(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151386
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】蓄電池用セパレータ及び電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/451 20210101AFI20231005BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20231005BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20231005BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20231005BHJP
H01M 50/431 20210101ALI20231005BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20231005BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231005BHJP
H01M 50/491 20210101ALI20231005BHJP
【FI】
H01M50/451
H01M50/417
H01M50/443 M
H01M50/434
H01M50/431
H01M10/0566
H01M10/052
H01M50/491
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060970
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】苫米地 純
(72)【発明者】
【氏名】中澤 祐仁
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
【Fターム(参考)】
5H021CC03
5H021CC04
5H021EE04
5H021EE21
5H021EE22
5H021EE23
5H021HH01
5H021HH02
5H021HH03
5H029AJ03
5H029AJ12
5H029AK03
5H029AL12
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029CJ22
5H029DJ04
5H029DJ11
5H029EJ01
5H029EJ03
5H029EJ04
5H029EJ05
5H029EJ08
5H029EJ12
5H029HJ05
5H029HJ09
(57)【要約】
【課題】本発明は、蓄電デバイスの低抵抗化と安全性の向上とを両立することが可能な蓄電デバイス用セパレータ、及びそれを含む蓄電デバイス又は非水電解液二次電池を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリオレフィン微多孔膜を含み、ポリオレフィン微多孔膜上に、リチウム(Li)吸蔵粒子と無機粒子とを含有する多孔層を有し、かつ多孔層の上記Li吸蔵粒子の体積A、上記無機粒子の体積Bとし、上記Li吸蔵粒子の体積比(%)をA/(A+B)×100、上記無機粒子の体積比(%)をB/(A+B)×100としたとき、上記Li吸蔵粒子の体積比が25%~95%、上記無機粒子の体積比が5%~75%である蓄電デバイス用セパレータ、及びそれを含む蓄電デバイス又は非水電解液二次電池が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン微多孔膜を含む蓄電デバイス用セパレータであって、
前記ポリオレフィン微多孔膜上の少なくとも表層に、リチウム(Li)吸蔵粒子と無機粒子とを含有する多孔層を有し、かつ
前記多孔層の前記Li吸蔵粒子の体積A、前記無機粒子の体積Bとし、前記Li吸蔵粒子の体積比(%)をA/(A+B)×100、前記無機粒子の体積比(%)をB/(A+B)×100としたとき、前記Li吸蔵粒子の体積比が25%~95%、前記無機粒子の体積比が5%~75%である
ことを特徴とする蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項2】
前記Li吸蔵粒子の平均粒径に対して、前記無機粒子の平均粒径が0.30倍~1.5倍である、請求項1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項3】
前記多孔層の空隙率が、65.0%~85.0%である、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項4】
前記無機粒子が、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、硫酸バリウム及びジルコニアから成る群から選択される少なくとも1種類を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項5】
前記Li吸蔵粒子が、酸化スズ、シリコン、スズ、ゲルマニウム、アルミニウム、およびグラファイトから成る群から選択される少なくとも1種類を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータと、
正極と、負極と、非水電解液とを含む非水電解液二次電池。
【請求項7】
前記負極がLi金属である、請求項6に記載の非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス(以下、単に「電池」ともいう)、及びその発電要素に用いる蓄電デバイス用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電デバイスでは、正極板と負極板との間に電池用セパレータを介在させた発電要素に、電解液を含浸させていた。
【0003】
これらの蓄電デバイスでは、比較的低温で比較的大きな電流でデバイスを充電することなどの条件下では、負極板にリチウム(Li)が析出して、この負極板から金属Liがデンドライト(樹枝状結晶)として成長することがある。このようなデンドライトが成長し続けると、セパレータを突き破って、若しくは貫通して正極板にまで到達するか、又は正極板に接近することで、デンドライト自身が経路となって短絡を招く不具合を生じることがある。例えば、基材のみから成る従来の単層セパレータを備えるリチウムイオン二次電池の釘刺し試験時に、釘が正極、セパレータ及び負極を貫通すると、釘中の電子(e-)は負極から正極へ著しく高速で移動し、かつLi+イオンも負極から正極へ著しく高速で移動するので、大電流が流れて発熱量が増加し、安全性を損なう傾向にある。
【0004】
また、電池において、析出したデンドライト(金属Li)が折れると、負極板と導通しない状態で、反応性の高い金属Liが存在することもある。このように、電池において、デンドライト又はこれに起因する金属Liが多く存在すると、他の部位に短絡を生じさせたり、複数の部位同士が短絡したり、過充電により発熱した場合に、周囲にある反応性の高い金属Liまでもが反応して、さらに発熱が生じたりする不具合に繋がり易く、また電池の容量劣化の原因となる。
【0005】
これに対して、例えば、特許文献1には、正負極とセパレータとを備える蓄電デバイス内に、Liを吸蔵することが可能な化合物の層と絶縁層とを形成することによって、デンドライトの成長を抑制できることが報告されている。特許文献2には、蓄電デバイスの電極間にLiを吸蔵することが可能な材料を配置することが報告されている。
【0006】
また、特許文献3には、電極間、又は電極とセパレータとの間に、高吸収性無機フィラーと低吸収性無機フィラーとが混在する上下2層多孔質絶縁層が配置され、電極側に低吸収性無機フィラーを多く含む層が向き、かつセパレータ側に高吸収性無機フィラーを多く含む層が向くことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2020/230825号
【特許文献2】特開2009-67657号公報
【特許文献3】特開2011-25204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1~3に記載のセパレータ又は蓄電デバイスではデンドライト成長の抑制について更に検討の余地があり、そして蓄電デバイスの構成要素の低抵抗化と安全性の向上とを両立することが課題であった。また、従来のセパレータには、蓄電デバイスにリチウム(Li)金属負極を用いた際の低抵抗化と安全性との両立について検討の余地がある。
【0009】
