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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151440
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】熱転写シート及び印画物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/382 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
B41M5/382 420
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061046
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(72)【発明者】
【氏名】下形 貴宣
【テーマコード(参考)】
2H111
【Fターム(参考)】
2H111AA52
2H111BA03
2H111BA04
2H111BA17
2H111BA53
2H111BA61
(57)【要約】
【課題】基材と転写層とを備える熱転写シートであって、転写層を被転写体上に転写することにより、得られる印画物における外光の反射及び像の映り込みを充分に抑制できる熱転写シートを提供する。
【解決手段】基材と、離型層と、転写層とをこの順に備える熱転写シートであって、転写層における離型層側の表面が、モスアイ構造を有し、離型層における転写層側の表面が、該モスアイ構造に対して相補的な形状の凹凸パターンを有する、熱転写シート。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、離型層と、転写層とをこの順に備える熱転写シートであって、
前記転写層における前記離型層側の表面が、モスアイ構造を有し、
前記離型層における前記転写層側の表面が、前記モスアイ構造に対して相補的な形状の凹凸パターンを有する、
熱転写シート。
【請求項2】
前記転写層を黒ベタ画像が形成された被転写体上に転写して得られる印画物における前記転写層の表面の反射ヘイズが、12%以下である、請求項1に記載の熱転写シート。
【請求項3】
前記転写層を黒ベタ画像が形成された被転写体上に転写して得られる印画物における前記転写層の表面の鏡面光沢度(60°反射)が、25%以下である、請求項1又は2に記載の熱転写シート。
【請求項4】
基材と、離型層と、転写層とをこの順に備える熱転写シートであって、
前記転写層を黒ベタ画像が形成された被転写体上に転写して得られる印画物における前記転写層の表面の反射ヘイズが、12%以下である、
熱転写シート。
【請求項5】
前記転写層を黒ベタ画像が形成された被転写体上に転写して得られる印画物における前記転写層の表面の鏡面光沢度(60°反射)が、25%以下である、請求項4に記載の熱転写シート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の熱転写シート及び被転写体を準備する工程と、
前記熱転写シートから、前記転写層を前記被転写体上に転写する工程と、
を有する、印画物の製造方法。
【請求項7】
基材と転写層とを備える熱転写シート、及び被転写体を準備する工程と、
前記熱転写シートから、前記転写層を前記被転写体上に転写する工程と、
モスアイ構造に対して相補的な形状の凹凸パターンを表面に有する型を用いて、前記被転写体上に転写された前記転写層を賦形して、前記転写層の表面に前記モスアイ構造を形成する工程と、
を有する、印画物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱転写シート及び印画物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、簡便な印刷方法として熱転写方法が使用されている。熱転写方法は、基材の一方の面上に色材層が設けられた熱転写シートと、必要に応じて画像受容層が設けられた熱転写受像シートとを重ね合わせ、サーマルヘッド等の加熱手段により熱転写シートの背面を加熱して、熱転写受像シート上に画像を形成して、印画物を作製する方法である。
【0003】
熱転写方法は、溶融転写方式と昇華転写方式とに分けられる。
溶融転写方式により形成される画像は、高濃度で鮮鋭性に優れる。したがって、溶融転写方式は、文字等の2値画像の記録に適している。昇華転写方式は、印加されるエネルギー量に応じて昇華性染料の移行量を制御できることから、サーマルヘッドのドット毎に画像濃度を制御した階調画像を形成できる。昇華転写方式は、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラック等の異なる色の色材層を備える熱転写シートを用いて、熱転写受像シート上に各色染料を重ねて転写することにより、中間色の再現性に優れた高画質な写真調フルカラー画像の形成が可能である。
【0004】
形成された上記画像は、耐久性に劣ることがある。このため、基材と、基材から剥離可能に設けられた保護層とを有する熱転写シートを用い、画像上に保護層を転写することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-238525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
保護層転写時にサーマルヘッドの印加エネルギーを高くしたり、局所的に印加エネルギーを変えたりすることにより、保護層の表面に例えばμmオーダーの凹凸が形成されて、光沢度が低くマット調の保護層が形成され、印加エネルギーを全面略均一に抑制することにより、凹凸が形成されることなく平滑で光沢感を有するグロス調の保護層が形成されることが知られている。
【0007】
マット調の印画物では、一定程度の艶消し効果が得られる。しかしながら、外光の反射及び像の映り込みを充分に抑制することはまだ達成されていない。本開示の課題は、基材と転写層とを備える熱転写シートであって、転写層を被転写体上に転写することにより、得られる印画物における外光の反射及び像の映り込みを充分に抑制できる熱転写シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の熱転写シートは、一実施形態において、基材と、離型層と、転写層とをこの順に備え、転写層における離型層側の表面が、モスアイ構造を有し、離型層における転写層側の表面が、該モスアイ構造に対して相補的な形状の凹凸パターンを有する。
本開示の熱転写シートは、一実施形態において、基材と、離型層と、転写層とをこの順に備え、転写層を黒ベタ画像が形成された被転写体上に転写して得られる印画物における転写層の表面の反射ヘイズが、12%以下である。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、基材と転写層とを備える熱転写シートであって、転写層を被転写体上に転写することにより、得られる印画物における外光の反射及び像の映り込みを充分に抑制できる熱転写シートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、複数の凸部を有するモスアイ構造を説明する模式断面図である。
図2図2は、一実施形態の本開示の熱転写シートの模式断面図である。
図3図3は、一実施形態の本開示の熱転写シートの模式断面図である。
図4図4は、一実施形態の本開示の熱転写シートを用いて被転写体上に転写層を転写して得られる印画物の一例を示す模式断面図である。
図5図5は、一実施形態の本開示の熱転写シートを用いて被転写体上に転写層を転写して得られる印画物の一例を示す模式断面図である。
図6図6は、本開示の第2の印画物の製造方法を説明する工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について、詳細に説明する。本開示は多くの異なる形態で実施でき、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されない。図面は、説明をより明確にするため、実施形態に比べ、各層の幅、厚さ及び形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本開示の解釈を限定しない。本明細書と各図において、既出の図に関してすでに説明したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0012】
以下の説明において、登場する各成分(例えば、樹脂材料、樹脂成分、離型剤、バインダー、色材及び添加剤)は、特に言及しない限り、それぞれ1種用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0013】
[熱転写シート]
本開示の熱転写シートは、基材と、離型層と、転写層とをこの順に備える。
【0014】
