(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151180
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】シリカ系中空粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
C01B33/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060647
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(72)【発明者】
【氏名】江上 美紀
(72)【発明者】
【氏名】荒金 宏忠
(72)【発明者】
【氏名】村口 良
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072BB05
4G072BB16
4G072DD04
4G072GG01
4G072HH21
4G072MM24
4G072MM31
4G072MM32
4G072RR19
4G072TT01
4G072TT05
4G072TT30
4G072UU09
(57)【要約】
【課題】絶縁材料の低誘電率化及び低誘電正接化を可能とするシリカ系粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】珪酸アルカリ水溶液を熱風気流中で噴霧乾燥して中空粒子を調製する第一工程と、前記中空粒子に含まれるアルカリを酸溶液中で中和した後、洗浄して除去する第二工程と、前記アルカリ除去された中空粒子を焼成する第三工程とを有し、前記第二工程において、前記中空粒子中のアルカリ金属イオンのモル数と価数を乗じた値(Msp)に対する、酸の水素イオンのモル数(MH+)の比(MH+/Msp)が4.7を超える酸溶液を用いる方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸アルカリ水溶液を熱風気流中で噴霧乾燥して中空粒子を調製する第一工程と、
前記中空粒子に含まれるアルカリを酸溶液中で中和した後、洗浄して除去する第二工程と、
前記アルカリ除去された中空粒子を焼成する第三工程と、
を有するシリカ系中空粒子の製造方法であって、
前記第二工程において、前記中空粒子中のアルカリ金属イオンのモル数と価数を乗じた値(Msp)に対する、酸の水素イオンのモル数(MH+)の比(MH+/Msp)が4.7を超える酸溶液を用いることを特徴とするシリカ系中空粒子の製造方法。
【請求項2】
前記第二工程における酸溶液の液温が50℃以上であることを特徴とする請求項1に記載のシリカ系中空粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第二工程において、中空粒子に含まれるアルカリ量を100ppm以下に低減することを特徴とする請求項1又は2に記載のシリカ系中空粒子の製造方法。
【請求項4】
前記第三工程における焼成温度が900℃以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のシリカ系中空粒子の製造方法。
【請求項5】
さらに、分級工程を有することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のシリカ系中空粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法により製造されたシリカ系中空粒子を樹脂と混合し、硬化することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
下記(i)~(vii)の要件を満たすことを特徴とするシリカ系中空粒子。
(i)平均粒子径(D50)が0.1~20μm
(ii)空孔率が10~95%
(iii)Sears数(ml/SiO21.5g)が0.30未満
(iv)水蒸気/窒素比表面積比が0.30未満
(v)水蒸気吸着量が0.20質量%未満
(vi)29Si-NMRにおいて、実質的に、ケミカルシフト-82.0~-100.0ppmのQ3構造、及びケミカルシフト-100.0~-120.0ppmのQ4構造からなり、Q4構造のピーク面積が総ピーク面積の90%以上
(vii)アルカリ含有量が100ppm以下
【請求項8】
誘電率が2.8以下であり、かつ誘電正接が0.0010未満であることを特徴とする請求項7に記載のシリカ系中空粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の絶縁材料のフィラーとして有用なシリカ系中空粒子、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信におけるデータ通信の大容量化が進んでおり、通信機器の高速処理が求められている。このような通信機器に使用される半導体のプリント配線板等における絶縁材料は、高速通信を実現するために、低誘電率化(低Dk化)、及び低誘電正接化(低Df化)が求められている。絶縁材料の誘電率が高いと誘電損失に繋がり、また、絶縁材料の誘電正接が高いと、誘電損失に繋がるだけでなく、発熱量の増大などの問題が生じることがある。
【0003】
このような半導体のプリント配線板等における絶縁材料においては、低誘電率化、及び低誘電正接化を実現すべく、絶縁材料の主体となる樹脂材料の開発が行われている。このような樹脂材料としては、例えば、エポキシ系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、フッ素系樹脂等が提案されている。
【0004】
一方、このような樹脂材料には、耐久性(剛性)や耐熱性等の点から、フィラーが配合される。このフィラーとしては、シリカ等の金属酸化物粒子が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このような樹脂材料にフィラーとして配合されるシリカ系粒子としては、中空粒子が用いられており、その製造方法としては、例えば、(a)珪酸アルカリ水溶液を熱風気流中に噴霧乾燥してシリカ系粒子前駆体粒子を調製する工程と、(b)シリカ系粒子前駆体粒子を酸水溶液に浸漬し、アルカリを除去する工程と、(c)水熱処理する工程と、(d)乾燥・加熱処理する工程とを備えた方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
