
【特許文献2】特許第6294248号公報
【特許文献3】特開平05-123921号公報
【特許文献4】特開平10-58285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の自動キサゲ加工装置において、切削刃の刃先を加工パスの方向に対して直交させた状態で切削刃をストロークさせた場合、ストローク時に刃先が加工対象面から受ける抵抗が大きくなり、これに起因してストローク過程で刃先が加工対象面に引っ掛かる場合がある。その結果、円滑なストロークが阻害され、これに起因して切削痕(キサゲ加工痕)の表面が粗くなる虞があった。
【0007】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであって、被加工物の加工対象面に対して自動でキサゲ加工を行う自動キサゲ加工に関し、切削痕を滑らかに仕上げる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(態様1)
上記課題を解決するため、本発明の態様1に係る自動キサゲ加工装置は、被加工物の加工対象面に対して自動でキサゲ加工を行う自動キサゲ加工装置であって、切削刃を有するスクレーパを保持して動作させるキサゲ加工用ロボットと、加工指示データに従い、前記加工対象面に前記切削刃の刃先を押し付けた状態で加工パスに沿って前記切削刃がストロ
ークするように前記キサゲ加工用ロボットを制御するキサゲ加工制御を実行する制御装置と、を備え、前記制御装置は、キサゲ加工制御時に、前記刃先を加工パス方向に対して傾斜させた状態で前記切削刃をストロークさせる。
【0009】
(態様2)
上記態様1において、前記制御装置は、刃先傾斜ストローク制御時に、前記刃先における所定の基準点が前記加工パス上を通過するように、且つ、前記刃先における前記基準点での法線方向と前記加工パス方向がなす刃先傾斜角度が鋭角となるように、前記切削刃をストロークさせてもよい。
【0010】
(態様3)
上記態様2において、前記制御装置は、前記加工対象面の凸部を複数の加工領域層に区分して段階的に切削する平面出し加工処理を行う際、任意の一の加工領域層と他の少なくとも何れかの加工領域層とにおいて、切削時における前記刃先傾斜角度を異なる角度に設定してもよい。
【0011】
(態様4)
上記態様3において、前記制御装置は、一の加工領域層と、当該一の加工領域層の直下に位置する加工領域層同士で、切削時における前記刃先傾斜角度を異なる角度に設定してもよい。
【0012】
(態様5)
上記態様3又は4において、前記制御装置は、前記加工パス方向を始線として、少なくとも一の加工領域層の切削時における前記刃先傾斜角度を正の角度に設定し、且つ、他の少なくとも何れかの加工領域層の切削時における前記刃先傾斜角度を負の角度に設定してもよい。
【0013】
(態様6)
上記態様5において、前記制御装置は、一の加工領域層と当該一の加工領域層の直下に位置する加工領域層の一方の切削時における前記刃先傾斜角度を正の角度に設定し、他方の切削時における前記刃先傾斜角度を負の角度に設定してもよい。
【0014】
(態様7)
また、本発明の態様7に係る自動キサゲ加工方法は、自動キサゲ加工装置の制御装置が、切削刃を有するスクレーパを保持して動作させるキサゲ加工用ロボットを制御する際に実行する自動キサゲ加工方法であって、前記制御装置は、加工指示データに従い、被加工物の加工対象面に前記切削刃の刃先を押し付けた状態で加工パスに沿って前記切削刃がストロークするように前記キサゲ加工用ロボットを制御するキサゲ加工制御を実行する際、前記刃先を加工パス方向に対して傾斜させた状態で前記切削刃をストロークさせる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、被加工物の加工対象面に対して自動でキサゲ加工を行う自動キサゲ加工に関し、切削痕を滑らかに仕上げる技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る自動キサゲ加工装置の概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は、ロボットハンドに保持されたスクレーパユニットを示す図である。
【
図3】
図3は、スクレーパの切削刃によってワークの加工対象面を切削している状況を側方から眺めた図である。
【
図4】
図4は、制御装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、制御装置の機能構成の一例を概略的に示すブロック図である。
【
図6】
図6は、刃先傾斜ストロークを説明する図である。
【
図7】
図7は、刃先傾斜ストロークを説明する図である。
【
図8】
図8は、刃先傾斜ストローク時における刃先の軌跡を説明する図である。
【
図9】
図9は、加工対象面の表面高さ情報を説明する図である。
【
図10】
図10は、加工対象面における凸部における複数の加工領域層を説明する図である。
【
図12】
図12は、切削条件情報テーブルを説明する図である。
【
図14】
図14は、各加工領域層における対応する刃先傾斜角度の第1の設定例を示す図である。
【
図15】
図15は、各加工領域層における対応する刃先傾斜角度の第2の設定例を示す図である。
【
図16】
図16は、制御装置のプロセッサによって実行されるフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本発明は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0018】
<実施形態1>
(加工装置の概略構成)
図1は、実施形態1に係る自動キサゲ加工装置1の概略構成を示す図である。
図1に示すように、自動キサゲ加工装置1は、制御装置100、ロボットアーム200、三次元形状計測器300等を備えている。
【0019】
