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  • 特開-摺動部材及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151596
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】摺動部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/12 20060101AFI20231005BHJP
   C25D 11/04 20060101ALI20231005BHJP
   F16C 33/14 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
F16C33/12 A
C25D11/04 305
F16C33/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061292
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 富雅
(74)【代理人】
【識別番号】100100424
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 知公
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 藍里
(72)【発明者】
【氏名】城谷 友保
【テーマコード(参考)】
3J011
【Fターム(参考)】
3J011AA20
3J011DA01
3J011DA02
3J011MA02
3J011QA03
3J011QA07
3J011SB04
3J011SB20
(57)【要約】
【課題】アルミニウム材料に固溶しない粒子を含んだアルミニウム合金で構成する摺動部材では、潤滑油にアルミニウム材料を腐食させる腐食成分が存在すると、陽極酸化膜に覆われない粒子の周辺のマトリックス(アルミニウム材料)が腐食成分と反応し、ここから腐食が生じるおそれがある。
【解決手段】この発明の摺動部材は、アルミニウム材料に固溶しない粒子を含んだアルミニウム合金層を含む基材と、アルミニウム合金層の表面に形成された陽極酸化膜と、を備え、アルミニウム合金層をEPMAで観察して得られたMAP像の所定の領域において、粒子の濃度が50%以上を示す粒子領域の面積が、アルミニウム合金層の表面における粒子領域の面積/アルミニウム合金層の断面における粒子領域の面積≦0.7とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム材料に固溶しない粒子を含んだアルミニウム合金層を含む基材と、
前記アルミニウム合金層の表面に形成された陽極酸化膜と、を備える摺動部材であって、
前記陽極酸化膜をその表面側からEPMAで観察して得られた元素MAP像の単位面積における粒子領域の面積 / 前記陽極酸化膜の当該表面に垂直な断面を前記EPMAで観察して得られた元素MAP像の前記単位面積おける粒子領域の面積≦0.7
ここにおいて、前記粒子領域の面積は、前記元素MAP像おいて、前記粒子の濃度が50質量%以上を示す粒子領域の面積である、摺動部材。
【請求項2】
前記アルミニウム合金層の表面に形成される陽極酸化膜の厚さは0.1μm~5.0μmである請求項1に記載の摺動部材。
【請求項3】
前記アルミニウム材料と固溶しない粒子の材料は、Si、Sn、Pb、Bi、In、K、Na、Ge、MoS、SiN、CaCO、MoCから選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の摺動部材。
【請求項4】
前記アルミニウム合金層の表面には前記陽極酸化膜で被覆された凹部が形成され、該凹部は表面視において、外接円近似したとき、0.2~60.0μmの直径を備えている、
請求項1~3の何れかに記載の摺動部材。
【請求項5】
アルミニウム材料に固溶しない粒子を含んだアルミニウム合金層を含む基材と、
前記アルミニウム合金層の表面に形成された陽極酸化膜と、を備える摺動部材であって、
前記アルミニウム合金層の表面には前記陽極酸化膜で被覆された凹部が形成され、該凹部は表面視において、外接円近似したとき、0.2~60.0μmの直径を備えている、摺動部材。
【請求項6】
前記凹部は、前記陽極酸化膜が形成された前記アルミニウム合金層を断面観察したとき、前記陽極酸化膜に沿った任意の100μm平方の領域において、1つ以上存在する、請求項5に記載の摺動部材。
