(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151750
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】微生物を用いた衣類害虫忌避剤
(51)【国際特許分類】
A01N 63/22 20200101AFI20231005BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20231005BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20231005BHJP
A01N 25/08 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A01N63/22
A01P17/00
A01N25/00 102
A01N25/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061554
(22)【出願日】2022-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】507029133
【氏名又は名称】碇 正男
(72)【発明者】
【氏名】碇 正男
(72)【発明者】
【氏名】松澤 哲宏
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AC06
4H011BA01
4H011BB21
4H011DA04
4H011DA09
4H011DC08
4H011DC10
4H011DD06
4H011DE17
(57)【要約】
【課題】 衣類害虫に対して忌避性を示し、かつ安全性の高く長期的に効果のある忌避剤、忌避方法を提供すること。
【解決手段】 微生物が発する揮発性物質を忌避成分として使用する衣類害虫忌避、並びに、衣類害虫忌避方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチルス属に属する微生物を含有し、微生物が発する揮発性物質を衣類害虫に対する忌避成分として用いることを特徴とする衣類害虫忌避剤。
【請求項2】
前記微生物が受託番号NITE P-02127を有する微生物を含む請求項1に記載の衣類害虫忌避剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の衣類害虫忌避剤を用いた衣類害虫忌避方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イガ、コイガ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ等の衣類害虫の食害から衣類を保護する忌避効果に優れる微生物及び植物由来の揮発性物質を用いた忌避性衣類用防虫剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衣類用の防虫剤としてパラジクロルベンゼン、ナフタリン、樟脳、ピレスロイド系化合物等が防虫剤として使用されている。これらの昇華性防虫剤は、本来、害虫の忌避を主な効果とするもので、特有な刺激臭を有している点や、一部には毒性を有している等の問題がある。
【0003】
本発明者は芽胞微生物が作り出す揮発性物質でカビの発生の抑制や消臭、ダニの誘引などを提案している(特許文献1~5)。芽胞微生物を利用することで安全で長期的に効果を発揮し続けることができる。
【0004】
【特許文献1】特開2008-182906
【特許文献2】特開2016-149963
【特許文献3】特開2018-007661
【特許文献4】特開2018-008945
【特許文献5】特願2020-182010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、より安全であり、衣類害虫に対して、パラジクロロベンゼン等の昇華性防虫剤やエンペンスリン、DEETと同等の忌避効果があり、効力持続性を兼ね備えた忌避性衣類用防虫剤を提供することにある
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、芽胞微生物が作り出す揮発性物質で衣類害虫を忌避できることを見出し、これを利用した新規の防虫剤及び防虫方法である本発明を提案する。
【0007】
本発明は、微生物を用いて微生物が発する揮発性物質を忌避成分として利用する害虫忌避剤及び衣類害虫忌避方法である。これを用いることにより、箪笥やクローゼット等に害虫の侵入を防ぎ、安全で持続的に害虫の被害を防ぐことが可能になる。
【0008】
本発明は、衣類害虫忌避成分として、忌避剤に導入した微生物の発する揮発性物質を用いることを特徴とする。微生物の中でも、芽胞を形成し長期間生存し人体に安全なバチルス属が、好適に用いられる。上記忌避成分は、微生物が持続的に発散するため、空気中の濃度が低い。また微生物自体も安全なものを使用することができる。これらの理由のため、極めて安全性が高い衣類害虫忌避剤を提供できる。この衣類害虫忌避剤は、人体に接触しても、口に入っても安全である。これらの微生物は、単独の種を用いても2種以上を併用してもよい。
【0009】
芽胞とは微生物が生存できない過酷な環境におかれた微生物が、その環境に対応するために形成する状態である。この形態になると微生物は活動を止め、乾燥や高温、低温などの微生物にとって危険な状況を生き延びることができるようになる。生きた微生物を商材として扱う場合に、輸送や保存は特に問題になるが、この芽胞状態を利用すればこの問題は解決し、容易に管理が可能になる。
【0010】
本発明者らは、芽胞状態の微生物に関して鋭意研究を行ったところ、芽胞状態でも、微生物が揮発性物質を産生することを確認し、これを用いてさまざまな環境に対応して持続的に効果を発揮する抗菌剤や消臭剤が得られることを見出している。
【0011】
