(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151487
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】ガスエンジン用潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20231005BHJP
C10M 139/00 20060101ALI20231005BHJP
C10M 159/22 20060101ALI20231005BHJP
C10M 159/24 20060101ALI20231005BHJP
C10M 135/10 20060101ALI20231005BHJP
C10M 129/54 20060101ALI20231005BHJP
C10M 129/10 20060101ALI20231005BHJP
C10M 133/12 20060101ALI20231005BHJP
C10M 137/10 20060101ALI20231005BHJP
C10M 135/18 20060101ALI20231005BHJP
C10M 133/16 20060101ALI20231005BHJP
C10M 133/04 20060101ALI20231005BHJP
C10M 145/14 20060101ALI20231005BHJP
C10M 143/00 20060101ALI20231005BHJP
C10N 10/12 20060101ALN20231005BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20231005BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20231005BHJP
C10N 30/04 20060101ALN20231005BHJP
C10N 30/12 20060101ALN20231005BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20231005BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M139/00 Z
C10M159/22
C10M159/24
C10M135/10
C10M129/54
C10M129/10
C10M133/12
C10M137/10 A
C10M135/18
C10M133/16
C10M133/04
C10M145/14
C10M143/00
C10N10:12
C10N10:04
C10N40:25
C10N30:04
C10N30:12
C10N30:06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061111
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】398053147
【氏名又は名称】コスモ石油ルブリカンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平原 賢志
(72)【発明者】
【氏名】内山 拓也
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BB05C
4H104BB06C
4H104BB24C
4H104BE07C
4H104CA01C
4H104CB08C
4H104DB06C
4H104DB07C
4H104EA21A
4H104FA02
4H104FA06
4H104LA02
4H104LA03
4H104LA06
4H104PA41
(57)【要約】
【課題】コーキングの発生を抑制、ガスエンジンの部材に含まれる金属の腐食を抑制、及びガスエンジンの部材の耐摩耗性を向上するガスエンジン用潤滑油組成物の提供。
【解決手段】引火点が240℃以上である基油と、モリブデン系摩擦調整剤と、引火点が270℃以上である粘度調整剤と、を含有し、ガスエンジン用潤滑油組成物全体の質量に対する、モリブデン原子の質量が20ppm以上800ppm以下であるガスエンジン用潤滑油組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
引火点が240℃以上である基油と、
モリブデン系摩擦調整剤と、
引火点が270℃以上である粘度調整剤と、を含有し、
ガスエンジン用潤滑油組成物全体の質量に対する、モリブデン原子の質量が20ppm以上800ppm以下であるガスエンジン用潤滑油組成物。
【請求項2】
前記基油の初留点温度(TIBP)が350℃以上である、請求項1に記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
【請求項3】
カルシウムサリシレート、カルシウムフェネート、カルシウムスルホネート、マグネシウムサリシレート、マグネシウムスルホネート、及びアルカリ土類金属を含有する清浄剤からなる群から選択される少なくとも1種である金属系清浄剤を含有する、請求項1又は請求項2に記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
【請求項4】
フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤及び亜鉛系酸化防止剤を含有し、
前記フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤の含有量の合計が、ガスエンジン用潤滑油組成物全体に対して、1質量%以上4質量%以下である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
【請求項5】
前記アミン系酸化防止剤が、酸解離定数(pKa)が7以下の芳香族アミン化合物を含む、請求項4に記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
【請求項6】
前記モリブデン系摩擦調整剤が、アミド系モリブデン化合物、エステル系モリブデン化合物、モリブデン酸アミン化合物、モリブデンジチオカーバメート、及びモリブデンジチオホスフェートからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
【請求項7】
前記粘度調整剤が、オレフィンコポリマー、ポリメタクリレート、オレフィン及びメタクリレートのランダム共重合体、オレフィン及びメタクリレートのブロック共重合体、ポリメタクリレート及びオレフィンコポリマーのグラフト共重合体からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
