(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151751
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】消臭能力および抗菌能力を持つ微生物、ならびにそれを用いた消臭剤、抗菌剤、消臭方法、抗菌方法
(51)【国際特許分類】
A61L 9/01 20060101AFI20231005BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A61L9/01 P
A61L9/01 B
C12N1/20 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061555
(22)【出願日】2022-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】507029133
【氏名又は名称】碇 正男
(72)【発明者】
【氏名】碇 正男
(72)【発明者】
【氏名】松澤 哲宏
【テーマコード(参考)】
4B065
4C180
【Fターム(参考)】
4B065AA15X
4B065AC20
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4B065CA54
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4C180CA04
4C180CC01
4C180CC15
4C180EA24X
4C180EB03X
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4C180EB15X
4C180EC03
4C180FF01
(57)【要約】
【課題】
生活の中で発生する悪臭、トイレやペット、生ゴミなどで発生する硫化水素などの硫黄系の悪臭に対して安全性に優れ、目的とする空間の隅々までに効果が得られる消臭方法、ならびに抗菌方法、および微生物粉体、微生物含有液剤、微生物含有ゲル化剤、粉末消臭剤を提供する。
【解決手段】微生物から発生する成分により、非接触状態で、臭い成分を分解する消臭方法、また、空間内に存在する菌類の発育を抑制する抗菌方法である。有効成分を発生する微生物は、微生物担体に担持させた状態で乾燥させた微生物粉体として用いたり、微生物含有液剤として用いたり、吸水性ポリマーに吸水させた微生物含有ゲル化剤として用いたり、微生物粉体を直接振りかけて用いることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物から発生する成分により、空間内に存在する真菌類の発育を抑制が可能な日和見病原性及び溶血性毒素を持たない安全なBacillus属に属する受託番号NITE P-03621の新規微生物。
【請求項2】
微生物から発生する成分により、空間内に存在するCladosporium属、Penicillium属、Aspergillus属、Rhodotorula属、Trichosporon属及びTrichophyton属に属する真菌を併せて抑制が可能な請求項1記載の日和見病原性及び溶血性毒素を持たない安全なBacillus属に属する微生物。
【請求項3】
硫化水素及びメルカプタン類を併せて消臭範囲に含む、請求項1~2いずれか記載の日和見病原性及び溶血性毒素を持たない安全なBacillus属に属する微生物。
【請求項4】
発生する成分により非接触状態で密閉空間内の消臭を行うことが出来、その消臭範囲に硫化水素及びメルカプタン類を併せて消臭範囲に含む、請求項1~3いずれか記載の日和見病原性及び溶血性毒素を持たない安全なBacillus属に属する微生物。
【請求項5】
芽胞状態のままで、空間内に存在する真菌類の発育の抑制と消臭を可能とする、請求項1~4いずれか記載の日和見病原性及び溶血性毒素を持たない安全なBacillus属に属する微生物。
【請求項6】
請求項1~5いずれか記載の微生物を含む抗菌消臭剤。
【請求項7】
微生物を微生物担体に担持させた微生物粉体を用いた請求項6の抗菌消臭剤。
【請求項8】
