(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151136
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】遮塩性水硬性組成物、モルタル組成物及びモルタル硬化体
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20231005BHJP
C04B 7/02 20060101ALI20231005BHJP
C04B 7/32 20060101ALI20231005BHJP
C04B 28/06 20060101ALI20231005BHJP
C04B 28/14 20060101ALI20231005BHJP
C04B 16/06 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B7/02
C04B7/32
C04B28/06
C04B28/14
C04B16/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060583
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】515181409
【氏名又は名称】宇部興産建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100226023
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 崇仁
(72)【発明者】
【氏名】片桐 友樹
(72)【発明者】
【氏名】戸田 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】貫田 誠
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 義則
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA24
4G112PC13
4G112PD03
(57)【要約】
【課題】
遮塩性が高く、塩害による劣化をより有効に抑制できる遮塩性水硬性組成物を提供すること。
【解決手段】
遮塩性が高く、塩害による劣化をより有効に抑制できる水硬性組成物であって、ポルトランドセメント、アルミナセメント、及び石膏の3成分の含有量を、それぞれ当該3成分の合計量に対する質量百分率として、ポルトランドセメント0質量%を超えて90質量%未満、アルミナセメント0質量%を超えて80質量%未満、及び石膏10質量%を超えて40質量%未満を含み、前記アルミナセメントのCaO/Al2O3モル比が0.7を超えることを特徴とする遮塩性水硬性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポルトランドセメント、アルミナセメント、及び石膏の3成分の含有量を、それぞれ当該3成分の合計量に対する質量百分率として、ポルトランドセメント0質量%を超えて90質量%未満、アルミナセメント0質量%を超えて80質量%未満、及び石膏10質量%を超えて40質量%未満を含み、前記アルミナセメントのCaO/Al2O3モル比が0.7を超えることを特徴とする遮塩性水硬性組成物。
【請求項2】
更に樹脂繊維を含むことを特徴とする、請求項1に記載の遮塩性水硬性組成物。
【請求項3】
塩化物イオンの実効拡散係数が0.20cm2/年以下である請求項1又は請求項2に記載の遮塩性水硬性組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項の遮塩性水硬性組成物と水とを含有するモルタル組成物。
【請求項5】
請求項4に記載のモルタル組成物の硬化物を含有するモルタル硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮塩性水硬性組成物、モルタル組成物及びモルタル硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物等に含まれる鉄筋などの鋼材が塩化物イオンにより腐食を受けてコンクリート構造物が劣化する塩害が問題となっている。塩害は、海水等の塩化物イオンを含む環境水、又は塩分の飛来、あるいは寒冷地や山間部で使用する凍結防止剤により引き起こされることが多い。塩害で劣化したコンクリート構造物は、補修後も除去しきれなかった塩化物イオンや外部からの新たな塩化物イオンの浸入による再劣化を抑制することが必要であり、塩分吸着剤を含む塩害補修用断面修復材や塩化物イオン浸透抵抗性があるカルシウムアルミネートを含有してなるセメント混和材が知られている。(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-227210号公報
