(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151826
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
B41J2/01 301
B41J2/01 401
B41J2/01 451
B41J2/01 125
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061656
(22)【出願日】2022-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】臼井 将人
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EB58
2C056EB59
2C056EC28
2C056EC38
2C056FA13
2C056HA29
2C056HA47
2C056HA60
(57)【要約】
【課題】複数色のインク滴の混ざり合いによる画質低下を抑制することを目的とする。
【解決手段】インクジェット記録装置1は、搬送ユニット7によるシートSの搬送方向Y(所定方向の一例)に沿って設けられ、互いに異なる色の水系顔料インクのインク滴をシートSに吐出する複数のヘッドユニット11(ヘッドの一例)と、複数のヘッドユニット11に対してシートSを相対的に搬送方向Yに移動させる搬送ユニット7(移動部の一例)と、複数のヘッドユニット11からシートSに吐出されたインク滴に電荷を付与する電荷付与部60と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定方向に沿って設けられ、互いに異なる色の水系顔料インクのインク滴をシートに吐出する複数のヘッドと、
前記複数のヘッドに対して前記シートを相対的に前記所定方向に移動させる移動部と、
前記複数のヘッドから前記シートに吐出されたインク滴に電荷を付与する電荷付与部と、を備えるインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記電荷付与部は、隣り合う2つの前記ヘッドの間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
入力された印刷ジョブに含まれる色毎の画像データのうち、隣り合う2つの前記ヘッドに対応する色の画像データから、同一の画素に2色のインク滴が吐出される回数と、隣り合う2つの画素に互いに異なる色のインク滴が吐出される回数と、の少なくとも一方を求め、求められた回数に対応する量の放電を行うように、隣り合う2つの前記ヘッドの間に設けられた前記電荷付与部を制御する制御部を備えることを特徴とする請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記電荷付与部は、コロナ放電を発生させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記複数のヘッドの位置は固定されており、
前記移動部は、前記シートを前記所定方向に沿って搬送することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記シートに吐出されたインク滴を乾燥させる乾燥装置を備えることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置については、従来、インクの定着性を改善する技術が検討されている。例えば、特許文献1では、インク吐出前の紙にコロナ放電を行うことで紙の深さ方向の親水性を向上させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、コート紙等の吸液性の低いシートに水系顔料インクを用いて印刷する場合、インクはシートに浸透せずにシート表面に留まり、インクの乾燥に伴って顔料の粒子がシートの表面に凝集し、定着する。しかし、インクが乾燥するにはある程度の時間を要する。カラー印刷の場合、先に吐出されたインクが乾燥しないうちに次の色のインクが吐出されるため、同じ画素又は互いに隣接する画素に対して複数色のインク滴が吐出された場合、インク滴が混ざり合い(合一化)、ドット径の増大による粒状感や、顔料が混ざり合うことによる色の濁りにより、画質が低下してしまう。特許文献1に記載された構成では、この問題を解決することはできない。
