(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151289
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】樹脂付永久磁石の製造方法及びロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/02 20060101AFI20231005BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20231005BHJP
B05D 1/32 20060101ALI20231005BHJP
B05D 1/42 20060101ALI20231005BHJP
H02K 1/276 20220101ALI20231005BHJP
H02K 15/03 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H02K15/02 K
B05D1/26 A
B05D1/32 E
B05D1/42
H02K1/276
H02K15/03 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060834
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】依田 悠
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恵
【テーマコード(参考)】
4D075
5H615
5H622
【Fターム(参考)】
4D075AC45
4D075AC53
4D075AD11
4D075BB01Z
4D075BB26Z
4D075CA48
4D075DA06
4D075DB03
4D075DC19
4D075EA05
4D075EB33
4D075EB42
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB07
5H615BB14
5H615PP02
5H615SS18
5H622CA02
5H622CA07
5H622CA10
5H622CA13
5H622PP19
(57)【要約】
【課題】スクリーン印刷により液状の樹脂を永久磁石に塗布する場合に、塗布された樹脂に凸部が形成されることを防止又は抑制する。
【解決手段】スクリーン印刷により液状の樹脂を永久磁石に塗布して樹脂付永久磁石を製造する樹脂付永久磁石の製造方法は、開口部が形成されたメタルマスク50を準備する準備工程と、開口部52の下方に永久磁石24が位置するようにメタルマスク50を永久磁石24の上に重ね合わせる重ね工程と、メタルマスク50の上面に液状の樹脂26Lを供給する供給工程と、メタルマスク50の上面にスキージ32を接触させながら一方へ移動させることにより、樹脂26Lを開口部52内に充填して永久磁石24に塗布する塗布工程と、を有する。準備工程では、開口部52における上記一方側の縁部に下方側へ凹んだ段差部54が形成されたメタルマスク50を準備する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリーン印刷により液状の樹脂を永久磁石に塗布して樹脂付永久磁石を製造する樹脂付永久磁石の製造方法であって、
開口部が形成されたメタルマスクを準備する準備工程と、
前記開口部の下方に永久磁石が位置するように前記メタルマスクを前記永久磁石の上に重ね合わせる重ね工程と、
前記メタルマスクの上面に前記樹脂を供給する供給工程と、
前記メタルマスクの上面にスキージを接触させながら一方へ移動させることにより、前記樹脂を前記開口部内に充填して前記永久磁石に塗布する塗布工程と、
を有し、
前記準備工程では、前記開口部における前記一方側の縁部に下方側へ凹んだ段差部が形成された前記メタルマスクを準備する樹脂付永久磁石の製造方法。
【請求項2】
前記開口部の端面を、前記スキージの移動方向に対して傾斜した平面によって構成する請求項1に記載の樹脂付永久磁石の製造方法。
【請求項3】
前記開口部の端面を、円弧状に湾曲した曲面によって構成する請求項1に記載の樹脂付永久磁石の製造方法。
【請求項4】
前記準備工程では、前記開口部における他方側の縁部に下方側へ凹んだ段差部が形成された前記メタルマスクを準備し、
前記塗布工程の後、前記メタルマスクの下から前記永久磁石を回収し、
前記メタルマスクを別の永久磁石の上に重ね合わせ、
前記メタルマスクの上面に前記スキージを接触させながら他方へ移動させることにより、前記樹脂を前記開口部内に充填して前記別の永久磁石に塗布する請求項1~請求項3の何れか1項に記載の樹脂付永久磁石の製造方法。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか1項に記載の樹脂付永久磁石の製造方法によって製造した前記樹脂付永久磁石の前記樹脂を半硬化させる半硬化工程と、
ロータコアに形成した磁石挿入孔内に、前記半硬化工程後の前記樹脂付永久磁石を圧入する圧入工程と、
前記磁石挿入孔に挿入した前記樹脂付永久磁石の前記樹脂を本硬化させる本硬化工程と、
を有するロータの製造方法。
【請求項6】