【特許文献2】特開2005-104828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、塩分吸着剤には毒性が懸念される亜硝酸イオンが担持されているため、保管や施工時に周辺環境に配慮する必要があり、高価であるという問題点がある。また、カルシウムアルミネートを含有してなるセメント混和材は、CaO/Al2O3モル比が0.3未満では、塩化物イオン浸透抵抗性が充分に得られない場合がありコストも高く、0.3以上0.7以下では塩化物イオン浸透抵抗性は改善されるものの低コスト化は困難であった。一方、塩化物イオンの浸透抑制効果の向上やコスト低減のためにCaO/Al2O3モル比が0.7を超えるカルシウムアルミネートを用いると急硬性が現れるようになり、可使時間が確保できない場合や塩化物イオンの浸透抑制効果が充分に得られない場合があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、遮塩性が高く、塩害による劣化をより有効に抑制できる遮塩性水硬性組成物、及び当該遮塩性水硬性組成物から得られるモルタル組成物及びモルタル硬化体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の水硬性組成物は、遮塩性水硬性組成物であって、ポルトランドセメント、アルミナセメント、及び石膏の3成分の含有量を、それぞれ当該3成分の合計量に対する質量百分率として、ポルトランドセメント0質量%を超えて90質量%未満、アルミナセメント0質量%を超えて80質量%未満、及び石膏10質量%を超えて40質量%未満を含み、前記アルミナセメントのCaO/Al2O3モル比が0.7を超える。
【0007】
上記遮塩性水硬性組成物が、更に樹脂繊維を含んでよい。
【0008】
上記遮塩性水硬性組成物の塩化物イオンの実効拡散係数が、0.20cm2/年以下であってよい。
【0009】
本発明のモルタル組成物は、上記遮塩性水硬性組成物と水とを含有する組成物である。
【0010】
本発明のモルタル硬化体は、上記モルタル組成物の硬化物を含有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、遮塩性が高く、塩害による劣化をより有効に抑制できる遮塩性水硬性組成物、モルタル組成物及びモルタル硬化体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る遮塩性水硬性組成物は、ポルトランドセメント、アルミナセメント、及び石膏の3成分の含有量を、それぞれ当該3成分の合計量に対する質量百分率として、ポルトランドセメントの含有量が0質量%を超えて90質量%未満であり、アルミナセメントの含有量が0質量%を超えて80質量%未満であり、石膏の含有量が10質量%を超えて40質量%未満であり、アルミナセメントのCaO/Al2O3モル比が0.7を超える。当該遮塩性水硬性組成物は、塩化物イオンの実効拡散係数が低く、遮塩性に優れる。例えば、本実施形態の遮塩性水硬性組成物は、塩化物イオンの実効拡散係数が0.20cm2/年以下であってよく、0.15cm2/年以下であってよい。なお、本明細書では、ポルトランドセメント、アルミナセメント、及び石膏の3成分を水硬性成分と呼び、これら3成分の合計量を水硬性成分の総量と呼ぶ。
【0013】
遮塩性水硬性組成物におけるポルトランドセメントの含有量は、更に遮塩性を向上する観点から、水硬性成分の総量に対して、5質量%を超えて70質量%未満であってよく、10質量%を超えて60質量%未満であってよく、15質量%を超えて50質量%未満であってよい。
【0014】
遮塩性水硬性組成物におけるアルミナセメントの含有量は、更に遮塩性を向上する観点から、水硬性成分の総量に対して、5質量%を超えて75質量%未満であってよく、20質量%を超えて70質量%未満であってよく、30質量%を超えて65質量%未満であってよい。
【0015】
遮塩性水硬性組成物における石膏の含有量は、更に遮塩性を向上する観点から、水硬性成分の総量に対して、12質量%を超えて37質量%未満であってよく、13質量%を超えて33質量%未満であってよく、15質量%を超えて30質量%未満であってよい。
【0016】
このような遮塩性水硬性組成物から形成したモルタル組成物及びモルタル硬化体が遮塩性に優れるメカニズムについては、必ずしも明らかとなっているわけではないが、本発明者らは、以下のように考えている。まず、本実施形態の遮塩性水硬性組成物から形成したモルタル硬化体には、水和物の生成により緻密な組織からなるため、塩化物イオンを透過しにくい。さらに、透過した塩化物イオンも、フリーデル氏塩C3A・CaCl2・10H2Oとして固定化される。このようにして、緻密な硬化体によって外部からモルタル硬化体内に塩化物イオンが浸入しづらく、浸入した塩化物イオンも化学的に吸着されるため、遮塩性に優れると考えられる。
【0017】
ポルトランドセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどが挙げられ、いずれの市販品も使用することができる。これらのうちの一種又は二種以上を用いることができる。入手が容易であり、さらにコストの観点から、普通ポルトランドセメント又は早強ポルトランドセメントを用いることが好ましい。
【0018】
ポルトランドセメントのブレーン比表面積は、好ましくは2500~6000cm2/gであり、より好ましくは3000~5500cm2/gであり、更に好ましくは3300~5000cm2/gである。ポルトランドセメントのブレーン比表面積は、JIS R 5201:2015に準じて求めることができる。ポルトランドセメントのブレーン比表面積が上記の好ましい範囲であることにより、水和反応が好適に進行し、優れた遮塩性が得られる。
【0019】
アルミナセメントとしては、鉱物組成の異なるものが数種知られ市販されているが、いずれも主成分はモノカルシウムアルミネート(CA)であり、市販品についてはその種類によらず使用することができる。アルミナセメントの主成分は、カルシウムアルミネートである。アルミナセメントの主成分として好ましく用いられるカルシウムアルミネートとしては、例えば、CA、C12A7、C4AF、C2AS等が挙げられる。アルミナセメントは、これらのカルシウムアルミネートのうちの一種のみを含んでいてもよいし、複数種類のカルシウムアルミネートを含んでいてもよい。
【0020】
