(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151759
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】粉体塗料
(51)【国際特許分類】
C09D 167/00 20060101AFI20231005BHJP
C09D 5/03 20060101ALI20231005BHJP
C09D 133/14 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C09D167/00
C09D5/03
C09D133/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061563
(22)【出願日】2022-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(72)【発明者】
【氏名】後藤 宏之
(72)【発明者】
【氏名】津田 裕久
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG141
4J038DD001
4J038GA06
4J038GA07
4J038KA03
4J038PA02
(57)【要約】
【課題】粉体塗料製造後、保管期間中の固相反応を制することができ、得られる塗膜の仕上り外観及び塗膜性能にも優れた粉体塗料を提供すること。
【解決手段】酸基含有ポリエステル樹脂(A)、グリシジル基含有アクリル樹(B)、及びポリカルボジイミド化合物(C)を含有することを特徴とする粉体塗料。特に、ポリカルボジイミド化合物(C)の含有量が、酸基含有ポリエステル樹脂(A)及びグリシジル基含有アクリル樹脂(B)の固形分総量に対して、1.5~6.0質量%の範囲内である粉体塗料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸基含有ポリエステル樹脂(A)、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)、及びポリカルボジイミド化合物(C)を含有することを特徴とする粉体塗料。
【請求項2】
ポリカルボジイミド化合物(C)の含有量が、酸基含有ポリエステル樹脂(A)及びグリシジル基含有アクリル樹脂(B)の固形分総量に対して、1.5~6.0質量%の範囲内である請求項1に記載の粉体塗料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の粉体塗料の塗膜が形成された塗装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸基含有ポリエステル樹脂と、グリシジル基含有アクリル樹脂と、ポリカルボジイミド化合物とを含有し、特に粉体塗料製造後、保管期間中の固相反応を抑制することができ、仕上り外観及び塗膜性能にも優れた粉体塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶剤等のVOC(揮発性有機化合物)を含有しない環境対策の塗料として、粉体塗料がある。
【0003】
環境負荷軽減の観点から、比較的低温で硬化する粉体塗料が求められており、その一つとして、酸/エポキシ硬化系があり、例えば、バインダー樹脂と硬化剤の組合せとして、酸基含有ポリエステル樹脂とグリシジル基含有アクリル樹脂が知られている。
【0004】
例えば特許文献1には、(A)カルボキシル基含有非結晶性ポリエステル樹脂、(B)カルボキシル基及び/又はヒドロキシ基含有結晶性ポリエステル樹脂、(C)エポキシ基含 有アクリル粉体架橋剤を必須成分として含有することを特徴とする熱硬化性ポリエステル粉体塗料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1等の熱硬化性ポリエステル粉体塗料は、粉体塗料製造後、保管期間中の固相反応の抑制が不十分で、塗膜の光沢不良や付着性の低下等、塗膜性能が不良となる問題が発生する場合があった。
【0007】
本発明は、粉体塗料製造後、保管期間中の固相反応を抑制することができ、得られる塗膜の仕上り外観及び塗膜性能にも優れた粉体塗料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため開発を行った結果、酸基含有ポリエステル樹脂とグリシジル基含有アクリル樹脂を含有する酸/エポキシ硬化系の粉体塗料に対し、さらにカルボジイミド化合物を含有する粉体塗料によれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明によれば、
項1. 酸基含有ポリエステル樹脂(A)、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)、及びポリカルボジイミド化合物(C)を含有することを特徴とする粉体塗料、
項2. ポリカルボジイミド化合物(C)の含有量が、酸基含有ポリエステル樹脂(A)及びグリシジル基含有アクリル樹脂(B)の固形分総量に対して、1.5~6.0質量%の範囲内である上記項1に記載の粉体塗料、
項3. 上記項1又は2に記載の粉体塗料の塗膜が形成された塗装物品、が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の粉体塗料によれば、粉体塗料製造後、保管期間中の固相反応を抑制することができ、得られる塗膜の仕上り外観及び塗膜性能にも優れた粉体塗料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の粉体塗料をより詳細に説明する。
【0012】