請求項1~請求項4の何れか1項に記載の樹脂付永久磁石の製造方法によって製造した前記樹脂付永久磁石の前記樹脂を本硬化させる本硬化工程と、
ロータコアに形成した磁石挿入孔内に、前記本硬化工程後の前記樹脂付永久磁石を圧入する圧入工程と、
を有するロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂付永久磁石の製造方法及びロータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載されたモータコアの樹脂モールド方法では、側面に樹脂突起が形成されたマグネットをモータコアに形成された挿入孔に挿入する。このマグネットを挿入孔の孔壁面に対して所定のクリアランスを保って位置決めしたまま、モールド金型によりクランプし、挿入孔にモールド樹脂を充填して加熱硬化させてマグネットをモータコアに対して一体に樹脂モールドする。上記のように側面に樹脂突起が形成されたマグネットを製造する際には、断面矩形状のマグネットの一側面にパターンが形成されたマスクを重ね合わせる工程と、マスク上に硬化性樹脂を供給してスクリーン印刷を行う工程と、マグネットからマスクを除去して形成された樹脂パターンを硬化させて複数の樹脂突起を形成する工程とが実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スクリーン印刷において、開口部が形成されたメタルマスクを用いてワークに液剤を塗布する際には、スキージが通り抜ける側の開口部の端部において、塗布された樹脂に凸部が発生する場合がある。凸部の発生要因としては、スキージがメタルマスクの開口部を通り抜ける際に開口部の端面(内壁面)に液剤が衝突して圧縮されると共に、当該圧縮から解放されることで液剤が凸状に盛り上がると考えられる。モータコアの挿入孔に挿入されるマグネットの樹脂に上記のような凸部が形成されると、モータコアに対するマグネットの位置決め精度が低下する。その結果、凸部が磁石挿入孔の入り口で干渉して樹脂付き磁石を挿入しにくいという問題が生じる。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、スクリーン印刷により液状の樹脂を永久磁石に塗布する場合に、塗布された樹脂に凸部が形成されることを防止又は抑制できる樹脂付永久磁石の製造方法及びロータの製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明に係る樹脂付永久磁石の製造方法は、スクリーン印刷により液状の樹脂を永久磁石に塗布して樹脂付永久磁石を製造する樹脂付永久磁石の製造方法であって、開口部が形成されたメタルマスクを準備する準備工程と、前記開口部の下方に永久磁石が位置するように前記メタルマスクを前記永久磁石の上に重ね合わせる重ね工程と、前記メタルマスクの上面に前記樹脂を供給する供給工程と、前記メタルマスクの上面にスキージを接触させながら一方へ移動させることにより、前記樹脂を前記開口部内に充填して前記永久磁石に塗布する塗布工程と、を有し、前記準備工程では、前記開口部における前記一方側の縁部に下方側へ凹んだ段差部が形成された前記メタルマスクを準備する。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、準備工程では、開口部が形成されたメタルマスクが準備される。重ね工程では、メタルマスクの開口部の下方に永久磁石が位置するようにメタルマスクが永久磁石の上に重ね合わされる。供給工程では、メタルマスクの上面に液状の樹脂が供給される。塗布工程では、メタルマスクの上面にスキージが接触させられながら一方に移動されることにより、上記の樹脂が開口部内に充填されて永久磁石に塗布される。上記の準備工程では、開口部における上記一方側(すなわちスキージが通り抜ける側)の縁部に下方側へ凹んだ段差部が形成されたメタルマスクが準備される。これにより、開口部における上記一方側の縁部に段差部が形成されない場合と比較して、上記段差部の端面に当たる樹脂が圧縮され難くなるので、当該圧縮からの解放による樹脂の盛り上がりが抑制される。その結果、塗布された樹脂に凸部が形成されることを防止又は抑制できる。
【0008】
請求項2に記載の発明に係る樹脂付永久磁石の製造方法は、請求項1において、前記開口部の端面を、前記スキージの移動方向に対して傾斜した平面によって構成する。
【0009】
請求項2に記載の発明では、メタルマスクに形成される開口部は、スキージが通り抜ける側の端面が、スキージの移動方向に対して傾斜した平面によって構成される。これにより、開口部の端面に当たる樹脂が圧縮されることを効果的に抑制できる。
【0010】
請求項3に記載の発明に係る樹脂付永久磁石の製造方法は、請求項1において、前記開口部の端面を、円弧状に湾曲した曲面によって構成する。
【0011】
請求項3に記載の発明では、メタルマスクに形成される開口部は、スキージが通り抜ける側の端面が、円弧状に湾曲した曲面によって構成される。これにより、開口部の端面に当たる樹脂が圧縮されることを効果的に抑制できる。
【0012】
