(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151953
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】接合構造、及び自動車の骨格部品
(51)【国際特許分類】
F16B 5/04 20060101AFI20231005BHJP
F16B 5/02 20060101ALI20231005BHJP
B29C 65/60 20060101ALI20231005BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20231005BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20231005BHJP
B21J 15/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
F16B5/04 A
F16B5/02 F
F16B5/02 U
F16B5/04 C
B29C65/60
B32B15/08 101Z
B32B7/12
B21J15/00 V
B21J15/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061839
(22)【出願日】2022-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】大野 敦史
(72)【発明者】
【氏名】富士本 博紀
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼田 幸一
(72)【発明者】
【氏名】加茂 真伸
(72)【発明者】
【氏名】今村 高志
【テーマコード(参考)】
3J001
4F100
4F211
【Fターム(参考)】
3J001FA02
3J001GA01
3J001GA06
3J001GB01
3J001HA02
3J001HA07
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3J001KB01
4F100AA37C
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4F100AK01C
4F100AK01D
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4F211AD08
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4F211TC03
4F211TD11
4F211TH20
4F211TN74
(57)【要約】
【課題】接合に伴う加圧力による樹脂部材の変形が抑制された接合構造、及び自動車の骨格部品を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る接合構造は、金属部材と樹脂部材と接合部材とを有し、金属部材は金属筒状部を有し、樹脂部材は通し穴を有し、金属筒状部は樹脂部材の通し穴に挿通され、接合部材は、金属筒状部の内部に挿通される軸部と、軸部の両端に位置する一対の係止部とを有し、接合部材は、軸部が金属筒状部に挿通された状態で、一対の係止部のうち樹脂部材の側に位置する樹脂側係止部と、一対の係止部のうち金属部材の側に位置する金属側係止部とにより金属部材及び樹脂部材を接合し、軸心に沿った方向視での樹脂側係止部と重なる重複領域において、金属筒状部が挿通された樹脂部材の軸心方向の存在範囲の長さは、金属筒状部の軸心方向の存在範囲の長さ以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の金属部材と、
板状の樹脂部材と、
前記金属部材及び前記樹脂部材を重ね合わせた状態で接合する接合部材と、
を有する接合構造であって、
前記金属部材は、軸心が板厚方向に沿う姿勢の金属筒状部を有し、
前記樹脂部材は、前記金属筒状部の外径よりも大きい内径の通し穴を有し、
前記金属筒状部は、前記樹脂部材の前記通し穴に挿通され、
前記接合部材は、前記金属筒状部の内部に挿通される軸部と、前記軸部の両端に位置する一対の係止部とを有し、
前記接合部材は、前記軸部が前記金属筒状部に挿通された状態で、前記一対の係止部のうち前記樹脂部材の側に位置する樹脂側係止部と、前記一対の係止部のうち前記金属部材の側に位置する金属側係止部とにより、前記金属部材及び前記樹脂部材についての前記軸心に沿う移動を規制することで前記金属部材及び前記樹脂部材を接合し、
前記軸心に沿った方向視での前記樹脂側係止部と重なる重複領域において、前記金属筒状部が挿通された前記樹脂部材の前記軸心方向の存在範囲の長さは、前記金属筒状部の前記軸心方向の存在範囲の長さ以下である
接合構造。
【請求項2】
前記樹脂部材が、炭素繊維強化プラスチック板、又は炭素繊維強化プラスチック板を含む積層板から構成されることを特徴とする請求項1に記載の接合構造。
【請求項3】
前記樹脂部材が、前記樹脂部材の前記通し穴の縁に沿って設けられた、軸心が板厚方向に沿う姿勢の樹脂筒状部を有し、
前記軸心に沿った方向視で、前記樹脂側係止部の外縁から5mm以内の前記重複領域において、前記金属筒状部が挿通された前記樹脂部材及び前記樹脂筒状部の前記軸心方向の存在範囲の長さは、前記金属筒状部の前記軸心方向の前記存在範囲の長さ以下である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の接合構造。
【請求項4】
前記樹脂部材と、前記樹脂側係止部との間に配された中間材をさらに有することを特徴とする請求項1又は2に記載の接合構造。
【請求項5】
前記接合部材が、ナット及びボルトから構成され、
前記ボルトの頭部、および前記ナットが、前記一対の前記係止部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の接合構造。
【請求項6】
前記ナット、及び前記ボルトの前記頭部の一方が前記樹脂側係止部であり、前記ナット、及び前記ボルトの前記頭部の他方が前記金属側係止部であり、
前記樹脂側係止部と、前記樹脂部材との間に、前記樹脂側係止部よりも大径の外径を持つワッシャを備える
ことを特徴とする請求項5に記載の接合構造。
【請求項7】