自動キサゲ加工装置1は、被対象物であるワーク10の加工対象面(被加工面)11に対してキサゲ加工(スクレーピング加工)を自動で行う装置である。ワーク10は、例えば、工作機械等を構成する金属製の摺動部材であり、その摺動面を加工対象面11とすることができる。キサゲ加工は金属加工の一種であり、キサゲ工具(切削工具)であるスクレーパを用いて加工対象面11の凸部を削り取り、加工対象面11の平面度を高めることによって摺動摩擦係数を低減させる。また、キサゲ加工の本来の目的は、摺動面を高精度な平面に仕上げることにあるが、摺動面の摺動時にリンギング(Wringing)現象が発生することを防止すべく、キサゲの仕上加工においては摺動面にミクロン単位の微小な多数の窪みを潤滑油の油溜まりとして形成し、摺動面の潤滑性を向上させるようにしている。
【0020】
ロボットアーム200は、例えば、6軸の多関節ロボットアームであり、制御装置100によって制御される。ロボットアーム200は、その先端側にロボットハンド210を有し、このロボットハンド210にスクレーパユニット20やハンドチャック30を着脱自在に保持(把持)することが可能である。すなわち、ロボットアーム200は、ロボットハンド210にスクレーパユニット20及びハンドチャック30を選択的に付け替えることができる。そして、ロボットアーム200は、各関節(例えば、第1軸~第6軸)をサーボモータ等によって駆動することで、ロボットハンド210をXYZ三次元直交座標系の任意の位置へと移動させることができる。
【0021】
図2は、ロボットハンド210に保持されたスクレーパユニット20を示す図である。スクレーパユニット20は、ロボットハンド210に着脱自在なホルダ部21と、当該ホ
ルダ部21と一体に設けられたキサゲ工具(切削工具)であるスクレーパ22等を備えるアタッチメントである。スクレーパ22は、可撓性を有する金属材料により形成された略帯板形状のスクレーパ本体23と、スクレーパ本体23の先端側に取り付けられた切削刃24等を含んで構成されている。切削刃24は、例えば超硬合金によって形成されており、例えば鋳物で形成されたワーク10の加工対象面11を切削することが可能である。図中の符号Wは切削刃24の幅寸法を表す。符号25は、切削刃24の刃先である。刃先25は、切削刃24の先端面として形成される刃先面26のうち、加工対象面11の切削時に当該加工対象面11に押し当てられる角部である。
図2に示す刃先25は円弧(ラウンド)形状を有しているが、刃先25の形状については特に限定されない。例えば、刃先25は直線形状を有していてもよい。勿論、円弧形状を有する刃先25を用いる場合、その曲率半径(刃先端半径)についても特に限定されない。例えば、ロボットハンド210には、切削刃24(刃先25)の幅寸法W、曲率半径(刃先端半径)等のサイズが異なるスクレーパユニット20を付け替えることができる。
【0022】
ワーク10の加工対象面11に対するキサゲ加工は、例えば
図1に示す加工用架台C1にワーク10を固定し、ロボットハンド210にスクレーパユニット20を保持した状態でロボットアーム200を制御することによって行われる。加工用架台C1の表面は、X-Y平面に平行な平面状に形成されている。そのため、加工用架台C1上のワーク10は、X-Y平面に沿って設置されることとなる。
【0023】
図3は、スクレーパ22の切削刃24によってワーク10の加工対象面11を切削している状況を側方から眺めた図である。キサゲ加工では、加工対象面11に切削刃24の刃先25を斜めに当てがい、ロボットハンド210を-Z方向に駆動して加工対象面11に対して切削刃24を押し込み、加工対象面11に切削刃24を押し付けた状態からロボットハンド210及びこれに取り付けられたスクレーパ22の先端に設けられた切削刃24をX-Y平面と平行にストローク(以下、その方向(
図2中、白抜き矢印)を「ストローク方向」と呼ぶ)させることによって、加工対象面11をミクロンオーダー或いはサブミクロンオーダーの厚さずつ切削する。また、ロボットアーム200は、後述するように制御装置100によって制御される。制御装置100がロボットアーム200を制御する際の加工指示データには、切削刃24の刃先25をX-Y平面に沿ってストロークさせる際の経路を指す加工パスが指定されており、キサゲ加工時において刃先25の幅方向における基準点が当該加工パス上を通過するように制御される。本実施形態においては、刃先25における幅方向の中央位置(以下、「幅中央位置」という)25Aが上記基準点として設定されており、キサゲ加工時において刃先25における幅方向中央部が加工パス上を通過するように制御される。
【0024】
なお、
図3に示す符号θ1は、加工対象面11を切削刃24によって切削する際に当該切削刃24とX-Y平面とがなす角度である(以下、「工具角度」という)。ロボットアーム200は、例えば、キサゲ加工時における工具角度θ1とロボットハンド210の垂直押し込み量(-Z方向への変位量)δzを制御パラメータとすることで、スクレーパ22の1ストローク当たりに加工対象面11を切削する切削深さΔDS、及び切削幅WCを調整することができる。ここで、ロボットハンド210の垂直押し込み量δzは、例えば、三次元形状計測器300によって計測される加工対象面11の基準点における高さを基準高さ(ゼロ点)として設定される。加工対象面11における基準点の位置(XY座標)は特に限定されない。例えば、加工対象面11の隅部を基準点に設定し、その表面高さを基準高さとしてもよい。なお、スクレーパ22のスクレーパ本体23は上記の通り可撓性を有するため、スクレーパ本体23が撓った状態で加工対象面11の切削が行われる。そのため、加工対象面11の切削深さがミクロンオーダー或いはサブミクロンオーダーの寸法であるのに対して、切削時におけるロボットハンド210の垂直押し込み量δzはミリオーダーの変位量として設定することができる。
【0025】
また、ロボットアーム200は、スクレーパ22(スクレーパユニット20)を保持するロボットハンド210をZ軸周りに回動可能な関節を有しており、スクレーパ22のZ軸周りのヨーイング角を自在に変更することができる。
【0026】
次に、ハンドチャック30について説明する。ハンドチャック30は、架台間でワーク10を移動させる際に、当該ワーク10を把持するためのアタッチメントであり、ロボットハンド210に着脱自在となっている。
