(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151233
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】モータ駆動制御装置、アクチュエータ、およびモータ駆動制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 8/12 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
H02P8/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060731
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】藤井 順平
(72)【発明者】
【氏名】宇野 寿一
【テーマコード(参考)】
5H580
【Fターム(参考)】
5H580AA08
5H580BB02
5H580CA02
5H580CA12
5H580CA16
5H580CB03
5H580EE03
5H580FA02
5H580FA10
5H580FA14
5H580FA22
5H580FA35
5H580FB01
5H580HH22
5H580HH24
5H580HH39
5H580KK03
(57)【要約】
【課題】ステッピングモータの駆動時の異音の発生を抑える。
【解決手段】モータ駆動制御装置10において、制御部122は、PWM周期毎に、コイル21の電流の計測値Siと電流基準値Sisとを比較し、電流の計測値Siが電流基準値Sisに到達していない場合に、励磁モードとしてチャージモードを指定し、電流の計測値Siが電流基準値Sisに到達した場合に、励磁モードとして減衰モードを指定する。制御部122は、電流減衰期間TDにおける第1減衰期間Td1において、減衰モードとして低速減衰モードを指定し、電流減衰期間TDにおける第2減衰期間Td2において、減衰モードとして、低速減衰モードと高速減衰モードとを交互に切り替える混合減衰モードを指定する(
図9参照)。制御部122は、指定した励磁モードに応じた駆動制御信号Sdを生成し、モータ20の駆動を制御する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの駆動を制御するための駆動制御信号を生成する制御回路と、
前記駆動制御信号に基づいて、前記モータのコイルを励磁する駆動回路と、を備え、
前記制御回路は、
前記コイルの電流の計測値を取得する電流値取得部と、
前記コイルが指定された励磁モードに応じた状態となるようにPWM信号を生成し、前記駆動制御信号として出力する駆動制御信号生成部と、
前記コイルに流れる電流が正弦波状に変化するように、前記PWM信号のPWM周期毎に、前記電流の基準となる電流基準値を設定する電流基準値設定部と、
前記PWM周期毎に、前記電流値取得部によって計測された前記電流の計測値と前記電流基準値とを比較し、前記電流の計測値が前記電流基準値に到達していない場合に、前記励磁モードとして、前記電流を増加させるチャージモードを指定し、前記電流の計測値が前記電流基準値に到達した場合に、前記励磁モードとして、前記電流を低下させる減衰モードを指定する励磁モード指定部と、を有し、
前記励磁モード指定部は、前記電流基準値がゼロに向かって変化する電流減衰期間における最初の期間である第1減衰期間において、前記減衰モードとして、前記電流を回生させる低速減衰モードを指定し、
前記励磁モード指定部は、前記電流減衰期間における前記第1減衰期間の後の残りの期間である第2減衰期間において、前記減衰モードとして、前記低速減衰モードと前記低速減衰モードよりも高速に前記電流を回生させる高速減衰モードとを交互に切り替える混合減衰モードを指定する
モータ駆動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ駆動制御装置において、
前記励磁モード指定部は、前記第2減衰期間における前記PWM周期毎に、前記PWM周期内の最初の期間である第1期間において、前記減衰モードとして前記低速減衰モードを指定し、前記PWM周期内の第1期間の後の残りの期間である第2期間において、前記減衰モードとして前記高速減衰モードを指定する
モータ駆動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のモータ駆動制御装置において、
前記励磁モード指定部は、前記第1期間において、前記電流の計測値が前記電流基準値に到達していない場合に、前記励磁モードとして前記チャージモードを指定するとともに、前記電流の計測値が前記電流基準値に到達した場合に、前記励磁モードとして前記低速減衰モードを指定し、
前記励磁モード指定部は、前記第2期間において、前記励磁モードとして前記高速減衰モードを指定する
モータ駆動制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載のモータ駆動制御装置において、
前記励磁モード指定部は、前記第1期間において、前記電流の計測値が前記電流基準値に到達していない場合に、前記励磁モードとして前記チャージモードを指定するとともに、前記電流の計測値が前記電流基準値に到達した場合に、前記励磁モードとして前記低速減衰モードを指定し、
前記励磁モード指定部は、前記第2期間において、前記電流の計測値が前記電流基準値に到達していない場合に、前記励磁モードとして前記チャージモードを指定するとともに、前記電流の計測値が前記電流基準値に到達した場合に、前記励磁モードとして前記高速減衰モードを指定する
モータ駆動制御装置。
【請求項5】
請求項2に記載のモータ駆動制御装置において、
前記励磁モード指定部は、前記電流基準値の低下に応じて、前記第2減衰期間における前記PWM周期に対する前記第2期間の割合を増加させる
モータ駆動制御装置。
【請求項6】
前記モータと、
請求項1乃至5の何れか一項に記載されたモータ駆動制御装置と、
前記モータの回転力を駆動対象に伝達する動力伝達機構と、を備えるアクチュエータ。
【請求項7】
モータ駆動制御装置によってモータの駆動を制御するためのモータ駆動制御方法であって、
前記モータ駆動制御装置が、前記モータのコイルが指定された励磁モードに応じた励磁状態となるようにPWM信号を生成し、前記PWM信号に基づいて前記モータを駆動する第1ステップと、
前記モータ駆動制御装置が、前記コイルに流れる電流が正弦波状になるように、前記PWM信号のPWM周期毎に、前記電流の基準となる電流基準値を設定する第2ステップと、
前記モータ駆動制御装置が、前記PWM周期毎に、前記電流の計測値と前記第2ステップにおいて設定された前記電流基準値とを比較し、前記電流の計測値が前記電流基準値に到達していない場合に、前記励磁モードとして、前記電流を増加させるチャージモードを指定し、前記電流の計測値が前記電流基準値に到達した場合に、前記励磁モードとして、前記電流を低下させる減衰モードを指定する第3ステップと、を含み、
前記第3ステップは、
前記モータ駆動制御装置が、前記電流基準値がゼロに向かって変化する電流減衰期間における最初の期間である第1減衰期間において、前記減衰モードとして、前記電流を回生させる低速減衰モードを指定する第4ステップと、
前記モータ駆動制御装置が、前記電流減衰期間における前記第1減衰期間の後の期間である第2減衰期間において、前記減衰モードとして、前記低速減衰モードと、前記低速減衰モードよりも高速に前記電流を回生させる高速減衰モードと、を交互に切り替える混合減衰モードを指定する第5ステップと、を含む
モータ駆動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動制御装置、アクチュエータ、およびモータ駆動制御方法に関し、例えば、ステッピングモータを駆動するためのモータ駆動制御装置、当該モータ駆動制御装置を搭載したアクチュエータ、およびステッピングモータを駆動するためのモータ駆動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステッピングモータやブラシレスDCモータ等のモータの駆動制御方法として、モータのコイルに流れる電流が正弦波状になるようにコイルを駆動する方法が知られている。
