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特開2023-151658新規なMXeneナノシートからなる積層体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151658
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】新規なMXeneナノシートからなる積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/921 20170101AFI20231005BHJP
   C04B 35/56 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C01B32/921
C04B35/56 180
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061396
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】501402730
【氏名又は名称】株式会社アドマテックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長田 実
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 友祐
(72)【発明者】
【氏名】恩田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】冨田 亘孝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 仁俊
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146MA09
4G146MB03
4G146MB09
4G146MB20A
4G146MB20B
4G146MB27
4G146NA04
4G146NA24
4G146NB03
4G146PA07
4G146PA08
(57)【要約】
【課題】ナノシート状の粒子材料の積層法として新たな方法を採用することで、更に稠密な積層体を提供することを解決すべき課題とする。
【解決手段】
本発明の積層体は、TiAl(C1-x、x=1.00~0.70、aが0.01以上、で構成されるMXeneナノシートの積層体であって、前記MXeneナノシートの積層数をpとしたときに下記方法により測定される吸光度Aがpの0.04倍を下回る。
(吸光度)
波長550nmで測定した値を吸光度Aとする。前記積層体を基材の表面に密着させた状態で、前記基材と共に測定した値を吸光度Aとする。前記基材のみを測定して対照とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiAl(C1-x、x=1.00~0.70、aが0.01以上、で構成されるMXeneナノシートの積層体であって、
前記MXeneナノシートの積層数をpとしたときに下記方法により測定される吸光度Aがpの0.04倍を下回る積層体。
(吸光度)
波長550nmで測定した値を吸光度Aとする。基材の表面に前記積層体を密着させた状態で、前記基材と共に測定した値を吸光度Aとする。前記基材のみを測定して対照とする。
【請求項2】
前記積層体は、前記基材の表面に付着している請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記MXeneナノシートは、平均厚さ1.5~3.5nm、平均大きさ0.1~2.0μmであり、(002)面の層間距離が1.350nm~1.400nmである請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
基材に対して、必要な積層数になるまで積層工程を繰り返して積層体を製造する方法であって、
前記積層工程は、
ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、炭酸プロピレン、及び、プロピレングリコールメチルエーテルアセテートからなる群から1つ以上選択される分散媒中に、MXeneナノシートを10~30質量%の濃度で分散させたスラリーを1.0体積部、アルコールを0.5~1.5体積部、テトラブチルアンモニウムを前記MXeneナノシート1.0gに対し1.0×10-4モル~10.0×10-4モルからなる混合物を、水を主成分とする液体に滴下し、前記MXeneナノシートからなる薄膜を得る薄膜化工程と、
前記基材の表面に前記MXeneナノシートからなる薄膜を移行させて成膜する成膜工程と、
をもつ積層体の製造方法。
【請求項5】
前記アルコールは、エタノール、メタノール、及びイソプロピルアルコールからなる群から1つ以上選択される請求項4に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記積層工程は、前記成膜工程の後に、前記薄膜を30~100℃で乾燥する乾燥工程をもつ請求項4又は5に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記薄膜化工程の前記スラリーは、
10μm~300μmのビーズを用いたビーズミルにおいて、水を50質量%以上含有する水性分散媒と、粒子濃度10mg/mL~20mg/mLで前記水性分散媒に分散されたMXeneとの混合物に対して処理することで、前記MXeneを剥離して剥離物である前記MXeneナノシートを形成する剥離工程と、
前記水性分散媒を前記分散媒に置換して前記分散媒中に前記MXeneナノシートが10~30質量%の濃度で分散された前記スラリーを調製するスラリー化工程と、
を有するスラリー調製工程により調製する請求項4~6のうちの何れか1項に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なMXeneナノシートからなる積層及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から層状化合物であるTiAlCなどのMAX相セラミックス粉末から酸処理によりAlを除去して得られるMXene層状化合物からなる粒子材料(本明細書では適宜「MXene粒子材料」と称したり、「MXeneナノシート」と称したり、「層状化合物粒子材料」と称したり、単に「粒子材料」と称したりすることがある。)が知られている(特許文献1、2、3、4)。これらのMXene層状化合物は、Al層が除去された空隙層にNaイオンやLiイオンが貯蔵/脱離可能であることから二次電池(蓄電池)やキャパシターの負極活物質材料、また導電性が優れていることから電磁波シールド薄膜や導電薄膜などへの応用が期待されている。
