(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151847
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】構造体保持治具および構造体の構築方法
(51)【国際特許分類】
E04G 21/02 20060101AFI20231005BHJP
E04G 21/20 20060101ALI20231005BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20231005BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
E04G21/02
E04G21/20
B28B1/30
C04B28/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061697
(22)【出願日】2022-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 良史
(72)【発明者】
【氏名】小川 達也
【テーマコード(参考)】
2E172
2E174
4G052
4G112
【Fターム(参考)】
2E172AA05
2E172AA06
2E172DB05
2E174DA14
2E174DA32
4G052DA01
4G052DB12
4G052DC06
4G112PA02
4G112PE02
(57)【要約】
【課題】構築作業の手間を増加することなく構造体の造形形状の自由度を向上できる構造体保持治具と構造体の構築方法とを提供する。
【解決手段】本体部21と、本体部21の一端に接続される第1保持部22aと、本体部21の他端に接続される第2保持部22bと、を備え、第1保持部22aまたは第2保持部22bのうちの一方が所定位置に支えられた状態で他方が未硬化状態の構造体を保持可能に構成されている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体部と、
前記本体部の一端に接続される第1保持部と、
前記本体部の他端に接続される第2保持部と、を備え、
前記第1保持部または前記第2保持部のうちの一方が所定位置に支えられた状態で、他方が未硬化状態の構造体を保持可能に構成されている、構造体保持治具。
【請求項2】
前記第1保持部および前記第2保持部のうちの少なくともいずれか一方は、前記本体部に対して着脱可能である、請求項1に記載の構造体保持治具。
【請求項3】
前記第1保持部および前記第2保持部のうちの少なくともいずれか一方は、前記本体部に対して回動可能である、請求項1に記載の構造体保持治具。
【請求項4】
前記本体部が、
前記第1保持部と接続された第1本体部と、
前記第2保持部と接続された第2本体部と、
前記第1本体部と前記第2本体部とを連結するジョイント部と、を備え、
前記ジョイント部により前記本体部の長さが調整可能である、請求項1に記載の構造体保持治具。
【請求項5】
前記第1保持部および前記第2保持部が板状部材である、請求項1に記載の構造体保持治具。
【請求項6】
前記第1保持部および前記第2保持部の一方が、前記未硬化状態の構造体とは異なる支持体に固定可能なフックである、請求項1に記載の構造体保持治具。
【請求項7】
未硬化状態の中間体に付加製造装置を用いてモルタルを積層して未硬化状態の構造体を形成し、硬化させることで構造体を構築する方法において、
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の構造体保持治具を用い、前記中間体の互いに対向した第1保持位置と第2保持位置とに、第1保持部と第2保持部とをそれぞれ差込むことで、前記構造体保持治具を前記中間体に装着する工程と、
前記中間体の前記第1保持位置および前記第2保持位置を含む層に前記モルタルを積層して前記未硬化状態の構造体を形成する工程と、
前記未硬化状態の構造体の硬化後に前記本体部を撤去する工程と、を備えた構造体の構築方法。
【請求項8】
前記未硬化状態の構造体の硬化後、前記第1保持部および前記第2保持部の前記構造体の表面から突出する部位を切除する工程を備える、請求項7に記載の構造体の構築方法。
【請求項9】
前記未硬化状態の構造体における前記第1保持位置側又は第2保持位置側の少なくとも一方が、鉛直方向に対して傾斜している、請求項7に記載の構造体の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体保持治具および構造体の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、構造体の構築方法として、型枠を用いずにモルタルを積層造形して未硬化状態の構造体を形成し、これを硬化して利用する技術が知られている。例えば付加製造装置がモルタルを押出しあるいは吹付けつつ繰り返し移動することで積層造形して構造体が形成されている。