図1に示すレイアウトでは、例えば、加工用架台C1及び計測用架台C2間でワーク10を移動させる際に用いられる。すなわち、ロボットアーム200は、ロボットハンド210に装着したハンドチャック30によってワーク10を把持することで、加工用架台C1及び計測用架台C2間でワーク10を自由に移動させることができる。
【0027】
計測用架台C2は、三次元形状計測器300を用いてワーク10における加工対象面11の三次元形状を計測する際に、ワーク10を載置するための架台である。計測用架台C2の表面も、X-Y平面に平行な平面状に形成されている。
【0028】
三次元形状計測器300は、例えば、白色光干渉方式の計測器であり、加工対象面11の三次元形状データ(凹凸形状データ)を高精度に取得することができる。但し、三次元形状計測器300は、加工対象面11の凹凸形状データ(高さデータ)を計測できれば特に限定されず、例えば三次元レーザスキャナ等を用いてもよい。また、三次元形状計測器300は、加工対象面11の凹凸形状データを非接触で取得する「非接触式」の計測器であってもよいし、加工対象面11にプローブ等を接触させることで当該加工対象面11の凹凸形状データを取得する「接触式」の計測器であってもよい。その他、自動キサゲ加工装置1は、スクレーパユニット20を載置するための工具載置用架台C3や、ハンドチャック30を載置するためのハンドチャック用架台C4等を備えていてもよい。
【0029】
また、ロボットアーム200は、更に、力覚センサ220を備えている。力覚センサ220は、キサゲ加工時に、スクレーパ22に作用する負荷(抵抗)を検出するセンサである。自動キサゲ加工装置1の制御装置100は、力覚センサ220が出力するキサゲ加工中における負荷の状態を監視(モニタリング)し、必要に応じて、負荷の強弱に基づいたフィードバック制御を行うことができる。
【0030】
上述したロボットアーム200は本発明に係るキサゲ加工用ロボットの一例であり、キサゲ加工用ロボットはロボットアーム200に限定されない。本発明に係るキサゲ加工用ロボットは、保持したスクレーパを動作させることによってワーク10の加工対象面11に対して自動でキサゲ加工を行うことができる構成であれば特に限定されない。
【0031】
次に、自動キサゲ加工装置1の制御装置100について説明する。制御装置100は、加工指示データに従ってロボットアーム200を制御し、その結果、ワーク10の加工対象面11に対して加工指示データに応じたキサゲ加工が行われる。また、制御装置100は、ロボットアーム200を制御するするための加工指示データを生成する。すなわち、制御装置100は、ロボットアーム200を制御する装置として機能すると共に、ロボットアーム200を制御する際に用いる加工指示データを生成するための情報処理装置(加工指示データ生成装置)として機能する。但し、ロボットアーム200を制御するための加工指示データは、制御装置100とは別の情報処理装置(加工指示データ生成装置)によって生成されてもよい。この場合、当該情報処理装置(加工指示データ生成装置)が生成した加工指示データを制御装置100が取得し、取得した加工指示データに従って制御装置100がロボットアーム200を制御する。なお、情報処理装置(加工指示データ生成装置)から制御装置100への加工指示データの送信は有線通信または無線通信のいず
れによって行われてもよい。
【0032】
図4は、制御装置100の構成の一例を示すブロック図である。制御装置100は、例えば、一般的なコンピュータである。制御装置100を構成するコンピュータは、通信インターフェース(通信I/F)101、記憶装置102、入出力装置103、及びプロセッサ104を備え、これらが通信バス105を介して接続されている。
【0033】
通信I/F101は、例えばネットワークカードや通信モジュールであってもよく、所定のプロトコルに基づき、他のコンピュータ、機器等と通信を行う。例えば、制御装置100は、通信I/F101を介してワーク10における加工対象面11の三次元形状情報を三次元形状計測器300から受信する。
【0034】
記憶装置102は、例えば、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の主記憶装置、及びHDD(Hard-Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の補助記憶装置(二次記憶装置)を含んでいる。主記憶装置は、プロセッサ104が読み出すプログラムや他のコンピュータとの間で送受信する情報を一時的に記憶したり、プロセッサ104の作業領域を確保したりする。補助記憶装置は、プロセッサ104が実行するプログラムや他のコンピュータとの間で送受信する情報等を記憶する。また、補助記憶装置は、リムーバブルメディア(可搬記録媒体)を含んでいてもよい。リムーバブルメディアは、例えば、USBメモリ、SDカード、または、CD-ROM、DVDディスク、若しくはブルーレイディスクのようなディスク記録媒体である。記憶装置102(例えば、補助記憶装置)には、オペレーティングシステム(OS)、各種プログラム、および各種情報テーブル等が格納されている。
【0035】
入出力装置103は、例えば、キーボード、マウス等の入力装置、モニタ等の出力装置、タッチパネルのような入出力装置等のユーザインターフェースである。
【0036】
プロセッサ104は、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等の演算処理装置であり、プログラムを実行することにより本実施形態に係
る各処理を行う。例えば、プロセッサ104が、記憶装置102の補助記憶装置に記憶されたプログラムを主記憶装置にロードして実行することによって、後述するような加工指示データを生成するための各種の処理が実現される。
【0037】
なお、制御装置100は、必ずしも単一の物理的構成によって実現される必要はなく、互いに連携する複数台のコンピュータによって構成されてもよい。
【0038】
次に、制御装置100の機能構成について
図5に基づいて説明する。