前記接合部材が、前記軸部の両端に設けられた頭部及び変形部を有する熱間かしめリベットであり、
前記頭部は前記樹脂側係止部であり、前記変形部は前記金属側係止部である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の接合構造。
【請求項8】
前記樹脂部材と、前記樹脂部材の側に設けられた前記係止部との間に配された、断熱性の中間材をさらに有することを特徴とする請求項7に記載の接合構造。
【請求項9】
前記金属部材、及び前記樹脂部材の一方又は両方の枚数が2枚以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の接合構造。
【請求項10】
前記金属部材と前記樹脂部材との間に設けられた接着層をさらに有することを特徴とする請求項1又は2に記載の接合構造。
【請求項11】
前記金属部材の前記金属筒状部が、前記金属部材の両面に設けられ、
前記金属部材又は前記樹脂部材であり、且つ前記通し穴を有する板状部材が、前記金属筒状部を有する前記金属部材を挟むように配され、
2つの前記金属筒状部それぞれが、前記板状部材の前記通し穴に挿通されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の接合構造。
【請求項12】
前記板状部材が全て前記樹脂部材であることを特徴とする請求項11に記載の接合構造。
【請求項13】
前記金属部材の前記金属筒状部が、前記金属部材の片面のみに設けられ、
前記金属筒状部が設けられた前記金属部材の枚数が2枚であり、
前記金属筒状部が設けられた2枚の前記金属部材は、前記金属筒状部が設けられない面が向かい合うように配置され、これにより2つの前記金属筒状部は互いに反対方向に突出しており、
前記金属部材又は前記樹脂部材であり、且つ前記通し穴を有する2以上の板状部材が、前記金属筒状部を有する2つの前記金属部材を挟むように配され、
2つの前記金属筒状部それぞれが、前記通し穴に挿通されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の接合構造。
【請求項14】
前記板状部材が全て前記樹脂部材であることを特徴とする請求項13に記載の接合構造。
【請求項15】
請求項1又は2に記載の接合構造を有する自動車の骨格部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合構造、及び自動車の骨格部品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車は、燃費向上が求められる一方で、衝突安全規制が厳格化されている。そのため自動車の骨格部品には軽量化と衝突安全性向上が求められる。これを実現するために、自動車の骨格部品への高強度鋼板の適用が拡大している。また、自動車の更なる軽量化のために、炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics、CFRP)等の樹脂製の補強材の活用も検討されている。しかしながら、鋼部材と樹脂部材との溶接は難しい。そのため、これらの部材の接合には接着剤が使用されている。しかしながら、接着剤の接合強度は溶接と比べて低い。
【0003】
鋼部材と樹脂部材とを接合する接合継手の強度が低下すると、非常に厳しい条件における衝突などにより部材が変形した時に接合継手の破断が生じる恐れがある。従って、たとえ各部材の強度を向上させたとしても、骨格部品全体としての耐荷重が不足する恐れがある。そこで、金属部材、特に高強度鋼部材と、樹脂部材とを接合する接合継手の強度を向上させる接合方法が求められている。
【0004】
これまで本発明者らは、高強度鋼板同士をリベット接合することにより得られる継手(リベット接合継手)の十字引張強さが、スポット溶接継手のそれよりも著しく高いことを知見していた。さらに本発明者らは、リベット接合継手の引張せん断強さも、リベットを高強度化することで改善することを知見している。リベット接合とは、板状部材に通し穴を形成し、この通し穴にリベットの軸部を挿通させ、リベットの軸部の先端を室温下で塑性変形させ、そしてリベットの頭部及び塑性変形部によって鋼板をかしめる接合法である。また、リベット以外の接合部材、例えばボルト及びナットによっても同じ効果が得られる。
【0005】
しかしながら、金属部材と樹脂部材との接合にリベットのような機械的接合を適用する際、接合部材の加圧力によって、樹脂が変形するという課題がある。
【0006】
金属部材と樹脂部材とを接合する接合構造の従来例として、電池が備える接合構造が特許文献1に開示されている。特許文献1には、電極を含む電極組立体と、前記電極組立体を格納し、端子引出孔を有するケースと、台座部および該台座部から突設したリベット部を有し、該リベット部が前記ケースの端子引出孔を貫通するように設けられた電極端子と、前記ケースと前記電極端子との間に設けられ、前記ケースと前記電極端子との隙間をシールするシール部材であって、前記リベット部の外周に装着される筒部および該筒部の一端から外径方向に平板状に延びた平板部を有し、該平板部は前記ケースの外側または内側のうち、前記電極端子の台座部が配置されている側に設けられているシール部材と、前記ケース内部の前記電極を前記電極端子と電気的に接続させる接続板であって、前記リベット部の外周に装着される接続板と、を備え、前記ケースは、前記端子引出孔の縁部に、縁を立てた形状を有する縁立て部を備えている、電池が開示されている。
【0007】
金属部材と樹脂部材とを接合する接合構造ではないものの、金属部材同士を接合するリベット接合構造が特許文献2に開示されている。特許文献2には、薄板及びその被結合物に形成した結合穴に結合軸体を挿通し、結合軸体とそれと一体又は別体の固定部にて薄板と被結合物を緊締して薄板を被結合物に結合する薄板の結合構造であって、薄板に形成した結合穴の周囲に円筒鍔を連続して突設し、結合軸体又は固定部に円筒鍔の外周に嵌合する袋状部を設けたことを特徴とする薄板の結合構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-26884号公報
