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特開2023-151359空調システムの運転方法および空調システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151359
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】空調システムの運転方法および空調システム
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/64 20180101AFI20231005BHJP
   F24F 11/70 20180101ALI20231005BHJP
   F24F 3/044 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
F24F11/64
F24F11/70
F24F3/044
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060936
(22)【出願日】2022-03-31
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】弁理士法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 倫明
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 隆広
【テーマコード(参考)】
3L053
3L260
【Fターム(参考)】
3L053BB03
3L053BB05
3L260AB01
3L260AB06
3L260BA41
3L260CB36
3L260FB01
(57)【要約】
【課題】二次側の各機器の運転条件を効率的に計算し、これに基づいて各機器の運転を最適化し、省エネルギーを図り得る空調システムの運転方法および空調システムを提供する。
【解決手段】空調機10の上流側における冷水の温度である二次側送水温度の設定値として複数の分散値を設定し、同一性能の代表空調機10'が複数台設置されていると仮想して構成されたシステムモデル34により、二次側送水温度の設定値が前記各分散値である場合における空調システムの各構成機器の動力をそれぞれ計算し、動力の合計が少なくなる二次側送水温度の設定値の分散値を特定し、二次側送水温度が特定された分散値となるよう、一次側の機器を運転する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次側の機器として熱源機を、二次側の機器として複数の空調機を少なくとも備え、前記熱源機と前記空調機の間を冷水が循環するよう構成された空調システムの運転方法であって、
前記空調機の上流側における冷水の温度である二次側送水温度の設定値として複数の分散値を設定し、
同一性能の代表空調機が複数台設置されていると仮想して構成されたシステムモデルにより、二次側送水温度の設定値が前記各分散値である場合における空調システムの各構成機器の動力をそれぞれ計算し、
動力の合計が少なくなる二次側送水温度の設定値の分散値を特定し、
二次側送水温度が特定された分散値となるよう、一次側の機器を運転すること
を特徴とする空調システムの運転方法。
【請求項2】
二次負荷熱量またはこれに関わる値に関し、数値幅に基準値を含むよう複数の分散値を設定し、
前記二次負荷熱量またはこれに関わる値が前記各分散値である場合における空調システムの各構成機器の運転条件をそれぞれ計算し、
運転可能な計算結果が複数ある場合には、二次負荷熱量またはこれに関わる値の分散値が前記基準値に最も近い運転条件から、動力の合計が少なくなる二次側送水温度の設定値の分散値を特定し、
二次側送水温度が特定された分散値となるよう、一次側の機器を運転すること
を特徴とする請求項1に記載の空調システムの運転方法。
【請求項3】
分散値を設定する前記二次負荷熱量に関わる値は、外気負荷割合または室内負荷割合の少なくともいずれか一方のみを分散振り分けとし、もう一方は100%のまま扱うこと
を特徴とする請求項2に記載の空調システムの運転方法。
【請求項4】
分散値を設定する前記二次負荷熱量に関わる値は、外気と還気とを混合して冷水コイルに導入するのに顕熱比で規定したのち対象室の設定温度まで熱処理をする顕熱負荷を基とし、該顕熱負荷から代表空調機風量を算出し、所定の冷水コイル性能から二次側還り冷水温度と必要流量を算出して求めること
を特徴とする請求項2または3に記載の空調システムの運転方法。
【請求項5】
分散値を設定する前記二次負荷熱量に関わる値は、その時々の代表空調機の運転台数から冷水二次流量を算出して求めること
を特徴とする請求項2~4のいずれか一項に記載の空調システムの運転方法。
【請求項6】
二次側送水温度が特定された分散値となるよう、顕熱負荷から算出した代表空調機風量と所定の冷水コイル性能から求めた、二次側還り冷水温度と必要流量を用いて、熱源一次側としての冷凍機負荷率を算出し、冷凍機運転台数は実際に運転している台数の信号をもらって計算することを特徴とする請求項2~4のいずれか一項に記載の空調システムの運転方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の空調システムの運転方法を特徴とする空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調システムを省エネルギーで運転するための方法、およびこれを適用した空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
空調の分野において、省エネルギー化は言うまでもなく重要な課題のひとつである。省エネルギーを実現するための具体的なアプローチは多岐に渡るが、特に近年では、空調システムを構成する各機器の運転条件を最適化することでシステム全体でのエネルギー消費を抑える技術が種々提案され、実施されている。例えば、下記特許文献1には、熱源機における冷水の流入温度と流出温度および流量に基づいて空調負荷を算出すると共に、これと空調の運転条件(外気取込風量や給気温度など)や外気条件から空調機器を最適制御するための状態量を推定し、この状態量に一致するように熱源機側の冷却塔ファンと冷却水ポンプおよび冷水ポンプと圧縮機を制御する技術が記載されている。また、下記特許文献2には、空調の運転中、外気湿球温度、熱源機の生成熱量および冷水出口温度の計測値を監視し、これに基づき、各熱源ユニットでの消費エネルギーの合計値が最小となるよう、各熱源ユニットにおける冷水流量と冷水出口温度の制御目標値を求める最適化計算をリアルタイムで実行して各熱源ユニットにおける冷却水ポンプの冷却水流量と冷却塔ファンの風量の制御目標値を求める技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-256258号公報
【特許文献2】特開2017-101862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1,2に記載されているような技術では、各機器の運転条件を計算するのは基本的に熱の供給側(一次側)に留まり、熱を消費する二次側は熱源である熱の供給側からすると全体負荷として扱われており、熱を消費する二次側の機器の運転条件までをも考慮に入れて運転を最適化するには至っていない。一般に、空調システムにおいては二次側の構成が一次側と比べて複雑であるためである。無論、たとえ構成が複雑であっても、二次側の運転条件を計算することも原理的には可能である。しかしながら、そのような計算は一次側を計算することと比べると負荷が膨大となるため、実用ベースでは実現してこなかった。そして、仮に二次側まで含めたシステムの運転条件の計算を実用上無理のない計算負荷で実行することができ、これに基づいてシステム全体の運転条件を最適化できれば、従来よりいっそうの省エネルギー化を図ることができる。