【請求項7】
アルミニウム材料に固溶しない粒子を含んだアルミニウム合金層を含む基材を準備するステップと、
前記アルミニウム合金層の表面から前記粒子を除去する粒子除去ステップと、
前記粒子除去ステップの後に前記アルミニウム合金層の表面を陽極酸化処理するステップと、
を備えてなる、摺動部材の製造方法。
【請求項8】
前記粒子除去ステップは、
前記アルミニウム合金層の表面をアルカリ処理するアルカリ処理ステップと、
該アルカリ処理の後に酸処理する酸処理ステップと、を備える請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記アルカリ処理ステップ及び/又は前記酸処理ステップの後に、それぞれ、前記基材の表面へ物理的な衝撃力を与えるステップが、更に備えられる、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記アルカリ処理ステップで用いるアルカリ溶液に溶解されるアルカリ成分と、前記陽極酸化処理ステップで用いるアルカリ溶液に溶解されるアルカリ成分とが、同一である請求項7~9の何れかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摺動部材及びその製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動面に高い潤滑性を得るため、摺動面をアルミニウム合金製とした摺動部材が広く使用されている。
このアルミニウム合金にはその耐摩耗性を向上するため、シリコンなどの比較的硬質な粒子であってアルミニウム材料に固溶しない粒子が分散されている。また、アルミニウム合金の耐腐食性を向上するため、その表面を陽極酸化処理することがある(特許文献1参照)。
この明細書においてアルミニウム材料(アルミニウム又はアルミニウムと他の金属との合金)をマトリックスとして、アルミニウム材料に固溶しない粒子を分散させたものをアルミニウム合金とする。
ここで、粒子とは、固溶せずに析出した金属元素単体及び/または化合物を指す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-138872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シリコンなどの粒子を配合してなるアルミニウム合金層の表面には当該粒子の一部が表出する。アルミニウム合金層の表面を陽極酸化処理した際、アルミニウム材料からなるマトリックスの部分は陽極酸化膜で被覆されるが、アルミニウム材料と固溶しない粒子は陽極酸化膜で被覆されない。
摺動部材に適用される潤滑油にアルミニウム材料を腐食させる腐食成分が存在すると、陽極酸化膜に覆われない粒子の周辺のマトリックスが腐食成分と反応し、ここから腐食が生じるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、かかる課題を解決するには、アルミニウム合金層の表面を陽極酸化する前に、当該表面に表出するシリコン等の粒子を除去すればよいことに気が付き、この発明に想到した。
この発明の第1局面は次の様に規定される。即ち、
アルミニウム材料に固溶しない粒子を含んだアルミニウム合金層を含む基材と、
前記アルミニウム合金層の表面に形成された陽極酸化膜と、を備える摺動部材であって、
前記陽極酸化膜をその表面側からEPMAで観察して得られた元素MAP像の単位面積における粒子領域の面積(第1面積) / 前記陽極酸化膜の当該表面に垂直な断面を前記EPMAで観察して得られた元素MAP像の前記単位面積おける粒子領域の面積(第2面積)≦0.7
ここにおいて、前記粒子領域の面積は、前記元素MAP像おいて、前記粒子の濃度が50質量%以上を示す粒子領域の面積である、摺動部材。
ここで表面とは摺動面側の面を指し、断面とは摺動面に対して垂直な面を指す。
【0006】
このように規定される第1局面の摺動部材によれば、第1面積/第2面積の比の値が0.7以下となる。換言すれば、アルミニウム合金層の表面に存在する粒子の密度が、バルクのアルミニウム合金層に存在する粒子の密度より小さい。これは、アルミニウム合金層の表面に表出する粒子を当該表面から除去した結果である。なお、粒子領域の面積はEPMAで観察して得られた元素MAP像において粒子の濃度が50質量%以上を示す領域の面積としている。元素MAP像には観察表面から所定の深さにある粒子の像が映り込んでいるので、上記の比の値が0.7以下ということは、実質的にアルミニウム合金層の表面には粒子が表出していないことを意味する。これにより、耐腐食性が得られる。
