(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151426
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】炭素繊維複合樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20231005BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20231005BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20231005BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20231005BHJP
C08L 97/02 20060101ALI20231005BHJP
B29B 11/16 20060101ALI20231005BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L23/00
C08L77/00
C08K7/06
C08L97/02
B29B11/16
C08K3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061023
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391041660
【氏名又は名称】株式会社藤井基礎設計事務所
(71)【出願人】
【識別番号】592125949
【氏名又は名称】神鋼商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】八嶋 裕之
(72)【発明者】
【氏名】藤井 俊逸
(72)【発明者】
【氏名】安井 裕彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 淳
【テーマコード(参考)】
4F072
4J002
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA08
4F072AB03
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4J002AH00X
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4J002GC00
4J002GG01
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】機械的強度及び抗菌性に優れた成形体を製造できる炭素繊維複合樹脂組成物の提供。
【解決手段】樹脂(A)5~94.5質量%、リグノフェノール(B)0.5~40質量%、及び炭素繊維(C)5~55質量%を含む、炭素繊維複合樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂(A)5~94.5質量%、リグノフェノール(B)0.5~40質量%、及び炭素繊維(C)5~55質量%を含む、炭素繊維複合樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂(A)が、ポリオレフィン(a1)及びポリアミド(a2)から選ばれる1種以上を含む、請求項1に記載の炭素繊維複合樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリオレフィン(a1)が、ポリオレフィン鎖のセグメントと、親水性セグメントとを有する変性ポリオレフィン(a11)を含む、請求項2に記載の炭素繊維複合樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の炭素繊維複合樹脂組成物を成形加工してなる、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維複合樹脂組成物、及びこれを用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ナイロン樹脂やポリプロピレン等に炭素繊維を混練した炭素繊維複合プラスチックは、成形加工性や機械的強度が高く、航空機、自動車部材、電気・電子部品、スポーツ用品、圧力容器類、土木建築材料、風力発電部材など様々な分野で使用されている。
【0003】
特許文献1には、機械的強度に優れる成形体を製造し得るポリアミド樹脂組成物として、末端アミノ基と末端カルボキシ基との比率が特定の範囲であり、特定の分子量を有する半芳香族ポリアミド100質量部に対して、無機充填剤10~200質量部を含有する組成物が提案されている。無機充填剤の例として、ガラス繊維、炭素繊維等の繊維状充填剤が記載されている。
