(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151818
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】液滴吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20231005BHJP
B41J 2/165 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B41J2/01 301
B41J2/165 101
B41J2/01 451
B41J2/01 401
B41J2/01 307
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061646
(22)【出願日】2022-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高山 治久
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雄哉
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA07
2C056EA20
2C056EB08
2C056EB29
2C056EB35
2C056ED01
2C056FA04
2C056HA07
2C056JA01
(57)【要約】
【課題】従来よりも吐出不良を高精度に検知することができる液滴吐出装置を提供する。
【解決手段】液滴吐出装置は、被印刷媒体に液滴を吐出するノズル孔が開口する吐出面を有する金属製の吐出ヘッドと、吐出面に対して相対移動する電極と、吐出ヘッドと電極との間に電位差を生じさせる電圧源と、吐出ヘッドと電極との間を流れる電流を検知する電流検知部と、制御装置とを備え、制御装置は、第1距離だけ離れた吐出ヘッドと電極との間に電圧源により電位差を生じさせている状態で吐出ヘッドにより液滴を吐出させたときに電流が流れている時間および第1距離に基づき液滴の飛翔速度を算出し、かつ、吐出面と電極との距離が第1距離よりも大きい第2距離となるように吐出面と電極との相対距離を変更し、液滴が吐出された後電極に着弾するまでの時間に基づき液滴の正常飛翔方向に対する吐出曲がり量を算出する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被印刷媒体に液滴を吐出するノズル孔が開口する吐出面を有する金属製の吐出ヘッドと、
前記吐出面に対して相対移動する電極と、
前記吐出ヘッドと前記電極との間に電位差を生じさせる電圧源と、
前記吐出ヘッドと前記電極との間を流れる電流を検知する電流検知部と、
制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
第1距離だけ離れた前記吐出ヘッドと前記電極との間に前記電圧源により電位差を生じさせている状態で前記吐出ヘッドにより液滴を吐出させたときに前記電流が流れている時間および前記第1距離に基づき前記液滴の飛翔速度を算出し、かつ、
前記吐出面と前記電極との距離が前記第1距離よりも大きい第2距離となるように前記吐出面と前記電極との相対距離を変更し、前記液滴が吐出された後前記電極に着弾するまでの時間に基づき前記液滴の正常飛翔方向に対する吐出曲がり量を算出する、液滴吐出装置。
【請求項2】
前記吐出ヘッドを昇降させるヘッド用昇降装置をさらに備える、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記電極を昇降させる電極用昇降装置をさらに備える、請求項1又は2に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記飛翔速度を算出した結果、算出した前記飛翔速度と正常速度との差が閾値以上である場合に前記吐出曲がり量を算出する、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記吐出曲がり量を算出した結果、算出した吐出曲がり量が閾値以上である場合に前記飛翔速度を算出する、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
前記電極のうち前記吐出面側の面は前記吐出面に対して傾斜している、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項7】
前記電極は導電部および前記導電部と隣り合う非導電部を含む、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記飛翔速度の算出と前記吐出曲がり量の算出を行う前に、前記吐出面に対する前記電極の相対移動の原点として前記導電部と前記非導電部との境界点を検出する、請求項7に記載の液滴吐出装置。
【請求項9】
前記電極のうち前記吐出面側の面は凹凸状に形成されている、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項10】
前記電極は前記被印刷媒体への印刷を行わないときに前記吐出ヘッドの前記吐出面を覆うキャップに形成されており、
前記吐出面を覆うときに前記キャップが前記吐出面に対して平行となるように前記キャップを移動させる駆動装置をさらに備える、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項11】
前記制御装置は、前記ノズルから吐出する液滴の容量を変更可能であり、前記飛翔速度を算出する際には相対的に容量の大きい液滴を吐出させる、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項12】
前記電極は水平に配置され、
前記吐出面が前記電極に対して傾斜するように前記吐出ヘッドを傾斜させる傾斜装置をさらに備える、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項13】
