(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151156
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】電磁波吸収部材、エーミング用パーテーション
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20231005BHJP
B32B 3/24 20060101ALI20231005BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20231005BHJP
H01Q 17/00 20060101ALI20231005BHJP
H01Q 15/14 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H05K9/00 M
B32B3/24 Z
B32B7/025
H01Q17/00
H01Q15/14 B
H01Q15/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060611
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】松下 大雅
(72)【発明者】
【氏名】戸▲高▼ 昌也
【テーマコード(参考)】
4F100
5E321
5J020
【Fターム(参考)】
4F100AB10C
4F100AB17A
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4F100AK42C
4F100AK51B
4F100AT00B
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4F100EJ33
4F100JD08
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5E321AA23
5E321AA44
5E321BB01
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5E321BB23
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5E321GG11
5J020AA03
5J020AA06
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5J020BD04
5J020EA03
5J020EA05
5J020EA07
5J020EA10
(57)【要約】
【課題】より小さく巻き取ることができ、かつ電磁波を不必要に反射させることを抑制できる電磁波吸収部材およびそれを備えるエーミング用パーテーションを提供する。
【解決手段】電磁波吸収層20と、スペーサ層30と、反射層40とを有し、電磁波吸収層20と、スペーサ層30と、反射層40とがこの順に積層されており、電磁波吸収層20の最表面から、電磁波吸収層20およびスペーサ層30の厚み方向に略平行な複数のスリット50が形成され、複数のスリット50を介して、電磁波吸収層20とスペーサ層30とからなる積層体60が複数の領域に分割され、複数のスリット50の幅wが10mm未満である、電磁波吸収部材10。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波吸収層と、スペーサ層と、反射層とを有し、
前記電磁波吸収層と、前記スペーサ層と、前記反射層とがこの順に積層されており、
前記電磁波吸収層の最表面から、前記電磁波吸収層および前記スペーサ層の厚み方向に略平行な複数のスリットが形成され、前記複数のスリットを介して、前記電磁波吸収層と前記スペーサ層とからなる積層体が複数の領域に分割され、
前記複数のスリットの幅が10mm未満である、電磁波吸収部材。
【請求項2】
前記電磁波吸収部材の平面視にて、前記複数のスリットの間隔は1cm以上30cm以下である、請求項1に記載の電磁波吸収部材。
【請求項3】
前記スペーサ層は、発泡体からなる、請求項1に記載の電磁波吸収部材。
【請求項4】
前記反射層は、導電体からなる、請求項1に記載の電磁波吸収部材。
【請求項5】
支持部材と、前記支持部材に支持される支持板と、前記支持板の少なくとも一方の面に配置された前面板と、を備え、
前記前面板は、請求項1~4のいずれか1項に記載の電磁波吸収部材である、エーミング用パーテーション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収部材、およびそれを備えるエーミング用パーテーションに関する。
【背景技術】
【0002】
所定の周波数の電磁波を選択的に吸収するシート状の電磁波吸収部材が知られている。電磁波吸収部材は、例えば、第1の周波数選択遮蔽層と第2の周波数選択遮蔽層とを備えるものである。このような電磁波吸収部材においては、第1の周波数選択遮蔽層および第2の周波数選択遮蔽層に形成されたFSS(Frequency Selective Surface)素子の細線パターンによって、各層が所定の周波数の電磁波を吸収し、全体として2つの異なる周波数の電磁波を選択的に遮蔽する。
【0003】
電磁波吸収部材は、用途によっては大面積なものとなるため、収納時や運搬時には、巻き取って、小型化することが求められている。そのためには、電磁波吸収部材には、曲げることができる構造が求められている。
【0004】
特許文献1では、曲げることを目的として、所定の間隔の隙間を空けて配置され、電磁波を吸収可能な複数の電磁波吸収体を備える電磁波吸収部材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の電磁波吸収部材では、隙間に存在する電磁波反射部材の影響で電磁波を不必要に反射させてしまう。そこで、特許文献1では、隙間に隙間反射部を設けて、電磁波吸収部材側へ電磁波を向けることで反射を抑えている。そのため、電磁波吸収部材の厚みを大きくする必要があり、その厚みが10mm~15mm程度となる。その結果、電磁波吸収部材の重量が大きくなり、また、巻き取りが可能であるものの、小さく巻き取ることが難しくなるという課題があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、より小さく巻き取ることができ、かつ電磁波を不必要に反射させることを抑制できる電磁波吸収部材およびそれを備えるエーミング用パーテーションを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の電磁波吸収部材およびそれを備えるエーミング用パーテーションを提供する。
[1]電磁波吸収層と、スペーサ層と、反射層とを有し、
前記電磁波吸収層と、前記スペーサ層と、前記反射層とがこの順に積層されており、
前記電磁波吸収層の最表面から、前記電磁波吸収層および前記スペーサ層の厚み方向に略平行な複数のスリットが形成され、前記複数のスリットを介して、前記電磁波吸収層と前記スペーサ層とからなる積層体が複数の領域に分割され、
前記複数のスリットの幅が10mm未満である、電磁波吸収部材。
[2]前記電磁波吸収部材の平面視にて、前記複数のスリットの間隔は1cm以上30cm以下である、[1]に記載の電磁波吸収部材。
[3]前記スペーサ層は、発泡体からなる、[1]に記載の電磁波吸収部材。
[4]前記反射層は、導電体からなる、[1]に記載の電磁波吸収部材。
[5]支持部材と、前記支持部材に支持される支持板と、前記支持板の少なくとも一方の面に配置された前面板と、を備え、
前記前面板は、[1]~[4]のいずれかに記載の電磁波吸収部材である、エーミング用パーテーション。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より小さく巻き取ることができ、かつ電磁波を不必要に反射させることを抑制できる電磁波吸収部材およびそれを備えるエーミング用パーテーションを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電磁波吸収部材を模式的に示し、厚みに沿う面の断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る電磁波吸収部材を構成する電磁波吸収層の一例を示す上面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る電磁波吸収部材を構成する電磁波吸収層の第1の電磁波吸収パターンの一例を示す上面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る電磁波吸収部材を構成する電磁波吸収層の第2の電磁波吸収パターンの一例を示す上面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る電磁波吸収部材を構成する電磁波吸収層の第3の電磁波吸収パターンの一例を示す上面図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る電磁波吸収部材を模式的に示し、厚みに沿う面の断面図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係るエーミング用パーテーションを模式的に示す側面図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係るエーミング用パーテーションを模式的に示す側面図である。
