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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151910
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】エンジンの排気装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 13/08 20100101AFI20231005BHJP
   B60K 13/04 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
F01N13/08 D
B60K13/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061781
(22)【出願日】2022-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】加藤 二郎
(72)【発明者】
【氏名】加茂 寿章
(72)【発明者】
【氏名】中村 好孝
【テーマコード(参考)】
3D038
3G004
【Fターム(参考)】
3D038BA13
3D038BB01
3D038BC20
3D038BC22
3G004AA01
3G004BA04
3G004DA11
3G004FA04
3G004GA04
(57)【要約】
【課題】排気脈動を用いたエンジンのトルク向上を図りながら、排気管における屈曲部の変形を抑制することで車体におけるこもり音の発生を抑えることができるエンジンの排気装置を提供する。
【解決手段】排気装置1は、サイレンサ14と、排気管11と、プリサイレンサ16と、補強部材17とを備える。排気管11は、エンジン20とプリサイレンサ16との間を繋ぐ上流側排気管12と、プリサイレンサ16とサイレンサ14との間を繋ぐ下流側排気管13とにより構成されている。上流側排気管12は、屈曲部12aを有する(A部)。補強部材17は、屈曲部の上流側および下流側の各幹部に固定される固定部と、固定部同士の間を架橋する架橋部とを有する。補強部材17の架橋部は、屈曲部12aにおける屈曲の内側に配設されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体のフロア下におけるエンジンから離間した位置に配設されたサイレンサと、
前記エンジンと前記サイレンサとを繋ぎ、排気ガスの経路である排気管と、
前記排気管における長手方向の途中に設けられ、前記排気管よりも拡径されてなる拡管部を有する構造体と、
を備えるエンジンの排気装置であって、
前記排気管は、前記経路における前記エンジンと前記構造体との間に配設された上流側排気管と、前記経路における前記構造体と前記サイレンサとの間に配設された下流側排気管と、を有し、
前記上流側排気管および前記下流側排気管の内の少なくとも一方の排気管は、V字状に屈曲された屈曲部を有し、
該エンジンの排気装置は、
前記少なくとも一方の排気管における前記屈曲部に対して上流側となる上流側管部に固定される上流側固定部と、前記少なくとも一方の排気管における前記屈曲部に対して下流側となる下流側管部に固定される下流側固定部と、前記上流側固定部と前記下流側固定部との間を繋ぎ、前記屈曲部における屈曲の内側を前記上流側管部と前記下流側管部との間を架橋する架橋部とを有する補強部材をさらに備える、
エンジンの排気装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの排気装置において、
前記補強部材は、
前記上流側管部および前記下流側管部のそれぞれを径方向に挟むように互いに対向し、それぞれが両固定部に亘って延びるように形成された一対の側壁部と、
前記一対の側壁部のそれぞれの端辺同士を繋ぐように、前記一対の側壁部に連続し、且つ、前記上流側固定部から前記下流側固定部に亘って延びるように形成されたベース壁部と、
を有する、
エンジンの排気装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジンの排気装置において、
前記補強部材における前記一対の側壁部は、前記ベース壁部が連続する側から反対側の他端辺側へと行くのに従って、互いの間隔が大きくなるように形成されている、