樹脂組成物の成形体に炭素繊維を含有させることによって機械的強度を高めることができるが、炭素繊維の添加量が多くなると、樹脂組成物の成形性が悪くなる上にコストアップとなってしまうため、より少ない炭素繊維の添加量で、所望の機械的強度を達成できることが望ましい。すなわち炭素繊維の添加効率を改善することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、抗菌効果を有する成形品への関心が高まっている。
本発明は、機械的強度及び抗菌性に優れた成形体を製造し得る炭素繊維複合樹脂組成物、及び成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、鋭意検討した結果、樹脂と炭素繊維を複合化する際に、更にリグノフェノールを添加することで、炭素繊維含有量を上げずに機械的強度を高められることができ、抗菌性も付与できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
本発明は以下の態様を有する。
[1] 樹脂(A)5~94.5質量%、リグノフェノール(B)0.5~40質量%、及び炭素繊維(C)5~55質量%を含む、炭素繊維複合樹脂組成物。
[2] 前記樹脂(A)が、ポリオレフィン(a1)及びポリアミド(a2)から選ばれる1種以上を含む、[1]の炭素繊維複合樹脂組成物。
[3] 前記ポリオレフィン(a1)が、ポリオレフィン鎖のセグメントと、親水性セグメントとを有する変性ポリオレフィン(a11)を含む、[2]の炭素繊維複合樹脂組成物。
[4] [1]~[3]のいずれか1項に記載の炭素繊維複合樹脂組成物を成形加工してなる、成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、機械的強度及び抗菌性に優れた成形体を製造し得る炭素繊維複合樹脂組成物を提供できる。
本発明によれば、機械的強度及び抗菌性に優れた成形体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸の一方又は両方を意味する。
ポリオレフィンは、オレフィン炭化水素に基づく構成単位であるオレフィン単位を有する重合体であり、オレフィン単位からなる単独重合体、2種以上のオレフィン単位からなる共重合体、オレフィン単位とオレフィン単位以外の構成単位とからなる共重合体、及び、ポリオレフィン鎖のセグメントとポリオレフィン鎖以外のセグメントとを有する変性ポリオレフィンを包含する。
ポリオレフィン鎖は、オレフィン単位を有する重合鎖であり、オレフィン単位からなる重合鎖、2種以上のオレフィン単位からなる共重合鎖、オレフィン単位とオレフィン単位以外の構成単位とからなる共重合鎖を包含する。
オレフィン単位以外の構成単位を有する共重合体の全構成単位に対して、オレフィン単位の含有量は30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。
オレフィン単位以外の構成単位を有する共重合鎖の全構成単位に対して、オレフィン単位の含有量は30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。
【0010】
≪炭素繊維複合樹脂組成物≫
本実施形態の炭素繊維複合樹脂組成物(以下「本組成物」ともいう)は、樹脂(A)、リグノフェノール(B)、及び炭素繊維(C)を含む。さらに他の成分を含んでもよい。
【0011】
<樹脂(A)>
樹脂(A)は、成形可能な樹脂であればよく、特に限定されない。本組成物の用途等に応じて、公知の樹脂から適宜選択できる。
本組成物に含まれる樹脂は、1種でもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0012】
樹脂(A)としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体、メタクリル酸メチル-スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、テトラフルオロエチレンポリマー、アルキッド樹脂、ポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化樹脂:などが例示できる。
樹脂(A)が、ポリオレフィン(a1)及びポリアミド(a2)から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
【0013】
[ポリオレフィン(a1)]
ポリオレフィン(a1)としては、ポリエチレン(エチレンの単独重合体)、ポリプロピレン(プロピレンの単独重合体)、ポリブテン(ブテンの単独重合体)、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-非共役ジエン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体が例示できる。これらのうち、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましい。
