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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151164
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】円柱状ハニカム焼成体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 11/24 20060101AFI20231005BHJP
   B28B 3/20 20060101ALI20231005BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B28B11/24
B28B3/20 E
C04B38/00 304Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060620
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山崎 裕規
(72)【発明者】
【氏名】影山 和也
(72)【発明者】
【氏名】早川 裕介
【テーマコード(参考)】
4G019
4G054
4G055
【Fターム(参考)】
4G019GA04
4G054AA05
4G054AB09
4G054BD19
4G055AA08
4G055AB03
4G055AC10
4G055BA14
(57)【要約】
【課題】歩留まり向上に寄与する円柱状ハニカム焼成体の製造方法を提供する。
【解決手段】円柱状ハニカム成形体を作製する工程Aと、円柱状ハニカム成形体を乾燥して、円柱状ハニカム乾燥体を得る工程Bと、円柱状ハニカム乾燥体のセルの延びる方向に垂直な断面について、所定の複数の角度範囲における重心位置Oと外周輪郭との距離の平均値から、所定のパラメータ(EAVE1、EAVE2、EAVE3、及びEAVE4)を算出する工程Cと、工程Cで算出したパラメータのうち、最小値を特定する工程Dと、円柱状ハニカム乾燥体をセルの延びる方向が鉛直方向と平行になるように、且つ、前記最小値に応じて決定される所定の外周側面の箇所が先頭に位置するように円柱状ハニカム乾燥体を棚板に載置し、連続焼成炉内を通過させながら焼成して、円柱状ハニカム焼成体を得る工程Eと、を含む製造方法。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周側面と、外周側面の内周側に配設され、第一底面から第二底面まで流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有する円柱状ハニカム焼成体の製造方法であって、
セラミックス原料、造孔材、バインダー及び分散媒を含有する坏土を、前記複数のセルの開口形状を画定する口金、及び口金の下流に設置され、第一底面及び第二底面の外周輪郭を画定するための内周輪郭を有する環状マスクを介して、セルの延びる方向が水平方向となるような向きに押出成形し、所定の長さで切断することにより、押出成形の進行方向の前方側を第一底面、後方側を第二底面とする円柱状ハニカム成形体を作製する工程Aと、
円柱状ハニカム成形体を乾燥して、円柱状ハニカム乾燥体を得る工程Bと、
円柱状ハニカム乾燥体のセルの延びる方向に垂直な断面を、工程Aにおける押出成形の進行方向の前方側から観察したと仮定した場合において、工程Aで押出成形したときに頂点に位置していた外周側面の箇所を0radとし、時計回りを+方向として、中心角(rad)が-1/8πから+1/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の平均値をD1AVEとし、中心角(rad)が+1/8πから+3/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の平均値をD2AVEとし、中心角(rad)が+3/8πから+5/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の平均値をD3AVEとし、中心角(rad)が+5/8πから+7/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の平均値をD4AVEとし、中心角(rad)が+7/8πから+9/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の平均値をD5AVEとし、中心角(rad)が+9/8πから+11/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の平均値をD6AVEとし、中心角(rad)が+11/8πから+13/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の平均値をD7AVEとし、中心角(rad)が+13/8πから+15/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の平均値をD8AVEとすると、
(D1AVE+D4AVE+D6AVE)-(D2AVE+D5AVE+D8AVE)=EAVE1
(D3AVE+D6AVE+D8AVE)-(D2AVE+D4AVE+D7AVE)=EAVE2
(D2AVE+D5AVE+D8AVE)-(D1AVE+D4AVE+D6AVE)=EAVE3、及び
(D2AVE+D4AVE+D7AVE)-(D3AVE+D6AVE+D8AVE)=EAVE4を算出する工程Cと、
工程Cで算出したEAVE1、EAVE2、EAVE3、及びEAVE4のうち、最小値を特定する工程Dと、
円柱状ハニカム乾燥体をセルの延びる方向が鉛直方向と平行になるように、且つ、
前記最小値がEAVE1のときは、0radに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEAVE2のときは、4/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEAVE3のときは、8/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEAVE4のときは、12/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
円柱状ハニカム乾燥体を棚板に載置し、
連続焼成炉内を通過させながら焼成して、円柱状ハニカム焼成体を得る工程Eと、
を含む製造方法。
【請求項2】
工程Bでは、セルの延びる方向が鉛直方向となるような向きに乾燥機内に配置した上で、工程Aで押出成形したときに頂点に位置していた外周側面の箇所が先頭に位置するように乾燥機内を通過させながら乾燥することを含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程Dで特定した前記最小値が予め定めた基準を満たすかどうかを判定し、前記最小値が当該基準を満たす場合にのみ工程Eを実施する請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程Dで特定した前記最小値が予め定めた基準を満たすかどうかを判定し、前記最小値が予め定めた基準を満たさないときは工程Eを実施せず、当該最小値に応じて、次回作製される円柱状ハニカム乾燥体のEAVE1、EAVE2、EAVE3、及びEAVE4のうち、最小値が前記予め定めた基準を満たすように、内周輪郭が変更された環状マスクを作製する工程Fを行い、その後、当該変更された環状マスクを使用することを条件に、再び工程Aから工程Dまでを繰り返すことを含む請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記予め定めた基準は、前記最小値が-0.3mm~-0.1mmの範囲にあることである請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
工程Cにおいて、EAVE1、EAVE2、EAVE3、及びEAVE4の算出のために、
前記円柱状ハニカム乾燥体を回転ステージの上に、第一底面又は第二底面を上側にして載置する工程と、
回転ステージを一回転させながら、変位計を使用して前記円柱状ハニカム乾燥体の外周側面の何れかの地点と変位計の間の距離を連続的に測定する工程と、
を順に実施することを含む請求項1~5の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
外周側面と、外周側面の内周側に配設され、第一底面から第二底面まで流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有する円柱状ハニカム焼成体の製造方法であって、
セラミックス原料、造孔材、バインダー及び分散媒を含有する坏土を、前記複数のセルの開口形状を画定する口金、及び口金の下流に設置され、第一底面及び第二底面の外周輪郭を画定するための内周輪郭を有する環状マスクを介して、セルの延びる方向が水平方向となるような向きに押出成形し、所定の長さで切断することにより、押出成形の進行方向の前方側を第一底面、後方側を第二底面とする円柱状ハニカム成形体を作製する工程Aと、
円柱状ハニカム成形体を乾燥して、円柱状ハニカム乾燥体を得る工程Bと、
円柱状ハニカム乾燥体のセルの延びる方向に垂直な断面を、工程Aにおける押出成形の進行方向の前方側から観察したと仮定した場合において、工程Aで押出成形したときに頂点に位置していた外周側面の箇所を0radとし、時計回りを+方向として、中心角(rad)が-1/8πから+1/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最大値をD1MAXとし、中心角(rad)が+1/8πから+3/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最大値をD2MAXとし、中心角(rad)が+3/8πから+5/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最大値をD3MAXとし、中心角(rad)が+5/8πから+7/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最大値をD4MAXとし、中心角(rad)が+7/8πから+9/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最大値をD5MAXとし、中心角(rad)が+9/8πから+11/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最大値をD6MAXとし、中心角(rad)が+11/8πから+13/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最大値をD7MAXとし、中心角(rad)が+13/8πから+15/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最大値をD8MAXとすると、
(D1MAX+D4MAX+D6MAX)-(D2MAX+D5MAX+D8MAX)=EMAX1
(D3MAX+D6MAX+D8MAX)-(D2MAX+D4MAX+D7MAX)=EMAX2
(D2MAX+D5MAX+D8MAX)-(D1MAX+D4MAX+D6MAX)=EMAX3、及び
(D2MAX+D4MAX+D7MAX)-(D3MAX+D6MAX+D8MAX)=EMAX4を算出する工程Cと、
工程Cで算出したEMAX1、EMAX2、EMAX3、及びEMAX4のうち、最小値を特定する工程Dと、
円柱状ハニカム乾燥体をセルの延びる方向が鉛直方向と平行になるように、且つ、