エンジンの排気装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載のエンジンの排気装置において、
前記補強部材における前記一対の側壁部は、前記架橋部において、前記ベース壁部が連続する側とは反対側の他端辺同士の間隔が他の箇所よりも広くなるように形成された箇所を、長手方向の一部に有する、
エンジンの排気装置。
【請求項5】
請求項2または請求項3に記載のエンジンの排気装置において、
前記ベース壁部は、前記屈曲部の屈曲方向とは反対側に向けて突出するように湾曲または屈曲した形状で形成されている、
エンジンの排気装置。
【請求項6】
請求項2または請求項3に記載のエンジンの排気装置において、
前記ベース壁部は、前記上流側固定部および前記下流側固定部のそれぞれにおいて、前記上流側管部および前記下流側管部のそれぞれの外周面に対して隙間が空くように配設されている、
エンジンの排気装置。
【請求項7】
請求項2または請求項3に記載のエンジンの排気装置において、
前記補強部材は、金属板材を曲折加工することで形成されている、
エンジンの排気装置。
【請求項8】
請求項1から請求項3の何れかに記載のエンジンの排気装置において、
前記構造体は、プリサイレンサであり、
前記屈曲部は、少なくとも前記上流側排気管に形成されている、
エンジンの排気装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気装置に関し、屈曲部を有する排気管を備える排気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンには、当該エンジンから排出される排気ガスを車体後方へと導く排気装置が取り付けられている。エンジンの排気装置は、排気マニホールドに取り付けられ、車体後方へと延びる排気管と、車体後部に配置され、排気管が連結されるサイレンサと、を備える。
【0003】
さらに、近年では、排気音のさらなる低減が求められている。これに対応するように、エンジンの排気装置の中には、排気管の長手方向の途中に挿設されるプリサイレンサを備えるものもある。このようなプリサイレンサを備えたエンジンの排気装置が特許文献1に開示されている。
【0004】
特許文献1に開示のエンジンの排気装置では、間にプリサイレンサが挿設された状態で排気マニホールドとサイレンサとを繋ぐ上流側排気管と、サイレンサとテールパイプとを繋ぐ下流側排気管とを備えている。そして、特許文献1に開示のエンジンの排気装置では、サイレンサが配された箇所の近傍において、上流側排気管と下流側排気管とが板状の剛性連結体で連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61-102314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のようなプリサイレンサを備える排気装置において、排気脈動を用いたエンジンのトルク向上を図るため排気管長を長くすることも研究開発されている。このように排気管長を長くしようとする場合には、排気管に屈曲部を有する構造が採用される。このように排気管に屈曲部を設けることによって、直線に延びる排気管よりも排気管長を長くすることができる。
【0007】
しかしながら、排気管に屈曲部を設けた場合には、エンジンを駆動させた際に、排気管の振動レベルが増大して車体におけるこもり音が顕著に発生する場合がある。排気管に屈曲部を設けたことと、車体におけるこもり音の発生との関係について、本願発明者等が鋭意検討を行った結果、排気管内を通過する排気ガスの熱により排気管が熱膨張(熱伸び)して屈曲部が変形することが原因であることを究明した。
【0008】
本発明は、上記のような究明結果に基づくものであって、排気脈動を用いたエンジンのトルク向上を図りながら、排気管における屈曲部の変形を抑制することで車体におけるこもり音の発生を抑えることができるエンジンの排気装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るエンジンの排気装置は、サイレンサと、排気管と、構造体とを備える。前記サイレンサは、車体のフロア下におけるエンジンから離間した位置に配設されている。前記排気管は、前記エンジンと前記サイレンサとを繋ぎ、排気ガスの経路である。前記構造体は、前記排気管における長手方向の途中に設けられ、前記排気管よりも拡径されてなる拡管部を有する。