【0003】
例えば、ステッピングモータの駆動方式の一つであるマイクロステップ方式では、モータ駆動制御装置が、ステッピングモータを構成する各相のコイルの電流が正弦波状になるように電流の基準値(指令値)を階段状に変化させるとともに、コイルの電流を監視し、コイルの電流の検出値が基準値を超えないように、各相のコイルの励磁状態を切り替える。
【0004】
一般に、マイクロステップ方式では、ステッピングモータの電気角θ(ロータの位置)に応じて、コイルの電流を正または負の方向に増加させる期間と、コイルの電流をゼロに向かって変化させる期間とが交互に繰り返されることにより、コイルの電流が正弦波状になるように制御される。
【0005】
一般に、マイクロステップ方式によってステッピングモータの駆動を制御する場合に、電流を減衰させるための制御方式(励磁モード)として、コイルの電流を回生させる低速減衰(Slow Decay)モードと、低速減衰モードよりも高速に電流を回生させる高速減衰(Fast Decay)モードとが、知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のマイクロステップ方式によるステッピングモータの駆動方法では、コイルの電流をゼロに向かって変化させる減衰期間における最初の所定の期間において、低速減衰モードによりコイルの電流を徐々に低下させ、その後の期間において、高速減衰モードにより、コイルの電流を急速に低下させることが一般的である。
【0008】
上述した従来の駆動方法では、減衰期間において低速減衰モードから高速減衰モードに切り替えたとき、コイルの電流の減衰量が大きく変化する。この電流の減衰量の変化により、コイルの電流波形に大きな歪みが生じ、その歪みによってステッピングモータから大きな異音が発生する場合がある。
【0009】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、モータの駆動時の異音の発生を抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御装置は、モータの駆動を制御するための駆動制御信号を生成する制御回路と、前記駆動制御信号に基づいて、前記モータのコイルを励磁する駆動回路と、を備え、前記制御回路は、前記コイルの電流の計測値を取得する電流値取得部と、前記コイルが指定された励磁モードに応じた状態となるようにPWM信号を生成し、前記駆動制御信号として出力する駆動制御信号生成部と、前記コイルに流れる電流が正弦波状に変化するように、前記PWM信号のPWM周期毎に、前記電流の基準となる電流基準値を設定する電流基準値設定部と、前記PWM周期毎に、前記電流値取得部によって計測された前記電流の計測値と前記電流基準値とを比較し、前記電流の計測値が前記電流基準値に到達していない場合に、前記励磁モードとして、前記電流を増加させるチャージモードを指定し、前記電流の計測値が前記電流基準値に到達した場合に、前記励磁モードとして、前記電流を低下させる減衰モードを指定する励磁モード指定部と、を有し、前記励磁モード指定部は、前記電流基準値がゼロに向かって変化する電流減衰期間における最初の期間である第1減衰期間において、前記減衰モードとして、前記電流を回生させる低速減衰モードを指定し、前記励磁モード指定部は、前記電流減衰期間における前記第1減衰期間の後の残りの期間である第2減衰期間において、前記減衰モードとして、前記低速減衰モードと前記低速減衰モードよりも高速に前記電流を回生させる高速減衰モードとを交互に切り替える混合減衰モードを指定する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るモータ駆動制御装置によれば、モータの駆動時の異音の発生を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態に係るモータ駆動制御装置を搭載したアクチュエータの構造の一例を示す分解斜視図である。
【
図3】実施の形態に係るモータ駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】実施の形態に係るモータ駆動制御装置における制御回路の機能ブロック構成を示す図である。
【
図5A】チャージモードを説明するための図である。
【
図5B】低速減衰モードを説明するための図である。
【
図5C】高速減衰モードを説明するための図である。
【
図6】モータのコイルの電流と駆動制御信号の時間的な変化を示すタイミングチャートの一例である。
【
図7】
図6における電流減衰期間TDの一部を拡大した図である。
【
図8】第1減衰期間Td1におけるコイルの電流の時間的な変化の一例を示す図である。
【
図9】第2減衰期間Td2におけるコイルの電流の時間的な変化の一例を示す図である。
【
図10】実施の形態に係るモータ駆動制御装置による励磁モードの切り替え制御の流れを示すフローチャートである。
【
図11】比較例としての従来のモータ駆動制御装置によってモータを駆動したときのコイルの電流の実測結果を示す図である。
【
図12】実施の形態に係るモータ駆動制御装置によってモータを駆動したときのコイルの電流の実測結果を示す図である。
【
図13】第2減衰期間Td2におけるコイルの電流の時間的な変化の別の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態の具体例について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。
【0014】
図1は、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置を搭載したアクチュエータの構造の一例を示す分解斜視図である。
【0015】
アクチュエータ1は、例えば、車載用途の空調ユニットとしてのHVAC(Heating Ventilation and Air-Conditioning)システムにおける空調装置を駆動するための装置である。アクチュエータ1としては、ダンパアクチュエータ、弁アクチュエータ、ファンアクチュエータ、ポンプアクチュエータ等のHVACシステムで使用可能な各種のアクチュエータを例示することができる。
【0016】
HVACシステムにおいて、アクチュエータ1は、例えば、他のアクチュエータとともに、上位装置としてのECU(不図示)とバスを介して互いに接続され、LIN(Local Interconnect Network)通信ネットワークを構成している。
【0017】
図1に示されるように、アクチュエータ1は、ケース51とカバー52とで覆われている。アクチュエータ1の内部には、モータ20と、モータ20の駆動を制御するモータ駆動制御装置10と、モータ20の回転力を駆動対象に伝達する動力伝達機構としての2次ギヤ31、3次ギヤ32、および出力ギヤ33とが収納されている。
【0018】
モータ20は、アクチュエータ1の駆動力を発生させる。モータ20は、例えばステッピングモータである。本実施の形態では、モータ20が、A相のコイルおよびB相のコイルを有する2相ステッピングモータであるとして説明する。モータ20は、後述するように、モータ駆動制御装置10から各相のコイルに駆動電力が供給されて動作する。
【0019】
【0020】
上述したように、モータ20は、2相ステッピングモータである。
図2に示されるように、モータ20は、A相のコイル21aと、B相のコイル21bと、ロータ22と、2相のステータヨーク(図示せず)とを有している。
【0021】
コイル21a,21bは、それぞれ、ステータヨーク(不図示)を励磁するコイルである。コイル21aは、モータ端子29として、正極端子APと負極端子ANを有する。コイル21bは、モータ端子29として、正極端子BPと負極端子BNとを有する。コイル21aの正極端子APおよび負極端子ANと、コイル21bの正極端子BPおよび負極端子BNとは、モータ駆動部142を構成するインバータ回路(例えば、Hブリッジ回路)143a,143bに接続されている。インバータ回路143a,143bの詳細については後述する。
【0022】
コイル21a,21bは、インバータ回路143a,143bによって駆動される。これにより、コイル21a,21bには、互いに位相が異なる電流Ia,Ibが流れる。例えば、コイル21a,21bには、互いに位相が90度ずれた電流Ia,Ibが流れる。