前記最小値がEMAX1のときは、0radに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEMAX2のときは、4/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEMAX3のときは、8/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEMAX4のときは、12/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
円柱状ハニカム乾燥体を棚板に載置し、
連続焼成炉内を通過させながら焼成して、円柱状ハニカム焼成体を得る工程Eと、
を含む製造方法。
【請求項8】
工程Bでは、セルの延びる方向が鉛直方向となるような向きに乾燥機内に配置した上で、工程Aで押出成形したときに頂点に位置していた外周側面の箇所が先頭に位置するように乾燥機内を通過させながら乾燥することを含む請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
工程Dで特定した前記最小値が予め定めた基準を満たすかどうかを判定し、前記最小値が当該基準を満たす場合にのみ工程Eを実施する請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
工程Dで特定した前記最小値が予め定めた基準を満たすかどうかを判定し、前記最小値が予め定めた基準を満たさないときは工程Eを実施せず、当該最小値に応じて、次回作製される円柱状ハニカム乾燥体のEMAX1、EMAX2、EMAX3、及びEMAX4のうち、最小値が前記予め定めた基準を満たすように、内周輪郭が変更された環状マスクを作製する工程Fを行い、その後、当該変更された環状マスクを使用することを条件に、再び工程Aから工程Dまでを繰り返すことを含む請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記予め定めた基準は、前記最小値が-0.3mm~-0.1mmの範囲にあることである請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
工程Cにおいて、EMAX1、EMAX2、EMAX3、及びEMAX4の算出のために、
前記円柱状ハニカム乾燥体を回転ステージの上に、第一底面又は第二底面を上側にして載置する工程と、
回転ステージを一回転させながら、変位計を使用して前記円柱状ハニカム乾燥体の外周側面の何れかの地点と変位計の間の距離を連続的に測定する工程と、
を順に実施することを含む請求項7~11の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
外周側面と、外周側面の内周側に配設され、第一底面から第二底面まで流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有する円柱状ハニカム焼成体の製造方法であって、
セラミックス原料、造孔材、バインダー及び分散媒を含有する坏土を、前記複数のセルの開口形状を画定する口金、及び口金の下流に設置され、第一底面及び第二底面の外周輪郭を画定するための内周輪郭を有する環状マスクを介して、セルの延びる方向が水平方向となるような向きに押出成形し、所定の長さで切断することにより、押出成形の進行方向の前方側を第一底面、後方側を第二底面とする円柱状ハニカム成形体を作製する工程Aと、
円柱状ハニカム成形体を乾燥して、円柱状ハニカム乾燥体を得る工程Bと、
円柱状ハニカム乾燥体のセルの延びる方向に垂直な断面を、工程Aにおける押出成形の進行方向の前方側から観察したと仮定した場合において、工程Aで押出成形したときに頂点に位置していた外周側面の箇所を0radとし、時計回りを+方向として、中心角(rad)が-1/8πから+1/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最小値をD1MINとし、中心角(rad)が+1/8πから+3/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最小値をD2MINとし、中心角(rad)が+3/8πから+5/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最小値をD3MINとし、中心角(rad)が+5/8πから+7/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最小値をD4MINとし、中心角(rad)が+7/8πから+9/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最小値をD5MINとし、中心角(rad)が+9/8πから+11/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最小値をD6MINとし、中心角(rad)が+11/8πから+13/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最小値をD7MINとし、中心角(rad)が+13/8πから+15/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最小値をD8MINとすると、
(D1MIN+D4MIN+D6MIN)-(D2MIN+D5MIN+D8MIN)=EMIN1
(D3MIN+D6MIN+D8MIN)-(D2MIN+D4MIN+D7MIN)=EMIN2
(D2MIN+D5MIN+D8MIN)-(D1MIN+D4MIN+D6MIN)=EMIN3、及び
(D2MIN+D4MIN+D7MIN)-(D3MIN+D6MIN+D8MIN)=EMIN4を算出する工程Cと、
工程Cで算出したEMIN1、EMIN2、EMIN3、及びEMIN4のうち、最小値を特定する工程Dと、
円柱状ハニカム乾燥体をセルの延びる方向が鉛直方向と平行になるように、且つ、
前記最小値がEMIN1のときは、0radに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEMIN2のときは、4/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEMIN3のときは、8/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEMIN4のときは、12/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
円柱状ハニカム乾燥体を棚板に載置し、
連続焼成炉内を通過させながら焼成して、円柱状ハニカム焼成体を得る工程Eと、
を含む製造方法。
【請求項14】
工程Bでは、セルの延びる方向が鉛直方向となるような向きに乾燥機内に配置した上で、工程Aで押出成形したときに頂点に位置していた外周側面の箇所が先頭に位置するように乾燥機内を通過させながら乾燥することを含む請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
工程Dで特定した前記最小値が予め定めた基準を満たすかどうかを判定し、前記最小値が当該基準を満たす場合にのみ工程Eを実施する請求項13又は14に記載の製造方法。
【請求項16】
工程Dで特定した前記最小値が予め定めた基準を満たすかどうかを判定し、前記最小値が予め定めた基準を満たさないときは工程Eを実施せず、当該最小値に応じて、次回作製される円柱状ハニカム乾燥体のEMIN1、EMIN2、EMIN3、及びEMIN4のうち、最小値が前記予め定めた基準を満たすように、内周輪郭が変更された環状マスクを作製する工程Fを行い、その後、当該変更された環状マスクを使用することを条件に、再び工程Aから工程Dまでを繰り返すことを含む請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記予め定めた基準は、前記最小値が-0.3mm~-0.1mmの範囲にあることである請求項15又は16に記載の製造方法。
【請求項18】
工程Cにおいて、EMIN1、EMIN2、EMIN3、及びEMIN4の算出のために、
前記円柱状ハニカム乾燥体を回転ステージの上に、第一底面又は第二底面を上側にして載置する工程と、
回転ステージを一回転させながら、変位計を使用して前記円柱状ハニカム乾燥体の外周側面の何れかの地点と変位計の間の距離を連続的に測定する工程と、
を順に実施することを含む請求項13~17の何れか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は円柱状ハニカム焼成体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
柱状ハニカム焼成体は、触媒担体や各種フィルタ等に広く用いられている。近時では、ディーゼルエンジンから排出される粒子状物質(パティキュレートマター)を捕捉するためのディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)及びガソリンパティキュレートフィルタ(GPF)としての利用が特に注目を集めている。
【0003】
柱状ハニカム焼成体は、セラミックス原料、造孔材、バインダー及び水に各種添加剤を適宜加えて得られた原料組成物を混練し、坏土とした後、所定のセル構造を画定する口金を介して押出成形することで、柱状ハニカム成形体を作製し、このハニカム成形体を所定の長さに切断し、乾燥した後に焼成することで製造可能である。押出成形に使用する口金の下流にはマスク又は押さえ板等と称される環状部材が隣接して取り付けられており、柱状ハニカム成形体の外周側面の輪郭を画定している(例:特許第6376701号公報)。
【0004】
柱状ハニカム成形体及び柱状ハニカム焼成体のような柱状ハニカム構造体の外形寸法を測定することは、品質管理上重要な事項であり、幾つもの測定方法が従来知られている。例えば、特開平7-260440号公報では、異なる高さに複数のレーザ変位計を備えた腕を、この腕の回転軸に対して垂直な平面上に置かれた被測定物の周りに回転させ、被測定物の立体的な外形形状を測定する方法が開示されている。特開2002-267427号公報では、ハニカム構造体の端面を撮像して原画像を求め、求めた原画像中におけるハニカム構造体の外壁部分の平均輝度を求め、原画像上で、ハニカム構造体の内部を、求めた平均輝度の階調で塗り潰した塗り潰し画像を求め、求めた塗り潰し画像に対しエッジ検出処理をすることにより外形状を測定することを特徴とするハニカム構造体の外形状測定方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6376701号公報
【特許文献2】特開平7-260440号公報
【特許文献3】特開2002-267427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ハニカム成形体の焼成工程では収縮が発生する。このため、ハニカム成形体の設計寸法は、ハニカム焼成体が寸法公差に収まるように収縮を見込んで決定される。収縮時の割掛率は焼成前後の外径寸法測定により把握できると考えられる。しかしながら、割掛率は均等ではなく、ハニカム成形体の部位によって異なるという問題がある。そのため、従来の外形寸法測定技術では、ハニカム成形体及びハニカム焼成体の外形寸法は把握できるものの、外形寸法の測定結果をどのようにハニカム焼成体の焼成条件やハニカム成形体の作製条件に活用するかについては検討が十分進んでいない。外形寸法の測定結果を上手く活用することで、ハニカム焼成体の製造時の歩留まりを高めることができれば有利であろう。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、柱状ハニカム焼成体の中でも需要の大きな円柱状ハニカム焼成体にターゲットを絞り、歩留まり向上に寄与する円柱状ハニカム焼成体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するために、収縮時の割掛率が円柱状ハニカム成形体の部位に応じて異なる原因について検討した。その結果、円柱状ハニカム成形体が焼成炉内で受ける熱履歴が、バーナーの位置及び炉内における気流の影響などにより円柱状ハニカム成形体の部位によって異なることが原因であることを突き止めた。このため、例えば、円柱状ハニカム成形体が均等に収縮する前提で割掛率を計算し、割掛率に基づいて円柱状ハニカム成形体の寸法を決定したとしても、実際は均等収縮でない為、割掛率と乖離する部位の寸法精度が悪くなる。
