(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015186
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】保持装置
(51)【国際特許分類】
H04M 1/12 20060101AFI20230124BHJP
H04M 1/11 20060101ALI20230124BHJP
B60R 11/02 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
H04M1/12 D
H04M1/11 C
B60R11/02 W
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175604
(22)【出願日】2022-11-01
(62)【分割の表示】P 2021076786の分割
【原出願日】2017-06-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】渡部 崇史
(72)【発明者】
【氏名】重田 浩典
(72)【発明者】
【氏名】松村 博史
(57)【要約】
【課題】使用感を向上させることができる保持装置を提供する。
【解決手段】2つの凹部412B、412Cの円弧部412Aに対する傾斜角度が異なり、ピン322Bを脱出させて円弧部412Aへ移動させるための第一操作力及び第二操作力が同等であることで、使用者が保持部4を回動させてスマートフォン5の向きを変更する際の使用感を向上させることができる。このとき、巻ばね323が、円弧部412Aの径方向に対して傾斜した方向にピン322Bを付勢することで、巻ばね323の形状や配置の自由度を向上させることができ、巻ばね323を容易に設けることができる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被保持物を保持する保持部と、
所定の回動軸を中心に前記保持部を回動自在に支持する基部と、を備え、
前記保持部及び前記基部の一方には、円弧部を有する案内溝が設けられ、他方には、前記案内溝に案内されるピンと、該ピンを前記円弧部の径方向に対して傾斜して付勢する付勢手段と、が設けられ、
前記案内溝は、前記円弧部の周方向に対して傾斜した複数の凹部を有することを特徴とする保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被保持物を保持する保持装置として、車両にスマートフォン等の携帯機器を設置するための携帯機器ホルダが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された従来の携帯機器ホルダは、ダッシュボードに装着される取付部と、取付部から延びるアーム部と、アーム部の先端に設けられて携帯機器を保持する保持部と、を備え、保持部が回動することにより、携帯機器の向きが変更可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の携帯機器ホルダでは、携帯機器が横向き又は縦向きとなるように保持部が回動するものの、これらの向きを維持するための機構が設けられておらず、外力によって意図せずに回動してしまうことがあった。そこで、相対回動する部材にカム機構を設けることにより、保持部の向きを維持する構成が考えられる。
【0005】
このとき、カム機構に設けられた付勢手段が、保持部の回動の径方向に沿った付勢力をピンに加えるようにすれば、携帯機器を第一の向きから第二の向きに変更する際のクリック感(使用者が操作時に感じる手応え)と、第二の向きから第一の向きに変更する際のクリック感と、を等しく設定しやすい。しかしながら、このような方向の付勢力を加えることは困難であった。
【0006】
したがって、本発明の課題は、使用感を向上させることができる保持装置を提供することが一例として挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した課題を解決し目的を達成するために、請求項1に記載の本発明の保持装置は、被保持物を保持する保持部と、所定の回動軸を中心に前記保持部を回動自在に支持する基部と、を備え、前記保持部及び前記基部の一方には、円弧部を有する案内溝が設けられ、他方には、前記案内溝に案内されるピンと、該ピンを前記円弧部の径方向に対して傾斜して付勢する付勢手段と、が設けられ、前記案内溝は、前記円弧部の周方向に対して傾斜した複数の凹部を有することを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施例に係る保持装置を示す正面図である。
