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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151455
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/22 20060101AFI20231005BHJP
   F15B 11/17 20060101ALI20231005BHJP
   F15B 11/02 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
E02F9/22 L
F15B11/17
F15B11/02 M
E02F9/22 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061064
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏政
(72)【発明者】
【氏名】平工 賢二
(72)【発明者】
【氏名】小鮒 周平
【テーマコード(参考)】
2D003
3H089
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB02
2D003AB03
2D003AB04
2D003AB05
2D003BA01
2D003BB02
2D003BB12
2D003CA02
2D003CA10
2D003DA02
2D003DA04
2D003DB02
2D003DB08
2D003DC06
2D003FA02
3H089AA72
3H089BB15
3H089CC01
3H089CC08
3H089CC11
3H089DA03
3H089DA06
3H089DA13
3H089DA14
3H089DB03
3H089DB33
3H089DB45
3H089DB46
3H089DB48
3H089DB49
3H089DB54
3H089EE04
3H089EE22
3H089EE36
3H089FF09
3H089GG02
3H089JJ02
(57)【要約】
【課題】複数の油圧アクチュエータを同時に駆動する複合動作において、各油圧アクチュエータの要求流量の変化に追従させて各油圧アクチュエータの割当流量を変化させるとともに、同時に駆動する油圧アクチュエータの数が変化するタイミングで、駆動を継続する方の油圧アクチュエータの速度変動を抑制することより、オペレータの操作性を向上させることが可能な建設機械を提供する。
【解決手段】コントローラ27は、同時に駆動する2つ以上の油圧アクチュエータの要求流量Finのうち最大要求流量および最小要求流量を選択し、前記最大要求流量に対する前記最小要求流量の比率を要求比率rとして算出し、要求比率rと、要求比率rが小さくなるにしたがって大きくなる係数kとに基づいて、割当流量Foutを算出して複数の油圧ポンプP1~P4を制御する。
【選択図】 図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の油圧ポンプと、
複数の油圧アクチュエータと、
前記複数の油圧アクチュエータの動作を指示する操作レバーとを備え、さらに、
前記操作レバーの操作量に基づいて前記複数の油圧アクチュエータの要求流量を算出し、前記操作レバーによって前記複数の油圧アクチュエータのうち2つ以上の油圧アクチュエータの動作を指示された場合に、前記2つ以上の油圧アクチュエータの要求可能最大流量に対する要求流量の比率を維持しつつ前記2つ以上の油圧アクチュエータに供給可能な最大流量を比率維持最大流量とし、前記比率維持最大流量から割当流量を算出し、前記割当流量が前記複数の油圧ポンプから前記2つ以上の油圧アクチュエータに供給されるように前記複数の油圧ポンプを制御するコントローラとを備えた建設機械において、
前記コントローラは、
前記2つ以上の油圧アクチュエータの要求流量のうち最大要求流量および最小要求流量を選択し、
前記最大要求流量に対する前記最小要求流量の比率を要求比率として算出し、
前記要求比率と、前記要求比率が小さくなるにしたがって大きくなる係数とに基づいて、前記割当流量を算出して前記複数の油圧ポンプを制御する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械において、