アルミナセメントは、遮塩性及び速硬性の観点から、その組成がCaO/Al2O3モル比で0.7を超えるものが好ましく、0.8~2.8の範囲にあるものがより好ましく、1.0~2.5の範囲にあるものが更に好ましい。
【0021】
アルミナセメントのブレーン比表面積は、好ましくは2000~6000cm2/gであり、より好ましくは2300~5000cm2/gであり、更に好ましくは2500~4000cm2/gである。アルミナセメントのブレーン比表面積は、JIS R 2521-1995に準じて求めることができる。アルミナセメントのブレーン比表面積が上記の好ましい範囲であることにより、水和反応が好適に進行し、遮塩性がさらに向上する。
【0022】
石膏としては、例えば、二水石膏、半水石膏及び無水石膏が挙げられ、排煙脱硫やフッ酸製造工程等で副産される石膏、又は天然に産出される石膏のいずれも使用することができる。石膏は、モルタル組成物と水とを混練して得られるモルタル硬化体が硬化した後の寸法安定性を保持する成分として機能するものである。
【0023】
石膏のブレーン比表面積は、好ましくは2000~8000cm2/gであり、より好ましくは2500~7000cm2/gであり、更に好ましくは3000~6000cm2/gである。なお、石膏のブレーン比表面積は、JIS R 5201:2015に準じて求めることができる。
【0024】
遮塩性水硬性組成物には細骨材を含んでいてもよい。好ましく用いられる細骨材としては、例えば、珪砂、川砂、陸砂、海砂、砕砂等の砂類等が挙げられ、その種類を問わず、一種の細骨材のみを含んでいてもよいし、複数種類の細骨材を含んでいてもよい。
【0025】
細骨材の含有量は、水硬性成分100質量%に対して、好ましくは50~300質量%であり、より好ましくは55~270質量%であり、更に好ましくは60~250質量%である。細骨材の含有量を上記範囲とすることにより、遮塩性及び強度を一層向上することができる。
【0026】
遮塩性水硬性組成物には、水を配合してもよい。水を配合した遮塩性水硬性組成物をモルタル組成物と呼ぶ。
【0027】
遮塩性水硬性組成物は、高炉スラグ、石灰石、消石灰、フライアッシュ、シリカフューム、膨張材、流動化剤、減水剤、遅延剤、促進剤、収縮低減剤、樹脂粉末、増粘剤、消泡剤などのうちの一種又は二種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で含んでいてもよい。
【0028】
遮塩性水硬性組成物は、樹脂繊維を含んでいてもよい。樹脂繊維を含有させることにより、硬化時のクラックの発生を抑制できるとともに施工性が向上する。
【0029】
樹脂繊維としては、例えば、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ビニロン及びポリ塩化ビニル等の樹脂成分を含む繊維等が挙げられる。遮塩性水硬性組成物は、1種の樹脂繊維のみを含んでいてもよいし、複数種類の樹脂繊維を含んでいてもよい。
【0030】
樹脂繊維の繊維長は、混合時のハンドリング性や組成物中での分散性向上、及びモルタル硬化体の特性向上の観点から、好ましくは0.5mm~15.0mmであり、より好ましくは1.0mm~12.0mmであり、さらに好ましくは2.0mm~8.0mmである。
【0031】
樹脂繊維の含有量は、水硬性成分の総量100質量%に対し、好ましくは0.01質量%~3質量%であり、より好ましくは0.03質量%~2質量%であり、さらに好ましくは0.05質量%~1質量%である。
【0032】
樹脂繊維の繊維長及び含有量を上述の範囲に調整することにより、遮塩性や耐久性を損なわずにモルタル硬化体の耐クラック性をさらに向上することができる。
【0033】
本実施形態の遮塩性水硬性組成物は、塩害対策用途に使用でき、断面修復材として有用である。また、本実施形態の遮塩性水硬性組成物は、例えば、プレキャスト製品の接合部充填材、目地材、グラウト材など、モルタル硬化体及び当該モルタル硬化体に少なくとも一部が埋め込まれた鋼材とを有する構造体において使用することもできる。
【0034】
本実施形態の遮塩性水硬性組成物を使用した補修方法としては、特に限定されないが、例えば、鋼材を含むセメント系構造体における劣化や損傷したセメント系硬化体を除去する工程と、当該セメント系硬化体が除去された空間に上記遮塩性水硬性組成物を塗工や注入する工程と、当該遮塩性水硬性組成物が硬化する工程と、を備えてもよい。
【実施例0035】
(遮塩性水硬性組成物の製造)
表1に記載の割合でポルトランドセメント、アルミナセメント及び石膏を配合して遮塩性水硬性組成物とし、遮塩性水硬性組成物100質量%に対して細骨材113質量%、樹脂繊維0.4質量%を加えて調製した粉体に水粉体比13%(水130g/粉体1000g)で水を加えて、混練してモルタルを調製した。
なお、使用した各成分は、以下のとおりである。
ポルトランドセメント :ポルトランドセメント
宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積4500cm2/g
アルミナセメント :イメリス社製、ブレーン比表面積3100cm2/g、
CaO/Al2O3モル比1.77
石膏 :ブレーン比表面積 4140cm2/g
樹脂繊維 :ポリアミド樹脂系、繊維長5mm
細骨材 :粒径2mm以下の珪砂
【0036】
(塩化物イオンの実効拡散係数の測定)
実施例1~3及び比較例1~6の水硬性モルタル組成物について、日本土木学会編 コンクリート標準示方書 JSCE-G 571-2013「電気泳動によるコンクリート中の塩化物イオンの実効拡散係数試験方法(案)」に準拠して塩化物イオンの電気泳動試験を行い、水硬性モルタル硬化体の塩化物イオンの実効拡散係数(cm2/年)を求めた。結果を表1に示す。
【0037】