【特許文献2】特開2001-12421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の技術は、リベットを用いて、金属製のケースとフッ素ゴム等の樹脂製のシール部材とを接合する技術であり、シール性を向上させることを課題としている。一方、特許文献1では、接合構造の強度について何ら検討されていない。また、リベットがシール部材に及ぼす機械的影響を緩和する手段についても、特許文献1には開示されていない。
【0010】
特許文献2の技術は、結合ピンを用いて、薄板から成る部材を高い強度と剛性をもって結合できる薄板の結合構造を提供することを課題としている。特許文献2で開示されている接合技術において薄板に接合される部材は金属部材であり、樹脂を薄鋼板に接合する場合については触れられておらず、特許文献2においても、接合構造が樹脂部材に及ぼす機械的影響を緩和する手段について開示されていない。
【0011】
以上の事情に鑑みて、本発明は、樹脂部材及び金属部材を接合する接合構造であって、接合に伴う加圧力による樹脂部材の変形を抑制できる接合構造、及び自動車の骨格部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0013】
(1)本発明の一態様に係る接合構造は、板状の金属部材と、板状の樹脂部材と、前記金属部材及び前記樹脂部材を重ね合わせた状態で接合する接合部材と、を有する接合構造であって、前記金属部材は、軸心が板厚方向に沿う姿勢の金属筒状部を有し、前記樹脂部材は、前記金属筒状部の外径よりも大きい内径の通し穴を有し、前記金属筒状部は、前記樹脂部材の前記通し穴に挿通され、前記接合部材は、前記金属筒状部の内部に挿通される軸部と、前記軸部の両端に位置する一対の係止部とを有し、前記接合部材は、前記軸部が前記金属筒状部に挿通された状態で、前記一対の係止部のうち前記樹脂部材の側に位置する樹脂側係止部と、前記一対の係止部のうち前記金属部材の側に位置する金属側係止部とにより、前記金属部材及び前記樹脂部材についての前記軸心に沿う移動を規制することで前記金属部材及び前記樹脂部材を接合し、前記軸心に沿った方向視での前記樹脂側係止部と重なる重複領域において、前記金属筒状部が挿通された前記樹脂部材の前記軸心方向の存在範囲の長さは、前記金属筒状部の前記軸心方向の存在範囲の長さ以下である。
(2)上記(1)に記載の接合構造では、前記樹脂部材が、炭素繊維強化プラスチック板、又は炭素繊維強化プラスチック板を含む積層板から構成されてもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載の接合構造では、前記樹脂部材が、前記樹脂部材の前記通し穴の縁に沿って設けられた、軸心が板厚方向に沿う姿勢の樹脂筒状部を有し、前記軸心に沿った方向視で、前記樹脂側係止部の外縁から5mm以内の前記重複領域において、前記金属筒状部が挿通された前記樹脂部材及び前記樹脂筒状部の前記軸心方向の存在範囲の長さは、前記金属筒状部の前記軸心方向の前記存在範囲の長さ以下であってもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の接合構造は、前記樹脂部材と、前記樹脂側係止部との間に配された中間材をさらに有してもよい。
(5)上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の接合構造では、前記接合部材が、ナット及びボルトから構成され、前記ボルトの頭部、および前記ナットが、前記一対の前記係止部であってもよい。
(6)上記(5)に記載の接合構造では、前記ナット、及び前記ボルトの前記頭部の一方が前記樹脂側係止部であり、前記ナット、及び前記ボルトの前記頭部の他方が前記金属側係止部であり、前記樹脂側係止部と、前記樹脂部材との間に、前記樹脂側係止部よりも大径の外径を持つワッシャを備えてもよい。
(7)上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の接合構造では、前記接合部材が、前記軸部の両端に設けられた頭部及び変形部を有する熱間かしめリベットであり、前記頭部は前記樹脂側係止部であり、前記変形部は前記金属側係止部であってもよい。
(8)上記(7)に記載の接合構造では、前記樹脂部材と、前記樹脂部材の側に設けられた前記係止部との間に配された、断熱性の中間材をさらに有してもよい。
(9)上記(1)~(8)のいずれか一項に記載の接合構造では、前記金属部材、及び前記樹脂部材の一方又は両方の枚数が2枚以上であってもよい。
(10)上記(1)~(9)のいずれか一項に記載の接合構造は、前記金属部材と前記樹脂部材との間に設けられた接着層をさらに有してもよい。
(11)上記(1)~(10)のいずれか一項に記載の接合構造では、前記金属部材の前記金属筒状部が、前記金属部材の両面に設けられ、前記金属部材又は前記樹脂部材であり、且つ前記通し穴を有する板状部材が、前記金属筒状部を有する前記金属部材を挟むように配され、2つの前記金属筒状部それぞれが、前記板状部材の前記通し穴に挿通されていてもよい。
(12)上記(11)に記載の接合構造では、前記板状部材が全て前記樹脂部材であってもよい。
(13)上記(1)~(10)のいずれか一項に記載の接合構造では、前記金属部材の前記金属筒状部が、前記金属部材の片面のみに設けられ、前記金属筒状部が設けられた前記金属部材の枚数が2枚であり、前記金属筒状部が設けられた2枚の前記金属部材は、前記金属筒状部が設けられない面が向かい合うように配置され、これにより2つの前記金属筒状部は互いに反対方向に突出しており、前記金属部材又は前記樹脂部材であり、且つ前記通し穴を有する2以上の板状部材が、前記金属筒状部を有する2つの前記金属部材を挟むように配され、2つの前記金属筒状部それぞれが、前記通し穴に挿通されていてもよい。
(14)上記(13)に記載の接合構造では、前記板状部材が全て前記樹脂部材であってもよい。
【0014】
(15)本発明の別の態様に係る自動車の骨格部品は、上記(1)~(14)のいずれか一項に記載の接合構造を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、樹脂部材及び金属部材を接合する接合構造であって、接合に伴う加圧力による樹脂部材の変形を抑制できる接合構造、及び自動車の骨格部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施態様に係る接合構造の一例の断面模式図である。
【
図2】樹脂部材が変形回避領域及び肉厚領域を有する接合構造の一例の断面図である。