この方法により製造されるシリカ系粒子は、圧縮硬度が高く、耐湿性に優れていることが開示されている。この方法では、脱アルカリ工程後に水熱処理を行うことで、シリカ系粒子前駆体粒子の表面に存在する細孔を封止することはできるが、外殻の内部に存在する細孔まで十分に封止することができず、外殻シリカ層内にSiOH基が残存することとなるため、低誘電率かつ低誘電正接が必要とされる用途には不十分である。
【0007】
また、シリカ系中空粒子の他の製造方法として、アルカリ金属ケイ酸塩水溶液を霧化し、100~500℃の気流中へ導入してガラスバルーンとし、ついでガラスバルーン中に存在するアルカリ金属の除去量を調節することにより、シリカバルーンの細孔径を制御する、細孔径を制御したシリカバルーンの製造方法が提案されている(特許文献3参照)。特許文献3の実施例では、ケイ酸ナトリウムを用いて製造した100gのガラスバルーンに対して、0.01mol/Lの塩酸を200L又は300L用いてそれぞれ4L/minで流通させて中和処理した後、110℃で1時間乾燥させ、シリカバルーンを得ている。
【0008】
しかしながら、塩酸流通量が200Lと300Lの場合を比較すると、300Lの場合は、水比表面積が増して水分子は侵入できるが窒素分子は侵入できないような細孔が増えていることは確認できるが、窒素比表面積は減少しており、アルカリ金属除去量と細孔径制御の関係が明確ではない。また、水洗を行っていないことにより、塩化物イオン等酸のカウンターイオンが残存し、低誘電率かつ低誘電正接が必要とされる用途には不適である。
【0009】
一方、樹脂材料にフィラーとして配合されるシリカ系粒子として中実粒子も用いられており、このようなシリカ系中実粒子の製造方法としては、例えば、原料シリカ粉末を不活性雰囲気下で粉体を流動させながら高温加熱処理あるいは還元的な反応場である電気炉により加熱処理することにより、500℃~1000℃における脱離する水分子数が0.01mmol/g以下であり、比表面積が1~30m2/gである球状シリカ粉末を得る方法が提案されている(特許文献4参照)。
【0010】
しかしながら、この球状シリカ粉末は、樹脂材料の誘電正接を低くすることが可能であるとされているが、通常、中実シリカ粉末は樹脂材料よりも誘電率が高いため、近年求められている、低誘電率化と低誘電正接化を両立することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2017-057352号公報
【特許文献2】特開2013-103850号公報
【特許文献3】特開平04-104907号公報
【特許文献4】特開2021-178770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
データ通信の大容量化及び高速処理化が急速に進む今日においては、半導体の絶縁材料に含まれるフィラーのさらなる低誘電率化、及び低誘電正接化が求められている。
【0013】
本発明の課題は、絶縁材料の低誘電率化及び低誘電正接化を可能とするシリカ系粒子、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、珪酸アルカリ水溶液を用いて製造したシリカ系中空粒子を酸で中和する際、所定条件下で中和処理を行うことにより、粒子に良好な細孔形成がなされ、絶縁材料の低誘電率化及び低誘電正接化を実現できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、珪酸アルカリ水溶液を熱風気流中で噴霧乾燥して中空粒子を調製する第一工程と、前記中空粒子に含まれるアルカリを酸溶液中で中和した後、洗浄して除去する第二工程と、前記アルカリ除去された中空粒子を焼成する第三工程とを有するシリカ系中空粒子の製造方法であって、前記第二工程において、前記中空粒子中のアルカリ金属イオンのモル数と価数を乗じた値(Msp)に対する、酸の水素イオンのモル数(MH+)の比(MH+/Msp)が4.7を超える酸溶液を用いる方法に関する。
【0016】
また、本発明は、下記(i)~(vii)の要件を満たすことを特徴とするシリカ系中空粒子に関する。
(i)平均粒子径(D50)が0.1~20μm
(ii)空孔率が10~95%
(iii)Sears数(ml/SiO21.5g)が0.30未満
(iv)水蒸気/窒素比表面積比が0.30未満
(v)水蒸気吸着量が0.20質量%未満
(vi)29Si-NMRにおいて、実質的に、ケミカルシフト-82.0~-100.0ppmのQ3構造、及びケミカルシフト-100.0~-120.0ppmのQ4構造からなり、Q4構造のピーク面積が総ピーク面積の90%以上
(vii)アルカリ含有量が100ppm以下
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、絶縁材料の低誘電率化及び低誘電正接化を可能とするシリカ系粒子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[シリカ系中空粒子の製造方法]
本発明のシリカ系中空粒子の製造方法は、珪酸アルカリ水溶液を熱風気流中で噴霧乾燥して中空粒子を調製する第一工程と、中空粒子に含まれるアルカリを酸溶液中で中和した後、洗浄して除去する第二工程と、アルカリ除去された中空粒子を焼成する第三工程とを有し、第二工程において、前記中空粒子中のアルカリ金属イオンのモル数と価数を乗じた値(Msp)に対する、酸の水素イオンのモル数(MH+)の比(MH+/Msp)が4.7を超える酸溶液を用いる。各工程の前後に、乾燥工程、分級工程等の他の工程を有していてもよい。
【0019】
ここで、シリカ系とは、シリカを主成分とすることを意味し、シリカの他、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の無機酸化物を含んでいてもよい。粒子中のシリカの含有量としては、70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、実質的にシリカのみからなることが特に好ましい。
【0020】
本発明の製造方法によれば、第一工程で製造したシリカ系中空粒子を、第二工程において大量の酸で中和(脱アルカリ)することにより、粒子(外殻)内に形成される細孔を、その後の焼成処理で容易に閉塞しやすいサイズ(構造)にすることができ、最終的に、SiOH基量の少ない粒子を得ることに繋がるため、絶縁材料の低誘電率化及び低誘電正接化を実現できる。また、このような良好な細孔形成がなされることにより、経時的な吸湿による誘電正接の変化も抑えることができ、長期的に低誘電正接化を維持することができる。また、粒子同士の付着を抑制して、粒子の分散性の向上を図ることができる。さらに、細孔内に大きな細孔が残存しないことから粒子強度も向上する。
