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特開2023-151476耐火タイル、耐火構造体、燃焼炉及び耐火タイルの取り付け方法
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  • 特開-耐火タイル、耐火構造体、燃焼炉及び耐火タイルの取り付け方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151476
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】耐火タイル、耐火構造体、燃焼炉及び耐火タイルの取り付け方法
(51)【国際特許分類】
   F22B 37/10 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
F22B37/10 602B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061097
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】391040711
【氏名又は名称】AGCセラミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅田 悟史
(57)【要約】
【課題】施工時の工程を簡潔にすることができ、耐ガス腐食性能に優れた耐火タイル、耐火構造体、燃焼炉及び耐火タイルの取り付け方法を得る。
【解決手段】耐火タイル30は、充填材40を介在させてボイラー水管18に取り付けられている。耐火タイル30は、ボイラー水管18から突出したスタッドボルト22が挿通される挿通孔32を有し、挿通孔32は、細長く形成されると共に長径の寸法がスタッドボルト22の外径よりも大きく設定され、挿通孔32内への充填材40の配置が可能となっている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填材を介在させてボイラー水管に取り付けられる耐火タイルであって、
ボイラー水管から突出した固定金具が挿通される挿通孔を有し、
前記挿通孔は、細長く形成されると共に長径の寸法が前記固定金具の外径よりも大きく設定され、前記挿通孔内への前記充填材の配置が可能となっている、耐火タイル。
【請求項2】
前記挿通孔は、鉛直方向に沿って細長く形成されている、請求項1に記載の耐火タイル。
【請求項3】
前記挿通孔は、前記耐火タイルの背面側に充填された前記充填材の一部が、当該挿通孔を介して表面側に押し出されることにより、前記固定金具を封止可能に構成されている、請求項1又は請求項2に記載の耐火タイル。
【請求項4】
前記挿通孔の長径は、前記耐火タイルの背面側に向かって拡径している、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の耐火タイル。
【請求項5】
前記耐火タイルの表面側には、前記挿通孔と連通し、前記固定金具の先端部が収容される座ぐり孔が形成されており、
前記座ぐり孔の開口面積は、前記挿通孔よりも大きく設定されている、請求項1~請求項4の何れか1項に記載の耐火タイル。
【請求項6】
前記耐火タイルの上端には、タイルの背面空間と連通し、充填材の充填が可能な充填口が設けられている、請求項1~請求項5の何れか1項に記載の耐火タイル。
【請求項7】
前記充填口は、円弧状の開口断面を有し、前記耐火タイルの背面側に向かうにつれて拡径したテーパ状に形成されている、請求項6に記載の耐火タイル。
【請求項8】
前記耐火タイルの背面には、前記ボイラー水管の外周との間に所定の空間を設けると共に、前記ボイラー水管の外周に沿って窪んだ凹部が形成されており、
前記充填口は、前記耐火タイルの背面側の端部が前記凹部に繋がって形成されている、請求項6又は請求項7に記載の耐火タイル。
【請求項9】
前記挿通孔の上部には、前記固定金具との間隔を保持する間隔保持手段が設けられている、請求項1~請求項8の何れか1項に記載の耐火タイル。
【請求項10】
前記間隔保持手段は、前記挿通孔の内周面から突出した間隔保持突起で構成されている、請求項9に記載の耐火タイル。
【請求項11】
前記間隔保持手段は、前記挿通孔の上部の開口断面を、上方側に向かうにつれて先細りしたテーパ状に形成することにより構成されている、請求項9に記載の耐火タイル。
【請求項12】
平行に延材する複数のボイラー水管を備える水管壁と、
前記ボイラー水管から突出した固定金具と、