転写層における離型層側の表面は、一実施形態において、モスアイ構造を有する。転写層は、離型層に接する第1主面と、第1主面とは反対側の第2主面とを有する。転写層の第1主面は、一実施形態において、モスアイ構造を有する。転写層の第1主面がモスアイ構造を有するか否かは、転写層を被転写体上に転写して得られる印画物の転写層表面を、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)又は原子間力顕微鏡(AFM)等を用いて観察することにより確認できる。
【0015】
本開示の熱転写シートを用いて転写層を被転写体上に転写することにより、一実施形態において、外光の反射及び像の映り込みを充分に抑制でき、高い艶消し効果を有するとともに、高い表面平滑性を有する印画物を作製できる。
【0016】
本開示の熱転写シートを用いることにより、一実施形態において、転写層の転写時におけるサーマルヘッドの印加エネルギーを抑制しながら(例えば印加エネルギーが全面略均一に抑制されたグロスモードで転写層を転写できる)高い艶消し効果を得ることができる。したがって、被転写体の画像上に転写された転写層の透明性の低下、よって画像の視認性の低下を抑制できる。また、サーマルヘッドへの負荷が減り、転写の不良リスクが下がる。なお、以上の説明は、本開示の熱転写シートを用いて例えばマットモードで転写層の転写を行うことを否定するものではなく、後述するようにマットモードで転写層を転写してもよい。
【0017】
離型層における転写層側の表面は、一実施形態において、モスアイ構造に対して相補的な形状の凹凸パターン、すなわちモスアイ構造の反転パターン、を有する。離型層は、基材側の第1主面と、第1主面とは反対側の第2主面とを有する。離型層の第2主面は、一実施形態において、モスアイ構造の反転パターンを有する。
【0018】
モスアイ構造は、複数の凸部を有する。通常、個々の凸部は、例えば、可視光領域の波長以下の周期で配列されている。個々の凸部は、凸部の基準となる面における底部から頂部に向かうに従って、熱転写シートの主面に平行な断面での断面積が徐々に小さくなる形状、いわゆるテーパー形状を有する。凸部における熱転写シートの主面に平行な断面での形状は、例えば、円形、楕円形及び不定形のいずれでもよく、好ましくは円形又は楕円形である。凸部の頂部の形状は、例えば、平坦、鋭角及び曲面のいずれでもよい。
【0019】
モスアイ構造における凸部の平均周期Pは、好ましくは780nm以下、より好ましくは400nm以下、さらに好ましくは380nm以下、特に好ましくは250nm以下であり、例えば50nm以上でもよく、80nm以上でもよい。周期が長くなるほど可視光領域の短波長側の光に対する反射率が増加する傾向にある。各凸部における最頂点から隣接する凸部の最頂点までを凸部間距離とし、凸部間距離の平均値を平均周期Pとする。
【0020】
モスアイ構造における凸部の平均高さHは、好ましくは60nm以上、より好ましくは100nm以上、さらに好ましくは150nm以上であり、好ましくは2000nm以下、より好ましくは800nm以下、さらに好ましくは400nm以下である。凸部とは、基準となる面より突出した部分をいう。モスアイ構造において凸部は、ランダムに配置されていてもよく、規則性を持って配置されていてもよい。
【0021】
モスアイ構造における凸部の平均間隔Gは、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下であり、例えば0nm以上でもよく、5nm以上でもよい。平均間隔Gが小さいほど、可視光の全波長領域において反射率が低下する傾向にある。凸部の平均間隔Gは、凸部の基準となる面における隣接する凸部間の距離の平均値を意味する。
【0022】
凸部の平均高さHと平均周期Pとの比(H/P)は、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上であり、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.0以下、さらに好ましくは2.5以下である。上記比が0.3以上であると、可視光反射率が低い傾向にある。上記比が4.0以下であると、モスアイ構造を容易に形成できる。
【0023】
凸部の周期、高さ及び間隔は、図1のP1、H1及びG1で示される距離を意味する。
【0024】
凸部の平均周期、平均高さ及び平均間隔は、走査型電子顕微鏡(SEM)又は原子間力顕微鏡(AFM)等を用いて、熱転写シートの主面に垂直な断面(凸部の縦断面)を観察して20個分の周期、高さ及び間隔を測定し、それぞれの測定値の平均値とする。
【0025】
凸部の周期、高さ及び間隔は、均一でもよく、不均一でもよい。モスアイ構造による構造色を抑制するという観点からは、複数の凸部がランダムに配置されていることが好ましい。すなわち、構造色を抑制するという観点からは、凸部の周期及び間隔が不均一であることが好ましい。この場合、凸部の高さは略均一でもよい。
以上のモスアイ構造の説明は、以下の他の個所においても適用できる。
【0026】
本開示において転写層とは、熱転写シートの背面に熱エネルギー等のエネルギーを印加することにより、例えば離型層から剥離して被転写体上に転写される層を意味する。すなわち転写層は、熱転写シートにおいて、エネルギーの印加により剥離しえる層である。転写層としては、例えば、保護層が挙げられる。
【0027】
保護層は、一実施形態において、基材側から剥離層と接着層とをこの順に備える。すなわち保護層は、一実施形態において、剥離層と、剥離層における基材とは反対側の面上に設けられた接着層とを備える。接着層は、一実施形態において、保護層を被転写体上に転写したときに、被転写体と接する。剥離層は、一実施形態において、保護層を被転写体上に転写したときに、得られる印画物の表面層を構成する。
【0028】
図2に示す実施形態の熱転写シート1は、背面層40と、基材10と、第1主面21及び第2主面22を有する離型層20と、第1主面31及び第2主面32を有する転写層30とを、熱転写シート1の厚さ方向にこの順に備える。図3に示す実施形態の熱転写シート1は、転写層30が剥離層36と接着層38とを備えること以外は図2に示す実施形態の熱転写シート1と同様である。図2及び図3に示す実施形態の熱転写シート1において、背面層40を省略してもよい。
【0029】
図2及び図3に示す実施形態の熱転写シート1において、離型層20の第2主面22は、モスアイ構造に対して相補的な形状の凹凸パターン24を有し、転写層30の第1主面31は、凹凸パターン24の形状に追従したモスアイ構造34を有する。
【0030】
例えば、図2及び図3に示す実施形態の熱転写シート1を用いて被転写体50上に画像を形成した後に該画像上に転写層30を転写すると、それぞれ図4及び図5に示すように、被転写体50と、被転写体50上に形成された図示せぬ画像と、該画像を覆うように被転写体50上に設けられた転写層30と、を備える印画物2が得られる。転写層30により、印画物2が備える図示せぬ画像等を良好に保護できる。印画物2の一方の表面には転写層30の第1主面31が位置し、第1主面31はモスアイ構造34を有する。したがって、印画物2は、外光の反射及び像の映り込みを充分に抑制できる。
【0031】
<基材>
基材としては、熱転写シートから転写層を被転写体上に転写する際の熱エネルギーに耐え得る耐熱性を有し、転写層を支持できる機械的強度及び耐溶剤性を有していれば、特に制限なく使用できる。
【0032】
基材としては、例えば、樹脂材料により構成される樹脂フィルムが挙げられる。樹脂材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート-イソフタレート共重合体及びテレフタル酸-シクロヘキサンジメタノール-エチレングリコール共重合体などのポリエステル;ナイロン6及びナイロン6,6などのポリアミド;ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリメチルペンテンなどのポリオレフィン;ポリ塩化ビニル及び塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体などのビニル樹脂;ポリ(メタ)アクリレート及びポリメチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル樹脂;ポリイミド;ポリカーボネート;ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアラミド、ポリエーテルケトン及びポリエーテルエーテルケトンなどのエンジニアリング樹脂;ポリスチレン、高衝撃ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体及びアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体などのスチレン樹脂;セロファン、セルロースアセテート及びニトロセルロースなどのセルロース樹脂が挙げられる。樹脂フィルムの中でも、PET及びPENなどのポリエステルにより構成される樹脂フィルムは、耐熱性及び機械的強度に優れるという観点から好ましい。
【0033】