例えば下記特許文献1では、未硬化状態の繊維入りモルタルを付加製造装置から押し出してモルタル枠を形成する。続いて、未硬化状態のフレッシュコンクリートをモルタル枠の内側に打ち込み、空間を満たすコンクリート芯を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、モルタルを積層造形した未硬化状態の構造体は、硬化するまで形状が不安定で、自重による変形が生じ易かった。特に鉛直方向に対して傾斜のある方向にモルタルが積層された未硬化の構造体では潰れや変形が生じ易く、モルタルが崩れ落ちることもあった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、構築作業の手間を増加することなく構造体の造形形状の自由度を向上できる構造体保持治具および構造体の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の構造体保持治具は、本体部と、前記本体部の一端に接続される第1保持部と、前記本体部の他端に接続される第2保持部と、を備え、前記第1保持部または前記第2保持部のうちの一方が所定位置に支えられた状態で他方が未硬化状態の構造体を保持可能に構成されている。
【0007】
本発明の構造体保持治具によれば、第1保持部または第2保持部のうちの一方が所定位置に支えられた状態で、他方が未硬化状態の構造体を保持するため、未硬化状態の構造体が自重により変形することを防止できる。例えば、鉛直方向に対して傾斜のある形状であっても構造体保持治具を用いることで型枠なしで変形することなく施工することができる。つまり、構造体保持治具を施工中の構造体に取り付けるだけで、所望の形状の構造体を構築することができる。換言すれば、構築作業の手間を増加することなく構造体の造形形状の自由度を向上することが可能である。
【0008】
本発明の構造体保持治具では、前記第1保持部および前記第2保持部のうちの少なくともいずれか一方は、前記本体部に対して着脱可能であってもよい。
【0009】
この発明によれば、未硬化状態の構造体の保持位置に第1保持部または第2保持部が埋設された状態でも本体部を容易に撤去することができる。硬化状態の構造体から構造体保持治具の全体が大きく突出した状態で残留することがなく、構造体の使用時に構造体保持治具が邪魔になることを防止できる。
【0010】
本発明の構造体保持治具では、前記第1保持部および前記第2保持部のうちの少なくともいずれか一方は、前記本体部に対して回動可能であってもよい。
【0011】
この発明によれば、本体部に対する第1保持部または第2保持部の向きを容易に調整することができる。そのため未硬化状態の構造体の保持位置の形状や向きに応じて第1保持部または第2保持部の向きが適切に調整可能であり、未硬化状態の構造体を確実に保持することができる。
【0012】
本発明の構造体保持治具では、前記本体部が、前記第1保持部と接続された第1本体部と、前記第2保持部と接続された第2本体部と、前記第1本体部と前記第2本体部とを連結するジョイント部と、を備え、前記ジョイント部により前記本体部の長さが調整可能であってもよい。
【0013】
この発明によれば、未硬化状態の構造体に応じて第1保持部と第2保持部との間の距離を容易に調整することができる。そのため構造体保持治具が構造体の造形形状に応じて適切に設置することができる。
【0014】
本発明の構造体保持治具では、前記第1保持部および前記第2保持部が板状部材であってもよい。
【0015】
この発明によれば、第1保持部または第2保持部が板状部材であるため、未硬化状態の構造体に差込み易く、構造体保持治具を容易かつ確実に設置することができる。
【0016】
本発明の構造体保持治具では、前記第1保持部および前記第2保持部の一方が、前記未硬化状態の構造体とは異なる支持体に固定可能なフックであってもよい。
【0017】
この発明によれば、未硬化状態の構造体とは異なる支持体(例えば、型枠や足場など)に構造体保持治具の一方が支持された状態で、未硬化状態の構造体を他方で保持することができる。したがって、未硬化状態の構造体を安定して保持できる。
【0018】
本発明の構造体の構築方法は、未硬化状態の中間体に付加製造装置を用いてモルタルを積層して未硬化状態の構造体を形成し、硬化させることで構造体を構築する方法において、上記いずれかに記載の構造体保持治具を用い、前記中間体の互いに対向した第1保持位置と第2保持位置とに、第1保持部と第2保持部とをそれぞれ差込むことで、前記構造体保持治具を前記中間体に装着する工程と、前記中間体の前記第1保持位置および前記第2保持位置を含む層に前記モルタルを積層して前記未硬化状態の構造体を形成する工程と、前記未硬化状態の構造体の硬化後に前記本体部を撤去する工程と、を備えている。
【0019】
本発明の構造体の構築方法によれば、未硬化状態の中間体の互いに対向した第1保持位置と第2保持位置に、構造体保持治具の両端の第1保持部と第2保持部とが差込まれた状態で、中間体にモルタルが積層され、未硬化状態の構造体が形成される。