前記固定金具を用いて前記ボイラー水管に取り付けられると共に前記ボイラー水管と対向する背面側に充填材を充填可能な背面空間が形成される耐火タイルと、を有し、
前記耐火タイルは、前記固定金具が挿通される挿通孔を有し、
前記挿通孔は、細長く形成されると共に長径の寸法が前記固定金具の外径よりも大きく設定され、前記挿通孔内への前記充填材の配置が可能となっている、
耐火構造体。
【請求項13】
耐火壁を用いて燃料を燃焼する燃焼室を形成する燃焼炉であって、
前記耐火壁は、ボイラー水管と、充填材を介在させて前記ボイラー水管に取り付けられる耐火タイルとを有し、
前記耐火タイルは、
ボイラー水管から突出した固定金具が挿通される挿通孔を有し、
前記挿通孔は、細長く形成されると共に長径の寸法が固定金具の外径よりも大きく設定され、前記挿通孔内への前記充填材の配置が可能となっている、
燃焼炉。
【請求項14】
充填材を介在させてボイラー水管に取り付けられる耐火タイルの取り付け方法であって、
前記耐火タイルは、細長く形成されると共に長径の寸法がボイラー水管から突出した固定金具の外径よりも大きく設定された挿通孔を有し、
前記耐火タイルの挿通孔に前記固定金具を挿通させる固定金具挿通工程と、
前記ボイラー水管と対向する背面側に前記充填材を充填させ、前記ボイラー水管と前記耐火タイルとの間に前記充填材を介在させると共に前記充填材の一部を前記耐火タイルの背面側から前記挿通孔に押し出して前記挿通孔内を封止する充填工程と、
を含む耐火タイルの取り付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、耐火タイル、耐火構造体、燃焼炉及び耐火タイルの取り付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラー水管壁の耐火構造として、ボイラー水管の表面を耐火タイルで覆う構造が知られている。この耐火タイルは、ボイラー水管との間に形成される背面側の空間に充填材を充填した状態で、ボイラー水管から突出した固定金具に固定されている。
【0003】
ところで、上記のようなボイラー水管壁をゴミ焼却施設や汚泥ガス化施設などの燃焼炉に設ける場合、炉内に発生するガスによる固定金具の腐食を防止するための手段を設けることが望ましい。
【0004】
例えば、耐火タイルの挿通孔に固定金具(ボルトとナット)を挿通し、耐火タイルの表面側に露出された固定金具の先端に保護キャップを取り付ける構造が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-190038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、耐火タイルの背面側の空間に充填材を充填した後、保護キャップの取り付けを別の工程で行う必要がある。また、固定金具と保護キャップとの間に空隙が生じるため、耐ガス腐食性能を低下させる虞がある。
【0007】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、施工時の工程を簡潔にすることができ、耐ガス腐食性能に優れた耐火タイル、耐火構造体、燃焼炉及び耐火タイルの取り付け方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1>
充填材を介在させてボイラー水管に取り付けられる耐火タイルであって、
ボイラー水管から突出した固定金具が挿通される挿通孔を有し、
前記挿通孔は、細長く形成されると共に長径の寸法が前記固定金具の外径よりも大きく設定され、前記挿通孔内への前記充填材の配置が可能となっている、耐火タイル。
<2>
前記挿通孔は、鉛直方向に沿って細長く形成されている、<1>に記載の耐火タイル。
<3>
前記挿通孔は、前記耐火タイルの背面側に充填された前記充填材の一部が、当該挿通孔を介して表面側に押し出されることにより、前記固定金具を封止可能に構成されている、<1>又は<2>に記載の耐火タイル。
<4>
前記挿通孔の長径は、前記耐火タイルの背面側に向かって拡径している、<1>~<3>の何れか1つに記載の耐火タイル。
<5>
前記耐火タイルの表面側には、前記挿通孔と連通し、前記固定金具の先端部が収容される座ぐり孔が形成されており、
前記座ぐり孔の開口面積は、前記挿通孔よりも大きく設定されている、<1>~<4>の何れか1つに記載の耐火タイル。
<6>
前記耐火タイルの上端には、タイルの背面空間と連通し、充填材の充填が可能な充填口が設けられている、<1>~<5>の何れか1つに記載の耐火タイル。
<7>
