(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151175
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】曝気装置の運転制御システム
(51)【国際特許分類】
C02F 3/12 20230101AFI20231005BHJP
【FI】
C02F3/12 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060638
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】507036050
【氏名又は名称】住友重機械エンバイロメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】栗栖 治夫
【テーマコード(参考)】
4D028
【Fターム(参考)】
4D028AB00
4D028AB03
4D028BC24
4D028BD06
4D028CA07
4D028CA10
4D028CB03
4D028CC04
4D028CC07
4D028CD01
4D028CD04
4D028CE04
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、一定の方向に向かって被処理水の流れが形成される生物処理槽において、被処理水の流れ方向における曝気量の過不足を低減し、生物処理槽全体にわたって適切な生物処理を行うことが可能な曝気装置の運転制御システム及び運転制御方法を提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するために、一定の方向に向かって被処理水の流れが形成される生物処理槽内に、被処理水の流れ方向に沿って配置された曝気装置の運転制御システムであって、前記流れ方向の複数の位置における各曝気量を決定する制御部を備えることを特徴とする、曝気装置の運転制御システムを提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の方向に向かって被処理水の流れが形成される生物処理槽内に、被処理水の流れ方向に沿って配置された曝気装置の運転制御システムであって、
前記流れ方向の複数の位置における各曝気量を決定する制御部を備えることを特徴とする、曝気装置の運転制御システム。
【請求項2】
前記複数の位置における各曝気量は、前記生物処理槽の所定の位置における酸素消費速度に基づいて決定することを特徴とする、請求項1に記載の曝気装置の運転制御システム。
【請求項3】
前記複数の位置における各曝気量は、前記生物処理槽の所定の位置における溶存酸素量に基づいて決定することを特徴とする、請求項1に記載の曝気装置の運転制御システム。
【請求項4】
一定の方向に向かって被処理水の流れが形成される生物処理槽内に、被処理水の流れ方向に沿って配置された曝気装置の運転制御方法であって、
前記流れ方向の複数の位置における各曝気量を決定する制御ステップを備えることを特徴とする、曝気装置の運転制御方法。
【請求項5】
一定の方向に向かって被処理水の流れが形成される生物処理槽内に、被処理水の流れ方向に沿って配置された曝気装置の曝気量の制御を実行するプログラムであって、
前記流れ方向の複数の位置における各曝気量を決定する制御ステップを備えることを特徴とする、曝気装置の曝気量の制御を実行するプログラム。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載の曝気装置の運転制御システムを備えることを特徴とする、曝気装置。
【請求項7】
生物処理槽と、請求項6に記載の曝気装置を備えることを特徴とする、生物処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物処理槽に設置する曝気装置の運転制御システム及び運転制御方法に関するものである。特に、一定の方向に向かって被処理水の流れが形成される生物処理槽内に、被処理水の流れ方向に沿って配置された曝気装置の運転制御システム及び運転制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水や工場排水などの生物学的に分解できる汚濁物質を含む排水の生物処理方法として、曝気装置から空気を供給して好気性微生物による分解処理を促進する方法が利用されている。生物処理方法に使用する生物処理槽では、所定の位置に配置された投入部から被処理水を投入し、投入部と対向する位置に配置された排出部から処理水を排出することにより、生物処理槽内に投入部から排出部に向かって被処理水の流れが形成される。そして、曝気装置は、被処理水の流れ方向に沿って配置され、生物処理槽の全体に空気を供給している。