前記吐出ヘッドを移動方向に移動させるキャリッジと、
前記吐出面に対して前記電極を相対的に傾斜させる駆動装置と、をさらに備え、
前記制御装置は、前記駆動装置により前記電極を前記吐出面に対して相対的に傾斜させた状態で前記吐出ヘッドを前記移動方向に往復移動させつつ当該吐出ヘッドに前記液滴を吐出させた際に前記飛翔速度および前記吐出曲がり量を算出する、請求項1に記載の液滴吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばインクジェットプリンタ等の画像記録装置に用いられる液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吐出ヘッドに設けられたノズルによるインクの吐出特性を検知する技術がある。例えば特許文献1には、ノズルから吐出される液滴を所定電位にする第1電極と、所定電位と異なる電位にされる第2電極と、ノズルから液滴を吐出させたときの第1電極又は第2電極の電位変化を検出する検出部とを備える液滴吐出装置が開示されている。この構成によれば、検出された上記電位変化に基づいてノズルから吐出された液滴の飛行速度を検出するとのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ノズルから吐出された液滴の飛翔速度のみによってはノズルの吐出不良を高精度に検知することが難しい。そのため、吐出不良の誤判定をしてしまう恐れがあった。
【0005】
そこで、本発明は従来よりも吐出不良を高精度に検知することができる液滴吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の液滴吐出装置は、被印刷媒体に液滴を吐出するノズル孔が開口する吐出面を有する金属製の吐出ヘッドと、前記吐出面に対して相対移動する電極と、前記吐出ヘッドと前記電極との間に電位差を生じさせる電圧源と、前記吐出ヘッドと前記電極との間を流れる電流を検知する電流検知部と、制御装置と、を備え、前記制御装置は、第1距離だけ離れた前記吐出ヘッドと前記電極との間に前記電圧源により電位差を生じさせている状態で前記吐出ヘッドにより液滴を吐出させたときに前記電流が流れている時間および前記第1距離に基づき前記液滴の飛翔速度を算出し、かつ、前記吐出面と前記電極との距離が前記第1距離よりも大きい第2距離となるように前記吐出面と前記電極との相対距離を変更し、前記液滴が吐出された後前記電極に着弾するまでの時間に基づき前記液滴の正常飛翔方向に対する吐出曲がり量を算出するものである。
【0007】
本発明に従えば、液滴の飛翔速度を取得することができると共に液滴の正常飛翔方向に対する吐出曲がり量を取得することができる。これによって、飛翔速度および吐出曲がり量に基づき吐出不良の発生を高精度に検知することができる。この場合、吐出面と電極との距離が第1距離であるときに飛翔速度が算出され、吐出面と電極との距離が第1距離よりも大きい第2距離であるときに吐出曲がり量が算出される。これにより、吐出面と電極との距離が第1距離であるときに吐出曲がり量を算出する場合よりも、検出し得る吐出曲がり量が大きくなり、それゆえ当該吐出曲がり量の大きさに起因する検出時間(つまり、液滴が吐出された後電極上に着弾するまでの時間)を長くすることができる。このことによって、ノイズの影響を受けることを抑制しつつ精度の高い吐出曲がり量を取得することが可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来よりも吐出不良を高精度に検知することが可能な液滴吐出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る液滴吐出装置が設けられる画像形成装置を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る液滴吐出装置を示す平面図である。
【
図3】
図1の吐出ヘッドの構成を示す断面図である。
【
図4】
図1の画像形成装置の構成要素を示すブロック図である。
【
図5】吐出ヘッドと電極との間に電位差を生じさせた状態で吐出ヘッドによりインク滴を吐出する態様を示す図である。インク滴の吐出時に流れる電流を検知する構成を示す図である。
【
図6】インク滴の吐出曲がりについて説明するための図である。
【
図7】吐出ヘッドにより吐出されたインク滴の飛翔速度および吐出曲がり量を算出する方法を説明するための図である。
【
図8】電極を昇降させる電極用昇降装置の構成の例を示す図である。
【
図9】傾斜装置により傾斜された吐出ヘッドを示す図である。
【
図10】
図9の傾斜装置の構成の例を示す図である。
【
図11】駆動装置により傾斜された電極を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る液滴吐出装置について図面を参照して説明する。以下に説明する液滴吐出装置は本発明の一実施形態に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除および変更が可能である。
【0011】
図1は本発明の一実施形態に係る液滴吐出装置1aが設けられる画像形成装置1を示す斜視図である。以下では、画像形成位置1として立体物である被印刷媒体Wに対する印刷も可能なインクジェットプリンタを用いた例を開示するが、画像形成装置1には用紙のみに印刷が可能なインクジェットプリンタ等も含まれる。
図1において、相互に直交する方向を、第1方向Ds、第2方向Dfおよび第3方向Dzとする。本実施形態では、例えば、第1方向Dsは後述するキャリッジ3の移動方向であり、第2方向Dfは後述する被印刷媒体Wの搬送方向であり、第3方向Dzは上下方向である。以下の説明では、Dsを移動方向と呼び、Dfを搬送方向と呼び、Dzを上下方向と呼ぶ。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の画像形成装置1は、筐体2と、操作キー4と、表示部5と、被印刷媒体Wが配置されるプラテン6と、上部カバー7とを備える。また、画像形成装置1は、例えばシリアルヘッドである吐出ヘッド10と、制御装置20(