【0005】
また、水系顔料インクで適正な発色を得るには、水に顔料の粒子を均一に分散させることが必要である。分散の均一性を高める手段として、例えば、粒子の表面に付着して粒子間に電気的反発力を生じさせる添加剤が用いられる場合もある。ところが、電気的反発力は、シートにインク滴が吐出された後の顔料の粒子の凝集を遅らせてしまう。特許文献1に記載された構成では、この問題を解決することはできない。
【0006】
本発明は、上記事情を考慮し、複数色のインク滴の混ざり合いによる画質低下を抑制することのできるインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係るインクジェット記録装置は、所定方向に沿って設けられ、互いに異なる色の水系顔料インクのインク滴をシートに吐出する複数のヘッドと、前記複数のヘッドに対して前記シートを相対的に前記所定方向に移動させる移動部と、前記複数のヘッドから前記シートに吐出されたインク滴に電荷を付与する電荷付与部と、を備える。
【0008】
前記電荷付与部は、隣り合う2つの前記ヘッドの間に設けられていてもよい。
【0009】
前記インクジェット記録装置は、入力された印刷ジョブに含まれる色毎の画像データのうち、隣り合う2つの前記ヘッドに対応する色の画像データから、同一の画素に2色のインク滴が吐出される回数と、隣り合う2つの画素に互いに異なる色のインク滴が吐出される回数と、の少なくとも一方を求め、求められた回数に対応する量の放電を行うように、隣り合う2つの前記ヘッドの間に設けられた前記電荷付与部を制御する制御部を備えていてもよい。
【0010】
前記電荷付与部は、コロナ放電を発生させるように構成されていてもよい。
【0011】
前記複数のヘッドの位置は固定されており、前記移動部は、前記シートを前記所定方向に沿って搬送するように構成されていてもよい。
【0012】
前記インクジェット記録装置は、前記シートに吐出されたインク滴を乾燥させる乾燥装置を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数色のインク滴の混ざり合いによる画質低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る画像形成システムの内部構成を模式的に示す正面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置の内部構成を模式的に示す正面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る搬送ユニットを示す斜視図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る搬送板を示す平面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るインクジェットヘッドの配置を示す斜視図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係るインクジェットヘッドの断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る電荷付与部を示す斜視図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る電荷付与部を示す正面図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る電荷付与処理の流れ図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る実験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置1及び画像形成システム100について説明する。
【0016】
最初に、画像形成システム100の全体の構成について説明する。
図1は、画像形成システム100の内部構成を模式的に示す正面図である。
図2は、インクジェット記録装置1の内部構成を模式的に示す正面図である。
図3は、搬送ユニット7を示す斜視図である。
図4は、搬送板23を示す平面図である。
図5は、インクジェットヘッド12の配置を示す斜視図である。
図6は、インクジェットヘッド12の断面図である。以下、
