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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151981
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】金属部材の製造方法及び金属部材
(51)【国際特許分類】
   B23K 31/00 20060101AFI20231005BHJP
   B21D 53/88 20060101ALI20231005BHJP
   B23K 9/02 20060101ALI20231005BHJP
   B23K 9/235 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B23K31/00 F
B21D53/88 Z
B23K9/02 D
B23K9/02 S
B23K9/235 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061877
(22)【出願日】2022-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松田 和貴
(72)【発明者】
【氏名】児玉 真二
(72)【発明者】
【氏名】菊池 庄太
(72)【発明者】
【氏名】東 昌史
【テーマコード(参考)】
4E001
4E081
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001CA02
4E001DG01
4E081AA08
4E081BA05
4E081BA47
4E081DA06
4E081DA12
4E081FA12
(57)【要約】
【課題】溶接によって接合される第1部品及び第2部品を含む金属部材において、溶接部の疲労強度を向上させる。
【解決手段】金属部材(100)の製造方法は、第1部品(41)及び第2部品(42)を準備する工程と、部品(41,42)の縦壁(415,425)同士を溶接する工程とを備える。第1部品(41)及び第2部品(42)の少なくとも一方には、縦壁(415,425)の縁部(415a,425a)から天板(411,421)側に延びるスリット(417,427)が設けられている。スリット(417,427)は、凹湾曲領域(416,426)に配置されている。溶接工程では、縦壁(415,425)同士の重ね合わせ部にスリット(417,427)が配置された状態で、第1部品(41)の縦壁(415)の縁部(415a)又は第2部品(42)の縦壁(425)の縁部(425a)に沿って縦壁(415,425)同士を溶接する。
【選択図】図4E
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材の製造方法であって、
天板と、前記天板に連続する稜線部と、前記稜線部を介して前記天板に接続される縦壁と、をそれぞれ含む金属製の第1部品及び第2部品を準備する工程であって、前記第1部品及び前記第2部品の少なくとも一方には、前記天板側から見て部品の内側に凹状に湾曲する凹湾曲領域に配置され、前記縦壁の縁部から前記天板側に延びるスリットが設けられている工程と、
前記第1部品の前記天板と前記第2部品の前記天板とを対向させるとともに、前記第2部品の前記縦壁を前記第1部品の前記縦壁に内側から重ね合わせ、前記縦壁同士の重ね合わせ部に前記スリットが配置された状態で、前記第1部品の前記縦壁の縁部又は前記第2部品の前記縦壁の縁部に沿って前記縦壁同士を溶接する工程と、
を備える、製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属部材の製造方法であって、
前記スリットは、前記金属部材の使用時において当該金属部材に対して荷重が入力されたときに応力集中が生じると想定される部位を含む範囲に配置される、製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の金属部材の製造方法であって、
前記スリットは、前記第2部品に設けられる、製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の金属部材の製造方法であって、
前記スリットの深さは、前記スリットの深さ方向における前記縦壁同士の前記重ね合わせ部の長さよりも大きい、製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記第1部品及び前記第2部品の少なくとも一方において、前記凹湾曲領域には、前記縦壁の前記縁部に沿って並ぶ複数の前記スリットが設けられている、製造方法。
【請求項6】
金属部材であって、
第1天板と、前記第1天板に連続する第1稜線部と、前記第1稜線部を介して前記第1天板に接続される第1縦壁と、を含む金属製の第1部品と、
前記第1天板に対向する第2天板と、前記第2天板に連続する第2稜線部と、前記第2稜線部を介して前記第2天板に接続され、前記第1縦壁に内側から重ね合わされる第2縦壁と、を含む金属製の第2部品と、
前記第1縦壁と前記第2縦壁とを溶接する溶接部と、
を備え、
前記金属部材は、平面視で前記金属部材の内側に凹状に湾曲する凹湾曲領域を含み、
