(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151483
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】歯科用接着性組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/30 20200101AFI20231005BHJP
A61K 6/60 20200101ALI20231005BHJP
A61K 6/15 20200101ALI20231005BHJP
【FI】
A61K6/30
A61K6/60
A61K6/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061107
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】小原 由希
(72)【発明者】
【氏名】高橋 慎
(72)【発明者】
【氏名】葛西 侑毅
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA10
4C089BD01
4C089BD06
4C089BD10
4C089BE02
4C089BE03
4C089BE06
4C089CA06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】歯面や口腔内への刺激が生じにくい歯科用接着性組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも(メタ)アクリル酸アミド又は(メタ)アクリル酸エステルからなり、側鎖にC1~10のアルキレン鎖を介してカテコール基を有する構成単位を有し、且つ重量平均分子量(Mw)が2,000以上55,000以下であるポリマーを含有する、歯科用接着性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記式(1)で表される構成単位を有し、且つ重量平均分子量(Mw)が2,000以上55,000以下であるポリマーを含有する、歯科用接着性組成物。
【化1】
〔式(1)中、Yは、アミド結合又はエステル結合であり、nは1以上10以下の整数であり、R
1は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシル基、又は炭素数1以上6以下のアルキル基であり、R
2は、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基である。〕
【請求項2】
前記ポリマーが、前記式(1)で表される構成単位と下記式(2)で表される構成単位とを含むランダムコポリマーである、請求項1に記載の歯科用接着性組成物。
【化2】
〔式(2)中、Yは、アミド結合又はエステル結合であり、Zは、炭素数1以上10以下のアルキレン基、又は繰返し単位1以上5以下のエチレングリコールであり、R
2は、水素原子、又は炭素数1以上6以下のアルキル基であり、R
3は、水素原子、メチル基、又はアミノ基である。〕
【請求項3】
数平均分子量に対する重量平均分子量の比の値(Mw/Mn)が1以上2以下である、請求項1又は2に記載の歯科用接着性組成物。
【請求項4】
前記式(1)で表される構成単位が、カテコール基を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の歯科用接着性組成物。
【請求項5】
重合性モノマーをさらに含有し、前記重合性モノマー100質量部に対する前記ポリマーの含有量が5質量部以上300質量部以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の歯科用接着性組成物。
【請求項6】
10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートの含有量が、前記歯科用接着性組成物全量に対し0質量%、又は0質量%超10質量%以下である、請求項1から5のいずれか一項に記載の歯科用接着性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用接着性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯科用接着性組成物の成分として、リン酸エステル系モノマーを用いることが知られている。中でも、良好な歯質への接着性を示すことから、10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート(MDP)が広く使用されている。(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、リン酸エステル系単量体を用いた組成物では、当該単量体に含まれるリン酸基に起因した歯面や口腔内への刺激が生じることがある。そのため、刺激が生じにくい歯科用接着性組成物が求められている。
【0005】
本発明の一態様は、歯面や口腔内への刺激が生じにくい歯科用接着性組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、少なくとも下記式(1)で表される構成単位を有し、且つ重量平均分子量(Mw)が2,000以上55,000以下であるポリマーを含有する、歯科用接着性組成物である。
【0007】
【化1】
〔式(1)中、Yは、アミド結合又はエステル結合であり、nは1以上10以下の整数であり、R