【
図3】樹脂筒状部を有する接合構造の一例の断面模式図である。
【
図4】中間材を有する接合構造の一例の断面模式図である。
【
図5A】ボルト、ナット、及びワッシャを有する接合構造の一例の断面模式図である。
【
図5B】ボルト、ナット、及びワッシャを有する接合構造の別の例の断面模式図である。
【
図6】リベットを有する接合構造の一例の断面模式図である。
【
図7】リベット及び断熱性の中間材を有する接合構造の一例の断面模式図である。
【
図8A】樹脂部材が2枚の接合構造の一例の断面模式図である。
【
図8B】金属部材が2枚の接合構造の一例の断面模式図である。
【
図8C】金属部材が2枚の接合構造の別の例の断面模式図である。
【
図8D】金属部材が2枚の接合構造の別の例の断面模式図である。
【
図8E】金属筒状部が両面に設けられた金属部材を有する接合構造の例の断面模式図である。
【
図8F】2つの金属筒状部が互いに反対方向に突出するように配された2枚の金属部材を有する接合構造の例の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一態様に係る接合構造1は、
図1に示されるように、板状の金属部材11と、板状の樹脂部材12と、金属部材11及び樹脂部材12を重ね合わせた状態で接合する接合部材13と、を有する接合構造1であって、金属部材11は、軸心Xが板厚方向に沿う姿勢の金属筒状部111を有し、樹脂部材12は、金属筒状部111の外径よりも大きい内径の通し穴121を有し、金属筒状部111は、樹脂部材12の通し穴121に挿通され、接合部材13は、金属筒状部111の内部に挿通される軸部13Aと、軸部13Aの両端に位置する一対の係止部と、を有し、接合部材13は、軸部13Aが金属筒状部111に挿通された状態で、一対の係止部のうち樹脂部材12側に位置する樹脂側係止部13Bと、一対の係止部のうち金属部材11側に位置する金属側係止部13Cとにより、金属部材11及び樹脂部材12についての軸心Xに沿う移動を規制することで金属部材11及び樹脂部材12を接合し、軸心Xに沿った方向視での樹脂側係止部13Bと重なる重複領域において金属筒状部111が挿通された樹脂部材12の軸心X方向の存在範囲R1の長さは、金属筒状部111の軸心X方向の存在範囲R2の長さ以下である。以下、本実施形態に係る接合構造1の詳細について説明する。
【0018】
(金属部材11)
接合構造1は、板状の金属部材11を有する。金属部材11は、接合構造1における母材、即ち、接合対象となる部材である。金属部材11は、金属製であり、金属筒状部111が設けられている。金属筒状部111は、その軸心Xが金属部材11の板厚方向に沿う姿勢で形成されている。最も好ましくは、金属筒状部の軸心Xは、金属部材11の板厚方向に平行とされる。しかし、金属筒状部の軸心Xと金属部材11の板厚方向とが、若干の角度をなしていてもよい。
【0019】
金属筒状部111の内部には、接合部材13の軸部13Aが挿通されている。また、この金属筒状部111は、樹脂部材12の通し穴121に挿通されている。以下、単に「軸心X」と記載した場合は、金属筒状部111の軸心を意味する。
【0020】
(樹脂部材12)
接合構造1は、金属部材11と重ね合わせられた板状の樹脂部材12をさらに有する。樹脂部材12は、接合構造1における母材、即ち、接合対象となる部材である。樹脂部材12は、樹脂製であり、且つ通し穴121を有するものとされる。通し穴121には、金属筒状部111が挿通される。そのため、通し穴121の内径は、金属筒状部111の外径よりも大きい。
【0021】
(接合部材13)
接合構造1は、金属部材11及び樹脂部材12を重ね合わせた状態で接合する接合部材13をさらに有する。接合部材13は、軸部13Aと、軸部13Aの両端に位置する一対の係止部とを有する。接合部材13とは、例えばリベット133、又は、ボルト131及びナット132等である。なお、金属筒状部111の軸心Xは、接合部材13の軸心と実質的に一致することが通常である。
【0022】
軸部13Aは、金属筒状部111の内部に挿通されている。上述の通り、金属筒状部111は樹脂部材12の通し穴121に挿通されているので、接合部材13の軸部13Aは、金属部材11及び樹脂部材12の両方を貫通している。
【0023】
一対の係止部は、軸部13Aの両端に位置する。これら係止部のうち、金属部材11の側に設けられたものを金属側係止部13Cと称し、樹脂部材12の側に設けられたものを樹脂側係止部13Bと称する。金属側係止部13C及び樹脂側係止部13Bは、金属部材11及び樹脂部材12が、金属筒状部111の軸心Xに沿って移動することを規制する。金属部材11及び樹脂部材12の軸心Xに沿った移動を規制するために、例えば金属側係止部13Cの外径を金属筒状部111の内径よりも大きくし、且つ、樹脂側係止部13Bの外径を樹脂部材12の通し穴121の内径よりも大きくすることができる。これにより、金属部材11及び樹脂部材12から接合部材13が脱落することが防止され、金属部材11及び樹脂部材12が接合される。
【0024】
なお、金属部材11及び樹脂部材12の軸心Xに沿った移動は、一定範囲内に規制されていれば足りる。換言すると、樹脂部材12は、軸心Xに沿って若干移動可能とされていてもよい。一方、後述する中間材14、及び樹脂筒状部122等を用いて、樹脂部材12が軸心Xに沿って移動することを防いでもよい。
【0025】
(樹脂部材12の存在範囲R1、及び金属筒状部111の存在範囲R2の関係)
軸心に沿った方向視での樹脂側係止部13Bと重なる重複領域において、金属筒状部111が挿通された樹脂部材12の軸心方向の存在範囲R1の長さは、金属筒状部111の軸心方向の存在範囲R2の長さ以下である。ここで、樹脂部材の12の軸心方向の存在範囲R1の長さとは、樹脂部材12のうち樹脂側係止部と金属部材との間に挟まれた部分の厚さの最大値である。なお、樹脂部材の厚さとは、金属筒状部111の軸心方向に沿って測定される厚さである。また、金属筒状部111の存在範囲R2の長さとは、金属筒状部111が設けられた側の金属部材の表面を基準とした、金属筒状部111の高さのことである。なお、金属筒状部111の高さは、金属筒状部111の軸心方向に沿って測定される高さである。
【0026】