【0003】
例えば、特許文献1には、好気性微生物による生物処理方法において、担体又はグラニュールの酸素消費速度の計測値の変動に応じて溶存酸素量(DO)の目標値又は曝気強度の設定値を調整する方法が記載されている。特許文献1に記載された生物処理方法では、経時的に変化する生物処理槽内の担体やグラニュールの性状に適合した必要十分な酸素供給を推定し、DOの目標値や曝気強度の設定値を変更して制御するため、より適切な曝気制御が可能となることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載される生物処理方法では、生物処理槽全体の溶存酸素量の目標値や曝気強度の設定値を調整することで適切な曝気制御を行っており、曝気量は、生物処理槽全体として均等に供給している。
しかしながら、被処理水の負荷(有機物量)は時間ごとに変動しており、生物処理槽の被処理水の流れ方向において有機物量に濃淡が生じている。例えば、下水の場合には、雨水の流入などにより有機物量に変動が生じたり、工場排水の場合には、製造時の有機性廃水の発生などにより有機物量に変動が生じたりする。そのため、特許文献1に記載される生物処理方法のように、生物処理槽全体として曝気量を均等に供給する方法では、被処理水の流れ方向において、曝気量が過剰な領域や曝気量が不足する領域が生じている。
また、被処理水中の有機物は、生物処理槽内を流れる間に分解されるため、投入後から排出までの間に有機物量が低下する。そのため、特許文献1に記載される生物処理槽のように、生物処理槽全体として曝気量を均等に供給する方法では、処理槽前半では曝気量が不足し、処理槽後半では曝気量が過剰となっている。
【0006】
そこで、本発明の課題は、一定の方向に向かって被処理水の流れが形成される生物処理槽において、被処理水の流れ方向における曝気量の過不足を低減し、生物処理槽全体にわたって適切な生物処理を行うことが可能な曝気装置の運転制御システム及び運転制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、一定の方向に向かって被処理水の流れが形成される生物処理槽において、流れ方向の複数の位置における各曝気量をそれぞれ決定することで、生物処理槽全体にわたって適切な生物処理を行うことが可能となることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の曝気装置の運転制御システム及び運転制御方法である。
【0008】
上記課題を解決するための本発明の曝気装置の運転制御システムは、一定の方向に向かって被処理水の流れが形成される生物処理槽内に、被処理水の流れ方向に沿って配置された曝気装置の運転制御システムであって、前記流れ方向の複数の位置における各曝気量を決定する制御部を備えることを特徴とするものである。
この曝気装置の運転制御システムによれば、被処理水の流れ方向の複数の位置における曝気量をそれぞれ決定するため、生物処理槽全体にわたって曝気量の過不足を低減し、適切な生物処理を行うことが可能となる。
【0009】
また、本発明の曝気装置の運転制御システムの一実施態様としては、複数の位置における各曝気量は、生物処理槽の所定の位置における酸素消費速度に基づいて決定するという特徴を有するものである。
この特徴によれば、微生物の活性化に最適な曝気量を決定することができるため、曝気量の過不足を一層低減することが可能となる。
【0010】
また、本発明の曝気装置の運転制御システムの一実施態様としては、複数の位置における各曝気量は、生物処理槽の所定の位置における溶存酸素量に基づいて決定するという特徴を有するものである。
