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特開2023-151415金属担持二次元ホウ素シート含有物質、金属担持二次元ホウ素シート含有物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151415
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】金属担持二次元ホウ素シート含有物質、金属担持二次元ホウ素シート含有物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 35/04 20060101AFI20231005BHJP
   C01B 6/21 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C01B35/04 C
C01B6/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061007
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛弘
(72)【発明者】
【氏名】引地 美亜
(72)【発明者】
【氏名】冨中 悟史
(57)【要約】
【課題】アルカリ金属またはアルカリ土類金属と、ホウ素とを含む金属担持二次元ホウ素シート含有物質、および金属担持二次元ホウ素シート含有物質の製造方法を提供する。
【解決手段】(M1-xB)(Mはアルカリ金属原子または第2族元素、Hは水素原子、Bはホウ素原子、0.01≦x≦1、n≧6)からなる二次元ネットワークを有し、前記Bが六角形の環状に配列し、前記Bによって形成される六角形が連接してなる網目状の二次元ネットワークを有し、少なくとも前記Mと前記Bが、三中心二電子結合または二中心二電子結合により結合してなる、金属担持二次元ホウ素シート含有物質。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(M1-xB)(Mはアルカリ金属原子または第2族元素、Hは水素原子、Bはホウ素原子、0.01≦x≦1、n≧6)からなる二次元ネットワークを有し、
前記Bが六角形の環状に配列し、前記Bによって形成される六角形が連接してなる網目状の二次元ネットワークを有し、
少なくとも前記Mと前記Bが、三中心二電子結合または二中心二電子結合により結合してなる、金属担持二次元ホウ素シート含有物質。
【請求項2】
少なくとも前記Mと前記Bが、ランダムに結合してなる、請求項1に記載の金属担持二次元ホウ素シート含有物質。
【請求項3】
皺がある二次元物質である、請求項1または2に記載の金属担持二次元ホウ素シート含有物質。
【請求項4】
少なくとも一方向の長さが100nm以上である結晶または非晶質体を含む、請求項1~3のずれか1項に記載の金属担持二次元ホウ素シート含有物質。
【請求項5】
極性有機溶媒中で、陽イオン交換樹脂とアルカリ金属または第2族元素を含有する塩を撹拌する工程Aと、
撹拌後の前記陽イオン交換樹脂および前記塩を含む極性有機溶媒から溶液のみを取り出し、溶液の中和によりアルカリ金属交換量を確認するとともに、残った樹脂として、前記アルカリ金属のイオンまたは前記第2族元素のイオンを配位した前駆体イオン交換樹脂を得る工程Bと、
極性有機溶媒中で、前記前駆体イオン交換樹脂とYB(但し、Yは、Al、Mg、Ta、Zr、Re、Cr、TiおよびVからなる群から選択される少なくとも1種である。)型構造の二ホウ化金属あるいはホウ化水素シート(前記陽イオン交換樹脂と前記YBのイオン交換で生成する物質)を撹拌し、第1混合液とする工程Cと、
前記工程Cにおける撹拌を終了した後、前記第1混合液の第1上澄み液を抽出し、前記第1上澄み液を濃縮、乾燥することにより生成物を得る工程Dと、
前記生成物と極性有機溶媒とを混合して第2混合液を調製し、前記第2混合液を遠心分離し、第2上澄み液を得る工程Eと、を有する金属担持二次元ホウ素シート含有物質の製造方法。
【請求項6】
さらに、前記第2上澄み液を液相クロマトグラフィーで分離する工程Fを有する、請求項5に記載の金属担持二次元ホウ素シート含有物質の製造方法。
【請求項7】
前記陽イオン交換樹脂は、スルホ基を有する、請求項5または6に記載の金属担持二次元ホウ素シート含有物質の製造方法。
【請求項8】
前記極性有機溶媒は、アセトニトリルである、請求項5~7のいずれか1項に記載の金属担持二次元ホウ素シート含有物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属担持二次元ホウ素シート含有物質、および金属担持二次元ホウ素シート含有物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、原子が二次元的なネットワークをなす物質(以下、「原子ネットワーク物質」と言う。)について、新規な機能性を伴う現象が見出されている。また、原子ネットワーク物質は、機能性材料としてのポテンシャルが注目されている。原子ネットワーク物質のポテンシャルは、充分に開発されていないものの、他の材料に比べて優れていると思われるものがある。他の材料よりも優れている原子ネットワーク物質のポテンシャルとしては、例えば、原子ネットワークへの金属原子の挿入やその選択等による機能の創生・制御、原子ネットワークの制御の柔軟性、原子ネットワークに内在する高機能性等が挙げられる。
【0003】
また、原子ネットワーク物質は、ネットワーク構造によって金属や半導体的や絶縁体の母体を形成する。原子ネットワークへの金属原子の挿入により、電荷の移動が起こり、電子的な性質の制御が可能である。炭素原子のみが二次元ネットワークをなすグラフェンは、シリコンよりも優れた電気伝導性と鉄よりも優れた強度を有し、半導体材料や二次電池の電極材料を初めとして、様々な分野への応用が期待されている。また、ホウ素原子が二次元ネットワークをなす二次元ホウ素シートも、グラフェンと同様の性質を有することが期待される。
【0004】
二次元ホウ素シートにアルカリ金属がデコレートした形態が電池用の電極として優れた性能を示すことは理論計算により報告されている。しかしながら、理論計算によれば、二次元ホウ素シートは、ホウ素のシートが無限遠に広がり端のない物質であり、かつ平坦であることが報告されている(例えば、非特許文献1~4参照)。
【0005】
また、本願発明者等は、ニホウ化金属をイオン交換することにより、二次元ホウ素化合物含有シートを得る方法を報告している(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2018/074518号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Monolayer Honeycomb Borophene:A Promising Anode Material with a Record Capacity for Lithium-Ion and Sodium-Ion Batteries,J.Electrochem.Soc.167(2020)090527.