前記充填口は、円弧状の開口断面を有し、前記耐火タイルの背面側に向かうにつれて拡径したテーパ状に形成されている、<6>に記載の耐火タイル。
<8>
前記耐火タイルの背面には、前記ボイラー水管の外周との間に所定の空間を設けると共に、前記ボイラー水管の外周に沿って窪んだ凹部が形成されており、
前記充填口は、前記耐火タイルの背面側の端部が前記凹部に繋がって形成されている、<6>又は<7>に記載の耐火タイル。
<9>
前記挿通孔の上部には、前記固定金具との間隔を保持する間隔保持手段が設けられている、<1>~<8>の何れか1つに記載の耐火タイル。
<10>
前記間隔保持手段は、前記挿通孔の内周面から突出した間隔保持突起で構成されている、<9>に記載の耐火タイル。
<11>
前記間隔保持手段は、前記挿通孔の上部の開口断面を、上方側に向かうにつれて先細りしたテーパ状に形成することにより構成されている、<9>に記載の耐火タイル。
<12>
平行に延材する複数のボイラー水管を備える水管壁と、
前記ボイラー水管から突出した固定金具と、
前記固定金具を用いて前記ボイラー水管に取り付けられると共に前記ボイラー水管と対向する背面側に充填材を充填可能な背面空間が形成される耐火タイルと、を有し、
前記耐火タイルは、前記固定金具が挿通される挿通孔を有し、
前記挿通孔は、細長く形成されると共に長径の寸法が前記固定金具の外径よりも大きく設定され、前記挿通孔内への前記充填材の配置が可能となっている、耐火構造体。
<13>
耐火壁を用いて燃料を燃焼する燃焼室を形成する燃焼炉であって、
前記耐火壁は、ボイラー水管と、充填材を介在させて前記ボイラー水管に取り付けられる耐火タイルとを有し、
前記耐火タイルは、
ボイラー水管から突出した固定金具が挿通される挿通孔を有し、
前記挿通孔は、細長く形成されると共に長径の寸法が固定金具の外径よりも大きく設定され、前記挿通孔内への前記充填材の配置が可能となっている、燃焼炉。
<14>
充填材を介在させてボイラー水管に取り付けられる耐火タイルの取り付け方法であって、
前記耐火タイルは、細長く形成されると共に長径の寸法がボイラー水管から突出した固定金具の外径よりも大きく設定された挿通孔を有し、
前記耐火タイルの挿通孔に前記固定金具を挿通させ、前記耐火タイルの表面側から前記固定金具の先端を固定する金具固定工程と、
前記ボイラー水管と対向する背面側に前記充填材を充填させ、前記ボイラー水管と前記耐火タイルとの間に前記充填材を介在させると共に前記充填材の一部を前記耐火タイルの背面側から前記挿通孔に押し出して前記挿通孔内を封止する充填工程と、
を含む耐火タイルの取り付け方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、施工時の工程を簡潔にすることができ、耐ガス腐食性能に優れた耐火タイル、耐火構造体、燃焼炉及び耐火タイルの取り付け方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る耐火タイルを適用したが燃焼炉を模式的に示す模式図である。
図2】(A)は、実施形態に係る燃焼炉の耐火壁の表面を示す正面図であり、(B)は耐火壁の縦断面である。
図3】実施形態に係る耐火タイルを背面側から見た斜視図である。
図4】実施形態に係る耐火タイルを表面側から見た斜視図である。
図5】(A)は、耐火タイルの背面図であり、(B)は、図5(A)の5B-5B線に沿った断面を示す断面図であり、(C)は、図5(A)の5C-5C線に沿った断面を示す断面図である。
図6】耐火タイルの第1の変形例を示す背面図である。
図7】耐火タイルの第2の変形例を示す背面図である。
図8】耐火タイルの第3の変形例を示す図であって、(A)は、背面図であり、(B)は、図8(A)の8B-8B線に沿った断面を示す断面図であり、(C)は、図8(A)の8C-8C線に沿った断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態に係る耐火タイル30が適用された燃焼炉10について図1図5を参照して説明する。以下の説明において、「耐火タイルの背面」は、耐火タイルにおいて水管壁と対向する側面を示しており、「耐火タイルの表面」は、耐火タイルにおいて、燃焼炉の炉内に面した側面を示している。
【0012】
