(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151219
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】シミュレーション装置、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
B29C 48/92 20190101AFI20231005BHJP
B29C 48/395 20190101ALI20231005BHJP
B29C 48/505 20190101ALI20231005BHJP
B29C 48/68 20190101ALI20231005BHJP
【FI】
B29C48/92
B29C48/395
B29C48/505
B29C48/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060712
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】福澤 洋平
(72)【発明者】
【氏名】小田 智也
(72)【発明者】
【氏名】中川 一馬
【テーマコード(参考)】
4F207
【Fターム(参考)】
4F207AJ08
4F207AM23
4F207AP02
4F207AP05
4F207AP08
4F207AP13
4F207AR02
4F207AR06
4F207AR09
4F207AR14
4F207AR17
4F207KA01
4F207KA17
4F207KK12
4F207KM04
4F207KM14
(57)【要約】
【課題】シミュレーションに必要な解析条件を自動設定することができ、解析条件を手動で入力する負担を軽減することができるシミュレーション装置を提供する。
【解決手段】シミュレーション装置は、押出機の挙動をシミュレートするシミュレーション装置であって、押出機の運転制御を行う制御装置、押出機に設けられたセンサ、又は押出機を構成する部品を撮像する撮像装置から、押出機の挙動に関連するデータを取得する取得部と、取得したデータに基づいて、押出機の挙動を示す物理量を演算する演算部とを備える。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業機械の挙動をシミュレートするシミュレーション装置であって、
前記産業機械の運転制御を行う制御装置、前記産業機械に設けられたセンサ、又は前記産業機械を構成する部品を撮像する撮像装置から、前記産業機械の挙動に関連するデータを取得する取得部と、
取得したデータに基づいて、前記産業機械の挙動を示す物理量を演算する演算部と
を備えるシミュレーション装置。
【請求項2】
前記産業機械は、原料を溶融可塑化するスクリュと、該スクリュが回転可能に挿入されたシリンダとを有する押出機であり、
前記取得部は、
前記制御装置から前記原料の押出量、スクリュ回転数又はシリンダ温度を示す設定データを取得し、
前記演算部は、
取得した前記設定データを用いて、前記物理量を演算する
請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項3】
前記産業機械は、原料を溶融可塑化するスクリュと、該スクリュが回転可能に挿入されたシリンダとを有する押出機であり、
前記産業機械に設けられた前記センサは、前記シリンダの温度を検出する温度センサと、前記シリンダの内部の圧力を検出する圧力センサとを含み、
前記取得部は、
前記温度センサ又は前記圧力センサから温度データ又は圧力データを取得し、
前記演算部は、
取得した温度データ又は圧力データを用いて、前記物理量を演算する
請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項4】
前記圧力センサは、前記シリンダの複数箇所に設けられており、
前記原料の粘度と、該原料の他の特性とを対応付けたテーブルを備え、
前記演算部は、
複数の前記圧力センサから取得した圧力データに基づいて、前記原料の粘度を演算し、
演算された粘度を用いて前記テーブルを参照することによって前記原料の他の特性を特定し、
前記原料の粘度及び他の特性を用いて前記物理量を演算する
請求項3に記載のシミュレーション装置。
【請求項5】
前記産業機械は、原料を溶融可塑化するスクリュと、該スクリュが回転可能に挿入されたシリンダとを有する押出機であり、
前記取得部は、
前記撮像装置から、前記スクリュを撮像して得た画像データを取得し、
前記演算部は、
取得した画像データに基づいて、前記スクリュの構成を特定し、
特定された前記スクリュの構成を表すデータを用いて前記物理量を演算する
請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項6】