図1における紙面手前側を画像形成システム100の正面側(前側)とし、左右の向きは画像形成システム100を正面から見た方向を基準として説明する。各図において、U、Lo、L、R、Fr、Rrは、それぞれ上、下、左、右、前、後を示す。
【0017】
画像形成システム100(
図1参照)は、給紙装置110と、インクジェット記録装置1と、乾燥装置120と、後処理装置130と、を含む。給紙装置110は、数千枚のシートSを収容可能な大容量の給紙デッキを備え、インクジェット記録装置1にシートSを供給する。インクジェット記録装置1は、インクジェット方式でシートSに画像を形成する。乾燥装置120は、シートSに吐出されたインクを加熱して乾燥させる。後処理装置130は、シートSに穿孔、ステープル綴じ、折畳み等の後処理を施す。
【0018】
次に、インクジェット記録装置1の概要について説明する(
図2参照)。インクジェット記録装置1は、直方体状の本体ハウジング3を備える。本体ハウジング3内の下部には、普通紙、コート紙等の枚葉のシートSが収容される給紙カセット4と、給紙カセット4からシートSを送り出す給紙ローラー5が設けられている。給紙カセット4の上方には、シートSを吸着してY方向に搬送する搬送ユニット7が設けられている。搬送ユニット7の上方には、インクを吐出して画像を形成する作像ユニット6が設けられている。本体ハウジング3の右上部には、シートSが導入される給紙口8が設けられている。本体ハウジング3の左上部には、シートSが排出される排紙口9が設けられている。給紙カセット4の左方には、作像ユニット6にインクを供給するインクコンテナ20が設けられている。
【0019】
本体ハウジング3の内部には、給紙ローラー5から搬送ユニット7と作像ユニット6との間隙を経て排紙口9に至る搬送路10が設けられている。搬送路10のうち搬送ユニット7以外の部分は、シートSを通過させる間隙を空けて互いに対向する板状部材を主体として形成されている。搬送路10には、シートSを挟持して搬送する搬送ローラー17が搬送方向Yの複数箇所に設けられている。搬送ユニット7よりも搬送方向Y上流側には、レジストローラー18が設けられている。
【0020】
搬送ユニット7(
図2乃至4参照)は、無端の搬送ベルト21と、搬送板23と、吸引部24と、を備える。搬送ベルト21は、多数の通気孔21Hを有し、駆動ローラー25と従動ローラー22に巻き掛けられている。搬送板23は、多数の通気孔23Hを有し、上面が搬送ベルト21の内面に接触している。吸引部24は、搬送板23の通気孔23Hと搬送ベルト21の通気孔21Hを介して空気を吸引することでシートSを搬送ベルト21に吸着させる。モーターと減速ギアとを含む駆動部(図示省略)により駆動ローラー25が反時計回り方向に駆動されることで搬送ベルト21が反時計回り方向に回転し、搬送ベルト21に吸着されたシートSがY方向に搬送される。
【0021】
作像ユニット6(
図2、5参照)は、ヘッドユニット11Bk、11C、11M、11Y(ヘッドユニット11と総称する)を備え、それぞれブラック、シアン、マゼンタ、イエローのインクを吐出する。ヘッドユニット11Bk、11C、11M、11Yには、それぞれブラック、シアン、マゼンタ、イエローのインクが充填されたインクコンテナ20が接続されている。
【0022】
ヘッドユニット11は、1つ以上のインクジェットヘッド12(
図6参照)、例えば、千鳥に配置された3つのインクジェットヘッド12を備える。インクジェットヘッド12は、前後方向を長手方向とする直方体状の筐体12Hと、筐体12Hの底部に設けられたノズルプレート12Pと、を備える。ノズルプレート12Pは、前後方向に並ぶ多数のノズル12Nを備えている。ノズル12Nは、インクコンテナ20につながる流路から分岐した分岐流路12Bと、ノズル面12Fに設けられた吐出口12Aと、を含む。振動板12Vは、分岐流路12Bの内壁の一部を構成している。振動板12Vには加圧素子12Zが設けられている。筐体12Hには、加圧素子12Zを駆動するドライバー14と、ドライバー14を制御する制御回路15と、が設けられている。加圧素子12Zとしては、圧電素子、静電素子(静電アクチュエータ)、加熱素子(サーマルインクジェット方式に用いられる)等が用いられる。
【0023】
制御部2(