図1に示されるように、燃焼炉10は、炉内の側面が耐火壁12で構成された燃焼室14を有している。耐火壁12は、複数のボイラー水管18を備える水管壁16と、水管壁16の表面を覆う複数の耐火タイル30(図2参照)と、水管壁16と耐火タイル30との間に介在する充填材40とを含んで構成される。燃焼炉10は、燃焼室14内で固形燃料を燃焼し、ボイラー水管18内の水を蒸発させる。固形燃料としては、ゴミ等の廃棄物やバイオマス(木質燃料)、汚泥、化石燃料、RPF(Refuse derived paper and plastics densified Fuel)等が挙げられる。ボイラー水管18は、例えば、発電用タービンの駆動室と連通されることにより、蒸気の力でタービンを駆動させる。これにより、燃焼室14の熱エネルギーを発電用の駆動エネルギーに変換する。
【0013】
図2(A)及び図2(B)に示されるように、水管壁16は、平行に延在する複数のボイラー水管18を有している。複数のボイラー水管18は、溶接された板状のフィン20によって接続され、水管壁16を形成している。
【0014】
ボイラー水管18の延在方向は、特に限定されず、鉛直方向(ほぼ鉛直を含む)、鉛直方向に対して傾斜した方向、Rがついて曲がった方向(例えば円弧)などが挙げられる。ボイラー水管18の延在方向は、水平方向も可能であるが、蒸気の流れる方向を考慮すると、鉛直方向や鉛直方向に対して傾斜した方向が好ましい。複数のボイラー水管18は、互いに平行に延在する。
本明細書において、鉛直(ほぼ鉛直)とは、好ましくは鉛直±10°であり、より好ましくは鉛直±5°とする。
【0015】
水管壁16の表面(炉内側の面)には、ボイラー水管18のフィン20から炉内側へ突出する複数のスタッドボルト22が溶接により取り付けられている。これらのスタッドボルト22は、耐火タイル30の挿通孔32に挿通された状態で、先端部にナット24が螺合する。なお、スタッドボルト22は、本発明における「固定金具」に相当する。
【0016】
耐火タイル30は、一例として、SiC(炭化ケイ素)を主成分とする定型耐火物で構成されており、矩形板状に形成されている。熱伝導率の高いSiCを主成分とすることにより、燃焼室14で生じた熱エネルギーが耐火タイル30を介してボイラー水管18に高効率で伝達される。
【0017】
図2(A)及び図2(B)に示すように、耐火タイル30は、ボイラー水管18と対向する背面側に背面空間Sを形成した状態でスタッドボルト22に固定される。この背面空間Sには、充填材40が充填され、背面空間Sと耐火タイル30の目地31の間隙を隙間なく塞ぐことにより、燃焼室14内で発生した熱がボイラー水管18に効率良く伝達される。また、炉内に発生するガスがボイラー水管18に到達することを抑制している。また、充填材40は、耐火タイル30に形成された後述する挿通孔32と座ぐり孔34にも充填され、内部に配置されたスタッドボルト22とナット24とを封止する。
【0018】
充填材40は、モルタルやコンクリート等で構成することができ、好ましくは不定形耐火物等で構成できる。不定形耐火物としては、例えば耐火モルタルや耐火キャスタブルが挙げられる。充填材40は、好ましくは熱伝導率の高いSiCを主成分とする耐火骨材を含む不定形耐火物で構成される。本実施形態では、一例として、SiCを主成分とする耐火骨材を含む耐火キャスタブルによって充填材40が構成されている。
【0019】
耐火キャスタブルで構成された充填材40は、耐火モルタル等に比べて混練時の水分量が少ないため、硬化後の気孔率(即ち、通気率と同義。)が低く、ガスの浸透を効果的に抑制することになる。これにより、耐火壁12の耐ガス腐食性能を高めることができ、耐火壁12の耐用期間を延ばすことができる。また、かかる構成の充填材40は、水管壁16の表面を覆うように複数の耐火タイル30を取り付けた後、耐火タイル30間の目地31をセラミックペーパ等で塞ぎ、複数の耐火タイル30によって形成された内側壁の上端部分(充填口36)から背面空間Sに流し込むようにして充填される。
【0020】
(耐火タイルの形状)
次に、図3図5を参照して、耐火タイル30の形状及び構造的な特徴について詳細に説明する。以下の説明において、耐火タイル30の上下方向は、ボイラー水管18の延在方向に沿った上下方向と一致している。なお、「ボイラー水管の延在方向に沿った」とは、ボイラー水管の延在方向と厳密に平行である方向と、ボイラー水管の延在方向に対して傾斜した方向の両方を含む広い概念である。本実施形態では、ボイラー水管18が鉛直方向(重力方向)に延在している場合を例として説明する。この場合において、耐火タイル30の上下方向は、耐火壁12の施工時における壁面の上下方向と一致している。
【0021】
