(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151234
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】モータ駆動制御装置、アクチュエータ、モータ制御回路、及びモータ駆動制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 8/38 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
H02P8/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060732
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】藤井 順平
(72)【発明者】
【氏名】宇野 寿一
【テーマコード(参考)】
5H580
【Fターム(参考)】
5H580AA08
5H580BB02
5H580CA02
5H580EE03
5H580FA02
5H580FA14
5H580FA22
5H580HH22
5H580HH24
5H580HH39
(57)【要約】
【課題】ステッピングモータの逆起電圧を計測する際に生じる駆動音を抑制する。
【解決手段】モータ制御回路は、駆動電流が目標電流値に近づくように駆動制御信号Sdを生成する駆動制御信号生成部132と、ステッピングモータの複数相のコイルのうち、コイルに誘起される逆起電圧を計測するタイミングを特定する計測タイミング特定部138と、特定されたタイミングでステッピングモータのコイルへの励磁が継続された状態で逆起電圧を計測する逆起電圧計測部126と、逆起電圧計測部126の計測値に基づいてステッピングモータに脱調が発生しているか否かを判定する脱調判定部136と、を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステッピングモータの回転を制御するための駆動制御信号を生成するモータ制御回路と、
前記駆動制御信号に基づいて前記ステッピングモータに通電する制御を行うモータ駆動回路と、を備え、
前記モータ制御回路は、
駆動電流が目標電流値に近づくように前記駆動制御信号を生成する駆動制御信号生成部と、
前記ステッピングモータの複数相のコイルのうち、コイルに誘起される逆起電圧を計測するタイミングを特定する計測タイミング特定部と、
特定された前記タイミングで前記ステッピングモータの前記コイルへの励磁が継続された状態で前記逆起電圧を計測する逆起電圧計測部と、
前記逆起電圧計測部の計測値に基づいて前記ステッピングモータに脱調が発生しているか否かを判定する脱調判定部と、を有する、
モータ駆動制御装置。
【請求項2】
前記計測タイミング特定部は、前記駆動電流がゼロクロスするタイミングに応じて前記タイミングを特定する、
請求項1に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項3】
前記駆動制御信号生成部は、前記駆動制御信号としてPWM信号を生成し、
前記計測タイミング特定部は、前記PWM信号の1変調周期において当該変調周期が開始されてから所定の時間経過したタイミングを前記タイミングとして特定する、
請求項1または2に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項4】
前記駆動制御信号生成部は、前記ステッピングモータの電気角に応じて前記PWM信号を生成し、
前記計測タイミング特定部は、前記電気角に応じて前記PWM信号がオフである状態を前記タイミングとして特定する、
請求項3に記載のモータ駆動制御装置。
【請求項5】
ステッピングモータと、
前記ステッピングモータの回転力を駆動対象に伝達する動力伝達機構と、
前記ステッピングモータの回転を制御するための駆動制御信号を生成するモータ制御回路と、
前記駆動制御信号に基づいて前記ステッピングモータに通電する制御を行うモータ駆動回路と、を備えるアクチュエータであり、
前記モータ制御回路は、
駆動電流が目標電流値に近づくように前記駆動制御信号を生成する駆動制御信号生成部と、
前記ステッピングモータの複数相のコイルのうち、コイルに誘起される逆起電圧を計測するタイミングを特定する計測タイミング特定部と、
特定された前記タイミングで前記ステッピングモータの前記コイルへの励磁が継続された状態で前記逆起電圧を計測する逆起電圧計測部と、
前記逆起電圧計測部の計測値に基づいて前記ステッピングモータに脱調が発生しているか否かを判定する脱調判定部と、を有する、
アクチュエータ。
【請求項6】
ステッピングモータの回転を制御するための駆動制御信号を生成するモータ制御回路であり、
駆動電流が目標電流値に近づくように前記駆動制御信号を生成する駆動制御信号生成部と、
前記ステッピングモータの複数相のコイルのうち、コイルに誘起される逆起電圧を計測するタイミングを特定する計測タイミング特定部と、
特定された前記タイミングで前記ステッピングモータの前記コイルへの励磁が継続された状態で前記逆起電圧を計測する逆起電圧計測部と、
前記逆起電圧計測部の計測値に基づいて前記ステッピングモータに脱調が発生しているか否かを判定する脱調判定部と、を有する、
モータ制御回路。
【請求項7】
駆動制御信号に基づいてステッピングモータに通電する制御を、コンピュータに実行させるモータ制御プログラムであり、
駆動電流が目標電流値に近づくように前記駆動制御信号を生成するステップと、
前記ステッピングモータの複数相のコイルのうち、コイルに誘起される逆起電圧を計測するタイミングを特定するステップと、
特定された前記タイミングで前記ステッピングモータの前記コイルへの励磁が継続された状態で前記逆起電圧を計測するステップと、
前記逆起電圧の計測値に基づいて前記ステッピングモータに脱調が発生しているか否かを判定するステップと、を前記コンピュータに実行させる、