【
図2】前記保持装置に被保持物を保持させた様子を示す斜視図である。
【
図5】前記保持装置の保持部及び基部を示す分解斜視図である。
【
図8】前記保持部を回動させた様子を示す正面図である。
【
図10】前記保持部の他の要部を示す正面図である。
【
図11】前記保持部の凹部の設定方法を示す模式図である。
【
図12】前記保持部の凹部の設定方法を示す模式図である。
【
図13】変形例に係る保持装置のピンの形状を示す正面図である。
【
図14】前記ピンの形状の設定方法を示す模式図である。
【
図15】前記ピンの形状の設定方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を説明する。本発明の実施形態に係る保持装置は、被保持物を保持する保持部と、所定の回動軸を中心に保持部を回動自在に支持する基部と、を備える。保持部及び基部の一方には、円弧部を有する案内溝が設けられ、他方には、案内溝に案内されるピンと、ピンを円弧部の径方向に対して傾斜して付勢する付勢手段と、が設けられる。案内溝は、円弧部の周方向に対して傾斜した複数の凹部を有し、ピンを2つの凹部からそれぞれ脱出させて円弧部へ移動させるための第一操作力及び第二操作力が同等である。
【0010】
ピンを2つの凹部からそれぞれ脱出させるための第一操作力及び第二操作力が同等であることで、使用者が保持部を回動させて被保持物の向きを変更する際の使用感を向上させることができる。このとき、付勢手段が、円弧部の径方向に対して傾斜した方向にピンを付勢することで、付勢手段の形状や配置の自由度を向上させることができ、付勢手段を容易に設けることができる。尚、複数の凹部のうち少なくとも2つについて、各々からピンを脱出させるための操作力が同等になっていればよい。
【0011】
ここで、「操作力」とは、瞬間的な力だけでなく、回動操作時に必要な力の積算も含む概念である。即ち、ピンを2つの凹部のそれぞれから脱出させる際、回動操作開始時に必要なトルク同士が同等であってもよいし、ピンが凹部から脱出して円弧部に移動する瞬間に必要なトルク同士が同等であってもよいし、回動操作開始時からピンが凹部から脱出して円弧部に移動する瞬間にかけて必要なトルクの積算値(角度積分)が同等であってもよい。即ち、ピンを2つの凹部のそれぞれから脱出させる際、回動操作開始からピンが円弧部に移動するまでの間に必要となる力やエネルギー等の様々な物理量のうち、少なくとも1つが同等(程度が等しい)であればよい。
【0012】
周方向に対する2つの凹部の傾斜角度が異なるとともに、ピンが2つの凹部のそれぞれと当接する第一当接部及び第二当接部が等しい形状を有していることが好ましい。それにより、付勢手段の付勢方向に応じて2つの凹部の傾斜角度を設定することで、ピンが凹部から脱出して円弧部に移動する瞬間に必要なトルク同士を同等にすることができる。
【0013】
周方向に対する2つの凹部の傾斜角度が等しいとともに、ピンが2つの凹部のそれぞれと当接する第一当接部及び第二当接部が異なる形状を有していてもよい。付勢手段の付勢方向に応じて第一当接部及び第二当接部の形状を設定することで、回動操作開始時に必要なトルク同士や、ピンが凹部から脱出して円弧部に移動する瞬間に必要なトルク同士を同等にすることができる。
【0014】
凹部は、径方向外側に向かって延びていることが好ましい。それにより、付勢手段を構成するばね部材として圧縮変形させられる巻ばね等を円弧部の中心側に配置することができる。
【0015】
保持部に案内溝が設けられ、基部にピン及び付勢手段が設けられていることが好ましい。それにより、保持部の構成を簡素化し、被保持物を保持させやすくすることができる。
【0016】
2つの凹部の間における円弧部の中心角が90°であり、保持部に保持された被保持物は、長方形状の画面を有し、画面が縦向き又は横向きとなる際に、ピンが凹部内に位置することが好ましい。それにより、長方形状の画面を有する被保持物を縦向き又は横向きで安定して保持することができる。
【0017】