前記産業機械は、原料を溶融可塑化するスクリュと、該スクリュが回転可能に挿入されたシリンダとを有する押出機であり、
前記センサは、前記シリンダの温度を検出する温度センサと、複数箇所で前記シリンダの内部の圧力を検出する複数の圧力センサとを含み、
前記原料の粘度と、該原料の他の特性とを対応付けたテーブルを備え、
前記取得部は、
前記制御装置から前記原料の押出量又はスクリュ回転数を示すデータを、前記温度センサ及び複数の前記圧力センサから温度データ及び圧力データを、前記撮像装置から、前記スクリュを撮像して得た画像データを取得し、
前記演算部は、
複数の前記圧力センサから取得した圧力データに基づいて、前記原料の粘度を演算し、
演算された粘度を用いて前記テーブルを参照することによって前記原料の他の特性を特定し、
取得した画像データに基づいて、前記スクリュの構成を特定し、
取得した押出量及びスクリュ回転数を示すデータと、圧力データと、温度データと、前記原料の粘度及び他の特性と、前記スクリュの構成を表すデータとを用いて前記物理量を演算する
請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項7】
前記演算部は、
前記産業機械の動作と並行して、前記物理量を演算する
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のシミュレーション装置。
【請求項8】
産業機械の挙動をシミュレートするシミュレーション方法であって、
前記産業機械の運転制御を行う制御装置、前記産業機械に設けられたセンサ、又は前記産業機械を構成する部品を撮像する撮像装置から、前記産業機械の挙動に関連するデータを取得し、
取得したデータに基づいて、前記産業機械の挙動を示す物理量を演算する
シミュレーション方法。
【請求項9】
コンピュータに、産業機械の挙動をシミュレートさせるシミュレーションプログラムであって、
前記産業機械の運転制御を行う制御装置、前記産業機械に設けられたセンサ、又は前記産業機械を構成する部品を撮像する撮像装置から、前記産業機械の挙動に関連するデータを取得し、
取得したデータに基づいて、前記産業機械の挙動を示す物理量を演算する
処理を前記コンピュータに実行させるためのシミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出機における所定の物理量を演算するシミュレーション装置、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
軸方向の各領域における押出機内部の圧力、原料である樹脂の充満率、温度などを予測するシミュレーション装置がある(例えば、特許文献1)。シミュレーション装置は、樹脂物性、押出条件及びスクリュ構成を示すデータに基づいて、押出機内の充満率、圧力、温度などを演算する。シミュレーション装置は、演算された充満率、圧力、温度などを示す予測結果を出力する。出力された予測結果は、プロセス条件の最適化、評価などに活用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来のシミュレーション装置においては、樹脂物性、押出条件、スクリュ構成などの解析条件を手動設定する必要があった。
【0005】
本開示の目的は、シミュレーションに必要な解析条件を自動設定することができ、解析条件を手動で入力する負担を軽減することができるシミュレーション装置、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係るシミュレーション装置は、産業機械の挙動をシミュレートするシミュレーション装置であって、前記産業機械の運転制御を行う制御装置、前記産業機械に設けられたセンサ、又は前記産業機械を構成する部品を撮像する撮像装置から、前記産業機械の挙動に関連するデータを取得する取得部と、取得したデータに基づいて、前記産業機械の挙動を示す物理量を演算する演算部とを備える。
【0007】
本開示の一態様に係るシミュレーション方法は、産業機械の挙動をシミュレートするシミュレーション方法であって、前記産業機械の運転制御を行う制御装置、前記産業機械に設けられたセンサ、又は前記産業機械を構成する部品を撮像する撮像装置から、前記産業機械の挙動に関連するデータを取得し、取得したデータに基づいて、前記産業機械の挙動を示す物理量を演算する。
【0008】
本開示の一態様に係るシミュレーションプログラムは、コンピュータに、産業機械の挙動をシミュレートさせるシミュレーションプログラムであって、前記産業機械の運転制御を行う制御装置、前記産業機械に設けられたセンサ、又は前記産業機械を構成する部品を撮像する撮像装置から、前記産業機械の挙動に関連するデータを取得し、取得したデータに基づいて、前記産業機械の挙動を示す物理量を演算する処理を前記コンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、シミュレーションに必要な解析条件を自動設定することができ、解析条件を手動で入力する負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態1に係る押出機システムの構成例を示す模式図である。