前記コントローラは、前記係数を、前記2つ以上の油圧アクチュエータの要求可能最大流量に対する要求流量の比率であるスケーリング係数として算出し、前記比率維持最大流量に修正後の前記スケーリング係数を掛けて算出された割当流量が前記2つ以上の油圧アクチュエータの要求流量を上回る場合は、前記割当流量を前記要求流量以下に制限する
ことを特徴とする建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりから建設機械の省エネルギー化が求められている。特に建設機械を駆動するための油圧システムの省エネルギー化は重要視されており、例えば、旋回モータの制動動力を回収し再利用するハイブリッドシステムなどの様々な油圧システムが提案されている。
【0003】
また、油圧システムのコントロールバルブ等で発生する絞り圧損に配慮したものとして、例えば特許文献1に記載の技術がある。これは、複数の油圧ポンプと複数の油圧アクチュエータとをコントロールバルブではなく流路の連通又は遮断を行う電磁切換弁を介して閉回路接続し、操作装置で生成された油圧アクチュエータへの操作信号に基づいて複数の油圧ポンプと複数の油圧アクチュエータの電磁切換弁による接続を設定するとともに油圧ポンプの吐出流量を変化させることによって各油圧アクチュエータの速度を制御するものである。
【0004】
また、特許文献1に記載の技術では、複数の油圧アクチュエータを同時に駆動する複合動作において、各油圧アクチュエータの割当流量の配分を各油圧アクチュエータの要求流量の比率と一致させる処理と、各油圧アクチュエータの要求流量の変化に追従させて各油圧アクチュエータの割当流量を変化させる処理(スケーリング処理)とを行うことにより、オペレータの操作性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-145985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、スケーリング処理の影響により、1つの油圧アクチュエータのみを駆動する単独動作から2つの油圧アクチュエータを同時に駆動する2複合動作に移行する場合など、同時に駆動するアクチュエータの数が変化するタイミングで、駆動を継続する方の油圧アクチュエータの速度が急変動する場合があり、オペレータの操作性が低下してしまうという課題がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数の油圧アクチュエータを同時に駆動する複合動作において、各油圧アクチュエータの要求流量の変化に追従させて各油圧アクチュエータの割当流量を変化させるとともに、同時に駆動する油圧アクチュエータの数が変化するタイミングで、駆動を継続する方の油圧アクチュエータの速度変動を抑制することより、オペレータの操作性を向上させることが可能な建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、複数の油圧ポンプと、複数の油圧アクチュエータと、前記複数の油圧アクチュエータの動作を指示する操作レバーとを備え、さらに、前記操作レバーの操作量に基づいて前記複数の油圧アクチュエータの要求流量を算出し、前記操作レバーによって前記複数の油圧アクチュエータのうち2つ以上の油圧アクチュエータの動作を指示された場合に、前記2つ以上の油圧アクチュエータの要求可能最大流量に対する要求流量の比率を維持しつつ前記2つ以上の油圧アクチュエータに供給可能な最大流量を比率維持最大流量とし、前記比率維持最大流量から割当流量を算出し、前記割当流量が前記複数の油圧ポンプから前記2つ以上の油圧アクチュエータに供給されるように前記複数の油圧ポンプを制御するコントローラとを備えた建設機械において、前記コントローラは、前記2つ以上の油圧アクチュエータの要求流量のうち最大要求流量および最小要求流量を選択し、前記最大要求流量に対する前記最小要求流量の比率を要求比率として算出し、前記要求比率と、前記要求比率が小さくなるにしたがって大きくなる係数とに基づいて、前記割当流量を算出して前記複数の油圧ポンプを制御するものとする。
【0009】