そのため未硬化状態の構造体における第1保持位置と第2保持位置とが構造体保持治具を介して連結され、一方が他方を支えることができる。第1保持位置の変形と第2保持位置の変形とが相互に防止できる。未硬化状態の構造体に構造体保持治具を取り付けるだけで、未硬化状態の構造体が自重により変形することを防止でき、鉛直方向に対して傾斜のある形状であっても型枠なしで形成できる。そのため構築作業の手間を増加することなく構造体の造形形状の自由度を向上することが可能である。
【0020】
本発明の構造体の構築方法では、前記未硬化状態の構造体の硬化後、前記第1保持部および前記第2保持部の前記構造体の表面から突出する部位を切除する工程を備えていてもよい。
【0021】
この発明によれば、構造体の表面に第1保持部および第2保持部が突出した状態で残留せず、構造体を使用する際に邪魔になることがないとともに、見栄え良く仕上げることができる。
【0022】
本発明の構造体の構築方法では、前記未硬化状態の構造体における前記第1保持位置側又は第2保持位置側の少なくとも一方が、鉛直方向に対して傾斜していてもよい。
【0023】
この発明によれば、少なくとも一部が傾斜した形状を有する未硬化状態の構造体が、構築作業の手間が増加することなく形成でき、造形形状の自由度を向上できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の構造体保持治具および構造体の構築方法によれば、構築作業の手間を増加することなく構造体の造形形状の自由度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施形態においてモルタル層を積層して形成した構造体を示す斜視図である。
【
図2】モルタル層が鉛直方向に積層された状態を模式的に示す構造体の部分縦断面図である。
【
図3】本発明の実施形態においてモルタル層が鉛直方向に対して傾斜して積層された状態を模式的に示す構造体の部分縦断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る構造体保持治具の斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る構造体の構築途中の中間体の一部を模式的に示す部分斜視図(1)である。
【
図6】本発明の実施形態に係る構造体の構築途中の中間体の一部を模式的に示す部分斜視図(2)である。
【
図7】本発明の実施形態に係る構造体保持治具の一部を模式的に示す部分平面図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る構造体の積層完了後の斜視図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る構造体の積層完了後の側面図である。
【
図10】本発明の実施形態に係る構造体の構築途中の中間体の一部を模式的に示す部分斜視図(3)である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係る構造体保持治具および構造体の構築方法について、図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
本実施形態の構造体保持治具が装着される対象について説明する。本実施形態の構造体保持治具の保持対象は、モルタル材料からなる未硬化状態の構造体である。モルタル材料とは、モルタル、コンクリート等のセメント系の未硬化状態の材料である。未硬化状態とは十分な強度が得られる程度に硬化が進行していない状態であり、半硬化状態も含まれる。
【0028】
本実施形態の未硬化状態の構造体は、例えば
図1に示すように、付加製造装置11を所定位置で繰り返し移動させつつモルタル層12を押出すことで形成される。この未硬化状態の構造体10は未硬化状態のモルタル層12が多数積層されて所定の造形形状に形成された積層体である。
【0029】
図2に示すように、多数のモルタル層12が鉛直方向に積層されている場合、未硬化状態の構造体10は、自重による潰れや変形などは生じにくい。ところが
図3に示すように、多数のモルタル層12が鉛直方向に対して傾斜のある方向に積層されている場合、未硬化状態の構造体10に潰れや倒れなどの変形が生じやすくなる。顕著な場合には構造体10の一部又は全部が崩れ落ちることもある。本実施形態の構造体保持治具20は、特に鉛直方向に対して傾斜のある方向に多数のモルタル層12が積層された造形形状を有する構造体を保持する際に用いられるものである。
【0030】
図4に示すように、本実施形態の構造体保持治具20は、本体部21と、本体部21の一端に接続される第1保持部22aと、本体部21の他端に接続される第2保持部22bと、を備えている。
【0031】
本体部21は、パイプ材等からなる第1本体部21aおよび第2本体部21bを備えている。第1本体部21aと第2本体部21bとは、ジョイント部23を介して連結されている。ジョイント部23は、第1本体部21aと第2本体部21bとが長手方向に互いにスライドおよび固定可能に構成されている。つまり、ジョイント部23により本体部21の長さが調整可能である。
