(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151401
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】自動キサゲ加工装置、自動キサゲ加工方法、情報処理装置、加工指示データの生成方法、及び加工指示データ生成プログラム
(51)【国際特許分類】
B23D 79/02 20060101AFI20231005BHJP
B23Q 17/24 20060101ALI20231005BHJP
G05B 19/408 20060101ALI20231005BHJP
B25J 13/08 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B23D79/02
B23Q17/24 Z
G05B19/408 E
B25J13/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060990
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三ツ橋 正
(72)【発明者】
【氏名】松本 健志
(72)【発明者】
【氏名】森岡 大地
【テーマコード(参考)】
3C029
3C050
3C269
3C707
【Fターム(参考)】
3C029EE20
3C050FC06
3C269AB33
3C269BB03
3C269CC09
3C269EF64
3C269EF71
3C269GG01
3C269GG06
3C269JJ09
3C269JJ10
3C269JJ19
3C269JJ20
3C269KK08
3C269MN07
3C269MN26
3C269MN46
3C269QC01
3C269QC03
3C269QD02
3C707AS01
3C707AS12
3C707BS12
3C707GS19
3C707HS27
3C707KS07
3C707KS33
3C707KT01
3C707KT06
3C707KW03
3C707KX10
3C707LU08
(57)【要約】
【課題】自動キサゲ加工に関し、相手部材の基準面に合致したキサゲ加工面を精度良く形成するための技術を提供する。
【解決手段】加工指示データを生成するプロセッサを備えた情報処理装置であって、プロセッサは、相手部材における基準面と加工対象面の何れかに表面検査剤を塗布し、摺り合わせを行った後の加工対象面を撮像した摺り合わせ画像データを取得することと、加工対象面を三次元形状計測器で計測した表面高さデータを取得することと、摺り合わせ画像データ及び表面高さデータに基づき当たり点の三次元座標を取得することと、当たり点の三次元座標に基づいて表面高さデータを補正することで表面高さ補正データを生成することと、表面高さ補正データに基づいて加工対象面の凸部を切削するための加工点データを生成することと、を含む加工指示データ生成処理を実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の加工対象面に対して自動でキサゲ加工を行う加工用ロボットを制御するための加工指示データを生成するプロセッサを備えた情報処理装置であって、
前記プロセッサは、
所定の相手部材における基準面と前記加工対象面の何れかに表面検査剤を塗布し、前記基準面及び前記加工対象面の摺り合わせを行った後の加工対象面を撮像した摺り合わせ画像データを取得することと、
前記加工対象面を三次元形状計測器で計測した表面高さデータを取得することと、
前記摺り合わせ画像データ及び前記表面高さデータに基づき、前記摺り合わせ時に前記加工対象面が前記基準面に当接した当たり点の三次元座標を取得することと、
前記当たり点の三次元座標に基づいて前記表面高さデータを補正することで表面高さ補正データを生成することと、
前記表面高さ補正データに基づいて前記加工対象面の凸部を取得し、当該凸部を切削するための加工点データを生成することと、
を含む加工指示データ生成処理を実行する、
情報処理装置。
【請求項2】
前記加工指示データ生成処理において、前記プロセッサは、複数の前記当たり点を点群とする近似平面である当たり平面を取得し、当該当たり平面を基準として前記表面高さデータを補正する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記加工指示データ生成処理において、前記プロセッサは、前記加工対象面における高さ座標軸をZ軸とした場合の当該Z軸に直交するXY平面に前記当たり平面が重なるように座標変換することによって前記表面高さデータを補正する、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
被加工物の加工対象面に対して自動でキサゲ加工を行う自動キサゲ加工装置であって、
切削刃を有するスクレーパを保持して動作させるキサゲ加工用ロボットと、
請求項1から3の何れか一項に記載の情報処理装置によって生成された加工指示データに従い前記キサゲ加工用ロボットを制御する制御装置と、
を備える、
自動キサゲ加工装置。
【請求項5】
被加工物の加工対象面に対して自動でキサゲ加工を行う自動キサゲ加工装置の制御装置がキサゲ加工用ロボットを制御する際に実行する自動キサゲ加工方法であって、
前記制御装置が、請求項1から3の何れか一項に記載の情報処理装置によって生成された加工指示データに従い前記キサゲ加工用ロボットを制御する、
自動キサゲ加工方法。
【請求項6】
被加工物の加工対象面に対して自動でキサゲ加工を行う加工用ロボットを制御するための加工指示データを生成する情報処理装置のプロセッサが実行する加工指示データの生成方法であって、
前記プロセッサは、
所定の相手部材における基準面と前記加工対象面の何れかに表面検査剤を塗布し、前記基準面及び前記加工対象面の摺り合わせを行った後の加工対象面を撮像した摺り合わせ画像データを取得することと、
前記加工対象面を三次元形状計測器で計測した表面高さデータを取得することと、
前記摺り合わせ画像データ及び前記表面高さデータに基づき、前記摺り合わせ時に前記
加工対象面が前記基準面に当接した当たり点の三次元座標を取得することと、
前記当たり点の三次元座標に基づいて前記表面高さデータを補正することで表面高さ補正データを生成することと、
前記表面高さ補正データに基づいて前記加工対象面の凸部を取得し、当該凸部を切削するための加工点データを生成することと、
を含む加工指示データ生成処理を実行する、
加工指示データの生成方法。
【請求項7】
被加工物の加工対象面に対して自動でキサゲ加工を行う加工用ロボットを制御するための加工指示データを生成する情報処理装置のプロセッサに、
所定の相手部材における基準面と前記加工対象面の何れかに表面検査剤を塗布し、前記基準面及び前記加工対象面の摺り合わせを行った後の加工対象面を撮像した摺り合わせ画像データを取得することと、
前記加工対象面を三次元形状計測器で計測した表面高さデータを取得することと、
前記摺り合わせ画像データ及び前記表面高さデータに基づき、前記摺り合わせ時に前記加工対象面が前記基準面に当接した当たり点の三次元座標を取得することと、
前記当たり点の三次元座標に基づいて前記表面高さデータを補正することで表面高さ補正データを生成することと、
前記表面高さ補正データに基づいて前記加工対象面の凸部を取得し、当該凸部を切削するための加工点データを生成することと、
を含む加工指示データ生成処理を実行させる、
加工指示データ生成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キサゲ加工を自動で行うための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
移動部を有した工作機械等の摺動面には、その平面度を高めて摺動摩擦係数を低減するために、キサゲ加工(「スクレーピング加工」ともいう)が行われる。キサゲ加工は、金属加工の一種であり、従来、被加工物(ワーク)の加工対象面(被加工面)に光明丹(鉛丹)や顔料等の表面検査剤を塗り、先端が幅広でノミ状(ヘラ状)のキサゲ工具(スクレーパ)を作業者が使って、色の違いを見ながら手作業で凸部を削り除去する作業を行っていた。
【0003】
キサゲ加工の本来の目的は、摺動面を高精度な平面に仕上げることにあるが、このキサゲ加工によって摺動面に形成されたミクロン単位の微小な凹みは、摺動時に潤滑油の油溜まりの作用をするため、摺動面の潤滑性が向上し、摺動時のリンギングを防止する効果がある。しかしながら、作業者の手作業によるキサゲ加工は、熟練が要求される作業であり、また、大変な重労働でもあった。
