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  • 特開-炭素多孔体及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151264
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】炭素多孔体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/16 20060101AFI20231005BHJP
   C01B 32/00 20170101ALI20231005BHJP
【FI】
D01F9/16
C01B32/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060782
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100193404
【弁理士】
【氏名又は名称】倉田 佳貴
(72)【発明者】
【氏名】小山 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】野々垣 昭浩
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 厚則
(72)【発明者】
【氏名】山田 邦生
【テーマコード(参考)】
4G146
4L037
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB06
4G146AB07
4G146AC22A
4G146AC22B
4G146AC30A
4G146AC30B
4G146AD11
4G146BA31
4G146BA32
4G146BA40
4G146BB02
4G146BB05
4G146BB06
4G146BC03
4G146BC23
4G146BC33A
4G146BC34A
4G146BC34B
4G146BC35A
4G146BC36A
4G146BC37B
4G146BC41
4L037CS03
4L037FA02
4L037FA04
4L037FA17
4L037FA18
4L037FA20
4L037PC05
(57)【要約】
【課題】本発明は、炭素繊維同士が絡み合ってできた、低嵩密度及び高空隙率を有する炭素多孔体、及びそのような炭素多孔体を簡便且つ安価に製造する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の炭素多孔体は、中空率60%以上の第一の炭素化可能繊維由来の第一の炭素繊維、及び前記第一の炭素化可能繊維以外の第二の炭素化可能繊維由来の第二の炭素繊維を含み、前記第一の炭素繊維と前記第二の炭素繊維とが互いに絡み合っている、炭素多孔体である。この炭素多孔体は、炭素化可能繊維分散液に抄紙処理を施して提供した炭素化可能繊維多孔体を非酸化性雰囲気下で熱処理することにより得ることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空率60%以上の第一の炭素化可能繊維由来の第一の炭素繊維、及び前記第一の炭素化可能繊維以外の第二の炭素化可能繊維由来の第二の炭素繊維を含み、前記第一の炭素繊維と前記第二の炭素繊維とが互いに絡み合っている、炭素多孔体。
【請求項2】
前記第一の炭素化可能繊維が、カポック繊維である、請求項1に記載の炭素多孔体。
【請求項3】
前記第一の炭素繊維の少なくとも一部が、繊維長さ方向に裂けた形状を有する、請求項1又は2に記載の炭素多孔体。
【請求項4】
前記第二の炭素化可能繊維が、靭皮繊維、葉脈繊維、果実繊維、及び木質繊維からなる群より選択される少なくとも一種の植物繊維である、請求項1~3のいずれか一項に記載の炭素多孔体。
【請求項5】
嵩密度が0.05~0.25g/cmである、請求項1~4のいずれか一項に記載の炭素多孔体。
【請求項6】
空隙率が83%~97%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の炭素多孔体。
【請求項7】
中空率60%以上の第一の炭素化可能繊維、及び前記第一の炭素化可能繊維以外の第二の炭素化可能繊維を含む炭素化可能繊維分散液を提供すること、
前記炭素化可能繊維分散液に抄紙処理を施して、炭素化可能繊維多孔体を提供すること、
前記炭素化可能繊維多孔体を非酸化性雰囲気下で熱処理することにより、前記炭素化可能繊維多孔体を炭素化すること