この特徴によれば、簡便な方法で曝気量の過不足を観察し、複数の位置における各曝気量として適切な曝気量を決定することができる。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の曝気装置の運転制御方法は、一定の方向に向かって被処理水の流れが形成される生物処理槽内に、被処理水の流れ方向に沿って配置された曝気装置の運転制御方法であって、前記流れ方向の複数の位置における各曝気量を決定する制御ステップを備えることを特徴とするものである。
この曝気装置の運転制御方法によれば、被処理水の流れ方向の複数の位置における曝気量をそれぞれ決定するため、生物処理槽全体にわたって曝気量の過不足を低減し、適切な生物処理を行うことが可能となる。
【0012】
上記課題を解決するための本発明の曝気装置の曝気量の制御を実行するプログラムは、一定の方向に向かって被処理水の流れが形成される生物処理槽内に、被処理水の流れ方向に沿って配置された曝気装置の曝気量の制御を実行するプログラムであって、前記流れ方向の複数の位置における各曝気量を決定する制御ステップを備えることを特徴とするものである。
このプログラムによれば、既存の曝気装置に対して、本発明の曝気装置の運転制御システムを導入することが可能となる。
【0013】
上記課題を解決するための本発明の曝気装置は、本発明の曝気装置の運転制御システムを備えることを特徴とするものである。
この曝気装置によれば、被処理水の流れ方向の複数の位置における曝気量をそれぞれ決定するため、生物処理槽全体にわたって曝気量の過不足を低減し、適切な生物処理を行うことが可能となる。
【0014】
上記課題を解決するための本発明の生物処理システムは、本発明の曝気装置を備えることを特徴とするものである。
この生物処理システムによれば、被処理水の流れ方向の複数の位置において、有機物量に応じて適切な曝気量で空気を供給するため、生物処理槽全体にわたって適切な生物処理を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、一定の方向に向かって被処理水の流れが形成される生物処理槽において、被処理水の流れ方向における曝気量の過不足を低減し、生物処理槽全体にわたって適切な生物処理を行うことが可能な曝気装置の運転制御システム及び運転制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1の実施態様に係る曝気装置の運転制御システムの概略説明図である。
【
図2】本発明の第1の実施態様に係る曝気装置の運転制御システムに使用するOUR測定装置の概略説明図である。
【
図3】本発明の第1の実施態様に係る曝気装置の運転制御システムに使用するOUR測定装置により得られる必要酸素量を示すグラフの一例である。
【
図4】従来の生物処理システムによる必要酸素量(AOTR)と曝気量(酸素量として)の関係を表すグラフである。
【
図5】本発明の第1の実施態様に係る生物処理システムによる必要酸素量(AOTR)と曝気量(酸素量として)の関係を表すグラフである。
【
図6】本発明の第1の実施態様に係る曝気装置の曝気量の制御を実行する第1のプログラムを説明するブロック図である。
【
図7】本発明の第2の実施態様に係る曝気装置の運転制御システムの概略説明図である。
【
図8】本発明の第2の実施態様に係る曝気装置の曝気量の制御を実行する第2のプログラムを説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る曝気装置の運転制御システム及び曝気装置の運転制御方法の実施態様を詳細に説明する。
なお、実施態様に記載する曝気装置の運転制御システム及び曝気装置の運転制御方法については、本発明に係る曝気装置の運転制御システム及び曝気装置の運転制御方法を説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。
また、実施態様に記載する曝気装置の運転制御システムの説明は、曝気装置の運転制御方法、曝気装置の曝気量の制御を実行するプログラムの説明に置き換えることができる。
【0018】
[第1の実施態様]
図1は、本発明の第1の実施態様における生物処理システム10Aを示す概略説明図である。生物処理システム10Aは、下水や食品や飲料の工場排水など、有機性の汚濁物質が含まれる被処理水W0に対して生物処理を行うための装置である。生物処理では、空気を供給して微生物を活性化させることにより有機性の汚濁物質を分解する処理を行う。
【0019】