【0004】
これに関連して、スクレーパの動作を自動制御することによって被加工物の加工対象面に対してキサゲ加工を行う自動キサゲ加工装置も提案されている(例えば、特許文献1~3等を参照)。
【0005】
例えば、特許文献1には、ロボットアームに、金属面を撮像するカメラを取り付け、当該カメラにより得られた画像を処理して金属面上の凹凸部分の位置を検出し、その検出結果に基づいてキサゲ加工を行う自動キサゲ加工装置が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、被加工物の加工面と摺合わせ定盤の何れかに光明丹を塗布し、両者の摺合わせを行うことで加工面の凸部を色別によって判別し、その凸部を切削する技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、加工対象物の三次元形状を測定し、その測定結果に基づいて加工対象物を切削する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6294248号公報
【特許文献2】特開平05-123921号公報
【特許文献3】特開2017-170548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の自動キサゲ加工装置のように、単にカメラで撮像した画像から判別した加工対象面の凸部を切削するのでは、凸部の高さを正確に把握することができず、加工対象面を切削する際の精度が低くなる虞がある。一方、単に、被加工物の加工対象面の三次元形状を測定するだけでは、当該加工対象面を摺動させる相手部材(例えば、工作機械のガイドギブやガイドレール)の基準面の表面形状(傾斜等)を考慮した切削ができないため、相手部材に対して被加工物を摺動させた際の摺動性が悪くなってしまう虞があ
る。
【0010】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであって、被加工物の加工対象面に対して自動でキサゲ加工を行う自動キサゲ加工に関し、相手部材の基準面に合致したキサゲ加工面を精度良く形成するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(態様1)
上記課題を解決するため、本発明の態様1に係る情報処理装置は、被加工物の加工対象面に対して自動でキサゲ加工を行う加工用ロボットを制御するための加工指示データを生成するプロセッサを備えた情報処理装置であって、前記プロセッサは、所定の相手部材における基準面と前記加工対象面の何れかに表面検査剤を塗布し、前記基準面及び前記加工対象面の摺り合わせを行った後の加工対象面を撮像した摺り合わせ画像データを取得することと、前記加工対象面を三次元形状計測器で計測した表面高さデータを取得することと、前記摺り合わせ画像データ及び前記表面高さデータに基づき、前記摺り合わせ時に前記加工対象面が前記基準面に当接した当たり点の三次元座標を取得することと、前記当たり点の三次元座標に基づいて前記表面高さデータを補正することで表面高さ補正データを生成することと、前記表面高さ補正データに基づいて前記加工対象面の凸部を取得し、当該凸部を切削するための加工点データを生成することと、を含む加工指示データ生成処理を実行する。
【0012】
(態様2)
上記態様1に係る前記加工指示データ生成処理において、前記プロセッサは、複数の前記当たり点を点群とする近似平面である当たり平面を取得し、当該当たり平面を基準として前記表面高さデータを補正してもよい。
【0013】
(態様3)
上記態様2に係る前記加工指示データ生成処理において、前記プロセッサは、前記加工対象面における高さ座標軸をZ軸とした場合の当該Z軸に直交するXY平面に前記当たり平面が重なるように座標変換することによって前記表面高さデータを補正してもよい。
【0014】
(態様4)
本発明の態様4に係る自動キサゲ加工装置は、被加工物の加工対象面に対して自動でキサゲ加工を行う自動キサゲ加工装置であって、切削刃を有するスクレーパを保持して動作させるキサゲ加工用ロボットと、態様1から3の何れかに記載の情報処理装置によって生成された加工指示データに従い前記キサゲ加工用ロボットを制御する制御装置と、を備える。
【0015】
(態様5)
本発明の態様5に係る自動キサゲ加工方法は、被加工物の加工対象面に対して自動でキサゲ加工を行う自動キサゲ加工装置の制御装置がキサゲ加工用ロボットを制御する際に実行する自動キサゲ加工方法であって、前記制御装置が、態様1から3の何れかに記載の情報処理装置によって生成された加工指示データに従い前記キサゲ加工用ロボットを制御する。
【0016】
(態様6)
本発明の態様6に係る加工指示データの生成方法は、被加工物の加工対象面に対して自動でキサゲ加工を行う加工用ロボットを制御するための加工指示データを生成する情報処理装置のプロセッサが実行する加工指示データの生成方法であって、前記プロセッサは、所定の相手部材における基準面と前記加工対象面の何れかに表面検査剤を塗布し、前記基
準面及び前記加工対象面の摺り合わせを行った後の加工対象面を撮像した摺り合わせ画像データを取得することと、前記加工対象面を三次元形状計測器で計測した表面高さデータを取得することと、前記摺り合わせ画像データ及び前記表面高さデータに基づき、前記摺り合わせ時に前記加工対象面が前記基準面に当接した当たり点の三次元座標を取得することと、前記当たり点の三次元座標に基づいて前記表面高さデータを補正することで表面高さ補正データを生成することと、前記表面高さ補正データに基づいて前記加工対象面の凸部を取得し、当該凸部を切削するための加工点データを生成することと、
を含む加工指示データ生成処理を実行する。
【0017】
(態様7)
本発明の態様7に係る加工指示データ生成プログラムは、被加工物の加工対象面に対して自動でキサゲ加工を行う加工用ロボットを制御するための加工指示データを生成する情報処理装置のプロセッサに、所定の相手部材における基準面と前記加工対象面の何れかに表面検査剤を塗布し、前記基準面及び前記加工対象面の摺り合わせを行った後の加工対象面を撮像した摺り合わせ画像データを取得することと、前記加工対象面を三次元形状計測器で計測した表面高さデータを取得することと、前記摺り合わせ画像データ及び前記表面高さデータに基づき、前記摺り合わせ時に前記加工対象面が前記基準面に当接した当たり点の三次元座標を取得することと、前記当たり点の三次元座標に基づいて前記表面高さデータを補正することで表面高さ補正データを生成することと、前記表面高さ補正データに基づいて前記加工対象面の凸部を取得し、当該凸部を切削するための加工点データを生成することと、を含む加工指示データ生成処理を実行させる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、被加工物の加工対象面に対して自動でキサゲ加工を行う自動キサゲ加工に関し、相手部材の基準面に合致したキサゲ加工面を精度良く形成するための技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る自動キサゲ加工装置の概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は、ロボットハンドに保持されたスクレーパユニットを示す図である。
【
図3】
図3は、スクレーパの切削刃によってワークの加工対象面を切削している状況を側方から眺めた図である。
【
図4】
図4は、制御装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、制御装置の機能構成の一例を概略的に示すブロック図である。
【
図6】
図6は、加工対象面の表面高さデータを説明する図である。
【
図7】
図7は、摺り合わせ画像データを説明する図である。
【
図8】
図8は、当たり領域抽出画像データを説明する図である。
【
図9】
図9は、XYZ直交座標軸において各当たり領域に対応する当たり点をプロットした模式図である。
【
図11】
図11は、補正前の表面高さデータと表面高さ補正データを対比する図である。
【
図12】
図12は、加工対象面の凸部における複数の加工領域層を説明する図である。
【
図13】
図13は、加工領域層分布データを説明する図である。
【
図14】
図14は、
図13の拡大