モータ制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動制御装置、アクチュエータ、モータ制御回路、及びモータ駆動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用途の空調ユニットとして、HVAC(Heating Ventilation and Air-Conditioning)が知られている。HVACは、空間内を快適に保つために、熱交換器で除湿、冷房、暖房等された空気をファンやモータで送風する空調ユニットである。一般に車載用途のHVACシステムは、1台のマスタとしてのECU(Electronic Control Unit)と複数のスレイブとがバスラインを介して互いに接続された通信ネットワークを構成している。
【0003】
HVACシステムにおけるスレイブは、例えば、ダンパアクチュエータ等のHVACシステムで使用可能なアクチュエータである。アクチュエータは、例えばステッピングモータと、ステッピングモータの駆動を制御するモータ駆動制御装置と、ステッピングモータの回転力を駆動対象に伝達する動力伝達機構とを含む。動力伝達機構は、HVACシステムにおける空調装置の可動部に連結されており、ステッピングモータの回転力を空調装置の可動部に伝達することにより、当該可動部を駆動する。
【0004】
一般に、ステッピングモータは、急激な速度変化時や過負荷時(トルク不足時)に脱調し易いことが知られている。ステッピングモータが脱調した場合、アクチュエータはHVACに駆動エネルギーを伝達できず、誤動作の原因となる。このため、HVACでは、ステッピングモータの脱調を検出及び抑制することが求められている。
【0005】
例えば、特許文献1、及び、特許文献2に、ステッピングモータの脱調を検出及び抑制するために、モータの逆起電圧を検出するための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-002448号公報
【特許文献2】特表2009-542186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の技術では、逆起電圧を計測する際に、モータへの励磁が一時的に停止される。このため、従来の技術では、逆起電圧を計測するタイミングにおいて電流変曲点が生じる。電流変曲点が生じることで、駆動音が大きくなる場合がある。従って、従来の技術では、逆起電圧を計測する際に生じる駆動音を抑制することについて、改善の余地がある。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、ステッピングモータの逆起電圧を計測する際に生じる駆動音を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動制御装置は、ステッピングモータの回転を制御するための駆動制御信号を生成するモータ制御回路と、前記駆動制御信号に基づいて前記ステッピングモータに通電する制御を行うモータ駆動回路と、を備え、前記モータ制御回路は、前記駆動電流が目標電流値に近づくように前記駆動制御信号を生成する駆動制御信号生成部と、前記ステッピングモータの複数相のコイルのうち、コイルに誘起される逆起電圧を計測するタイミングを特定する計測タイミング特定部と、特定された前記タイミングで前記ステッピングモータの前記コイルへの励磁が継続された状態で前記逆起電圧を計測する逆起電圧計測部と、前記逆起電圧計測部の計測値に基づいて前記ステッピングモータに脱調が発生しているか否かを判定する脱調判定部と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るモータ駆動制御装置によれば、ステッピングモータの逆起電圧を計測する際に生じる駆動音を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施の形態に係るモータ駆動制御装置を搭載したアクチュエータの構造の一例を示す分解斜視図である。
【
図3】実施の形態に係るモータ駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】実施の形態に係るモータ駆動制御装置における制御回路の機能ブロック構成を示す図である。
【
図5A】チャージモードを説明するための図である。
【
図5B】低速減衰モードを説明するための図である。
【
図5C】第1の高速減衰モードを説明するための図である。
【
図5D】第2の高速減衰モードを説明するための図である。
【
図6】モータのコイルの電流と駆動制御信号の時間的な変化を示すタイミングチャートの一例である。
【
図7】
図6における期間TDの一部を拡大した図である。
【
図8】実施の形態に係るモータ駆動制御装置による脱調検出処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】比較例としての従来のモータ駆動制御装置によってモータを駆動したときのコイルの電流の実測結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態の具体例について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。
【0013】
図1は、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置を搭載したアクチュエータの構造の一例を示す分解斜視図である。
【0014】
アクチュエータ1は、例えば、車載用途の空調ユニットとしてのHVAC(Heating Ventilation and Air-Conditioning)システムにおける空調装置を駆動するための装置である。アクチュエータ1としては、ダンパアクチュエータ、弁アクチュエータ、ファンアクチュエータ、ポンプアクチュエータ等のHVACシステムで使用可能な各種のアクチュエータを例示することができる。
【0015】
HVACシステムにおいて、アクチュエータ1は、例えば、他のアクチュエータとともに、上位装置としてのECU(不図示)とバスを介して互いに接続され、LIN(Local Interconnect Network)通信ネットワークを構成している。
【0016】
図1に示されるように、アクチュエータ1は、ケース51とカバー52とで覆われている。アクチュエータ1の内部には、モータ20と、モータ20の駆動を制御するモータ駆動制御装置10と、モータ20の回転力を駆動対象に伝達する動力伝達機構としての2次ギヤ31、3次ギヤ32、および出力ギヤ33とが収納されている。
【0017】