樹脂部材12の存在範囲R1、及び金属筒状部111の存在範囲R2を上述の範囲内とすることにより、金属筒状部111は、樹脂部材12と樹脂側係止部13Bとの間に設けられたスペーサとしての役割を果たす。その結果、樹脂側係止部13Bによって樹脂部材12が加圧変形する事態が回避されている。
【0027】
金属部材11と樹脂部材12とを機械的に接合するにあたり、接合部材13が樹脂部材12を変形させることが問題となる。例えば自動車の骨格部品など、高い接合強度が求められる部品においては、接合部材13を強固な材質とする必要がある。しかし、このような強固な材料から構成される接合部材13を用いて金属部材11及び樹脂部材12を接合する場合、例えば
図9に示されるように、樹脂側係止部13Bが樹脂部材12の内部に食い込み、樹脂部材12が加圧変形する。接合部材13がリベット133である場合は、リベット133の先端を変形させて部材をかしめる際に、樹脂部材12が変形する。接合部材13がボルト131及びナット132である場合は、ボルト131締め付けの際に、樹脂部材12が変形する。これにより、接合部における樹脂部材12の強度が劣化し、接合構造1の接合強度が損なわれる。
【0028】
一方、
図1に示されるように、樹脂部材12の軸心X方向の存在範囲R1の長さが、金属筒状部111の軸心X方向の存在範囲R2の長さ以下である場合、樹脂側係止部13Bが樹脂部材12を変形させることがない。これにより、高い接合強度を有する接合部材13が得られる。
【0029】
もっとも、接合構造1の全体にわたって樹脂部材12の軸心X方向の存在範囲R1が上述のようにされる必要はない。例えば
図2に示されるように、樹脂側係止部の外縁から離れた領域において、樹脂部材12の板厚を増大させ、これにより接合構造1の強度を向上させてもよい。換言すると、軸心方向視で樹脂側係止部13Bと重なる領域よりも外側に当該重なる領域の板厚よりも大きい板厚となる肉厚領域124が存在する場合は、当該重なる領域と肉厚領域124との間に、当該重なる領域の板厚と同じ板厚の変形回避領域123が形成されていることが好ましい。
【0030】
また、金属筒状部111は、接合部材13の軸部13Aと樹脂部材12の通し穴121の内面との接触を妨げる働きも有する。これにより、樹脂部材12の通し穴121の内面が損傷することを防止することができる。例えば接合部材13がボルト及びナットから構成される場合、金属筒状部111は、ボルトのねじ山による樹脂部材12の通し穴121の内面損傷を防止することができる。
【0031】
なお、金属筒状部111が樹脂部材12と樹脂側係止部13Bとの間に設けられたスペーサとしての役割を果たすので、後述する中間材14などが配されていなければ、樹脂部材12は、軸心Xに沿って若干移動可能となる場合がある。
【0032】
(樹脂部材12の材質及び形状)
樹脂部材12の材質は特に限定されないが、接合構造1を自動車の骨格部品とする場合は、樹脂部材12を例えば炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics、CFRP)板、又は炭素繊維強化プラスチック板を含む積層板から構成されるものとすることが好適である。CFRP板、及びCFRP積層板は非常に高強度であるので、接合構造1の強度を一層高めることができる。なお、CFRPは表面損傷が生じやすい材質であるが、本実施形態に係る接合構造1では、CFRPに対して樹脂側係止部13Bから応力が加わりにくい。そのため、CFRPの表面損傷が、本実施形態に係る接合構造1では抑制される。
【0033】
また、樹脂部材12の板厚は一様でなくてもよい。例えば
図2に示されるように、接合部材によって接合される領域においては、樹脂部材の板厚を小さくし、それ以外の領域においては、樹脂部材の板厚を大きくすることもできる。
【0034】
(樹脂筒状部122)
図3に示されるように、樹脂部材12が樹脂筒状部122を有してもよい。樹脂筒状部122とは、樹脂部材12の通し穴121の縁に沿って設けられた、軸心が板厚方向に沿う姿勢を有する部位である。樹脂部材12を用いることにより、樹脂部材12の軸心Xに沿った移動を規制することができる。これにより、接合構造1の耐振動性などを一層向上させることができる。ただし、樹脂筒状部122の先端が樹脂側係止部13Bと接する場合、樹脂部材12に変形が生じうる。従って、樹脂筒状部122を設ける場合には、樹脂筒状部122の軸心X方向の存在範囲R3の長さが、金属筒状部111の軸心X方向の存在範囲R2の長さ以下であることが好ましい。ここで樹脂筒状部122の軸心X方向の存在範囲R3の長さとは、樹脂筒状部122が設けられた側の樹脂部材12の表面を基準とした、樹脂筒状部122の高さのことである。なお、樹脂筒状部122の高さは、金属筒状部111の軸心方向に沿って測定される高さである。
【0035】
(中間材14)
図4に示されるように、接合構造1が、樹脂部材12と樹脂側係止部13Bとの間に配された中間材14をさらに有してもよい。ここで「中間材14」とは、接合構造1に含まれるが、接合構造1による接合対象ではない部材、即ち母材以外の部材を意味する。例えば複数の板状部材をボルト、ナット、及びワッシャを用いて接合する場合、板状部材が母材に該当し、ワッシャが中間材に該当する。中間材14は、樹脂部材12が軸心Xに沿って移動することを防ぐ。これにより、接合構造1の耐振動性などを一層向上させることができる。中間材14の材質などの構成は、接合部材13の構成等に応じて適宜選択することができる。また、上述の樹脂筒状部122とは異なり、中間材14は樹脂部材12とは別の部材であるので、中間材14は樹脂側係止部13Bと離隔されていなくともよい。中間材14が変形したとしても、接合構造1の強度には影響しないからである。中間材14の具体的構成の例は、後述する接合部材13の具体的構成の例とともに述べる。
【0036】
(ナット132及びボルト131)
接合部材13の一例は、ナット132及びボルト131である。ボルト131の軸部(以下「ボルト軸部131A」と称する)が接合部材13の軸部13Aとなり、ボルト131の頭部(以下「ボルト頭部131B」と称する)及びナット132が、接合部材13の一対の係止部となる。ナット132は、樹脂側係止部13Bとされてもよいし、金属側係止部13Cとされてもよい。同様に、ボルト頭部131Bは樹脂側係止部13Bとされてもよいし、金属側係止部13Cとされてもよい。
【0037】