【0032】
第1本体部21aの一方の端部には第1保持部22aが接続され、第2本体部21bの他方の端部には第2保持部22bが接続されている。第1保持部22aは、第1本体部21aとの接続部24aと、接続部24aの先端に一体に設けられた板状の差込プレート25aと、を有している。同様に、第2保持部22bは、第2本体部21bとの接続部24bと、接続部24bの先端に一体に設けられた板状の差込プレート25bと、を有している。本実施形態では第1保持部22aおよび第2保持部22bは、金属板により形成されていて、使用後に適宜な位置で切断可能に構成されている。なお、第1保持部22aおよび第2保持部22bは、樹脂板など他の材質で成形されていてもよい。
【0033】
第1保持部22aの接続部24aは、第1本体部21aに対して着脱可能に接続されている。同様に、第2保持部22bの接続部24bは、第2本体部21bに対して着脱可能に接続されている。また、第1本体部21aと第1保持部22aとは、締結部位31aを中心に回動可能に構成されている。同様に、第2本体部21bと第2保持部22bとは、締結部位31bを中心に回動可能に構成されている。
【0034】
第1保持部22aの差込プレート25aは、第1本体部21aの軸線方向に対して交差する方向に突出して設けられている。同様に、第2保持部22bの差込プレート25bは、第2本体部21bの軸線方向に対して交差する方向に突出して設けられている。
図5および
図6に示すように、差込プレート25a,25bは、積層された未硬化状態のモルタル層12に構造体保持治具20を押付けたとき、モルタル層12に差込可能な形状を有している。本実施形態では、第1保持部22aの差込プレート25aと第2保持部22bの差込プレート25bとの間の距離は、第1本体部21aと第2本体部21bとの間に設けられたジョイント部23で調整することにより調整可能となっている。
【0035】
次に、このような構造体保持治具20を用いて構造体10を構築する方法について説明する。
構築する構造体10の形状は特に制限されないが、本実施形態では内側空間10bを有する部材を構築する例を用いて説明する。この構造体10は、後工程で内側空間10bに鉄筋が配置されるとともにフレッシュコンクリートが打込まれて使用されるモルタル枠であってもよい。
【0036】
付加製造装置11を用いて未硬化状態の中間体10aを積層形成する。ここで中間体10aとは、未硬化状態の構造体のうち最終的な目的形状に到達していない状態のものをいう。
【0037】
図1に示すように、付加製造装置11のノズルが繰り返し移動しつつモルタルが押出されることで、モルタル層12が複数積層され、所定形状に未硬化状態の中間体10aが形成される。
【0038】
形成された未硬化状態の中間体10aは、目的の構造体10の下部に対応した形状を有する。中間体10aの形状には、
図5および
図6に示すように、複数のモルタル層12が鉛直方向に積層された部分や鉛直方向に対して傾斜方向に積層された部分などが含まれている。
【0039】
次いで中間体10aの頂部に構造体保持治具20が装着される。
具体的には、第1保持部22aの差込プレート25aと第2保持部22bの差込プレート25bとの間の距離を調整する。
図5および
図6に示すように、中間体10aに互いに対向する部位が存在する場合、互いに対向する任意の第1保持位置26aと第2保持位置26bとの間の距離に応じて、差込プレート25a,25b間の距離が調整される。差込プレート25a,25b間の距離は、ジョイント部23により第1本体部21aと第2本体部21bとをスライドさせて固定し、構造体保持治具20の本体部21の長さ調整により行う。
【0040】
続いて、構造体保持治具20の第1保持部22aの差込プレート25aおよび第2保持部22bの差込プレート25bを中間体10aの上方から下向きに押付けることで、差込プレート25a、25bは中間体10aの第1保持位置26aと第2保持位置26bとにそれぞれ差し込まれる。これにより中間体10aの頂部に構造体保持治具20が取り付けられる。
【0041】
装着時には、
図7に示すように、例えば、第1保持位置26aが第1本体部21aの軸線方向に対して平面視で鋭角または鈍角に配置されている場合、第1保持部22aの接続部24aを第1本体部21aに対して締結部位31aを中心に回動させることで、差込プレート25aが第1保持位置26aにおいてモルタル層12の打設方向に沿うように所望の位置に配置させることができる。同様に、第2本体部21bと第2保持部22bとの間も締結部位31bを中心に回動させることで、中間体10aの所望の位置に差込プレート25bを固定することができる。
【0042】
図5に示すように、構造体保持治具20が中間体10aに装着された状態では、第1保持位置26aでは複数のモルタル層12が鉛直方向に積層され、第2保持位置26bでは鉛直方向に対して傾斜方向に積層されている。第1保持位置26aと第2保持位置26bとに構造体保持治具20が架け渡されることで、第2保持位置26bに傾斜方向に積層された複数のモルタル層12を第1保持位置26aに鉛直方向に積層された複数のモルタル層12により支えることができる。