以上のように構成した本発明によれば、比率維持最大流量に係数を掛けて割当流量を算出することにより、複数の油圧アクチュエータを同時に駆動する複合動作において、各油圧アクチュエータの要求流量の変化に追従させて各油圧アクチュエータの割当流量を変化させることができる。さらに、要求比率が小さくなるに従って係数が大きくなるように係数を修正することにより、要求比率が0に近いとき(複合動作の開始直後または終了直前)にスケーリングの効果が小さくなるため、同時に駆動する油圧アクチュエータの数が変化するタイミングで、駆動を継続する方の油圧アクチュエータの速度変動を抑制することができる。これにより、オペレータの操作性を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る建設機械によれば、複数の油圧アクチュエータを同時に駆動する複合動作において、各油圧アクチュエータの要求流量の変化に追従させて各油圧アクチュエータの割当流量を変化させるとともに、同時に駆動する油圧アクチュエータの数が変化するタイミングで、駆動を継続する方の油圧アクチュエータの速度変動を抑制することより、オペレータの操作性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態における油圧ショベルの外観を示す図である。
図2】本発明の実施形態における油圧システムの油圧回路を示す図である。
図3】本発明の実施形態における操作レバーの操作量と油圧アクチュエータの要求流量との関係を示す図である。
図4】従来技術におけるコントローラの割当流量演算処理を示すフローチャートである。
図5】従来技術におけるコントローラによって算出された割当流量の一例を示す図である。
図6】従来技術においてブームの単独動作からブームとアームの2複合動作に移行した場合の割当流量の変化を示す図である。
図7】本発明の実施形態におけるコントローラの割当流量演算処理を示すフローチャートである。
図8】本発明の実施形態におけるスケーリング係数と要求比率と修正スケーリング係数との関係を示す図である。
図9】本発明の実施形態においてブームの単独動作からブームとアームの2複合動作に移行した場合の割当流量の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る建設機械として油圧ショベルを例に挙げ、図面を参照して説明する。なお、各図中、同等の部材には同一の符号を付し、重複した説明は適宜省略する。
【0013】
図1は、本実施形態における油圧ショベルの外観を示す図である。図1において、油圧ショベルは、フロント装置1Aと、上部旋回体1Bと、下部走行体1Cとを備える。フロント装置1Aは、ブーム1、アーム2、およびバケット3を有する。また、油圧ショベルは、ブーム1を動作させるためのブームシリンダ4、アーム2を動作させるためのアームシリンダ5、バケット3を動作させるためのバケットシリンダ6、上部旋回体1Bを旋回させるための旋回モータ7、および下部走行体1Cを走行させるための左右の走行モータ8A,8Bを備える。
【0014】
図2は、図1に示す油圧ショベルに搭載された油圧システムの油圧回路を示す図である。図2において、油圧システムは、複数の閉回路ポンプP1~P4と、チャージポンプ21と、複数の閉回路ポンプP1~P4に閉回路接続された複数の油圧アクチュエータA1~A4と、複数の閉回路ポンプP1~P4と複数の油圧アクチュエータA1~A4との間にそれぞれ配置され、複数の閉回路ポンプP1~P4と複数の油圧アクチュエータA1~A4との間のそれぞれの閉回路の遮断および連通を切り換える複数の切換弁V11~V14,V21~V24,V31~V34,V41~V44と、複数の油圧アクチュエータA1~A4の動作を指示する複数の操作レバーL1,L2と、コントローラ27とを備えている。
【0015】
閉回路ポンプP1~P4は、2つの吐出ポートを有する両傾転可変容量ポンプであり、図示しない原動機としてのエンジンまたは電動モータにより駆動される。。閉回路ポンプP1~P4は、ポンプ容量を調整するためのレギュレータR1~R4を有し、ポンプ容量を調整することで吐出流量が制御される。説明の簡易化のため、閉回路ポンプP1~P4の最大吐出流量はすべて等しいものとする。
【0016】
閉回路ポンプP1は、切換弁V11~V14を介して油圧アクチュエータA1~A4の一方のポートから圧油を吸い込み他方のポートに吐出するよう接続され、油圧アクチュエータA1~A4のそれぞれと閉回路を構成している。閉回路ポンプP2は、切換弁V21~V24を介して油圧アクチュエータA1~A4の一方のポートから圧油を吸い込み他方のポートに吐出するよう接続され、油圧アクチュエータA1~A4のそれぞれと閉回路を構成している。閉回路ポンプP3は、切換弁V31~V34を介して油圧アクチュエータA1~A4の一方のポートから油を吸い込み他方のポートに吐出するよう接続され、油圧アクチュエータA1~A4のそれぞれと閉回路を構成している。閉回路ポンプP4は、切換弁V41~V44を介して油圧アクチュエータA1~A4の一方のポートから油を吸い込み他方のポートに吐出するよう接続され、油圧アクチュエータA1~A4のそれぞれと閉回路を構成している。