図5は、制御装置100の機能構成の一例を概略的に示すブロック図である。制御装置100は、加工指示データ生成部110、制御部111を機能部として有している。制御装置100のプロセッサ104は、記憶装置102の補助記憶装置に記憶されたプログラムを主記憶装置にロードして実行することにより、上述した各機能部を実現する。加工指示データ生成部110は、加工指示データを生成する加工指示データ生成処理を実行する。制御部111は、加工指示データ生成部110が生成した加工指示データを取得し、当該加工指示データに従ってロボットアーム200を制御することによってワーク10の加工対象面11に対して自動でキサゲ加工を行うキサゲ加工制御を実行する。
【0039】
次に、自動キサゲ加工装置1のキサゲ加工制御について説明する。制御装置100は、キサゲ加工制御時に、切削刃24における刃先25を加工パスの方向に対して傾斜させた状態で切削刃24をストロークさせる刃先傾斜ストロークを行うことを特徴とする。以下、このようなストロークを「刃先傾斜ストローク」という。
【0040】
図6及び
図7は、刃先傾斜ストロークを説明する図である。
図6には、刃先25の形状が直線形状を有する切削刃24を用いる場合の刃先傾斜ストローク状況を示し、
図7には、刃先25の形状が円弧形状を有する切削刃24を用いる場合の刃先傾斜ストローク状況を示している。
【0041】
符号PTは、ワーク10の加工対象面11をキサゲ加工する際の加工パスである。加工パスPTは、
図3で説明したように加工対象面11に押し付けた切削刃24をストロークさせる際に、切削刃24の基準点(ここでは、上述した幅中央位置25Aを基準点として説明する)が辿る経路である。加工パスPTにおいて、矢印の始点(図中、丸印)は、加工開始点Psであり、終点(図中、矢の先端)が加工終了点Peである。加工パスPTにおける加工開始点Psから加工終了点Peに向かう矢印の方向が、加工パスPTの方向(以下、「加工パス方向Dp」という)に相当する。なお、
図6及び
図7は、加工対象面11(X-Y平面)を上面から眺めた状態を示している。また、
図3で説明したストローク方向は、加工パス方向Dpに一致する。
【0042】
本実施形態では、切削刃24のストローク時に刃先25の幅中央位置25Aが加工パスPT上を通るように制御される。そして、本実施形態で採用する刃先傾斜ストロークでは、切削刃24における刃先25を加工パス方向Dpに対して傾斜させた状態で切削刃24をストロークさせる。
【0043】
本明細書において、切削刃24の刃先25が加工パス方向Dpに対して傾斜した状態とは、X-Y平面において、刃先25の幅方向(以下、「刃先幅方向」という)Dwが加工パス方向Dpに対して直交していない状態を指す。また、刃先幅方向Dwは、X-Y平面において、刃先25における幅中央位置25Aを通る接線(以下、「幅中央位置接線」という)Lcと平行な方向と定義できる。従って、X-Y平面において、刃先25における幅中央位置接線Lcの方向が加工パス方向Dpと直交していない状態が、刃先25が加工パス方向Dpに対して傾斜した状態と言える。
【0044】
また、図中の符号Lnは、刃先25における幅中央位置25Aを通る、幅中央位置接線Lcの法線(以下、「幅中央位置法線」という)である。本実施形態では、刃先25における幅中央位置法線Lnと加工パス方向Dpとがなす角度(以下、「刃先傾斜角度」という)θ2が鋭角に設定されることで、加工パス方向Dpに対して刃先幅方向Dwを傾斜させた状態での刃先傾斜ストロークが実現される。なお、本明細書において、加工パスPT(加工パス方向Dp)を基準(始線)として半時計周りを正の角度とし、時計周りを負の角度として刃先傾斜角度θ2を説明する(
図6及び
図7において正負の方向を図示する)。従って、
図6及び
図7に示す例では、刃先傾斜角度θ2は正の角度として図示されている。また、刃先傾斜角度θ2の正負を考慮すると、刃先傾斜角度θ2が鋭角とは、0°<θ2<90°又は-90°<θ2<0°であることを意味する。
【0045】
以上のように、本実施形態においては、キサゲ加工時に刃先傾斜ストロークがなされるように制御装置100がロボットアーム200を制御する。
図8は、刃先傾斜ストローク時における刃先25の軌跡を説明する図である。具体的には、加工開始点Psから加工終了点Peまで加工パスPTに沿って切削刃24を刃先傾斜ストロークさせたときの刃先25の軌跡を示す。上記のように、刃先傾斜ストロークにおいては、刃先25における幅中央位置法線Lnの方向を加工パス方向Dpに対して傾斜させた状態で、幅中央位置25Aが加工パスPT上を通過するように切削刃24を加工開始点Psから加工終了点Peまでストロークさせる。このように、刃先25を加工パス方向Dpに対して傾斜させた状態で切削刃24をストロークさせることにより、切削刃24の刃先幅方向Dw(幅中央位置接線Lcの方向)を加工パス方向Dpに対して直交させた状態でのストローク(以下、「刃
先直交ストローク」という)に比べて、ストローク時に刃先25が加工対象面11から受ける抵抗を低減することができる。これにより、加工パスPTに沿ったストローク過程で刃先25が加工対象面11に引っ掛かり難くなり、円滑なストロークが実現される。よって、刃先傾斜ストロークによれば、切削刃24が加工対象面11を切削することによって得られる切削痕(キサゲ加工痕)の表面が粗くなることを抑制できる。つまり、加工対象面11の切削痕(キサゲ加工痕)を滑らかに仕上げることができる。
【0046】
なお、刃先直交ストロークでは、ストローク過程で刃先25が加工対象面11に引っ掛かることに起因して、加工パス方向Dpと直交する方向に延びる横スジが切削痕(キサゲ加工痕)に形成され易くなる。これに対して、本実施形態における刃先傾斜ストロークによれば、ストローク方向への抵抗を低減することで、切削痕(キサゲ加工痕)に横スジが形成されることを抑制し、安定した良質なキサゲ面を得ることができる。また、加工対象面11の切削時に刃先25が受ける抵抗を低減することで、刃先25の摩耗を刃先直交ストロークに比べて低減することができる。よって、切削刃24を長持ちさせることが可能となり、切削刃24(スクレーパ22)の交換頻度を少なくすることができる。
【0047】
なお、キサゲ加工制御を実行する際に使用する加工指示データは、制御装置100のプロセッサ104が、記憶装置102に記憶されたプログラムを実行し、加工指示データ生成部110として機能することによって生成される。