【請求項8】
トータルエネルギーシステムに用いられるガスエンジン、水素エンジン、又は船舶向けデュアルフューエルエンジン用である請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガスエンジン用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスエンジンは長時間連続運転されると、ガスエンジン含まれる潤滑油が常に高温に晒されており次第に熱酸化劣化していく。また、ディーゼルエンジンと比較して燃焼温度が高いガスエンジンは、ブローバイガスに含有されるNOxの濃度が高い傾向にあるため潤滑油中にスラッジの生成を引き起こし易い。そのため潤滑油の定期的な交換が必要であるが、潤滑油自体の長寿命化によるメンテナンスコスト抑制とエンジン各部における局部的なコーキングによるトラブルを防止するために長寿命性とコーキング性能の両立が求められている。
ガスコージェネレーションシステムには比較的大型のガスエンジンが採用されることが多く、潤滑油使用量も多いことから、ガスエンジン油にも高い安全性が求められる。この点、消防法は安全性の観点から引火点によって250℃以上のものを指定可燃物として位置づけており、それ以下の第4類4石の危険物とは区別して簡易な保管を許容している。
ガスエンジン用潤滑油組成物は、前記の要求に応じて適切に選択される基油及び添加剤から構成される。例えば、特許文献1~3には塩基価保持性、高温清浄性、摩擦調整性を向上させる目的で、金属清浄剤、リン系添加剤を含有する潤滑油組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-203952号公報
【特許文献2】特開2015-196695号公報
【特許文献3】特開2015-052126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のガスエンジン用潤滑油組成物においても、コーキングの発生の抑制、ガスエンジンの部材に含まれる金属の腐食抑制、及びガスエンジンの部材の耐摩耗性の向上には更なる改善の余地がある。
そこで、本開示の実施形態が解決しようとする課題は、コーキングの発生を抑制、ガスエンジンの部材に含まれる金属の腐食を抑制、及びガスエンジンの部材の耐摩耗性を向上するガスエンジン用潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段には、以下の手段が含まれる。
<1> 引火点が240℃以上である基油と、
モリブデン系摩擦調整剤と、
引火点が270℃以上である粘度調整剤と、を含有し、
ガスエンジン用潤滑油組成物全体の質量に対する、モリブデン原子の質量が20ppm以上800ppm以下であるガスエンジン用潤滑油組成物。
<2> 前記基油の初留点温度(TIBP)が350℃以上である、<1>に記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
<3> カルシウムサリシレート、カルシウムフェネート、カルシウムスルホネート、マグネシウムサリシレート、マグネシウムスルホネート、及びアルカリ土類金属を含有する清浄剤からなる群から選択される少なくとも1種である金属系清浄剤を含有する、<1>又は<2>に記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
<4> フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤及び亜鉛系酸化防止剤を含有し、
前記フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤の含有量の合計が、ガスエンジン用潤滑油組成物全体に対して、1質量%以上4質量%以下である<1>~<3>のいずれか1つに記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
<5> 前記アミン系酸化防止剤が、酸解離定数(pKa)が7以下の芳香族アミン化合物を含む、<4>に記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
<6> 前記モリブデン系摩擦調整剤が、アミド系モリブデン化合物、エステル系モリブデン化合物、モリブデン酸アミン化合物、モリブデンジチオカーバメート、及びモリブデンジチオホスフェートからなる群から選択される少なくとも1種である、<1>~<5>のいずれか1つに記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
<7> 前記粘度調整剤が、オレフィンコポリマー、ポリメタクリレート、オレフィン及びメタクリレートのランダム共重合体、オレフィン及びメタクリレートのブロック共重合体、ポリメタクリレート及びオレフィンコポリマーのグラフト共重合体からなる群から選択される少なくとも1種である、<1>~<6>のいずれか1つに記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
<8> トータルエネルギーシステムに用いられるガスエンジン、水素エンジン、又は船舶向けデュアルフューエルエンジン用である<1>~<7>のいずれか1つに記載のガスエンジン用潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一実施形態によればコーキングの発生を抑制、ガスエンジンの部材に含まれる金属の腐食を抑制、及びガスエンジンの部材の耐摩耗性を向上するガスエンジン用潤滑油組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本開示の一例である実施形態について説明する。これらの説明および実施例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0008】
各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0009】
<ガスエンジン用潤滑油組成物>
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は引火点が240℃以上である基油と、モリブデン系摩擦調整剤と、引火点が270℃以上である粘度調整剤と、を含有し、ガスエンジン用潤滑油組成物全体の質量に対する、モリブデン原子の質量が20ppm以上800ppm以下である。
【0010】
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、上記構成により、コーキングの発生を抑制、ガスエンジンの部材に含まれる金属の腐食を抑制、及びガスエンジンの部材の耐摩耗性を向上する。