本開示において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」と「メタクリレート」との両方を包含し、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」と「メタクリル」との両方を包含する。
【0034】
基材は、例えば、グラシン紙、コンデンサ紙及びパラフイン紙等の紙基材でもよい。
【0035】
基材は、複数層を備える積層体でもよい。基材として、例えば、樹脂フィルムの積層体を使用してもよい。樹脂フィルムの積層体は、例えば、ドライラミネーション法、ウェットラミネーション法又はエクストリュージョン法を利用することにより作製できる。基材は、延伸フィルムでもよく、未延伸フィルムでもよく、強度を向上させるという観点から、一軸方向又は二軸方向に延伸されたフィルムでもよい。
基材は、一実施形態において、長尺状である。
【0036】
基材の厚さは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは2μm以上であり、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。これにより、例えば、熱転写シートの機械的強度と転写層の転写性とのバランスをより向上できる。
【0037】
<離型層>
本開示の熱転写シートは、基材と転写層(例えば保護層)との間に位置する離型層を備える。離型層は、基材側の第1主面と、第1主面とは反対側の第2主面とを有する。離型層は、熱転写時に転写層を基材から容易に剥離できるように設けられる層であり、熱転写時に基材側に留まる層である。本開示において離型層は、一実施形態において、転写層の第1主面にモスアイ構造を賦形するために設けられる層でもある。
【0038】
離型層の第2主面は、一実施形態において、転写層の第1主面が有するモスアイ構造に対して相補的な形状の凹凸パターン(モスアイ構造の反転パターン)を有する。すなわち離型層の第2主面は、一実施形態において、転写層の第1主面にモスアイ構造を賦形できる凹凸パターンを有する。
【0039】
離型層は、一実施形態において、樹脂成分と、必要に応じて離型剤とを含有する。
樹脂成分としては、例えば、熱可塑性樹脂及び硬化樹脂が挙げられる。硬化樹脂としては、例えば、硬化性化合物の硬化物が挙げられる。硬化性化合物の硬化物としては、例えば、電離放射線硬化性化合物の硬化物、及び熱硬化性樹脂の硬化物が挙げられる。樹脂成分としては、数例を挙げると、フッ素樹脂、フッ素変性樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン変性樹脂、ビニル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド及びセルロース樹脂が挙げられる。
【0040】
離型剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリルリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム及びステアリン酸マグネシウム等の金属石鹸、シリコーンオイル、フッ素化合物、リン酸エステル、脂肪酸アミド、並びに、合成ワックス(例えばポリエチレンワックス及びポリプロピレンワックス等のポリオレフィンワックス)及び天然ワックス(例えばカルナバワックス及びパラフィンワックス)等のワックスが挙げられる。
【0041】
離型層は、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、無機粒子、有機粒子及び分散剤が挙げられる。
【0042】
離型層は、例えば、熱硬化性樹脂組成物又は電離放射線硬化性樹脂組成物などの硬化性樹脂組成物を用いて形成してもい。すなわち離型層は、硬化性樹脂組成物を硬化して形成された硬化層でもよい。熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂を含有する。電離放射線硬化性樹脂組成物は、電離放射線硬化性化合物を含有する。電離放射線硬化性樹脂組成物としては、紫外線硬化性樹脂組成物が好ましい。硬化性樹脂組成物は、離型剤及び/又は上記添加剤を含有してもよい。
【0043】
熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和基含有(メタ)アクリル樹脂、不飽和ポリエステル、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミノアルキッド樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、メラミン-尿素共縮合樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂及びシリコーン樹脂が挙げられる。
【0044】
熱硬化性樹脂とともに、必要に応じて硬化剤が用いられる。不飽和基含有(メタ)アクリル樹脂及び不飽和ポリエステルの場合は、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド等の過酸化物、又はアゾイソブチルニトリル等のラジカル開始剤が用いられる。ウレタン樹脂の場合は、例えば、イソシアネート系硬化剤が用いられる。エポキシ樹脂の場合は、例えば、有機アミン系硬化剤が用いられる。
【0045】
熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリオールを主剤とし、イソシアネート化合物を硬化剤とする二液硬化型ウレタン樹脂が挙げられる。ポリオールとしては、例えば、(メタ)アクリルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールが挙げられる。イソシアネート化合物は、2個以上のイソシアネート基を有する多価イソシアネートであり、例えば、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート及び水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂肪族(又は脂環族)イソシアネートが挙げられる。
【0046】
電離放射線硬化性化合物は、電離放射線を照射することにより、架橋及び硬化する化合物を意味し、電離放射線硬化性官能基を有する。電離放射線硬化性官能基とは、電離放射線の照射によって架橋する基であり、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基及びアリル基などのエチレン性二重結合を有する官能基(エチレン性不飽和基)が挙げられる。電離放射線とは、電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合又は架橋し得るエネルギー量子を有するものを意味する。電離放射線としては、例えば、電子線(EB)及び紫外線(UV)が挙げられ、X線及びγ線などの電磁波;α線及びイオン線などの荷電粒子線も挙げられる。
【0047】
電離放射線硬化性化合物としては、例えば、電離放射線硬化性化合物として従来慣用されている、重合性モノマー及び重合性オリゴマーが挙げられる。
【0048】
重合性モノマーとしては、分子中に(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートモノマーが好ましく、分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートモノマーがより好ましい。多官能(メタ)アクリレートモノマーにおける(メタ)アクリロイル基数は、2以上であり、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。
【0049】
重合性モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAテトラエトキシジ(メタ)アクリレート及びビスフェノールAテトラプロポキシジ(メタ)アクリレート等の二官能(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の三官能以上の(メタ)アクリレート;並びにこれらの(メタ)アクリレートの、エチレンオキシド変性物、プロピレンオキシド変性物、カプロラクトン変性物、イソシアヌル酸変性物又はプロピオン酸変性物が挙げられる。
【0050】
重合性オリゴマーとしては、例えば、分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートオリゴマーが挙げられる。(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、ポリカプロラクトンウレタン(メタ)アクリレート、ポリカプロラクトンジオールウレタン(メタ)アクリレート及びアクリル(メタ)アクリレートが挙げられる。重合性オリゴマーにおける(メタ)アクリロイル基数は、2以上であり、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。
【0051】
