(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151339
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】プラネタリギヤ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20231005BHJP
F16H 1/28 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H57/04 D
F16H57/04 K
F16H1/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060912
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沖田 総
【テーマコード(参考)】
3J027
3J063
【Fターム(参考)】
3J027FA22
3J027FA23
3J027FB02
3J027GB03
3J027GC13
3J027GC22
3J027GE01
3J063AA04
3J063AB12
3J063AC01
3J063BA11
3J063BB41
3J063CA01
3J063CB06
3J063XD03
3J063XD23
3J063XD32
3J063XD43
3J063XD49
3J063XD53
3J063XD62
3J063XD72
3J063XD73
3J063XE15
3J063XE18
3J063XF14
(57)【要約】
【課題】潤滑油の供給量を低減することが可能なプラネタリギヤ装置を提供する。
【解決手段】プラネタリギヤ装置1は、ピニオンシャフト3の端面3dに開口し、ピニオンギヤPに潤滑油を導く入口部3aが形成されたキャリヤCRと、径方向油路L2から潤滑油を外径側に向けて供給し、かつ側板4を内径側から固定支持する回転軸2と、径方向油路L2から供給される潤滑油を入口部3aに導くオイルレシーバ10と、を備える。オイルレシーバ10は、回転軸2の外周面2aに支持される内径部10Bと、軸方向に弾性変形可能な外径部10Aと、を有し、外径部10Aが弾性変形し、外径部10Aの外径側の端部10Aaが、側板4の側面4aに圧着された状態で、内径部10Bが軸方向に位置決めされている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リングギヤと、
サンギヤと、
複数のピニオンギヤと、それらピニオンギヤを回転自在に支持するピニオンシャフトと、前記ピニオンシャフトの端部を固定支持する支持部と、を有し、前記支持部の側面から露出した前記ピニオンシャフトの端面に開口し、前記ピニオンギヤに潤滑油を導く第1油路が形成されたキャリヤと、
外周面に開口する第2油路から潤滑油を外径側に向けて供給し、かつ前記支持部を内径側から固定支持する回転軸と、
前記第2油路から供給される潤滑油を前記第1油路に導くオイルレシーバと、を備え、
前記オイルレシーバは、
前記回転軸の外周面に支持される内径部と、
前記内径部から外径側に延び、軸方向に弾性変形可能な外径部と、を有し、
前記外径部が弾性変形し、前記外径部の外径側の端部が、前記支持部の側面に圧着された状態で、前記内径部が前記軸方向に位置決めされている、
プラネタリギヤ装置。
【請求項2】
前記オイルレシーバの前記内径部は、その内周面が前記回転軸の外周面に圧入されることで、前記軸方向に位置決めされている、
請求項1に記載のプラネタリギヤ装置。
【請求項3】
前記オイルレシーバは、
周方向において複数箇所に設けられ、前記支持部の側面に当接することで前記内径部を前記軸方向に位置決めする複数の位置決め部と、
前記周方向において前記複数の位置決め部の間に形成されて油を内径側から外径側に導通する導通部と、を有する、
請求項1又は2に記載のプラネタリギヤ装置。
【請求項4】
固定部材に対して前記回転軸の軸方向の位置を規制すると共に、前記回転軸を回転自在に支持するスラストベアリングを備え、
前記スラストベアリングと前記位置決め部とは、前記軸方向から視て径方向に少なくとも一部が重なるように配置されている、
請求項3に記載のプラネタリギヤ装置。
【請求項5】
前記導通部は、前記第1油路と前記周方向の位相が同じになるように配置されている、