【0009】
また、本発明者は、収縮時の割掛率が部位に応じて異なると言っても、ランダムではなく、円柱状ハニカム成形体を連続焼成炉内に通過させながら焼成する場合には、所定の外周側面の箇所が大きく収縮することを見出した。本発明は当該知見に基づき創作されたものであり、以下に例示される。
【0010】
[1]
外周側面と、外周側面の内周側に配設され、第一底面から第二底面まで流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有する円柱状ハニカム焼成体の製造方法であって、
セラミックス原料、造孔材、バインダー及び分散媒を含有する坏土を、前記複数のセルの開口形状を画定する口金、及び口金の下流に設置され、第一底面及び第二底面の外周輪郭を画定するための内周輪郭を有する環状マスクを介して、セルの延びる方向が水平方向となるような向きに押出成形し、所定の長さで切断することにより、押出成形の進行方向の前方側を第一底面、後方側を第二底面とする円柱状ハニカム成形体を作製する工程Aと、
円柱状ハニカム成形体を乾燥して、円柱状ハニカム乾燥体を得る工程Bと、
円柱状ハニカム乾燥体のセルの延びる方向に垂直な断面を、工程Aにおける押出成形の進行方向の前方側から観察したと仮定した場合において、工程Aで押出成形したときに頂点に位置していた外周側面の箇所を0radとし、時計回りを+方向として、中心角(rad)が-1/8πから+1/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の平均値をD1AVEとし、中心角(rad)が+1/8πから+3/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の平均値をD2AVEとし、中心角(rad)が+3/8πから+5/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の平均値をD3AVEとし、中心角(rad)が+5/8πから+7/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の平均値をD4AVEとし、中心角(rad)が+7/8πから+9/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の平均値をD5AVEとし、中心角(rad)が+9/8πから+11/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の平均値をD6AVEとし、中心角(rad)が+11/8πから+13/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の平均値をD7AVEとし、中心角(rad)が+13/8πから+15/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の平均値をD8AVEとすると、
(D1AVE+D4AVE+D6AVE)-(D2AVE+D5AVE+D8AVE)=EAVE1
(D3AVE+D6AVE+D8AVE)-(D2AVE+D4AVE+D7AVE)=EAVE2
(D2AVE+D5AVE+D8AVE)-(D1AVE+D4AVE+D6AVE)=EAVE3、及び
(D2AVE+D4AVE+D7AVE)-(D3AVE+D6AVE+D8AVE)=EAVE4を算出する工程Cと、
工程Cで算出したEAVE1、EAVE2、EAVE3、及びEAVE4のうち、最小値を特定する工程Dと、
円柱状ハニカム乾燥体をセルの延びる方向が鉛直方向と平行になるように、且つ、
前記最小値がEAVE1のときは、0radに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEAVE2のときは、4/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEAVE3のときは、8/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEAVE4のときは、12/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
円柱状ハニカム乾燥体を棚板に載置し、
連続焼成炉内を通過させながら焼成して、円柱状ハニカム焼成体を得る工程Eと、
を含む製造方法。
[2]
工程Bでは、セルの延びる方向が鉛直方向となるような向きに乾燥機内に配置した上で、工程Aで押出成形したときに頂点に位置していた外周側面の箇所が先頭に位置するように乾燥機内を通過させながら乾燥することを含む[1]に記載の製造方法。
[3]
工程Dで特定した前記最小値が予め定めた基準を満たすかどうかを判定し、前記最小値が当該基準を満たす場合にのみ工程Eを実施する[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]
工程Dで特定した前記最小値が予め定めた基準を満たすかどうかを判定し、前記最小値が予め定めた基準を満たさないときは工程Eを実施せず、当該最小値に応じて、次回作製される円柱状ハニカム乾燥体のEAVE1、EAVE2、EAVE3、及びEAVE4のうち、最小値が前記予め定めた基準を満たすように、内周輪郭が変更された環状マスクを作製する工程Fを行い、その後、当該変更された環状マスクを使用することを条件に、再び工程Aから工程Dまでを繰り返すことを含む[3]に記載の製造方法。
[5]
前記予め定めた基準は、前記最小値が-0.3mm~-0.1mmの範囲にあることである[3]又は[4]に記載の製造方法。
[6]
工程Cにおいて、EAVE1、EAVE2、EAVE3、及びEAVE4の算出のために、
前記円柱状ハニカム乾燥体を回転ステージの上に、第一底面又は第二底面を上側にして載置する工程と、
回転ステージを一回転させながら、変位計を使用して前記円柱状ハニカム乾燥体の外周側面の何れかの地点と変位計の間の距離を連続的に測定する工程と、
を順に実施することを含む[1]~[5]の何れか一項に記載の製造方法。
[7]
外周側面と、外周側面の内周側に配設され、第一底面から第二底面まで流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有する円柱状ハニカム焼成体の製造方法であって、
セラミックス原料、造孔材、バインダー及び分散媒を含有する坏土を、前記複数のセルの開口形状を画定する口金、及び口金の下流に設置され、第一底面及び第二底面の外周輪郭を画定するための内周輪郭を有する環状マスクを介して、セルの延びる方向が水平方向となるような向きに押出成形し、所定の長さで切断することにより、押出成形の進行方向の前方側を第一底面、後方側を第二底面とする円柱状ハニカム成形体を作製する工程Aと、
円柱状ハニカム成形体を乾燥して、円柱状ハニカム乾燥体を得る工程Bと、
円柱状ハニカム乾燥体のセルの延びる方向に垂直な断面を、工程Aにおける押出成形の進行方向の前方側から観察したと仮定した場合において、工程Aで押出成形したときに頂点に位置していた外周側面の箇所を0radとし、時計回りを+方向として、中心角(rad)が-1/8πから+1/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最大値をD1MAXとし、中心角(rad)が+1/8πから+3/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最大値をD2MAXとし、中心角(rad)が+3/8πから+5/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最大値をD3MAXとし、中心角(rad)が+5/8πから+7/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最大値をD4MAXとし、中心角(rad)が+7/8πから+9/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最大値をD5MAXとし、中心角(rad)が+9/8πから+11/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最大値をD6MAXとし、中心角(rad)が+11/8πから+13/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最大値をD7MAXとし、中心角(rad)が+13/8πから+15/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最大値をD8MAXとすると、
(D1MAX+D4MAX+D6MAX)-(D2MAX+D5MAX+D8MAX)=EMAX1
(D3MAX+D6MAX+D8MAX)-(D2MAX+D4MAX+D7MAX)=EMAX2
(D2MAX+D5MAX+D8MAX)-(D1MAX+D4MAX+D6MAX)=EMAX3、及び
(D2MAX+D4MAX+D7MAX)-(D3MAX+D6MAX+D8MAX)=EMAX4を算出する工程Cと、
工程Cで算出したEMAX1、EMAX2、EMAX3、及びEMAX4のうち、最小値を特定する工程Dと、
円柱状ハニカム乾燥体をセルの延びる方向が鉛直方向と平行になるように、且つ、
前記最小値がEMAX1のときは、0radに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEMAX2のときは、4/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEMAX3のときは、8/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEMAX4のときは、12/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
円柱状ハニカム乾燥体を棚板に載置し、
連続焼成炉内を通過させながら焼成して、円柱状ハニカム焼成体を得る工程Eと、
を含む製造方法。
[8]
工程Bでは、セルの延びる方向が鉛直方向となるような向きに乾燥機内に配置した上で、工程Aで押出成形したときに頂点に位置していた外周側面の箇所が先頭に位置するように乾燥機内を通過させながら乾燥することを含む[7]に記載の製造方法。
[9]
工程Dで特定した前記最小値が予め定めた基準を満たすかどうかを判定し、前記最小値が当該基準を満たす場合にのみ工程Eを実施する[7]又は[8]に記載の製造方法。
[10]
工程Dで特定した前記最小値が予め定めた基準を満たすかどうかを判定し、前記最小値が予め定めた基準を満たさないときは工程Eを実施せず、当該最小値に応じて、次回作製される円柱状ハニカム乾燥体のEMAX1、EMAX2、EMAX3、及びEMAX4のうち、最小値が前記予め定めた基準を満たすように、内周輪郭が変更された環状マスクを作製する工程Fを行い、その後、当該変更された環状マスクを使用することを条件に、再び工程Aから工程Dまでを繰り返すことを含む[9]に記載の製造方法。
[11]
前記予め定めた基準は、前記最小値が-0.3mm~-0.1mmの範囲にあることである[9]又は[10]に記載の製造方法。
[12]
工程Cにおいて、EMAX1、EMAX2、EMAX3、及びEMAX4の算出のために、
前記円柱状ハニカム乾燥体を回転ステージの上に、第一底面又は第二底面を上側にして載置する工程と、
回転ステージを一回転させながら、変位計を使用して前記円柱状ハニカム乾燥体の外周側面の何れかの地点と変位計の間の距離を連続的に測定する工程と、
を順に実施することを含む[7]~[11]の何れか一項に記載の製造方法。
