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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151874
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】鉄筋継手の設計方法
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/18 20060101AFI20231005BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
E04C5/18 102
E04G21/12 105E
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061724
(22)【出願日】2022-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】金本 清臣
【テーマコード(参考)】
2E164
【Fターム(参考)】
2E164AA01
2E164BA02
2E164BA25
(57)【要約】
【課題】軽量化を図るとともにモルタルを密実に充填することができる鉄筋継手の設計方法を提供する。
【解決手段】 両側から鉄筋4を挿入可能な筒状のスリーブ2を有し、スリーブの内周面2aにリブが形成されていないモルタル充填式の鉄筋継手1の設計方法であって、所定の関係式を満たすように設計する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側から鉄筋を挿入可能な筒状のスリーブを有し、前記スリーブの内周面にリブが形成されていないモルタル充填式の鉄筋継手の設計方法であって、
以下の関係式(A)を満たすように設計することを特徴とする鉄筋継手の設計方法。
【数1】
なお、Dはスリーブ厚芯による直径のうち最大となる直径(mm)
tはスリーブ厚(mm)
βは安全余裕度
σはスリーブの降伏応力度(N/mm
σは鉄筋の降伏応力度(N/mm
dは鉄筋の公称直径(mm)である。
【請求項2】
前記スリーブには軸方向に沿って拡径または縮径するテーパが形成されており、前記テーパのテーパ角は以下の関係式(B)を満たすように設計することを特徴とする請求項1に記載の鉄筋継手の設計方法。
【数2】
なお、σex<m>はモルタル破壊時等価応力度(N/mm
σはモルタルの圧縮強度(N/mm
αはテーパ角
は決定係数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋継手の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレキャスト鉄筋コンクリート部材の材軸方向に延伸する鉄筋同士の接合方法の一つにモルタル充填式鉄筋継手を用いる方法が知られている。モルタル充填式鉄筋継手は、圧接接合などの接合方法と比較して、作業時の環境条件の影響を受けにくく、品質確保の観点から多く採用されている。
【0003】
一般的に市販されている鉄筋継手は、国土交通省住宅局建築指導課・日本建築行政会議・日本建築構造技術者協会編「建築物の構造関係技術基準解説書」の「鉄筋継手性能判定基準」に定められている各等級に応じた性能を満たすために、略中空状の鉄筋継手のスリーブ内周面に複数枚のリブが設けられている。他にも、略中空状の鉄筋継手のスリーブ内周面をテーパ形状にするなどの工夫が施されている。
【0004】
また、鉄筋継手のスリーブ内部の鉄筋同士は、スリーブ内部に充填するモルタルにより接合され、鉄筋に引張荷重が作用した際の応力は、一方の鉄筋の異形リブから充填モルタルを介してスリーブ内部のリブ、他方の鉄筋へと伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-292862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、スリーブ内周面に複数枚のリブを設けると、鉄筋継手の重量が増え、作業性・施工コストに大きな影響を及ぼす。また、スリーブ内部のモルタルの充填性は、施工時に作業員によって管理されているが、スリーブ内部のリブの影響でモルタルが密実に充填されているかどうかについては確認できないという問題があった。
【0007】
本発明は、上述事情に鑑みてなされたもので、軽量化を図るとともにモルタルを密実に充填することができる鉄筋継手の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る鉄筋継手の設計方法は、両側から鉄筋を挿入可能な筒状のスリーブを有し、前記スリーブの内周面にリブが形成されていないモルタル充填式の鉄筋継手の設計方法であって、以下の関係式(A)を満たすように設計することを特徴とする鉄筋継手の設計方法。
【0009】
【数1】
【0010】
なお、Dはスリーブ厚芯による直径のうち最大となる直径(mm)
tはスリーブ厚(mm)
βは安全余裕度