請求項3又は4に記載のプラネタリギヤ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピニオンギヤを有するキャリヤを備えたプラネタリギヤ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電気自動車用のEV駆動装置、ハイブリッド駆動装置、自動変速機等の車両用駆動装置にあっては、回転を変速するためのプラネタリギヤ装置を備えたものがある。このようなプラネタリギヤ装置においては、キャリヤの側板にピニオンシャフトを固定支持し、そのピニオンシャフトによりピニオンギヤを回転自在に支持している。このピニオンギヤは、サンギヤ或いはリングギヤにより噛合しており、ピニオンシャフトに対して相対回転されるため、特にピニオンシャフトとピニオンギヤとの間に介在するブッシュ等の軸受に潤滑油を供給する必要があり、例えばピニオンギヤの外径側から潤滑油をかけても潤滑油量が不足する虞があるため、ピニオンシャフトの内部に油路を形成して、ピニオンギヤの内径側から潤滑油を供給している。そして、このようなピニオンシャフトの油路に回転軸等から外径側に飛散される潤滑油を効率良く導入するため、キャリヤの側板に対してオイルレシーバを取付けたものが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のようなオイルレシーバは、キャリヤの側板にオイルレシーバの爪部(2b)を屈曲させて取付けているため、オイルレシーバの外径側の端部(2d)をキャリヤの側板(71)に密着させることが難しく、特に遠心力が生じると、オイルレシーバで内径側から受け入れた潤滑油がオイルレシーバの外径側の端部とキャリヤの側板との間から漏れ出てしまう。このようにオイルレシーバに導入した潤滑油の一部が、ピニオンシャフトの油路に導入されずに漏れ出ると、その分、内径側から供給する潤滑油の流量を増やしてピニオンギヤの潤滑流量を確保する必要があり、つまり潤滑流量(潤滑油の供給量)の低減を図ることができないという問題がある。なお、潤滑流量を低減できないと、例えばオイルポンプが小型化できず、コストダウンの妨げや駆動損失増大により燃費(電費)向上の妨げを招いたり、また、油路を拡径することにより各部材が肥大化してコンパクト化の妨げを招いたりするという問題が生じる。
【0005】
そこで本発明は、潤滑油の供給量を低減することが可能なプラネタリギヤ装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
リングギヤと、
サンギヤと、
複数のピニオンギヤと、それらピニオンギヤを回転自在に支持するピニオンシャフトと、前記ピニオンシャフトの端部を固定支持する支持部と、を有し、前記支持部の側面から露出した前記ピニオンシャフトの端面に開口し、前記ピニオンギヤに潤滑油を導く第1油路が形成されたキャリヤと、
外周面に開口する第2油路から潤滑油を外径側に向けて供給し、かつ前記支持部を内径側から固定支持する回転軸と、
前記第2油路から供給される潤滑油を前記第1油路に導くオイルレシーバと、を備え、
前記オイルレシーバは、
前記回転軸の外周面に支持される内径部と、
前記内径部から外径側に延び、軸方向に弾性変形可能な外径部と、を有し、
前記外径部が弾性変形し、前記外径部の外径側の端部が、前記支持部の側面に圧着された状態で、前記内径部が前記軸方向に位置決めされている、プラネタリギヤ装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、潤滑油の供給量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施の形態に係るプラネタリギヤ装置を示す断面図。
【
図2】本実施の形態に係るオイルレシーバを示す正面図。
【
図3】(a)はオイルレシーバを回転軸に圧入開始した状態を示す図、(b)はオイルレシーバの外径端部が側板に接触した状態を示す図、(c)はオイルレシーバが回転軸に位置決めされて取付けられた状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施の形態を
図1乃至
図3を用いて説明する。まず、
図1を用いてプラネタリギヤ装置1の概略構成を説明する。
図1は本実施の形態に係るプラネタリギヤ装置を示す断面図である。
【0010】
[プラネタリギヤ装置の概略構成]
本実施の形態に係るプラネタリギヤ装置1は、例えば全体の図示を省略したEV駆動装置に搭載されており、不図示の回転電機(モータ・ジェネレータ)の回転を減速して出力する機構である。
