(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151445
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】合成回路
(51)【国際特許分類】
H03F 1/02 20060101AFI20231005BHJP
H03F 3/68 20060101ALI20231005BHJP
H03F 3/24 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H03F1/02 188
H03F3/68 220
H03F3/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061052
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100126480
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 睦
(72)【発明者】
【氏名】田中 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】今井 翔平
【テーマコード(参考)】
5J500
【Fターム(参考)】
5J500AA01
5J500AA12
5J500AA21
5J500AA41
5J500AA63
5J500AA65
5J500AC21
5J500AC36
5J500AC46
5J500AC62
5J500AC73
5J500AC75
5J500AC92
5J500AF09
5J500AF12
5J500AH06
5J500AH10
5J500AH29
5J500AH33
5J500AH35
5J500AK29
5J500AK42
5J500AK44
5J500AM08
5J500AS14
5J500AT01
5J500CK06
5J500CK07
5J500LV08
5J500RU06
(57)【要約】
【課題】 ドハティ増幅器において、1/4波長線路を用いずにより広帯域な合成回路を提供することを目的とする。
【解決手段】 入力信号から分配された第1分配信号が増幅されてキャリア増幅回路から出力される第1信号と、前記入力信号から分配された第2分配信号が増幅されてピーク増幅回路から出力される第2信号と、を合成して合成信号を出力する合成部と、前記合成信号が入力されるように前記合成部と直列に接続される整合部であって、前記入力信号の周波数の増加に伴うインピーダンスの虚部の変動係数が負の値を示し、前記合成部と負荷との間のインピーダンスを整合させる整合部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号から分配された第1分配信号が増幅されてキャリア増幅回路から出力される第1信号と、前記入力信号から分配された第2分配信号が増幅されてピーク増幅回路から出力される第2信号と、を合成して合成信号を出力する合成部と、
前記合成信号が入力されるように前記合成部と直列に接続される整合部であって、前記入力信号の周波数の増加に伴うインピーダンスの虚部の変動係数が負の値を示し、前記合成部と負荷との間のインピーダンスを整合させる整合部と、
を備える合成回路。
【請求項2】
前記整合部は、
前記入力信号の周波数を第1周波数f
inとしたときに、
【数1】
【数2】
式(1)及び式(2)によって求められる、下限の周波数であるf
minを第2周波数f
minと、上限の周波数であるf
maxを第3周波数f
maxとし、
前記合成部の出力側から、前記負荷をみたときのインピーダンスをインピーダンスZ
Lとした場合、
R
inを第1周波数f
inでのインピーダンスの実部とし、
第2周波数f
minにおける前記インピーダンスZ
Lの実部をRe{Z
L(f
min)}とし、第2周波数f
minにおける前記インピーダンスZ
Lの虚部をIm{Z
L(f
min)}とし、
第3周波数f
maxにおける前記インピーダンスZ
Lの実部をRe{Z
L(f
max)}とし、第3周波数f
maxにおける前記インピーダンスZ
Lの虚部をIm{Z
L(f
mam)}としたときに、
【数3】
【数4】
式(3)及び式(4)によって求められる係数である、係数Aと、係数Bとについて、
(数5)
-1.0[non-dim.]<A<1.0[non-dim.] ・・・ 式(5)
(数6)
-19.0[non-dim.]<B<0.0[non-dim.] ・・・ 式(6)
式(5)及び式(6)の条件を満たす請求項1に記載の合成回路。
【請求項3】
前記整合部は、インダクタとキャパシタとを含むローパスフィルタを含む、
請求項1または請求項2に記載の合成回路。
【請求項4】
前記整合部は、一方の端子が前記合成部と電気的に接続され、他方の端子が前記合成部と反対側でアンテナと電気的に接続されるバンドパスフィルタを含む、
請求項1または請求項2に記載の合成回路。
【請求項5】
前記整合部は、
前記合成信号が入力される第1入力側巻線と、前記第1入力側巻線と電磁界結合される第1出力側巻線と、を含む第1トランスと、
前記第1入力側巻線と並列に接続されるキャパシタである第1キャパシタと、
前記第1出力側巻線と並列に接続されるキャパシタである第2キャパシタと、
を含む請求項1または請求項2に記載の合成回路。
【請求項6】
前記キャリア増幅回路は、第1キャリア増幅器と第2キャリア増幅器とで差動増幅回路を形成する、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の合成回路。
【請求項7】
前記ピーク増幅回路は、第1ピーク増幅器と第2ピーク増幅器とで差動増幅回路を形成する、
請求項6に記載の合成回路。
【請求項8】
前記合成部は、
前記第1キャリア増幅器及び前記第2キャリア増幅器のそれぞれの出力端子と電気的に接続される第1変換器であって、前記第1キャリア増幅器及び前記第2キャリア増幅器の出力側のインピーダンスを変換する第1変換器と、
前記第1ピーク増幅器及び前記第2ピーク増幅器のそれぞれの出力端子と電気的に接続される第2変換器であって、前記第1ピーク増幅器及び前記第2ピーク増幅器の出力側のインピーダンスを変換する第2変換器と、を含む、請求項7に記載の合成回路。
【請求項9】
前記第1変換器は、
