(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151925
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】作業車両及び作業車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
F16D 48/02 20060101AFI20231005BHJP
F16D 25/0638 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
F16D48/02 640D
F16D25/0638
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061801
(22)【出願日】2022-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】内藤 慎一
【テーマコード(参考)】
3J057
【Fターム(参考)】
3J057AA03
3J057BB04
3J057GA80
3J057GB21
3J057GB22
3J057HH04
3J057JJ02
(57)【要約】
【課題】トランスミションオイルに混入した水分を簡素な構成で除去可能な作業車両及び作業車両の制御方法を提供する。
【解決手段】作業車両1は、トランスミションオイルによって潤滑される第1及び第2クラッチディスク83,84を有する低速クラッチ71と、低速クラッチ71の係合及び解放を制御するコントローラ27とを備える。コントローラ27は、トランスミションオイルへの水分混入が検出されたことを示す検出信号に応じて、第1及び第2クラッチディスク83,84を初期位置及び係合位置の間の待機位置に移動させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスミションオイルによって潤滑される複数のクラッチディスクを有するクラッチと、
前記クラッチの係合及び解放を制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、前記トランスミションオイルの昇温要求に応じて、前記複数のクラッチディスクを初期位置及び係合位置の間の待機位置に移動させる、
作業車両。
【請求項2】
前記昇温要求は、前記トランスミションオイルへの水分混入が検出されたことを示す検出信号である、
請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記昇温要求は、オペレータ操作に基づく操作信号である、
請求項1に記載の作業車両。
【請求項4】
クラッチが有する複数のクラッチディスクを潤滑するトランスミションオイルの昇温要求を受信することと、
前記複数のクラッチディスクを待機位置に移動させることと、
を備える作業車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作業車両及び作業車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、作業車両の起動時に、トランスミッションにおけるクラッチの駆動やクラッチディスクの潤滑に用いられるトランスミションオイル(作動油)を昇温させる暖気回路が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の暖気回路によってトランスミションオイルを昇温させるとトランスミションオイルに混入した水分を除去できるため、クラッチディスクが水分によって劣化してしまうことを抑制できる。
【0005】
しかしながら、トランスミションオイルを昇温するために特許文献1に記載の暖気回路を設けるとトランスミッションの構成が複雑化してしまうため好ましくない。
【0006】
本開示は、トランスミションオイルに混入した水分を簡素な構成で除去可能な作業車両及び作業車両の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る作業車両は、トランスミションオイルによって潤滑される複数のクラッチディスクを有するクラッチと、クラッチの係合及び解放を制御するコントローラとを備える。コントローラは、トランスミションオイルの昇温要求に応じて、複数のクラッチディスクを初期位置及び係合位置の間の待機位置に移動させる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、トランスミションオイルに混入した水分を簡素な構成で除去可能な作業車両及び作業車両の制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】実施形態に係るトランスミッションのスケルトン図
