(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151816
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】液滴吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
B41J2/01 451
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061644
(22)【出願日】2022-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雄哉
(72)【発明者】
【氏名】高山 治久
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敦
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA14
2C056EB08
2C056EB40
2C056KD06
(57)【要約】
【課題】光源の劣化を従来よりも抑制することができる液滴吐出装置を提供する。
【解決手段】液滴吐出装置は、被印刷媒体に液滴を吐出するノズルを有する吐出ヘッドと、吐出ヘッドから吐出された液滴が飛翔する飛翔空間へ向けて、第1出力又は第1出力よりも高い出力である第2出力で光を照射する光源と、光源から出射された光が飛翔中の液滴内を通過した後の光に関する受光量を検出する検出素子と、制御装置とを備え、制御装置は、液滴を吐出するよう吐出ヘッドが駆動したタイミングで、光源から第1出力又は第2出力により光を照射し、光源に第1出力で光を照射させる第1検知モードでは、検出素子により検出される受光量に基づきノズルにおける吐出不良の有無を検知し、光源に第2出力で光を照射させる第2検知モードでは、検出素子により検出される受光量に基づき吐出不良の要因となる現象を検知する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被印刷媒体に液滴を吐出するノズルを有する吐出ヘッドと、
前記吐出ヘッドから吐出された前記液滴が飛翔する飛翔空間へ向けて、第1出力又は前記第1出力よりも高い出力である第2出力で光を照射する光源と、
前記光源から出射された前記光が飛翔中の前記液滴内を通過した後の光に関する受光量を検出する検出素子と、
制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記液滴を吐出するよう前記吐出ヘッドが駆動したタイミングで、前記光源から前記第1出力又は前記第2出力により前記光を照射し、
前記光源に前記第1出力で前記光を照射させる第1検知モードでは、前記検出素子により検出される前記受光量に基づき前記ノズルにおける吐出不良の有無を検知し、
前記光源に前記第2出力で前記光を照射させる第2検知モードでは、前記検出素子により検出される前記受光量に基づき前記吐出不良の要因となる現象を検知する、液滴吐出装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記吐出ヘッドに第1画質に係る印字を行わせる場合に前記第1検知モードにおける検知を行い、前記吐出ヘッドに前記第1画質よりも高画質である第2画質に係る印字を行わせる場合に前記第2検知モードにおける検知を行う、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記第1検知モードにおいて前記ノズルの吐出不良を検知した場合に、吐出不良を検知したのと同じ前記ノズルに対して前記第2検知モードにおける検知を行う、請求項1又は2に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記制御装置は、ユーザが前記第1検知モードおよび前記第2検知モードのうちの何れかを選択した後で且つ印字前に、前記ユーザにより選択された検知モードによる検知を行う、請求項1又は2に記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記第2検知モードにおける前記第2出力は、前記第1検知モードにおける前記第1出力の2倍以上である、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記吐出不良の無いノズルについて前記第2検知モードによる検知を行ったときに前記検出素子により検出される信号を基準信号とした場合に、前記第2検知モードにおいて、
前記検出素子により検出される検出信号の信号強度と基準信号の信号強度との差が閾値よりも大きく、前記検出信号の信号幅と前記基準信号の信号幅との差が閾値よりも大きい場合に、前記ノズルから吐出される液滴の飛翔方向が正常飛翔方向と異なる現象であるヨレが生じていると判定する、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記吐出不良の無いノズルについて前記第2検知モードによる検知を行ったときに前記検出素子により検出される信号を基準信号とした場合に、前記第2検知モードにおいて、
前記検出信号の信号強度と前記基準信号の信号強度との差が閾値よりも大きく、前記検出信号の信号幅と前記基準信号の信号幅との差が閾値よりも大きく、前記検出信号の波形に複数のピークが存在する場合に、前記ノズルから吐出された1つの液滴が複数の飛沫に分断される現象であるしぶきが生じていると判定する、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記吐出不良の無いノズルについて前記第2検知モードによる検知を行ったときに前記検出素子により検出される信号を基準信号とした場合に、前記第2検知モードにおいて、
前記検出信号の信号強度と前記基準信号の信号強度との差が閾値よりも大きく、前記検出信号の信号幅と前記基準信号の信号幅との差が閾値よりも小さい場合に、前記ノズルから吐出された液滴の体積が正常体積よりも小さくなる又は大きくなる現象である体積変化が生じていると判定する、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記吐出不良の無いノズルについて前記第2検知モードによる検知を行ったときに前記検出素子により検出される信号を基準信号とした場合に、前記第2検知モードにおいて、
前記検出信号の信号強度と前記基準信号の信号強度との差が閾値よりも小さく、前記検出信号の信号幅と前記基準信号の信号幅との差が閾値よりも大きい場合に、前記ノズルから吐出された液滴の飛翔速度が正常速度よりも速くなる又は遅くなる現象である速度変化が生じていると判定する、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項10】
前記制御装置は、前記検出素子により検出信号が検出されない場合に、前記ノズルから液滴が吐出されない現象である抜けが生じていると判定する、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項11】