微生物と酸化カルシウムを含む微生物含有液剤、もしくはその液剤を吸水性ポリマーに吸水させた微生物含有ゲルである請求項3の抗菌消臭剤。
【請求項9】
多孔性物質及び請求項7記載の抗菌消臭剤を含むことを特徴とする抗菌消臭粉末剤。
【請求項10】
植物材料及び請求項7記載の抗菌消臭剤を含むことを特徴とする抗菌消臭粉末剤。
【請求項11】
請求項1~5いずれか記載の微生物を用いた抗菌消臭方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間内に存在する臭い成分を分解や菌類の発育抑制が可能な微生物、及びそれを用いた消臭方法ならびに抗菌方法、および消臭剤、抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、さまざまな種類の消臭剤、抗菌剤や抗カビ剤が開発され使用されている。トイレやペットなどから発生する悪臭の中でも硫化水素やメルカプタン類は特に消臭しにくい。
【0003】
特許文献1~3には化学的な処理や吸着剤を用いた方法が記載されている。また特許文献4には微生物を用いた生物学的処理方法が記載されている。
【0004】
活性炭などの吸着剤を用いて、臭気成分を物理的に吸着させる方法については、その原理は、マイクロポアに臭気成分が吸着されることによるが、単位重量あたりの吸着能力に差があり、また一度吸着された臭気成分が脱着されるという問題もある。
【0005】
特定の微生物群を利用して臭気成分を分解させるいわゆる微生物学的脱臭法については、その原理は、悪臭の元となる臭気物質の微生物による分解である。この方法は分解する微生物が生菌であり、その代謝作用により臭気物質が分解される。このため、微生物が活動できる条件(温度、湿度、培地等を整えることが必要となる。
【0006】
これらの問題を解決して微生物から発せられる揮発性物質により消臭を行う技術もある(特許文献5)。これは真菌類の発生を抑制やアミン、アンモニアなどに対する消臭効果を望めるが、硫化水素やメルカプタンなどの悪臭に対しての効果が薄い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001-519号公報
【特許文献2】特開2001-522号公報
【特許文献3】特開2001-157706号公報
【特許文献4】特許第2810308号公報
【特許文献5】特開2016-149963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の抗菌方法や脱臭方法は、有効成分が菌類や臭い成分に直接吸着して分解することで効果が得られるものであり、菌類や臭い成分に対して有効な成分は、塗布した場所だけに有効であるため、目的とする空間の隅々まで効果が行き渡ることが少ない。
また 一般的な抗菌方法は合成化合物類や重金属を利用した抗菌剤や抗カビ剤、消臭剤などは、安全性に問題があることが多い。
またこれらを克服した微生物の揮発性物質を利用した抗菌消臭方法でも硫化水素やメルカプタンなどの硫黄系悪臭については効果が薄い。
そこで、本発明は、安全性に優れ、空間の隅々までに抗菌消臭効果が得られる消臭方法ならびに抗菌方法、および消臭剤、抗菌剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究の結果、発見した新規微生物から発生する物質が、空気を介して菌類の発育を抑制したり、臭い成分を分解したりする作用を有することを見出し、発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、微生物を利用することを特徴とし、さらに菌が直接接触状態にある箇所だけでなく、菌から発生する物質により、非接触状態で、空間内に存在する菌類の発育を抑制することを特徴とする。
【0011】
また、その抗菌範囲には屋内でカビ汚染の原因になる様々な原因菌も含む。原因菌としてCladosporium属、Penicillium属、Aspergillus属、Trichosporon属、Rhodotorula属、Penicillium属などがある。
【0012】