【
図10】実施例1、比較例1および比較例2において、エーミング用パーテーションの反射減衰量を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の電磁波吸収部材およびそれを備えるエーミング用パーテーション発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0012】
本明細書において「電磁波吸収パターン」とは、幾何学的な図形である単位の集合体であり、ある周波数の電磁波を選択的に吸収する物体を意味する。「電磁波吸収パターン」はいわゆるアンテナと同様の機能を有するともいえる。
本明細書において「ミリ波領域の電磁波」とは、波長が1mm~10mmの電磁波を意味する。「ミリ波領域の電磁波」とは、周波数が30GHz~300GHzである電磁波ともいえる。
本明細書において数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0013】
[電磁波吸収部材]
図1は、本発明の一実施形態に係る電磁波吸収部材を模式的に示し、厚みに沿う面の断面図である。
図1に示すように、本実施形態の電磁波吸収部材10は、電磁波吸収層20と、スペーサ層30と、反射層40とを有する。また、電磁波吸収層20と、スペーサ層30と、反射層40とがこの順に積層されている。
【0014】
反射層40は、電磁波吸収層20の他方の面(裏面)20b側に配置される。スペーサ層30は、電磁波吸収層20と反射層40の間に配置される。すなわち、電磁波吸収層20と反射層40は、スペーサ層30を介して積層されている。
【0015】
電磁波吸収層20は、単層であってもよく、
図1に示すように基材21と、基材21上に形成された電磁波吸収パターン22とを含んでもよい。
電磁波吸収層20が単層である場合、電磁波吸収層20は後述する電磁波吸収パターン22と同様の材料から構成される。
【0016】
本実施形態の電磁波吸収部材10では、電磁波吸収層20の最表面(
図1では、基材21の一方の面(上面)21a)から、電磁波吸収層20およびスペーサ層30の厚み方向に複数のスリット50が形成されている。また、複数のスリット50を介して、電磁波吸収層20とスペーサ層30とからなる積層体60が複数の領域(
図1では、領域60A、領域60B、領域60C)に分割されている。なお、スリット50は、電磁波吸収層20およびスペーサ層30の厚み方向に平行なものであってもよいし、スペーサ層30における反射層40の側端部に向けてスリット幅を狭めるものであってもよい。
【0017】
本実施形態の電磁波吸収部材10では、複数のスリット50の幅、すなわち、
図1において、電磁波吸収層20の最表面(基材21の一方の面21a)におけるスリット50の幅W0が10mm未満であり、5mm以下が好ましく、2mm以下がより好ましい。前記幅W0が前記上限値を超えると、電磁波吸収層20の吸収特性が低下する。
【0018】
本実施形態の電磁波吸収部材10では、複数のスリット50の反射層40側の端にて、隣接するスペーサ層30同士の少なくとも一部が繋がっていることが好ましい。すなわち、複数のスリット50の反射層40側の端にて、反射層40が露出していないことが好ましい。これにより、得られる電磁波吸収部材10が巻き取りにおける繰り返し耐性により優れたものとできる。
【0019】
本実施形態の電磁波吸収部材10では、電磁波吸収部材10の平面視にて、複数のスリット50の間隔d0は1cm以上30cm以下が好ましく、2cm以上20cm以下がより好ましく、3cm以上10cm以下がさらに好ましい。前記間隔d0が前記下限値未満では、スリット50で上記積層体60を分割する頻度が増えて、電磁波吸収層20の吸収特性が低下する場合がある。前記間隔d0が前記上限値を超えると、電磁波吸収部材10の巻き取り性が低下し、電磁波吸収部材10の収納サイズが大きくなる。なお、前記間隔d0は、スリット50を、電磁波吸収層20およびスペーサ層30の厚み方向に平行に通る中心線cの距離である。
【0020】
スリット50は、カッター等で電磁波吸収層20およびスペーサ層30の厚み方向に切れ込みを入れて形成したものである。電磁波吸収部材10を平面状に展開した状態(巻き取っていない状態)では、電磁波吸収部材10には物理的な隙間(スリット50に起因する隙間)は最小となるため、反射層40から電磁波の反射も最小となる。よって、本実施形態の電磁波吸収部材10は、巻き取られたものを繰り広げて平面状で使用する場合に最も電磁波吸収性に優れる。そのため、上記特許文献1のように、隙間に隙間反射部を設ける必要がなく、また、これの斜め反射を考慮する必要もないため、厚みを薄くできる。従って、電磁波吸収部材10の巻き取り性を向上することができる。
【0021】
本実施形態の電磁波吸収部材10は、曲げ剛性が、1.0×10-4Pa・mm4以上2250Pa・mm4以下が好ましく、1.7×10-3Pa・mm4以上1040Pa・mm4以下がより好ましく、6.7×10-3Pa・mm4以上390Pa・mm4以下がさらに好ましい。
【0022】
電磁波吸収部材10の曲げ剛性は、反射層40のヤング率と断面2次モーメントの積によって求められる。本明細書では、断面2次モーメントは、単位幅を20cmとした長方形モデルとして算出している。
【0023】
「電磁波吸収層」
電磁波吸収層20は周波数選択表面(FSS:Frequency Selective Surface)からなる。周波数選択表面とは、導電性部材などで波長以下の形状の連続構造を形成することにより、特定の周波数の電磁波のみを遮断することができる面のことである。
【0024】
図2は、本実施形態における電磁波吸収層の一例を示す上面図である。
図2に示すように、電磁波吸収層20は、平板状である基材21と、基材21の一方の面21aに形成された電磁波吸収パターン22とを有する電磁波吸収フィルムである。電磁波吸収パターン22は、第1の電磁波吸収パターン71、第2の電磁波吸収パターン72および第3の電磁波吸収パターン73からなる。
【0025】
(第1の電磁波吸収パターン)
図3(a)は、第1の電磁波吸収パターン71を示す上面図である。
図3(a)に示すように第1の電磁波吸収パターン71は、複数の第1の単位u1で構成されている。第1の単位u1のそれぞれは、幾何学的な図形である。
すなわち、第1の電磁波吸収パターン71は、幾何学的な図形である第1の単位u1の集合体であるともいえる。
第1の単位u1は、それぞれが一つのアンテナとして機能する。第1の電磁波吸収パターン71は、例えば、FSS素子の細線パターンでもよい。
【0026】
第1の電磁波吸収パターン71においては、複数の第1の単位u1が
図3(a)中の両矢印Pで示す方向に沿って配列された第1の配列R1が複数形成されている。第1の電磁波吸収パターン71は複数の第1の配列R1を有するともいえる。第1の電磁波吸収パターン71は、複数の第1の配列R1を両矢印Pで示す方向に沿って、所定の間隔で基材21上に形成することで構成できる。
複数の第1の配列R1同士の間隔は特に制限されない。第1の配列R1同士の間隔は、規則的でも不規則的でもよい。
【0027】
図3(b)は、第1の単位u1を示す上面図である。
図3(b)は第1の電磁波吸収パターン71を構成する第1の単位u1を示す上面図である。
図3(b)に示すように、第1の単位u1の形状は上下左右対称の十字状である。具体的に第1の単位u1は、1つの十字部分S1と、4つの端部T1とを有する。十字部分S1は、
図3(b)中のx軸方向に平行な直線部分とy軸方向に平行な直線部分とで構成される。x軸方向に平行な直線部分の両端とy軸方向に平行な直線部分の両端のそれぞれに、各直線部分と直交するように直線状の各端部T1が接している。
【0028】
第1の単位u1のx軸方向の長さL1、4つの端部T1のそれぞれのx軸方向の長さW1をそれぞれ調整することで、1つのアンテナとして機能する第1の単位u1による電磁波の吸収特性を調節できる。y軸方向も同様にして、電磁波の吸収特性を調節できる。
【0029】
ただし、第1の単位の形状は十字状に限定されない。第1の単位の形状は、第1の電磁波吸収パターン71によって吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値が、A[GHz]となる態様であれば、特に限定されない。