図4)を含むコントローラユニット19とを有する
図2の液滴吐出装置1aを備える。吐出ヘッド10は、液滴として例えば紫外線硬化型のインク滴Id(
図5)を吐出するインクジェットヘッドである。
【0013】
筐体2は箱状に形成されている。筐体2は開口部2aを有する。筐体2には操作キー4が設けられている。また、操作キー4の近傍には表示部5が設けられている。操作キー4はユーザによる操作入力を受け付ける。表示部5は例えばタッチパネルで構成され、所定情報を表示する。表示部5の一部は操作キーとしても機能する。コントローラユニット19は、操作キー4からの入力又は図略の通信インタフェースを介する外部入力に基づき印刷機能を実現すると共に表示部5の表示を制御する。
【0014】
プラテン6は被印刷媒体Wを載置可能に構成されている。プラテン6は所定の厚みを有し、例えば搬送方向Dfを長手方向とする矩形状の板材により構成される。プラテン6は図略のプラテン支持台により、取り外し可能に支持されている。プラテン支持台は搬送モータ33(
図4)の駆動により被印刷媒体Wへの印刷を実行する印刷位置と被印刷媒体Wをプラテン6から取り外す着脱位置との間で搬送方向Dfに移動可能に構成される。これにより、プラテン6は被印刷媒体Wの被吐出面を吐出ヘッド10に対して搬送方向Dfに相対移動させる。印刷時にはプラテン6が搬送方向Dfに移動するため、プラテン6上に載置された被印刷媒体Wが搬送方向Dfに沿って搬送される。
【0015】
上部カバー7は、その端部を持ち上げると上方へ回動するように構成されている。これにより、筐体2の内部が露出する。
【0016】
図2に示すように、液滴吐出装置1aは、貯留タンク62、例えば2つの金属製の吐出ヘッド10(10A,10B)と2つの紫外線照射装置40(40A,40B)が搭載されたキャリッジ3、および一対のガイドレール67を備える。なお、2つの吐出ヘッド10と2つの紫外線照射装置40を設けることにしたが、これに限定されるものではなく、1つの吐出ヘッド10と1つの紫外線照射装置40を設けてもよい。
【0017】
キャリッジ3は、移動方向Dsに延在する一対のガイドレール67に支持され、当該ガイドレール67に沿って移動方向Dsに往復動する。これにより、2つの吐出ヘッド10(10A,10B)と2つの紫外線照射装置40(40A,40B)は移動方向Dsに往復動可能になっている。また、吐出ヘッド10はチューブ62aを介して貯留タンク62に接続される。
【0018】
本実施形態において、例えば、吐出ヘッド10Aは、カラーインクと総称されることがあるイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、およびブラック(K)の各色のインク滴Idを吐出する。以上の4色のインク滴Idが被印刷媒体Wに吐出されることで当該被印刷媒体Wにカラー画像が印刷される。一方、吐出ヘッド10Bは、ホワイト(W)のインク滴Idおよびクリア(Cr)のインク滴Idを吐出する。被印刷媒体Wとして例えば布帛にカラー画像を印刷する際には、当該布帛の色や布帛の材質への影響を低減するために、下地インクとして白インクのインク滴Idが先に吐出され、当該白インクのインク滴Idの上にカラーインクのインク滴Idが吐出される。また、クリアインクのインク滴Idは光沢を付与する場合や印刷部分の保護を行う場合に吐出される。
【0019】
貯留タンク62にはインクが貯留されている。貯留タンク62はインクの種類ごとに設けられている。貯留タンク62は、例えば6つ設けられ、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタ、ホワイト、およびクリアのインクがそれぞれ貯留される。
【0020】
液滴吐出装置1aはさらにパージ部50および受け部54を備える。受け部54はキャリッジ3の移動領域に重なるように一対のガイドレール67のうち移動方向Dsの一方側に配置される。パージ部50は、キャリッジ3の移動領域に重なるように一対のガイドレール67のうち移動方向Dsの他方側に配置される。
【0021】
パージ部50は、キャップ51、吸引ポンプ52および吸引位置と待機位置との間でキャップ51を昇降する図略の昇降機構を有する。吸引ポンプ52はキャップ51に接続されている。待機位置では吐出面NM(
図3)はキャップ51から離間する。一方、吸引位置では吐出面NMがキャップ51に覆われ、密閉空間が形成される。キャップ51が吸引位置にあるときに吸引ポンプ52が駆動されると、上記密閉空間が吸引されてノズル孔121a(
図3)からインクが排出されるパージ処理が行われる。
【0022】
ここで、後で詳述する電極11は被印刷媒体Wへの印刷を行わないときに吐出ヘッド10の吐出面NMを覆うキャップ51に形成される。キャップ51で吐出面NMを覆うときには、キャップ51が吐出面NMに対して平行となるように当該キャップ51が後述の駆動装置58により回動される。
【0023】
受け部54はフラッシング処理によって吐出ヘッド10から吐出されたインク滴Idを受ける。
【0024】
次に吐出ヘッド10の詳細構造について説明する。
図3に示すように、吐出ヘッド10は貯留タンク62からのインクを用いてインク滴Idを吐出する複数のノズル121を有する。吐出ヘッド10は流路形成体と容積変更部の積層体を有する。流路形成体には、その内部にインク流路が形成され、その下面である吐出面NMに複数のノズル孔121aが開口している。また、上記の容積変更部は、駆動されてインク流路の容積を変更する。このとき、ノズル孔121aではメニスカスが振動してインクが吐出される。
【0025】
吐出ヘッド10の上述の流路形成体は複数のプレートの積層体であり、容積変更部は振動板155およびアクチュエータ(圧電素子)160を含む。振動板155の上には後述の共通電極161が接続されている。