[13]
外周側面と、外周側面の内周側に配設され、第一底面から第二底面まで流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁と、を有する円柱状ハニカム焼成体の製造方法であって、
セラミックス原料、造孔材、バインダー及び分散媒を含有する坏土を、前記複数のセルの開口形状を画定する口金、及び口金の下流に設置され、第一底面及び第二底面の外周輪郭を画定するための内周輪郭を有する環状マスクを介して、セルの延びる方向が水平方向となるような向きに押出成形し、所定の長さで切断することにより、押出成形の進行方向の前方側を第一底面、後方側を第二底面とする円柱状ハニカム成形体を作製する工程Aと、
円柱状ハニカム成形体を乾燥して、円柱状ハニカム乾燥体を得る工程Bと、
円柱状ハニカム乾燥体のセルの延びる方向に垂直な断面を、工程Aにおける押出成形の進行方向の前方側から観察したと仮定した場合において、工程Aで押出成形したときに頂点に位置していた外周側面の箇所を0radとし、時計回りを+方向として、中心角(rad)が-1/8πから+1/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最小値をD1MINとし、中心角(rad)が+1/8πから+3/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最小値をD2MINとし、中心角(rad)が+3/8πから+5/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最小値をD3MINとし、中心角(rad)が+5/8πから+7/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最小値をD4MINとし、中心角(rad)が+7/8πから+9/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最小値をD5MINとし、中心角(rad)が+9/8πから+11/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最小値をD6MINとし、中心角(rad)が+11/8πから+13/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最小値をD7MINとし、中心角(rad)が+13/8πから+15/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最小値をD8MINとすると、
(D1MIN+D4MIN+D6MIN)-(D2MIN+D5MIN+D8MIN)=EMIN1
(D3MIN+D6MIN+D8MIN)-(D2MIN+D4MIN+D7MIN)=EMIN2
(D2MIN+D5MIN+D8MIN)-(D1MIN+D4MIN+D6MIN)=EMIN3、及び
(D2MIN+D4MIN+D7MIN)-(D3MIN+D6MIN+D8MIN)=EMIN4を算出する工程Cと、
工程Cで算出したEMIN1、EMIN2、EMIN3、及びEMIN4のうち、最小値を特定する工程Dと、
円柱状ハニカム乾燥体をセルの延びる方向が鉛直方向と平行になるように、且つ、
前記最小値がEMIN1のときは、0radに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEMIN2のときは、4/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEMIN3のときは、8/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEMIN4のときは、12/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
円柱状ハニカム乾燥体を棚板に載置し、
連続焼成炉内を通過させながら焼成して、円柱状ハニカム焼成体を得る工程Eと、
を含む製造方法。
[14]
工程Bでは、セルの延びる方向が鉛直方向となるような向きに乾燥機内に配置した上で、工程Aで押出成形したときに頂点に位置していた外周側面の箇所が先頭に位置するように乾燥機内を通過させながら乾燥することを含む[13]に記載の製造方法。
[15]
工程Dで特定した前記最小値が予め定めた基準を満たすかどうかを判定し、前記最小値が当該基準を満たす場合にのみ工程Eを実施する[13]又は[14]に記載の製造方法。
[16]
工程Dで特定した前記最小値が予め定めた基準を満たすかどうかを判定し、前記最小値が予め定めた基準を満たさないときは工程Eを実施せず、当該最小値に応じて、次回作製される円柱状ハニカム乾燥体のEMIN1、EMIN2、EMIN3、及びEMIN4のうち、最小値が前記予め定めた基準を満たすように、内周輪郭が変更された環状マスクを作製する工程Fを行い、その後、当該変更された環状マスクを使用することを条件に、再び工程Aから工程Dまでを繰り返すことを含む[15]に記載の製造方法。
[17]
前記予め定めた基準は、前記最小値が-0.3mm~-0.1mmの範囲にあることである[15]又は[16]に記載の製造方法。
[18]
工程Cにおいて、EMIN1、EMIN2、EMIN3、及びEMIN4の算出のために、
前記円柱状ハニカム乾燥体を回転ステージの上に、第一底面又は第二底面を上側にして載置する工程と、
回転ステージを一回転させながら、変位計を使用して前記円柱状ハニカム乾燥体の外周側面の何れかの地点と変位計の間の距離を連続的に測定する工程と、
を順に実施することを含む[13]~[17]の何れか一項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態に係る円柱状ハニカム焼成体の製造方法によれば、円柱状ハニカム焼成体の製造時の歩留まりが向上する。例えば、円柱状ハニカム焼成体の半製品である円柱状ハニカム乾燥体に従来許容できないレベルの寸法誤差が発生したとしても、寸法誤差が生じた円柱状ハニカム乾燥体の形状に基づき、連続焼成炉内を通過する際の円柱状ハニカム乾燥体の向きを調整することで寸法公差の範囲内にある円柱状ハニカム焼成体を製造可能となる。つまり、円柱状ハニカム乾燥体の段階における寸法公差を緩和することが可能になるので、歩留まりが向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ウォールスルー型のハニカム焼成体を模式的に示す斜視図である。
図2】ウォールスルー型のハニカム焼成体をセルの延びる方向に直交する方向から観察したときの模式的な断面図である。
図3】ウォールフロー型のハニカム焼成体を模式的に示す斜視図である。
図4】ウォールフロー型のハニカム焼成体をセルの延びる方向に直交する方向から観察したときの模式的な断面図である。
図5】押出方向に直交する方向から観察した時の押出成形装置の断面構造を示す模式図である。
図6】環状マスクの模式的な正面図である。
図7】変位計を用いて工程Cを実施するのに好適な形状測定装置の構成を説明するための模式的な斜視図である。
図8】変位計を用いて、円柱状ハニカム乾燥体の断面における重心位置Oと外周輪郭との距離(半径R)を求める方法を説明するための模式図である。
図9】円柱状ハニカム乾燥体の断面と、D1AVE、D2AVE、D3AVE、D4AVE、D5AVE、D6AVE、D7AVE、D8AVEの関係を説明するための模式図である。
図10】焼成炉内での円柱状ハニカム乾燥体の進行方向と焼成収縮が大きな外周側面の箇所の関係を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0014】
(1.円柱状ハニカム焼成体)
本発明の一実施形態によれば、円柱状ハニカム焼成体の製造方法が提供される。円柱状ハニカム焼成体の用途については特に制限はない。例示的には、ヒートシンク、フィルタ(例:GPF、DPF)、触媒担体、摺動部品、ノズル、熱交換器、電気絶縁用部材及び半導体製造装置用部品といった種々の産業用途に使用することができる。
【0015】
図1及び図2には、ウォールスルー型の自動車用排ガスフィルタ及び/又は触媒担体として適用可能な円柱状ハニカム焼成体100の模式的な斜視図及び断面図がそれぞれ例示されている。円柱状ハニカム焼成体100は、外周側面102を有する外周側壁103と、外周側壁103の内周側に配設され、第一底面104から第二底面106まで流路を形成する複数のセル108を区画形成する隔壁112とを備えた円柱状ハニカム構造部を有する。円柱状ハニカム焼成体100においては、各セル108の両端が開口しており、第一底面104から一つのセル108に流入した排ガスは、当該セル108を通過する間に浄化され、第二底面106から流出する。第二底面106を排ガスの流入側とし、第一底面104を排ガスの流出側としてもよい。
【0016】
図3及び図4には、ウォールフロー型の自動車用排ガスフィルタ及び/又は触媒担体として適用可能な円柱状ハニカム焼成体200の模式的な斜視図及び断面図がそれぞれ例示されている。円柱状ハニカム焼成体200は、外周側面202を有する外周側壁203と、外周側壁203の内周側に配設され、第一底面204から第二底面206まで流体の流路を形成する複数のセル208a、208bを区画形成する隔壁212とを備えた円柱状ハニカム構造部を有する。
【0017】
円柱状ハニカム焼成体200において、複数のセル208a、208bは、外周側壁203の内側に配設され、第一底面204から第二底面206まで延び、第一底面204が開口して第二底面206に目封止部209を有する複数の第1セル208aと、外周側壁203の内側に配設され、第一底面204から第二底面206まで延び、第一底面204に目封止部209を有し、第二底面206が開口する複数の第2セル208bに分類することができる。そして、円柱状ハニカム焼成体200においては、第1セル208a及び第2セル208bが隔壁212を挟んで交互に隣接配置されている。
【0018】
円柱状ハニカム焼成体200の上流側の第一底面204にススを含む排ガスが供給されると、排ガスは第1セル208aに導入されて第1セル208a内を下流に向かって進む。第1セル208aは下流側の第二底面206が目封止されているため、排ガスは第1セル208aと第2セル208bを区画する隔壁212を透過して第2セル208bに流入する。ススは隔壁212を通過できないため、第1セル208a内に捕集され、堆積する。ススが除去された後、第2セル208bに流入した清浄な排ガスは第2セル208b内を下流に向かって進み、下流側の第二底面206から流出する。第二底面206を排ガスの流入側とし、第一底面204を排ガスの流出側としてもよい。
【0019】
円柱状ハニカム焼成体を構成する材料としては、限定的ではないが、セラミックスを挙げることができる。セラミックスの種類としては、コージェライト、ムライト、リン酸ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、炭化珪素(SiC)、珪素-炭化珪素複合材(例:Si結合SiC)、コージェライト-炭化珪素複合体、ジルコニア、スピネル、インディアライト、サフィリン、コランダム、チタニア、窒化珪素等が挙げられる。そして、これらのセラミックスは、1種を単独で含有するものでもよいし、2種以上を含有するものであってもよい。
【0020】
円柱状ハニカム焼成体の高さ(第一底面から第二底面までの長さ)は特に制限はなく、用途や要求性能に応じて適宜設定すればよい。円柱状ハニカム焼成体の高さと各底面の直径の関係についても特に制限はない。従って、円柱状ハニカム焼成体の高さが各底面の直径よりも長くてもよいし、円柱状ハニカム焼成体の高さが各底面の直径よりも短くてもよい。
【0021】
円柱状ハニカム焼成体の各底面積の大きさには特に制限はないが、一実施形態においては40~250cm2とすることができ、別の実施形態においては80~220cm2とすることができ、更に別の実施形態においては120~200cm2とすることができる。