【0021】
(第一工程)
本工程では、珪酸アルカリ水溶液を熱風気流中で噴霧乾燥して中空粒子を調製する。
【0022】
珪酸アルカリ水溶液のSiO2としての濃度は、1~30質量%が好ましく、5~28質量%がより好ましい。1質量%未満でも製造は可能であるが、生産性が著しく低下する。30質量%を超えると、珪酸アルカリ水溶液としての安定性が著しく低下して高粘性になり、噴霧乾燥できない場合がある。噴霧乾燥できたとしても、粒子径分布、外殻の厚さ等が極めて不均一になり、得られた粒子の用途が制限されるおそれがある。珪酸アルカリとして、水に可溶の珪酸ナトリウム、珪酸カリウムを用いることができるが、珪酸ナトリウムが好ましい。
【0023】
珪酸アルカリのSiO2とM2O(Mはアルカリ金属)のモル比(SiO2/M2O)は、1~5が好ましく、2~4がより好ましい。このモル比が1未満の場合は、アルカリ量が多すぎるためにアルカリを除去する際の酸洗浄が困難となるだけでなく、噴霧乾燥品の潮解性が大きくなるために所望のシリカ系中空粒子が得られ難い。このモル比が5を超えると、珪酸アルカリの可溶性が低下し、水溶液の調製が困難であり、水溶液を調製できたとしても、噴霧乾燥により所望のシリカ系中空粒子が形成できない場合がある。
【0024】
噴霧乾燥方法としては、例えば、回転ディスク法、加圧ノズル法、2流体ノズル法等の従来公知の方法を採用することができる。ここでは、2流体ノズル法が好適である。
【0025】
噴霧乾燥において、噴霧乾燥器における入口温度は、300~600℃が好ましく、350~550℃がより好ましい。また、出口温度は、120~300℃が好ましく、130~250℃がより好ましい。入口温度及び出口温度を上記範囲にすることにより、中空粒子を安定して得ることができる。
【0026】
(第二工程)
本工程では、調製された中空粒子に含まれるアルカリを、所定条件下、酸溶液中で中和して除去する。すなわち、中空粒子を酸溶液に浸漬して中空粒子に含まれるアルカリを中和する。この際、中空粒子に対して酸溶液を加えるのではなく、酸溶液に対して中空粒子を加えることが好ましい。これにより、粒子近傍で粒子が溶解するpHの状態になることを防ぎ、粒子の溶解を防ぐことができる。なお、特許文献3に示されるカラム流通方式では、カラム上部から下部に流れる間に、酸溶液のH+の濃度が低下(pH上昇)し、十分に低いpHではない状態で粒子に接触し、粒子が溶解することがあるため、本発明におけるような良好な細孔が生成されず、本発明の所望の効果が得られない。
【0027】
本工程においては、中空粒子中のアルカリ金属イオンのモル数と価数を乗じた値(Msp)に対する、酸の水素イオンのモル数(MH+)の比(MH+/Msp)が4.7を超える酸溶液を用いる。従来、この比(MH+/Msp)は、このような高い値で用いられることはなかった。例えば、特許文献2の段落[0032]には、この比が「4.7を越えてもさらに骨格化が進むこともなく、酸が過剰であり経済的でない」と記載されている。また、特許文献3の実施例では、この比は、3.0(200L)及び4.4(300L)である。本発明においては、あえてこのような条件下で中和処理を行うことにより、シリカ骨格へのダメージを抑制しつつ、アルカリイオンを除去(H+とイオン交換)することができ、中空粒子(の外殻)に大きな細孔が形成されず、良好な細孔形成がなされ、本発明の格別な効果が得られるものである。
この比(MH+/Msp)は、5.0以上が好ましく、5.2以上がより好ましく、5.5以上がさらに好ましい。上限側は、特に制限はないが、例えば7.0以下である。
【0028】
本工程では、粒子(の外殻)中のアルカリ分が除去されて質量が減少する一方、粒子形状や中空構造等(体積)の変化は極めて小さいため、本工程前後で比較すると、除去されるアルカリ量に応じて粒子の密度は減少する。粒子の密度は、ガスピクノメーター法(JIS Z 8837)に準じて、本工程前(第一工程終了品)の粒子はそのまま、本工程後の粒子は、(洗浄後)120℃で24時間乾燥した粒子を用いて測定することができる。
【0029】
アルカリ除去後の粒子(の外殻)には細孔が形成されるため、密度測定に用いるガス種によって、得られる密度の値は異なる。ヘリウムを用いた場合は、ヘリウムが外殻内に形成された細孔を貫通し、粒子内部の空洞も満たすため、シリカの密度の理論値とほぼ同等の密度(約2.2g/cm3)となる。例えば、2.1~2.3g/cm3である。
【0030】
一方、窒素を用いた場合は、外殻内の細孔を貫通することはなく、内部空洞の存在を反映した密度が得られる。粒子(の外殻)に窒素が侵入可能な細孔が形成されない場合、第二工程後の粒子の密度(理論値:ρ2T)は、第一工程後の粒子の密度(ρ1)からアルカリ分の質量の減少に応じて減少し、下記の式(X)で求められる。
【0031】
ρ2T=ρ1×(1-Wa) ・・・式(X)
ρ1:第一工程後の密度
ρ2T:第二工程後の密度の理論値
Wa:原料固形分中のアルカリ分質量比率
【0032】
第二工程後は、窒素が侵入可能な細孔が多く形成されるほど、粒子の密度(ρ2)は理論値(ρ2T)からの乖離が大きくなる。
本工程で形成される細孔は、その後の加熱処理等で小さくすることが可能であるが、サイズが大きすぎたり、量が多すぎたりすると、十分に閉塞させることができず、最終的に粒子(の外殻)に残存し、吸湿性を高める原因となる。そのため、細孔のサイズは小さく、量は少ない方が好ましく、窒素で測定した粒子の密度(ρ2)は理論値(ρ2T)からの乖離が小さい方が好ましい。具体的には、ρ2/ρ2Tが、1.0~1.4が好ましく、1.0~1.3がより好ましく、1.0~1.2がさらに好ましい。
【0033】
また、中空粒子の濃度が、SiO2として1~30質量%になるように酸溶液に浸漬することが好ましい。1質量%未満の場合は、アルカリ除去や洗浄性に問題はないが、製造効率が低下する。30質量%を超えると、濃度が濃すぎてアルカリ除去、洗浄効率が低下する場合がある。また、粒子同士の接触・摩擦により、粒子が割れる等の問題が発生する場合がある。5~25質量%がさらに好ましい。浸漬処理は、複数回に分けて行ってもよい。
【0034】
浸漬処理の温度条件としては、通常、5℃以上、溶液の沸点以下である。より良好な細孔が形成され、絶縁材料の低誘電率化及び低誘電正接化をより確実に実現できる点から、50℃以上が好ましく、55℃以上がより好ましい。処理時間は、例えば0.5~24時間である。