図2参照)は、演算部と記憶部とを備える(図示省略)。演算部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)である。記憶部は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等の記憶媒体を含む。演算部は、記憶部に記憶されている制御プログラムを読み出して実行することで各種処理を実施する。なお、制御部2は、ソフトウェアを用いない集積回路によって実現されてもよい。
【0024】
本体ハウジング3の上部には、表示操作部19が設けられている(
図2参照)。表示操作部19は、表示パネルと、表示パネルの表示面に重ねて設けられたタッチパネルと、表示パネルに隣接するキーパッドと、を備える(図示省略)。制御部2は、インクジェット記録装置1の操作メニューやステータス等を表す画面を表示パネルに表示させ、タッチパネル及びキーパッドで検知された操作に応じてインクジェット記録装置1の各部を制御する。
【0025】
次に、乾燥装置120について説明する(
図1参照)。乾燥装置120は、直方体状の本体ハウジング31を備えている。本体ハウジング31の中央よりもやや上方に搬送ユニット40が設けられ、搬送ユニット40の上方に乾燥ユニット50が設けられている。本体ハウジング31は、右側部に導入口32を、左側部に排出口33を備え、導入口32から搬送ユニット40と乾燥ユニット50との間隙を経て排出口33に至る搬送路34が設けられている。搬送ユニット40よりも搬送方向Y下流側には、搬送ローラー対35が設けられている。搬送ユニット40の右端部は、導入口32から本体ハウジング31の外側に出ている。搬送ユニット40の右端部がインクジェット記録装置1の排紙口9に挿入されることで、インクジェット記録装置1の搬送路10と乾燥装置120の搬送路34が接続されている。
【0026】
搬送ユニット40は、多数の通気孔(図示省略)が設けられ、駆動ローラー45と従動ローラー42に巻き掛けられた無端の搬送ベルト41と、多数の通気孔(図示省略)が設けられ、上面が搬送ベルト41の内面に接触する搬送板43と、搬送板43の通気孔を介して空気を吸引することでシートSを搬送ベルト41に吸着させる吸引部44と、を備える。モーター等の駆動部(図示省略)により駆動ローラー45が駆動されることで、搬送ベルト41が反時計回り方向に回転し、搬送ベルト41に吸着されたシートSがY方向に搬送される。
【0027】
乾燥ユニット50は、幅方向Xを長手方向とする複数の熱源52を搬送方向Yに沿う複数箇所に備える。熱源52は、例えば、ガラス管に炭素繊維の発熱体を封入したカーボンヒーターである。
【0028】
インクジェット記録装置1の基本的な画像形成動作は、次のとおりである。表示操作部19や外部のコンピューター等からインクジェット記録装置1に画像形成ジョブが入力されると、給紙ローラー5が給紙カセット4から搬送路10にシートSを送り出し、回転が停止されたレジストローラー18がシートSの斜行を補正する。レジストローラー18が所定のタイミングで搬送ユニット7にシートSを送り出すと、搬送ユニット7が搬送ベルト21にシートSを吸着してY方向に搬送する。制御部2がシートSの搬送と同期させてラスター形式の画像データを制御回路15に供給すると、ドライバー14が階調データに応じた吐出信号を加圧素子12Zに供給してノズル12Nからインクが吐出され、シートSに画像が形成される。搬送ユニット7は、画像が形成されたシートSを乾燥装置120に搬送する。乾燥装置120においては、搬送ユニット40が搬送ベルト41にシートSを吸着してY方向に搬送し、熱源52が赤外線を放射することでインクを乾燥させる。
【0029】
[電荷付与部]
次に、インクに含まれる顔料をシート表面に凝集させるための構成について説明する。
図7は、電荷付与部60を示す斜視図である。
図8は、電荷付与部60を示す正面図である。
【0030】
インクジェット記録装置1は、搬送ユニット7によるシートSの搬送方向Y(所定方向の一例)に沿って設けられ、互いに異なる色の水系顔料インクのインク滴をシートSに吐出する複数のヘッドユニット11(ヘッドの一例)と、複数のヘッドユニット11に対してシートSを相対的に搬送方向Yに移動させる搬送ユニット7(移動部の一例)と、複数のヘッドユニット11からシートSに吐出されたインク滴に電荷を付与する電荷付与部60と、を備える。
【0031】