本実施態様に係る生物処理システム10Aは、
図1に示すように、生物処理槽11及び曝気装置12を備えるものである。
生物処理槽11は、所定の位置に配置された投入部から被処理水W0を投入し、投入部と対向する位置に配置された排出部から処理水W1を排出することにより、生物処理槽11内に投入部から排出部に向かって被処理水W0の流れが形成される。生物処理槽11に投入された被処理水W0は、生物処理槽11内を通過する間に生物処理が行われ、生物処理槽内での被処理水W0の滞留時間(Hydraulic retention time,HRT)は、被処理水W0の投入量により調整することができる。
【0020】
生物処理槽11の形状は、一定の方向に向かって被処理水の流れが形成されるものであれば特に制限されないが、例えば、平面形状として矩形状の生物処理槽が挙げられる。矩形状の生物処理槽のように、直線状の被処理水の流れを形成するもの以外にも、蛇行形状の被処理水の流れや、循環する被処理水の流れを形成するものでもよい。
【0021】
(曝気装置)
曝気装置12は、
図1に示すように、散気部2と、散気部2における空気の供給量を制御する運転制御システム1Aを備える。
散気部2は、ブロアBと、ブロアBから供給された空気を生物処理槽11に供給するための配管を備える。ブロアBからの空気を流通する配管は、複数に分岐しており、さらに分岐した各配管の先端には、散気部2A~2Dを備える。散気部2A~2Dは、生物処理槽11内に空気を気泡として供給する機能を有するものであり、例えば、複数の孔を有する散気管や、複数の孔を有する散気板などが挙げられる。散気部2A~2Dは、生物処理槽11内の被処理水W0の流れ方向に沿って配置されており、被処理水W0の投入部側から排出部に向かって散気部2A~2Dの順に配置されている。
また、複数に分岐した配管は、それぞれ流量調整弁V1~V4を備えており、各配管を流通する空気量を独立して調整することができる。
【0022】
(運転制御システム)
運転制御システム1Aは、生物処理槽11内の被処理水の水質を測定する水質測定部4と、散気部2A~2Dの各曝気量を決定する制御部3Aを備える。水質測定部4は、散気部2A~2Dが配置された位置から被処理水を採取し、各位置から採取された各被処理水の水質を確認するものである。制御部3Aは、水質測定部4で測定された測定結果に基づいて各位置における空気の供給量を決定するものである。
【0023】
水質は、生物処理における空気の供給量を決定するための指標となるものであればよく、例えば、酸素消費速度(Oxygen Uptake Rate,OUR)、溶存酸素量(Dissolved Oxygen,DO)、水温、pHなどが挙げられる。酸素消費速度を測定する場合は、被処理水の生物処理に必要な酸素量を精密に算出できるという利点がある。また、溶存酸素量を測定する場合は、測定時間が短く迅速に酸素供給量を決定できるという利点がある。水温、pHを測定する場合は、微生物の活性の強さから酸素供給量を推認することが可能である。空気の供給量の決定において、指標となる水質の測定結果は、単一種類の測定結果だけでなく、複数種類の測定結果を利用してもよい。
【0024】
また、水質の測定は、第1の実施態様の運転制御システム1Aのように、散気部2A~2Dのすべての位置において測定する態様のほか、少なくとも生物処理槽11内の所定の位置において測定する態様とし、所定の位置において測定された水質結果と過去の実績値などから、シミュレーションや人工知能(AI)により他の位置の水質を算定してもよい。例えば、散気部2Aの位置のみで水質を測定し、その他の散気部2B~2Dの位置における水質は、散気部2Aの位置の水質結果と過去の実績値からのシミュレーションにより算定するという態様や、散気部2Aと2Cの位置のみで水質を測定し、その他の散気部2Bと2Dの位置における水質は、散気部2Aと2Cの位置の水質結果と過去の実績値からのシミュレーションにより算定するという態様や、投入部における被処理水W0の水質を測定し、散気部2A~2Dの位置における水質は、投入部における水質結果と過去の実績値からのシミュレーションにより算出するという態様でもよい。
【0025】
図2に、水質測定部4として、OUR測定装置4Aを使用する例を挙げる。