【0035】
浸漬処理の後、中空粒子を従来公知の方法で十分に洗浄する。例えば、純水にて濾過洗浄する。
【0036】
アルカリ除去後のアルカリ(M)の残存量(質量割合)は、100ppm以下が好ましく、90ppm以下がより好ましく、80ppm以下がさらに好ましい。本工程で十分にアルカリを除去することにより、本発明の所望の効果が得られる。また、後の工程で粒子が合着することが防止され、焼成工程での焼結粒子の発生を防ぐことができる。
【0037】
アルカリ残存量は、粒子を酸で溶解させたものを試料とし、原子吸光光度計を用いてNa又はKを測定する。珪酸ナトリウムを用いた場合はNaを測定し、珪酸カリウムを用いた場合はKを測定する。具体的には、実施例で説明する。
【0038】
なお、最終製品(シリカ系中空粒子)のアルカリ量も上述の範囲が好ましく、通常、アルカリ除去工程後のアルカリ量と同等になる。
【0039】
本工程で用いる酸としては、塩酸、硝酸、硫酸等の鉱酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸等の有機酸が例示できる。鉱酸が好適に用いられ、価数の点から、硫酸が特に好ましい。なお、酸溶液は、通常水溶液であるが、アルコール等を混合して用いてもよい。
【0040】
(第三工程)
本工程では、アルカリ除去された中空粒子を焼成する。焼成温度は、900℃以上が好ましく、1000℃以上がより好ましい。上限は、特に制限はないが、例えば1200℃である。第二工程において、大量の酸を含む溶液中で中和処理を行い、その後十分に洗浄を行うため、アルカリが十分に除去され、粒子が合着することが防止され、焼成工程での焼結粒子の発生を防ぐことができ、高温焼成が可能となる。したがって、アルカリ除去により形成された細孔を閉塞させる(SiOH基を減少させる)ことができ、誘電率及び誘電正接の低い粒子を得ることができる。例えば、特許文献2では、誘電正接が0.0010未満の粒子を得ることはできないが、本発明では、0.0010未満の粒子を得ることができる。また、強度の高い粒子を得ることができる。
【0041】
(分級工程)
本発明のシリカ系中空粒子の製造方法においては、粒子径0.1μm未満の微小粒子及び平均粒子径の6倍を超える粗大粒子を除去する分級工程を備えていることが好ましい。この分級工程は、第一工程と第三工程の間に設けられることが好ましく、第二工程と第三工程の間に設けられることがより好ましい。
【0042】
焼成粒子を製造する際に分級処理を行う場合には、最終粒子を整えるために、焼成後に行うことが好ましいと一般的に考えられているが、あえて焼成工程前に分級処理を行うことが好ましい。分級処理を行わずに焼成工程を行うと、取り除かれるべき微小粒子が存在し、他の粒子と焼結してしまう。その後で分級処理を行っても焼結した粒子を取り除くことができない。また、取り除かれるべき高空隙率の粗大粒子も存在してしまう。この高空隙率の粗大粒子は割れやすいため、加熱による収縮のストレスで割れるおそれがある。割れにより生じた破片は、粒子径が小さいため、その後に分級処理を行っても取り除くことができない。また、この破片は、空隙のない緻密なシリカであるため、低誘電率化・低誘電正接化の妨げとなる。分級処理を焼成前に行うことにより、このような不都合は回避され、製造した粒子の低誘電率化・低誘電正接化をより確実に実現でき、データ通信の高速化に対応した粒子が得られる。なお、焼成後に、さらに分級処理を行ってもよい。
【0043】
微小粒子の除去及び粗大粒子の除去は、同時に行ってもよく、別々に分けて行ってもよい。別々に分けて行う際には、微小粒子の除去と、粗大粒子の除去のどちらを先に行ってもよい。また、微小粒子の除去及び粗大粒子の除去の各処理は、それぞれ複数回に分けて行ってもよい。
【0044】
分級工程では、微小粒子の量を10体積%以下まで減少させることが好ましく、8体積%以下とすることがより好ましく、5体積%以下とすることがさらに好ましく、3体積%以下とすることが特に好ましく、1体積%以下とすることが最も好ましい。また、粗大粒子の量を20体積%以下まで減少させることが好ましく、15体積%以下とすることがより好ましく、10体積%以下とすることがさらに好ましく、5体積%以下とすることが特に好ましく、1体積%以下とすることが最も好ましい。なお、通常、最終製品の微小粒子や粗大粒子の含有量は、分級工程後の含有量と大きな変化はない。
【0045】
この分級工程での分級とは、粉体の粒度を揃えることを目的に、粒子径によって粉体を分ける粒度分級を意味する。この粒度分級の操作として、流体分級を挙げることができ、流体分級は乾式分級と湿式分級に分類することができる。
【0046】
乾式分級に用いられる分級機は、原理的に、重力分級機、慣性分級機、遠心分級機に大別することができる。粒子の慣性力を利用して分級する慣性分級機や、遠心分級機を用いることにより、より精密な分級が可能になる。軽く、遠心力が掛かりにくい粒子でも特性を発揮する分級機として、日鉄鉱業社製エルボージェット、日本スリーエム社製SGセパレーター、日清エンジニアリング社製エアロファインクラシファイア、日本ニューマチック工業社製マイクロスピンを挙げることができる。これらの中でも、軽い中空粒子でも精密に分級できる、エルボージェット、エアロファインクラシファイアが好ましい。
【0047】
湿式分級に用いられる分級機は、原理的に、重力分級機、遠心分級機に大別することができる。遠心分級機を用いることにより、より精密な分級が可能になる。軽く、遠心力が掛かりにくい粒子でも特性を発揮する分級機として、日本化学機械工業社製ハイドロサイクロン、村田工業社製スーパークロン、佐竹マルチミクス社製アイクラシファイアを挙げることができる。これらの中でも、軽い中空粒子を精密に分級できるアイクラシファイアが好ましい。
湿式分級を行う場合は、微小粒子の除去を行う際に、比重の小さい粗大粒子を一緒に除去することができ、分級効率を高めることができる。
【0048】
(乾燥工程)
本発明の製造方法は、乾燥工程を有していてもよい。乾燥方法として、加熱乾燥が挙げられる。乾燥温度は、50~400℃が好ましく、50~200℃がより好ましい。具体的には、50~200℃程度の低温で時間をかけて乾燥させる方法や、温度を徐々に上昇させて乾燥させる方法や、温度を何段階かに分けて変更して乾燥させる方法を例示できる。乾燥処理は、アルカリ除去処理と分級処理の間、分級処理と焼成の間、その両方、あるいは、アルカリ除去処理と焼成の間に設けることができる。必要に応じて複数回設けてもよい。また、焼成前に乾燥処理を行い、分級処理を乾燥処理と焼成の間で行ってもよい。乾燥処理の後に分級処理を行い、焼成することが好ましい。