一端が前記第1キャリア増幅器と電気的に接続され、他端が前記第2キャリア増幅器と電気的に接続される第2入力側巻線と、前記第2入力側巻線と電磁界結合される第2出力側巻線と、を含む第2トランスと、
前記第2入力側巻線と電気的に並列に接続されるキャパシタである第3キャパシタと、
前記第2出力側巻線と前記整合部との間に電気的に直列に接続されるキャパシタである第4キャパシタとを含む、
請求項8に記載の合成回路。
【請求項10】
前記第2変換器は、
一端が前記第1ピーク増幅器と電気的に接続され、他端が前記第2ピーク増幅器と電気的に接続される第3入力側巻線と、前記第3入力側巻線と電磁界結合される第3出力側巻線と、を含む第3トランスと、
前記第3入力側巻線と電気的に並列に接続されるキャパシタである第5キャパシタと、
前記第3出力側巻線と電気的に並列に接続されるキャパシタである第6キャパシタとを含む、
請求項9に記載の合成回路。
【請求項11】
前記第2出力側巻線の一端が前記第4キャパシタを通じて前記整合部と電気的に直列に接続される前記合成回路であって、
前記第2出力側巻線の他端と、前記第3出力側巻線の一端との間に電気的に直列に接続される第7キャパシタをさらに備える、
請求項10に記載の合成回路。
【請求項12】
前記第3出力側巻線の他端と基準電位との間に電気的に直列に接続される第8キャパシタをさらに備える、
請求項11に記載の合成回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、合成回路に関する。
【背景技術】
【0002】
ドハティ増幅器は、高効率な電力増幅器(パワーアンプ)である。ドハティ増幅器は、一般的に、入力信号の電力レベルにかかわらず動作するキャリア増幅器と、入力信号の電力レベルが小さい場合はオフとなり、大きい場合にオンとなるピーク増幅器とが並列に接続されている。そして、入力信号の電力レベルが大きい場合、キャリア増幅器が飽和出力電力レベルで飽和を維持しながら動作する。すなわち、キャリア増幅器のみが増幅動作しているバックオフ状態では、キャリア増幅器のみが動作するのでピーク増幅器が不要な電流を消費せず効率が高くなる。また、ピーク増幅器が動作をする最小の電力から飽和状態になるまでの入力電力の範囲で、キャリア増幅器のインピーダンスが半分に低下する負荷変調の効果がある。キャリア増幅器の飽和出力電力は負荷インピーダンスに反比例するという性質から、負荷変調の効果によってキャリア増幅器の飽和電力はピーク増幅器の出力の出力電力増加に伴い増加する。言い換えると、ピーク増幅器が動作をしている電力範囲においては、キャリア増幅器が常に飽和電力に近いところで動作をしており高効率に動作をしているといえる。つまり、負荷変調の効果はドハティ増幅器の高効率動作を得るために重要な効果である。
【0003】
また、ドハティ増幅器は、キャリア増幅器の出力とピーク増幅器の出力とを合成する合成器を要する。当該合成器には、1/4波長線路が用いられるところ、1/4波長線路は小型化や広帯域特性を得るのに不向きである。そこで、1/4波長線路を用いないドハティ増幅器が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の電力増幅回路の合成回路は、1/4波長線路を用いず、トランスを二つ用いて構成されている。これにより、ドハティ増幅器の小型化や広帯域特性を得ることができる。しかし、技術進歩に応じて更なる広帯域化が求められている。
【0006】
そこで、本開示は、ドハティ増幅器において、1/4波長線路を用いずにより広帯域な合成回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る合成回路は、入力信号から分配された第1分配信号が増幅されてキャリア増幅回路から出力される第1信号と、前記入力信号から分配された第2分配信号が増幅されてピーク増幅回路から出力される第2信号と、を合成して合成信号を出力する合成部と、前記合成部と直列に接続される、前記合成信号が入力される整合部であって、前記入力信号の周波数の増加に伴うインピーダンスの虚部の変動係数が負の値を示し、前記合成部と負荷との間でインピーダンスを整合する整合部と、備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、ドハティ増幅器において、1/4波長線路を用いずにより広帯域な合成回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る電力増幅回路の構成の概略を示す図である。
【
図5】比帯域が「0.491」未満のときの近似直線と、比帯域が「0.491」のときの近似直線を示すグラフである。
【
図6】変動係数A及び変動係数Bと、比帯域との関係を示すテーブルである。
【
図7】周波数範囲におけるインピーダンスZ
Lの実部のシミュレーション結果に対する近似直線を示すグラフである。
【
図8】周波数範囲におけるインピーダンスZ
Lの虚部のシミュレーション結果に対する近似直線を示すグラフである。
【
図9】従来電力増幅回路のリターンロスと周波数との関係を示すグラフである。
【
図10】電力増幅回路のリターンロスと周波数との関係を示すグラフである。
【
図11】第2実施形態に係る電力増幅回路の構成の一例を示す図である。
【
図12】周波数範囲におけるインピーダンスZ
Lの実部のシミュレーション結果に対する近似直線を示すグラフである。
【
図13】周波数範囲におけるインピーダンスZ
Lの虚部のシミュレーション結果に対する近似直線を示すグラフである。
【
図14】第2実施形態に係る電力増幅回路のリターンロスと周波数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
===第1実施形態に係る電力増幅回路100===
図1を参照して、第1実施形態に係る電力増幅回路100の構成について説明する。
図1は、第1実施形態に係る電力増幅回路100の構成の概略を示す図である。
【0011】
電力増幅回路100は、例えば、携帯電話機に搭載され、基地局に送信する信号の電力を増幅するために用いられる。電力増幅回路100は、例えば、2G(第2世代移動通信システム)、3G(第3世代移動通信システム)、4G(第4世代移動通信システム)、5G(第5世代移動通信システム)、LTE(Long Term Evolution)-FDD(Frequency Division Duplex)、LTE-TDD(Time Division Duplex)、LTE-Advanced、LTE-Advanced Proなどの通信規格の信号の電力を増幅することができる。なお、電力増幅回路100が増幅する信号の通信規格はこれらに限られない。