例えば、第1の単位である図形の形状としては、円形状、環状、直線状、方形状、多角形状、H字状、Y字状、V字状等が挙げられる。
【0030】
電磁波吸収層20においては、複数の第1の単位u1の形状は互いに同一である。ただし、複数の第1の単位u1の形状は互いに同一の図形でなくてもよい。本発明の他の例においては、複数の第1の単位の形状は、目的とする周波数に吸収特性を調整できれば、互いに同一でもよく、異なってもよい。
【0031】
第1の電磁波吸収パターン71は、周波数がA[GHz]である電磁波を選択的に吸収する。周波数の値A[GHz]は、第1の電磁波吸収パターン71によって吸収される電磁波の吸収量が20GHz~110GHzの範囲で極大値を示すときの周波数の値である。
第1の電磁波吸収パターン71によって吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値A[GHz]は、例えば、下記の方法X、方法Yによって特定できる。
【0032】
方法X:周波数を20GHz~110GHzの範囲内で変化させながら電磁波を後述の標準フィルムに照射し、標準フィルムによって吸収される電磁波の吸収量が最大値をとるときの電磁波の周波数をA[GHz]とする。
方法Y:基材と前記基材上に形成された複数の電磁波吸収パターンを有する電磁波吸収フィルムから、単一の電磁波吸収パターンのみが残るように、基材から電磁波吸収パターンを除去する。次いで、単一の電磁波吸収パターンのみを有するフィルムに、周波数を20GHz~110GHzの範囲内で変化させながら電磁波を照射し、当該フィルムの電磁波の吸収量が最大値をとるときの電磁波の周波数をA[GHz]とする。
【0033】
標準フィルムは、平板状である標準基材と標準基材に形成された標準パターンとを有する。
標準基材の詳細は、基材21と同内容とすることができる。そのため、標準基材の詳細は、後述の基材21の説明において詳細に説明する。
【0034】
標準パターンは、形状が互いに同一の図形である複数の標準単位のみからなる。標準フィルムにおいては、形状が同一である1種類の図形のみからなる標準パターンが標準基材に形成されているともいえる。標準パターンは通常のFSS素子の細線パターンによって形成できる。通常、標準パターンは、第1の電磁波吸収パターン71と同一の電磁波吸収パターンである。
標準パターンにおいては、複数の標準単位の形状は、互いに同一の図形であれば特に限定されない。標準単位である図形の形状としては、円形状、環状、直線状、方形状、多角形状、十字状、H字状、Y字状、V字状等が挙げられる。通常、標準単位の形状は第1の単位u1と同一である。
【0035】
標準フィルムにおいて複数の標準単位は、図形の端部同士の間隔が1mmとなるように標準基材上に配置されている。例えば、標準単位の図形が十字形状である場合、十字の交差部分が図形の中心であり、図形の端部は十字を構成する2つの直線部分の方向のそれぞれに沿って中心から最も距離が離れている部分である。
【0036】
標準パターンを構成する標準単位の材質は、20GHz~110GHzの範囲内で変化させながら電磁波を標準フィルムに照射したときに、標準フィルムによって吸収される電磁波の吸収量が最大値をとり得る態様であれば、特に限定されない。
標準単位の材質の詳細は、第1の単位と同内容とすることができる。
【0037】
標準フィルムによって吸収される電磁波の吸収量は、下記式(1)で算出できる。
吸収量=入力信号-反射特性(S11)-透過特性(S21)・・・(1)
入力信号は、標準フィルムに電磁波を照射した際の照射源における電磁波の強度の指標である。
反射特性(S11)は、照射源から標準フィルムに電磁波を照射した際に標準フィルムによって反射される電磁波の強度の指標である。反射特性(S11)は、例えば、ベクトルネットワークアナライザを用いてフリースペース法によって測定できる。
透過特性(S21)は、照射源から標準フィルムに電磁波を照射した際に標準フィルムを透過する電磁波の強度の指標である。透過特性(S21)は、例えば、ベクトルネットワークアナライザを用いてフリースペース法によって測定できる。
【0038】
周波数A[GHz]は例えば、下記の方法で特定できる。
まず、周波数を20GHz~110GHzの範囲内で変化させながら電磁波を標準フィルムに照射し、標準フィルムによって吸収される電磁波の吸収量を上記式(1)で算出する。
次いで、横軸に変化させた周波数をプロットし、縦軸に上記式(1)で算出される吸収量をプロットした吸収スペクトル図を作成する。通常、この吸収スペクトル図において、吸収量が最大値となる周波数の値が横軸に1つ存在する。そのためプロット図には、電磁波の吸収量が極大値となる単一のピークが形成される。このように、電磁波の吸収量が最大値をとるときの電磁波の周波数をA[GHz]とすることができる。
【0039】
方法Xにおいて、あらかじめ周波数Aの数値を予測できる場合には、標準フィルムに照射する電磁波の周波数を、20GHz~110GHzよりも狭い範囲内で変化させてもよい。例えば、標準フィルムに照射する電磁波の周波数を、50GHz~110GHzの範囲内で変化させてもよい。
【0040】
第1の電磁波吸収パターン71は、上述の方法Xによって特定される周波数がA[GHz]である電磁波を吸収する。
本実施形態における電磁波吸収層20においては、周波数の値Aは、20GHz~110GHzが好ましく、60GHz~100GHzがより好ましく、65GHz~95GHzがさらに好ましく、70GHz~90GHzが特に好ましい。周波数の値Aが前記数値範囲内であると、電磁波吸収層20がミリ波領域の電磁波を吸収でき、自動車用部品、道路周辺部材、建築外壁関連材、窓、通信機器、電波望遠鏡等に適用しやすく易くなる。
【0041】
方法Yにおいては、方法Xと同様に、フィルムの電磁波の吸収量を測定できる。すなわち、周波数を20~110[GHz]の範囲内で変化させながら電磁波をフィルムに照射し、フィルムによって吸収される電磁波の吸収量を上記式(1)で算出する。
次いで、横軸に周波数をプロットし、縦軸に上記式(1)で算出される吸収量をプロットした吸収スペクトル図を作成する。通常、この吸収スペクトル図において、吸収量が最大値となる周波数の値が横軸に1つ存在する。そのためプロット図には、電磁波の吸収量が極大値となる単一のピークが形成される。このように、電磁波の吸収量が最大値をとるときの電磁波の周波数をA[GHz]とすることができる。
【0042】
第1の単位u1の材質は、目的とする周波数に吸収特性を調整できれば、特に限定されない。
第1の単位の材質としては、例えば、金属の細線、導電性薄膜、導電性ペーストの定着物等が挙げられる。
金属の材質としては、銅、アルミニウム、タングステン、鉄、モリブデン、ニッケル、チタン、銀、金またはこれらの金属を2種以上含む合金(例えば、ステンレス鋼、炭素鋼等の鋼鉄、真鍮、りん青銅、ジルコニウム銅合金、ベリリウム銅、鉄ニッケル、ニクロム、ニッケルチタン、カンタル、ハステロイ、レニウムタングステン等)が挙げられる。
導電性薄膜の材質としては、金属粒子、カーボンナノ粒子、カーボンファイバー等が挙げられる。
【0043】
第1の単位u1である図形の端部同士の間隔は、目的とする周波数に吸収特性を調整できれば、特に限定されない。
例えば、第1の単位u1である図形の端部同士の間隔は、全て同一でもよく、互いに異なっていてもよい。ただし、周囲環境の影響を受けにくい電磁波吸収フィルムを設計しやすくなり、吸収される電磁波の周波数帯の精度が製造時に向上することから、第1の単位u1である図形の端部同士の間隔は、互いに同一であることが好ましい。
【0044】
(第2の電磁波吸収パターン)
図4(a)は、第2の電磁波吸収パターン72を示す上面図である。
図4(a)に示すように、第2の電磁波吸収パターン72は、複数の第2の単位u2で構成される。第2の単位u2のそれぞれは、幾何学的な図形である。すなわち、第2の電磁波吸収パターン72は、幾何学的な図形である第2の単位u2の集合体であるともいえる。
第2の単位u2は、それぞれが1つのアンテナとして機能する。第2の電磁波吸収パターン72は、例えば、FSS素子の細線パターンでもよい。
【0045】
第2の電磁波吸収パターン72においては、複数の第2の単位u2が
図4(a)中の両矢印Pで示す方向に沿って配列された第2の配列R2が形成されている。第2の電磁波吸収パターン72は複数の第2の配列R2を有するともいえる。第2の電磁波吸収パターン72は、第2の配列R2を両矢印Pで示す方向に沿って、所定の間隔で基材21上に形成することで構成できる。
複数の第2の配列R2同士の間隔は特に制限されない。第2の配列R2同士の間隔は、規則的でも不規則的でもよい。
【0046】
図4(b)は、第2の単位u2を示す上面図である。
図4(b)に示すように、第2の単位u2の形状は上下左右対称の十字状である。具体的に第2の単位u2は、1つの十字部分S2と、4つの端部T2とを有する。十字部分S2は、