【0005】
本発明は、斯かる実情に鑑み、二次側の各機器の運転条件を効率的に計算し、これに基づいて各機器の運転を最適化し、省エネルギーを図り得る空調システムの運転方法、およびこれを適用した空調システムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明は、一次側の機器として熱源機を、二次側の機器として複数の空調機を少なくとも備え、前記熱源機と前記空調機の間を冷水が循環するよう構成された空調システムの運転方法であって、前記空調機の上流側における冷水の温度である二次側送水温度の設定値として複数の分散値を設定し、同一性能の代表空調機が複数台設置されていると仮想して構成されたシステムモデルにより、二次側送水温度の設定値が前記各分散値である場合における空調システムの各構成機器の動力をそれぞれ計算し、動力の合計が少なくなる二次側送水温度の設定値の分散値を特定し、二次側送水温度が特定された分散値となるよう、一次側の機器を運転することを特徴とする空調システムの運転方法にかかるものである。
【0007】
本願発明の空調システムの運転方法においては、二次負荷熱量またはこれに関わる値に関し、数値幅に基準値を含むよう複数の分散値を設定し、前記二次負荷熱量またはこれに関わる値が前記各分散値である場合における空調システムの各構成機器の運転条件をそれぞれ計算し、運転可能な計算結果が複数ある場合には、二次負荷熱量またはこれに関わる値の分散値が前記基準値に最も近い運転条件から、動力の合計が少なくなる二次側送水温度の設定値の分散値を特定し、二次側送水温度が特定された分散値となるよう、一次側の機器を運転することができる。
【0008】
本願発明の空調システムの運転方法において、分散値を設定する前記二次負荷熱量に関わる値は、外気負荷割合または室内負荷割合の少なくともいずれか一方のみを分散振り分けとし、もう一方は100%のまま扱うことができる。
【0009】
本願発明の空調システムの運転方法において、分散値を設定する前記二次負荷熱量に関わる値は、外気と還気とを混合して冷水コイルに導入するのに顕熱比で規定したのち対象室の設定温度まで熱処理をする顕熱負荷を基とし、該顕熱負荷から代表空調機風量を算出し、所定の冷水コイル性能から二次側還り冷水温度と必要流量を算出して求めることができる。
【0010】
本願発明の空調システムの運転方法において、分散値を設定する前記二次負荷熱量に関わる値は、その時々の代表空調機の運転台数から冷水二次流量を算出して求めることができる。
【0011】
本願発明の空調システムの運転方法において、二次側送水温度が特定された分散値となるよう、顕熱負荷から算出した代表空調機風量と所定の冷水コイル性能から求めた、二次側還り冷水温度と必要流量を用いて、熱源一次側としての冷凍機負荷率を算出し、冷凍機運転台数は実際に運転している台数の信号をもらって計算することができる。
【0012】
また、本発明は、上述の空調システムの運転方法を実行可能に構成されたことを特徴とする空調システムにかかるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の空調システムの運転方法および空調システムによれば、二次側の各機器の運転条件を効率的に計算し、これに基づいて各機器の運転を最適化し、省エネルギーを図るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の適用対象である空調システムのシステム構成の一例を示すブロック図である。
図2】本発明の実施による空調システムの運転方法における二次側の運転条件に関する考え方を概念的に示すブロック図である。
図3】本発明の適用対象である空調システムにおけるシステムモデルの構成の一例を示すブロック図である。
図4】本発明の実施による空調システムの運転方法における計算手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0016】
図1は本発明の適用対象である空調システムのシステム構成の一例を示している。システムの一次側(熱の供給側)には、熱源機として複数の冷凍機1が設置され、各冷凍機1にはそれぞれ複数の冷却塔2が冷却水循環路3を介して接続されている。冷却水循環路3の途中には冷却水ポンプ4が設置されており、該冷却水ポンプ4の稼働により、冷凍機1と冷却塔2との間で冷却水が循環するようになっている。冷却水ポンプ4は、インバータ制御式のモータを備えており、回転数を必要に応じて変更し、冷却水の流量を調整できるようになっている(後述する一次冷水ポンプ8や二次冷水ポンプ22も同様である)。
【0017】
各冷凍機1には、さらに一次冷水流路5が接続されており、各冷凍機1は、冷却水循環路3を流れる冷却水の大気との熱交換による高い温度場の冷熱により、一次冷水流路5を流通する冷水を、蒸気圧縮冷凍サイクルならば冷媒の相変化により、吸収冷凍サイクルならば冷媒である水の低圧蒸気の吸収液への吸収により冷却するようになっている。一次冷水流路5は、一次還りヘッダ6から一次往きヘッダ7へ複数が伸び、それらの途中に各々冷凍機1が設置されている。一次冷水流路5における冷凍機1の上流側の位置には、各々インバータ制御式の一次冷水ポンプ8が設置され、該一次冷水ポンプ8の稼働により、一次還りヘッダ6から冷凍機1を通り一次往きヘッダ7へ至る冷水の流れが駆動されるようになっている。また、一次還りヘッダ6と一次往きヘッダ7の間はバイパス流路9で接続され、一次側(一次冷水流路5)における冷水の流量と、後述する二次側(二次冷水流路16)における冷水の流量が異なる場合に一次還りヘッダ6と一次往きヘッダ7の間で冷水を流通させ、ヘッダ間の差圧を調整するようになっている。
【0018】
システムの二次側(熱の消費側)には、対象空間Sに空調空気を供給する複数の空調機10が設置されている。各空調機10は、内部を冷水が流通し、表面を通過する空気との間で熱交換を行う冷水コイル10aと、該冷水コイル10aにて冷水と熱交換し冷熱を受け取った空気を空調空気として送り出すインバータ制御式の給気ファン10bを備えている。空調機10における空気の出側は、給気ダクト11を介して対象空間Sの給気口12に接続され、ここから対象空間Sに空調空気が供給されるようになっている。給気ダクト11における給気口12の手前の位置にはダンパ13が設けられ、該ダンパ13の開度を変更することにより、給気口12からの空調空気の吹出量が適宜調整されるようになっている。
【0019】
また、対象空間Sの適宜位置には、室内空気を取り込む還気口14が設けられており、該還気口14は、空調機10における空気の入側に還気ダクト15を介して接続されている。還気ダクト15の途中にはインバータ制御式の還気ファン15aが設けられており、該還気ファン15aの稼働により、対象空間Sの室内空気の一部が還気口14から還気として取り込まれ、還気ダクト15を通じて空調機10に戻されるようになっている。空調機10に戻された還気は、空調機10にて再び温度を調整され、給気として送り出される。ここで後述するが、空調機10は還気ダクト15の途中には外気を導入する図示しない外気ダクトとの合流点以降は混合還気として空調機10に入り、例えば給気の20%の風量を外気として還気に混合するとする、外気給気比であるOA比を固定することも考えられる。
【0020】