したがって、本発明は、蓄電デバイスの低抵抗化と安全性の向上とを両立することが可能な蓄電デバイス用セパレータ、及びそれを含む蓄電デバイス又は非水電解液二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、蓄電デバイス用セパレータのポリオレフィン微多孔膜上に多孔層を配置し、多孔層においてリチウム(Li)吸蔵粒子と無機粒子の適切な体積比を特定することによって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。本発明の態様を以下に列記する。
<1> ポリオレフィン微多孔膜を含む蓄電デバイス用セパレータであって、
前記ポリオレフィン微多孔膜上に、リチウム(Li)吸蔵粒子と無機粒子とを含有する多孔層を有し、かつ
前記多孔層の前記Li吸蔵粒子の体積A、前記無機粒子の体積Bとし、前記Li吸蔵粒子の体積比(%)をA/(A+B)×100、前記無機粒子の体積比(%)をB/(A+B)×100としたとき、前記Li吸蔵粒子の体積比が25%~95%、前記無機粒子の体積比が5%~75%である
ことを特徴とする蓄電デバイス用セパレータ。
<2> 前記Li吸蔵粒子の平均粒径に対して、前記無機粒子の平均粒径が0.30倍~1.5倍である、項目1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
<3> 前記多孔層の空隙率が、65.0%~85.0%である、項目1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
<4> 前記無機粒子が、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、硫酸バリウム及びジルコニアから成る群から選択される少なくとも1種類を含む、項目1~3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
<5> 前記Li吸蔵粒子が、酸化スズ、シリコン、スズ、ゲルマニウム、アルミニウム、およびグラファイトから成る群から選択される少なくとも1種類を含む、項目1~4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
<6> 項目1~5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータと、
正極と、負極と、非水電解液とを含む非水電解液二次電池。
<7> 前記負極がLi金属である、項目6に記載の非水電解液二次電池。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、デンドライトを効率的に抑制し、蓄電デバイスの低抵抗化と安全性の向上とを両立することが可能な蓄電デバイス用セパレータ、及びそれを含む蓄電デバイス又は非水電解液二次電池を提供することができ、ひいてはリチウム(Li)金属負極を用いる蓄電デバイスの低抵抗化と安全性も両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明のメカニズムを説明するための蓄電デバイス用セパレータを含む蓄電デバイスの模式断面図であり、膨張前(a)と膨張後(b)のリチウム(Li)吸蔵粒子を含有する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)を図面を参照して詳細に説明するが、本発明は、本実施形態及び図面に限定されるものではない。本明細書において、各数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。また、各数値の測定は、特に言及しない限り、実施例で説明される方法に従って行なわれることができる。
【0014】
<セパレータ>
本実施形態に係る蓄電デバイス用セパレータ(以下、「セパレータ」という。)は、ポリオレフィン微多孔膜を含み、ポリオレフィン微多孔膜上に、リチウム(Li)吸蔵粒子と無機粒子とを含有する多孔層を有し、そして多孔層においてリチウム(Li)吸蔵粒子と無機粒子の体積比が特定されている。
【0015】
本実施形態では、セパレータの多孔層のLi吸蔵粒子の体積A、無機粒子の体積Bとし、Li吸蔵粒子の体積比(%)をA/(A+B)×100、無機粒子の体積比(%)をB/(A+B)×100としたとき、Li吸蔵粒子の体積比が25%~95%、無機粒子の体積比が5%~75%である。25%≦A/(A+B)×100≦95%、及び5%≦B/(A+B)×100≦75%の関係は、蓄電デバイスにおいて、リチウム又は他の金属のデンドライトがセパレータの多孔層と接すると、Li吸蔵粒子がデンドライトと反応し、そして無機粒子とLi吸蔵粒子の膨張差により空隙が発生し、空隙は、イオン移動経路やデンドライトが滞留するポケットのように機能することを特定するものである。また、上記のような空隙発生、及びイオン移動経路又はデンドライト滞留用ポケットの機能は、蓄電デバイスにリチウム(Li)金属負極が使用される場合に顕著となる。
【0016】
より詳細には、本実施形態に係るセパレータの多孔層がLi金属負極と接することによりLi吸蔵粒子が膨張し、リチウム(Li)吸蔵粒子と無機粒子の体積比及び/又は粒径比が、多孔層の一定の空隙を保つように調整されるので、多孔層の閉塞が抑制され、充電時のLiイオン移動性も確保されることができる。それにより、本実施形態に係るセパレータは、次の2つの効果を両立することができる:
(I)低抵抗化:Li吸蔵粒子を含む多孔層が、蓄電デバイスにおいて負極と同様に機能し、見掛け上の負極の比表面積が上がり、負極の反応速度が上がる。
(II)安全性の向上:多孔層の上記で説明された空隙に、Li又は他の金属のデンドライトが溜まり、そして理論に拘束されることを望まないがデンドライト成長が遅延することが考えられる。
【0017】
上記効果(I)については、Li吸蔵粒子のみを含む多孔層及び無機粒子を含む絶縁層をそれぞれ有する従来のセパレータとは異なって、更に低抵抗化を実現するという観点から、本実施形態に係るセパレータは、リチウム(Li)吸蔵粒子と無機粒子を含む多孔層が負極に接することが好ましい。
【0018】
上記効果(II)については、本実施形態では25%≦A/(A+B)×100≦95%、及び5%≦B/(A+B)×100≦75%の関係が最適化されるため、デンドライトが多孔層をすり抜けて無造作に進行するほど無機粒子の体積比が高くなく、他方では、Li吸蔵粒子リッチでは、多孔層が閉塞し過ぎて反応面積が減少し、電場乱れ又は局所的な電流の集中が発生し、デンドライトが偏析して短絡し易くなるほどLi吸蔵粒子の体積比が高くもない。したがって、Li吸蔵粒子がデンドライトを吸蔵した後に短絡耐性が失活してしまう従来のセパレータとは異なって、本実施形態に係るセパレータは、Li吸蔵というよりも電場安定化及び空隙によるデンドライト堆積が安全性を向上させる。
【0019】
また、上記効果(I)及び(II)に伴って、本実施形態に係るセパレータを含む蓄電デバイスのサイクル性も確保することができる。
【0020】
本実施形態に係るセパレータの構成について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係るセパレータのメカニズムを説明するための模式断面図である。
図1では、蓄電デバイスにおいて、負極(1)からリチウム又は他の金属のデンドライト(Li-D又はM-D)が成長してセパレータ(6)の多孔層(2)と接すると、Li吸蔵粒子(3a)がデンドライトと反応して膨張し(3b)、そして無機粒子(4)とLi吸蔵粒子(3b)の膨張差により空隙が発生し、空隙は、イオン(i)移動経路を確保したり、ポケット(P)にデンドライト(Li-D又はM-D)を滞留させたりすることが示されている。
【0021】
本実施形態では、多孔層に含まれるLi吸蔵粒子と、蓄電デバイス中のLiイオンとの吸蔵反応が十分に行われる限り、膨張又は空隙形成のトリガーとなるデンドライトは、Liデンドライトだけでなく、Li以外の金属デンドライトでもよい。
【0022】
本実施形態に係るセパレータの多孔層において、リチウム(Li)吸蔵粒子と無機粒子の体積比及び/又は粒径比は、上記で説明された本発明の作用効果の観点から、次のいずれかの関係:
30%≦A/(A+B)×100≦90%;
10%≦B/(A+B)×100≦70%;
を有することが好ましく、次のいずれかの関係:
40%≦A/(A+B)×100≦80%;
20%≦B/(A+B)×100≦60%;
を有することがより好ましく、次のいずれかの関係:
42.0%≦A/(A+B)×100≦75.0%;
25.0%≦B/(A+B)×100≦58.0%;
Li吸蔵粒子の平均粒径に対する無機粒子の平均粒径が0.30(倍)~1.5(倍)の範囲内である;
を有することが更に好ましく、次のいずれかの関係:
44.0%≦A/(A+B)×100≦70.0%;
30.0%≦B/(A+B)×100≦56.0%;
0.40(倍)≦無機粒子の平均粒径/Li吸蔵粒子の平均粒径≦1.40(倍)
を有することがより更に好ましく、次のいずれかの関係:
44.0%≦A/(A+B)×100≦63.0%;
37.0%≦B/(A+B)×100≦56.0%;
0.70(倍)≦無機粒子の平均粒径/Li吸蔵粒子の平均粒径≦1.30(倍)
を有することが特に好ましい。
【0023】
本実施形態に係るセパレータは、ポリオレフィン微多孔膜、及びその上に配置された多孔層を含む積層構造、又はポリオレフィン微多孔膜に多孔層が塗工されている構造を有してよい。一般に、単層セパレータは、ポリオレフィン微多孔膜などの基材から成り、積層セパレータは、基材と、基材に積層された少なくとも1つの層を含む。少なくとも1つの層は、例えば、イオン透過性、接着性、熱可塑性、無機多孔性などを有してよいが、本発明の作用効果の観点から絶縁性を有するものではないことが好ましい。また、少なくとも1つの層は、一枚の膜で形成されるか、又はLi吸蔵粒子及び無機粒子を上述のとおりに有する多孔層を構成することができる。多孔層は、基材上に一層として形成されるだけでなく、基材上に形成されたドット塗工、ストライプ塗工などのパターンも含むことができる。
【0024】
本実施形態に係るセパレータの構成要素、製造方法、物性などについて以下に説明する。
【0025】
<セパレータ含有物>
セパレータは、ポリオレフィン微多孔膜を含み、かつポリオレフィン微多孔膜上に、リチウム(Li)吸蔵粒子と無機粒子を含有する多孔層を有する。所望により、セパレータは、ポリレフィン、Li吸蔵粒子、及び無機粒子に加えて、ポリオレフィン以外の樹脂、有機フィラーなどを含んでよい。
【0026】
<リチウム(Li)吸蔵粒子>
本明細書では、リチウム(Li)吸蔵粒子とは、リチウム(Li)を吸蔵することが可能な粒子状の材料を意味する。Li吸蔵粒子としては、リチウム(Li)を吸蔵(インターカレート、合金化、化学コンバージョン等を含む)することができる化合物、例えばリチウムイオン二次電池の負極活物質等を粒子の形態で用いることができる。
【0027】
具体的には、Li吸蔵粒子の材料としては、例えば、シリコン、スズ、ゲルマニウム、アルミニウム、一酸化ケイ素、リチウム合金(例えば、リチウム-アルミニウム、リチウム-鉛、リチウム-スズ、リチウム-アルミニウム-スズ、リチウム-ガリウム、ウッド合金等のリチウム金属含有合金)、炭素材料(例えば、グラファイト(黒鉛)、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)、金属酸化物、リチウム金属酸化物(例えばLi4Ti5O12等)、ポリリン酸化合物、遷移金属の硫化物等が挙げられる。中でも、シリコン、スズ、ゲルマニウム、アルミニウム、酸化スズ、およびグラファイトから成る群から選択される少なくとも1種類を用いることが好ましい。また、Li吸蔵材料(A)は、リチウムによって還元分解される化合物等のように、リチウムと反応する化合物を含んでもよい。このような材料を用いることによって、安全性、出力及びサイクル特性に優れた蓄電デバイスを作製することが可能である。より好ましくは、体積当たりのLi吸蔵容量の観点から、スズ、シリコン、及び/又は酸化スズを用いると、Liデンドライトの成長を長期に亘り抑制できる。
【0028】
Li吸蔵粒子の形状は、耐熱性及び透過性の観点から、粒子状であり、デンドライト抑制の観点から、好ましくは薄片状、鱗片状、板状、ブロック状、又は球状であり、より好ましくは、薄片上、鱗片状、板状、又はブロック状である。
【0029】
本実施形態に係るLi吸蔵粒子の平均粒径(Dp50粒径)としては、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、更に好ましくは0.1μm以上、より更に好ましくは0.3μm以上、特に好ましくは0.5μm以上であり、その上限として、好ましくは15.0μm以下、より好ましくは5.0μm以下、更により好ましくは3.0μm以下である。平均粒径を0.01μm以上に調整することは、セパレータの含水率を低減する観点から好ましい。一方、平均粒径を15.0μm以下に調整することは、リチウム又は他の金属のデンドライト成長を効率的に抑制し、かつセパレータの熱収縮率を低減して、破膜し難くする観点から好ましい。また、平均粒径を3.0μm以下に調整することは、層厚の小さい多孔層を良好に形成する観点、及び無機粒子の多孔層中における分散性の観点から好ましい。
【0030】
Li吸蔵材料の平均粒径は、蓄電デバイスの安全性と電気特性とサイクル特性のバランスを取るという観点から、Li吸蔵材料を含まない層又はポリオレフィン微多孔膜の平均孔径の1.5倍~50.0倍であることが好ましく、より好ましくは、3.0倍~46.2倍、5.0倍~30.0倍、10.0倍~30.0倍、又は15.0倍~30.0倍である。
なお、本明細書では、Li吸蔵粒子の平均粒径とは、後述する実施例の測定法において、SEMを用いる方法に準じて測定される値である。
【0031】
<無機粒子> 無機粒子としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄などの酸化物系セラミックス、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス、硫酸バリウム等の金属硫酸塩、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス、ガラス繊維などが挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。中でも、無機粒子は、電気化学的安定性の観点から、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、硫酸バリウム及びジルコニアから成る群から選択される少なくとも1種類を含むことが好ましく、又はそれらから成る群から選択される少なくとも1種類で形成されることが好ましい。本発明において、リチウム(Li)吸蔵粒子は、無機粒子から除かれる。
【0032】
<有機フィラー>
有機フィラーとしては、例えば、架橋ポリアクリル酸、架橋ポリアクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸、架橋ポリメタクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸メチル、架橋ポリシリコーン(ポリメチルシルセスキオキサン等)、架橋ポリスチレン、架橋ポリジビニルベンゼン、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体架橋物、ポリイミド、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ベンゾグアナミン-ホルムアルデヒド縮合物などの各種の架橋高分子微粒子;ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、アラミド、ポリアセタール、熱可塑性ポリイミドなどの耐熱性高分子微粒子などが例示できる。また、これらの有機微粒子を構成する有機樹脂(高分子)は、前記例示の材料の混合物、変性体、誘導体、共重合体(ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体)、架橋体(前記の耐熱性高分子の場合)であってもよい。中でも、架橋ポリアクリル酸、架橋ポリアクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸、架橋ポリメタクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸メチル、および架橋ポリシリコーン(ポリメチルシルセスキオキサン等)から成る群より選ばれる1種以上の樹脂であることが好ましい。
【0033】
<ポリオレフィン、及び他の樹脂>
セパレータに含まれる樹脂としては、熱可塑性樹脂が、薄層多孔層、高強度多孔層などの成型性の観点から好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば:
ポリエチレン又はポリプロピレンなどのポリオレフィン;
ポリフッ化ビニリデン又はポリテトラフルオロエチレンなどの含フッ素樹脂;
フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体又はエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体などの含フッ素ゴム;