【0023】
なお、以下の説明において、コイル21aとコイル21bとを区別しない場合には、単に、「コイル21」と表記する。
【0024】
ロータ22は、円周方向に沿って、S極22SとN極22Nとが交互に反転するように、多極着磁された永久磁石を備えている。なお、
図2では、一例として、ロータ22が2極である場合が示されている。
【0025】
ステータヨークは、ロータ22の周囲に、ロータ22の外周部に近接して配置されている。ロータ22は、コイル21a,21bのそれぞれに流れるコイル電流の位相が周期的に切り替えられることにより、回転する。ロータ22には、出力軸25が接続されており、ロータ22の回転力により、出力軸25が駆動される。
【0026】
モータ20の出力軸25には、1次ギヤ26が取り付けられている。
図1に示すように、モータ20の1次ギヤ26は、2次ギヤ31と噛み合う。2次ギヤ31は、3次ギヤ32と噛み合う。3次ギヤ32は、出力ギヤ33と噛み合う。ケース51の底面には、出力ギヤ33に設けられている外部出力ギヤ(不図示)が露出し、この外部出力ギヤが駆動対象に連結されている。
【0027】
モータ駆動制御装置10は、モータ20を駆動させるための装置である。モータ駆動制御装置10は、例えば,バスを介して上位装置(ECU)との間で通信を行う。モータ駆動制御装置10は、上位装置から受信した制御フレームである駆動指令Scに基づいて、モータ20の各相のコイル21a,21bの通電状態を制御することにより、モータ20の回転および停止を制御して、アクチュエータ1全体の動作を制御する。モータ駆動制御装置10がモータ20を駆動することにより、モータ20の出力軸25に接続された1次ギヤ26が回転する。1次ギヤ26の回転による駆動力が2次ギヤ31、3次ギヤ32、出力ギヤ33、外部出力ギヤと順に伝達され、外部出力ギヤが駆動対象である空調装置の可動部を駆動する。
【0028】
図1に示すように、モータ駆動制御装置10は、ハードウェア資源として、例えば、プリント基板42と、プリント基板42とモータ20のモータ端子29とを接続するフレキシブルプリント基板43とを有している。プリント基板42には、制御回路12、駆動回路14、および複数の外部接続端子41が設けられている。
【0029】
なお、ケース51及びカバー52の内部に収納される回路は、駆動回路14だけであってもよい。例えば、モータ駆動制御装置10は、ケース51およびカバー52の内部に設けられた駆動回路14と、ケース51およびカバー52の外部に設けられた制御回路12とによって構成されるようにしてもよい。
【0030】
図3は、実施の形態に係るモータ駆動制御装置10の構成を示すブロック図である。
【0031】
図3に示すように、モータ駆動制御装置10は、制御回路12および駆動回路14を備えている。
【0032】
制御回路12は、上位装置(ECU)からの駆動指令Scに基づいて、モータ20の回転を制御するための駆動制御信号Sdを生成して駆動回路14を制御することにより、モータ20の回転を制御する。
【0033】
駆動指令Scは、モータ20の目標とする状態を指示する信号である。駆動指令Scは、例えば、モータ20の回転速度を指定する情報、およびモータ20の目標となる回転角度(目標回転位置)を指定する情報等を含む。
なお、制御回路12の詳細については後述する。
【0034】
駆動回路14は、制御回路12から出力された駆動制御信号Sdに基づいて、モータ20のコイル21を通電する制御を行う。駆動回路14は、モータ駆動部142と電流センサ144とを有する。
【0035】
モータ駆動部142は、駆動制御信号Sdに基づいて、モータ20に駆動電力を供給する。
【0036】
図2に示すように、モータ駆動部142は、例えば、駆動対象のコイル21a,21b毎に対応したインバータ回路143a,143bを有している。インバータ回路143a,143bは、例えば、Hブリッジ回路である。以下、インバータ回路143aとインバータ回路143bとを区別しない場合には、「インバータ回路143」と表記する。
【0037】
図2に示すように、インバータ回路143aは、A相のコイル21aの正極端子APとコイル21aの負極端子ANとに接続されている。インバータ回路143bは、B相のコイル21bの正極端子BPとコイル21bの負極端子BNとに接続されている。
【0038】
インバータ回路143aは、端子APと端子ANとの間に電圧Vaを印加することにより、コイル21aに電流Iaを流す。インバータ回路143bは、端子BPと端子BNとの間に電圧Vbを印加することにより、コイル21bに電流Ibを流す。
【0039】
例えば、A相のコイル21aを正側に励磁する場合、すなわち、コイル21aの正極端子APから負極端子ANに電流Ia(+)を流す場合、負極端子ANに対する正極端子APの電圧Vaを“正”にする。一方、A相のコイル21aを負側に励磁する場合、すなわち、コイル21aの負極端子ANから正極端子APに電流Ia(-)を流す場合、負極端子ANに対する正極端子APの電圧Vaを“負”にする。B相のコイル21bを励磁する場合も同様である。
【0040】
電流センサ144は、モータ20の各相のコイル21に流れる電流(コイル電流)を検出する。電流センサ144は、例えば、コイル21に流れる電流を電圧に変換するシャント抵抗を含む。詳細は後述するが、シャント抵抗は、各相のコイル21a,21b毎に設けられ、インバータ回路143a,143bのグラウンド電位GND側または電源電圧VDDにインバータ回路143a,143bと直列に接続されている。電流センサ144は、シャント抵抗の両端の電圧を各相のコイル21a,21bの電流Ia,Ibの検出結果として出力し、制御回路12に与える。
【0041】
図2に示すように、制御回路12は、例えば、制御部122、電流計測部124、および逆起電圧計測部126を含む。
【0042】
電流計測部124は、モータ20の各相のコイル21a,21bの電流Ia,Ibを計測する。電流計測部124は、電流センサ144(シャント抵抗)から出力される、各相のコイル21a,21bの電流Ia,Ibに応じた電圧を受け付ける。電流計測部124は、入力された電圧に基づいて、各相のコイル21a,21bの電流Ia,Ibの計測値を算出する。例えば、電流計測部124は、A/D変換回路を含んで構成されている。
【0043】
例えば、電流計測部124は、A相の電流センサ144(シャント抵抗)の電圧をデジタル値に変換し、A相のコイル21aの電流の計測値Siaとして出力する。電流計測部124は、B相の電流センサ144(シャント抵抗)の電圧をデジタル値に変換し、B相のコイル21bの電流の計測値Sibとして出力する。
【0044】
逆起電圧計測部126は、モータ20の複数相のコイル21のうち、通電が停止しているコイル21に誘起される逆起電圧を計測する。本実施の形態において、逆起電圧計測部126は、駆動回路14とモータ20とを接続する4つのライン(各相のコイル21の正極端子AP,BPおよび負極端子BP,BN)の夫々に接続されている。逆起電圧計測部126は、逆起電圧の計測値Sbefを、制御部122に出力する。逆起電圧計測部126は、例えば、抵抗分圧回路と、分圧した電圧をデジタル信号に変換するA/D変換回路とを含んで構成されている。
【0045】
制御部122は、制御回路12の統括的な制御を行うための回路である。
制御部122は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の各種メモリ、タイマ、カウンタ、A/D変換回路、入出力I/F回路、およびクロック生成回路等のハードウェア要素を有し、各構成要素がバスや専用線を介して互いに接続されたプログラム処理装置(例えば、マイクロコントローラ:MCU(Micro Control Unit))である。制御部122は、メモリとして、例えば、フラッシュメモリやEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の書き換え可能な不揮発性の記憶装置を有している。
【0046】
なお、上述した電流計測部124および逆起電圧計測部126の一部または全部は、制御部122を構成するMCU内のA/D変換回路等を用いて実現されていてもよいし、MCUとは別に設けられた別個のIC(Integrated Circuit)によって実現されていてもよい。