モータ20は、アクチュエータ1の駆動力を発生させる。モータ20は、例えばステッピングモータである。本実施の形態では、モータ20が、A相のコイルおよびB相のコイルを有する2相ステッピングモータであるとして説明する。モータ20は、後述するように、モータ駆動制御装置10から各相のコイルに駆動電力が供給されて動作する。
【0018】
【0019】
上述したように、モータ20は、2相ステッピングモータである。
図2に示されるように、モータ20は、A相のコイル21aと、B相のコイル21bと、ロータ22と、2相のステータヨーク(図示せず)とを有している。
【0020】
コイル21a,21bは、それぞれ、ステータヨーク(不図示)を励磁するコイルである。コイル21aは、モータ端子29(
図1参照)として、正極端子APと負極端子ANを有する。コイル21bは、モータ端子29として、正極端子BPと負極端子BNとを有する。コイル21aの正極端子APおよび負極端子ANと、コイル21bの正極端子BPおよび負極端子BNとは、モータ駆動部142を構成するインバータ回路(例えば、Hブリッジ回路)143a,143bに接続されている。インバータ回路143a,143bの詳細については後述する。
【0021】
コイル21a,21bは、インバータ回路143a,143bによって駆動される。これにより、コイル21a,21bには、互いに位相が異なる電流Ia,Ibが流れる。例えば、コイル21a,21bには、互いに位相が90度ずれた電流Ia,Ibが流れる。
【0022】
なお、以下の説明において、コイル21aとコイル21bとを区別しない場合には、単に、「コイル21」と表記する。
【0023】
ロータ22は、円周方向に沿って、S極22sとN極22nとが交互に反転するように、多極着磁された永久磁石を備えている。なお、
図2では、一例として、ロータ22が2極である場合が示されている。
【0024】
ステータヨークは、ロータ22の周囲に、ロータ22の外周部に近接して配置されている。ロータ22は、コイル21a,21bのそれぞれに流れるコイル電流の位相が周期的に切り替えられることにより、回転する。ロータ22には、出力軸25が接続されており、ロータ22の回転力により、出力軸25が駆動される。
【0025】
モータ20の出力軸25には、1次ギヤ26が取り付けられている。
図1に示すように、モータ20の1次ギヤ26は、2次ギヤ31と噛み合う。2次ギヤ31は、3次ギヤ32と噛み合う。3次ギヤ32は、出力ギヤ33と噛み合う。ケース51の底面には、出力ギヤ33に設けられている外部出力ギヤ(不図示)が露出し、この外部出力ギヤが駆動対象に連結されている。
【0026】
モータ駆動制御装置10は、モータ20を駆動させるための装置である。モータ駆動制御装置10は、例えば,バスを介して上位装置(ECU)との間で通信を行う。モータ駆動制御装置10は、上位装置から受信した制御フレームである駆動指令Scに基づいて、モータ20の各相のコイル21a,21bの通電状態を制御することにより、モータ20の回転および停止を制御して、アクチュエータ1全体の動作を制御する。モータ駆動制御装置10がモータ20を駆動することにより、モータ20の出力軸25に接続された1次ギヤ26が回転する。1次ギヤ26の回転による駆動力が2次ギヤ31、3次ギヤ32、出力ギヤ33、外部出力ギヤと順に伝達され、外部出力ギヤが駆動対象である空調装置の可動部を駆動する。
【0027】
図1に示すように、モータ駆動制御装置10は、ハードウェア資源として、例えば、プリント基板42と、プリント基板42とモータ20のモータ端子29とを接続するフレキシブルプリント基板43とを有している。プリント基板42には、制御回路12、駆動回路14、および複数の外部接続端子41が設けられている。
【0028】
なお、ケース51及びカバー52の内部に収納される回路は、駆動回路14だけであってもよい。例えば、モータ駆動制御装置10は、ケース51およびカバー52の内部に設けられた駆動回路14と、ケース51およびカバー52の外部に設けられた制御回路12とによって構成されるようにしてもよい。
【0029】
図3は、実施の形態に係るモータ駆動制御装置10の構成を示すブロック図である。
【0030】
図3に示すように、モータ駆動制御装置10は、制御回路12および駆動回路14を備えている。
【0031】
制御回路12は、モータ制御回路に対応し、上位装置(ECU)からの駆動指令Scに基づいて、モータ20の回転を制御するための駆動制御信号Sdを生成して駆動回路14を制御することにより、モータ20の回転を制御する。
【0032】
駆動指令Scは、モータ20の目標とする状態を指示する信号である。駆動指令Scは、例えば、モータ20の回転速度を指定する情報、およびモータ20の目標となる回転角度(目標回転位置)を指定する情報等を含む。
なお、制御回路12の詳細については後述する。
【0033】
駆動回路14は、モータ駆動回路に対応し、制御回路12から出力された駆動制御信号Sdに基づいて、モータ20のコイル21を通電する制御を行う。駆動回路14は、モータ駆動部142と電流センサ144とを有する。
【0034】
モータ駆動部142は、駆動制御信号Sdに基づいて、モータ20に駆動電力を供給する。
【0035】
図2に示すように、モータ駆動部142は、例えば、駆動対象のコイル21a,21b毎に対応したインバータ回路143a,143bを有している。インバータ回路143a,143bは、例えば、Hブリッジ回路である。以下、インバータ回路143aとインバータ回路143bとを区別しない場合には、「インバータ回路143」と表記する。
【0036】
図2に示すように、インバータ回路143aは、A相のコイル21aの正極端子APとコイル21aの負極端子ANとに接続されている。インバータ回路143bは、B相のコイル21bの正極端子BPとコイル21bの負極端子BNとに接続されている。
【0037】
インバータ回路143aは、端子APと端子ANとの間に電圧Vaを印加することにより、コイル21aに電流Iaを流す。インバータ回路143bは、端子BPと端子BNとの間に電圧Vbを印加することにより、コイル21bに電流Ibを流す。
【0038】