図3には、ボイラー水管18と対向する耐火タイル30の背面が示されている。この図に示されるように、耐火タイル30の背面の中央部分には、スタッドボルト22が挿通される挿通孔32が形成されている。この挿通孔32は、細長い長円形状に形成され、長径の寸法が、スタッドボルト22の外形よりも大きく設定されている。従って、挿通孔32の中央にスタッドボルト22が挿通されると、スタッドボルト22に対して長径方向の両側に充填材40の充填代としての空間が形成される。これにより、耐火タイル30の背面側に充填された充填材40の一部が、挿通孔内に流れ込み、スタッドボルト22の外周が充填材40によって封止され、挿通孔32内に固定される。なお、図5(A)では、挿通孔32の長径が符号「D1」で示されている。
【0022】
挿通孔32の長径方向については特に限定されない、鉛直方向(ほぼ鉛直を含む)、鉛直方向に対して傾斜した方向、水平方向(ほぼ水平を含む)などが挙げられる。充填材40の充填時に挿通孔32内の空気を逃げやすくする観点においては、長径方向は、鉛直方向に沿った方向、即ち、鉛直方向(ほぼ鉛直を含む)又は鉛直方向に対して傾斜した方向であることが好ましく、長径方向が鉛直方向と一致していることが最も好ましい。本実施形態の一例では、挿通孔32の長径方向が鉛直方向(耐火タイル30の上下方向)と一致している。
【0023】
また、図5(B)に示すように、挿通孔32の長径は、耐火タイル30の表面側から背面側に向かって拡径している。かかる構成により、耐火タイル30の背面空間Sに上方側から流し込まれた充填材40が重力方向に従ってスムーズに挿通孔32内に案内され、充填材40の充填圧力による応力負荷を小さくすることができる。
【0024】
一方、図4に示すように、耐火タイル30の表面側には、挿通孔32と連通し、スタッドボルト22の先端部が収容される座ぐり孔34が形成されている。即ち、挿通孔32と座ぐり孔34によって耐火タイル30の背面空間Sと炉内とが連通されている。この座ぐり孔34は、円形状に形成されており、内径の寸法は、挿通孔32の長径よりも小さく、短径の寸法よりも大きく設定されている。
【0025】
ここで、座ぐり孔34の開口面積は、挿通孔32の開口面積よりも大きく設定されており、座ぐり孔34の内部には、スタッドボルト22の先端部と、当該先端部に螺合したナット24が収容される。かかる構成により、耐火タイル30の背面空間Sに上方側から流し込まれた充填材40は、挿通孔32を通って座ぐり孔34に押し出され、スタッドボルト22及びナット24の表面を十分な厚みを有して封止する(図2(B)参照)。炉内に発生するガスによるスタッドボルト22及びナット24の腐食を効果的に抑制することができる。
【0026】
図4に示すように、耐火タイル30の上端には、耐火タイル30の背面空間Sと連通し、耐火タイル30の表面側から充填材40の充填が可能な充填口36が設けられている。この充填口36は、耐火タイル30の厚み方向に貫通形成された切り欠きで構成されており、円弧状の開口断面を有している。かかる構成では、燃焼炉10の補修時に、耐火壁12を構成する一部の耐火タイル30の交換が必要になった場合に、交換される耐火タイル30の上方に充填材40を流し込むための作業スペースを設けることが不要とされる。これにより、一枚毎に耐火タイル30を交換することが可能になり、補修作業の小規模化、低コスト化を実現することができる。
【0027】
また、図5(A)及び図5(B)に示すように、耐火タイル30の充填口36は、耐火タイル30の表面側から背面側に向かって拡径したテーパ状に形成されている。かかる構成により、補修時に耐火タイル30の表面側から流し込まれた充填材40が重力方向に従ってスムーズに背面空間S内に案内され、充填材40の充填圧力による応力負荷を小さくすることができる。
【0028】
さらに、図3に示すように、上記充填口36の背面側の端部は、耐火タイル30の背面に形成された凹部38に繋がって形成されている。この凹部38は、対向して配置されるボイラー水管18の外周に沿って円弧状に窪んでいる。凹部38の最深部には、ボイラー水管18側に突出した複数の突起部39が一体に設けられており、突起部39がボイラー水管18の外周面に当接する。これにより、耐火タイル30の背面とボイラー水管18の外周との間の間隔を一定に保ち、背面空間Sを形成している。本実施形態では、耐火タイル30の背面中央に形成された挿通孔32の両側に凹部38がそれぞれ形成されている。
【0029】
充填口36の背面側の端部が凹部38に繋がって形成されることにより、補修時に耐火タイル30の表面側から流し込まれた充填材40を耐火タイル30の背面空間S全体に均一に広めることができる。これにより、充填材40の充填圧力による応力負荷をより一層小さくすることができる。
【0030】