【0047】
制御部122は、主として、モータ20が駆動指令Scによって指定された状態となるように、モータ20の通電を制御する機能を有する。具体的には、制御部122は、所定の励磁方式に基づく所定のタイミングでA相のコイル21aとB相のコイル21bを励磁するように、駆動制御信号Sdを生成してインバータ回路143を駆動することにより、モータ20を駆動指令Scによって指定された目標回転位置まで移動(回転)させる。
【0048】
ここで、所定の励磁方式とは、例えば、公知の、1相励磁方式、2相励磁方式、1-2相励磁方式、およびマイクロステップ方式の何れかである。本実施の形態では、所定の励磁方式が2相マイクロステップ方式である場合を例にとり、説明する。
【0049】
制御部122は、2相マイクロステップ方式によって駆動制御信号Sdを生成する。具体的には、制御部122は、モータ20を構成する各相のコイル21a,21bの電流Ia,Ibが正弦波状になるように、電流の指令である電流基準値Sisを階段状に変化させるとともに、コイルの電流Ia,Ibを監視し、コイルの電流Ia,Ibの計測値Sia,Sibが電流基準値Sisを超えないように、各相のコイル21a,21bの励磁状態を切り替える。具体的には、制御部122は、モータ20のコイル21の電流と電流基準値Sisとの関係に応じてパルス幅が変化するPWM信号(駆動制御信号Sd)を生成し、駆動回路14を介してモータ20の駆動を制御するPWM制御を行う。
【0050】
図4は、実施の形態に係るモータ駆動制御装置における制御部122の機能ブロック構成を示す図である。
【0051】
図4に示すように、制御部122は、上述した機能を実現するための機能ブロックとして、例えば、駆動制御信号生成部132、電流値取得部133、電流基準値設定部134、励磁モード指定部135、および記憶部137を有している。これらの機能ブロックは、上述したMCU内のプロセッサが、メモリに記憶されているプログラムに従って各種演算を実行するとともに、タイマおよびカウンタ、A/D変換回路および入出力I/F回路等の周辺回路を制御することによって、実現される。
【0052】
なお、制御部122は、上記機能に加えて、モータ20の逆起電圧に基づいてモータ20の脱調の発生の有無を判定する機能を有していてもよい。この場合、制御部122は、脱調判定部136を更に有する。
【0053】
駆動制御信号生成部132は、駆動制御信号Sdを生成する機能部である。駆動制御信号生成部132の詳細については、後述する。
【0054】
記憶部137は、モータ20の駆動制御に必要な各種データを記憶するための機能部である。例えば、記憶部137には、モータ20における脱調の発生の有無を判定するための基準となる脱調判定閾値の情報201と、後述する、モータ20の駆動制御における電気角θと電流基準値Sisとの関係を示す電流基準値情報202と、が記憶されている。記憶部137の一部は、例えば、制御部122の電源供給が停止してもデータを保持する不揮発性の記憶装置の記憶領域を利用して実現されている。
【0055】
脱調判定部136は、脱調判定閾値と逆起電圧計測部126によって計測された逆起電圧の計測値Sbefとに基づいて、モータ20において脱調が発生したか否かを判定する(脱調判定)ための機能部である。
【0056】
本実施の形態において、逆起電圧は、例えば次のようにして計測される。例えば、後述する駆動制御信号生成部132が、A相及びB相のうちいずれか1つの相のコイル21a,21bに流れるコイル電流Ia,Ibの向きが切り替わる際に、一時的に、コイル21a,21bへの電圧の印加を停止させるように、駆動制御信号Sdを生成する。そして、逆起電圧計測部126は、コイル21a,21bへの電圧の印加が停止されている期間に、電圧の印加が停止されている相のコイル21a,21bに誘起される逆起電圧を、個別に(相毎に、又はコイル毎に)計測する。
【0057】
脱調判定部136は、逆起電圧計測部126によって計測された逆起電圧の計測値Sbefと、記憶部137に記憶されている脱調判定閾値とを比較する。例えば、脱調判定部136は、逆起電圧の計測値Sbefが脱調判定閾値より低い場合に、モータ20において脱調が発生していると判定し、逆起電圧の計測値Sbefが脱調判定閾値以上である場合に、モータ20において脱調が発生していないと判定する。
【0058】
駆動制御信号生成部132は、脱調判定部136による脱調判定の結果に応じて、駆動制御信号Sdを生成する。例えば、駆動制御信号生成部132は、モータ20において脱調が発生したと判定された場合には、駆動制御信号Sdによって、モータ駆動部142に対してモータ20の駆動を停止させる。
【0059】
駆動指令取得部131は、例えば、上位装置(ECU)から入力された駆動指令Scを取得する。上述したように、駆動指令Scは、例えば、モータ20の目標となる回転位置(目標回転位置)を指定する情報を含む。駆動指令取得部11は、例えば、駆動指令Scを解析することにより、モータ20の目標回転位置の情報を取得して出力する。
【0060】
駆動制御信号生成部132は、モータ20のコイル21が指定された励磁モードに応じた励磁状態となるようにPWM信号を生成し、駆動制御信号Sdとして出力する。
【0061】
例えば、駆動制御信号生成部132は、駆動指令取得部131から出力された目標回転位置の情報を取得する。駆動制御信号生成部132は、モータ20が目標回転位置まで移動するように、相毎に、励磁モード指定部135によって指定された励磁モードにしたがってPWM信号を生成し、駆動制御信号Sdとして出力する。以下、PWM信号の1周期、すなわち、PWM信号が生成される周期を「PWM周期」と称する。
【0062】
励磁モード指定部135は、励磁モードを指定して、駆動制御信号生成部132に駆動制御信号Sdの生成を指示する機能部である。
【0063】
ここで、励磁モードについて説明する。励磁モードとは、コイル21の励磁状態を示す情報である。
【0064】
本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10は、励磁モードとして、チャージモードと減衰モードとを有している。
【0065】
先ず、チャージモードについて説明する。
チャージモードは、コイル21の電流を増加させる励磁モードである。
【0066】
図5Aは、チャージモードを説明するための図である。
図5Aに示すように、モータ20の各相のコイル21は、モータ駆動部142を構成するインバータ回路143(Hブリッジ回路)に接続されている。
図5Aに示すように、インバータ回路143は、例えば、スイッチとしてのトランジスタQ1~Q4と、ダイオードD1~D4とを有している。
【0067】
トランジスタQ1とトランジスタQ2とは電源電圧VDDとグラウンド電位との間に、電流センサ144としてのシャント抵抗を介して直列に接続されている。同様に、トランジスタQ3とトランジスタQ4とは電源電圧VDDとグラウンド電位との間に、電流センサ144としてのシャント抵抗を介して直列に接続されている。トランジスタQ1とトランジスタQ2とが共通に接続されるノードには、コイル21の負極端子(ANまたはBN)が接続され、トランジスタQ3とトランジスタQ4とが共通に接続されるノードには、コイル21の正極端子(APまたはBP)が接続されている。
【0068】
ダイオードD1のアノードは、トランジスタQ1とトランジスタQ2とが共通に接続されるノードに接続され、ダイオードD1のカソードは、電源電圧VDDに接続されている。ダイオードD2のアノードは、グラウンド電位GNDに接続され、ダイオードD2のカソードは、トランジスタQ1とトランジスタQ2とが共通に接続されるノードに接続されている。
【0069】
ダイオードD3のアノードは、トランジスタQ3とトランジスタQ4とが共通に接続されるノードに接続され、ダイオードD3のカソードは、電源電圧VDDに接続されている。ダイオードD4のアノードは、グラウンド電位GNDに接続され、ダイオードD4のカソードは、トランジスタQ3とトランジスタQ4とが共通に接続されるノードに接続されている。
【0070】