請求項4に記載の発明に係る樹脂付永久磁石の製造方法は、請求項1~請求項3の何れか1項において、前記準備工程では、前記開口部における他方側の縁部に下方側へ凹んだ段差部が形成された前記メタルマスクを準備し、前記塗布工程の後、前記メタルマスクの下から前記永久磁石を回収し、前記メタルマスクを別の永久磁石の上に重ね合わせ、前記メタルマスクの上面に前記スキージを接触させながら他方へ移動させることにより、前記樹脂を前記開口部内に充填して前記別の永久磁石に塗布する。
【0013】
請求項4に記載の発明では、準備工程では、開口部における他方側の縁部に下方側へ凹んだ段差部が形成されたメタルマスクが準備される。そして、塗布工程の後、メタルマスクの下から永久磁石が回収され、メタルマスクが別の永久磁石の上に重ね合わされる。その後、メタルマスクの上面にスキージが接触されながら他方へ移動されることにより、樹脂が開口部内に充填されて上記別の永久磁石に塗布される。この際には、上記他方側の縁部に形成された段差部によって樹脂の盛り上がりが抑制される。このように、スキージの一方側及び他方側への移動時にそれぞれ永久磁石に樹脂が塗布されるので、樹脂付永久磁石の量産性が向上する。
【0014】
請求項5に記載の発明に係るロータの製造方法は、請求項1~請求項4の何れか1項に記載の樹脂付永久磁石の製造方法によって製造した前記樹脂付永久磁石の前記樹脂を半硬化させる半硬化工程と、ロータコアに形成した磁石挿入孔内に、前記半硬化工程後の前記樹脂付永久磁石を圧入する圧入工程と、前記磁石挿入孔に挿入した前記樹脂付永久磁石の前記樹脂を本硬化させる本硬化工程と、を有する。
【0015】
請求項5に記載の発明によれば、半硬化工程では、請求項1~請求項6の何れか1項に記載の樹脂付永久磁石の製造方法によって製造された樹脂付永久磁石の樹脂が半硬化される。圧入工程では、ロータコアに形成された磁石挿入孔内に、半硬化工程後の樹脂付永久磁石が圧入される。本硬化工程では、磁石挿入孔に圧入された樹脂付永久磁石の樹脂が本硬化される。上記の圧入工程では、樹脂が半硬化した状態で樹脂付永久磁石が磁石挿入孔に圧入されるので、樹脂の液だれや掻き取られによる樹脂の偏倚を発生させずに、永久磁石と磁石挿入孔の内壁面との間の必要な箇所に樹脂を適切に介在させることができる。その結果、ロータコアに対して永久磁石を適切に固定可能となる。しかも、上記必要な箇所のみに樹脂を介在させることができるので、樹脂の使用量が少なくなる。さらに、請求項1~請求項4の何れか1項に記載の樹脂付永久磁石の製造方法によって樹脂付永久磁石が製造されるので、請求項1~請求項4の何れか1項に係る発明と同様の効果が得られる。
【0016】
請求項6に記載の発明に係るロータの製造方法は、請求項1~請求項4の何れか1項に記載の樹脂付永久磁石の製造方法によって製造した前記樹脂付永久磁石の前記樹脂を本硬化させる本硬化工程と、ロータコアに形成した磁石挿入孔内に、前記本硬化工程後の前記樹脂付永久磁石を圧入する圧入工程と、を有する。
【0017】
請求項6に記載の発明によれば、本硬化工程では、請求項1~請求項4の何れか1項に記載の樹脂付永久磁石の製造方法によって製造された樹脂付永久磁石の樹脂は本硬化される。圧入工程では、ロータコアに形成された磁石挿入孔内に、本硬化工程後の樹脂付永久磁石が圧入される。このように、樹脂が本硬化した状態で樹脂付永久磁石が磁石挿入孔に圧入されるので、樹脂の液だれや掻き取られによる樹脂の偏倚を発生させずに、永久磁石と磁石挿入孔の内壁面との間の必要な箇所に樹脂を適切に介在させることができる。その結果、ロータコアに対して永久磁石を適切に固定可能となる。しかも、上記必要な箇所のみに樹脂を介在させることができるので、樹脂の使用量が少なくなる。さらに、請求項1~請求項4の何れか1項に記載の樹脂付永久磁石の製造方法によって樹脂付永久磁石が製造されるので、請求項1~請求項4の何れか1項に係る発明と同様の効果が得られる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明に係る樹脂付永久磁石の製造方法及びロータの製造方法では、スクリーン印刷により液状の樹脂を永久磁石に塗布する場合に、塗布された樹脂に凸部が形成されることを防止又は抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態に係るロータの製造方法により製造されたロータを示す平面図である。
【
図2】
図1のF2-F2線に沿った切断面を示す断面図である。
【
図3】第1実施形態に係る樹脂付永久磁石の製造方法を実施するためのスクリーン印刷機の部分的な構成を示す平面図である。
【
図4】
図3に示される構成の一部に対応した平面図であり、メタルマスクの開口部にスキージが差し掛かる前の状態を示す図である。
【
図5】
図4のF5-F5線に沿った切断面に対応する断面図であり、メタルマスク上に供給された樹脂がスキージによって開口部内に充填される状況を示す図である。
【
図6】メタルマスクの開口部をスキージが通り抜けた直後の状態を示す
図4に対応した平面図である。
【
図7】
図6のF7-F7線に沿った切断面に対応する断面図であり、メタルマスクの開口部への樹脂の充填が完了した状況を示す図である。
【
図10】メタルマスクの開口部の第1変形例について説明するための平面図である。
【
図11】メタルマスクの開口部の第2変形例について説明するための平面図である。
【
図12】第2実施形態に係る樹脂付永久磁石の製造方法を実施するためのスクリーン印刷機の部分的な構成を示す