空調機10内の冷水コイル10aには二次冷水流路16が接続され、該二次冷水流路16を通じて冷水が冷水コイル10a内に供給されるようになっている。二次冷水流路16は、二次往きヘッダ17から伸びて冷水コイル10aの入側に接続され、また、冷水コイル10aの出側から伸びて二次還りヘッダ18に接続されている。二次往きヘッダ17は、複数の連通路20を介して一次往きヘッダ7と接続され、二次還りヘッダ18は、連通路19を介して一次還りヘッダ6と接続されている。一次往きヘッダ7と二次往きヘッダ17を繋ぐ複数の連通路20のうち、1本の連通路20の途中にはミニマムフロー弁21が設けられ、残りの連通路20の途中にはそれぞれインバータ制御式の二次冷水ポンプ22が設けられている。二次冷水ポンプ22は、一次往きヘッダ7から二次往きヘッダ17へ冷水を送り出し、二次往きヘッダ17から空調機10の冷水コイル10aを通り二次還りヘッダ18へ至る冷水の流れを駆動する。尚、ミニマムフロー弁21は、一次往きヘッダ7から二次往きヘッダ18への冷水供給の要求量が少ない場合等に適宜開弁され、二次冷水ポンプ22が最小流量未満で運転せずとも一次往きヘッダ7から二次往きヘッダ18への要求流量が達成されるよう調整するようになっている。また、二次冷水流路16における冷水コイル10aの下流側の位置には流量調整弁23が設置され、該流量調整弁23の開度により、二次冷水流路16を流通する冷水の量が調整されるようになっている。
【0021】
こうして、図1に示す空調システムでは、一次冷水流路5と二次冷水流路16、および各ヘッダ6,7,17,18と連通路19,20で構成される環状の冷水流路に、一次冷水ポンプ8と二次冷水ポンプ22の働きによって冷水を循環させつつ、一次側では冷凍機1と冷却塔2の間で冷却水を循環させて冷凍機1にて冷水を冷却し、二次側では空調機10と対象空間Sの間で空気を循環させて空気を冷却して対象空間Sに供給するようになっている。
【0022】
また、空調システムの各所には、冷却水や冷水、空気の温度を測定する温度センサや、これらの流量を測定する流量計が適宜設置されており、上記の如き空調システムの運転は、これらセンサ類の測定値をも適宜参照しながら実行される。ここに示した例の場合、冷却水循環路3における各冷却塔2の入側および出側の位置にそれぞれ冷却水の温度を測定する温度センサ24が設けられ、一次冷水流路5における各冷凍機1の出側の位置に冷水の温度を測定する温度センサ25が設けられている。また、二次往きヘッダ17、および二次還りヘッダ18と一次還りヘッダ6の間の連通路19にも、冷水の温度を測定する温度センサ25が設けられている。また、給気ダクト11におけるダンパ13の上流側の位置には、給気の温度を測定する温度センサ26が設けられている。
【0023】
還気ダクト15の途中には、外気を取り込むための外気ダクト(図示せず)が接続され、ここに外気条件を測定する外気センサ35が備えられている。外気センサ35は、例えば温湿度計であり、温度や湿度といった外気の状態を測定する。
【0024】
また、一次冷水流路5における各冷凍機1の上流側の位置や、二次還りヘッダ18と一次還りヘッダ6の間の連通路19の途中には流量計27が設けられており、これらの位置における冷水の流量を測定するようになっている。
【0025】
各機器類や各センサ類の相互間は、通信ネットワーク28により情報的に適宜接続されている。通信ネットワーク28には、例えばデータ収集サーバ29、ゲートウェイ機30、中央監視装置31といった情報機器が接続される。
【0026】
データ収集サーバ29は、各機器の運転状況や各センサ類の測定値など、空調システムの運転に関わる各種のデータを収集する部分であり、冷凍機1や冷却塔2、冷却水ポンプ4、一次冷水ポンプ8、二次冷水ポンプ22、ミニマムフロー弁21、流量調整弁23、といった各機器のコントローラ(図示せず)から稼働状況に関する各種の値がここに入力されるほか、温度センサ24,25,26や流量計27、外気センサ35の測定値も入力され、格納される。
【0027】
中央監視装置31は、空調システム全体の運転を監視し、制御する装置であり、各機器のコントローラや各センサ類から入力されるデータや、データ収集サーバ29に格納されたデータを適宜参照し、各機器に対し運転に関する指令を入力するようになっている。
【0028】
ゲートウェイ機30は、通信ネットワーク28を外部ネットワーク(例えば、インターネット)32に接続する。インターネット32には、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置である最適化演算部33が接続されている。この最適化演算部33は、空調システム全体を情報モデル化したシステムモデル34を内蔵しており、データ収集サーバ29や中央監視装置31から外部ネットワーク32を通じて取得した各種の条件に基づき、後述する方法によりシステム各部の運転条件を計算し、各機器で消費される動力の合計が少なくなるような二次側送水温度(二次冷水流路16における空調機10の上流側の冷水の温度)の設定値を特定する。中央監視装置31では、二次側送水温度がその値となるよう、各機器をリアルタイムで制御する。
【0029】
冷凍機1を主とする熱源のコントローラ(図示せず)では、中央監視装置31からネットワーク経由で入力される指令信号や、冷凍機1の凝縮器や蒸発器などに接続される配管における冷却水や冷水の流量や温度といった情報に基づき、冷却水ポンプ4や一次冷水ポンプ8の回転数、冷凍機機側盤を介して冷凍機1内の圧縮機の回転数、ベーン開度といった各部の運転を制御する。また、各冷却塔2のコントローラ(図示せず)では、中央監視装置31から入力される指令信号や、外気の温度や湿度、冷却水循環路3に設けられた温度センサ24の測定値といった情報に基づき、冷却塔2に設けられている冷却塔ファンのモータの回転数を制御する。
【0030】
空調機10のコントローラ(図示せず)では、中央監視装置31から入力される指令信号や、対象空間S内の操作パネルに入力される設定温度、給気ダクト11に設けられた温度センサ26といった情報に基づき、流量調整弁23の開度や、給気ファン10b、還気ファン15aの回転速度を制御する。また、二次冷水ポンプ22のコントローラ(図示せず)では、中央監視装置31から入力される指令信号や、冷水の流路の各部に設けられた温度センサ25や流量計27の測定値といった情報に基づき、二次冷水ポンプ22の運転台数や各々の回転数、ミニマムフロー弁21の開度を制御する。
【0031】
尚、熱源機(冷凍機)1、冷却塔2、空調機10、一次冷水ポンプ8の二次冷水ポンプ22といった各機器の設置台数や設置位置、冷凍機1あたりの冷却塔2の設置台数、対象空間Sに対する空調機10やダンパ13の設置台数、温度センサ24,25,26や流量計27といったセンサ類の設置台数や設置位置、冷却水循環路3、一次冷水流路5および二次冷水流路16、給気ダクト11や還気ダクト15の構成等に関し、ここでは簡略化した一例を図示しているが、ここに示した構成はあくまで一例であり、図面は模式図である。これらの機器やセンサ、配管等の具体的な数や構成については、実際の空調システムの態様に応じ、ここに図示した構成からは適宜変更し得る。データ収集サーバ29や中央監視装置31、最適化演算部33、システムモデル34といった制御や情報管理に関わる部分の構成についても同様である。また、本願発明の趣旨と直接関係しない部分や、特に図示が必要と思われない部分に関しては、ここでは適宜図示を省略している(例えば、前述した外気ダクトや、取り込んだ外気の調和を行う外調機、また、ここに図示していない各部に取付けられたセンサや開閉弁、流量調整弁など)。
【0032】