図Aに示す領域における各加工領域層の平面分布、高さ分布、及び各加工領域層の切削手順を説明する図である。
【
図15】
図15は、切削条件情報テーブルを説明する図である。
【
図16】
図16は、平面分割パターンデータを説明する図である。
【
図17】
図17は、切削対象区分領域を模式的に示す図である。
【
図18】
図18は、加工点リストデータを説明する図である。を説明する図である。
【
図19】
図19は、制御装置のプロセッサによって実行されるフローチャートである。
【
図20】
図20は、比較例に係る平面出し加工処理の概略を説明する図である。
【
図21】
図21は、実施形態に係る平面出し加工処理の概略を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本発明は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0021】
<実施形態1>
(加工装置の概略構成)
図1は、実施形態1に係る自動キサゲ加工装置1の概略構成を示す図である。
図1に示すように、自動キサゲ加工装置1は、制御装置100、ロボットアーム200、三次元形状計測器300、カメラ400等を備えている。
【0022】
自動キサゲ加工装置1は、被対象物であるワーク10の加工対象面(被加工面)11に対してキサゲ加工(スクレーピング加工)を自動で行う装置である。ワーク10は、例えば、工作機械等を構成する金属製の摺動部材であり、その摺動面を加工対象面11とすることができる。キサゲ加工は金属加工の一種であり、キサゲ工具(切削工具)であるスクレーパを用いて加工対象面11の凸部を削り取り、加工対象面11の平面度を高めることによって摺動摩擦係数を低減させる。また、キサゲ加工の本来の目的は、摺動面を高精度な平面に仕上げることにあるが、摺動面の摺動時にリンギング(Wringing)現象が発生することを防止すべく、キサゲの仕上加工においては摺動面にミクロン単位の微小な多数の窪みを潤滑油の油溜まりとして形成し、摺動面の潤滑性を向上させるようにしている。
【0023】
ロボットアーム200は、例えば、6軸の多関節ロボットアームであり、制御装置100によって制御される。ロボットアーム200は、その先端側にロボットハンド210を有し、このロボットハンド210にスクレーパユニット20やハンドチャック30を着脱自在に保持(把持)することが可能である。すなわち、ロボットアーム200は、ロボットハンド210にスクレーパユニット20及びハンドチャック30を選択的に付け替えることができる。そして、ロボットアーム200は、各関節(例えば、第1軸~第6軸)をサーボモータ等によって駆動することで、ロボットハンド210をXYZ三次元直交座標系の任意の位置へと移動させることができる。
【0024】
図2は、ロボットハンド210に保持されたスクレーパユニット20を示す図である。スクレーパユニット20は、ロボットハンド210に着脱自在なホルダ部21と、当該ホルダ部21と一体に設けられたキサゲ工具(切削工具)であるスクレーパ22等を備えるアタッチメントである。スクレーパ22は、可撓性を有する金属材料により形成された略帯板形状のスクレーパ本体23と、スクレーパ本体23の先端側に取り付けられた切削刃24等を含んで構成されている。切削刃24は、例えば超硬合金によって形成されており、例えば鋳物で形成されたワーク10の加工対象面11を切削することが可能である。図中の符号Wは切削刃24の幅寸法を表す。符号25は、切削刃24の刃先である。
図2に示す刃先25は円弧(ラウンド)形状を有しているが、刃先25の形状については特に限定されない。例えば、刃先25は直線形状を有していてもよい。勿論、円弧形状を有する刃先25を用いる場合、その曲率半径(刃先端半径)についても特に限定されない。例えば、ロボットハンド210には、切削刃24(刃先25)の幅寸法W、曲率半径(刃先端
半径)等のサイズが異なるスクレーパユニット20を付け替えることができる。
【0025】
ワーク10の加工対象面11に対するキサゲ加工は、例えば
図1に示す加工用架台C1にワーク10を固定し、ロボットハンド210にスクレーパユニット20を保持した状態でロボットアーム200を制御することによって行われる。加工用架台C1の表面は、X-Y平面に平行な平面状に形成されている。
【0026】
図3は、スクレーパ22の切削刃24によってワーク10の加工対象面11を切削している状況を側方から眺めた図である。キサゲ加工では、加工対象面11に切削刃24の刃先25を斜めに当てがい、ロボットハンド210を-Z方向に駆動して加工対象面11に切削刃24を押し付けた状態からロボットハンド210をX-Y平面と平行にストローク(以下、その方向(
図3中、白抜き矢印)を「ストローク方向」と呼ぶ)させることによって、加工対象面11をミクロンオーダー或いはサブミクロンオーダーの厚さずつ切削する。
【0027】
なお、
図3に示す符号θは、加工対象面11を切削刃24によって切削する際に当該切削刃24とX-Y平面とがなす角度である(以下、「工具角度」という)。ロボットアーム200は、例えば、キサゲ加工時における工具角度θとロボットハンド210の垂直押し込み量(-Z方向への変位量)δzを制御パラメータとすることで、スクレーパ22の1ストローク当たりに加工対象面11を切削する切削深さΔDS、及び切削幅WCを調整することができる。ここで、ロボットハンド210の垂直押し込み量(-Z方向への変位量)δzは、例えば、三次元形状計測器300によって計測される加工対象面11の基準点における高さを基準高さ(ゼロ点)として設定される。加工対象面11における基準点の位置(XY座標)は特に限定されない。例えば、加工対象面11の隅部を基準点に設定し、その表面高さを基準高さとしてもよい。なお、スクレーパ22のスクレーパ本体23は上記の通り可撓性を有するため、スクレーパ本体23が撓った状態で加工対象面11の切削が行われる。そのため、加工対象面11の切削深さがミクロンオーダー或いはサブミクロンオーダーの寸法であるのに対して、切削時におけるロボットハンド210の垂直押し込み量δzはミリオーダーの変位量として設定することができる。
【0028】
次に、ハンドチャック30について説明する。ハンドチャック30は、架台間でワーク10を移動させる際に、当該ワーク10を把持するためのアタッチメントであり、ロボットハンド210に着脱自在となっている。
図1に示すレイアウトでは、例えば、加工用架台C1、計測用架台C2、摺り合わせ用架台C3間でワーク10を移動させる際に用いられる。すなわち、ロボットアーム200は、ロボットハンド210に装着したハンドチャック30によってワーク10を把持することで、各架台間でワーク10を自由に移動させることができる。
【0029】
計測用架台C2は、三次元形状計測器300やカメラ400が併設されており、三次元形状計測器300やカメラ400を用いて加工対象面11の計測を行う際にワーク10を載置するための架台である。計測用架台C2の表面も、X-Y平面に平行な平面状に形成されている。
【0030】
三次元形状計測器300は、ワーク10における加工対象面11の三次元形状を計測するための計測機器である。三次元形状計測器300は、例えば、白色光干渉方式の計測器であり、加工対象面11の三次元形状データ(凹凸形状データ)を高精度に取得することができる。但し、三次元形状計測器300は、加工対象面11の凹凸形状データ(表面高さデータ)を計測できれば特に限定されず、例えば三次元レーザスキャナ等を用いてもよい。また、三次元形状計測器300は、加工対象面11の凹凸形状データを非接触で取得する「非接触式」の計測器であってもよいし、加工対象面11にプローブ等を接触させる
ことで当該加工対象面11の凹凸形状データを取得する「接触式」の計測器であってもよい。
【0031】
カメラ400は、ワーク10における加工対象面11を撮像する撮像装置である。
【0032】
摺り合わせ用架台C3は、ワーク10の加工対象面11を摺動させるための相手部材12(例えば、工作機械のガイドギブやガイドレール)を設置可能な架台である。本実施形態においては、ワーク10の加工対象面11を、相手部材12の基準面13の形状に合わせてキサゲ加工するため、摺り合わせ用架台C3においてワーク10の加工対象面11と相手部材12の基準面13との摺り合わせを行うようになっている。なお、摺り合わせ用架台C3の表面を基準面13として形成し、当該基準面13に対してワーク10の加工対象面11を摺り合わせるようにしてもよい。この場合には、摺り合わせ用架台C3自体がワーク10の加工対象面11を摺り合わせる相手部材となる。その他、自動キサゲ加工装置1は、スクレーパユニット20を載置するための工具載置用架台C4や、ハンドチャック30を載置するためのハンドチャック用架台C5等を備えていてもよい。