図5に対応した断面図である。
【
図13】メタルマスクの開口部をスキージが通り抜けた直後の状態を示す
図12に対応した断面図である。
【
図14】メタルマスクの下から永久磁石が回収される際の状況を示す
図12に対応した断面図である。
【
図15】スキージが他方側へ移動される状況を示す
図12に対応した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、
図1~
図7を参照して、本発明の第1実施形態に係る樹脂付永久磁石の製造方法及びロータの製造方法について説明する。各図においては、図面を見易くする関係から、一部の符号を省略している場合がある。先ず、本実施形態に係るロータの製造方法によって製造されるロータ10の構成について説明する。
【0021】
図1及び
図2に示されるロータ10は、一例としてインナロータ型の回転電機の回転子であり、磁石埋込型とされている。このロータ10は、回転電機の回転軸12に対して同軸的かつ一体的に固定されるロータコア14と、ロータコア14内に埋め込まれた複数の樹脂付永久磁石22とによって構成されている。ロータコア14は、複数枚の電磁鋼板16が積層された積層鋼板によって構成されており、円柱状に形成されている。ロータコア14の中央部には、ロータコア14を軸方向に貫通した嵌合孔18が形成されている。この嵌合孔18には上記の回転軸12が圧入されており、当該回転軸12にロータコア14が固定されている。
【0022】
また、ロータコア14の外周部には、ロータコア14を軸方向に貫通した複数(ここでは4つ)の磁石挿入孔20が形成されている。これらの磁石挿入孔20は、ロータコア14の周方向に等間隔で並んでおり、ロータ周方向(詳細にはロータ軸方向から見てロータ径方向と直交する方向)を長手とする略長方形状をなしている。上記のように、ロータコア14は複数の電磁鋼板16の積層体であるため、積層時のズレ等によって各磁石挿入孔20の内壁面には微小な凹凸(段差)が発生している(
図2参照)。これらの磁石挿入孔20内には、それぞれ樹脂付永久磁石22が配置されている。
【0023】
樹脂付永久磁石22は、磁石挿入孔20内に配置された永久磁石24と、永久磁石24と磁石挿入孔20の内壁面との間に介在された一対の樹脂部26とによって構成されている。この樹脂付永久磁石22は、ロータ軸方向を長手とし、ロータ径方向を板厚方向とする長方形板状をなしている。永久磁石24は、焼結磁石等からなるセグメント磁石であり、ロータ軸方向を長手とし、ロータ径方向を板厚方向とする長方形板状に形成されている。この永久磁石24は、ロータ軸方向から見た断面形状が、磁石挿入孔20の長手方向を長手とする長方形状とされている。この永久磁石24は、ロータ軸方向から見て磁石挿入孔20よりも一回り小さく形成されており、磁石挿入孔20内に非接触で挿入可能とされている。
【0024】
一対の樹脂部26は、永久磁石24におけるロータ外径側の面に塗布されて硬化した熱硬化性の樹脂によって構成されている。この樹脂の種類としては、例えばエポキシ樹脂やシリコーン樹脂などが挙げられる。これらの樹脂部26は、ロータ軸方向を長手とし、ロータ径方向を板厚方向とする四角形板状に形成されており、ロータ周方向に間隔をあけて平行に並んでいる。これらの樹脂部26の厚さ寸法は、永久磁石24の厚さ寸法よりも十分に小さく設定されている。これらの樹脂部26は、ロータ外径側(ロータ径方向外側)から見た場合に、永久磁石24よりも一回り小さく形成されており、永久磁石24の外周縁部には樹脂部26が存在しない構成になっている。なお、永久磁石24に一対の樹脂部26が設けられる構成に限らず、永久磁石24の全面に樹脂部26が設けられる構成にしてもよい。また、樹脂部26の寸法は必ずしも永久磁石24より小さくなくてもよい。以下、一対の樹脂部26を、単に「樹脂部26」と称する。
【0025】
上記の樹脂付永久磁石22では、永久磁石24におけるロータ外径側の面とロータ内径側の面のうち、ロータ外径側の面のみ(すなわち片面のみ)に樹脂部26が設けられている。また、この樹脂付永久磁石22では、永久磁石24における短手方向両端面及び長手方向両端面にも樹脂部26が設けられていない構成になっている。なお、永久磁石24におけるロータ内径側の面のみに樹脂部26が設けられる構成にしてもよい。
【0026】
上記構成の樹脂付永久磁石22は、樹脂部26を構成する樹脂が永久磁石24に塗布された後に加熱されて半硬化した状態(所謂Bステージ状態)で、磁石挿入孔20内に軽圧入される構成とされている。つまり、磁石挿入孔20内に挿入される際の樹脂付永久磁石22の大きさは、磁石挿入孔20内に軽圧入可能な大きさとされる。この挿入時の樹脂付永久磁石22の厚さ寸法は、ロータ軸方向視での磁石挿入孔20の短手寸法よりも若干大きく設定される。本実施形態では、一例として、永久磁石24に樹脂が塗布されて樹脂付永久磁石22が製造された段階で、永久磁石24と樹脂部26との総厚が、磁石挿入孔20内に圧入可能な大きさとなる。なお、樹脂付永久磁石22は、磁石挿入孔20への挿入時に上記のような大きさになっていればよく、上記のような大きさになるタイミングは特に限定されない。
【0027】