【0049】
(篩分け工程)
さらに、粒子塊を篩分けする篩分け処理を、乾燥処理後、焼成後の少なくとも一方で行うことが好ましい。なお、粒子塊とは、例えば、粒径が150μmを超えるような異物をいう。このような粒子塊を取り除けるような目開き(メッシュ数)の篩を適宜用いて篩分け処理を行う。
【0050】
続いて、本発明のシリカ系中空粒子について説明する。本発明のシリカ系中空粒子は、上記本発明の製造方法により得ることができる。本発明のシリカ系中空粒子は、その大部分が中空粒子である粉体であるが、一部に中実粒子を含んでいてもよい。例えば、中空粒子が全体の80個数%以上であり、90個数%以上である。中空粒子の割合は、例えば任意の100個の粒子を用いて断面SEM画像により算出することができる。
【0051】
本発明のシリカ系中空粒子は、下記(i)~(vii)の要件を満たす。
(i)平均粒子径(D50)が0.1~20μm
(ii)空孔率が10~95%
(iii)Sears数(ml/SiO21.5g)が0.30未満
(iv)水蒸気/窒素比表面積比が0.30未満
(v)水蒸気吸着量が0.20質量%未満
(vi)Si-NMRにおいて、実質的に、ケミカルシフト-82.0~-100.0ppmのQ3構造、及びケミカルシフト-100.0~-120.0ppmのQ4構造からなり、Q4構造のピーク面積が総ピーク面積の90%以上
(vii)アルカリ含有量が100ppm以下
【0052】
本発明のシリカ系中空粒子は、誘電率及び誘電正接が低い。誘電率は2.8以下であることが好ましく、2.5以下であることが好ましい。また、誘電正接は0.0010未満であることが好ましく、0.0005未満であることがより好ましい。
【0053】
以下、各要件について説明する。
(i)平均粒子径(D50)が0.1~20μmであること
平均粒子径が0.1μm未満のものは、微小粒子を多く含んでいるため、高比表面積(高SiOH基含有量)となり、優れた誘電特性が得られない。また、平均粒子径が20μmを超えるシリカ系粒子は、半導体用途としては不向きである。半導体用途であることを考慮すると、平均粒子径は、0.3~10.0μmがより好ましく、0.5~5.0μmがさらに好ましい。
【0054】
また、最大粒子径(D100)は、30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。最大粒子径(D100)は、平均粒子径(D50)の10倍以下が好ましく、8倍以下がより好ましい。通常は、2倍以上であり、5倍を超えてもよい。
【0055】
(ii)空孔率が10~95%であること
空孔率が10%未満のものは、誘電率及び誘電正接が高くなり、所望の誘電率及び誘電正接のものが得られない。また、空孔率が95%を超えるものは、粒子強度が低く、粒子の割れを生じる。空孔率は、20~70%が好ましく、30~50%がより好ましい。
【0056】
(iii)Sears数(ml/SiO21.5g)が0.30未満であること
Sears数とは、シリカ粒子のOH基(シラノール基)の量を示す指標であり、Sears数が大きいと粒子に存在するOH基量が多い。Sears数が0.30以上のものは、誘電率及び誘電正接が高くなり、また、経時的に吸湿が生じ、誘電率及び誘電正接がより高くなる。さらに、付着性が高くなり、粒子の凝集が生じる。Sears数は、0.29未満が好ましく、0.28未満がより好ましい。
【0057】
なお、Sears数は、SearsによるAnalytical Chemistry 28(1956), 12, 1981-1983.の記載に沿って、水酸化ナトリウムの滴定によって測定する。本測定法により、粒子表面(細孔外)のOH基量が測定される。Sears数(ml/SiO21.5g)は、シリカ量1.5gに対する0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液滴定量を示す。
【0058】
(iv)水蒸気/窒素比表面積比が0.30未満であること
水蒸気/窒素比表面積比は、親水性・疎水性の程度を示し、大きい値ほどより親水性である。水蒸気/窒素比表面積比が0.30以上のものは、吸湿しやすい。水蒸気/窒素比表面積比は、0.20未満が好ましく、0.15未満がより好ましい。
【0059】
(v)水蒸気吸着量が0.20質量%未満であること
水蒸気吸着量は、吸湿に関する経時安定性を示す。水蒸気吸着量が0.20質量%以上のものは、吸湿しやすく、経時安定性に劣る。水蒸気吸着量は、0.15未満が好ましく、0.10未満がより好ましい。
【0060】
(vi)29Si-NMRにおいて、実質的に、ケミカルシフト-82.0~-100.0ppmのQ3構造、及びケミカルシフト-100.0~-120.0ppmのQ4構造からなり、Q4構造のピーク面積が総ピーク面積の90%以上であること
【0061】
シリカ粒子中の珪素原子は、29Si-NMR解析において、珪素原子のまわりの酸素を共有する珪素の数により、Q0、Q1、Q2、Q3、Q4の5種類に分けられる。具体的には、29Si-NMR解析において、Q0構造のケミカルシフトは-73.0~-73.5ppm、Q1構造のケミカルシフトは-73.5~-78.0ppm、Q2構造のケミカルシフトは-78.0~-82.0ppm、Q3構造のケミカルシフトは-82.0~-100.0ppm、Q4構造のケミカルシフトは-100.0~-120.0ppmに、各々現れる。
【0062】
Q4構造の存在比(面積比)が上記範囲にあると、不安定なOH基が少なく、珪素同士の結合割合が多くなるため、安定性の高いシリカ粒子となる。このため、これをフィラー材として用いた場合、経時変化の少ない絶縁材料が得られる。
仮に、Q0~Q3構造の割合が高いと、これらはQ4構造に比べてOH基の数が多い(シロキサン結合が少ない)構造であるため、これをフィラー材として用いた場合、経時により吸湿し、誘電率や誘電正接が上昇する。
【0063】
Q4構造のピーク面積は、総ピーク面積(Q0~Q4構造の面積)の93%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましい。
【0064】
(vii)アルカリ含有量が100ppm以下であること
アルカリ含有量が100ppm以下であることにより、低誘電率化及び低誘電正接化を図ることができる。また、半導体実装用に適している。また、後の工程で粒子が合着することが防止され、焼成工程での焼結粒子の発生を防ぐことができる。