【非特許文献2】Borophene as an extremely high capacity electrode material for Li-ion and Na-ion batteries,Nanoscale,8(2016)15340.
【非特許文献3】The high hydrogen storage capacities of Li-decorated borophene,Computational Materials Science,137(2017)119.
【非特許文献4】Hydrogen storage in Li,Na and Ca decorated and defective borophene:a first principles study,RSC Adv.8(2018)20748.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術では、アルカリ金属または第2族元素と、ホウ素とを含む二次元物質を合成できなかった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、アルカリ金属または第2族元素と、ホウ素とを含む金属担持二次元ホウ素シート含有物質、および金属担持二次元ホウ素シート含有物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の態様を有する。
[1](M1-xB)(Mはアルカリ金属原子または第2族元素、Hは水素原子、Bはホウ素原子、0.01≦x≦1、n≧6)からなる二次元ネットワークを有し、
前記Bが六角形の環状に配列し、前記Bによって形成される六角形が連接してなる網目状の二次元ネットワークを有し、
少なくとも前記Mと前記Bが、三中心二電子結合または二中心二電子結合により結合してなる、金属担持二次元ホウ素シート含有物質。
[2]少なくとも前記Mと前記Bが、ランダムに結合してなる、[1]に記載の金属担持二次元ホウ素シート含有物質。
[3]皺がある二次元物質である、[1]または[2]に記載の金属担持二次元ホウ素シート含有物質。
[4]少なくとも一方向の長さが100nm以上である結晶または非晶質体を含む、[1]~[3]のずれかに記載の金属担持二次元ホウ素シート含有物質。
[5]極性有機溶媒中で、陽イオン交換樹脂とアルカリ金属または第2族元素を含む塩を撹拌する工程Aと、
撹拌後の前記陽イオン交換樹脂および前記塩を含む極性有機溶媒から溶液のみを取り出し、溶液の中和によりアルカリ金属交換量を確認するとともに、残った樹脂として、前記アルカリ金属のイオンまたは前記第2族元素のイオンを配位した前駆体イオン交換樹脂を得る工程Bと、
極性有機溶媒中で、前記前駆体イオン交換樹脂とYB(但し、Yは、Al、Mg、Ta、Zr、Re、Cr、TiおよびVからなる群から選択される少なくとも1種である。)型構造の二ホウ化金属あるいはホウ化水素シート(前記陽イオン交換樹脂と前記YBのイオン交換で生成する物質)を撹拌し、第1混合液とする工程Cと、
前記工程Cにおける撹拌を終了した後、前記第1混合液の第1上澄み液を抽出し、前記第1上澄み液を濃縮、乾燥することにより生成物を得る工程Dと、
前記生成物と極性有機溶媒とを混合して第2混合液を調製し、前記第2混合液を遠心分離し、第2上澄み液を得る工程Eと、を有する金属担持二次元ホウ素シート含有物質の製造方法。
[6]さらに、前記第2上澄み液を液相クロマトグラフィーで分離する工程Fを有する、[5]に記載の金属担持二次元ホウ素シート含有物質の製造方法。
[7]前記陽イオン交換樹脂は、スルホ基を有する、[5]または[6]に記載の金属担持二次元ホウ素シート含有物質の製造方法。
[8]前記極性有機溶媒は、アセトニトリルである、[5]~[7]のいずれかに記載の金属担持二次元ホウ素シート含有物質の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アルカリ金属または第2族元素と、ホウ素とを含む金属担持二次元ホウ素シート含有物質、および金属担持二次元ホウ素シート含有物質の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る金属担持二次元ホウ素シート含有物質の分子構造を示す模式図である。
図2】実施例1で得られた生成物のX線回折測定の結果を示す図である。
図3】実施例1で得られた生成物の赤外分光分の結果を示す図である。
図4】実施例1で得られた生成物の昇温脱離ガス分析の結果を示す図である。
図5】実施例1で得られた生成物の透過型電子顕微鏡像である。
図6】実施例1で得られた生成物の電子エネルギー損失分光分析の結果を示す図である。
図7】実施例2で得られた生成物のX線回折測定の結果を示す図である。
図8】実施例2で得られた生成物の赤外分光分の結果を示す図である。
図9】実施例2で得られた生成物の昇温脱離ガス分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の金属担持二次元ホウ素シート含有物質、および金属担持二次元ホウ素シート含有物質の製造方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0014】
[金属担持二次元ホウ素シート含有物質]
本発明の一実施形態に係る金属担持二次元ホウ素シート含有物質は、(M1-xB)(Mはアルカリ金属原子または第2族元素、Hは水素原子、Bはホウ素原子、0.01≦x≦1、n≧6)からなる二次元ネットワークを有し、前記Bが六角形の環状に配列し、前記Bによって形成される六角形が連接してなる網目状の二次元ネットワークを有し、少なくとも前記Mと前記Bが、三中心二電子結合または二中心二電子結合により結合してなる。