図1に示すように、プラネタリギヤ装置1は、大まかに、不図示の回転電機に駆動連結された回転軸2と、この回転軸2に固定されたキャリヤCRと、固定部材であるケース9に固定されたサンギヤSと、不図示の出力軸に駆動連結されたリングギヤRと、を備えており、キャリヤCRにサンギヤS及びリングギヤRに噛合する複数のピニオンギヤPを有する、所謂シングルピニオンプラネタリギヤで構成されている。
【0011】
詳細には、回転軸2は、その外径側にフランジ状に形成されたフランジ部2Fを有しており、外周面2aとケース9との間に介在するように配置されたニードルベアリング50により、ケース9に対して回転自在に支持されている。また、フランジ部2FとサンギヤSの軸方向の端部との間にはスラストベアリング40が介在するように配置されていると共に、詳しくは後述するオイルレシーバ10を介してフランジ部2Fとケース9との間にもスラストベアリング20が介在するように配置され、スラストベアリング20は、ケース9に対して回転軸2の軸方向の位置を規制すると共に回転軸2が回転自在となるように支持している。
【0012】
また、回転軸2の内部には、軸方向に穿孔された軸方向油路L1と、径方向に穿孔されて軸方向油路L1に連通する径方向油路L2及び径方向油路L3と、が備えられており、不図示のオイルポンプの油圧に基づき供給される潤滑油が軸方向油路L1に供給されると、径方向油路L2及び径方向油路L3を介して回転軸2の外周面2aの外径側に潤滑油を流出させるように構成されている。径方向油路L3から流出される潤滑油は、回転軸2の外径側に向けて飛散され、スラストベアリング20を潤滑する。なお、本実施の形態において、径方向油路L2は、外周面2aに開口する第2油路を構成している。
【0013】
スラストベアリング20は、中空円板状の第1ハウジング21と、同じく中空円板状の第2ハウジング22と、それらの間に介在されたローラ等を有する転動機構23と、によって構成されている。第1ハウジング21は、ケース9の支持面9aに当接して軸方向に支持されつつケース9に嵌合されて配置され、第2ハウジング22は、詳しくは後述するオイルレシーバ10に所定のクリアランスを介して当接可能に配置される。
【0014】
一方、リングギヤRは、ケース9に嵌合されたボールベアリング30によって、図示を省略した軸部分が回転自在に支持されており、上述したように出力軸に駆動連結されている。そして、このリングギヤRは、サンギヤSと共にピニオンギヤPに噛合されている。
【0015】
キャリヤCRは、大まかに、複数のピニオンギヤPと、ピニオンシャフト3と、軸方向一方側の側板4と、ブッシュ5と、ワッシャ6と、図示を省略した軸方向他方側の側板と、を備えて構成されている。このうち側板4は、中空円板状に形成され、内径側が上記フランジ部2Fに溶接等により固定支持されている。また、側板4は、図示を省略した軸方向他方側の側板との間に複数のピニオンシャフト3が掛け渡されていると共に、それら複数のピニオンシャフト3と異なる周方向の位相で複数のブリッジが掛け渡され、これによってピニオンギヤPを支持する枠体を構成している。なお、本実施の形態においては、回転軸2のフランジ部2Fと側板4とにより、ピニオンシャフト3の端部を固定支持する支持部を構成しているが、例えば回転軸2にフランジ部2Fが形成されてなく、側板4を回転軸2の外周面2aに溶接等で固着し、側板4の全体を支持部として構成するようにしてもよい。
【0016】
側板4は、その側面4aから貫通形成された支持孔4bを有しており、その支持孔4bに円柱状のピニオンシャフト3の軸方向一方側の端部3Aが嵌合されて固定支持されており、側板4とピニオンシャフト3とが一体的に固定されている。このピニオンシャフト3の軸方向一方側の端面3dは、側板4の側面4aと同一平面となるように配置されている。ピニオンシャフト3の外径側にはブッシュ5が配置され、そのブッシュ5の外径側にピニオンギヤPが回転自在に支持されている。また、ピニオンシャフト3の外径側にあって、ピニオンギヤPと側板4との軸方向の間には、ワッシャ6が介在するように配置されている。
【0017】