保持部が被保持物として携帯機器を保持してもよいし、保持装置が車両のインストルメントパネルに設けられてもよい。尚、ここにいう携帯機器とは、使用者によって携帯される電子機器であって、スマートフォンやタブレット端末やゲーム機器等が一例として挙げられる。
【実施例0018】
以下、本発明の実施例について図を参照して具体的に説明する。本実施例の保持装置は、車載機器であって、車両の運転席におけるインストルメントパネルに搭載されて使用される。また、本実施例の保持装置は、保持対象の被保持物として、携帯機器の一例であるスマートフォンを保持する。
【0019】
本実施例の保持装置1は、
図1~3に示すように、スマートフォン5の保持機構10と、インストルメントパネルに搭載される矩形箱状の装置本体20と、を備えている。
【0020】
保持機構10は、装置本体20に突没自在に保持される。また、保持機構10は、装置本体20に、突没スライド自在に支持されるスライド部11と、このスライド部11に軸支されてスマートフォン5を保持するチルト部12と、を備えている。保持機構10は、スマートフォン5を保持させる際には、装置本体20から
図3に示されている突没方向D11における突出方向D111にスライド部11が引き出され、チルト部12が
図2示されている回動方向D12における起立方向D121に立てられる。そして、この立てられたチルト部12にスマートフォン5を保持させるように構成されている。
【0021】
装置本体20は、矩形箱状の装置本体20における上壁と一対の側壁とをなす上シャーシ21と、下壁をなす下シャーシ22と、を備えている。上述の保持機構10のスライド部11は、上シャーシ21の上壁に突没スライド自在に支持されている。下シャーシ22には、矩形箱状の装置本体20における背面側の一端辺に、この装置本体20における背面壁をなす長方形状の背面基板221が立設されている。この背面基板221には、外部機器との各種接続コネクタや、スマートフォン5との間で、例えばブルートゥース(登録商標)規格等に則った短距離通信を行うためのアンテナ等が搭載されている。また、下シャーシ22の内面には、背面基板221と電気的に接続された内面基板222が取り付けられている。
【0022】
また、装置本体20は、装置本体20における正面壁をなして使用者インタフェースの役割を担う長方形板状の脱着可能なフロントパネル部23と、このフロントパネル部23を着脱自在、かつ、回動自在に保持するパネル部24と、を備えている。パネル部24は、上シャーシ21及び下シャーシ22に固定される。このパネル部24は、上シャーシ21に支持される保持機構10と干渉しないように切欠きが設けられた形状に形成されている。フロントパネル部23の長手方向の両端には、回動軸をなす一対の軸突起231が設けられ、これら一対の軸突起231が、パネル部24における一対の保持アーム241に、着脱自在かつ回動自在に保持される。
【0023】
本実施例の保持装置1では、上シャーシ21に支持される保持機構10と、パネル部24と、のそれぞれが、下シャーシ22の内面基板222に、ケーブル223で電気的に接続されている。本実施例では、
図2に示されているように保持されたスマートフォン5に対するタッチ操作や、フロントパネル部23に対するボタン操作により、例えばスマートフォン5の画面上への地図情報の表示や、車載オーディオ機器からの音楽の再生等を行うことができる。また、保持したスマートフォン5に対する充電を、保持機構10と内面基板222とを繋ぐケーブル223と、スマートフォン5から延伸して保持機構10に接続した充電ケーブルと、を介して行うこともできる。
【0024】
以上に説明した保持装置1には、次のような手順によってスマートフォン5を保持させる。
【0025】
図4は、
図1~
図3に示されている保持装置にスマートフォンを保持させるための一例の手順を示す模式図である。尚、この
図4では、図を見易くするために、装置本体20については、上シャーシ21のみが示されている。以下に説明する手順は、使用者の手作業によって行われる。
【0026】
まず、ステップS11及びステップS12において、装置本体20から突出方向D111に保持機構10が引き出される。このとき、本実施例では、フロントパネル部23は、保持機構10の動きの邪魔とならないように、
図3に示されている軸突起231を回動中心として回動されて前方に倒されるか、パネル部24から取り外される。