以下、アルカリ金属原子または第2族元素を「金属原子(M)」と言うこともある。
【0015】
本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質は、図1に示すように、ホウ素原子(B)が、ベンゼン環のような六角形の環状に配列するとともに、その六角形の頂点に存在しており、ホウ素原子(B)によって形成される六角形が隙間なく連接して、網目状の面構造(二次元ネットワーク)を形成している。
本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質において、ホウ素原子(B)によって形成される六角形の網目状とは、例えば、ハニカム状のことを言う。
【0016】
本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質は、図1に示すように、少なくともホウ素原子(B)のうち隣接する2つが同一の金属原子(M)と結合する部位を有する。言い換えれば、少なくとも金属原子(M)とホウ素原子(B)が、三中心二電子結合により結合している。少なくとも金属原子(M)とホウ素原子(B)が、三中心二電子結合によりランダムに結合していることが好ましい。また、本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質は、図1に示すように、少なくともホウ素原子(B)のうちの1つが金属原子(M)と結合する部位を有する。言い換えれば、少なくとも金属原子(M)とホウ素原子(B)が、二中心二電子結合により結合している。少なくとも金属原子(M)とホウ素原子(B)が、二中心二電子結合によりランダムに結合していることが好ましい。
【0017】
また、本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質は、図1に示すように、ホウ素原子(B)のうち隣接する2つが同一の水素原子(H)と結合する部位を有していてもよい。言い換えれば、水素原子(H)とホウ素原子(B)が、三中心二電子結合により結合していてもよい。水素原子(H)とホウ素原子(B)が、三中心二電子結合によりランダムに結合していてもよい。また、本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質は、図1に示すように、ホウ素原子(B)のうちの1つが水素原子(H)と結合する部位を有する。言い換えれば、水素原子(H)とホウ素原子(B)が、二中心二電子結合により結合していてもよい。水素原子(H)とホウ素原子(B)が、二中心二電子結合によりランダムに結合していてもよい。
【0018】
このような本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質は、ホウ素原子(B)と金属原子(M)と水素原子(H)からなる二次元ネットワークを有する薄膜状の物質である。また、本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質は、後述する本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質の製造方法に用いられる二ホウ化金属に由来する金属原子、または、その他の金属原子をほとんど含まない。
本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質において、上記の網目状の面構造を形成するホウ素原子(B)と金属原子(M)と水素原子(H)の総数は、1000個以上である。
【0019】
図1に示す、隣り合う2つのホウ素原子(B)間の結合距離d1は、0.15nm~0.19nmである。また、図1に示す、1つの金属原子(M)(または1つの水素原子(H))を介して、隣り合う2つのホウ素原子(B)間の結合距離d2は、0.15nm~0.19nmである。また、図1に示す、隣り合うホウ素原子(B)と水素原子(H)(または金属原子(M))間の結合距離d3は、0.12nm~0.15nmである。
【0020】
本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質の厚さは、0.1nm~1.0nmである。
本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質において、少なくとも一方向の長さ(例えば、図1においてX方向またはY方向の長さ)が100nm以上であることが好ましい。また、本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質は、少なくとも一方向の長さが100nm以上である結晶または非晶質体を含むことが好ましい。本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質において、少なくとも一方向の長さが100nm以上であれば、本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質は、水素貯蔵材料、電池電極材料等として有効に利用することができる。
本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質の大きさ(面積)は、特に限定されず、後述する本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質の製造方法によって、任意の大きさに形成することができる。
【0021】