【0012】
電力増幅回路100は、例えば、ドハティ増幅回路を形成し、入力端子101から入力される入力信号RFinを増幅して出力信号RFoutを出力する。入力信号RFinは無線周波数(RF:Radio-Frequency)信号であり、入力信号RFinの周波数は、例えば数GHz程度である。
【0013】
図1に示すように、電力増幅回路100は、例えば、分配器110と、キャリア増幅回路120と、ピーク増幅回路130と、合成回路140とを含む。以下に、各構成要素について説明する。
【0014】
分配器110は、例えば、入力信号RFinを、信号RF1と、信号RF1より位相が略90度進んだ信号RF2とに分配する。略90度とは例えば、45度から135度の位相を含む。なお、本実施形態においては、一例として、キャリア増幅回路120及びピーク増幅回路130が差動増幅回路であるため、信号RF1,RF2はさらに、それぞれ位相が略180度異なる2つの入力信号に分配される。略180度とは例えば、135度から225度の位相を含む。
【0015】
キャリア増幅回路120は、信号RF1を増幅し、増幅信号を出力する。キャリア増幅回路120は、例えば、キャリア増幅器121と、キャリア増幅器122とを含み、差動増幅回路を構成していてもよい。なお、キャリア増幅回路120は、シングルの増幅器で構成されていてもよい。以下、一例として、キャリア増幅回路120が差動増幅回路であるとして説明する。
【0016】
ピーク増幅回路130は、入力される信号RF2を増幅し、増幅信号を出力する。ピーク増幅回路130は、例えば、ピーク増幅器131と、ピーク増幅器132とを含み、差動増幅回路を構成していてもよい。なお、ピーク増幅回路130は、シングルの増幅器で構成されていてもよい。以下、一例として、ピーク増幅回路130が差動増幅回路であるとして説明する。なお、ピーク増幅回路130は、複数が直列に接続されて構成されていてもよい。
【0017】
差動増幅回路は、対をなす二つの増幅器を備え、当該二つの増幅器の各々に入力される同振幅逆位相の信号の電位差を増幅して出力する。したがって、2つの増幅素子の各々に同振幅同位相の信号(例えば、ノイズ等)が同時に入力される場合、当該同振幅同位相の信号は打ち消される。すなわち、キャリア増幅回路120及びピーク増幅回路130に差動増幅器を用いることにより、ノイズや入力信号の高調波の発生を抑制することができる。
【0018】
なお、差動増幅器が備える増幅素子は特に限定されないが、例えばヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT:Heterojunction Bipolar Trnsistor)等のバイポーラトランジスタ、又はMOSFET(Metal-oxide-semiconductor Field Effect Transistor)などの電界効果トランジスタであってもよい。
【0019】
電力増幅回路100では、一例として、キャリア増幅回路120はAB級動作し、ピーク増幅回路130はC級動作する。すなわち、キャリア増幅回路120は、入力信号RFinの電力レベルにかかわらず、電力レベルがゼロ(第1レベル)以上の領域で動作する。ピーク増幅回路130は、入力信号RFinの電圧レベルが、最大レベルVmaxから所定レベル低いレベルであるバックオフ以上の領域で動作する。なお、ピーク増幅回路130は例えば、キャリア増幅回路120とは異なるバイアスレベルでAB級動作する増幅回路であってもよい。
【0020】
このように、入力信号の電力レベルに応じて2つの増幅器の動作を組み合わせることにより、キャリア増幅回路120が飽和出力で動作する領域が広がる。従って、一つの増幅回路のみから構成される電力増幅回路に比べて、電力効率が向上する。
【0021】
合成回路140は、例えば、合成部141と、整合部142と、キャパシタ143と、キャパシタ144とを含む。なお、合成回路140は、キャリア増幅回路120、ピーク増幅回路130及び負荷Rと電気的に直列に接続される。
【0022】
合成部141は、例えば、キャリア増幅回路120から出力される増幅信号と、ピーク増幅回路130から出力される増幅信号とを合成して合成信号を出力する。合成部141は、例えば、変換器141aと、変換器141bとを含む。
【0023】
変換器141aは、キャリア増幅回路120の出力端子に電気的に接続される。変換器141bは、ピーク増幅回路130の出力端子に電気的に接続される。変換器141a,141bは、例えば、各増幅回路120,130に関する特性(インピーダンスや位相等)を変換するとともに、増幅された電力を負荷Rに伝達する。
【0024】
変換器141a,141bによって、各増幅回路120,130を構成する増幅素子に関する特性(インピーダンスや位相等)を実質的に変換させることで、各増幅回路120,130を負荷R側から見たときに、各増幅回路120,130を電流源とみなせるか電圧源とみなせるかが調整される。なお、各増幅回路120,130を電流源とみなせるか電圧源とみなせるかは、各増幅回路120,130の出力インピーダンスの絶対値の相対的な比較で決定される。ここで、出力インピーダンスは、各増幅回路120,130のトランジスタにアイドル電流を流さない状態でバイアスしたときに、負荷R側から測定した進行波と反射波とから求まる反射係数に基づき算出されてもよい。
【0025】
電力増幅回路100では、変換器141aによってキャリア増幅回路120側が電流源とみなせるように、変換器141bによってピーク増幅回路130側が電圧源とみなせるように構成される。すなわち、変換器141a及び変換器141bは、キャリア増幅回路120の出力側(変換器141aの出力側)のインピーダンスの絶対値を、ピーク増幅回路130の出力側(変換器141bの出力側)のインピーダンスの絶対値よりも大きくする。
【0026】
ここで、変換器141a及び変換器141bの構成の一例について説明する。
【0027】
変換器141aは、例えば、第1トランス1411と、第1キャパシタ1412、第2キャパシタ1413を含む。