【0026】
複数のプレートは、下から順に、ノズルプレート146、スペーサプレート147、第1流路プレート148、第2流路プレート149、第3流路プレート150、第4流路プレート151、第5流路プレート152、第6流路プレート153、および第7流路プレート154を含んで積層されている。
【0027】
各プレートには大小種々の孔および溝が形成されている。各プレートが積層された流路形成体の内部では孔および溝が組み合わされて、複数のノズル121、複数の個別流路164およびマニホールド122がインク流路として形成されている。
【0028】
ノズル121はノズルプレート146を積層方向に貫通し形成されている。ノズルプレート146の吐出面NMには、ノズル121の先端である複数のノズル孔121aが搬送方向Dfに複数並んでノズル列を形成している。
【0029】
マニホールド122は、吐出圧力が付与される圧力室128に対してインクを供給する。マニホールド122は、搬送方向Dfに延在しており、複数の個別流路164の各一端にそれぞれ接続されている。すなわち、マニホールド122はインクの共通流路として機能する。マニホールド122は、第1流路プレート148~第4流路プレート151を積層方向に貫通した貫通孔および第5流路プレート152の下面から窪んだ窪みが積層方向に重なって形成されている。
【0030】
ノズルプレート146はスペーサプレート147の下方に配置されている。そのスペーサプレート147は例えばステンレス鋼材で形成される。スペーサプレート147は、例えばハーフエッチングによりノズルプレート146側の面からスペーサプレート147の厚み方向に凹むことで、ダンパ部147aを成す薄肉部分とダンパ空間147bとが形成される凹部145を有する。これにより、マニホールド122とノズルプレート146との間に、バッファー空間としてのダンパ空間147bが形成される。
【0031】
マニホールド122には供給ポート122aが連通している。供給ポート122aは例えば筒状に形成され、搬送方向Dfの一端に設けられている。なお、マニホールド122と供給ポート122aとは図略の流路により繋がっている。
【0032】
各個別流路164はマニホールド122にそれぞれ接続されている。個別流路164は、その上流端がマニホールド122に接続され、その下流端がノズル121の基端に接続されている。個別流路164は、第1連通孔125、個別絞り路である供給絞り路126、第2連通孔127、圧力室128、およびディセンダ129で構成されており、これらの構成要素はこの順で配置される。
【0033】
第1連通孔125は、その下端がマニホールド122の上端に接続し、マニホールド122から積層方向の上方に延び、第5流路プレート152における上側部分を積層方向に貫通している。
【0034】
供給絞り路126の上流端は第1連通孔125の上端に接続されている。供給絞り路126は、例えばハーフエッチングにより形成され、第6流路プレート153の下面から窪んだ溝により構成されている。また、第2連通孔127は、その上流端が供給絞り路126の下流端に接続され、供給絞り路126から積層方向の上方に延び、第6流路プレート153を積層方向に貫通して形成されている。
【0035】
圧力室128は、その上流端が第2連通孔127の下流端に接続されている。圧力室128は、第7流路プレート154を積層方向に貫通して形成されている。
【0036】
ディセンダ129は、スペーサプレート147、第1流路プレート148、第2流路プレート149、第3流路プレート150、第4流路プレート151、第5流路プレート152、および第6流路プレート153を積層方向に貫通して形成されている。ディセンダ129は、その上流端が圧力室128の下流端に接続され、下流端がノズル121の基端に接続されている。ノズル121は、例えば積層方向においてディセンダ129に重なり、幅方向においてディセンダ129の中央に配置されている。
【0037】
振動板155は、第7流路プレート154の上に積層されており、圧力室128の上端開口を覆っている。
【0038】
アクチュエータ160は、共通電極161、圧電層162および個別電極163を含み、これらはこの順で配置されている。共通電極161は振動板155の全面を覆っている。圧電層162は共通電極161の全面を覆っている。個別電極163は、圧力室128ごとに設けられ、圧電層162上に配置されている。1つの個別電極163、共通電極161および両電極で挟まれた部分の圧電層162により1つのアクチュエータ160が構成される。
【0039】
個別電極163はドライバICに電気的に接続されている。このドライバICは、制御装置20から制御信号を受けて、駆動信号(電圧信号)を生成し、個別電極163に印加する。これに対して、共通電極161は常にグランド電位に保持されている。このような構成において、圧電層162の活性部は駆動信号に応じて共通電極161および個別電極163と共に面方向に伸縮する。これに応じて、振動板155が協働して変形し、圧力室128の容積を増減する方向に変化する。これにより、インク滴Idをノズル121から吐出させる吐出圧力が圧力室128に付与される。
【0040】
吐出ヘッド10において、インクは、供給ポート122aを介してマニホールド122に流入すると、当該マニホールド122から第1連通孔125を介して供給絞り路126に流入し、供給絞り路126から第2連通孔127を介して圧力室128に流入する。その後、インクはディセンダ129を流れ、ノズル121に流入する。ここで、アクチュエータ160により圧力室128に吐出圧力が付与されると、インク滴Idがノズル孔121aから吐出される。
【0041】
図4は
図1の画像形成装置1の構成要素を示すブロック図である。