例えば、A相のコイル21aを正側に励磁する場合、すなわち、コイル21aの正極端子APから負極端子ANに電流Ia(+)を流す場合、負極端子ANに対する正極端子APの電圧Vaを“正”にする。一方、A相のコイル21aを負側に励磁する場合、すなわち、コイル21aの負極端子ANから正極端子APに電流Ia(-)を流す場合、負極端子ANに対する正極端子APの電圧Vaを“負”にする。B相のコイル21bを励磁する場合も同様である。
【0039】
電流センサ144は、モータ20の各相のコイル21に流れる電流(コイル電流)を検出する。電流センサ144は、例えば、コイル21に流れる電流を電圧に変換するシャント抵抗を含む。詳細は後述するが、シャント抵抗は、各相のコイル21a,21b毎に設けられ、インバータ回路143a,143bのグラウンド電位GND側または電源電圧VDDにインバータ回路143a,143bと直列に接続されている。電流センサ144は、シャント抵抗の両端の電圧を各相のコイル21a,21bの電流Ia,Ibの検出結果として出力し、制御回路12に与える。
【0040】
図2に示すように、制御回路12は、例えば、制御部122、電流計測部124、および逆起電圧計測部126を含む。
【0041】
電流計測部124は、モータ20の各相のコイル21a,21bの電流Ia,Ibを計測する。電流計測部124は、電流センサ144(シャント抵抗)から出力される、各相のコイル21a,21bの電流Ia,Ibに応じた電圧を受け付ける。電流計測部124は、入力された電圧に基づいて、各相のコイル21a,21bの電流Ia,Ibの計測値を算出する。例えば、電流計測部124は、A/D変換回路を含んで構成されている。
【0042】
例えば、電流計測部124は、A相の電流センサ144(シャント抵抗)の電圧をデジタル値に変換し、A相のコイル21aの電流の計測値Siaとして出力する。電流計測部124は、B相の電流センサ144(シャント抵抗)の電圧をデジタル値に変換し、B相のコイル21bの電流の計測値Sibとして出力する。
【0043】
逆起電圧計測部126は、モータ20の複数相のコイル21のうち、通電が停止しているコイル21に誘起される逆起電圧を計測する。本実施の形態において、逆起電圧計測部126は、駆動回路14とモータ20とを接続する4つのライン(各相のコイル21の正極端子AP,BPおよび負極端子BP,BN)の夫々に接続されている。逆起電圧計測部126は、逆起電圧の計測値Sbefを、制御部122に出力する。逆起電圧計測部126は、例えば、抵抗分圧回路と、分圧した電圧をデジタル信号に変換するA/D変換回路とを含んで構成されている。
【0044】
制御部122は、制御回路12の統括的な制御を行うための回路である。
制御部122は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の各種メモリ、タイマ、カウンタ、A/D変換回路、入出力I/F回路、およびクロック生成回路等のハードウェア要素を有し、各構成要素がバスや専用線を介して互いに接続されたプログラム処理装置(例えば、マイクロコントローラ:MCU(Micro Control Unit)などのコンピュータ)である。制御部122は、メモリとして、例えば、フラッシュメモリやEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の書き換え可能な不揮発性の記憶装置を有している。
【0045】
なお、上述した電流計測部124および逆起電圧計測部126の一部または全部は、制御部122を構成するMCU内のA/D変換回路等を用いて実現されていてもよいし、MCUとは別に設けられた別個のIC(Integrated Circuit)によって実現されていてもよい。
【0046】
制御部122は、主として、モータ20が駆動指令Scによって指定された状態となるように、モータ20の通電を制御する機能を有する。具体的には、制御部122は、所定の励磁方式に基づく所定のタイミングでA相のコイル21aとB相のコイル21bを励磁するように、駆動制御信号Sdを生成してインバータ回路143を駆動することにより、モータ20を駆動指令Scによって指定された目標回転位置まで移動(回転)させる。
【0047】
ここで、所定の励磁方式とは、例えば、公知の、1相励磁方式、2相励磁方式、1-2相励磁方式、およびマイクロステップ方式の何れかである。本実施の形態では、所定の励磁方式が2相マイクロステップ方式である場合を例にとり、説明する。
【0048】
制御部122は、2相マイクロステップ方式によって駆動制御信号Sdを生成する。具体的には、制御部122は、モータ20を構成する各相のコイル21a,21bの電流Ia,Ibが正弦波状になるように、電流の指令である電流基準値Sisを階段状に変化させるとともに、コイルの電流Ia,Ibを監視し、コイルの電流Ia,Ibの計測値Sia,Sibが電流基準値Sisを超えないように、各相のコイル21a,21bの励磁状態を切り替える。
【0049】
図4は、実施の形態に係るモータ駆動制御装置における制御部122の機能ブロック構成を示す図である。
【0050】
図4に示すように、制御部122は、上述した機能を実現するための機能ブロックとして、例えば、駆動指令取得部131、駆動制御信号生成部132、電流値取得部133、電流基準値設定部134、励磁モード指定部135、脱調判定部136、計測タイミング特定部138、および記憶部137を有している。これらの機能ブロックは、上述したMCU内のプロセッサが、メモリに記憶されているモータ制御プログラムに従って各種演算を実行するとともに、タイマおよびカウンタ、A/D変換回路および入出力I/F回路等の周辺回路を制御することによって、実現される。
【0051】
駆動制御信号生成部132は、駆動制御信号Sdを生成する機能部である。駆動制御信号生成部132の詳細については、後述する。
【0052】
記憶部137は、モータ20の駆動制御に必要な各種データを記憶するための機能部である。例えば、記憶部137には、モータ20における脱調の発生の有無を判定するための基準となる脱調判定閾値201と、後述する、モータ20の駆動制御における電気角θと電流基準値Sisとの関係を示す電流基準値情報202と、が記憶されている。記憶部137の一部は、例えば、制御部122の電源供給が停止してもデータを保持する不揮発性の記憶装置の記憶領域を利用して実現されている。
【0053】