【0033】
また、ロボットアーム200は、更に、力覚センサ220を備えている。力覚センサ220は、キサゲ加工時に、スクレーパ22に作用する負荷(抵抗)を検出するセンサである。自動キサゲ加工装置1の制御装置100は、力覚センサ220が出力するキサゲ加工中における負荷の状態を監視(モニタリング)し、必要に応じて、負荷の強弱に基づいたフィードバック制御を行うことができる。
【0034】
上述したロボットアーム200は本発明に係るキサゲ加工用ロボットの一例であり、キサゲ加工用ロボットはロボットアーム200に限定されない。本発明に係るキサゲ加工用ロボットは、保持したスクレーパを動作させることによってワーク10の加工対象面11に対して自動でキサゲ加工を行うことができる構成であれば特に限定されない。
【0035】
次に、自動キサゲ加工装置1の制御装置100について説明する。制御装置100は、加工指示データに従ってロボットアーム200を制御し、その結果、ワーク10の加工対象面11に対して加工指示データに応じたキサゲ加工が行われる。また、制御装置100は、ロボットアーム200を制御するための加工指示データを生成する。すなわち、制御装置100は、ロボットアーム200を制御する装置として機能すると共に、ロボットアーム200を制御する際に用いる加工指示データを生成するための情報処理装置(加工指示データ生成装置)として機能する。但し、ロボットアーム200を制御するための加工指示データは、制御装置100とは別の情報処理装置(加工指示データ生成装置)によって生成されてもよい。この場合、当該情報処理装置(加工指示データ生成装置)が生成した加工指示データを制御装置100が取得し、取得した加工指示データに従って制御装置100がロボットアーム200を制御する。なお、情報処理装置(加工指示データ生成装置)から制御装置100への加工指示データの送信は有線通信または無線通信のいずれによって行われてもよい。
【0036】
図4は、制御装置100の構成の一例を示すブロック図である。制御装置100は、例えば、一般的なコンピュータである。制御装置100を構成するコンピュータは、通信インターフェース(通信I/F)101、記憶装置102、入出力装置103、及びプロセッサ104を備え、これらが通信バス105を介して接続されている。
【0037】
通信I/F101は、例えばネットワークカードや通信モジュールであってもよく、所定のプロトコルに基づき、他のコンピュータ、機器等と通信を行う。例えば、制御装置100は、通信I/F101を介してワーク10における加工対象面11の三次元形状情報を三次元形状計測器300から受信する。
【0038】
記憶装置102は、例えば、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の主記憶装置、及びHDD(Hard-Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の補助記憶装置(二次記憶装置)を含んでいる。主記憶装置は、プロセッサ104が読み出すプログラムや他のコンピュータとの間で送受信する情報を一時的に記憶したり、プロセッサ104の作業領域を確保したりする。補助記憶装置は、プロセッサ104が実行するプログラムや他のコンピュータとの間で送受信する情報等を記憶する。また、補助記憶装置は、リムーバブルメディア(可搬記録媒体)を含んでいてもよい。リムーバブルメディアは、例えば、USBメモリ、SDカード、または、CD-ROM、DVDディスク、若しくはブルーレイディスクのようなディスク記録媒体である。記憶装置102(例えば、補助記憶装置)には、オペレーティングシステム(OS)、各種プログラム、および各種情報テーブル等が格納されている。
【0039】
入出力装置103は、例えば、キーボード、マウス等の入力装置、モニタ等の出力装置、タッチパネルのような入出力装置等のユーザインターフェースである。
【0040】
プロセッサ104は、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等の演算処理装置であり、プログラムを実行することにより本実施形態に係
る各処理を行う。例えば、プロセッサ104が、記憶装置102の補助記憶装置に記憶されたプログラムを主記憶装置にロードして実行することによって、後述するような加工指示データを生成するための加工指示データ生成処理等といった各種の処理が実現される。
【0041】
なお、制御装置100は、必ずしも単一の物理的構成によって実現される必要はなく、互いに連携する複数台のコンピュータによって構成されてもよい。
【0042】
次に、制御装置100の機能構成について
図5に基づいて説明する。
図5は、制御装置100の機能構成の一例を概略的に示すブロック図である。制御装置100は、加工指示データ生成部110、制御部111を機能部として有している。制御装置100のプロセッサ104は、記憶装置102の補助記憶装置に記憶されたプログラムを主記憶装置にロードして実行することにより、上述した各機能部を実現する。加工指示データ生成部110は、加工指示データを生成する加工指示データ生成処理を実行する。制御部111は、データ生成部110が生成した加工指示データを取得し、当該加工指示データに従ってロボットアーム200を制御する。
【0043】
次に、自動キサゲ加工装置1のキサゲ加工に係る各処理について説明する。ここでは、ワーク10に対するキサゲ加工の一例として、加工対象面11の平面度が所定の目標平面度を満たすように加工対象面11の凸部を切削する平面出し加工処理を実行し、当該平面出し加工処理の後に、加工対象面11に油溜まり用の窪みを形成する仕上げ加工処理を実行する例について説明する。このように、ワーク10の加工対象面11に対するキサゲ加工を行うに際し、平面出し加工処理と仕上げ加工処理とに分離して行うことによって加工効率を向上させることができる。
【0044】
ここで、制御装置100が平面出し加工処理を実行する際に使用する加工指示データ(以下、「平面出し用加工指示データ」という)を生成する処理(平面出し用加工指示データ生成処理)について説明する。
【0045】
平面出し加工用指示データの生成に際し、加工指示データ生成部110は、三次元形状計測器300の計測データに基づき、加工対象面11の表面高さデータを取得する。
図6は、加工対象面11の表面高さデータを説明する図である。表面高さデータは、加工対象面11の平面方向(X-Y平面方向)における各座標(各測定点)に対応する高さ(Z座
標)を示す情報である。三次元形状計測器300による加工対象面11の表面高さの計測は、ワーク10を載置した計測用架台C2において予め行っておき、それによって得られた表面高さデータを記憶装置102に記憶しておくことができる。加工指示データ生成部110は、記憶装置102から表面高さデータを読み出すことで取得することができる。
【0046】
また、加工指示データ生成部110は、カメラ400の計測データに基づき、摺り合わせ画像データを取得する。この摺り合わせ画像データとは、
図1に示す相手部材12の基準面13と、加工対象面11の何れかに表面検査剤を塗布した後、基準面13及び加工対象面11の摺り合わせを行った後の加工対象面11をカメラ400によって撮像した画像データである。
図7は、摺り合わせ画像データを説明する図である。
【0047】
ワーク10と相手部材12との摺り合わせについて、例えば、相手部材12の基準面13に光明丹(鉛丹)や顔料等の表面検査剤を塗布した後、ワーク10の加工対象面11を基準面13に摺り合わせる。その結果、加工対象面11のうち、摺り合わせによって基準面13と当接した箇所(以下、「当たり領域」という)に表面検査剤が付着する。このように、基準面13に摺り合わせた後の加工対象面11をカメラ400によって撮像することで、加工対象面11の当たり領域に表面検査剤が付着した状態での摺り合わせ画像を取得することができる。すなわち、摺り合わせ画像は、加工対象面11のうち、相手部材12の基準面13に摺動させた際に当該基準面13に当接する当たり領域を、他の領域(基準面13に当接しない領域)と色別によって識別するための画像である。