【0043】
また、
図6に示すように、構造体保持治具20が中間体10aに装着された状態では、第1保持位置26aと第2保持位置26bとで、複数のモルタル層12が互いに離れる方向に傾斜して積層されている。この場合、第1保持位置26aと第2保持位置26bとに構造体保持治具20が架け渡されることで、傾斜方向に積層された対向する複数のモルタル層12同士は互いに支え合うことができる。
【0044】
その後、構造体保持治具20が装着された第1保持位置26aおよび第2保持位置26bを含む中間体10aの頂部全体に、再び付加製造装置11を用いてモルタル層12を所定形状で複数層積層する。付加製造装置11がモルタル層12の積層(モルタル打設)を繰り返すことで、未硬化状態のモルタル層12が更に複数積層され、中間体10aが大きくなっていく。この工程の途中において適宜、上記同様に中間体10aの頂部に構造体保持治具20を装着する。
【0045】
このような未硬化状態のモルタル層12の積層と構造体保持治具20の装着とを繰り返すことで、
図8および
図9に示すような、未硬化状態の構造体10が形成される。
そして未硬化状態の構造体10が硬化することで、目的の硬化状態の構造体10が形成される。硬化後の構造体10には第1保持部22aと第2保持部22bとが埋設した状態で構造体保持治具20がそのまま残留している。
【0046】
そこで硬化後には、構造体保持治具20の本体部21を撤去する。第1本体部21aと第1保持部22aとは着脱可能に接続されているため、第1保持部22aから第1本体部21aを取り外す。同様に、第2本体部21bと第2保持部22bとは着脱可能に接続されているため、第2保持部22bから第2本体部21bを取り外す。これにより、本体部21を撤去することができる。
【0047】
本体部21を撤去した後の構造体10には、第1保持部22aおよび第2保持部22bが構造体10の表面から突出した状態で残留する。そのため本実施形態では、第1保持部22aおよび第2保持部22bにおける構造体10の表面から突出した部位を切除する。これにより構造体10の構築が終了する。その後、内側空間10bに鉄筋などを配置してフレッシュコンクリートを打ち込んで硬化させてもよい。
【0048】
なお、中間体10aにおいて、適切な離間距離、例えば構造体保持治具20における本体部21の長さ調整可能な距離に、互いに対向するモルタル層12が存在しないことがある。その場合、
図10に示すように、第1保持部22aの代りにフック27が接続された構造体保持治具20Aを用いてもよい。
【0049】
この構造体保持治具20Aを用いる場合、本体部21の長さ調整可能な範囲に設置されている、未硬化状態の構造体10とは別の足場の鋼管等の支持体28を利用する。構造体保持治具20Aは、一端のフック27を支持体28に固定するとともに、他端の差込プレート25bを中間体10aの頂部に差込むことで取り付ける。その後、上記した工程と同様にモルタル層12を積層することで構造体10を構築することができる。
【0050】
以上のような本実施形態の構造体保持治具20によれば、第1保持部22aおよび第2保持部22bのうちの少なくとも一方が所定位置に支えられた状態で、他方が未硬化状態の構造体10を保持するため、未硬化状態の構造体10が自重により変形することを防止できる。また、型枠なしでも未硬化状態の構造体10が形状を保つことができ、鉛直方向に対して傾斜のある造形形状であっても構造体保持治具20を用いることで型枠なしで変形することなく施工することができる。つまり、構造体保持治具20を施工中の構造体10(中間体10a)に取り付けるだけで、所望の形状の構造体10を構築することができる。換言すれば、構造体保持治具20を用いることにより、構築作業の手間を増加することなく構造体10の造形形状の自由度を向上することが可能である。
【0051】
本実施形態の構造体保持治具20では、第1保持部22aおよび第2保持部22bが本体部21に対して着脱可能である。そのため未硬化状態の構造体10の保持位置26a、26bに第1保持部22aまたは第2保持部22bが埋設された状態で硬化しても本体部21が離脱でき、本体部21を容易に撤去することができる。つまり、硬化状態の構造体10から構造体保持治具20が大きく突出して残留することがなく、構造体10の使用時に構造体保持治具20が邪魔になることを防止できるとともに、美観を保持することができる。
【0052】
本実施形態の構造体保持治具20では、第1保持部22aおよび第2保持部22bが本体部21に対して回動可能である。そのため本体部21に対して第1保持部22aまたは第2保持部22bの向きを容易に調整することができる。未硬化状態の構造体10の保持位置26a、26bの向きや形状に応じて第1保持部22aおよび第2保持部22bの向きが適切に調整できる。構造体10の造形形状に応じて差込プレート25a,25bが適切に設置され、差込プレート25a,25bが未硬化状態の構造体10を確実に保持することができる。また、差込プレート25a,25bが構造体10からはみ出すことを防止できるため、美観を保持することができる。