本発明の粉体塗料は、酸基含有ポリエステル樹脂(A)、グリシジル基含有アクリル樹脂(B)、及びポリカルボジイミド化合物(C)を含有することを特徴とする粉体塗料である。
【0013】
<酸基含有ポリエステル樹脂(A)>
酸基含有ポリエステル樹脂(A)は、酸基を有するポリエステル樹脂であり、例えば、多塩基酸を主成分とした酸成分と、多価アルコールを主成分としたアルコール成分とを原料として通常の方法により縮重合することにより得ることができる。特に、末端官能基として酸基を含有するポリエステル樹脂である。
【0014】
酸基としては、カルボキシル基が好ましい。
【0015】
上記多塩基酸成分としては、例えば、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸、イソフタル酸ジメチル、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類及びこれらの無水物、トリメリット酸等の3価以上の芳香族多価カルボン酸類及びこれらの無水物、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸類及びこれらの無水物等を挙げることができる。
【0016】
また、酸成分として、γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトン等のラクトン類、p-オキシエトキシ安息香酸等の芳香族オキシモノカルボン酸類も使用することができる。
上記のうち、テレフタル酸、イソフタル酸等を好適に使用することができる。上記酸成分は1種又は2種以上を使用することができる。
【0017】
上記アルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,3-ペンタンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2-ドデカンジオール、1,2-オクタデカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAアルキレンオキシド付加物、ビスフェノールSアルキレンオキシド付加物等の直鎖状又は分枝状の脂肪族グリコール類、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコール類等を挙げることができる。
【0018】
上記のうち、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール等を好適に使用することができる。上記アルコール成分は1種又は2種以上を使用することができる。
【0019】
ポリエステル樹脂(A)の酸価は、硬化性と仕上り外観の観点から、10~50mgKOH/g、特に15~45mgKOH/gの範囲内であることが好ましい。
【0020】
ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量は、仕上り外観と加工性、耐衝撃性の観点から、5000~15000、特に6500~13500の範囲内であることが好ましい。
【0021】
本明細書において、重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定した保持時間(保持容量)を、同一条件で測定した分子量既知の標準ポリスチレンの保持時間(保持容量)によりポリスチレンの分子量に換算して求めた値である。カラムは、「TSKgel G-4000H×L」、「TSKgel G-3000H×L」、「TSKgel G-2500H×L」、「TSKgel G-2000H×L」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1ml/分、検出器;RIの条件で行ったものである。
【0022】
ポリエステル樹脂(A)のガラス転移温度は、仕上り外観と加工性、耐衝撃性の観点から、40~80℃、特に50~70℃の範囲内であることが好ましい。ガラス転移温度は、JIS K 7121に準拠して、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができる。
【0023】
また、ポリエステル樹脂(A)の軟化温度は、仕上り外観と耐ブロッキング性の観点から、80~130℃、特に90~120℃の範囲内であることが好ましい。本発明において、軟化点は管球法により測定される値である。
【0024】
<グリシジル基含有アクリル樹脂(B)>
グリシジル基含有アクリル樹脂(B)は、分子の末端または側鎖に、グリシジル基を有するビニル系共重合体である。
【0025】
アクリル樹脂(B)は、少なくとも1つのグリシジル基を有する重合性単量体と、共重合可能な他のビニル系単量体と共重合させることによって、得ることができる。
【0026】
グリシジル基を有する重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸β-メチルグリシジル等を挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を使用することができる。
【0027】
前記グリシジル基を有する重合性単量体と共重合可能な他のビニル系単量体は、分子中にビニル基等の不飽和結合を少なくとも1つ有するものであり、アクリル酸及びメタクリル酸の誘導体を含む。
【0028】
ビニル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸もしくはフマル酸等のカルボキシル基含有単量体;
イタコン酸、マレイン酸もしくはフマル酸等の多価カルボキシル基含有単量体と、炭素数が1~18のモノアルキルアルコールとのモノ-またはジエステル;