【0028】
第1トランス1411は、例えば、入力側巻線1411aと出力側巻線1411bとを含む巻線トランスであり、入力側巻線1411aに入力された信号を出力側巻線1411bに伝搬する。具体的には、第1トランス1411は、入力側巻線1411aにキャリア増幅回路120から出力される増幅信号RF11(電流Ia)が入力され、出力側巻線1411bから出力する。なお、第1トランス1411は、入力側巻線1411a及び出力側巻線1411bの巻線比を調整することにより、インピーダンス整合の機能を兼ねることができる。
【0029】
第1キャパシタ1412は、例えば入力側巻線1411aと並列に接続される。第2キャパシタ1413は、例えば出力側巻線1411bと直接に接続される。第1キャパシタ1412及び第2キャパシタ1413は、例えば、第1トランス1411の寄生インダクタンスの影響を考慮した場合の、第1トランス1411のインピーダンス整合のために設けられる。なお、第1キャパシタ1412は、キャリア増幅回路120に寄生する容量で代替えすることもできるため、省略されてもよい。
【0030】
変換器141bは、例えば、第2トランス1414、第3キャパシタ1415、第4キャパシタ1416を含む。第2トランス1414、第3キャパシタ1415及び第4キャパシタ1416のそれぞれは、第1トランス1411と、第1キャパシタ1412及び第2キャパシタ1413と同様であるためその説明を省略する。なお、変換器141bでは、変換器141aの第2キャパシタ1413に替えて、第4キャパシタ1416を出力用巻線1411dと電気的に直列に接続する。
【0031】
電力増幅回路100は、負荷R側からみたときの変換器141aの出力インピーダンスは、負荷R側からみたときの変換器141bの出力インピーダンスよりも大きくなるよう構成される。したがって、電力増幅回路100では、変換器141aが相対的に電流源とみなされ、変換器141bが相対的に電圧源とみなされる。
【0032】
すなわち、電力増幅回路100では、キャリア増幅回路120側を電流源とみなせ、ピーク増幅回路130側を電圧源とみなせることによって、負荷Rに流れる電流は電流源のみにより決定される。このため、電力増幅回路100では、1/4波長線路を用いずに、キャリア増幅回路120における小信号状態から飽和状態への遷移に伴い、キャリア増幅回路120の増幅素子から見た出力インピーダンスを適切に半分まで減少できる。したがって、小型かつ広帯域にドハティ増幅器が実現できるとともに、その高い効率を実現できる。
【0033】
さらに言うと、電力増幅回路100に差動の増幅器を用いることで、電源ノイズに対して強い回路を実現できる。また、バイアス回路が簡単になることや優れた線形性を示す回路を実現できる。
【0034】
なお、電力増幅回路100は、例えば、初段(ドライバ段)が一つの増幅器により構成され、出力段(パワー段)において上述のドハティ増幅回路が設けられていてもよい。また、電力増幅回路100は、出力段(パワー段)のキャリア増幅回路120とピーク増幅回路130のそれぞれに、初段(ドライバ段)となる増幅器が接続されていてもよい。
【0035】
整合部142は、負荷との間でインピーダンスを整合させる。整合部142は、インピーダンスの虚部が負の値を示す回路である。整合部142の一次側、変換器141aの二次側及び変換器141bの二次側は、電気的に直列に接続される。整合部142の二次側は、負荷Rと電気的に接続される。
【0036】
キャパシタ143は、合成部141の特性を調整するためのキャパシタである。キャパシタ143の一端は、変換器141aの出力側巻線1411bと電気的に接続される。キャパシタ143の他端は、変換器141bの出力側巻線1414bと電気的に接続される。すなわち、キャパシタ143は、変換器141aと変換器141bとの間に電気的に直列に接続される。
【0037】
キャパシタ144は、合成部141の特性を調整するためのキャパシタである。キャパシタ144の一端は、変換器141bの出力側巻線1414bと電気的に接続される。キャパシタ144の他端は、整合部142と電気的に接続される。すなわち、キャパシタ143は、変換器141bと整合部142との間に電気的に直列に接続される。
【0038】
なお、合成回路140は、キャパシタ143及びキャパシタ144を有していなくてもよいし、キャパシタ143またはキャパシタ144のうちいずれかのみ有していてもよい。また、合成回路140は、キャパシタ143またはキャパシタ144のうちのいずれかに替えて接地を設けてもよい。これにより、広帯域化を図るとともに、回路を小型化できる。
【0039】
次に、
図2、
図3、
図4を参照して、整合部142の具体的な構成の一例について説明する。
図2、
図3、
図4は、整合部142の構成の一例を示す図である。
【0040】
図2に示すように、整合部142は、インダクタ142aと、キャパシタ142bとで形成されるローパスフィルタであってもよい。インダクタ142aの一端は第2キャパシタ1413を通じて出力側巻線1411bと電気的に接続される。インダクタ142aの他端は負荷Rと電気的に接続される。キャパシタ142bは、負荷Rと電気的に並列に接続される。すなわち、
図2に示す整合部142は、インピーダンスを大きく変換する回路である。なお、
図3に示す整合部142は、一段のローパスフィルタであってもよく、多段のローパスフィルタであってもよい。これにより、簡易な構成によって、広帯域化を図ることができる。
【0041】
なお、
図2において、インダクタ142aのインダクタンスを調整することによって、第2キャパシタ1413を省略してもよい。これにより、回路を小型化できる。
【0042】
図3に示すように、整合部142は、インダクタ142cと、キャパシタ142dとで形成されるローパスフィルタであってもよい。インダクタ142cの一端は第2キャパシタ1413を通じて出力側巻線1411bと電気的に接続される。インダクタ142cの他端は負荷Rと電気的に接続される。キャパシタ142dは、インダクタ142c及び負荷Rと電気的に並列に接続される。すなわち、
図3に示す整合部142は、インピーダンスを小さく変換する回路である。なお、
図3に示す整合部142は、一段のローパスフィルタであってもよく、多段のローパスフィルタであってもよい。これにより、簡易な構成によって、広帯域化を図ることができる。