スチレン-ブタジエン共重合体およびその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体およびその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体およびその水素化物、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体などのゴム類;
ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリアセタール、ポリ(1-オキソトリメチレン)、ポリ(1-オキソ-2メチルトリメチレン)などのポリケトン;
などが挙げられる。
【0034】
シャットダウン性の観点から、融点及び/又はガラス転移温度が180℃未満の樹脂が好ましく、ポリエチレンまたはポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂が好ましい。更には、ポリオレフィン樹脂は、ポリエチレンを主成分とすることが、シャットダウンをより低温で確実なものとする観点で好ましい。メルトダウン抑制の観点から、融点及び/又はガラス転移温度が180℃以上の樹脂が好ましく、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド、ポリ(1-オキソトリメチレン)などが好ましい。サイクル特性の観点から、電解液との親和性が良好な樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素樹脂、又はポリ(1-オキソトリメチレン)、ポリ(1-オキソ-2メチルトリメチレン)などの主骨格にカルボニル基を有するポリケトン樹脂、若しくはポリオキシエーテル等の主骨格にエーテル基を有する樹脂、若しくはポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体などの主骨格にエステル基を有する樹脂、若しくはポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネートなど主骨格にカーボネート基を有する樹脂が好ましい。これらは1種を単独で使用するか、又は2種以上を併用してよい。
【0035】
なお、樹脂に使用するポリオレフィンの粘度平均分子量の下限としては、成形加工性の観点から、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上、さらに好ましくは5,000以上であり、その上限としては、好ましくは12,000,000未満、好ましくは2,000,000未満、さらに好ましくは1,000,000未満である。
【0036】
<リチウム(Li)吸蔵粒子及び無機粒子を含む層(多孔層)>
多孔層には、上記で説明したとおり、Li吸蔵粒子及び無機粒子を特定の体積比及び/又は粒径比で含有させることができる。また、Li吸蔵粒子は、リチウムによって還元分解される化合物等のように、リチウムと反応する化合物を含んでもよい。このような材料を用いることによって、低抵抗化と安全性の向上とを両立させることができる蓄電デバイスを作製することが可能である。更には体積当たりのLi吸蔵容量の観点から、多孔層は、Li吸蔵粒子の材料としてスズ、シリコン、及び/又は酸化スズを、無機粒子の材料として水酸化酸化アルミニウムをそれぞれ含むことが、デンドライトの成長を長期に亘り抑制できるため好ましい。
【0037】
多孔層は、上記で説明された本発明の作用効果の観点から、空隙率が、60.0%~85.0%であることが好ましく、65.0%~85.0%であることがより好ましく、66.0%~80.0%であることが更に好ましく、66.4%~75.0%であることが特に好ましい。
【0038】
多孔層は、多孔層のLi吸蔵粒子の体積A、無機粒子の体積Bとし、Li吸蔵粒子の体積比(%)をA/(A+B)×100、無機粒子の体積比(%)をB/(A+B)×100としたとき、25%≦A/(A+B)×100≦95%、及び5%≦B/(A+B)×100≦75%の関係を有する。この関係は、本発明の作用効果の観点から、一定の厚さを有する一層を前提としたとき、多孔層の厚さ方向において、Li吸蔵粒子のみから成る層と無機粒子のみから成る層への相分離、比重の大きい方の粒子の堆積、およびリチウム(Li)吸蔵粒子と無機粒子の体積濃度勾配を除外することが好ましい。
【0039】
本実施形態に係る多孔層は、樹脂又は樹脂バインダの含有又は非含有を問わない。樹脂又は樹脂バインダを含有しない場合には、多孔層の形成プロセスにおいては樹脂も樹脂バインダも使用しないか、又は樹脂もしくは樹脂バインダを使用するとしても、最終的に形成される多孔層から、例えば加熱、乾燥、焼結、剥離、取り外し、抽出等の手段によって、樹脂もしくは樹脂バインダを除いてよい。樹脂を含む場合、多孔層層中の樹脂に対するLi吸蔵粒子の含有割合(質量分率)は、デンドライト抑制効果及び耐熱性の点から、好ましくは10%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは50%以上、特に好ましくは90%以上であり、上限として好ましくは100%未満、好ましくは99.99%以下、更に好ましくは99.9%以下、特に好ましくは99%以下である。
【0040】
多孔層に含有可能な樹脂としては、上記セパレータ含有物として説明された樹脂を使用することができ、多孔層に含まれる樹脂は、Li吸蔵粒子及び/又は無機粒子を結着でき、蓄電デバイスの電解液に対して不溶であり、かつ蓄電デバイスの使用時に電気化学的に安定であることが好ましい。このような観点では、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素樹脂;ポリ(1-オキソトリメチレン)、ポリ(1-オキソ-2メチルトリメチレン)などの主骨格にカルボニル基を有するポリケトン樹脂;ポリオキシエーテル等の主骨格にエーテル基を有する樹脂;ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体などの主骨格にエステル基を有する樹脂;又はポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネートなど主骨格にカーボネート基を有する樹脂を使用してよい。電解液に対しての溶解性を制御するために、物理架橋、及び/又は化学架橋を原料樹脂又は樹脂を含むセパレータに施すことも好ましい。
【0041】
本実施形態に係る樹脂が、多孔層の総量に占める割合としては、樹脂とLi吸蔵粒子及び/又は無機粒子との結着性の点から、体積分率で、下限として好ましくは0.5%以上、より好ましくは1.0%以上、更に好ましくは3.0%以上、最も好ましくは5.0%以上であり、上限として好ましくは80%以下、より好ましくは60%以下である。当該比率を0.5%以上に調整することは、粒子を十分に結着させ、剥離、欠落等が生じ難くするという観点(すなわち、良好な取り扱い性を十分に確保する観点)から好適である。一方、当該比率を80%以下に調整することは、セパレータの良好なイオン透過性を実現する観点から好適である。
【0042】
多孔層の層厚の下限としては、デンドライト抑制効果及び耐熱性向上の観点から、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、更に好ましくは2μm以上、より更に好ましくは3μm以上、特に好ましくは4μm以上又は5μm以上である。層厚の上限としては、透過性又は電池の高容量化の観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは30μm以下、特に好ましくは20μm以下、最も好ましくは11.5μm以下である。
【0043】
多孔層の気孔率としては、Li吸蔵粒子のLi吸蔵時の体積膨張率を踏まえて、膨張後の多孔層の気孔率が0%を超えることが好ましい。例えばLi吸蔵粒子の体積膨張率が2倍の場合では多孔層の気孔率としては50%を超えることが好ましく、体積膨張率が3倍の場合は66%以上であることが好ましい。吸蔵容量を多くし、デンドライトの成長を抑制させる観点から、気孔率の上限は、好ましくは99%以下、より好ましくは95%以下、更に好ましくは90%以下である。
【0044】
多孔層の目付けについては、下限が、デンドライト抑制効果及び耐熱性向上の観点から、好ましくは10g/cm2以上、より好ましくは13g/cm2以上、更に好ましくは14.0g/cm2以上であり、そして上限は、透過性又は蓄電デバイスの高容量化の観点から、好ましくは30g/cm2以下、より好ましくは25g/cm2以下、更に好ましくは20g/cm2以下である。
【0045】
<ポリオレフィン微多孔膜>