【
図3】実施形態に係る中速クラッチの構成を示す断面図
【
図4】実施形態に係るピストンの位置と供給油圧との関係を示すグラフ
【
図5】実施形態に係るコントローラの構成を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(作業車両1)
図1は、実施形態に係る作業車両1の側面図である。作業車両1は、ホイールローダである。
図1に示すように、作業車両1は、車体2及び作業機3を備える。
【0011】
車体2は、前車体2a及び後車体2bを含む。後車体2bは、前車体2aに対して左右に揺動可能に接続される。前車体2a及び後車体2bには、油圧シリンダ15が連結される。油圧シリンダ15が伸縮することによって、前車体2aが後車体2bに対して左右に揺動する。
【0012】
作業機3は、掘削等の作業に用いられる。作業機3は、前車体2aに取り付けられる。作業機3は、ブーム11、バケット12、及び油圧シリンダ13,14を含む。油圧シリンダ13,14が伸縮することによって、ブーム11及びバケット12が動作する。
【0013】
作業車両1は、エンジン21、トランスミッション22、及び走行装置23を備える。エンジン21は、例えばディーゼルエンジンなどの内燃機関である。トランスミッション22は、エンジン21に接続される。トランスミッション22の内部にはトランスミションオイルが封入されている。トランスミッション22の構成については後述する。
【0014】
走行装置23は、作業車両1を走行させる。走行装置23は、前輪24及び後輪25を有する。前輪24は、前車体2aに設けられる。後輪25は、後車体2bに設けられる。前輪24及び後輪25は、図示しないアクスルを介してトランスミッション22に接続される。
【0015】
作業車両1は、図示しない油圧ポンプを備える。油圧ポンプは、エンジン21に接続される。油圧ポンプは、エンジン21によって駆動され、トランスミションオイルを吐出する。油圧ポンプから吐出されたトランスミションオイルは、トランスミッション22に供給される。トランスミションオイルは、トランスミッション22が備える各クラッチ(後述する低速クラッチ71、高速クラッチ72、及び中速クラッチ73)の駆動と、各クラッチが有するクラッチディスクの潤滑との両方に利用される。
【0016】
作業車両1は、コントローラ27を備える。コントローラ27は、例えばプロセッサ及びメモリなどを有する。コントローラ27は、エンジン21及びトランスミッション22を制御する。コントローラ27の機能については後述する。
【0017】
(トランスミッション22)
図2は、トランスミッション22の構成を示すスケルトン図である。トランスミッション22は、いわゆるHMT(油圧-機械式変速装置)である。
【0018】
図2に示すように、トランスミッション22は、入力軸31、出力軸32、第1遊星歯車機構33、第2遊星歯車機構34、第3遊星歯車機構35、第1可変装置36、及び第2可変装置37を備える。
【0019】
入力軸31は、エンジン21に接続される。出力軸32は、走行装置23に接続される。第1遊星歯車機構33、第2遊星歯車機構34、及び第3遊星歯車機構35は、同軸に配置される。入力軸31及び出力軸32それぞれは、第1遊星歯車機構33、第2遊星歯車機構34、及び第3遊星歯車機構35の中心軸C1から偏心して配置される。
【0020】
第1遊星歯車機構33は、第1キャリア41、複数の第1プラネタリギア42、第1サンギア43、及び第1リングギア44を有する。入力軸31には、入力ギア45が嵌合される。第1キャリア41は、外歯式のギア46を含む。ギア46と入力ギア45が噛み合うことにより、第1キャリア41は入力軸31に接続される。第1プラネタリギア42は、第1キャリア41に連結されており、第1キャリア41とともに中心軸C1回りに回転可能である。第1サンギア43は、シャフト55に嵌合されており、シャフト55と一体的に回転可能である。第1サンギア43は、第1プラネタリギア42と噛み合う。第1リングギア44は、第1プラネタリギア42と噛み合う。