【0022】
円柱状ハニカム焼成体の高さ(各セルの流路長さ)には特に制限はないが、一実施形態においては40~200mmとすることができ、別の一実施形態においては60~180mmとすることができ、更に別の一実施形態においては80~160mmとすることができる。
【0023】
円柱状ハニカム焼成体の底面形状及びセルの延びる方向に垂直な断面形状は、円形(設計上は真円)である。本明細書における「円形」には真円のみならず、製造時の寸法誤差を有する円形も包含される。このため、円柱状ハニカム焼成体の底面形状及びセルの延びる方向に垂直な断面形状は、実際上は真円ではない場合もあるが、予め定めた寸法公差の範囲内にあることが求められる。例えば、真円度が2.0mm以下の範囲であれば許容され、1.6mm以下の範囲であることが好ましい。本明細書において、円柱状ハニカム焼成体(乾燥体及び成形体についても同じ)の真円度は、円柱状ハニカム焼成体のセルの延びる方向に垂直な断面であって、円柱状ハニカム焼成体の高さの中心の位置にある断面を観察したと仮定した場合において、当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離を周方向に一周分測定したときの、最大値をRMAX、最小値をRMINとして、真円度=RMAX-RMINで表される。真円度は、後述する垂れ量と同様に、変位計を用いて測定可能である。
【0024】
セルの延びる方向に垂直な断面におけるセルの形状に制限はないが、四角形、六角形、八角形、又はこれらの組み合わせであることが好ましい。これらのなかでも、正方形及び六角形が好ましい。セル形状をこのようにすることにより、円柱状ハニカム焼成体に流体を流したときの圧力損失を小さくすることができる。
【0025】
隔壁の厚みは円柱状ハニカム焼成体の強度確保の観点から50μm以上であることが好ましく、60μm以上であることがより好ましく、70μm以上であることが更により好ましい。また、隔壁の厚みは円柱状ハニカム焼成体に流体を流した時の圧力損失を抑制するという観点から150μm以下であることが好ましく、130μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが更により好ましい。本明細書において、隔壁の厚みは、セルの延びる方向に直交する断面において、隣接するセルの重心同士を線分で結んだときに当該線分が隔壁を横切る長さを指す。隔壁の平均厚みは、すべての隔壁の厚みの平均値を指す。
【0026】
セル密度(セルの延びる方向に垂直な単位断面積当たりのセルの数)は、特に制限はないが、例えば6~2000セル/平方インチ(0.9~311セル/cm2)、更に好ましくは50~1000セル/平方インチ(7.8~155セル/cm2)、特に好ましくは100~600セル/平方インチ(15.5~92.0セル/cm2)とすることができる。ここで、セル密度は、円柱状ハニカム焼成体の外周側壁を除く一方の底面積を当該底面におけるセル全体の開口面積(目封止されたセルが存在する場合は、セルが目封止されていないものとして計算する。)で割ることにより算出される。
【0027】
隔壁は多孔質とすることができる。隔壁の気孔率は、用途に応じて適宜調整すればよいが、流体の圧力損失を低く抑えるという観点からは、25%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましく、45%以上であることが更により好ましい。また、隔壁の気孔率は、円柱状ハニカム焼成体の強度を確保するという観点から、80%以下であることが好ましく、75%以下であることがより好ましく、70%以下であることが更により好ましい。気孔率は、水銀ポロシメータを用いて、JIS R1655:2003に準拠して水銀圧入法によって測定される。
【0028】
円柱状ハニカム焼成体を触媒担体として使用する場合、隔壁の表面に目的に応じた触媒をコーティングすることができる。触媒としては、限定的ではないが、炭化水素(HC)及び一酸化炭素(CO)を酸化燃焼させて排気ガス温度を高めるための酸化触媒(DOC)、スス等のPMの燃焼を補助するPM燃焼触媒、窒素酸化物(NOx)を除去するためのSCR触媒及びNSR触媒、並びに、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)を同時に除去可能な三元触媒が挙げられる。触媒は、例えば、貴金属(Pt、Pd、Rh等)、アルカリ金属(Li、Na、K、Cs等)、アルカリ土類金属(Mg、Ca、Ba、Sr等)、希土類(Ce、Sm、Gd、Nd、Y、La、Pr等)、遷移金属(Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sc、Ti、Zr、V、Cr等)等を適宜含有することができる。
【0029】
(2.円柱状ハニカム焼成体の製造方法)
以下、本発明の一実施形態に係る円柱状ハニカム焼成体の製造方法の各工程について詳述する。
【0030】
(工程A:円柱状ハニカム成形体の作製)
工程Aでは、セラミックス原料、造孔材、バインダー及び分散媒を含有する坏土を、複数のセルの開口形状を画定する口金、及び口金の下流に設置され、第一底面及び第二底面の外周輪郭を画定するための内周輪郭を有する環状マスクを介して押出成形する。押出成形は、セルの延びる方向が水平方向となるような向きに実施する。押出成形後、カッター等の切断手段によって所定の長さで切断することにより、円柱状ハニカム成形体を作製する。得られた円柱状ハニカム成形体において、押出成形の進行方向の前方側の底面を第一底面、後方側の底面を第二底面と呼ぶ。
【0031】
セラミックス原料は、金属酸化物及び金属等の焼成後に残存し、セラミックスとしてハニカム焼成体の骨格を構成する部分の原料である。セラミックス原料は例えば粉末の形態で提供することができる。セラミックス原料としては、コージェライト、ムライト、ジルコン、チタン酸アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素、ジルコニア、スピネル、インディアライト、サフィリン、コランダム、チタニア等のセラミックスを得るための原料が挙げられる。具体的には、限定的ではないが、シリカ、タルク、アルミナ、カオリン、蛇紋石、パイロフェライト、ブルーサイト、ベーマイト、ムライト、マグネサイト、水酸化アルミニウム等が挙げられる。セラミックス原料は、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。
【0032】
DPF及びGPF等のフィルタ用途の場合、セラミックスとしてコージェライトを好適に使用することができる。この場合、セラミックス原料としてはコージェライト化原料を使用することができる。コージェライト化原料とは、焼成によりコージェライトとなる原料である。コージェライト化原料は、アルミナ(Al23)(アルミナに変換される水酸化アルミニウムの分を含む):30~45質量%、マグネシア(MgO):11~17質量%及びシリカ(SiO2):42~57質量%の化学組成からなることが望ましい。
【0033】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば、特に限定されず、例えば、小麦粉、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル、炭素(例:グラファイト)、セラミックスバルーン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、アクリル、フェノール、発泡済発泡樹脂、未発泡発泡樹脂等を挙げることができる。造孔材は、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。造孔材の含有量は、円柱状ハニカム焼成体の気孔率を高めるという観点からは、セラミックス原料100質量部に対して0.5質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であるのがより好ましく、3質量部以上であるのが更により好ましい。造孔材の含有量は、円柱状ハニカム焼成体の強度を確保するという観点からは、セラミックス原料100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、7質量部以下であるのがより好ましく、4質量部以下であるのが更により好ましい。
【0034】
バインダーとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の有機バインダーを例示することができる。特に、メチルセルロース及びヒドロキシプロポキシルセルロースを併用することが好適である。また、バインダーの含有量は、ハニカム成形体の強度を高めるという観点から、原料100質量部に対して4質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であるのがより好ましく、6質量部以上であるのが更により好ましい。バインダーの含有量は、焼成工程での異常発熱によるキレ発生を抑制する観点から、セラミックス原料100質量部に対して9質量部以下であることが好ましく、8質量部以下であるのがより好ましく、7質量部以下であるのが更により好ましい。バインダーは、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。
【0035】
分散媒としては、水、又は水とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒等を挙げることができるが、特に水を好適に用いることができる。円柱状ハニカム成形体の分散媒の含有量は、セラミックス原料100質量部に対して、20~90質量部であることが好ましく、60~85質量部であることがより好ましく、70~80質量部であることが更により好ましい。円柱状ハニカム成形体の水の含有量が、セラミックス原料100質量部に対して、20質量部以上であることで、円柱状ハニカム成形体の品質が安定し易いという利点が得られやすい。円柱状ハニカム成形体の水の含有量が、セラミックス原料100質量部に対して、90質量部以下であることで、乾燥時の収縮量が小さくなり、変形を抑制することができる。本明細書において、円柱状ハニカム成形体の水の含有量は、乾燥減量法により測定される値を指す。
【0036】
坏土には分散剤等の添加剤を必要に応じて配合することができる。分散剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリエーテルポリオール等を用いることができる。分散剤は、1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を組み合わせて使用するものであってもよい。分散剤の含有量は、セラミックス原料100質量部に対して0~2質量部であることが好ましい。
【0037】
図5には、押出方向に直交する方向から観察した時の押出成形装置の断面構造が模式的に示されている。押出成形装置500は、成形原料を押し出すスリット511a、512aを有する口金510と、口金510の下流側に設置される環状マスク520を備える。押出成形装置500においては、口金510は内側部511と外周部512を有している。内側部511は下流側(図5中下方)に突出しており、外周部512との間に段差部513が形成されている。また、内側部511には所望のセル形状、隔壁厚み、セル密度等をもつハニカム構造部を画定するスリット511aが備わる。外周部512には、内側部511のスリット511aより短いスリット512aが備わる。口金510と環状マスク520との間にはハニカム構造部の外周側壁を成形する隙間部530が形成されている。口金510の上流側には口金510を固定するための裏押さえ板550が取り付けられている。更に、環状マスク520の下流側から環状マスク520の外周側、口金510の外周側及び裏押さえ板550の外周側を取り囲むように取り付けられた押さえ治具540は、口金510と環状マスク520を固定するためのホルダーとしての役割を果たす。