【0048】
加工指示データを生成する加工指示データ生成処理において、加工指示データ生成部110は、例えば、三次元形状計測器300の計測データに基づき、加工対象面11の表面高さ情報を取得することで、加工対象面11の凸部を取得する。そして、加工指示データ生成部110は、取得した加工対象面11の凸部に基づいて、当該凸部を切削するための加工指示データを生成する。加工指示データには、加工パスPT、工具角度θ1、刃先傾斜角度θ2、ロボットハンド210の垂直押し込み量δz等を示すデータが格納されていてもよい。加工指示データに含まれる加工パスPTを示すデータとしては、加工パスPTの加工開始点座標(XY座標)及び加工終了点座標(XY座標)を示すデータであってもよいし、これに代えて、加工開始点座標(XY座標)、加工パス方向、加工パス長さを示すデータであってもよい。
【0049】
上記のように生成された加工指示データは、記憶装置102に記憶される。そして、制御装置100の制御部111は、記憶装置102から取得した加工指示データに従ってキサゲ加工制御を実行する。キサゲ加工制御では、上記のように刃先傾斜ストロークによって加工対象面11が切削される。制御部111は、加工指示データに含まれる刃先傾斜角度θ2の指示値に応じて、スクレーパ22のZ軸周りのヨーイング角を制御する。これにより、キサゲ加工制御時における刃先傾斜角度θ2を容易に所望の角度へと調整できる。
【0050】
なお、典型的な実施形態として、加工対象面11の凸部の分布に応じて複数の加工点が設定され、加工指示データには加工点毎の加工パスPTが含まれている。本実施形態では、全ての加工点について切削刃24の刃先傾斜ストロークを実施する必要はなく、少なくとも一部の加工点について切削刃24の刃先傾斜ストロークを実施する態様も本発明の範疇に属するものである。
【0051】
また、自動キサゲ加工装置1は、三次元形状計測器300の代わりに、加工対象面11を撮像するカメラを備え、当該カメラの撮像データに基づいて加工対象面11の凸部を検出するようにしてもよい。この場合、加工指示データ生成部110は、カメラから取得した撮像データに適宜の画像処理を実行し、加工対象面11の凸部の平面位置や高さを取得し、加工指示データを生成することができる。
【0052】
<実施形態2>
次に、実施形態2について説明する。実施形態2における自動キサゲ加工装置の概略構成は、上述した実施形態1と同様である。
【0053】
本実施形態においては、ワーク10に対するキサゲ加工制御の一例として、加工対象面11の平面度が所定の目標平面度を満たすように加工対象面11の凸部を切削する平面出し加工処理を実行し、当該平面出し加工処理の後に、加工対象面11に油溜まり用の窪みを形成する仕上げ加工処理を実行する例について説明する。このように、ワーク10の加工対象面11に対するキサゲ加工を行うに際し、平面出し加工処理と仕上げ加工処理とに分離して行うことによって加工効率を向上させることができる。
【0054】
ここで、制御装置100が平面出し加工処理を実行する際に使用する加工指示データ(以下、「平面出し用加工指示データ」という)を生成する処理(平面出し用加工指示データ生成処理)について説明する。
【0055】
平面出し加工用指示データの生成に際し、加工指示データ生成部110は、三次元形状計測器300の計測データに基づき、加工対象面11の表面高さ情報を取得する。
図9は、加工対象面11の表面高さ情報を説明する図である。表面高さ情報は、加工対象面11の平面方向(X-Y平面方向)における各座標(各測定点)に対応する高さ(Z座標)を示す情報である。
【0056】
加工指示データ生成部110は、加工対象面11の表面高さ情報に基づいて、加工対象面11の凸部を取得する。加工対象面11の凸部は、例えば、加工対象面11の高さ(Z座標)が最も低い位置を基準として、相対的に隆起した部位である。加工指示データ生成部110は、例えば、加工対象面11の表面高さ情報に基づいて、加工対象面11の平面出し加工処理前の加工対象面11の形状をモデル化し、初期形状S1として取得する。そして、この初期形状S1と、平面出し加工処理後に形成されるべき加工対象面11の目標平面(目標形状)S2との差分形状を、加工対象面11の凸部S3(平面出し加工処理で切削すべき対象となる部位)として取得してもよい。加工対象面11の目標平面S2は、加工対象面11の高さ(Z座標)が最も低い位置を通り、且つX-Y平面に平行な平面形状として設定してもよい。
【0057】
加工指示データ生成部110は、加工対象面11における凸部S3を、その高さ方向にX-Y平面と平行な加工平面によって区分し、複数の加工領域層CRを設定する。
【0058】
図10は、加工対象面11における凸部S3における複数の加工領域層CRを説明する図である。
図10には、X=X1上(X1は、X軸上における座標)における加工対象面11の凸部S3の形状を模式的に示している。
図10に示す符号S0は、加工対象面11における凸部S3のうち、当該凸部S3において高さ(Z座標)が最も高い位置を通り且つX-Y平面に平行な仮想平面である。
図10に示す符号VPは、凸部S3を高さ方向に区分する仮想的な加工平面である。加工平面VPは、仮想平面S0及び目標平面S2と平行(すなわち、X-Y平面に平行)、且つこれら平面S0,S2間に間隔をおいて設定される。
図10には、4つの加工平面VPによって凸部S3を5つの加工領域層CR1~CR5に区分した態様を例示している。
【0059】
次に、加工指示データ生成部110は、加工対象面11における各加工領域層CRの平面的な分布を等高線状に示す加工領域層分布情報を生成する。
図11は、加工領域層分布情報を説明する図である。
図10においては、作図上、加工対象面11の一部のみについて各加工領域層CRの分布を等高線状に示している(拡大
図Aを参照)。
図10の拡大
図Aにおいて実線で示される等高線は、各加工領域層CR1~CR5同士の境界位置、及び
、最下層に位置する加工領域層CR5と目標平面S2との境界位置を示している。すなわち、拡大
図Aに示される等高線は、各加工平面VP及び目標平面S2によって加工対象面11の凸部S3を仮想的に切断したときの切り口と一致している。
【0060】