【0017】
レギュレータR1~R4および切換弁V11~V14,V21~V24,V31~V34,V41~V44はコントローラ27に電気的に接続されており、コントローラ27からの指令信号により動作し、閉回路の遮断および連通の切り換え、ならびにポンプ容量の調整を行う。
【0018】
油圧アクチュエータA1は例えばブームシリンダ4であり、油圧アクチュエータA2は例えばアームシリンダ5であり、油圧アクチュエータA3は例えばバケットシリンダ6であり、油圧アクチュエータA4は例えば旋回モータ7である。なお、左右の走行モータ8A,8Bについては図示を省略している。
【0019】
チャージポンプ21は片傾転固定容量ポンプであり、図示しないエンジンまたは電動モータにより駆動される。チャージポンプ21はタンク22から油を吸い込み、メイクアップ弁23a~23hを介して各閉回路に油を補充する。フラッシング弁24a~24dは閉回路の余剰油(例えば油圧シリンダ4~6のキャップ室とロッド室の受圧面積差によって生じる閉回路の余剰油)を、チャージリリーフ弁26を介してタンク22に排出する。メインリリーフ弁25a~25hは各閉回路の最大圧力を設定し、チャージリリーフ弁26はチャージポンプ21の最大吐出圧力を設定する。
【0020】
操作レバーL1,L2は、油圧アクチュエータ4~7の動作を指示する操作操作値であり、油圧ショベルのキャブ9(図1に示す)内に設置される。操作レバーL1,L2はコントローラ27に電気的に接続されており、操作レバーL1,L2からコントローラ27に操作信号(レバー操作量)が入力される。なお、左右の走行モータ8A,8Bの操作装置については図示を省略している。
【0021】
コントローラ27は、操作レバーL1,L2の操作信号(レバー操作量)や図示しない圧力センサの信号などに基づき、閉回路ポンプP1~P4の吐出流量指令、および切換弁V11~V44の開弁指令を出力する。切換弁V11~V44は待機状態において閉回路を遮断し、開弁指令に応じて閉回路を連通させる。また、コントローラ27は、操作レバーL1,L2の操作信号に応じて油圧アクチュエータ4~7の各要求流量を算出し、各要求流量およびポンプ台数などの油圧回路の情報から油圧アクチュエータ4~7の各割当流量を算出する。
【0022】
図3は、操作レバーL1,L2の操作量と油圧アクチュエータ4~7の要求流量との関係を示す図である。図3では、レバー操作量をフルレバー操作時のレバー操作量に対する比率で表し、油圧アクチュエータ4~7の要求流量を1台の閉回路ポンプの最大吐出流量に対する比率で表している。
【0023】
テーブル31aは、ブーム1に対応するレバー操作量とブームシリンダ4の要求流量との関係を示す。テーブル31bは、アーム2に対応するレバー操作量とアームシリンダ5の要求流量との関係を示す。テーブル31cは、バケット3に対応するレバー操作量とバケットシリンダ6の要求流量との関係を示す。テーブル31dは、上部旋回体1Bに対応するレバー操作量と旋回モータ7の要求流量との関係を示す。テーブル31a~31dは、コントローラ27に記憶されており、操作レバーL1,L2から入力されるレバー操作量に応じて油圧アクチュエータ4~7の要求流量を算出する際に用いられる。
【0024】
図3に示す例では、操作レバーL1,L2の操作量が0%の場合(すなわち、操作レバーL1,L2が操作されていない場合)は油圧アクチュエータ4~7の要求流量は0であり、操作レバーL1,L2の操作量が0%から大きくなるに従って要求流量も大きくなり、操作レバーL1,L2の操作量が100%に達すると要求流量は4になる。すなわち、油圧アクチュエータ4~7はいずれも、レバー操作量が100%のときにポンプ4台分の流量を要求する。
【0025】
図4は、従来技術におけるコントローラ27の割当流量演算処理を示すフローチャートである。
【0026】
コントローラ27は、まず、同時に駆動する2つ以上の油圧アクチュエータの要求流量Finと要求可能領域D1からスケーリング係数kを算出する(ステップS11)。要求可能領域D1とは、同時に駆動する2つ以上の油圧アクチュエータが要求することが可能な流量の領域である(図5に示す)。