【0043】
図4に示すように、整合部142は、インダクタ及びキャパシタで形成されるバンドパスフィルタであってもよい。バンドパスフィルタは、電力増幅回路100が接続されるアンテナに設けられるものを利用してもよい。これにより、簡易な構成によって、回路の小型化を図りつつ、広帯域化を図ることができる。
【0044】
次に、
図5から
図10を参照して、整合部142において入力信号RFinの周波数の増加に伴うインピーダンスの虚部の周波数変動(或いは、周波数変動の向きを示す変動係数)が負の値を示す、合成回路140のインピーダンスの周波数特性について説明する。
【0045】
電力増幅回路100では、合成回路140において、入力信号RFinの周波数の増加に伴う合成部141のインピーダンスの周波数変動を打ち消すように、整合部142のインピーダンスの虚部の入力信号RFinの周波数の増加に伴う周波数変動(後述のインピーダンスZLの虚部の入力信号RFinの周波数の増加に伴う周波数変動)が負の値を示す。すなわち、電力増幅回路100では、合成回路140が、合成部141のインピーダンスの周波数変動と、合成部141の出力端子から負荷側を見たときのインピーダンスZLの周波数変動とが打ち消しあうように構成される。電力増幅回路100では、合成部141のインピーダンスの周波数変動を打ち消すことによって、合成部141の入力端子から見たインピーダンスの周波数変動を小さくできる。このため、入力信号RFinの周波数によるリターンロスの変動を小さくできる。これにより、電力増幅回路100の広帯域化を実現できる。なお、リターンロスとは、例えば、キャリア増幅回路120及びピーク増幅回路130の出力端子C1~C4における電力損失である。なお、インピーダンスZLの虚部の入力信号RFinの周波数の増加に伴う周波数変動、或いは、変動係数が負の値を示す場合とは、例えば、後述の変動係数Bが負の値である場合を含むが、これにかぎられない。
【0046】
電力増幅回路100では、合成部141のインピーダンスの周波数変動とインピーダンスZLの周波数変動とが打ち消しあうように、合成回路140のインピーダンスの周波数特性を設定する。まず、整合部142のインピーダンスの周波数特性を特定するために必要な、周波数範囲の定義、インピーダンスZLの実部の周波数特性の近似方法について説明する。
【0047】
まず、周波数範囲について説明する。周波数範囲は、例えば、入力信号RFinの周波数を周波数f
inとしたとき、以下の式(1)及び式(2)を満たす周波数f
maxと周波数f
minとの間の範囲である。
【数1】
【数2】
【0048】
式(1)及び式(2)において、周波数fmax及び周波数fminは、周波数finに対して任意に決められる周波数である。また、式(2)における「0.491」は、合成部141の変換器141a及び変換器141bの結合係数を最大(例えば「1」)と仮定したときの比帯域である。比帯域は、周波数範囲を入力信号RFinの周波数finで割り算した値である。
【0049】
図5を参照して、式(2)のように比帯域を「0.491」未満とする条件とした理由について説明する。
図5は、比帯域が「0.491」未満のときの近似直線と、比帯域が「0.491」のときの近似直線を示すグラフである。
図5は、横軸を周波数f、縦軸をインピーダンスZ
Lの実部Re(Z
L)の値を示す。
【0050】
図5に示すように、実部の周波数変動を示すL
0に対して、比帯域を「0.491」未満としたときの近似直線をL
1で示し、比帯域を「0.491」としたときの近似直線をL
2で示す。言い換えれば、L
1は、式(2)の左辺を「0.491」未満としたときの、周波数に対するインピーダンスZ
Lの実部Re(Z
L)の値の変動を近似した直線であり、L
2は、式(2)の左辺を「0.491」としたときの、周波数に対するインピーダンスZ
Lの実部Re(Z
L)の値の変動を近似した直線である。
図5に示すように、比帯域が「0.491」未満の近似直線L
1の傾きは、比帯域が「0.491」の近似直線L
2の傾きよりも緩やかである。すなわち、比帯域が「0.491」未満のときに、実部の周波数変動を示す近似直線の傾き(後述の変動係数A)が極めて小さくなるため、後述の
図6から導き出される条件に該当しやすくなる。。よって、式(2)において、比帯域が「0.491」未満であることを条件とした。
【0051】
次に、インピーダンスZ
Lの実部の周波数特性の近似方法について説明する。入力信号RFinの周波数範囲を示す下限の周波数f
minと上限の周波数f
maxのそれぞれのインピーダンスZ
Lの実部(周波数f
minの信号RFinと、周波数f
maxの信号RFinとのそれぞれが電力増幅回路100に伝送された場合におけるインピーダンスZ
Lの実部)をRe{Z
L(f
min)}とRe{Z
L(f
max)}とする。また、周波数f
minと上限の周波数f
maxのそれぞれのインピーダンスZ
Lの虚部(周波数f
minの信号RFinと、周波数f
maxの信号RFinとのそれぞれが電力増幅回路100に伝送された場合におけるインピーダンスZ
Lの虚部)をIm{Z
L(f
min)}とIm{Z
L(f
max)}とする。この場合、式(3)によって実部の近似直線の傾きを示す変動係数Aが求まり、式(4)によって虚部の近似直線の傾きを示す変動係数Bが求まる。すなわち、変動係数AはインピーダンスZ
Lの実部の周波数特性の傾きを示し、変動係数BはインピーダンスZ
Lの虚部の周波数特性の傾きを示す。
【数3】
【数4】
【0052】
なお、式(3)及び式(4)におけるRinは入力信号RFinの周波数がfinのときのインピーダンスZLの実部Re(ZL)の値である。
【0053】
次に、電力増幅回路100が広帯域化されるための、変動係数A及び変動係数Bのそれぞれの値の範囲について説明する。以下、便宜上、本実施形態における整合部142を有していない回路を電力増幅回路100との比較対象として従来電力増幅回路(不図示)とする。
【0054】
周波数特性の近似方法において、インピーダンスZ
Lの周波数特性における実部をRe(Z
L)とし虚部をIm(Z
L)とする。Re(Z
L)とIm(Z
L)とのそれぞれを式(5)と式(6)のように近似する。
【数5】
【数6】