【0010】
本態様に係るエンジンの排気装置において、前記排気管は、前記経路における前記エンジンと前記構造体との間に配設された上流側排気管と、前記経路における前記構造体と前記サイレンサとの間に配設された下流側排気管と、を有し、前記上流側排気管および前記下流側排気管の内の少なくとも一方の排気管は、V字状に屈曲された屈曲部を有する。
【0011】
本態様に係るエンジンの排気装置は、補強部材をさらに備える。前記補強部材は、前記少なくとも一方の排気管における前記屈曲部に対して上流側となる上流側管部に固定される上流側固定部と、前記少なくとも一方の排気管における前記屈曲部に対して下流側となる下流側管部に固定される下流側固定部と、前記上流側固定部と前記下流側固定部との間を繋ぎ、前記屈曲部における屈曲の内側を前記上流側管部と前記下流側管部との間を架橋する架橋部とを有する。
【0012】
上記態様に係るエンジンの排気装置では、上記少なくとも一方の排気管(以下、「一方排気管」と記載する。)に屈曲部が形成されている。このため、屈曲部の形成により一方排気管の長さ(排気管長)を調整することができ、エンジンの吸気弁と排気弁とがともに開弁した開弁オーバーラップ期間に排気脈動で生じる負圧波が排気ポートに到達するようにできる。よって、上記態様に係るエンジンの排気装置では、所望のエンジン回転域で気筒内残留ガスを掃気して、体積効率の上昇によりエンジンのトルク向上を図ることができる。
【0013】
また、上記態様に係るエンジンの排気装置では、一方排気管の屈曲部を屈曲の内側で架橋する架橋部を有する補強部材を備えるので、排気ガスの流通による温度上昇で一方排気管が熱膨張(熱伸び)しても屈曲部が変形するのを抑えることができる。よって、上記態様に係るエンジンの排気装置では、一方排気管の屈曲部の変形に起因する車体におけるこもり音の発生を抑制することができる。
【0014】
上記態様に係るエンジンの排気装置において、前記上流側管部および前記下流側管部のそれぞれを径方向に挟むように互いに対向し、それぞれが両固定部に亘って延びるように形成された一対の側壁部と、前記一対の側壁部のそれぞれの端辺同士を繋ぐように、前記一対の側壁部に連続し、且つ、前記上流側固定部から前記下流側固定部に亘って延びるように形成されたベース壁部と、を有する、としてもよい。
【0015】
上記態様に係るエンジンの排気装置では、一対の側壁部とベース壁部とが連続してなるU字断面形状の補強部材を採用しているので、平板からなる補強部材を採用する場合に比べて断面係数を大きくとることができ、重量および製造コストの上昇を抑えながら屈曲部の変形を抑制することができる。
【0016】
上記態様に係るエンジンの排気装置において、前記補強部材における前記一対の側壁部は、前記ベース壁部が連続する側から反対側の他端辺側へと行くのに従って、互いの間隔が大きくなるように形成されている、としてもよい。
【0017】
上記態様に係るエンジンの排気装置では、補強部材における一対の側壁部の互いの間隔が、ベース壁部が連続する側から反対側の他端辺側へと行くのに従って大きくなるように補強部材が構成されているので、一対の側壁部が平行な構成を採用する場合に比べて、高い寸法精度をもって補強部材を形成しなくても、一方排気管に対して取り付けることができる。
【0018】
上記態様に係るエンジンの排気装置において、前記補強部材における前記一対の側壁部は、前記架橋部において、前記ベース壁部が連続する側とは反対側の他端辺同士の間隔が他の箇所よりも広くなるように形成された箇所を、長手方向の一部に有する、としてもよい。
【0019】
上記態様に係るエンジンの排気装置では、補強部材の架橋部において、他端辺同士の間隔が他の箇所よりも広い箇所(拡幅部)を有するように補強部材が構成されているので、一方排気管の熱膨張(熱伸び)によって上流側管部と下流側管部との間の距離が伸びようとしても補強部材の拡幅部の変形によって当該伸びを吸収することが可能である。よって、上記態様に係るエンジンの排気装置では、排気ガスの流通により一方排気管が熱膨張により延びようとしても、補強部材と一方排気管との固定が外れてしまうのを抑制しながら、屈曲部の変形を補強部材で抑制することができる。
【0020】
上記態様に係るエンジンの排気装置において、前記ベース壁部は、前記屈曲部の屈曲方向とは反対側に向けて突出するように湾曲または屈曲した形状で形成されている、としてもよい。