【0038】
押出成形装置500による押出成形においては、成形原料が口金510の上流側(図5中の上方)から押出機(図示せず)によって口金510を通じて下流側に押し出される。そして、下流側が開放された口金510の内側部511に備わるスリット511aから押し出された成形原料は、複数のセルを有するハニカム構造部を形成する。一方、口金510の外周部512に備わるスリット512aから押出された成形原料は、隙間部530の作用によって、ハニカム構造が潰されるとともに、押し出し方向から段差部513に沿った方向へと進行方向を変える。成形原料は、隙間部530を抜けると、再び押出方向へと進行方向を変え、セルを取り囲む外周側壁を形成する。このようにして、押出成形装置500から円柱状ハニカム成形体560が連続的に成形される。本実施形態において、押出成形の方向は水平方向であり、セルの延びる方向が水平方向となるような向きに押出成形される。押出成形の方向が水平方向であると、連続的に長尺の円柱状ハニカム成形体を成形するのに有利である。
【0039】
図6には、環状マスク520の模式的な正面図が示されている。環状マスク520は、円柱状ハニカム成形体の第一底面及び第二底面の外周輪郭を画定するための内周輪郭522を有する。工程Aにおいて使用する環状マスク520の内周輪郭522は、円柱状ハニカム成形体の第一底面及び第二底面の設計上の輪郭と相似形としてもよく、非相似形でもよい。
【0040】
円柱状ハニカム成形体は、押出成形時に寸法誤差が発生することで真円でない場合の他、その後の焼成工程における焼成収縮の不均一性を考慮して意図的に真円としない場合もあるが、予め定めた寸法公差の範囲内にあることが求められる。例えば、円柱状ハニカム成形体は、真円度が2.0mm以下の範囲であれば許容され、1.6mm以下の範囲であることが好ましい。真円度の測定方法は先述した通りである。
【0041】
(工程B:円柱状ハニカム成形体の乾燥)
次いで、円柱状ハニカム成形体を乾燥して円柱状ハニカム乾燥体を得る工程Bを実施する。乾燥工程においては、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の従来公知の乾燥方法を用いることができる。なかでも、成形体全体を迅速かつ均一に乾燥することができる点で、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥とを組み合わせた乾燥方法が好ましい。工程Bにおける円柱状ハニカム成形体の向きには特段の制約はない。また、バッチ式の乾燥機を使用してもよいし、連続式の乾燥機を使用してもよい。量産性及び品質安定性を考慮すると、円柱状ハニカム成形体を、セルの延びる方向が鉛直方向となるような向きに乾燥機内に配置した上で、工程Aで押出成形したときに頂点に位置していた外周側面の箇所が先頭に位置するように乾燥機内を通過させながら円柱状ハニカム成形体を乾燥することが好ましい。
【0042】
目封止部を形成する場合は、乾燥した円柱状ハニカム成形体の両底面に目封止部を形成した上で目封止部を乾燥し、円柱状ハニカム乾燥体を得る。目封止部の材料については、特に制限はないが、強度や耐熱性の観点からセラミックスであることが好ましい。セラミックスとしては、コージェライト、ムライト、ジルコン、チタン酸アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素、ジルコニア、スピネル、インディアライト、サフィリン、コランダム、及びチタニアからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するセラミックス原料であることが好ましい。目封止部はこれらのセラミックスを合計で50質量%以上含む材料で形成されていることが好ましく、80質量%以上含む材料で形成されていることがより好ましい。焼成時の膨張率を同じにでき、耐久性の向上につながるため、目封止部はハニカム成形体の本体部分と同じ材料組成とすることが更により好ましい。
【0043】
目封止部の形成方法について例示的に説明する。目封止スラリーを、貯留容器に貯留しておく。次いで、目封止部を形成すべきセルに対応する箇所に開口部を有するマスクを一方の底面に貼る。マスクを貼った底面を、貯留容器中に浸漬して、開口部に目封止スラリーを充填して目封止部を形成する。他方の底面についても同様の方法で目封止部を形成することができる。
【0044】
(工程C:円柱状ハニカム乾燥体に対する垂れ量測定)
工程Cでは、円柱状ハニカム乾燥体のセルの延びる方向に垂直な断面を、工程Aにおける押出成形の進行方向の前方側から観察したと仮定した場合において、所定の複数の角度範囲における重心位置Oと外周輪郭との距離の平均値から、所定のパラメータ(EAVE1、EAVE2、EAVE3、及びEAVE4)を算出する。本明細書においては、当該パラメータの値を「垂れ量」と称する。円柱状ハニカム乾燥体のセルの延びる方向に垂直な断面を、直接観察するためには、円柱状ハニカム乾燥体を切断する必要があるが、製造途中の円柱状ハニカム乾燥体を破壊することはできない。そこで工程Cは、工程Aにおける押出成形の進行方向の前方側から断面観察したと仮定した場合の垂れ量を算出する。
【0045】
円柱状ハニカム乾燥体のセルの延びる方向に垂直な断面を、工程Aにおける押出成形の進行方向の前方側から観察したと仮定した場合の垂れ量の算出は、例えば、変位計を用いて非破壊で行うことが可能である。変位計の方式は特に制限はないが、例えば、光学式、渦電流式、超音波式、レーザフォーカス式等が挙げられる。一実施形態において、工程Cでは、EAVE1、EAVE2、EAVE3、及びEAVE4の算出のために、円柱状ハニカム乾燥体を回転ステージの上に、第一底面又は第二底面を上側にして載置する工程と、回転ステージを一回転させながら、変位計を使用して円柱状ハニカム乾燥体の外周側面の何れかの地点と変位計の間の距離を連続的に測定する工程とを行う。
【0046】
図7には、変位計を用いて工程Cを実施するのに好適な形状測定装置700の構成を説明するための模式的な斜視図が示されている。形状測定装置700は一実施形態において、円柱状ハニカム乾燥体750を載置し、回転軸Aを中心に回転可能な回転ステージ710と、円柱状ハニカム乾燥体750の外周側面753に対してレーザ722を照射することの可能な変位計720と、変位計720による測定結果に基づき垂れ量を算出可能なコンピュータ740と、変位計720を載置し、鉛直方向に移動可能なZステージ770を備えることができる。
【0047】
回転ステージ710は、鉛直方向に延びる回転軸Aを中心に、サーボモータ等の駆動手段によって所定の回転速度で回転可能に構成されている。サーボモータは、回転ステージ710の回転角度等の変位量を検出するためのエンコーダを搭載することができる。
【0048】
Zステージ770はモータ等の駆動手段により移動可能である。例示的には、Zステージ770はロボシリンダー等の電動アクチュエータを用いて構成することができる。電動アクチュエータはリニアガイド、ボールねじ、及びサーボモータ等で構成することができる。サーボモータは、Zステージ770の変位量を検出するためのエンコーダを搭載することができる。
【0049】
形状測定装置700を用いた工程Cの実施手順について例示的に説明する。まず、円柱状ハニカム乾燥体750を、第一底面又は第二底面を上側にして、回転ステージ710に載置する。回転ステージ710に円柱状ハニカム乾燥体750を載置する際、上側の底面(第一底面又は第二底面)の重心位置Oと回転ステージ710の回転軸Aの距離は必ずしも0である必要はなく、両者が離れていても後述する半径R(重心位置Oと外周輪郭との距離)は幾何学的に算出可能であり、変位計によっては自動的に算出することもできる。前記距離は通常は30mm以下、好ましくは20mm以下、より好ましくは10mm以下になるように載置することが望ましい。これにより、円柱状ハニカム乾燥体750が回転ステージ710の上で回転する際、偏心が少なくなり変位計による測定が安定するという利点が得られる。
【0050】
次いで、回転ステージ710に載置した円柱状ハニカム乾燥体750に対してレーザ722を照射する外周側面753の高さ位置を、Zステージ770を上下方向に移動させることにより調節する。レーザ722を照射する外周側面753の高さ位置は、特に制限はないが、測定精度を高める上で測定中は固定させておくことが望ましい。
【0051】
次いで、回転ステージ710を一回転させながら、外周側面753の何れかの地点753aと変位計720の間の距離Lを連続的に測定する。ここで、“連続的に測定する”というのは、回転ステージ710が1°回転する間に最低1回距離Lを測定することを意味し、測定精度及びデータ処理の効率性を考慮すると、回転ステージ710が0.05°~0.5°回転する間に1回距離Lを測定することが好ましく、回転ステージ710が0.1°~0.3°回転する間に1回距離Lを測定することがより好ましい。外周側面753の何れかの地点753aの法線方向における当該地点753aと変位計720の間の距離Lを連続的に測定する場合、回転ステージ710の回転軸Aと、変位計の間の距離をMとすると、円柱状ハニカム乾燥体750の当該断面におけるこの測定地点における重心位置Oと外周輪郭との距離(半径R)は、R=M-Lで表される(図8参照)。なお、外周側面753の何れかの地点753aと変位計720の間の距離Lは、外周側面753の何れかの地点753aの法線方向における距離である必要はなく、その他の方向における距離であっても、半径Rは幾何学的に算出可能であり、変位計によっては自動的に算出することもできる。従って、当該測定によって、円柱状ハニカム乾燥体750の半径Rの一周分の変化が測定可能である。半径Rの一周分の変化は、回転ステージ710の回転角θと関連付けてコンピュータ740内のメモリ等に格納することができる。これにより半径Rを外周側面の特定の箇所と対応付けることが可能である。
【0052】
回転ステージ710を一回転させながら、変位計720を使用して円柱状ハニカム乾燥体750の外周側面753の何れかの地点753aと変位計720の間の距離Lを連続的に測定する工程は、測定精度を高めつつも迅速に検査ができるように、外周側面753の周速度を設定することが好ましい。限定的ではないが、当該測定工程は一実施形態において、円柱状ハニカム乾燥体750を200~1200mm/秒の平均周速度で回転させながら行うことができる。測定の迅速性に鑑みれば、平均周速度の下限は235mm/秒以上であることが好ましい。また、測定精度を高めるという観点から、平均周速度の上限は1000mm/秒以下であることが好ましい。
【0053】
上記手順によって、円柱状ハニカム乾燥体750のセルの延びる方向に垂直な断面を、工程Aにおける押出成形の進行方向の前方側から観察したと仮定した場合の、当該断面の円柱状ハニカム乾燥体750の半径Rの一周分の変化が回転ステージ710の回転角θと関連付けて把握できる。従って、D1AVE、D2AVE、D3AVE、D4AVE、D5AVE、D6AVE、D7AVE、D8AVE及び垂れ量(EAVE1、EAVE2、EAVE3、及びEAVE4)が算出可能である。これらの値は、コンピュータ740により自動的に算出させてもよい。EAVE1、EAVE2、EAVE3、及びEAVE4はそれぞれ以下のように定義される。
AVE1=(D1AVE+D4AVE+D6AVE)-(D2AVE+D5AVE+D8AVE
AVE2=(D3AVE+D6AVE+D8AVE)-(D2AVE+D4AVE+D7AVE
AVE3=(D2AVE+D5AVE+D8AVE)-(D1AVE+D4AVE+D6AVE
AVE4=(D2AVE+D4AVE+D7AVE)-(D3AVE+D6AVE+D8AVE
上記式中、工程Aで押出成形したときに頂点に位置していた外周側面の箇所を0radとし、時計回りを+方向として、
中心角(rad)が-1/8πから+1/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離(半径R)の平均値をD1AVEとし、