その理由は、次の通り推測される。
【0011】
モリブデン系摩擦調整剤を含有することで、境界潤滑条件において二硫化モリブデンを生成する。これにより摩擦を低減すると共に、高温でのコーキングを抑制する。また、引火点が240℃以上である基油及び引火点が270℃以上である粘度調整剤を併用することによって、高温条件における低沸点留分のコーキングを抑制する。また、ガスエンジン用潤滑油組成物全体の質量に対する、モリブデン原子の質量を20ppm以上800ppm以下とすることで、上記性能を阻害することなくコーキングを抑制する。
【0012】
そのため、本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、コーキングの発生を抑制、ガスエンジンの部材に含まれる金属の腐食を抑制、及びガスエンジンの部材の耐摩耗性を向上すると推測される。
【0013】
(基油)
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、引火点が240℃以上である基油を含有する。
基油の引火点を240℃とすることで、ガスエンジン用潤滑油組成物全体の引火点が高くなり、取り扱いが容易となる。
基油としては、特に限定されず、潤滑油分野において用いられる基油を用いることができる。
基油としては、具体的には、鉱油系基油、合成系基油等が挙げられる。
【0014】
鉱油系基油としては、例えば、原油から常圧蒸留、減圧蒸留、溶剤脱歴、溶剤抽出、水素化精製、溶剤脱ろうの工程を組み合わせて得られるAPI(American Petroleum Institute;米国石油協会) GroupIに分類される基油;さらに水素化分解、触媒脱ろう等の工程を組み合わせて得られるAPI GroupIIに分類される基油;さらに水素化分解や水素化異性化脱ろう等の高度水素化処理の工程を組み合わせて得られるAPI Group IIIに分類される基油;等が挙げられる。
高引火点を維持し、高温に晒された際にコーキングを悪化させる低沸点留分を含まない基油とするために、基油としては、API GroupIIIに分類される基油を用いることが好ましい。
【0015】
合成系基油としては、例えば、α-オレフィンオリゴマー、イソパラフィンオリゴマー、プロピレンオリゴマー、イソブチレンオリゴマー、ブテンオリゴマー、1-オクテンオリゴマー、1-デセンオリゴマー、エチレン-プロピレンオリゴマー等の合成炭化水素;アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の芳香族含有炭化水素;ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート等のエステル類;トリメチロールプロパンオレート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート等のポリオールエステル類;ポリオキシアルキレングリコール等のポリグリコール類;ポリフェニルエーテル類;等が挙げられる。
【0016】
高引火点を維持し、コーキングの原因となる低沸点留分を可能な限り含まない基油とするために、基油としては鉱油系基油を用いることが好ましいが、合成系基油も添加剤の十分な溶解を妨げない範囲で使用してもよい。
【0017】
基油は、鉱油系基油及び合成系基油以外のその他の基油を含んでもよい。
基油が、その他の基油を含む場合、ガスエンジン用潤滑油組成物のNOACK蒸発量が10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましい。
NOACK蒸発量は、ASTM D5800-21に準拠して測定する。
【0018】
基油の40℃における動粘度は、特に制限されないが、蒸発性能及び耐摩耗性の観点から、10.0mm2/s以上60.0mm2/s以下であることが好ましく、30.0mm2/s以上55.0mm2/s以下であることがより好ましく、40.0mm2/s以上50.0mm2/s以下であることが更に好ましい。
【0019】
基油の100℃における動粘度は、4.0mm2/s以上10.0mm2/s以下であることが好ましく、6.0mm2/s以上9.0mm2/s以下であることがより好ましく、7.0mm2/s以上8.0mm2/s以下であることが更に好ましい。
【0020】
基油の40℃における動粘度及び100℃における動粘度は、JIS K2283(2000)に準拠して測定する。
【0021】
基油の粘度指数は、特に制限されないが、100以上であることが好ましく、110以上であることがより好ましく、120以上であることが更に好ましい。
粘度指数が上記範囲にあることにより、温度に対するガスエンジン用潤滑油組成物の粘度の安定性が向上するため、多様な外部環境において耐摩耗性等の性能が安定的に発揮されやすい。
【0022】
基油の粘度指数はJIS K2283(2000)に準拠して測定する。
【0023】
基油の引火点は240℃であるが、取り扱いの容易さの観点から、250℃以上であることが好ましい。
基油の引火点はJIS K2265-4(2007)に準拠して測定する。
【0024】
取り扱いの容易さの観点から、基油の初留点温度(TIBP)は、320℃以上であることが好ましく、330℃以上であることがより好ましく、350℃以上であることが更に好ましい。
基油の初留点温度(TIBP)の上限は、470以下であってもよい。
【0025】
基油の初留点温度(TIBP)はJIS K2254(2018)に準拠して測定する。
【0026】
基油の含有量は、ガスエンジン用潤滑油組成物の全質量に対して、70質量%以上95質量%以下であることが好ましく、75質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以上88質量%以下であることが更に好ましい。
【0027】
(モリブデン系摩擦調整剤)
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、モリブデン系摩擦調整剤を含有する。
モリブデン系摩擦調整剤とは、モリブデンを含有する摩擦調整剤をいう。
モリブデン系摩擦調整剤としては、アミド系モリブデン化合物、エステル系モリブデン化合物、モリブデン酸アミン化合物、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオホスフェート、その他の有機モリブデン錯体等が挙げられる。
【0028】
耐摩耗性向上の観点から、モリブデン系摩擦調整剤としては、アミド系モリブデン化合物、エステル系モリブデン化合物、モリブデン酸アミン化合物、モリブデンジチオカーバメート、及びモリブデンジチオホスフェートからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0029】