1は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシル基、又は炭素数1以上6以下のアルキル基であり、R
2は、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基である。〕
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、歯面や口腔内への刺激が生じにくい歯科用接着性組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一形態による歯科用接着性組成物は、一般式(1)
【0010】
【化2】
〔式(1)中、Yは、アミド結合又はエステル結合であり、nは1以上10以下の整数であり、R
1は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシル基、又は炭素数1以上6以下のアルキル基であり、R
2は、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基である〕で表される構成単位(繰返し単位)を有し、且つ重量平均分子量が2,000以上55,000以下であるポリマーを含有する。上記一般式(1)を示す構成単位を有し且つ上記所定の重量平均分子量を有するポリマーを含有する組成物は、歯質、特にエナメル質及び/又は象牙質に対して優れた接着強さを示す。さらに、生体に適したpHを示すことから、口腔内で使用しても刺激が生じにくく、保存安定性も高い。
【0011】
一般式(1)中のYは、好ましくはアミド結合である。nは、好ましくは1以上5以下の整数、より好ましくは1又は2であってよい。また、R1のうち2以上が水素原子であると好ましく、3つのR1がいずれも水素原子である、すなわち、ポリマーの側鎖がカテコール基(カテコールの無置換位の水素原子が1つ除かれた基)を含むものであると、より好ましい。R2は、好ましくは水素原子又はメチル基である。
【0012】
一般式(1)におけるYがアミド結合である場合、一般式(1)で表される構成単位は、(メタ)アクリルアミドに由来する構成単位となる。本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを指す。また、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及び/又はメタクリレートを指し、「(メタ)アクリロイルオキシ」は、メタクリロイルオキシ及び/又はアクリロイルオキシを意味する。よって、上記一般式(1)は、アクリルアミド由来の構成単位からなるホモポリマー、メタクリルアミド由来の構成単位からなるホモポリマー、及びアクリルアミド由来の構成単位とメタクリルアミド由来の構成単位のコポリマー、アクリルアミド由来の構成単位からなるホモポリマーとメタクリルアミド由来の構成単位からなるホモポリマーとのブレンドも含まれ得る。
【0013】
一般式(1)におけるYがアミド結合である場合、得られる歯科用接着性組成物の接着強さの向上という観点から、一般式(1)の構成単位は、N-[2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)メチル](メタ)アクリルアミド、N-[2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチル](メタ)アクリルアミド(ドーパミン(メタ)アクリルアミド)、又はN-[2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)プロピル](メタ)アクリルアミド、N-[2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)ブチル](メタ)アクリレート等に由来するものが好ましい。
【0014】
上記の構成単位のうち、下記式(1a)で表されるN-[2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)メチル]アクリルアミドに由来する構成単位、及び下記式(1b)で表されるN-[2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチル]アクリルアミド(ドーパミンアクリルアミド)に由来する構成単位が好ましい。
【0015】
【0016】
【0017】
上記一般式(1)で表される構成単位を有するポリマーは、ホモポリマーであってもよいし、一般式(1)で表される構成単位以外の構成単位を含むコポリマーであってもよい。本形態におけるポリマーがコポリマーである場合、一般式(1)で表される構成単位と、下記一般式(2)
【0018】
【化5】
〔式(2)中、Yは、アミド結合又はエステル結合であり、Zは、炭素数1以上10以下のアルキレン基、又は繰返し単位1以上5以下のエチレングリコール(オキシエチレン基)であり、R
2は、それぞれ独立して水素原子、又は炭素数1以上6以下のアルキル基であり、R
3は、水素原子、メチル基、又はアミノ基である〕で表される構成単位とを含むコポリマーであってよい。本形態におけるポリマーが、上記コポリマーの場合には、ポリマーが水、アセトン等の溶媒に溶けやすくなるため、溶媒を含む歯科用接着性組成物の用途、或いは溶媒と混合して使用する歯科用接着性組成物の用途における操作性を向上できる。
【0019】
本形態におけるポリマーがコポリマーである場合、ランダムコポリマーであると好ましい。さらに、当該ポリマーは、一般式(1)で表される構成単位と、一般式(2)で表される構成単位とからなるランダムコポリマーであるとより好ましい。
【0020】