【0027】
続くステップS13では、保持機構10において、チルト部12がスライド部11に対して起立方向D121に立てられる。このとき、チルト部12は、スライド部11に軸支された基部3と、基部3によって回動自在に支持された保持部4と、を備え、保持部4には、計3本の保持爪421、431を有するチャッキング部46が設けられている。本実施例では、このステップS13でチルト部12が立てられた状態では、チャッキング部46は、1本の保持爪421が上部側に位置し、2本の保持爪431が下部側に位置する姿勢となっている。また、チャッキング部46では、後述するように、上部側となる1本の保持爪421が、下部側となる2本の保持爪431に向かってバネ付勢されている。
【0028】
ステップS14では、このチャッキング部46におけるバネ付勢に抗して上部側の保持爪421が引上げ方向D131に引き上げられる。
【0029】
そして、ステップS15において、上記のように引き上げられた上部側の保持爪421と、下部側の保持爪431と、の間に、スマートフォン5が、その長手方向が水平方向を向く横向きで配置される。使用者が上部側の保持爪421を離すと、上記のバネ付勢により上部側の保持爪421が下降方向D132に動く。これにより、上部側の保持爪421と、下部側の保持爪431と、でスマートフォン5が挟持される。
【0030】
ここで、本実施例では、チルト部12において、チャッキング部46を有する保持部4が、スマートフォン5の画面の面直方向に沿った回動軸O1を中心とした回動方向D14に回動自在に取り付けられている。上記のようにステップS15の段階では、スマートフォン5は横向きで保持されている。使用者が、このスマートフォン5を、その長手方向が鉛直方向を向く縦向きにして表示画面を見たいと考えた場合、次のステップS16によって、スマートフォン5を縦向きとすることができる。即ち、ステップS16では、スマートフォン5ごと、チャッキング部46が、回動軸O1を中心として図中の時計回りに90°回動される。この回動によりスマートフォン5が縦向きとなる。また、この後、使用者が、スマートフォン5を横向きにして表示画面を見たいと考えた場合には、チャッキング部46が図中の反時計回りに90°戻されて、スマートフォン5が横向きとされる。
【0031】
また、本実施例では、使用者は、保持機構10を引き出した後の任意のタイミングでフロントパネル部23を戻す。その結果、スマートフォン5の保持を行なった後の外観が、
例えば
図2示されているような外観となる。スマートフォン5が外されて保持機構10が装置本体20に収納される際には、
図4に示されている手順とは逆の手順によって、保持機構10の収納が行われる。
【0032】
以下、基部3及び保持部4の詳細な構造及び動作について説明する。ここで、車両の前後方向(進行方向)をX方向とし、車幅方向をY方向とし、上下方向をZ方向とし、保持装置1は、上記のステップS13~S16において、スマートフォン5をX方向後方側に向けて(即ち画面がYZ平面に沿うように)保持するものとする。尚、以下では特に説明がない限り、チルト部12が上記のステップS13の状態となっているものとする。
【0033】
基部3は、
図5に示すように、枠部31と、枠部31をX方向から挟み込む前面部32及び背面部33と、上端縁部34と、を有する。尚、「前面」及び「背面」は、使用者を基準としたものである。前面部32は、その前面からは回動軸部321が突出し、その背面には被案内部材322および巻ばね323が設けられている(
図6参照)。回動軸部321は、回動軸O1を構成するものである。
【0034】
被案内部材322は、前面部32の背面側に軸支される基端部322Aと、前面部32のピン開口324を背面側から前面側に貫通するピン322Bと、を有し、YZ平面内の一方向に沿った棒状に形成されている。巻ばね323は、その両端を遠ざけるような付勢力を生じるものであって、一端323Aが前面部32のばね保持部325に保持されて固定端となり、基端部322Aよりも下方側に配置された他端323Bがピン322Bに接続されている。尚、他端323Bは、ピン322Bに固定されて一体的に移動してもよいし、ピン322Bに対して単に上方から当接することで力を加えてもよい。
【0035】