前記制御装置は、前記光源に前記第2出力よりもさらに高い出力である第3出力で光を照射させる第3検知モードにおいて、前記第2検知モードで検知した前記吐出不良の要因となる前記現象の大きさを検知する、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項12】
前記第3検知モードにおける前記第3出力は、前記第1検知モードにおける前記第1出力の3倍以上である、請求項11に記載の液滴吐出装置。
【請求項13】
前記制御装置は、前記第3検知モードにおいて検知した前記現象の大きさに基づいて前記吐出不良に係る前記ノズルによる液滴の吐出に関する補正値を決定する、請求項11に記載の液滴吐出装置。
【請求項14】
前記制御装置は、前記光源から出射された光の集光位置と、検知対象となる前記ノズルから吐出される前記液滴の飛翔位置との距離に応じて前記光源の出力を変える、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項15】
前記集光位置と前記飛翔位置との距離として、第1距離および前記第1距離よりも大きい第2距離を含み、
前記制御装置は、前記距離が前記2距離である場合に前記距離が前記第1距離である場合よりも前記光源の出力を高くする、請求項14に記載の液滴吐出装置。
【請求項16】
前記吐出ヘッドは前記ノズルが複数配置された複数のノズル列を備え、
前記制御装置は、前記第1検知モード又は前記第2検知モードにおいて、前記検知を1回行うにあたり、前記複数のノズル列のうちの一部のノズル列であるノズル列群であって前回の前記検知で対象としたのとは異なるノズル列群を前記検知の対象とする、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインクジェットプリンタ等の画像記録装置に用いられる液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吐出ヘッドから吐出されたインク滴の吐出不良を検知する技術がある。例えば特許文献1には、発光部から出射されてインク滴内を通過した後の光が受光部で受けられ、受光部で受けた光の受光量の低下の有無に基づき吐出不良を検知する技術が開示されている。特許文献1のプリンタにおいては、発光部はレーザ光を出射する半導体レーザであり、当該半導体レーザの最大出力は7mWであるとのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、常に高出力で光を出射させていると、発光部が早期に劣化してしまうという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、光源の劣化を従来よりも抑制することができる液滴吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の液滴吐出装置は、被印刷媒体に液滴を吐出するノズルを有する吐出ヘッドと、前記吐出ヘッドから吐出された前記液滴が飛翔する飛翔空間へ向けて、第1出力又は前記第1出力よりも高い出力である第2出力で光を照射する光源と、前記光源から出射された前記光が飛翔中の前記液滴内を通過した後の光に関する受光量を検出する検出素子と、制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記液滴を吐出するよう前記吐出ヘッドが駆動したタイミングで、前記光源から前記第1出力又は前記第2出力により前記光を照射し、前記光源に前記第1出力で前記光を照射させる第1検知モードでは、前記検出素子により検出される前記受光量に基づき前記ノズルにおける吐出不良の有無を検知し、前記光源に前記第2出力で前記光を照射させる第2検知モードでは、前記検出素子により検出される前記受光量に基づき前記吐出不良の要因となる現象を検知するものである。
【0007】
本発明に従えば、第1出力で光を液滴に照射させる第1検知モードと第1出力よりも高い第2出力で光を液滴に照射させる第2検知モードとを使い分けることができる。この場合、従来であればノズルの吐出不良の検知の際にも第2出力のような高出力で光を照射させていたが、これを回避することができる。これにより、光源の劣化を従来よりも抑制することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光源の劣化を従来よりも抑制することが可能な液滴吐出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る液滴吐出装置が設けられる画像形成装置を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る液滴吐出装置を示す平面図である。
【
図3】
図1の吐出ヘッドの構成を示す断面図である。
【
図4】
図1の画像形成装置の構成要素を示すブロック図である。
【
図5】吐出ヘッドから吐出されて飛翔空間を飛翔中のインク滴に対してレーザ光を照射する様子を示す図である。
【
図6】(a)はノズルによるインク滴の吐出が正常である場合の図であり、(b)は正常吐出時の検出素子による検出信号である基準信号を示す図である。
【
図7】(a)はインク滴が不吐出になる抜けが生じている場合の図であり、(b)は抜け発生時の検出素子による検出信号を示す図である。
【
図8】(a)はインク滴のヨレが生じている場合の図であり、(b)はヨレ発生時の検出素子による検出信号を示す図である。
【
図9】(a)はインク滴のしぶきが生じている場合の図であり、(b)はしぶき発生時の検出素子による検出信号を示す図である。
【
図10】(a)はインク滴の体積変化が生じている場合の図であり、(b)は体積減少時の検出素子による検出信号を示す図であり、(c)は体積増加時の検出素子による検出信号を示す図である。
【
図11】(a)はインク滴の速度変化が生じている場合の図であり、(b)は速度増加時の検出素子による検出信号を示す図であり、(c)は速度減少時の検出素子による検出信号を示す図である。
【
図12】レーザ光の集光位置におけるインク滴に関する検知信号および当該集光位置から離れた飛翔位置におけるインク滴に関する検知信号を示す図である。
【
図13】各検知モードにおける検知処理の処理対象を説明するための図である。
【
図14】制御装置による処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る液滴吐出装置について図面を参照して説明する。以下に説明する液滴吐出装置は本発明の一実施形態に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除および変更が可能である。
【0011】
図1は本発明の一実施形態に係る液滴吐出装置1aが設けられる画像形成装置1を示す斜視図である。以下では、画像形成位置1として立体物である被印刷媒体Wに対する印刷も可能なインクジェットプリンタを用いた例を開示するが、画像形成装置1には用紙のみに印刷が可能なインクジェットプリンタ等も含まれる。