【0048】
一方、本実施形態においては、上記摺り合わせを行う際、相手部材12の基準面13ではなく、ワーク10の加工対象面11に表面検査剤を塗布してもよい。この状態で、加工対象面11を基準面13に摺り合わせると、加工対象面11に塗布された表面検査剤が当たり部からだけ取り除かれることとなる。つまり、この場合には、加工対象面11における当たり領域から表面検査剤が剥がれ、他の領域には表面検査剤が残った状態となる。このような摺り合わせ後の加工対象面11をカメラ400によって撮像する場合には、加工対象面11の当たり領域だけに表面検査剤が付着していない状態の摺り合わせ画像を取得できる。
【0049】
なお、
図7に摺り合わせ画像は、相手部材12の基準面13に表面検査剤を塗布して摺り合わせを行った後の加工対象面11を撮像して得られたものである。すなわち、
図7において色の濃い領域が加工対象面11の当たり領域に相当する。
【0050】
なお、カメラ400を用いた摺り合わせ後における加工対象面11の撮像は、摺り合わせ後のワーク10を載置した計測用架台C2において予め行っておき、それによって得られた摺り合わせ画像データを記憶装置102に記憶しておくことができる。加工指示データ生成部110は、記憶装置102から摺り合わせ画像データを読み出すことで取得することができる。
【0051】
加工対象面11の平面出し加工処理においては、表面高さデータから加工対象面11の凸部を取得し、当該凸部を切削することで加工対象面11の平面度を高めるものである。しかしながら、上記のように、三次元形状計測器300の計測データに基づいて取得した表面高さデータは、XYZ三次元直交座標系における加工対象面11の各点における高さ(Z座標)を示す情報である。そのため、加工対象面11をX-Y平面に平行な目標平面に如何に精度良く切削したとしても、その目標平面が相手部材12の基準面13の表面形状(傾斜等)に合致するとは限らない。つまり、キサゲ加工後におけるワーク10の加工対象面11と相手部材12における基準面13との摺動性を高めるためには、基準面13の凹凸形状(傾斜等)に合致する平面に加工対象面11を仕上げることが重要である。
【0052】
そこで、本実施形態における平面出し用加工指示データ生成処理では、ワーク10の加工対象面11を摺り合わせる対象となる相手部材12の基準面13の表面形状(傾斜等)を考慮した平面出し用加工指示データを生成することを特徴とする。以下、その詳細について説明する。
【0053】
加工指示データ生成部110は、取得した摺り合わせ画像データ及び表面高さデータに基づき、加工対象面11と基準面13の摺り合わせ時に加工対象面11が基準面13に当接した当たり点の三次元座標を取得する。具体的には、まず、加工指示データ生成部110が、摺り合わせ画像データに対して輪郭検出等の画像処理を施し、加工対象面11の当たり領域を抽出することで
図8に示すような当たり領域抽出画像データを生成する。
図8に示される黒い領域は、当たり領域14を模式的に示したものである。
【0054】
そして、加工指示データ生成部110は、例えば当たり領域抽出画像データと表面高さデータを重ね合わせ、当たり領域14毎に、各当たり領域14の重心平面座標(x,y)と、平均高さ(z)を求め、その三次元座標(x,y,z)で特定される点を「当たり点」と
して特定する。上述した重心とは、幾何学的な重心を意味しており、各当たり領域14内(輪郭内)における1次のモーメントの総和がゼロになる点として特定できる。また、平均高さ(z)は、各当たり領域14内(輪郭内)に含まれる各測定点における高さデータ
の平均値である。加工指示データ生成部110は、当たり領域抽出画像データにおける当たり領域14における重心平面座標(x,y)と、平均高さ(z)を、表面高さデータに基
づいて演算することができる。
【0055】
図9は、XYZ直交座標軸において各当たり領域14に対応する当たり点15をプロットした模式図である。加工指示データ生成部110は、上記のように求めた複数の当たり点15を点群とする近似平面である当たり平面APを取得する。
図10は、当たり平面APを説明する図である。なお、作図の便宜上、
図8においては、一部の当たり領域のみに符号14を付している。同様に、
図9及び
図10においては、一部の当たり点のみに符号15を付している。
【0056】
各当たり点15を点群とする当たり平面APの算出手法は特に限定されないが、例えば、最小二乗法を用いて算出する手法が挙げられる。加工指示データ生成部110は、各当たり点15を点群として最小二乗法を用いて算出した最小二乗平面を当たり平面APとして取得することができる。このように取得した当たり平面APは、加工対象面11の当たり点15の3次元的な分布を反映した平面であり、加工対象面11の摺り合わせ対象となる基準面13の表面形状(傾斜等)を反映した平面とも言える。
【0057】
加工指示データ生成部110は、各当たり点15の三次元座標(x,y,z)に基づいて表面高さデータを補正することで表面高さ補正データを生成する。具体的には、加工指示データ生成部110は、上述した当たり平面APを基準として表面高さデータを補正する。より詳しくは、ワーク10の加工対象面11における高さ座標軸をZ軸とした場合の当該Z軸に直交するX-Y平面と当たり平面APが重なるように座標変換することによって表面高さデータを補正する。すなわち、加工対象面11の各平面座標に対応する補正後の高さデータ(以下、「補正後高さデータ」という)は、当たり平面APをX´-Y´平面とするX´Y´Z´三次元直交座標系にXYZ三次元直交座標系を変換したときのZ´軸座標の値として求めることができる。加工指示データ生成部110は、このようにして当初の表面高さデータに係る高さデータを当たり平面APを基準として補正した表面高さ補正データを生成する。
【0058】
図11は、補正前の表面高さデータと表面高さ補正データを対比する図である。左に補正前の表面高さデータを示し、右側に表面高さ補正データを示している。補正前(オリジ
ナル)の表面高さデータは、X-Y平面を基準としたときの加工対象面11における各点の高さを表している。一方、表面高さ補正データにおいては、当たり平面APを基準としたときの加工対象面11における各点の高さを表している。補正前後の両図を対比すると、まず、破線丸Aの領域(左上)については、低くなるように高さデータが補正されていることが分かる。逆に、破線丸Bの領域(右下)については、高くなるように高さデータが補正されていることが分かる。
図11は例示的なものであるが、本実施形態においては、加工対象面11の高さデータを、相手部材12における基準面13の表面形状(傾斜等)を反映した当たり平面APを基準とした高さデータに変換することができる。
【0059】
上記のように表面高さ補正データを生成した加工指示データ生成部110は、当該表面高さ補正データに基づいて、加工対象面11の凸部を取得する。加工対象面11の凸部は、表面高さ補正データに含まれる高さデータ(Z座標)のうち最も低い位置を基準として相対的に隆起した部位である。加工指示データ生成部110は、例えば、表面高さ補正データに基づいて、平面出し加工処理前の加工対象面11の形状をモデル化し、初期形状S1として取得する。そして、この初期形状S1と、平面出し加工処理後に形成されるべき加工対象面11の目標平面(目標形状)S2との差分形状を、加工対象面11の凸部S3(平面出し加工処理で切削すべき対象となる部位)として取得してもよい。加工対象面11の目標平面S2は、加工対象面11の高さ(Z座標)が最も低い位置を通り、且つX-Y平面に平行な平面形状として設定してもよい。
【0060】
加工指示データ生成部110は、加工対象面11における凸部S3を、その高さ方向にX-Y平面と平行な加工平面によって区分し、複数の加工領域層CRを設定する。
【0061】
図12は、加工対象面11の凸部S3における複数の加工領域層CRを説明する図である。
図12には、X=X1上(X1は、X軸上における座標)における加工対象面11の凸部S3の形状を模式的に示している。
図12に示す符号S0は、加工対象面11における凸部S3のうち、当該凸部S3において高さ(Z座標)が最も高い位置を通り且つX-Y平面に平行な仮想平面である。
図12に示す符号VPは、凸部S3を高さ方向に区分する仮想的な加工平面である。加工平面VPは、仮想平面S0及び目標平面S2と平行(すなわち、X-Y平面に平行)、且つこれら平面S0,S2間に間隔をおいて設定される。