【
図2】実施形態1に係る押出機の構成例を示す模式図である。
【
図3】実施形態1に係る制御装置の構成例を示すブロック図である。
【
図4】実施形態1に係るシミュレーション装置の構成例を示すブロック図である。
【
図5】実施形態1に係る学習モデルの構成例を示すブロック図である。
【
図6】実施形態1に係るシミュレーション方法を示すフローチャートである。
【
図7】実施形態1に係るシミュレーション方法を示すフローチャートである。
【
図8】実施形態1に係るシミュレーション結果の表示例を示す模式図である。
【
図9】実施形態2に係る制御装置の処理手順を示すフローチャートである。
【
図10】実施形態2に係るシミュレーション結果の表示例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係るシミュレーション装置、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラムの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また下記実施形態及び変形例の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0012】
以下、本発明をその実施形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る押出機システムの構成例を示す模式図、
図2は、実施形態1に係る押出機1の構成例を示す模式図である。押出機システムは、押出機1と、制御装置2と、本実施形態1に係るシミュレーション装置3と、撮像装置4とを備える。
【0013】
<押出機1>
押出機1は、ヒータを有するシリンダ11と、当該シリンダ11内で回転方向に駆動可能に設けられ、原料樹脂を溶融可塑化及び混練するスクリュ12と、当該スクリュ12を回転させる回転モータ13とを備える。
【0014】
シリンダ11は、複数のシリンダパーツを組み合わせ、一体化することによって一本のシリンダ11として構成されている。根本側(
図1中左側)のシリンダパーツは、原料が投入されるホッパ11aを備える。
ホッパ11aの数は特に限定されるものでは無く、複数種類の原料樹脂を投入するために複数のホッパ11aをシリンダ11に設けてもよい。また必要に応じて真空ベントをシリンダ11に設けてもよい。
【0015】
スクリュ12は、複数種類のスクリュピースを組み合わせ、一体化することによって一本のスクリュ12として構成されている。例えば、原料を順方向へ輸送するフライトスクリュ形状の順フライトピース、原料を逆方向へ輸送する逆フライトピース、原料を混練するニーディングピースなどを、原料の特性に応じた順序及び位置に配して組み合せることにより、スクリュ12が構成される。
【0016】
押出機1は、シリンダ11に原料樹脂を供給するためのフィーダ14を備える。フィーダ14は、設定された押出量の原料樹脂をホッパ11aに投入する。
【0017】
押出機1には、当該押出機1の挙動をシミュレートするために必要なデータ測定するためのセンサが設けられている。具体的には、シリンダ11の温度又はシリンダ11内の樹脂温度を検出する温度センサ15と、シリンダ11の内部の圧力又はシリンダ11内の樹脂圧力を検出する複数の圧力センサ16がシリンダ11に設けられている。温度センサ15は例えば、シリンダ11の先端部に設けられており、先端部におけるシリンダ11又は原料樹脂の温度を検出する。温度センサ15は、検出した温度を示す信号を制御装置2へ出力する。第1の圧力センサ16は、シリンダ11の先端部に設けられており、先端部におけるシリンダ11内部又は原料樹脂の圧力を検出する。第2の圧力センサ16はシリンダ11の先端部よりも基部側の部位に設けられており、当該部位におけるシリンダ11内部又は原料樹脂の圧力を検出する。第1及び第2の圧力センサ16は検出した圧力を示す信号をそれぞれ制御装置2へ出力する。
【0018】
<制御装置2>
図3は、実施形態1に係る制御装置2の構成例を示すブロック図である。制御装置2は、押出機1の運転制御を行うコンピュータであり、制御部21、記憶部22、制御信号出力部23、信号入力部24、通信部25及び操作パネル20を備える。
【0019】