図1において、相互に直交する方向を、第1方向Ds、第2方向Dfおよび第3方向Dzとする。本実施形態では、例えば、第1方向Dsは後述するキャリッジ3の移動方向であり、第2方向Dfは後述する被印刷媒体Wの搬送方向であり、第3方向Dzは上下方向である。以下の説明では、Dsを移動方向と呼び、Dfを搬送方向と呼び、Dzを上下方向と呼ぶ。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の画像形成装置1は、筐体2と、操作キー4と、表示部5と、被印刷媒体Wが配置されるプラテン6と、上部カバー7とを備える。また、画像形成装置1は、吐出ヘッド10と、制御装置20(
図4)を含むコントローラユニット19とを有する
図2の液滴吐出装置1aを備える。吐出ヘッド10は、液滴として例えば紫外線硬化型のインク滴Id(
図5)を吐出するインクジェットヘッドである。
【0013】
筐体2は箱状に形成されている。筐体2は開口部2aを有する。筐体2には操作キー4が設けられている。また、操作キー4の近傍には表示部5が設けられている。操作キー4はユーザによる操作入力を受け付ける。表示部5は例えばタッチパネルで構成され、所定情報を表示する。表示部5の一部は操作キーとしても機能する。コントローラユニット19は、操作キー4からの入力又は図略の通信インタフェースを介する外部入力に基づき印刷機能を実現すると共に表示部5の表示を制御する。
【0014】
プラテン6は被印刷媒体Wを載置可能に構成されている。プラテン6は所定の厚みを有し、例えば搬送方向Dfを長手方向とする矩形状の板材により構成される。プラテン6は図略のプラテン支持台により、取り外し可能に支持されている。プラテン支持台は搬送モータ33(
図4)の駆動により被印刷媒体Wへの印刷を実行する印刷位置と被印刷媒体Wをプラテン6から取り外す着脱位置との間で搬送方向Dfに移動可能に構成される。これにより、プラテン6は被印刷媒体Wの被吐出面を吐出ヘッド10に対して搬送方向Dfに相対移動させる。印刷時にはプラテン6が搬送方向Dfに移動するため、プラテン6上に載置された被印刷媒体Wが搬送方向Dfに沿って搬送される。
【0015】
上部カバー7は、その端部を持ち上げると上方へ回動するように構成されている。これにより、筐体2の内部が露出する。
【0016】
図2に示すように、液滴吐出装置1aは、貯留タンク62、例えば2つの吐出ヘッド10(10A,10B)と2つの紫外線照射装置40(40A,40B)が搭載されたキャリッジ3、および一対のガイドレール67を備える。なお、2つの吐出ヘッド10と2つの紫外線照射装置40を設けることにしたが、これに限定されるものではなく、1つの吐出ヘッド10と1つの紫外線照射装置40を設けてもよい。
【0017】
キャリッジ3は、移動方向Dsに延在する一対のガイドレール67に支持され、当該ガイドレール67に沿って移動方向Dsに往復動する。これにより、2つの吐出ヘッド10(10A,10B)と2つの紫外線照射装置40(40A,40B)は移動方向Dsに往復動可能になっている。また、吐出ヘッド10はチューブ62aを介して貯留タンク62に接続される。
【0018】
本実施形態において、例えば、吐出ヘッド10Aは、カラーインクと総称されることがあるイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、およびブラック(K)の各色のインク滴Idを吐出する。以上の4色のインク滴Idが被印刷媒体Wに吐出されることで当該被印刷媒体Wにカラー画像が印刷される。一方、吐出ヘッド10Bは、ホワイト(W)のインク滴Idおよびクリア(Cr)のインク滴Idを吐出する。被印刷媒体Wとして例えば布帛にカラー画像を印刷する際には、当該布帛の色や布帛の材質への影響を低減するために、下地インクとして白インクのインク滴Idが先に吐出され、当該白インクのインク滴Idの上にカラーインクのインク滴Idが吐出される。また、クリアインクのインク滴Idは光沢を付与する場合や印刷部分の保護を行う場合に吐出される。
【0019】
貯留タンク62にはインクが貯留されている。貯留タンク62はインクの種類ごとに設けられている。貯留タンク62は、例えば6つ設けられ、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタ、ホワイト、およびクリアのインクがそれぞれ貯留される。
【0020】
液滴吐出装置1aはさらにパージ部50および受け部54を備える。受け部54はキャリッジ3の移動領域に重なるように一対のガイドレール67のうち移動方向Dsの一方側に配置される。パージ部50は、キャリッジ3の移動領域に重なるように一対のガイドレール67のうち移動方向Dsの他方側に配置される。
【0021】
パージ部50は、キャップ51、吸引ポンプ52および吸引位置と待機位置との間でキャップ51を昇降する図略の昇降機構を有する。吸引ポンプ52はキャップ51に接続されている。待機位置では吐出面NM(
図3)はキャップ51から離間する。一方、吸引位置では吐出面NMがキャップ51に覆われ、密閉空間が形成される。キャップ51が吸引位置にあるときに吸引ポンプ52が駆動されると、上記密閉空間が吸引されてノズル孔121a(
図3)からインクが排出されるパージ処理が行われる。
【0022】
また、受け部54はフラッシング処理によって吐出ヘッド10から吐出されたインク滴Idを受ける。
【0023】
次に吐出ヘッド10の詳細構造について説明する。
図3に示すように、吐出ヘッド10は貯留タンク62からのインクを用いてインク滴Idを吐出する複数のノズル121を有する。吐出ヘッド10は流路形成体と容積変更部の積層体を有する。流路形成体には、その内部にインク流路が形成され、その下面である吐出面NMに複数のノズル孔121aが開口している。また、上記の容積変更部は、駆動されてインク流路の容積を変更する。このとき、ノズル孔121aではメニスカスが振動してインクが吐出される。
【0024】
吐出ヘッド10の上述の流路形成体は複数のプレートの積層体であり、容積変更部は振動板155およびアクチュエータ(圧電素子)160を含む。振動板155の上には後述の共通電極161が接続されている。
【0025】
複数のプレートは、下から順に、ノズルプレート146、スペーサプレート147、第1流路プレート148、第2流路プレート149、第3流路プレート150、第4流路プレート151、第5流路プレート152、第6流路プレート153、および第7流路プレート154を含んで積層されている。
【0026】
各プレートには大小種々の孔および溝が形成されている。各プレートが積層された流路形成体の内部では孔および溝が組み合わされて、複数のノズル121、複数の個別流路164およびマニホールド122がインク流路として形成されている。
【0027】
ノズル121はノズルプレート146を積層方向に貫通し形成されている。ノズルプレート146の吐出面NMには、ノズル121の先端である複数のノズル孔121aが搬送方向Dfに複数並んでノズル列を形成している。
【0028】
マニホールド122は、吐出圧力が付与される圧力室128に対してインクを供給する。マニホールド122は、搬送方向Dfに延在しており、複数の個別流路164の各一端にそれぞれ接続されている。すなわち、マニホールド122はインクの共通流路として機能する。マニホールド122は、第1流路プレート148~第4流路プレート151を積層方向に貫通した貫通孔および第5流路プレート152の下面から窪んだ窪みが積層方向に重なって形成されている。