【0055】
なお、f0は合成回路140の設計中心周波数(設計時に周波数範囲の中心周波数であるfinとして設定する周波数)である。また、式(5)及び式(6)におけるR0は、周波数f0のときのRe(ZL)である。
【0056】
ここで、
図6を参照して、変動係数A及び変動係数Bと、比帯域(周波数範囲を周波数f
0で割った割合)との関係について説明する。なお、当該比帯域は、f
0が設計時に設定する周波数であり、f
inが実際に電力増幅回路100に入力される入力信号RFinの周波数であるという点を除けば、式(2)で定義した「周波数範囲を入力信号RFinの周波数f
inで割り算した値」である比帯域と同義である。
図6は、変動係数A及び変動係数Bと、比帯域との関係を示すテーブルである。なお、
図6に示す比帯域は、一例として、変換器141a及び変換器141bの結合係数Kを「0.65」としたときの値である。
【0057】
図6の(A,B)が(0,0)のときの比帯域「18.1」が、従来電力増幅回路における比帯域である。すなわち、電力増幅回路100では、比帯域18.1よりも大きい比帯域を示す変動係数A及び変動係数Bであることが必要と評価できる。したがって、
図6における変動係数A及び変動係数Bの組み合わせは、
図6の太枠の比帯域に対応する組み合わせとなる。
【0058】
すなわち、変動係数Aについては、-1.0[non-dim.]<A<1.0[non-dim.]の範囲で、且つ、変動係数Bについては、-19.0[non-dim.]<B<0.0[non-dim.]の条件を満たす、変動係数A及び変動係数Bの組み合わせのときに、従来電力増幅回路よりも広帯域化が図れる。
【0059】
言い換えると、電力増幅回路100は、インピーダンスZLの実部については周波数に対する変動が小さく、インピーダンスZLの虚部については周波数に対してマイナスに変動する場合に広帯域化を図ることができる。すなわち、虚部の周波数変動が負である合成回路142が接続されると、広帯域化を図ることができる。
【0060】
以上より、電力増幅回路100は、合成回路140が、式(1)及び式(2)を満たす周波数範囲(具体的には、式(1)及び式(2)を満たす下限の周波数fminと上限の周波数fmax)において、式(3)及び式(4)によって求められる変動係数A及び変動係数Bが、-1.0[non-dim.]<A<1.0[non-dim.]の範囲で、且つ、-19.0[non-dim.]<B<0.0[non-dim.]の条件を満たすように構成される場合、従来電力増幅回路と比較して広帯域化が図れる。
【0061】
具体的に、
図7、
図8、
図9、
図10を参照して、一例として、
図1に示した電力増幅回路100において、入力信号RFinの周波数f
inを3.75GHzとし、周波数範囲を、周波数f
minを3.41GHzとし、周波数f
maxを4.09GHzとした場合、広帯域化を図ることができることについて説明する。ここで、当該周波数範囲は、(f
max-f
min)/f
inが「0.18」であるため、式(2)を満たす。
【0062】
図7は、周波数範囲におけるインピーダンスZ
Lの実部のシミュレーション結果に対する近似直線を示すグラフである。
図7は、横軸を周波数を入力信号の周波数f
inで割った値で示し、縦軸を、各周波数におけるインピーダンスZ
Lの実部Re(Z
L)を合成回路140の設計中心周波数f
0のときのRe(Z
L)であるR
0で割った値で示す。
【0063】
図7の破線の近似直線L
3で示されるように、インピーダンスZ
Lの実部の周波数特性は周波数が大きくなるにつれて直線的に大きくなる傾向を示している。なお、
図7において、近似直線L
3は、実線L
4で示すシミュレーション結果の近似直線である。
【0064】
一方、
図8は、周波数範囲におけるインピーダンスZ
Lの虚部のシミュレーション結果に対する近似直線を示すグラフである。
図8は、横軸が所定の周波数を入力信号の周波数f
inで割った値で示され、縦軸が所定の周波数におけるインピーダンスZ
Lの虚部Im(Z
L)を合成回路140の設計中心周波数f
0のときのRe(Z
L)であるR
0で割った値で示される。
【0065】
図8の破線の近似直線L
5で示されるように、インピーダンスZ
Lの虚部の周波数特性は周波数が大きくなるにつれて直線的に減少する傾向を示している。なお、
図8において、近似直線L
5は、実線L
6で示すシミュレーション結果の近似直線である。
【0066】
式(3)及び式(4)に基づき当該周波数範囲についての変動係数Aは「0.79」となり、変動係数Bは「-0.69」となる。すなわち、-1.0[non-dim.]<A<1.0[non-dim.]の範囲で、且つ、-19.0[non-dim.]<B<0.0[non-dim.]の条件を満たす。なお、[non-dim.] とは、例えば無次元(単位なし)を示す。
【0067】
そして、
図9、
図10を参照して、電力増幅回路100のリターンロスと、従来電力増幅回路のリターンロスとを比較する。
図9は、従来電力増幅回路のリターンロスと周波数との関係を示すグラフである。
図10は、電力増幅回路100のリターンロスと周波数との関係を示すグラフである。
図9、
図10は、縦軸がリターンロスで示され、横軸が周波数で示される。なお、変換器141a及び変換器141bの結合係数を「0.65」とする。
【0068】
一般的に、ある周波数において電力増幅回路のリターンロスが「-20.0dB」以下となる場合、当該周波数における電力増幅回路の最大出力電力の偏差が1dB以内に収まるため良好な特性の電力増幅回路が得られる。
図9に示すように、従来電力増幅回路では、リターンロスが「-20.0dB」以下となる周波数帯域が3.34GHzから4.02GHzである。一方、
図10に示すように、電力増幅回路100では、リターンロスが「-20.0dB」以下となる周波数帯域が3.27GHzから4.07GHzである。このように、電力増幅回路100は、従来電力増幅回路と比較して広帯域化することができる。
【0069】
===第2実施形態に係る電力増幅回路200===
次に、
図11を参照して、第2実施形態に係る電力増幅回路200について説明する。
図11は、第2実施形態に係る電力増幅回路200の構成の一例を示す図である。第2実施形態では、第1実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については逐次言及しない。