本実施形態に係る平面出し加工処理は、加工対象面11の凸部S3を、最上層に位置する加工領域層CR(
図10に示す例では加工領域層CR1)から、最下層に位置する加工領域層CR(
図10に示す例では、加工領域層CR5)まで、これらの順に加工領域層CR毎に順次切削する。そのため、加工指示データ生成部110は、加工対象面11の凸部S3を切削する際に用いる平面出し加工用指示データを、加工領域層CR毎に生成する。
【0061】
なお、
図10に示す符号ΔHは、加工対象面11の凸部S3を複数の加工領域層CRに区分する際の割り付け高さである。例えば、各加工領域層CRの割り付け高さΔHは、スクレーパ22の1ストローク当たりの切削深さΔDSに対応する寸法に設定される。これにより、平面出し加工処理で凸部S3を切削する際、スクレーパ22の1ストローク毎に、加工領域層CR1つ分に相当する厚さを切削することができる。
【0062】
例えば、加工指示データ生成部110は、各加工領域層CRの割り付け高さΔHを、予め定められた固定値(例えば、1μm程度)に設定してよい。或いは、凸部S3の最大高低差(加工対象面11の高さ(Z座標)が最も低い地点と最も高い地点におけるZ軸方向の高低差)に応じて、各加工領域層CRの割り付け高さΔHを均等に設定してもよい。但し、各加工領域層CRにおける割り付け高さΔHを同じ値として設定する必要はなく、各層の割り付け高さΔHとして異なる値を設定してもよい。例えば、各加工領域層CRにおける割り付け高さΔHが、凸部S3の上側(+Z方向側)から下側(-Z方向側)に向かって段階的に小さくなるように設定してもよい。
【0063】
また、加工指示データ生成部110は、ユーザから指定された値を用いて凸部S3を高さ方向に区分する際の割り付け高さΔHを設定してもよい。この場合、例えば、キサゲ加工処理の開始前に出力装置103を介したユーザによる入力操作を受け付けておき、割り付け高さΔHを含む入力情報(設定情報)を記憶装置102に記憶しておいてもよい。勿論、加工指示データ生成部110が、各加工領域層CRの割り付け高さΔHを自動で設定してもよい。
【0064】
また、上記の通り、スクレーパ22の1ストローク当たりの切削深さΔDSは、上述した工具角度θ1と垂直押し込み量δzとの関係と相関する。そのため、加工指示データ生成部110は、
図12に示すような切削条件情報テーブルに基づいて各加工領域層CRの割り付け高さΔHを自動設定してもよい。切削条件情報テーブルは、工具角度θ1、垂直押し込み量δz、切削幅WC、切削深さΔDSの関係を示すデータである。切削幅WC及び切削深さΔDSのフィールドには、工具角度θ1と垂直押し込み量δzの組み合わせに対応する切削幅WC及び切削深さΔDSの値が登録されている。切削条件情報テーブルは、いわゆるデータベースのテーブルであってもよいし、CSV(Comma Separated Values)のような所定の形式のファイルであってもよい。このような切削条件情報テーブルは、予め記憶装置102に記憶されている。加工指示データ生成部110は、切削条件情報テーブルを読み出し、当該切削条件情報テーブルの切削深さΔDSのフィールドに登録されている値を抽出し、その値を各加工領域層CRの割り付け高さΔHとして設定してもよい。
【0065】
次に、加工指示データ生成部110は、上述した加工領域層分布情報に基づいて、加工対象面11を加工領域層CR毎に切削するための加工指示データを生成する。例えば、加工指示データ生成部110は、各加工領域層CRに含まれる加工点毎の加工パスPT、工具角度θ1、刃先傾斜角度θ2、垂直押し込み量δz等を示すデータを格納する制御パラ
メータ情報を加工領域層CR毎に生成する。
【0066】
図13は、制御パラメータ情報を説明する図である。
図13に示す制御パラメータ情報は、加工点番号、加工パスPT、工具角度θ1、刃先傾斜角度θ2、垂直押し込み量δz等といった各制御パラメータに関するデータを含む。加工点番号は、対象となる加工領域層CRに含まれる加工パスの通し番号であり、当該加工領域層CRを切削する際における切削刃24の総ストローク回数に一致する。加工パスPTに関するデータは、加工パスPTの加工開始点Ps及び加工終了点Peを規定するデータであり、例えば、各加工点における加工開始点座標(XY座標)、加工パス方向、加工パス長さが規定されていてもよい。勿論、加工パスPTに関するデータとして、加工パスPTの加工開始点座標(XY座標)及び加工終了点座標(XY座標)が規定されていてもよい。加工指示データ生成部110は、各加工領域層CRの制御パラメータ情報を含む平面出し用加工指示データを生成し、記憶装置102に記憶する。
【0067】
本実施形態に係るキサゲ加工制御においても、加工対象面11を切削する際に切削刃24の刃先傾斜ストロークを実施する。例えば、平面出し加工処理に際して、制御装置100は、任意の一の加工領域層CRと他の少なくとも何れかの加工領域層CRとにおいて、切削時における刃先傾斜角度θ2を異なる角度に設定することができる。その際、制御装置100は、一の加工領域層CRと、当該一の加工領域層CRの直下に位置する加工領域層CR同士で、切削時における刃先傾斜角度θ2を異なる角度に設定してもよい。言い換えると、高さ方向に連続する任意の一組の加工領域層同士で、切削時における刃先傾斜角度θ2を異なる角度に設定してもよい。
【0068】
図14は、各加工領域層CRにおける対応する刃先傾斜角度θ2の第1の設定例を示す図である。
図14に示す刃先傾斜角度θ2の設定例では、加工領域層CR1、CR3、CR5の刃先傾斜角度θ2が+5°に設定され、加工領域層CR2、CR4の刃先傾斜角度θ2が+20°に設定されている。これらの刃先傾斜角度θ2については例示であるが、少なくとも一つの加工領域層(例えば、加工領域層CR1)の刃先傾斜角度θ2が、他の少なくとも何れかの加工領域層(
図14の例では、加工領域層CR2、CR4)における刃先傾斜角度θ2と異なる角度に設定されている。
【0069】
このように各加工領域層CRの刃先傾斜角度θ2を設定することで、各加工領域層CRの切削時に刃先傾斜ストロークを行う際に、加工パス方向Dpに対する刃先25の傾斜度合いを異ならしめることができる。これによれば、加工対象面11の平面領域における同一箇所を複数回に亘って切削する際、全てのストロークにおいて加工パス方向Dpに対する刃先25の傾斜度合いが揃ってしまうことを抑制できる。