【0003】
MAX相セラミックスは層状化合物であり、一般式はMn+1AXと表される。式中のMは遷移金属(Ti、Sc、Cr、Zr、Nbなど)、AはAグループ元素、XはCか、[C(1.0-x)(0<x≦1.0)]、nは1から3、で構成されている。
【0004】
その中、AをAlとした時、M-X間の結合よりもM-A間の結合の方が弱いため、酸処理で選択的にAl層が除去される。本発明者らは、微小サイズのビーズを用いたビーズミルにより薄膜化して、MXeneナノシートを調製する方法を提案している(特許文献5、6)。
【0005】
特許文献5、6の方法によれば、エタノール、又はイソプロパノール(IPA)中で10μm~300μmのビーズによるビーズミル処理で剥離することにより、厚みの平均値が3.5nm~20nm、大きさの平均値が0.05μm~0.3μmであるMXene粒子材料が、遠心分離による未剥離部分を除去することなく得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-63171号公報
【特許文献2】特開2017-76739号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2017/0294546号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2017/0088429号明細書
【特許文献5】特許第6564553号公報
【特許文献6】特許第6564552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、特許文献5、6の方法でも十分に薄く且つ大きな粒子が得られてはいるものの、更に薄く(例えば単層レベルまで)剥離することや、更に大きなナノシート状の粒子材料を得ることを目指して本発明者らは更なる検討を行った。薄くて大きなナノシート状の粒子材料を基板に積層かつ稠密に並べれば極めて薄い導電薄膜や電磁波シールド薄膜を作製可能となる。例えば金属のメッキや金属粒子インクを用いた薄膜は粒状であるため、電磁波などの侵入に対しその隙間から電磁波が侵入してしまう。本発明の粒子材料で、C軸に配向、積層された、稠密な薄膜を作製すると、C軸方向から電磁波が侵入することになり、確実に電磁波がMXeneを通過することになるため、有効な電磁波シールド薄膜となりうる。この場合、金属のメッキあるいは金属粒子インクを用いた薄膜の上にMXene薄膜を形成させてもよい。あるいは金属粒子を分散させた有機物フィルムの上にMXene薄膜を形成させてもよい。
【0008】
また、得られたMXene単層レベルまで剥離したナノシート粒子材料は、そのままでは酸化されやすいため、工業的に応用するためには長寿命化を図ることが望まれた。
【0009】
このようにナノシート状の粒子材料は、積層することで更に高い性能をもつことが期待される。先の出願(PCT/JP2021/18297)では、ナノシート状の粒子材料を分散した分散液を用いてスピンコートを行うことを複数回行うことで積層体を製造することが行われていた。
【0010】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、ナノシート状の粒子材料の積層法として新たな方法を採用することで、更に稠密な積層体及びその製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の積層体は、TiAl(C1-x、x=1.00~0.70、aが0.01以上、で構成されるMXeneナノシートの積層体であって、
前記MXeneナノシートの積層数をpとしたときに下記方法により測定される吸光度Aがpの0.04倍を下回る。
(吸光度)
波長550nmで測定した値を吸光度Aとする。前記積層体を基材の表面に密着させた状態で、前記基材と共に測定した値を吸光度Aとする。前記基材のみを測定して対照とする。
【0012】
上記課題を解決する本発明の積層体の製造方法は、基材に対して、必要な積層数になるまで積層工程を繰り返して積層体を製造する方法であって、
前記積層工程は、
ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、炭酸プロピレン、及び、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PMAC)からなる群から1つ以上選択される分散媒中に、MXeneナノシートを10~30質量%の濃度で分散させたスラリーを1.0体積部、アルコールを0.5~1.5体積部、テトラブチルアンモニウムを前記MXeneナノシート1.0gに対し1.0×10-4モル~10.0×10-4モルからなる混合物を、水を主成分とする液体に滴下し、前記MXeneナノシートからなる薄膜を得る薄膜化工程と、
前記基材の表面に前記MXeneナノシートからなる薄膜を移行させて成膜する成膜工程と、
をもつ。
【発明の効果】
【0013】
本発明の積層体は、上記構成を有することにより厚みが小さく大きなMXeneからなる粒子材料が稠密に積層されている。更に、本発明の積層体の製造方法は、上記構成を有することにより、スピンコートと比べて非常に稠密に積層体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1のガラス基板を用いた積層体の吸光度の積層数依存性を示すグラフである。
図2】実施例1のガラス基板を用いた積層体の透過率の波長依存性を示したスペクトルである。なお、図では上から積層数1、2、4、6、8、10である。
図3】実施例1で用いたMXeneナノシートのAFM像及びその分析結果である。
図4】実施例1で得られた積層体のSEM像である。
図5】実施例1で得られた積層体のXRDプロファイルである。
図6】実施例1のPETフィルムを用いた積層体の吸光度の積層数依存性を示すグラフである。
図7】実施例1のPETフィルムを用いた積層体の透過率の波長依存性を示したスペクトルである。なお、図では上から積層数1、2、4、6、8、10である。
図8】実施例2のガラス基板を用いた積層体の吸光度の積層数依存性を示すグラフである。
図9】実施例2のガラス基板を用いた積層体の透過率の波長依存性を示したスペクトルである。なお、では上から積層数1、2、4、6、8、10である。