を含む、炭素多孔体の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理の前に、前記炭素化可能繊維多孔体に不燃剤を含浸させ、そして前記炭素化可能繊維多孔体を乾燥させることを更に含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記熱処理を、800℃以上の温度まで昇温させることにより行う、請求項7又は8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維同士が絡み合って空隙が形成されている炭素多孔体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素多孔体は、その耐熱性、熱伝導性、電気伝導度性、透過性、耐食性などを特性として有しており、断熱材、高温耐食フィルター、水処理剤、断熱材、触媒、触媒担体、ガス流路材、液体流路材、更にはキャパシタ、燃料電池、空気電池等の電極部材や流路部材など様々な用途において用いられている。
【0003】
炭素多孔体を製造する従来技術として、メラミン、ウレタン、フェノールなどの樹脂発泡体を焼成する方法が知られているが、これらの方法では、一般に樹脂発泡体においては発泡体を構成している樹脂の炭素化収率が低いために、樹脂発泡体を炭素化した場合、樹脂発泡体が極めて大きな容積収縮を起こしてしまい、高い空隙率を持ちながら強度を出すことができないという欠点があった。
【0004】
このため、特許文献1では、樹脂発泡体をそのまま焼成する上記従来方法の欠点を改良することを目的とし、ウレタンフォームなどの樹脂発泡体に熱硬化性樹脂(フラン樹脂、フェノール樹脂、イミド樹脂など)を含浸させ、この熱硬化性樹脂の含浸した樹脂発泡体を焼成することからなる炭素多孔体の製造方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2及び3では、炭素繊維を用いた炭素多孔体についても提案されている。
【0006】
特許文献2では、バインダー溶液と炭素繊維の短繊維とを混合、抄造し、乾燥して短繊維同士を互いに結着せしめるか、バインダー溶液と短繊維とを混合し、抄造する代わりに、短繊維を例えば渦噴気流等で解繊しながら堆積せしめた後、バインダー溶液を噴霧して短繊維同士を結着せしめた後、炭素化可能物質の溶液を含浸し、加熱して炭素化可能物質を炭素化する方法が提案されている。
【0007】
更に、特許文献3では、炭素化可能物質を含む抄造媒体と炭素繊維の炭繊維及び/または炭素繊維の前駆体繊維の短繊維とを混合、抄造し、乾燥して短繊維同士を互いに結着せしめた後、加熱して炭素化可能物質または炭素化可能物質と前駆体繊維の短繊維とを炭素化する方法が提案されている。
【0008】
また、特許文献4では、中空繊維を炭素化する中空炭素繊維及びその製造法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭53-7536号公報
【特許文献2】特開昭57-129814号公報
【特許文献3】特開昭63-222078号公報
【特許文献4】特開2021-102534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に記載の方法では、元の樹脂発泡体の形状を保った炭素多孔体にはなるが、炭化までの加熱中に発泡体の収縮、熱硬化性樹脂の炭化の収縮等で、高い空隙率を持ちながら寸法変化を小さくする効果は十分ではない。
【0011】
また、特許文献2及び3の方法では、空隙率が非常に高くかつ嵩密度が非常に小さい炭素多孔体は得られていない。
【0012】
更に、特許文献4の方法では、中空炭素繊維が中空である為、ポーラスな炭素多孔体として見掛けの空隙率や嵩密度としてはある程度期待できるが、中空部内は液体や気体などの流体が流れ難く実質的な高空隙率、低嵩密度な炭素多孔体になっていない。更に、中空炭素繊維の中空部内を液体や気体は流動し難く流路材として中空内部を有効活用し難いという課題がある。同様に中空内部に触媒担持できても中空内部での触媒機能を発現し難いなどの課題がある。
【0013】
本発明は、炭素繊維同士が絡み合ってできた、低嵩密度及び高空隙率を有する炭素多孔体、及びそのような炭素多孔体を簡便且つ安価に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討したところ、以下の手段により上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記のとおりである:
〈態様1〉中空率60%以上の第一の炭素化可能繊維由来の第一の炭素繊維、及び前記第一の炭素化可能繊維以外の第二の炭素化可能繊維由来の第二の炭素繊維を含み、前記第一の炭素繊維と前記第二の炭素繊維とが互いに絡み合っている、炭素多孔体。
〈態様2〉前記第一の炭素化可能繊維が、カポック繊維である、態様1に記載の炭素多孔体。
〈態様3〉前記第一の炭素繊維の少なくとも一部が、繊維長さ方向に裂けた形状を有する、態様1又は2に記載の炭素多孔体。
〈態様4〉前記第二の炭素化可能繊維が、靭皮繊維、葉脈繊維、果実繊維、及び木質繊維からなる群より選択される少なくとも一種の植物繊維である、態様1~3のいずれか一項に記載の炭素多孔体。
〈態様5〉嵩密度が0.05~0.25g/cmである、態様1~4のいずれか一項に記載の炭素多孔体。
〈態様6〉空隙率が83%~97%である、態様1~5のいずれか一項に記載の炭素多孔体。
〈態様7〉中空率60%以上の第一の炭素化可能繊維、及び前記第一の炭素化可能繊維以外の第二の炭素化可能繊維を含む炭素化可能繊維分散液を提供すること、
前記炭素化可能繊維分散液に抄紙処理を施して、炭素化可能繊維多孔体を提供すること、
前記炭素化可能繊維多孔体を非酸化性雰囲気下で熱処理することにより、前記炭素化可能繊維多孔体を炭素化すること
を含む、炭素多孔体の製造方法。
〈態様8〉前記熱処理の前に、前記炭素化可能繊維多孔体に不燃剤を含浸させ、そして前記炭素化可能繊維多孔体を乾燥させることを更に含む、態様7に記載の方法。
〈態様9〉前記熱処理を、800℃以上の温度まで昇温させることにより行う、態様7又は8に記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、炭素繊維同士が絡み合ってできた低嵩密度で高空隙率な炭素多孔体、及びそのような炭素多孔体を簡便且つ安価に製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施例1の炭素多孔体の走査電子顕微鏡(SEM)画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
《炭素多孔体》
本発明の炭素多孔体は、中空率60%以上の第一の炭素化可能繊維由来の第一の炭素繊維、及び前記第一の炭素化可能繊維以外の第二の炭素化可能繊維由来の第二の炭素繊維を含み、前記第一の炭素繊維と前記第二の炭素繊維とが互いに絡み合っている、炭素多孔体である。
【0018】
カポック繊維等の中空率の高い繊維は、アパレル等の分野では注目されているが、その一方で、抄紙処理を施すことが困難であることから、従来はこのような繊維から炭素多孔体を得ることはできなかった。
【0019】
これに対し、本発明者らは、上記の構成により、低嵩密度及び高空隙率を有する炭素多孔体を得ることが出来ることを見出した。具体的には、中空率が高い第一の炭素化可能繊維と、中空率が低い第二の炭素化可能繊維とを組み合わせることにより、炭素化可能繊維同士が絡み合ってできた空隙を有する炭素化可能繊維多孔体を、抄紙処理により得ることが可能となった。また、このような炭素化可能繊維多孔体を炭素化させると、第二の炭素化可能繊維の炭化物である第二の炭素繊維が骨格として作用することにより、低嵩密度及び高空隙率を有し、かつ安定な構造を有する炭素多孔体を得ることができる。なお、第一の炭素化可能繊維の炭化物である第一の炭素繊維は、第一の炭素化可能繊維が高い中空率を有するので、繊維長さ方向に裂けて拡がる場合があり、それによれば特に大きい表面積を提供することができ、また外部に露出されている外表面積を大きくすることができる。
【0020】
ここで、本発明において、「炭素化可能繊維」とは、非酸化性雰囲気下で熱処理することにより、炭素繊維を得ることができる繊維を意味する。
【0021】
炭素多孔体の嵩密度は、0.25g/cm以下、0.20g/cm以下、又は0.15g/cm以下であることができる。この嵩密度は、0.05g/cm以上、又は0.10g/cm以上であることができる。
【0022】
炭素多孔体の空隙率は、83%以上、85%以上、87%以上、又は90%以上であることができる。この空隙率は、上記の嵩密度及び炭素の真密度(1.55g/cm)を用いて得ることができる。この空隙率は、97%以下、95%以下、又は93%以下であることができる。
【0023】