重合性オリゴマーとしては、その他、ポリブタジエンオリゴマーの側鎖に(メタ)アクリロイル基を有する疎水性の高いポリブタジエン(メタ)アクリレート系オリゴマー、及び主鎖にポリシロキサン結合を有するシリコーン(メタ)アクリレート系オリゴマーも挙げられる。
【0052】
重合性オリゴマーの重量平均分子量は、500以上でもよく、1,000以上でもよく、2,000以上でもよく、10,000以下でもよく、8,000以下でもよく、6,000以下でもよい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析によって測定され、かつ標準ポリスチレンで換算された平均分子量である。
【0053】
電離放射線硬化性化合物としては、多官能(メタ)アクリレートとともに、塗工時における硬化性組成物の粘度を低下させるなどの目的で、単官能(メタ)アクリレートを適宜併用してもよい。単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート及びイソボルニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0054】
電離放射線硬化性化合物が紫外線硬化性化合物である場合は、紫外線硬化性化合物とともに、光重合開始剤及び光重合促進剤から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、ベンゾフェノン、α-ヒドロキシアルキルフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾイン、ベンジルジメチルケタール、ベンゾイルベンゾエート、α-アシルオキシムエステル及びチオキサンソンが挙げられる。光重合促進剤としては、例えば、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル及びp-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルが挙げられる。
【0055】
離型層に含まれる全樹脂成分に対して、硬化樹脂の含有割合は、例えば、50質量%以上でもよく、70質量%以上でもよく、80質量%以上でもよく、90質量%以上でもよい。
【0056】
硬化性樹脂組成物は、離型層の前駆体層である塗膜を形成する時点では半硬化の状態にしておき、表面にモスアイ構造を有する型を用いて賦形した後又は賦形しながら、加熱、電離放射線の照射等により硬化性樹脂組成物の硬化を進行させ、完全硬化させてもよい。
【0057】
離型層の厚さは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上であり、好ましくは3μm以下、より好ましくは1.5μm以下である。これにより、例えば、熱転写シートにおける転写層の転写性を向上できる。
【0058】
離型層は、例えば、以下のようにして形成できる。
まず、上記樹脂成分を含有する塗工液又は上述した硬化性樹脂組成物を、ロールコート、リバースロールコート、グラビアコート、リバースグラビアコート、バーコート及びロッドコートなどの公知の手段により、基材に塗布し乾燥させて、塗膜を形成する。次に、塗膜の表面と、表面にモスアイ構造を有する型(以下「モスアイ型」ともいう)の該表面とを対向させて、塗膜にモスアイ型を接触又は圧着させる。硬化性樹脂組成物を用いる場合は、塗膜にモスアイ型を接触又は圧着させながら、あるいはモスアイ型を除去した後に、加熱処理又は電離放射線照射処理により塗膜を硬化させる。モスアイ型を除去する。このようにして、モスアイ構造に対して相補的な形状の凹凸パターン(モスアイ構造の反転パターン)を第2主面に有する離型層を形成できる。モスアイ型は、例えば、転写層の第1主面が有するモスアイ構造と略同一の凹凸パターンを有する。
【0059】
モスアイ型としては、例えば、板状モールドでもよく、ロール状モールドでもよい。印画物の連続生産性の観点から、表面にモスアイ構造を有するロール状モールドが好ましく、表面にモスアイ構造を有する金属ロール状モールドがより好ましい。金属ロール状モールドの表面材質としては、例えば、銅、ニッケル、クロム及びアルミナが挙げられる。ロール状モールドには、必要に応じてメッキ処理してもよい。
【0060】
モスアイ型としては、市販のモスアイ型を用いてもよく、公知の方法に従って製造されたモスアイ型を用いてもよい。モスアイ型は、例えば、フォトリソグラフィ法又は電子線描画法等によって、所望する加工精度に応じてモスアイ構造の凹凸パターンを形成して作製できる。
【0061】
<転写層>
転写層の第1主面は、一実施形態において、離型層の第2主面が有する凹凸パターンの形状に追従したモスアイ構造を有する。離型層の凹凸パターンの凹部は、転写層が有するモスアイ構造の凸部に対応する。離型層の凹凸パターンの凸部は、転写層が有するモスアイ構造の凹部に対応する。離型層の第2主面がモスアイ構造に対して相補的な形状の凹凸パターンを有することにより、離型層上に設けられる転写層の第1主面に該モスアイ構造を形成できる。
【0062】
本開示の熱転写シートを用いて被転写体上に転写層を転写することにより、被転写体と、被転写体上に設けられた転写層と、を備える印画物が得られる。印画物の一方の表面には転写層の第1主面が位置し、第1主面は一実施形態においてモスアイ構造を有する。したがって、印画物は、外光の反射及び像の映り込みを充分に抑制できる。
【0063】
転写層としては、例えば、保護層が挙げられる。
保護層は、熱転写シートから被転写体上に転写された後は、被転写体の表面の保護を担う層である。一実施形態において、保護層が剥離層及び接着層を備える場合、剥離層が第1主面を構成し、接着層が第2主面を構成する。
【0064】
本開示の熱転写シートにおいて、転写層の第1主面の反射ヘイズ(単位:%)は、黒ベタ画像(画像階調:0/255)上に転写層をグロスモードで転写した場合に、好ましくは12以下である。これにより、例えば、転写層を被転写体上に転写した場合において、得られる印画物における外光の反射及び像の映り込みを充分に抑制できる。転写層の第1主面の反射ヘイズは、黒ベタ画像(画像階調:0/255)上に転写層をグロスモードで転写した場合に、より好ましくは9以下、さらに好ましくは6以下であり、反射ヘイズの下限値は特に限定されないが、例えば0.5でもよく、2でもよい。
本開示の熱転写シートにおいて、転写層の第1主面の反射ヘイズ(単位:%)は、白ベタ画像(画像階調:255/255)又はグレーベタ画像(画像階調:128/255)上に転写層をグロスモードで転写した場合に、12以下であることも、好ましい態様の一つであり、より好ましくは9以下、さらに好ましくは6以下である。該反射ヘイズの下限値は特に限定されないが、例えば0.5でもよく、2でもよい。
【0065】
本開示の熱転写シートにおいて、転写層の第1主面の鏡面光沢度(60°反射)は、黒ベタ画像(画像階調:0/255)上に転写層をグロスモードで転写した場合に、好ましくは25%以下である。これにより、例えば、転写層を被転写体上に転写した場合において、得られる印画物における外光の反射及び像の映り込みを充分に抑制できる。転写層の第1主面の鏡面光沢度(60°反射)は、黒ベタ画像(画像階調:0/255)上に転写層をグロスモードで転写した場合に、より好ましくは22%以下、さらに好ましくは21%以下であり、鏡面光沢度(60°反射)の下限値は特に限定されないが、例えば10%でもよく、15%でもよい。
本開示の熱転写シートにおいて、転写層の第1主面の鏡面光沢度(60°反射)は、白ベタ画像(画像階調:255/255)又はグレーベタ画像(画像階調:128/255)上に転写層をグロスモードで転写した場合に、25%以下であることも、好ましい態様の一つである。該鏡面光沢度(60°反射)の下限値は特に限定されないが、例えば10%でもよく、15%でもよい。
【0066】
本開示の熱転写シートにおいて、転写層の第1主面の鏡面光沢度(20°反射)は、黒ベタ画像(画像階調:0/255)上に転写層をグロスモードで転写した場合に、好ましくは9%以下である。これにより、例えば、転写層を被転写体上に転写した場合において、得られる印画物における外光の反射及び像の映り込みを充分に抑制できる。転写層の第1主面の鏡面光沢度(20°反射)は、黒ベタ画像(画像階調:0/255)上に転写層をグロスモードで転写した場合に、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下であり、鏡面光沢度(20°反射)の下限値は特に限定されないが、例えば1%でもよく、2%でもよい。
本開示の熱転写シートにおいて、転写層の第1主面の鏡面光沢度(20°反射)は、白ベタ画像(画像階調:255/255)又はグレーベタ画像(画像階調:128/255)上に転写層をグロスモードで転写した場合に、9%以下であることも、好ましい態様の一つであり、より好ましくは5%以下である。該鏡面光沢度(20°反射)の下限値は特に限定されないが、例えば1%でもよく、2%でもよい。
【0067】