【0021】
上記態様に係るエンジンの排気装置では、補強部材のベース壁部が上記のように湾曲等した形状をもって構成されているので、上述のように排気ガスの流通により一方配管が熱膨張しても、ベース壁部の変形によって補強部材の固定部と一方排気管の上流側管部および下流側管部との固定が外れてしまうのを抑制することができる。
【0022】
上記態様に係るエンジンの排気装置において、前記ベース壁部は、前記上流側固定部および前記下流側固定部のそれぞれにおいて、前記上流側管部および前記下流側管部のそれぞれの外周面に対して隙間が空くように配設されている、としてもよい。
【0023】
上記態様に係るエンジンの排気装置では、補強部材における上流側固定部および下流側固定部のそれぞれにおいて、ベース壁部が一方排気管の外周面に対して隙間が空くように配設されているので、仮に補強部材のベース壁部と一方排気管との間に小石などの異物が入り込んだ場合にも上記隙間から異物を排出することができる。よって、小石等の異物が補強部材や一方排気管と衝突することで生じるノイズを抑えることができる。
【0024】
上記態様に係るエンジンの排気装置において、前記補強部材は、金属板材を曲折加工することで形成されている、としてもよい。
【0025】
上記態様に係るエンジンの排気装置では、金属板材を曲折加工してなる補強部材を採用するので、重量や製造コストの上昇を抑えながら一方排気管の熱膨張に伴う屈曲部の変形を抑制するのに優位である。
【0026】
上記態様に係るエンジンの排気装置において、前記構造体は、プリサイレンサであり、前記屈曲部は、少なくとも前記上流側排気管に形成されている、としてもよい。
【0027】
上記態様に係るエンジンの排気装置では、拡管部を有する構造体としてプリサイレンサを採用し、上流側排気管に屈曲部が形成された形態を採用するが、上流側排気管の屈曲部に補強部材を取り付けているので、排気音の低減およびエンジンのトルク向上を図りながら、屈曲部の変形を抑制することで車体でのこもり音の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0028】
上記の各態様に係るエンジンの排気装置では、排気脈動を用いたエンジンのトルク向上を図りながら、排気管における屈曲部の変形を抑制することで車体におけるこもり音の発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施形態に係るエンジンの排気装置が適用された車両の構成を示す模式図である。
図2図1のA部を拡大して示す拡大図である。
図3】補強部材の一部構成を示す平面図である。
図4】補強部材の構成を示す側面図である。
図5】補強部材の構成を示す平面図である。
図6】変形例に係るエンジンの排気装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明を例示的に示すものであって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0031】
以下の説明で用いる図において、「FR」は車両前方、「RR」は車両後方、「LH」は車両左方、「RH」は車両右方をそれぞれ指す。
【0032】
1.エンジン20の排気装置10
実施形態に係るエンジン20の排気装置10について、図1を用いて説明する。
【0033】
車両1のエンジンルーム1aには、エンジン20が搭載されている。エンジン20は、複数の気筒(一例として、6つの気筒)20aを有する多気筒エンジンであって、気筒列方向が車両1の前後方向に沿う縦置きの姿勢で搭載されている。
【0034】
エンジン20の一方側の側部には吸気マニホールド32が取り付けられ、反対側の側部には排気マニホールド40が取り付けられている。吸気マニホールド32は、エンジン20の吸気装置30の一部を構成する部材である。吸気装置30は、エアクリーナと吸気マニホールド32との間を繋ぐ吸気管31を有する。
【0035】
排気装置10は、排気管11と、サイレンサ14と、テールパイプ15と、プリサイレンサ(拡管部を有する構造体)16と、補強部材17とを備える。排気管11は、排気マニホールド40とプリサイレンサ16との間を繋ぐ上流側排気管12と、プリサイレンサ16とサイレンサ14との間を繋ぐ下流側排気管13とで構成されている。
【0036】