また、前記の能力を持つ菌は消臭能力を持つことも特徴とし、菌もしくは菌の培養液が接触した箇所だけでなく、その周囲の空間の消臭も可能とする。
【0013】
また、これらの効果は微生物が芽胞状態でも発揮される。これにより微生物の活動範囲にとらわれない幅広い環境での抗菌、消臭を可能とする。
【0014】
前記微生物としては、Bacillus属に属する新規のグラム陽性有芽胞桿菌(独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター に寄託して令和4年3月11日に受領された受託番号NITE P-03621を有する新規微生物)を用いることができる。この微生物は、臭い成分を分解し、菌類の発育抑制する特徴を有する。
【0015】
また、本発明の消臭方法は、接触状態だけでなく非接触状態でも、略密閉状態の空間内に存在する臭い成分を分解することを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、略密閉状態の空間内に存在する菌類や臭い成分に、微生物から発生する揮発性成分が空気を介して吸着し、菌類の発育が抑制されたり臭い成分が分解されたりするので、スプレーなどによる散布や刷毛などによる塗布といった作業を行うことなく、略密閉状態の空間内に微生物を置いておくだけで、空間内の隅々まで効果を得ることができる。しかも安全性が高いため、人が生活している環境下で持続的に使用することが可能である。
【0017】
本発明の微生物粉体は、略密閉状態の空間内に存在する菌類の発育抑制、または臭い成分を分解する特徴を持つ微生物、特にBacillus属に属する新規微生物、または、それを含む2種以上の微生物を培養した培養液を微生物担体に担持させた状態で乾燥させたものである。
【0018】
ここで、微生物培養液とは、微生物を培養するための液体を言う。この液体には微生物を培養するために必要な成分としてペプトン類、エキス類、ミネラル類などを含む。また有機酸類を添加して用いることもできる。
【0019】
ペプトン類としては具体的には、カゼインペプトン、獣肉ペプトン、心筋ペプトン、ゼラチンペプトン、大豆ペプトンなどが上げられる。エキス類としては酵母エキス、肉エキス、麦芽エキス、心臓浸出液などが上げられる。ミネラル類としては塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、りん酸二水素カリウム、リン酸水素2ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン、硝酸カリウムなどが上げられる。有機酸としては、酢酸、クエン酸、フマル酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸などが上げられる。
【0020】
ここで、微生物担体とは、微生物を保持する能力を有するもののことを言い、具体的には、多孔質ガラス、セラミックス、金属酸化物、活性炭、カオリナイト、ベントナイト、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、アンスラサイト、パーライト等の粒子状担体、デンプン、寒天、キチン、キトサン、ポリビニルアルコール、アルギン酸、ポリアクリルアミド、カラギーナン、アガロース、ゼラチン等のゲル状担体、イオン交換樹性セルロース、イオン交換樹脂、セルロース誘導体、グルタルアルデヒド、ポリアクリル酸、ウレタンポリマー等を用いることができる。また、天然、もしくは合成の高分子化合物も有効であり、セルロースを主成分とする綿、麻、パルプ材より作られる紙類もしくは天然物を変性した高分子アセテート等も用いることができる。さらに、ポリエステル、ポリウレタンを初めとする合成高分子からなる布類も使用することができる。これらは微生物の付着性が良く、微細な間隙を有するものが好ましい。また注入時に容易に浸透できる微細な材料を用いるのがより好ましい。
【0021】
本発明によれば、略密閉状態の空間内に存在する菌類の発育抑制、または臭い成分を分解する特徴を持つ微生物、特にBacillus属に属する新規微生物、または、それを含む2種以上の微生物を、粉体として取り扱うことができるため、たとえば、本発明の微生物粉体を、織布や不織布などの布類に充填させて略密閉状態の空間内に設置したり、容器に充填して載置したりするだけで、空間内の隅々まで効果を得ることができ、取り扱いが容易となる。