本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質は、端が存在し、図5に示すように透過型電子顕微鏡で確認できる皺などがある二次元物質である。
【0022】
金属原子(M)のうち、アルカリ金属原子としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)が挙げられる。
金属原子(M)のうち、第2族元素としては、マグネシウム(Mg)、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)が挙げられる。
【0023】
このような本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質は、結晶構造を有する物質である。また、本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質では、六角形の環を形成するホウ素原子(B)間、および、ホウ素原子(B)と、金属原子(M)または水素原子(H)との間の結合力が強い。そのため、本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質は、製造時に複数積層されてなる結晶(凝集体)を形成したとしても、グラファイトと同様に結晶面に沿って容易に劈開し、単層の二次元シートとして分離(回収)することができる。
【0024】
本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質によれば、従来の重い金属を用いた水素貯蔵材料と異なり、軽い元素で構成される水素貯蔵材料の提供が可能となる。
本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質によれば、炭素とは異なる、優れた性能を有する電池材料を提供できる。
【0025】
リチウムイオンでホウ素単原子層を修飾することにより、ホウ素単原子層の総質量100質量%に対して、13.7質量%の水素を貯蔵できるという報告があるため(The high hydrogen storage capacities of Li decorated borophene Computational Materials Science,137 2017,119.参照)、本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質は、これを上回る新しい水素吸蔵材料としての利用が期待される。そのほか、固体酸触媒材料、還元剤機能材料等しての利用が期待される。
【0026】
ナトリウムでホウ素単原子層を修飾することにより、ホウ素単原子層の総質量100質量%に対して、9.0質量%の水素を貯蔵でき、リチウムでホウ素単原子層を修飾することにより、ホウ素単原子層の総質量100質量%に対して、6.8質量%の水素を貯蔵でき、カルシウムでホウ素単原子層を修飾することにより、ホウ素単原子層の総質量100質量%に対して、7.6質量%の水素を貯蔵できるという報告があるため(Hydrogen storage in Li,Na and Ca decorated and defective borophene:a first principles study,RSC Adv.8(2018)20748.参照)、本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質は、これを上回る新しい水素吸蔵材料としての利用が期待される。
【0027】
リチウムでホウ化水素を修飾すると、ホウ化水素の総質量100質量%に対して、11.57質量%の水素を貯蔵できるという理論研究があるため(Phys.Chem.Chem.Phys.,2018,20,30304-30311.参照)、本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質は、これを上回る新しい水素吸蔵材料としての利用が期待される。
【0028】
ハニカム構造の原子配置をしたホウ素単原子層が、リチウムイオンに対して5268mAhg-1、ナトリウムイオンに対しては1860mAhg-1の電池容量を示すという報告がある。また、リチウムは、現在商用化されているグラファイトの容量372mAhg-1よりも14倍程度も高いという報告もあるため(Monolayer Honeycomb Borophene:A Promising Anode Material with a Record Capacity for Lithium-Ion and Sodium-Ion Batteries,J.Electrochem Soc.167(2020)090527.参照)、本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質は、これを上回る新しい電極材料としての利用が期待される。
【0029】
β12と呼ばれる構造のホウ素単原子層や、Xと呼ばれる構造のホウ素単原子層は、リチウムイオンに対して1984mAhg-1の電池容量を示し、ナトリウムイオンに対して19841240mAhg-1の電池容量を示すという報告もあるため(Borophene as an extremely high capacity electrode material for Li-ion and Na-ion batteries,Nanoscale,8(2016)15340.参照)、本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質は、これを上回る新しい電極材料としての利用が期待される。
【0030】