図10】実施例1で用いたMXeneナノシートのAFM像及びその分析結果である。
図11】実施例3のガラス基板を用いた積層体の吸光度の積層数依存性を示すグラフである。
図12】実施例3の積層体の透過率の波長依存性を示したスペクトルである。なお、図では上から積層数1、2、4、6、8、10である。
図13】実施例4のガラス基板を用いた積層体の吸光度の積層数依存性を示すグラフである。
図14】実施例4の積層体の透過率の波長依存性を示したスペクトルである。なお、図では上から積層数1、2、4、6、8、10である。
図15】比較例1、2、3のガラス基板を用いた積層体の吸光度の積層数依存性を示すグラフである。
図16】比較例1の積層体の透過率の波長依存性を示したスペクトルである。なお、図では上から積層数1、2、3、4、5である。
図17】比較例2の積層体の透過率の波長依存性を示したスペクトルである。なお、図では上から積層数1、2、3、4、5である。
図18】比較例3の積層体の透過率の波長依存性を示したスペクトルである。なお、図では上から積層数1、2、3、4、5である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の積層体及びその製造方法について実施形態に基づいて以下に詳細に説明を行う。本実施形態の積層体は、厚みが小さく大きさが大きいMXeneからなる粒子材料が複数層積層されたものであり、個々のMXeneナノシートが有機物でキャッピングされているため耐酸化性や耐熱性など実用環境下での耐久性を保持させたものである。実施形態の積層体は、高い透明性と高い電気伝導度を備えており、電磁波シールド薄膜や耐摺動膜などとして応用可能である。実施形態の積層体は、それらが必要な部材を基材としてその表面に付着するように形成される。特に透明性が要求される用途に好適に使用できる。更に、電磁波シールド用途において、基板に金属のメッキをした上に、あるいは金属粒子インクで作製した薄膜の上に、あるいは金属粒子を分散させた有機物フィルムの上に、本実施形態の積層体を形成させることもできる。なお、本明細書中に記載した数値は、数値範囲の上限や下限として用いることができ、その場合にはその数値を含む範囲、含まない範囲の何れにすることもできる。
【0016】
(積層体)
本実施形態の積層体は、大きくて薄片化されたMXeneナノシートを積層したものである。MXeneナノシートを積層する数pは2以上で有り、積層体のみに由来する吸光度Aは、0.04p未満である。積層体の積層数は、積層体の積層方向に垂直な方向での断面をTEM、SEM、XPSなどにより観察し、MXeneナノシートの積層数を決定する。MXeneナノシート自身もM相、X相が積層した構造をもち、その002面が積層する方向にMXeneナノシートも積層される。積層数の判断は、MXeneナノシート内での002面の積層と、MXeneナノシート間における002面の積層とを区別してMXeneナノシート間の積層であると判断した数を積層数pとする。MXeneナノシート内の積層と比べ、MXeneナノシート間の積層は002面の配置が乱れているのでその点で判断する。
【0017】
吸光度Aの測定は波長550nmで行う。測定は、積層体を基材の表面に密着させた状態で、その基材と共に測定する。そのときに基材のみで測定した値を対照とする。基材の透明性が低い場合には反射光を用いて吸光度を測定し、得られた測定値を2で割った値を吸光度Aとする。
【0018】
吸光度Aが小さいということは、積層されたMXeneナノシートの間が良く密着していること、積層されたMXeneナノシートの厚みが小さいこと、及び積層されたMXeneナノシートの構造に欠陥が少ないことを表しており、全体として稠密な積層体が得られていることを示す。
【0019】
本実施形態の積層体は、積層体を膜単独で用いることもできるし、何らかの基材の表面に付着形成して用いることもできる。基材表面への付着は密着させることが好ましい。本実施形態の積層体の大きさとしては、特に限定されず、必要な大きさが採用される。例えば基材の表面に付着して用いる場合には基材の表面のうち必要な部分が十分に被覆できる大きさにする。
【0020】
積層される前のMXeneナノシートは、TiAl(C1-x、x=1.00~0.70、aが0.01以上、で構成される。aの下限としては0.02を採用することができる。aの上限としては0.05であることが好ましい。(以下適宜「MXene」と称する)。また、これらの元素以外にもO、OH、ハロゲン基を表面官能基として有することができる。
【0021】
MXeneナノシートの形態は特に限定しないが、平均厚さ1.5~3.5nm、平均大きさ0.1~2.0μmであり、(002)面の層間距離が1.350nm~1.400nmであることが好ましい。MXeneナノシートの平均厚さの測定及び平均大きさの測定は後述する本実施形態の粒子材料と同様の条件で測定できるほか、積層体をそのまま測定することもできる。
【0022】
(積層体の製造方法)
本実施形態の積層体の製造方法は、親水性の表面をもつ基材に対して積層工程を繰りかえすことでMXeneナノシートを積層した積層体を製造する方法である。積層工程を繰り返した回数が積層数になる。積層工程は基材の任意の場所に行うことが可能である。そのため基材の表面に形成した積層体の積層数は基材の部位毎に変化させることができる。
【0023】
本実施形態の積層体の製造方法では特にMXeneナノシートの組成については限定しない。MXeneナノシートとしては、上述の積層体で用いるMXeneナノシートを採用しても良いし、その他のMXeneナノシートを用いても良い。
【0024】
基材については、ガラス、樹脂材料、セラミックス、金属材料などが採用できる。基材について表面が親水性であることが好ましい。表面にMXeneナノシートからなる積層体が望む強度で付着する程度にまで親水化することが好ましい。付着の強度で親水性の程度を評価することができる。基材表面から積層体がすぐに脱離する程度の付着になる程度に親水化することもできる。親水化処理を行う場合にその方法は特に限定しない。例えば、酸処理、プラズマ処理、コロナ処理、火炎処理などにより表面を酸化などすることでOH基を導入する方法や、基材の表面に結合する表面処理剤を反応させて親水性の官能基を導入する方法などが挙げられる。
【0025】
積層工程は、薄膜化工程と成膜工程とその他必要に応じて選択される工程とを有する。薄膜化工程は、MXeneナノシートを分散した混合物を水を主成分とする液体(水性液体)に滴下することで液体の表面にMXeneナノシートからなる薄膜を形成する。混合物は液体の表面に拡がり、含有するMXeneナノシートを残してその他の成分は液中に移動する。