図4(b)中のx軸方向に平行な直線部分とy軸方向に平行な直線部分とで構成される。x軸方向に平行な直線部分の両端とy軸方向に平行な直線部分の両端のそれぞれに、各直線部分と直交するように直線状の各端部T2が接している。
【0047】
電磁波吸収層20においては、第2の単位u2のx軸方向の長さL2は、第1の単位u1のx軸方向の長さL1より短い。加えて、4つの端部T2のそれぞれのx軸方向またはy軸方向の長さW2は、第1の単位u1の4つの端部T1のそれぞれの長さW1より短い。
第2の単位u2のx軸方向の長さL2、4つの端部T2のそれぞれのx軸方向の長さW2をそれぞれ調整することで、1つのアンテナとして機能する第2の単位u2による電磁波の吸収特性を調節できる。y軸方向も同様にして、電磁波の吸収特性を調節できる。
【0048】
電磁波吸収層20においては、複数の第2の単位u2の形状は互いに同一である。ただし、複数の第2の単位u2の形状は互いに同一の図形でなくてもよい。本発明の他の例においては、複数の第2の単位の形状は、目的とする周波数に吸収特性を調整できれば、互いに同一でもよく、異なってもよい。
【0049】
第2の電磁波吸収パターン72は、周波数が下記式(2)を満たすB[GHz]である電磁波を選択的に吸収する。周波数の値B[GHz]は、第2の電磁波吸収パターン72によって吸収される電磁波の吸収量が極大値を示すときの周波数の値である。周波数の値B[GHz]は、下記式(2)を満たす。
1.037×A≦B≦1.30×A・・・式(2)
【0050】
上記式(2)に示すように、第2の電磁波吸収パターン72は、周波数が1.037×A[GHz]~1.30×A[GHz]である電磁波を吸収する。第2の電磁波吸収パターン72は、周波数が1.17×A[GHz]~1.30×A[GHz]である電磁波を吸収することが好ましい。
第2の電磁波吸収パターン72が1.037×A[GHz]以上の周波数の電磁波を吸収するため、A[GHz]より高周波数の周波数帯で第2の電磁波吸収パターン72による電磁波の吸収量のピークと第1の電磁波吸収パターン71による電磁波の吸収量のピークとが充分に重なりあう。その結果、第1の電磁波吸収パターン71を単独で有するフィルムと比較して、電磁波吸収フィルム全体で吸収可能な電磁波の周波数帯がA[GHz]より高周波数側の周波数帯に拡張される。
第2の電磁波吸収パターン72が1.30×A[GHz]以下の周波数の電磁波を吸収するため、A[GHz]より高周波数の周波数帯で第2の電磁波吸収パターン72による電磁波の吸収量のピークと第1の電磁波吸収パターン71による電磁波の吸収量のピークとの周波数の差が少なくなる。その結果、電磁波吸収フィルム全体で吸収される電磁波の吸収量が極大値となる単一のピークが形成される。
以上より、第2の電磁波吸収パターン72は周波数が1.037×A[GHz]~1.30×A[GHz]である電磁波を吸収するため、電磁波吸収フィルム全体で吸収される電磁波の吸収量が高周波数側の周波数帯に拡張される。
【0051】
ただし、第2の単位の形状は十字状に限定されない。第2の単位の形状は、目的とする周波数に吸収特性を調整できれば、特に限定されない。例えば、第2の単位である図形の形状としては、円形状、環状、直線状、方形状、多角形状、H字状、Y字状、V字状等が挙げられる。
【0052】
第2の電磁波吸収パターン72を構成する第2の単位の材質は、B[GHz]の電磁波を吸収できる態様であれば、特に限定されず、目的とする周波数に吸収特性を調整できれば、特に限定されない。
第2の単位の材質としては、第1の単位u1の材質について説明した内容と同内容である。
【0053】
第2の単位u2である図形の端部同士の間隔は、目的とする周波数に吸収特性を調整できれば、特に限定されない。
例えば、第2の単位u2である図形の端部同士の間隔は、全て同一でもよく、互いに異なっていてもよい。ただし、周囲環境の影響を受け難い電磁波吸収フィルムを設計し易くなり、吸収される電磁波の周波数帯の精度が製造時に向上することから、第2の単位u2である図形の端部同士の間隔は、互いに同一であることが好ましい。
【0054】
(第3の電磁波吸収パターン)
図5(a)は、第3の電磁波吸収パターン73を示す上面図である。
図5(a)に示すように第3の電磁波吸収パターン73は、複数の第3の単位u3で構成される。第3の単位u3のそれぞれは、幾何学的な図形である。すなわち、第3の電磁波吸収パターン73は、幾何学的な図形である第3の単位u3の集合体であるともいえる。
第3の単位u3は、それぞれが1つのアンテナとして機能する。第3の電磁波吸収パターン73は、例えば、FSS素子の細線パターンでもよい。
【0055】
第3の電磁波吸収パターン73においては、複数の第3の単位u3が
図5(a)中の両矢印Pで示す方向に沿って配列された第3の配列R3が形成されている。第3の電磁波吸収パターン73は複数の第3の配列R3を有するともいえる。第3の電磁波吸収パターン73は、第3の配列R3を両矢印Pで示す方向に沿って、所定の間隔で基材21上に形成することで構成できる。
複数の第3の配列R3同士の間隔は特に制限されない。第3の配列R3同士の間隔は、規則的でも不規則的でもよい。
【0056】
図5(b)は、第3の単位u3を示す上面図である。
図5(b)に示すように、第3の単位u3の形状は上下左右対称の十字状である。具体的に第3の単位u3は、1つの十字部分S3と、4つの端部T3とを有する。十字部分S3は、
図5(b)中のx軸方向に平行な直線部分とy軸方向に平行な直線部分とで構成される。x軸方向に平行な直線部分の両端とy軸方向に平行な直線部分の両端のそれぞれに、各直線部分と直交するように直線状の各端部T3が接している。
【0057】
電磁波吸収層20においては、第3の単位u3のx軸方向の長さL3は、第1の単位u1のx軸方向の長さL1より長い。加えて、4つの端部T3のそれぞれのx軸方向またはy軸方向の長さW3は、第1の単位u1の4つの端部T1のそれぞれの長さW1より長い。
第3の単位u3のx軸方向の長さL3、4つの端部T3のそれぞれのx軸方向の長さW3をそれぞれ調整することで、1つのアンテナとして機能する第3の単位u3による電磁波の吸収特性を調節できる。y軸方向も同様にして、電磁波の吸収特性を調節できる。
【0058】
電磁波吸収層20においては、複数の第3の単位u3の形状は互いに同一である。ただし、複数の第3の単位u3の形状は互いに同一の図形でなくてもよい。本発明の他の例においては、複数の第3の単位の形状は、目的とする周波数に吸収特性を調整できれば、互いに同一でもよく、異なってもよい。
【0059】
第3の電磁波吸収パターン73は、周波数が下記式(3)を満たすC[GHz]である電磁波を選択的に吸収する。周波数の値C[GHz]は、第3の電磁波吸収パターン73によって吸収される電磁波の吸収量が極大値を示すときの周波数の値である。周波数の値C[GHz]は、下記式(3)を満たす。
0.60×A≦C≦0.963×A・・・式(3)
【0060】
上記式(3)に示すように、第3の電磁波吸収パターン73は、周波数が0.60×A[GHz]~0.963×A[GHz]である電磁波を吸収する。第3の電磁波吸収パターン73は、周波数が0.60×A[GHz]~0.83×A[GHz]である電磁波を吸収することが好ましい。
第3の電磁波吸収パターン73が0.60×A[GHz]以上の周波数の電磁波を吸収するため、A[GHz]より低周波数の周波数帯で第3の電磁波吸収パターン73による電磁波の吸収量のピークと第1の電磁波吸収パターン71による電磁波の吸収量のピークとの周波数の差が少なくなる。その結果、電磁波吸収層20全体で吸収される電磁波の吸収量が極大値となる単一のピークが形成される。
第3の電磁波吸収パターン73が0.963×A[GHz]以下の周波数の電磁波を吸収するため、A[GHz]より低周波数の周波数帯で第3の電磁波吸収パターン73による電磁波の吸収量のピークと第1の電磁波吸収パターン71による電磁波の吸収量のピークとが充分に重なりあう。その結果、電磁波吸収フィルム全体で吸収可能な電磁波の周波数帯が第1の電磁波吸収パターン71を単独で有するフィルムと比較して、A[GHz]より低周波数側の周波数帯に拡張される。
以上より、第3の電磁波吸収パターン73は周波数が0.60×A[GHz]~0.963×A[GHz]である電磁波を吸収するため、電磁波吸収層20全体で吸収される電磁波の吸収量が低周波数側の周波数帯に拡張される。
【0061】
ただし、第3の単位u3の形状は十字状に限定されない。第3の単位u3の形状は、目的とする周波数に吸収特性を調整できれば、特に限定されない。例えば、第3の単位である図形の形状としては、円形状、環状、直線状、方形状、多角形状、H字状、Y字状、V字状等が挙げられる。
【0062】
第3の電磁波吸収パターン73を構成する第3の単位u3の材質は、C[GHz]の電磁波を吸収できる態様であれば、特に限定されず、目的とする周波数に吸収特性を調整できれば、特に限定されない。