【0007】
アルミニウム合金層の表面に形成される陽極酸化膜の厚さは0.1μm~5.0μmとすることが好ましい(第2局面)。陽極酸化膜をこの範囲の膜厚にすることで、機械的な膜強度を確保しつつ(割れの防止)、必要な耐摩耗性と耐腐食性とが得られる。
アルミニウム材料と固溶しない粒子の材料として、Si、Sn、Pb、Bi、In、K、Na、Ge、MoS、SiN、CaCO、MoCから選ばれる少なくとも1種が用いられる(第3局面)。
この中でも、耐摩耗性の向上を図るにはSi、MoC、耐焼付性の向上を図るにはSn、MoSを選択することが好ましい。
粒子の粒径は特に限定されないが、0.2μm~60.0μmとすることができる。粒径の分布は狭い方が好ましい。アルミニウム合金層の表面から除去する条件を制御しやすいからである。
【0008】
摺動面を観察すると、その表面には、粒子が除去された痕として凹部が見られる。この凹部の大きさは次のように規定される(第4、5局面)。即ち、凹部は陽極酸化膜で被覆されており、表面視において、外接円近似したとき、0.2~60.0μmの直径を備える。
かかる凹部は、摺動面(陽極酸化膜が形成されたアルミニウム合金層)を断面観察したとき、摺動面に沿った任意の100μmの領域において、1つ以上存在するものとする(第6局面)。除去された粒子の跡が凹部となるところ、上記の密度の凹部が形成されておれば、摺動面に残存する粒子の数が十分に少なくなっていると考えられる。
【0009】
この発明の第7局面は第1~第6局面に規定の摺動部材を製造する方法であり、次のように規定される。即ち、
アルミニウム材料に固溶しない粒子を含んだアルミニウム合金層を含む基材を準備するステップと、
前記アルミニウム合金層の表面から前記粒子を除去する粒子除去ステップと、
前記粒子除去ステップの後に前記アルミニウム合金層の表面を陽極酸化処理するステップと、
を備えてなる、摺動部材の製造方法。
これにより、アルミニウム合金層の表面から粒子を除去できる。
【0010】
粒子除去ステップは、アルミニウム合金層の表面をアルカリ処理するアルカリ処理ステップと、
該アルカリ処理の後に酸処理する酸処理ステップと、を備える(第8局面)。
これにより、アルミニウム合金層の表面から粒子をより除去できる。その結果、この表面に凹部が形成されて陽極酸化処理により凹部の周面にも陽極酸化膜が形成される。かかる凹部は平面視において外接円近似したとき、0.2μm~60.0μmの直径を備える。
アルカリの種類及び濃度並びに酸の種類及び濃度は、粒子の材料に応じて任意に選択できる。
【0011】
アルミニウム合金層の表面から粒子を確実に除去するには、アルカリ処理ステップ及び/又は酸処理ステップの中で又はその後に、当該表面へ物理的な衝撃力を与えることが好ましい(第9局面)。
これにより、アルミニウム合金層の表面から粒子をより確実に除去できる。
【0012】
この発明の第10局面は次の様に規定される。即ち、
第8又は第9局面で規定の摺動部材の製造方法において、アルカリ処理ステップで用いるアルカリ溶液に溶解されるアルカリ成分と、陽極酸化処理ステップで用いるアルカリ溶液に溶解されるアルカリ成分とが、同一である。
これにより、陽極酸化処理に用いる陽極酸化処理液に対し、種類の異なるアルカリ成分が混入することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1はこの発明の実施の形態の摺動部材を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下この発明の実施の形態について説明をする。
図1に示す摺動部材1は基材層2としての裏金層3及びアルミニウム合金層4とを備え、アルミニウム合金層4の表面に陽極酸化膜5が形成されている。
裏金層3は鋼材からなり、摺動部材1の用途に応じて平板状、筒状等の形状に任意に賦形される。
アルミニウム合金層4はアルミニウム材料からなるマトリックスに粒子が配合、分散されている。
アルミニウム材料には、アルミニウム若しくはアルミニウムとCu、Mg、Zn等との合金が用いられる。
【0015】
粒子は当該アルミニウム材料に固溶しないものであって、Si、Sn、Pb、Bi、In、K、Na、Ge、MoS、SiN、CaCO、MoCから選ばれる少なくとも1種が選択される。
粒子の粒径は特に限定されないが、0.2μm~60.0μmとすることができる。