[金属担持二次元ホウ素シート含有物質の製造方法]
本発明の一実施形態に係る金属担持二次元ホウ素シート含有物質の製造方法は、極性有機溶媒中で、陽イオン交換樹脂とアルカリ金属または第2族元素を含有する塩を撹拌する工程Aと、撹拌後の前記陽イオン交換樹脂および前記塩を含む極性有機溶媒から溶液のみを取り出し、溶液の中和によりアルカリ金属交換量を確認するとともに、残った樹脂として、前記アルカリ金属のイオンまたは前記第2族元素のイオンを配位した前駆体イオン交換樹脂を得る工程Bと、極性有機溶媒中で、前記前駆体イオン交換樹脂とYB(但し、Yは、Al、Mg、Ta、Zr、Re、Cr、TiおよびVからなる群から選択される少なくとも1種である。)型構造の二ホウ化金属あるいはホウ化水素シート(前記陽イオン交換樹脂と前記YBのイオン交換で生成する物質)を撹拌し、第1混合液とする工程Cと、前記工程Cにおける撹拌を終了した後、前記第1混合液の第1上澄み液を抽出し、前記第1上澄み液を濃縮、乾燥することにより生成物を得る工程Dと、前記生成物と極性有機溶媒とを混合して第2混合液を調製し、前記第2混合液を遠心分離し、第2上澄み液を得る工程Eと、を有する。
【0031】
「工程A」
工程Aでは、極性有機溶媒中で、陽イオン交換樹脂とアルカリ金属または第2族元素を含有する塩を撹拌する。
【0032】
極性有機溶媒としては、特に限定されず、例えば、アセトニトリルN,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これらの中でも、酸素を含んでいない点からアセトニトリルが好ましい。
【0033】
陽イオン交換樹脂としては、特に限定されず、例えば、二ホウ化金属を構成する金属イオンとイオン交換可能なイオン(アルカリ金属または第2族元素を含有する塩に起因する金属イオン(アルカリ金属のイオンまたは第2族元素のイオン))を配位した官能基(以下、「官能基α」と言う。)を有するスチレンの重合体、官能基αを有するジビニルベンゼンの重合体、官能基αを有するスチレンと官能基αを有するジビニルベンゼンの共重合体等が挙げられる。
官能基αとしては、例えば、スルホ基、カルボキシル基等が挙げられる。これらの中でも、極性有機溶媒中にて、容易に二ホウ化金属を構成する金属イオンとのイオン交換を行うことができることから、スルホ基が好ましい。
【0034】
アルカリ金属を含む塩としては、例えば、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化ルビジウム(RbCl)、塩化セシウム(CsCl)等が挙げられる。
第2族元素を含む塩としては、例えば、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化カルシウム(CaCl)、塩化バリウム(BaCl)、塩化ストロンチウム(SrCl)、塩化ベリリウム(BeCl)等が挙げられる。
【0035】
極性有機溶媒に加える陽イオン交換樹脂と、アルカリ金属または第2族元素を含有する塩との割合は、イオン交換樹脂の交換容量に対して、2倍以上程度であることが好ましく、5倍程度であることがより好ましい。
【0036】
極性有機溶媒に加えるアルカリ金属または第2族元素を含有する塩の極性有機溶媒に対する濃度は、0.5mol/L以上1.5mol/L以下であることが好ましい。
【0037】
工程Aでは、陽イオン交換樹脂、およびアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含有する塩を含む極性有機溶媒を撹拌する際、前記極性有機溶媒の温度は、5℃~40℃であることが好ましい。
前記極性有機溶媒を撹拌する時間は、特に限定されないが、例えば、12時間~48時間とする。
【0038】
工程Aは、窒素(N)やアルゴン(Ar)等の不活性ガスからなる不活性雰囲気下で行う。
【0039】
「工程B」
工程Bでは、陽イオン交換樹脂、およびアルカリ金属または第2族元素を含有する塩を含む極性有機溶媒から溶液のみを取り出し、溶液の中和によりアルカリ金属交換量を確認するとともに、上記官能基αにアルカリ金属のイオンまたは第2族元素イオンを配位した前駆体イオン交換樹脂を得る。
【0040】
上記溶液を中和するには、上記溶液にアルカリ性の水溶液を添加する。
アルカリ性の水溶液としては、特に限定されないが、例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化バリウム水溶液等が挙げられる。
【0041】
アルカリ性の水溶液の濃度は、特に限定されない。
【0042】
上記極性有機溶媒に、少量ずつ(例えば、10mLずつ)アルカリ性の水溶液を滴下して、上記極性有機溶媒を中和する。pH試験紙で中性を示したところで、アルカリ性の水溶液の滴下を止める。
【0043】
アルカリ金属のイオンまたは第2族元素のイオンを配位した前駆体イオン交換樹脂は溶液と物理的に分離することで回収する。
【0044】
「工程C」
工程Cでは、極性有機溶媒中で、工程Bで得られた前駆体イオン交換樹脂とYB(但し、Yは、Al、Mg、Ta、Zr、Re、Cr、TiおよびVからなる群から選択される少なくとも1種である。)型構造の二ホウ化金属を撹拌し、第1混合液とする。
【0045】
YB型構造の二ホウ化金属としては、二ホウ化アルミニウム(AlB)、二ホウ化マグネシウム(MgB)、二ホウ化タンタル(TaB)、二ホウ化ジルコニウム(ZrB)、二ホウ化レニウム(ReB)、二ホウ化クロム(CrB)、二ホウ化チタン(TiB)、二ホウ化バナジウム(VB)が挙げられるが、反応時間が短く済むという観点から、MgBが好ましい。
【0046】