【0029】
ノズルプレート146はスペーサプレート147の下方に配置されている。そのスペーサプレート147は例えばステンレス鋼材で形成される。スペーサプレート147は、例えばハーフエッチングによりノズルプレート146側の面からスペーサプレート147の厚み方向に凹むことで、ダンパ部147aを成す薄肉部分とダンパ空間147bとが形成される凹部145を有する。これにより、マニホールド122とノズルプレート146との間に、バッファー空間としてのダンパ空間147bが形成される。
【0030】
マニホールド122には供給ポート122aが連通している。供給ポート122aは例えば筒状に形成され、搬送方向Dfの一端に設けられている。なお、マニホールド122と供給ポート122aとは図略の流路により繋がっている。
【0031】
各個別流路164はマニホールド122にそれぞれ接続されている。個別流路164は、その上流端がマニホールド122に接続され、その下流端がノズル121の基端に接続されている。個別流路164は、第1連通孔125、個別絞り路である供給絞り路126、第2連通孔127、圧力室128、およびディセンダ129で構成されており、これらの構成要素はこの順で配置される。
【0032】
第1連通孔125は、その下端がマニホールド122の上端に接続し、マニホールド122から積層方向の上方に延び、第5流路プレート152における上側部分を積層方向に貫通している。
【0033】
供給絞り路126の上流端は第1連通孔125の上端に接続されている。供給絞り路126は、例えばハーフエッチングにより形成され、第6流路プレート153の下面から窪んだ溝により構成されている。また、第2連通孔127は、その上流端が供給絞り路126の下流端に接続され、供給絞り路126から積層方向の上方に延び、第6流路プレート153を積層方向に貫通して形成されている。
【0034】
圧力室128は、その上流端が第2連通孔127の下流端に接続されている。圧力室128は、第7流路プレート154を積層方向に貫通して形成されている。
【0035】
ディセンダ129は、スペーサプレート147、第1流路プレート148、第2流路プレート149、第3流路プレート150、第4流路プレート151、第5流路プレート152、および第6流路プレート153を積層方向に貫通して形成されている。ディセンダ129は、その上流端が圧力室128の下流端に接続され、下流端がノズル121の基端に接続されている。ノズル121は、例えば積層方向においてディセンダ129に重なり、幅方向においてディセンダ129の中央に配置されている。
【0036】
振動板155は、第7流路プレート154の上に積層されており、圧力室128の上端開口を覆っている。
【0037】
アクチュエータ160は、共通電極161、圧電層162および個別電極163を含み、これらはこの順で配置されている。共通電極161は振動板155の全面を覆っている。圧電層162は共通電極161の全面を覆っている。個別電極163は、圧力室128ごとに設けられ、圧電層162上に配置されている。1つの個別電極163、共通電極161および両電極で挟まれた部分の圧電層162により1つのアクチュエータ160が構成される。
【0038】
個別電極163はドライバICに電気的に接続されている。このドライバICは、制御装置20から制御信号を受けて、駆動信号(電圧信号)を生成し、個別電極163に印加する。これに対して、共通電極161は常にグランド電位に保持されている。このような構成において、圧電層162の活性部は駆動信号に応じて共通電極161および個別電極163と共に面方向に伸縮する。これに応じて、振動板155が協働して変形し、圧力室128の容積を増減する方向に変化する。これにより、インク滴Idをノズル121から吐出させる吐出圧力が圧力室128に付与される。
【0039】
吐出ヘッド10において、インクは、供給ポート122aを介してマニホールド122に流入すると、当該マニホールド122から第1連通孔125を介して供給絞り路126に流入し、供給絞り路126から第2連通孔127を介して圧力室128に流入する。その後、インクはディセンダ129を流れ、ノズル121に流入する。ここで、アクチュエータ160により圧力室128に吐出圧力が付与されると、インク滴Idがノズル孔121aから吐出される。
【0040】
図4は
図1の画像形成装置1の構成要素を示すブロック図である。
図4に示すように、画像形成装置1は、上述の構成要素の他、コントローラユニット19、読取装置26、モータドライバIC30,31、ヘッドドライバIC32、搬送モータ33、キャリッジモータ34、照射装置ドライバIC35、パージドライバIC36、光源ドライバIC37、および検出ドライバIC38を備える。また、液滴吐出装置1aは光源65および検出素子67を備える。
【0041】
コントローラユニット19は、CPUで構成される制御装置20、記憶部(ROM21、RAM22、EEPROM23、HDD24)、およびASIC25を有する。制御装置20は、上記の各記憶部に接続されていると共に各ドライバIC30~32,35~38および表示部5を制御する。
【0042】
制御装置20は、ROM21に記憶された所定の処理プログラムを実行することにより、種々の機能を実行する。制御装置20は、コントローラユニット19に1つのプロセッサとして実装されていてもよいし、互いに協働する複数のプロセッサとして実装されていてもよい。処理プログラムは、コンピュータ読取可能な光磁気ディスク等又はUSBフラッシュメモリ等の記録媒体KBから読取装置26で読み出されてROM21に記憶される。RAM22には、外部から受信した画像データおよび制御装置20の演算結果等が記憶される。EEPROM23にはユーザが入力した各種の初期設定情報が格納されている。HDD24には特定情報などが記憶される。
【0043】
ASIC25には、モータドライバIC30,31と、ヘッドドライバIC32と、照射装置ドライバIC35と、パージドライバIC36と、光源ドライバIC37と、検出ドライバIC38とが接続される。制御装置20は、ユーザから印刷ジョブを受け付けると、処理プログラムに基づいて画像記録指令をASIC25へ出力する。ASIC25は、画像記録指令に基づいて各ドライバIC30~32,35~38を駆動する。制御装置20は、モータドライバIC30により搬送モータ33を駆動することでプラテン6を搬送方向Dfに移動させる。制御装置20は、モータドライバIC31によりキャリッジモータ34を駆動することでキャリッジ3を移動方向Dsに移動させる。
【0044】
制御装置20は、外部装置等から取得した画像データを被吐出面にインク滴Idを吐出するための吐出データに変換する。制御装置20は、変換した吐出データに基づいてヘッドドライバIC32により吐出ヘッド10からインク滴Idを吐出させる。また、制御装置20は、照射装置ドライバIC35により紫外線照射装置40の各発光ダイオードチップから紫外線を照射させる。制御装置20はパージドライバIC36によりパージ部50を駆動する。制御装置20は光源ドライバIC37により光源65を駆動し、検出ドライバIC38により検出素子67を駆動する。