ダイオードD1~D4は、例えば、トランジスタQ1~Q4の寄生ダイオードであってもよいし、トランジスタQ1~Q4とは別個に設けた電子部品によって実現してもよい。
【0071】
チャージモードにおいて、コイル21は、電源電圧VDDとグラウンド電位GNDとの間に接続され、正または負の方向に励磁される。
【0072】
例えば、
図5Aに示すように、トランジスタQ1,Q4をオフし、トランジスタQ2,Q3をオンすることにより、コイル21の正極端子(AP/BP)側からコイル21の負極端子(AN/BN)側に電流が流れ、コイル21が正の方向に励磁される。一方、トランジスタQ2,Q3をオフし、トランジスタQ1,Q4をオンすることにより、コイル21の負極端子(AN/BN)側からコイル21の正極端子(AP/BP)側に電流が流れ、コイル21が負の方向に励磁される。
【0073】
次に、減衰モードについて説明する。
減衰モードは、コイル21の電流を減衰させるモードである。本実施の形態において、減衰モードは、コイル21の電流を回生させる低速減衰モードと、低速減衰モードよりも高速にコイル21の電流を回生させる高速減衰モードと、を含む。
【0074】
図5Bは、低速減衰モードを説明するための図である。
例えば、チャージモードによって正の方向に励磁されていたコイル21の電流を減衰させる場合(
図5A参照)、低速減衰モードによって、インバータ回路143におけるトランジスタQ1,Q3をオフし、トランジスタQ2,Q4をオンする。これにより、
図5Bに示すように、コイル21の電流をグラウンド電位GND側に回生させて減衰させることができる。負の方向に励磁されていたコイル21の電流を減衰させる場合も同様に、低速減衰モードによってトランジスタQ1,Q3をオフし、トランジスタQ2,Q4をオンすることにより、コイル21の電流をグラウンド電位GND側に回生させて減衰させることができる。
【0075】
図5Cは、高速減衰モードを説明するための図である。
例えば、チャージモードによって正の方向に励磁されていたコイル21の電流を減衰させる場合(
図5A参照)、高速減衰モードによって、インバータ回路143におけるトランジスタQ2,Q3をオフし、トランジスタQ1,Q4をオンする。これにより、
図5Cに示すように、コイル21の電流を電源電圧VDD側に回生させることができる。このとき、コイル21は直前の励磁方向(正)と逆方向(負)に励磁されるため、低速減衰モードよりも高速に、コイル21の電流を減衰させることができる。
【0076】
負の方向に励磁されていたコイル21の電流を減衰させる場合には、高速減衰モードによって、インバータ回路143におけるトランジスタQ1,Q4をオフし、トランジスタQ2,Q3をオンする。これにより、コイル21の電流を電源電圧VDD側に回生させることができる。このとき、コイル21は直前の励磁方向(負)と逆方向(正)に励磁されるため、低速減衰モードよりも高速にコイル21の電流を減衰させることができる。
【0077】
駆動制御信号生成部132は、励磁モード指定部135によって指定された励磁モードに基づいて、駆動制御信号Sdを生成する。
【0078】
例えば、コイル21を正方向に励磁するチャージモードが指定された場合には、駆動制御信号生成部132は、
図5Aに示すように、トランジスタQ2,Q3をオンし、トランジスタQ1,Q4をオフさせる駆動制御信号Sdを生成する。
【0079】
一方、コイル21を正方向に励磁した後に低速減衰モードが指定された場合には、駆動制御信号生成部132は、
図5Bに示すように、トランジスタQ2,Q4をオンし、トランジスタQ1,Q3をオフさせる駆動制御信号Sdを生成する。また、コイル21を正方向に励磁した後に高速減衰モードが指定された場合には、駆動制御信号生成部132は、
図5Cに示すように、トランジスタQ1,Q4をオンし、トランジスタQ2,Q3をオフさせる駆動制御信号Sdを生成する。
【0080】
なお、コイル21を負方向に励磁する場合には、駆動制御信号生成部132は、上述した負方向に励磁する場合とは逆方向に電流が流れるように、指定された励磁モードにしたがって駆動制御信号Sdを生成する。
【0081】
電流値取得部133は、モータ20のコイル21a,21bに流れる電流の計測値を取得する機能部である。電流値取得部133は、電流計測部124によって計測されたA相のコイル21aの電流の計測値Siaと、電流計測部124によって計測されたB相のコイル21bの電流の計測値Sibと、をそれぞれ取得する。例えば、電流値取得部133は、後述するPWM周期毎に、電流の計測値Sia,Sibを取得する。以下、電流の計測値Siaと電流の計測値Sibとを区別しない場合には、「電流の計測値Si」と表記する。
【0082】
電流基準値設定部134は、コイル21の電流の基準となる電流基準値Sisを設定する機能部である。
【0083】
電流基準値設定部134は、コイル21に流れる電流Ia,Ibが正弦波状に変化するように、PWM信号(駆動制御信号Sd)のPWM周期毎に、電流Ia,Ibの基準となる電流基準値Sisを設定する。例えば、電流基準値設定部134は、A相のコイル21aの電流IaおよびB相のコイル21bのIbが正弦波状となり、且つ電流Iaの位相と電流Ibの位相とが互いに90度相違するように、電流基準値Sisを階段状に変化させる。
【0084】
例えば、記憶部137には、電気角θと電流基準値Sisとの対応関係を示す電流基準値情報202が記憶されている。ここで、電流基準値情報202は、例えば、電気角θ=0~360°の範囲において電流基準値Sisが正弦波状になるように、電気角θ毎に電流基準値Sisが対応付けられた情報(例えば、関数またはテーブル)である。
【0085】
電流基準値設定部134は、PWM周期毎に、そのときの電気角θに応じた電流基準値Sisを電流基準値情報202から読み出して逐次出力する。
【0086】
励磁モード指定部135は、電流値取得部133によって取得したコイル21の電流の計測値と電流基準値設定部134によって設定された電流基準値Sisとを比較し、その比較結果に基づいて励磁モードを決定する。
【0087】
励磁モード指定部135は、PWM周期毎に、電流値取得部133によって取得したコイル21の電流の計測値Siと電流基準値Sisとを比較する。例えば、1つのPWM周期が開始されたタイミングにおいて、電流の計測値Siと電流基準値Sisとを比較して、励磁モードを決定する。
【0088】
電流の計測値Siが電流基準値Sisに到達していない場合、励磁モード指定部135は、励磁モードとして、チャージモードを指定する。一方、電流の計測値Siが電流基準値Sisに到達した場合、励磁モード指定部135は、励磁モードとして減衰モードを指定する。
【0089】
電流の計測値Siと電流基準値Sisとの比較および励磁モードの決定は、相毎に行われる。すなわち、励磁モード指定部135は、PWM周期毎に、A相のコイル21aの電流の計測値Siaと電流基準値Sisとを比較してA相のコイル21の励磁モードを決定するとともに、B相のコイル21bの電流の計測値Sibと電流基準値Sisとを比較してB相のコイル21bの励磁モードを決定する。駆動制御信号生成部132は、励磁モード指定部135によって指定された励磁モードに対応したトランジスタQ1~Q4のオン/オフのパターンを指示する駆動制御信号Sdを出力する。
【0090】
図6は、モータのコイルの電流と駆動制御信号の時間的な変化を示すタイミングチャートの一例である。
図6の紙面上側から下側に向かって、A相のコイル21aの電流Ia、コイル21aの電圧の各波形が示されている。
【0091】
本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10では、電流基準値設定部134が、駆動対象のコイル21a,21b毎(相毎)に、電流基準値Sisが正または負の方向に増加する電流増加期間TIと、電流基準値Sisがゼロに向かって変化する電流減衰期間TDとを交互に繰り返す。そして、励磁モード指定部135が、電流の計測値Siが電流基準値Sisを超えないように励磁モードを指定し、駆動制御信号生成部132が指定された励磁モードに対応する駆動制御信号Sdを生成する。これにより、
図6に示すように、各相のコイル21の電流が正弦波状になるように制御される。
【0092】
なお、