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等のエチレン系不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;
(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等のシクロアルキル基含有重合性単量体;
(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート;
(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルとε-カプロラクトン付加反応主成分等の上記水酸基含有(メタ)アクリレートと、ε-カプロラクトンの付加反応主成分(付加反応物を構成する主成分);
2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、3-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、3-ヒドロキシブチルビニルエーテル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピルビニルエーテル、5-ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6-ヒドロキシヘキシルビニルエーテル等の水酸基含有ビニルエーテル;
上記水酸基含有ビニルエーテルと、ε-カプロラクトンとの付加反応生成物;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アリルエーテル、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アリルエーテル、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アリルエーテル、4-ヒドロキシブチル(メタ)アリルエーテル、3-ヒドロキシブチル(メタ)アリルエーテル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピル(メタ)アリルエーテル、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アリルエーテル、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アリルエーテル等の水酸基含有アリルエーテル;
上記水酸基含有アリルエーテルと、ε-カプロラクトンとの付加反応生成物;
アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、メトキシブチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアミド基含有エチレン系不飽和カルボン酸単量体;
N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドもしくはN-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミノ基含有アミド系不飽和単量体;
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート;
tert-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、tert-ブチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、アジリジニルエチル(メタ)アクリレート、ピロリジニルエチル(メタ)アクリレートもしくはピペリジニルエチル(メタ)アクリレート等のその他のアミノ基含有単量体;
エチレン、プロピレン、ブテン-1等のα-オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等の、フルオロオレフィンを除くハロゲン化オレフィン類(ハロ・オレフィン類);スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル単量体;
γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等の加水分解性シリル基含有単量体;
(メタ)アクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ(iso-)酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、C9の分岐状(分枝状)脂肪族カルボン酸ビニル、C10の分岐状脂肪族カルボン酸ビニル、C11の分岐脂肪族カルボン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等の脂肪族カルボン酸ビニル;
シクロヘキサンカルボン酸ビニル、メチルシクロヘキサンカルボン酸ビニル、安息香酸ビニル、p-tert-ブチル安息香酸等の、環状構造を有するカルボン酸のビニルエステル類等を挙げることができる。
【0029】
これらは1種又は2種以上を使用することができる。尚、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。また、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル又はメタクリロイルを意味し、「(メタ)アクリルアミド」は、アクリルアミド又はメタクリルアミドを意味する。
【0030】