【0022】
また、微生物と酸化カルシウム水溶液とを混合することによって、抗菌剤や消臭剤として使用することができる微生物含有液剤とすることができる。また、この微生物含有液剤を吸水性ポリマーに吸水させることにより、抗菌剤や消臭剤として使用することができる微生物含有ゲル化剤とすることもできる。
【0023】
ここで、吸水性ポリマーは、特に制限されるものではなく、既知のものを使用することができ、デンプン系高分子材料やセルロース系高分子材料、合成高分子など、どのようなものを使用してもよい。なお、微生物の付着面積を増加させるために、吸水性ポリマーは顆粒状のものを使用する方が望ましい。
【0024】
微生物を含む溶液と酸化カルシウム水溶液とを混合することによって、微生物含有液剤ならびに、この液剤を吸水した吸水性ポリマーは、酸化カルシウムの作用によりホルムアルデヒドなどの酸性の臭い成分を分解することも可能となる。従って、本発明によれば、略密閉状態の空間における菌類の発育抑制や臭い成分の分解に加えて、シックハウス症候群の原因物質とされるホルムアルデヒドの分解をも行うことで、空間内の環境をさらに改善することが可能となる。なお、酸化カルシウム水溶液としては、例えば、貝殻を焼成して得られた粉末を用いた水溶液などを使用することができる。
【0025】
また、微生物粉体と多孔性物質及び/または植物材料とを混合することによって、抗菌剤や消臭剤として使用することができる抗菌消臭粉末剤とすることができる。また、この抗菌消臭粉末剤を生ゴミなどの悪臭源に直接振りかけたりすることにより、抗菌消臭を行いつつ悪臭の拡散を抑制することもできる。
【0026】
ここで多孔性物質とは、通気性およびまたは保水性を有すれば特に限定されるものではなく、前記微生物担体に用いた各種材料を用いることができる。また、植物材料としてはウッドチップ、おがくず、ピートモス、もみがら、椰子殻などの植物由来の材料を用いることができる。
【0027】
この抗菌消臭粉末剤は、性能を向上させるために有機酸、石灰、香料等の他の配合剤を含有してもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、微生物から発生する揮発性成分により、非接触状態で、空間内に存在する菌類の発育を抑制したり、硫化水素やメルカプタンなどを含めた臭い成分を分解したりすることができるので、合成化合物類や重金属を用いることのない安全性の高い抗菌、脱臭方法とすることができる。また、微生物が芽胞状態でもこれらの抗菌消臭効果を発揮するため、幅広い環境で使用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【実施例0030】
(実施例1)
以下に示す実施例では、菌類の発育抑制、または臭い成分を分解する揮発性成分を発生する微生物として、受託番号NITE P-03621、Bacillus属に属する新規微生物(以下、「本菌1」と称す。)を用いた。
【0031】
1-1:菌学的性質
表1、表2、表3に、本実施例で用いた本菌1の菌学的性質を示す。(+:陽性、-:陰性)
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
1-2:単離方法
なお、本菌1は、以下のようにして単離されたものである。
まず、400か所以上の土壌等から試料を採取し、その希釈液にチオ硫酸ナトリウムなどを加えた培地で30℃48時間培養した。そして、コロニーが得られた培地から白金線を用いて菌体を取り、細菌分離株を1000以上得た。これら細菌分離株の硫化水素、メチルメルカプタンなどの消臭能、真菌類への抗菌効果を評価した。さらに、遺伝子解析、溶血毒素に関する試験を行い、病原因子を持たない株を選抜し、本菌1を得た。
【0036】
1-3:消臭効果の定量試験方法
10Lバロンボックスを用意し、内部に被検体となる臭気を発生させた。このバロンボックス内に本菌1の培養液を20ml散布し、被検体濃度を観察した。対照(ブランク)としては水20mlを用いて、同様の試験を行った。観察にはガステック社の検知管法を用いた。表4に被検体濃度の変化を示す。