図4に示すように、画像形成装置1は、さらにコントローラユニット19、読取装置26、モータドライバIC30,31、ヘッドドライバIC32、搬送モータ33、キャリッジモータ34、照射装置ドライバIC35、パージドライバIC36、昇降装置ドライバIC39,41および傾斜装置ドライバIC42を備える。液滴吐出装置1aはさらに電圧源37、電流検知部38、ヘッド用昇降装置55、電極用昇降装置56および傾斜装置57を備える。
【0042】
コントローラユニット19は、CPUで構成される制御装置20、記憶部(ROM21、RAM22、EEPROM23、HDD24)、およびASIC25を有する。制御装置20は、上記の各記憶部に接続されていると共に各ドライバIC30~32,35,36,39,41,42および表示部5を制御する。
【0043】
制御装置20は、ROM21に記憶された所定の処理プログラムを実行することにより、種々の機能を実行する。制御装置20は、コントローラユニット19に1つのプロセッサとして実装されていてもよいし、互いに協働する複数のプロセッサとして実装されていてもよい。処理プログラムは、コンピュータ読取可能な光磁気ディスク等又はUSBフラッシュメモリ等の記録媒体KBから読取装置26で読み出されてROM21に記憶される。RAM22には、外部から受信した画像データおよび制御装置20の演算結果等が記憶される。EEPROM23にはユーザが入力した各種の初期設定情報が格納されている。HDD24には特定情報などが記憶される。
【0044】
ASIC25には、モータドライバIC30,31と、ヘッドドライバIC32と、照射装置ドライバIC35と、パージドライバIC36と、電圧源37と、電流検知部38と、昇降装置ドライバIC39,41と、傾斜装置ドライバIC42とが接続される。ASIC25は、制御装置20の指令に基づいて上記各ドライバ、電圧源37および電流検知部38を駆動する。
【0045】
制御装置20は、モータドライバIC30により搬送モータ33を駆動することでプラテン6を搬送方向Dfに移動させる。制御装置20は、モータドライバIC31によりキャリッジモータ34を駆動することでキャリッジ3を移動方向Dsに移動させる。
【0046】
制御装置20は、外部装置等から取得した画像データを被吐出面にインク滴Idを吐出するための吐出データに変換する。制御装置20は、変換した吐出データに基づいてヘッドドライバIC32により吐出ヘッド10からインク滴Idを吐出させる。また、制御装置20は、照射装置ドライバIC35により紫外線照射装置40の各発光ダイオードチップから紫外線を照射させる。制御装置20はパージドライバIC36によりパージ部50を駆動する。
【0047】
制御装置20は昇降装置ドライバIC39によりヘッド用昇降装置55に吐出ヘッド10を昇降させる。制御装置20は昇降装置ドライバIC41により電極用昇降装置56に後述の電極11を昇降させる。また、制御装置20は傾斜装置ドライバIC42により後述の傾斜装置57を傾斜させる。
【0048】
制御装置20は、電圧源37により吐出ヘッド10と電極11との間に電位差を生じさせる。制御装置20は、吐出ヘッド10と電極11との間に電位差が生じた際に吐出ヘッド10と電極11との間を流れる電流を電流検知部38に検知させる。
【0049】
制御装置20は、所定の距離だけ離れた吐出ヘッド10と電極11との間に電圧源37により電位差を生じさせている状態で吐出ヘッド10によりインク滴Idを吐出させたときに電流が流れる時間および上記所定の距離に基づきインク滴Idの飛翔速度を算出する。また、制御装置20は、吐出ヘッド10により吐出されたインク滴Idの正常飛翔方向に対する吐出曲がり量を算出する。なお、制御装置20によるインク滴Idの飛翔速度の算出および吐出曲がり量の算出については、後で詳述する。
【0050】
図5は吐出ヘッド10と電極11との間に電位差を生じさせた状態で吐出ヘッド10によりインク滴Idを吐出する態様を示す図である。
【0051】
図5に示すように、電圧源37により吐出ヘッド10と電極11との間に電位差を生じさせた状態で吐出ヘッド10からインク滴Idを吐出させる際には、当該インク滴Idがもつ電荷量に応じた電荷が吐出ヘッド10と電極11にそれぞれ誘起される。そのため、吐出ヘッド10に誘起された電荷量と電極11に誘起された電荷量との差に応じた電流が吐出ヘッド10と電極11との間に流れる。このとき、電流検知部38は吐出ヘッド10と電極11との間を流れる電流を検知する。
【0052】
ここで、吐出ヘッド10から吐出されたインク滴Idの吐出曲がりについて説明する。
図6に示すように、吐出ヘッド10の正常なノズル121から吐出されたインク滴Idは正常飛翔方向Dnに沿って飛翔する。これに対して、吐出不良が生じているノズル121から吐出されたインク滴Idは、正常飛翔方向Dnに対して傾斜した曲がり飛翔方向Dmに沿って飛翔する。
【0053】
図7は吐出ヘッド10により吐出されたインク滴Idの飛翔速度および吐出曲がり量Rmを算出する方法を説明するための図である。
【0054】
図7に示すように、制御装置20はインク滴Idの飛翔速度を算出する際に、まず吐出ヘッド10の吐出面NMと電極11との距離が第1距離L1となるように電極用昇降装置56により電極11を移動させる。なお、電極用昇降装置56の構成の詳細について後述する。
【0055】
次に、制御装置20は電圧源37により吐出ヘッド10と電極11との間に電位差を生じさせる。そして、制御装置20は吐出ヘッド10からインク滴Idを吐出させる。これにより、吐出ヘッド10に誘起された電荷量と電極11に誘起された電荷量との差に応じた電流が吐出ヘッド10と電極11との間に流れる。このとき、吐出ヘッド10と電極11との間を流れる電流が電流検知部38により検知される。
【0056】
制御装置20は電流検知部38により検知された電流が流れている時間を計測する。インク滴Idの飛翔速度をvとし、吐出ヘッド10と電極11との距離をd(=L1)とし、電流が流れている時間をTとするとき、制御装置20は、v=d/Tによりインク滴Idの飛翔速度を算出する。