アミド系モリブデン化合物は、アミド基及びモリブデンを含有する化合物である。
耐摩耗性向上の観点から、アミド系モリブデン化合物が有するアミド基はアルキル基と結合していることが好ましい。
アミド基と結合するアルキル基の直鎖状であっても分岐状であってもよい。
耐摩耗性向上の観点から、アミド基と結合するアルキル基の炭素数は、4以上12以下であることが好ましく、5以上11以下であることがより好ましく、5以上10以下であることが更に好ましい。
【0030】
エステル系モリブデン化合物は、エステル基及びモリブデンを含有する化合物である。
耐摩耗性向上の観点から、エステル系モリブデン化合物が有するエステル基はアルキル基と結合していることが好ましい。
エステル基と結合するアルキル基の直鎖状であっても分岐状であってもよい。
耐摩耗性向上の観点から、エステル基と結合するアルキル基の炭素数は、4以上12以下であることが好ましく、5以上11以下であることがより好ましく、5以上10以下であることが更に好ましい。
【0031】
モリブデン酸アミン化合物は、アミノ基を有するモリブデン酸である。
モリブデン酸アミン化合物としては、具体的には特開2003-252887号公報に記載の方法で6価のモリブデン原子を含有する化合物とアミンとを反応させて得られるモリブデン酸アミン化合物が挙げられる。
【0032】
その他の有機モリブデン錯体としては、例えば、特開昭62-108891号公報に記載の有機モリブデン錯体が挙げられる。
【0033】
耐摩耗性向上の観点から、モリブデン系摩擦調整剤としては、アミド系モリブデン化合物、及びエステル系モリブデン化合物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0034】
耐摩耗性向上の観点から、アミド系モリブデン化合物としては、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0035】
【0036】
一般式(1)中、R1はアルキル基を意味する。
R1で表されるアルキル基は、第1級アルキル基(すなわち、アルキル基に含まれる炭素原子のうち、アミド基に結合する炭素原子が第1級炭素であるアルキル基)又は第2級アルキル基(すなわち、アルキル基に含まれる炭素原子のうち、アミド基に結合する炭素原子が第2級炭素であるアルキル基)であることが好ましい。
R1で表されるアルキル基の炭素数は、3以上20以下であることが好ましく、4以上18以下であることがより好ましく、5以上16以下であることが更に好ましい。
【0037】
耐摩耗性向上の観点から、エステル系モリブデン化合物としては、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0038】
【0039】
一般式(2)中、R2はアルキル基を意味する。
R2で表されるアルキル基は、第1級アルキル基(すなわち、アルキル基に含まれる炭素原子のうち、アミド基に結合する炭素原子が第1級炭素であるアルキル基)又は第2級アルキル基(すなわち、アルキル基に含まれる炭素原子のうち、アミド基に結合する炭素原子が第2級炭素であるアルキル基)であることが好ましい。
R2で表されるアルキル基の炭素数は、3以上20以下であることが好ましく、4以上18以下であることがより好ましく、5以上16以下であることが更に好ましい。
【0040】
モリブデン系摩擦調整剤は、長寿命性を著しく損なわず、沈殿物を生成する等の弊害が起こらない範囲において特開2003-252887号公報に記載のモリブデン化合物を含んでもよい。
【0041】
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、ガスエンジン用潤滑油組成物全体の質量に対する、モリブデン原子の質量が、20ppm以上800ppm以下である。
【0042】
特定モリブデン量が20ppm以上であるとガスエンジン内におけるコーキングをより抑制することができ、800ppm以下であると高温環境およびNOx存在下における寿命特性を、モリブデン系摩擦調整剤を添加しない場合と同等程度に維持することができる。
【0043】
耐摩耗性向上の観点から、特定モリブデン量は、30ppm以上700ppm以下であることが好ましく、50ppm以上500ppm以下であることがより好ましく、50ppm以上200ppm以下であることが更に好ましく、50ppm以上100ppm以下であることが特に好ましい。
【0044】
ガスエンジン用潤滑油組成物全体の質量に対する、モリブデン原子の質量(以下、単に「特定モリブデン量」とも称する)は、JPI-5S-38-92に準拠したICP発光分光分析による分析値とする。
【0045】
モリブデン系摩擦調整剤の含有量は、ガスエンジン用潤滑油組成物の全質量に対して、0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上2質量%以下であることがより好ましく、0.08質量%以上1質量%以下であることが更に好ましい。
【0046】
(粘度調整剤)
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、引火点が270℃以上である粘度調整剤を含有する。
粘度調整剤の引火点を270℃以上とすることで、ガスエンジン用潤滑油組成物全体の引火点が高くなり、取り扱いが容易となる。
【0047】
粘度調整剤としては、JASO M355:2021に記載された、非分散タイプの粘度調整剤、及び分散タイプの粘度調整剤が挙げられる。
ここで、非分散タイプとは、極性基を有しない粘度調整剤を意味する。
また、分散タイプとは、極性基を有する粘度調整剤を意味する。
極性基は、複素環を有する原子団を意味する。
なお、極性基としては、例えば、スクシンイミド構造を有する原子団、ピロリドン構造を有する原子団、ピリジン構造を有する原子団等を意味する。
【0048】
スクシンイミド構造を有する原子団とは、下記一般式(3)で表される原子団をいう。
【0049】
【0050】
一般式(3)中、R3及びR4はそれぞれ独立に水素原子又は炭化水素基を意味し、*は結合手を意味する。
【0051】
ピロリドン構造を有する原子団とは、下記一般式(4)で表される原子団をいう。
【0052】
【0053】
一般式(4)中、R5、R6及びR7はそれぞれ独立に水素原子又は炭化水素基を意味し、*は結合手を意味する。
【0054】
非分散タイプの粘度調整剤としては、オレフィンコポリマーが挙げられる。
オレフィンコポリマーとしては、ポリイソブチレン、エチレン-プロピレン共重合体などが挙げられる。
【0055】