本実施形態に係るポリオレフィン微多孔膜は、その主成分として、上記セパレータ含有物として説明されたポリオレフィンを含む膜でよい。本明細書では、材料が特定の成分を「主成分として」含むことは、材料の質量を基準として特定の成分を50質量%以上含むことを意味する。
【0046】
所望により、ポリオレフィン微多孔膜は、ポリオレフィンに加えて、上記で説明された無機粒子、有機フィラー、ポリオレフィン以外の樹脂、無機粒子又は有機フィラーの結着のための樹脂などを含んでよい。
【0047】
無機粒子同士又は有機フィラー同士を結着させる樹脂としては、下記1)~4)が挙げられる:
1)共役ジエン系重合体、
2)アクリル系重合体、
3)ポリビニルアルコール系樹脂又はセルロース重合体、及び
4)含フッ素樹脂。
【0048】
1)共役ジエン系重合体は、共役ジエン化合物を単量体単位として含む重合体である。共役ジエン化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン、スチレン-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換及び側鎖共役ヘキサジエン類等が挙げられ、これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、高結着性の観点から1,3-ブタジエンが好ましい。
【0049】
2)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル系化合物を単量体単位として含む重合体である。上記(メタ)アクリル系化合物とは、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルから成る群から選ばれる少なくとも一つを示す。
このような化合物としては、例えば、下記式(P1)で表される化合物が挙げられる。
CH2=CRY1-COO-RY2 (P1)
{式中、RY1は、水素原子又はメチル基を示し、かつRY2は、水素原子又は1価の炭化水素基を示す。}
RY2が1価の炭化水素基の場合は、置換基を有してよく、かつ/又は鎖内にヘテロ原子を有してよい。1価の炭化水素基としては、例えば、直鎖又は分岐の鎖状アルキル基、シクロアルキル基、及びアリール基が挙げられる。
RY2の1種である鎖状アルキル基として、より具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及びイソプロピル基である炭素原子数が1~3の鎖状アルキル基;n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、及びラウリル基等の、炭素原子数が4以上の鎖状アルキル基が挙げられる。また、RY2の1種であるアリール基としては、例えばフェニル基が挙げられる。
また、1価の炭化水素基の置換基としては、例えばヒドロキシル基及びフェニル基が挙げられ、鎖内のヘテロ原子としては、例えばハロゲン原子、酸素原子等が挙げられる。
このような(メタ)アクリル系化合物としては、(メタ)アクリル酸、鎖状アルキル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレート、フェニル基含有(メタ)アクリレート等を挙げることができる。(メタ)アクリル系化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0050】
3)ポリビニルアルコール系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。3)セルロース系重合体としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等が挙げられる。
【0051】
4)含フッ素樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等が挙げられる。
【0052】
安全性又は低抵抗性に優れたセパレータの積層構造を確保するために、上記で説明されたリチウム(Li)吸蔵粒子は、ポリオレフィン微多孔膜には含まれず、多孔層に含まれることが好ましい。また、セパレータは、本発明の作用効果を阻害しない程度に、ポリオレフィン微多孔膜及び多孔層以外の層を備えることができ、そのような層は、ポリオレフィン以外の樹脂、無機粒子又は有機フィラーの結着のための樹脂などを含んでよい。
【0053】
<セパレータの製造方法及び物性>
本実施形態に係るセパレータの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、下記(i)~(iii)の方法が挙げられる:
(i)ポリオレフィン微多孔膜と共に、又はポリオレフィン微多孔膜上に、上記で説明されたリチウム(Li)吸蔵粒子と無機粒子、所望により、上記で説明された樹脂とを含む成形前駆体を、分散、加熱、溶融混練、押出、延伸、緩和等により成形して、セパレータを得る方法;
(ii)上記で説明されたリチウム(Li)吸蔵粒子と無機粒子、所望により、上記で説明された樹脂とを、溶媒に溶解又は分散させて、得られた分散液をポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に塗布することによって、積層構造又は塗布構造を有するセパレータを得る方法;及び
(iii)リチウム(Li)吸蔵粒子と無機粒子と樹脂とを、必要に応じて可塑剤等と共に、押出機等で加熱混合し、ポリオレフィン微多孔膜の構成材料と共押出しし、押し出された積層シートを形成、延伸若しくは可塑剤抽出に供して、乾燥することによって、積層構造を有するセパレータを得たり、または上記(ii)で得られたセパレータの多孔層もしくはポリオレフィン微多孔膜の表面に更に別の層を形成することによってセパレータを得たりする方法。
【0054】
なお、積層構造を有するセパレータは、上述した製造方法とは異なる方法を用いて製造することも可能である。例えば、微多孔膜及び活性層をラミネート加工により貼り合わせる等の方法を適宜組み合わせることができる。また、Li吸蔵粒子の分散液および無機粒子の分散液をそれぞれ作製しておいて、所望のタイミングで両液を混合してよい。
【0055】
溶媒としては、リチウム(Li)吸蔵粒子と無機粒子、及び所望により樹脂が、均一かつ安定に溶解又は分散可能な溶媒を用いることが好ましい。このような溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、ヘキサンなどを挙げることができる。
【0056】
また、Li吸蔵粒子又は無機粒子を含有する溶液を安定化させるために、又はポリオレフィン微多孔膜への塗工性を向上させるために、Li吸蔵粒子の分散液には、界面活性剤等の分散剤、増粘剤、湿潤剤、消泡剤、酸又はアルカリを含むpH調整剤等の各種の添加剤を加えてもよい。これらの添加剤は、溶媒除去又は可塑剤抽出の際に除去できるものが好ましいが、リチウムイオン二次電池の使用時において、電気化学的に安定であり、電池反応を阻害せず、かつ200℃程度まで安定ならば、電池内(又は電池内のセパレータ)に残存してもよい。
【0057】
リチウム(Li)吸蔵粒子と無機粒子、及び所望により樹脂を、溶媒に溶解又は分散させる方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、コロイドミル、アトライター、ロールミル、高速インペラー分散、ディスパーザー、ホモジナイザー、高速衝撃ミル、超音波分散、撹拌羽根等による機械撹拌法などが挙げられる。
【0058】
リチウム(Li)吸蔵粒子と無機粒子の分散液を、ポリオレフィン微多孔膜の表面に塗布する方法としては、所定の層厚又は塗布面積を実現できる方法であれば特に限定されない。このような塗布方法としては、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法などが挙げられる。また、分散液は、その用途に照らし、ポリオレフィン微多孔膜の片面だけに塗布されてもよいし、両面に塗布されてもよいが、負極と接することとなる最表面は多孔層であることが、デンドライト成長の遅延、デンドライトによる短絡の抑制、低抵抗化、及び充放電容量の向上という観点で好ましい。
【0059】
溶媒は、ポリオレフィン微多孔膜に塗布した分散液から除去され得ることが好ましい。溶媒を除去する方法は、ポリオレフィン微多孔膜又はセパレータに悪影響を及ぼさないのであれば特に限定されない。溶媒を除去する方法としては、例えば、ポリオレフィン微多孔膜を固定しながら、ポリオレフィン微多孔膜の融点以下の温度で乾燥する方法、溶媒の沸点より低い温度でポリオレフィン微多孔膜を減圧乾燥する方法、樹脂に対する貧溶媒に浸漬して樹脂を凝固させると同時に溶媒を抽出する方法などが挙げられる。