ヘッドユニット11、搬送ユニット7については既に説明したとおりであるから、以下では、主に電荷付与部60について説明する。
【0032】
電荷付与部60は、コロトロン方式のコロナ放電発生器である。電荷付与部60は、ワイヤー61と、筐体62と、対向電極63と、を備える。
【0033】
ワイヤー61は、タングステンで作製されている。ワイヤー61は、搬送方向Yと交差する搬送ベルト21の幅方向Xに沿って設けられている。ワイヤー61は、搬送ベルト21の幅方向Xの幅と同等の長さを有する。
【0034】
筐体62は、幅方向Xを長手方向とする直方体状をなしている。筐体62は、ワイヤー61の両端部を絶縁体を介して支持する。筐体62の底部は開口している。そのため、ワイヤー61は搬送ベルト21と対向している。ワイヤー61とシートSの上面との距離は、5mm程度である。筐体62は、本体ハウジング3の金属部分を介して接地されている。
【0035】
対向電極63は、搬送されるシートSを挟んでワイヤー61と対向する位置に設けられている。搬送ユニット7の搬送板23は導体(例えば、金属)で作製されており、搬送ベルト21は不導体(例えば、樹脂)で作製されている。そのため、搬送板23が対向電極63として機能する。
【0036】
電荷付与部60は、隣り合う2つのヘッドユニット11の間に設けられている。具体的には、ヘッドユニット11Bkとヘッドユニット11Cとの間、ヘッドユニット11Cとヘッドユニット11Mとの間、ヘッドユニット11Mとヘッドユニット11Yとの間の合計3箇所に電荷付与部60が設けられている。
【0037】
次に、インクに電荷を付与する電荷付与処理について説明する。
図9は、電荷付与処理の流れ図である。制御部2の記憶部には、電荷付与処理の手順を既述した電荷付与プログラムが記憶されている。インクジェット記録装置1に印刷ジョブが入力されると、制御部2が、電荷付与プログラムに従って電荷付与処理を実行する。
【0038】
最初に、制御部2は、同一画素及び隣接画素にBkとCのインクが吐出される回数を求める(ステップS01)。具体的には、制御部2は、入力された印刷ジョブに含まれる色毎の画像データのうち、隣り合うヘッドユニット11Bkとヘッドユニット11Cに対応する色(BkとC)の画像データから、同一の画素に2色(BkとC)のインクが吐出される回数、及び、隣り合う2つの画素に互いに異なる色(BkとC)のインクが吐出される回数、の合計値を求める。この合計値は、2色のインクが混ざり合う可能性の高さが表し、合計値が大きいほど、2色のインクが混ざり合う可能性が高くなる。
【0039】
次に、制御部2は、LUT(Look-up Table)からC-M間の電圧値を決定する(ステップS02)。具体的には、記憶部には、上記の合計値と電荷付与部60に印加される電圧値とを関連付けたLUTが記憶されている。制御部2は、求められた合計値に対応する電圧値をLUTから読み出すことで、ヘッドユニット11Bkとヘッドユニット11Cとの間に設けられた電荷付与部60に印加する電圧値を決定する。なお、LUTは、電荷付与プログラムに組み込まれていてもよい。
【0040】
次に、制御部2は、同一画素及び隣接画素にCとMのインクが吐出される回数を算出する(ステップS03)。具体的な手順は、ステップS01と同様である(Bk、CをC、Mに読み換える)。
【0041】
次に、制御部2は、LUTからC-M間の電圧値を決定する(ステップS04)。具体的な手順は、ステップS02と同様である(Bk、CをC、Mに読み換える)。
【0042】
次に、制御部2は、同一画素及び隣接画素にMとYのインクが吐出される回数を算出する(ステップS05)。具体的な手順は、ステップS01と同様である(Bk、CをM、Yに読み換える)。
【0043】
次に、制御部2は、LUTからM-Y間の電圧値を決定する(ステップS06)。具体的な手順は、ステップS02と同様である(Bk、CをM、Yに読み換える)。
【0044】
次に、制御部2は、搬送ユニット7によるシートSの搬送と同期させて、電荷付与部60に電圧を印加する(ステップS07)。具体的には、シートSの先端部(搬送方向Y下流側の端部)がヘッドユニット11Bkを通過するのと同期させて、ステップS02で決定した値の電圧を、ヘッドユニット11Bkとヘッドユニット11Cとの間の電荷付与部60のワイヤー61に印加する。
【0045】