本実施例の空調システムでは、最適化演算部33において二次側まで含めた各機器の運転条件を計算し、これに基づいてシステム全体としてなるべく省エネルギーとなるような二次側送水温度を特定し、その二次側送水温度による運転を行うようになっている。このような最適化に係る考え方や計算の手順について、以下に説明する。尚、本明細書において「機器」「構成機器」と言う場合、熱源機(冷凍機)1、冷却塔2、冷却水ポンプ4、空調機10、ダンパ13、還気口15a、ミニマムフロー弁21、二次冷水ポンプ22、温度センサ24,25,26、流量計27や外気センサ35、データ収集サーバ29、といった機器、また、ここに挙げない(あるいは図示しない)空調システムを構成する機器類の少なくとも一部を指す。特に、「二次側送水温度の設定値に基づいて機器(システムの構成機器)を運転する」等と言う場合、運転の対象である機器は熱源機(冷凍機)1、冷却塔2の少なくとも一方を含み、また、必要に応じてその他の機器も含む。
【0033】
本実施例では、特に実際の構成が複雑になりがちであり、運転条件に関する計算を行った場合に計算負荷が膨大化しがちな二次側に関して単純化を施したモデル(システムモデル34)を利用することで、計算量を実用上可能な程度に抑えつつ、二次側の運転条件も加味したシステム全体の最適化を実現している。
【0034】
実際の空調システムにおいては、複数の空調機10(図1参照)が設置される場合、それらの種類や性能は、担当する対象空間Sの広さや熱負荷の状況に応じて異なる場合が多い。また、配管やダクト(二次冷水流路16や給気ダクト11、還気ダクト15)の構成や、対象空間Sの熱的な状況も、場所によって異なる。空調機10をはじめとする二次側の各機器の運転条件を正確にシミュレーションしようとした場合、こうした複雑な状況を各空調機10毎に個別に設定し、計算する必要があるため、計算負荷が膨大となるのである。
【0035】
そこで本実施例では、図2に概念的に示す如く、二次側に複数台備えられた空調機10を、それぞれ仮想上の同一性能の代表空調機10'に置き換えてシステムモデル34(図1参照)を構築している。ここで仮想的に用いる代表空調機10'は、例えば実際に空調システムに設置されている空調機10のうち一台の空調機10を選び、その空調機10と同じ性能の空調機として設定してもよいし、また例えば、空調システムに設置されている複数の空調機10の各性能値の平均値を算出し、その平均値の性能を備えた空調機として設定してもよい。そして、この代表空調機10'が、実際に設置されている空調機10の代わりに、同じ台数(N台)だけ設置されていると仮想する。このような仮想に基づきシステムモデル34を構成することで、二次側のシステムの運転条件を計算するにあたって性能の異なる空調機10についてそれぞれ計算を行う必要がなくなり、計算負荷を大幅に軽減することができるのである。尚、空調機10以外の各部に関しても、適宜省略や平均化、近似等の処理を行ってもよい。例えば、対象空間Sに関しても同様に、負荷熱量や容積、設定温度等の同じ代表空間S'が複数存在すると仮想してもよい。また、代表空調機や代表空間は、それぞれ一個のシステムモデルにつき一種類に限定されず、複数の性能や仕様の代表空調機や代表空間が仮想されていてもよい。例えば10台の空調機が設置されている場合において、性能の似通った5台についてはある一種類の代表空調機を仮想し、残りの5台については別の代表空調機を仮想する、といった構成を採用してもよい。
【0036】
このような設定の元で作成したシステムモデル34を用い、一次側の熱源機(冷凍機)1の運転状況と二次側の空調機10の運転状況、外気条件および二次側の負荷熱量に基づき、空調システムを構成する各部の運転条件の計算を行う。冷凍機1と空調機10の運転状況、外気条件および二次負荷熱量を与条件として、対象空間Sにおける適切な空調状態を実現し得る各機器の運転条件を算出する。そして、その運転条件における各機器の消費エネルギーを算出し、それを合計して空調システム全体における消費エネルギーを算出する。
【0037】
この計算を、二次往きヘッダ17から送り出される冷水の温度(すなわち、空調機10の上流側における冷水の温度。以下、「二次側送水温度」と称する)をパラメータとし、複数通りの二次側送水温度を設定して、各二次側送水温度毎に行う。つまり、例えば二次側送水温度の設定値が7℃、8℃、9℃、10℃、11℃、という5通りの場合について、それぞれ運転条件を計算し、それらにおけるシステム全体のエネルギー消費を算出するのである(このように計算のために複数設定される値を、以下では便宜的に「分散値」と称する)。そして、計算した運転条件から、システム全体でのエネルギー消費が最も少ない分散値を特定し、二次側送水温度が特定された分散値の値になるよう、システムを構成する各機器、特に一次側の冷凍機1や冷却塔2を運転する。
【0038】
一般に、冷凍機1や冷却塔2におけるエネルギー消費は、二次側送水温度が高いほど(すなわち、冷却対象である冷水の目標温度値が高いほど)低くなる。冷凍機の蒸発器における蒸発温度が上昇するので、蒸気圧縮式冷凍機では凝縮器との温度差が小さくなって圧縮機仕事が小さくできたりする。一方で、二次側送水温度を高くすれば、二次側の空調機にある冷水コイルにおいて相手の空気を冷やすにあたり冷水の往き還り温度差が取れなくなり、同じ熱量を搬送するにあたり二次側における熱負荷を賄うために必要な冷水の循環量が多くなり、一次冷水ポンプ8や二次冷水ポンプ22といった機器のエネルギー消費は増大する。すなわち、二次側送水温度の設定は高すぎても低すぎても、エネルギー消費の増大に繋がる可能性がある。そこで、それらのエネルギー消費の合計が最小になるような二次側送水温度を探し、そうして特定された二次側送水温度となるように空調システムを運転するのである。
【0039】
図3は、システムモデル34の構成およびそれによる計算手順をイメージ化したブロック図である。システムモデル34は、空調システムを構成する各機器毎に運転条件を算出するよう、各機器に対応した計算モジュールを備えている。
【0040】
システムモデル34は、二次側の各機器の運転条件を計算する二次側計算部34aと、一次側の各機器の運転条件を計算する一次側計算部34bを備えている。二次側計算部34aは、計算モジュールとして、各対象空間Sにおける熱状況を算出する室モデル34cと、各空調機10における給気風量を算出する風量算出ユニット34dと、冷水コイル10aの上流側および下流側における空気の状態をそれぞれ算出するコイル入口空気演算ユニット34eおよびコイル出口空気演算ユニット34fと、冷水コイル10aにおける冷水の流量および冷水コイル10aの出口における冷水の温度を算出するコイル冷水演算ユニット34gと、二次側に流通する冷水の量を算出する配管モデル34hと、二次冷水ポンプ22の運転条件を算出する二次ポンプモデル34iを備えている。ここで、各モジュールは空調システムを構成する各部毎に、その数だけ計算を行うようになっているが、空調機10に関係するモジュール(風量算出ユニット34d、コイル入口空気演算ユニット34e、コイル出口空気演算ユニット34f、コイル冷水演算ユニット34g)は、同じ代表空調機10'の性能を仮想し、これに基づいてN台分の計算を行う(すなわち、代表空調機10'による計算結果をN倍する)。また、対象空間Sについても同様に代表空間S'を仮想する場合には、室モデル34cについても、負荷熱量や容積、設定温度等が同じ室モデル34cを仮想し、これによりN室分の計算を行う。
【0041】
一次側計算部34bは、計算モジュールとして、熱源機である冷凍機1の稼働台数を選出する熱源台数制御ユニット34j、各冷凍機1および各冷却塔2の運転条件をそれぞれ算出する熱源演算ユニット34kおよび冷却塔演算ユニット34lを備えている。熱源演算ユニット34kと冷却塔演算ユニット34lは、空調システムに備えられている冷凍機1および冷却塔2毎に、その台数だけ計算を行うようになっている。