図6には、一例として、A相のコイル21aの電流Iaの位相が示されている。モータ20がA相のコイルおよびB相のコイルを有する2相ステッピングモータである場合、A相のコイル21aの電流Iaの位相から90度ずれてB相のコイル21bの電流Ibの位相(不図示)が検出される。
【0093】
具体的に、励磁モード指定部135は、電流増加期間TIおよび電流減衰期間TDにおいて、PWM周期毎に、電流の計測値Siと電流基準値Sisとを比較して励磁モードを切り替える。
【0094】
例えば、1つのPWM周期が開始されたタイミングにおいて、電流の計測値Siと電流基準値Sisとを比較し、電流の計測値Siが電流基準値Sisに到達してない場合(Si<Sis)、励磁モード指定部135は、励磁モードとして“チャージモード”を指定する。そして、そのPWM周期内に、電流の計測値Siが電流基準値Sisに到達した場合、励磁モード指定部135は、励磁モードを“チャージモード”から“減衰モード”に切り替えて、そのPWM周期が終了するまで減衰モードを維持する。
【0095】
また、1つのPWM周期が開始されたタイミングにおいて、電流の計測値Siが電流基準値Sisに到達していた場合(Si≧Sis)、励磁モード指定部135は、励磁モードとして“減衰モード”を指定し、そのPWM周期が終了するまで減衰モードを維持する。
【0096】
このように、励磁モード指定部135は、電流増加期間TIおよび電流減衰期間TDのいずれの期間においても、PWM周期毎に、電流の計測値Siと電流基準値Sisとの比較結果に基づいて励磁モードを切り替える。
【0097】
その一方で、励磁モード指定部135は、電流増加期間TIにおける減衰モードと電流減衰期間TDにおける減衰モードとを相違させる。具体的には、励磁モード指定部135は、電流増加期間TIにおいて、減衰モードとして“低速減衰モード”を選択する。すなわち、電流増加期間TIでは、励磁モードとして、チャージモードまたは低速減衰モードが選択される。また、励磁モード指定部135は、電流減衰期間TDにおいて、減衰モードとして、“低速減衰モード”と“高速減衰モード”とを交互に切り替える混合減衰モードを選択する。以下、電流減衰期間TDにおける減衰モードについて、詳細に説明する。
【0098】
図7は、
図6における電流減衰期間TDの一部を拡大した図である。
【0099】
図7に示すように、コイル21の電流(電流基準値Sis)がゼロに向かって変化する電流減衰期間TDは、第1減衰期間Td1と第2減衰期間Td2を含む。第1減衰期間Td1は、電流減衰期間TDにおける最初の所定の期間である。第2減衰期間Td2は、電流減衰期間TDにおける第1減衰期間Td1の後の残りの所定の期間(Td2=TD-Td1)である。
【0100】
第1減衰期間Td1および第2減衰期間Td2の長さは、予め設定されている。例えば、電気角θが90°から120°(270°から300°)までの期間が第1減衰期間Td1に設定され、電気角θが120°から180°(300°から360°)までの期間が第2減衰期間Td2に設定されている。
【0101】
図7に示すように、励磁モード指定部135は、第1減衰期間Td1において、減衰モードとして“低速減衰モード”を選択し、第2減衰期間Td2において、減衰モードとして、低速減衰モードと高速減衰モードとを交互に切り替える“混合減衰モード”を選択する。
【0102】
図8は、第1減衰期間Td1におけるコイル21の電流の時間的な変化の一例を示す図である。
【0103】
同図において、横軸は時間tを表し、縦軸は電流を表している。参照符号500は、コイル21の電流(コイル21の電流の計測値Si)の時間的な変化を表している。また、
図8には、時刻0から時刻t2までの最初のPWM周期において、電流基準値Sisが“Ith2”に設定され、時刻t2以降のPWM周期において、電流基準値Sisが“Ith1(<Ith2)”に設定された場合が示される。
【0104】
図8に示すように、一つのPWM周期が開始された時刻t0において、励磁モード指定部135は、電流の計測値Siと電流基準値Sis(=Ith2)との比較を行う。このとき、コイル21の電流の計測値Siが電流基準値Sis(=Ith2)に到達していないので、励磁モード指定部135は、励磁モードを“チャージモード”に設定する(
図5A参照)。これにより、コイル21の電流が増加する。
【0105】
その後、時刻t1において電流の計測値Siが電流基準値Sis(=Ith2)に到達したとき、励磁モード指定部135は、励磁モードを“チャージモード”から“低速減衰モード(減衰モード)”に切り替え、次のPWM周期が開始される時刻t2まで“低速減衰モード”を維持する。
【0106】
そして、新たなPWM周期が開始された時刻t2において、励磁モード指定部135は、電流の計測値Siと電流基準値Sis(=Ith2)との比較を行う。
図8に示すように、時刻t2において、電流の計測値Siが電流基準値Sis(=Ith2)より高いため、励磁モード指定部135は、引き続き、励磁モードを低速減衰モードに設定し、次のPWM周期が開始される時刻t3まで低速減衰モードを維持する。
【0107】
このように、電流減衰期間TDにおける第1減衰期間Td1では、減衰モードとして低速減衰モードが選択される。
【0108】
図9は、第2減衰期間Td2におけるコイル21の電流の時間的な変化の一例を示す図である。
【0109】
図9において、横軸は時間tを表し、縦軸は電流を表している。参照符号501は、コイル21の電流(コイル21の電流の計測値Si)の時間的な変化を表している。また、
図9には、時刻0から時刻t2までの最初のPWM周期において、電流基準値Sisが“Ith2”に設定され、時刻t2以降のPWM周期において、電流基準値Sisが“Ith1(<Ith2)”に設定された場合が示される。
【0110】
図9に示すように、電流減衰期間TDの残りの第2減衰期間Td2において、励磁モード指定部135は、PWM周期毎に、PWM周期内の最初の期間である第1期間T1において、減衰モードとして低速減衰モードを指定し、PWM周期内の第1期間T1の後の残りの期間である第2期間T2において、減衰モードとして高速減衰モードを指定する。
【0111】
具体的には、励磁モード指定部135は、第1期間T1において、コイル21の電流の計測値Siが電流基準値Sisに到達していない場合に、励磁モードとして“チャージモード”を指定するとともに、電流の計測値Siが電流基準値Sisに到達した場合に、励磁モードとして“低速減衰モード”を指定する。
【0112】
また、励磁モード指定部135は、第2期間T2において、励磁モードとして高速減衰モードを指定する。
【0113】
例えば、
図9に示すように、PWM周期が開始された時刻t0において、励磁モード指定部135は、電流の計測値Siと電流基準値Sis(=Ith2)との比較を行う。このとき、コイル21の電流の計測値Siが電流基準値Sis(=Ith2)に到達していないので、励磁モード指定部135は、励磁モードを“チャージモード”に設定する(
図5A参照)。これにより、コイル21の電流が増加する。
【0114】
図9に示すように、時刻t1において電流の計測値Siが電流基準値Sis(=Ith2)に到達したとき、励磁モード指定部135は、励磁モードを“チャージモード”から“低速減衰モード(減衰モード)”に切り替える(
図5B参照)。これにより、
図9に示すように、コイル21の電流が一定の傾きで低下する。
【0115】
その後、時刻tc1において、励磁モード指定部135は、減衰モードを“低速減衰モード”から“高速減衰モード”に切り替え、次のPWM周期が開始される時刻t2まで高速減衰モードを維持する(
図5C参照)。これにより、コイル21の電流が、低速減衰モード時よりも大きな傾きで低下する。
【0116】
そして、新たなPWM周期が開始された時刻t2において、電流基準値SisがIth2からIth1に更新され、励磁モード指定部135は、電流の計測値Siと電流基準値Sis(=Ith1)との比較を行う。このとき、
図9に示すように、電流の計測値Siが電流基準値Sis(=Ith1)よりも低いため、励磁モード指定部135は、励磁モードを“チャージモード”に設定する。これにより、コイル21の電流が増加する。
【0117】