図1のA部に示すように、上流側排気管12は、V字状に屈曲された屈曲部12aを有する。上流側排気管12の屈曲部12aは、上流側排気管12の長さを調整して、エンジン20の所望のエンジン回転域でのトルクの向上を図るために設けられている。即ち、上流側排気管12に屈曲部を設けることにより吸気マニホールド40とプリサイレンサ16とを直線的に繋ぐ場合に比べて上流側排気管12の排気管長を長くすることで、エンジン20の吸気弁と排気弁とがともに開弁した開弁オーバーラップ期間に排気脈動で生じる負圧波が排気ポートに到達するようにできる。これより、図1に示すように、屈曲部12aを設けて上流側排気管12の長さ調整を行うことで、所望のエンジン回転域で気筒20a内の残留ガスを掃気して、体積効率の上昇によりエンジン20のトルク向上を図ることができる。
【0037】
補強部材17は、上流側排気管12における屈曲部12aの変形(上流側排気管12に排気ガスが流通した場合の熱膨張に伴う変形)を抑制するために、屈曲部12aの上流側管部および下流側管部に固定されている。
【0038】
2.上流側排気管12への補強部材17の固定構造
上流側排気管12への補強部材17の固定構造について、図2を用いて説明する。
【0039】
図2に示すように、補強部材17は、金属板材を曲折加工してなる部材であって、固定部17aおよび固定部17bと、架橋部17cとを有する。固定部17aは、上流側排気管12における排気ガスの流れ方向の屈曲部12aよりも上流側の部分である上流側管部12bに溶接(溶接部WP)により固定される。固定部17bは、上流側排気管12における排気ガスの流れ方向の屈曲部12aよりも下流側の部分である下流側管部12cに溶接(溶接部WP)により固定される。架橋部17cは、固定部17aと固定部17bとの間を繋ぎ、上流側排気管12における屈曲部12aの屈曲内側を架橋するように設けられている。ここで、固定部17aが「上流側固定部」に該当し、固定部17bが「下流側固定部」に該当する。
【0040】
なお、本実施形態では、上流側排気管12における屈曲部12aの内側の屈曲内面部12dと、補強部材17の架橋部17cにおける屈曲内面部12dに対向する対向部17d(後述する側壁端部17h,17i)とが離間した状態で配されている。
【0041】
上流側排気管12に排気ガスが流通した場合には、上流側排気管12における屈曲部12aには、矢印B1,B2で示すように熱膨張により延びようとする力が作用する。このような力が作用した場合にも、補強部材17の固定により屈曲部12aが変形しようとするのを抑えることができる。
【0042】
3.補強部材17の詳細構造
補強部材17の詳細構造について、図3から図5を用いて説明する。
【0043】
図3に示すように、補強部材17は、各固定部17a,17bにおいて上流側排気管12を径方向に挟むように互いに対向する一対の側壁部17e,17fと、一対の側壁部17e,17fの端辺同士を繋ぐベース壁部17gとが一体形成されてなる。なお、図3では、固定部17bを抜き出して図示しているが、もう一方の固定部17aおよび架橋部17cについても同じ構成で形成されている。
【0044】
側壁部17eと側壁部17fとの間隔は、側壁部17eとベース壁部17gとの接続部分である内角部17hおよび側壁部17fとベース壁部17gとの接続部分である内角部17kから、側壁部17e,17fの各側壁端部(他端辺側の部分)17h,17iの方へと行くのに従って大きくなるように設定されている。即ち、内角部17j,17k同士の間隔はW1であるのに対して、側壁端部17h,17i同士の間隔はW1よりも大きいW2とされている。そして、本実施形態では、W1が上流側排気管12の管径Dよりも小さく、W2が管径Dと同じかそれよりも広く設定されている。
【0045】
また、図3に示すように、補強部材17は、上流側排気管12の外周面に対してベース壁部17gが隙間SPを空けた状態となるように上流側排気管12に対して固定部17a,17bが溶接固定されている。隙間SPは、例えば、車両1が走行する経路上で想定される小石等の異物よりも大きい寸法で設定されている。
【0046】