【0060】
上記で説明されたLi吸蔵粒子及び無機粒子を特定の体積比及び/又は粒径比で含有する多孔層は、例えば、上記の製造方法において、Li吸蔵粒子及び無機粒子の材料選定、混合比、分散度などを調整するか、又は個別に作製されたLi吸蔵粒子分散液および無機粒子分散液の混合割合を調整するか、ポリオレフィン微多孔膜上の多孔層のセッティング条件などを最適化することにより形成されることができる。
【0061】
所望により、セパレータの構成材料に、電解液と親和性の良好な樹脂等を添加してよい。電解液と親和性の良好な樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素樹脂;ポリ(1-オキソトリメチレン)、ポリ(1-オキソ-2メチルトリメチレン)などの主骨格にカルボニル基を有するポリケトン(PK)樹脂;ポリオキシエーテル等の主骨格にエーテル基を有する樹脂;ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、メタクリル酸エステル-アクリル酸エステル共重合体などの主骨格にエステル基を有する樹脂;ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネートなど主骨格にカーボネート基を有する樹脂などが挙げられる。
【0062】
また、リチウムイオン電池用セパレータに一般的に用いられているポリオレフィン微多孔膜を用いる場合、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、フッ素/酸素混合ガス処理などの処理により、ポリオレフィン構造にカルボン酸基、水酸基などを導入する方法により、又は電解液との親和性の高い樹脂を溶解若しくは分散した溶液をポリオレフィン微多孔膜の表面にコーティング若しくは含浸させ、乾燥するか、若しくは貧溶媒に含浸する等の既知の方法により、樹脂の溶解度を低下させ析出させることでポリオレフィンの表面または内部(多孔部)の電解液親和性を改質することができる。
【0063】
単層、多層、積層又は塗工セパレータの膜厚(総層厚)については、その下限としては、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは7μm以上、より更に好ましくは10μm以上であり、その上限としては、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下、更に好ましくは50μm以下、より更に好ましくは30μm以下である。膜厚を2μm以上に調整することは、機械強度を十分に確保する観点から好適である。一方、膜厚を200μm以下に調整することは、セパレータの占有体積の低減を可能にして、電池を高容量化する観点から好適である。
【0064】
多層、積層又は塗工セパレータにおいて、多孔層の最厚部の層厚がセパレータの厚み(総層厚)に占める割合については、下限として、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上であり、上限として、好ましく60%以下、より好ましくは50%以下である。この割合を10%以上に調整することは、デンドライト抑制効果及び短絡(ショート)温度を高め、良好な耐熱性を実現する観点から好適である、一方、この割合を50%以下に調整することは、セパレータの透過性の低下を抑制する観点から好適である。
【0065】
セパレータの透気度の上限は、単層構造と複層構造と塗工構造のいずれの場合においても、電気特性又はサイクル特性の観点から、好ましくは600秒/100cm3以下、550秒/100cm3以下、500秒/100cm3以下、450秒/100cm3以下、又は400秒/100cm3以下であり、より好ましくは300秒/100cm3である。セパレータの透気度の下限は、強度又は安全性の観点から、好ましくは、30秒/100cm3以上、60秒/100cm3以上、100秒/100cm3以上、120秒/100cm3以上、140秒/100cm3以上、又は150秒/100cm3以上である。
【0066】
セパレータの突刺強度の下限は、セパレータを備える蓄電デバイスの安全性の観点から、100gf以上が好ましく、より好ましくは200gf以上、更に好ましくは300gf以上、より更に好ましくは350gf以上、特に好ましくは400gf以上である。セパレータの突刺強度の上限は、セパレータの熱収縮率、絶縁性の維持、又は蓄電デバイスの安全性の向上の観点から、950gf以下が好ましく、より好ましくは900gf以下、更に好ましくは850gf以下、より更に好ましくは800gf以下、特に好ましくは750gf以下である。
【0067】
多層又は積層セパレータにおいて、層間の剥離強度は50N/m以上であることが好ましい。層間の剥離強度が50N/m以上であることによって、セパレータをリールに巻く際、及び蓄電デバイスを捲回して作製する際のハンドリング性が向上する傾向にある。また、多層又は積層セパレータが加熱された際の熱収縮率は、50N/m以上の剥離強度で層間が接着されていることによって、耐熱性が高い層の熱収縮率として維持されるため良好になる傾向にある。層間の剥離強度は、より好ましくは100N/m以上、更に好ましくは200N/m以上である。
【0068】
セパレータの150℃での熱収縮率又は130℃での熱収縮率は、0%以上15%以下であることが好ましく、0%以上10%以下であることがより好ましく、0%以上5%以下であることが特に好ましい。熱収縮率を15%以下に調整することは、蓄電デバイスの異常発熱時においてもセパレータの破膜を良好に防止し、正負極間の接触を抑制する観点(すなわち、より良好な安全性能を実現する観点)から好ましい。なお、熱収縮率についてはセパレータの機械方向(MD)と横方向(TD)の両方を上記範囲内に設定することが好ましい。また延伸の条件によっては、一軸に縮み、それと垂直な一軸に僅かに伸びる場合があり、収縮率としては負の値を示すことがある。セパレータの収縮を抑制することは、電極間の短絡を抑制することにつながるため、収縮率は一定値以下であることが重要であり、収縮率は負の値となってもよい。
【0069】
セパレータのシャットダウン温度の下限は、好ましくは120℃以上であり、その上限は、好ましくは160℃以下、より好ましくは150℃以下である。なお、シャットダウン温度とは、蓄電デバイスが異常発熱を起こした際、セパレータの微多孔が熱溶融等により閉塞する温度を意味する。シャットダウン温度を160℃以下に調整することは、蓄電デバイスが発熱した場合などにおいても、電流遮断を速やかに促進し、より良好な安全性能が得る観点から好ましい。一方、シャットダウン温度を120℃以上に調整することは、例えば100℃前後の高温下でのセパレータの使用可能性の観点、又は種々の熱処理をセパレータに施し得る観点から好ましい。
【0070】
セパレータのショート温度の下限は、好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上であり、その上限は、好ましくは1000℃以下である。ショート温度を180℃以上に調整することは、蓄電デバイスの異常発熱時においても放熱するまで正負極間の接触を抑制し、より良好な安全性能を実現する観点から好ましい。
【0071】
なお、上記で説明されたセパレータ、活性層又は絶縁層の物性値又は測定値は、後述する実施例の測定法に準じて測定することができる。
【0072】
<蓄電デバイス>
本発明の別の実施形態に係る蓄電デバイスは、正極と、上記で説明されたセパレータと、負極と、所望によりイオン伝導媒体とを備える。積層構造を有するセパレータが、ポリオレフィン微多孔膜上に、リチウム(Li)吸蔵粒子と無機粒子とを含有する多孔層を有するときには、セパレータの多孔層側が、蓄電デバイスにおいて、少なくとも一部の負極面と向かい合うか、又は少なくとも一部の負極面と接するように配置されることが好ましい。蓄電デバイスの低抵抗化の観点からは、蓄電デバイスにおいてセパレータの多孔層も負極と同様に機能し、見掛け上の負極の比表面積が上がり、負極の反応速度が上がるように配置されることがより好ましい。
【0073】
イオン伝導媒体は、蓄電デバイスの電解質に応じて、液状、ゲル状、又は固体状であることができる。液状のイオン伝導媒体として、例えば、非水電解液等を使用してよい。また、非水電解液を含む蓄電デバイスとしては、例えば、非水電解液二次電池等でよい。高サイクル性と安全性の観点から、蓄電デバイスの充電時の負極電位(vsLi+/Li)が、上記で説明されたリチウム(Li)を吸蔵可能な材料(A)の電位(vsLi+/Li)よりも低いことが好ましく、1.5V(vsLi+/Li)以下であることがより好ましい。
【0074】