アクリル樹脂(B)におけるエポキシ当量は、硬化性、付着性及び仕上り外観の観点から、150~500g/eq、特に200~450g/eq以下であることが好ましい。なお、エポキシ当量は、JIS K 7236に準拠した方法により測定することができる。
【0031】
アクリル樹脂(B)は、塗膜形成時における仕上り外観、耐衝撃性、加工性の観点から、ガラス転移温度が、45℃~80℃、特に50℃~75℃、さらに特に55℃~70℃の範囲内であることが好ましい。
【0032】
尚、本明細書において、アクリル樹脂のガラス転移温度Tgは、下記式により算出される値である。
【0033】
1/Tg(K)=W1/T1+W2/T2+・・・Wn/Tn
Tg(℃)=Tg(K)-273
式中、W1、W2、・・・Wnは各モノマーの質量分率であり、T1、T2・・・Tnは各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度Tg(K)である。
【0034】
尚、各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度は、POLYMER HANDBOOK Fourth Edition,J.Brandrup,E.h.Immergut,E.A.Grulke編(1999年)による値であり、該文献に記載されていないモノマーのガラス転移温度は、該モノマーのホモポリマーを重量平均分子量が50,000程度になるようにして合成し、そのガラス転移温度を示差走査型熱分析により測定したときの値を使用する。
【0035】
アクリル樹脂(B)の重量平均分子量は、ポリエステル樹脂(A)との相溶性や塗膜形成時における表面平滑性の観点から、3500~6500、特に4000~6000の範囲内であることが好ましい。
【0036】
アクリル樹脂(B)が水酸基価を有する場合、水酸基価は、硬化性及び耐水性の観点から、0~30mgKOH/g、特に0~20mgKOH/gの範囲内であることが好ましい。
【0037】
グリシジル基含有アクリル樹脂(B)の合成方法としては、上記少なくとも1つのグリシジル基を有する単量体を、これらと共重合可能な他のビニル系単量体と共重合させる方法であれば、特に制限はない。例えば、公知の種々の方法により行うことができ、例えば、上記の種々の単量体を、溶液中でラジカル重合反応させた後に、脱溶剤することにより、目的とする重合体を得る方法が、分子量の調節が容易であるという点で好ましい。
【0038】
最終的に製造された粉体塗料において、ポリエステル樹脂(A)とアクリル樹脂(B)の量比は、硬化性と加工性、耐衝撃性の観点から、ポリエステル樹脂(A)のカルボキシル基1当量に対して、アクリル樹脂(B)のエポキシ当量が、0.70~1.50当量、特に0.75~1.40当量、さらに特に0.80~1.30当量の範囲内となる量比とすることが好ましい。
【0039】
<ポリカルボジイミド化合物(C)>
ポリカルボジイミド化合物(C)は分子中に-N=C=N-基を有する化合物であり、例えば、カルボジイミド化触媒の存在下でジイソシアネートの脱炭酸縮合反応によって製造することができる。カルボジイミド化触媒としては、スズ、酸化マグネシウム、カリウムイオン、18-クラウン-6、3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレンオキシド等、及びこれらの組合せを挙げることができる。これらは単独でまたは2種以上組合せて使用することができる。
【0040】
ジイソシアネートとしては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4´-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキシルジイソシアネート、4,4´-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、2,4,6-トリイソプロピルフェニルジイソシアネート、1,12-ジイソシアネートドデカン、2,4,-ビス-(8-イソシアネートオクチル)-1,3-ジオクチルシクロブタン、n-ペンタン-1,4-ジイソシアネート等の多官能イソシアネート化合物を挙げることができる。
【0041】
より具体的には、カルボジイミド化合物は、例えば、上記の1種又は2種以上を脱二酸化炭素縮合反応させることにより、カルボジイミド化し、末端の残存イソシアネート基を親水性基等で封止することにより製造することができる。
【0042】
上記の封止する親水性基としては、例えば、アルキルスルホン酸塩の残基、ジアルキルアミノアルコールの残基の四級塩、アルコキシ基末端を封鎖されたポリオキシアルキレンの残基等を挙げることができる。
【0043】
ポリカルボジイミド化合物(C)は加工性、耐衝撃性及び仕上り外観の観点から、カルボジイミド当量が150~450g/eq、特に200~400g/eqの範囲内にあることが好ましい。
【0044】
ポリカルボジイミド化合物(C)は市販品を使用することができる。具体的には例えば、「Stabaxol I(カルボジイミド当量360g/eq)」、「StabaxoP(カルボジイミド当量295g/eq)」、「Stabaxol P100(カルボジイミド当量285g/eq)」、「Stabaxol 1LF(カルボジイミド当量390g/eq)」(以上、製品名、ラインケミージャパン株式会社製)「カルボジライトLA-1(カルボジイミド当量245g/eq)」、「カルボジライトHMV-15CA(カルボジイミド当量260g/eq)」、「カルボジライトHMV-5CA-LC(カルボジイミド当量310g/eq)」、「カルボジライトV-04(カルボジイミド当量335g/eq)」、「カルボジライトV-02-L2(カルボジイミド当量385g/eq)」、「カルボジライトE-05(カルボジイミド当量310g/eq)」(以上、製品名、日清紡ケミカル株式会社製)等を挙げることができる。