耐火タイル30の寸法の一例を下記に記す。耐火タイル30の形状は、ボイラー水管18の設計(ボイラー水管18の水管径や複数のボイラー水管のピッチ)、発電させる場合は目標熱伝達係数などにより、下記例に限定されない。
耐火タイルは、一辺の長さが50mm~500mmであってもよく、80mm~400mmであってもよく、100mm~250mmであってもよい。
耐火タイルは、最も厚い部分の厚さが、10mm~100mmであってもよく、20mm~70mmであってもよく、35mm~50mmであってもよい。
挿通孔の長径は10mm~100mmであってもよく、20mm~80mmであってもよく、40mm~60mmであってもよい。
挿通孔の長径の拡径は、背面側が表面側の1.05倍以上であってもよく、1.1倍以上であってもよく、1.2倍以上であってもよい。
座ぐり孔の開口面積は500mm~2000mmであってもよく、700mm~1500mmであってもよく、900mm~1300mmであってもよい。
【0031】
本実施形態(図3図5)では、耐火タイル30に凹部38が2つ(2本)形成される例を示しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、耐火タイル30に凹部38が3つ以上形成され、3本以上のボイラー水管18と対向してもよい。この場合、挿通孔32は1つ以上形成されていればよい。例えば、耐火タイルの背面が3本のボイラー水管18と対向し、耐火タイル30にボイラー水管18の外周に沿う凹部38が3つある場合、2つの凹部38に挟まれた一般面(平面部)が2箇所に形成される。かかる構成では、2箇所の一般面のそれぞれに挿通孔32が形成されてもよく、2箇所の一般面のうちの1つに挿通孔32が形成されていてもよい。全ての凹部と凹部の間に挿通孔32が形成されていれば、耐火タイルをバランスよく施工できる。全ての凹部と凹部の間でなく、適宜挿通孔32が形成されていれば、耐火タイルの施工時に締めるナットが少なくなり、施工を簡略化できる。
【0032】
(耐火タイルの取り付け方法)
上記構成を有する耐火タイル30は、炉内に水管壁16を形成したあと、耐火タイル30の挿通孔32にスタッドボルト22を挿通させる固定金具挿通工程を経て、背面空間Sに充填材40を流し込む充填工程を行うことで取り付けられる。
【0033】
固定金具挿通工程では、スタッドボルト22を挿通孔32に挿通した後、耐火タイル30の表面側に露出したスタッドボルト22の先端部にナット24を螺合させる。スタッドボルト22の先端部にナット24を螺合させることは、本開示の構造においては必須ではないが、スタッドボルト22に対する耐火タイル30の位置決めを安定させることができ、耐火タイルの固定強度を高めることができる。
【0034】
充填工程では、耐火タイル30の上端側から背面空間Sに充填材40を充填させ、ボイラー水管18と耐火タイル30との間に充填材40を介在させる。この際、充填材40の一部を耐火タイル30の背面側から挿通孔32に押し出して挿通孔32内を封止する。その後、充填材40の硬化により、耐火タイル30の固定とスタッドボルト22の封止とを完了することができる。即ち、上記の工程では、耐火タイル30の固定と固定金具(スタッドボルト22とナット24)のキャッピングとを一つの工程で完了させることができる。補修時のタイル交換においても、同様の工程で行うことができる。
【0035】
(作用並びに効果)
以上説明したように、上記実施形態の耐火タイル30では、背面に形成された挿通孔32が細長く形成されると共に長径の寸法がスタッドボルト22の外径よりも大きく設定されている。これにより、耐火タイル30の背面空間Sへ充填された充填材40を表面側に押し出して挿通孔32内へ充填材40を配置することが可能となっている。この状態では、挿通孔32内に配置された充填材40によってスタッドボルト22に対する耐火タイル30の位置が固定されると同時に、耐ガス腐食性能を実現するためのスタッドボルトへのキャッピングが完了する。従って、施工時の工程を簡潔にして、耐ガス腐食性能に優れた耐火壁12を製造することができる。
【0036】
また、鉛直方向に沿った方向を挿通孔32の長径方向とすることにより、充填材40の充填時に挿通孔32内の空気を逃げやすることができる。
【0037】
また、挿通孔32の長径が耐火タイル30の背面側に向かって拡径されることにより、背面空間Sに充填された充填材40がスムーズに挿通孔32内に案内され、充填材40の充填圧力による応力負荷を小さくすることができる。
【0038】