正極と負極とセパレータは、蓄電デバイスの安全性、容量特性、出力特性及びサイクル特性の観点から、正極とセパレータのポリオレフィン微多孔膜との間に及び/又は負極とポリオレフィン微多孔膜の間に少なくとも1層の多孔層があるように配置されることが好ましく、負極とセパレータのポリオレフィン微多孔膜の間に少なくとも1層の多孔層があるように配置されることがより好ましい。このような配置は、例えば、セパレータの多孔層側を負極側又は正極側に向けることによって;多孔層が複数のポリオレフィン微多孔膜に挟まれた積層構造もしくはポリオレフィン微多孔膜が複数の多孔層に挟まれた積層構造を有するセパレータの使用によって;又はセパレータの構成要素として説明された多孔層を、セパレータとは別に、電極とセパレータの間に設けることによって、達成されることもできる。
【0075】
蓄電デバイスの正極は、特に限定されるものではないが、例えば、正極集電体と正極活物質含有層とを備える既知の構成でよい。蓄電デバイスの負極は、例えば、負極集電体と負極活物質含有層とを備える既知の構成でよく、そして本発明の作用効果の観点からは、負極又はそれに含まれる負極活物質含有層もしくは負極活物質がリチウム(Li)金属であることが好ましい。
【0076】
蓄電デバイスとしては、具体的には、リチウム電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、ナトリウム二次電池、ナトリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、マグネシウムイオン二次電池、カルシウム二次電池、カルシウムイオン二次電池、アルミニウム二次電池、アルミニウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、レドックスフロー電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池、亜鉛空気電池などが挙げられる。これらの中でも、実用性の観点から、リチウム電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、又はリチウムイオンキャパシタが好ましく、リチウム電池又はリチウムイオン二次電池がより好ましい。
【0077】
リチウム電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池又はリチウムイオンキャパシタの場合には、イオン伝導媒体としては、Liイオン伝導媒体が好ましい。
【0078】
蓄電デバイスは、例えば、正極と負極とを、本実施形態に係るセパレータを介して重ね合わせて、必要に応じて捲回して、積層電極体又は捲回電極体を形成した後、これを外装体に装填し、正負極と外装体の正負極端子とをリード体などを介して接続し、さらに、イオン伝導媒体を外装体内に注入した後に外装体を封止して作製することができる。リチウム電池、リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池又はリチウムイオンキャパシタの場合には、Liイオン伝導媒体は、鎖状又は環状カーボネート等の非水溶媒とリチウム塩等の電解質を含む非水電解液であるか、又は固体電解質若しくはゲル電解質であることができる。
【実施例0079】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施形態をより具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は以下の方法により測定又は決定した。
【0080】
(1)極限粘度(η)、粘度平均分子量(Mv)
ASTM-D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η](dl/g)を求める。ポリエチレンのMvは次式により算出した。
[η]=6.77×10
-4Mv
0.67
ポリプロピレンについては、次式によりMvを算出した。
[η]=1.10×10
-4Mv
0.80
ポリケトンの極限粘度[η](単位dl/g)は、次の定義式にて算出した。
【数1】
{式中、tは、純度98%以上のヘキサフルオロイソプロパノールの25℃での粘度管の流過時間であり、Tは、ポリケトンがヘキサフルオロイソプロパノールに溶解している希釈溶液の25℃での粘度管の流過時間であり、Cは、上記溶液100ml中のグラム単位による溶質(すなわちポリケトン)質量値である。}
【0081】
(2)厚み(μm)
ダイヤルゲージ(尾崎製作所製PEACOCK No.25(商標))で試料の膜厚を測定した。MD10mm×TD10mmのサンプルを多孔膜から切り出し、格子状に9箇所(3点×3点)の厚さを測定した。得られた測定値の平均値を膜厚(μm)又は層厚として算出した。
なお、本実施例及び比較例において得られる各単層の厚みとしては、各製造工程で得られる単層の状態で測定した。積層状態の場合、前記測定した単層の値を差し引いて算出した。共押出により単層の状態が得られないものに関しては、断面SEMから各層の厚みを算出した。
【0082】
(3)Li吸蔵粒子Aおよび無機粒子Bの体積比(%)
走査型電子顕微鏡(SEM)にて、10μm×10μmの視野範囲で平面像、断面像を撮影し、EDX(HORIBA X-MAX)にて、平面像および断面像に存在するLi吸蔵粒子Aと無機粒子Bの元素マッピングを行う。その後、元素マッピング画像を画像解析装置に読み込み、平面像、断面像内に存在するLi吸蔵粒子Aまたは無機粒子Bの各面積を算出し、表面と断面の面積の平均から算出した面積比を体積比とした。なお、体積比は平面像および断面像を各10点撮影し、それらの平均値を用いて算出した。
【0083】
(4)気孔率(%)
10cm×10cm角の試料を被測定膜又は層から切り取り、その体積(cm3)と質量(g)を求め、それらと真密度(g/cm3)より、次式を用いて計算した。
気孔率(%)=(体積-(質量/混合組成物の真密度))/体積×100
なお、混合組成物の密度は、用いたポリオレフィン樹脂と無機粒子の各々の密度と混合比より計算して求められる値を用いた。
【0084】
(5)平均粒径(μm),粒径比
走査型電子顕微鏡(SEM)にて拡大した、10μm×10μmの視野を直接に、又はネガより写真に焼き付けた後に、画像解析装置に読み込み、これから計算される各粒子の円換算径(粒子をその面積を同じくする円に換算したときの円の直径)の数平均値を、平均粒径Dp50(μm)とした。ただし、写真から画像解析装置に入力する際に粒子境界が不明瞭な場合には、写真のトレースを行い、この図を用いて画像解析装置に入力を行った。実施例において特に断りの無い場合、「平均粒径」は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定される。
円換算径は、過度な力を与えない限りそれ以上ほぐすことのできない最小単位の粒子で計算される。例えば、通常、粒子の円換算径は、一次粒子の円換算径を意味するが、造粒された粒子などのように、過度な力を加えない限りほぐれない粒子に関しては、二次粒子の円換算径を意味する。また、複数の1次粒子が弱い力で結び付き、不定形な構造を形成している場合は、その粒子の1次粒径の円換算径を意味する。
なお、試料の平均粒径をSEMより求めることが困難な場合は、レーザー式粒度分布測定装置を用いて測定を行う。この場合、試料を蒸留水に加え、ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を少量添加してから超音波ホモジナイザーで1分間分散させた後、レーザー式粒度分布測定装置(日機装(株)製マイクロトラックMT3300EX)を用いて、粒径分布を測定し、各粒子の数平均値を無機フィラーの平均粒径として得ることができる。
また、異なる種類の複数の粒子について得られた平均粒径から粒径比も算出することができる。
【0085】
(6)密度(g/cm3)
JIS R-9301-2-4に準拠する方法で、Li吸蔵粒子、無機粒子、又は多孔層の重装かさ密度を測定した。
【0086】
(7)空隙率(%)
セパレータの多孔層が形成されている部分と形成されていない部分(例えば、ポリオレフィン微多孔膜のみから成る部分)とをそれぞれ直径5cmに打ち抜き、膜厚(μm)と質量(g)を測定した。測定された膜厚(μm)と面積(cm2)から、セパレータの各部分の体積(cm3)を計算した。膜厚、面積及び体積、並びに上記で測定される多孔層及び構成材料の密度(g/cm3)より、次式を用いて空隙率を計算した。
空隙率=(多孔層の体積-(多孔層の質量-多孔層未形成部分の質量)/多孔層の密度)/多孔層の体積 ×100
なお、セパレータを直径5cmで打ち抜けない場合には、打ち抜き可能な適当な寸法で測定してよい。また、膜厚に関しては断面SEMから各層の厚みを算出してもよい。