極性有機溶媒に加える前駆体イオン交換樹脂とYB型構造の二ホウ化金属またはホウ化水素との割合は、イオン交換樹脂の交換容量に対して、1/3以下であることが好ましい。
【0047】
極性有機溶媒100mLに加える陽イオン交換樹脂は、100mL以上330mL以下であることが好ましい。
極性有機溶媒としては、工程Aで用いられるものと同様の溶媒が用いられる。
【0048】
工程Cでは、第1混合液に超音波等を加えることなく、二ホウ化金属を構成する金属イオンと、前駆体イオン交換樹脂の官能基αのイオンとがイオン交換する反応を、穏やかに進めることが好ましい。
【0049】
工程Cでは、第1混合液を撹拌する際、第1混合液の温度は、5℃~40℃であることが好ましい。
第1混合液を撹拌する時間は、特に限定されないが、例えば、24時間~72時間とする。
【0050】
工程Cは、窒素(N)やアルゴン(Ar)等の不活性ガスからなる不活性雰囲気下で行う。
【0051】
工程Cでは、極性有機溶媒に、前駆体イオン交換樹脂と二ホウ化金属とを投入し、極性有機溶媒、前駆体イオン交換樹脂および二ホウ化金属を含む第1混合液を撹拌し、前駆体イオン交換樹脂と二ホウ化金属を充分に接触させる。これにより、第1混合液中にて、二ホウ化金属を構成する金属イオンと、前駆体イオン交換樹脂の官能基αに配位したイオン(アルカリ金属のイオンまたは第2族元素のイオン)とがイオン交換して、ホウ素原子と、イオン交換樹脂の官能基αに配位したイオンに由来する原子によって形成される二次元ネットワークを有する金属担持二次元ホウ素シート含有物質が生成する。
【0052】
例えば、二ホウ化金属として二ホウ化マグネシウムを用い、前駆体イオン交換樹脂としてスルホ基にリチウムイオンが配位したイオン交換樹脂を用いれば、二ホウ化マグネシウムのマグネシウムイオン(Mg)と、イオン交換樹脂のスルホ基に配位したリチウムイオンイオン(Li)またはイオン交換樹脂のスルホ基の水素イオン(H)とが置換して、ホウ素原子(B)とリチウム原子(Li)と水素原子(H)とからなる二次元ネットワークを有する金属担持二次元ホウ素シート含有物質(生成物)が生成する。
【0053】
「工程D」
工程Dでは、上記工程Cにおける撹拌を終了した後、第1混合液の第1上澄み液を抽出し、前記第1上澄み液を濃縮、乾燥することにより生成物を得る。
【0054】
第1上澄み液を抽出するには、第1混合液をろ過して、ろ液を回収する。すなわち、ろ液が第1上澄み液である。
濾過方法は、特に限定されず、例えば、自然濾過、減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過等の方法が用いられる。また、濾材としては、例えば、セルロースを基材とする濾紙、メンブレンフィルター、セルロースやグラスファイバー等を圧縮成型した濾過板等が用いられる。
【0055】
得られた第1上澄み液を濃縮、乾燥することにより、上記金属担持二次元ホウ素シート含有物質を得る。
【0056】
第1上澄み液を濃縮、乾燥する方法としては、例えば、真空乾燥、減圧乾燥等が挙げられる。
【0057】
「工程E」
工程Eでは、工程Dで得られた金属担持二次元ホウ素シート含有物質と極性有機溶媒とを混合して第2混合液を調製し、第2混合液を遠心分離し、第2上澄み液を得る。
【0058】
極性有機溶媒100mLに加える金属担持二次元ホウ素シート含有物質の量は、50mg~100mgであることが好ましい。
極性有機溶媒としては、工程Aで用いられるものと同様の溶媒が用いられる。
【0059】
第2混合液を遠心分離する際、回転数は、特に限定されないが、例えば、4000回転/分~6000回転/分であることが好ましい。
第2混合液を遠心分離する時間は、特に限定されないが、例えば、5分~10分とする。
【0060】
「工程F」
本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質の製造方法は、工程Fを有していてもよい。
工程Fでは、工程Eで得られた第2上澄み液を液相クロマトグラフィーで分離する。
具体的には、工程Eで得られた第2上澄み液を、固定相をシリカゲル、移動相をメタノールとクロロホルムとの混合液とした液相クロマトグラフィーで分離して、不純物を取り除き、精製された金属担持二次元ホウ素シート含有物質を得る。
【0061】
液相クロマトグラフィーで分離することにより回収された金属担持二次元ホウ素シート含有物質を含む溶液を、自然乾燥するか、または、加熱により乾燥することにより、最終的に金属担持二次元ホウ素シート含有物質のみを得る。
【0062】
本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質の製造方法によって得られた、生成物の分析方法としては、例えば、X線光電子分光分析法(X-ray Photoelectron Spectroscopy、XPS)、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)および透過型電子顕微鏡内で行うエネルギー分散型X線分析(Energy dispersive X-ray Spectroscopy、EDS)と電子エネルギー損失分光(Electron energy loss Spectroscopy、EELS)による観察等が挙げられる。
【0063】