挿通孔32を通って表面側に押し出された充填材40は、座ぐり孔34に充填ざれてスタッドボルト22の先端部を封止する。ここで、座ぐり孔34の開口面積を挿通孔32の開口面積よりも大きく設定することにより、耐火タイル30の表面側で充填材40によって被覆された層の厚みを厚くすることができる。これにより、スタッドボルト22及びナット24の腐食を効果的に抑制することができる。
【0039】
耐火タイル30の上端には、タイルの背面空間Sと連通し、充填材40の充填が可能な充填口36が設けられている。かかる構成により、耐火タイル30の交換作業において、耐火タイル30の上方に充填材40を流し込むための作業スペースを設けることが不要となる。これにより、一枚毎に耐火タイル30を交換することが可能になり、補修作業の小規模化、低コスト化を実現させることができる。
【0040】
また、充填口36が耐火タイル30の背面側に向かうにつれて拡径されたテーパ状に形成することにより、充填材40の流し込みをスムーズに行い、充填材40の充填圧力による応力負荷を小さくすることができる。
【0041】
更に、充填口36の背面側の端部を耐火タイル30の背面に形成した凹部38に繋げて形成することにより、充填口36から流し込まれた充填材40を背面空間S全体に均一に広めることができるため、充填材40の充填圧力による応力負荷をより一層小さくすることができる。
【0042】
次に、図6図8を参照して、上記実施形態に係る耐火タイル30の第1~第3の変形例について説明する。なお、各変形例において、前述した実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0043】
(耐火タイルの第1の変形例)
図6は、第1の変形例に係る耐火タイル50の背面図である。この図に示されるように、この変形例に係る耐火タイル50は、間隔保持手段として、挿通孔32の内部に、内周面から突出した間隔保持突起52を設ける点に特徴がある。他の構成は、上記実施形態と同一である。
【0044】
間隔保持突起52は、挿通孔32の短径側の両側面にそれぞれ設けられている。この一対の間隔保持突起52の間に設けられた間隙の幅は、スタッドボルトの外径の寸法よりも小さく設定されている。かかる構成によれば、一対の間隔保持突起52の下方側にスタッドボルト22を挿通させると、耐火タイル50の自重によって一対の間隔保持突起52にスタッドボルト22が係止される。これにより、挿通孔32の中央部に近い高さでスタッドボルト22が保持された状態になり、挿通孔32内の上部において、スタッドボルト22との間隔を保持することができる。
【0045】
以上説明した第1の変形例に係る耐火タイル50は、基本的には上記実施形態に係る耐火タイル30の構成を踏襲しているため、同様の作用及び効果を得ることができる。また、上記構成によれば、挿通孔32内にスタッドボルト22が挿通されると、スタッドボルト22に対して長径方向の両側に充填材40の充填代としての空間を形成した状態で、耐火タイル30を仮固定することができる。これにより、施工時の作業性を向上させることができる。
【0046】
(耐火タイルの第2の変形例)
図7は、第2の変形例に係る耐火タイル60の背面図である。この図に示されるように、この変形例に係る耐火タイル60は、間隔保持手段として、挿通孔62の上部の開口断面を上方側に向かうにつれて先細りしたテーパ状に形成した点に特徴がある。他の構成は、上記実施形態と同一である。
【0047】
かかる構成では、挿通孔62にスタッドボルト22を挿通すると、上記第1の変形例と同様に、挿通孔32の中央部に近い高さでスタッドボルト22が保持された状態になり、挿通孔62内の上部において、スタッドボルト22との間隔を保持することができる。
【0048】
この第2の変形例に係る耐火タイル60においても、基本的には上記実施形態に係る耐火タイル30の構成を踏襲しているため、同様の作用及び効果を得ることができる。また、挿通孔62内にスタッドボルト22が挿通されると、スタッドボルト22に対して長径方向の両側に充填材40の充填代としての空間を形成した状態で、耐火タイル60を仮固定することができる。これにより、施工時の作業性を向上させることができる。
【0049】
(耐火タイルの第3の変形例)
図8(A)~図8(C)には、第3の変形例に係る耐火タイル70が示されている。図8(A)には、耐火タイル70の背面が示されており、図8(B)には、図8(A)の8B-8B線で切断した断面が示されており、図8(C)には、図8(A)の8C-8C線で切断した断面が示されている。
【0050】
これらの図に示されるように、この変形例に係る耐火タイル70は、背面側に形成された挿通孔72と表面側に形成された座ぐり孔74の高さ位置が耐火タイル70の上下方向で異なる点に特徴がある。他の構成は、上記実施形態と同一である。