【0026】
混合物は、MXeneナノシートが液体中に分散されており、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、炭酸プロピレン、及び、PMACからなる群から1つ以上選択される分散媒中に、MXeneナノシートを10~30質量%の濃度で分散させたスラリーを1.0体積部、アルコールを0.5~1.5体積部、四級アミンを0.01~0.03体積部の含有割合で含有しており、特にジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、炭酸プロピレン、及び、PMACからなる群から1つ以上選択される分散媒中に、MXeneナノシートを10~30質量%の濃度で分散させたスラリーを1.0体積部、アルコールを0.5~1.5体積部、四級アミンを0.01~0.03体積部混合することで調製することが好ましい。アルコールは特に限定しないが、比誘電率が19.9以上のアルコールが好ましい。例えばエタノール(比誘電率24.55)、メタノール(比誘電率32.66)、及びイソプロピルアルコール(比誘電率19.9)からなる群から選択されるものであることが好ましい。
【0027】
アルコールは複数種類のものの混合物であっても良い。四級アミンは特に限定しないがテトラブチルアンモニウムヒドロキシドを採用することが好ましい。テトラブチルアンモニウムヒドロキシドは水溶液で供してもよいし、メタノール溶液で供してもよい。更には他の溶解可能な溶媒を用いた溶液とすることができ、溶液の濃度は何れでもよい。MXeneナノシートに吸着する官能基であるヒドロキシル基、ハロゲン基が水中で負に帯電し、そのOH、Cl、Fが水中でイオン化したテトラブチルアンモニウム(TBA)のNが吸着し疎水基がMXeneナノシートの外側に拡がる形態で吸着する。水中においてはMXeneナノシートの外側に拡がった疎水基に疎水吸着する形態でTBAの疎水基が配列し、反対側である水中にNが整列する。結果としてMXeneナノシートが水中に浮揚する。MXeneナノシートの断面であるAB軸方向には官能基が吸着せず疎水吸着するため稠密に充填する。四級アミンの添加量はMXeneナノシート1.0gに対し1.0×10-4~10.0×10-4モル添加することが好ましい。
【0028】
水性液体は、水を90体積%以上含有する物であり、99体積%以上含有する物が好ましい。水以外には、エタノールやメタノールを含有することができる。100%水から構成されることが好ましい。
【0029】
水性液体に混合物を滴下する方法としては、水性液体と混合物とが混合されないように行う。例えば、水性液体の表面に水性液体を薄く広げるように静かに添加することができる。そうすることで水性液体の表面に混合物が薄く拡がりMXeneナノシートからなる薄膜が水性液体の表面に形成される。具体的な方法としては、水性液体の表面に混合物を水性液体中に侵入しない程度の高さから落下させたり乗せたりする方法が採用できる。混合物を落下するときや乗せるときには水性液体と混合しないように行うことが好ましい。
【0030】
成膜工程は、薄膜化工程で得られた水性液体表面の薄膜を基材の表面に移行させる工程である。具体的な方法は特に限定しないが、基材の表面を水性液体表面の薄膜に接触させながら水性液体から出し入れすることで基材の表面に薄膜を移行することができる。
【0031】
例えば、基材の表面で水性液体表面の薄膜をすくい上げるようにして基材の表面に薄膜を移行させたり、基材の表面が水性液体の表面と垂直になるようにゆっくりと出し入れすることで水性液体表面の薄膜が水性液体表面を移動して基材の表面に移行させたり、基材の表面を水性液体表面の薄膜に対向した状態から僅かに傾けた状態で徐々に基材を水性液体中に侵入させていくことで基材の表面に薄膜を移行させたりすることができる。水性液体表面の薄膜がなくなった場合には上述の薄膜化工程により水性液体表面に薄膜を追加形成する。
【0032】
このような工程を繰り返して基材の表面に薄膜を幾重にも積層することで積層体を形成する。積層の回数を制御することで積層数が変化する。基材の表面に移行した薄膜(積層体)は、乾燥することができる。乾燥は成膜工程の後に行う。乾燥方法や温度は特に限定しないが、前記薄膜を30~100℃で乾燥する工程とすることが好ましい。これを行うことによりテトラブチルアンモニウムがMXeneナノシート表面に被覆され積層体が実用上に必要な耐酸化性や耐熱性が付与される。乾燥工程は、積層体を形成し終わった後に行うこともできるし、積層体の形成途中に適宜行うこともできる。薄膜を1層形成する毎に乾燥工程を行うこともできる。乾燥温度を30℃以上、100℃以下にすることで含有するMXeneナノシートの酸化への影響を抑制できる。40℃以上、60℃以下にすることがより好ましい。
【0033】
得られた積層体は、基材の表面に付着した状態で用いたり、基材の表面から剥離した状態で用いたりできる。基材の表面から積層体を剥離する方法は特に限定しないが、積層体を物理的に剥離する方法を採用したり、基材を何らかの方法で除去して積層体を残す方法を採用したりできる。
【0034】
(粒子材料)
上述の積層体を構成するMXeneナノシート(粒子材料)について以下詳細に説明を行う。この粒子材料は、上記製造方法の混合物中に含有させるMXeneナノシートとしても採用できる。本実施形態の粒子材料は、大きくて薄片化されたMXeneからなる粒子材料である。MXeneを薄片化した粒子材料は、粉末状層状化合物であるMXeneを剥離することにより得られる。
【0035】
本明細書において、あるパラメータに上限値と下限値をそれぞれ複数設定した場合には特に制限しない限りはそれらの上限値と下限値とを任意に組み合わせることができる。本実施形態の粒子材料は、板状、葉状、薄片状、シート状などである。総称してシート状と呼ぶ。
【0036】
本実施形態の粒子材料は、チタン3層と炭素2層から成る層状化合物、あるいは炭素の一部を窒素に置き換えた層状化合物であるMXeneである。組成式TiAl(C1-xにより表されるMXeneからなる粒子材料である。ここで、x=1.00~0.70、aが0.01以上である。
【0037】
粒子材料を構成するMXeneは、層状化合物の層の積層方向を「厚み」とし、その厚みと直交する方向を「シートの拡がり方向」とし、この方向で測定した値が本実施形態の粒子材料の大きさである。
【0038】