σはスリーブの降伏応力度(N/mm
σは鉄筋の降伏応力度(N/mm
dは鉄筋の公称直径(mm)である。
【0011】
この発明によれば、構造条件を満たした鉄筋継手であって、スリーブの内周面にリブが形成されていない軽量な鉄筋継手を実現することができる。また、スリーブの内周面にリブが形成されていないため、モルタル充填性に優れた鉄筋継手を実現することができる。結果として、施工性に優れた鉄筋継手を提供することができる。
【0012】
また、本発明に係る鉄筋継手の設計方法は、前記スリーブには軸方向に沿って拡径または縮径するテーパが形成されており、前記テーパのテーパ角は以下の関係式(B)を満たすように設計してもよい。
【0013】
【数2】
【0014】
なお、σex<m>はモルタル破壊時等価応力度(N/mm
σはモルタルの圧縮強度(N/mm
αはテーパ角
は決定係数である。
【0015】
この発明によれば、スリーブの内周面に形成されているテーパの角度を適切に設定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、軽量化を図るとともにスリーブ内にモルタルを密実に充填することができる鉄筋継手の設計方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る鉄筋継手モデルの断面図である。
図2図1のA-A線に沿う断面図である。
図3図2のB部の拡大斜視図である。
図4】モルタル破壊時等価応力度とテーパ角との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態による鉄筋継手の設計方法について、図面に基づいて説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施形態で用いる鉄筋継手1は、モルタル充填式鉄筋継手である。鉄筋継手1は、継手の本体部に相当するスリーブ2を有している。スリーブ2は中空筒状の形状であり、スリーブ2の中空部3には、鉄筋4が配置され、スリーブ2と鉄筋4との間にモルタル5が充填される。鉄筋継手1のスリーブ2の内周面2aにはリブが形成されていない。図2に示すように、スリーブ2は断面円環状の円筒形状を有している。また、スリーブ2は軸線方向に沿って中空部3の直径が可変するテーパ形状に形成されている。
【0020】
鉄筋継手1の性能には、テーパ角α、肉厚比D/t、継手長さ比h/D、モルタル-スリーブ間の摩擦係数μ、およびせん断応力度τが大きく影響するものと考えられるが、本実施形態では、このうち影響力の大きいテーパ角α、および肉厚比D/tを主眼におく。
【0021】
破壊モードとしては、1)モルタル-スリーブ間のすべり破壊、2)モルタルのせん断破壊、3)鉄筋とモルタルの付着破壊、4)スリーブの引張降伏、の4つのケースが考えられるが、鉄筋継手1の破壊モードとしては1)のモードが支配的であること、鉄筋継手1(スリーブ2)の設計方法の検討が目的であることから、以下では1)を検討対象とする。
【0022】
(鉄筋引張荷重と内部応力の関係式)
図1図3に、鉄筋継手1のモデル化および微小空間の力のつり合いを示す。
ここで、仮定条件としては、ア)想定する破壊モードはモルタル-スリーブ間のすべり破壊とする、イ)モルタル5は剛体、スリーブ2は弾性体(薄肉厚)、モルタル5とスリーブ2との境界面6はすべり発生以前まで完全付着とする、ウ)テーパ角αは微小とする。
【0023】
上記のように条件を設定すると、スリーブ2の内部の力のつり合いは、円周方向と面圧方向の力のつり合いより、以下の式(1)の関係が成り立つ。
【0024】
【数3】
【0025】
次に、鉛直方向の力のつり合いより、以下の式(2)の関係が成り立つ。
【0026】
【数4】
【0027】
平面応力状態におけるスリーブの応力-ひずみ関係は、以下の式(3)で表される。
【0028】
【数5】
【0029】
モルタル-スリーブ間の境界面において、モルタル要素がZ方向にΔδ(mm)だけスリーブから抜け出たと仮定すると、εθは式(4)で表される。
【0030】
【数6】
【0031】
上記式(3)、(4)より、以下の式(5)が導かれる。
【0032】
【数7】
【0033】
上記式(5)は、式(1)より以下の式(6)、式(7)になる。
【0034】
【数8】
【0035】
【数9】
【0036】
τとの関係は式(2)より、以下の式(8)で表される。
【0037】
【数10】
【0038】
以上より、σとτとの関係は、σとΔδで表すことができる。スリーブの相当応力σeqは式(9)で与えられ、これにより降伏判定が可能となる。
【0039】
【数11】
【0040】
モルタル-スリーブ間の境界状態として、完全付着状態とすべり破壊状態の2ケースを想定する。
【0041】
(ケース1:モルタル-スリーブ間の境界面が完全付着状態(Δδ=0)の場合)
完全付着状態のσは、モルタルの弾性剛性によって決定されるが、本実施形態ではモルタルを剛体と仮定している。σがZの2次関数で表されるものと仮定し、式(7)、式(8)においてΔδ=0とすると、式(10)になる。