前記凹湾曲領域において、前記第1縦壁及び前記第2縦壁の少なくとも一方には、前記第1縦壁と前記第2縦壁との重ね合わせ部に配置されるスリットが設けられている、金属部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属部材の製造方法、及び金属部材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車の車体を構成する構造部材として、金属部材が広く用いられている。金属部材には、互いに接合された2つの部品を含むものがある。例えば、特許文献1には、それぞれ横断面の一辺に開口部を有する上側部品及び下側部品を接合する構造が開示されている。
【0003】
特許文献1の接合構造において、上側部品及び下側部品の各々は、天板と、天板の両側縁に連続する縦壁とを含む。下側部品の縦壁には段部が形成されている。下側部品の縦壁のうち段部よりも先端側の部分は、上側部品の開口部に嵌合している。下側部品の段部は、アーク溶接によって上側部品の縦壁の先端部に線接合(重ね隅肉溶接)されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-147593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、上記接合構造を有する部材として自動車のロアアームが例示されている。ロアアームは、平面視で部材内側に凹の湾曲形状を有する凹湾曲領域を含んでいる。凹湾曲領域では、溶接部の疲労割れが発生しやすい。例えば980MPa級以上の超高張力鋼等、高強度金属によって溶接対象の各部品が構成されている場合、凹湾曲領域における溶接部の疲労割れが特に発生しやすくなる。
【0006】
本開示は、溶接によって接合される第1部品及び第2部品を含む金属部材において、溶接部の疲労強度を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る金属部材の製造方法は、天板と、天板に連続する稜線部と、稜線部を介して天板に接続される縦壁とをそれぞれ含む金属製の第1部品及び第2部品を準備する工程と、第1部品の縦壁と第2部品の縦壁とを溶接する工程とを備える。第1部品及び第2部品の少なくとも一方には、縦壁の縁部から天板側に延びるスリットが設けられている。スリットは、凹湾曲領域に配置されている。凹湾曲領域は、第1部品及び第2部品のうち、天板側から見て部品の内側に凹状に湾曲する領域である。溶接する工程では、第1部品の天板と第2部品の天板とを対向させるとともに、第2部品の縦壁を第1部品の縦壁に内側から重ね合わせ、縦壁同士の重ね合わせ部にスリットが配置された状態で、第1部品の縦壁の縁部又は第2部品の縦壁の縁部に沿って縦壁同士を溶接する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、溶接によって接合される第1部品及び第2部品を含む金属部材において、溶接部の疲労強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係る金属部材の斜視図である。
図2図2は、図1に示す金属部材の横断面図である。
図3図3は、図1に示す金属部材の凹湾曲領域において、金属部材に含まれる第1部品及び第2部品を内側から見た図である。
図4A図4Aは、実施形態に係る金属部材の製造方法を説明するための模式図である。
図4B図4Bは、実施形態に係る金属部材の製造方法を説明するための模式図である。
図4C図4Cは、実施形態に係る金属部材の製造方法を説明するための模式図である。
図4D図4Dは、実施形態に係る金属部材の製造方法を説明するための模式図である。
図4E図4Eは、実施形態に係る金属部材の製造方法を説明するための模式図である。
図4F図4Fは、実施形態に係る金属部材の製造方法を説明するための模式図である。
図5A図5Aは、一般的な金属部材において溶接部に高引張残留応力が発生するメカニズムを説明するための模式図である。
図5B図5Bは、一般的な金属部材において溶接部に高引張残留応力が発生するメカニズムを説明するための模式図である。
図6図6は、上記実施形態の変形例に係る金属部材の凹湾曲領域を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態に係る金属部材の製造方法は、天板と、天板に連続する稜線部と、稜線部を介して天板に接続される縦壁とをそれぞれ含む金属製の第1部品及び第2部品を準備する工程と、第1部品の縦壁と第2部品の縦壁とを溶接する工程とを備える。第1部品及び第2部品の少なくとも一方には、縦壁の縁部から天板側に延びるスリットが設けられている。スリットは、凹湾曲領域に配置されている。凹湾曲領域は、第1部品及び第2部品のうち、天板側から見て部品の内側に凹状に湾曲する領域である。溶接する工程では、第1部品の天板と第2部品の天板とを対向させるとともに、第2部品の縦壁を第1部品の縦壁に内側から重ね合わせ、縦壁同士の重ね合わせ部にスリットが配置された状態で、第1部品の縦壁の縁部又は第2部品の縦壁の縁部に沿って縦壁同士を溶接する(第1の構成)。
【0011】