【0070】
実施形態1で説明したように、本開示に係る刃先傾斜ストロークによれば、刃先直交ストロークに比べて、刃先25が加工対象面11から受ける抵抗を低減することで円滑なストロークが実現される。しかしながら、ロボットハンド210によって切削刃24を加工対象面11に押し付けるため、切削刃24を加工対象面11に押し付ける押付け力は、厳密には刃先幅方向Dwにおいて均一とならない場合がある。つまり、厳密にいえば、刃先幅方向Dwにおいて切削深さのばらつきが多少は生じ得ると考えられる。
【0071】
これに対して、加工対象面11の平面領域における同一箇所を複数回に亘って切削する場合に、加工パス方向Dpに対する刃先25の傾斜度合いを変更して刃先傾斜ストロークを行うことにより、刃先幅方向Dwにおいて切削深さのばらつきを平準化することができる。これにより、平面出し加工処理において、加工対象面11の平面度をより一層高める切削加工が可能となる。また、刃先傾斜ストロークにおける刃先25の傾斜度合いを変更することによって、ストローク中に刃先25が加工対象面11から受ける抵抗が最大とな
る刃先幅方向Dwにおける位置が変更されるため、刃先25が摩耗しにくくなる。
【0072】
また、加工対象面11の平面領域における同一箇所を複数回に亘って切削する際、全ての刃先傾斜ストロークにおいて加工パス方向Dpに対する刃先25の傾斜度合いが揃ってしまうと、切削痕に刃先幅方向Dwに沿った斜めスジが形成され易くなると考えられるが、加工パス方向Dpに対する刃先25の傾斜度合いを変更することによって上記斜めスジの形成を抑制できるという利点もある。
【0073】
更に、
図14に示す刃先傾斜角度θ2の設定例によれば、一の加工領域層CRと、当該一の加工領域層CRの直下に位置する加工領域層CR同士で、切削時における刃先傾斜角度θ2を異なる角度に設定される。つまり、高さ方向に連続する任意の一組の加工領域層同士で、切削時における刃先傾斜角度θ2が異なる角度に設定されている。これによれば、加工対象面11の平面領域における同一箇所を複数回に亘って切削する際、高さ方向に連続する加工領域層CR同士で、刃先傾斜ストローク時における加工パス方向Dpに対する刃先25の傾斜度合いを相違させることができる。その結果、平面出し加工処理における加工対象面11の平面度向上、切削痕における斜めスジの形成抑制、刃先25の摩耗抑制等の効技術的果をより顕著に得ることができる。
【0074】
勿論、
図14に示す刃先傾斜角度θ2の設定例は例示であり、特定の設定例に限定されない。また、例えば、全ての加工領域層CRにおける刃先傾斜角度θ2を互いに異なる角度に設定してもよい。
【0075】
また、制御装置100は、加工パス方向Dpを始線(基準)として、少なくとも一の加工領域層の切削時における刃先傾斜角度θ2を正の角度(例えば、加工パス方向Dpを始線として反時計回りの角度を正の角度とする)に設定し、且つ、他の少なくとも何れかの加工領域層の切削時における刃先傾斜角度θ2を負の角度(例えば、加工パス方向Dpを始線として時計回りの角度を負の角度とする)に設定することができる。
【0076】
図15は、各加工領域層CRにおける対応する刃先傾斜角度θ2の第2の設定例を示す図である。
図15に示す刃先傾斜角度θ2の設定例では、加工領域層CR1、CR3、CR5の刃先傾斜角度θ2が正の角度に設定され、加工領域層CR2、CR4の刃先傾斜角度θ2が負の角度に設定されている。
【0077】
これによれば、刃先傾斜角度θ2を正の角度同士で変更する場合(例えば、+α°と+β°の組み合わせ)、或いは、負の角度同士で変更する場合(例えば、-α°と-β°の組み合わせ)に比べて、刃先傾斜ストローク中に刃先25が加工対象面11から受ける抵抗が最大となる刃先幅方向Dwにおける位置を大きく変更することができる。また、刃先傾斜角度θ2を正の角度に設定する場合には加工パス方向Dpに対して刃先幅方向Dwを正の傾きとすることができ、刃先傾斜角度θ2を負の角度に設定する場合には加工パス方向Dpに対して刃先幅方向Dwを負の傾きとすることができる。そのため、第2の設定例のように刃先傾斜角度θ2を設定することで、平面出し加工処理における加工対象面11の平面度向上、切削痕における斜めスジの形成抑制、刃先25の摩耗抑制等の技術的効果をより顕著に得ることができる。
【0078】
特に、第2の設定例においては、一の加工領域層と当該一の加工領域層の直下に位置する加工領域層の一方の切削時における刃先傾斜角度θ2を正の角度に設定し、他方の切削時における刃先傾斜角度θ2を負の角度に設定している。つまり、最上層に位置する加工領域層CR1から最下層に位置する加工領域層CR5に至るまで、刃先傾斜角度θ2が正負交互に設定されることになる。このようにすることで、上記技術的効果をより一段と顕著なものとすることが可能となる。なお、
図15に示す例では、加工領域層CR1、CR
3、CR5の刃先傾斜角度θ2が同じ角度に設定されているが、いうまでも無くこれらを相互に異なる正の角度に設定してもよい。同様に、
図15に示す例では、加工領域層CR2、CR4の刃先傾斜角度θ2が同じ角度に設定されているが、これらを相互に異なる負の角度に設定してもよい。
【0079】
<キサゲ加工処理フロー>
次に、制御装置100において実行されるキサゲ加工処理フローについて説明する。
図16は、制御装置100のプロセッサ104によって実行されるフローチャートである。キサゲ加工処理フローは、例えば、入出力装置103の入力装置を介してユーザからのキサゲ加工開始要求を制御装置100が受け付けることを契機に開始される。
【0080】
先ずステップS101において、加工指示データ生成部110は、上述した平面出し用加工指示データ生成処理を実行し、平面出し用加工指示データを生成する。加工指示データ生成部110が生成した平面出し用加工指示データは、記憶装置102に記憶される。
【0081】