操作パネル20は、押出機1の運転条件などを設定し、押出機1の動作を操作するためのインタフェースである。操作パネル20は、表示パネル20aと、操作部20bとを備える。表示パネル20aは、液晶表示パネル、有機EL表示パネルなどの表示装置であり、制御部21の制御に従って、押出機1の運転条件の設定を受け付けるための受付画面を表示したり、押出機1の状態を表示したりする。操作部20bは、押出機1の運転条件を入力するための入力装置であり、操作ボタン、タッチパネルなどを有する。操作部20bは受け付けた運転条件を示すデータを制御部21に与える。運転条件には、例えば、押出機サイズ、押出量、スクリュ回転数、シリンダ温度などが含まれる。押出機サイズはスクリュ12の全長に相当する長さである。
【0020】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などの演算回路、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などの内部記憶装置、I/O端子などを有する。制御部21は、記憶部22が記憶する運転制御プログラムを読み出して実行することにより、押出機1の運転制御を行う。また、制御部21は、押出機1の挙動に関連するデータを収集してシミュレーション装置3へ送信する処理を実行する。
【0021】
制御信号出力部23は、制御部21の制御に従って押出機1の動作を制御するための制御信号を押出機1へ出力する。具体的には、制御信号出力部23は、回転モータ13の回転開始、回転速度、回転停止などを指示する制御信号を押出機1へ出力する。また、制御信号出力部23は、シリンダ11の加熱温度を指示する制御信号、フィーダ14による樹脂の供給を制御する制御信号などを押出機1へ出力する。
【0022】
信号入力部24は、温度センサ15及び圧力センサ16に接続されており、信号入力部24には、温度センサ15及び圧力センサ16から出力された信号が入力する。信号入力部24は、シリンダ11内部の温度及び圧力を示すデータを制御部21に与える。
【0023】
通信部25は、シミュレーション装置3との間でデータを送受信する通信回路である。通信部25は、制御部21の制御に従って、押出機1の挙動に関連するデータをシミュレーション装置3へ送信する。具体的には、通信部25は、制御装置2に設定された運転条件を示す設定データ、シリンダ11の温度を示す温度データ、シリンダ11の圧力を示す圧力データなどの測定データをシミュレーション装置3へ送信する。
【0024】
<シミュレーション装置3>
図4は、実施形態1に係るシミュレーション装置3の構成例を示すブロック図である。
本実施形態に係るシミュレーション装置3は、押出機1の挙動をシミュレートするコンピュータであり、演算部31、記憶部32、通信部33及び表示部34を備える。
【0025】
演算部31は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などの演算回路、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などの内部記憶装置、I/O端子などを有する。演算部31は、記憶部32に記憶されたシミュレーションプログラム32aを読み出して実行することにより、二軸スクリュ式の押出機1における所定の物理量を演算する処理を行う。シミュレーション装置3の各機能部は、ソフトウェア的に実現してもよいし、一部又は全部をハードウェア的に実現してもよい。
【0026】
記憶部32は、例えば、ハードディスク、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)、フラッシュメモリなどの記憶装置である。記憶部32は、演算部31が実行する各種のプログラム、及び、演算部31の処理に必要な各種のデータを記憶する。本実施形態において記憶部32は、少なくとも演算部31が実行するシミュレーションプログラム32aを記憶している。また、記憶部32は、複数の原料樹脂の粘度と、当該原料樹脂の他の特性、例えば原料樹脂の固体の密度、熱伝導率及び比熱、原料樹脂の溶融体の密度、熱伝導率及び比熱、溶融熱量、融点とを対応付けた樹脂特性テーブル35を記憶する。学習モデルの詳細は後述する。
以下、スクリュ12を撮像して得た画像をスクリュ画像、当該画像のデータをスクリュ画像データと呼ぶ。同様に、シリンダ11を撮像して得た画像をシリンダ画像、当該画像のデータをシリンダ画像データと呼ぶ。
【0027】
シミュレーションプログラム32aは、シミュレーション装置3の製造段階において記憶部32に書き込まれる態様でもよい。シミュレーションプログラム32aは、他の情報処理装置などがネットワークを介して配信される態様でもよい。シミュレーション装置3は通信にてシミュレーションプログラム32aを取得して記憶部32に書き込む。シミュレーションプログラム32aは、フラッシュメモリなどの半導体メモリ、光ディスク、光磁気ディスク、磁気ディスクなどの記録媒体30に読み出し可能に記録された態様でもよい。シミュレーション装置3はシミュレーションプログラム32aを読み出して記憶部32に記憶する。