ポリオレフィン(a1)は1種でもよく、2種以上の混合物でもよい。
【0014】
ポリオレフィン(a1)が、ポリオレフィン鎖のセグメントと、親水性セグメントとを有する変性ポリオレフィン(a11)の1種以上を含むことが好ましい。
変性ポリオレフィン(a11)において、例えば、ポリオレフィン鎖が主鎖であり、親水性セグメントが側鎖及び末端基の一方又は両方である。
【0015】
ポリオレフィン鎖としては、ポリプロピレン鎖、ポリエチレン鎖が例示できる。
親水性セグメントは、親水性官能基、又は親水性化合物に由来する原子団を含む。
親水性官能基又は親水性化合物としては、例えば、フェノール性水酸基、アルコール性水酸基、無水マレイン酸、カルボン酸、ジカルボン酸、スルホン酸、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸、アクリル酸グリシジル、アクリル酸、オキサゾリン、N-フェニルマレイミド、ケトン、アミド、エステル、エーテル、ニトリル等が例示できる。これらのうち、無水マレイン酸、メタクリル酸グリシジルが好ましい。
変性ポリオレフィン(a11)は、例えば、ポリプロピレン又はポリエチレンのセグメントと、無水マレイン酸及びメタクリル酸グリシジルから選ばれる1種以上の親水性セグメントを有する変性ポリオレフィンが好ましい。
【0016】
変性ポリオレフィン(a11)は、ポリオレフィン鎖のセグメント及び親水性セグメント以外の、他のセグメントの1種以上を含んでもよい。
他のセグメントを構成する化合物としては、例えば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン等が挙げられる。
【0017】
[ポリアミド(a2)]
ポリアミド(a2)としては、例えば、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン7、ナイロン8、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン611及びナイロン612等の脂肪族ポリアミド、ポリ(ヘキサメチレンテレフタラミド)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタラミド)及びポリ(m-キシリレンアジバミド)等の芳香族環を含むポリアミド、ナイロン6/66、ナイロン6/6T、ナイロン66/6T等のポリアミド系コポリマー、ポリアミド系エラストマー等が挙げられる。これらのうち、成形体の物性のバランス等を考慮すると、ナイロン6、ナイロン66が好ましい。
ポリアミド(a2)は1種でもよく、2種以上の混合物でもよい。
【0018】
本組成物の総質量に対して、樹脂(A)の含有量は5~94.5質量%であり、35~90質量%が好ましく、45~75質量%がより好ましい。上記範囲の下限値以上であると、本組成物の良好な成形加工性が得られやすく、本組成物の成形体における十分な機械的強度が得られやすい。上限値以下であると、リグノフェノール(B)及び炭素繊維(C)の添加効果が十分に得られやすい。
樹脂(A)の総質量に対して、ポリオレフィン(a1)とポリアミド(a2)の合計の含有量が70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。100質量%でもよい。
【0019】
ポリオレフィン(a1)が変性ポリオレフィン(a11)を含む場合、本組成物の総質量に対して、変性ポリオレフィン(a11)の含有量は1~20質量%が好ましく、1.5~10質量%がより好ましい。上記範囲の下限値以上であると、リグノフェノール(B)のポリオレフィン(a1)への十分な分散性が得られやすく、リグノフェノール(B)の添加効果に優れる。上記範囲の上限値以下であると、本組成物の成形体における十分な機械的強度得られやすい。
ポリオレフィン(a1)が変性ポリオレフィン(a11)を含む場合、リグノフェノール(B)の含有量に対する変性ポリオレフィン(a11)の含有量の質量比を表す、変性ポリオレフィン(a11)/リグノフェノール(B)は、0/1超、1/1以下が好ましく、0.1/1~0.5/1がより好ましい。
【0020】
<リグノフェノール(B)>
リグノフェノール(B)は、下記一般式(1)で表される単量体に基づく構成単位を含む重合体である。
【0021】
【0022】
一般式(1)中、R1は、メトキシ基であり、R2は炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコシキ基、または炭素数6~8のアリール基であり、R3は水酸基である。mは0~4の整数、nは0~4の整数、pは1~4の整数であり、(n+p)≦5である。
【0023】
リグノフェノール(B)は、リグニン中のp-クマリルアルコール、シナピルアルコール、コニフェリルアルコール等のフェニルプロパン単位のα炭素にフェノール誘導体が結合したジフェニルプロパン単位を含む重合体である。
リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα炭素は化学的に不安定であるが、フェノール誘導体を添加することで、成形体などの種々の用途に活用できるリグノフェノールを得ることができる。
例えば、リグニンを構成するフェニルプロパン単位の一種である下記一般式(2)で表されるコニフェリルアルコールを、フェノール誘導体であるp-クレゾールでマスキングをした場合、一般式(3)で表されるリグノフェノール単量体が形成される。p-クマリルアルコール、シナピルアルコール等についても、同様にフェノール誘導体が結合して、α炭素が安定化したリグノフェノール単量体が得られる。
【0024】
【0025】
【0026】
リグノフェノール(B)の製造方法は、特に限定されるものではなく公知の製造方法で製造することができる。
例えば、植物資源である木材資源に酸とフェノール誘導体を添加し、木材資源中のセルロース、ヘミセルロースを加水分解させ、また、木材資源中のリグニンをフェノール誘導体により安定化してリグノフェノールを製造する。木材資源に酸とフェノール誘導体を添加する方法としては、木材資源にフェノール誘導体を添加して含浸させた後、酸を添加し、系の粘度が低下したら、疎水性の溶剤を添加し、さらに撹拌を行う方法が挙げられる。このようにすることで、セルロース及びヘミセルロース由来の糖成分と酸からなる層と、リグノフェノール、フェノール誘導体及び疎水性の溶剤からなる層に分離することが可能となる。
【0027】
前記木材資源は、木材に由来するセルロース、ヘミセルロース及びリグニンなどから構成されるものであり、例えば、木粉、木質チップなどを挙げることができる。また、木材としては、針葉樹、広葉樹など任意の種類のものを使用することができる。
【0028】
木材資源に添加する酸としては、無機酸、有機酸のいずれも用いることが可能である。酸は、セルロース及びヘミセルロースを加水分解するための触媒としてだけでなく、木材資源を構成するセルロース、ヘミセルロース及びリグニンの結合を解く役割も果たす。無機酸としては、硫酸、リン酸、塩酸などのいずれかを使用することができる。
酸の濃度は、60~90質量%が望ましい。酸の濃度が60質量%以上であると、セルロースとリグニンの解緩反応が進行しやすく、酸の濃度が90質量%以下であると、リグニン及び添加剤であるフェノール誘導体のベンゼン骨格のスルホン化を抑制しやすい。
無機酸の中では、濃度が60~90質量%の硫酸が好ましい。有機酸としては、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、ギ酸などを使用することができる。
【0029】
木材資源に添加する酸の添加量は、少なすぎると、木材原料は膨潤するだけで液状にならず、撹拌が困難になり、新しいタイプの押出混練機が必要となる。一方、酸の添加量が多すぎると、酸の回収系への負担が増え、経済性が損なわれる。
例えば、木材資源100質量部に対して、酸の添加量は200~3000質量部が好ましく、1000~2000質量部がより好ましい。
【0030】
フェノール誘導体としては、1価のフェノール誘導体、2価のフェノール誘導体または3価のフェノール誘導体などが挙げられる。
1価のフェノール誘導体としては、フェノール、ナフトール、アントロール、アントロキオールなどが挙げられる。これらの1価のフェノール誘導体は、さらに1以上の置換基を有していてもよい。
2価のフェノール誘導体としては、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノンなどが挙げられる。これらの2価のフェノール誘導体はさらに1以上の置換基を有していてもよい。
3価のフェノール誘導体としては、ピロガロールなどが挙げられる。ピロガロールはさらに1以上の置換基を有していてもよい。
これらの1価から3価のフェノール誘導体が有する置換基の種類は特に限定されず、任意の置換基を有していてもよい。電子吸引性の基(ハロゲン原子など)以外の基であり、例えば、低級アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基など)、低級アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基など)、アリール基(フェニル基など)などが挙げられる。また、リグニンを構成するフェニルプロパン単位のα炭素との反応性の点から、フェノール誘導体上のフェノール性水酸基に対する2つのオルト位のうち、少なくとも片方は無置換であることが好ましい。
【0031】
フェノール誘導体の好ましい例としては、p-クレゾール、2,6-キシレノール、2,4-キシレノール、2-メトキシフェノール(Guaiacol)、2,6-ジメトキシフェノール、カテコール、レゾルシノール、ホモカテコール、ピロガロール及びフロログルシノールなどが挙げられ、中でもp-クレゾールが好ましい。
【0032】