反射ヘイズ及び鏡面光沢度は、以下のようにして測定される。まず、熱転写シートの転写層を、熱転写シートから被転写体上に転写して、印画物を得る。印画物の一方の表面には転写層の第1主面が位置する。この第1主面について、反射ヘイズ及び鏡面光沢度を測定する。反射ヘイズは、ASTM E430(ISO 13803)に準拠して測定する。鏡面光沢度は、JIS Z8741(1997年)に準拠して測定する。転写条件の詳細は、実施例欄に記載したとおりである。
【0068】
(剥離層)
保護層は、一実施形態において、保護層を構成する層のうち、基材の最も近くに位置する層として剥離層を備える。剥離層を設けることにより、保護層の転写性をより向上できる。剥離層は、熱転写時に保護層の一部として転写され、保護層転写後は画像の表面層となり、画像の耐擦過性を向上させる作用をする。この実施形態では、剥離層の表面が上述したモスアイ構造を有する。
【0069】
剥離層は、一実施形態において、樹脂材料を含有する。
樹脂材料としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂;スチレン樹脂;ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール及びポリビニルピロリドンなどのビニル樹脂;ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、メチルセルロース及び酢酸セルロースなどのセルロース樹脂;ポリアミド;ポリウレタン;ポリカーボネート;フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂;これらの各樹脂をシリコーン変性させた樹脂、紫外線吸収性樹脂、並びに電離放射線硬化樹脂が挙げられる。
【0070】
電離放射線硬化樹脂としては、例えば、ラジカル重合性ポリマー又はラジカル重合性オリゴマーを電離放射線照射により架橋及び硬化させて得られた樹脂が挙げられ、具体的には、ラジカル重合性ポリマー又はラジカル重合性オリゴマーに必要に応じて光重合開始剤を添加し、電子線又は紫外線照射によって重合架橋させた樹脂が挙げられる。
【0071】
剥離層における樹脂材料の含有割合は、剥離層の総質量に対して、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上である。これにより、例えば、剥離層に充分な耐久性を付与できる。
【0072】
剥離層は、滑剤を含有してもよい。滑剤としては、例えば、ワックス;高級脂肪酸の金属塩;(メタ)アクリル樹脂、架橋ポリスチレン及びフッ素樹脂(例えばポリテトラフルオロエチレン)等の有機粒子;シリカ、クレー、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム及び硫酸バリウム等の無機粒子が挙げられる。
【0073】
ワックスとしては、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、シリコーンワックス、酸化ワックス、オゾケライト、セレシン、ポリエステルワックス及びポリエチレンワックス等の合成ワックス;蜜蝋、鯨蝋、木蝋、米ぬか蝋、カルナバワックス、キャンデリラワックス及びモンタンワックス等の天然ワックス;マルガリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、フロイン酸及びベヘニン酸等の高級飽和脂肪酸;ステアリルアルコール及びベヘニルアルコール等の高級飽和一価アルコール;ソルビタンの脂肪酸エステル等の高級脂肪酸エステル;ステアリン酸アミド及びオレイン酸アミド等の高級脂肪酸アミドが挙げられる。高級脂肪酸の金属塩としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリルリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム及びステアリン酸マグネシウムが挙げられる。
【0074】
剥離層における滑剤の含有割合は、剥離層の総質量に対して、例えば、1質量%以上でもよく、2質量%以上でもよく、20質量%以下でもよく、15質量%以下でもよい。
【0075】
剥離層は、上記添加剤を含有してもよい。
剥離層における添加剤の含有割合は、剥離層の総質量に対して、例えば、20質量%以下でもよく、15質量%以下でもよい。
【0076】
剥離層の厚さは、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.3μm以上、さらに好ましくは0.5μm以上であり、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは3μm以下である。これにより、例えば、保護層の転写不良などの発生を抑制できるとともに、充分な保護機能を被転写体に付与できる。
【0077】
剥離層は、例えば、上記材料を含有する塗工液を、ロールコート、リバースロールコート、グラビアコート、リバースグラビアコート、バーコート及びロッドコートなどの公知の手段により、離型層に塗布し、乾燥させることにより形成できる。これにより、転写層の第1主面に、離型層が有する凹凸パターンの形状に追従した凹凸パターン(モスアイ構造)を容易に形成できる。
【0078】
(接着層)
保護層は、一実施形態において、剥離層における基材とは反対側の面上に設けられた接着層を備える。接着層は、保護層と被転写体との密着性を向上させる層である。接着層は、例えば、従来公知の感圧接着剤又は感熱接着剤により形成できる。
【0079】
接着層は、一実施形態において、樹脂材料を含有する。
樹脂材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル及び塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等のビニル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、α-オレフィン-無水マレイン酸共重合体等の酸変性ポリオレフィン、ポリエステル、ポリウレタン、セルロース樹脂、シリコーン樹脂及びフッ素樹脂、シリコーン又はフッ素で変性された各種樹脂が挙げられる。これらの中でも、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリエステル及び(メタ)アクリル樹脂がより好ましく、ポリエステルがさらに好ましい。
【0080】
接着層における樹脂材料の含有割合は、接着層の総質量に対して、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上である。
【0081】
接着層は、上記添加剤を含有してもよい。
【0082】
接着層の厚さは、例えば、0.5μm以上でもよく、10μm以下でもよく、8μm以下でもよく、5μm以下でもよい。
【0083】
接着層は、例えば、上記材料を含有する塗工液を、ロールコート、リバースロールコート、グラビアコート、リバースグラビアコート、バーコート及びロッドコートなどの公知の手段により、剥離層に塗布し、乾燥させることにより形成できる。
【0084】
(受容層)
転写層は、第2主面を構成する表面層として、受容層を備えてもよい。すなわち熱転写シートは、いわゆる中間転写媒体でもよい。転写層が受容層からなる単層構造を有する場合は、受容層の一方の面が転写層の第1主面を構成し、他方の面が転写層の第2主面を構成する。転写層が積層構造を有する場合は、受容層の他方の面が転写層の第2主面を構成する。例えば転写層は、剥離層と受容層とを備えてもよい。
【0085】
受容層には、昇華型熱転写方式で画像を形成できる。受容層は、例えば、昇華性染料を受容できる成分を含有する。昇華性染料を受容できる成分としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、アクリル-スチレン共重合体、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリアクリル酸エステル、ポリエステル、ポリスチレン、ポリアミド、エチレン、オレフィンと他のビニルポリマーとの共重合体、アイオノマー、セルロース樹脂、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール及びゼラチンが挙げられる。
【0086】
受容層は、上記材料を含有する塗工液を塗布、乾燥して形成できる。
【0087】
受容層の厚さは、例えば、0.5μm以上20μm以下が好ましい。
【0088】
<色材層>
本開示の熱転写シートは、基材の一方の面上に、保護層と面順次に色材層を備えてもよい。本開示の熱転写シートにおいて、色材層及び保護層は、基材の一方の面上に面順次に設けられていてもよい。色材層及び保護層は、例えば、基材の長手方向に、面順次に設けられている。基材上に色材層及び保護層を設けることにより、例えば、同一の熱転写シートを用いて、被転写体上への熱転写画像の形成と、形成された熱転写画像上への保護層の転写とを行うことができる。
【0089】