第3の単位u3の材質としては、第1の単位u1の材質について説明した内容と同内容である。
【0063】
第3の単位u3である図形の端部同士の間隔は、目的とする周波数に吸収特性を調整できれば、特に限定されない。
例えば、第3の単位u3である図形の端部同士の間隔は、全て同一でもよく、互いに異なっていてもよい。ただし、周囲環境の影響を受け難い電磁波吸収フィルムを設計し易くなり、吸収される電磁波の周波数帯の精度が製造時に向上することから、第3の単位u3である図形の端部同士の間隔は、互いに同一であることが好ましい。
【0064】
図2に示す電磁波吸収層20においては、第1の配列R1と第2の配列R2と第3の配列R3とが互いに隣り合うように両矢印Pで示す方向に沿って配列されている。このように、第1の配列R1と第2の配列R2と第3の配列R3とが互いに隣り合うように基材21に配置されているため、第1の電磁波吸収パターン71が選択的に吸収する電磁波のピーク位置の周波数の値A[GHz]を基準として、第2の電磁波吸収パターン72が選択的に吸収する電磁波の周波数帯と、第3の電磁波吸収パターン73が選択的に吸収する電磁波の周波数帯の両方が重なりあう。その結果、電磁波吸収層20全体で吸収される電磁波の吸収域が、ピーク位置の周波数の値A[GHz]を基準として、高周波数側と低周波数側との両方に拡張され易くなる。
【0065】
図2にそれぞれ示す、第1の単位u1と第2の単位u2との間隔d1、第2の単位u2と第3の単位u3との間隔d2、第3の単位u3と第1の単位u1との間隔d3は、互いに同一でもよく、異なってもよい。
間隔d1は、例えば、0.2mm~4mmでもよく、0.3mm~2mmでもよく、0.5mm~1mmでもよい。
間隔d2は、例えば、0.2mm~4mmでもよく、0.3mm~2mmでもよく、0.5mm~1mmでもよい。
間隔d3は、例えば、0.2mm~4mmでもよく、0.3mm~2mmでもよく、0.5mm~1mmでもよい。
間隔d1、間隔d2、間隔d3がそれぞれ前記数値範囲内であると、電磁波吸収層20全体で吸収される電磁波の吸収域が、ピーク位置の周波数の値A[GHz]を基準としてさらに拡張されやすくなる。
【0066】
電磁波吸収層20においては、第1の単位u1、第2の単位u2、第3の単位u3の形状は互いに同一である。ただし、第1の単位u1、第2の単位u2、第3の単位u3の形状は互いに同一の図形でなくてもよい。すなわち、本発明の他の例においては、第1の単位u1、第2の単位u2、第3の単位u3の形状は、互いに同一でもよく、異なってもよい。
【0067】
電磁波吸収層20は、複数の第2の電磁波吸収パターン72を有してもよい。例えば、電磁波吸収層20は、第2の電磁波吸収パターン72に加えて、下記の電磁波吸収パターン72a、電磁波吸収パターン72bをさらに有してもよい。
電磁波吸収パターン72a:吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値が下記式(4)を満たすD[GHz]である電磁波吸収パターン。
電磁波吸収パターン72b:吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値が下記式(5)を満たすE[GHz]である電磁波吸収パターン。
1.037×A≦D<1.09×A・・・式(4)
1.09×A≦E<1.17×A・・・式(5)
上記式(4)、上記式(5)中、Aは上述の方法Xまたは方法Yで特定される周波数[GHz]である。
【0068】
電磁波吸収層20が、第2の電磁波吸収パターン72に加えて、電磁波吸収パターン72aと電磁波吸収パターン72bとをさらに有する場合、第2の電磁波吸収パターン72によって吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値は、1.17×A[GHz]~1.30×A[GHz]が好ましい。この場合、電磁波吸収層20全体で吸収可能な電磁波の周波数帯の高周波数側への拡張効果がさらに顕著であり、本発明の効果がさらに顕著に得られる。
【0069】
電磁波吸収層20は、複数の第3の電磁波吸収パターンを有してもよい。例えば、電磁波吸収層20は、第3の電磁波吸収パターン73に加えて、下記の電磁波吸収パターン73aと電磁波吸収パターン73bとをさらに有してもよい。
電磁波吸収パターン73a:吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値が下記式(6)を満たすF[GHz]である電磁波吸収パターン。
電磁波吸収パターン73b:吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値が下記式(7)を満たすG[GHz]である電磁波吸収パターン。
0.91×A<F≦0.963×A・・・式(6)
0.83×A<G≦0.91×A・・・式(7)
下記式(6)、下記式(7)中、Aは上述の方法Xまたは方法Yで特定される周波数[GHz]である。
【0070】
電磁波吸収層20が、第3の電磁波吸収パターン73に加えて、電磁波吸収パターン73a、電磁波吸収パターン73bをさらに有する場合、第3の電磁波吸収パターン73によって吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値は、0.60×A[GHz]~0.83×A[GHz]が好ましい。この場合、電磁波吸収層20全体で吸収可能な電磁波の周波数帯の低周波数側への拡張効果がさらに顕著であり、本発明の効果がさらに顕著に得られる。
【0071】
図6は、
図2の電磁波吸収層20のVIII-VIII断面図である。
基材21は、互いに対向する2つの面21a,21bを有する。そして、基材21の一方の面21aに、第1の電磁波吸収パターン71、第2の電磁波吸収パターン72、第3の電磁波吸収パターン73が形成されている。
図6に示すように、基材21の一方の面21aに、複数の第1の単位u1、複数の第2の単位u2、複数の第3の単位u3がそれぞれ設けられている。
【0072】
基材21は、平板状であり、かつ、一方の面21aに第1の電磁波吸収パターン71、第2の電磁波吸収パターン72および第3の電磁波吸収パターン73を形成できる形態であれば、特に限定されない。基材21は単層構造でも多層構造でもよい。
【0073】
基材21の厚みKは、例えば、5μm~500μmでもよく、15μm~200μmでもよく、25μm~100μmでもよい。
第1の電磁波吸収パターン71の厚みH1、第2の電磁波吸収パターン72の厚みH2、第3の電磁波吸収パターン73の厚みH3は特に限定されない。厚みH1、厚みH2、厚みH3は所望する特性に応じて任意に変更可能である。また、厚みH1、厚みH2、厚みH3は互いに同一でもよく、異なっていてもよい。
厚みH1、厚みH2、厚みH3は、例えば、1μm~100μmでもよく、5μm~50μmでもよく、10μm~30μmでもよい。厚みH1、厚みH2、厚みH3のそれぞれが厚いほど、電磁波吸収性がよくなる一方、製造コストが高くなる。この点を考慮して、厚みH1、厚みH2、厚みH3のそれぞれを設定してもよい。
【0074】
基材21の材料は、電磁波吸収部材10の用途に応じて適宜選択できる。
例えば、電磁波吸収部材10の透明性の具備を目的として、基材21を透明な材料で構成してもよい。他にも、電磁波吸収部材10の曲面に対する追従性の具備を目的として、基材21を柔軟性のある材料で構成してもよい。電磁波吸収部材10の透明性、三次元成形性の向上を目的として、基材21の表面を平滑にしてもよい。
【0075】
例えば、基材21は樹脂で構成できる。樹脂は、熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂でもよい。ただし、電磁波吸収部材10の三次元成形性を考慮する場合、基材21は熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリイミドアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂が挙げられる。
ポリオレフィン樹脂の具体例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等が挙げられる。ポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
【0076】
基材21は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意成分を含んでもよい。任意成分の例としては、例えば、無機充填材、着色剤、硬化剤、老化防止剤、光安定剤、難燃剤、導電剤、帯電防止剤、可塑剤等が挙げられる。
【0077】
電磁波吸収部材10の電磁波の吸収性能のさらなる改良を考慮して、基材21の厚み、誘電率、電気伝導率、透磁率は適宜設定可能である。