この樹脂付永久磁石22が磁石挿入孔20内に軽圧入される際には、硬化が進んだ樹脂部26が弾性的に変形する。これにより、上記の軽圧入が許容される構成になっている。この樹脂部26の半硬化の硬さとしては、例えば樹脂部26の弾性率が10MPa~5000MPaの範囲内になるように、加熱温度及び加熱時間が調整される構成になっている。なお、樹脂部26の半硬化の硬さは、樹脂、硬化剤、硬化促進剤の種類や、フィラーの量を変更することによっても調整可能である。この樹脂部26の半硬化状態を安定して保持する方法としては、例えば、樹脂と硬化剤の組み合わせを変えて硬化速度を遅くすることや、低温で保管することが挙げられる。
【0028】
なお、本実施形態では、一例として、樹脂付永久磁石22の幅寸法(ロータ軸方向視での長手寸法)は、磁石挿入孔20の幅寸法(ロータ軸方向視での長手寸法)よりも小さく設定されている。このため、樹脂付永久磁石22が磁石挿入孔20内に配置された状態では、
図1に示されるように、樹脂付永久磁石22と磁石挿入孔20におけるロータ周方向の両端部(ロータ軸方向視での長手方向両端部)との間にそれぞれ隙間28が形成される構成になっている。
【0029】
図1及び
図2に示されるように、上記構成のロータ10では、永久磁石24におけるロータ内径側の面が磁石挿入孔20の内壁面のうちロータ内径側の部位に直接接触している。また、このロータ10では、樹脂付永久磁石22の樹脂部26が、磁石挿入孔20の内壁面のうちロータ外径側の部位に密着している。具体的には、本実施形態では、上記の樹脂部26が半硬化した状態で樹脂付永久磁石22が磁石挿入孔20内に軽圧入され、その後に樹脂部26が再加熱されて本硬化する。この本硬化までの間に、半硬化状態の樹脂部26が磁石挿入孔20の内壁面に対してロータ径方向に押し当てられることにより、当該内周面の凹凸に対応して樹脂部26が変形する。これにより、樹脂部26が磁石挿入孔20の内壁面に密着した構成となっている。この「密着」について補足すると、一般的に半硬化状態の樹脂が再加熱される際には、樹脂の弾性率が低下する。これにより、樹脂部26が磁石挿入孔20の内壁面に密着し易くなる。本実施形態では、一例として、半硬化状態の樹脂部26が再加熱される際の加熱温度は、樹脂部26が半硬化される際の加熱温度よりも高く設定されている。また、本実施形態では、樹脂部26と磁石挿入孔20の内壁面との接触率が、例えば70%以上とされている。
【0030】
また、上記構成のロータ10では、ロータコア14における磁石挿入孔20の周辺部(孔縁部)の残留応力が比較的小さく(例えば10MPa以下に)設定されている。これは、半硬化状態の樹脂部26が磁石挿入孔20の内壁面に対してロータ径方向に押し当てられて磁石挿入孔20の内壁面の凹凸に密着される場合、樹脂部26の変形抵抗が小さいことによるものである。
【0031】
また、上記の樹脂部26を構成する樹脂は、発泡性の成分を含んでいても、含んでいなくてもよい。また前述したように、本実施形態では、樹脂部26が半硬化した状態で樹脂付永久磁石22が磁石挿入孔20内に軽圧入されるため、樹脂の液だれや掻き取られが防止又は抑制される構成になっている。
【0032】
次に、本実施形態の要部である樹脂付永久磁石の製造方法及びロータの製造方法について説明する。本実施形態に係る樹脂付永久磁石の製造方法は、スクリーン印刷により液状の樹脂を永久磁石に塗布して樹脂付永久磁石を製造する方法である。この樹脂付永久磁石の製造方法では、
図3に示されるスクリーン印刷機30を用いて一部の工程が実施される。以下、説明の便宜上、
図3~
図7に適宜示される前後、左右及び上下の矢印で示される方向を、スクリーン印刷機30の前後方向、左右方向及び上下方向とする。
【0033】
スクリーン印刷機30は、スキージ32を駆動するスキージ駆動部34を備えている。スキージ駆動部34は、一例として前後方向駆動部36と上下方向駆動部38とを有している。スキージ32は、上下方向駆動部38を介して前後方向駆動部36に支持されている。前後方向駆動部36は、図示しないアクチュエータの駆動によりスキージ32を前後方向に移動させる。上下方向駆動部38は、図示しないアクチュエータの駆動によりスキージ32を上下方向に移動させる。
【0034】
スキージ駆動部34の下方でスクリーン印刷機30の機内には、メタルマスク50が設置されている。メタルマスク50には、一対一組の開口部52が複数組(ここでは10組)形成されている。複数組の開口部52は、互いに間隔をあけて並んでいる。複数組の開口部52は、一例として前後に二列に並んで配置されており、各列に5組ずつの開口部52が設けられている。各組の一対の開口部52は、前後方向を長手とする長尺な四角形状をなしており、左右方向に間隔をあけて平行に並んでいる。各開口部52は、
図3~
図5に示されるように前方側(すなわち前後方向駆動部36によるスキージ32の移動方向の一方側)の縁部に、下方側へ階段状に凹んだ段差部54が形成されている。この段差部54が形成された開口部52の前縁部は、二段の階段状をなしている。各開口部52は、例えばエッチング、レーザ加工、アディティブ等の方法によってメタルマスク50に形成される。また、各開口部52の段差部は、例えばエッチング、レーザ加工、アディティブ等の方法によってメタルマスク50に形成される。複数の開口部52及び段差部54が形成されたメタルマスク50を準備する工程は、本発明における「準備工程」に相当する。