図12には、4つの加工平面VPによって凸部S3を5つの加工領域層CR1~CR5に区分した態様を例示している。
【0062】
次に、加工指示データ生成部110は、加工対象面11における各加工領域層CRの平面的な分布を等高線状に示す加工領域層分布データを生成する。
図13は、加工領域層分布データを説明する図である。
図13においては、作図上、加工対象面11の一部のみについて各加工領域層CRの分布を等高線状に示している(拡大
図Aを参照)。
図13の拡大
図Aにおいて実線で示される等高線は、各加工領域層CR1~CR5同士の境界位置、及び、最下層に位置する加工領域層CR5と目標平面S2との境界位置を示している。すなわち、拡大
図Aに示される等高線は、各加工平面VP及び目標平面S2によって加工対象面11の凸部S3を仮想的に切断したときの切り口と一致している。
【0063】
図14は、
図13の拡大
図Aに示す領域における各加工領域層CRの平面分布、それに対応する高さ分布、及び、各加工領域層CRの切削手順を説明する図である。(A)は各加工領域層CRの平面分布、(B)は各加工領域層CRの高さ分布を示す。また、(C)は加工領域層CR1の切削範囲、(D)は加工領域層CR2の切削範囲を示す。(C)における黒塗り部分は、加工領域層CR1の切削範囲外の領域を表す。(D)における黒塗り部分は、加工領域層CR2の切削範囲外の領域を表す。本実施形態に係る平面出し加工処理は、加工対象面11の凸部S3を、最上層に位置する加工領域層CR(
図12及び
図14に示す例では加工領域層CR1)から、最下層に位置する加工領域層CR(
図12及
び
図14に示す例では、加工領域層CR5)まで、これらの順に加工領域層CR毎に順次切削する。そのため、加工指示データ生成部110は、加工対象面11の凸部S3を切削する際に用いる平面出し加工用指示データを、加工領域層CR毎に生成する。
【0064】
なお、
図12及び
図14に示す符号ΔHは、加工対象面11の凸部S3を複数の加工領域層CRに区分する際の割り付け高さである。例えば、各加工領域層CRの割り付け高さΔHは、スクレーパ22の1ストローク当たりの切削深さΔDSに対応する寸法に設定される。これにより、平面出し加工処理で凸部S3を切削する際、スクレーパ22の1ストローク毎に、加工領域層CR1つ分に相当する厚さを切削することができる。
【0065】
例えば、加工指示データ生成部110は、各加工領域層CRの割り付け高さΔHを、予め定められた固定値(例えば、1μm程度)に設定してよい。或いは、凸部S3の最大高低差(加工対象面11の高さ(Z座標)が最も低い地点と最も高い地点におけるZ軸方向の高低差)に応じて、各加工領域層CRの割り付け高さΔHを均等に設定してもよい。但し、各加工領域層CRにおける割り付け高さΔHを同じ値として設定する必要はなく、各層の割り付け高さΔHとして異なる値を設定してもよい。例えば、各加工領域層CRにおける割り付け高さΔHが、凸部S3の上側(+Z方向側)から下側(-Z方向側)に向かって段階的に小さくなるように設定してもよい。
【0066】
また、加工指示データ生成部110は、ユーザから指定された値を用いて凸部S3を高さ方向に区分する際の割り付け高さΔHを設定してもよい。この場合、例えば、キサゲ加工処理の開始前に出力装置103を介したユーザによる入力操作を受け付けておき、割り付け高さΔHを含む入力情報(設定情報)を記憶装置102に記憶しておいてもよい。勿論、加工指示データ生成部110が、各加工領域層CRの割り付け高さΔHを自動で設定してもよい。
【0067】
また、上記の通り、スクレーパ22の1ストローク当たりの切削深さΔDSは、上述した工具角度θと垂直押し込み量δzとの関係と相関する。そのため、加工指示データ生成部110は、
図15に示すような切削条件情報テーブルに基づいて各加工領域層CRの割り付け高さΔHを自動設定してもよい。切削条件情報テーブルは、工具角度θ、垂直押し込み量δz、切削幅WC、切削深さΔDSの関係を示すデータである。切削幅WC及び切削深さΔDSのフィールドには、工具角度θと垂直押し込み量δzの組み合わせに対応する切削幅WC及び切削深さΔDSの値が登録されている。切削条件情報テーブルは、いわゆるデータベースのテーブルであってもよいし、CSV(Comma Separated Values)のような所定の形式のファイルであってもよい。このような切削条件情報テーブルは、予め記憶装置102に記憶されている。加工指示データ生成部110は、切削条件情報テーブルを読み出し、当該切削条件情報テーブルの切削深さΔDSのフィールドに登録されている値を抽出し、その値を各加工領域層CRの割り付け高さΔHとして設定してもよい。
【0068】
次に、加工指示データ生成部110は、加工対象面11の平面領域(X-Y平面領域)を所定の分割パターンDPで区分した平面分割パターンデータを生成する。
図16は、平面分割パターンデータを説明する図である。
図16に示す分割パターンは一例であるが、加工対象面11の平面領域に多数の矩形領域がグリッド状に配列するようなグリッドパターン(図中、鎖線で示す)で当該平面領域を区分している。加工対象面11の平面領域を分割パターンDPで区分することで割り当てられる個々の領域を区分領域RAと呼ぶ。
【0069】
図16に示すように、各区分領域RAには、切削刃24のストローク経路PS(図中破線で図示)が設定されている。ストローク経路PSは、加工対象面11の切削時に切削刃24がX-Y平面に沿ってストローク動作する際、切削刃24の幅方向中心位置が通過する平面的な経路である。すなわち、加工対象面11の切削時において、切削刃24の刃先
25を加工対象面11に押し付けた状態で上記ストローク経路PSに沿って切削刃24の幅方向中心位置が通過するようにストローク動作させることで、該当する区分領域RAの切削が行われる。なお、後述するように、加工対象面11の切削時においては、ストローク経路PSの全区間を切削刃24がストロークすることもあるが、一部区間のみを切削刃24がストロークする場合もある。各区分領域RAにおけるストローク経路PSの設定態様は特に限定されないが、
図16に示す例では全て同じ向きに配向されている。また、分割パターンDPが加工対象面11の平面領域を区分するパターンは特に限定されない。
【0070】
各区分領域RAにそれぞれ設定されるストローク経路PSは、区分領域RAにおける長辺方向の一端を始点とすると共に他端を終点としている。また、ストローク経路PSは、各区分領域RAにおける短辺方向(幅方向)における中央位置を通る位置に設定されている。各区分領域RAの幅寸法は、平面出し加工処理を行う際に使用される切削刃24の幅寸法W(
図2を参照)と同じ寸法に設定されていてもよい。
【0071】
また、刃先25が円弧形状を有する切削刃24を用いて切削する場合、刃先25の幅方向における端部領域が加工対象面11と接触せずに(浮いた状態で)ストロークがなされる場合がある。その場合には、切削刃24によって加工対象面11が切削される際の切削幅WCが、切削刃24の幅寸法Wよりも小さくなる場合がある。そこで、区分領域RAの幅寸法は、切削刃24の幅寸法Wよりも小さな寸法に設定されていてもよい。勿論、切削刃24の刃先25が円弧形状を有する場合であっても、切削条件によっては切削時における切削幅WCが切削刃24の幅寸法Wと実質的に等しくなる場合もある。例えば、加工対象面11の切削時における垂直押し込み量δzが大きい場合には、切削時における切削幅WCが切削刃24の幅寸法Wと実質的に等しくなり易い。また、各区分領域RAのサイズは特に限定されないが、例えば幅寸法が数mm程度、当該幅寸法と直交する長さ寸法(長辺寸法)が10数mm程度であってもよい。なお、
図16において、各区分領域RAは模式的に示されており、図示されている各区分領域RAの加工対象面11に対する相対的な大きさは実際と異なっている。
【0072】
上記のように、本実施形態に係る平面出し加工処理は、上層の加工領域層CRから順に加工領域層CR単位での切削を行う。そのため、後述するように、加工対象面11の平面領域に割り当てられた区分領域RAのうち、加工領域層CR毎に切削対象となる切削対象区分領域RB(詳しくは後述する)を特定し、加工領域層CR毎に切削対象区分領域RBを切削する。切削対象区分領域RBの切削時において、上述したストローク経路PS上を辿るように切削刃24がストロークされることとなるが、その際、ストローク経路PSの始点から終点までの全区間を切削刃24がストロークするとは限らない。例えば、切削対象区分領域RBの全領域が切削対象となる加工領域層CRと重なる場合には、その切削対象区分領域RBにおけるストローク経路PSの全区間を切削刃24がストロークするようにストローク区間(後述する加工パスPT)が設定される。一方、切削対象区分領域RBの一部のみが切削対象となる加工領域層CRと重なる場合には、その切削対象区分領域RBにおけるストローク経路PSの一部区間のみを切削刃24がストロークするようにストローク区間が設定される。