巻ばね323のばね中心O2は、Y方向において基端部322Aとピン322Bとの間に配置されるとともに、Z方向において被案内部材322の上方に配置される。巻ばね323の他端323Bは、ばね中心O2を略中心とする円弧に沿うとともに一端323Aから離れる方向の力によって被案内部材322のピン322Bを付勢する。また、ピン開口324は、基端部322Aを中心とする円弧に沿った形状となっており、付勢力が加わったピン322Bは、円弧状のピン開口324に沿って移動しようとする。ピン322Bは、回動軸部321よりも下方側に位置し、回動軸O1を基準とした場合に、径方向外側に向かうように付勢されている。また、巻ばね323は、後述する円弧部412Aの中心側に配置されている。
【0036】
このとき、巻ばね323は圧縮量(両端323A、323B同士の接近度)によって付勢力が変化することから、ピン322Bに作用する付勢力は、後述する案内溝412内におけるピン322Bの位置によって変化する。
【0037】
保持部4は、背面側から順に、保持ベース41と、移動チャッキング部42と、固定チャッキング部43と、が重ねられて構成されている。
【0038】
保持ベース41は、YZ平面に沿って延びる板状の部材であって、貫通孔状の軸受部411と、案内溝412と、が形成されている。軸受部411には基部3の回動軸部321が挿通される。円盤部材44と前面部32とによって保持ベース41をY方向から挟み込むとともに、固着部材45を円盤部材44に挿通するとともに回動軸部321に接続することにより、保持ベース41が基部3に回動自在に支持される。
【0039】
案内溝412は、
図7に示すように、軸受部411を中心とする円弧部412Aと、円弧部412Aの両端に連続した2つの凹部412B、412Cと、を有する。円弧部412Aの中心角は略90°となっている。凹部412B、412Cは、円弧部412Aを基
端として径方向外側(軸受部411から離れる側)に向かって延びており、円弧部412Aの周方向に対して所定の傾斜角度を有している。2つの凹部412B、412Cの傾斜角度は互いに異なっており、同等の深さを有している。
【0040】
固定チャッキング部43は、保持ベース41に対して移動不能に固定される。一方、移動チャッキング部42は、保持ベース41と固定チャッキング部43との間に、付勢手段とともに収容され、Z方向に移動可能となっている。この付勢手段は、移動チャッキング部42を下方側に付勢するように構成されている。固定チャッキング部43の下端縁には上記の2つの保持爪431が設けられ、移動チャッキング部42の上端縁には1つの保持爪421が設けられており、上記付勢力によって保持爪421、431同士が接近しようとし、スマートフォン5が挟持される。このような移動チャッキング部42と固定チャッキング部43とによってチャッキング部46が構成されている。
【0041】
以下、案内溝412の詳細形状、及び、保持部4の回動時における各部の動作の詳細について説明する。
【0042】
ピン322Bは巻ばね323によって付勢されるようになっており、巻ばね323が付勢手段として機能する。また、巻ばね323は、回動軸部321を基準として径方向外側に向かうようにピン322Bを付勢する。ここで、ピン322Bの仮想的な軌道(基端部322Aを中心とする円弧)を
図6~10に一点鎖線で示し、保持部4の回動の軌道(回動軸O1を中心とする円弧)を二点鎖線で示す。これらの軌道は互いに直交せず、巻ばね323の付勢方向は、円弧部412Aの径方向に対して傾斜している。即ち、巻ばね323は、ピン322Bを径方向に対して傾斜して付勢するように構成されている。
【0043】
巻ばね323が上記のようにピン322Bを付勢することから、保持部4が回動する際、ピン322Bは案内溝412の外側に押し付けられつつ案内される。ピン322Bは、凹部412B、412Cに到達すると、付勢力によって径方向外側に移動し、凹部412B、412Cに嵌まり込む。
【0044】
具体的には、チャッキング部46の保持爪421、431がZ方向に対向する際(上記のステップS13~S15の状態)、
図7に示すように、案内溝412の円弧部412Aが軸受部411の下方に位置するとともに、被案内部材322のピン322Bが一方の凹部412B内に位置する。一方、チャッキング部46の保持爪421、431がY方向に対向する際(上記のステップS16の状態)、
図8に示すように、円弧部412Aが軸受部411に対してY方向の一方側(図中左側)に位置するとともに、被案内部材322のピン322Bが他方の凹部412C内に位置する。