同一の材料からなる粒子についての粒径分布は狭くすることが好ましい。同じ条件で除去可能だからである。
アルミニウム材料からなるマトリックに対する粒子の配合量は特に限定されないが、前者に対する後者の割合を5~40質量%とすることが好ましい。この配合量はアルミニウム合金層の原料の質量比率から求めることができる。あるいは、アルミニウム合金層の断面の画像において、所定の領域に含まれる粒子の面積から演算により求めることもできる。
【0016】
アルミニウム合金層は次のように形成される。
所定量の粒子が配合されたアルミニウム合金のバルクを準備する。
これを汎用的な方法で溶融し、かつ賦形して所望の膜厚のアルミニウム合金層とする。アルミニウム合金層の膜厚は摺動部材の用途に応じて任意に選択できる。
アルミニウム合金層4は裏金層3に積層される。両層の間にプライマ層を介在させることができる。プライマ層としてアルミニウム板を用いることができる。
【0017】
裏金層3と一体化されたアルミニウム合金層4の表面から粒子を除去する方法は次の通りである。
アルカリ処理
最初に、アルミニウム合金層4をアルカリ溶液に浸漬する。浸漬の条件は特に限定されないが、40~65℃、40~90秒とすることができ、特に45~55℃、45~60秒であるとよい。このとき、撹拌して粒子の離脱を促す。
アルカリ溶液には水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、ホウ酸ソーダ等を用いることができる。
【0018】
酸処理
アルカリ処理されたアルミニウム合金層4を水洗し、乾燥した後、酸溶液に浸漬する。浸漬の条件は特に限定されないが、15~35℃、45~120秒とすることができ、特に20~25℃、60~90秒であるとよい。このとき、撹拌して粒子の離脱を促す。
酸溶液には硫酸、塩酸、硝酸等を用いることができる。
アルカリ処理及び/又は酸処理の後、超音波処理等によりアルミニウム合金層の表面に物理的な衝撃力を与えて、当該表面に残存した粒子を除去することができる。
【0019】
粒子除去工程を終えたアルミニウム合金層4は、水洗後、陽極酸化処理される。陽極酸化処理の条件は特に限定されないが、陽極酸化処理に用いられる処理液のアルカリ溶液とアルカリ処理時のアルカリ溶液とは同一アルカリ成分とすることが好ましい。ただし、アルカリ処理時のアルカリ溶液の濃度を陽極酸化処理時のアルカリ溶液の濃度より高くすることができる。勿論、前者溶液のアルカリ成分と後者溶液のアルカリ成分を異なるものとすることができる。陽極酸化処理液にはアルカリ溶液を用いないことがある。
陽極酸化膜の膜厚は、処理液の成分、濃度、温度及び処理時間等を制御することで調整される。
【0020】
このようにして製造されるこの発明の摺動部材1によれば、アルミニウム合金層4の表面から粒子が除去される。粒子が除去された痕には凹部が形成されるがその凹部の内周面はアルミニウム合金からなる。かかるアルミニウム合金層4の表面へ陽極酸化処理を実行すれば、粒子が除去された痕の凹部の内周面までもが陽極酸化膜5で連続的に被覆される。換言すれば、アルミニウム合金層の表面において腐食の開始ポイントとなり得た粒子周り領域が存在しなくなるので、その耐腐食性が向上する。
上記の製造方法を実行しても、アルミニウム合金層の表面に表出する全ての粒子を除去できない場合がある。その場合においても、下記要件を満足すれば、実質的に十分な耐腐食性が確保される。即ち、前記陽極酸化膜をその表面側からEPMAで観察して得られた元素MAP像の単位面積における粒子領域の面積(第1面積) / 前記陽極酸化膜の当該表面に垂直な断面を前記EPMAで観察して得られた元素MAP像の前記単位面積おける粒子領域の面積(第2面積)≦0.7とする。ここにおいて、粒子領域の面積はEPMAで観察して得られた元素MAP像において粒子の濃度が50質量%以上を示す領域の面積としている。
【実施例0021】
以下この発明の実施例及び比較例について説明する。
表1に示す実施例及び比較例の組成のアルミニウム合金のバルクを準備した。 粒子の配合量は12質量%とした。アルミニウム合金のバルクの表面に存在する粒子の総面積に対して粒子径4μm未満の粒子の面積が20~60%を占め、粒子径4~20μmの粒子の面積が40%を占めた。
上記の面積は次のようにして求めた。摺動表面の顕微鏡写真を画像解析装置により解析し、0.0125mmに存在する全Siの粒子径を測定し、その測定結果を基に算出した。