次に、ステップS102において、制御部111は、記憶装置102から平面出し用加工指示データを取得する。そして、取得した平面出し用加工指示データに従ってロボットアーム200を制御し、ワーク10の加工対象面11に対する平面出し加工処理を実行する。すなわち、加工対象面11の凸部S3をスクレーパ22の切削刃24によって切削する制御を行う。
【0082】
ステップS102において、全ての加工領域層CRへの切削が完了すると、平面出し加工処理を終了し、ステップS103に進む。制御部111は、ステップS103において、平面出し加工処理後における加工対象面11の表面高さ情報を取得し、平面出し加工処理後における加工対象面11の平面度が所定の目標平面度を満たしているか否かを判定する。なお、加工対象面11の表面高さ情報は、三次元形状計測器300の計測データに基づいて取得される。ここでいう「平面度」とは、例えばJIS B 0621「幾何偏差の定義及び表示」に規定されているように「平面形体の幾何学的に正しい平面(幾何学的平面)からの狂いの大きさ」として定義することができる。そして、平面出し加工処理後の加工対象面11において、その高さ(Z座標)が最も高い部位(最も突出した部位)と最も低い位置(最も凹んだ位置)のZ軸方向の高低差が所定の閾値以下である場合に、加工対象面11の平面度が所定の目標平面度を満たすと判断してもよい。
【0083】
ステップS103において加工対象面11の平面度が目標平面度を満たすと判定された場合、ステップS104に進む。一方、ステップS103において加工対象面11の平面度が目標平面度を満たさないと判定された場合、ステップS101に戻り、平面出し用加工指示データ生成処理及び平面出し加工処理を再度実行する。つまり、加工対象面11の平面度が目標平面度を満たすまで、平面出し加工処理が行われる。
【0084】
ステップS104では、加工指示データ生成部110が仕上げ用加工指示データを生成する仕上げ用加工指示データ生成処理を実行する。仕上げ用加工指示データは、制御装置100が仕上げ加工処理を実行する際に使用する加工指示データである。仕上げ用加工指示データは、例えば、入出力装置103の入力装置を介して予めユーザから入力された入力情報に基づいて生成される。入力情報には、例えば、ユーザが指定した当たり面積率や当たり点数が含まれている。ここで、当たり面積率は、ワーク10の加工対象面11における、仕上げ加工処理によって形成される当たり面(凸部)の面積の割合として表されてもよい。また、当たり点数は、加工対象面11における、仕上げ加工処理によって形成される当たり面(凸部)の数として表されてもよい。
【0085】
加工指示データ生成部110は、ユーザが入力した入力情報に含まれるパラメータの条
件に合致するように仕上げ用加工指示データを生成する。仕上げ用加工指示データは、スクレーパ22によって加工対象面11を切削するときの加工パスPT、工具角度θ1、垂直押し込み量δz、刃先傾斜角度θ2等といった各制御パラメータを加工点番号毎に対応付けてリストにしたデータである。加工指示データ生成部110が生成した仕上げ用加工指示データは、記憶装置102に記憶される。
【0086】
次に、ステップS105において、制御部111は、記憶装置102から仕上げ用加工指示データを取得し、取得した仕上げ用加工指示データに従ってロボットアーム200を制御し、ワーク10の加工対象面11に対する仕上げ加工処理を実行する。すなわち、平面出し加工処理後の加工対象面11をスクレーパ22によって切削し、油溜まり用の窪みを形成する。加工対象面11に対する仕上げ加工処理が完了すると、キサゲ加工処理フローが終了する。
【0087】
なお、上述したキサゲ加工処理フローにおいては、平面出し用加工指示データ生成処理、平面出し加工処理、仕上げ用加工指示データ生成処理、及び仕上げ加工処理を一連のフローで実行する例を説明したが、これには限定されない。例えば、平面出し用加工指示データ生成処理や仕上げ用加工指示データ生成処理を、キサゲ加工処理フローに先だって実行しておき、予め記憶装置102に記憶させておいてもよい。また、本実施形態においては、上述した仕上げ加工処理においても切削刃24の刃先傾斜ストロークを実施してもよい。
【0088】
<その他の実施形態>
上記の実施形態及び変形例はあくまでも一例であって、本開示はその要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得る。また、本開示において説明した処理や手段は、技術的な矛盾が生じない限りにおいて、自由に組み合わせて実施することができる。
【0089】
また、1つの装置が行うものとして説明した処理が、複数の装置によって分担して実行されてもよい。あるいは、異なる装置が行うものとして説明した処理が、1つの装置によって実行されても構わない。コンピュータシステムにおいて、各機能をどのようなハードウェア構成によって実現するかは柔軟に変更可能である。
【0090】
本開示は、上記の実施形態で説明した機能を実装したコンピュータプログラムをコンピュータに供給し、当該コンピュータが有する1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行することによっても実現可能である。このようなコンピュータプログラムは、コンピュータのシステムバスに接続可能な非一時的なコンピュータ可読記憶媒体によってコンピュータに提供されてもよいし、ネットワークを介してコンピュータに提供されてもよい。非一時的なコンピュータ可読記憶媒体は、例えば、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクドライブ(HDD)等)、光ディスク(CD-ROM、DVDディスク、ブルーレイディスク等)など任意のタイプのディスク、読み込み専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、EPROM、EEPROM、磁気カード、フラッシュメモリ、または光学式カードのような、電子的命令を格納するために適した任意のタイプの媒体を含む。
【符号の説明】
【0091】
1・・・自動キサゲ加工装置
10・・・ワーク
11・・・加工対象面
100・・・制御装置
104・・・プロセッサ
110・・・加工指示データ生成部
111・・・制御部
200・・・ロボットアーム
300・・・三次元形状計測器