一般式(2)中、Yはアミド結合であると好ましい。Zは、好ましくは炭素数1以上10以下のアルキレン基、又は繰り返し単位1以上5以下のエチレングリコール、より好ましくは炭素数1以上5以下のアルキレン基であってよい。また、R3は、アミノ基であると好ましい。さらに、R2は、水素原子又はメチル基であると好ましい。
【0021】
一般式(2)におけるYがアミド結合である場合、得られる歯科用接着性組成物の接着強さの向上という観点から、N-(2-アミノエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-アミノプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(4-アミノブチル)(メタ)アクリルアミド、N-(5-アミノペンチル)(メタ)アクリルアミド等に由来するものが好ましい。このうち、N-(3-アミノプロピル)アクリルアミド、N-(4-アミノブチル)アクリルアミドに由来するものがより好ましい。
【0022】
本形態におけるポリマーが、一般式(1)で表される構成単位と一般式(2)で表される構成単位とを含むランダムコポリマーである場合、ポリマーは、以下の一般式(3)
【0023】
【化6】
〔式(3)中、Yは、それぞれ独立して、アミド結合又はエステル結合であり、Zは、炭素数1以上10以下のアルキレン基、又は繰返し単位1以上5以下のエチレングリコールであり、nは1以上10以下の整数であり、R
1は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシル基、又は炭素数1以上6以下のアルキル基であり、R
2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基であり、R
3は、水素原子、メチル基、又はアミノ基である〕で表すこともできる。なお、一般式(3)における「-co-」は、当該「-co-」によって結合されている各構成単位が無秩序に配列されていることを示す。
【0024】
一般式(3)において、Yはいずれもアミド結合であることが好ましい。また、Zは、炭素数1以上10以下のアルキレン基、又は繰り返し単位1以上5以下のエチレングリコール、より好ましくは炭素数1以上5以下のアルキレン基であってよい。R2は、水素原子又はメチル基であると好ましい。R3は、アミノ基であると好ましい。
【0025】
一般式(3)において、x/(x+y)は、好ましくは0.1以上1未満であり、0.15以上0.8以下、0.2以上0.5以下であってよい。x/(x+y)を上記範囲とすることで、歯科用接着性組成物の歯質、特に象牙質に対する接着強さを向上できると共に、ポリマーの組成物中での分散性を向上できる。
【0026】
一般式(3)におけるYがいずれもアミド結合である場合、本形態におけるポリマーの具体的な例としては、以下の式(3a)及び式(3b)で表されるものが挙げられる。
【0027】
【0028】
【0029】
上記式(3a)及び式(3b)で表されるポリマーは、歯科用接着性組成物の歯質に対する接着強度向上の観点から好ましい。
【0030】
なお、本形態におけるポリマーでは、ホモポリマーであってもコポリマーであっても、ポリマー末端は水素原子であることが好ましい。
【0031】
上述のポリマーは、重量平均分子量(Mw)は、2,000以上55,000以下であるが、好ましくは3,000以上40,000以下、より好ましくは5,000以上30,000以下、さらに好ましくは5,000以上15,000以下であってよい。上記範囲の重量平均分子量を有するポリマーを使用することで、ポリマーを他の成分と良好に混合することが可能となる。そのため、歯科用接着性組成物を調製する際の作業を容易にでき、歯科用接着性組成物の使用時の操作性が向上すると共に、組成物の適切な接着強さも確保できる。
【0032】
ポリマーの重量平均分子量(Mw)は直接測定してもよいし、推定値とすることもできる。例えば、ポリマー合成時に、原料モノマーから前駆体ポリマー(側鎖形成時前のポリマー)を合成する際に、連鎖移動剤に対する原料モノマーの仕込みモル比率(連鎖移動剤の仕込みモル数をMct、原料モノマーの仕込みモル数をMmoとして、Mmo/Mct)、及び重合反応の反応率(重合率)から重合度を算出し、さらに側鎖官能基の導入割合に基づいて、算出してもよい。
【0033】
また、数平均分子量に対する重量平均分子量の比の値(Mw/Mn)は、好ましくは1以上2以下、より好ましくは1以上1.7以下、さらに好ましくは1以上1.5以下であってよい。Mw/Mnを上記範囲とすることで、より狭い分子量分布が得られるので、組成物中でのポリマーの分散性を一層向上できる。そのため、歯科用接着性組成物を調製する際の作業の容易化、歯科用接着性組成物の使用時の操作性の向上、組成物の適切な接着強さの向上といった効果を一層向上できる。
【0034】
歯科用接着性組成物の溶液中でのpHは、例えば組成物1gを1mLの水系溶媒に溶解させて得られた溶液で測定されるpHが、好ましくは2以上10以下であり、より好ましくは3以上9以下となり得る。そのため、本形態による歯科用接着性組成物は、酸性又は塩基性の刺激が少なく、使用感に優れ、また長期保存した場合でも環境の変化に対して特性を安定的に維持できる。
【0035】
本形態による歯科用接着性組成物は、上述のポリマーに加え、重合性モノマーを含有していてよい。重合性モノマーは、(メタ)アクリレートであると好ましい。(メタ)アクリレートを含有することで、歯科用接着性組成物の歯質に対する接着強さを向上できる。
【0036】