MXeneの厚みは、親水化したSiウエハーにMXeneを滴下しAFM分析で測定できる。平均厚さが1.5~3.5nmであり、特に1.50~2.00nmであることが好ましい。平均厚さは、ランダムに選択された100個の粒子について測定した値の平均値として算出する。ナノシートの大きさは、親水化したSiウエハーにMXeneを滴下しSEM観察することにより測定できる。ナノシートの拡がり方向の平均の大きさが0.1~2.0μmであり、特に0.60~1.70μmであることが好ましい。厚みと直交する方向における最大値を「長辺」最小値を「短辺」とした場合に、ランダムに選択された100個の粒子についてSEMにより測定した、[(長辺+短辺)/2]の平均値を拡がり方向の平均の大きさとする。
【0039】
MXeneの(002)面の層間距離はX線回折分析で測定することができ、1.350nm~1.400nmであることが好ましい。1.350nmから1.370nmであることがさらに好ましい。
【0040】
MXeneの水中pH6からpH8におけるゼーター電位は、-27.0mVから-34.0mVの範囲であることが好ましい。
【0041】
(粒子材料の製造方法)
本実施形態の積層体に含まれるMXeneナノシート(粒子材料)について製造方法を以下詳細に説明する。本実施形態の製造方法は、上述した積層体の製造方法において混合物中に含有させるMXeneナノシートの製造方法として採用することもできる。本実施形態の粒子材料の製造方法は、剥離工程とその他必要な工程とを有する。
【0042】
・剥離工程
剥離工程は、層状のTiAl(C1-x、x=1.00~0.70、aが0.01以上であるMXeneに対して水性分散媒中において微小ビーズを層間に衝突させることにより剥離させてシート状の剥離物を得る工程である。得られた剥離物は、分散媒に懸濁した剥離物懸濁液になる。この剥離物懸濁液を本実施形態の積層体の製造方法に供する場合には、水性分散媒を混合物中に供する際のスラリーの分散媒に置換してスラリーとする工程(スラリー化工程)をもつ。材料となる層状のMXeneを得る方法としては特に限定しないが、以下の方法が例示できる。
【0043】
TiAl(C1-x、x=1.00~0.70、aが0.01以上であるMXeneはTi3層のMAX相セラミックス粉末からなる原料を酸処理してAl層を一部溶解して得られる。MXeneを製造する方法の一例を前処理工程として後述する。剥離工程に供される原料は、前述の粒子材料を構成する材料と同じ組成のものが採用できる。剥離工程では組成は概ね変化しない。
【0044】
この粒子材料を酸処理によってAlの一部を溶解し、MXeneとし、そのMXeneを用いて、水を主成分とする溶媒中に混合して混合物とした後、10μmから300μmのビーズを用いて高速回転を行うビーズミル処理する剥離工程によりシート状のMXeneの剥離物が懸濁する剥離物懸濁液が得られる。
【0045】
剥離工程を行う水性分散媒は、水を50質量%以上含有する以外は特に限定しないが、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール、メチルエチルケトン、アセトンなどのケトン類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどを含有することもできる。特に水の含有量の下限値としては、60質量%、70質量%、80質量%、90質量%、100質量%が挙げられる。
【0046】
剥離工程を行う混合物中のMXeneの濃度は特に限定しないが、10.0mg/mL~20.0mg/mL程度にすることができる。混合液の液性については特に限定しないが、pHを6.0~8.0程度にすることができる。
【0047】
剥離工程における具体的なビーズミル処理について説明する。遠心分離で微小なビーズとスラリー状の混合物を分級する機構を具備したビーズミルで剥離することが可能となる。ビーズミル処理により剥離した剥離物は、剥離前の混合物から遠心分離により随時分離でき、最終的には全てのMXeneを剥離物にすることもできる。
【0048】
例えばビーズの大きさの下限は、10μm、15μm、20μm、30μm、40μm、上限を300μm、200μm、100μmにすることができる。10μm以上であるとビーズとスラリーの分級が容易である。300μm以下のビーズを用いると粒子材料のサイズを小さくするよりも、剥離を優先して進行させることができる。これらの下限及び上限は任意に組み合わせて採用することができる。ビーズの大きさが適正な範囲であると付与するエネルギーが大きくでき、且つ、剥離を優先して進行できるため、50μm~100μmのビーズを採用することが最も好ましい。
【0049】
ビーズの材質は特に限定しないが、ジルコニア、アルミナ、窒化ケイ素などのセラミックスが採用できる。特に破壊靭性が大きい部分安定化ジルコニアが好ましい。部分安定化ジルコニアは、イットリウム、セリウムあるいはカルシウム等と共にジルコニアを加熱して反応させた材料である。
【0050】
一方、300μm超のビーズを用いる微小サイズの隙間でビーズとスラリーを分級させる一般的に用いられるビーズミルによると、粒子材料のサイズを小さくすることが、剥離に優先して進行する。また、300μm超のビーズやボールを用いた遊星ボールミルなどのボールミルによっても、粒子材料のサイズを小さくすることが剥離に優先する。結果として、一部しか剥離させることができず、一部の剥離したMXeneを分級採取する必要が生じ、産業に利用可能な剥離したMXene粒子材料を得ることができない。特に遊星ボールミルを用いると、表面酸化が進行しMXeneには適さず、検討もされていないのが実際である。一方、従来からMXeneの剥離手法として用いられている溶媒に超音波を照射する方法については、溶媒に超音波を照射するとキャビテーションが発生し、その圧壊により粉体どうしが衝突するメカニズムで層状化合物を構成する層の剥離が進行する。しかしながら、キャビテーションの発生が起きやすい水を用いたとしても、剥離が進行するのはほんの一部のみである。遠心分離による分級によって一部のMXeneナノシートの一部を採取する方法で作製されており、産業で利用できるレベルとは言えなかった。
【0051】
剥離工程における周速は、6m/sec~12m/secの周速が採用できる。8m/sec~10m/secの周速が好ましい。6m/sec以上であると剥離効率が良く、12m/sec以下であると付与する過大なエネルギー付与が抑制され、得られる粒子材料の温度上昇が抑制できるため、得られる粒子材料の表面における酸化の進行が抑制でき、電気抵抗を低くできる。スラリー送り速度は100mL/分から300mL/分が採用できる。スラリー粒子濃度は20.0mg/mL~10.0mg/mLが採用できる。17.0mg/mL~10.0mg/mLとするとより好ましい。15.0mg/mL~10.0mg/mLとすると更に好ましい。