吸収対象となる電磁波の電気的特性を考慮する場合、基材21は高誘電率の層であってもよい。基材21が高誘電率の層であると、電磁波吸収部材10の厚みを相対的に薄くできる。
【0078】
電磁波吸収層20は、例えば、下記の方法によって作製できる。
まず、基材21を準備する。次いで、基材21の一方の面21aに第1の電磁波吸収パターン71、第2の電磁波吸収パターン72および第3の電磁波吸収パターン73を形成する。
ここで、第1の電磁波吸収パターン71を形成する際には、第1の電磁波吸収パターン71によって吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値がA[GHz]となるように形成する。
第2の電磁波吸収パターン72を形成する際には、第2の電磁波吸収パターン72によって吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値がB[GHz]となるように形成する。
第3の電磁波吸収パターン73を形成する際には、第3の電磁波吸収パターン73によって吸収される電磁波の吸収量が極大値を示す周波数の値がC[GHz]となるように形成する。
第1の電磁波吸収パターン71、第2の電磁波吸収パターン72および第3の電磁波吸収パターン73を形成する順序は特に限定されない。第1の電磁波吸収パターン71、第2の電磁波吸収パターン72および第3の電磁波吸収パターン73は、同一の工程内で形成してもよく、それぞれ別々の工程で形成してもよい。
【0079】
各電磁波吸収パターンの形成方法は、所定の周波数を形成できる態様であれば特に限定されない。各電磁波吸収パターンの形成方法の例としては、例えば、下記の方法がある。
導電性ペーストを用いて基材21の一方の面21aに各電磁波吸収パターンを印刷する印刷方法。
基材21の一方の面21aに各電磁波吸収パターンを現像する現像方法。
スパッタ法、真空蒸着または金属箔の積層によって基材21の一方の面21aに金属薄膜を設け、フォトリソグラフィによって金属薄膜のパターンを基材21の一方の面21aに形成する方法。
金属ワイヤーを基材21の一方の面21aに配置する方法。
【0080】
印刷方法では、基材21の一方の面21aに各電磁波吸収パターンを印刷して図形である各単位u1,u2,u3を形成する。印刷方法は特に限定されない。例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェット方式等の方法が挙げられる。
印刷に使用する導電性ペーストとしては、例えば、金属粒子、カーボンナノ粒子およびカーボンファイバーからなる群より選ばれる少なくとも1種以上とバインダー樹脂成分とを含むペースト状の組成物が挙げられる。金属粒子としては、銅、銀、ニッケル、アルミニウム等の金属の粒子が挙げられる。
バインダー樹脂成分としては、例えば、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂;エポキシ樹脂、アミノ樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。ただし、金属粒子およびバインダー樹脂成分はこれらの例示に限定されない。
導電性ペーストは、さらにカーボンブラック等の黒色顔料を含んでもよい。導電性ペーストが黒色顔料をさらに含むと、印刷された電磁波吸収パターンを構成する金属粉末の金属光沢を抑え、外光の反射を抑制できる。
【0081】
現像方法では、基材21の一方の面21aに電磁波吸収パターンを現像して図形である各単位u1,u2,u3を形成する。
現像方法としては、露光マスクに覆われず、露光された部分に現像物が発現するネガ型の現像方法と露光マスクに覆われ、未露光の部分には現像物が発現するポジ型の現像方法がある。すなわち、ネガ型の現像方法では、露光マスクと反対の形に現像物として各単位u1,u2,u3が形成される。一方、ポジ型の現像方法では、露光マスクと同じ形に現像物として各単位u1,u2,u3が形成される。現像物に用いる金属としては通常、銀が使用される。
【0082】
フォトリソグラフィによる電磁波吸収パターンの形成方法の一例としては、例えば、下記の方法がある。
まず、基材21の一方の面21aにレジストを塗布し、熱処理した後、レジストから溶媒を除去する。次に、レジストに所望のパターンを露光し、レジストパターンを現像してレジストパターンからなる層を形成する。次に、基材とレジストパターンからなる層の上に、全面にわたって蒸着膜を形成し、レジスト剥離剤を用いてレジストパターンからなる層とその上に乗っている蒸着膜とを同時に除去する。これにより、基材の表面に電磁波吸収パターンを形成できる。
その他の一例として、基材21の一方の面21aに金属薄膜を設け、金属薄膜の表面の一部にレジストを塗布し、熱処理する。次に、エッチング処理によりレジストが塗布されていない部分の金属薄膜を除去する。その後、必要に応じレジストを除去し、電磁波吸収パターンを形成する。各電磁波吸収パターンを構成する各単位u1,u2,u3の表面には、図示略の金属メッキ層をさらに設けてもよい。
【0083】
金属ワイヤーを構成する金属の具体例としては、各単位u1,u2,u3の材質として上述した金属と同様の金属が挙げられる。加えて、金属ワイヤーは錫、亜鉛、銀、ニッケル、クロム、ニッケルクロム合金、はんだ等でめっきされてもよく、炭素材料、ポリマー等により表面が被覆されていてもよい。金属ワイヤーの表面を被覆する炭素材料としては、カーボンブラック、活性炭、ハードカーボン、ソフトカーボン、メソポーラスカーボン、カーボンファイバー等の非晶質炭素;グラファイト;フラーレン;グラフェン;カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0084】
「スペーサ層」
スペーサ層30は、電磁波吸収層20が有する基材21の他方の面21bに設けられている。
スペーサ層30は2つの面30a,30bを有する。スペーサ層30の一方の面30aは、基材21の他方の面21bと接している。スペーサ層30の他方の面30bには、反射層40が設けられている。
スペーサ層30は、単層構造でも多層構造でもよい。
【0085】
スペーサ層30の材料は、パーテーションの用途に応じて適宜選択できる。例えば、パーテーションの透明性の具備を目的として、スペーサ層30を透明な材料で構成してもよい。他にも、パーテーションの曲面に対する追従性の具備を目的として、スペーサ層30を柔軟性のある材料で構成してもよい。
柔軟性のある材料としては、プラスチックフィルム、ゴム、紙、布、不織布、発泡体、ゴムシート等が挙げられる。これらの中でも、電磁波吸収部材10を軽量にする点から、発泡体が好ましい。
プラスチックフィルムを構成する樹脂の具体例としては、例えば、上述の基材21について説明した熱可塑性樹脂と同様のものを用いることができる。
発泡体としては、例えば、前記プラスチックフィルムを構成する樹脂を発泡させ、シート状に形成した発泡シートを用いることができる。発泡シートの具体例としては、ポリエチレンフォーム、ポリプロピレンフォーム、ポリウレタンフォーム等が挙げられる。
【0086】
スペーサ層30による波長短縮効果を考慮する場合、スペーサ層30の厚みは、吸収対象となる電磁波の波長およびスペーサ層30の比誘電率に合わせて適宜変更される。
スペーサ層30による波長短縮効果を考慮する場合、スペーサ層30のz軸方向の厚みは、下記式(8)を満たすことが好ましい。
(スペーサ層30のz軸方向の厚み)=(λ)×(1/4)/(ε)1/2・・・式(8)
上記式(8)中、λは飛来する電磁波の波長であり、εはスペーサ層30の比誘電率である。スペーサ層30のz軸方向の厚みは、吸収特性のために適宜調整してもよい。例えば、式(8)で得られるスペーサ層30のz軸方向の厚みの、0.1倍から3.0倍の範囲で変更することができる。
【0087】
スペーサ層30のz軸方向の厚みと波長λとの関係が上記式(8)を満たす場合、電磁波吸収部材10はいわゆるλ/4構造となる。これにより、電磁波吸収部材10による電磁波の吸収量の極大値がさらに高くなる。
スペーサ層30の厚みは、吸収対象となる電磁波の波長λに応じて適宜設定できる。スペーサ層30の厚みは、例えば、25μm~5000μmでもよく、50μm~4500μmでもよく、100μm~4000μmでもよい。
スペーサ層30は高誘電率の材質で構成してもよい。スペーサ層30が高誘電率の層であると、スペーサ層30の厚みを相対的に薄くできる。
スペーサ層30の誘電率を考慮する場合、スペーサ層30はチタン酸バリウム、酸化チタン、チタン酸ストロンチウムからなる1群から選ばれる少なくとも1種以上を含むことが好ましい。
【0088】
スペーサ層30の誘電率を上げることにより、スペーサ層30の厚みを薄くすることができる。これにより、電磁波吸収部材10を軽量にすることができる。
【0089】
スペーサ層30の2つの面30a、30bは、接着性であることが好ましい。これにより、2つの面30a、30bのそれぞれに、電磁波吸収層20と反射層40を貼り合わせることができる。例えば、2つの面30a、30bが接着剤を含む接着層である多層構造を採用することで、2つの面30a、30bを接着性とすることができる。