色材層は、例えば、昇華性染料をバインダー中に溶解又は分散させた昇華転写型色材層でよく、顔料及び染料などの色材を熱溶融性バインダー中に分散させた溶融転写型色材層でもよい。熱転写シートは、昇華転写型色材層及び溶融転写型色材層の両者を備えてもよく、例えば、イエロー、マゼンタ及びシアンの色材層を昇華転写型色材層とし、ブラックの色材層を溶融転写型色材層として、これらの色材層を基材上に面順次に設けてもよい。例えば、階調画像部を昇華転写型記録方式で形成し、文字部分を溶融転写型記録方式で形成してもよい。
【0090】
色材層は、一実施形態において、バインダーと、色材とを含有する。
バインダーとしては、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリオレフィン、(メタ)アクリル樹脂、ビニル樹脂、スチレン樹脂、セルロース樹脂、フェノキシ樹脂及びアイオノマー樹脂などの樹脂材料が挙げられる。溶融転写型色材層におけるバインダーとしては、上記樹脂材料のほか、マイクロクリスタリンワックス、カルナバワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、木ロウ、ミツロウ、鯨ロウ、イボタロウ、羊毛ロウ、セラックワックス、キャンデリラワックス、ペトロラクタム、ポリエステルワックス、一部変性ワックス、脂肪酸エステル及び脂肪酸アミドなどのワックスを使用してもよい。溶融転写型色材層は、樹脂材料及びワックスの両者を含有してもよい。
【0091】
色材は、有機顔料及び無機顔料などの顔料でもよく、染料でもよい。染料は、昇華性染料でもよい。色材としては、具体的には、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、黒煙、鉄黒、アニリンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、酸化チタン、カドミウムレッド、カドモポンレッド、クロムレッド、バーミリオン、ベンガラ、アゾ系顔料、アリザリンレーキ、キナクリドン、コチニールレーキペリレン、イエローオーカー、オーレオリン、カドミウムイエロー、カドミウムオレンジ、クロムイエロー、ジンクイエロー、ネイプルスイエロー、ニッケルイエロー、グリニッシュイエロー、ウルトラマリン、岩群青、コバルト、フタロシアニン、アントラキノン、インジコイド、シナバーグリーン、カドミウムグリーン、クロムグリーン、フタロシアニン、アゾメチン、ペリレン、アルミニウム顔料;並びに、ジアリールメタン染料、トリアリールメタン染料、チアゾール染料、メロシアニン染料、ピラゾロン染料、メチン染料、インドアニリン染料、アセトフェノンアゾメチン染料、ピラゾロアゾメチン染料、キサンテン染料、オキサジン染料、チアジン染料、アジン染料、アクリジン染料、アゾ染料、スピロピラン染料、インドリノスピロピラン染料、フルオラン染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料及びキノフタロン染料などの昇華性染料が挙げられる。色材の色相は、例えば、マゼンタ、イエロー、シアン及びブラックが挙げられる。
【0092】
色材層は、上記添加剤を含有してもよい。
【0093】
色材層は、一実施形態において、昇華転写型色材層である。
昇華転写型色材層におけるバインダーの含有割合は、例えば、20質量%以上でもよく、30質量%以上でもよく、95質量%以下でもよく、90質量%以下でもよい。昇華転写型色材層における昇華性染料の含有割合は、例えば、5質量%以上でもよく、10質量%以上でもよく、80質量%以下でもよく、70質量%以下でもよい。これにより、例えば、印画濃度及び保存性を向上できる。
【0094】
昇華転写型色材層は、硬化剤により硬化されていてもよい。硬化剤としては、例えば、エポキシ樹脂、イソシアネート及びカルボジイミドが挙げられる。硬化剤は1種又は2種以上用いることができる。
【0095】
基材と昇華転写型色材層との間に、染料プライマー層を設けてもよい。
【0096】
色材層は、一実施形態において、溶融転写型色材層である。
溶融転写型色材層におけるバインダーの含有割合は、例えば、20質量%以上でもよく、30質量%以上でもよく、90質量%以下でもよく、80質量%以下でもよい。溶融転写型色材層における色材の含有割合は、例えば、10質量%以上でもよく、20質量%以上でもよく、60質量%以下でもよく、50質量%以下でもよい。
【0097】
基材と溶融転写型色材層との間に、従来公知の離型層を設けてもよい。
【0098】
色材層の厚さは、好ましくは0.1μm以上であり、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。
【0099】
色材層は、例えば、上記材料を含有する塗工液を、ロールコート、リバースロールコート、グラビアコート、リバースグラビアコート、バーコート及びロッドコートなどの公知の手段により、基材に塗布し、乾燥させることにより形成できる。
【0100】
<受容層>
本開示の熱転写シートは、基材の一方の面上に、上記転写層としての保護層と面順次に、色材層及び転写可能な受容層を備えてもよい。本開示の熱転写シートにおいて、受容層、色材層及び保護層は、基材の一方の面上に面順次に設けられていてもよい。受容層、色材層及び保護層は、例えば、基材の長手方向に、面順次に設けられている。基材上に受容層、色材層及び保護層を設けることにより、例えば、同一の熱転写シートを用いて、被転写体上への受容層の転写と、転写された受容層への熱転写画像の形成と、形成された熱転写画像上への保護層の転写とを行うことができる。
受容層の詳細は、上述したとおりである。
【0101】
<背面層>
本開示の熱転写シートは、一実施形態において、基材における転写層が設けられた面とは反対側の面上に、背面層を備えてもよい。これにより、例えば、熱転写時におけるスティッキング及びシワ等の発生を抑制できる。
【0102】
背面層は、一実施形態において、樹脂材料を含有する。樹脂材料としては、例えば、ポリオレフィン、スチレン樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、セルロース樹脂、及びこれらのシリコーン変性物が挙げられる。
【0103】
背面層は、一実施形態において、水酸基含有樹脂をイソシアネート硬化剤により硬化させた硬化樹脂を含有する。これにより、例えば、熱転写時におけるスティッキング及びシワ等の発生を抑制できる。
【0104】
水酸基含有樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール及び(メタ)アクリルポリオールが挙げられる。水酸基含有樹脂における水酸基含有構成単位の含有割合は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。これにより、例えば、背面層の耐熱性を向上でき、基材及び転写層へ伝達される熱エネルギーを低減できることから、印画性をより向上できる。「水酸基含有構成単位」とは、樹脂中の水酸基を有するモノマー構成単位の割合を意味し、樹脂全体の質量に対する水酸基を有するモノマー構成単位の割合(質量%)として算出される値である。
【0105】
イソシアネート硬化剤としては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート及びトリス(イソシアネートフェニル)チオフェスフェートが挙げられる。
【0106】
イソシアネート硬化剤が有するイソシアネート基(-NCO)と水酸基含有樹脂が有する水酸基(-OH)とのモル当量比(-NCO/-OH)は、好ましくは1.5以上である。これにより、例えば、背面層の耐熱性を向上でき、基材及び転写層へ伝達される熱エネルギーを低減できることから、印画性をより向上できる。
【0107】
背面層における上記硬化樹脂の含有割合は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。これにより、例えば、印画性をより向上できる。
【0108】
背面層は、スリップ性等を向上させる目的で、ステアリン酸亜鉛、ステアリルリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム及びステアリン酸マグネシウム等の金属石鹸、シリコーンオイル、フッ素化合物、リン酸エステル、脂肪酸アミド、ポリエチレンワックス、カルナバワックス及びパラフィンワックス等のワックスなどの離型剤;フッ素樹脂等の有機粒子、シリカ、クレー、タルク及び炭酸カルシウム等の無機粒子、シリコーン樹脂等の有機無機粒子などの添加剤を含有してもよい。
【0109】
背面層における上記添加剤の含有割合は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。これにより、例えば、スリップ性をより向上できる。
【0110】
背面層の厚さは、耐熱性及びスリップ性等の向上という観点から、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.3μm以上であり、好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下である。
【0111】