【0027】
ステップS11に続き、要求流量Finと割当可能領域D2から比率維持最大流量Fmaxを算出する(ステップS12)。割当可能領域D2とは、同時に駆動する2つ以上の油圧アクチュエータに対して実際に割り当てることが可能な流量の領域である(図5に示す)。比率維持最大流量Fmaxとは、同時に駆動する2つ以上の油圧アクチュエータに対して各油圧アクチュエータの要求流量の比率を維持しつつ割り当てることが可能な最大流量である(図5に示す)。
【0028】
ステップS12に続き、比率維持最大流量Fmaxにスケーリング係数kを掛けて割当流量Foutを算出し(ステップS13)、当該フローを終了する。
【0029】
図5は、図4のフローに従って算出された割当流量Foutの一例を示す図である。図5において、グラフ51の横軸はブームシリンダ4の要求流量および割当流量であり、縦軸はアームシリンダ5の要求流量および割当流量である。本例ではブームシリンダ4およびアームシリンダ5に接続可能な閉回路ポンプP1~P4の数が4であるため、油圧アクチュエータ4,5が要求可能な流量の領域(要求可能領域D1)は図中破線で囲まれた正方形の領域となり、油圧アクチュエータ4,5に割当可能な流量の領域を示す割当可能領域D2は図中太線で囲まれた階段状の領域となる。
【0030】
図5において、ブーム1のレバー操作量が80%でアーム2のレバー操作量が60%の2複合動作が行われているとすると、要求流量Finは図3のテーブル31a,31bに従って(3.2,2.4)と算出される。要求流量Finと原点(0.0,0.0)とを通る直線と要求可能領域D1の境界線との交点(4.0,3.0)が要求可能最大流量FRmaxとして算出され、スケーリング係数kはFin/FRmax=3.2/4.0(または2.4/3.0)=0.8と算出される(ステップS11)。上記直線と割当可能領域D2の境界線との交点(2.0,1.5)が比率維持最大流量Fmaxとして算出される(ステップS12)。割当流量Foutは、k×Fmax=0.8×(2.0,1.5)=(1.6,1.2)と算出される(ステップS13)。この結果、ブームシリンダ4はポンプ1.6台分の流量で駆動され、アームシリンダ5はポンプ1.2台分の流量で駆動される。このように従来技術では、複数の油圧アクチュエータを同時に駆動する複合動作において、各油圧アクチュエータの割当流量の配分を各油圧アクチュエータの要求流量の比率と一致させる処理と、各油圧アクチュエータの要求流量の変化に追従させて各油圧アクチュエータの割当流量を変化させる処理(スケーリング処理)とを行うことにより、オペレータの操作性の向上を図っている。
【0031】
ここで、従来技術の課題を図6を用いて説明する。図6は、従来技術においてブーム1の単独動作からブーム1とアーム2の2複合動作に移行した場合の割当流量Foutの変化を示す図である。図6において、左側のグラフ61は、ブーム1を単独で操作しているとき(時刻t1)の状態であり、右側のグラフ62は、ブーム1の操作を継続しつつアーム2の操作を開始した直後(時刻t2)の状態である。
【0032】
時刻t1において、ブームシリンダ4の要求流量を2.4とし、アームシリンダ5の要求流量を0.0とすると、要求流量Fin(t1)は(2.4,0.0)となる。単独動作の場合、割当流量Fout(t1)は要求流量Fin(t1)と等しくなるため、割当流量Fout(t1)は(2.4,0.0)となる。
【0033】
その後、時刻t2においてアーム2の操作が開始され、要求流量Fin(t2)が(2.4,0.1)に変化すると、スケーリング係数k(t2)は2.4/4.0=0.6となり、比率維持最大流量Fmax(t2)は(3,0.125)となる。その結果、割当流量Fout(t2)は0.6×(3,0.125)=(1.8,0.075)となる。すなわち、時刻t1から時刻t2までの単独動作から2複合動作に移行するタイミングで、ブームシリンダ4の要求流量が2.4で変化していないにも関わらず、ブームシリンダ4の割当流量が2.4から1.8に急変動する。このように従来技術では、スケーリング処理の影響により、同時に駆動するアクチュエータの数が変化するタイミングで、駆動を継続する方の油圧アクチュエータの割当流量が急変動することにより、オペレータの操作性が低下するという課題がある。
【0034】