歯科用接着性組成物中の重合性モノマーの含有量は、歯科用接着性組成物の用途にもよるが、歯科用接着性組成物の全量に対して、好ましくは1~85質量%、より好ましくは5~75質量%とすることができる。
【0037】
上記(メタ)アクリレートは、酸基を有さない(メタ)アクリレートであると好ましい。酸基を有さない(メタ)アクリレートの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-メチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート、ジ-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、1,3,5-トリス[1,3-ビス{(メタ)アクリロイルオキシ}-2-プロポキシカルボニルアミノヘキサン]-1,3,5-(1H,3H,5H)トリアジン-2,4,6-トリオン、2,2-ビス[4-(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)フェニル]プロパン、N,N'-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレート、2,2'-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンと2-オキシパノンとヘキサメチレンジイソシアネートと2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとからなるウレタンオリゴマーの(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールとヘキサメチレンジイソシアネートと2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとからなるウレタンオリゴマーの(メタ)アクリレート等が挙げられる。上記(メタ)アクリレートは、1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。また、上記のうち、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、及びビスフェノールAグリシジルメタクリレート(Bis-GMA)を組み合わせて用いることが好ましい。
【0038】
本形態による歯科用接着性組成物は、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基等の酸基を有する(メタ)アクリレートを含有していてもよく、例えば、10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート(MDP)を含有していてもよい。しかしながら、本形態では、MDPの含有量は、歯科用接着性組成物の全量に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。これにより、歯科用接着性組成物の使用時の歯質及び口腔内への刺激を抑えることができ、使用感に優れた製品が得られる。さらに、歯科用接着性組成物は、10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートを実質的に含有しないことが好ましい。なお、本明細書において、「実質的に含有しない」とは、対象成分を意図的に配合しないことを意味しており、対象成分は、不純物として不可避的に混入されていてもよい。なお、対象成分が不可避不純物として含まれ場合の含有量は、歯科用接着性組成物の全量に対して、好ましくは1質量%未満、より好ましくは0.5質量%未満である。
【0039】
また、歯質及び口腔内への刺激を抑えるという観点からは、リン酸基を有する重合性モノマーの含有量が、歯科用接着性組成物の全量に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下であってよく、歯科用接着性組成物がリン酸基を有する重合性モノマーを実質的に含有しないことがさらに好ましい。さらに、酸基を有する重合性モノマーの含有量が、歯科用接着性組成物の全量に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下であってよく、歯科用接着性組成物が上記酸基を有する(メタ)アクリレート実質的に含有しないことがさらに好ましい。
【0040】
また、本形態においては、歯科用接着性組成物中の上述のポリマー、すなわち、上記一般式(1)を有し且つ重量平均分子量(Mw)2,000以上55,000以下であるポリマーの含有量は、歯科用接着性組成物中の重合性モノマー100質量部に対して、好ましくは5質量部以上300質量部以下、より好ましくは10質量部以上200質量部以下であってよい。
【0041】
さらに、本形態による歯科用接着性組成物は、ガラス粉末等の無機フィラー(無機充填材)を含有していてよい。
【0042】
無機フィラーの含有量は、歯科用接着性組成物の用途にもよるが、歯科用接着性組成物の全量に対して1質量%以上80質量%以下とすることができる。なお、本形態による歯科用接着性組成物が歯科用コンポジットレジンの場合には、無機フィラーの含有量は、歯科用コンポジットレジンの全量に対して40質量%以上80質量%以下とすると好ましい。
【0043】
また、本形態による歯科用接着性組成物は、歯科充填用コンポジットレジン、歯科用プライマー、歯科用接着材、歯科用コーティング材、歯科用コンポジットレジンセメント、歯科用動揺歯固定材等として使用できる。また、歯科用接着性組成物は、光により重合可能な光重合性組成物であると好ましい。