【0035】
メタルマスク50の下方には、複数組の開口部52と同数(ここでは10個)の永久磁石24が配置される。複数の永久磁石24は、複数組の開口部52と同様に前後に二列に並んで配置されており、スクリーン印刷機30が有する移動テーブル40(
図5及び
図7参照)によって下方側から支持されている。各永久磁石24は、長方形板状をなしており、前後方向を長手方向とし且つ上下方向を板厚方向とする姿勢で各組の開口部52の下方にそれぞれ配置される。つまり、各永久磁石24の上方には、それぞれ一対の開口部52が配置される。各永久磁石24の前後方向は、各開口部52の前後方向の寸法よりも若干大きく設定されており、各永久磁石24の一部がそれぞれ一対の開口部52を介して上方に露出する。
【0036】
複数の永久磁石24がスクリーン印刷機30にセットされる際には、例えば移動テーブル40がメタルマスク50に対する前後方向の一方側に移動され、移動テーブル40の上面に図示しない治具を介して複数の永久磁石24がセットされる。その後、移動テーブル40がメタルマスク50の下方に移動され、メタルマスク50が複数の永久磁石24の上に重ね合わされる。これにより、各組の開口部52の下方に各永久磁石24が配置される。このように複数の永久磁石24の上にメタルマスク50を重ね合わせる工程は、本発明における「重ね工程」に相当する。
【0037】
重ね工程の後には、本発明における「供給工程」が行われる。供給工程では、例えばスクリーン印刷機30に設けられた図示しない液剤供給部からメタルマスク50の上面に液状の樹脂26L(
図5~
図7参照;
図3では図示省略)が供給される。この樹脂26Lは、前述した樹脂部26の材料であり、複数の開口部52に対する前後方向の一方側(ここでは後方側)でメタルマスク50の上面に供給される。
【0038】
供給工程の後には、本発明における「塗布工程」が行われる。塗布工程では、メタルマスク50の上面に供給された樹脂26Lが、スキージ32により複数組の開口部52内に充填されて複数の永久磁石24に塗布される。具体的には、スキージ32は、メタルマスク50の上面に供給された樹脂26Lよりも前後方向の一方側(ここでは後方側)において、上下方向駆動部38により降下されてメタルマスク50の上面に接触する。その接触状態を維持したままスキージ32が前後方向駆動部36により後方側から前方側へ向けて移動される(
図4~
図7の矢印M参照)ことにより、
図6及び
図7に示されるように樹脂26Lが各開口部52内に充填される。これにより、各永久磁石24に樹脂26Lが塗布されて、前述した樹脂部26が形成され、複数の樹脂付永久磁石22が製造される。なお、
図6において矢印Fは、開口部52内において樹脂26Lが流れる方向を示している。
【0039】
塗布工程の後には、取外し工程が行われる。取外し工程では、移動テーブル40がメタルマスク50に対する前後方向の一方側へ移動され、複数の樹脂付永久磁石22が移動テーブル40から取り外される。取外し工程の後には、本発明における「半硬化工程」が行われる。半硬化工程では、樹脂付永久磁石22の樹脂部26が加熱されて半硬化する。この加熱には、例えば図示しない電熱ヒータが用いられる。その後、第1冷却工程において、樹脂付永久磁石22が冷却される。この冷却には、例えば図示しない送風ファンが用いられる。
【0040】
その後、圧入工程において、半硬化工程後の樹脂付永久磁石22がロータコア14の磁石挿入孔20内に圧入される。この圧入工程は、ロータコア14及び樹脂付永久磁石22が常温の状態で行われる。その後、本硬化工程において、圧入工程後の樹脂付永久磁石22の樹脂部26が加熱されて本硬化する。この際には、例えば図示しない電熱ヒータを用いてロータ10ごと加熱される。その後、第2冷却工程において、ロータ10が冷却される。この冷却には、例えば図示しない送風ファンが用いられる。その後、検査工程を経てロータ10が完成する。
【0041】
なお、本実施形態では、上記の半硬化工程後に樹脂付永久磁石22が磁石挿入孔20に圧入されるが、これに限るものではない。例えば永久磁石24に塗布する樹脂26Lの粘度がある程度高い場合、樹脂付永久磁石22を製造する製造工程の後に、半硬化工程を経ずに挿入工程を行ってもよい。特に、ロータコア14の軸線が水平になるようにロータコア14を配置して上記の挿入工程を行う場合、ある程度粘度が高い樹脂26Lであれば、液だれの問題は生じない。
【0042】
また、上記のように挿入工程の後で本硬化工程を行う構成に限らず、挿入工程の前に本硬化工程を行う構成にしてもよい。すなわち、例えば上記の樹脂26Lとして、本硬化(完全硬化)させてもある程度の弾性を有する樹脂を用いる場合、樹脂付永久磁石22の製造工程後に本硬化工程を行い、その後の挿入工程で樹脂付永久磁石22を磁石挿入孔20に挿入(圧入)するようにしてもよい。この圧入により樹脂付永久磁石22をロータコア14に固定することができる。
【0043】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0044】