【0028】
通信部33は、制御装置2との間でデータを送受信する通信回路である。通信部33は、制御装置2から送信された設定データ、温度データ及び圧力データなどの測定データを受信する。通信部33が受信した設定データ、温度データ及び圧力データは、記憶部32に記憶される。
また、通信部33は、撮像装置4との間でデータを送受信する。撮像装置4は、例えば、カメラを備えた通信機能を有する装置、例えばスマートフォンである。本実施形態1に係る撮像装置4は、押出機1を構成するシリンダ11及びスクリュ12を撮像するために用いられる。撮像装置4は、シリンダ11を撮像して得たシリンダ画像データ、スクリュ12を撮像して得たスクリュ画像データをシミュレーション装置3へ送信する。通信部33は、撮像装置4から送信されたシリンダ画像データ及びスクリュ画像データを受信する。通信部33が受信したシリンダ画像データ及びスクリュ画像データは記憶部32に記憶される。
【0029】
表示部34は、例えば液晶表示パネル、有機EL表示パネルなどの表示装置である。表示部34は、演算部31から出力される解析結果のデータに基づいて、押出機1の挙動を表した所定の物理量を表示する。所定の物理量は、例えば、原料樹脂の滞留時間、充満率、トルク、固相率(固相占有率)、原料樹脂の温度又は圧力などである。表示部34は、押出機軸方向における上記物理量の分布を表示する(
図8参照)。
【0030】
なお、上記したシミュレーション装置3は、複数のコンピュータを含んで構成されるマルチコンピュータであってよく、ソフトウェアによって仮想的に構築された仮想マシンであってもよい。また、シミュレーション装置3をクラウドサーバとして構成してもよい。
【0031】
図5は、実施形態1に係る学習モデルの構成例を示すブロック図である。
図5Aは第1学習モデル36、
図5Bは第2学習モデル37の構成を概念的に示している。
【0032】
第1学習モデル36は、例えば、ピース検出モデル36aと、ピース認識モデル36bとを備える。ピース検出モデル36aは、スクリュ画像データが入力された場合に、スクリュ画像に含まれるスクリュ12を構成する複数の各スクリュピースの画像の位置及び範囲を示す情報を出力する学習済みの機械学習モデルである。ピース検出モデル36aは、例えば、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional neural network)である。学習モデルは、スクリュ画像が入力される入力層と、画像の特徴量を抽出する中間層と、スクリュ画像に含まれるスクリュピースの位置及び範囲を示す情報を出力する出力層とを有する。中間層は、入力層に入力された画像の各画素の画素値を畳み込む畳み込み層と、畳み込み層で畳み込んだ画素値をマッピングするプーリング層とが交互に連結された構成を有し、スクリュ画像の画素情報を圧縮しながら画像の特徴量を抽出する。
【0033】
ピース認識モデル36bは、ピース検出モデル36aによって検出されたスクリュピースの画像データが入力された場合に、当該スクリュピースの種類、幅、リード角、条数などの情報を出力する学習済みの機械学習モデルである。上記したスクリュピースの幅は、無次元量であり、例えばスクリュピースの径に対する、軸方向の長さの比で表される。ピース認識モデル36bも、CNNで構成すればよい。
【0034】
なお、第1学習モデル36を、物体検出モデルであるピース検出モデル36aと、画像認識モデルであるピース認識モデル36bで構成する例を説明したが、第1モデルを、R-CNN,Fast R-CNN、Faster R-CNN、YOLO(You Only Look Once)で構成してもよい。第1学習モデル36は、スクリュ画像が入力された場合、スクリュピースの画像の位置及び範囲、並びにスクリュピースの種類などの情報を出力することができる。
【0035】
第2学習モデル37は、例えば、シリンダパーツ検出モデル37aと、シリンダパーツ認識モデル37bとを備える。シリンダパーツ検出モデル37aは、シリンダ画像データが入力された場合に、シリンダ画像に含まれるシリンダ11を構成する複数の各シリンダパーツの画像の位置及び範囲を示す情報を出力する学習済みの機械学習モデルである。シリンダパーツ検出モデル37aの構成は、ピース検出モデル36aと同様である。ただし、シリンダパーツ検出モデル37aは、シリンダ画像を訓練データとして用いて、シリンダパーツを検出するように学習させてある。
【0036】
シリンダパーツ認識モデル37bは、シリンダパーツ検出モデル37aによって検出されたシリンダパーツの画像データが入力された場合に、当該シリンダパーツの種類を出力する学習済みの機械学習モデルである。シリンダパーツ認識モデル37bも、CNNで構成すればよい。
【0037】