分散タイプの粘度調整剤としては、ポリメタクリレート、オレフィン及びメタクリレートのランダム共重合体、オレフィン及びメタクリレートのブロック共重合体、ポリメタクリレート及びオレフィンコポリマーのグラフト共重合体などが挙げられる。
ポリメタクリレートとしては、ポリアルキルメタクリレートなどが挙げられる。
オレフィン及びメタクリレートのランダム共重合体としては、エチレン-アルキルメタクリレートのランダム共重合体、プロピレン-アルキルメタクリレートのランダム共重合体、イソブチレン-アルキルメタクリレートのランダム共重合体などが挙げられる。
オレフィン及びメタクリレートのブロック共重合体としては、エチレン-アルキルメタクリレートのブロック共重合体、プロピレン-アルキルメタクリレートのブロック共重合体、イソブチレン-アルキルメタクリレートのブロック共重合体などが挙げられる。
ポリメタクリレート及びオレフィンコポリマーのグラフト共重合体としては、主鎖がポリメタクリレートであり、側鎖にオレフィンコポリマーを有するポリマーが挙げられる。
【0056】
分散タイプの粘度調整剤としては、具体的には、特開2015-004055号公報に記載の粘度調整剤が挙げられる。
【0057】
粘度調整剤の重量平均分子量は、5,000以上1,000,000以下であることが好ましく、10,000以上20,000以下であることがより好ましい。
粘度調整剤の重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される、ポリスチレンを標準として算出する値である。
【0058】
粘度調整剤のNOACK蒸発量は8%未満であることが好ましく、5%未満であることがより好ましい。
NOACK蒸発量はASTM D5800-21に準拠して測定する。
なお、希釈された粘度調整剤を使用する場合、粘度調整剤のNOACK蒸発量は希釈された状態で測定する。
【0059】
粘度調整剤の引火点は270℃以上であるが、取り扱いの容易さの観点から、280℃以上であることが好ましく、290℃以上であることがより好ましい。
粘度調整剤の引火点はJIS K2265-4(2007)に準拠して測定する。
【0060】
粘度調整剤の含有量は、ガスエンジン用潤滑油組成物の全質量に対して、1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上7質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上7質量%以下であることが更に好ましい。
【0061】
(金属系清浄剤)
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、必要に応じて金属系清浄剤を含有してもよい。
金属系清浄剤としては、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレートなどが挙げられる。
【0062】
長寿命化の観点から、金属系清浄剤としては、カルシウムサリシレート、カルシウムフェネート、カルシウムスルホネート、マグネシウムサリシレート、マグネシウムスルホネート、及びアルカリ土類金属を含有する清浄剤からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0063】
金属系清浄剤の含有量は、ガスエンジン用潤滑油組成物の全質量に対して、1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上7質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上5質量%以下であることが更に好ましい。
【0064】
(酸化防止剤)
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、必要に応じて酸化防止剤を含有してもよい。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、亜鉛系酸化防止剤などが挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては2、6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールなどのアルキルフェノール類;4、4’-メチレンビス-(2、6-ジ-t-ブチルフェノール)などのビスフェノール類;n-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’、5’-ジ-tert-ブチルフェノール)プロピオネート、オクチル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロ肉桂酸などのフェノール系化合物が挙げられる。
アミン系酸化防止剤としては、ナフチルアミン類やジアルキルジフェニルアミン類などの芳香族アミン化合物が挙げられる。
亜鉛系酸化防止剤としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)等が挙げられる。
【0065】
アミン系酸化防止剤が、酸解離定数(pKa)が7以下の芳香族アミン化合物を含むことが好ましい。
芳香族アミン化合物の酸解離定数は1以上5以下であることがより好ましく、2以上4以下であることが更に好ましい。
ここで、酸解離定数は、電位差滴定法によって測定される常温(25℃)、常圧(101.325 kPa)、及び水中における値である。
【0066】
長寿命化の観点から、本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤及び亜鉛系酸化防止剤を含有することが好ましい。
そして、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤の含有量の合計が、ガスエンジン用潤滑油組成物全体に対して、5質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましい。
【0067】
酸化防止剤の合計の含有量は、ガスエンジン用潤滑油組成物の全質量に対して、1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、2質量%以上7質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上5質量%以下であることが更に好ましい。
【0068】
(その他の添加剤)
ガスエンジン用潤滑油組成物は、必要に応じ、基油、モリブデン系摩擦調整剤、及び粘度調整剤以外のその他の添加剤を含んでもよい。
その他の添加剤としては、流動点降下剤、腐食防止剤、抗乳化剤、消泡剤、分散剤等が挙げられる。