【0045】
図5は吐出ヘッド10から吐出されて飛翔空間Shを飛翔中のインク滴Idに対してレーザ光Lzを照射する様子を示す図である。
【0046】
図5に示すように、光源65は当該光源65から出射されるレーザ光Lzの光軸方向において吐出ヘッド10の位置を基準として一方側に配置される。光源65は、吐出ヘッド10のノズル121から吐出されたインク滴Idが飛翔する飛翔空間Shへ向けてレーザ光Lzを照射する。
【0047】
光源65は、第1出力、当該第1出力よりも高い出力である第2出力、又は第2出力よりも高い出力である第3出力でレーザ光を照射する。
【0048】
光源65は箱状の光源収納部82内に配置される。光源収納部82は光源65から出射されるレーザ光Lzの出射方向の側にスリット82aを有する。光源収納部82内には、スリット82aを当該光源収納部82の内側から覆うようにレンズ83が配置されている。このような構成において、光源65から出射されたレーザ光Lzはレンズ83を透過した後、吐出ヘッド10から吐出されて飛翔空間Shを飛翔中のインク滴Idに照射される。
【0049】
検出素子67はレーザ光Lzの光軸方向において吐出ヘッド10の位置を基準として他方側に配置される。検出素子67は光源65に対して飛翔空間Shを挟んで配置される。検出素子67は、光源65から出射されたレーザ光Lzが飛翔中のインク滴Id内を通過した後のレーザ光に関する受光量を検出する。
【0050】
ここで、本実施形態の液滴吐出装置1aには、吐出不良等を検知する3つの検知モード(第1乃至第3検知モード)が設けられている。ユーザは、操作キー4などを用いて第1検知モード、第2検知モードおよび第3検知モードのうちの何れかを選択することができる。ユーザは、例えば標準画質印字(第1画質に相当)を望む場合には第1検知モードを選択することができ、高画質印字を望む場合には第2検知モードを選択することができる。また、ユーザは、第2検知モードで検知された吐出不良に対する補正値を決めるべく第3検知モードを選択することができる。
【0051】
第1検知モードでは、光源65に第1出力でレーザ光Lzをインク滴Idに照射させる。第2検知モードでは、光源65に第2出力でレーザ光Lzをインク滴Idに照射させる。第3検知モードでは、光源65に第3出力でレーザ光Lzをインク滴Idに照射させる。第2検知モードにおける第2出力は、第1検知モードにおける第1出力の例えば2倍以上である。また、第3検知モードにおける第3出力は、第1検知モードにおける第1出力の例えば3倍以上である。なお、第1乃至第3検知モードの各々における検知処理の詳細については後述する。
【0052】
制御装置20は、ユーザが第1検知モード、第2検知モードおよび第3検知モードのうちの何れかを選択した後で且つ印字前に、ユーザにより選択された検知モードによる検知処理を行う。この場合、制御装置20はインク滴Idを吐出するよう吐出ヘッド10が駆動したタイミングで、光源65から第1出力、第2出力又は第3出力によりレーザ光Lzを照射させる。
【0053】
ユーザは例えば印刷前のメンテナンス時に第1検知モードを選択することができる。制御装置20は、光源65に第1出力でレーザ光Lzを照射させる第1検知モードでは、検出素子67により検出される受光量に基づきノズル121における吐出不良の有無(不吐出および大きなヨレ)を検知する。第1検知モードでは検出素子67により検出された検出信号におけるピークの有無のみをもって吐出不良の有無が判別される。なお、上記のヨレについては後述する。
【0054】
ユーザは例えば標準画質印刷から高画質印刷に切り替える際に第2検知モードを選択することができる。制御装置20は、光源65に第2出力でレーザ光Lzを照射させる第2検知モードでは、検出素子67により検出される受光量に基づき吐出不良の要因となる現象を検知する。なお、吐出不良の要因となる現象については後で詳述する。第2検知モードにおける光源65の出力を第1検知モードにおける出力の2倍以上にすることで、検出素子67による検出信号の信号強度や信号幅をより大きくすることができる。制御装置20は第1検知モードにおいてノズル121の吐出不良を検知した場合に、さらに吐出不良の要因となる現象を推定すべく吐出不良を検知したのと同じノズル121に対して第2検知モードにおける検知を行う。
【0055】
ユーザは例えば第2検知モードにおいて吐出不良の要因となる現象が検知されたときに第3検知モードを選択することができる。制御装置20は、光源65に第3出力でレーザ光Lzを照射させる第3検知モードでは、第2検知モードで検知した吐出不良の要因となる現象の大きさを検知する。第3検知モードにおける光源65の出力を第1検知モードにおける出力の3倍以上にすることで、検出素子67による検出信号の信号強度や信号幅をさらに大きくすることができる。これにより、吐出不良の要因となる現象の大きさを検知し易くなる。そして、制御装置20は第3検知モードにおいて検知した上記現象の大きさに基づき、吐出不良のノズル121によるインク滴Idの吐出に関する補正値を決定する。この場合、制御装置20は補正値として例えば吐出不良のノズル121から吐出されるインク滴Idのサイズを変更するための補正値や当該ノズル121の吐出周期を変更するための補正値を決定する。
【0056】
以上の各検知モードによる検知処理を行った後に、制御装置20は吐出ヘッド10に印刷を実行させることができる。
【0057】
以下、第2検知モードで検知される吐出不良の要因となる現象について詳しく説明する。
図6(a)はノズル121によるインク滴Idの吐出が正常である場合の図であり、
図6(b)は正常吐出時の検出素子67による検出信号である基準信号Sg1を示す図である。
【0058】
図6(a)に示すように、吐出不良の無いノズル121から吐出されたインク滴Idは正常飛翔方向Dnに沿って飛翔する。このとき、第1および第2検知モードにおいて検出素子67により検出される検出信号を基準信号Sg1とする。
図6(b)に示すように、基準信号Sg1は信号強度Ss1を有すると共に信号幅Sw1を有する。制御装置20は、検出素子67により検出された基準信号Sg1をRAM22に記憶させる。なお、上記信号幅とは、信号の時間幅を意味する。以下の説明では、各検出信号の時間幅を単に信号幅と呼ぶ。
【0059】
図7(a)はインク滴Idが不吐出になる抜けが生じている場合の図であり、
図7(b)は抜け発生時の検出素子67による検出信号Sg2を示す図である。
図7(a)に示すようにノズル121からインク滴Idが吐出されないときは、
図7(b)に示すように、第1および第2検知モードにおいて検出素子67により検出される検出信号Sg2にはピークが現れない。制御装置20は、検出素子67から検出信号Sg2を受け取ったときには、吐出不良の要因となる現象として抜けが生じていると判定する。制御装置20は、検出素子67により検出された検出信号Sg2をRAM22に記憶させる。
【0060】
図8(a)はインク滴Idのヨレが生じている場合の図であり、
図8(b)はヨレ発生時の検出素子67による検出信号Sg3を示す図である。