接着層の詳細および好ましい態様については、基材21における接着層について説明した内容と同内容とすることができる。
【0090】
「反射層」
反射層40は2つの面40a,40bを有する。反射層40の一方の面40aは、スペーサ層30の他方の面30bと接している。
反射層40は、電磁波吸収部材10の表面に飛来し、電磁波吸収部材10を透過した電磁波を反射できる形態であれば、特に限定されない。電磁波吸収部材10に飛来する電磁波のうち、一部は電磁波吸収層20で反射されるか、電磁波吸収層20に吸収される。一方で、電磁波吸収層20で反射も吸収もされなかった電磁波は、電磁波吸収層20を透過する。電磁波吸収層20を透過した電磁波は、反射層40で電磁波吸収層20に向けて反射される。
例えば、2つの面40a,40bの面方向において反射層40が導電性を具備する形態であれば、電磁波吸収層20を透過した電磁波を反射できる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルムに銅箔等の金属箔や、銅板等の金属板を貼り合わせたものを反射層40として使用してもよい。金属箔や金属板の代わりに、ITO等の当面導電膜、金属ワイヤー等で形成されたメッシュシートを使用してもよい。これらの中でも、導電性の高さの点から金属板が好ましい。
【0091】
反射層40の反射特性を考慮して反射層40の他方の面40bに金属ワイヤー、導電性糸、金属ワイヤーおよび導電性糸を含む撚糸、導電性薄膜を設けてもよい。導電性薄膜は、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェット方式等の印刷方法;スパッタ法または真空蒸着;フォトリソグラフィによって面40bに設けることができる。
【0092】
スペーサ層30を金属等の導電性を具備する物体に形成する場合には、金属等の導電性を具備する物体が反射層40の役割を果たすため、反射層40は省略できる。
【0093】
電磁波吸収部材10を種々の物品の表面に適用することを目的として、反射層40の他方の面40bを接着性としてもよい。反射層40の他方の面40bを接着性とする場合には、面40bを覆う剥離フィルムを設けてもよい。剥離フィルムは電磁波吸収部材10の使用時には除去される。剥離フィルムが接着面を覆うことで、流通時の取扱性がよくなる。
例えば、反射層40の他方の面40bが接着剤を含む接着層である多層構造を採用することで、反射層40の他方の面40bを接着性とすることができる。
【0094】
接着剤としては、熱により接着するヒートシールタイプの接着剤;湿潤させて貼付性を発現させる接着剤;圧力により接着する感圧性接着剤(粘着剤)等が挙げられる。これらの中でも、簡便さの観点から、粘着剤(感圧性接着剤)が好ましい。
粘着剤の具体例としては、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等が挙げられる。これらの中でも、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤およびゴム系粘着剤からなる群から選ばれる少なくともいずれかが好ましく、アクリル系粘着剤がより好ましい。
【0095】
また、本実施形態の電磁波吸収部材10は、電磁波吸収層20の一方の面(表面)20aに形成される保護層を備えていてもよい。
保護層は、電磁波吸収層20を保護できる形態であれば、特に限定されない。
【0096】
保護層の厚みは、1μm~500μmが好ましく、3μm~100μmがより好ましく、5μm~50μmがさらに好ましい。保護層の厚みが上記下限値以上であると、電磁波吸収層20の凹凸に十分追従し保護することができる。保護層の厚みが上記上限値以下であると、保護層を構成する組成物の側面からの染み出しが抑制され、パーテーションに柔軟性を付与できる。
【0097】
[電磁波吸収部材の製造方法]
電磁波吸収部材10は、例えば、下記の方法によって製造できる。
変性ポリオレフィン樹脂および反応性基を有するポリフェニレンエーテル樹脂を含む組成物を調製する。
組成物は、溶媒に、変性ポリオレフィン樹脂および反応性基を有するポリフェニレンエーテル樹脂を加えて、これらを撹拌、混合し、溶媒に前記の樹脂を溶解することによって得られる。
組成物は、必要に応じて、変性ポリオレフィン樹脂および反応性基を有するポリフェニレンエーテル樹脂以外に、種々の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、シランカップリング剤、硬化剤等が挙げられる。
硬化剤としては、硬化反応を開始させるものであれば特に限定されない。経時安定性や生産性に優れることから、硬化剤としては、加熱により硬化反応を開始させるものが好ましく用いられる。硬化剤を含有させることで上記組成物は、より効率よく硬化反応が進行するため好ましい。加熱により硬化反応を開始させる硬化剤としては、熱カチオン重合開始剤や、それ以外の熱反応性硬化剤が挙げられる。
シランカップリング剤としては、公知のシランカップリング剤を用いることができる。なかでも、分子内にアルコキシシリル基を少なくとも1個有する有機ケイ素化合物が好ましい。
溶媒としては、変性ポリオレフィン樹脂および反応性基を有するポリフェニレンエーテル樹脂を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンnの等ケトン系溶媒;n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶媒;等が挙げられる。
【0098】
剥離フィルムの剥離処理面上に、上記組成物を塗布し、得られた塗膜を乾燥して、接着剤層を形成する。組成物の塗布方法は特に限定されない。塗布方法としては、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェット方式等の印刷法を用いた方法が挙げられる。この接着剤層上に、もう1枚の剥離フィルムの剥離処理面を貼り合わせて接着シートを得る。
次に、接着シートの剥離フィルムの一方を剥離して、電磁波吸収層20の他方の面20bに、露出した接着シートの一方の面を貼付する。
【0099】
次に、接着シートの剥離フィルムのもう一方を剥離して、露出した接着シートの他方の面に、スペーサ層30となる材料を貼付する。
次に、スペーサ層30の他方の面30bに、スペーサ層30の場合と同様に、上記接着シートを介して、反射層40となる材料を貼付する。
以上の方法により、電磁波吸収部材10を得る。
【0100】
本実施形態の電磁波吸収部材10によれば、電磁波吸収層20の最表面から、電磁波吸収層20およびスペーサ層30の厚み方向に略平行な複数のスリット50が形成され、複数のスリット50を介して、電磁波吸収層20とスペーサ層30とからなる積層体60が複数の領域に分割され、複数のスリット50の幅W0が10mm未満であるため、
図7に示すように、電磁波吸収部材10は可撓性を有し、より小さく巻き取ることができる。また、本実施形態の電磁波吸収部材10によれば、複数のスリット50の反射層40側の端にて、隣接するスペーサ層30同士の少なくとも一部が繋がっているため、反射層40にて、電磁波を不必要に反射させることを抑制できる。
【0101】
また、本実施形態の電磁波吸収部材10は、大きさの制限を受けないが、容易に大面積化できると共に、大きくても巻回してコンパクトに保管できることを特徴の1つとする。その観点から、スリット延在方向と略平行な辺(横)の大きさは、0.1m以上10m以下であることが好ましく、0.5m以上5m以下であることがより好ましく、0.8m以上1.8m以下であることが特に好ましい。また、スリット延在方向と垂直な辺(縦:巻回される辺)の大きさは、0.1m以上10m以下であることが好ましく、0.5m~5mであることがより好ましく、1.5m以上3.0m以下であることが特に好ましい。
【0102】
[エーミング用パーテーション]
図8は、本発明の一実施形態に係るエーミング用パーテーションを模式的に示す側面図である。
図8に示すように、本実施形態のエーミング用パーテーション100は、支持部材110と、支持板120と、前面板130と、を備える。前面板130は、上述の実施形態の電磁波吸収部材10である。
【0103】
本実施形態のエーミング用パーテーション100は、例えば、所定の間隔を置いて、互いに離間して配置された一対の支持部材110を備える。また、一対の支持部材110は、長手方向が鉛直方向に沿うように配置されている。一対の支持部材110は、長手方向が略鉛直方向に沿うように配置されていてもよく、前面板130を支えられる長さであればよい。
【0104】