ピニオンシャフト3には、軸方向一方側の端面3dに凹状に形成された入口部3aと、その入口部3aの底部分から軸方向に穿設された軸方向油路3bと、径方向に穿孔されて軸方向油路3bに連通する径方向油路3cと、が備えられており、入口部3aから導入された潤滑油は、軸方向油路3b及び径方向油路3cを介してピニオンシャフト3の外径側にあるブッシュ5の内径側に流出され、これによりブッシュ5及びピニオンギヤPが潤滑される。なお、ピニオンギヤPを潤滑した潤滑油は、該ピニオンギヤPとサンギヤSとの噛合部分、該ピニオンギヤPとリングギヤRとの噛合部分等にも供給されて、これらの歯面を潤滑する。また、本実施の形態において、入口部3a、軸方向油路3b、径方向油路3cは、ピニオンギヤPに潤滑油を導く第1油路を構成している。
【0018】
[オイルレシーバの詳細]
続いて、本実施の形態に係るオイルレシーバ10について
図1及び
図2を用いて説明する。
図2は本実施の形態に係るオイルレシーバを示す正面図である。
【0019】
図1及び
図2に示すように、本実施の形態に係るオイルレシーバ10は、軸方向に傾斜した中空円板状(皿ばね形状)の金属製(鉄製)でプレス加工により形成されている。オイルレシーバ10は、大まかに、内径側に配置される内径部10Bと、それよりも外径側に一体的に配置されている外径部10Aと、を有している。また、内径部10Bには、周方向において複数箇所に設けられ(本実施の形態では3箇所(
図2参照))、軸方向のキャリヤCRの側(軸方向他方側)に凹むように屈曲形成された位置決め部10Cと、周方向において、それら位置決め部10Cの間に形成された導通部10Dと、が備えられている。
【0020】
詳細には、外径部10Aは、内径部10Bから一体的に外径側にかつ軸方向他方側でキャリヤCRが配置される側に傾斜して延びるように配置されており、その付け根部分が内径部10Bに対して軸方向に弾性変形可能となっている。また、外径部10Aの外径側の端部10Aaは、軸方向に直交する面(仮想面)と略平行となるように形成されて、詳しくは後述するように側板4の側面4aに密着し易くなるように構成されている。
【0021】
なお、本実施の形態において、内径部10Bと外径部10Aとの境界は、位置決め部10Cの外径側の端部付近であり、主に、位置決め部10Cの外径側の端部に繋がる外径部10Aの付け根部分(即ち境界部分)が弾性変形するが、外径部10Aも全体に亘って弾性変形可能となっている。一方の内径部10Bは、位置決め部10Cが軸方向他方側に向けて凹状に屈曲形成されていることで、外径部10Aよりも剛性が高く、相対的に弾性変形し難くなるように構成されている。
【0022】
内径部10Bは、内径側において、円筒状に屈曲形成された円筒部10Baを有しており、その円筒部10Baの内周面10Bbは、上記回転軸2の外周面2aの径よりも僅かに小径に形成されていて、該外周面2aに圧入されるように構成されている。また、円筒部10Baは、所定のクリアランスを有して、上記スラストベアリング20の第2ハウジング22の内径側に対向配置される。また、内径部10Bは、円筒部10Baよりも外径側において、軸方向に直交する面(仮想面)と略平行となるように平面状に形成された平面部10Bcを有しており、この平面部10Bcも、所定のクリアランスを有して、上記スラストベアリング20の第2ハウジング22の軸方向他方側に対向配置される。
【0023】
また、内径部10Bに配置される複数の位置決め部10Cのそれぞれは、
図2に示すように、軸方向から視て周方向に円弧状となるように複数箇所に配置されており、
図1に示すように、軸方向他方側(キャリヤCRが配置される側)に向けて凹状に凹むように形成されている。位置決め部10Cの凹状の底部分は、軸方向に直交する面(仮想面)と略平行となるように平面状に形成された平面部10Caとして形成されており、位置決め部10Cの凹状における内径側の部分は、円筒状の一部を形成する形状で軸方向に延びる軸方向壁部10Cbとして形成されており、位置決め部10Cの凹状における周方向の端部分は(
図2参照)、内外径方向に延び、径方向視で略直角三角形の形状(
図1参照)で平面状となる周方向壁部10Ccとして形成されている。このうちの平面部10Caが、回転軸2のフランジ部2Fの側面2Faに当接することで、回転軸2及びキャリヤCRに対するオイルレシーバ10の軸方向の位置を位置決めする。また、位置決め部10Cは、詳しくは後述するように軸方向から視て径方向にスラストベアリング20と少なくとも一部が重なるように配置されており、特に軸方向壁部10Cbは、軸方向から視て径方向にスラストベアリング20と重なる位置となるように配置されている。
【0024】