続いて、制御部2は、シートSの先端部がヘッドユニット11Cを通過するのと同期させて、ステップS04で決定した値の電圧を、ヘッドユニット11Cとヘッドユニット11Mとの間の電荷付与部60のワイヤー61に印加する。
【0046】
続いて、制御部2は、シートSの先端部がヘッドユニット11Mを通過するのと同期させて、ステップS06で決定した値の電圧を、ヘッドユニット11Mとヘッドユニット11Yとの間の電荷付与部60のワイヤー61に印加する。
【0047】
次に、制御部2は、印刷ジョブに未処理のページがあるか否かを判定する(ステップS08)。未処理のページがあると判定した場合には(ステップS08:YES)、制御部2は、ステップS01以降の処理を繰り返す。一方、未処理のページがないと判定した場合には(ステップS08:NO)、制御部2は、電荷付与処理を終了する。
【0048】
以上説明した本実施形態に係るインクジェット記録装置1によれば、搬送ユニット7によるシートSの搬送方向Y(所定方向の一例)に沿って設けられ、互いに異なる色の水系顔料インクのインク滴をシートSに吐出する複数のヘッドユニット11(ヘッドの一例)と、複数のヘッドユニット11に対してシートSを相対的に搬送方向Yに移動させる搬送ユニット7(移動部の一例)と、複数のヘッドユニット11からシートSに吐出されたインク滴に電荷を付与する電荷付与部60と、を備える。この構成によれば、吐出後のインク滴に電荷を付与することで、顔料粒子の凝集を阻害していた電気的なバランスが崩れて、顔料粒子のシートS表面への凝集、定着が促進される。このインク滴に対して、同一画素又は隣接画素に吐出された別の色のインク滴が接触したとしても、既に定着した顔料粒子は動かず、後から吐出されたインク滴の顔料粒子は独自に凝集、定着するため、ドット径の増大による粒状感や、顔料の混ざり合いによる色の濁りが発生しにくい。よって、本実施形態に係るインクジェット記録装置1によれば、複数色のインク滴の混ざり合いによる画質低下を抑制することができる。
【0049】
また、本実施形態に係るインクジェット記録装置1によれば、電荷付与部60は、隣り合う2つのヘッドユニット11の間に設けられているから、隣り合う2つのヘッドユニット11から吐出される2色のインク滴の混ざり合いを抑制することができる。
【0050】
また、本実施形態に係るインクジェット記録装置1によれば、入力された印刷ジョブに含まれる色毎の画像データのうち、隣り合う2つのヘッドユニット11に対応する色の画像データから、同一の画素に2色のインク滴が吐出される回数と、隣り合う2つの画素に互いに異なる色のインク滴が吐出される回数と、の合計値を求め、求められた合計値に対応する量の放電を行うように、隣り合う2つのヘッドユニット11の間に設けられた電荷付与部60を制御する制御部2を備える。この構成によれば、2色のインク滴が混ざり合う可能性の高さに応じて適正な量の放電を行わせることができる。また、余計な放電を行わずに済むから、電力の消費を抑制することができる。
【0051】
また、本実施形態に係るインクジェット記録装置1によれば、電荷付与部60は、コロナ放電を発生させるから、インク滴に接触せずにインク滴に電荷を付与することができる。
【0052】
また、本実施形態に係るインクジェット記録装置1によれば、複数のヘッドユニット11の位置は固定されており、搬送ユニット7は、シートSをY方向に沿って搬送する。この構成によれば、電荷付与部60を移動させる手段が不要であるから、簡潔な構成でインク滴に電荷を付与することができる
【0053】
また、本実施形態に係るインクジェット記録装置1によれば、シートSに吐出されたインク滴を乾燥させる乾燥装置120を備える。この構成によれば、インクが早く乾燥するから、顔料の凝集、定着をさらに促進することができる。
【0054】
[実験結果]
次に、本実施形態の実験結果について説明する。
図10は、実験結果を示す表である。シートSは、コート紙が用いられた。画像データは、C、M、Y各色20%を重ね合わせたものが用いられ、C、M、Yの順に印刷された。インクジェットヘッド12の解像度は、1200dpiである。印刷された画像に含まれる100個のドットの径の平均値である平均ドット径を求め、平均ドット径が参考値の1.2倍以内である場合にOKと判定し、1.2倍を超えた場合にNGと判定した。
【0055】
[参考値]