マトリックスとなるアルミニウム材料にはAl- 1.5%Cu合金を用いた。
【0022】
かかるバルクのアルミニウム合金を溶融し、連続鋳造によって厚さ15mmの平板を得た。
このアルミニウム合金板の表面を切削して偏析部分を除去し、冷間で6mmの厚さに連続圧延した。これを焼鈍して歪を除去するとともに添加成分を安定化した。
その後、得られた6mmのアルミニウム合金板に薄いアルミニウム板を圧接し、このアルミニウム板を介してアルミニウム合金板を裏金層3に圧接した。圧接したものを焼鈍ししてアルミニウム合金板と裏金層3との接着力を高めかつ歪を除去した。これにより、裏金層3とアルミニウム合金板とが一体化されて、アルミニウム合金板はアルミニウム合金層4となる。
その後、必要に応じてアルミニウム合金層4を溶体化処理してこれを強化し、水冷後、時効処理を施した。
このようにして得た板状のワークを半割筒状のワークとした。
【0023】
このようにして得られた半割筒状のワークをアルカリ処理液へ浸漬してアルカリ処理行い、その後ワークを酸処理液へ浸漬して酸処理を行った。
アルカリ処理及び酸処理の条件は表1に示す通りである。
かかるアルカリ処理及び酸処理を行うことで、アルミニウム合金層4の表面から粒子が除去される。
【表1】

表1の実施例19ではアルカリ処理及び酸処理のそれぞれの後で、超音波処理を行っている。実施例17ではかかる超音波処理は行っていない。
【0024】
陽極酸化膜をその表面側からEPMAで観察して得られた元素MAP像の単位面積における粒子領域の面積(第1面積A1)は、EPMA(電子線マイクロアナライザー、日本電子(株)社製、型番JXA-8530F)を用いて得られた元素MAP像の100μm平方(単位面積)の領域において粒子の濃度が50質量%以上を示す領域の面積とする。
また、陽極酸化膜の当該表面に垂直な断面を前記EPMAで観察して得られた元素MAP像の前記単位面積おける粒子領域の面積(第2面積A2)は、上記と同じ条件のEPMAを用いて得られた元素MAP像の100μm平方の領域において粒子の濃度が50質量%以上を示す領域の面積とする。なお、アルミニウム合金層4の断面は、半割筒状のワークをその軸線に沿って切断したときに現われる断面とする。
実施例及び比較例における両断面積の比の値第1面積A1/第2面積A2を表2に示す。
【0025】
【表2】
【0026】
このように表面処理が行われたアルミニウム合金層に陽極酸化処理を施した。実施例及び比較例の陽極酸化膜5の膜厚を表2に示す。
なお、陽極酸化処理の条件は次の通りである。
処理液の組成:苛性ソーダ(1g/L)、炭酸ソーダ(1g/L)、リン酸ソーダ(1g/L)
電流:7.7A/dm^2
処理時間:表1参照
温度:20℃
【0027】
表2において、腐食層面積割合は次の様にして得た。
下記条件で硝酸混合オイルへ実施例及び比較例の摺動部材を浸漬した。
使用オイル:市販エンジンオイル
硝酸水溶液濃度:7.14mol/L
硝酸水溶液添加量:1.25質量%
浸漬温度:100℃±10℃
浸漬時間:100時間
【0028】
浸漬終了後の各摺動部材において、断面から摺動部材の摺動面を観察した際に、
最表面分(被膜)を上辺とした20μm平方の領域に現れる腐食の認められた面積割合を求める。
この腐食層面積割合が30%以下であれば、摺動部材として十分な耐腐食性が備えられているものとする。
【0029】
表2の実施例2と比較例3との結果から、アルミニウム合金層の表面における粒子領域の面積A1/アルミニウム合金層の断面における粒子領域の面積A2の比の値は0.7以下とすることが好ましいことがわかる。
更に好ましい比の値A1/A2は0.3以下である(実施例4~17参照)。
また、実施例4と実施例5~実施例17との結果の比較から、陽極酸化膜の膜厚は1.5μm~5.0μmとすることが好ましいことがわかる。
実施例19の結果から、アルカリ処理ステップ及び酸処理ステップの後に基材の表面へ
物理的な衝撃力を与えることが好ましいことがわかる。
【0030】
各実施例摺の動部材を軸方向に切断して得た断面を観察したところ、基材層2の表面には凹部が形成され、その凹部の周縁から凹部の内周面にかけて連続して陽極酸化膜が同じ厚さで形成されていた。
凹部の大きさは、表面視において、外接円近似したとき、0.2~60.0μmの直径を備えていた。基材層2の表面の任意の100μm平方の領域において、1つ以上が存在している。
【符号の説明】
【0031】
1 摺動部材
2 基材層
3 裏金層
4 アルミニウム合金層
5 陽極酸化膜
図1