本発明の炭素多孔体の厚さは、抄紙処理により一般的に得られる厚さであってよく、例えば0.1mm以上、0.2mm以上、0.3mm以上、0.4mm以上、0.5mm以上、又は0.6mm以上であってよく、また1.0mm以下、0.9mm以下、0.8mm以下、又は0.7mm以下であってよい。
【0024】
以下では、本発明の各構成要素について説明する。
【0025】
〈第一の炭素繊維〉
第一の炭素繊維は、中空率60%以上の第一の炭素化可能繊維由来の炭素繊維、すなわち第一の炭素化可能繊維の炭化物である炭素繊維である。
【0026】
第一の炭素繊維の少なくとも一部は、繊維長さ方向に裂けた形状を有することができる。
【0027】
(第一の炭素化可能繊維)
第一の炭素化可能繊維は、中空率60%以上の炭素化可能繊維である。この中空率は65%以上、70%以上、又は75%以上であってよく、また90%以下、又は85%以下であってよい。ここで、中空率は、繊維の断面において、外形の面積に対する中空部分の面積の比である。特に、繊維の形状が円筒状である場合には、繊維の外径をD1、繊維の内径をD2としたとき、中空率は、(D2/D1)で定義される。
【0028】
第一の炭素化可能繊維としては、例えば種子毛繊維を用いることができる。種子毛繊維は、概して、殆ど全体がセルロースで形成された種子の表皮細胞によって生み出された単細胞構造の繊維であり、例えば綿繊維、アクンド繊維、カポック繊維等が挙げられる。これらの繊維は、単独で用いてもよく、又は組み合わせて用いてもよい。
【0029】
第一の炭素化可能繊維としては、中でもカポック繊維を用いることが好ましい。カポック繊維は、約70%~80%の中空率を有することが一般に知られており、この中空率によれば、繊維長さ方向に裂けた形状を有する炭素繊維が得やすくなり、それにより、低い嵩密度を得ることができる。
【0030】
〈第二の炭素繊維〉
第二の炭素繊維は、第二の炭素化可能繊維由来の炭素繊維、すなわち第二の炭素化可能繊維の炭化物である炭素繊維である。
【0031】
(第二の炭素化可能繊維)
第二の炭素化可能繊維は、第一の炭素化可能繊維以外の炭素化可能繊維である。
【0032】
第二の炭素化可能繊維としては、第一の炭素化可能繊維よりも中空率が低い繊維、特に中空率60%未満の植物繊維、例えば靭皮繊維、葉脈繊維、果実繊維、及び木質繊維等を用いることができる。これらの繊維は、単独で用いてもよく、又は組み合わせて用いてもよい。第二の炭素化可能繊維の中空率は、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、又は約0%(すなわち中実繊維)であってよい。
【0033】
靭皮繊維としては、例えばジュート繊維、亜麻繊維、ヘンプ繊維、ラミー繊維、ケナフ繊維等を用いることができる。
【0034】
葉脈繊維としては、概して外皮と細胞間物質を加えた主にセルロースから成る繊維、例えばマニラアサ繊維、サイザルアサ繊維、パイナップル繊維等を用いることができる。
【0035】
果実繊維としては、概して外皮と細胞間物質を加えた主にセルロースから成る繊維、例えばココヤシ繊維等を用いることができる。
【0036】
木質繊維としては、概して主にセルロース繊維からなり外皮と細胞間物質からなる木材、例えばエゾマツ、トドマツなど製紙パルプの原料となる木材等を用いることができる。
【0037】
《炭素多孔体の製造方法》
炭素多孔体を製造する本発明の方法は、
中空率60%以上の第一の炭素化可能繊維、及び前記第一の炭素化可能繊維以外の第二の炭素化可能繊維を含む炭素化可能繊維分散液を提供すること、
前記炭素化可能繊維分散液に抄紙処理を施して、炭素化可能繊維多孔体を提供すること、
前記炭素化可能繊維多孔体を非酸化性雰囲気下で熱処理することにより、前記炭素化可能繊維多孔体を炭素化すること
を含む。
【0038】
本発明の方法は、熱処理の前に、炭素化可能繊維多孔体に不燃剤を含浸させることを更に含むことが、得られる炭素多孔体の嵩密度を更に低くする観点から好ましい。
【0039】
〈炭素化可能繊維分散液の提供〉
炭素化可能繊維分散液の提供は、第一及び第二の炭素化可能繊維を、分散媒に分散させることにより行うことができる。
【0040】
第一及び第二の炭素化可能繊維を水に分散させる前に、第一及び第二の炭素化可能繊維の叩解処理を行ってもよい。叩解処理の条件は、特に限定されないが、第一及び第二の炭素化可能繊維の繊維長が500μm以下にならないように調節された条件であることが、得られる炭素多孔体の強度を得る観点から好ましい。このような条件においては、叩解度は、40°SR以下、35°SR以下、30°SR以下、又は25°SR以下であってよく、また15°SR以上、又は20°SR以上であってよい。