脱調判定部136は、脱調判定閾値と逆起電圧計測部126によって計測された逆起電圧の計測値Sbefとに基づいて、モータ20において脱調が発生したか否かを判定する(脱調判定)ための機能部である。脱調判定部136は、脱調が発生していると判定した場合に、脱調が発生していることを示すエラーSeを上位装置に出力する。脱調判定部136は、計測タイミング特定部138が特定したタイミングでモータ20のコイル21への励磁が継続された状態で逆起電圧を計測する。
【0054】
本実施の形態において、逆起電圧は、例えば次のようにして計測される。例えば、後述する駆動制御信号生成部132が、計測タイミング特定部138が特定した、A相及びB相のうちいずれか1つの相のコイル21a,21bに流れるコイル電流Ia,Ibの向きが切り替わる際(コイル電流Ia,Ibがゼロクロスする付近)のタイミングで、コイル21a,21bへの電圧の印加を継続しつつ、つまりコイル21a,21bへの電圧の印加を停止させることなく、駆動制御信号Sdを生成する。そして、逆起電圧計測部126は、コイル電流Ia,Ibがゼロクロスする期間に、コイル21a,21bに誘起される逆起電圧を、個別に(相毎に、又はコイル毎に)計測する。具体的なタイミングは、計測タイミング特定部138の説明において後述する。
【0055】
脱調判定部136は、逆起電圧計測部126によって計測された逆起電圧の計測値Sbefと、記憶部137に記憶されている脱調判定閾値とを比較する。例えば、脱調判定部136は、逆起電圧の計測値Sbefが脱調判定閾値より低い場合に、モータ20において脱調が発生していると判定し、逆起電圧の計測値Sbefが脱調判定閾値以上である場合に、モータ20において脱調が発生していないと判定する。
【0056】
駆動制御信号生成部132は、脱調判定部136による脱調判定の結果に応じて、駆動制御信号Sdを生成する。例えば、駆動制御信号生成部132は、モータ20において脱調が発生したと判定された場合には、モータ駆動部142に対してモータ20の駆動を停止させる。
【0057】
駆動指令取得部131は、例えば、上位装置(ECU)から入力された駆動指令Scを取得する。上述したように、駆動指令Scは、例えば、モータ20の目標となる回転位置(目標回転位置)を指定する情報を含む。駆動指令取得部131は、例えば、駆動指令Scを解析することにより、モータ20の目標回転位置の情報を取得して出力する。
【0058】
駆動制御信号生成部132は、モータ20のコイル21が指定された励磁モードに応じた励磁状態となるようにPWM信号を生成し、駆動制御信号Sdとして出力する。
【0059】
例えば、駆動制御信号生成部132は、駆動指令取得部131から出力された目標回転位置の情報を取得する。駆動制御信号生成部132は、モータ20が目標回転位置まで移動するように、相毎に、励磁モード指定部135によって指定された励磁モードにしたがってPWM信号を生成し、駆動制御信号Sdとして出力する。以下、PWM信号の1周期、すなわち、PWM信号が生成される周期を「PWM周期」と称する。
【0060】
励磁モード指定部135は、励磁モードを指定して、駆動制御信号生成部132に駆動制御信号Sdの生成を指示する機能部である。
【0061】
ここで、励磁モードについて説明する。励磁モードとは、コイル21の励磁状態を示す情報である。
【0062】
本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10は、励磁モードとして、チャージモードと減衰モードとを有している。
【0063】
先ず、チャージモードについて説明する。
チャージモードは、コイル21の電流を増加させる励磁モードである。
【0064】
図5Aは、チャージモードを説明するための図である。
図5Aに示すように、モータ20の各相のコイル21は、モータ駆動部142を構成するインバータ回路143(Hブリッジ回路)に接続されている。
図5Aに示すように、インバータ回路143は、例えば、スイッチとしてのトランジスタQ1~Q4と、ダイオードD1~D4とを有している。
【0065】
トランジスタQ1とトランジスタQ2とは電源電圧VDDとグラウンド電位との間に、電流センサ144としてのシャント抵抗を介して直列に接続されている。同様に、トランジスタQ3とトランジスタQ4とは電源電圧VDDとグラウンド電位との間に、電流センサ144としてのシャント抵抗を介して直列に接続されている。トランジスタQ1とトランジスタQ2とが共通に接続されるノードには、コイル21の負極端子(ANまたはBN)が接続され、トランジスタQ3とトランジスタQ4とが共通に接続されるノードには、コイル21の正極端子(APまたはBP)が接続されている。
【0066】
ダイオードD1のアノードは、トランジスタQ1とトランジスタQ2とが共通に接続されるノードに接続され、ダイオードD1のカソードは、電源電圧VDDに接続されている。ダイオードD2のアノードは、グラウンド電位GNDに接続され、ダイオードD2のカソードは、トランジスタQ1とトランジスタQ2とが共通に接続されるノードに接続されている。
【0067】
ダイオードD3のアノードは、トランジスタQ3とトランジスタQ4とが共通に接続されるノードに接続され、ダイオードD3のカソードは、電源電圧VDDに接続されている。ダイオードD4のアノードは、グラウンド電位GNDに接続され、ダイオードD4のカソードは、トランジスタQ3とトランジスタQ4とが共通に接続されるノードに接続されている。
【0068】
ダイオードD1~D4は、例えば、トランジスタQ1~Q4の寄生ダイオードであってもよいし、トランジスタQ1~Q4とは別個に設けた電子部品によって実現してもよい。
【0069】
チャージモードにおいて、コイル21は、電源電圧VDDとグラウンド電位GNDとの間に接続され、正または負の方向に励磁される。
【0070】
例えば、
図5Aに示すように、トランジスタQ1,Q4をオフし、トランジスタQ2,Q3をオンすることにより、コイル21の正極端子(AP/BP)側からコイル21の負極端子(AN/BN)側に電流が流れ、コイル21が正の方向に励磁される。一方、トランジスタQ2,Q3をオフし、トランジスタQ1,Q4をオンすることにより、コイル21の負極端子(AN/BN)側からコイル21の正極端子(AP/BP)側に電流が流れ、コイル21が負の方向に励磁される。
【0071】
次に、減衰モードについて説明する。