【0053】
本実施形態の構造体保持治具20では、本体部21が、第1保持部22aと接続された第1本体部21aと、第2保持部22bと接続された第2本体部21bと、第1本体部21aと第2本体部21bとを連結するジョイント部23と、を備えて長さが調整可能である。そのため未硬化状態の構造体10に応じて、第1保持部22aと第2保持部22bとの間の距離を容易に調整することができ、構造体10の造形形状に応じて構造体保持治具20が適切に設置することができる。
【0054】
本実施形態の構造体保持治具20は、第1保持部22aおよび第2保持部22bが板状の差込プレート25a,25bを有している。そのため第1保持部22aや第2保持部22bを未硬化状態の構造体10に差込み易く、構造体保持治具20を容易かつ確実に設置することができる。
【0055】
本実施形態の構造体保持治具20Aは、第1保持部22aの代わりに、未硬化状態の構造体10とは異なる支持体28に固定可能なフック27を有している。そのため支持体28に構造体保持治具20が強固に支えられた状態で、第2保持位置26bを保持でき、未硬化状態の構造体10を安定して保持できる。
【0056】
本発明の構造体10の構築方法によれば、構造体保持治具20の本体部21の第1保持部22aと第2保持部22bとを、未硬化状態の中間体10aの互いに対向した第1保持位置26aと第2保持位置26bに差込んで装着されている。第1保持部22aと第2保持部22bとが差込まれた状態で中間体10aにモルタルが積層されることで、未硬化状態の構造体10が形成されている。そのため未硬化状態の構造体10では、第1保持位置26aと第2保持位置26bとが構造体保持治具20を介して連結されることで、一方が他方を支えることができる。これにより第1保持位置26aと第2保持位置26bの自重による変形を防止できる。これにより構造体10が鉛直方向に対して傾斜のある形状であっても型枠なしで形成でき、構築作業の手間を増加することなく構造体10の造形形状の自由度を向上することができる。
【0057】
本実施形態の構築方法では、未硬化状態の構造体10の硬化後、第1保持部22aおよび第2保持部22bの構造体10の表面から突出する部位を切除している。そのため構造体10の表面に第1保持部22aおよび第2保持部22bが突出した状態で残留せず、構造体10を使用する際に邪魔になることがないとともに、見栄え良く仕上げることができる。
【0058】
なお上記実施形態は本発明の範囲内において適宜変更可能である。
例えば上記実施形態では、構造体保持治具20が、鉛直方向に対して傾斜した形状を有する未硬化状態の構造体10に使用した例について説明したが、装着対象の構造体は特に限定されるものではない。例えばモルタル層12が鉛直方向に積層された未硬化状態の構造体であっても、本発明の構造体保持治具20を装着して使用することは可能である。
【0059】
また上記実施形態では、構造体保持治具20として、本体部21に第1保持部22aと第2保持部22bとの2つの保持部を設けた例について説明したが、本体部21に3個以上の保持部を設けることも可能である。逆に、本体部21は1個の保持部(例えば、第1保持部22aのみ)であってもよい。
【0060】
また、本実施形態では、第1保持部22aと第1本体部21aとの間が着脱可能な場合で説明したが、必ずしも着脱可能でなくてもよい。第2保持部22bと第2本体部21bとの間も同様である。
【0061】
また、本実施形態では、第1保持部22aと第1本体部21aとの間が回動可能な場合で説明したが、必ずしも回動可能でなくてもよい。第2保持部22bと第2本体部21bとの間も同様である。
【0062】
また、本実施形態では、第1保持部22aの差込プレート25aおよび第2保持部22bの差込プレート25bが板状部材で構成した場合で説明したが、差込プレートの形状は他の形状であってもよい。例えば、差込プレートの下端にテーパ部を設けて、モルタル層に差し込みしやすい形状であってもよい。
【0063】
さらに、本実施形態では、第1本体部21aと第2本体部21bとはその軸線方向が略平行に構成されている場合で説明したが、第1本体部21aと第2本体部21bとが平面視で互いの軸線方向を交差させるように回動できるように構成してもよい。
【0064】
そして、本実施形態では、第1本体部21aと第2本体部21bの2本の棒状部材で本体部21を構成した場合で説明したが、本体部21を3本以上の棒状部材で構成してもよい。
【符号の説明】
【0065】
10 構造体
20 構造体保持治具
21 本体部
21a 第1本体部
21b 第2本体部
22a 第1保持部
22b 第2保持部
23 ジョイント部
24a,24b 接続部
25a,25b 差込プレート(板状部材)
27 フック
28 支持体