【0041】
第一の炭素化可能繊維の含有率は、第一及び第二の炭素化可能繊維の合計質量に対して、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、7質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、30質量%以上、又は35質量%以上であることが、得られる炭素多孔体の嵩密度を低くし、かつ空隙率を高くする観点から好ましい。
【0042】
分散媒は、水若しくは有機溶媒、又はこれらの混合溶媒であってよい。
【0043】
炭素化可能繊維分散液は、炭素化可能な物質を更に含有していてもよい。これらの炭素化可能な物質は、炭素化可能繊維分散液に単独で添加してもよく、又は炭素化可能な物質の溶液若しくはエマルションの形態で添加してもよい。
【0044】
炭素化可能な物質としては、非酸化性雰囲気下で熱処理することにより炭素を残存させる物であれば特に限定されず、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、フェノール樹脂、フラン樹脂等の樹脂、セルロース誘導体、結晶セルロース、レオザンガム、ジェランガム、キサンタンガム、サクシノグリカン等の糖類等を用いることができる。
【0045】
炭素化可能な物質としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等を用いることが好ましい。これらの樹脂は、その水溶性により、抄紙処理の際に炭素化可能繊維を良好に接着させる観点、及びその低い残炭率により、得られる炭素多孔体の嵩密度を上昇させない観点から好ましい。
【0046】
炭素化可能な物質は、炭素化可能繊維多孔体の質量に対して、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下の含有率となるような量で添加することが、炭素多孔体の嵩密度を低くする観点から好ましい。
【0047】
〈炭素化可能繊維多孔体の提供〉
炭素化可能繊維多孔体の提供は、炭素化可能繊維多孔体に抄紙処理を施すことにより、炭素化可能繊維多孔体を得ることができる。抄紙処理は、公知の抄紙法により行うことができる。ここで、本発明において、抄紙処理は、紙を構成する材料の分散液を用いて紙を完成させるまでの一連の処理を意味するものである。すなわち、本発明において、「炭素化可能繊維多孔体」とは、乾燥後の炭素化繊維多孔体を意味している。
【0048】
抄紙処理は、例えば炭素化可能繊維を用いて湿紙を得ること、及びこの湿紙を加熱加圧成形することを含む処理であってよい。加熱の温度は、公知の抄紙処理において用いられている温度であってよく、特に炭素化可能繊維分散液中の分散媒を揮発させるのに十分な温度であってよい。加圧の条件は、公知の抄紙処理において用いられている条件を参照してよく、特に得るべき炭素化可能繊維多孔体の厚さに応じて調節することができる。
【0049】
抄紙処理の前に、炭素化可能な物質の溶液又はエマルションを、炭素化可能繊維分散液に混合させてもよい。炭素化可能な物質の種類及び添加量に関しては、炭素化可能繊維分散液の提供に関する記載を参照することができる。
【0050】
炭素化可能繊維多孔体の嵩密度は、0.27g/cm以下、0.25g/cm以下、又は0.22g/cm以下であることが、炭素多孔体の嵩密度を低くする観点、及び炭素多孔体の空隙率を高くする観点から好ましい。なお、本発明の方法が、不燃剤の含浸を更に含む場合には、この嵩密度は、不燃剤を含浸させる前の嵩密度を意味するものである。
【0051】
〈不燃剤の含浸〉
不燃剤の含浸は、熱処理の前に、炭素化可能繊維多孔体に不燃剤を含浸させ、そして乾燥させる随意の工程である。この工程により、得られる炭素多孔体の嵩密度を更に低くすることができる。不燃剤の含浸は、不燃材を溶解可能な溶媒に、不燃剤を溶解させて得た溶液を、炭素化可能繊維多孔体に塗布する方法が、簡便さの観点から好ましいが、炭素化可能繊維多孔体に不燃剤を含浸できる方法であれば、特に限定されない。
【0052】
不燃剤としては、例えばCHPO、NHPO、(NHHPO、(CHPO、COHPO、(NHHPO (NHCO等のリン系不燃剤、HBO、(NH、Na13・4HO等のホウ素系不燃剤、(NHSO等の硫黄系不燃剤等を用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、又は組み合わせて用いてもよい。