この芽胞化した微生物が揮発性物質を産生するメカニズムを利用して、安全で持続的な衣類害虫の忌避を行ったのが本発明である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る衣類害虫忌避剤は、忌避剤に導入した微生物が持続的に発する揮発性物質を用いるものであって、衣類害虫に対して持続的に優れた忌避効果を有する。従って、衣類害虫を衣類等に寄せ付けず、人体に対して安全で持続的な害虫忌避が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に用いる微生物は、微生物を微生物担体に担持させた状態で乾燥させることによって、微生物粉体とした状態で用いることもできる。
【0014】
ここで用いる微生物は、人体に害がなく衣類害虫を忌避する揮発性物質を産生するものなら使用でき、好ましくは芽胞などによって長期的に生存可能なものが好ましい。
【0015】
バチルス属の微生物は芽胞により乾燥状態で長期的に生存が可能である。代表的な株は枯草菌のBacillus subtilis種で、納豆菌などもこの種に含まれる。
【0016】
Bacillus sporothermodurans属に近縁な受託番号NITE P-02127を有する微生物は、安全性が確認されたバチルス属であり、芽胞状態での揮発性物質も観測されている。
【0017】
微生物は前記の物に限らず、例えば自然界などから分離されたバチルス属も適宜用いることができる。
【0018】
本発明の衣類害虫忌避剤に使用する微生物は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0019】
ここで、微生物担体とは、微生物を保持する能力を有するもののことを言い、具体的には、多孔質ガラス、多孔質シリカ、セラミックス、金属酸化物、活性炭、カオリナイト、ベントナイト、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、アンスラサイト、パーライト等の粒子状担体、デンプン、寒天、キチン、キトサン、ポリビニルアルコール、アルギン酸、ポリアクリルアミド、カラギーナン、アガロース、ゼラチン等のゲル状担体、イオン交換樹性セルロース、イオン交換樹脂、セルロース誘導体、グルタルアルデヒド、ポリアクリル酸、ウレタンポリマー等を用いることができる。また、天然、もしくは合成の高分子化合物も有効であり、セルロースを主成分とする綿、麻、パルプ材より作られる紙類もしくは天然物を変性した高分子アセテート等も用いることができる。さらに、ポリエステル、ポリウレタンを初めとする合成高分子からなる布類も使用することができる。これらは微生物の付着性が良く、微細な間隙を有するものが好ましい。また注入時に容易に浸透できる微細な材料を用いるのがより好ましい。
【0020】
本発明の衣類害虫忌避剤には、香料等の他の配合剤を含有してもよい。
【0021】
本発明の衣類害虫忌避剤は微生物が産生する揮発性物質を利用したものであるが、既存の植物抽出物や精油、木材など忌避効果のある物質を用いた忌避剤と組み合わせることにより、相乗効果を得ることもできる。
【0022】
特にダニ忌避効果の高い物質を用いた忌避剤と組み合わせることにより、衣類害虫だけでなくダニの被害も幅広く防ぐことができる忌避剤を作ることが可能となる。
【0023】
本発明の対象となる衣類害虫類は、イガ、コイガ、ヒメカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ等が挙げられる。
【0024】
本発明の衣類害虫忌避剤は、その使用場所や使用物品としては特に限定されず、使用することができる。このような場所や物品としては、例えば、押入、下駄箱等の収納具類、台所、倉庫、床、廊下、畳、絨毯、カーペット、車シート等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【実施例0027】
Bacillus属等に属する微生物は乾燥状態などの生存に適さない状態になると芽胞を形成し、乾燥や温度変化などに強い保存に適した状態となる。これを利用して、微生物培養液を多孔質物質に担持させた後に乾燥させ、芽胞形成を促すことで芽胞微生物粉体を作成することができる。
微生物担体としてパーライト1kgに、使用する微生物の微生物培養液 2Lを含浸させた。その後、微生物を担持した担体を常温の乾燥下に置き、乾燥させて水分を10%以下にし、微生物粉体1を作成した。微生物には、NITE P-02127の微生物株を用いた。
【0028】
図1に示すように直径20 mm長さ200 mmのビニールチューブを用意し内部に、衣類害虫であるヒメカツオブシムシの幼虫10匹、不織布に入れた微生物粉体1の順に配置し、幼虫を配置した側のチューブ口を通気性のある不織布で蓋をし、反対側の口は誘引餌を貼り付け脱脂綿で覆ったテープで蓋をした。通気性を保ちながら遮光した室温約25℃の環境で24時間静置した。その後、チューブ内の幼虫の位置を観察した。
【0029】
この試験を複数回行ったところヒメカツオブシムシの幼虫10匹中6~10匹が誘引餌側ではなく微生物粉体から遠ざかるように出口の不織布側に集まり、誘引餌側に移動しているものはほとんどいなかった。このことから、微生物粉体1は衣類害虫を忌避する力があった。
【0030】
次に微生物粉体1に植物の精油を多孔質シリカに担持させた粉末を混合して微生物混合粉体とした。この粉体1.0 gを不織布に封入した。
【0031】
前述の
図1に示す試験と同様の試験をこの微生物混合粉体に対して行った。衣類害虫の幼虫としてはヒメカツオブシムシとコイガの2種を用いた。また空試験として粉末を用いずに行い、対照として微生物担体に用いたパーライト0.5 gで試験を行った。
【0032】
24時間後のそれぞれのチューブ内での衣類害虫の位置と数を以下の表にまとめた。
表記は、[出口側不織布(A)、チューブ内(B)、検体不織布表面(C)、誘引餌および周辺脱脂綿(D)]の順でその場所にいた害虫の数を表している。
【0033】
【0034】
表1に示す通り、空試験や対照試験では衣類害虫は誘引餌に誘引されているが、微生物混合粉体を配置したチューブ内では誘引餌に到達したものはおらず、大多数が出口の不織布側に移動していた。このことから、微生物混合粉体は衣類害虫を忌避する力があった。
また、使用する微生物株に、受託番号NITE P-02127を有する微生物のような抗菌能力や消臭能力などの有用な効果を持つ菌株を用いることによって、害虫だけでなくカビや悪臭なども同時に対策が可能な製品を作ることも可能である。