【0021】
第2遊星歯車機構34は、第2サンギア51、複数の第2プラネタリギア52、第2キャリア53、及び第2リングギア54を有する。第2サンギア51は、第1キャリア41に連結されており、第1キャリア41とともに中心軸C1回りに回転可能である。第2サンギア51は、シャフト55周りを空転可能である。第2プラネタリギア52は、第2サンギア51と噛み合う。第2キャリア53は、第2プラネタリギア52に連結されており、第2プラネタリギア52とともに中心軸C1回りに回転可能である。第2リングギア54は、第2プラネタリギア52と噛み合う。
【0022】
第2リングギア54は、第1リングギア44に接続される。第1リングギア44及び第2リングギア54は、一体的に形成されており、リング部材47を構成する。リング部材47の外周面は、外歯式のギア48を含む。ギア48は、第1可変装置36に接続される。
【0023】
第1可変装置36は、油圧式のポンプ/モータである。第1可変装置36の容量は、コントローラ27によって制御される。コントローラ27は、第1可変装置36の回転速度を制御することによって、入力軸31に対する出力軸32の速度比を無段変速させる。第1可変装置36の回転軸には、ギア49が嵌合される。ギア49は、上述のギア48と噛み合う。
【0024】
第3遊星歯車機構35は、第3キャリア61、複数の第3プラネタリギア62、第3サンギア63、及び第3リングギア64を有する。第3キャリア61は、第2キャリア53に接続されており、第2キャリア53とともに中心軸C1回りに回転可能である。第3キャリア61は、第2キャリア53と一体でも別体でもよい。第3プラネタリギア62は、第3キャリア61に連結されており、第3キャリア61とともに中心軸C1回りに回転可能である。
【0025】
第3サンギア63は、第3プラネタリギア62と噛み合う。第3サンギア63は、シャフト55周りを空転可能である。第3リングギア64は、第3プラネタリギア62と噛み合う。第3リングギア64は、回転不能である。第3リングギア64は、例えばトランスミッション22のハウジングに固定される。第3遊星歯車機構35は、第2遊星歯車機構34からの回転を増速して出力する。
【0026】
第2可変装置37は、油圧式のポンプ/モータである。第2可変装置37は、第1可変装置36と図示しない油圧回路によって接続されている。第1可変装置36がポンプとして機能してトランスミションオイルを吐出する場合、第2可変装置37はモータとして機能して第1可変装置36からのトランスミションオイルによって駆動される。第2可変装置37がポンプとして機能してトランスミションオイルを吐出する場合、第1可変装置36はモータとして機能して第2可変装置37からのトランスミションオイルによって駆動される。
【0027】
第2可変装置37の容量は、コントローラ27によって制御される。コントローラ27は、第2可変装置37の回転速度を制御することによって、速度比を無段変速させる。第2可変装置37は、第2遊星歯車機構34と同軸に配置される。
【0028】
第2可変装置37の回転軸には、シャフト55が接続される。シャフト55には、第1サンギア43が嵌合される。シャフト55は、第1サンギア43及び第2可変装置37を連結する。シャフト55は、第1乃至第3遊星歯車機構33~35と同軸に配置される。
【0029】
トランスミッション22は、低速ギア65、高速ギア66、中速ギア67、低速クラッチ71、高速クラッチ72、及び中速クラッチ73を備える。低速ギア65、高速ギア66、及び中速ギア67は、第1乃至第3遊星歯車機構33~35と同軸に配置される。低速ギア65は、シャフト55に嵌合されており、シャフト55とともに中心軸C1回りに回転可能である。低速ギア65は、低速クラッチ71を介して出力軸32に接続される。
【0030】
高速ギア66は、高速クラッチ72を介してシャフト55に接続される。高速クラッチ72が係合されると、高速ギア66はシャフト55とともに回転可能である。高速ギア66は、出力軸32に接続される。中速ギア67は、第3サンギア63に接続されており、第3サンギア63とともに中心軸C1回りに回転可能である。中速ギア67は、第3サンギア63と一体でも別体でもよい。