【0051】
図8(A)に示すように、挿通孔72は、上下方向に細長く形成され、長径の寸法がスタッドボルト22の外径の寸法よりも大きく設定されている。挿通孔72は、全体として逆T字状に形成されている。挿通孔72の長径は、逆T字状で最も長い部分(凸部分)とする。挿通孔72の上方側の部分は、短径寸法がスタッドボルト22の外径と同程度の寸法に設定された小径部72Aとなっている。また、下方側の部分は、短径寸法がスタッドボルト22の外径よりも大きく設定された、大径部72Bとなっている。スタッドボルト22は、挿通孔72の下部を構成する大径部72Bに挿通される。なお、図8(A)では、挿通孔32の長径を符号「D2」で示している。
【0052】
図8(B)に示すように、耐火タイル70の表面側には、挿通孔72と連通し、スタッドボルト22の先端部が収容される座ぐり孔74が形成されている。この座ぐり孔74は、矩形状に形成されており、挿通孔72の大径部72Bよりも上方側に形成されている。
【0053】
上記挿通孔72と座ぐり孔74は、耐火タイル70内部においてクランク状に折れ曲がった貫通路によって連通されている。具体的には、耐火タイル70の厚み方向に沿って延びる挿通孔72と座ぐり孔74が、上下方向に延びる連通部76で繋がっている。
【0054】
かかる構成により、スタッドボルト22の先端部は、座ぐり孔74の深層部(連通部76の下部)に配置され、耐火タイル70の表面側に露出しない。スタッドボルト22の先端部に螺合するナット24は、座ぐり孔74から挿入され、作業者の指先を座ぐり孔74の最深部まで伸ばして締結することができる。この際、締結されたナット24が小径部72Aの下端に当接し、耐火タイル70が係止される。これにより、挿通孔72内にスタッドボルト22を挿通すると、スタッドボルト22に対して長径方向の両側に充填材40の充填代としての空間を形成した状態で、耐火タイル70を仮固定することができる。なお、図8(B)に示すように、本実施形態のナット24には、挿通孔72の小径部72Aの高さ位置まで延びる板状の当接部78が一体に設けられており、当接部78が小径部72Aの側面に当接することにより、ナット24の締結位置が固定される。
【0055】
耐火タイル70の背面側に流し込まれた充填材40の一部は、挿通孔72を通り表面側に押し出され、座ぐり孔74に充填されれる。これにより、スタッドボルト22及びナット24が充填材40によって封止される。なお、本実施形態では、座ぐり孔74の内周面の上面及び下面が表面側から背面側に向かうにつれて下方側に傾斜しているため、座ぐり孔74に流れ込む充填材40の流動性をスムーズにし、充填材40の充填圧力による応力負荷を小さくすることができる。
【0056】
この第3の変形例に係る耐火タイル70においても、基本的には上記実施形態に係る耐火タイル30の構成を踏襲しているため、同様の作用及び効果を得ることができる。また、スタッドボルト22の先端部が耐火タイル70の表面側に露出しないため、炉内で発生するガスによるスタッドボルト22の腐食が効果的に抑制される。
[補足説明]
【0057】
上記実施形態及び各変形例の構成は、本発明の要旨を変更又は逸脱しない範囲で適宜組み合わせが可能である。
【0058】
また、上記実施形態及び各変形例では、充填材40が耐火キャスタブルで構成される例について説明したが、これに限らない。充填材40は、モルタルやコンクリートで構成することができる。また、充填材をモルタルで構成する場合は、耐火タイルの背面側に充填材を塗り付けた後、耐火タイルの挿通孔にスタッドボルトを挿通する。そして、耐火タイルを表面側から押し込めるようにして、挿通孔の内部に充填材の一部を押し出すことができる。
【0059】
上記第1の変形例に係る耐火タイル50に形成した間隔保持突起52は、短径側の側面に一対設ける構成に限らない。例えば、挿通孔の内周面の上面に1つの間隔保持突起を設ける構成としてもよい。
【符号の説明】
【0060】
10 燃焼炉
12 耐火壁(耐火構造体)
14 燃焼室
16 水管壁
18 ボイラー水管
30 耐火タイル
S 背面空間
32 挿通孔
40 充填材
22 スタッドボルト(固定金具)
34 座ぐり孔
36 充填口
38 凹部
50 耐火タイル
52 間隔保持突起(間隔保持手段)
60 耐火タイル
62 挿通孔(間隔保持手段)
70 耐火タイル
72 挿通孔
74 座ぐり孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8