参考値は、インクの混ざり合いが全く起こらない状態を模擬して求められた平均ドット径である。1色の画像を印刷する毎に、乾燥装置120を用いてインクを完全に定着させた上で、次の色の画像を印刷するという手順を繰り返した。参考値として、32.3μmが求められた。
【0056】
[実施例1]
各色のヘッドユニット11間に設置した電荷付与部60でコロナ放電を実施した。印加電圧は+5kVである。平均ドット径は37.6μmとなり、参考値の1.16倍であるため、OKと判定された。
【0057】
[実施例2]
各色のヘッドユニット11間に設置した電荷付与部60でコロナ放電を実施した。印加電圧は+10kVである。平均ドット径は36.1μmとなり、参考値の1.12倍であるため、OKと判定された。また、印加電圧が半分の実施例1と比較して、ドット径の増大がさらに抑えられた。
【0058】
[比較例1]
電荷付与を行わなかった。平均ドット径は48.2μmとなり、参考値の1.49倍であるため、NGと判定された。
【0059】
[比較例2]
特許文献1と同様に、インク吐出前にシートSにコロナ放電を実施した。印加電圧は+5kVである。平均ドット径は42.2μmとなり、参考値の1.31倍であるため、NGと判定された。
【0060】
[比較例3]
特許文献1と同様に、インク吐出前にシートSにコロナ放電を実施した。印加電圧は+10kVである。平均ドット径は39.9μmとなり、参考値の1.24倍であるため、NGと判定された。
【0061】
以上のとおり、本実施形態に対応する実施例1、2がOK判定となり、本実施形態に対応しない比較例1乃至3がNG判定となったことから、本実施形態の有効性が示された。
【0062】
上記実施形態が以下のように変形されてもよい。
【0063】
上記実施形態では、搬送板23が対向電極63として機能する例が示されたが、搬送ベルト21が導体で作製されている場合には、搬送ベルト21を対向電極63として機能させてもよい。また、搬送ベルト21と搬送板23が不導体で作製されている場合には、搬送板23の下方に対向電極63が設けられる。この構成によっても、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0064】
上記実施形態では、隣り合う2つのヘッドユニット11の間に電荷付与部60が設けられている例が示されたが、この構成に加えて、最も搬送方向Y下流側のヘッドユニット11Yの下流側にも電荷付与部60が設けられていてもよい。この構成によれば、ヘッドユニット11Yから吐出されたインクに含まれる顔料の凝集を促進することができる。
【0065】
上記実施形態では、作像ユニット6の位置が固定され、搬送ユニット7がシートSをY方向に搬送する例が示されたが、作像ユニット6が移動しながらインクを吐出する装置に本発明が適用されてもよい。例えば、シリアルヘッド方式のインクジェット記録装置は、互いに異なる色のインク滴を吐出する複数のヘッドがシートSの搬送方向Yと交差する方向に並べられたヘッドユニットを備え、シートSを搬送方向Yに搬送するとともにヘッドユニットを搬送方向Yと交差する方向に往復させながらシートSにインク滴を吐出する。電荷付与部60は、隣り合う2つのヘッドの間に設けられ、ヘッドユニットとともに往復する。この構成によっても、複数色の顔料の混ざり合いによる画質低下を抑制することができる。
【0066】
上記実施形態では、制御部2が、入力された印刷ジョブに含まれる色毎の画像データのうち、隣り合う2つのヘッドユニット11に対応する色の画像データから、同一の画素に2色のインク滴が吐出される回数、及び、隣り合う2つの画素に互いに異なる色のインク滴が吐出される回数、の合計値を求め、求められた合計値に対応する量の放電を行うように、隣り合う2つのヘッドユニット11の間に設けられた電荷付与部60を制御する例が示されたが、同一の画素に2色のインク滴が吐出される回数と、隣り合う2つの画素に互いに異なる色のインク滴が吐出される回数と、いずれか一方を求め、求められた回数に対応する量の放電を行うように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 インクジェット記録装置
120 乾燥装置
2 制御部
7 搬送ユニット(移動部)
11、11Y、11Bk、11C、11M ヘッドユニット(ヘッド)
60 電荷付与部