【0052】
20.0mg/mL以下の条件によると剥離が充分に進行でき、遠心分離などで分級することにより薄片状の粒子材料を選択する必要が低くなるため好ましい。さらに、スラリーの液中粒子径を小さく保つことが可能になる。10.0mg/mL以上にすると剥離の効率が良くなる。
【0053】
スラリー温度は35℃以下の温度範囲が好ましい。35℃以下にすると表面酸化が抑制でき、粒子材料の電気抵抗を低く保つことができる。
【0054】
ビーズの充填量は40体積%~80体積%が採用できる。40体積%以上にすると剥離の効率が良くなり、80体積%以下にするとビーズとスラリーの分級が容易となる。目的の薄片状の粒子を多く含む粒子材料が製造されたかどうかは、SEM、TEMなどの観察によって判断できる。特に粒子材料の厚みについてはAFM分析することによって判断できる。剥離工程で得られた粒子材料は、必要に応じて遠心分離などの方法によって分級して使用することも可能である。剥離工程における最適な条件については、装置の大きさによって変化するので、これらの数値は限定されるものではない。
【0055】
ビーズミル処理によりMXeneが全て剥離物になるようにすることが好ましい。MXeneが全て剥離物になる条件で剥離工程を完了すると、剥離していないMXeneを除去することなくそのまま用いることが可能になる。剥離物以外のMXeneを除去する場合には、遠心分離、濾過などにより分離することができる。
【0056】
炭素サイトの一部を窒素に置き換えたMXeneは水中でOH基が吸着しやすくなり層間の結合力が弱まる。そのため置き換える窒素量を変えることにより、得られるMXeneの厚さと大きさを制御できる。TiAl(C1-x、x=1.00~0.70、aが0.01以上とすることにより、薄くて大きなナノシートが得られる。TiAl0.02CMXeneは後述する実施例の製造条件では平均厚さが1.74nm、平均大きさが0.78μmであった。後述する実施例の製造条件では、炭素サイトの5%を窒素に置き換えると、平均厚さが1.66nm、平均大きさが1.17μmとなり、炭素サイトの25%を窒素に置き換えると、平均厚さが1.81nm、平均大きさが1.61μmとなった。又TiAl0.02CMXeneに関し、MAX相セラミックス焼成(合成)温度を後述する実施例に示す1450℃から1430℃に下げると、平均厚さが2.06nm、平均大きさが0.25μmとモノレイヤレベルの厚さを維持した上で、小さくすることができる。さらに1410℃まで下げると、平均厚さが1.98nm、平均大きさが0.101nmまで小さくすることができる。
【0057】
前処理工程に供する原料は、TiAl(C1-x、x=1.00~0.70、aが1.00で表される組成を有するMAX相セラミックス粉末である。さらに、Alを除去する量は酸性物質により酸処理されて製造されるMAX相セラミックス粉末中のAlの量(xに相当)が0.01以上になる程度に残存するように調節する。なお、Alを全部除去することも可能であり、その場合にはAlを完全除去する程度で酸処理を停止することが好ましい。
【0058】
除去されるAlの量は、酸性物質(酸水溶液など)と接触する時間(長くすると除去される量が増加する)、酸性物質の濃度(濃度が高い方が除去される量が増加する)、酸性物質の量(酸性物質の絶対量が多い方が除去され得る量を多くできる)、接触させる温度(温度が高い方が除去される量が増加する)を変化させることで調節できる。
【0059】
層状化合物であるMAX相セラミックス粉末(A元素がAl)に対して、酸処理を行うことによりAlの一部を除去して粒子材料を構成する空隙層を有する層状化合物とする。Al層の一部を除去するための酸としてはフッ酸と塩酸との組み合わせた酸性物質を採用する。フッ酸と塩酸との組み合わせを実現するためにはフッ酸の塩(KF、LiFなど)と塩酸とを混合してフッ酸と塩酸との混合物を得ることが好ましい。
【0060】
特に酸性物質としてはこれらの酸の水溶液を採用する。フッ化塩が完全に解離したと仮定した時に形成されるフッ酸と塩酸との混合濃度としては特に限定しない。フッ酸の濃度としては下限が1.7mol/L、2.0mol/L、2.3mol/L、上限が2.5mol/L、2.6mol/L、2.7mol/L程度にすることができる。塩酸の濃度としては下限が2.0mol/L、3.0mol/L、4.0mol/L、上限が13.0mol/L、14.0mol/L、15.0mol/L程度にすることができる。
【0061】
フッ化塩が完全に解離したと仮定した時に形成されるフッ酸と塩酸との混合比(モル比)についても特に限定しないが、フッ酸の下限として、1:13、1:12、1:11、上限として1:5、1:6、1:7程度を採用することができる。ここで示したフッ酸及び塩酸濃度、混合比についてはそれぞれ任意に組み合わせて採用することができる。酸処理温度については、10℃から30℃が好ましい。10℃から20℃がさらに好ましい。
【0062】
得られたMXeneナノシート粒子材料について、水中pH6からpH8のゼーター電位を測定した。TiAl(C1-xにおいて、X=1.00でー28.9mV、X=0.97で-29.0mV、X=0.95で-31.5mV、X=0.90で-32.1mV、X=0.85で-32.4mV、X=0.75で-33.1mV、X=0.70でー34.0mVであった。一方、X=0.65でー34.5mVであった。水中pH6からpH8のゼーター電位は全てマイナスであり、水中における酸処理、及び水中で微小サイズのビーズミル処理で「OHやハロゲンなどの親水性官能基が吸着し、ゼーター電位の絶対値が大きいことは、より多くの親水性官能基が吸着したことを意味する。あまりにゼーター電位の絶対値が大きくなると付与する物理的作用力で粉々に粉砕してしまう。ゼーター電位の絶対値の大きさを27.0から34.0とすることにより薄くて大きなMXeneナノシートが形成されることが分かった。
【0063】
MXeneナノシートの化学組成については、Ti、Al、C、Nのatom%を用いて、Tiを3とした時のAl、C、N量を算出した。化学分析は、試料を白金皿にはかりとり、硝酸+硫酸+フッ化水素酸を加えて、加熱(120℃程度)して溶解後、さらに高温(300℃)で加熱して硝酸とフッ化水素酸を飛ばして試料溶液(硫酸)を作製し、作製した試料溶液を適宜希釈してICPで定量分析を行った。