接合部材13がナット132及びボルト131である場合、接合構造1がさらにワッシャ15を備えてもよい。ワッシャ15は、
図5A及び
図5Bに例示されるように、樹脂側係止部13Bと樹脂部材12との間に配置されることが好ましい。ワッシャは、樹脂側係止部よりも大径の外径を持つことが好ましい。これにより、樹脂側係止部13Bによる樹脂部材12の変形を、一層確実に防止することができる。また、ワッシャ15は、樹脂部材12が軸心Xに沿って移動することを防ぐ中間材14としても働く。なお、
図5Aに示されるように、ワッシャ15の通し穴の内径を金属筒状部111の外径より大きくして、これにより金属筒状部111をワッシャ15の通し穴121に挿通させてもよい。一方、
図5Bに示されるように、ワッシャ15の通し穴の内径を金属筒状部111の外径より小さく、且つ、ボルト軸部131Aの外径よりも大きくして、これにより金属筒状部111と樹脂側係止部13Bとの間にワッシャ15を配置してもよい。
【0038】
(リベット133)
接合部材13の別の例は、リベット133である。一般的なリベットは、頭部及び軸部を有し、部材の通し穴に軸部を挿入してから軸部の先端を塑性変形させることによって、部材を接合する部品である。この塑性変形加工は、リベッティングと呼ばれる。本実施形態に係る接合構造1においても、リベット133は軸部と、軸部の両端に設けられた頭部及び変形部を有する。以下、リベット133の頭部、軸部、及び変形部を、リベット頭部133B、リベット軸部133A、及びリベット変形部133Cと称する。
【0039】
本実施形態に係る接合構造1においては、
図6に示される通り、リベット頭部133Bが樹脂側係止部13Bとされ、リベット変形部133Cが金属側係止部13Cとされることが好ましい。リベッティングを樹脂部材12の側で行った場合、リベット変形部133Cから樹脂部材12に熱が伝わり、樹脂部材12が熱によって変質する場合がある。一方、リベット頭部133Bは、リベッティングの際にリベット変形部133Cよりも加熱されにくい。従って、リベット頭部133Bを樹脂側係止部13Bとすることにより、樹脂部材12の加圧変形の防止効果に加えて、熱変形の防止効果も得ることができる。
【0040】
リベット133は、冷間かしめリベットであってもよいし、熱間かしめリベットであってもよい。冷間かしめリベットとは、常温でリベッティングされたリベット133であり、熱間かしめリベットとは、加熱され軟化された状態でリベッティングされたリベット133である。熱間かしめリベットは、溶融凝固部や熱影響部などの、熱間加工をされた痕跡を有している。一方、冷間かしめリベットは、溶融凝固部や熱影響部を有しない。従って、熱間加工をされた痕跡の有無に基づいて、リベットが冷間かしめリベット及び熱間かしめリベットのいずれであるかを判別することができる。
【0041】
冷間かしめリベットは、リベッティングのための設備が簡素である点、及び、樹脂部材12の熱変形を抑制できる点で優れている。一方、冷間かしめリベットには、高強度の材質が適用できない。リベットの材質の強度が高いほど、冷間で塑性変形を生じさせることが困難になるからである。従って、求められる接合強度が低い箇所の接合に、冷間リベットは適する。
【0042】
熱間かしめリベットは、高強度の材質を適用可能である点で優れている。例えばリベットが鋼製である場合、引張強さが360MPa以上のリベットは熱間かしめすることが望ましい。また、ビッカース硬さが130HV以上のリベットは熱間かしめすることが好ましい。なお、リベットの熱間かしめは、スポット溶接用の設備を用いて実施可能である。リベット頭部及びリベット軸部の先端を、スポット溶接用の電極で挟み、加圧しながら通電することにより、リベット133の通電加熱及びリベッティングを短時間で行うことができる。ただし、熱間かしめの際には、樹脂部材12が熱変形するリスクがある。
【0043】
樹脂部材12の熱変形を防止する手段の一つは、上述した通り、リベット頭部133Bを樹脂側係止部13Bとして用いることである。リベット頭部133B、特にリベット頭部133Bの外周部は、通電加熱の際に温度が上がりにくい。この理由は、通電加熱の際の電流経路は主にリベット軸部133Aに沿って形成されるからであると推定される。この場合、主な電流経路の外部に位置するリベット頭部133Bの外周部では、電流密度が低く、入熱量が低い。そのため、リベット頭部133Bを樹脂側係止部13Bとすることにより、樹脂部材12への入熱を妨げることができる。
【0044】
樹脂部材12の熱変形を防止する別の手段は、
図7に示されるように、樹脂側係止部13Bであるリベット頭部133Bと樹脂部材12との間に断熱性の中間材14を配することである。この場合、中間材14は、樹脂部材12への入熱を妨げて樹脂部材12の熱変形を防ぐ効果と、樹脂部材12が軸心Xに沿って移動することを防ぐ効果との両方を発揮する。
【0045】
(部材の枚数)
樹脂部材12、及び金属部材11の枚数は特に限定されない。
図1の例では、樹脂部材12及び金属部材11の枚数が1枚である。一方、樹脂部材12及び金属部材11の一方又は両方の枚数が2枚以上であってもよい。例えば、樹脂部材12を板組の最表面に配する場合に、本実施形態に係る接合構造1の作用効果の恩恵を一層強く受けることができる。
【0046】
図8Aの例では、樹脂部材12が2枚であり、金属部材11が1枚である。この場合、樹脂部材12の存在範囲R1の存在範囲とは、金属筒状部111が挿通されている樹脂部材12すべての存在範囲とみなされる。金属筒状部111は、両方の樹脂部材12の通し穴121に挿通されている。さらに、軸心に沿った方向視で、軸心Xに沿った方向視での樹脂側係止部13Bと重なる重複領域において、金属筒状部が挿通された2枚の樹脂部材の軸心方向の存在範囲R1の長さは、金属筒状部の軸心方向の存在範囲R2の長さ以下である。樹脂部材12が2枚以上であっても、樹脂部材12の変形を防止する効果が得られる。
【0047】
図8B、
図8C、及び
図8Dの例では、樹脂部材12が1枚であり、金属部材11が2枚である。
図8Bの例では、金属筒状部111は、2枚の金属部材11のうち、樹脂部材12に接するものにのみ設けられている。
図8Cの例では、金属筒状部111は、2枚の金属部材11のうち、樹脂部材12に接しないものにのみ設けられている。金属筒状部111が設けられない金属部材11には、通し穴121が設けられている。