【0042】
以上の如きシステムモデル34は、
・二次側室内(対象空間S)の負荷熱量(顕熱負荷および潜熱負荷)
・対象空間S内における設定温度および設定湿度(室乾球温度設定値、室相対湿度設定値)
・外気の温度および湿度(外気乾球温度、外気相対湿度)
・給気の設定温度および設定湿度(給気温度設定値、給気湿度設定値)
・排気の設定風量(排気風量設定値)
・熱源機の運転状況(冷凍機1の運転台数および各機の動力)
・空調機の運転状況(空調機10の運転台数)
・二次側送水温度の設定値
を与条件とし、空調システムを構成する各部に対応した上記各計算モジュールにて各部の運転条件に関わる値(負荷や消費エネルギー等)を計算し、これにより、システム全体の消費電力を算出するようになっている。ここで、上記与条件のうち、室乾球温度設定値と室相対湿度設定値は、対象空間Sにおいて設定されている値である。外気乾球温度および外気相対湿度としては、外気センサ35の測定値を用いる。給気温度設定値、給気湿度設定値および排気風量設定値は、原則として固定値であり(手動で変更することもできる)、中央監視装置31から取得できる。熱源機の運転状況および空調機の運転状況についても、中央監視装置31から取得できる。二次側送水温度については、上述の通り、例えば7℃~11℃の適当な値を設定して計算に用いる。二次側の潜熱負荷と顕熱負荷については後述する。
【0043】
システムモデル34では、まず風量算出ユニット34dにて、空調機10における給気風量Vの値(m/h)を以下の式により算出する。
=3,600ν・Q/(1.006+1.805X)・(Tsp-T
【0044】
ただし、ν:空気比容積(m/kgDA)、Q:顕熱負荷(kW)、X:給気絶対湿度(kg/kgDA)、Tsp:室乾球温度設定値(℃)、T:給気温度設定値(℃)、1.006:空気の定圧比熱(kJ/kg・K)、1.805:水蒸気の定圧比熱(kJ/kg・K)、である。
【0045】
室モデル34cでは、この給気風量Vの値を用い、室内空気の温度と湿度、および還気風量を算出する。室内空気の温度(室内温度T(℃))、室内空気の絶対湿度(室内絶対湿度X(kg/kgDA))、還気風量V(m/h)は、それぞれ以下の式により算出できる。
=T+3,600ν・Q/(1.006+1.805X)・V
=X+3,600ν・Q/(2,501+1.805T)・V
=V-V
【0046】
ただし、Q:潜熱負荷(kW)、V:還気風量(m/h)、V:排気風量設定値(m/h)である。
【0047】
室内の顕熱負荷Qと潜熱負荷Qに関しては、次の手順により求めることができる。まず、空調機10における負荷熱量を、冷水コイル10aの上流側と下流側における冷水の温度差と流量の積として求める。こうして求めた負荷熱量は、室内負荷と外気負荷の合計である。
【0048】
空調対象としての空気は、還気として取り込まれた室内空気と外気とが混合した空気であるが、ここにおける外気の割合は、中央監視装置31における設定値や、空調機10や還気ファン15a、外調機(図示せず)の運転状況、ダンパ13の開度等から把握することができ、例えば空調機10に導入される空気のうち20%である。体積あたりの外気負荷は、外気センサ35によって測定される外気の状態(外気乾球温度、外気相対湿度)と、給気の状態(給気温度設定値、給気湿度設定値)の差から算出できる。こうして求めた外気負荷を、冷水コイル10aにおける冷水の温度差と流量の積に基づいて求めた上記負荷熱量から差し引けば、室内負荷が算出できる。
【0049】
室内負荷は、さらに顕熱負荷と潜熱負荷とに分けられるが、顕熱比(室内負荷における顕熱負荷の割合)SHFを、例えば70%と仮定する。この割合値はあくまで仮定であって必ずしも厳密に正確な値ではないが、これにより、顕熱負荷Qと潜熱負荷Qの値をそれぞれ求めることができる。
【0050】
以上で求めた給気風量Vと還気風量Vに基づき、給気ファン10bおよび還気ファン15aの動力を求めることができる。計算式としては、例えばファンのP-Q線図を二次近似した下記の近似式を用いることができる。
P=a・Q+b・Q(n/N)+c・(n/N) ……(1)
Pw=(ρ・g・Q・P/60,000)×η
【0051】
ただし、a,b,c:P-Q線図より算出する係数、P:圧力(Pa)、Q:流量(m/min)、n:回転数、N:定格回転数、ρ:流体密度(1.2kg/m)、g:重力加速度(9.8m/s)、η:効率、Pw:動力(kW)である。この式における流量Qは上記した顕熱負荷Qや潜熱負荷Qとは異なる値であり、ここに給気風量Vや還気風量Vを代入して、給気ファン10bや還気ファン16aの動力Pwを求める。
【0052】
コイル入口空気演算ユニット34eでは、外気条件(外気乾球温度および外気相対湿度)、還気の風量Vおよび状態(室内温度Tおよび室内絶対湿度Xとして把握できる)、給気の風量Vおよび状態(給気温度設定値と給気湿度設定値)から混合点を算出し、冷水コイル10aの上流側における空気の温度と絶対湿度を算出する。
【0053】
コイル出口空気演算ユニット34fでは、給気の風量Vおよび状態(給気温度設定値と給気湿度設定値)から、冷水コイル10aの下流側における空気の温度と絶対湿度を算出する。
【0054】
コイル冷水演算ユニット34gでは、コイル入口空気演算ユニット34eで求めた上流側の空気条件(温度と湿度)、およびコイル出口空気演算ユニット34fで求めた下流側の空気条件(温度と湿度)から、コイル列数(既知の値)を用い、冷水コイル10aに流通する冷水の流量と、冷水コイル10aの出口側における冷水の温度を求める。冷水と空気の間の交換熱量は、上流側と下流側における空気の状態の差から求めることができる。具体的な計算手順は、例えば以下の通りである。まず、交換熱量qt(W)は空気側の熱収支と同じとして以下のように求めることができる。
qt=V×1.2×(hcai・hcao
【0055】
ただし、hcai:コイル入口側における空気のエンタルピー(J/kg)、hcao:コイル出口側における空気のエンタルピー(J/kg)である。一方、交換熱量qtは次の式によっても表記できる。
qt=Row×Kf×dtlm×Af×WSF
【0056】
ただし、Row:コイル列数、Kf:伝熱係数(W/m・℃・Row)、dtlm:対数平均温度差(℃)、Af:コイル正面面積(m)、WSF:濡れ面係数である。
【0057】
伝熱係数Kf、対数平均温度差dtlm、濡れ面係数WSFは、それぞれ次のように表せる。
WSF=C×SHF+C×SHF+C
Kf=C4/{1/(C+ufC6+C)+1/(C+vwC9+C10)}
dtlm=dt・dt/ln(dt/dt
dt=tcai・tcwo
dt=tcao・tcwi
【0058】
ただし、SHFは上記顕熱比、C~C10はメーカー提示の係数、uf:コイルの正面における給気の風速(m/s)、vw:コイル内を通過する冷水の流速(m/s)、tcai:コイル上流側の空気温度(℃)、tcwo:コイルの出口水温(℃)、tcao:コイル下流側の空気温度(℃)、tcwi:コイルの入口水温(℃)である。正面風速ufは給気風量Vから求めることができ、通過風速vwは、正面風速ufに基づきコイルの仕様から算出することができる。コイルの上流側および下流側の空気温度tcai,tcao、コイルの入口側における冷水の温度tcwiは既知の値であり、コイルの出口水温tcwoは未知数である。
【0059】
上記の式により、冷水コイル10aの出口側における冷水の温度tcwoが算出でき、さらに冷水コイル10aにおける水の流量Q(L/min)を以下の式により求めることができる。
Q=60×qt/{Cw×(tcwi-tcwo)}
【0060】