【0042】
【数12】
【0043】
荷重と応力度の関係から、式(11)、式(12)が導かれる。
【0044】
【数13】
【0045】
【数14】
【0046】
式(11)、式(12)より、式(10)のC、Cは以下の式(13)のように表される。なお、h(mm)は、継手全長(スリーブ全長)である。
【0047】
【数15】
【0048】
式(13)より、式(10)は以下の式(14)のように表される。なお、z(mm)は、継手長さ方向の任意の位置である。
【0049】
【数16】
【0050】
式(7)、式(8)より、τおよびσは、それぞれ式(15)、式(16)で与えられる。
【0051】
【数17】
【0052】
【数18】
【0053】
(ケース2:モルタル-スリーブ間の境界面のすべりを許容する場合)
モルタル-スリーブ間の境界面におけるτとσの関係にすべり耐力式を適用し、モルタル-スリーブ間の境界面のすべりを許容することから、式(6)においてσとの関係を無視するものとする。すると、以下の式(17)、式(18)が導かれる。
【0054】
【数19】
【0055】
【数20】
【0056】
ここで、μ、τは慣例的にそれぞれ、μ=1.0、τ=0.1σとする。
【0057】
次に、鉄筋引張荷重とスリーブ内部のせん断応力度のつり合いより、式(19)が導かれる。
【0058】
【数21】
【0059】
以上より、鉄筋引張荷重による等価応力度σexとΔδの関係は、式(20)または式(21)で与えられる。
【0060】
【数22】
【0061】
【数23】
【0062】
σは、式(8)およびZ=0におけるσの境界条件より式(22)で与えられる。
【0063】
【数24】
【0064】
(設計クライテリア)
鉄筋継手1の設計クライテリアの設定に必要なモルタル破壊時、スリーブ降伏時の等価応力度を以下に示す。
【0065】
モルタル破壊時等価応力度σex<m>は、図4に示す回帰分析結果より、式(23)で表される。
【0066】
【数25】
【0067】
スリーブ降伏時等価応力度σex<eq>は、材軸位置によって変化するσeq(式(9))において、Z=0で最大となるσeqをσex<eq>とする。
【0068】
【数26】
【0069】
スリーブの降伏クライテリアσeqσ≦1.0より、式(25)が導かれる。
【0070】
【数27】
【0071】
設計クライテリアとしては、各破壊モードの等価応力度の最小値σex<D>に対する鉄筋降伏時等価応力度σex<r>の比率(安全余裕度)で考えることができる。
【0072】
【数28】
【0073】
【数29】
【0074】
【数30】
【0075】
(スリーブの必要最大径厚比D/t)
スリーブの降伏時荷重が安全余裕度βを考慮した鉄筋降伏時荷重以上であることを条件として、D/tに制限を設ける。
本来、2軸応力下における降伏を考えるべきであるが、σθがσよりも小さいこと、σのみを考慮する方が安全側の評価となることから、σのみを考慮するものとする。そうすると、以下の式(29)、式(30)が導かれる。
【0076】
【数31】
【0077】
【数32】
【0078】
本実施形態によれば、両側から鉄筋4を挿入可能な筒状のスリーブ2を有し、スリーブ2の内周面2aにリブが形成されていないモルタル充填式の鉄筋継手1の設計方法は、上記式(30)を満たすように設計した。
【0079】
なお、Dはスリーブ厚芯による直径のうち最大となる直径(mm)、tはスリーブ厚(mm)、βは安全余裕度、σはスリーブの降伏応力度(N/mm)、σは鉄筋の降伏応力度(N/mm)、dは鉄筋の公称直径(mm)である。
【0080】
この発明によれば、構造条件を満たした鉄筋継手1であって、スリーブ2の内周面2aにリブが形成されていない軽量な鉄筋継手1を実現することができる。また、スリーブ2の内周面2aにリブが形成されていないため、モルタル充填性に優れた鉄筋継手1を実現することができる。結果として、施工性に優れた鉄筋継手1を提供することができる。
【0081】
また、本実施形態の鉄筋継手1の設計方法は、スリーブ2には軸方向に沿って拡径または縮径するテーパが形成されている場合には、テーパのテーパ角αは上記式(23)を満たすように設計した。
【0082】
なお、σex<m>はモルタル破壊時等価応力度(N/mm)、σはモルタルの圧縮強度(N/mm)、αはテーパ角、rは決定係数である。
【0083】
この発明によれば、スリーブ2の内周面2aにテーパが形成されている鉄筋継手1のテーパ角αを適切に設定することができる。
【0084】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されない。本発明は、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、変更可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 鉄筋継手
2 スリーブ
2a 内周面
4 鉄筋
5 モルタル
α テーパ角
図1
図2
図3
図4