【0073】
加工指示データ生成部110は、上記のように生成した加工領域層分布データ及び平面分割パターンデータに基づいて、加工領域層CR毎に対応する切削対象区分領域RBを設定する。具体的には、加工指示データ生成部110は、加工領域層分布データから加工対象面11における各加工領域層CRの平面的な分布範囲(形成範囲)を取得する。そして、加工指示データ生成部110は、各加工領域層CRの平面的な分布範囲(形成範囲)と平面分割パターンデータに基づいて、切削対象区分領域RBを設定する。
【0074】
加工領域層CR毎に対応する切削対象区分領域RBを特定するに当たり、加工指示デー
タ生成部110は、加工対象面11における各加工領域層CRの平面的な分布範囲と、加工対象面11の平面領域に割り当てられた区分領域RAとを重ね合わせる。そして、加工領域層CR毎に、加工領域層CRと平面的に重なる区分領域RAを当該加工領域層CRに対応する切削対象区分領域RBとして特定する。ここでいう「平面的に重なる」とは、個々の区分領域RAの全体が対象となる加工領域層CRと平面的に重なっている必要は無く、その領域の少なくとも一部が当該加工領域層CRと平面的に重なっていればよい。
【0075】
図17は、任意の加工領域層CRに対応する切削対象区分領域RBを模式的に示す図である。
図17中に示す格子状の鎖線は分割パターンDPによって加工対象面11の平面領域をグリッド状に区分する区分位置を示しており、分割パターンDPによって区分された各矩形領域が区分領域RAに該当する。また、図中の実曲線は、切削対象区分領域RBを特定する対象となる加工領域層CR(ここでは加工領域層CR1として説明する)と、他の加工領域層CR(ここでは、加工領域層CR2として説明する)の境界線を示している。
図17において、境界線を境に右側が加工領域層CR1の範囲内領域、左側が加工領域層CR1の範囲外領域となっている。
【0076】
図17における区分領域RAのうち、ハッチングしている部分は、対象加工領域層である加工領域層CR1と平面的に重なっていない区分領域RAに該当し、これを切削非対象区分領域RCとして図示している。一方、区分領域RAのうち、ハッチングされていない部分は、少なくとも一部が対象となる加工領域層CR1と平面的に重なっているため、切削対象区分領域RBに設定される。
【0077】
加工領域層CR1の切削を行う際には、
図17に示す切削非対象区分領域RCは切削されず、切削対象区分領域RBの一区間又は全区間が切削される。本実施形態においては、切削対象区分領域RB毎に、切削時に切削刃24が辿る加工パスPTの始点となる加工(切削)開始点Psと、終点となる加工(切削)終了点Peが、ストローク経路PS(図中破線で示す)に設定される。
図17において、加工パスPTは矢印で示されており、各矢印の始点(図中、丸印)が加工開始点Psに対応し、終点(図中、矢の先端)が加工終了点Peに対応している。加工パスPTは、ストローク経路PSに設定される加工開始点Ps及び加工終了点Peを結ぶ線であるため、勿論、ストローク経路PS上に設定される。加工パスPTは、切削対象区分領域RBの切削時に、切削刃24がストロークするストローク経路PS上の区間に相当する。
【0078】
図17に示される例では、各切削対象区分領域RBの一部のみが対象となる加工領域層CR(ここでは加工領域層CR1)と重なっている。この場合には、
図17に示すように、各切削対象区分領域RBにおけるストローク経路PSの一部区間のみに加工パスPTが設定される。加工パスPTが設定されるストローク経路PSの区間は、各切削対象区分領域RBが対象となる加工領域層CR(ここでは加工領域層CR1)と平面的に重複する区間に対応付けられる。言い換えると、各切削対象区分領域RBが対象となる加工領域層CR(ここでは加工領域層CR1)と平面的に重複する区間に加工パスPTが設定されるように、ストローク経路PS上に加工開始点Ps及び加工終了点Peが設定される。なお、切削対象区分領域RBの全体が加工領域層CRと重なる(加工領域層CRの領域内に含まれる)場合には、その切削対象区分領域RBにおけるストローク経路PSの全区間に加工パスPTが設定される。なお、
図17に示す例では、加工領域層CR1に対応する切削対象区分領域RBについて説明したが、他の加工領域層CRについても同じ要領で対応する切削対象区分領域RBが設定される。
【0079】
以上のようにして、加工領域層CR毎に切削対象区分領域RBを特定した後、加工指示データ生成部110は、加工領域層CR毎の制御パラメータ情報を生成する。制御パラメータ情報は、自動キサゲ加工装置1のロボットアーム200によって加工対象面11の凸
部S3を加工領域層CR毎に切削する際の各制御パラメータの制御値を含む情報であり、加工領域層CR毎に生成することができる。
【0080】
制御パラメータ情報は、例えば、工具角度θ及び垂直押し込み量δzの各制御値と加工点リストデータを含み、加工領域層CR毎に生成される。上記のように、工具角度θ及び垂直押し込み量δzの組み合わせはスクレーパ22の1ストローク当たりの切削深さΔDS及び及び切削幅WCに相関する。そのため、加工指示データ生成部110は、加工領域層CR毎に制御パラメータ情報を生成する際、対象となる加工領域層CRに設定されている割り付け高さΔH及び区分領域RAの幅寸法を、それぞれ要求される切削深さΔDS及び切削幅WCとして採用し、当該切削深さΔDS及び切削幅WCの条件に合致する工具角度θ及び垂直押し込み量δzの組み合わせを、各加工点の工具角度θ及び垂直押し込み量δzに設定してもよい。その際、切削深さΔDS及び切削幅WCの条件に合致する工具角度θ及び垂直押し込み量δzの組み合わせは、
図15で説明した切削条件情報テーブルから取得することができる。
【0081】
次に、加工点リストデータについて説明する。
図18は、加工点リストデータを説明する図である。加工点リストデータは、加工パスPTに関するデータを加工点番号毎に対応付けてリストにしたデータであり、加工領域層CR毎に生成される。加工点番号は、対象となる加工領域層CRに含まれる加工パスPTの通し番号であり、当該加工領域層CRを切削する際における切削刃24の総ストローク回数に一致する。加工パスPTに関するデータは、加工パスPTの加工開始点Ps及び加工終了点Peを規定するデータであり、例えば、各加工点における加工開始点座標(XY座標)、加工パス方向DT、加工パス長さLTが規定されていてもよい。勿論、加工パスPTに関するデータとして、加工パスPTの加工開始点座標(XY座標)及び加工終了点座標(XY座標)が規定されていてもよい。
【0082】
以上のように、加工指示データ生成部110は、加工領域層CR毎に、加工点リストデータと工具角度θ及び垂直押し込み量δzの各制御値を含む制御パラメータ情報を生成することで、各加工領域層CRの制御パラメータ情報を含む平面出し用加工指示データを生成し、記憶装置102に記憶させる。
【0083】
<キサゲ加工処理フロー>
次に、制御装置100において実行されるキサゲ加工処理フローについて説明する。
図19は、制御装置100のプロセッサ104によって実行されるフローチャートである。キサゲ加工処理フローは、例えば、入出力装置103の入力装置を介してユーザからのキサゲ加工開始要求を制御装置100が受け付けることを契機に開始される。
【0084】
先ずステップS101において、加工指示データ生成部110は、上述した平面出し用加工指示データ生成処理を実行し、平面出し用加工指示データを生成する。加工指示データ生成部110が生成した平面出し用加工指示データは、記憶装置102に記憶される。
【0085】
次に、ステップS102において、制御部111は、記憶装置102から平面出し用加工指示データを取得する。そして、取得した平面出し用加工指示データに従ってロボットアーム200を制御し、ワーク10の加工対象面11に対する平面出し加工処理を実行する。すなわち、加工対象面11の凸部S3をスクレーパ22の切削刃24によって切削する制御を行う。