【0045】
本発明の粉体塗料において、ポリエステル樹脂(A)とポリカルボジイミド化合物(C)の量比は、加工性及び耐衝撃性の観点から、ポリエステル樹脂(A)のカルボキシル基1当量に対して、ポリカルボジイミド化合物(C)のカルボジイミド当量が、0.10~0.30当量、特に0.15~0.25当量の範囲内となる量比とすることが好ましい。
【0046】
ポリカルボジイミド化合物(C)の含有量は、固相反応の抑制及び得られる塗膜の仕上り外観の観点から、酸基含有ポリエステル樹脂(A)及びグリシジル基含有アクリル樹脂(B)の固形分総量に対して、1.5~6.0質量%、特に2.0~5.5質量%、さらに特に2.5~5.0質量%の範囲内であることが好ましい。
【0047】
本発明の粉体塗料には、必要に応じてさらに、有機系ないしは無機系の顔料等をはじめ、触媒、表面調整剤、可塑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、ワキ防止剤、顔料分散剤等の、公知の種々の添加剤;ニトロセルロース、セルロースアセテートブチレート等の繊維素誘導体;塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、石油樹脂、エポキシ樹脂、塩化ゴム等のポリエステル樹脂(A)及びアクリル樹脂(B)以外の、樹脂、硬化剤も必要に応じて使用することができる。樹脂を添加することもできる。
【0048】
顔料としては、例えば、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム等の防錆顔料、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ、マイカ等の体質顔料;二酸化チタン、べんがら、黄色酸化鉄、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン系赤色顔料等の着色顔料;等を挙げることができる。
【0049】
顔料を含有する場合、その含有量は、仕上り外観と耐ブロッキング性の観点から、ポリエステル樹脂(A)及びアクリル樹脂(B)の固形分総量に対して、10~120質量%、特に20~100質量%の範囲内であることが好ましい。
【0050】
触媒としては、例えば、イミダゾール類化合物、イミダゾリン類化合物及びこれらの金属塩複合体、3級ホスフィン類化合物、4級ホスホニウム塩類化合物及び4級アンモニウム塩類化合物等を挙げることができる。
【0051】
触媒を含有する場合、その含有量は、硬化性及び仕上り外観の観点から、ポリエステル樹脂(A)及びアクリル樹脂(B)の固形分総量に対して、0~2.0質量%、特に0~1.0質量%の範囲内であることが好ましい。
【0052】
上記顔料及び添加剤は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0053】
以上、上記必須成分及び必要に応じて含有される顔料等をはじめとする添加剤から、本発明の粉体塗料を製造する方法としては、公知の方法により行うことができ、具体的には例えば、各必須成分を、必要に応じて、顔料や添加剤等と混合し、さらに、得られる混合物を溶融混練せしめ、次いで、微粉砕工程、そして、必要に応じて分級を行うことにより、本発明の粉体塗料を製造することができる。
【0054】
本発明の粉体塗料の体積平均粒子径は、30~45μm、特に30~40μmの範囲内であることが好ましい。
【0055】
平均体積粒子径が30μm未満であると、塗着効率が悪くなる場合があり、45μmを超えると、得られる粉体塗料の塗膜の仕上り外観や塗膜性能が低下する場合がある。
【0056】
なお、本明細書において、特に言及の無い限り平均粒子径は、体積平均粒子径(D50)を意味する。体積平均粒子径(D50)は、例えば、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(日機装社製、マイクロトラック)等の粒度測定装置を用いて測定することができる。具体的には、測定装置として「マイクロトラックMT3000II」(日機装社製)を用いて測定した値をいう。
【0057】
本発明の粉体塗料は、酸基含有ポリエステル樹脂(A)及びグリシジル基含有アクリル樹脂(B)に対して、ポリカルボジイミド化合物(C)を含有するものであるので、塗料製造時にポリカルボジイミド化合物(C)と酸基含有ポリエステル樹脂(A)の低分子量成分が優先的に反応し、貯蔵中における、反応性の高い酸基含有ポリエステル樹脂の低分子量成分の減少により、保管期間中の固相反応を抑制することができる。
【0058】
その結果、仕上り外観に優れ、付着性等の塗膜性能にも優れた、酸/エポキシ硬化型の粉体塗料を得ることができることが推察される。
【0059】
本発明の粉体塗料の適用対象としては、特に限定されず、例えば、鉄鋼、亜鉛、アルミニウム、銅、スズ等の金属素材又は金属製品;これらの金属素材に表面処理を施したもの;これらの金属素材に必要に応じてプライマーや中塗り塗装を施した下地塗装膜;瓦類;ガラス類;無機質建材等を挙げることができる。
【0060】
具体的には、自動車車体又は自動車(用)部品類、二輪車または二輪車(用)部品類等をはじめ、さらには、門扉またはフェンス類等の建材類;アルミサッシ類等の建築内外装用資材類;あるいはアルミフォイル等のような種々の鉄又は非鉄金属類の素材類あるいは製品類等である。
【0061】