図8(a)に示すように、ノズル121から吐出されたインク滴Idが正常飛翔方向Dnとは異なる方向に飛翔することがある。インク滴Idが正常飛翔方向Dnとは異なる方向に飛翔することをヨレと呼ぶ。このヨレが発生したとき、第1乃至第3検知モードにおいて検出素子67により検出される検出信号Sg3は、
図8(b)に示すように信号強度Ss3を有すると共に信号幅Sw3を有する。
【0061】
検出信号Sg3の信号強度Ss3と上記の基準信号Sg1の信号強度Ss1との差は閾値よりも大きい。また、検出信号Sg3の信号幅Sw3と基準信号Sg1の信号幅Sw1との差は閾値よりも大きい。制御装置20は、検出素子67から検出信号Sg3を受け取ったときには、吐出不良の要因となる現象としてヨレが生じていると判定する。制御装置20は、検出素子67により検出された検出信号Sg3をRAM22に記憶させる。
【0062】
図9(a)はインク滴Idのしぶきが生じている場合の図であり、
図9(b)はしぶき発生時の検出素子67による検出信号Sg4を示す図である。
図9(a)に示すように、ノズル121から吐出された一つのインク滴Idが複数の飛沫Idhに分断されて飛翔することがある。このとき、第2および第3検知モードにおいて検出素子67により検出される検出信号Sg4には、
図9(b)に示すように複数のピークPk1,Pk2が存在する。なお、
図9(b)では2つのピークPk1,Pk2を例示したが、ピークの数は3つ以上であってもよい。
【0063】
検出信号Sg4におけるピークPk1の信号強度Ss41と基準信号Sg1の信号強度Ss1との差は閾値よりも大きい。また、検出信号Sg4におけるピークPk2の信号強度Ss42と基準信号Sg1の信号強度Ss1との差は閾値よりも大きい。さらに、検出信号Sg4の信号幅Sw4と基準信号Sg1の信号幅Sw1との差は閾値よりも大きい。制御装置20は、検出素子67から検出信号Sg4を受け取ったときには、吐出不良の要因となる現象としてしぶきが生じていると判定する。制御装置20は、検出素子67により検出された検出信号Sg4をRAM22に記憶させる。
【0064】
図10(a)はインク滴Idの体積変化が生じている場合の図であり、(b)は体積減少時の検出素子67による検出信号Sg51を示す図であり、(c)は体積増加時の検出素子67による検出信号Sg52を示す図である。
【0065】
図10(a)に示すように、ノズル121から吐出されたインク滴Idがその体積を正常体積から減少(又は増加)させて飛翔することがある。この場合、インク滴Idの体積が減少するときには、第2および第3検知モードにおいて検出素子67により検出される検出信号Sg51は、
図10(b)に示すように信号強度Ss51を有すると共に信号幅Sw51を有する。また、インク滴Idの体積が増加するときには、第2および第3検知モードにおいて検出素子67により検出される検出信号Sg52は、
図10(c)に示すように信号強度Ss52を有すると共に信号幅Sw52を有する。
【0066】
検出信号Sg51の信号強度Ss51と基準信号Sg1の信号強度Ss1との差は閾値よりも大きく、検出信号Sg51の信号幅Sw51と基準信号Sg1の信号幅Sw1との差は閾値よりも小さい。また、検出信号Sg52の信号強度Ss52と基準信号Sg1の信号強度Ss1との差は閾値よりも大きく、検出信号Sg52の信号幅Sw52と基準信号Sg1の信号幅Sw1との差は閾値よりも小さい。制御装置20は、検出素子67から検出信号Sg51を受け取ったときには、吐出不良の要因となる現象として、インク滴Idの体積が正常体積から減少する体積変化が生じていると判定する。一方、制御装置20は、検出素子67から検出信号Sg52を受け取ったときには、吐出不良の要因となる現象として、インク滴Idの体積が正常体積から増加する体積変化が生じていると判定する。制御装置20は、検出素子67により検出された検出信号Sg51,Sg52をRAM22に記憶させる。
【0067】
図11(a)はインク滴Idの速度変化が生じている場合の図であり、(b)は速度増加時の検出素子67による検出信号Sg61を示す図であり、(c)は速度減少時の検出素子67による検出信号Sg62を示す図である。
【0068】
図11(a)に示すように、ノズル121から吐出されたインク滴Idがその飛翔速度を正常速度から減少(又は増加)させて飛翔することがある。この場合、インク滴Idの飛翔速度が増加するときには、第2および第3検知モードにおいて検出素子67により検出される検出信号Sg61は、
図11(b)に示すように信号強度Ss61を有すると共に信号幅Sw61を有する。また、インク滴Idの飛翔速度が減少するときには、第2および第3検知モードにおいて検出素子67により検出される検出信号Sg62は、
図11(c)に示すように信号強度Ss62を有すると共に信号幅Sw62を有する。
【0069】
検出信号Sg61の信号強度Ss61と基準信号Sg1の信号強度Ss1との差は閾値よりも小さく、検出信号Sg61の信号幅Sw61と基準信号Sg1の信号幅Sw1との差は閾値よりも大きい。また、検出信号Sg62の信号強度Ss62と基準信号Sg1の信号強度Ss1との差は閾値よりも小さく、検出信号Sg62の信号幅Sw62と基準信号Sg1の信号幅Sw1との差は閾値よりも大きい。制御装置20は、検出素子67から検出信号Sg61を受け取ったときには、吐出不良の要因となる現象として、インク滴Idの飛翔速度が正常速度から増加する速度変化が生じていると判定する。一方、制御装置20は、検出素子67から検出信号Sg62を受け取ったときには、吐出不良の要因となる現象として、インク滴Idの飛翔速度が正常速度から減少する速度変化が生じていると判定する。制御装置20は、検出素子67により検出された検出信号Sg61,Sg62をRAM22に記憶させる。
【0070】
ここで、上述の通り、第1検知モードでは第1出力のレーザ光Lzが照射され、第2検知モードでは第2出力のレーザ光Lzが照射され、第3検知モードでは第3出力のレーザ光Lzが照射されるが、以下のように各検知モード内でレーザ光Lzの出力を変化させてもよい。
【0071】
図5において、レーザ光Lzの集光位置Z
fを中心として当該レーザ光Lzの光軸に沿って一方側および他方側に離れるほどレーザ光Lzのエネルギー密度は低くなる。
図5では、レーザ光Lzの光軸方向において集光位置Z
fからの距離がZ
gaであって当該集光位置Z
fから最も離れた、インク滴Idの飛翔位置Z
faにおけるエネルギー密度が最も低くなる。同様に、レーザ光Lzの光軸方向において集光位置Z
fからの距離がZ
gbであって当該集光位置Z
fから最も離れた、インク滴Idの飛翔位置Z
fbにおけるエネルギー密度が最も低くなる。なお、集光位置とはビーム径が最小となる位置である。
【0072】
そこで、制御装置20は、光源65から出射されたレーザ光Lzの集光位置Zfと、検知対象となるノズル121から吐出されるインク滴Id(吐出不良を検知すべきインク滴Id)の飛翔位置との距離に応じて光源65の出力を変える。この場合、制御装置20は、集光位置Zfと飛翔位置との距離が第1距離である場合よりも、同距離が第1距離よりも大きい第2距離である場合に光源65の出力を高くする。すなわち、制御装置20は集光位置Zfと飛翔位置との距離が大きくなるほど光源65の出力を高くする。