【0044】
光重合開始剤としては、例えば、カンファーキノン(CQ)、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル(EPA)、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(TPO)等を用いることができる。
【0045】
重合禁止剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール)(BHT)、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール等を用いることができる。
【0046】
さらに、歯科用接着性組成物は、本形態による作用・効果を妨げない範囲で、酸化安定剤、変色防止剤、可塑剤、界面活性剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、繊維等をさらに含有していてもよい。
【実施例0047】
以下の実験で、異なる組成の歯科用接着性組成物(歯科用コンポジットレジン)を調製し、特性を評価した。
【0048】
[組成物の調製]
<成分Aの準備>
成分Aは、接着性に寄与する成分であり、以下に示す、構造1~構造4のいずれかのポリマー、又はモノマーa(ドーパミンメタクリルアミド;DMA、分子量221)を用いた(モノマーaの構造も以下に示す)。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
構造1及び構造2はそれぞれ、表記の構造式を有する構成単位で構成されるホモポリマーである。また、構造3及び構造4はそれぞれ、表記の構造式を有する構成単位を含むランダムコポリマーである。構造3におけるx/(x+y)はポリマー分子量に関わらず0.3であり、構造4におけるx/(x+y)はポリマー分子量に関わらず0.3であった。なお、各例で使用されたポリマーの構造、並びにポリマーの重量平均分子量(Mw)、及び数平均分子量に対する重量平均分子量の比の値(Mw/Mn)を、表1に示す。
【0053】
<組成物の調製>
各例では、上記成分Aを、他の構成成分と共に配合して組成物を得た。各例での配合は、ポリマーの性状、粘度等に起因して配合不可であった場合を除き、表2に示す組成1~組成4のいずれかの組成にて行った。
【0054】
【0055】
【0056】
表2中の略称は、以下の通りである:
MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
Bis-GMA:ビスフェノールAグリシジルメタクリレート(2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン)
CQ:カンファーキノン
EPA:4-ジメチルアミノ安息香酸エチル
BHT:ジブチルヒドロキシトルエン
【0057】
[測定・評価]
<ポリマーの重量平均分子量(Mw)>
ポリマーの重合平均分子量(Mw)は、ポリマーの合成における重合反応における、連鎖移動剤に対する原料モノマーの仕込みモル比率、反応率(重合率)、及び側鎖導入前の前駆体ポリマーへ導入される側鎖の比率(側鎖導入比率)から求めた。
【0058】
重量平均分子量の求め方について、実施例1で使用された構造4のポリマーの製造例により、具体的に説明する。実施例1では、構造4のポリマーを得るためにまず、反応式Iに示すように、原料モノマーであるアクリル酸ペンタフルオロフェニル(PFA)を、連鎖移動剤であるジベンジルジチオベンゾエートを用いて、連鎖移動剤の量:PFAの量:=1:350の仕込みモル比で重合反応させ、アクリル酸ペンタフルオロフェニルのポリマー(pPFA)を得た。NMR上でビニル基由来のピークが観察されなくなった(すなわち、重合反応がほぼ100%進行したと考えられた)ため、重合度(鎖長)は350と推定した。その後、反応式IIに示すように、pPFAと、ドーパミン塩酸塩及び1,4-ジアミノブタンを、pPFAの量:ドーパミン塩酸塩の量:1,4-ジアミノブタンの量=1:0.3:0.7のモル比で反応させることによって、成分Aとして使用される構造4のポリマーを製造した(側鎖形成反応)。ドーパミン塩酸塩の量:1,4-ジアミノブタンの量=0.3:0.7の上記モル比、並びにドーパミンアクリルアミドの分子量207、及びアミノブタンアクリルアミドの分子量128より、実施例1における構造4のポリマーの重量平均分子量(Mw)を、約53000と算出した。
【0059】
【0060】
【0061】
<重量平均分子量の数平均分子量に対する比の値(Mw/Mn)>
側鎖形成反応(実施例1の例では反応式II)の前後で分子量分布は大きく変化しないと考えられることから、ゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC)に利用される溶媒に対する溶解性が高い側鎖形成反応前のポリマー(実施例1の例ではpPFA)の平均分子量を測定した。より具体的には、側鎖形成反応前のポリマーとテトラヒドロフラン(THF)とを10分間撹拌して溶液を得て、その溶液を0.2μmフィルターでろ過した後に、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を測定し、それらの値から分子量分布(Mw/Mn)を算出した。GPCの展開溶媒にはTHFを用い、測定時のカラム温度は40℃、流速は1.0mL/分であった。
【0062】
<元液粘度>