アルカリ含有量は90ppm以下が好ましく、80ppm以下がより好ましい。
【0065】
さらに、シリカ系中空粒子は、上記要件(i)~(vii)に加えて、(viii)粒度変動係数(CV値)が60%以下であることが好ましく、55%以下であることがより好ましく、50%以下であることがさらに好ましい。粒度変動係数がこのような範囲にあることにより、樹脂に配合した場合に、低誘電率化及び低誘電正接化をより安定して実現することができる。また、樹脂組成物の表面平滑性の向上を図ることができる。
【0066】
[樹脂組成物の製造方法]
本発明の樹脂組成物の製造方法は、上記シリカ系中空粒子を樹脂と混合し、硬化する。具体的に、例えば、シリカ系中空粒子、熱硬化性樹脂等を混合し、ロールミルなどで混練して樹脂組成物形成用液(塗布液)を調製し、基体に塗布後、熱、紫外線等により硬化させる。
【0067】
製造された樹脂組成物は、半導体等の電子材料の絶縁材料として用いることができる。具体的には、プリント配線板(リジッド基板及びフレキシブル基板を含む)を形成するための銅張積層板、プリプレグ、ビルドアップフィルム等用いることができる。また、モールド樹脂、モールドアンダーフィル、アンダーフィル等の半導体パッケージ関連材料や、フレキシブル基板用接着剤等に用いることもできる。
【0068】
シリカ系中空粒子と混合する樹脂としては、一般に半導体等の電子材料に使用されている硬化性樹脂を使用することができる。光硬化樹脂でもよいが、熱硬化樹脂が好ましい。このような硬化性樹脂として、エポキシ系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド系樹脂、ビスマレイミド系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、BTレジン、シアネート系樹脂等を挙げることができる。エポキシ系樹脂として、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、トリフェノールアルカン型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノールノボラック樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂等が例示できる。これらの樹脂を、単独で使用しても、2種以上混合して使用してもよい。
【0069】
樹脂組成物(樹脂組成物形成用液)には、シリカ系中空粒子Aと硬化性樹脂Bが質量比(A/B)で10/100~95/100含まれていることが好ましく、30/100~80/100含まれていることがより好ましい。このような質量比により、流動性等の樹脂組成物形成用液の特性を維持しつつ、フィラーとしての機能を十分に発揮することができる。
【0070】
樹脂組成物(樹脂組成物形成用液)は、フェノール化合物、アミン化合物、酸無水物等の硬化剤を含むことが好ましい。硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、硬化剤としては、1分子中にフェノール性水酸基を2個以上有する、ビスフェノール型樹脂、ノボラック樹脂、トリフェノールアルカン型樹脂、レゾール型フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、ナフタレン型フェノール樹脂、シクロペンタジエン型フェノール樹脂等のフェノール樹脂や、メチルヘキサヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、無水メチルナジック酸等の酸無水物を挙げることができる。
【0071】
樹脂組成物(樹脂組成物形成用液)には、必要に応じて、着色剤、応力緩和剤、消泡剤、レベリング剤、カップリング剤、難燃剤、硬化促進剤等の各種添加剤を添加することができる。
【実施例0072】
以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0073】
<シリカ系中空粒子の製造>
[実施例1]
水ガラス水溶液(SiO2/Na2Oモル比3.2、SiO2濃度24質量%)30000gを用い、2流体ノズルの一方に0.62kg/hrの流量で、他方のノズルに空気を31800L/hr(空/液体積比63600)の流量で、入口温度400℃の熱風に噴霧してシリカ中空粒子を得た。この時、出口温度は150℃であった(第一工程)。濃度25質量%の硫酸水溶液40000gを攪拌しながら、シリカ中空粒子5000gを加えた。液温が35℃になるように調整し、そのまま15時間撹拌し、室温まで冷却した。この時、固形分(SiO2)濃度は8.4質量%、冷却後の分散液のpHは1.0未満であった。また、中空粒子中のアルカリ金属イオンのモル数と価数を乗じた値(Msp)に対する、酸の水素イオンのモル数(MH+)の比(MH+/Msp)は5.2であった。硫酸から分離後、純水にて洗浄を行った(第二工程)。ついで、乾燥機にて、120℃で24時間乾燥処理した(乾燥工程)。乾燥後、解砕して目開き75μmの篩にかけて粒子塊(異物)を除去した。その後、日鉄鉱業株式会社製エルボージェット(EJ-15)を用いて乾式慣性分級を行った。この装置では、分級によって、粉をF粉(微粉)、M粉(細粉)、G分(粗粉)の3種類に分けることができるが、この内の、F粉(微粉)に含まれる24μmを超える粒子が5体積%以下となるようにFエッジ距離を調整し、バグフィルターにて回収し、以降の工程に用いた(分級工程)。その後、1000℃で10時間加熱処理することで目的のシリカ系中空粒子を含む粉体を得た(第三工程)。なお焼成後、目開き150μmの篩で粒子塊(異物)を取り除いた(粉体A)。
【0074】
[実施例2]