そして、上記複数の位置決め部10Cの周方向における間に形成される導通部10Dは、上記内径部10Bの平面部10Bcと上記外径部10Aとを繋ぐように傾斜した傾斜面で構成された斜面部10Daと、上記2つの位置決め部10Cのそれぞれの周方向壁部10Ccと、によって区画された形状で、複数の位置決め部10Cの間で潤滑油を導通する形状となるように構成されている。また、この導通部10Dは、
図2に示すように、上記ピニオンシャフト3の入口部3a及び軸方向油路3bと、周方向の同位相に配置可能となるように周方向の同じ間隔で配置されている。
【0025】
[オイルレシーバの組付け時]
ついで、本実施の形態に係るオイルレシーバ10を回転軸2及びキャリヤCRに対して組付ける際について、
図3を用いて説明する。
図3(a)はオイルレシーバを回転軸に圧入開始した状態を示す図、
図3(b)はオイルレシーバの外径端部が側板に接触した状態を示す図、
図3(c)はオイルレシーバが回転軸に位置決めされて取付けられた状態を示す図である。
【0026】
図3(a)に示すように、プラネタリギヤ装置1において、オイルレシーバ10を組付ける際は、まず、内径部10Bの円筒部10Baが回転軸2の外周面2aに圧入されつつ、軸方向他方側(キャリヤCRの側)に移動されていく。この際、オイルレシーバ10の周方向の位相は、上記導通部10Dがピニオンシャフト3(入口部3a及び軸方向油路3b)と同位相となるように(
図2参照)圧入されていく。
【0027】
続いて、
図3(b)に示すように、外径部10Aの端部10AaがキャリヤCRの側板4の側面4aに当接し、さらに内径部10Bが軸方向他方側に移動されると、主に外径部10Aの付け根部分が弾性変形しつつ、位置決め部10Cが回転軸2のフランジ部2Fに向かって移動する。
【0028】
そして、
図3(c)に示すように、位置決め部10Cの平面部10Caがフランジ部2Fの側面2Faに当接した状態で、円筒部10Baの圧入が停止され、内径部10Bが回転軸2に対して位置決めされる。これにより、外径部10Aの弾性変形による付勢力で、外径部10Aの端部10AaがキャリヤCRの側板4の側面4aに圧着された状態で、オイルレシーバ10が回転軸2に組付けられる。
【0029】
なお、円筒部10Baと回転軸2の外周面2aとの圧入による摩擦力は、外径部10Aの弾性変形による付勢力よりも大きくなるように設定されており、かつ車両の振動等でもオイルレシーバ10が回転軸2の上でずれることがないような大きさに設定されている。
【0030】
[潤滑油の供給]
以上のように組付けられたオイルレシーバ10は、
図1及び
図2に示すように、回転軸2の外周面2aと位置決め部10Cの軸方向壁部10Cbとの間の部分に油路L4を形成し、また、導通部10Dにより油路L4に連通する油路L5を形成し、さらに、位置決め部10Cの平面部10Ca及び外径部10Aと、フランジ部2Fの側面2Fa、側板4の側面4a、及びピニオンシャフト3の端面3dと、により囲まれた部分により油路L6を形成している。
【0031】
不図示のオイルポンプ等から潤滑油が回転軸2の軸方向油路L1に供給されると、その潤滑油は、径方向油路L2からオイルレシーバ10により形成された油路L4に供給され、油路L5を通って油路L6に導かれ、ピニオンシャフト3の入口部3aに導入される。そして、ピニオンシャフト3の入口部3aに導入された潤滑油は、ピニオンシャフト3の軸方向油路3bから径方向油路3cを通ってブッシュ5やピニオンギヤPに供給される。なお、オイルレシーバ10は、円筒部10Baが回転軸2に圧入され、かつ外径部10Aの端部10Aaが側板4の側面4aに圧着されるため、回転軸2及びキャリヤCRとの間で密閉空間を形成しており、潤滑油が径方向油路L2から供給されると、油路L4からピニオンシャフト3の径方向油路3cまでの間の油路は、空気が入らない油密状となる。
【0032】
[スラスト力の受圧]