時刻t3において電流の計測値Siが電流基準値Sis(=Ith1)に到達したとき、励磁モード指定部135は、励磁モードを“チャージモード”から“低速減衰モード”に切り替える。これにより、
図9に示すように、コイル21の電流が一定の傾きで低下する。
【0118】
その後、時刻tc2において、励磁モード指定部135は、減衰モードを“低速減衰モード”から“高速減衰モード”に切り替え、次のPWM周期が開始される時刻t4まで“高速減衰モード”を維持する。これにより、コイル21の電流が、低速減衰モード時よりも大きな傾きで低下する。
【0119】
このように、PWM周期の最初の第1期間T1において、減衰モードとして“低速減衰モード”が選択され、PWM周期の残りの第2期間T2において、減衰モードとして“高速減衰モード”が選択されることにより、電流減衰期間TDにおける第2減衰期間Td2では、減衰モードとして“低速減衰モード”と“高速減衰モード”とが交互に切り替わる。
【0120】
ここで、PWM周期内の第1期間T1および第2期間T2の長さ(
図9における時刻tc1,tc2)、すなわち、1つのPWM周期に対する低速減衰モードおよび高速減衰モードの割合は、固定であってもよい。
【0121】
例えば、PWM周期において第1期間T1(低速減衰モード)を第2期間T2(高速減衰モード)よりも長くすることにより、1つのPWM周期において電流を緩やかに低下させることができる。また、PWM周期において第2期間T2(高速減衰モード)を第1期間T1(低速減衰モード)よりも長くすることにより、1つのPWM周期において電流を速やかに低下させることができる。
【0122】
また、PWM周期内の第1期間T1および第2期間T2の長さを、動的に変化させてもよい。例えば、励磁モード指定部135は、電流基準値Sisの低下に応じて、第2減衰期間Td2におけるPWM周期に対する第2期間T2(高速減衰モード)の割合を増加させてもよい。すなわち、励磁モード指定部135は、電流基準値Sisがゼロに近づくほど、第1期間T1(低速減衰モード)を短くし、第2期間T2(高速減衰モード)を長くしてもよい。これによれば、コイル21の電流がゼロに使付くほど、コイル21の電流を速やかに低下させることが可能となる。
【0123】
次に、実施の形態に係るモータ駆動制御装置10による励磁モードの切り替え制御の流れを説明する。
【0124】
図10は、実施の形態に係るモータ駆動制御装置10による励磁モードの切り替え制御の流れを示すフローチャートである。
【0125】
例えば、駆動指令Scが上位装置からモータ駆動制御装置10に入力されたとき、制御部122は、モータ20(出力軸)を駆動指令Scで指定された目標回転位置まで回転させるためのPWM制御を開始する。
【0126】
先ず、制御部122が、PWM制御における一つのPWM周期を開始する(ステップS1)。次に、制御部122の電流基準値設定部134が、上述した手法により、電流基準値情報202に基づいて、そのときの電気角θに対応する電流基準値Sisを設定する(ステップS2)。
【0127】
次に、制御部122の励磁モード指定部135が、現時点が電流増加期間TIであるか否かを判定する(ステップS3)。現時点が電流増加期間TIである場合(ステップS3:YES)には、励磁モード指定部135は、電流値取得部133が取得したコイル21の電流の計測値SiとステップS2において設定された電流基準値Sisとの比較結果に基づいて、上述した手法により、励磁モードをチャージモードと低速減衰モードとの間で切り替える(ステップS4)。
【0128】
ステップS4の後、励磁モード指定部135は、一つのPWM周期が終了したか否かを判定する(ステップS5)。PWM周期が終了していない場合には(ステップS5:NO)、励磁モード指定部135は、ステップS4に戻る。一方、PWM周期が終了した場合(ステップS5:YES)、制御回路12の駆動制御信号生成部132が、モータ20が目標回転位置に到達したか否かを判定する(ステップS10)。
【0129】
モータ20が目標回転位置に到達していない場合(ステップS10:NO)、制御回路12は、ステップS1に戻り、次のPWM周期での制御を開始する。一方、モータ20が目標回転位置に到達している場合には(ステップS10:YES)、制御回路12は、一連のPWM制御を停止する。
【0130】
ステップS3において、現時点が電流増加期間TIでない場合(ステップS3:NO)、すなわち、現時点が電流減衰期間TDである場合には、励磁モード指定部135は、現時点が第1減衰期間Td1か否かを判定する(ステップS6)。
【0131】
現時点が第1減衰期間Td1である場合(ステップS6:YES)、励磁モード指定部135は、上述した手法により、電流値取得部133が取得したコイル21の電流の計測値SiとステップS2において設定された電流基準値Sisとの比較結果に基づいて、励磁モードをチャージモードと低速減衰モードとの間で切り替える(ステップS7)。
【0132】
ステップS7の後、励磁モード指定部135は、一つのPWM周期が終了したか否かを判定する(ステップS9)。PWM周期が終了していない場合(ステップS9:NO)、励磁モード指定部135は、ステップS6に戻る。一方、PWM周期が終了した場合には(ステップS9:YES)、制御回路12の駆動制御信号生成部132が、モータ20が目標回転位置に到達したか否かを判定する(ステップS10)。モータ20が目標回転位置に到達していない場合(ステップS10:NO)、制御回路12は、ステップS1に戻り、次のPWM周期での制御を開始する。一方、モータ20が目標回転位置に到達している場合には(ステップS10:YES)、制御回路12は、一連のPWM制御を停止する。
【0133】
ステップS6において、現時点が第1減衰期間Td1でない場合(ステップS6:NO)、すなわち、現時点が第2減衰期間Td2である場合には、励磁モード指定部135は、上述した手法により、電流値取得部133が取得したコイル21の電流の計測値SiとステップS2において設定された電流基準値Sisとの比較結果に基づいて、励磁モードをチャージモードと、混合減衰モード(低速減衰モード,高速減衰モード)との間で切り替える(ステップS8)。
【0134】
ステップS8の後、励磁モード指定部135は、一つのPWM周期が終了したか否かを判定する(ステップS9)。PWM周期が終了していない場合(ステップS9:NO)、励磁モード指定部135は、ステップS6に戻る。一方、PWM周期が終了した場合には(ステップS9:YES)、制御回路12の駆動制御信号生成部132が、モータ20が目標回転位置に到達したか否かを判定する(ステップS10)。モータ20が目標回転位置に到達していない場合(ステップS10:NO)、制御回路12は、ステップS1に戻り、次のPWM周期での制御を開始する。一方、モータ20が目標回転位置に到達している場合には(ステップS10:YES)、制御回路12は、一連のPWM制御を停止する。
【0135】
図11は、比較例としての従来のモータ駆動制御装置によってモータを駆動したときのコイル21の電流の実測結果を示す図である。
【0136】
図12は、実施の形態に係るモータ駆動制御装置10によってモータ20を駆動したときのコイル21の電流の実測結果を示す図である。
【0137】
図11および
図12の紙面上側から下側に向かって、A相のコイル21aの電流Ia、コイル21aの電圧の各波形が示されている。
【0138】
従来のモータ駆動制御装置は、
図11に示すように、電流減衰期間の減衰モードとして、最初に低速減衰モードを選択し、一定期間の経過後に高速減衰モードを選択して、モータを駆動する。これにより、
図11の参照符号300に示されるように、減衰モードが低速減衰モードから高速減衰モードに切り替わったタイミングにおいて電流が大きく変化し、電流波形に大きな歪が生じる。この電流波形の大きな歪により、モータの駆動時に異音が発生するおそれがある。
【0139】
一方、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10は、
図12に示すように、電流減衰期間の減衰モードとして、最初に低速減衰モードを選択し、一定期間の経過後に低速減衰モードと高速減衰モードとを切り替える混合減衰モードを選択して、モータを駆動する。
【0140】
これにより、