修正グッドマン線図に基づくと、引張残留応力が高くなるほど材料の疲労強度は低下する。金属部材の凹湾曲領域では、他の領域と比較して溶接部の引張残留応力が高くなる傾向にある。以下、金属部材の凹湾曲領域において溶接部に高い引張残留応力が発生するメカニズムについて説明する。
【0012】
一般に、第1部品の縦壁と第2部品の縦壁とを重ね合わせて溶接するとき、縦壁のうち溶接線の近傍部分は、溶接線の接線方向に熱膨張する。例えば、第1部品及び第2部品において平面視で直線状を有する領域では、溶接線の接線方向が各縦壁に沿う方向(面内方向)と一致しているため、縦壁のうち溶接線の近傍部分は実質的に面内方向に膨張する。これに対して、凹湾曲領域では、第1部品及び第2部品の平面視で各縦壁が部品内側に凹状に湾曲しているため、溶接線の接線方向が各部品の縦壁に対して交差する方向(面外方向)となる。よって、重ね合わされた第1部品の縦壁及び第2部品の縦壁のうち、溶接線の近傍部分は、縦壁の面外方向に膨張する。一方、各縦壁のうち溶接線から離れている部分では、溶接線の近傍部分と比較して熱膨張が小さく、且つ天板による拘束が生じている。そのため、溶接線の近傍部分が縦壁の面外方向に膨張して部品内側に変位すると、各縦壁が部品内側に傾倒する。よって、重ね合わされた縦壁が部品内側に傾倒した状態(面外変形した状態)で、縦壁同士が溶接される。
【0013】
溶接後、第1部品及び第2部品は、例えば室温まで自然冷却される。第1部品及び第2部品の各縦壁のうち溶接された部分は、冷却によって収縮する。これにより、面外変形していた各縦壁が元の状態に復帰しようとし、各縦壁によって溶接部が金属部材の高さ方向に引っ張られて、溶接部に引張残留応力が発生する。この引張残留応力により、金属部材の凹湾曲領域では溶接部の疲労強度が低下する。
【0014】
これに対して、第1の構成に係る製造方法では、第1部品及び第2部品の少なくとも一方において、凹湾曲領域の縦壁にスリットが設けられている。第1部品の縦壁と第2部品の縦壁とを重ね合わせて溶接する際、縦壁同士の重ね合わせ部にスリットが配置される。これにより、溶接時における縦壁の面外変形を抑制することができる。より具体的には、第1部品及び第2部品のうち少なくとも一方の縦壁がスリットによって分断されているため、スリットを挟んで一方側の位置での縦壁の熱膨張が他方側の位置での縦壁の熱膨張に影響を及ぼしにくい。そのため、溶接線の接線方向から外れるような縦壁の熱膨張が凹湾曲領域全体として低減され、当該熱膨張に起因する縦壁の面外変形が生じにくくなる。よって、溶接後に金属部材が冷却される過程における各縦壁の復帰量も小さくなる。その結果、溶接部における引張残留応力が低減され、溶接部の疲労強度が向上する。
【0015】
スリットは、金属部材の使用時において当該金属部材に対して荷重が入力されたときに応力集中が生じると想定される部位を含む範囲に配置されることが好ましい(第2の構成)。
【0016】
第2の構成によれば、スリットは、金属部材への荷重の入力で応力集中が生じると想定される部位又はその近傍に配置される。例えば、金属部材が自動車の車体を構成する構造部材である場合、スリットは、金属部材が車体に組み付けられた後、自動車が走行する路面から金属部材への荷重の入力で応力集中が生じると想定される部位又はその近傍に設けられる。これにより、応力集中が生じると想定される部位で特に溶接部の引張残留応力が低減されるため、溶接部の疲労強度を効率よく向上させることができる。
【0017】
スリットは、第2部品に設けられていてもよい(第3の構成)。
【0018】
互いに重ね合わされた第1部品の縦壁及び第2部品の縦壁のうち、内側に配置された縦壁の面外変形は、溶接部における引張残留応力の増大に影響を及ぼしやすい。そこで、第3の構成では、第1部品の縦壁に対して内側に配置された第2部品の縦壁に、スリットが設けられている。これにより、溶接過程における第2部品の縦壁の面外変形が抑制されやすくなる。よって、溶接部における引張残留応力がより低減されやすい。
【0019】
スリットの深さは、スリットの深さ方向における縦壁同士の重ね合わせ部の長さよりも大きくてもよい(第4の構成)。
【0020】
第1部品及び第2部品の少なくとも一方において、凹湾曲領域には、複数のスリットが設けられていてもよい。複数のスリットは、縦壁の縁部に沿って並んでいる(第5の構成)。
【0021】
実施形態に係る金属部材は、金属製の第1部品と、金属製の第2部品と、溶接部とを備える。第1部品は、第1天板と、第1稜線部と、第1縦壁とを含む。第1稜線部は、第1天板に連続する。第1縦壁は、第1稜線部を介して第1天板に接続される。第2部品は、第2天板と、第2稜線部と、第2縦壁とを含む。第2天板は、第1天板に対向する。第2稜線部は、第2天板に連続する。第2縦壁は、第2稜線部を介して第2天板に接続される。第2縦壁は、第1縦壁に内側から重ね合わされる。溶接部は、第1縦壁と第2縦壁とを溶接する。金属部材は、凹湾曲領域を含む。凹湾曲領域は、金属部材の平面視で当該金属部材の内側に凹状に湾曲する。凹湾曲領域において、第1縦壁及び第2縦壁の少なくとも一方にはスリットが設けられている。スリットは、第1縦壁と第2縦壁との重ね合わせ部に配置される(第6の構成)。