【0045】
このようにピン322Bが凹部412B、412Cに嵌まり込んだ状態において保持部4を回動させようとすると、凹部412B、412Cの内縁のうち外側部分412D(
図9参照)がピン322Bの第一当接部322Fに当接して力を加え、外側部分412E(
図10参照)がピン322Bの第二当接部322Gに当接して力を加える。尚、外側部分412D、412Eとは、円弧部412Aにおける径方向外側の縁部と連続する部分である。
【0046】
凹部412B、412Cは円弧部412Aの外側の縁部との間に鈍角を形成するように延びており、外側部分412D、412Eは、ピン322Bを径方向内側に移動させるように力を加える。ピン322Bの移動に伴って巻ばね323が圧縮されるため、保持部4を回動させるために必要なトルクが徐々に大きくなる。ピン322Bが凹部412B、412Cにおいて径方向の最内まで移動すると、円弧部412Aに移動可能となり、即ちピン322Bが凹部412B、412Cから脱出する。
【0047】
このとき、2つの凹部412B、412Cは、後述するような方法で傾斜角度が設定されることにより、それぞれからピン322Bを脱出させる際に、保持部4の回動操作開始時に必要なトルク同士が同等となり、且つ、ピン322Bが脱出して円弧部412Aに移動する瞬間に必要なトルク同士が同等となっている。さらに、2つの凹部412B、412Cは同等の深さを有しており、回動操作開始時からピン322Bが脱出して円弧部412Aに移動する瞬間にかけて必要なトルクの積算値(角度積分)が同等となっている。このような案内溝412の設定方法の一例について、以下に説明する。
【0048】
まず、一方の凹部412Bの延在方向(円弧部412Aの周方向に対する傾斜角度)及び深さを任意に設定する。
図11に示すように、凹部412Bにピン322Bが嵌まり込んだ状態における凹部412Bの位置を第1凹部位置L11として描写し、ピン322Bの位置を第1ピン位置L21として描写する。このような状態から保持部4を所定の微小角度Δθだけ回動させた際の凹部412Bの位置を第2凹部位置L12として描写する。さらに、このように回動した凹部412Bによってピン322Bが移動させられ、このピン322Bの位置を第2ピン位置L22として描写する。尚、回動軸O1を中心とする円弧(保持部4の回動の軌道)を二点鎖線で示し、基端部322Aを中心とする円弧(ピン322Bの回動の軌道)を一点鎖線で示す。
【0049】
保持部4を微小角度Δθずつ回動させた場合の凹部412Bおよびピン322Bの位置を上記と同様に描写する。尚、図示の例では、第1~第5凹部位置L11~L15を描写し、第1~第5ピン位置L21~L25を描写している。
【0050】
上記のような第1~第5ピン位置L21~L25を、
図12に示すように複写し、各ピン322Bに当接する外側部分412Eを描写する。このとき、外側部分412Eは、微小角度Δθずつ回動する円弧部412Aと滑らかに接続される。これにより、第1~第5ピン位置L21~L25に対応した他方の凹部412Cの位置である第6~第10凹部位置L31~L35が描写され、他方の凹部412Cの形状が決定される。
【0051】
以上のように凹部412B、412Cの形状を決定することにより、保持部4を微小角度Δθだけ一方向に回動させた際に凹部412Bがピン322Bを移動させる距離と、他方向に回動させた際に凹部412Cがピン322Bを移動させる距離と、が略等しくなる。ここで、巻ばね323がピン322Bに加える付勢力は、ピン322Bの移動距離によって決まる。従って、一方の凹部412Bからピン322Bを脱出させるように保持部4を回動させる場合と、他方の凹部412Cからピン322Bを脱出させるように保持部4を回動させる場合と、において、回動角度と回動に必要なトルクとの関係(回動角度を横軸としてトルクを縦軸とした場合のグラフ形状)が略等しくなる。これにより、一方の凹部412Bからピン322Bを脱出させるための第一操作力と、他方の凹部412Cからピン322Bを脱出させるための第二操作力と、が同等となる。
【0052】