背面層は、例えば、上述した材料を含有する塗工液を、ロールコート、リバースロールコート、グラビアコート、リバースグラビアコート、バーコート及びロッドコートなどの公知の手段により、基材に塗布し、乾燥させることにより形成できる。
【0112】
[第1の印画物の製造方法]
本開示の第1の印画物の製造方法は、本開示の熱転写シート及び被転写体を準備する工程(準備工程)と、熱転写シートから、転写層を被転写体上に転写する工程(転写工程)と、を有する。上記製造方法は、転写工程の前に、被転写体上に画像を形成する工程(画像形成工程)をさらに有してもよい。
【0113】
一実施形態において、画像上に保護層を積層できる。本開示の製造方法により、文字、線画、模様、記号及びこれらの組合せ等から構成される画像と、画像上に設けられた保護層と、を備える印画物を得ることができる。
【0114】
<準備工程>
準備工程では、本開示の熱転写シート及び被転写体を準備する。
本開示の熱転写シートの詳細は、上述したとおりである。
【0115】
被転写体としては、例えば、熱転写シートにおける基材として説明した上記樹脂フィルム、ガラス基材、金属基材、セラミック基材、布基材及び紙基材、並びにこれらの積層基材が挙げられる。被転写体は、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体又はポリカーボネートを主体として構成されるカード基材でもよい。布基材としては、例えば、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、アセテート繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維及びポリ塩化ビニリデン繊維等の人造繊維;綿、絹、麻及び羊毛等の天然繊維等の繊維から形成された基材が挙げられる。紙基材としては、例えば、上質紙、普通紙、アート紙、コート紙、レジンコート紙、キャストコート紙、板紙、合成紙及び含浸紙が挙げられる。被転写体としては、例えば、基材と、基材の一方の面上に設けられた受容層とを備える熱転写受像シートでもよい。被転写体は、画像を有してもよく、着色されていてもよく、透明性を有してもよい。熱転写受像シートにおける受容層には画像が既に形成されていてもよく、以下の画像形成工程で画像を形成してもよい。
【0116】
<画像形成工程>
画像形成工程では、本開示の熱転写シートが任意に備える色材層により、被転写体上に画像を形成してもよく、公知の熱転写シートが備える色材層により、被転写体上に画像を形成してもよい。例えば、熱転写シートの色材層と被転写体の表面とを接触させ、次いで、熱転写シートにおいて、所望の領域に熱を印加し、被転写体上に画像を形成する。
【0117】
例えば、サーマルヘッド等の加熱デバイスを有する熱転写プリンタを用いて画像を形成できる。一実施形態において、熱転写シートと被転写体とを重ね合わせ、熱転写プリンタが備えるサーマルヘッドとプラテンロールとの間を通過させると共に、サーマルヘッドを用いて熱転写シートを加熱することにより、画像を形成する。被転写体へ画像を形成する熱転写記録方式は、昇華転写型でもよく、溶融転写型でもよく、これらの組合せでもよい。昇華転写型と溶融転写型とを組み合わせて、例えば、階調画像部を昇華転写型記録方式で形成し、文字部分を溶融転写型記録方式で形成してもよい。熱転写記録は、サーマルヘッド方式だけではなく、レーザー照射による加熱の熱転写手段でも適用可能である。
【0118】
<転写工程>
転写工程では、被転写体上に、本開示の熱転写シートが備える転写層を転写する。一実施形態において、転写工程では、被転写体上に形成されている上記画像を少なくとも覆うように、熱転写シートが備える保護層を転写する。
【0119】
例えば、サーマルヘッド等の加熱デバイスを有する熱転写プリンタを用いて転写層を転写できる。一実施形態において、熱転写シートと画像が形成されている被転写体とを重ね合わせ、熱転写プリンタが備えるサーマルヘッドとプラテンロールとの間を通過させると共に、サーマルヘッドを用いて熱転写シートを加熱することにより、被転写体上に形成された画像を覆うように保護層を転写する。転写層の転写は、ヒートロール方式を用いて行ってもよい。転写層の転写は、熱転写シートと被転写体とを、それぞれ加熱した平板と平板とで挟み込み、又はそれぞれ加熱した平板とロールとで挟み込み、熱プレスして行ってもよい。
【0120】
保護層の熱転写手段としてサーマルヘッドを用いる場合、画像形成時に用いたサーマルヘッドと同一のものを使用してもよく、別のサーマルヘッドを用いてもよい。本開示において、画像形成の熱転写手段と保護層の熱転写手段とを、一つの熱転写プリンタを用いてインラインで行ってもよく、また被転写体に画像形成された画像上に、保護層を転写する際に、保護層の転写もインラインで行ってもよい。
【0121】
本開示の第1の印画物の製造方法において、被転写体上に転写された転写層の第1主面は、一実施形態において、上述したモスアイ構造を有する。これにより、得られる印画物は、例えば、外光の反射及び像の映り込みを充分に抑制でき、高い艶消し効果を有する。例えば、グロスモードのように全面略均一に抑制された印加エネルギーで転写層を転写することにより、高い艶消し効果と、高い表面平滑性とを有する印画物を作製できる。例えば、マットモードのように高い印加エネルギーで、及び/又は局所的に印加エネルギーを変えて転写層を転写することにより、nmオーダーのモスアイ構造による高い艶消し効果と、μmオーダーの凹凸構造によるマット調の触感とを有する印画物を作製できる。
【0122】
[第2の印画物の製造方法]
本開示の第2の印画物の製造方法は、基材と転写層とを備える熱転写シート、及び被転写体を準備する工程(準備工程)と、熱転写シートから、転写層を被転写体上に転写する工程(転写工程)と、モスアイ構造に対して相補的な形状の凹凸パターンを表面に有する型を用いて、被転写体上に転写された転写層を賦形して、転写層の表面に該モスアイ構造を形成する工程(賦形工程)と、を有する。上記製造方法は、転写工程の前に、被転写体上に画像を形成する工程(画像形成工程)をさらに有してもよい。
【0123】
準備工程では、基材と転写層(例えば保護層)とを備える熱転写シートを準備する。第2の印画物の製造方法で用いる熱転写シートは、上述したモスアイ構造等を有する必要はなく、従来公知の熱転写シートを用いることができる。熱転写シートは、基材と転写層とを備えるが、モスアイ構造に関する要件以外の構成(例えば、層構成、各層の組成及び厚さ)は、例えば本開示の熱転写シートと同様であることから、ここでは記載を省略する。
準備工程では、被転写体を準備する。被転写体の詳細も上述したとおりである。
【0124】
第2の印画物の製造方法における画像形成工程及び転写工程は、第1の印画物の製造方法における画像形成工程及び転写工程とそれぞれ同様であることから、ここでは記載を省略する。
【0125】
賦形工程では、モスアイ構造に対して相補的な形状の凹凸パターンを表面に有する型を用いて、被転写体上に転写された転写層を賦形して、転写層の表面に該モスアイ構造を形成する。これにより、例えば、外光の反射及び像の映り込みを充分に抑制でき、高い艶消し効果を有する印画物を作製できる。例えば、グロスモードのように全面略均一に抑制された印加エネルギーで転写層を転写した後に、転写層を上記の通り賦形することにより、高い艶消し効果と、高い表面平滑性とを有する印画物を作製できる。例えば、マットモードのように高い印加エネルギーで、及び/又は局所的に印加エネルギーを変えて転写層を転写した後に、転写層を上記の通り賦形することにより、nmオーダーのモスアイ構造による高い艶消し効果と、μmオーダーの凹凸構造によるマット調の触感とを有する印画物を作製できる。
【0126】
例えば、被転写体の搬送路中に、図6に示すように、モスアイ構造に対して相補的な形状の凹凸パターン64を表面に有するローラー60を備える熱転写プリンタを用いる。ローラー60は、例えば、転写層30転写後の搬送路上であって、被転写体50上に転写された転写層30側に配置される。該ローラー60を用いて、被転写体50上に転写された転写層30にローラー60を圧着したのち、転写層30からローラー60を離す。これにより、転写層30の第1表面31にモスアイ構造34を形成できる。
【0127】
本開示は、例えば以下の[1]~[7]に関する。
[1]基材と、離型層と、転写層とをこの順に備える熱転写シートであって、前記転写層における前記離型層側の表面が、モスアイ構造を有し、前記離型層における前記転写層側の表面が、前記モスアイ構造に対して相補的な形状の凹凸パターンを有する、熱転写シート。
[2]前記転写層を黒ベタ画像が形成された被転写体上に転写して得られる印画物における前記転写層の表面の反射ヘイズが、12%以下である、前記[1]に記載の熱転写シート。
[3]前記転写層を黒ベタ画像が形成された被転写体上に転写して得られる印画物における前記転写層の表面の鏡面光沢度(60°反射)が、25%以下である、前記[1]又は[2]に記載の熱転写シート。
[4]基材と、離型層と、転写層とをこの順に備える熱転写シートであって、前記転写層を黒ベタ画像が形成された被転写体上に転写して得られる印画物における前記転写層の表面の反射ヘイズが、12%以下である、熱転写シート。