X線光電子分光分析法(XPS)では、例えば、日本電子(JEOL)社製のX線光電子分光分析装置(商品名:JPS9010TR)を用いて、生成物の表面にX線を照射し、そのときに生じる光電子のエネルギーを測定することによって、生成物の構成元素とその電子状態を分析する。この分析において、原料の二ホウ化金属を構成する金属元素に起因する光電子のエネルギーがほとんど検出されず、ホウ素と前駆体イオン交換樹脂の官能基αに配位したイオンと前駆体イオン交換樹脂の官能基αの水素イオンに起因する光電子のエネルギーのみが検出されれば、生成物はホウ素と前駆体イオン交換樹脂の官能基αに配位したイオンと前駆体イオン交換樹脂の官能基αの水素のみから構成されていると言える。X線光電子分光分析法による分析により、原料の二ホウ化金属を構成する金属元素に起因する光電子のエネルギーがほとんど検出されず、ホウ素と水素に起因する光電子のエネルギーのみが検出されれば、生成物はホウ素と水素のみから構成されていると言える。
【0064】
透過型電子顕微鏡(TEM)による観察では、例えば、日本電子(JEOL)社製の透過型電子顕微鏡(商品名:JEM-2100F TEM/STEM)を用いて、生成物を観察することにより、生成物の形状(外観)等を分析する。この分析において、膜状(シート状)の物質が観察されれば、生成物は二次元的なシート状の物質であると言える。透過型電子顕微鏡内において、エネルギー分散型X線分析(EDS)を行うことにより、生成物のTEM観察した部位における金属元素の存在の有無を観察できる。この分析において、原料の二ホウ化金属を構成する金属元素に起因するX線のエネルギーがほとんど検出されず、金属元素(例えば、Mg)のピークが現われなければ、二ホウ化金属を構成する金属元素が存在しないと言える。また、透過型電子顕微鏡内において、電子エネルギー損失分光(EELS)を行うことにより、生成物のTEM観察した部位における構成元素を観察できる。この分析において、ホウ素と前駆体イオン交換樹脂の官能基αに配位したイオンと前駆体イオン交換樹脂の官能基αの水素に起因するX線エネルギーのみが検出されれば、生成物はホウ素と前駆体イオン交換樹脂の官能基αに配位したイオンに由来する元素と前駆体イオン交換樹脂の官能基αの水素のみから構成されていると言える。
【0065】
本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質の製造方法によれば、ホウ素原子と前駆体イオン交換樹脂の官能基αに配位したイオンに由来する金属原子と前駆体イオン交換樹脂の官能基αの水素原子によって形成される二次元ネットワークを有する二次元ホウ素化合物含有シートを容易に生成することができる。
なお、原料のMB型構造の二ホウ化金属の大きな結晶を用いることにより、より大面積の金属担持二次元ホウ素シート含有物質を製造することができる。
【0066】
また、本実施形態の金属担持二次元ホウ素シート含有物質の製造方法によれば、二ホウ化金属を構成する金属イオンと、イオン交換樹脂の官能基αに配意したイオンとをイオン交換させるために酸性溶液を用いずに、極性有機溶媒を用いるため、極性有機溶媒、二ホウ化金属およびイオン交換樹脂を含む混合溶液のpHの調整が不要である。
【実施例0067】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
[実施例1]
アセトニトリル200mL中で、陽イオン交換樹脂(商品名:アンバーライト(登録商標)、スルホ基を有するプロトン交換樹脂)60mLと塩化リチウム8gを混合し、約8時間撹拌した。
次に、陽イオン交換樹脂および塩化リチウムを含むアセトニトリル溶液から上澄み液を抽出し、この上澄み液に、1.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を10mLずつ滴下し、上記アセトニトリル溶液を中和し、イオン交換されていることを確認した。また、溶液と分離した樹脂として、陽イオン交換樹脂のスルホ基にリチウムイオンを配位した前駆体イオン交換樹脂を得た。
次に、乾燥窒素下、アセトニトリル200mL中で、前駆体イオン交換樹脂60mLと二ホウ化マグネシウム1gとを混合し、約3日間撹拌し、第1混合液とした。
次に、孔径0.2μmのろ紙を用いて、第1混合液の減圧ろ過を行った。次いで、ろ液を液体窒素トラップ付きのロータリーポンプで真空引きしながら、オイルバスで70℃に加熱することにより、ろ液を濃縮して、約0.35gの生成物を得た。
次に、アセトニトリル5mLに、得られた生成物を混合し、その混合液を5000回転/分で5分間遠心分離し、分離した上澄み液113mgを採取した。
次に、得られた上澄み液95mgを、固定相を12gのシリカゲル60(球状、中性)とし、移動相をメタノール(M)とクロロホルム(C)との混合液とした液相クロマトグラフィーで分離した。C:M=1:0を50mL、C:M=20:1を100mL、C:M=10:1を300mL、C:M=4:1を100mL、C:M=2:1を100mL、C:M=0:1を50mLの順で用意したクロマトグラフィーでC:M=2:1の層を抽出した。
以上の工程により、約22.9mgの生成物が得られた。
【0069】
[評価]
「高周波誘導結合プラズマ発光分光分析」
得られた生成物(試料)約5mgを量り取り、石英製ビーカーに移し入れた。このビーカーに塩酸(1+1)10mLおよび硝酸(1+1)10mLを加えて加熱溶解した。放冷後、溶液をフラスコに移し入れ、純水で標線まで希釈した。この溶液から10mLを分取し、別のフラスコに移し入れた。このフラスコに20mg/L Y標準溶液10mLを加えて、純水で標線まで希釈した。得られた溶液中のLi、BおよびMg濃度を、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(商品名:Agilent 5800、Agilent社製および商品名:イオンクロマトグラフ ICS-1600、Dionex社製)を用いて分析した。