【0064】
・スラリー化工程
上述の剥離工程では水性分散媒にMXeneナノシートが分散されたものが製造される。本実施形態の積層体の製造方法にて採用する場合には、その水性分散媒を適正な分散媒に置換する。
【0065】
適正な分散媒とは、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、炭酸プロピレン、及び、PMACからなる群から1つ以上選択されるものである。水性分散媒を分散媒に置換する方法としては特に限定しないが、遠心分離によりMXeneナノシートを沈降させた後、上澄みを捨て分散媒を加えることを繰り替えずことで分散媒に置換することが可能である。置換回数としては、残存する水性分散媒の量が悪影響を及ぼさない程度にできれば充分である。
【実施例0066】
本発明の積層体及びその製造方法について以下実施例に基づき詳細に説明を行う。
【0067】
(実施例1)
・前処理工程
TiC粉末(TI-30-10-0020、レアメタリック社)12.3g、Ti粉末(TIE07PB 3N、高純度化学)4.9g、Al粉末(ALE15PB 3NG、高純度化学)2.8gをイソプロピルアルコール(IPA)中で12時間ボールミル混合し、エバポレータでIPAを除去して均一混合された乾燥粉末を得た。
【0068】
その後、黒鉛抵抗炉を用いてAr気流中1450℃、2h(昇温速度10℃/min)の条件で均一混合粉末をアルミナるつぼに入れて焼成し、TiAlCを得た。乳鉢と乳棒を用いて粗粉砕した後、水性分散媒としてのIPA中で5mmのジルコニアボールを用いたボールミル粉砕(24h)、引き続き0.5mmのジルコニアボールを用いた遊星ボールミル粉砕(200rpm、15分を3回)を行った。
【0069】
エバポレータでIPAを除去して約3μmに粉砕されたTiAlC粉末を得た。HCl300mlにLiF18gを入れた酸性水溶液を準備し、氷で冷やしながらTiAlC粉末10gを入れて、20℃から30℃に制御された環境下で、24hマグネチックスターラー撹拌しながらエッチングした。エッチング後、約pH6まで水洗し、その後、水性分散媒としての水をエタノールに置換した。
【0070】
Ti MXeneエタノールスラリーの粒子濃度を測定し、Ti MXeneの粒子濃度15.0mg/mlになるように水を添加したスラリーを作製した。そのスラリーを、ZrOビーズ径50μmを用いたビーズミルをスラリー送液速度150ml/min、ZrOビーズ充填量80%、3passの条件でビーズミル処理を行う。剥離させたMXene ナノシートのAFM分析から、平均の厚みは1.74nm、SEM観察から平均の大きさは0.78μmであった。
【0071】
剥離したMXeneスラリー(15.0mg/ml)を37000G(17000rpm)、30分間遠心沈降させ、上澄みを破棄、上澄みに含まれたMXeneナノシートは5mass%に相当した。DMSOを沈降物1.25gあたり5.0g添加し、振とう機で140rpm、1.5hでほぐした。3回繰り返して完全に水性分散媒を混合物中で採用する分散媒であるDMSOに置換した。その後、振とう機で140rpm、24hほぐした。さらに遠心分離を9000rpmで10分処理し上澄みをDMSOスラリーとした。得られたDMSOスラリーについて、10倍に希釈して最終的なDMSOスラリーとした。そのDMSOスラリー1.0体積部にエタノールを1.0体積部、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドの40%水溶液を0.01体積部の混合物を作製した。その混合物を水性液体としての純水に滴下し、浮揚したMXeneナノシート膜を形成した。TBAの添加量はMXene1.0gに対し5.6×10-4モルに相当する。ピラニア処理(HSO:H=3:1(体積比)に浸漬)したガラス板(25×25×0.7mm)を基板とし、ガラス板で純水に浮揚したMXeneナノシート膜をすくうことで成膜した。50℃のホットプレート上に1分間おいて乾燥(乾燥工程)して積層数1のMXene膜を作製した。これを必要回数だけ繰り返して積層体を得た。積層数1、2、4、6、8、10における積層膜(積層体)のUV-vis測定を行い、可視光である波長550nmにおける吸光度(A)と積層数(p)の関係を図1に示した。A=aYで表され、その際の傾き(a)は0.01であった。さらに透過率の結果を図2に示す。
【0072】
積層数1のMXene膜のAFM分析した結果を図3に示した。積層数10の積層体のSEM像を図4に示した。積層数10の積層体のXRDプロファイルを図5に示した。ピラニア処理したガラス板の代わりに親水化処理したPETフィルムを用いて積層体を作製した。積層数1、2、4、6、8、10における積層膜のUV-vis測定を行い、波長550nmにおける吸光度(A)と積層数(p)の関係を図6に示した。A=apで表され、その際の傾き(a)は0.01であった。透過率の関係を図7に示した。
【0073】
(実施例2)
TiC粉末(TI-30-10-0020、レアメタリック社)9.2g、TiN粉末(TN-30-10-0020、レアメタリック社)3.2g、Ti粉末(TIE07PB 3N、高純度化学)4.9g、Al粉末(ALE15PB 3NG、高純度化学)2.8gを出発原料に用いた以外、実施例1と同様に剥離したTi(C0.750.25) MXeneナノシートを作製した。実施例1と同様に剥離させたMXeneを作製した。剥離させたMXeneナノシートをピラニア処理したSi基板に滴下し、AFM分析から平均の厚さは1.81nm、SEM観察から平均の大きさは1.61μmであることを確認した。
剥離したMXeneスラリー(15.0mg/ml)を37000G(17000rpm)、30分間遠心沈降させ、上澄みを破棄、上澄みに含まれたMXeneナノシートは2mass%に相当した。
【0074】
実施例1と同様にDMSOスラリーを作製後、混合溶液を作製し、ピラニア処理したガラス板(25×25×0.7mm)を基板とし、ガラス板で純水に浮揚したMXeneナノシート膜をすくうことで成膜した。50℃に維持したホットプレート上に1分間おいて乾燥して積層数1のMXene膜を作製した。これを10回繰り返して積層数10まで行った。積層数1、2、4、6、8、10における積層膜のUV-vis測定を行い、可視光である550nm波長における吸光度(A)と積層数(p)の関係を図8に示す。A=apで表され、その際の傾き(a)は0.01であった。さらに透過率の結果を図9に示した。積層数1のMXeneナノシート膜のAFM分析した結果を図10に示す。