ところで、プラネタリギヤ装置1においては、噛合い音の低減等を目的として、サンギヤS、ピニオンギヤP、リングギヤRの各ギヤの歯面がヘリカルギヤで形成されている。このため、例えば回転軸2の回転をキャリヤCRからリングギヤRに伝達する場合等、キャリヤCRから回転軸2に生じるスラスト力でオイルレシーバ10がスラストベアリング20に押付けられることがある。このとき、位置決め部10Cの平面部10Caが、ある程度の受圧面積でフランジ部2Fと当接するので、軸方向壁部10Cbを介してスラスト力を受圧して、スラスト力でオイルレシーバ10が軸方向に変形することを防止しつつ、キャリヤCR及び回転軸2の軸方向の移動もスラストベアリング20によって受圧させることで防止することができる。なお、本実施の形態のように位置決め部10C(好ましくは軸方向壁部10Cb)とスラストベアリング20とが軸方向から視て径方向に重なる位置にあるため、オイルレシーバ10の姿勢を乱すことなく、フランジ部2Fから受けるスラスト力をスラストベアリング20に伝える構造を可能としている。このように、本実施の形態に係るオイルレシーバ10は、所謂スラストワッシャのような機能も果たしている。
【0033】
[本実施の形態のまとめ]
以上説明したように本実施の形態においては、オイルレシーバ10が、円筒部10Baが回転軸2の圧入されているため、油路L4から円筒部10Baと回転軸2との間から潤滑油が漏れ出ることが殆どなく、また、外径部10Aの端部10Aaが側板4の側面4aに弾性変形の付勢力で圧着されているため、油路L6から外径側に殆ど漏れることはなく、径方向油路L2から供給される潤滑油はそのままピニオンシャフト3の外径側まで導かれて飛散される。従って、回転軸2の軸方向油路L1に供給する潤滑油の供給量を低減することができる。これにより、不図示のオイルポンプの小型化やコストダウンを図ることができ、燃費(電費)の向上も図ることができる。さらに、回転軸2に形成する軸方向油路L1や径方向油路L2なども拡径することが不要となり、回転軸2の肥大化を防止し、プラネタリギヤ装置1のコンパクト化を図ることができる。
【0034】
[別の実施の形態の可能性]
なお、以上説明した本実施の形態においては、内径部10Bが回転軸2に圧入されるものを説明したが、これに限らず、例えば内径部10Bの円筒部10Baをスナップリングで位置決めしたり、スラストベアリング20を組付け状態で当接させて位置決めしたりすることも考えられ、つまり内径部10Bの軸方向の位置決めは、圧入するものだけに限らず、どのようなものでもよい。また、内径部10Bの円筒部10Baを回転軸2の外周面2aに対して圧入しない場合は、潤滑油が漏れ出ないように、それらの間にOリング等のシール部材を配置することが考えられる。
【0035】
また、本実施の形態においては、組付け時に位置決め部10Cの平面部10Caをフランジ部2Fに突き当てることで内径部10Bの軸方向の位置を位置決めするものを説明したが、これに限らず、例えば回転軸2に段差を設けて円筒部10Baを突き当てる等、どのような位置決め構造を用いても構わない。
【0036】
また、本実施の形態においては、導通部10Dがピニオンシャフト3の入口部3aないし軸方向油路3bと周方向において同位相となるように配置されたものを説明したが、特に油路L6も油密状となるため、これらの位相がズレていても構わない。勿論、これらが同位相であれば、潤滑油が油路L6から抜けていた後の回転開始時においてピニオンギヤPに対する潤滑油の供給が早くなる。
【0037】
また、本実施の形態においては、オイルレシーバ10の外径部10Aの付け根部が弾性変形するものと説明したが、これに限らず、外径部10Aの全体、或いはオイルレシーバ10の全体が弾性変形するものでもよく、つまり外径部10Aの端部10Aaが側板4に付勢されば、どのように弾性変形するものであっても構わない。
【0038】
また、本実施の形態においては、外径部10Aの端部10Aaが側板4の側面4aに対して圧着されるものを説明したが、側面4aと同時にピニオンシャフト3の端面3dに対して圧着されるものであっても構わない。
【0039】
また、本実施の形態においては、プラネタリギヤ装置1が例えばEV駆動装置等に用いられるものについて説明したが、これに限らず、ハイブリッド駆動装置、自動変速機等、どのような車両用駆動装置に用いても構わない。
【符号の説明】
【0040】
1…プラネタリギヤ装置/2…回転軸/2F…支持部(フランジ部)/2a…外周面/3…ピニオンシャフト/3A…端部/3a…第1油路(入口部)/3b…第1油路(軸方向油路)/3c…第1油路(径方向油路)/3d…端面/4…支持部(側板)/4a…側面/9…固定部材(ケース)/10…オイルレシーバ/10A…外径部/10B…内径部/10Bb…内周面/10C…位置決め部/10D…導通部/20…スラストベアリング/CR…キャリヤ/L2…第2油路(径方向油路)/P…ピニオンギヤ/R…リングギヤ/S…サンギヤ