【0057】
制御装置20はノズル121から吐出するインク滴Idの容量を変更可能であり、これにより液滴サイズが中玉又は大玉であるインク滴Idを吐出ヘッド10に吐出させることができる。制御装置20は、インク滴Idの飛翔速度を算出する際には相対的に容量の大きいインク滴Idを吐出させる。具体的には、制御装置20はインク滴Idの飛翔速度を算出する際には通常印刷時のインク滴Idの容量よりも大きいインク滴Idを吐出させる。
【0058】
制御装置20はインク滴Idの飛翔速度を算出した後、算出した飛翔速度とROM21等に予め記憶されたインク滴Idの正常速度との差が閾値以上であるか否かを判別する。算出した飛翔速度と正常速度との差が閾値以上である場合に、制御装置20は以下のようにインク滴Idの吐出曲がり量を算出する。なお、算出した飛翔速度と正常速度との差が閾値未満である場合には吐出不良が生じていないと見做し、制御装置20は吐出曲がり量を算出しなくてもよい。なお、インク滴Idの正常速度は例えば5m/sであり、上記閾値は例えば3m/sである。
【0059】
制御装置20は、吐出ヘッド10と電極11との距離が第1距離L1よりも大きい第2距離L2となるように電極用昇降装置56により電極11を移動させる。次に、制御装置20は電圧源37により吐出ヘッド10と電極11との間に電位差を生じさせる。
【0060】
次いで、制御装置20は吐出ヘッド10からインク滴Idを吐出させる。吐出されたインク滴Idは、正常飛翔方向Dnに対して傾斜した曲がり飛翔方向Dmに沿って飛翔するものとする。
【0061】
インク滴Idが吐出されると、吐出ヘッド10と電極11との間に電流が流れる。このとき、吐出ヘッド10と電極11との間を流れる電流が電流検知部38により検知される。制御装置20は電流検知部38により検知された電流が流れている時間を計測する。この時間は、吐出曲がりが生じているインク滴Idが吐出ヘッド10により吐出されてから電極11に着弾するまでの飛翔距離L3を飛翔するのにかかる時間と見做すことができる。
【0062】
制御装置20は、先に算出したインク滴Idの飛翔速度と計測した電流が流れる時間とを用いて、上記の算出式v=d/Tにより、距離d(すなわち
図7のインク滴Idの飛翔距離L3)を算出する。
【0063】
これにより距離L2および距離L3が既知となる。したがって、距離L2に係る正常飛翔方向Dnと距離L3に係る曲がり飛翔方向Dmとが成す角度θは、θ=arccos(L2/L3)、により算出することができる。よって、制御装置20は角度θを吐出曲がり量として取得する。或いは、インク滴Idが正常飛翔方向Dnに飛翔して着弾した位置と曲がり飛翔方向Dmに飛翔して着弾した位置との差である距離Rmを吐出曲がり量としてもよい。この場合、制御装置20は、Rm=L3×sinθにより距離Rmを算出することができる。
【0064】
図8は電極11を昇降させる電極用昇降装置56の構成の例を示す図である。制御装置20は、電極用昇降装置56により電極11を昇降させることで当該電極11と吐出ヘッド10の吐出面NMとの距離を変更する。なお、ヘッド用昇降装置55の構成は電極用昇降装置56の構成と同じであるため、ヘッド用昇降装置55についての説明は省略する。
【0065】
以下の構成は一例であり、電極用昇降装置56の構成を限定するものではない。電極用昇降装置56は、
図8に示すように、例えば電動モータであるモータ56aと、駆動側ギアおよび従動側ギアを含む減速ギア56bと、ボールねじ56cと、可動テーブル56dとを有する。モータ56aの回転軸56kは減速ギア56bの駆動側ギアに接続されている。また、ボールねじ56cは上下方向Dzに延在するように配置される。可動テーブル56dはボールねじ56cに接続される。電極11は可動テーブル56dに支持される。
【0066】
制御装置20によりモータ56aが回転駆動されると、その回転力が減速ギア56bを介してボールねじ56cに伝達される。これにより、ボールねじ56cがその軸回りに回転し、これに伴って可動テーブル56dが上下方向Dzに移動する。これによって、可動テーブル56dに支持された電極11を上下方向Dzに移動させることが可能となる。これにより、電極11と吐出ヘッド10の吐出面NMとの距離を変更することができる。
【0067】
図9は傾斜装置57により傾斜された吐出ヘッド10を示す図である。
図10は
図9の傾斜装置57の構成の例を示す図である。
【0068】
上述したように吐出ヘッド10の吐出面NMと電極11との距離を第1距離L1にしてインク滴Idの飛翔速度を算出した後、インク滴Idの吐出曲がり量を取得すべく上記距離を第2距離L2にする際に吐出ヘッド10を傾斜させてもよい。
【0069】
図9に示すように、電極11は水平に配置される。傾斜装置57は制御装置20の指示により吐出ヘッド10の吐出面NMが電極11に対して傾斜するように吐出ヘッド10を傾斜させる。
【0070】
傾斜装置57の構成について説明する。以下の構成は一例であり、傾斜装置57の構成を限定するものではない。傾斜装置57は、
図10に示すように、例えば電動モータであるモータ57aと、モータ57aに接続された回転軸57kと、円盤状の回転板57bと、伝達部57cと、上下方向Dzに延在し上下方向Dzに往復移動可能な昇降部57dと、支持部57eとを有する。なお、モータ57aには減速機が接続される。
【0071】
回転軸57kは回転板57bの中心に接続されている。伝達部57cは例えば棒状に形成され、その一端が回転板57bに偏心して接続され、その他端が昇降部57dの上端に接続されている。支持部57eは昇降部57dを上下方向Dzに移動可能に支持する。昇降部57dの下端は吐出ヘッド10の上面の一方側の部分に固定される。
【0072】