次に、図4に示すように、補強部材17を側面視する場合に、補強部材17における架橋部17cは、固定部17a,17b同士の間を直線状に架橋するのではなく、アーチ形状をもって架橋している。具体的に、架橋部17cの外側部17lは、長手方向の中央部P1が端部P2,P3よりも上流側排気管12の屈曲部12a(図2等を参照。)とは反対側に位置する形状を有する。P2とP3とを結ぶ仮想直線L1と、P1を通りL1に平行な仮想直線L2とを仮定する場合に、H1だけ間隔を空けてP1が矢印C1で示すように屈曲の外側に位置するよう外側部17lが形成されている。換言すると、ベース壁部17gは、長手方向の中央部(P1)が屈曲部12aの屈曲方向とは反対側に向けて張り出すように湾曲形成されている。
【0047】
同様に、架橋部17cの耐候部(内側部)17dは、長手方向の中央部P4が端部P5,P6よりも上流側排気管12の屈曲部12a(図2等を参照。)とは反対側に位置する形状を有する。P5とP6とを結ぶ仮想直線L3と、P4を通りL3に平行な仮想直線L4とを仮定する場合に、H2だけ間隔を空けてP4が矢印C2で示すように屈曲の外側に位置するよう内側部17dが形成されている。
【0048】
上述のように、補強部材17では、一対の側壁部17e,17fとの間隔が、ベース壁部17gとの接続部から側壁端部17h,17iの方へと行くのに従って広くなるように設定されている(図3を参照)。ただし、図5に示すように、側壁部17e,17fのそれぞれは、平板ではなく、長手方向の中央部P7,P10が他の部分P8,P9,P11,P12よりも側壁部17eの側壁端辺17mと側壁部17fの側壁端辺17nとの間隔が大きくなるように曲折加工されている。具体的に、側壁端辺17mにおける架橋部17cの長手方向の両端部P8,P9を結ぶ仮想直線L5と、仮想中心線LC上のP7を通り仮想直線L5に平行な仮想直線L6とを仮定する。また、側壁端辺17nにおける架橋部17cの長手方向の両端部P11,P12を結ぶ仮想直線L7と、仮想中心線LC上のP10を通り仮想直線L7に平行な仮想直線L8とを仮定する。この場合に、仮想直線L5と仮想直線L7との間隔がW3であるのに対して、仮想直線L6と仮想直線L8との間隔は、W3よりも大きいW4とされている。即ち、側壁部17e,17fは、P7,P10がP8,P9,P11,P12よりも矢印E1,E2で示すように側壁部17e,17fの対向方向外側に位置するように隆起した形状をもって形成されている。
【0049】
4.補強部材17の板厚
本実施形態では、補強部材17を構成する金属板材の板厚を、上流側排気管12を構成する管材の板厚と略同等の厚みとしている。具体的には、補強部材17を構成する金属板材の板厚を、上流側排気管12を構成する管材の板厚に対して、70%~130%の範囲の板厚、より望ましくは80%~120%の範囲の板厚、さらに望ましくは90%~110%の範囲の板厚とする。例えば、上流側排気管12を構成する管材の板厚が1.2mmである場合には、補強部材17を構成する金属板材の板厚を0.8mm~1.5mmの範囲の板厚とすることができる。
【0050】
なお、補強部材17の板厚については、上記はあくまでも一例であって、補強部材17の構成材料と上流側排気管12の構成材料との関係や、上流側排気管12に対する剛性差などを考慮して適宜に規定される。
【0051】
5.効果
本実施形態に係る排気装置10では、上流側排気管(一方排気管)12に屈曲部12aが形成されている。このため、屈曲部12aの形成により上流側排気管12の排気管長を直線的に形成する場合に比べて長くすることができ、エンジン20の吸気弁と排気弁とがともに開弁した開弁オーバーラップ期間に排気脈動で生じる負圧波が排気ポートに到達するようにできる。よって、排気装置10を適用するエンジン20では、所望のエンジン回転域で気筒20a内の残留ガスを掃気して、体積効率の上昇によりトルク向上を図ることができる。
【0052】
また、排気装置10では、上流側排気管12の屈曲部12aを屈曲の内側で架橋する架橋部17cを有する補強部材17を備えるので、排気ガスの流通による温度上昇で上流側排気管12が熱膨張(熱伸び)しても屈曲部12aが変形するのを抑えることができる。よって、排気装置10では、上流側排気管12の屈曲部12aの変形に起因する車体におけるこもり音の発生を抑制することができる。
【0053】
また、排気装置10では、一対の側壁部17e,17fとベース壁部17gとが一体形成されてなるU字断面形状の補強部材17を採用しているので、平板からなる補強部材を採用する場合に比べて断面係数を大きくとることができ、重量および製造コストの上昇を抑えながら屈曲部12aの変形を抑制するのに優位である。
【0054】