ただし、Cw:水の質量比熱(kJ/kg・℃)である。尚、この式における水の流量Qは、上記した顕熱負荷Qや潜熱負荷Q、また前出の式におけるファンの流量(風量)Qとは異なる値である。
【0061】
配管モデル34hでは、こうして求めた一台の空調機10あたりの冷水の流量に、中央監視装置31から取得した空調機10の運転台数を乗じ、二次側における冷水の総流量を算出する。
【0062】
二次ポンプモデル34i、熱源台数制御ユニット34jでは、二次側における冷水の総流量から熱源機(冷凍機)1の運転台数を求め、二次側における冷水の還り温度(コイルの出口水温と同じである)と、二次側送水温度の設定値に基づき、二次冷水ポンプ22と一次冷水ポンプ8の動力を算出する。
【0063】
具体的には、まず配管モデル34hにて求めた二次側の冷水の総流量から、各熱源機1の最低流量を考慮して一次ヘッダ(一次往きヘッダ7と一次還りヘッダ6)の間のバイパス流路9における流量を算出する。さらに、二次側における冷水の還り温度と、二次側送水温度の設定値から、一次と二次の各ヘッダにおける冷水の温度を算出する。冷水の温度と流量から求められる負荷熱量を各熱源機1の定格容量比に分担し、熱源機1の運転台数を求める。二次冷水ポンプ22の稼働台数は二次側の冷水の流量から決定し、その水量バランスに基づいて一次側還水温度(一次還りヘッダ6における冷水温度)と二次側送水温度(上記設定値ではなく、結果値)を算出する。二次冷水ポンプ22と一次冷水ポンプ8の動力は、これに基づき、上記式(1)と同様の計算式にて算出できる。
【0064】
熱源演算ユニット34k、冷却塔演算ユニット34lでは、熱源機1、冷却塔2のファンおよび冷却水ポンプ4の動力を算出する。一例として、熱源機1が遠心式の冷凍機である場合の計算手順を説明する。
【0065】
熱源機1における電力消費量Erefは次式の通り、電力消費率erefと定格電力消費量Eref_rの積である。
ref=eref×Eref_r
【0066】
電力消費率erefは次式の通り、負荷率qの関数である部分負荷率影響係数C1、冷却水入口温度Tの関数である冷却水温度影響係数C2、冷却水流量比vの関数である冷却水流量比影響係数C3、 冷水出口温度Tの関数である冷却水出口温度影響係数C4 、冷水流量比vのパラメータである冷水流量影響係数C5の積として表せる。定格条件では、C1~C5の各値は1.0となり、eref=1.0となる。
ref=C1×C2×C3×C4×C5
C1=a+bq+c
C2=a +b+c
C3=a +b +c+d
C4=a +b+c
C5=a +b+c
【0067】
ここで、冷水出口温度Tは、冷凍機1の出口における冷水の温度であり、バイパス流路9における冷水の流通を考慮しない場合、上で求めた二次側送水温度の結果値を用いることができる。また、冷却水入口温度Tは、冷凍機1の入口における冷却水の温度であり、冷却水循環路3のバイパスを考慮しない場合、冷却塔2の出口における冷却水の温度(冷却塔出口温度)と同じ値と見なすことができる。
【0068】
上記電力消費量Erefを用い、冷却水出口温度(冷凍機1の出口における冷却水の温度)Tdrを次式にて求めることができる。
cd=q+Eref=q(1+1/COP_qc
=qcd/(Tdr-T
【0069】
ただし、q:冷水熱量、COP_qc:運転負荷率ごとの成績係数、qcd:冷却水熱量、V:冷却水流量である。
【0070】
一方、冷却塔2側では、外気湿球温度WBの関数Tds、冷却塔入口温度(冷却塔2の入口における冷却水の温度)Tdrの関数である冷却塔入口温度影響係数C7、冷却水の流量Vの関数である冷却水量影響第一係数C8および冷却水量影響第二係数C9を用い、冷却塔出口温度Tを以下のように求めることができる。
=Tds×C7×C8×C9
ds=aWB+bWB+c
C7=adr +bdr+c
C8=f(C9,Tdr,WB)
C9=a +b+c
【0071】
各係数a~a、b~b、c~cおよびdは、メーカー提示の線図より算出する。また、係数a~a、b~b、c~cは、実験的に求めることができる。尚、各係数a~a、b~b、c~cおよびC1~C9は、前出の式におけるa~cやC~C10とは異なる値である。
【0072】
以上の数式により、熱源演算ユニット34kでは、冷却塔演算ユニット34lで算出した冷却塔出口温度(冷却水入口温度)Tを用いて冷却水出口温度Tdrを求め、冷却塔演算ユニット34lでは、熱源演算ユニット34kで算出した冷却水出口温度(冷却塔入口温度)Tdrを用いて冷却塔出口温度Tを求める、という計算を繰り返す(この計算は、熱源機(冷凍機)1と冷却塔2の間における冷却水の循環を模している)。これを、冷却塔出口温度(冷却水入口温度)Tが設定値に一致する(あるいは、一定の許容範囲まで近づく(例えば、値が小数点第1位まで一致する))まで行う。計算を繰り返しても冷却塔出口温度Tが設定値に達しない場合は、冷却水を設定値まで冷却できないことを意味する。この場合は、冷却塔出口温度Tが前回値と一致する(あるいは、一定の許容範囲まで近づく(例えば、値が小数点第1位まで一致する))まで計算を繰り返す。
【0073】
以上の手順により、各熱源機1の動力を算出できる。冷却水ポンプ4の動力は、これに基づき、上記式(1)と同様の計算式にて算出できる。また、冷却塔2のファンの動力は次式にて算出することができる。
Pw=CTpw+Pw定格
CTpw=(Tdr-Tsp)/(Tdr-T
【0074】
ただし、CTpw:冷却塔ファン動力比、Tsp:冷却塔出口温度下限設定値(℃)、Pw定格:冷却塔ファン定格動力(kW)である。尚、ここで算出する冷却塔2のファンの動力Pwは、前出の式における給気ファン10bや還気ファン15aの動力Pwとは異なる値である。
【0075】
こうして各計算モジュールにより求めた各部の動力を合算すれば、特定の与条件下における一次側と二次側を含めた空調システム全体の動力を算出することができる。尚、ここで説明した計算手順はあくまで一例であって、各計算モジュールにおいて使用する数式やパラメータ、計算モジュール間における計算の順序等については適宜変更してよい。
【0076】
そして、最適化演算部33では、複数の異なる与条件の下でシステムモデル34にて同様の計算を行い、得られた複数の計算結果からシステム全体の動力が少なくなるような運転条件を選択し、その運転条件における二次側送水温度の設定値を、中央監視装置31へ入力する。中央監視装置31では、最適化演算部33から入力された二次側送水温度の設定値に基づき、システム各部の構成機器(特に、一次側の熱源機1や冷却塔2)の運転を実行する。
【0077】
このような運転条件の選択について説明する。上ではまず二次側送水温度の設定値に関し、例えば7℃~11℃の5通りの分散値を設定し、各場合について運転条件の計算を行うことを説明したが、本実施例ではさらに、外気負荷割合および室内負荷割合についても同様に、それぞれ複数の分散値を設定して運転条件の計算を行う。二次側送水温度の設定について複数の場合を計算するのは、システム全体として動力が最小となるような二次側送水温度の設定値を求めるためであるが、外気負荷割合と室内負荷割合について複数の場合を計算するのは、システムにおいて実現可能な計算結果を得られる可能性を高めることが目的である。
【0078】