【0075】
(実施例3)
得られたDMSOスラリーを実施例1では遠心分離を9000rpm、10分処理し、最終的なDMSOスラリーとしたが、実施例3では遠心分離処理せずに最終的なDMSOスラリーとした。他は実施例1と同様にMXeneナノシート積層膜を作製し、積層数1、2、4、6、8、10における積層膜のUV-vis測定を行い、可視光である550nm波長における吸光度(A)と積層数(p)の関係を図11に示す。A=apで表され、その際の傾き(a)は0.02であった。さらに透過率の結果を図12に示す。
【0076】
(実施例4)
得られたDMSOスラリーを実施例2では遠心分離を9000rpm、10分処理し、最終的なDMSOスラリーとしたが、実施例4では遠心分離処理せずに最終的なDMSOスラリーとした。他は実施例2と同様にMXeneナノシート積層膜を作製し、積層数1、2、4、6、8、10における積層膜のUV-vis測定を行い、波長550nmにおける吸光度(A)と積層数(p)の関係を図13に示す。A=apで表され、その際の傾き(a)は0.03であった。さらに透過率の結果を図14に示す。
【0077】
(比較例1)
TiC粉末(TI-30-10-0020、レアメタリック社)11.7g、TiN粉末(TN-30-10-0020、レアメタリック社)0.6g、Ti粉末(TIE07PB 3N、高純度化学)4.9g、Al粉末(ALE15PB 3NG、高純度化学)2.8gをIPA中で12時間ボールミル混合し、エバポレータでIPAを除去して均一混合された乾燥粉末を得た。
【0078】
黒鉛抵抗炉を用いてAr気流中で1450℃、2h(昇温速度10℃/min)の条件で均一混合粉末をアルミナるつぼに入れて焼成し、TiAl(C0.950.05を得た。乳鉢と乳棒を用いて粗粉砕した後、IPA中で5mmのジルコニアボールを用いたボールミル粉砕(24h)、引き続き0.5mmのジルコニアボールを用いた遊星ボールミル粉砕(200rpm、15分を3回)する。エバポレータでIPAを除去して約3μmに粉砕されたTiAl(C0.950.05粉末を得た。
【0079】
HCl300mlにLiF18gを入れた酸性水溶液を準備し、氷で冷やしながらTiAl(C0.950.05粉末10gを入れて、20℃から30℃に制御された環境下で、24hマグネチックスターラー撹拌しながらエッチングした。エッチング後、約pH6まで水洗し、その後、水をエタノールに置換した。
【0080】
Ti(C0.950.05 MXeneエタノールスラリーの粒子濃度を測定し、Ti(C0.950.05 MXeneの粒子濃度15.0mg/mlの水サスペンジョンを作製する。その水サスペンジョンを、ZrOビーズ径50μmを用いたビーズミルをスラリー送液速度150ml/min、ZrOビーズ充填量80%、3passの条件でビーズミル処理を行う。剥離したMXeneスラリー(15.0mg/ml)を37000G(17000rpm)、30分間遠心沈降させ、上澄みを破棄、DMSOを沈降物1.25gあたり5.0g添加し、振とう機で140rpm、1.5hほぐした。3回繰り返して完全に溶媒をDMSOに置換した。
【0081】
得られたDMSOスラリーについて、2400G(3500rpm)で遠心分離し、上澄みを採取した。DMSOスラリー1.0体積部にエタノールを1.0体積部滴下しspin coatのサンプルとした。ピラニア処理したガラス板(25×25×0.7mm)を基板とし、20μL滴下して、4000rpm、1分の条件で膜作製した。膜厚制御のためスピンコートによる薄膜作製を繰り返す時は、自然乾燥した後、同様にspin coatによる積層膜作製を行った。UV-vis測定し、積層数(p)と吸光度(A)の関係を図15に示した。A=apで表され、その際の傾き(a)は0.04であった。透過率の関係を図16に示す。
【0082】
(比較例2)
TiC粉末(TI-30-10-0020、レアメタリック社)9.2g、TiN粉末(TN-30-10-0020、レアメタリック社)3.2g、Ti粉末(TIE07PB 3N、高純度化学)4.9g、Al粉末(ALE15PB 3NG、高純度化学)2.8gを出発原料に用いた以外、比較例1と同様に剥離したTi(C0.750.25) MXeneナノシートを作製した。比較例1と同様にspin coatによる積層膜作製を行った。UV-vis測定し、積層数(p)と吸光度(A)の関係を図15に示す。A=apで表され、その際の傾きは0.08であった。透過率の関係を図17に示す。
【0083】
(比較例3)
TiC粉末(TI-30-10-0020、レアメタリック社)12.3g、Ti粉末(TIE07PB 3N、高純度化学)4.9g、Al粉末(ALE15PB 3NG、高純度化学)2.8gを出発原料に用いた以外、比較例1と同様に剥離したTi MXeneナノシートを作製した。比較例1と同様にspin coatによる積層膜作製を行った。UV-vis測定し、積層数(p)と吸光度(A)の関係を図15に示す。A=apで表され、その際の傾きは0.12であった。透過率の関係を図18に示す。
【0084】
(考察)
ナノシート状の粒子材料を用いた成膜において、UV-vis測定を行い可視光の波長である550nmにおける吸光度(A)と積層数(p)の関係がA=apが成立することがわかった。これはそれぞれの成膜処理で積層されていることを示している。実施例1から4に示すように、本発明のMXeneナノシートの積層体において、A=apの関係が成立し、その傾きaが0.04を下回った。比較例1から3で示すように、MXeneナノシートの積層膜作成時に従来から行われているspin coatによる手法では、A=apの関係が成立するものの、その傾きaが0.04を超えた。本発明のMXene積層体が薄くて稠密な成膜ができていることを示している。本発明のMXeneナノシートの積層膜について、XRD分析から(002)面とわずかに(004)面のピークのみを検出した。これは高度にC軸配向した積層膜であることを示している。本発明のMXene積層膜において、積層1回について、AFM分析を行い、ほとんどのMXeneナノシートは2.0nm以下でありほぼ単層のMXeneナノシートがC軸に配向して成膜されていることを確認した。さらに積層10回の積層膜のSEM像を見て分かるように稠密なMXeneナノシートの積層膜であることを確認した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図17
図18