流動点降下剤としては、例えば、極性基を有しないポリアルキルメタクリレート、その共重合体、そのアルキル基誘導体等が挙げられる。
流動点降下剤の重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される、ポリスチレンを標準として算出する値である。
腐食防止剤としては、例えば、チアジアゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体等が挙げられる。
抗乳化剤としては、例えば、イオン系のポリオキシエチレンアルキルエーテル誘導体、非イオン系のポリオキシエチレンアルキルエーテル誘導体、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル誘導体等が挙げられる。
消泡剤としては、例えば、ポリジメチルシロキサン、アルキル化ポリジメチルシロキサン誘導体、ハロゲン化アルキル化ポリジメチルシロキサン誘導体等のシリコーンオイル、等が挙げられる。
分散剤は、ホウ素系分散剤、無灰系分散剤などが挙げられる。
ホウ素系分散剤としては、例えば、ホウ素を含有したコハク酸イミドを用いることができる。
ホウ素系分散剤の含有量は、ガスエンジン用潤滑油組成物全体に対して、0.1質量%~5質量%であっても良い。
無灰系分散剤としては、例えば、アルキル基及びアルケニル基からなる群から選択される少なくとも1種を分子中に1個以上を含むポリアミン、その酸変性物等を用いることができる。
ホウ素系分散剤及び無灰系分散剤の合計の含有量は、ガスエンジン用潤滑油組成物全体に対して、0.1質量%~5質量%であっても良い。
その他の添加剤を用いる場合、その他の添加剤の含有量は、ガスエンジン用潤滑油組成物全体に対して、0.1質量%以上10質量%以下とすることが好ましい。
【0069】
(ガスエンジン用潤滑油組成物の物性)
-動粘度-
ガスエンジン用潤滑油組成物の40℃における動粘度は、80.0mm2/s以上150.0mm2/s以下であることが好ましく、90.0mm2/s以上120.0mm2/s以下であることがより好ましい。
また、ガスエンジン用潤滑油組成物の100℃における動粘度は、7mm2/s以上22mm2/s以下であることが好ましく、より好ましくは11mm2/s以上18mm2/s以下、最も好ましくは12.5mm2/s以上16.3mm2/s以下である。
【0070】
ガスエンジン用潤滑油組成物の40℃における動粘度及び100℃における動粘度は、JIS K2283(2000)に準拠して測定する。
【0071】
-粘度指数-
ガスエンジン用潤滑油組成物の粘度指数は、100以上であることが好ましく、110以上であることがより好ましく、120以上であることが更に好ましい。
粘度指数が上記範囲にあることにより、温度に対する潤滑油粘度の安定性が確保されるため、多様な外部環境において耐摩耗性等の性能が安定的に発揮されやすい。
【0072】
-引火点-
ガスエンジン用潤滑油組成物の引火点は、250℃以上であることが好ましく、255℃以上であることがより好ましい。
消防法では、安全性の観点から、引火点が250℃以上のものを指定可燃物として位置づけており、それ以下の第4類の潤滑油とは区別して簡易な保管を許容している。
ガスエンジン用潤滑油組成物の引火点はJIS K2265-4(2007)に準拠したクリーブランド開放法にて測定する。
【0073】
-蒸発量-
ガスエンジン用潤滑油組成物のNOACK蒸発量は、10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましい。
NOACK蒸発量はASTM D5800に準拠して測定する。
【0074】
-塩基価-
ガスエンジン用潤滑油組成物の塩基価は、2mgKOH/g以上7mgKOH/g以下であることが好ましく、4mgKOH/g以上6mgKOH/g以下であることがより好ましい。
ガスエンジン用潤滑油組成物の塩基価はJIS K2501(2003)に準拠した塩酸法により測定する。
塩基価が2mgKOH/g以上であると基油の酸化及びNOx存在下における劣化を効果的に抑制することができる。塩基価が7mgKOH/g以下であると金属成分のピストンへの堆積を効果的に抑制することができる。
【0075】
-硫酸灰分量-
ガスエンジン用潤滑油組成物の硫酸灰分量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましい。
硫酸灰分量はJIS K2272(1998)に準拠した方法により測定する。
硫酸灰分量が多い場合、ピストンヘッドへの堆積物により正常燃料が妨げられる傾向があるため、寿命特性の指標で塩基価保持性を著しく低下させない範囲において低くすることが望ましい。
【0076】
(用途)
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、水素、オートガス、天然ガスなどのガスを燃料として駆動するガスエンジンの潤滑油として用いることが好ましい。
ガスエンジンの中でも、トータルエネルギーシステム(ガスを燃料にガスエンジン、タービン等を使って、電力、動力等をつくり、同時に発生する排熱を利用するシステム)に用いられるガスエンジン、水素エンジン、又は船舶向けデュアルフューエルエンジンの潤滑油として用いることが好ましい。
トータルエネルギーシステムに用いられるガスエンジン、水素エンジン、及び船舶向けデュアルフューエルエンジンは、ガスエンジンの中でもブローバイガスに含有されるNOxの濃度が高い傾向にある。それに伴いコーキング、ガスエンジンの部材に含まれる金属の腐食、及びガスエンジンの部材の摩耗が発生しやすい傾向にある。
本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、コーキングの発生を抑制、ガスエンジンの部材に含まれる金属の腐食を抑制、及びガスエンジンの部材の耐摩耗性を向上する。そのため、本開示に係るガスエンジン用潤滑油組成物は、水素エンジン、及び船舶向けデュアルフューエルエンジンに適している。
【0077】
(製造方法)
ガスエンジン用潤滑油組成物の製造方法としては、特に限定されず、基油、モリブデン系摩擦調整剤、及び粘度調整剤に加え、必要に応じてその他の添加剤を適宜混合すればよい。
基油、モリブデン系摩擦調整剤、粘度調整剤及びその他の添加剤の混合順序は、特に制限されるものではなく、基油に順次混合してもよい。
【実施例0078】
以下に実施例について説明するが、本開示はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0079】
<実施例1~4、比較例1~8>
基油、モリブデン系摩擦調整剤、粘度調整剤、酸化防止剤及びその他の添加剤を下記表1に示す配合割合(質量%)で混合し、60℃にて溶解、及び分散することでガスエンジン用潤滑油組成物を調製した。