図8に示すように、エーミング用パーテーション100は、一対の支持部材110の間に桟140を有することが好ましい。さらに、支持板120は、一対の支持部材110と桟140に固定されていることが好ましい。これにより、支持部材110によって、前面板130をより安定に支持することができる。
また、前面板130は、粘着層150を介して、支持板120上に接合されている。
【0105】
支持板120は、平面視にて長方形状である。支持板120は、一対の支持部材110に固定されている。
図8では、支持板120が、一方の支持部材110Aから他方の支持部材110Bに渡って配置されている。なお、支持板120は、一対の支持部材110に固定された状態で、短手方向が鉛直方向または略鉛直方向に沿うように配置することができればよく、一対の支持部材110と結合する位置は特に限定されない。
【0106】
支持板120を平面視した場合の大きさ(面積)は、エーミング用パーテーション100を用いてエーミングを行う自動車を前面から見た場合の投影面積に応じて適宜調整される。支持板120を平面視した場合の大きさは、例えば、縦2m×横2.5mであることが好ましく、小さいエーミング用パーテーションを複数個並べて前述の大きさにしてもよい。小さいエーミング用パーテーションを複数個並べる場合は、パーテーション間の隙間は小さくすると、電波の漏れが抑制される。なお、本明細書において、縦は紙面の縦方向、横は紙面の横方向のことである。
【0107】
「支持部材」
支持部材110の長さは、前面板130を平面視した場合の大きさ(面積)に応じて適宜調整される。
支持部材110を構成する材料としては、例えば、樹脂、木材等の非金属材料、金属等が挙げられる。エーミング用パーテーション100によってエーミングの作業環境を整える効果をより向上するためには、支持部材110は電磁波をほぼ反射しない非金属材料から構成されることが好ましい。
【0108】
支持部材110に支持板120を固定する手段としては、粘着剤や接着剤、ねじ、ボルト・ナット等が用いられる。支持板120を固定する手段の材質は、樹脂、木材等の電磁波をほぼ反射しない非金属材料が好ましい。なお、金属等の導電性材料は、電磁波を反射するため、支持板120を固定する手段には適さない。
【0109】
前面板130を設けた支持板120は、支持部材110から取り外し可能であってもよい。支持板120を、支持部材110から取り外し可能とするためには、支持部材110に支持板120の外形に沿った形状の枠材を設けて、その枠材に支持板120を挿入したり、その枠材に支持板120を嵌合したりするようにしてもよい。また、支持板120の外縁にフック等を設けて、そのフックで支持部材110に支持板120を引っ掛けて固定してもよい。このようにすれば、エーミング用パーテーション100を、支持部材110と前面板130とに分解することができるため、運搬が容易であり、かつ広い保管場所が不要となる。
【0110】
「支持板」
支持板120は、可撓性を有することが好ましい。支持板120が可撓性を有する場合、支持板120としては、樹脂シート、紙、織物等が用いられる。樹脂シートを構成する樹脂としては、特に限定されないが、例えば、上記の基材21を構成する樹脂が挙げられる。支持板120が可撓性を有することにより、前面板130を設けた支持板120をロール状に巻き取ることができる。このようにすれば、エーミング用パーテーション100は、運搬が容易であり、かつ広い保管場所が不要となる。
【0111】
「桟」
桟140は、
図8に示すように、例えば、支持板120の横方向に沿って設けられる。
桟140を構成する材料としては、例えば、樹脂、木材等の電磁波をほぼ反射しない非金属材料、金属等が挙げられる。エーミング用パーテーション100によってエーミングの作業環境を整える効果をより向上するためには、桟140は電磁波をほぼ反射しない非金属材料から構成されることが好ましい。
【0112】
「粘着層」
粘着層150を形成する粘着剤としては、例えば、アクリル系強粘着剤などがあげらえるが、貼付面材質に応じて適宜選択される。
【0113】
本実施形態のエーミング用パーテーション100は、支持部材110と、支持部材110に支持された支持板120と、支持板120の少なくとも一方の面120aに配置された前面板130とを備えるため、軽量で運搬が容易であり、かつ広い保管場所が不要である。したがって、本実施形態のエーミング用パーテーション100によれば、自動車のエーミングの作業環境を容易に整えることができる。
【0114】
なお、
図8では、電磁波吸収層20と、スペーサ層30と、反射層40と、粘着層150と、支持板120とがこの順に積層されている場合を例示したが、本発明のエーミング用パーテーションはこれに限定されない。本発明のエーミング用パーテーションでは、支持板200として、導電性を有するものを用いた場合、
図9に示すように、電磁波吸収層20と、スペーサ層30と、粘着層150と、支持板200とがこの順に積層されていてもよい。
【実施例0115】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0116】
[実施例1]
先進運転支援システム用レーダーを想定して、PETフィルム(商品名:PET50A4160、東洋紡株式会社製)からなる基材上に銅を蒸着して銅薄膜を形成した。
その後、フォトリソグラフィにより、銅薄膜を電磁波吸収パターンにパターニングし、電磁波吸収層を得た。
得られた電磁波吸収層の裏面に、スペーサ層として厚み2mmの発泡ウレタンシート(商品名:PORON HH-48、株式会社イノアックコーポレーション製)と、反射層としてアルミ蒸着PETフィルム(曲げ剛性:8.33Pa・mm4)とをこの順に積層し、電磁波吸収部材を作製した。
得られた電磁波吸収部材に対して、電磁波吸収層の最表面から、電磁波吸収層およびスペーサ層の厚み方向に略平行に、カッター刃で表1に示すスリット幅(0.1mm)の切り込み10cm間隔で入れて、複数のスリットを形成した。これにより、横1.5m、縦2.0mの大きさを有する、スリットが形成された電磁波吸収部材を得た。
前記電磁波吸収部材を、粘着剤を介して、PETフィルム(商品名:PET50A4160、東洋紡株式会社製)からなる支持板上に貼り付けた。
さらに、所定の間隔を置いて、互いに離間して配置された一対の支持部材に、支持板上に貼り付けた電磁波吸収部材を取り付けて、エーミング用パーテーションを得た。
【0117】
[実施例2]
電磁波吸収部材に対して、表1に示すスリット幅(2mm)の切り込みを入れたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2のエーミング用パーテーションを得た。
【0118】
[実施例3]
電磁波吸収部材に対して、表1に示すスリット幅(4mm)の切り込みを入れたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3のエーミング用パーテーションを得た。
【0119】
[実施例4]
電磁波吸収部材に対して、表1に示すスリット幅(7mm)の切り込みを入れたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4のエーミング用パーテーションを得た。
【0120】
[比較例1]
電磁波吸収部材に対して、表1に示すスリット幅(10mm)の切り込みを入れたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1のエーミング用パーテーションを得た。
【0121】
[比較例2]
電磁波吸収部材に対して、切り込みを入れなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2のエーミング用パーテーションを得た。
【0122】
[評価]
「反射減衰量」
フリースペース法にて、実施例1~4、比較例1および比較例2のエーミング用パーテーションのS21値をネットワークアナライザで取得し、それぞれのエーミング用パーテーションの反射減衰量を評価した。結果を表1および
図10に示す。なお、
図10には、実施例1、比較例1および比較例2の反射減衰量を示す。
【0123】
「巻き取り性」
実施例1~実施例4、比較例1および比較例2の電磁波吸収部材を手で巻き取り、その際に、シワの発生などなく巻き取れるかを目視にて確認した。巻き取り後に広げて、再度、エーミング用パーテーションとした場合に、電磁波吸収部材にシワや折れが発生していない場合を「○」、広げた際に、電磁波吸収部材にシワや折れが発生している場合を「×」と評価した。結果を表1に示す。
【0124】
【0125】
表1および
図10に示す結果から、実施例1~4のエーミング用パーテーションは反射減衰量に優れ、実施例1の電磁波吸収部材は巻き取り性に優れることが分かった。
一方、比較例1のエーミング用パーテーションは反射減衰量に劣り、比較例1の電磁波吸収部材は巻き取り性に優れることが分かった。
また、比較例2のエーミング用パーテーションは反射減衰量に優れ、比較例2の電磁波吸収部材は巻き取り性に劣ることが分かった。