【0070】
図11に示すように、電力増幅回路200は、電力増幅回路100と比較して、整合部242が、トランス242a、キャパシタ242b及びキャパシタ242cを含んで構成される。
【0071】
トランス242aは、例えば、入力側巻線242a1と出力側巻線242a2とを含む巻線トランスであり、入力側巻線242a1に入力された信号を出力側巻線242a2に伝搬する。具体的には、トランス242aは、入力側巻線242a1にキャリア増幅回路220から出力される増幅信号RF11とピーク増幅回路230から出力される増幅信号RF21とが合成された信号が入力され、出力側巻線242a2から出力する。
【0072】
キャパシタ242bは、例えば入力側巻線242a1と並列に接続される。キャパシタ242cは、例えば出力側巻線242a2と直接に接続される。キャパシタ242b及びキャパシタ242cは、例えば、トランス242aの寄生インダクタンスの影響を考慮した場合のトランス242aのインピーダンス整合のために設けられる。
【0073】
電力増幅回路200は、電力増幅回路100よりの広帯域化を図ることができる。以下、具体的に、一例として、電力増幅回路200がより広帯域化を図ることができることについて説明する。
【0074】
ここで、具体的に、
図12、
図13、
図14を参照して、一例として、電力増幅回路200において、入力信号RFinの周波数f
inを3.90GHzとし、周波数範囲を、周波数f
minを3.50GHzとし、周波数f
maxを4.30GHzとした場合について説明する。ここで、当該周波数範囲は、(f
max-f
min)/f
inが「0.18」であるため、式(2)を満たす。
【0075】
図12は、周波数範囲におけるインピーダンスZ
Lの実部のシミュレーション結果に対する近似直線を示すグラフである。
図12は、横軸を周波数を入力信号の周波数f
inで割った値で示し、縦軸を、周波数におけるインピーダンスZ
Lの実部Re(Z
L)を合成回路140の設計中心周波数f
0のときのRe(Z
L)であるR
0で割った値で示す。
【0076】
図12の破線の近似直線L
7で示されるように、インピーダンスZ
Lの実部の周波数特性は周波数が大きくなってもほぼ変動がない。なお、
図12において、近似直線L
7は、実線L
8で示すシミュレーション結果の近似直線である。
【0077】
図13は、周波数範囲におけるインピーダンスZ
Lの虚部のシミュレーション結果に対する近似直線を示すグラフである。
図13は、横軸が所定の周波数を入力信号の周波数f
inで割った値で示され、縦軸が所定の周波数におけるインピーダンスZ
Lの虚部Im(Z
L)を合成回路140の設計中心周波数f
0のときのRe(Z
L)であるR
0で割った値で示される。
【0078】
図13の破線の近似直線L
9で示されるように、インピーダンスZ
Lの虚部の周波数特性は周波数が大きくなるにつれて直線的に減少する傾向を示している。なお、
図13において、近似直線L
9は、実線L
10で示すシミュレーション結果の近似直線である。
【0079】
式(3)及び式(4)に基づき当該周波数範囲についての変動係数Aは「-0.008」となり、変動係数Bは「-2.5」となる。すなわち、-1.0[non-dim.]<A<1.0[non-dim.]の範囲で、且つ、-19.0[non-dim.]<B<0.0[non-dim.]の条件を満たす。
【0080】
そして、
図14を参照して、電力増幅回路200のリターンロスについて説明する。
図14は、第2実施形態に係る電力増幅回路200のリターンロスと周波数との関係を示すグラフである。
図14は、縦軸がリターンロスで示され、横軸が周波数で示される。なお、変換器241a及び変換器241bの結合係数を「0.65」とする。
【0081】
図14に示すように、電力増幅回路200では、リターンロスが「-20.0dB」以下となる周波数帯域が3.27GHzから4.22GHzである。このように、電力増幅回路100は、電力増幅回路100(周波数帯域が3.27GHzから4.07GHz)及び従来電力増幅回路(周波数帯域が3.34GHzから4.02GHz)と比較して広帯域化することができる。
【0082】
===まとめ===
本開示の例示的な実施形態に係る合成回路140は、入力信号RFinから分配された信号RF1(第1分配信号)が増幅されてキャリア増幅回路120から出力される増幅信号(第1信号)と、入力信号RFinから分配された信号RF2(第2分配信号)が増幅されてピーク増幅回路130から出力される増幅信号と、を合成して合成信号を出力する合成部141と、合成信号が入力されるように合成部141と直列に接続される整合部142であって、入力信号RFinの周波数の増加に伴うインピーダンスの虚部の変動係数Bが負の値を示し、合成部141と負荷との間のインピーダンスを整合させる整合部142と、を備える。これにより、ドハティ増幅器において、1/4波長線路を用いずにより広帯域化を図ることができる。
【0083】
また、本開示の例示的な実施形態に係る合成回路140の整合部142は、入力信号RFinの周波数を第1周波数finとしたときに、式(1)及び式(2)によって求められる、下限の周波数であるfminを第2周波数fminと、上限の周波数であるfmaxを第3周波数fmaxとし、合成部141の出力側から、負荷をみたときのインピーダンスをインピーダンスZLとした場合、Rinを第1周波数finでのインピーダンスの実部とし、第2周波数fminにおける前記インピーダンスZLの実部をRe{ZL(fmin)}とし、第2周波数fminにおける前記インピーダンスZLの虚部をIm{ZL(fmin)}とし、第3周波数fmaxにおける前記インピーダンスZLの実部をRe{ZL(fmax)}とし、第3周波数fmaxにおける前記インピーダンスZLの虚部をIm{ZL(fmam)}としたときに、式(3)及び式(4)によって求められる係数である、変動係数Aと、変動係数Bとについて、式(5)及び式(6)の条件を満たす。これにより、ドハティ増幅器において、1/4波長線路を用いずにより広帯域化を図ることができる。
【0084】
また、本開示の例示的な実施形態に係る合成回路140の整合部142は、インダクタとキャパシタとを含むローパスフィルタ(