中心角(rad)が+1/8πから+3/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離(半径R)の平均値をD2AVEとし、
中心角(rad)が+3/8πから+5/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離(半径R)の平均値をD3AVEとし、
中心角(rad)が+5/8πから+7/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離(半径R)の平均値をD4AVEとし、
中心角(rad)が+7/8πから+9/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離(半径R)の平均値をD5AVEとし、
中心角(rad)が+9/8πから+11/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離(半径R)の平均値をD6AVEとし、
中心角(rad)が+11/8πから+13/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離(半径R)の平均値をD7AVEとし、
中心角(rad)が+13/8πから+15/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離(半径R)の平均値をD8AVEとする(図9参照)。
【0054】
(工程D:EAVE1、EAVE2、EAVE3、及びEAVE4のうちの最小値の特定)
工程Dでは、工程Cで算出した垂れ量であるEAVE1、EAVE2、EAVE3、及びEAVE4のうち、最小値を特定する。EAVE1、EAVE2、EAVE3、及びEAVE4の垂れ量が最も小さい値を基準として、連続焼成炉内における円柱状ハニカム乾燥体の向きを決定し、焼成を行うためである。経験上、EAVE1、EAVE2、EAVE3、及びEAVE4のうち最も小さい値は負の値になることが多い。但し、AVE1、EAVE2、EAVE3、及びEAVE4のうち何れが最も小さい値になるかについての予測は難しい。
【0055】
例えば、(D1AVE+D4AVE+D6AVE)-(D2AVE+D5AVE+D8AVE)=EAVE1が最小値であり、負の値である場合、+1/8πから+3/8πまでの半径R、+7/8πから+9/8πまでの半径R、及び、+13/8πから+15/8πまでの半径Rが相対的に長く、真円から外れていることを意味する。
【0056】
(工程E:円柱状ハニカム乾燥体の焼成)
工程Eでは円柱状ハニカム乾燥体をセルの延びる方向が鉛直方向と平行になるように、且つ、前記最小値に応じて決定される所定の外周側面の箇所が先頭に位置するように円柱状ハニカム乾燥体を棚板に載置し、連続焼成炉内を通過させながら焼成して、円柱状ハニカム焼成体を得る。円柱状ハニカム乾燥体のどちらの底面を上にするかは不問である。焼成工程は、円柱状ハニカム乾燥体の材料組成にもよるが、例えば仮焼体を大気雰囲気で1400~1450℃に加熱して、3~10時間保持することで行うことができる。
【0057】
円柱状ハニカム乾燥体を、セルの延びる方向が鉛直方向と平行になるように棚板に載置し、連続焼成炉内を通過させながら焼成する場合、経験的に、進行方向に対して右斜め45°付近、左斜め45°付近、及び180°後方付近に位置する外周側面付近において、径方向の焼成収縮が相対的に大きい傾向にあることが分かっている。このことを模式的に図10に示す。理論によって本発明が限定されることを意図するものではないが、これは、焼成炉内の風向きや個体内の温度分布差によると考えられる。工程Dを実施したことにより、円柱状ハニカム乾燥体の径方向の長さが相対的に大きい外周側面の箇所は垂れ量の最小値に基づき把握済みである。よって、焼成工程においては、上記経験則を組み合わせて真円に近づくような向きで円柱状ハニカム乾燥体を焼成することで、乾燥時の変形を是正することが可能である。
【0058】
具体的には、
前記最小値がEAVE1のときは、0radに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEAVE2のときは、4/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEAVE3のときは、8/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEAVE4のときは、12/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
円柱状ハニカム乾燥体を棚板に載置する。
【0059】
例えば、先述したように、前記最小値がEAVE1のときは、+1/8πから+3/8πまでの半径R、+7/8πから+9/8πまでの半径R、及び、+13/8πから+15/8πまでの半径Rが相対的に長く、真円から外れている。そこで、0radに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように円柱状ハニカム乾燥体を棚板に載置すると、進行方向に対して右斜め45°付近(+2/8π付近)、左斜め45°付近(+14/8π付近)、及び180°後方付近(+8/8π付近)に位置する外周側面付近において、径方向の焼成収縮が相対的に大きくなる。円柱状ハニカム乾燥体の向きをランダムにして焼成を行うと、焼成体は乾燥体に比べて真円度が平均的に0.2mm程度悪化することが経験的に分かっているが、焼成時にこれらに該当する外周側面の箇所を他の外周側面に比べて大きく収縮させることで真円度の悪化を抑制することが可能になり、好ましくは真円度を改善することも可能になる。
【0060】
但し、円柱状ハニカム乾燥体の変形を焼成時に是正できるとしても、その是正範囲には限界がある。そのため、工程Dで特定した前記最小値が予め定めた基準を満たすかどうかを判定し、前記最小値が当該基準を満たす場合にのみ工程Eを実施してもよい。本発明者の検討によると、円柱状ハニカム乾燥体を上述した載置方法で棚板に載置して円柱状ハニカム乾燥体を連続焼成炉を用いて焼成すると、円柱状ハニカム乾燥体の直径や材質によらず、前記最小値が0.2mm程度増加する。このため、予め定めた基準は、前記最小値が-0.3mm~-0.1mmの範囲にあることとすることが、円柱状ハニカム焼成体の断面を真円に近づける観点から好ましい。
【0061】
また、工程Dで特定した前記最小値が予め定めた基準を満たすかどうかを判定し、前記最小値が予め定めた基準を満たさないときは工程Eを実施せず、当該最小値に応じて、次回作製される円柱状ハニカム乾燥体のEAVE1、EAVE2、EAVE3、及びEAVE4のうち、最小値が前記予め定めた基準を満たすように、内周輪郭が変更された環状マスクを作製する工程Fを行い、その後、当該変更された環状マスクを使用することを条件に、再び工程Aから工程Dまでを繰り返すことが好ましい。
【0062】
例えば、円柱状ハニカム乾燥体の前記最小値がEAVE1=-0.4mmであり、予め定めた基準が“最小値が-0.3mm~-0.1mmの範囲にあること”である場合、EAVE1が-0.2mmに近づくように、環状マスクを修正することができる。より具体的には、EAVE1=(D1AVE+D4AVE+D6AVE)-(D2AVE+D5AVE+D8AVE)であるので、D2AVE、D5AVE、及びD8AVEに対応する環状マスクの箇所の径を相対的に小さくする(内周輪郭を狭める)ことが考えられる。
【0063】
本実施形態においては、垂れ量は、円柱状ハニカム乾燥体の断面について、所定の複数の角度範囲における重心位置Oと外周輪郭との距離の“平均値”に基づき算出していたが、垂れ量は、“平均値”のみならず、“最大値”又は“最小値”で定義してもよい。
【0064】
従って、本発明の別の一実施形態においては、工程Cでは、
(D1MAX+D4MAX+D6MAX)-(D2MAX+D5MAX+D8MAX)=EMAX1
(D3MAX+D6MAX+D8MAX)-(D2MAX+D4MAX+D7MAX)=EMAX2
(D2MAX+D5MAX+D8MAX)-(D1MAX+D4MAX+D6MAX)=EMAX3、及び
(D2MAX+D4MAX+D7MAX)-(D3MAX+D6MAX+D8MAX)=EMAX4を算出する。
上記式中、工程Aで押出成形したときに頂点に位置していた外周側面の箇所を0radとし、時計回りを+方向として、
中心角(rad)が-1/8πから+1/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最大値をD1MAXとし、
中心角(rad)が+1/8πから+3/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最大値をD2MAXとし、
中心角(rad)が+3/8πから+5/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最大値をD3MAXとし、
中心角(rad)が+5/8πから+7/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最大値をD4MAXとし、
中心角(rad)が+7/8πから+9/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最大値をD5MAXとし、
中心角(rad)が+9/8πから+11/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最大値をD6MAXとし、
中心角(rad)が+11/8πから+13/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最大値をD7MAXとし、
中心角(rad)が+13/8πから+15/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最大値をD8MAXとする。
MAX1、EMAX2、EMAX3、及びEMAX4は、EAVE1、EAVE2、EAVE3、及びEAVE4と同様に、変位計を用いた測定結果に基づき算出することができる。
【0065】
また、本発明の別の一実施形態においては、工程Dでは、工程Cで算出したEMAX1、EMAX2、EMAX3、及びEMAX4のうち、最小値を特定する。
【0066】
また、本発明の別の一実施形態においては、工程Eでは、
円柱状ハニカム乾燥体をセルの延びる方向が鉛直方向と平行になるように、且つ、
前記最小値がEMAX1のときは、0radに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEMAX2のときは、4/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEMAX3のときは、8/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEMAX4のときは、12/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
円柱状ハニカム乾燥体を棚板に載置し、
連続焼成炉内を通過させながら焼成して、円柱状ハニカム焼成体を得る。
【0067】
また、本発明の別の一実施形態においては、工程Dで特定したEMAX1、EMAX2、EMAX3、及びEMAX4のうちの最小値が予め定めた基準を満たすかどうかを判定し、前記最小値が当該基準を満たす場合にのみ工程Eを実施する。
【0068】
また、本発明の別の一実施形態においては、工程Dで特定したEMAX1、EMAX2、EMAX3、及びEMAX4のうちの前記最小値が予め定めた基準を満たすかどうかを判定し、前記最小値が予め定めた基準を満たさないときは工程Eを実施せず、当該最小値に応じて、次回作製される円柱状ハニカム乾燥体のEMAX1、EMAX2、EMAX3、及びEMAX4のうち、最小値が前記予め定めた基準を満たすように、内周輪郭が変更された環状マスクを作製する工程Fを行い、その後、当該変更された環状マスクを使用することを条件に、再び工程Aから工程Dまでを繰り返す。