なお、第2学習モデル37を、R-CNN,Fast R-CNN、Faster R-CNN、YOLOで構成してもよい。第2学習モデル37は、シリンダ画像が入力された場合、シリンダパーツの画像の位置及び範囲、並びにシリンダパーツの種類などの情報を出力することができる。
【0038】
<シミュレーション方法>
図6及び
図7は、実施形態1に係るシミュレーション方法を示すフローチャートである。シミュレーション装置3の演算部31は、制御装置2及び撮像装置4から、押出機1の挙動に関連するデータを取得する(ステップS11)。具体的には、演算部31は、通信部33を介して、制御装置2から、押出機サイズデータ、押出量データ、スクリュ回転数データ、シリンダ温度データなどの設定データを取得する。また、演算部31は、制御装置2から温度データ、圧力データなどの測定データを取得する。なお、演算部31は、温度センサ15及び圧力センサ16から温度データ及び圧力データを直接取得するように構成してもよい。更に、演算部31は、撮像装置4からスクリュ画像データ、シリンダ画像データなどの画像データを取得する。
【0039】
次いで、演算部31は、取得したスクリュ画像データに基づいて、スクリュ構成を特定する(ステップS12)。具体的には、演算部31は、スクリュ画像データを第1学習モデル36に入力することによって、スクリュ12を構成する複数のスクリュピースそれぞれの種類、幅(寸法比)、リード角、条数などを特定する。スクリュ構成の情報によって、後述するスクリュ特性式に含まれる係数、例えばスクリュ特性パラメータなどを決定することができる。例えば、記憶部32は、スクリュ構成のデータと、スクリュ特性パラメータとの対応関係を記憶しており、演算部31は当該対応関係を参照することによってスクリュ特性パラメータを決定する。対応関係の実体は、テーブル、関数などである。
【0040】
演算部31は、取得したシリンダ画像データに基づいて、シリンダ11構成を特定する(ステップS13)。具体的には、演算部31は、シリンダ画像データを第2学習モデル37に入力することによって、シリンダ11を構成する複数のシリンダパーツの種類を特定する。シリンダ11構成の情報によって、原料樹脂の投入位置、ベントの位置などを特定することができる。
【0041】
次いで、演算部31は、圧力データなどに基づいて、樹脂粘度を演算する(ステップS14)。具体的には、演算部31は、押出軸方向に離隔した2箇所で検出された圧力データによって圧力損失ΔPを決定することができ、圧力損失ΔPから、樹脂粘度を求めることができる。樹脂粘度は、温度及び剪断速度と相関があるため、異なる温度及び剪断速度下で検出された圧力データに基づいて、樹脂粘度を算出する構成が好ましい。より正確に、樹脂の種類を特定することができ、当該樹脂の特性を特定することができる。
【0042】
演算部31は、演算された樹脂粘度をキーにして、樹脂特性テーブル35を参照することによって、樹脂原料の他の特性を特定する(ステップS15)。具体的には、原料樹脂の固体の密度、熱伝導率及び比熱、原料樹脂の溶融体の密度、熱伝導率及び比熱、溶融熱量、融点などを特定する。
【0043】
次いで演算部31は、ステップS11~ステップS15の処理で取得及び特定したデータを用いて初期設定を行う(ステップS16)。
具体的には、演算部31は、押出機1サイズ、押出量、スクリュ回転数、シリンダ温度、先端樹脂圧力、原料樹脂温度などの押出条件データを初期設定する。
また、演算部31は、押出機1に投入される原料樹脂の粘度、固体の密度、熱伝導率及び比熱、溶融体の密度、熱伝導率及び比熱、溶融熱量、融点などの物性を示す樹脂物性データを初期設定する。
更に、演算部31は、スクリュ構成及びシリンダ11構成を示すスクリュ構成データを初期設定する。
【0044】
ステップS11~ステップS16の処理により、後述するステップS18及びステップS22の演算処理に必要な情報を取得することができる。
なお、初期設定が必要なデータであって、ステップS11~ステップS15の処理で取得及び特定できなかったデータがある場合、演算部31は、操作パネル20を介して当該データを取得すればよい。また、ステップS14及びステップS15の処理に必要なデータであって、ステップS11~ステップS13の処理で取得及び特定できなかったデータがある場合、演算部31は、操作パネル20を介して当該データを取得すればよい。
【0045】
ステップS16の処理を終えた演算部31は、変数iに、スクリュ先端節点12bの位置を表す数値を代入する(ステップS17)。
図2に示すように、スクリュ12の長手方向における位置を計算点番号で表すことができる。具体的には、シリンダ11内の空間を押出機軸方向に沿って複数に分割してなる各分割領域に計算点番号が付される。以下、計算点番号を変数iで表すものとする。変数iの値は、スクリュ根本節点12aからスクリュ先端節点12bにむかって大きくなる。スクリュ根本節点12aは、