【0031】
低速クラッチ71、高速クラッチ72、及び中速クラッチ73それぞれは、複数のクラッチディスクを有する油圧式の湿式多板クラッチである。低速クラッチ71、高速クラッチ72、及び中速クラッチ73それぞれの係合及び解放は、コントローラ27によって制御される。
【0032】
本実施形態において、低速クラッチ71が有するクラッチディスクの枚数は、中速クラッチ73が有するクラッチディスクの枚数より多く、高速クラッチ72が有するクラッチディスクの枚数より多いものとする。ただし、各クラッチ71~73それぞれが有するクラッチディスクの枚数は適宜変更可能である。
【0033】
低速クラッチ71は、出力軸32とシャフト55との連結及び遮断を切り換える。低速クラッチ71が係合されると、低速ギア65を介して、シャフト55の回転が出力軸32に伝達される。高速クラッチ72は、出力軸32とシャフト55との連結及び遮断を切り換える。高速クラッチ72が係合されると、シャフト55の回転が出力軸32に伝達される。中速クラッチ73は、出力軸32と第3サンギア63との連結及び遮断を切り換える。中速クラッチ73が係合されると、中速ギア67を介して、第3サンギア63の回転が出力軸32に伝達される。本実施形態において、低速クラッチ71は、本開示に係る「クラッチ」の一例である。低速クラッチ71の構成及び制御については後述する。
【0034】
なお、
図2では、低速クラッチ71、高速クラッチ72、及び中速クラッチ73それぞれと出力軸32との間の構成の一部が省略されている。低速クラッチ71、高速クラッチ72、及び中速クラッチ73それぞれと出力軸32との間には、他のクラッチやギア(例えば、前進ギア、後進ギアなど)が配置されていてもよい。
【0035】
(低速クラッチ71)
図3は、低速クラッチ71の構成を示す断面図である。
図3に示すように、低速クラッチ71は、第1回転要素81、第2回転要素82、複数の第1クラッチディスク83、複数の第2クラッチディスク84、第1戻しバネ85、複数の第2戻しバネ86、及びピストン87を備える。
【0036】
第1回転要素81は、第2回転要素82と対向する。第1回転要素81は、第2回転要素82から離れている。
【0037】
第1及び第2クラッチディスク83,84は、第1及び第2回転要素81,82の間に配置される。第1及び第2クラッチディスク83,84は、所定方向において交互に配置される。第1及び第2クラッチディスク83,84は、トランスミッション22の内部に封入されたトランスミションオイルによって潤滑される。本実施形態において、第1及び第2クラッチディスク83,84は、本開示に係る「複数のクラッチディスク」の一例である。
【0038】
第1クラッチディスク83は、第1回転要素81に支持されており、第1回転要素81とともに回転する。第1クラッチディスク83は、ピストン87に押圧されることによって所定方向に移動する。第2クラッチディスク84は、第2回転要素82に支持されており、第2回転要素82とともに回転する。第2クラッチディスク84は、第1クラッチディスク83に押圧されることによって所定方向に移動する。
【0039】
第1戻しバネ85は、第1のスペーサ91及び第2のスペーサ92の間に圧縮された状態で保持される。第1戻しバネ85は、所定方向において第1回転要素81から離れる向きに第2回転要素82を付勢する。第1戻しバネ85としては、例えばコイルスプリングを用いることができる。
【0040】
第2戻しバネ86は、2枚の第1クラッチディスク83の間に配置される。第2戻しバネ86は、所定方向において2枚の第1クラッチディスク83どうしが離れるよう付勢する。第2戻しバネ86としては、例えばウェーブスプリングを用いることができる。
【0041】
ピストン87は、第1クラッチディスク83に接触している。ピストン87は、油室88に供給されるトランスミションオイルの供給油圧に応じて、所定方向に移動可能である。トランスミションオイルの供給油圧は、コントローラ27によって制御される。
【0042】
ここで、
図4は、ピストン87の位置と供給油圧との関係を示すグラフである。
【0043】