減衰モードは、コイル21の電流を減衰させるモードである。本実施の形態において、減衰モードは、コイル21の電流を回生させる低速減衰モードと、低速減衰モードよりも高速にコイル21の電流を回生させる第1の高速減衰モードと、第2の高速減衰モードと、を含む。
【0072】
図5Bは、低速減衰モードを説明するための図である。
例えば、チャージモードによって正の方向に励磁されていたコイル21の電流を減衰させる場合(
図5A参照)、低速減衰モードによって、インバータ回路143におけるトランジスタQ1,Q3をオフし、トランジスタQ2,Q4をオンする。これにより、
図5Bに示すように、コイル21の電流をグラウンド電位GND側に回生させて減衰させることができる。負の方向に励磁されていたコイル21の電流を減衰させる場合も同様に、低速減衰モードによってトランジスタQ1,Q3をオフし、トランジスタQ2,Q4をオンすることにより、コイル21の電流をグラウンド電位GND側に回生させて減衰させることができる。
【0073】
図5Cは、第1の高速減衰モードを説明するための図である。
例えば、チャージモードによって正の方向に励磁されていたコイル21の電流を減衰させる場合(
図5A参照)、高速減衰モードによって、インバータ回路143におけるトランジスタQ2,Q3をオフし、トランジスタQ1,Q4をオンする。これにより、
図5Cに示すように、コイル21の電流を電源電圧VDD側に回生させることができる。このとき、コイル21は直前の励磁方向(正)と逆方向(負)に励磁されるため、低速減衰モードよりも高速に、コイル21の電流を減衰させることができる。
【0074】
負の方向に励磁されていたコイル21の電流を減衰させる場合には、高速減衰モードによって、インバータ回路143におけるトランジスタQ1,Q4をオフし、トランジスタQ2,Q3をオンする。これにより、コイル21の電流を電源電圧VDD側に回生させることができる。このとき、コイル21は直前の励磁方向(負)と逆方向(正)に励磁されるため、低速減衰モードよりも高速にコイル21の電流を減衰させることができる。
【0075】
図5Dは、第2の高速減衰モードを説明するための図である。
例えば、チャージモードによって正の方向に励磁されていたコイル21の電流を減衰させる場合(
図5A参照)、第2の高速減衰モードによって、インバータ回路143におけるトランジスタQ1,Q2,Q3,Q4をオフする。これにより、
図5Dに示すように、ダイオードD1,D4を経由してコイル21の電流を電源電圧VDD側に回生させることができる。このとき、コイル21は、
図5Cに示した第1の高速減衰モードと同様に、直前の励磁方向(正)と逆方向(負)に励磁されるため、低速減衰モードよりも高速に、コイル21の電流を減衰させることができる。第2の高速減衰モードは、トランジスタQ1~Q4がオフ状態となることにより、逆起電圧の計測が可能となる。逆起電圧を計測するタイミングについては、計測タイミング特定部138の説明において後述する。
【0076】
駆動制御信号生成部132は、励磁モード指定部135によって指定された励磁モードに基づいて、駆動制御信号Sdを生成する。
【0077】
例えば、コイル21を正方向に励磁するチャージモードが指定された場合には、駆動制御信号生成部132は、
図5Aに示すように、トランジスタQ2,Q3をオンし、トランジスタQ1,Q4をオフさせる駆動制御信号Sdを生成する。また、コイル21を負方向に励磁するチャージモードが指定された場合には、駆動制御信号生成部132は、トランジスタQ2,Q3をオフし、トランジスタQ1,Q4をオンさせる駆動制御信号Sdを生成する。
【0078】
一方、コイル21を正方向に励磁した後に低速減衰モードが指定された場合には、駆動制御信号生成部132は、
図5Bに示すように、トランジスタQ2,Q4をオンし、トランジスタQ1,Q3をオフさせる駆動制御信号Sdを生成する。また、コイル21を正方向に励磁した後に第1の高速減衰モードが指定された場合には、駆動制御信号生成部132は、
図5Cに示すように、トランジスタQ1,Q4をオンし、トランジスタQ2,Q3をオフさせる駆動制御信号Sdを生成する。また、第2の高速減衰モードが指定された場合には、駆動制御信号生成部132は、
図5Dに示すように、トランジスタQ1,Q2,Q3,Q4をオフさせる駆動制御信号Sdを生成する。
【0079】
電流値取得部133は、モータ20のコイル21a,21bに流れる電流の計測値を取得する機能部である。電流値取得部133は、電流計測部124によって計測されたA相のコイル21aの電流の計測値Siaと、電流計測部124によって計測されたB相のコイル21bの電流の計測値Sibと、をそれぞれ取得する。例えば、電流値取得部133は、後述するPWM周期毎に、電流の計測値Sia,Sibを取得する。以下、電流の計測値Siaと電流の計測値Sibとを区別しない場合には、「電流の計測値Si」と表記する。
【0080】
電流基準値設定部134は、コイル21の電流の基準となる電流基準値Sisを設定する機能部である。
【0081】
電流基準値設定部134は、コイル21に流れる電流Ia,Ibが正弦波状に変化するように、PWM信号(駆動制御信号Sd)のPWM周期毎に、電流Ia,Ibの基準となる電流基準値Sisを設定する。例えば、電流基準値設定部134は、A相のコイル21aの電流IaおよびB相のコイル21bのIbが正弦波状となり、且つ電流Iaの位相と電流Ibの位相とが互いに90度相違するように、電流基準値Sisを階段状に変化させる。
【0082】
例えば、記憶部137には、電気角θと電流基準値Sisとの対応関係を示す電流基準値情報202が記憶されている。ここで、電流基準値情報202は、例えば、電気角θ=0~360°の範囲において電流基準値Sisが正弦波状になるように、電気角θ毎に電流基準値Sisが対応付けられた情報(例えば、関数またはテーブル)である。
【0083】
電流基準値設定部134は、PWM周期毎に、そのときの電気角θに応じた電流基準値Sisを電流基準値情報202から読み出して逐次出力する。
【0084】
励磁モード指定部135は、電流値取得部133によって取得したコイル21の電流の計測値と電流基準値設定部134によって設定された電流基準値Sisとを比較し、その比較結果に基づいて励磁モードを決定する。
【0085】