このような操作力は、使用者がスマートフォン5の向きを変えるための操作初期に感じる手応えであって、凹部412B、412Cの円弧部412Aの周方向に対する傾斜角度が大きく、深さが深いほど、操作力が大きくなる。この操作力が、意図せずにスマートフォンが回動しない程度の大きさとなるとともに、使用者が適度な手応えを感じつつ操作できる大きさとなるように、凹部412B、412Cの形状が設定されていればよい。
【0053】
上記の構成により、2つの凹部412B、412Cの円弧部412Aに対する傾斜角度が異なり、ピン322Bを脱出させるための第一操作力及び第二操作力が同等であることで、使用者が保持部4を回動させてスマートフォン5の向きを変更する際の使用感を向上させることができる。このとき、巻ばね323が、円弧部412Aの径方向に対して傾斜した方向にピン322Bを付勢することで、巻ばね323の形状や配置の自由度を向上させることができ、巻ばね323を容易に設けることができる。
【0054】
また、凹部412B、412Cが径方向外側に向かって延びていることで、巻ばね323を構成するばね部材として圧縮変形させられる巻ばね323を円弧部の中心側に配置することができる。
【0055】
また、保持部4に案内溝412が設けられ、基部3に被案内部材322及び巻ばね323が設けられることで、保持部4の構成を簡素化し、スマートフォン5を保持させやすくすることができる。
【0056】
また、2つの凹部412B、412Cが、中心角が90°の円弧部412Aの両端に配置され、スマートフォン5の長方形状の画面が縦向き又は横向きとなる際に、被案内部材322のピン322Bが凹部412B、412C内に位置することで、長方形状の画面を有するスマートフォン5を縦向き又は横向きで安定して保持することができる。
【0057】
なお、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
【0058】
例えば、前記実施例では、円弧部412Aの周方向に対する2つの凹部412B、412Cの傾斜角度が異なることで、2つの凹部412B、412Cのそれぞれからピン322Bが脱出するための第一操作力及び第二操作力が同等となっているものとしたが、2つの凹部の傾斜角度を略等しくするとともに、ピンの第一当接部及び第二当接部を異なる形状とすることにより、第一操作力及び第二操作力を同等としてもよい。
【0059】
即ち、被案内部材が、
図13に示すような形状のピン322Cを有していてもよい。即ち、ピン322Cは、円柱(二点鎖線で図示)の側面から2つの突起322D、322Eが突出したものであり、これらの突起322D、322Eが凹部のそれぞれと当接する第一当接部及び第二当接部として機能する。一方の突起322Dは、平面視において円弧の接線に沿った部分を有し、この部分が一方の凹部の外側部分に接する。他方の突起322Eは、他方の凹部の外側部分に向かって突出し、その先端が外側部分に当接する。即ち、突起322D、322Eは、互いに異なる形状を有している。
【0060】
従って、ピン322Cが一方の凹部から脱出する際、
図14に示すように、一方の突起322Dの接面が外側部分によって持ち上げられ、保持部4の回動に伴い、突起322Dの先端が外側部分に当接するようになる。
図14では、保持部が微小角度Δθずつ回動した際の一方の凹部のそれぞれの位置L41~L44を描写するとともに、これに対応したピン322Cの位置L51~L54を描写している。
【0061】
一方、ピン322Cが他方の凹部から脱出する際、
図15に示すように、他方の突起322Eが外側部分によって押される。
図15では、保持部が微小角度Δθずつ回動した際の一方の凹部のそれぞれの位置L61~L64を描写するとともに、これに対応したピン322Cの位置L71~L74を描写している。このとき、ピン322Cの位置L51~L54と位置L71~74とは略一致しており、ピン322Cがいずれの凹部から脱出する場合(保持部4をいずれの方向に回動させる場合)であっても、保持部4の回動角度に対するピン322Cの移動量は略等しく、脱出のための操作力が同等となっている。
【0062】
尚、このようなピン322Cの形状は、前記実施例と同様の手順により設定されればよい。即ち、一方の突起322Dの形状を任意に設定し、保持部4の一方向の回動によってピン322Cが一方の凹部から脱出する際の軌跡を描写し、他方向の回動によって他方の凹部から脱出する際にもピン322Cが同様の軌跡をたどるように、他方の突起322Eの形状を設定すればよい。
【0063】