【0037】
【0038】
表4が示す通り、硫化水素を短時間で減少させる優れた消臭能力が確認できた。
【0039】
(実施例2)
2-1:微生物粉体の製造方法
生きている微生物や微生物培養液は微生物の活動により保存や移動が難しく、製品として扱いづらい。Bacillus属に属する微生物は乾燥状態などの生存に適さない状態になると芽胞を形成し、乾燥や温度変化などに強い保存に適した状態となる。これを利用して、微生物培養液を多孔質物質に含浸させた後に乾燥させ、芽胞形成を促すことで保存や移動に適した形態にすることができる。
多孔質の粉末担体としてパーライト200gに、本菌1の微生物培養液400mlを含浸させた。その後、微生物を担持した担体を常温の低湿度下に置き、乾燥させて水分を10%以下にし、微生物粉体1とした。
【0040】
2-2:消臭効果の定量試験方法。
10Lバロンボックスを用意し、25℃に調整した庫内に配置し、内部に被検体となる臭気を発生させた。このバロンボックス内に本菌1の微生物粉体1.0gを不織布製の袋に詰めて封をしたものを壁面に触れぬように吊下げて、被検体濃度を観察した。対照(ブランク)として何も含侵していないパーライト1.0gを同様に不織布製の袋に詰めて封をしたものを用意して、同様の試験を行った。観察にはガステック社の検知管法を用いた。表5に被検体濃度の変化を示す。
【0041】
【0042】
表5が示す通り、硫化水素やメルカプタンを減少させる効果が認められた。これに関して詳細なメカニズムはまだ明らかにされていないが、本菌1が外部に何らかの消臭に関連する物質を産生していることが考えられる。
【0043】
アンモニアやアミン類に同様の消臭能力を持つ微生物株(受託番号NITE P-02127のBacillus属の微生物)を用いて前述の方法で同様に微生物粉体を作成したものを用意し、これを微生物粉体1と1:1で混合することにより混合微生物粉体1を得た。この粉体1.0gに対しても、前述の消臭効果の定量試験方法に従い試験を行った。この結果を表6に示す。
【0044】
【0045】
試験を行った全ての臭気に対して消臭効果が認められた。微生物粉体を混合することによりお互いの消臭効果を打ち消すことなく幅広い悪臭に対応することができる。
【0046】
2-3:非接触抗菌効果の定量試験方法
本試験に用いた被験菌について表7に示す。表7に示すように、どれも屋内の一般環境によく存在する環境常在菌である。
【0047】
【0048】
2-4:微生物粉体の抗菌効果の定量試験
表7に記す被験菌をPDA培地で培養し胞子を採取しリン酸緩衝液で希釈して胞子懸濁液を作製した。この胞子懸濁液をPDA培地のシャーレに接種し、試験培地1とした。また、標準寒天培地のシャーレに微生物粉体1を0.5g敷き詰めたものを試験培地2とした。この試験培地1と試験培地2をプラスチック製の容量2Lの密閉容器に入れ、室温で培養した。なお、培養日数は7日間とした(以下、これを「処理区」と称す。)。
【0049】
一方、試験培地1と何も塗布してない標準寒天培地のシャーレを上記と同様のプラスチック製の密閉容器に入れ、室温で培養した。なお、上記と同様に、培養日数は7日間とした(以下、これを「対照区」と称す。)。処理区、対照区それぞれについて、発育してきた被験菌のコロニー数とサイズ、胞子の発生の有無を計測し、発育抑制度を算定した。
【0050】
2-5:定量試験の結果
以下、表8に定量試験の結果を示す。また、
図1に、番号1,2、3の糸状菌の場合に
おける対照区ならびに処理区の試験容器1の写真を示す。表8に示すように、すべての真菌に対して、強い抗菌活性が認められた。
【0051】
【0052】
表8に示すように、全ての被検菌に対して、きわめて強い抗菌活性が認められた。またこれらの菌株以外に白癬菌の原因菌Trichophyton rubrum