制御装置20によりモータ57aが回転駆動されると、その回転力が回転軸57kを介して回転板57bに伝達される。これにより、回転板57bが回転軸57k回りに回転する。これに伴い、伝達部57cは昇降部57dを上方又は下方に移動させる。これにより、吐出ヘッド10は昇降部57dに引っ張られ又は押圧されるので、当該吐出ヘッド10の一方側の部分(つまり昇降部57dによる押圧部分)の位置が他方側の部分の位置よりも高くなる又は低くなる。これによって、吐出ヘッド10の吐出面NMを電極11に対して傾斜させることができる。このようにして、インク滴Idの吐出曲がり量を取得する際に吐出ヘッド10の吐出面NMと電極11との距離を第2距離L2にすべく、吐出面NMと電極11との距離を変更することができる。
【0073】
ここで、
図9において電極11は導電部11aおよび当該導電部11aと隣り合う非導電部11bを含んでもよい。制御装置20は、インク滴Idの飛翔速度の算出および吐出曲がり量の算出を行う前に、吐出ヘッド10の吐出面NMに対する電極11の相対移動の原点、つまり
図9では電極11に対する吐出ヘッド10の吐出面NMの移動の原点として導電部11aと非導電部11bとの境界点11cを検出する。これは、吐出ヘッド10の移動誤差が生じた場合に当該吐出ヘッド10の電極11に対する位置ずれが起こり得るため、上記原点を取得することが望ましいという考えに基づく。
【0074】
境界点11cを検出する際には、制御装置20は電圧源37により吐出ヘッド10と電極11の導電部11aとの間に電位差を生じさせた状態で吐出ヘッド10からインク滴Idを吐出させる。この場合、吐出ヘッド10から吐出されたインク滴Idが当該吐出ヘッド10と電極11の非導電部11bとの間を飛翔する場合および当該非導電部11b上に着弾する場合には、電流検知部38により電流が検知されない。一方、制御装置20は傾斜装置57により吐出ヘッド10を移動させて当該吐出ヘッド10からインク滴Idを吐出させる。このとき、制御装置20は、インク滴Idが電極11の境界点11cの上方を飛翔することおよび境界点11c上に着弾されたことに起因して電流検知部38により閾値以上の電流が検知されたタイミングをもって原点としての境界点11cの検出を完了する。なお、吐出ヘッド10を導電部11a側から非導電部11b側へ移動させる場合は、所定閾値以下の電流が検知されたタイミングをもって原点としての境界点11cの検出を完了する。
【0075】
図9では吐出ヘッド10を傾斜させることで電極11と吐出ヘッド10の吐出面NMとの距離を変更したが、電極11を傾斜させることで当該距離を変更してもよい。
図11は駆動装置58により傾斜された電極11を示す図である。
図11の駆動装置58の構成は傾斜装置57の構成と同じである。
【0076】
上述したように吐出ヘッド10の吐出面NMと電極11との距離を第1距離L1にしてインク滴Idの飛翔速度を算出した後、インク滴Idの吐出曲がり量を取得すべく上記距離を第2距離L2にする際に電極11を傾斜させてもよい。
図11において、吐出ヘッド10は水平に配置される。駆動装置58は制御装置20の指示により電極11の上面が吐出ヘッド10の吐出面NMに対して傾斜するように電極11を傾斜させる。これにより、電極11の吐出面NM側の上面は当該吐出面NMに対して傾斜する。
【0077】
電極11を傾斜させる態様を採用する場合には、電極11のうち吐出面NM側の上面に凹凸部11dを形成する。これはインク滴Idの液垂れを防ぐ観点からである。
【0078】
以上説明したように、液滴吐出装置1aによれば、インク滴Idの飛翔速度を取得することができると共にインク滴Idの正常飛翔方向Dnに対する吐出曲がり量を取得することができる。これによって、飛翔速度および吐出曲がり量に基づき吐出不良の発生を高精度に検知することができる。この場合、吐出ヘッド10の吐出面NMと電極11との距離が第1距離L1であるときに飛翔速度が算出され、吐出面NMと電極11との距離が第1距離L1よりも大きい第2距離L2であるときに吐出曲がり量が算出される。この点、吐出面NMと電極11との距離が比較的短い場合には空気抵抗の影響が小さいため、飛翔速度を高精度に検知し易い。また、吐出面NMと電極11との距離が比較的長い場合には、空気抵抗を受けることによりインク滴Idの吐出曲がりの程度がより大きく表れるため、吐出曲がり量を検知するのに適している。これにより精度の高い吐出曲がり量を取得することができる。
【0079】
また、本実施形態では、吐出ヘッド10の吐出面NMと電極11との距離を変更する際にヘッド用昇降装置55により吐出ヘッド10を昇降させることができる。この場合、吐出ヘッド10の吐出面NMと電極11との距離を容易に変えることができる。特に、吐出ヘッド10としてシリアルヘッドを用いる場合には当該シリアルヘッドを移動方向(主走査方向)Dsに走査するため、吐出ヘッド10は移動する構成要素となる。したがって、移動する構成要素である吐出ヘッド10をさらに昇降させ、電極11を固定要素とした方が、一方が固定されるため、当該電極11に対する吐出ヘッド10の位置精度が出易くなる。
【0080】
また、本実施形態では、吐出ヘッド10の吐出面NMと電極11との距離を変更する際に電極用昇降装置56により電極11を昇降させることができる。この場合、吐出ヘッド10の吐出面NMと電極11との距離を容易に変えることができる。特に、吐出ヘッド10としてラインヘッドを用いる場合には当該ラインヘッドは固定されているため、電極11を昇降させる方が適している。また、吐出ヘッド10より電極11の方が軽いため、軽量の電極11を動かした方が移動させたときの制動がより大きく効くため、停止するまでの時間を短くでき、かつ吐出ヘッド10に対する当該電極11の位置精度が出易い。また、電極用昇降装置56に比較的小さなモータを用いることができるので当該装置を小型化できる。さらに、軽量の電極11を動かした方が動かす時間を短くすることができる。
【0081】