図2に示すように、OUR測定装置4Aは、酸素供給部41とDO測定部42を備える。酸素供給部41は、採取された被処理水の測定試料に、空気を供給して、初期DOを与えるためのものである。DO測定部42は、閉鎖系において酸素供給部41で初期DOが与えられた測定試料のDOの経時的変化を観察するものである。
【0026】
酸素供給部41は、測定試料を保持する容器と、測定試料に空気を供給する空気供給手段を備える。例えば、散気部2A~2Dのいずれかの位置から採取された被処理水W0が配管L1~L4を介して容器に投入され、次いで、容器に投入された被処理水W0に対して空気供給手段により空気が供給される。空気の供給手段は、特に制限されないが、容器内の下方から微細な気泡を供給する散気手段を使用することが好ましい。なお、測定試料の初期DOがOURの測定条件を満たす場合には、酸素供給部41を介さずに、直接DO測定部42に測定試料を供給してもよい。また、DO測定部42の容器に空気供給手段を設けて、一つの容器で酸素供給とDO測定を行ってもよい。なお、一つの容器で酸素供給とDO測定を行う場合、容器に投入された測定試料に空気を供給して初期DOを与えた後、空気の供給を停止してDO測定を行うことができる。
【0027】
DO測定部42は、酸素供給部41から送液された被処理水W0を保持する閉鎖系の容器と、容器内の被処理水W0のDOを測定するためのセンサー43及びDO計44と、被処理水を撹拌するための撹拌手段45を備える。例えば、被処理水W0を撹拌手段45により被処理水W0を撹拌しながら、センサー43及びDO計44により被処理水W0のDOの経時的変化を観察する。
【0028】
図3に、被処理水W0のDOの経時的変化を示すグラフの例を挙げる。
図3に示すように、時間の経過と共にDOが低下し、この低下速度からOURが求められる。OURは、被処理水W0の生物学的要件等から必要とされる必要酸素量となる。
【0029】
制御部3Aは、水質測定部4で測定された測定結果に基づいて各位置における空気の供給量を決定するものである。例えば、水質測定部4で測定された酸素消費速度(OUR)から空気の供給量を算出する場合、OURを必要酸素量(Actual Oxygen Transfer Rate,AOTR)とみなして、次の式1から酸素供給量(Standard Oxygen Transfer Rate,SOTR)を求める。
【数1】
酸素供給量(SOTR):T
1℃における清水状態での酸素供給(kgO
2/d)
必要酸素量(AOTR):被処理水のT
2℃における1日当たりの酸素移動速度(kgO
2/d)
T
1:曝気装置性能の前提となる清水温度(℃)
T
2:被処理水の水温
C
S1:清水T
1℃での飽和酸素濃度(mg/L)
C
S2:清水T
2℃での飽和酸素濃度(mg/L)
C
0:被処理水のDO(mg/L)
α:総括酸素移動容量係数K
Laの補正係数
(清水でのK
Laに対する被処理水でのK
Laの比)
標準活性汚泥法の場合は0.83
β:飽和酸素濃度の補正係数
(清水での飽和酸素濃度に対する被処理水での飽和酸素濃度の比)
標準活性汚泥法の場合は0.95
γ:散気水深による飽和酸素濃度の補正係数
【数2】
h:散気水深(m)
P:処理場における大気圧(kPa)
【0030】
また、曝気装置の必要空気量Gs(「運転SOTR」ともいう。)は、次の式3により算出する。
【数3】
G
S:必要空気量(m
3/min)
E
A:酸素移動効率(%)
ρ:空気密度(1.293kg空気/Nm
3)
O
W:空気中酸素含有重量(0.233kgO
2/kg空気)
T
3:標準状態温度(送風機吸込み空気温度)=20(℃)
【0031】
以上のように、制御部3Aでは、散気部2A~2Dのすべての位置における被処理水W0の必要空気量(運転SOTR)を算出して、散気部2A~2Dにおける曝気量を決定する。なお、不十分な処理液の発生を防止するため、算出された必要空気量よりも多い量の曝気量を設定してもよい。
散気部2A~2Dにおける曝気量の調整は、流量調整弁V1~V4の開閉を調整することにより行うことができる。このように、散気部2A~2Dの位置における被処理水W0に対する適切な曝気を行うことにより、酸素不足の状態や酸素過剰な状態が生じないように調整することができる。
【0032】
図4には、従来の生物処理システムによる必要酸素量(AOTR)と曝気量(酸素量として)の関係を表すグラフを示している。