水ガラス水溶液(SiO2/Na2Oモル比3.2、SiO2濃度24質量%)30000gを用い、2流体ノズルの一方に0.62kg/hrの流量で、他方のノズルに空気を31800L/hr(空/液体積比63600)の流量で、入口温度400℃の熱風に噴霧してシリカ中空粒子を得た。この時、出口温度は150℃であった(第一工程)。濃度25質量%の硫酸水溶液45000gを攪拌しながら、シリカ中空粒子5000gを加えた。液温が35℃になるように調整し、そのまま15時間撹拌し、室温まで冷却した。この時、固形分(SiO2)濃度は7.6質量%、冷却後の分散液のpHは1.0未満であった。また、中空粒子中のアルカリ金属イオンのモル数と価数を乗じた値(Msp)に対する、酸の水素イオンのモル数(MH+)の比(MH+/Msp)は5.8であった。硫酸から分離後、純水にて洗浄を行った(第二工程)。ついで、乾燥機にて、120℃で24時間乾燥処理した(乾燥工程)。乾燥後、解砕して目開き75μmの篩にかけて粒子塊(異物)を除去した。その後、日鉄鉱業株式会社製エルボージェット(EJ-15)を用いて乾式慣性分級を行った。この装置では、分級によって、粉をF粉(微粉)、M粉(細粉)、G分(粗粉)の3種類に分けることができるが、この内の、F粉(微粉)に含まれる24μmを超える粒子が5体積%以下となるようにFエッジ距離を調整し、バグフィルターにて回収し、以降の工程に用いた(分級工程)。その後、1000℃で10時間加熱処理することで目的のシリカ系中空粒子を含む粉体を得た(第三工程)。なお焼成後、目開き150μmの篩で粒子塊(異物)を取り除いた(粉体B)。
【0075】
[実施例3]
第二工程で液温が60℃になるように調整した以外は実施例1と同様にし、シリカ系中空粒子を含む粉体Cを得た。
【0076】
[実施例4]
水ガラス水溶液(SiO2/Na2Oモル比3.2、SiO2濃度24質量%)30000gを用い、2流体ノズルの一方に0.62kg/hrの流量で、他方のノズルに空気を31800L/hr(空/液体積比63600)の流量で、入口温度400℃の熱風に噴霧してシリカ中空粒子を得た。この時、出口温度は150℃であった(第一工程)。濃度10質量%の塩酸水溶液80000gを攪拌しながら、シリカ中空粒子5000gを加えた。液温が35℃になるように調整し、そのまま15時間撹拌し、室温まで冷却した。この時、固形分(SiO2)濃度は4.4質量%、冷却後の分散液のpHは1.0未満であった。また、中空粒子中のアルカリ金属イオンのモル数と価数を乗じた値(Msp)に対する、酸の水素イオンのモル数(MH+)の比(MH+/Msp)は5.6であった。塩酸から分離後、純水にて洗浄を行った(第二工程)。ついで、乾燥機にて、120℃で24時間乾燥処理した(乾燥工程)。乾燥後、解砕して目開き75μmの篩にかけて粒子塊(異物)を除去した。その後、日鉄鉱業株式会社製エルボージェット(EJ-15)を用いて乾式慣性分級を行った。この装置では、分級によって、粉をF粉(微粉)、M粉(細粉)、G分(粗粉)の3種類に分けることができるが、この内の、F粉(微粉)に含まれる24μmを超える粒子が5体積%以下となるようにFエッジ距離を調整し、バグフィルターにて回収し、以降の工程に用いた(分級工程)。その後、1000℃で10時間加熱処理することで目的のシリカ系中空粒子を含む粉体を得た(第三工程)。なお焼成後、目開き150μmの篩で粒子塊(異物)を取り除いた(粉体D)。
【0077】
[比較例1]
水ガラス水溶液(SiO2/Na2Oモル比3.2、SiO2濃度24質量%)30000gを用い、2流体ノズルの一方に0.62kg/hrの流量で、他方のノズルに空気を31800L/hr(空/液体積比63600)の流量で、入口温度400℃の熱風に噴霧してシリカ中空粒子を得た。この時、出口温度は150℃であった(第一工程)。濃度25質量%の硫酸水溶液32000gを攪拌しながら、シリカ中空粒子5000gを加えた。液温が35℃になるように調整し、そのまま15時間撹拌し、室温まで冷却した。この時、固形分(SiO2)濃度は10.2質量%、冷却後の分散液のpHは1.0未満であった。また、中空粒子中のアルカリ金属イオンのモル数と価数を乗じた値(Msp)に対する、酸の水素イオンのモル数(MH+)の比(MH+/Msp)は4.1であった。硫酸から分離後、純水にて洗浄を行った(第二工程)。ついで、乾燥機にて、120℃で24時間乾燥処理した(乾燥工程)。乾燥後、解砕して目開き75μmの篩にかけて粒子塊(異物)を除去した。その後、日鉄鉱業株式会社製エルボージェット(EJ-15)を用いて乾式慣性分級を行った。この装置では、分級によって、粉をF粉(微粉)、M粉(細粉)、G分(粗粉)の3種類に分けることができるが、この内の、F粉(微粉)に含まれる24μmを超える粒子が5体積%以下となるようにFエッジ距離を調整し、バグフィルターにて回収し、以降の工程に用いた(分級工程)。その後、1000℃で10時間加熱処理することで目的のシリカ系中空粒子を含む粉体を得た(第三工程)。なお焼成後、目開き150μmの篩で粒子塊(異物)を取り除いた(粉体E)。
【0078】
[比較例2]
水ガラス水溶液(SiO2/Na2Oモル比3.2、SiO2濃度24質量%)30000gを用い、2流体ノズルの一方に0.62kg/hrの流量で、他方のノズルに空気を31800L/hr(空/液体積比63600)の流量で、入口温度400℃の熱風に噴霧してシリカ中空粒子を得た。この時、出口温度は150℃であった(第一工程)。得られたシリカ中空粒子5000gをカラムに詰め、濃度25質量%の硫酸水溶液80000gを通液した。中空粒子中のアルカリ金属イオンのモル数と価数を乗じた値(Msp)に対する、酸の水素イオンのモル数(MH+)の比(MH+/Msp)は5.2であった。硫酸通液終了後、純水にて洗浄を行った(第二工程)。ついで、乾燥機にて、120℃で24時間乾燥処理した(乾燥工程)。乾燥後、解砕して目開き75μmの篩にかけて粒子塊(異物)を除去した。その後、日鉄鉱業株式会社製エルボージェット(EJ-15)を用いて乾式慣性分級を行った。この装置では、分級によって、粉をF粉(微粉)、M粉(細粉)、G分(粗粉)の3種類に分けることができるが、この内の、F粉(微粉)に含まれる24μmを超える粒子が5体積%以下となるようにFエッジ距離を調整し、バグフィルターにて回収し、以降の工程に用いた(分級工程)。その後、1000℃で10時間加熱処理することで目的のシリカ系中空粒子を含む粉体を得た(第三工程)。なお焼成後、目開き150μmの篩で粒子塊(異物)を取り除いた(粉体F)。
【0079】
<樹脂組成物の製造>
得られたシリカ系中空粒子を、液状酸無水物「新日本理化社製リカシッドMH700」、イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤「四国化成社製2PHZ-PW」と共に、液状エポキシ樹脂「日鉄ケミカル&マテリアル社製ZX-1059」に配合して、遊星ミルで予備混錬後、三本ロールで混練し、樹脂組成物形成用液を調製した。ここで、「ZX-1059」が100質量部、「リカシッドMH700」が86質量部、「2PHZ-PWが1質量部の割合で配合した。また、樹脂組成物中のシリカ系中空粒子の割合が35体積%になるように配合した。この調製した樹脂組成物形成用液を170℃で2時間加熱して硬化させ、50mm×50mm×1mmの板状の樹脂組成物を得た。その後、該基材を温度80度、湿度80%の条件下で1000時間保管した。