図2中左側のスクリュ12の根本部の節点であり、スクリュ先端節点12bは、
図2中右側のスクリュ12の先端部の節点である。
【0046】
次いで、演算部31は、スクリュ特性式及び押出条件に基づいて、圧力、充満率及び滞留時間を演算する(ステップS18)。
【0047】
スクリュ特性式は下記式(1)により表される。
【数1】
【0048】
圧力損失ΔPと、既知の先端樹脂圧力P0により、変数iで表される位置における圧力Pを演算することができる。演算部31は、下流側から上流側へ圧力損失ΔPを順次演算することによって(ステップS19及びステップS20)、各分割領域における圧力を求めることができる。
【0049】
【0050】
【0051】
そして、演算部31は、変数iがスクリュ根本節点12aを示す値であるか否かを判定する(ステップS19)。変数iがスクリュ根本節点12aを示す値で無いと判定した場合(ステップS19:NO)、演算部31は変数iを1デクリメントし(ステップS20)、処理をステップS18へ戻す。
【0052】
変数iがスクリュ根本節点12aを示す値であると判定した場合(ステップS19:YES)、演算部31は、変数iに、スクリュ根本節点12aの位置を表す数値を代入する(ステップS21)。なお、ステップS21の処理を省略してもよい。
【0053】
次いで、演算部31は、エネルギ収支式により、樹脂温度、固相率、動力、トルク、ESP、分散、分配などを演算する(ステップS22)。
【0054】
エネルギ収支式は下記式(4)により表される。なお、樹脂原料とシリンダ11との接触面積は、分割領域におけるシリンダ11面積に充満率を乗算することにより得られる。
【数4】
【0055】
上記式を変形することにより下記式(5)が得られる。右辺第一項の樹脂温度Tは1ステップ前に求まった原料樹脂の温度を用いる。
【数5】
【0056】
上記式(5)で求まった温度差ΔTを下記式(6)に代入することにより、現ステップにおける樹脂温度を求めることができる。
【0057】
【0058】
ステップS22の処理を終えた演算部31は、変数iがスクリュ先端節点12bを示す値であるか否かを判定する(ステップS23)。変数iがスクリュ先端節点12bを示す値で無いと判定した場合(ステップS23:NO)、演算部31は変数iを1インクリメントし(ステップS24)、処理をステップS22へ戻す。
【0059】
変数iがスクリュ先端節点12bを示す値であると判定した場合(ステップS23:YES)、演算部31は、シミュレーション結果が収束したか否かを判定する(ステップS25)。シミュレーション結果が収束していないと判定した場合(ステップS25:NO)、演算部31は、処理をステップS17へ戻し、ステップS17~ステップS25の処理を繰り返し実行する。
【0060】
シミュレーション結果が収束したと判定した場合(ステップS25:YES)、演算部31は解析結果を表示部34に表示し(ステップS26)、処理を終える。
【0061】
図8は、実施形態1に係るシミュレーション結果の表示例を示す模式図である。
図8に示すグラフの横軸は変数i、すなわちスクリュ12の長手方向における位置を示している。
図8に示す複数のグラフの縦軸は、滞留時間、充満率、トルク、固相率、温度、圧力を示している。演算部31は、
図8に示すように、押出機軸方向における原料樹脂の滞留時間、充満率、トルク、固相率、原料樹脂の温度又は樹脂圧力の分布を示すデータを出力し、当該分布を示す画像を表示パネル20aに表示する。
【0062】
このように構成されたシミュレーション装置3などによれば、シミュレーションに必要な解析条件を自動設定することができ、解析条件を手動で入力する負担を軽減することができる。
【0063】
具体的には、シミュレーション装置3は、押出機1の制御装置2から設定データを取得して初期設定する構成であるため、押出条件データをシミュレーション装置3に入力する負担を削減することができる。
【0064】
また、シミュレーション装置3は、押出機1に設けられた温度センサ15及び圧力センサ16から温度データ及び圧力データを取得し、樹脂の特性を特定して初期設定する構成であるため、樹脂物性データをシミュレーション装置3に入力する負担を削減することができる。
より具体的には、シミュレーション装置3は、原料樹脂の粘度を特定し、特定された粘度をキーにして樹脂特性テーブル35を参照することによって、原料樹脂の種々の特性を特定することができる。従って、原料樹脂の粘度、原料樹脂の固体の密度、熱伝導率及び比熱、原料樹脂の溶融体の密度、熱伝導率及び比熱、溶融熱量、融点などのデータの入力負担を削減することができる。
【0065】
更に、シミュレーション装置3は、撮像装置4からスクリュ画像及びシリンダ画像を取得して解析することによって、スクリュ構成データを初期設定する構成であるため、スクリュ構成データをシミュレーション装置3に入力する負担を削減することができる。