図4に示すように、従来の生物処理システムでは、生物処理槽に投入する被処理水の汚濁物質と、生物処理槽内に滞留する滞留時間から全体として十分な曝気量を算出し、生物処理槽内の曝気量配分は全体にわたって同じ曝気量で行ったり、熟練者が経験的に生物処理槽の各位置における曝気量を適宜調整したりするなどを行っている。そのため、
図4に示すような、生物処理槽内の曝気量配分を全体にわたって同じ曝気量で行う場合には、生物処理槽の前半では、必要酸素量よりも曝気量が小さくなって、酸素が不足した状態となり、後半では、必要酸素量よりも曝気量が大きくなって、酸素が過剰な状態となる。また、熟練者が経験的に曝気量を調整する場合には、処理不良が生じないように安全性を考慮し、結局のところ曝気量を多めに供給しており、無駄なエネルギーを多く消費している。
【0033】
図5には、本発明の第1の実施態様に係る生物処理システムによる必要酸素量(AOTR)と曝気量(酸素量として)の関係を表すグラフを示している。なお、
図5は、AOTRのグラフに沿った理想の曝気量を示すイメージ図であり、本発明の生物処理システムの曝気量のグラフはこれに限定するものではない。
本発明の生物処理システムによれば、散気部2A~2Dの各位置における曝気量は、各位置における必要酸素量(AOTR、OUR)に基づいて算出された量であるため、曝気量(酸素量として)と必要酸素量(AOTR、OUR)が近似するグラフとなる。これにより、生物処理槽全体にわたって曝気量の過不足を低減し、適切な生物処理を行うことが可能となる。
【0034】
なお、本発明の実施態様に係る生物処理システムは、その他の水質に関する検査値を加えて曝気量を制御してもよい。例えば、生物処理槽11に配置された曝気装置12より排出部側に溶存酸素量計DOを設けて、曝気処理後のDOにより曝気量をフィードバック制御してもよい。具体的には、曝気処理後のDOが所定値より高い場合には、曝気量を増量する制御(運転SOTRからの増量分を更に増加する制御)を行ってもよい。
【0035】
(第1のプログラム)
図6には、本発明の曝気装置の曝気量の制御を実行する第1のプラグラムを説明するブロック図である。
図6に示すように、本発明の第1のプログラムは、スタート後、t=1の位置における水質S1を測定する(Step1)。次に、t=1の位置における水質S1の測定結果から曝気量A1を決定する(Step2)。次いで、t=1の位置における曝気量をA1に基づいて調整する(Step3)。
その後、t=nの位置における水質Snを測定する(Step4)。次に、t=nの位置における水質Snの測定結果から曝気量Anを決定する(Step5)。次いで、t=nの位置における曝気量をAnに基づいて調整する(Step6)。
その後、プログラムを継続する場合には、最初から繰り返し、継続しない場合には、プログラムを終了する(Step7)。
【0036】
上記第1のプログラムを第1の実施態様の生物処理システム10Aを例に説明すると、散気部2Aの位置をt=1、散気部2Bの位置をt=2、散気部2Cの位置をt=3,散気部2Dの位置をt=4とする。
散気部2Aの位置から配管L1を介して被処理液を採取し、水質測定部4でOURを測定する(Step1)。次に、得られたOURの結果から、運転SOTRを算出し、散気部2Aの位置における曝気量A1を決定し(Step2)、流量調整弁V1により散気部2Aの曝気量を調整する(Step3)。
その後、散気部2Bの位置から配管L2を介して被処理液を採取し、水質測定部4でOURを測定する(Step4)。次に、得られたOURの結果から、運転SOTRを算出し、散気部2Bの位置における曝気量を決定し(Step5)、流量調整弁V2により散気部2Bの曝気量を調整する(Step6)。
その後、散気部2C、2Dについても散気部2Bと同様に実行し、散気部2C、2Dにおける曝気量を調整する(Step4~6を繰り返す)。
散気部2A~2Dについて曝気量を調整後、プログラムを継続する場合には、散気部2Aの位置から繰り返し、継続しない場合には、プログラムを終了する(Step7)。
【0037】
[第2の実施態様]