その結果、原子数比に換算すると、Li:B:Mg:Cl=0.0754:1.0000:0.0013:0.0025であることが示された。
【0070】
「X線回折」
X線回折(商品名:MINI FLEX、リガク社製)装置を用いて、得られた生成物を分析した。結果を図2に示す。図2に示す結果から、非晶質な構造で構成されている物質であることが分かった。
【0071】
「赤外分光分析」
赤外分光分析装置(商品名:FTIR ALPHA II、ブルッカー社製)を用いて、得られた生成物を分析した。結果を図3に示す。図3に示す結果から、1585cm-1近傍にB-Liの伸縮振動に由来すると帰属可能なピークが、2458cm-1近傍にB-Hの伸縮振動に由来すると帰属可能なピークが、1100cm-1近傍および1106cm-1近傍にB-Li-Bに由来する振動と帰属可能なピークが現れていることが示された。この結果より、得られた生成物は、リチウムとホウ素と水素を含むことが確認された。
【0072】
「昇温脱離ガス分析」
得られた生成物について、昇温脱離ガス分析(Thermal Desorption Spectrometry、TDS)を行った。分析結果を、図4に示す。図4における脱離水素の強度の積分値の解析からLi:H:B(原子数比)がおよそ0.15±0.08:0.85±0.08:1.00であることが示された。
【0073】
「透過型電子顕微鏡観察」
得られた生成物について、日本電子(JEOL)社製の透過型電子顕微鏡(商品名:JEM-2100F TEM/STEM)による観察を行った。観察結果を、図5に示す。
図5に示す結果から、二次元シートに特有の皺が観測できることから、得られた生成物は二次元シートを形成していると考えられる。
【0074】
「電子エネルギー損失分光分析」
得られた生成物について、日本電子(JEOL)社製の透過型電子顕微鏡(商品名:JEM-2100F TEM/STEM)を用いて、電子エネルギー損失分光分析を行った。結果を図6に示す。
図6に示す結果から、得られた生成物は、リチウム(Li)に起因するX線のエネルギーを検出し、マグネシウム(Mg)に起因するX線のエネルギーはほとんど検出されなかった。
【0075】
[実施例2]
アセトニトリル200mL中で、陽イオン交換樹脂(商品名:アンバーライト(登録商標)、スルホ基を有するプロトン交換樹脂)60mLと塩化リチウム8gを混合し、約24時間撹拌した。
次に、陽イオン交換樹脂および塩化リチウムを含むアセトニトリル溶液から上澄み液を抽出し、この上澄み液に、1.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を10mLずつ滴下し、上記アセトニトリル溶液を中和し、イオン交換されていることを確認した。また、溶液と分離した樹脂として、陽イオン交換樹脂のスルホ基にリチウムイオンを配位した前駆体イオン交換樹脂を得た。得られた前駆体イオン交換樹脂を、アセトニトリルで10回洗浄した。
次に、乾燥窒素下、アセトニトリル200mL中で、前駆体イオン交換樹脂60mLと塩化リチウム8gとを混合し、約24時間撹拌した。
次に、前駆体イオン交換樹脂および塩化リチウムを含むアセトニトリル溶液から上澄み液を抽出し、この上澄み液に、1.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を20mLずつ滴下した。その後、前駆体イオン交換樹脂を、メタノールで30回、アセトニトリルで10回洗浄した。
次に、乾燥窒素下、アセトニトリル200mL中で、前駆体イオン交換樹脂60mLとホウ化水素309.7mgとを混合し、約4間撹拌し、第1混合液とした。
次に、孔径0.2μmのろ紙を用いて、第1混合液の減圧ろ過を行った。次いで、ろ液を24時間冷凍保管した後、再び前記と同様にろ過を行い、ろ液を濃縮して、約260mgの生成物を得た。
次に、アセトニトリル5mLに、得られた生成物を混合し、その混合液を5000回転/分で5分間遠心分離し、分離した上澄み液3mlを採取した。
次に、オイルバスで70℃に加熱することにより、上澄み液を再度濃縮し、約212mgの生成物が得られた。
【0076】
「X線回折」
実施例1と同様にして、得られた生成物を分析した。結果を図7に示す。図7に示す結果から、非晶質な構造で構成されている物質であることが分かった。
【0077】
「赤外分光分析」
実施例1と同様にして、得られた生成物を分析した。結果を図8に示す。図8に示す結果から、1647cm-1近傍にB-Liの伸縮振動に由来すると帰属可能なピークが、716cm-1近傍および2490cm-1近傍にB-Hの伸縮振動に由来すると帰属可能なピークが、1288cm-1近傍および1400cm-1近傍にB-H-Bに由来する振動と帰属可能なピークが、1037cm-1近傍にB-Li-Bの伸縮振動に由来すると帰属可能なピークが現れていることが示された。この結果より、得られた生成物は、リチウムとホウ素と水素を含むことが確認された。
【0078】
「昇温脱離ガス分析」
実施例1と同様にして、得られた生成物について、昇温脱離ガス分析を行った。分析結果を、図9に示す。図9における脱離水素の強度の積分値の解析からLi:H:B(原子数比)がおよそ0.31±0.08:0.69±0.08:1.00であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の金属担持二次元ホウ素シート含有物質は、水素吸蔵材料、電極材料等として利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9