図7は、本実施形態におけるコントローラ27の割当流量演算処理を示すフローチャートである。図7において、ステップS21,S22は従来技術のステップS11,12(図4に示す)と同様であるため、説明は省略する。
【0035】
ステップS22に続き、コントローラ27は、油圧アクチュエータ4~7の要求流量Finの最小値(最小要求流量)を、要求流量Finの最大値(最大要求流量)で割ることにより要求比率rを算出する(ステップS23)。
【0036】
ステップS23に続き、コントローラ27は、スケーリング係数kと要求比率rとに基づいて修正スケーリング係数kcを算出する(ステップS24)。図8に、スケーリング係数kと要求比率rと修正スケーリング係数kcとの関係(テーブル81)を示す。テーブル81は、コントローラ27に記憶されており、修正スケーリング係数kcを算出する際に用いられる。
【0037】
修正スケーリング係数kcは、要求比率rが1のときはスケーリング係数kと一致し、要求比率rが小さくなるに従って修正スケーリング係数kcは大きくなり、要求比率rが0のときに1に達する。これにより、要求比率が1のときは従来技術と同様のスケーリングの効果が発揮され、要求比率rが小さくなるに従ってスケーリングの効果が小さくなる。
【0038】
図8に示す例では、テーブル81を点(0,1)と(1,k)を結ぶ直線で定義しており、修正スケーリング係数kc=1-r(1-k)となる。なお、修正スケーリング係数kcは、従来のスケーリング係数kを完全に有効とする値であるkから従来のスケーリング係数kを完全に無効にする値である1までの値をとる変数であればよく、テーブル81を点(0,1)と(1,k)とを結ぶ曲線で定義してもよい。重要なのは、要求比率rが0に近いとき(複合動作の開始直後または終了直前)にスケーリングの効果を小さくして割当流量Foutを算出し、要求比率rが1に近いとき(複合動作が十分になされているとき)にスケーリングの効果を大きくして割当流量Foutを算出することである。
【0039】
図7に戻り、ステップS24に続き、コントローラ27は、比率維持最大流量Fmaxに修正スケーリング係数kcを掛けて割当流量Foutを算出する(ステップS25)。
【0040】
ステップS25に続き、割当流量Foutが要求流量Finを上回る場合は、割当流量Foutを要求流量Fin以下に制限し(ステップS26)、当該フローを終了する。
【0041】
図9は、本実施形態においてブーム1の単独動作からブーム1とアーム2の2複合動作に移行した場合の割当流量Foutの変化を示す図である。図9において、左側のグラフ91は、ブーム1を単独で操作しているとき(時刻t1)の状態であり、右側のグラフ92は、ブーム1の操作を継続しつつアーム2の操作を開始した直後(時刻t2)の状態である。時刻t1の要求流量Fin(t1)と時刻t2の要求流量Fin(t2)は従来技術(図6に示す)で説明したものと同じである。
【0042】
時刻t2のスケーリング係数k(t2)は従来技術と同様に0.6と算出される(ステップS21)。比率維持最大流量Fmaxも同様に(3,0.125)と算出される(ステップS22)。要求流量Fin(t2)=(2.4,0.1)に含まれる最大要求流量は2.4となり、最小要求流量は0.1となるため、要求比率r(t2)は0.1/2.4=1/24と算出される(ステップS23)。修正スケーリング係数kc(t2)は1-r(t2)(1-k(t2))=1-1/24×(1-0.6)=59/60と算出される(ステップS24)。割当流量Fout(t2)は、kc×Fmax(t2)=59/60×(3,0.125)=(59/20,59/480)=(2.95,0.123)と算出され(ステップS25)、要求流量Fin(t2)=(2.4,0.1)以下に制限される(ステップS26)。すなわち、要求流量Fin(t2)は、(min(2.4,2.95),min(0.1,0.123))=(2.4,0.1)と算出される。このように本実施形態では、時刻t1から時刻t2にかけてブームシリンダ4の割当流量が変化しないため、従来技術に対してオペレータの操作性を向上できる。
【0043】
なお、割当流量Foutを要求流量Fin以下に制限する処理(ステップS26)を省略した場合でもブーム1の速度変化を抑制する効果は得られるが、割当流量Foutを要求流量Fin以下に制限することにより、修正スケーリング係数kcの定義(スケーリング係数kの修正方法)に関わらず、要求流量(Fin)より多くの流量がアクチュエータに割り当てられることを防止できる。