各例で成分Aに、歯科用接着性組成物の成分のうち重合性モノマーを配合した。配合は、重量割合で、ポリマー:HEMA:TEGDMA:Bis-GMAを1:1:2:3.4とした。配合された液をスターラーで1時間撹拌して粘度測定用の元液とした。粘度の測定においては、B型粘度計(東機産業株式会社)を23℃で恒温化した後、上記元液を0.6mL量り取り、5分間静置して恒温化した。測定は、10rpmにて5分間行い、2分から5分の粘度値の平均値を元液粘度とした。元液粘度が小さい方が、成分Aの重合性モノマーへの分散性が高く、優れている。
【0063】
<ペースト稠度>
各例で調製された歯科用接着性組成物を、ポリプロピレン製のシリンジに充填して遠心脱泡後、23℃恒温器にて24時間静置し、稠度試験用の組成物サンプルとした。当該組成物サンプルを0.1g量り取り、23℃、湿度50RH%の恒温室内でポリエステルフィルム(5cm×5cm)の中心に盛り上げるように静置した。当該組成物サンプルを覆うようにもう1枚のポリエステルフィルム(5cm×5cm)を載せ、さらにその上にガラス板及び錘を順に載せ、合計860gの荷重をかけて10秒経過後のサンプルの長径と短径を測定し、両者の算術平均を算出した値を稠度(mm)とした。なお、サンプルの長径とは、サンプルの中心を通る直径のうち最も長いものを、サンプルの短径とは、サンプルの中心を通る直径のうちサンプルの長径に直交するものを意味する。ペースト稠度の評価基準は以下の通りであった:
A:23mm以上
B:17mm以上23mm未満
C:17mm未満
【0064】
<せん断接着強さ(対エナメル質)>
ウシ下顎前歯の唇面を流水下にて#120シリコン・カーバイド紙(丸本ストルアス社製)で研磨して、エナメル質の平坦面を露出させた被接着サンプルを得た。得られた被接着サンプルを流水下にて♯400のシリコン・カーバイド紙(丸本ストルアス社製)でさらに研磨して平滑面を作製した。研磨終了後、表面の水をエアブローすることで乾燥した。乾燥後の平滑面に、前処理として、各例で調製された歯科用接着性組成物を少量塗布してアプリケータで10秒間アジテーションを行った。サンプルに、直径2.38mm及び深さ2.67mmの材料充填用貫通孔が中央に形成された板状のモールド(ULTRADENT社製)を固定した。さらに、モールドの上から貫通孔を通して、歯科用接着性組成物が塗布された被接着サンプルの平滑面に対して、歯科重合用可視光線照射器(商品名:G-ライトプリマIIPlus、GC社製)を用いて10秒間光照射を行った。次いで、被接着サンプルの平滑面と貫通孔とによって形成された凹部に、上記で少量塗布したものと同じ歯科用接着性組成物をさらに充填し、上記同様にモールドの上から歯科重合用可視光線照射器を用いて10秒間光照射を行うことによって硬化させ、硬化物を得た。モールドを外して試験片とした。試験片は、各例につき計5個作製し、37℃に保持した恒温器内に24時間静置した。その後、試験片を37℃水中に24時間浸漬した後、万能試験機(製品名:オートグラフ、島津製作所社製)にてクロスヘッド速度1.0mm/分にて、5個の試験片それぞれのせん断接着強さを測定し、平均値を求めた。対エナメル質のせん断接着強さの評価基準は以下の通りであった:
A:15MPa以上
B:10MPa以上15MPa未満
C:10MPa未満
上記評価のうち10MPa以上(A及びB)が、歯科用コンポジットレジンとして良好な接着強さである。
【0065】
<せん断接着強さ(対象牙質)>
象牙質の平坦面を露出させて得た被接着サンプルを用いたこと以外は、上記と同様にして、せん断接着強さを測定し、平均値を求めた。対象牙質のせん断接着強さの評価基準は以下の通りであった:
A:10MPa以上
B:5MPa以上10MPa未満
C:5MPa未満
上記評価のうち5MPa以上(A及びB)が、歯科用コンポジットレジンとして良好な接着強さである。
【0066】
<刺激性>
各例の組成物1g中に対し、エタノール0.5mL及び水0.5mLを添加し、10分撹拌して溶液を得た。各溶液のpHを、3点校正を行った上でpHメータにより測定した。刺激性は、以下の基準で評価した:
A:pH3以上10以下
B:pH2以上3未満
C:pH2未満、又は10超
pH3以上10以下であると口腔内への刺激が少なく、良好な使用感が得られる。
【0067】
実施例及び比較例の結果より、上記構造1~構造4のいずれかの構成単位を有し且つ重量平均分子量(Mw)が2,000以上55,000以下である所定ポリマーを含有する歯科用接着性組成物(実施例1~実施例9)は、元液粘度及びペースト稠度、歯質に対する接着強さ、並びに刺激性に関して、がいずれも良好な結果を示した。特に、重量平均分子量(Mw)が5,000以上15,000以下の範囲内の組成物(実施例4~7)は、対エナメル質及び対象牙質のいずれに対する接着強さにも優れていた。
【0068】
一方、上記構造1~構造4のいずれかの構成単位を有してはいるが、重量平均分子量(Mw)が2,000以上55,000以下の範囲外にあるポリマーの場合には、分散性が悪く、他成分との配合が困難であり(比較例4、5)、配合できたとしても元液粘度及びペースト稠度、並びに歯質に対する接着強さが劣っていた(比較例1)。また、ポリマーに代えて、ポリマーの由来成分となり得るモノマーを含有させた組成物(比較例2、3)では、接着強さが劣っていた。さらに、上記の所定のポリマーを配合せず、MDPを配合した組成物(比較例6)は、刺激性の評価が劣っていた。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態等に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。