本実施形態によれば、準備工程では、複数組の開口部52が形成されたメタルマスク50が準備される。重ね工程では、複数組の開口部52の下方に複数の永久磁石24が位置するようにメタルマスク50が複数の永久磁石24の上に重ね合わされる。供給工程では、メタルマスク50の上面に液状の樹脂26Lが供給される。塗布工程では、メタルマスク50の上面にスキージ32が接触させられながら前方に移動されることにより、各開口部52内に樹脂26Lが充填されて複数の永久磁石24に塗布される。上記の準備工程では、各開口部52における前方側(すなわちスキージ32が通り抜ける側)の縁部に、下方側へ凹んだ段差部54が形成される。これにより、開口部52の前縁部に段差部54が形成されない場合と比較して、段差部54の端面に当たる樹脂26Lが圧縮され難くなるので、当該圧縮からの解放による樹脂26Lの盛り上がりが抑制される。その結果、永久磁石24に塗布された樹脂26Lからなる樹脂部26に凸部が形成されることを防止又は抑制でき、樹脂部26の塗膜の厚みを均等にすることができる。これにより、樹脂付永久磁石22の寸法精度を高めることができる。
【0045】
上記の効果について
図8及び
図9に示される比較例を用いて補足説明する。なお、
図8及び
図9では、本実施形態と同様の構成に同符号を付している。上記の比較例では、開口部52における前方側(すなわちスキージ32が通り抜ける側)の端面52Vが、上下方向視で前後方向(すなわちスキージ32の移動方向)に対して垂直に形成されており、開口部52の前縁部に段差部54が形成されていない。このため、スキージ32によって開口部52内に樹脂26Lが充填される際には、端面52Vに樹脂26Lが衝突して逃げ場を失い圧縮されると共に、当該圧縮から解放されることで樹脂26Lの一部が盛り上がり、凸部26P(
図9参照)が形成される。
【0046】
この点、本実施形態では、開口部52の前縁部に段差部54が形成されているため、
図6に矢印Fで示されるように、段差部54の端面に当たる樹脂26Lが急激に圧縮されなくなる。その結果、上記のような凸部26Pが形成されることを防止又は効果的に抑制可能となる。
【0047】
また、本実施形態では、上記の塗布工程の後の半硬化工程において、樹脂付永久磁石22の樹脂部26が半硬化される。圧入工程では、ロータコア14に形成された磁石挿入孔20内に、半硬化工程後の樹脂付永久磁石22が圧入される。本硬化工程では、磁石挿入孔20に圧入された樹脂付永久磁石22の樹脂部26が本硬化される。上記の圧入工程では、樹脂部26が半硬化した状態で樹脂付永久磁石22が磁石挿入孔20内に圧入されるので、樹脂の液だれや掻き取られによる樹脂の偏倚を発生させずに、永久磁石24と磁石挿入孔20の内壁面との間の必要な箇所に樹脂部26を適切に介在させることができる。その結果、ロータコア14に対して永久磁石24を適切に固定可能となる。しかも、塗布工程においては、上記必要な箇所のみに樹脂部26が介在するように、永久磁石24の一部に樹脂を塗布すればよいため、樹脂の使用量が少なくなる。
【0048】
また、本実施形態では、上記の塗布工程において、永久磁石24におけるロータ外径側の面とロータ内径側の面のうちの片面のみ(ここではロータ外径側の面のみ)に樹脂が塗布される。このため、上記両方の面に樹脂が塗布される場合と比較して、塗布工程及びその後の樹脂付永久磁石22の取り扱いが容易になる。
【0049】
また、本実施形態では、上記の塗布工程において、永久磁石24におけるロータ外径側の面のみに樹脂が塗布される。この樹脂からなる樹脂部26が永久磁石24と磁石挿入孔20の内壁面との間に適切に介在されるので、ロータ10の回転時に永久磁石24に作用する遠心力が磁石挿入孔20の内壁面に対して適切に加わり易くなる。その結果、上記の遠心力が磁石挿入孔20の内壁面の一部に集中することによるロータコア14の早期破損を防止することができる。
【0050】
上記の効果について補足すると、本実施形態では、圧入工程後、本硬化工程までの間に、半硬化状態の樹脂部26が磁石挿入孔20の内壁面に対してロータ径方向に押し当てられることにより、当該内周面の凹凸に対応して樹脂部26が変形する。これにより、磁石挿入孔20の内壁面の凹凸に樹脂部26が良好に密着する。その結果、ロータ10の回転時に永久磁石24に作用する遠心力が、磁石挿入孔20の内壁面に均一に加わるようになる。しかも、永久磁石24のロータ内径側にも樹脂部26が存在する構成と比較して、樹脂部26の量を少なくすることができるので、ロータ10の軽量化や製造コストの低減に寄与する。
【0051】
また、本実施形態では、永久磁石24に樹脂が塗布される構成であるため、例えばロータコアの磁石挿入孔の内壁面に接着剤が塗布される構成と比較して、作業性が向上し、設備が簡素になる。すなわち、接着剤を磁石挿入孔の内壁面に塗工する場合、全般に小さい孔内に塗布機材が侵入して塗布することになるため、設備が複雑で高価なものとなる。また、接着剤の塗布量の管理も難しくなる。さらに、段取り換え作業や、メンテナンス、クリーニング等に手間がかかる上、設備導入費用が大きくなることが考えられ、汎用性に乏しいという問題もあるが、本実施形態では、上記のような問題を回避することができる。また、例えば射出成形によって磁石挿入孔に樹脂を充填する構成では、その原理上樹脂の歩留まりが悪いため、経済的ではないが、本実施形態では、樹脂の使用量を減らせるため、経済的である。