励磁モード指定部135は、PWM周期毎に、電流値取得部133によって取得したコイル21の電流の計測値Siと電流基準値Sisとを比較する。例えば、1つのPWM周期が開始されたタイミングにおいて、電流の計測値Siと電流基準値Sisとを比較して、励磁モードを決定する。
【0086】
電流の計測値Siが電流基準値Sisに到達していない場合、励磁モード指定部135は、励磁モードとして、チャージモードを指定する。一方、電流の計測値Siが電流基準値Sisに到達した場合、励磁モード指定部135は、励磁モードとして減衰モードを指定する。
【0087】
電流の計測値Siと電流基準値Sisとの比較および励磁モードの決定は、相毎に行われる。すなわち、励磁モード指定部135は、PWM周期毎に、A相のコイル21aの電流の計測値Siaと電流基準値Sisとを比較してA相のコイル21の励磁モードを決定するとともに、B相のコイル21bの電流の計測値Sibと電流基準値Sisとを比較してB相のコイル21bの励磁モードを決定する。駆動制御信号生成部132は、励磁モード指定部135によって指定された励磁モードに対応したトランジスタQ1~Q4のオン/オフのパターンを指示する駆動制御信号Sdを出力する。
【0088】
図6は、モータのコイルの電流と駆動制御信号の時間的な変化を示すタイミングチャートの一例である。
図6の紙面上側から下側に向かって、A相のコイル21aの電流Ia、コイル21aを駆動するための駆動制御信号(PWM信号)Sd、の各波形が示されている。
【0089】
本実施の形態に係るモータ駆動制御装置10では、電流基準値設定部134が、駆動対象のコイル21a,21b毎(相毎)に、電流基準値Sisが正または負の方向に増加する期間と、電流基準値Sisがゼロに向かって変化する期間(電流減衰期間)とを交互に繰り返す。そして、励磁モード指定部135が、電流の計測値Siが電流基準値Sisを超えないように励磁モードを指定し、駆動制御信号生成部132が指定された励磁モードに対応する駆動制御信号Sdを生成する。これにより、
図6に示すように、各相のコイル21の電流が正弦波状になるように制御される。
【0090】
なお、
図6には、一例として、A相のコイル21aの電流Iaの位相が示されている。モータ20が2相ステッピングモータである場合、B相のコイル21bの電流Ibの位相が電流Iaの位相(不図示)に90度ずれて励磁される。
【0091】
具体的に、励磁モード指定部135は、電流増加期間および電流減衰期間において、PWM周期毎に、電流の計測値Siと電流基準値Sisとを比較して励磁モードを切り替える。
【0092】
例えば、1つのPWM周期が開始されたタイミングにおいて、電流の計測値Siと電流基準値Sisとを比較し、電流の計測値Siが電流基準値Sisに到達してない場合(Si<Sis)、励磁モード指定部135は、励磁モードとして“チャージモード”を指定する。そして、そのPWM周期内に、電流の計測値Siが電流基準値Sisに到達した場合、励磁モード指定部135は、励磁モードを“チャージモード”から“減衰モード”に切り替えて、そのPWM周期が終了するまで減衰モードを維持する。
【0093】
また、1つのPWM周期が開始されたタイミングにおいて、電流の計測値Siが電流基準値Sisに到達していた場合(Si≧Sis)、励磁モード指定部135は、励磁モードとして“減衰モード”を指定し、そのPWM周期が終了するまで減衰モードを維持する。
【0094】
このように、励磁モード指定部135は、電流増加期間および電流減衰期間のいずれの期間においても、PWM周期毎に、電流の計測値Siと電流基準値Sisとの比較結果に基づいて励磁モードを切り替える。
【0095】
図7は、
図6における電流減衰期間の一部、具体的には電流減衰期間のうち、
図6に示す期間TDにおいて、A相のコイルの電流及び電圧の部分を拡大した図である。
図7は、コイル21の電流(電流基準値Sis)がゼロに向かって変化する、すなわち、コイル21の電流(電流基準値Sis)がゼロクロスする前後の期間である期間TDにおいて、A相のコイルの電流及び電圧の変化を示している。
【0096】
期間TDにおいて、励磁モード指定部135は、期間A、期間B、及び期間Cの3つの期間で異なる励磁モードに切り替える。期間Aにおいて、励磁モード指定部135は、減衰モードとして“第1の高速減衰モード”を選択する。期間Bにおいて、励磁モード指定部135は、減衰モードとして、“第2の高速減衰モード”を選択する。期間Cにおいて、励磁モード指定部135は、減衰モードとして、“低速減衰モード”を選択する。
【0097】
計測タイミング特定部138は、電気角θが
図6に示す期間TDである場合に、A相またはB相のコイルの駆動電流が負の値から正の値に切り替わる、あるいは、正の値から負の値に切り替わるタイミング、すなわち、A相またはB相のコイルの駆動電流がゼロクロスするタイミングに応じて、逆起電圧の計測タイミングMTを特定する。計測タイミングMTを特定する際に、計測タイミング特定部138は、記憶部137に記憶されている電流基準値情報202を用いて、計測タイミングMTであるか否かを判定する。
【0098】
具体的には、計測タイミング特定部138は、電流基準値情報202に記憶されているモータ20の駆動制御における電気角θと電流基準値Sisとの関係に基づいて、チャージモードと第2の高速減衰モードとを繰り返す期間Bであることを特定する。
図7に示すように、計測タイミングMTは、期間Bにおいて、コイルの電圧の1変調周期において当該変調周期が開始されてから所定の時間経過したときに第2の高速減衰モードによりトランジスタQ1~Q4がオフ状態を示すタイミングである。つまり、計測タイミングMTは、チャージモードによりモータ20のコイル21への励磁を継続しつつ、第2の高速減衰モードによりトランジスタQ1~Q4がオフ状態となることにより、逆起電圧の計測が可能なタイミングである。つまり、計測タイミング特定部138が計測タイミングMTを特定することにより、モータ20のコイル21への励磁を継続した状態でありながら、逆起電圧計測部126は、逆起電圧を取得することができる。
【0099】
図8は、実施の形態に係るモータ駆動制御装置10による脱調検出処理の流れを示すフローチャートである。フローチャートを用いて、モータ駆動制御装置10において制御回路12に実行させるモータ制御プログラムの処理の流れを説明する。