でも同様の試験方法で2週間の期間を置いて試験したが、コロニーは出現したが対照区に対してコロニーの成長の抑制を確認した。これらの結果に関して詳細なメカニズムはまだ明らかにされていないが、試験方法から推測すると、培地に接種された本菌1から発生する揮発性成分が、空気を介して、寒天培地に塗抹接種された被験菌に吸着し、これにより、被験菌の発育が抑制されたものと考えられる。すなわち、本菌1を用いることにより、対象とする菌類に直接接触しなくても、当該菌類の発育を抑制することができることがわかる。従って、略密閉状態の空間に本菌1を置くだけで、空間内に存在する糸状菌などの菌類の発育の抑制を、空間内の隅々まで行うことが可能となる。
【0053】
2-6:揮発性物質の分析
微生物粉体1を2g封入した不織布袋を用いた。ブランクとしては、無菌のパーライト2gを封入した不織布袋を用いた。それぞれを5Lフレックスサンプラーに入れ、乾燥空気を封入し、32℃・72Hr恒温器内で放置した。その後、GC/MS分析を行い、発生している揮発成分の分析を行った。
【0054】
この結果、3-メチルブタノール、ジメチルサルファイド、ノナナール、ジメチルチリスルフィド、ベンズアルデヒド、ベンゼンアセトアルデヒド、サリチルアルデヒドの発生が確認できた。これはどれも消臭や抗菌の作用が報告されている物質である。
【0055】
上記試験結果から、本菌1は菌類に対して発育の抑制が可能である。また、臭いの原
因となる成分の分解に対しても有用であることが言える。
【0056】
(実施例3)
3-1:微生物粒体の製造方法
前記2-1と同様の手段でゼオライトボールなどを担体に用いて粒体を作ることも可能である。
直径約1cmのゼオライトボール 100gに、本菌1の微生物培養液200mlを含浸させた。その後、微生物を担持した担体を常温の低湿度下に置き、乾燥させて水分を5%以下にし、微生物粒体1とした。
【0057】
3-2:消臭効果の定量試験方法。
10Lバロンボックスを用意し、25℃に調整した庫内に配置し、内部に被検体となる臭気を発生させた。このバロンボックス内に本菌1の微生物粒体10.0gを不織布製の袋に詰めて封をしたものを壁面に触れぬように吊下げて、被検体濃度を観察した。観察にはガステック社の検知管法を用いた。表9に被検体濃度の変化を示す。
【0058】
【0059】
表XXが示す通り、微生物粉体と同じように微生物粒体1も硫化水素を減少させる効果が認められた。
【0060】
(実施例4)
微生物含有液剤の製造方法
焼成カルシウム溶液97%に対して、微生物培養液を3%混合させることによって微生物含有液剤を得た。これにより、微生物による成分が臭い成分を分解することに加え、焼成カルシウム溶液が持つ作用により酸性などの臭い成分を分解し、相乗的な効果を得ることが可能となる。
【0061】
(実施例5)
微生物含有ゲル化剤の製造方法
実施例3で製造した微生物含有液剤を、顆粒状の吸水性ポリマーに適量含浸させた。これにより扱いやすいビーズ状のゲルを得た。
【0062】
(実地例6)
6-1:抗菌消臭粉末剤の製造方法
植物材料としておがくずを用意し、そこに多孔性物質としてパーライト、実施例1の混合微生物粉体1をそれぞれ10%以下となる様に添加し、抗菌消臭粉末剤1を得た。この抗菌消臭粉末剤1は生ゴミなどの悪臭源に直接振りかけたりすることにより、抗菌消臭を行いつつ悪臭の拡散を抑制することもできる。
【0063】
6-2:消臭効果の試験方法。
10Lの蓋つきポリバケツを用意し、内部に混合した食材(幕の内弁当100g、鍋用野菜セット(はくさい、えのき、長ネギ、にんじん、水菜)200g)に配置した。この食材の上に抗菌消臭粉末剤1を3.0 gを振りかけた。また同様に食材をいれて何も振りかけなかったものを対照とした。ポリバケツは蓋をして20℃程度の室温の元で放置し、24時間ごとにポリバケツ内の臭気を3人の成人男性に6段階で臭気を判定してもらった。この臭気の判定結果を表10に示す。表記されている6段階の数値は(0:無臭 1:やっと感知できるにおい 2:何の臭いか分かる弱いにおい 3:楽に感知できるにおい 4:強いにおい 5:強烈な臭い )を表している。
【0064】
【0065】
表10に示すように、抗菌消臭粉末剤1をふりかけたものは腐敗臭の発生が抑えられ、元々の食材の臭いも抑えられた。これにより、食材を廃棄した時の生ゴミの臭気に対して効果があると言える。