【0080】
シリカ系中空粒子及び樹脂組成物の物性を以下のように測定・評価した。その結果を調製条件とともに表1に示す。
【0081】
(1)平均粒子径(D50)、最大粒子径(D100)、粗大粒子量、及び粒度変動係数(CV値)
粒度分析計(セイシン企業社製レーザーマイクロンサイザーLMS-3000)を用いて、乾式で粒度分布を測定した。測定結果から、平均粒子径(D50)、最大粒子径(D100)が得られた。さらに、この粒度分布を分析して、平均粒子径の6倍を超える粗大粒子量を、体積比率として算出した。
【0082】
粒度変動係数(CV値)は、下記式より求めた。ここでの平均粒子径は、体積平均粒子径(D43)を用いた。また、個々の粒子の粒子径は、乾式レーザー回折・散乱法で測定した値を用いた。
【0083】
CV値(%)=(標準偏差(τ)/体積平均粒子径(D43))×100
標準偏差(τ)=(ΣXi(Di-D43)^2/ΣXi)^(1/2)
Di:個々の粒子の粒子径
【0084】
(2)空孔率、及び粒子密度の理論値との乖離
Quantachrome Instruments社製Ultrapyc5000を用いて、ガスピクノメーター法により粒子密度を測定した。
この粒子密度から、次式
[2.2-(粒子密度)]/2.2×100
により空孔率(%)を算出した。この式では、シリカの密度を2.2g/cm3とした。
【0085】
粒子密度の理論値との乖離
第二工程後に120℃で24時間乾燥を行った粒子の密度(ρ2)と第二工程後の粒子密度の理論値(ρ2T)との乖離(ρ2/ρ2T)を算出した。
【0086】
(3)アルカリ残存量
シリカ系中空粒子を硫酸・弗化水素酸で前処理した後、塩酸に溶解させ、原子吸光光度計(日立製Z-2310)を用いて原子吸光分析法によりアルカリ量を測定した。本実施例では、Na量を測定した。
【0087】
(4)シリカ粒子のSears数
Sears数は、SearsによるAnalytical Chemistry 28(1956), 12, 1981-1983.の記載に沿って、水酸化ナトリウムを用いる滴定によって測定した。
具体的には、シリカ粒子濃度が1質量%になるように純水で希釈したもの150gに対し、塩化ナトリウム30gを加え、塩酸でpHを4.0に調整した後、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液で滴定し、pH9.0までに要した量を1/10にし、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液で滴定した量に換算して表した(すなわち、シリカ量1.5gに対する0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液滴定量)。なお、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液の滴定は、自動滴定装置を用い、0.1ml/秒に固定して行った。
(5)水蒸気/窒素比表面積比
窒素吸着法で求めたBET比表面積を基準として、水蒸気吸着法で求めたBET比表面積との比を算出する。測定には、マイクロトラック・ベル社製BELSORP-maxを用いた。
(6)水蒸気吸着量
マイクロトラック・ベル社製BELSORP-maxを用い、水蒸気吸着法にて測定を行い、粉体質量に対する分圧0.9(p/p0=0.9)での水蒸気吸着量を求めた。
【0088】
(7)29Si-NMR
シリカ粒子の29Si-NMRによる構造解析は、例えば、次のように行った。
110℃で1時間乾燥した後、相対湿度60%で24時間調湿を行った粉末試料を直径5mmのNMR固体用試料管に均一になるように充填し、14.1T NMR装置(Agilent製VNMRS-600、1H共鳴周波数600MHz)を用いて、シングルパルスノンデカップリング法で測定した。基準物質にはポリジメチルシロキサン(-34.44ppm)を用いた。得られたスペクトルについて波形解析を行い、各ピークの面積を算出した。
各構造の比率は、各構造のピークの面積比(Si/ST)×100[%](ただし、iは0、1、2、3、4から選ばれる数である。STは、ST=S0+S1+S2+S3+S4で表される各構造のピーク面積の合計である。)により算出した。
【0089】
(8)シリカ系中空粒子の誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)
ネットワークアナライザー(アンリツ社製、MS46122B)と空洞共振器(1GHz)を用いて空洞共振器摂動法により、誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)を測定した。ASTMD2520(JIS C2565)に準拠した方法で測定した。
【0090】
(9)樹脂組成物の誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)
50mm×50mm×1mmの板状成型体(樹脂組成物)の誘電率(Dk)及び誘電正接(Df)を、ネットワークアナライザー(アンリツ社製、MS46122B)と同軸共振器を用いて、9.4GHzで測定した。シリカ系中空粒子(フィラー)を配合していない樹脂組成物と比較し、以下の評価基準で評価した。
【0091】
誘電率(Dk)の低減率(%)
=(フィラー添加なしの誘電率-フィラー添加ありの誘電率)/フィラー添加なしの誘電率)×100
【0092】
〇:低減率>0
△:低減率=0
×:低減率<0
【0093】
誘電正接(Df)の低減率(%)
=(フィラー添加なしの誘電正接-フィラー添加ありの誘電正接)/フィラー添加なしの誘電正接)×100
【0094】
◎:低減率50%以上
〇:低減率30%以上50%未満
△:低減率20%以上30%未満
×:低減率20%未満
【0095】
(10)高温高湿テストによる樹脂組成物の誘電率(Dk)の変化
前後のDk値の相対比=Dk(後)/Dk(前))
◎:1.0以下
〇:1.0より大きく1.1以下
△:1.1より大きく1.2以下
×:1.2より大きい
【0096】
(11)高温高湿テストによる樹脂組成物の誘電正接(Df)変化
前後のDf値の相対比=Df(後)/Df(前))
◎:1.0以下
〇:1.0より大きく2.0以下
△:2.0より大きく3.0以下
×:3.0より大きい
【0097】