図2及び
図3を参照)を含む。これにより、簡易な構成によって、広帯域化を図ることができる。
【0085】
また、本開示の例示的な実施形態に係る合成回路140の整合部142は、一方の端子が合成部141と電気的に接続され、他方の端子が合成部141と反対側でアンテナ(不図示)と電気的に接続されるバンドパスフィルタ(
図4を参照)を含む。これにより、簡易な構成によって、回路の小型化を図りつつ、広帯域化を図ることができる。
【0086】
また、本開示の例示的な実施形態に係る合成回路240の整合部242は、合成信号が入力される入力側巻線242a1(第1入力側巻線)と、入力側巻線242a1(第1入力側巻線)と電磁界結合される出力側巻線242a2(第1出力側巻線)と、を含むトランス242a(第1トランス)と、入力側巻線242a1(第1入力側巻線)と並列に接続されるキャパシタであるキャパシタ242b(第1キャパシタ)と、出力側巻線242a2(第1出力側巻線)と並列に接続されるキャパシタであるキャパシタ242c(第2キャパシタ)と、を含む。これにより、ドハティ増幅器において、1/4波長線路を用いずにより広帯域化を図ることができる。
【0087】
また、本開示の例示的な実施形態に係る電力増幅回路100のキャリア増幅回路120は、キャリア増幅器121(第1キャリア増幅器)とキャリア増幅器122(第2キャリア増幅器)とで差動増幅回路を形成する。これにより、すなわち、キャリア増幅回路120に差動増幅器を用いることにより、ノイズや入力信号の高調波の発生を抑制することができる。
【0088】
また、本開示の例示的な実施形態に係る電力増幅回路100のピーク増幅回路130は、ピーク増幅器131(第1ピーク増幅器)とピーク増幅器132(第2ピーク増幅器)とで差動増幅回路を形成する。これにより、ピーク増幅回路130に差動増幅器を用いることにより、ノイズや入力信号の高調波の発生を抑制することができる。
【0089】
また、本開示の例示的な実施形態に係る合成回路140の合成部141は、キャリア増幅器121(第1キャリア増幅器)及びキャリア増幅器122(第2キャリア増幅器)のそれぞれの出力端子と電気的に接続される変換器141a(第1変換器)であって、キャリア増幅器121(第1キャリア増幅器)及びキャリア増幅器122(第2キャリア増幅器)の出力側のインピーダンスを変換する変換器141a(第1変換器)と、ピーク増幅器131(第1ピーク増幅器)及びピーク増幅器132(第2ピーク増幅器)のそれぞれの出力端子と電気的に接続される変換器141b(第2変換器)であって、ピーク増幅器131(第1ピーク増幅器)及びピーク増幅器132(第2ピーク増幅器)の出力側のインピーダンスを変換する変換器141b(第2変換器)と、を含む。これにより、小型かつ広帯域にドハティ増幅器が実現できるとともに、その高い効率を実現できる。
【0090】
また、本開示の例示的な実施形態に係る合成回路140の変換器141a(第1変換器)は、一端がキャリア増幅器121(第1キャリア増幅器)と電気的に接続され、他端がキャリア増幅器122(第2キャリア増幅器)と電気的に接続される入力側巻線1411a(第2入力側巻線)と、入力側巻線1411a(第2入力側巻線)と電磁界結合される出力側巻線1411b(第2出力側巻線)と、を含む第1トランス1411(第2トランス)と、入力側巻線1411a(第2入力側巻線)と電気的に並列に接続されるキャパシタである第1キャパシタ1412(第3キャパシタ)と、出力側巻線1411b(第2出力側巻線)と整合部142との間に電気的に直列に接続されるキャパシタである第2キャパシタ1413(第4キャパシタ)とを含む。これにより、小型かつ広帯域にドハティ増幅器が実現できるとともに、その高い効率を実現できる。
【0091】
また、本開示の例示的な実施形態に係る合成回路140の変換器141b(第2変換器)は、一端がピーク増幅器131(第1ピーク増幅器)と電気的に接続され、他端がピーク増幅器132(第2ピーク増幅器)と電気的に接続される入力側巻線1414a(第3入力側巻線)と、入力側巻線1414a(第3入力側巻線)と電磁界結合される出力側巻線1414b(第3出力側巻線)と、を含む第2トランス1414(第3トランス)と、入力側巻線1414a(第3入力側巻線)と電気的に並列に接続されるキャパシタである第3キャパシタ1415(第5キャパシタ)と、出力側巻線1414b(第3出力側巻線)と電気的に並列に接続されるキャパシタである第4キャパシタ1416(第6キャパシタ)とを含む。これにより、小型かつ広帯域にドハティ増幅器が実現できるとともに、その高い効率を実現できる。
【0092】
また、本開示の例示的な実施形態に係る合成回路140は、出力側巻線1411b(第2出力側巻線)の一端が第2キャパシタ1413(第4キャパシタ)を通じて整合部142と電気的に直列に接続される。そして、合成回路140は、出力側巻線1411b(第2出力側巻線)の他端と、出力側巻線1414b(第3出力側巻線)の一端との間に電気的に直列に接続されるキャパシタ143(第7キャパシタ)をさらに備える。これにより、合成部141の特性を調整することができるため、より広帯域化を図ることができる。
【0093】
また、本開示の例示的な実施形態に係る合成回路140は、出力側巻線1414b(第3出力側巻線)の他端と基準電位との間に電気的に直列に接続されるキャパシタ144(第8キャパシタ)(
図2~
図4を参照)をさらに備える。これにより、合成部141の特性を調整することができるため、より広帯域化を図ることができる。
【0094】
以上説明した実施形態は、本開示の理解を容易にするためのものであり、本開示を限定して解釈するためのものではない。本開示は、その趣旨を逸脱することなく、変更又は改良され得るとともに、本開示にはその等価物も含まれる。すなわち、実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。実施形態が備える素子及びその配置などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0095】
100,200…電力増幅回路、110,210…分配器、120,220…キャリア増幅回路、130,230…ピーク増幅回路、140,240…合成回路、141,241…合成部、142,242…整合部。