供給油圧が0以上F1以下の範囲において、ピストン87の押圧力は第2戻しバネ86の付勢力より小さい。このとき、ピストン87は「第1位置」に位置する。第1位置とは、ピストン87のストロークが“0”の位置である。各クラッチディスク83,84は、「初期位置」に維持される。初期位置とは、各クラッチディスク83,84が非係合状態に維持され、かつ、ピストン87によって押圧もされない位置である。
【0044】
供給油圧がF1超F2未満の範囲において、ピストン87は第1のスペーサ91から離れており、かつ、ピストン87の押圧力は第2戻しバネ86の付勢力より大きい。このとき、ピストン87は、供給油圧の増大に伴い、第2戻しバネ86の付勢力に抗して所定方向に移動する。供給油圧が増大しても各クラッチディスク83,84は非係合状態に維持されるが、供給油圧の増大に伴って各クラッチディスク83,84どうしの隙間は初期位置に比べて徐々に狭くなる。
【0045】
供給油圧がF2以上F3以下の範囲において、ピストン87は第1のスペーサ91に当接しており、かつ、ピストン87の押圧力は第1及び第2戻しバネ85,86の付勢力より小さい。このとき、ピストン87は、供給油圧が増大しても、第1及び第2戻しバネ85,86の付勢力によって「第2位置」に維持される。各クラッチディスク83,84は、供給油圧が増大しても、「待機位置」に維持される。待機位置とは、各クラッチディスク83,84が非係合状態に維持され、かつ、各クラッチディスク83,84どうしの隙間が初期位置より狭い位置である。「第2位置」は「待機位置」に相当する。
【0046】
供給油圧がF3超F4以下の範囲において、ピストン87の押圧力は第1及び第2戻しバネ85,86の付勢力より大きい。このとき、ピストン87は、供給油圧の増大に伴い、第1及び第2戻しバネ85,86の付勢力に抗して「第3位置」まで移動する。そして、供給油圧がF4に達したとき、各クラッチディスク83,84は係合される。このように、供給油圧がF4以上であると、各クラッチディスク83,84は「係合位置」に位置する。係合位置とは、各クラッチディスク83,84が係合状態となる範囲内の位置である。
【0047】
以上の通り、供給油圧が0以上F4未満である場合、各クラッチディスク83,84が非係合状態となって低速クラッチ71は解放され、供給油圧がF4以上である場合、各クラッチディスク83,84は係合状態となって低速クラッチ71は係合される。
【0048】
(コントローラ27)
図5は、コントローラ27の構成を示すブロック図である。コントローラ27は、水分量検出部27a及び油圧制御部27bを備える。
【0049】
水分量検出部27aは、水分量センサ80に接続される。水分量センサ80は、トランスミッション22の内部に封入されたトランスミションオイルに混入している水分量を検出する。水分量センサ80としては、既知の水分量センサ(例えば、光学式のセンサ、静電容量式のセンサ、或いはその他のセンサ)を用いることができる。水分量センサ80は、トランスミションオイルの流路に配置することができる。水分量センサ80は、検出した水分量を水分量検出部27aに送信する。
【0050】
水分量検出部27aは、水分量センサ80によって検出された水分量が所定の閾値以上であるか否かを判定する。所定の閾値は、各クラッチ71~73に劣化(例えば、摩擦材の剥離など)が生じるおそれのある程度の水分量に設定される。水分量が所定の閾値以上になった場合、水分量検出部27aは、トランスミションオイルへの水分混入が検出されたことを示す検出信号を油圧制御部27bに送信する。当該検出信号は、本開示に係る「昇温要求」の一例である。
【0051】
油圧制御部27bは、水分量検出部27aからの検出信号に応じて低速クラッチ71にトランスミションオイルを供給する。具体的には、油圧制御部27bは、低速クラッチ71に供給されるトランスミションオイルの供給油圧をF2以上F3以下の範囲内に制御することで、各クラッチディスク83,84を待機位置に移動させる。
【0052】
これによって、各クラッチディスク83,84を非係合状態に維持しながら、各クラッチディスク83,84どうしの隙間を狭くすることができる。そのため、トランスミションオイルに混入した水分が各クラッチディスク83,84の摩擦材に浸潤することを抑制しながら、各クラッチディスク83,84どうしの隙間を通過するトランスミションオイルの圧力損失(ロス)を増大させてトランスミションオイルを昇温することができる。従って、各クラッチディスク83,84の劣化を抑制しながら、トランスミションオイルに混入した水分を簡素な構成で短時間に除去することができる。