図13の参照符号301に示されるように、従来のモータ駆動制御装置に比べて、減衰モードが低速減衰モードから混合減衰モードに切り替わったタイミングにおける電流の変化が小さくなり、電流波形の歪がより小さくなる。これにより、モータの駆動時の異音の発生を抑えることが可能となる。
【0141】
以上、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10において、制御部122は、コイル21に流れる電流が正弦波状に変化するように、PWM信号(駆動制御信号Sd)のPWM周期毎に、電流の基準となる電流基準値Sisを設定する。制御部122は、PWM周期毎に、電流値取得部133によって取得したコイル21の電流の計測値Si(Sia,Sib)と電流基準値Sisとを比較し、電流の計測値Siが電流基準値Sisに到達していない場合に、励磁モードとしてチャージモードを指定し、電流の計測値Siが電流基準値Sisに到達した場合に、励磁モードとして減衰モードを指定する。制御部122は、電流基準値がゼロに向かって変化する電流減衰期間TDにおける最初の期間である第1減衰期間Td1において、減衰モードとして低速減衰モードを指定し(
図8参照)、電流減衰期間TDにおける第1減衰期間Td1の後の残りの期間である第2減衰期間Td2において、減衰モードとして、低速減衰モードと高速減衰モードとを交互に切り替える混合減衰モードを指定する(
図9参照)。制御部122は、上述の手法によって指定した励磁モードに応じた駆動制御信号Sdを生成し、モータ20の駆動を制御する。
【0142】
これによれば、電流減衰期間TDの第1減衰期間Td1において、低速減衰モードによってコイルの電流を緩やかに減衰させた後に、第2減衰期間Td2において、高速減衰モードによって急峻に電流を減衰させるのではなく、低速減衰モードと高速減衰モードとを交互に切り替える混合減衰モードによって、コイルの電流の緩やかな減衰と急峻な減衰を交互に発生させることができる。
これにより、上述したように、電流減衰期間TDにおける減衰モードの切り替わりに起因する電流の変化を小さくすることができるので、正弦波状のコイルの電流の歪を小さくすることができ、モータの駆動時の異音の発生を抑えることが可能となる。
【0143】
また、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10において、制御部122は、第2減衰期間Td2におけるPWM周期毎に、PWM周期内の最初の期間である第1期間T1において、減衰モードとして低速減衰モードを指定し、PWM周期内の第1期間T1の後の残りの期間である第2期間T2において、減衰モードとして高速減衰モードを指定する。
【0144】
具体的には、制御部122は、
図9に示すように、第2減衰期間Td2内のPWM周期の第1期間T1において、電流の計測値Siが電流基準値Sisに到達していない場合に、励磁モードとしてチャージモードを指定するとともに、電流の計測値Siが電流基準値Sisに到達した場合に、励磁モードとして低速減衰モードを指定する。また、制御部122は、第2減衰期間Td2内のPWM周期の第2期間T2において、励磁モードとして高速減衰モードを指定する。
【0145】
これによれば、一つのPWM周期内において、低速減衰モードと高速減衰モードとの切り替えが行われるので、電流の変化をより緩やかにすることが可能となる。
【0146】
また、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10において、制御部122は、電流基準値Sisの低下に応じて、第2減衰期間Td2におけるPWM周期に対する第2期間T2(高速減衰モード)の割合を増加させてもよい。
【0147】
これによれば、上述したように、コイル21の電流がゼロに近づくほど、コイル21の電流を速やかに低下させることができるので、電流波形の歪を抑えつつ、電流波形をより正弦波に近づけることが可能となる。
【0148】
≪実施の形態の拡張≫
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0149】
例えば、上記実施の形態では、第2減衰期間Td2におけるPWM周期内の第2期間T2において、励磁モード指定部135が、電流の計測値Siと電流基準値Sisの比較を行うことなく、励磁モードを“高速減衰モード”に設定する場合を例示したが(
図9参照)、これに限られない。例えば、励磁モード指定部135は、第2期間T2においても、電流の計測値Siと電流基準値Sisとの比較結果に応じて、励磁モードをチャージモードまたは高速減衰モードに切り替えてもよい。以下、詳細に説明する。
【0150】
図13は、第2減衰期間Td2におけるコイル21の電流の時間的な変化の別の一例を示す図である。
【0151】
同図において、横軸は時間tを表し、縦軸は電流を表している。参照符号502は、コイル21の電流(電流の計測値Si)の時間的な変化を表している。また、
図13には、時刻0から時刻t2までの最初のPWM周期において、電流基準値Sisが“Ith2”に設定され、時刻t2以降のPWM周期において、電流基準値Sisが“Ith1(<Ith2)”に設定された場合が示される。
【0152】
図13に示すように、励磁モード指定部135は、第1期間T1において、コイル21の電流の計測値Siが電流基準値Sisに到達していない場合に、励磁モードとしてチャージモードを指定するとともに、電流の計測値Siが電流基準値Sisに到達した場合に、励磁モードとして低速減衰モードを指定する。
【0153】
また、
図13に示すように、励磁モード指定部135は、第2期間T2において、電流の計測値Siが電流基準値Sisに到達していない場合に、励磁モードとしてチャージモードを指定するとともに、電流の計測値Siが電流基準値Sisに到達した場合に、励磁モードとして高速減衰モードを指定する。
【0154】
このように、各PWM周期の第2期間T2においても、電流の計測値Siと電流基準値Sisとの比較結果に応じて、励磁モードを“チャージモード”または“高速減衰モード”に切り替えることにより、より電流基準値Sisに沿ったコイルの電流の制御を実現することができる。これにより、コイル21の電流波形の歪をより小さくすることができ、電流波形を正弦波により近づけることが可能となる。
【0155】
また、上記実施の形態におけるモータ20の相数は、2相に限定されない。
【0156】
また、上記実施の形態におけるモータ20は、ステッピングモータに限られない。例えば、モータ20はブラシレスDCモータであってもよい。
【0157】
また、上述のフローチャートは、動作を説明するための一例を示すものであって、これに限定されない。すなわち、フローチャートの各図に示したステップは具体例であって、このフローに限定されるものではない。例えば、一部の処理の順番が変更されてもよいし、各処理間に他の処理が挿入されてもよいし、一部の処理が並列に行われてもよい。
【符号の説明】
【0158】
1…アクチュエータ、10…モータ駆動制御装置、12…制御回路、14…駆動回路、20…モータ(ステッピングモータ)、21,21a,21b…コイル、22…ロータ、22n…N極、22s…S極、25…出力軸、26…1次ギヤ、29…モータ端子、31…2次ギヤ(動力伝達機構)、32…3次ギヤ(動力伝達機構)、33…出力ギヤ(動力伝達機構)、42…プリント基板、43…フレキシブルプリント基板、51…ケース、52…カバー、122…制御部、124…電流計測部、126…逆起電圧計測部、131…駆動指令取得部、132…駆動制御信号生成部、133…電流値取得部、134…電流基準値設定部、135…励磁モード指定部、136…脱調判定部、137…記憶部、142…モータ駆動部、143,143a,143b…インバータ回路(Hブリッジ回路)、144…電流センサ、201…脱調判定閾値の情報、202…電流基準値情報、AP,BP…コイル21の正極端子、AN,BN…コイル21の負極端子、Q1~Q4…トランジスタ、D1~D4…ダイオード、Ia,Ib…コイル21の電流、Sbef…逆起電圧の計測値、Si,Sia,Sib…コイルの電流の計測値、Sis…電流基準値、TI…電流増加期間、TD…電流減衰期間、Td1…第1減衰期間、Td2…第2減衰期間、T1…第1期間、T2…第2期間。