図8Dの例では、金属筒状部111は両方の金属部材11に設けられている。いずれの構成においても、軸心Xに沿った方向視での樹脂側係止部13Bと重なる重複領域において、金属筒状部が挿通された樹脂部材の軸心方向の存在範囲R1の長さは、金属筒状部の軸心方向の存在範囲R2の長さ以下である。これにより、樹脂部材12の変形を防止する効果が得られる。一層好ましくは、
図8Cの例では、軸心に沿った方向視での樹脂側係止部と重なる重複領域において、金属筒状部が挿通された樹脂部材及び金属部材の軸心方向の存在範囲の合計長さは、金属筒状部の軸心方向の存在範囲の長さ以下である。
【0048】
なお、金属筒状部111が複数ある場合、金属筒状部の存在範囲R2とは、全ての金属筒状部111の存在範囲とみなされる。もし、複数の金属筒状部のうち1つが、他のものよりも突出して設けられている場合、突出した金属筒状部の先端が、金属筒状部の存在範囲R2の端部となる。
【0049】
なお、金属部材11の枚数が2枚以上である場合、金属部材11に対してスポット溶接等で仮接合を行ってから、金属部材11と樹脂部材12とを接合部材13を用いて接合することもできる。この場合、接合構造1は、金属部材11を接合する溶接部をさらに有する。
【0050】
図1等に例示される接合構造では、金属筒状部111は金属部材11の片側のみに設けられている。しかし、金属筒状部111を金属部材11の両面に設けてもよい。この場合、
図8Eに示されるように、金属筒状部111を有する金属部材11が、板状部材によって挟まれていてもよい。板状部材とは、上述の金属筒状部111を有する金属部材11以外の、樹脂部材12又は金属部材11の総称である。板状部材には、上述したように通し穴が設けられていればよい。そして、金属部材11の両面に設けられた2つの金属筒状部111それぞれを、板状部材の通し穴121に挿入する。これにより、板組の両方の表面に板状部材を配置し、且つ、これらの変形を防止することができる。この場合、接合部材13はボルト131及びナット132から構成されるものとすることが好ましい。一層好ましくは、全ての板状部材が樹脂部材12とされ、これにより、金属筒状部111を有する金属部材11は、2枚以上の樹脂部材12によって挟まれる。しかしながら、金属筒状部111を有する金属部材11が、樹脂部材12と金属部材11によって挟まれていてもよい。なお、接合構造1の両面に樹脂部材12が配されている場合は、接合部材13の一対の係止部の両方を樹脂側係止部13Bとみなす。
【0051】
金属筒状部が金属部材の片面のみに設けられる場合でも、金属筒状部が設けられた金属部材の枚数を2枚とすることにより、
図8Eに示される構成と同様の構成を達成することができる。この場合、
図8Fに示されるように、2枚の金属部材は、金属筒状部が設けられない面が向かい合うように配置される。これにより、金属筒状部は、互いに反対方向に突出する。そして、板状部材によって、金属筒状部を有する上述の2枚の金属部材を挟めばよい。この際、金属部材11の両面に設けられた2つの金属筒状部111それぞれを、板状部材の通し穴121に挿入すればよい。これにより、
図8Eに例示された構成と同様に、板組の両方の表面に板状部材を配置し、且つ、これらの変形を防止することができる。一層好ましくは、全ての板状部材が樹脂部材12とされ、これにより、金属筒状部111を有する金属部材11は、2枚以上の樹脂部材12によって挟まれる。しかしながら、金属筒状部111を有する金属部材11が、樹脂部材12と金属部材11によって挟まれていてもよい。なお、接合構造1の両面に樹脂部材12が配されている場合は、接合部材13の一対の係止部の両方を樹脂側係止部13Bとみなす。
【0052】
(接着層)
接合構造1に、上述した接合部材13以外の接合手段をさらに設けてもよい。例えば、接合構造1に、金属部材11と樹脂部材12との間に設けられた接着層をさらに設けてもよい。これにより、接合構造1の接合強度を一層高めることができる。
【0053】
(その他の構成)
本実施形態に係る接合構造1には、上述されたもの以外に、様々な好ましい構成を適用することができる。以下に、その他の好ましい構成について例示的に説明する。
【0054】
接合構造1に含まれる接合部材13の個数は限定されない。
図1等に例示される接合構造1では、接合部材13の数は1つだけであるが、接合構造1が2以上の接合部材13を有していてもよい。この場合、全ての接合部材13に対して金属筒状部111を設ける必要はない。例えば、高い接合強度が求められる箇所においては、金属部材11に金属筒状部111を設けて樹脂部材12の変形を抑制し、その他の箇所においては金属部材11に金属筒状部111を設けない、という構成を採用することもできる。従って、上述した構成を少なくとも1つの接合部材13に関して有する接合構造1は、本実施形態に係る接合構造1とみなされる。
【0055】
(金属部材11の材質)
金属部材11の材質は特に限定されない。例えば、金属部材11を鋼板、特に高強度鋼板(例えば引張強さTSが約590MPa以上の鋼板)とした場合、接合構造1の強度を向上させることができて好ましい。金属部材11は、より好適には引張強さが1180MPa以上、さらに最適には1500MPa以上の鋼板とされる。金属部材11の引張強さの上限は特に限定されないが、例えば2700MPa以下としてもよい。一方、金属部材11を軟鋼としてもよい。また、金属部材11をアルミ板、又はチタン板などとしてもよい。金属部材11に種々の表面処理がなされていてもよい。例えば、金属部材11がGAめっき、GIめっき、EGめっき、Zn-Mgめっき、Zn-Alめっき、Zn-Niめっき、Zn-Al-Mgめっき、Alめっき、塗装、並びにホットスタンプによって母材金属と合金化されたZn系めっき(Zn-Fe、Zn-Ni-Fe)及びAl系めっき(Al-Fe-Si)等を有してもよい。溶接に適しない材質や表面処理層であっても、本実施形態に係る接合構造1の金属部材11には、容易に適用することができる。
【0056】