また、排気装置10では、補強部材17における側壁部17e,17f同士の間隔が、内角部17j,17kから反対側の側壁端部17h,17iへと行くのに従って漸次広くなるように補強部材17が構成されているので、側壁部同士が互いに平行に配された構成を採用する場合に比べて、補強部材17を高い寸法精度で形成しなくても、上流側排気管12に対して容易に取り付けることができる。
【0055】
また、排気装置10では、補強部材17の架橋部17cにおいて、側壁端辺17m,17n同士の間隔が端部P8,P9,P11,P12よりも広い箇所(拡幅部)P7,P10を有するように補強部材17が構成されているので、上流側排気管12の熱膨張によって上流側管部12bと下流側管部12cとの間の距離が伸びようとしても補強部材12の拡幅部P7,P10の変形によって当該伸びの一部を吸収することができ、補強部材17の固定部17a,17bと上流側排気管12の上流側管部12bおよび下流側管部12cとの固定が外れてしまうのを抑制することができる。よって、排気装置10では、排気ガスの流通により上流側排気管12が熱膨張により延びようとしても、補強部材17の固定部17a,17bと上流側排気管12の上流側管部12bおよび下流側管部12cとの固定が外れてしまうのを抑制することができる。
【0056】
また、排気装置10では、補強部材17のベース壁部17gが図4に示したように湾曲した形状をもって構成されているので、排気ガスの流通により上流側配管12が熱膨張(熱伸び)しようとしても、ベース壁部17gの変形によって当該伸びを吸収することができ、補強部材17の固定部17a,17bと上流側排気管12の上流側管部12bおよび下流側管部12cとの固定が外れてしまうのを抑制することができる。
【0057】
また、排気装置10では、補強部材17におけるそれぞれの固定部17a,17bにおいて、ベース壁部17gが上流側排気管12の外周面に対して隙間SPが空くように配設されているので、仮に補強部材17のベース壁部17gと上流側排気管12の外周面との間に小石などの異物が入り込んだ場合にも隙間SPから当該異物を排出することができる。よって、小石等の異物が補強部材17や上流側排気管12と衝突することで生じるノイズを抑えることができる。
【0058】
また、排気装置10では、金属板材を曲折加工してなる補強部材17を採用するので、重量や製造コストの上昇を抑えながら上流側排気管12の熱膨張に伴う屈曲部12aの変形を抑制するのに優位である。
【0059】
また、排気装置10では、拡管部を有する構造体の一例としてプリサイレンサ16を採用し、上流側排気管12に屈曲部12aが形成された形態を採用するが、上流側排気管12の屈曲部12aに補強部材17を取り付けているので、排気音の低減およびエンジン20のトルク向上を図りながら、屈曲部12aの変形を抑制することで車体でのこもり音の発生を抑制することができる。
【0060】
以上説明のように、本実施形態に係るエンジン20の排気装置10では、排気脈動を用いたエンジン20のトルク向上を図りながら、上流側排気管12における屈曲部12aの変形を抑制することで車体におけるこもり音の発生を抑えることができる。
【0061】
[変形例]
変形例に係るエンジンの排気装置50について、図6を用いて説明する。なお、図6では、エンジン20等の図示を省略するとともに、排気装置50における補強部材17の図示も省略している。補強部材17については、上記実施形態で採用した補強部材17と同じ部材を採用することができる。
【0062】
図6に示すように、本変形例に係る排気装置50も、排気管51と、サイレンサ54と、テールパイプ55と、プリサイレンサ(拡管部を有する構造体)56と、補強部材(図示を省略。)とを備える。排気管51は、吸気マニホールドとプリサイレンサ56との間を繋ぐ上流側排気管52と、プリサイレンサ56とサイレンサ54との間を繋ぐ下流側排気管53とで構成されている。
【0063】
本変形例に係る排気装置50が上記実施形態に係る排気装置10と相違する点は、排気管51に対するプリサイレンサ56の挿設位置と、上流側排気管52および下流側排気管53の配設形態である。
【0064】
排気装置50では、上流側排気管52には上記実施形態の上流側排気管12ほど大きな屈曲部は形成されていない。このため、排気装置50においては、上流側排気管52に補強部材17を取り付ける必要は必ずしもない。
【0065】