空調システムを構成する各部の機器には、それぞれ実現可能な運転条件に限りがあり、例えばポンプは最大流量と最小流量の間でのみ運転可能である。こういった現実の制限を無視すれば、二次側送水温度やその他の各種数値がどのような値であっても、理論上はその条件下での計算結果としての運転条件を算出することはできる。しかしながら、そのようにして計算された条件による運転が、現実には不可能な場合もある。例えば、二次側送水温度を高くした場合、二次負荷熱量を賄うためには冷水の流量を大きくする必要があるが、このときの要求流量がポンプの定格出力を超える場合には、現実にそのような運転を行うことができず、空調システムの運転シミュレーションとしては不適である。同じように、与条件によっては、ある数値に基づきある計算モジュールで計算を行ったところ、その結果が該当する機器の運転に適さないとか、一の計算モジュールで出力された計算結果を利用して別の計算モジュールで計算を行ったところ、その結果がやはり運転に適さない、といったことがあり得る。現実の空調システムにおける運転条件をシミュレートするには、こうした不適合な計算結果を除外し、現実に可能な運転条件を対象とする必要がある。
【0079】
そこで本実施例では、外気負荷割合と室内負荷割合に関し、それぞれ複数の分散値を設定し、外気負荷と室内負荷がそれらの分散値の各値である場合に関してそれぞれ上述の計算を行い、不適合な計算結果を除外するようにしている。残った計算結果は、空調システムに適合した(現実に運転可能な)運転条件を表している。その中から、まず外気負荷割合と室内負荷割合の分散値が予め想定した基準値に近いものを抽出する。抽出された運転条件のうち、システム全体における動力の合計が最も小さくなる運転条件における二次側送水温度を特定し、その二次側送水温度の設定値にてシステムを運転する。
【0080】
尚、不適合な計算結果の除外は、上記したようなシステムモデル34における計算が一通り完了してから、計算された運転条件が各機器において可能かどうかを判定し、一箇所でも不可能な部分があれば計算結果を破棄する、といった方法によっても可能であるが、例えば上記各計算モジュールにおいて、該各モジュールが出力する計算結果のそれぞれに適合範囲を設定しておき、計算結果が前記適合範囲外であればエラー判定を出力し、それ以降の計算を中止するようにシステムモデル34を構築しておくと、不要な計算を省いて計算量や計算にかかる時間を節減することができる。
【0081】
上記計算における外気負荷割合と室内負荷割合の分散値および基準値について説明する。上に述べた計算例では、給気に対する外気の取込み割合を全体の20%と設定し、これに基づいて外気負荷と室内負荷を算出した(尚、20%という数値は実際の空調システムにおける外気の取込風量に基づいている。空調システムにおいて、外気の取込風量やその設定値が20%と異なる場合には当然、負荷の算出もその値に基づくべきである)。こうして算出された外気負荷および室内負荷の値を、それぞれの基準値とする。
【0082】
この基準値を基に外気負荷割合と室内負荷割合の値を分散させ、それぞれ複数通りの外気負荷割合と室内負荷割合の分散値を設定する。例えば、外気負荷割合に関しては、算出された基準値を中心に、その95%から105%まで、1%刻みに11通りの値を分散値として設定する。室内負荷割合に関しては、算出された基準値を中心に、その95%から105%まで、2.5%刻みに5通りの値を分散値として設定する。
【0083】
このようにして、外気負荷割合についてはx~xのm通り、室内負荷割合についてはy~yのn通りの分散値をそれぞれ設定する。尚、x~xおよびy~yの数値幅(上の例ではそれぞれ95%~105%)や、各分散値の個数(mやnの値;上の例では11個または5個)、各分散値同士の間隔(上の例では1%または2.5%)については、上に述べた例に限らず適宜設定してよいが、数値幅に関しては、各数値幅内に基準値を含むようにする(すなわち、例えばx≦xである場合、x≦基準値≦xとなるようにする)。また、各分散値のうち、一個は基準値と同じ値となるように設定するとよい。(上の例では、100%の場合の分散値が基準値に該当する)。二次側送水温度の設定値については、z~zのl通り(上の例では7℃~11℃の5通り)の分散値を設定する。そして、外気負荷についてはx~xのm通り、室内負荷についてはy~yのn通り、二次側送水温度の設定値についてはz~zのl通りの分散値をそれぞれ与条件とし、システムモデル34による上記運転条件の計算を総当りで実行する。すなわち、m×n×l通りの計算を行う(上の例の場合、11×5×5=275通りの総当り計算を行うことになる)。これらの計算結果から、実現可能であり、且つ外気負荷割合と室内負荷割合の値が基準値に近い運転条件を抽出する(ここで、「外気負荷割合の値が基準値に最も近い運転条件」と、「室内負荷割合の値が基準値に最も近い運転条件」とが異なる場合も想定できるが、そのような場合には、これらの値に関して互いに優先順位を設定し、それに従って順番に運転条件を絞り込めばよい。例えば、「外気負荷割合の値が基準値に最も近い運転条件」をまず抽出した上で、そのような運転条件が複数ある場合には、そこから「室内負荷割合の値が基準値に最も近い運転条件」をさらに抽出すればよい)。その中から、全体の動力合計が少ない運転条件を選択し、その運転条件における二次側送水温度の設定値を特定する。
【0084】
尚、ここでは二次側送水温度以外に、可能な計算結果の確保を目的とし、二次負荷熱量に関わる値である外気負荷割合と室内負荷割合の2つに関して分散値を設定する場合を説明したが、二次側送水温度以外に与条件として分散値を設定する対象は外気負荷割合または室内負荷割合のいずれか一方のみを分散振り分けとし、もう一方は100%のまま扱うとすることもできる。あるいは、二次負荷熱量(外気負荷と室内負荷の合計量)自体に関して分散値を設定し、上記と同様に計算を行って運転条件を選択するようにしてもよい。また、分散値を設定する対象は、二次負荷熱量に関わる値であればよく、例えば顕熱負荷や潜熱負荷、あるいは外気負荷と室内負荷の比、室内負荷における顕熱負荷と潜熱負荷の比、などに関して同様に分散値を設定するようにしてもよい。また、分散値はこれらのうち1種類についてのみ設定してもよいし、3種類以上設定してもよい。
【0085】
このような運転条件の計算手順は、例えば図4に示す如きフローチャートにまとめることができる。まず、中央監視装置31に入力される空調システムの運転状況から、二次負荷熱量を算出し、これに基づいて外気負荷割合と室内負荷割合を算出し、それらの値を基準値として、それぞれ複数通りの分散値(x~x、y~y)を設定する(ステップS1)。また、二次側送水温度の設定値の分散値(z~z)を設定する。
【0086】
続いて、外気負荷の分散値のうち、最初の計算に用いる分散値を選択する(ステップS2)。初回の計算では、例えばxを用いる。さらに、室内負荷の分散値のうち、最初の計算に用いる値を選択する(ステップS3)。初回の計算では、例えばyを用いる。二次側送水温度の設定値についても、最初の計算に用いる分散値(例えばz)を選択する(ステップS4)。
【0087】
外気負荷割合、室内負荷割合および二次側送水温度の設定値について、計算に用いる分散値を選択したら、熱源機1と空調機10の運転状況、および外気センサ35によって測定される外気条件を中央監視装置31から取得する(ステップS5)。これらを与条件とし、システムモデル34を用いた運転条件の計算を行う(ステップS6)。
【0088】
こうして一個の与条件設定に基づいた運転条件の計算が済んだら、現在の外気負荷および室内負荷の条件下において未計算の二次側送水温度の分散値があるか否かを判定する(ステップS7)。外気負荷x、室内負荷y、二次側送水温度zによる初回の計算が済んだ段階では、z~zの分散値について未計算である。未計算の分散値がある場合は、ステップS4に戻り、別の分散値を選択して(先の計算でzを用いた場合、次は例えばzである)、再び運転条件の計算を行う(ステップS5~S6)。これをl回目まで繰り返し、未計算の分散値がなくなったら、ステップS8に進む。
【0089】