金属部材11、及び樹脂部材12の厚さは特に限定されない。以下、金属部材11、及び樹脂部材12をまとめて「部材」と称する。部材の厚さは例えば0.5mm~3.6mmとしてもよい。複数の部材の厚さを異ならせてもよい。好適な組み合わせとして例えば、板厚が約1.6mmの部材と約2.3mmの部材との2枚重ね、又は板厚が0.75mmの部材と、1.8mmの部材と、1.2mmの部材との3枚重ねが挙げられる。部材の好適な組み合わせの範囲として例えば、板厚が約0.4mm~2.9mmの部材と0.4mm~5.0mmの部材との2枚重ね、又は板厚が0.4mm~1.6mmの部材と、0.4mm~5.0mmの部材と、0.4mm~2.9mmの部材との3枚重ねが挙げられる。
【0057】
樹脂部材の通し穴の形状は、例えば円形等とすることができる。一方、通し穴の形状が4角形、5角形、6角形、8角形など多角形であってもよい。これらの多角形の角部に曲率を持たせても良い。また、通し穴の形状が楕円、又は、円の一部に凸部あるいは凹部がある形状であっても良い。この場合、金属筒状部の外周面の断面形状を、樹脂部材の通し穴に適合させることが好ましい。通し穴を円形状以外の形状とすることにより、接合した部材が、通し穴の接合部材を中心に回転することを防止したり、接合部のガタつきを軽減したりすることができるので、さらに望ましい。
【0058】
接合部材13の軸部13Aの太さは特に限定されず、接合構造1の用途に応じた値を適宜選択することができる。例えば、接合構造1が自動車部品であり、金属部材が高強度鋼板である場合、接合部材13の軸部13Aの太さは3mm以上、4mm以上、又は5mm以上とすることが好ましい。これにより、自動車部品に求められる接合強度を、接合構造1に付与することができる。なお、軸部13Aの太さとは、接合部材13の軸心を含む断面において、軸心に垂直な方向に沿って測定される軸部13Aの幅の最小値である。金属部材11の金属筒状部111の内径、及び樹脂部材12の通し穴121の内径は、接合部材13の軸部13Aの太さに応じて適宜選択することができる。
【0059】
接合部材13がリベット133である場合、リベット頭部133Bの形状は、一般的なフランジ形状とすればよい。例えばリベット頭部133Bの形状を、半球形(いわゆる丸頭)、円盤形(いわゆる平頭)、又は表面側が平らで根本が円錐形となる形状(いわゆる皿頭)とすることができる。リベット頭部133Bの平面視での形状は、例えば円形、四角形、又は六角形など多角形とすることができる。リベット頭部133Bの電極側の中心部に、位置決め用の凹部が設けられていてもよい。また、リベット頭部133Bの座部(被接合材と接触する面)に、リベット軸部133Aを取り囲む凹部(いわゆる座部アンダーカット)が設けられていてもよい。このような凹部は、リベット頭部133Bに弾性を付与し、これによりリベット133のかしめ力を一層増大させる。また、リベット頭部133Bの座部(被接合材と接触する面)に、1つ以上のフランジ突起部が設けられていても良い。このようなフランジ突起部は、リベッティング時に被接合材にめり込むこと、又は被接合材と接合部とを形成することにより、リベット133のかしめ力を一層増大させる。フランジ突起部の形状は、円状、多角形状、リベット軸部133Aを囲むリング状が挙げられる。
【0060】
接合部材13の材質は特に限定されない。求められる接合強度に応じた材料を、接合部材13に適用することができる。好適な接合部材13の材質の例は、鋼、ステンレス、アルミ、及びチタン等である。接合部材13は、表面処理がされていないものでよい。一方、接合構造1に耐食性が必要な場合は、接合部材13に表面処理がなされていてもよい。
例えば接合部材13に、亜鉛系めっき、アルミ系めっき、クロム系めっき、ニッケル系めっき、又はクロメート処理などがされても良い。
【0061】
金属筒状部111の長さは特に限定されず、金属筒状部111が挿入される部材の総板厚に応じた値を適宜選択することができる。
【0062】
樹脂側係止部13Bの外径は、これに面する樹脂部材12の通し穴121の内径より大きい。この範囲内で、樹脂側係止部13Bの外径を自由に選択することができる。また、金属側係止部13Cの外径は、これに面する金属部材11の金属筒状部111、又は通し穴121の内径より大きい。この範囲内で、金属側係止部13Cの外径を自由に選択することができる。
【0063】
次に、本実施形態に係る自動車の骨格部品について説明する。本実施形態に係る自動車の骨格部品は、本実施形態に係る接合構造1を有する。これにより、本実施形態に係る自動車の骨格部品は、溶接が難しく、また機械的接合によって変形しやすい樹脂部材12を有するにもかかわらず、高い接合強度を有する。
【実施例0064】
実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明する。ただし、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例に過ぎない。本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
【0065】
板状の金属部材と、板状の樹脂部材と、金属部材及び樹脂部材を重ね合わせた状態で接合する接合部材とを有する、種々の接合構造を製造した。いずれの接合構造においても、金属部材及び樹脂部材の枚数は1枚であった。接合部材は熱間かしめリベットとした。金属部材は、軸心が板厚方向に沿う姿勢の金属筒状部を有していた。これら接合構造の金属筒状部の高さ、及び樹脂板厚を表1に示す。なお、金属筒状部の高さとは、金属筒状部が立ち上がる面を基準とした高さのことである。樹脂板厚よりも金属筒状部の高さの方が大きい場合、金属筒状部が挿通された樹脂部材の軸心方向の存在範囲の長さは、金属筒状部の軸心方向の存在範囲の長さ以下である。
【0066】
さらに、これら接合部材を分解し、樹脂部材の表面を目視で観察し、変形の有無を確認した。変形の有無を表1に記載する。
【0067】
【0068】
例Aにおいては、金属筒状部が挿通された樹脂部材の軸心方向の存在範囲の長さは、金属筒状部の軸心方向の存在範囲の長さよりも大きかった。そのため、リベッティングの際にリベット頭部と樹脂部材とが離隔されず、樹脂部材が変形した。
【0069】
例B~例Dでは、金属筒状部が挿通された樹脂部材の軸心方向の存在範囲の長さは、金属筒状部の軸心方向の存在範囲の長さ以下であった。例B~例Dでは、樹脂部材の加圧変形が生じなかった。また、例B及び例Cでは、リベット頭部が樹脂側係止部として用いられていた。そのため、例B及び例Cでは、加圧変形のみならず、リベッティングの際の熱による熱変形をも防止することができた。