[5]前記転写層を黒ベタ画像が形成された被転写体上に転写して得られる印画物における前記転写層の表面の鏡面光沢度(60°反射)が、25%以下である、前記[4]に記載の熱転写シート。
[6]前記[1]~[5]のいずれか一項に記載の熱転写シート及び被転写体を準備する工程と、前記熱転写シートから、前記転写層を前記被転写体上に転写する工程と、を有する、印画物の製造方法。
[7]基材と転写層とを備える熱転写シート、及び被転写体を準備する工程と、前記熱転写シートから、前記転写層を前記被転写体上に転写する工程と、モスアイ構造に対して相補的な形状の凹凸パターンを表面に有する型を用いて、前記被転写体上に転写された前記転写層を賦形して、前記転写層の表面に前記モスアイ構造を形成する工程と、を有する、印画物の製造方法。
【実施例0128】
以下、実施例に基づき本開示の熱転写シートについて説明するが、本開示の熱転写シートは実施例に何ら限定されない。以下の記載において、「質量部」は単に「部」と記載する。以下に記載の塗工液の含有成分の量は、溶媒を除き、固形分量である。
【0129】
[実施例1]
基材として、厚さ5μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを準備した。基材の一方の面に下記背面層用塗工液を塗布し100℃で2分間乾燥して、厚さ1.2μmの背面層を形成した。基材の他方の面に下記離型層用塗工液を基材に塗布し100℃で1分間乾燥して、厚さ1μmの塗膜(離型層の前駆体層)を形成した。表面にモスアイ構造を有するモスアイ原版(凸部の平均周期:100nm、平均高さ:250nm、平均間隔:20nm、ロール状モールド)を準備した。モスアイ原版を用いて塗膜に凹凸パターンを形成して、離型層を形成した。凹凸パターンは、上記モスアイ構造に対して相補的な形状の凹凸パターン、すなわち、モスアイ構造の反転パターンである。下記剥離層用塗工液を離型層に塗布し、100℃で1分間乾燥して、厚さ1μmの剥離層を形成した。剥離層に下記接着層用塗工液を塗布し、100℃で1分間乾燥して、厚さ1.5μmの接着層を形成した。保護層は、剥離層と接着層とから構成される。
以上のようにして、熱転写シートを得た。
【0130】
<背面層用塗工液>
・ポリビニルアセタール 36部
(エスレック(登録商標)KS-1、積水化学工業(株))
・ポリイソシアネート(NCO=17.3質量%) 25部
(バーノック(登録商標)D750、DIC(株))
・シリコーン樹脂微粒子(平均粒子径=4μm、多角形状) 1部
(トスパール240、
モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社)
・ステアリルリン酸亜鉛 10部
(LBT1830精製、堺化学工業(株))
・ステアリン酸亜鉛 10部
(SZ-PF、堺化学工業(株))
・ポリエチレンワックス 3部
(ポリワックス3000、東洋アドレ(株))
・エトキシ化アルコール変性ワックス 7部
(ユニトックス750、東洋アドレ(株))
・メチルエチルケトン(MEK) 200部
・トルエン 100部
【0131】
<離型層用塗工液>
・ポリオレフィン 400部
(アローベース(登録商標)SD-1200、ユニチカ(株))
・ポリビニルアルコール 20部
(KURARAY POVAL(登録商標)27-96、(株)クラレ)
・水 290部
・エタノール 290部
【0132】
<剥離層用塗工液>
・(メタ)アクリル樹脂 20部
(ダイヤナール(登録商標)BR-87、三菱ケミカル(株))
・MEK 40部
・トルエン 40部
【0133】
<接着層用塗工液>
・ポリエステル 20部
(UE-3380、ユニチカ(株))
・MEK 40部
・トルエン 40部
【0134】
[比較例1]
離型層の前駆体層に上記凹凸パターンを形成しなかったこと、すなわち上記凹凸パターンを有しない離型層を形成したこと以外は実施例1と同様にして、熱転写シートを作製した。
【0135】
[比較例2]
表面に矩形状凹凸パターンを有する原版(矩形状凸部の平均周期:100nm、平均高さ:250nm、平均間隔:20nm;垂直断面が矩形状、水平断面が正方形状の凸部)を準備した。該原版を用いて、離型層の前駆体層に上記凹凸パターンに相補的な形状の凹凸パターンを形成して、離型層を形成したこと以外は実施例1と同様にして、熱転写シートを作製した。
【0136】
[印画物の作製]
昇華型熱転写プリンタ(DS620、大日本印刷(株))と、該熱転写プリンタの純正受像紙(熱転写受像シート)とを準備した。該熱転写プリンタの純正インクリボンの保護層パネルを、上記で作製した熱転写シートに取り換え、試験用インクリボンを作製した。昇華型熱転写プリンタ及び試験用インクリボンを用いて、熱転写受像シートに黒ベタ画像(画像階調:0/255)、グレーベタ画像(画像階調:128/255)又は白ベタ画像(画像階調:255/255)を形成して画像形成物を得た後、画像形成物の画像上に熱転写シートの転写層をマットモード又はグロスモードで転写して、印画物を作製した。印画物の転写層について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察して、表面の凹凸構造を確認した。
・グレーベタ画像を形成する時の印加電圧 :34.1~34.5V
・黒ベタ画像を形成する時の印加電圧 :34.7V
・転写層を転写する時の印加電圧(マットモード):34.3~34.6V
・転写層を転写する時の印加電圧(グロスモード):34.3V
【0137】
[光沢性評価]
印画物における転写層側表面の鏡面光沢度を、JIS Z8741(1997年)に準拠し、光沢計(日本電色工業(株)製、Gloss Mete VG7000)を用いて、反射角20°、45°、60°及び75°で測定した。
【0138】
[反射ヘイズ評価]
印画物における転写層側表面の反射ヘイズ値を、ヘイズ計(micro-haze Plus、BYK-Gardner)を用いて、ASTM E430(ISO 13803)に準拠して測定した。
【0139】
[濁度/透明性]
印画物を目視で観察し、以下の基準に基づき評価した。
A:画像が非常に鮮明だと感じる(画像表面に保護層がある様に見えない)。
B:画像が鮮明だと感じるが、画像表面に薄い透明層があると感じる。
C:画像が不鮮明だと感じる(画像表面に半透明層があると感じる)。
【0140】
[艶消し性]
印画物を目視で観察し、以下の基準に基づき評価した。
A:蛍光灯の像の映り込みがほとんどない。
B:蛍光灯の像の映り込みがややある。
C:蛍光灯の像の映り込みがある程度ある。
D:グロス調であり、マット感はない。
【0141】
[保護層転写性]
保護層の転写性を、以下の基準に基づき評価した。
A:保護層転写した際に、熱転写シートの基材への熱ダメージがほとんどなく、
離型層の第2主面に保護層が残っていない。
B:保護層転写した際に、熱転写シートの基材への熱ダメージが見られるものの、
離型層の第2主面に保護層がほとんど残っておらず、形成印画物への影響がない。
C:保護層転写した際に、熱転写シートの基材への熱ダメージが大きく、
基材破断や保護層の被転写体への融着により、保護層が転写できない。
【0142】
[実施例2]
基材として、厚さ5μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを準備した。基材の一方の面に上記背面層用塗工液を塗布し100℃で2分間乾燥して、厚さ1.2μmの背面層を形成した。基材の他方の面に上記離型層用塗工液を基材に塗布し100℃で1分間乾燥して、厚さ1μmの離型層を形成した。上記剥離層用塗工液を離型層に塗布し、100℃で1分間乾燥して、厚さ1μmの剥離層を形成した。剥離層に上記接着層用塗工液を塗布し、100℃で1分間乾燥して、厚さ1.5μmの接着層を形成した。保護層は、剥離層と接着層とから構成される。
以上のようにして、熱転写シートを得た。
上記熱転写シートを用いて、上述した[印画物の作製]に記載した方法に従って、試験用インクリボン及び印画物を作製した。ただし、熱転写プリンタは、印画物形成後、排出に導く搬送路の印画面側に、凸部の平均周期:100nm、平均高さ:250nm、平均間隔:20nmの、モスアイ構造に対して相補的な形状の凹凸パターンを表面に有する圧着賦形ローラーを備える。該圧着賦形ローラーにより、画像形成物の画像上に転写された保護層表面にモスアイ構造が形成された。
【0143】
【表1】
【0144】
【表2】
【符号の説明】
【0145】
1 …熱転写シート
2、2a …印画物
10…基材
20…離型層
21…離型層の第1主面
22…離型層の第2主面
24…モスアイ構造に対して相補的な形状の凹凸パターン
30…転写層
31…転写層の第1主面
32…転写層の第2主面
34…モスアイ構造
36…剥離層
38…接着層
40…背面層
50…被転写体
60…モスアイ構造に対して相補的な形状の凹凸パターンを有する型(ローラー)
64…モスアイ構造に対して相補的な形状の凹凸パターン
図1
図2
図3
図4
図5
図6