一方、下流側排気管53には、矢印F1~F4で指し示すように、4箇所の屈曲部53a~53dが形成されている。このため、排気装置50においては、下流側排気管53における屈曲部53a~53dの少なくとも1箇所に対して上記実施形態の補強部材17と同様の構成を有する補強部材を取り付けることとすれば、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0066】
[その他の変形例]
上記実施形態および上記変形例では、拡管部を有する構造体の一例としてプリサイレンサ16,56を採用したが、本発明では、拡管部を有する構造体の他の例として、例えば、触媒(キャタリスト)などを採用することも可能である。即ち、上流側排気管12,52と下流側排気管13,53との間に挿設され、当該介挿箇所で脈動反射が生じる構造体であればよい。
【0067】
上記実施形態および上記変形例では、屈曲部12a,53a~53dに対して取り付ける補強部材としてU字断面形状を有する補強部材17を採用することとしたが、本発明では、平板形状の補強部材やL字断面形状の補強部材などを採用することもできる。
【0068】
上記実施形態では、上流側排気管12の屈曲部12aに対して補強部材17を取り付け、上記変形例では、下流側排気管53の屈曲部53a~53dの少なくとも1箇所に対して補強部材を取り付けることとしたが、本発明では、上流側排気管および下流側排気管の両方に屈曲部がある場合において、上流側排気管および下流側排気管の両方の屈曲部に対して補強部材を取り付けることもできる。
【0069】
上記実施形態では、図3を用いて説明したように、補強部材17における一対の側壁部17e,17f同士の間隔がベース壁部17gの側から反対側の側壁端部17h,17iの側へと行くのに従って漸次拡がる構成を採用したが、本発明では、一対の側壁部が平行に配された形態を採用することもできる。
【0070】
また、上記実施形態では、図5を用いて説明したように、補強部材17の架橋部17cにおいて、側壁部17e,17fにおける長手方向の中央部に幅方向外向きに張り出した箇所P7,P10を形成することとしたが、本発明では、内向きに凹んだ凹入部を側壁部に設けたり、長手方向に向けて続く蛇腹形状を側壁部に設けたりすることも可能である。即ち、補強部材に対しては、排気管に排気ガスが流通することで当該排気管が延びようとした際に、補強部材の固定部が排気管から外れないようにするために伸びを吸収できる箇所を設けておけばよい。
【0071】
また、上記実施形態では、図4を用いて説明したように、補強部材17のベース壁部17gが上流側排気管12の屈曲部12aの屈曲方向とは反対側に向けて張り出すように湾曲した形態を採用したが、本発明では、補強部材のベース壁部が屈曲部の屈曲方向とは反対側に向けて突出するように屈曲させた部分を有する形態を採用することもできる。
【0072】
上記実施形態では、金属板材を曲折加工されてなる補強部材17を採用したが、本発明では、一部が金属以外の材料からなる補強部材を採用することもできるし、全体が金属以外の材料からなる補強部材を採用することができる。
【0073】
また、本発明では、例えばパンチングメタルのような多数の孔部を有する板材を用い形成された補強部材を採用することもできる。この場合には、孔部の大きさによっては補強部材の固定部におけるベース壁部と排気管との間に隙間を空ける必要は必ずしもない。孔部を通して小石等の異物を外部に排出することができる場合があるからである。
【0074】
上記実施形態および上記変形例では、エンジン20として縦置きの姿勢でエンジンルーム1aに搭載された6気筒エンジンを採用したが、本発明では、これに限定を受けるものではない。例えば、エンジンの気筒数については、5気筒以下や7気筒以上とすることもできる。また、エンジンルームに対して横置きの姿勢で搭載される形態を採用することもできる。
【符号の説明】
【0075】
10,50 排気装置
11,51 排気管
12,52 上流側排気管
12a,53a,53b,53c,53d 屈曲部
12b 上流側管部
12c 下流側管部
13,53 下流側排気管
14,54 サイレンサ
16,56 プリサイレンサ(拡管部を有する構造体)
17 補強部材
17a,17b 固定部
17c 架橋部
17e,17f 側壁部
17g ベース壁部
20 エンジン
図1
図2
図3
図4
図5
図6