【0073】
図5においては、制御装置20は、レーザ光Lzのエネルギー密度が最も低いことに起因して検知が最も不利になる飛翔位置Z
faおよび飛翔位置Z
fbにおけるレーザ光Lzのエネルギー密度が集光位置Z
fにおけるエネルギー密度とほぼ同じになるように光源65の出力を制御する。この場合、制御装置20は、
図12に示すように飛翔位置Z
faにおけるインク滴Id内を通過した後のレーザ光Lzに関する検出素子67による検出信号S
gaの信号強度が集光位置Z
fにおけるインク滴Id内を通過した後のレーザ光Lzに関する検出素子67による検出信号S
gfの信号強度Sstと同じになるように光源65の出力を制御する。同様に、制御装置20は、飛翔位置Z
fbにおけるインク滴Id内を通過した後のレーザ光Lzに関する検出素子67による検出信号S
gbの信号強度が検出信号S
gfの信号強度Sstと同じになるように光源65の出力を制御する。
【0074】
ここで、レーザ光Lzはその光軸方向への垂直面内の強度分布がガウス分布に近いビームである点に鑑み、集光位置から離れた任意位置でのレーザ光半径を下記数式1で求めることができる。下記数式1において、ω(z)は光軸方向の任意座標zにおけるレーザ光半径であり、ω0は集光位置Zfにおけるレーザ光半径であって予めROM21に記憶される。また、λはレーザ光Lzの波長であって予めROM21に記憶される。また、zはレーザ光Lzの光軸上の任意座標である。M2はレーザ光Lzの品質を表す因子である。
【0075】
【0076】
数式1より、集光位置Zfから距離zだけ離れた位置におけるレーザ光半径は、集光位置Zfにおけるレーザ光半径のx倍になっている。xは下記数式2で表される。
【0077】
【0078】
このとき、集光位置Zfから距離zだけ離れた位置におけるレーザ光面積は、集光位置Zfにおけるレーザ光面積のy倍になっている。yは下記数式3で表される。
【0079】
【0080】
そして、集光位置Zfから距離zだけ離れた位置におけるレーザ光Lzのエネルギー密度は上記数式3の逆数倍になっている。そのため、制御装置20は、集光位置Zfから距離zだけ離れた位置を飛翔するインク滴Idに照射するレーザ光Lzの出力値を算出する際に、集光位置Zfを飛翔するインク滴Idに照射するレーザ光Lzの出力値に上記yを乗じる。このようにして、制御装置20は集光位置Zfから距離zだけ離れた位置を飛翔するインク滴Idに照射するレーザ光Lzの出力値を算出し、光源65の出力を制御する。これにより、集光位置Zfから距離zだけ離れた位置を飛翔するインク滴Idに関する検知信号の信号強度を、集光位置Zfを飛翔するインク滴Idに関する検知信号の信号強度と同じにすることができる。これによって、検知が不利になる位置であっても、当該検知を高精度に行うのに必要な信号強度を確保することが可能となる。
【0081】
図13は各検知モードにおける検知処理の処理対象を説明するための図である。
図13に示すように、本実施形態の吐出ヘッド10はノズル121が複数配置されたノズル列NLを複数有する。各々のノズル列NLは搬送方向Dfと同じ方向に延在し、移動方向Dsと同じ方向に互いに所定間隔をあけて設けられている。
【0082】
制御装置20は、第1検知モード又は第2検知モードにおいて検知を1回行うにあたり、複数のノズル列NLのうちの一部のノズル列NLであるノズル列群であって前回の検知で対象としたのとは異なるノズル列群を検知の対象とする。具体的には、例えば、制御装置20は複数のノズル列NLのうちの一列のノズル列NLより成るノズル列群GN1における各ノズル121から吐出されるインク滴Idを検知対象とすることができる。この場合、制御装置20は奇数列のノズル列NLに対する検知と偶数列のノズル列NLに対する検知とを交互に実行することができる。或いは、制御装置20は例えば二列のノズル列NLより成るノズル列群GN2ごとに検知を実行してもよい。
【0083】
図14は制御装置20による処理の流れを示すフローチャートである。
図14に示すように、制御装置20はまず検知対象が奇数列のノズル列NLであるか否かを判別する(ステップS1)。検知対象が奇数列のノズル列NLである場合(ステップS1でYES)、制御装置20は奇数列のノズル列NLについて吐出不良の検知処理を実行する(ステップS2)。一方、検知対象が奇数列のノズル列NLでない場合(ステップS1でNO)、制御装置20は偶数列のノズル列NLについて吐出不良の検知処理を実行する(ステップS3)。
【0084】
次に、制御装置20は全ノズル列について吐出不良の検知処理が終了したか否かを判別する(ステップS4)。全ノズル列について吐出不良の検知処理が終了していない場合(ステップS4でNO)、制御装置20はステップS1に戻り以降の処理を繰り返す。
【0085】
全ノズル列について吐出不良の検知処理が終了した場合(ステップS4でYES)、制御装置20は吐出不良が生じている不良ノズルがあるか否かを判別する(ステップS5)。不良ノズルが無い場合(ステップS5でNO)、制御装置20は吐出ヘッド10に印刷を実行させる(ステップS6)。
【0086】
不良ノズルがある場合(ステップS5でYES)、制御装置20は当該不良ノズルの位置をRAM22に記憶させる(ステップS7)。次いで、制御装置20は所定条件を満たすか否かを判別する(ステップS8)。所定条件とは、例えば不良ノズルの配置が2個以上連続する場合や、全ノズル数に対する不良ノズルの数の割合が例えば1%以上である場合等である。
【0087】
所定条件を満たさない場合(ステップS8でNO)、制御装置20は吐出ヘッド10に印刷を実行させる(ステップS9)。一方、所定条件を満たす場合(ステップS8でYES)、制御装置20は所定の補正処理を実行し(ステップS10)、その後吐出ヘッド10に印刷を実行させる(ステップS9)。なお、上記の補正処理は、例えば、不良ノズルから吐出されるインク滴Idのサイズを変更したり、当該不良ノズルの吐出周期を変更したりする等の処理である。
【0088】
以上説明したように、液滴吐出装置1aによれば、第1出力でレーザ光Lzをインク滴Idに照射させる第1検知モードと第1出力よりも高い第2出力でレーザ光Lzをインク滴Idに照射させる第2検知モードとを使い分けることができる。この場合、従来であればノズルの吐出不良の検知の際にも第2出力のような高出力でレーザ光Lzを照射させていたが、これを回避することができる。これにより、光源65の劣化を従来よりも抑制することができ、光源65の長寿命化に繋がる。
【0089】
また、本実施形態では、制御装置20は、吐出ヘッド20に標準画質印字を行わせる場合に第1検知モードにおける検知を行い、吐出ヘッド20に高画質印字を行わせる場合に第2検知モードにおける検知を行う。この場合、高画質印字が要求される場合にのみ、吐出不良の要因となる現象を検知するのに必要とされる高精度な検知を行うことができる。
【0090】