【0052】
また、上記の樹脂付永久磁石22は、磁石挿入孔20内に配置された状態で磁石挿入孔20におけるロータ周方向の両端部との間に隙間28が形成される大きさに設定されている。このため、圧入工程において、樹脂付永久磁石22の端部をクランプの先端部で把持して磁石挿入孔20に圧入する場合に、クランプの先端部を上記の隙間28に挿入することが可能となる。これにより、樹脂付永久磁石22の端部を把持するクランプの構成を簡素化できる。
【0053】
また、本実施形態に係るロータ10では、永久磁石24と磁石挿入孔20の内壁面との間に介在された樹脂部26は、半硬化状態で磁石挿入孔20の内壁面に対してロータ径方向に押し当てられて変形したものであり、当該変形時の変形量が小さい。これにより、ロータコア14における磁石挿入孔20の周辺部の残留応力が10MPa以下に設定されているので、経時変化による上記周辺部の変形を抑制することができ、当該変形に伴うロータコア14の早期破損を防止することができる。
【0054】
なお、上記第1実施形態では、各開口部52が前後方向を長手とする長尺な四角形状に形成された構成にしたが、これに限るものではない。例えば
図10に示される第1変形例や
図11に示される第2変形例のように構成してもよい。第1変形例では、各開口部52の前後方向両端面が上下方向視で前後方向外側へ凸をなすV字状に形成されており、スキージの移動方向に対して傾斜した2つの平面によって構成されている。第2変形例では、各開口部52の前後方向両端面が上下方向視で前後方向外側へ凸をなして湾曲した曲面によって構成されている。これらの第1変形例及び第2変形例においても、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。また、各開口部52の端面に当たる樹脂が圧縮されることを効果的に抑制できる。
【0055】
以下の表1には、第1実施形態、第1変形例及び第2変形例において、段差部54のエッチング量E(
図5参照)を「無し」、「100μm」及び「150μm」に変更した場合に、樹脂部26の前端部(終端部)に形成される凸部26P(
図9参照)の突出量の変化が示されている。メタルマスク50の厚みは250μmである。以下の表1に示されるように、段差部54のエッチング量が「無し」の場合(すなわち段差部54が形成されない場合)に比して、段差部54が形成される場合には、凸部26Pの突出量が減少することが確認された。
【表1】
【0056】
次に、
図12~
図15を参照して本発明の第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と基本的に同様の構成及び作用については、第1実施形態と同符号を付与し、その説明を省略する。
【0057】
図12には、第2実施形態に係る樹脂付永久磁石の製造方法を実施するためのスクリーン印刷機の部分的な構成が
図5に対応した断面図にて示されている。
図13には、メタルマスク50の開口部52をスキージ32が通り抜けた直後の状態が
図12に対応した断面図にて示されている。
図14には、メタルマスク50の下から永久磁石24が回収される際の状況が
図12に対応した断面図にて示されている。
図15には、スキージ32が他方側へ移動される状況が
図12に対応した断面図にて示されている。
【0058】
この実施形態では、準備工程において、開口部52における後方側(すなわち前後方向駆動部36によるスキージ32の移動方向の他方側)の縁部にも下方側へ凹んだ段差部55が形成されたメタルマスク50が準備される。そして、
図12及び
図13に示される塗布工程の後、
図14に示されるようにメタルマスク50と永久磁石24とが相対的に離され、メタルマスク50の下から永久磁石24が回収される。その後、
図15に示されるように、メタルマスク50が別の永久磁石24の上に重ね合わされ、メタルマスク50の上面にスキージ32が接触されながら後方(他方)へ移動される(
図15の矢印N参照)。これにより、樹脂26Lが開口部52内に充填されて上記別の永久磁石24に塗布される。この際には、後方側の縁部に形成された段差部55によって樹脂26Lの盛り上がりが抑制される。なお、樹脂26Lはメタルマスク50の上面から無くなる前に適宜補充される。上記のように、スキージ32の前方側及び後方側への移動時にそれぞれ永久磁石24に樹脂26Lが塗布されるので、樹脂付永久磁石22の量産性が向上する。
【0059】
なお、上記各実施形態では、ロータ10がインナロータとされた構成にしたが、これに限らず、本発明に係るロータはアウタロータであってもよい。また、本発明に係るロータは磁石埋込型であればよく、その構成は適宜変更可能である。
【0060】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記各実施形態に限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0061】
10 ロータ
14 ロータコア
20 磁石挿入孔
22 樹脂付永久磁石
24 永久磁石
26L 樹脂
32 スキージ
50 メタルマスク
52 開口部
54、55 段差部