【0087】
(8)樹脂バインダの体積分率(%)
以下の式にて樹脂バインダの体積分率(%)を算出した。
Vb={(Wb/Db)/(Wb/Db+Wf/Df)}×100
Vb:樹脂バインダの体積分率(%)
Wb:樹脂バインダの重量(g)
Wf:無機フィラーの重量(g)
Db:樹脂バインダの密度(g/cm3)
Df:無機フィラーのかさ密度(g/cm3)
【0088】
(9)透気度(秒/100cm3)
JIS P-8117準拠のガーレー式透気度計(東洋精機製G-B2(商標))を用いて試料の透気度を測定した。
【0089】
(10)突刺強度(gf)
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES-G5(商標)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーで微多孔膜又はセパレータを試料として固定した。次に固定された試料の中央部を、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secで、室温23℃及び湿度40%の雰囲気下にて突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重として突刺強度(gf)を測定した。突刺試験の測定値は、膜又はセパレータのTDに沿って、両端から中央に向かって全幅の10%内側の地点2点と中央1点との計3点を測定し、それらの平均値を算出した値である。
【0090】
(11)電池安全性評価(デンドライト短絡試験)とレート特性評価
次に示す条件下、リチウム(Li)箔上に強制的にLiデンドライトが発生する状態の蓄電デバイスの充放電サイクルを繰り返し、安全性と抵抗を評価する。
【0091】
a.正極の作製
正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)を92.2質量%、導電材としてアセチレンブラックを4.6質量%、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を3.2質量%、N-メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製する。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗布し、130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形する。この時、正極の活物質塗布量は125g/m2、活物質かさ密度は3.00g/cm3になるようにする。
【0092】
b.積層体の作製
上記正極、及び負極として金属リチウム(Li)箔を用いて、正極を面積2.00cm2の円形に打ち抜き、そして負極を面積2.05cm2の円形に打ち抜いた。
【0093】
c.非水電解液
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0mol/Lとなるように溶解させて調製した。
【0094】
d.電池組み立て
正極と負極が対向するように、鉛直方向に沿って下から負極、セパレータ、正極の順に重ね、蓋付きステンレス金属製容器に収納する。容器と蓋とは絶縁されており、容器は負極としての金属リチウム箔(Li)と、蓋は正極集電体としてのアルミニウム箔と接している。この容器内に、項目c.で調製した非水電解液を注入して密閉する。
【0095】
e.電池安全性評価(デンドライト短絡試験)
上記のようにして組み立てた、セルを温度25℃雰囲気下で12hr静置保管後、CC-CV充電4.3V-40mA(6.6C)で充電を行い、CV充電のCUT OFF条件は0.03mAとした。その後、CC放電3.0V-0.6mA(0.1C)で放電の実施し、充電によるリチウム(Li)の析出に伴う充電容量を確認した。短絡の判断としては、正常時の充電容量7.0~8.5mAhとした場合、充電容量8.6mAh以上となった時、負極側に過剰なリチウム(Li)が析出し、デンドライト短絡したと判断した。同一セパレータから複数個所を試料として切り出して、複数個のセルを組み立ててデンドライト短絡試験に供することにより短絡発生割合を下記基準に従って評価した。
[評価基準]
5:短絡抑制率100%
4:短絡抑制率75%以上~100%未満
3:短絡抑制率50%以上~75%未満
2:短絡抑制率25%以上~50%未満
1:短絡抑制率0%~25%未満
【0096】
f.レート特性
上記d.で組み立てたセルを用いて以下の方法を用いて抵抗評価を行った。
25℃雰囲気下、電流値6.0mA(約1.0C)で電池電圧4.2Vまで充電し、さらに4.2Vを保持するようにして電流値を6.0mAから絞り始めるという方法で、合計約3時間充電を行い、そして電流値3mAで電池電圧3.0Vまで放電して、その時の放電容量を1C放電容量(mAh)として得た。
次に、25℃雰囲気下、電流値6.0mA(約1.0C)で電池電圧4.2Vまで充電し、さらに4.2Vを保持するようにして電流値を6.0mAから絞り始めるという方法で、合計約3時間充電を行い、そして電流値60.0mA(約10.0C)で電池電圧3.0Vまで放電して、その時の放電容量を5C放電容量(mAh)として得た。
1C放電容量に対する5C放電容量の割合を算出し、この値をレート特性として、下記基準により評価した。
レート特性(%)=5C放電容量/1C放電容量×100
[評価ランク]
5:50%以上
3:30超~50%未満
1:30%以下
【0097】
<実施例1>
ホモポリマーの高密度ポリエチレン(PE)100質量部に酸化防止剤としてテトラキス-[メチレン-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを1質量部添加し、タンブラーブレンダーでドライブレンドすることにより、混合物を得た。
得られた混合物を、窒素雰囲気下で二軸押出機へフィーダーにより供給した。
また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-5m2/s)を押出機シリンダーにプランジャーポンプにより注入した。
押し出される全混合物100質量部中の、流動パラフィンの割合が65質量部、及びポリマー濃度が35質量部となるように、フィーダー及びポンプの運転条件を調整した。
次いで、それらを二軸押出機内で200℃に加熱しながら溶融混練し、得られた溶融混練物を、T-ダイを経て表面温度80℃に制御された冷却ロール上に押し出し、その押出物を冷却ロールに接触させ、成形(cast)して冷却固化することにより、厚み1170μmのシート状成形物を得た。
【0098】
このシート状成形物を同時二軸延伸機にて、122℃でMD7倍×TD6.4倍に延伸し、その後、延伸物を塩化メチレンに浸漬して、流動パラフィンを抽出除去した後に乾燥した。その後、シートを横延伸機にて128℃で1.9倍に横延伸し、続いて135℃で最終的に横延伸機に導入された時の幅の1.65倍になるように緩和熱処理を行い、ポリオレフィン微多孔膜を得た。以下、冷却シート厚み、同時二軸延伸温度、横延伸倍率および温度、緩和熱処理倍率および温度などを調整し、得られるポリオレフィン微多孔膜の厚みなどを調整した。
【0099】
次いで、Li吸蔵粒子としてSnO2(平均粒径0.81μm)を27.8質量部、無機粒子として水酸化酸化アルミニウム(平均粒径0.99μm)を10.4質量部、アクリルラテックス(固形分濃度40%)2.1質量部、及びポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 E-D001)0.2質量部を59.5質量部の水に均一に分散し、塗布液を調整した。塗布液を上述のポリオレフィン微多孔膜上にグラビアコーターを用いて塗布した。ポリオレフィン微多孔膜上の塗布層を乾燥して水を除去し、厚み10.9μm、目付け16.3g/m2および空隙率70.8%の多孔層を有するセパレータを形成し、上記項目(3)に記載のLi吸蔵粒子Aおよび無機粒子Bの体積比(%)の測定から、SnO2が体積比46.0%、水酸化酸化アルミニウムが体積比54.0%である事を確認した。セパレータは、ポリオレフィン微多孔膜及びその上に配置された多孔層を有し、電池組み立て時に、多孔層が金属リチウム(Li)箔に対向するように配置し、デンドライト短絡試験を実施した。
【0100】
<実施例2~4,比較例1~6>
下記表1に示すとおり、Li吸蔵粒子、無機粒子、又は多孔層の条件を変更したこと以外は実施例1と同様にしてセパレータを得た。
【0101】
得られたセパレータ、及びセパレータを含む蓄電デバイスについて、上記のとおりに物性測定及び評価を行なった。結果も下記表1に示す。
【0102】