【0044】
また、本例では2複合動作の要求流量Fin=(Fin1,Fin2)に対し、要求比率rをmin(Fin1,Fin2)/max(Fin1,Fin2)と定義したが、3複合動作の場合は、要求流量Fin=(Fin1,Fin2,Fin3)に対し、要求比率rをmin(Fin1,Fin2,Fin3)/max(Fin1,Fin2,Fin3)と定義すればよい。
【0045】
(まとめ)
本実施形態では、複数の油圧ポンプP1~P4と、複数の油圧アクチュエータA1~A4と、複数の油圧アクチュエータA1~A4の動作を指示する操作レバーL1,L2とを備え、さらに、操作レバーL1,L2の操作量に基づいて複数の油圧アクチュエータA1~A4の要求流量(Fin)を算出し、操作レバーL1,L2によって複数の油圧アクチュエータA1~A4のうち2つ以上の油圧アクチュエータの動作を指示された場合に、前記2つ以上の油圧アクチュエータの要求可能最大流量FRmaxに対する要求流量Finの比率を維持しつつ前記2つ以上の油圧アクチュエータに供給可能な最大流量を比率維持最大流量Fmaxとし、比率維持最大流量Fmaxから割当流量Foutを算出し、割当流量Foutが前記複数の油圧ポンプから前記2つ以上の油圧アクチュエータに供給されるように複数の油圧ポンプP1~P4を制御するコントローラ27とを備えた建設機械において、コントローラ27は、前記2つ以上の油圧アクチュエータの要求流量Finのうち最大要求流量および最小要求流量を選択し、前記最大要求流量に対する前記最小要求流量の比率を要求比率rとして算出し、要求比率rと、要求比率rが小さくなるにしたがって大きくなる係数kとに基づいて、割当流量Foutを算出して複数の油圧ポンプP1~P4を制御する。
【0046】
以上のように構成した本実施形態によれば、比率維持最大流量Fmaxに係数kを掛けて割当流量Foutを算出することにより、複数の油圧アクチュエータを同時に駆動する複合動作において、各油圧アクチュエータの要求流量Finの変化に追従させて各油圧アクチュエータの割当流量Foutを変化させることができる。さらに、要求比率rが小さくなるに従って係数kが大きくなるように係数kを修正することにより、要求比率rが0に近いとき(複合動作の開始直後または終了直前)にスケーリングの効果が小さくなるため、同時に駆動する油圧アクチュエータの数が変化するタイミングで、駆動を継続する方の油圧アクチュエータの速度変動を抑制することができる。これにより、オペレータの操作性を向上させることが可能となる。
【0047】
また、本実施形態におけるコントローラ27は、係数kを、前記2つ以上の油圧アクチュエータの要求可能最大流量FRmaxに対する要求流量Finの比率であるスケーリング係数として算出し、比率維持最大流量Fmaxに修正後のスケーリング係数kcを掛けて算出された割当流量Foutが前記2つ以上の油圧アクチュエータの要求流量Finを上回る場合は、割当流量Foutを要求流量Fin以下に制限する。これにより、スケーリング係数kの修正方法に関わらず、要求流量Finより多くの流量が油圧アクチュエータ4~7に割り当てられることを防止できる。
【0048】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0049】
1…ブーム、1A…フロント装置、1B…上部旋回体、1C…下部走行体、2…アーム、3…バケット、4…ブームシリンダ(油圧アクチュエータ)、5…アームシリンダ(油圧アクチュエータ)、6…バケットシリンダ(油圧アクチュエータ)、7…旋回モータ(油圧アクチュエータ)、8A,8B…走行モータ、9…キャブ、21…チャージポンプ、22…タンク、23a~23h…メイクアップ弁、24a~24d…フラッシング弁、25a~25h…メインリリーフ弁、26…チャージリリーフ弁、27…コントローラ、31a~31d…テーブル、51,61,62…グラフ、81…テーブル、A1~A4…油圧アクチュエータ、D1…要求可能領域、D2…割当可能領域、Fin…要求流量、Fmax…比率維持最大流量、Fout…割当流量、FRmax…要求可能最大流量、L1,L2…操作レバー、P1~P4…閉回路ポンプ(油圧ポンプ)、R1~R4…レギュレータ、V11~V14,V21~V24,V31~V34,V41~V44…切換弁。
図1
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図9