【0069】
また、本発明の別の一実施形態においては、前記予め定めた基準は、EMAX1、EMAX2、EMAX3、及びEMAX4のうちの前記最小値が-0.3mm~-0.1mmの範囲にあることとすることができる。
【0070】
本発明の更に別の一実施形態においては、工程Cでは、
(D1MIN+D4MIN+D6MIN)-(D2MIN+D5MIN+D8MIN)=EMIN1
(D3MIN+D6MIN+D8MIN)-(D2MIN+D4MIN+D7MIN)=EMIN2
(D2MIN+D5MIN+D8MIN)-(D1MIN+D4MIN+D6MIN)=EMIN3、及び
(D2MIN+D4MIN+D7MIN)-(D3MIN+D6MIN+D8MIN)=EMIN4を算出する。
上記式中、工程Aで押出成形したときに頂点に位置していた外周側面の箇所を0radとし、時計回りを+方向として、
中心角(rad)が-1/8πから+1/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最小値をD1MINとし、
中心角(rad)が+1/8πから+3/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最小値をD2MINとし、
中心角(rad)が+3/8πから+5/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最小値をD3MINとし、
中心角(rad)が+5/8πから+7/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最小値をD4MINとし、
中心角(rad)が+7/8πから+9/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最小値をD5MINとし、
中心角(rad)が+9/8πから+11/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最小値をD6MINとし、
中心角(rad)が+11/8πから+13/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最小値をD7MINとし、
中心角(rad)が+13/8πから+15/8πまでの当該断面の重心位置Oと外周輪郭との距離の最小値をD8MINとする。
MIN1、EMIN2、EMIN3、及びEMIN4は、EAVE1、EAVE2、EAVE3、及びEAVE4と同様に、変位計を用いた測定結果に基づき算出することができる。
【0071】
また、本発明の更に別の一実施形態においては、EMIN1、EMIN2、EMIN3、及びEMIN4は、工程Dで特定したEMIN1、EMIN2、EMIN3、及びEMIN4のうちの最小値が予め定めた基準を満たすかどうかを判定し、前記最小値が当該基準を満たす場合にのみ工程Eを実施する。
【0072】
また、本発明の更に別の一実施形態においては、工程Dで特定したEMIN1、EMIN2、EMIN3、及びEMIN4のうちの前記最小値が予め定めた基準を満たすかどうかを判定し、前記最小値が予め定めた基準を満たさないときは工程Eを実施せず、当該最小値に応じて、次回作製される円柱状ハニカム乾燥体のEMIN1、EMIN2、EMIN3、及びEMIN4のうち、最小値が前記予め定めた基準を満たすように、内周輪郭が変更された環状マスクを作製する工程Fを行い、その後、当該変更された環状マスクを使用することを条件に、再び工程Aから工程Dまでを繰り返す。
【0073】
また、本発明の更に別の一実施形態においては、前記予め定めた基準は、EMIN1、EMIN2、EMIN3、及びEMIN4のうちの前記最小値が-0.3mm~-0.1mmの範囲にあることとすることができる。
【0074】
焼成の前に脱脂工程を実施してもよい。バインダーの燃焼温度は200℃程度、造孔材の燃焼温度は300~1000℃程度である。従って、脱脂工程はハニカム成形体を200~1000℃程度の範囲に加熱して実施すればよい。加熱時間は特に限定されないが、通常は、10~100時間程度である。脱脂工程を経た後の円柱状ハニカム乾燥体は仮焼体と称される。
【実施例0075】
以下の実施例及び比較例は、下記の設計上の仕様を有する円柱状ハニカム焼成体の製造方法に関する。
全体形状:直径158mm×高さ100mmの円柱状
セルの流路方向に垂直な断面におけるセル形状:正方形
セル密度(単位断面積当たりのセルの数):600セル/平方インチ
隔壁厚み:69μm
気孔率:27%
【0076】
<試験例1~9>
(1.円柱状ハニカム焼成体の作製)
コージェライト化原料100質量部に、造孔材を1質量部、分散媒を30質量部、有機バインダーを8質量部、分散剤を1質量部をそれぞれ添加し、混合、混練して坏土を調製した。コージェライト化原料としては、アルミナ、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、及びシリカを使用した。分散媒としては水を使用し、造孔材として吸水性樹脂を使用し、有機バインダーとしてはヒドロキシプロピルメチルセルロースを使用し、分散剤としてはエチレングリコールを使用した。
【0077】
この坏土を押出成形装置に投入し、所定のセルの開口形状を画定する口金、及び口金の下流に設置され、第一底面及び第二底面の外周輪郭を画定するための内周輪郭(直径=175.0mmの真円状)を有する環状マスクを介して押出成形することにより円柱状ハニカム成形体を得た。押出成形の方向は水平方向とした。得られた各試験例に係る円柱状ハニカム成形体を誘電乾燥及び熱風乾燥した後、所定の寸法となるように両底面を切断して、円柱状ハニカム乾燥体を得た。誘電乾燥及び熱風乾燥の際は、セルの延びる方向が鉛直方向となるような向きに乾燥機内に配置した上で、押出成形したときに頂点に位置していた外周側面の箇所が先頭に位置するように乾燥機内を通過させながら乾燥した。
【0078】
図7に示す形状測定装置700の回転ステージ710の上に、回転軸Aと円柱状ハニカム乾燥体750の上側の底面の重心位置Oが一致するように円柱状ハニカム乾燥体を載置し、先述した手順により、回転ステージ710を一回転(553mm/秒の平均周速)させながら、外周側面753の何れかの地点753aの法線方向における当該地点753aと変位計720の間の距離を連続的(回転ステージが0.12°回転する毎に1回測定)に測定した。当該測定結果に基づき、円柱状ハニカム乾燥体のセルの延びる方向に垂直な断面を、工程Aにおける押出成形の進行方向の前方側から観察したと仮定した場合における、D1AVE、D2AVE、D3AVE、D4AVE、D5AVE、D6AVE、D7AVE、D8AVEを算出し、更に垂れ量(EAVE1、EAVE2、EAVE3、及びEAVE4)を算出した。変位計720としては、Micro-Epsilon社製型式ILD2300-100のレーザ変位計を使用した。レーザ722を照射する外周側面753の高さ位置は、円柱状ハニカム乾燥体の中心とした。また、当該測定結果から、先述した真円度を求めた。結果を表1に示す。各試験例に係る円柱状ハニカム成形体及び円柱状ハニカム乾燥体の製造条件は意図的に変化させていないが、表1に示すように若干の寸法変動が生じた。
【0079】
AVE1、EAVE2、EAVE3、及びEAVE4の4つのパラメータのうちの最小値、及び最小値を示したパラメータを特定した。結果を表1に示す。
次いで、試験例1~6、9については、円柱状ハニカム乾燥体をセルの延びる方向が鉛直方向と平行になるように、且つ、
前記最小値がEAVE1のときは、0radに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEAVE2のときは、4/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEAVE3のときは、8/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
前記最小値がEAVE4のときは、12/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、
円柱状ハニカム乾燥体を棚板に載置した。
試験例7については、円柱状ハニカム乾燥体をセルの延びる方向が鉛直方向と平行になるように、且つ、0radに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、円柱状ハニカム乾燥体を棚板に載置した。
試験例8については、円柱状ハニカム乾燥体をセルの延びる方向が鉛直方向と平行になるように、且つ、8/8πradに対応する外周側面の箇所が先頭に位置するように、円柱状ハニカム乾燥体を棚板に載置した。
その後、円柱状ハニカム乾燥体を載置した棚板を台車に乗せて連続焼成炉内の脱脂領域及び焼成領域を通過させることにより以下の条件で焼成を行い、円柱状ハニカム焼成体を得た。
[焼成条件]
焼成領域の保持温度:1430℃
保持温度における保持時間:240分
炉内ガスの流れ方向:焼成収縮に最も影響のある昇温領域及び保持温度領域の前半部分はワークに対して相対的に向かい風
バーナーの位置:炉内の上部側面及び下部側面
【0080】
得られた各試験例に係る円柱状ハニカム焼成体に対しても、円柱状ハニカム乾燥体と同様に、形状測定装置700を用いて、D1AVE、D2AVE、D3AVE、D4AVE、D5AVE、D6AVE、D7AVE、D8AVEを算出した。そして、乾燥体について求めた4つの垂れ量のうち最小値を示したパラメータの焼成後の垂れ量を算出した。結果を表1に示す。また、円柱状ハニカム焼成体の真円度も同様に求めた。先述したように、円柱状ハニカム乾燥体の向きをランダムにして焼成を行うと、焼成体は乾燥体に比べて真円度が平均的に0.2mm程度悪化することから、真円度の悪化が0.2mm未満であれば有意な改善が見られると判断される。従って、真円度の悪化が0.2mm未満の場合に「OK」とし、0.2mm以上の場合に「NG」とした。結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
<考察>
試験例1~6、9については、円柱状ハニカム乾燥体を焼成する際の円柱状ハニカム乾燥体の向きを適正化したことで、得られた円柱状ハニカム焼成体の真円度の焼成時の悪化が試験例7及び8に比べて抑制されていることが分かる。また、円柱状ハニカム乾燥体から求めた4つの垂れ量のうち最小値を示したパラメータの焼成前後の垂れ量変化は+0.2mm程度であるので、これを基準にして、円柱状ハニカム乾燥体における前記最小値の合格基準を定めることで、焼成工程に進むことができるのか、又は、環状マスクの内周輪郭を改変して再度成形体を作製すべきかを判断できる。
【符号の説明】
【0083】
100 :円柱状ハニカム焼成体
102 :外周側面
103 :外周側壁
104 :第一底面
106 :第二底面
108 :セル
112 :隔壁
200 :円柱状ハニカム焼成体
202 :外周側面
203 :外周側壁
204 :第一底面
206 :第二底面
208a :第1セル
208b :第2セル
209 :目封止部
212 :隔壁
500 :押出成形装置
510 :口金
511 :内側部
511a :スリット
512 :外周部
512a :スリット
513 :段差部
520 :環状マスク
522 :内周輪郭
530 :隙間部
540 :押さえ治具
550 :裏押さえ板
560 :円柱状ハニカム成形体
700 :形状測定装置
710 :回転ステージ
720 :変位計
722 :レーザ
740 :コンピュータ
750 :円柱状ハニカム乾燥体
753 :外周側面
753a :外周側面の地点
770 :Zステージ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10