また、前記実施例では、凹部412B、412Cのそれぞれからピン322Bが脱出する際、回動角度と回動に必要なトルクとの関係が同等である(即ち、保持部4の回動操作開始時に必要なトルク同士が同等であり、ピン322Bが脱出して円弧部412Aに移動する瞬間に必要なトルク同士が同等であり、且つ、回動操作開始時からピン322Bが脱出して円弧部412Aに移動する瞬間にかけて必要なトルクの積算値が同等である)ものとしたが、このような構成に限定されず、使用者が回動操作時に感じる手応えである第一操作力と第二操作力とが同等であればよい。「操作力」は、瞬間的な力だけでなく、回動操作時に必要な力の積算も含む概念であり、瞬間的な力と力の積算とのうち少なくとも一方が同等であることにより、使用者が感じる手応えが同等となっていればよい。
【0064】
また、前記実施例では、凹部412B、412Cが径方向外側に向かって延びるとともに、圧縮変形させられる巻ばね323が円弧部412Aの中心側に配置されてピン322Bを径方向外側に向かって付勢するものとしたが、このような構成に限定されない。即ち、開き変形させられる巻ばねを円弧部412Aの外側に配置することで被案内部材322のピン322Bを径方向外側に向かって付勢してもよい。また、径方向内側に向かって延びる凹部を形成し、圧縮変形させられる巻ばね323を円弧部412Aの外側に配置するか、又は、開き変形させられる巻ばねを円弧部412Aの中心側に配置してもよい。また、付勢手段は、ピンを円弧部の径方向に対して傾斜して付勢するものであればよく、巻ばね以外の形状のばねを有して構成されていてもよい。
【0065】
また、前記実施例では、保持部4に案内溝412が設けられ、基部3に被案内部材322及び巻ばね323が設けられるものとしたが、保持部にピン及び付勢手段を設け、基部に案内溝を設けてもよい。このような構成においても前記実施例と同様に、カム機構を小型化しつつ使用感を向上させることができる。
【0066】
また、前記実施例では、案内溝412が、中心角が90°の円弧部412Aと、その両端に配置された2つの凹部412B、412Cと、によって構成されるものとしたが、案内溝は、適宜な中心角を有する円弧部と、適宜な位置に配置された2以上の凹部と、を有していればよい。即ち、保持部に保持されたスマートフォン5が、90°以上回動可能であってもよく、斜め向きで安定して保持されてもよいし、上下反転可能であってもよい。また、凹部は円弧部の端部に配置されていなくてもよい。
【0067】
また、前記実施例では、保持装置1がスマートフォンを保持するものとしたが、保持対象である被保持物は、例えば通信機能を有しておらず単に記録媒体に記憶された映像等を再生する再生機器であってもよいし、画面を有していないものであってもよい。また、被保持物は、長方形状のものに限定されず、正方形状等の他の多角形板状であってもよく、適宜な形状を有していればよい。また、被保持物が携帯機器である場合、その携帯機器は、本実施例のようにスマートフォンに限るものでもなく、例えばタブレット端末やゲーム機器等であってもよい。
【0068】
また、前記実施例では、スマートフォン5の画面の面直方向に沿った回動軸O1を中心として基部3が保持部4を回動自在に支持するものとしたが、基部は、被保持物を保持した保持部の向きを適宜に変更可能なように、保持部を回動自在に支持していればよい。例えば、基部が保持部を支持する際の回動軸は、上下方向に沿っていてもよいし、使用者から見て左右方向に沿っていてもよい。
【0069】
また、前記実施例では、保持装置が車両のインストルメントパネルに設けられるものと
したが、保持装置は、船舶や航空機等、車両以外の移動体に設けられてもよいし、建物内の壁や家具等に設けられてもよい。
【0070】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、且つ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施例に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。従って、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部、もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。