【0080】
<評価>
得られたガスエンジン用潤滑油組成物をそれぞれ用いて下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
(密度)
毛細管粘度計を用いてJIS K2283(2000)に従って、15℃におけるガスエンジン用潤滑油組成物の密度を測定した。
【0082】
(粘度特性)
毛細管粘度計を用いてJIS K2283(2000)に従って、ガスエンジン用潤滑油組成物の40℃及び100℃における動粘度、並びに粘度指数を算出した。
【0083】
(中和価)
JIS K2501(2003)に従って、ガスエンジン用潤滑油組成物の酸価及び塩基価の値をトルエン/2-プロパノール/水の混合溶媒を用いて電位差滴定法により測定した。塩基価は塩酸法及び過塩素酸法により測定を実施した。
【0084】
(引火点)
JIS K2265-4(2007)に従って、ガスエンジン用潤滑油組成物の引火点をクリーブランド開放式引火点試験法(COC法)により測定した。
【0085】
(流動点)
JIS K2269(1987)に従って、ガスエンジン用潤滑油組成物の流動点を測定した。
【0086】
(油中元素)
JPI-5S-38-92に準拠して、ガスエンジン用潤滑油組成物の油中金属元素の量をICP発光分光法によって測定を実施した。
なお、金属元素の量は、ガスエンジン用潤滑油組成物全体の質量に対する、金属元素の質量を意味する。
【0087】
(ISOT試験)
JIS K2514-1(2013)に準拠して、ガスエンジン用潤滑油組成物の酸化安定性試験(ISOT試験)を実施した。ガスエンジン用潤滑油組成物250mlに銅および鋼板の触媒を投入し、165.5℃、1300rpm、72時間の条件で試験を実施し、試験後のガスエンジン用潤滑油組成物中の酸価、及び塩基価(塩酸法)をJIS K2501(2003)に従って測定した。
【0088】
(NOx試験)
ガスエンジン用潤滑油組成物40mlに銅および鋼板の触媒を投入し試験油とする。0.8%のNOxガス50mL/min及び加湿空気150mL/minの混合ガスを試験油中に吹き込みながら、140℃の温度において72時間試験を実施した。
【0089】
(パネルコーキング試験)
Federal Test Methоd Nо.791B Methоd Nо.3462に従い、ガスエンジン用潤滑油組成物250mlを試験容器に投入し、油温110℃、アルミ製パネル温度320℃の条件にて油の跳ねかけ15秒、停止時間45秒のサイクルを3時間実施し、試験後のアルミ製パネル表面に堆積したコーキング固形物の質量測定を実施した。
【0090】
(シェル4球試験摩耗痕)
ガスエンジン用潤滑油組成物をASTM D4172に準拠したシェル4球耐摩耗試験において、回転速度1500rpm、30分、75℃、荷重30kgの条件下において試験を実施し、試験後の鋼球の摩耗痕径の計測を実施した。
【0091】
(金属腐食性試験)
ISOT試験後のガスエンジン用潤滑油組成物50gを用いて、銅-錫-鉛から構成される合金を触媒とし、150℃において360時間浸漬試験を実施し、油中の鉛及び銅成分の溶出量をJPI-5S-38-92に準拠したICP発光分光法によって測定した。
なお、金属元素の量は、試験後のガスエンジン用潤滑油組成物全体の質量に対する、鉛又は銅原子の質量を意味する。
ここで、モリブデン原子の量は、質量%表記のものとppm表記のものを表1に示した。
【0092】
【0093】
【0094】
表1中の略称の詳細について以下に記載する。
(基油)
・基油1(GrIII):API GroupIIIに属し、高度水素化過程を経て水素化処理された鉱油系精製基油であって、下記の一般性状を示す基油である。
基油1:動粘度(100℃):7.6mm2/s、粘度指数:130、引火点:240℃以上、初留点温度(TIBP):374℃
・基油2(GrIII):API GroupIIIに属し、さらに高度な水素化過程を経て水素化処理された鉱油系高度精製基油であって、下記の一般性状を示す基油である。
基油2:動粘度(100℃):7.6mm2/s、粘度指数:130、引火点:250℃以上、初留点温度(TIBP):391℃
【0095】
(モリブデン系摩擦調整剤)
・モリブデン系摩擦調整剤:アミド系モリブデン化合物及びエステル系モリブデン化合物の混合物。密度1.08g/cm3(15℃)、100℃動粘度55cSt、引火点193℃、窒素分2.8質量%、モリブデン分7.9質量%であり、R1が炭素数3以上16以下のアルキル基である一般式(1)で表される化合物とR2が炭素数3以上16以下のアルキル基である一般式(2)で表される化合物の混合物。
【0096】
モリブデン系摩擦調整剤の密度、100℃動粘度、及び引火点は、測定対象をモリブデン系摩擦調整剤としたこと以外はガスエンジン用潤滑油組成物の密度、100℃動粘度、及び引火点と同一方法で測定した。
また、モリブデン分はJPI-5S-38-92に準拠して、モリブデン系摩擦調整剤のモリブデン原子の量をICP発光分光法によって測定を実施した。
窒素分は、化学発光法(JIS2609:1998)に準拠して測定を実施した。
なお、窒素分は、モリブデン系摩擦調整剤全体の質量に対する、窒素原子の質量を意味し、モリブデン分はモリブデン系摩擦調整剤全体の質量に対する、モリブデン原子の質量を意味する。
【0097】
(粘度調整剤)
・粘度調整剤1:密度0.85g/cm3(15℃)、100℃動粘度2000cSt、引火点294℃、流動点-5℃、酸価0.003mgKOH/g、重量平均分子量:14,600であるCAS Nо.9010-79-1(エチレン-プロピレン共重合体)で定義される非分散タイプの粘度調整剤である。
・粘度調整剤2:密度0.85g/cm3(15℃)、100℃動粘度2010cSt、引火点300℃以上、流動点-7℃、酸価0.01mgKOH/g以下、重量平均分子量:14,500であるCAS Nо.9010-79-1(エチレン-プロピレン共重合体)で定義される粘度調整剤である。
・粘度調整剤3:密度0.88g/cm3(15℃)、100℃動粘度2344cSt、引火点220℃、酸価0.47mgKOH/g、重量平均分子量:140,000である鉱油で希釈されたポリアルキルメタクリレートとオレフィンコポリマーの共重合体。
・粘度調整剤4:密度0.85g/cm3(15℃)、100℃動粘度1288cSt、引火点150℃、重量平均分子量:170,000である鉱油で希釈されたオレフィンコポリマー。
【0098】
粘度調整剤の密度、100℃動粘度、引火点、流動点及び酸価は、測定対象をモリブデン系摩擦調整剤としたこと以外はガスエンジン用潤滑油組成物の密度、100℃動粘度、引火点、流動点及び酸価と同一方法で測定した。