【0053】
本実施形態において、低速クラッチ71は、伝達すべきトルクとの関係から、低速クラッチ71、高速クラッチ72、及び中速クラッチ73のうちクラッチディスクの枚数が最も多いクラッチである。そのため、高速クラッチ72又は中速クラッチ73を待機位置に移動させる場合に比べて、トランスミションオイルを迅速に昇温することができる。
【0054】
なお、本実施形態に係るトランスミッション22はHMTであるためトルクコンバータを備えておらず、トランスミションオイルの温度が上がりにくい。そのため、低速クラッチ71を待機位置に移動させてトランスミションオイルを昇温することで得られる上記効果は特に有効である。
【0055】
水分量検出部27aは、検出信号を油圧制御部27bに送信した後、水分量センサ80によって検出される水分量が所定の閾値未満になったか否かを判定する。水分量が所定の閾値未満になった場合、水分量検出部27aは、トランスミションオイルの昇温を停止すべきことを示す停止信号を油圧制御部27bに送信する。
【0056】
油圧制御部27bは、水分量検出部27aから停止信号を受信すると、低速クラッチ71を初期位置に戻す。
【0057】
(実施形態の変形例)
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0058】
[変形例1]
上記実施形態においては、作業車両1はホイールローダであることとしたが、ブルドーザ、油圧ショベル、ダンプトラック、モーターグレーダなどの他の種類の作業車両であってもよい。
【0059】
[変形例2]
上記実施形態において、トランスミッション21はHMTであることとしたが、HST(静油圧式変速装置)、EMT(電気-機械式変速装置)、複数の変速ギアを含む多段式トランスミッションなどの他の種類のトランスミッションであってもよい。
【0060】
[変形例3]
上記実施形態において、油圧制御部27bは、水分量検出部27aから検出信号を受信したことに応じて低速クラッチ71を待機位置に移動させることとしたが、これに限られない。油圧制御部27bは、オペレータ操作に基づく操作信号を受信したことに応じて、低速クラッチ71を待機位置に移動させてもよい。この場合、作業車両1は、トランスミションオイルを昇温するためにオペレータが操作する操作部材(例えば、スイッチ、レバーなど)を備えており、操作部材はオペレータ操作に応じた操作信号を油圧制御部27bに送信する。当該操作信号は、本開示に係る「昇温要求」の一例である。
【0061】
[変形例4]
上記実施形態において、水分量検出部27aは、水分量センサ80によって検出される水分量が所定の閾値以上になったことをもってトランスミションオイルへの水分混入を検出することとしたが、これに限られない。水分量検出部27aは、周知の手法によって演算される水分量の推定値が所定の閾値以上になったことをもってトランスミションオイルへの水分混入を検出してもよい。
【0062】
[変形例5]
上記実施形態において、コントローラ27は、低速クラッチ71を待機位置に移動させることとしたが、これに限られない。コントローラ27は、トランスミッションが備える少なくとも1つのクラッチを待機位置に移動させればよい。例えば、コントローラ27は、高速クラッチ72及び中速クラッチ73のうちの一方と低速クラッチ71との両方を待機位置に移動させてもよいし、高速クラッチ72及び中速クラッチ73のうちの一方だけを待機位置に移動させてもよいし、各クラッチ71~73の全てを待機位置に移動させてもよい。さらに、待機位置に移動させるクラッチは、他のクラッチ(例えば、前進クラッチ、後進クラッチなど)であってもよい。
【0063】
[変形例6]
低速クラッチ71の待機位置は、各クラッチディスク83,84の初期位置及び係合位置の間の任意の位置に設定することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 作業車両
2 車体
21 エンジン
22 トランスミッション
23 走行装置
27 コントローラ
27a 水分量検出部
27b 油圧制御部
71 低速クラッチ
72 高速クラッチ
73 中速クラッチ
83 第1クラッチディスク
84 第2クラッチディスク
87 ピストン