フェノール誘導体は、リグニンのα-炭素をマスキングするのに必要な化学量論的な量以上を添加しなければならず、また相分離に必要な抽出剤としての量も加味して添加しなければならない。
フェノール誘導体の添加量は、例えば、木材資源100質量部に対して、200~3000質量部が好ましく、500~2000質量部がより好ましい。
【0033】
木材資源に酸とフェノール誘導体を添加することで、主に酸とセルロース及びヘミセルロース由来の糖液とから構成される水層と、リグノフェノールとフェノール誘導体とから構成される油層に分離させる。より短時間で二層に分離させるために疎水性の溶剤をさらに添加することが好ましい。分離された油層は、濾過機にて固液分離され、固体のリグノフェノールと、液体のp-クレゾールと疎水性溶剤に分離される。固液分離はフィルタープレス等を用いて行うことができ、リグノフェノールはケーク状で得られる。得られたリグノフェノールを、乾燥機にて乾燥する。
【0034】
リグノフェノール(B)の数平均分子量は、特に限定されないが、300~8000であることが好ましく、より好ましくは、500~6000である。さらに好ましくは、1800~4000である。上記範囲の下限値以上であると本組成物の成形体において良好な機械的強度が得られやすい。上限値以下であるとリグノフェノールのアルカリ性水溶液に対する良好な溶解性が得られやすい。
ここで、本明細書におけるリグノフェノールの数平均分子量は、リグノフェノールをテトラヒドロフランに溶解させ、濾過し、その濾液をGPCで測定したポリスチレン換算分子量である。測定装置は、例えば、東ソー株式会社製、HLC-8220GPCを使用できる。
【0035】
本組成物の総質量に対して、リグノフェノール(B)の含有量は0.5~40質量%である。上記範囲の下限値以上であると、本組成物の成形体における十分な機械的強度が得られやすい。上限値以下であると本組成物の良好な成形加工性が得られやすい。
また、本組成物の成形体における十分な機械的強度を維持しつつ、成形体に良好な抗菌性を付与しやすい点で、前記リグノフェノール(B)の含有量は0.5~40質量%が好ましく、1~30質量%がより好ましく、1~20質量%がさらに好ましい。
【0036】
炭素繊維(C)の含有量に対するリグノフェノール(B)の含有量の質量比を表す、リグノフェノール(B)/炭素繊維(C)は、0.1/1~3/1が好ましく、0.2/1~1.5/1がより好ましい。
【0037】
<炭素繊維(C)>
炭素繊維(C)は、特に限定されるものではなく、樹脂成形品の強化材(強化繊維)として公知の炭素繊維を使用できる。
例えば、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、ブタジエン系炭素繊維やレーヨン系炭素繊維が一般的に製造されておりこれらを使用することができる。
炭素繊維(C)は、例えば繊維長が1.5~9mm、密度が1.73g/cm3以上のものを使用できる。繊維長は2~6mmがより好ましい。密度は1.76~1.88g/cm3がより好ましい。
繊維長が上記範囲の下限値以上であると、本組成物の成形体における機械的強度の向上効果が十分に得られやすく、上限値以下であると本組成物中に均一に充填しやすく、その結果、成形体における十分な機械的強度が得られやすい。
密度が上記範囲の下限値以上であると、本組成物の成形体における機械的強度の向上効果が十分に得られやすく、上限値以下であると本組成物の現実的なコストが得られやすい。
【0038】
炭素繊維(C)は、予めサイジング剤が付与されたものでもよい。例えば、炭素繊維を収束し毛羽立ちを防止させたり、炭素繊維と樹脂(A)との相溶性を向上する等の目的で、炭素繊維にサイジング剤を付着させてもよい。
サイジング剤としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレングリコール、ポリウレタン、ポリエステル挙げられる。これらの水溶液または水分散体を用いることが好ましい。
炭素繊維(C)に付与するサイジング剤は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
本組成物の総質量に対して、炭素繊維(C)の含有量は5~55質量%であり、10~50質量%が好ましく、20~40質量%がより好ましい。上記範囲の下限値以上であると本組成物の成形体における十分な機械的強度が得られやすい。上限値以下であると、本組成物の良好な成形加工性が得られやすい。
本組成物の総質量に対して、リグノフェノール(B)と炭素繊維(C)の合計の含有量は、5.5~95質量%であり、12~60質量%が好ましく、30~50質量%がより好ましい。
【0040】
<他の成分>
本組成物は、樹脂(A)、リグノフェノール(B)及び炭素繊維(C)以外の他の成分を、本発明の効果を損なわない範囲で含んでもよい。