図7は、本発明の第2の実施態様における生物処理システム10Bを示す概略説明図である。生物処理システム10Bは、散気部2Aの位置から採取した被処理水W0における水質の測定結果に基づいて、散気部2Aの曝気量を決定し、次いで、散気部2B~2Dにおける曝気量を過去の実績からシミュレーションにより決定する制御部3Bを備えるものである。その余の点については、第1の実施態様における生物処理システム10Aと同様である。
【0038】
制御部3Bにおける散気部2B~2Dの曝気量の決定は、過去の実績や滞留時間などのパラーメータから決定する。例えば、散気部2Aの位置にある被処理水W0は、滞留時間から散気部2B、散気部2C、散気部2Dの位置まで移動する時間を算出することができる。また、散気部2Aにおける水質の測定結果や曝気量と、過去の実績値等から、散気部2B~2Dの位置に移動する被処理水W0の水質をそれぞれ予測し、その予測値に基づいて運転SOTRを求め、曝気量を決定することができる。なお、散気部2B~2Dの位置における水質の予測値は、シミュレーションやAIなどを利用して得ることができる。
【0039】
(第2のプログラム)
図8には、本発明の曝気装置の曝気量の制御を実行する第2のプラグラムを説明するブロック図である。
図6に示すように、本発明の第2のプログラムは、スタート後、t=1の位置における水質S1を測定する(Step1)。次に、t=1の位置における水質S1の測定結果から曝気量A1を決定する(Step2)。次いで、t=1の位置における曝気量をA1に基づいて調整する(Step3)。
その後、t=1の位置における水質S1の測定結果から、t=X時間後の位置における水質Sxを予測し、その予測値に基づいて曝気量Axを決定する(Step4)。次いで、t=X時間後に、t=X時間後の位置における曝気量をAxに基づいて調整する(Step5)。
その後、プログラムを継続する場合には、最初から繰り返し、継続しない場合には、プログラムを終了する(Step6)。
【0040】
上記第2のプログラムを第2の実施態様の生物処理システム10Bを例に説明すると、散気部2Aの位置をt=X1、散気部2Bの位置をt=X2、散気部2Cの位置をt=X3,散気部2Dの位置をt=X4とする。
散気部2Aの位置から配管L1を介して被処理液を採取し、水質測定部4でOURを測定する(Step1)。次に、得られたOURの結果から、運転SOTRを算出し、散気部2Aの位置における曝気量A1を決定し(Step2)、流量調整弁V1により散気部2Aの曝気量を調整する(Step3)。
また、得られたOURに基づいて決定された曝気量、滞留時間、過去の処理実績から、シミュレーションによりt=X2時間後(散気部2Bの位置)、t=X3時間後(散気部2Cの位置)、t=X4時間後(散気部2Dの位置)の水質の予測値を求める。次いで、これらの水質の予測値から、各位置における運転SOTRを算出し、各散気部2B~2Dの曝気量を決定する(Step4)。そして、t=X2時間後に流量調整弁V2により散気部2Bの曝気量を調整し、t=X3時間後に流量調整弁V3により散気部2Cの曝気量を調整し、t=X4時間後に流量調整弁V4により散気部2Dの曝気量を調整する(Step5)。
散気部2A~2Dについて曝気量を調整後、プログラムを継続する場合には、散気部2Aの位置から繰り返し、継続しない場合には、プログラムを終了する(Step6)。
【0041】
なお、上述した実施態様は曝気装置の運転制御システム及び曝気装置の運転制御方法の一例を示すものである。本発明に係る曝気装置の運転制御システム及び曝気装置の運転制御方法は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る曝気装置の運転制御システム及び曝気装置の運転制御方法を変形してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の曝気装置の運転制御システム及び曝気装置の運転制御方法は、下水処理場や食品や飲料の工場などの排水処理場などの有機性排水を処理する水処理施設において好適に利用されるものである。
【符号の説明】
【0043】
10A,10B 生物処理システム、11 生物処理槽、12 曝気装置、1A,1B 運転制御システム、2,2A,2B,2C,2D 散気部、3A,3B 制御部、4 水質測定部、4A OUR測定装置、41 酸素供給部、42 DO測定部、43 センサー、44 DO計、V1,V2,V3,V4 流量調整弁、B ブロア、DO 溶存酸素測定部、P ポンプ、W0 被処理水、W1 処理水