また、本実施形態では、制御装置20は算出したインク滴Idの飛翔速度と正常速度との差が閾値以上である場合に吐出曲がり量を算出する。この場合、インク滴Idの飛翔速度のみをもって吐出不良の発生を判定できる場合に、不要に吐出曲がり量の算出を行うことを回避することができる。これにより、全てのノズル121に対して吐出曲がり量を算出する場合と比較して吐出不良の発生を判定するのに要する時間を短縮することができる。
【0082】
また、本実施形態において、制御装置20は吐出曲がり量を算出した結果、算出した吐出曲がり量が閾値以上である場合に飛翔速度を算出してもよい。この場合、インク滴Idの吐出曲がり量のみをもって吐出不良の発生を判定できる場合に、不要に飛翔速度の算出を行うことを回避することができる。これにより、全てのノズル121に対して飛翔速度を算出する場合と比較して吐出不良の発生を判定するのに要する時間を短縮することができる。
【0083】
また、本実施形態では、駆動装置58により電極11の上面を吐出面NMに対して傾斜させた状態で吐出ヘッド10を移動方向Dsに移動させることで、吐出面NMと電極11との距離を容易に変えることができる。
【0084】
また、本実施形態では、電極11は導電部11aおよび導電部11aと隣り合う非導電部11bを含む。この場合、吐出面NMのノズル孔121aから吐出されたインク滴Idが当該吐出面NMと電極11の非導電部11bとの間にあるときには吐出ヘッド10と電極11との間に電位差が生じない。このように電位差が生じない非導電部11bと導電部11aとの境界点11cを吐出面NMに対する電極11の相対移動の原点とすることで、吐出ヘッド10と電極11との相対的な移動の位置ずれに起因して吐出面NMと電極11との距離が変わってしまうことを回避することができる。これにより、吐出面NMと電極11との距離の算出精度が向上する。
【0085】
また、本実施形態では、原点である境界点11cを検出した後にインク滴Idの飛翔速度の算出および吐出曲がり量の算出を行うことで、吐出ヘッド10と電極11との相対的な位置ずれの影響をなくすことができ、もって信頼性の高い算出結果を得ることができる。
【0086】
また、本実施形態では、電極11のうち吐出面NM側の上面に凹凸部11dを形成する。これにより、傾斜した電極11上に着弾したインク滴Idの液垂れを防ぐことができる。
【0087】
また、本実施形態では、電極11がキャップ51に形成されることで当該電極用の新たなスペースを設ける必要がない。これにより液滴吐出装置1aを小型化できる。
【0088】
また、本実施形態では、制御装置20はインク滴Idの飛翔速度を算出する際には相対的に容量の大きいインク滴Idを吐出させる。この場合、容量の大きいインク滴Idは容量の小さいインク滴Idより空気抵抗が小さくなるため、吐出ヘッド10から遠い位置でも飛翔速度が比較的保たれ、正常吐出に係るインク滴Idの飛翔速度と吐出不良に係るインク滴Idの飛翔速度との差が出易くなる。また、容量の大きい分だけインク滴Idの帯電量が大きくなり、インク滴Idの移動に伴い両電極間に流れる電荷量が大きくなるので、吐出不良が検知し易くなる。
【0089】
さらに、本実施形態において傾斜装置57により吐出ヘッド10を傾斜させる態様を採用する場合には、電極11を水平配置することができる。そのため、水平配置された電極11上に着弾したインク滴Idの液垂れを防ぐことができる。
【0090】
また、制御装置20は、傾斜装置57又は駆動装置58により電極11を吐出面NMに対して相対的に傾斜させた状態で吐出ヘッド10を移動方向Dsに往復移動させつつ吐出ヘッド10にインク滴Idを吐出させた際に飛翔速度と吐出曲がり量を算出してもよい。この場合、吐出ヘッド10を移動方向Dsに往復走査するだけで、1つのノズル121について飛翔速度および吐出曲がり量を算出する際の吐出面NMと電極11との距離を上述の第1距離L1および第2距離L2にすることができる。これによって、ノズル121ごとに吐出面NMと電極11との距離を変える時間を節約することができ、もって検出時間を短くすることができる。
【0091】
(変形例)
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0092】
上記実施形態では、吐出ヘッド10および電極11の何れか一方を傾斜させたが、これに限定されるものではなく、吐出ヘッド10および電極11の双方を傾斜させてもよい。この場合、吐出ヘッド10の移動方向Dsにおける一端と電極11の移動方向Dsにおける一端との間隔が、吐出ヘッド10の移動方向Dsにおける他端と電極11の移動方向Dsにおける他端との間隔に対して異なるように吐出ヘッド10および電極11の双方を傾斜させる。
【0093】
また、上記実施形態では、電極11をキャップ51に形成することとしたが、これに限定されるものではなく、キャップ51とは別に電極11を配置してもよい。
【0094】
また、上記実施形態では、インク滴Idの液垂れを防ぐ観点から、電極11のうち吐出面NM側の上面全体に凹凸部11dを形成することにしたが、これに限定されるものではない。電極11の上面縁部を囲む壁部などを形成してもよい。
【0095】
また、上記実施形態では、ヘッド用昇降装置55、電極用昇降装置56、傾斜装置57および駆動装置58について説明したが、吐出ヘッド10の吐出面NMと電極11との距離を変更するにはヘッド用昇降装置55、電極用昇降装置56、傾斜装置57および駆動装置58のうち少なくとも何れか一つを設ければよい。
【0096】
さらに、上記実施形態では、シリアルヘッドからなる吐出ヘッド10を採用したが、これに限らず、吐出ヘッド10としてラインヘッドを用いてもよい。
【符号の説明】
【0097】
1a 液滴吐出装置
10 吐出ヘッド
11 電極
11a 導電部
11b 非導電部
11c 境界点
11d 凹凸部
20 制御装置
37 電圧源
38 電流検知部
51 キャップ
55 ヘッド用昇降装置
56 電極用昇降装置
57 傾斜装置
58 駆動装置
121a ノズル孔
Dn 正常飛翔方向
Id インク滴
L1 第1距離
L2 第2距離
NM 吐出面
Rm 距離
W 被印刷媒体