【0053】
不燃剤の含浸量は、炭素化可能繊維多孔体に対して、0.1g/cm以上、0.2g/cm以上、又は0.3g/cm以上であることが、得られる炭素多孔体の嵩密度を低くする観点から好ましい。
【0054】
乾燥の条件は、不燃剤の含浸後に付着した液体成分を揮発させるのに十分な条件で行う限り、特に限定されない。
【0055】
〈炭素化可能繊維多孔体の炭素化〉
炭素化可能繊維多孔体の炭素化は、前記炭素化可能繊維多孔体を非酸化性雰囲気下で熱処理することにより行う。
【0056】
非酸化性雰囲気は、窒素、アルゴン等の不活性ガス気流の雰囲気であってもよく、又は0.1Pa以下、10-2Pa以下、10-3Pa以下、10-4Pa以下、10-5Pa以下、10-6Pa以下、若しくは10-7Pa以下であり、かつ10-8Pa以上の真空であってもよい。
【0057】
熱処理は、所定の最高到達温度まで昇温させることにより行うことができる。最高到達温度は、500℃以上、600℃以上、700℃以上、800℃以上、900℃以上、又は950℃以上であってよく、特に、電気伝導性を重視する用途では、800℃以上であることが好ましい。この最高到達温度は、2500℃以下、2400℃以下、2300℃以下、2200℃以下、2100℃以下、2000℃以下、1900℃以下、1800℃以下、1700℃以下、1600℃以下、1500℃以下、1400℃以下、1300℃以下、1200℃以下、又は1100℃以下であってよい。
【0058】
最高到達温度を維持する時間は、30分以上、1時間以上、2時間以上、又は3時間以上であってよく、また72時間以下、70時間以下、60時間以下、50時間以下、40時間以下、30時間以下、20時間以下、10時間以下、8時間以下、5時間以下、又は4時間以下であってよい。
【実施例0059】
実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0060】
《炭素多孔体の作製》
〈実施例1〉
第一の炭素化可能繊維としてのカポック繊維(種子毛繊維、中空率:約70~80%)40質量%と、第二の炭素化可能繊維としてのケナフ繊維(靭皮繊維)60質量%とを水に分散させて水分散体を得て、この水分散体中で、これらの繊維を離解及び叩解して、叩解度25°SRの炭素化可能繊維分散液を得た。次いで、この炭素化可能繊維分散液に抄紙処理を施した。具体的には、この炭素化可能繊維分散液を用いて湿紙を得て、この湿紙を加熱加圧成形した。これにより、外径100mm、厚さ0.63mmの炭素化可能繊維多孔体を得た。得られた炭素化可能繊維多孔体の嵩密度は、0.20(g/cm)であった。
【0061】
得られた炭素化可能繊維多孔体を、窒素ガス雰囲気下、最高到達温度1000℃で3時間保持して、実施例1の炭素多孔体を得た。
【0062】
〈実施例2〉
実施例1で得られた炭素化可能繊維多孔体を、リン酸二アンモニウム30%水溶液中に室温下で一昼夜浸漬させた。浸漬処理して得られた炭素化可能繊維多孔体を室温下で予備乾燥し、次いで50℃で更に一昼夜乾燥させた。こうして得られた炭素化可能繊維多孔体を、実施例1と同じ条件で熱処理して、実施例2の炭素多孔体を得た。
【0063】
〈比較例1及び2〉
市販のろ紙を実施した例
炭素化可能繊維多孔体として、商業的に入手可能なろ紙(Whatman41、Merck社)を用いたことを除き、実施例1及び2と同様にして、それぞれ比較例1及び2の炭素多孔体を得た。
【0064】
〈比較例3〉
炭素化可能繊維として、第一の炭素化可能繊維としてのカポック繊維(種子毛繊維)のみを用いたことを除いて実施例1と同様にして、炭素化可能繊維分散液を得た。次いで、この炭素化可能繊維分散液に抄紙処理を施した。しかしながら、この場合には、第一の炭素化可能繊維としてのカポック繊維が軽すぎてうまく抄紙処理ができなかった。
【0065】
実施例及び比較例の構成を表1に示す。また、実施例1の炭素多孔体の走査電子顕微鏡(SEM)画像を、図1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1から、第一の炭素化可能繊維由来の第一の炭素繊維、及び第一の炭素化可能繊維以外の第二の炭素化可能繊維由来の第二の炭素繊維を含む、本発明の炭素多孔体は、低い嵩密度及び高い空隙率を有していることが理解できよう。
図1