【0066】
更にまた、演算部31は、押出機軸方向における原料樹脂の滞留時間、充満率、トルク、固相率、原料樹脂の温度又は樹脂圧力の分布を示すデータを出力し、当該分布を示す画像を表示することができる。
【0067】
なお、本実施形態では、シミュレーション装置3の一例として押出機1を例示したが、射出成形機、その他の産業機械に本発明を適用してもよい。
【0068】
更に、シミュレーション方法の一例としてFAN(Flow Analysis Network)法を例示したが、有限要素法、有限堆積法、粒子法など、他のシミュレーション手法を用いて、押出機1、その他の産業機械の挙動をシミュレートするように構成してもよい。
【0069】
更に、制御装置2及び撮像装置4から設定データ、測定データ、画像データを取得する例を説明したが、これらのデータのいずれかを取得してシミュレーション装置3に初期設定するように構成してもよい。手動で初期設定が必要な解析条件を一部削減することができ、解析条件を入力する負担を削減することができる。
【0070】
(実施形態2)
実施形態2に係る押出機システムは、制御装置2がシミュレーション装置3として機能する点と、押出機1の運転制御を行いながらリアルタイムでシミュレーションを実行して解析結果を表示する点が実施形態1と異なる。その他の構成は、実施形態1に係るシミュレーション装置3と同様であるため、同様の箇所には同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0071】
実施形態2に係る制御装置2の記憶部22は、実施形態1に係るシミュレーション装置3の記憶部32が記憶していたシミュレーションプログラム32a、樹脂特性テーブル35,第1学習モデル36及び第2学習モデル37を記憶する。制御部21は、シミュレーションプログラム32aを実行することによって、実施形態1に係るシミュレーション装置3と同様の処理を実行する。また、制御装置2の通信部25は、撮像装置4から画像データを取得する。
【0072】
図9は、実施形態2に係る制御装置2の処理手順を示すフローチャートである。制御装置2の制御部21は、押出機1の押出機1の運転条件を示すデータを操作部20bにて受け付け、受け付けた運転条件を設定する(ステップS51)。運転条件は、実施形態1と同様であり、押出機サイズ、押出量、スクリュ回転数、シリンダ温度などが含まれる。
【0073】
次いで、制御部21は、設定された運転条件に従って、押出機1の動作を制御する(ステップS52)。そして、制御部21は、押出機1の制御と共に、実施形態1で説明したシミュレーション処理を実行する(ステップS53)。シミュレーション手順は実施形態1と同様である。ただし、制御部21は、設定データを記憶部22から読み出すことによって取得し、温度データ及び圧力データを信号入力部24から取得する。そして、制御部21は、解析結果を表示パネル20aにリアルタイム表示する(ステップS54)。
【0074】
図10は、実施形態2に係るシミュレーション結果の表示例を示す模式図である。制御部21は、シミュレーション装置3の演算部31と同様、解析結果を表示パネル20aに表示する。例えば、制御部21は、押出機軸方向における充満率、樹脂温度、樹脂圧力の分布を示すグラフを表示する。なお、制御部21は、温度センサ15及び圧力センサ16によって測定された温度及び圧力の実測値を、解析結果である樹脂温度及び樹脂圧力のグラフに重畳表示させるように構成してもよい。
また、制御部21は、制御装置2に設定されている運転条件、温度センサ15及び圧力センサ16によって測定された測定値のデータなども合わせて表示パネル20aに表示するとよい。
更に、制御部21は、測定値と、シミュレーション処理によって得られた解析結果である予測値とを対比したテーブルを表示パネル20aに表示してもよい。
【0075】
実施形態2によれば、押出機1の操作パネル20に、原料樹脂の滞留時間、充満率、トルク、固相率、原料樹脂の温度又は樹脂圧力の分布を示すデータをリアルタイムで表示することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 押出機
2 制御装置
3 シミュレーション装置
4 撮像装置
11 シリンダ
11aホッパ
12 スクリュ
12a スクリュ根本節点
12b スクリュ先端節点
13 回転モータ
14 フィーダ
15 温度センサ
16 圧力センサ
20 操作パネル
20a 表示パネル
20b 操作部
21 制御部
22 記憶部
23 制御信号出力部
24 信号入力部
25 通信部
30 記録媒体
31 演算部
32 記憶部
33 通信部
34 表示部
32a シミュレーションプログラム
35 樹脂特性テーブル
36 第1学習モデル
37 第2学習モデル