【0100】
図8に示すように、モータ駆動制御装置10において、制御回路12は、上位装置(ECU)からの駆動指令Scに基づいて、駆動電流が目標電流値に近づくように、モータ20の回転を制御するための駆動制御信号Sdを生成して駆動回路14を制御することにより、モータ20の回転を制御する(ステップS1)。
【0101】
モータ駆動制御装置10において、制御回路12の制御部122に実現される計測タイミング特定部138は、計測タイミング特定部138は、電気角θに基づいて、チャージモードと第2の高速減衰モードとを繰り返す期間B(
図5A、
図5D、及び
図7参照)であるか否かを判定する(ステップS2)。期間Bではない場合(S2:NO)に、計測タイミング特定部138は、S3の処理を繰り返す。
【0102】
期間Bである場合(S2:YES)、計測タイミング特定部138は、計測タイミングMTを特定する(ステップS3)。
【0103】
逆起電圧計測部126は、計測タイミング特定部138が特定した計測タイミングMTにより、逆起電圧を計測する(ステップS4)。
【0104】
脱調判定部136は、逆起電圧計測部126が計測した逆起電圧の計測値と記憶部137に記憶されている脱調判定閾値201とに基づいて、脱調が発生しているか否かを判定する(ステップS5)。脱調が発生していない場合(S5:NO)、モータ駆動制御装置10は処理を終了する。一方、脱調が発生している場合(S5:YES)、モータ駆動制御装置10の脱調判定部136は、脱調判定の結果を駆動制御信号生成部132に出力する。駆動制御信号生成部132は、脱調判定の結果に応じてモータ20の動作を停止する(ステップS6)。脱調判定部136は、上位装置に脱調が発生していることを示すエラーSeを出力して(ステップS7)、処理を終了する。
【0105】
図9は、比較例としての従来のモータ駆動制御装置10によってモータを駆動したときのコイルの電流の実測結果を示す図である。
【0106】
図9に示すように、比較例のモータ駆動制御装置では、モータが回転している際にモータのコイルへの励磁を一時的に停止して、コイルへの電流が抜けきったタイミングで逆起電圧を計測する。このため、比較例のモータ駆動制御装置では、逆起電圧を計測するタイミングにおいて電流変曲点300が生じる。従って、比較例のモータ駆動制御装置では、電流変曲点300が生じることで、駆動音が大きくなる場合がある。
【0107】
一方、本実施の形態におけるモータ駆動制御装置10は、上述したように計測タイミング特定部138により特定された逆起電圧の計測タイミングMTで、逆起電圧計測部126が、モータ20のコイル21への励磁を継続しつつ逆起電圧を計測する。
【0108】
具体的には、モータ駆動制御装置10では、駆動電流がゼロクロスする
図7に示した期間Bのタイミングにおいて、
図5Aに示したチャージモードと
図5Dに示した第2の高速減衰モードとを繰り返す制御を行う。モータ駆動制御装置10では、PWM信号の1変調周期において当該変調周期が開始されてから所定の時間経過したタイミングで、第2の高速減衰モードに入ることで、コイルの電圧が低下し、逆起電圧を計測することができる。また、モータ駆動制御装置10では、第2の高速減衰モードとチャージモードとを繰り返すことで、モータ20のコイル21への励磁を継続することができる。このため、
図6に示すように、モータ駆動制御装置10では、逆起電圧を計測するタイミング301において、電流変曲点が生じていない。モータ駆動制御装置10において、コイルの電流がゼロクロスするタイミングであることの判定は、記憶部137の電流基準値情報202に記憶されている電気角θと電流基準値Sisとの関係に基づいて行われる。
【0109】
従って、モータ駆動制御装置10によれば、モータ20の逆起電圧を計測する際に生じる駆動音を抑制することができる。
【0110】
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0111】
例えば、上記実施の形態では、計測タイミング特定部138は、記憶部137に記憶されている電流基準値情報202からコイルの駆動電流がゼロクロスするタイミングに応じて、逆起電圧の計測タイミングMTを特定していたが、計測タイミングMTの特定方法はこれに限定されない。計測タイミング特定部138が、励磁モード指定部135や電流基準値情報202から取得した情報に基づいて、励磁モードが期間TDであるか否か、A相またはB相のコイルの駆動電流がゼロクロスするタイミングであるか否かを判定して、逆起電圧の計測タイミングMTを特定してもよい。
【0112】
また、上記実施の形態におけるモータ20の相数は、2相に限定されない。
【0113】
また、上記実施の形態におけるモータ20は、ステッピングモータに限られない。例えば、モータ20はブラシレスDCモータであってもよい。
【0114】
また、上述のフローチャートは、動作を説明するための一例を示すものであって、これに限定されない。すなわち、フローチャートの各図に示したステップは具体例であって、このフローに限定されるものではない。例えば、一部の処理の順番が変更されてもよいし、各処理間に他の処理が挿入されてもよいし、一部の処理が並列に行われてもよい。
【符号の説明】
【0115】
1…アクチュエータ、10…モータ駆動制御装置、11…駆動指令取得部、12…制御回路、14…駆動回路、20…モータ(ステッピングモータ)、21,21a,21b…コイル、22…ロータ、22n…N極、22s…S極、25…出力軸、26…1次ギヤ、29…モータ端子、31…2次ギヤ、32…3次ギヤ、33…出力ギヤ、41…外部接続端子、42…プリント基板、43…フレキシブルプリント基板、51…ケース、52…カバー、122…制御部、124…電流計測部、125…入力電圧計測部、126…逆起電圧計測部、130…目標回転速度設定部、131…駆動指令取得部、132…駆動制御信号生成部、133…電流値取得部、134…電流基準値設定部、135…励磁モード指定部、136…脱調判定部、137…記憶部、138…計測タイミング特定部、142…モータ駆動部、143,143a,143b…インバータ回路、144…電流センサ、201…脱調判定閾値、202…電流基準値情報、300…電流変曲点、301…タイミング