他の成分としては、例えば、ガラス繊維、ケブラー繊維等の繊維材料;セルロースナノファイバー、ウッドチップ、おが屑、竹材等の木質材料;タルク、クレー、マイカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、ホウ酸亜鉛、窒化チタン、窒化ホウ素、窒化マグネシウム等の充填剤;顔料、酸化防止剤、滑材、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃助剤等の添加剤;を使用することができる。
【0041】
本組成物の総質量に対して、樹脂(A)、リグノフェノール(B)、及び炭素繊維(C)の合計の含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。100質量%でもよい。
【0042】
<製造方法>
本組成物は、樹脂(A)、リグノフェノール(B)及び炭素繊維(C)を含む全原料を、公知の溶融混練装置に供給して溶融混練する方法で製造できる。
溶融混練装置としては、例えば、押出機、バンバリーミキサー、インテンシブミキサー、コニーダー、ロール等を使用できる。特に、二軸押出機が均一混合や操作性の点で好ましい。
リグノフェノール(B)の添加方法は、溶融混練機に直接供給する方法が一般的であるが、予め、リグノフェノール(B)の一部又は全部を、サイジング剤として炭素繊維(C)に浸漬塗布またはローラー塗布した複合炭素繊維を溶融混練機に供給する方法でもよい。
【0043】
<成形体>
本実施形態の成形体は、本成物を成形して得られる成形体である。成形体の形状、大きさは特に限定されない。
成形方法は熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂の成形方法として公知の方法を用いることができる。例えば、射出成形、ブロー成形、フィルム成形、シート成形、溶融紡糸等が挙げられる。
【実施例0044】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<評価方法>
(1)機械特性
引張強度については、JIS K7161に準じて測定した。
曲げ強度及び曲げ弾性率については、JIS K7171に準じて測定した。
(2)抗菌性
JISZ2801に準じて、黄色ブドウ球菌24時間後の抗菌活性値を測定した。
抗菌活性値>2.0で抗菌性有りと判断した。抗菌活性値=log(ブランク生菌数/cm2)-log(試験片生菌数/cm2)
【0045】
下記、実施例及び比較例において、下記の材料を用いた。
(a1-1)ポリプロピレン(プライムポリマー社製品名「J106G」)
(a11-1)マレイン酸変性ポリプロピレン(三洋化成社製品名「ユーメックス1001」、疎水性のポリプロピレンのセグメントと、親水性の無水マレイン酸のセグメントを有する変性ポリプロピレン)
(a2-1)ナイロン6(東レ社製品名「アミランCM1017」)
(B-1)下記製造例1で得たリグノフェノール(数平均分子量3000)
(C-1)PAN系炭素繊維(東レ社製品名「トレカカットファイバーT008A」、繊維長3mm、密度1.81g/cm3)
【0046】
[製造例1:リグノフェノール(B-1)の製造]
杉の木粉を、p-クレゾールを含むアセトン溶液に浸漬して、木粉にp-クレゾールを吸着させた後、72質量%の硫酸を添加して激しく撹拌した。撹拌後の液に、ヘキサンを加え、更に撹拌した後に水を加え放置し、上澄みである水層、および油層を除去し、残った固形物を水洗し、メタノールに溶解させた。固形分を分離した後、得られたメタノール溶液に、塩を溶かした水を加えて水晶析してリグノフェノールを析出させた。析出したリグノフェノールを分離し、重曹水を用いて洗浄・ろ過を繰り返した。固形分を水に分散させたときのpHが中性になるまで重曹水での洗浄を繰り返した後、固形分を乾燥したものをリグノフェノール(B-1)として使用した。
【0047】
[例1~17]
例1~6及び例9~14は実施例、例7、8、15~17は比較例である。
下記表1、2に示す処方にて各材料を配合し、二軸混練押出機(東芝TEM-35)を使用して溶融混練し、得られた樹脂組成物を射出成形して成形体(試験片)を作製し、上記の方法で機械特性及び抗菌性を評価した。製造条件及び評価結果を表1、2に示す。
【0048】
【0049】
【0050】
表1、2の結果に示されるように、例1~6及び例9~14の炭素繊維複合樹脂組成物は、機械的強度及び抗菌性に優れた成形体を製造できた。
例3と例6を比べると、変性ポリオレフィン(a11)が機械的強度の向上に寄与することがわかる。
【0051】
一方、リグノフェノール(B)を含まない例7は、例1、2に比べて機械的強度及び抗菌性が劣った。
リグノフェノール(B)を含まない例8は、例3、4に比べて機械的強度及び抗菌性が劣った。
リグノフェノール(B)を含まない例15は、例9、10に比べて機械的強度及び抗菌性が劣った。
リグノフェノール(B)を含まない例16は、例11、12に比べて機械的強度及び抗菌性が劣った。
リグノフェノール(B)を含み、炭素繊維(C)を含まない例17は、例10、13に比べて機械的強度が劣った。