【0086】
ここで、本実施形態における平面出し加工処理を比較例と対比して説明する。
図20は、比較例に係る平面出し加工処理の概略を説明する図である。
図20の(A)に示すように、ワーク10における加工対象面11に対して、相手部材12における基準面13が傾
斜しているとする。ここでは、説明を簡易にするために、加工対象面11に凸部11Aと凸部11Bが形成されているとする。また、(B)は、加工対象面11に対する平面出し加工処理が完了した状態を示す。(C)は、平面出し加工処理が完了した加工対象面11を相手部材12における基準面13に摺り合わせた状態を示す。
【0087】
比較例においては、加工対象面11を摺り合わせる対象となる基準面13の表面形状(傾斜等)を考慮せずに加工対象面11を切削するため、(A)に示す鎖線のように加工領域層CRが区分され、最上層から最下層の加工領域層CRにかけて加工対象面11が切削される。その結果、凸部11A,凸部11Bが切除され、(B)に示すように加工対象面11が平滑に仕上がるものの、その仕上がり面は基準面13の表面形状を考慮したものでは無い。従って、平面出し加工処理後における加工対象面11の仕上がり面が基準面13の表面と合致せず、加工対象面11と基準面13を摺り合わせた際に双方の面がフィットせずに、摺動性が悪くなる虞がある。
【0088】
図21は、実施形態に係る平面出し加工処理の概略を説明する図である。(A)は、
図20の(A)と同様、ワーク10における加工対象面11に対して、相手部材12における基準面13が傾斜した状態を示している。本実施形態においては、上記の通り、加工対象面11の高さデータを、相手部材12における基準面13の表面形状(傾斜等)を反映した当たり平面APを基準とした高さデータに変換する。(B)は、平面APを基準として補正した後の加工対象面11の表面形状を模式的に示している。本実施形態においては、平面APを基準として高さデータを補正した表面高さ補正データに基づいて加工対象面11の凸部を特定し、(C)に示す鎖線のように区分した各加工領域層CRを最上層から最下層にかけて切削する。その結果、平面出し加工処理において、加工対象面11のキサゲ加工面が基準面13の表面形状に精度良くフィットするように加工対象面11を切削することができる。このようにして、本実施形態においては、相手部材12における基準面13の表面形状を考慮して加工対象面11を切削することができる。そのため、平面出し加工処理後における加工対象面11と基準面13を摺り合わせた際に双方の面がフィットし、優れた摺動性が得られるようになる。
【0089】
ステップS102において、全ての加工領域層CRへの切削が完了すると、平面出し加工処理を終了し、ステップS103に進む。制御部111は、ステップS103において、平面出し加工処理後における加工対象面11の表面高さデータを取得し、平面出し加工処理後における加工対象面11の平面度が所定の目標平面度を満たしているか否かを判定する。なお、加工対象面11の表面高さデータは、三次元形状計測器300の計測データに基づいて取得される。ここでいう「平面度」とは、例えばJIS B 0621「幾何偏差の定義及び表示」に規定されているように「平面形体の幾何学的に正しい平面(幾何学的平面)からの狂いの大きさ」として定義することができる。そして、平面出し加工処理後の加工対象面11において、その高さ(Z座標)が最も高い部位(最も突出した部位)と最も低い位置(最も凹んだ位置)のZ軸方向の高低差が所定の閾値以下である場合に、加工対象面11の平面度が所定の目標平面度を満たすと判断してもよい。
【0090】
ステップS103において加工対象面11の平面度が目標平面度を満たすと判定された場合、ステップS104に進む。一方、ステップS103において加工対象面11の平面度が目標平面度を満たさないと判定された場合、ステップS101に戻り、平面出し用加工指示データ生成処理及び平面出し加工処理を再度実行する。つまり、加工対象面11の平面度が目標平面度を満たすまで、平面出し加工処理が行われる。
【0091】
ステップS104では、加工指示データ生成部110が仕上げ用加工指示データを生成する仕上げ用加工指示データ生成処理を実行する。仕上げ用加工指示データは、制御装置100が仕上げ加工処理を実行する際に使用する加工指示データである。仕上げ用加工指
示データは、例えば、入出力装置103の入力装置を介して予めユーザから入力された入力情報に基づいて生成される。入力情報には、例えば、ユーザが指定した当たり面積率や当たり点数が含まれている。ここで、当たり面積率は、ワーク10の加工対象面11における、仕上げ加工処理によって形成される当たり面(凸部)の面積の割合として表されてもよい。また、当たり点数は、加工対象面11における、仕上げ加工処理によって形成される当たり面(凸部)の数として表されてもよい。
【0092】
加工指示データ生成部110は、ユーザが入力した入力情報に含まれるパラメータの条件に合致するように仕上げ用加工指示データを生成する。仕上げ用加工指示データは、スクレーパ22によって加工対象面11を切削するときの加工パスPT、工具角度θ、垂直押し込み量δz等といった各制御パラメータを加工点番号毎に対応付けてリストにしたデータである。加工指示データ生成部110が生成した仕上げ用加工指示データは、記憶装置102に記憶される。
【0093】
次に、ステップS105において、制御部111は、記憶装置102から仕上げ用加工指示データを取得し、取得した仕上げ用加工指示データに従ってロボットアーム200を制御し、ワーク10の加工対象面11に対する仕上げ加工処理を実行する。すなわち、平面出し加工処理後の加工対象面11をスクレーパ22によって切削し、油溜まり用の窪みを形成する。加工対象面11に対する仕上げ加工処理が完了すると、キサゲ加工処理フローが終了する。
【0094】
なお、上述したキサゲ加工処理フローにおいては、平面出し用加工指示データ生成処理、平面出し加工処理、仕上げ用加工指示データ生成処理、及び仕上げ加工処理を一連のフローで実行する例を説明したが、これには限定されない。例えば、平面出し用加工指示データ生成処理や仕上げ用加工指示データ生成処理を、キサゲ加工処理フローに先だって実行しておき、予め記憶装置102に記憶させておいてもよい。
【0095】
<その他の実施形態>
上記の実施形態及び変形例はあくまでも一例であって、本開示はその要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得る。また、本開示において説明した処理や手段は、技術的な矛盾が生じない限りにおいて、自由に組み合わせて実施することができる。
【0096】
また、1つの装置が行うものとして説明した処理が、複数の装置によって分担して実行されてもよい。あるいは、異なる装置が行うものとして説明した処理が、1つの装置によって実行されても構わない。コンピュータシステムにおいて、各機能をどのようなハードウェア構成によって実現するかは柔軟に変更可能である。
【0097】
本開示は、上記の実施形態で説明した機能を実装したコンピュータプログラムをコンピュータに供給し、当該コンピュータが有する1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行することによっても実現可能である。このようなコンピュータプログラムは、コンピュータのシステムバスに接続可能な非一時的なコンピュータ可読記憶媒体によってコンピュータに提供されてもよいし、ネットワークを介してコンピュータに提供されてもよい。非一時的なコンピュータ可読記憶媒体は、例えば、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクドライブ(HDD)等)、光ディスク(CD-ROM、DVDディスク、ブルーレイディスク等)など任意のタイプのディスク、読み込み専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、EPROM、EEPROM、磁気カード、フラッシュメモリ、または光学式カードのような、電子的命令を格納するために適した任意のタイプの媒体を含む。
【符号の説明】
【0098】
1・・・自動キサゲ加工装置
10・・・ワーク
11・・・加工対象面
100・・・制御装置
104・・・プロセッサ
110・・・加工指示データ生成部
111・・・制御部
200・・・ロボットアーム
300・・・三次元形状計測器
400・・・カメラ