なお、粘度調整剤の重量平均分子量は既述の通りである。
【0099】
(金属系清浄剤及び分散剤)
以下の金属系清浄剤及び分散剤を使用した。なお、表1中の含有量は、ガスエンジン用潤滑油組成物全体の質量に対する、金属系清浄剤及び分散剤合計の質量である。
金属系清浄剤は、密度1.05g/cm3(15℃)、100℃動粘度81cSt、引火点194℃、カルシウム分7.9%、塩基価224mgKOH/gであるカルシウムサリシレートを含有する清浄剤。
分散剤は、密度0.94g/cm3(15℃)、100℃動粘度512cSt、ホウ素分0.95%、窒素分1.7%、塩基価が33mgKOH/g、重量平均分子量5500g/molであるホウ素系分散剤である。また、密度0.92g/cm3(15℃)、100℃動粘度404cSt、窒素分1.8%、塩基価が41mgKOH/g、重量平均分子量4,910である無灰系分散剤も併用した。
【0100】
金属系清浄剤の密度、100℃動粘度、引火点及び塩基価は、測定対象を金属系清浄剤としたこと以外はガスエンジン用潤滑油組成物の密度、100℃動粘度、引火点及び塩基価と同一方法で測定した。
また、金属系清浄剤のカルシウム分はJPI-5S-38-92に準拠して、金属系清浄剤のカルシウム原子の量をICP発光分光法によって測定を実施した。
なお、カルシウム分は、金属系清浄剤全体の質量に対する、カルシウム原子の質量を意味する。
【0101】
分散剤の密度、100℃動粘度及び塩基価は、測定対象を分散剤としたこと以外はガスエンジン用潤滑油組成物の密度、100℃動粘度及び塩基価と同一方法で測定した。
分散剤の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される、ポリスチレンを標準として算出する値である。
分散剤のホウ素分は、JPI-5S-38-92に準拠して、分散剤のホウ素原子の量をICP発光分光法によって測定を実施した。
窒素分は、化学発光法(JIS2609:1998)に準拠して測定を実施した。
なお、ホウ素分は、分散剤全体の質量に対する、ホウ素原子の質量を意味し、窒素分は分散剤全体の質量に対する、窒素原子の質量を意味する。
【0102】
(酸化防止剤)
フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、及びジアルキルジチオリン酸亜鉛を使用した。
フェノール系酸化防止剤は、密度0.97g/cm3(20℃)、引火点152℃、沸点240℃であるCAS Nо.125643-61-0に分類されるフェノール系化合物(オクチル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロ肉桂酸)。
また、アミン系酸化防止剤は、密度0.97g/cm3(20℃)、40℃動粘度401cSt、引火点154℃、塩基性窒素4.5%、塩基価180mgKOH/gであるCAS Nо.68411-46-1に分類される芳香族アミン化合物及び引火点215℃のCAS Nо.68259-36-9に分類される芳香族アミン化合物を併用した。なお使用した芳香族アミン化合物は、いずれも酸解離定数(pKa)が7以下である。
さらに、ジアルキルジチオリン酸亜鉛は、密度1.16g/cm3(15℃)、100℃動粘度9.7cSt、亜鉛分9.7%、硫黄分19.1%、リン分9.3%であるCAS Nо.68649-42-3に分類されるセカンダリータイプのジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物である。
酸化防止剤全体の含有量に対する、フェノール系酸化防止剤の含有量は29質量%である。
酸化防止剤全体の含有量に対する、アミン系酸化防止剤の含有量は57質量%である。
酸化防止剤全体の含有量に対する、ジアルキルジチオリン酸亜鉛の含有量は14質量%である。
【0103】
酸化防止剤の密度、引火点、40℃動粘度、100℃動粘度及び塩基価は、測定対象を酸化防止剤としたこと以外はガスエンジン用潤滑油組成物の密度、引火点、40℃動粘度、100℃動粘度及び塩基価と同一方法で測定した。
酸化防止剤の亜鉛分、硫黄分及びリン分は、JPI-5S-38-92に準拠して、酸化防止剤の亜鉛原子の量、硫黄原子の量及びリン原子の量をICP発光分光法によって測定を実施した。
なお、亜鉛分は酸化防止剤全体の質量に対する、亜鉛原子の質量を意味し、硫黄分は酸化防止剤全体の質量に対する、硫黄原子の質量を意味し、リン分は酸化防止剤全体の質量に対する、リン原子の質量を意味する。
酸化防止剤の塩基性窒素の量は化学発光法(JIS2609:1998)に準拠して測定を実施した。
【0104】
(その他添加剤)
その他添加剤として流動点降下剤(引火点:193℃、重量平均分子量:49,000)、シリコーン系消泡剤(密度0.97g/cm3(25℃)、引火点350℃)及びアミン系腐食防止剤(40℃動粘度48cSt、酸価120mgKOH/g)を含有した。
【0105】
表1に示す通り、実施例のガスエンジン用潤滑油組成物は、モリブデン系摩擦調整剤を含んでいない比較例1と比較してパネルコーキング試験におけるコーキング量が著しく低く、良好である。比較例2においてモリブデン系摩擦調整剤の含有量が0.01質量%においてもコーキング量の低下が見られるが、比較例3の様にモリブデン系摩擦調整剤の含有量が1質量%になるとISOT試験における塩基価が減少し、金属腐食性評価における金属量も多くなるため、実施例のようにモリブデン系摩擦調整剤の含有量が0.01質量%から1質量%における範囲が好適であることが分かる。また、粘度調整剤3および4を含有した比較例5、7、8と比較して、実施例ではさらにパネルコーキング試験におけるコーキング量が低くなり、シェル4球試験摩耗痕の評価結果も一段と良好な結果を示していると共に、モリブデン系摩擦調整剤による効果と高引火点の粘度調整剤の併用に加算的な効果があることを示している。さらに、高引火点の基油2と粘度調整剤2を用いた実施例4では、粘度調整剤3を用いた比較例4、5よりも引火点が高く、ガスエンジン用潤滑油組成物としての引火点向上効果があることが分かる。なお、低温環境での使用が想定される場合、実施例2のように性能を損なわない範囲において流動点降下剤による流動点低下を実施できることが分かる。
本実施例のガスエンジン用潤滑油組成物は、比較例のガスエンジン用潤滑油組成物と比較して、パネルコーキング試験、シェル4球試験摩耗痕、及び金属腐食性試験の評価結果が良好であることが分かる。
上記結果から、本実施例のガスエンジン用潤滑油組成物は、コーキングの発生を抑制、ガスエンジンの部材に含まれる金属の腐食を抑制、及びガスエンジンの部材の耐摩耗性を向上することがわかる。