本発明の粉体塗料の塗装は、例えば、静電スプレー法、流動浸漬法等の従来の方法により、粉体塗料を被塗物の表面に所望の膜厚(通常、約30~200μm 、好ましくは約40~100μm)となるように塗装し、その後、焼付け乾燥(通常、被塗物温度約160~210℃で約30~60分間)することにより行うことができる。
【0062】
また、予熱された被塗物に上記従来の方法により塗装することも可能である。
【実施例0063】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」及び「%」はいずれも質量基準によるものである。
【0064】
実施例1
カルボキシル基含有ポリエステル樹脂( ネオペンチルグリコール/テレフタル酸/イソフタル酸=38.8/5.7/55.5質量比、水酸基価10mgKOH/g、酸価15mgKOH/g、重量平均分子量9000、ガラス転移温度60℃)45.6部、グリシジル基含有アクリル樹脂(グリシジルメタクリレート/メチルメタクリレート/スチレン/n-ブチルメタクリレート=20/60/10/10質量比、エポキシ当量350g/eq、重量平均分子量6000、ガラス転移温度62℃)6.40部、LA-1(日清紡ケミカル(株)製ポリカルボジイミド化合物、カルボジイミド当量245g/eq)1.34部、JR605 (テイカ(株)製、酸化チタン)47部、C17Z(四国化成(株)製、イミダゾール系エポキシ樹脂硬化促進剤)0.1部を調合して混合し、エクストルーダで溶融混練し、冷却後、アトマイザーによって微粉砕し、150Meshでろ過して粉体塗料No.1(体積平均粒子径33μm)を得た。
【0065】
実施例2
実施例1において配合するポリカルボジイミド化合物をHMV-15CA(日清紡ケミカル(株)製ポリカルボジイミド化合物、カルボジイミド当量260g/eq)1.42部に置き換えた以外は実施例1と同様にして粉体塗料No.2を得た。
【0066】
実施例3
実施例1において配合するポリカルボジイミド化合物をHMV-5CA-LC(日清紡ケミカル(株)製ポリカルボジイミド化合物、カルボジイミド当量310g/eq)1.68部に置き換えた以外は実施例1と同様にして粉体塗料No.3を得た。
【0067】
実施例4
実施例1において配合するポリカルボジイミド化合物をStabaxol I(ラインケミー(株)製ポリカルボジイミド化合物、カルボジイミド当量360g/eq)1.97部に置き換えた以外は実施例1と同様にして粉体塗料No.4を得た。
【0068】
実施例5
実施例1において配合するポリカルボジイミド化合物をStabaxol P(ラインケミー(株)製ポリカルボジイミド化合物、カルボジイミド当量295g/eq)1.61部に置き換えた以外は実施例1と同様にして粉体塗料No.5を得た。
【0069】
実施例6
実施例1において配合するポリカルボジイミド化合物をStabaxol P100(ラインケミー(株)製ポリカルボジイミド化合物、カルボジイミド当量285g/eq)1.56部に置き換えた以外は実施例1と同様にして粉体塗料No.6を得た。
【0070】
比較例1
実施例1においてポリカルボジイミド化合物を配合せず、アクリル樹脂量を8.23部とした以外は実施例1と同様にして粉体塗料No.7を得た。
【0071】
なお、粉体塗料No.1~7の体積平均粒子径はすべて33μmであった。
【0072】
実施例1~6及び比較例1で得られた各粉体塗料No.1~7につき、以下の性能試験及び評価を行った。
【0073】
なお、試験板は各粉体塗料No.1~7につき、冷延鋼板上に静電塗装機PG-1(旭サナック社製、商品名)を使用し、乾燥膜厚が70μmになるように静電粉体塗装し、180℃で30分間硬化させすることにより作成した。
【0074】
表1に各粉体塗料No.1~7の配合組成及び性能試験結果を併せて示す。
【0075】
なお、表中の配合当量はそれぞれ以下のとおりである。
【0076】
当量(アクリル樹脂);粉体塗料中のカルボキシル基含有ポリエステル樹脂のカルボキシル基1当量に対するグリシジル基含有アクリル樹脂のエポキシ当量
当量(ポリカルボジイミド化合物);粉体塗料中のカルボキシル基含有ポリエステル樹脂のカルボキシル基1当量に対するポリカルボジイミド化合物のカルボジイミド当量
当量(合計);当量(アクリル樹脂)と当量(ポリカルボジイミド化合物)の合計
【0077】
【0078】
耐おもり落下性(耐衝撃試験):JIS K 5600-5-3(1999)に準じて、おもり重量500g、撃心の尖端直径1/2インチ、高さ50cmの条件にて、-30℃において、試験板の塗面に衝撃を加えた。ついで衝撃を加えた部分にセロハン粘着テ-プを貼着させ瞬時にテ-プを剥がしたときの塗膜の剥がれ程度を以下の基準で評価した。
【0079】
○:塗面に剥がれが認められない
△:塗面にわずかの剥がれが認められる
×:塗面にかなりの剥がれが認められる
耐カッピング性(エリクセン試験):JIS K 5600-5-2(1999)に準じて、-30℃において測定した。試験板にワレ、剥がれが生じるまでの押し出し距離(mm)を測定した。
【0080】
○:押し出し距離5mm以上
△:押し出し距離2mm以上かつ5mm未満
×:押し出し距離2mm未満
塗料の貯蔵安定性:各粉体塗料を密閉容器中で35℃、1ヶ月貯蔵する。その後、該粉体塗料を上記試験板作成条件に従い、膜厚70μmの試験板を作成し、仕上がり外観を以下の基準で評価した。
【0081】
○:貯蔵前の粉体塗料で作成した塗板と比較してほとんど変化がない
△:貯蔵前の粉体塗料で作成した塗板と比較して少し平滑性が劣っている
×:貯蔵前の粉体塗料で作成した塗板と比較して著しく平滑性が劣化している、あるいは全くフローしない