ステップS8では、現在の外気負荷の条件下において未計算の室内負荷の分散値があるか否かを判定する。外気負荷x、室内負荷yによる計算が済んだ段階では、y~yの分散値について未計算である。未計算の分散値がある場合は、ステップS3に戻り、別の分散値を選択する。新たに選択された室内負荷の分散値の下で、再び二次側送水温度の各分散値に基づき運転条件の計算を行う(ステップS4~S6)。これをn回繰り返し、未計算の分散値がなくなったら、ステップS9に進む。
【0090】
ステップS9では、未計算の外気負荷の分散値があるか否かを判定する。外気負荷xによる計算が済んだ段階では、x~xの分散値について未計算である。未計算の分散値がある場合は、ステップS2に戻り、別の分散値を選択する。新たに選択された室内負荷の分散値の下で、再び室内負荷および二次側送水温度の各分散値に基づき運転条件の計算を行う(ステップS3~S6)。これをm回目まで繰り返し、未計算の分散値がなくなったら、m×n×l通りの運転条件の総当り計算が済んだことになる。この段階でステップS10に進み、計算結果の中から適当な運転条件を上述の通り選択し、そこから動力の合計が少なくなる二次側送水温度の設定値を特定し、これに基づいて空調システムの運転を行う。
【0091】
尚、ここに示した手順はあくまで一例であって、各ステップの内容やステップ同士の順序については適宜変更してよい。例えば、運転状況の取得(ステップS5)をステップS2より前に行ってもよいし、総当り計算の順序(ステップS2~S4、S7~S9)を入れ替えてもよい。二次側送水温度の分散値に関しては、ステップS1で他の分散値と共に設定するのではなく、予め設定しておいてもよい。
【0092】
図2に示すように、空調システムが二次側に代表空調機10'をN台備えているとして、以上の如き計算を行う場合、この計算は、例えば、15分~20分間隔で行うことができる。こうして、空調システム全体として省エネルギーになるような二次側送水温度の設定値を自動でリアルタイムに算出し、これに基づいた運転を自動で行うことができる。
【0093】
中間期や冬期、あるいは夜間や雨天など、二次負荷熱量が高くない条件下においては、二次側送水温度を高めにすると熱源機や冷却塔の動力を節減でき、省エネルギーに繋がることは一般的に知られており、従来においても、状況に応じて二次送水温度の設定値を手動で変更して省エネルギーを図ることは行われていた。しかしながら、そのような手動の操作はオペレータの経験や勘に依存するところが大きく、オペレータの熟練度等によっては必ずしも二次送水温度をその都度最適な設定値にすることはできておらず、二次送水温度の操作による省エネルギー運転は十全に行われているとは言えなかった。本実施例のように、二次側における運転状況をリアルタイムで計算し、システム全体の動力がより少なく済む二次送水温度を算出し、これに基づいて各機器(特に、一次側の熱源機1や冷却塔2)を運転するようにすれば、システムが適切な運転条件を自動で随時算出して実行するので、従来の手動による操作と比べ、省エネルギーにとって有利な二次送水温度を適切なタイミングで判断し、必要に応じて随時変更しながら各機器を運転することができ、以てさらなる省エネルギーを図ることができる。
【0094】
これを実行するには、二次側における運転状況を計算する必要がある。空調システムにおいては、一般に二次側の構成が複雑であり、これを計算しようとすれば計算量が大きくなるためにリアルタイムでの計算は難しかったが、本実施例では計算上の空調機として代表空調機を想定し、同じ代表空調機を複数台備えたシステムを仮想して計算を行うようにし、これによって計算負荷を大幅に軽減した。このようにすると運転状況の計算精度がいくらか下がることは否めないものの、リアルタイムでの運転条件の算出が可能となり、より省エネルギーとなるような二次側送水温度の設定を都度選択して消費エネルギーを抑えることができる。
【0095】
またその際、実現可能な運転条件を算出できないような状況にならぬよう、与条件として計算に用いる二次負荷熱量に関する値(外気負荷および室内負荷)についてそれぞれ複数の分散値を設定して総当り計算を行うことで、ある程度の計算誤差を許容して実現可能な運転条件を算出できるようにしている。こうして、二次側の運転状況に基づいたリアルタイムの省エネルギー運転を無理なく実行することができる。
【0096】
以上のように、上記本実施例においては、一次側の機器として熱源機1を、二次側の機器として複数の空調機10を少なくとも備え、熱源機1と空調機10の間を冷水が循環するよう構成された空調システムの運転方法に関し、空調機10の上流側における冷水の温度である二次側送水温度の設定値として複数の分散値を設定し、同一性能の代表空調機10'が複数台設置されていると仮想して構成されたシステムモデル34により、二次側送水温度の設定値が前記各分散値である場合における空調システムの各構成機器の動力をそれぞれ計算し、動力の合計が少なくなる二次側送水温度の設定値の分散値を特定し、二次側送水温度が特定された分散値となるよう、空調システムを運転するようにしている。このようにすれば、省エネルギーにとって有利な二次送水温度を適切なタイミングで判断し、特定された二次送水温度によって各部の機器を運転することで、空調システムの運転に関し省エネルギーを図ることができる。
【0097】
また、本実施例においては、二次負荷熱量またはこれに関わる値に関し、数値幅に基準値を含むよう複数の分散値を設定し、前記二次負荷熱量またはこれに関わる値が前記各分散値である場合における空調システムの各構成機器の運転条件をそれぞれ計算し、運転可能な計算結果が複数ある場合には、二次負荷熱量またはこれに関わる値の分散値が前記基準値に最も近い運転条件から、動力の合計が少なくなる二次側送水温度の設定値の分散値を特定し、二次側送水温度が特定された分散値となるよう、一次側の機器を運転するようにしている。このようにすれば、計算誤差を許容して実現可能な運転条件を算出することができる。
【0098】
また、本実施例においては、分散値を設定する前記二次負荷熱量に関わる値は、外気負荷割合または室内負荷割合のいずれか一方のみを分散振り分けとし、もう一方は100%のまま扱う(上に説明した例では、両方振り分ける)としている。
【0099】
また、本実施例においては、分散値を設定する前記二次負荷熱量に関わる値は、外気と還気とを混合して冷水コイル10aに導入するのに顕熱比で規定したのち対象室の設定温度まで熱処理をする顕熱負荷を基とし、該顕熱負荷から代表空調機風量を算出し、所定の冷水コイル性能から二次側還り冷水温度と必要流量を算出して求めることができる。
【0100】
また、本実施例において、分散値を設定する前記二次負荷熱量に関わる値は、その時々の代表空調機の運転台数から冷水二次流量を算出して求めることができる。
【0101】
また、本実施例において、二次側送水温度が特定された分散値となるよう、顕熱負荷から算出した代表空調機風量と所定の冷水コイル性能から求めた、二次側還り冷水温度と必要流量を用いて、熱源一次側としての冷凍機負荷率を算出し、冷凍機運転台数は実際に運転している台数の信号をもらって計算することができる。
【0102】
また、本実施例の空調システムは、上述の空調システムの運転方法を実行可能に構成されているので、上記と同様の作用効果を奏することができる。
【0103】
したがって、上記本実施例によれば、二次側の各機器の運転条件を効率的に計算し、これに基づいて各機器の運転を最適化し、省エネルギーを図り得る。
【0104】
尚、本発明の空調システムの運転方法および空調システムは、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0105】
1 熱源機(冷凍機)
10 空調機
10' 代表空調機
10a 冷水コイル
34 システムモデル
図1
図2
図3
図4