また、本実施形態では、制御装置20は、第1検知モードにおいてノズル121の吐出不良を検知した場合に、吐出不良を検知したのと同じノズル121に対して第2検知モードにおける検知を行う。この場合、吐出不良が検知された場合にのみ第2検知モードにおける検知を行うことができる。すなわち、吐出不良が検知されない場合には第2検知モードにおける検知を行う必要がなくなる。これにより、光源65の劣化の抑制に繋がる。
【0091】
また、本実施形態では、制御装置20は、ユーザが第1乃至第3検知モードのうちの何れかを選択した後で且つ印字前に、ユーザにより選択された検知モードによる検知を行う。この場合、画像形成装置1を長期間のあいだ使用しなかったとき等、高精度な検知を実行した方がよいと認められるときに、ユーザは自身の意志に基づき高精度な検知モードを選択することができる。
【0092】
また、本実施形態では、第2検知モードにおける第2出力は第1検知モードにおける第1出力の2倍以上である。これにより、吐出不良の要因となる現象を高精度に検知することができる。
【0093】
また、本実施形態では、制御装置20は、第1および第2検知モードにおいて検出素子67により検出される検出信号Sg3の信号強度Ss3と基準信号Sg1の信号強度Ss1との差が閾値よりも大きく、検出信号Sg3の信号幅Sw3と基準信号Sg1の信号幅Sw1との差が閾値よりも大きい場合にヨレが生じていると判定する。これにより、ヨレの現象が生じているか否かについて高精度に判定することができる。
【0094】
また、本実施形態では、制御装置20は、第2検知モードにおいて検出素子67により検出される検出信号Sg4の信号強度Ss41,Ss42と基準信号Sg1の信号強度Ss1との差がそれぞれ閾値よりも大きく、検出信号Sg4の信号幅Sw41,Sw42と基準信号Sg1の信号幅Sw1との差がそれぞれ閾値よりも大きく、検出信号Sg4の波形に複数のピークPk1,Pk2が存在する場合にしぶきが生じていると判定する。これにより、しぶきの現象が生じているか否かについて高精度に判定することができる。
【0095】
また、本実施形態では、制御装置20は、検出信号Sg51の信号強度Ss51又は検出信号Sg52の信号強度Ss52と基準信号Sg1の信号強度Ss1との差がそれぞれ閾値よりも大きく、検出信号Sg51の信号幅Sw51又は検出信号Sg52の信号幅Sw52と基準信号Sg1の信号幅Sw1との差がそれぞれ閾値よりも小さい場合にインク滴Idの体積変化が生じていると判定する。これにより、インク滴Idの体積変化の現象が生じているか否かについて高精度に判定することができる。
【0096】
また、本実施形態では、制御装置20は、検出信号Sg61の信号強度Ss61又は検出信号Sg62の信号強度Ss62と基準信号Sg1の信号強度Ss1との差がそれぞれ閾値よりも小さく、検出信号Sg61の信号幅Sw61又は検出信号Sg62の信号幅Sw62と基準信号Sg1の信号幅Sw1との差がそれぞれ閾値よりも大きい場合にインク滴Idの速度変化が生じていると判定する。これにより、インク滴Idの速度変化の現象が生じているか否かについて高精度に判定することができる。
【0097】
また、本実施形態では、制御装置20は、検出素子67により検出信号が検出されない場合にインク滴Idの抜けが生じていると判定する。これにより、インク滴Idの抜けが生じているか否かについて判定することができる。
【0098】
また、本実施形態では、制御装置20は第3検知モードにおいて第2検知モードで検知した吐出不良の要因となる現象の大きさを検知する。この場合、各々の現象の大きさ(程度)を取得することができ、当該大きさに応じた適切な補正処理を行うことができる。
【0099】
また、本実施形態では、第3検知モードにおける第3出力は第1検知モードにおける第1出力の3倍以上である。この場合、吐出不良の要因となる各現象の大きさを高精度に取得することができる。
【0100】
また、本実施形態では、制御装置20は、第3検知モードにおいて検知した現象の大きさに基づいて吐出不良に係るノズル121によるインク滴Idの吐出に関する補正値を決定する。この場合、吐出不良に係るノズル121により吐出すべきインク滴Idの体積や吐出波形等を補正するための補正値を高精度に決定することができる。
【0101】
また、本実施形態では、制御装置20は、光源65から出射されたレーザ光Lzの集光位置Zfと検知対象となるノズル121から吐出されるインク滴Idの飛翔位置との距離に応じて光源65の出力を変える。この場合、検出素子67が検出し得る必要最低限の出力で光源65からレーザ光Lzを出射させることにより光源65の延命化に寄与できると共に、検知精度を低下させずに検知を行うことができる。
【0102】
また、集光位置Zfと飛翔位置との距離が大きくなるほど、検出素子67により検出される受光量が小さくなるが、本実施形態において制御装置20は前記距離が大きくなるほど光源65の出力を高くする。これにより、検出素子67による検出精度が低下することを回避することができる。
【0103】
さらに、本実施形態では、制御装置20は、第1検知モード又は第2検知モードにおいて、検知を1回行うにあたり、複数のノズル列NLのうちの一部のノズル列NLであるノズル列群GN1,GN2であって前回の検知で対象としたのとは異なるノズル列群を検知の対象とする。この場合、1回の検知において例えば奇数列又は偶数列のみを対象とすることで、検知時間の短縮およびレーザ光Lzの出力回数の低減を実現することができる。
【0104】
(変形例)
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。例えば以下の通りである。
【0105】
上記実施形態では、吐出不良のノズル121を検知した場合に所定の補正処理を行うこととしたが、これに限らず、当該補正処理の代わりに又は補正処理と併せてパージ処理やフラッシング処理等を行ってもよい。
【0106】
また、光源65の劣化を極力抑えるべく、ユーザは光源65の出力が最も低い第1検知モードを最初に選択することが望ましいが、第1検知モードを省いて第2検知モード又は第3検知モードを選択することが可能である。
【0107】
また、上記実施形態では、検知モードとして3つの検知モードを設けることとしたが、これに限られるものではなく、当該検知モードとしては第1検知モードおよび第2検知モードのみとしてもよいし、或いは4つ以上の検知モードを設けてもよい。
【0108】
さらに、上記実施形態では、第2検知モードにおける光源65の出力を第1検知モードにおける出力の2倍以上とし、第3検知モードにおける光源65の出力を第1検知モードにおける出力の3倍以上としたが、上記の倍数は例示であって上記の倍数に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0109】
1a 液滴吐出装置
10 吐出ヘッド
20 制御装置
65 光源
67 検出素子
121 ノズル
Df 搬送方向
Dn 正常飛翔方向
Ds 移動方向
GN1,GN2 ノズル列群
Lz レーザ光
NL ノズル列
Sg1 基準信号
Sg2,Sg3,Sg4,Sg51,Sg52,Sg61,Sg62 検出信号
Sh 飛翔空間
W 被印刷媒体
Zf 集光位置
Zga,Zgb 集光位置と飛翔位置との距離