【0022】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0023】
[金属部材の構成]
図1は、本実施形態に係る金属部材100の斜視図である。金属部材100は、例えば、自動車の車体を構成する構造部材として使用される。金属部材100は、例えば、自動車のサスペンションメンバーや、サスペンションアーム、フレーム等であってもよい。本実施形態では、金属部材100がサスペンションアームの一種であるロアアームである例について説明する。
【0024】
図1に示す例において、金属部材100は、その平面視で全体的に湾曲している。金属部材100は、アーム11,12を含む。アーム11,12は、金属部材100の平面視で異なる方向に延びている。ロアアームである金属部材100が自動車に取り付けられた状態では、一方のアーム11は概ね車幅方向(左右方向)に延び、他方のアーム12は概ね車長方向(前後方向)に延びる。アーム11の先端部は、例えば、ボールジョイント及びステアリングナックル(図示略)を介して自動車の車輪に取り付けられる。アーム12の先端部は、ブッシュ(図示略)を介して自動車の車体に取り付けられる。アーム11,12の境界部も、ブッシュ(図示略)を介して自動車の車体に取り付けられる。アーム11,12の境界部には、ブッシュを挿入するための筒部20が固定されている。
【0025】
金属部材100は、図1において二点鎖線で示すように、凹湾曲領域30を含んでいる。凹湾曲領域30は、金属部材100のうち、平面視で部材内側に向かって凹状に湾曲している領域である。凹湾曲領域30は、例えば、アーム11のうち、アーム11,12の境界部にある筒部20の近傍に位置している。
【0026】
図2は、金属部材100の横断面図(II-II断面図)である。図2に示すように、金属部材100は、部品41,42と、溶接部51,52とを備えている。
【0027】
第1部品41は、天板411と、稜線部412,413と、縦壁414,415とを含む。稜線部412,413は、金属部材100の横断面視で天板411の両側縁に連続している。稜線部412,413は、金属部材100の横断面視で実質的に円弧状を有している。縦壁414,415は、天板411を挟んで互いに対向するように配置されている。一方の縦壁414は、稜線部412を介して天板411に接続されている。他方の縦壁415は、稜線部413を介して天板411に接続されている。
【0028】
第2部品42は、第1部品41とともに閉断面を構成する。第2部品42は、金属部材100が自動車に取り付けられたとき、第1部品41の下側に位置してもよいし、第1部品41の上側に位置してもよい。第2部品42は、天板421と、稜線部422,423と、縦壁424,425とを含む。天板421は、第1部品41の天板411と対向している。稜線部422,423は、金属部材100の横断面視で実質的に円弧状を有している。縦壁424,425は、天板421を挟んで互いに対向するように配置されている。一方の縦壁424は、稜線部422を介して天板421に接続されている。他方の縦壁425は、稜線部423を介して天板421に接続されている。金属部材100の横断面視で、縦壁424,425は、稜線部422,423から第1部品41の天板411側に向かって延びている。
【0029】
第2部品42の縦壁424,425は、第1部品41の縦壁414,415の内側に配置されている。第2部品42の一方の縦壁424は、第1部品41の一方の縦壁414に対して内側から重ね合わされている。第2部品42の他方の縦壁425は、第1部品41の他方の縦壁415に対して内側から重ね合わされている。より具体的には、第2部品42の縦壁424,425の一部が第1部品41の縦壁414,415の一部と重ねられている。そのため、第2部品42の縦壁424,425の縁部424a,425aは、第1部品41の縦壁414,415の縁部414a,415aよりも第1部品41の天板411側に位置している。
【0030】
溶接部51,52は、第1部品41の縦壁414,415を第2部品42の縦壁424,425に対して溶接している部分である。溶接部51は、第1部品41の一方の縦壁414の縁部414aに沿って線状に設けられている。溶接部52は、第1部品41の他方の縦壁415の縁部415aに沿って線状に設けられている。
【0031】
図3は、図1に示す凹湾曲領域30において、第1部品41及び第2部品42を金属部材100の内側から見た図である。
【0032】
図3に示すように、凹湾曲領域30は、第1部品41の凹湾曲領域416と、第2部品42の凹湾曲領域426とを含んでいる。第1部品41の凹湾曲領域416は、天板411側から見て(平面視で)、第1部品41の内側に凹状に湾曲する領域である。第2部品42の凹湾曲領域426も、天板421側から見て(平面視で)、第2部品42の内側に凹状に湾曲する領域である。第2部品42の凹湾曲領域426は、第1部品41の凹湾曲領域416に対応するように第2部品42に設けられている。
【0033】
第1部品41の凹湾曲領域416及び第2部品42の凹湾曲領域426は、以下のように定義することができる。すなわち、第1部品41を天板411側から観察した状態で、縦壁415の縁部415a上において評価節点及びその両隣に約4mm離れた節点の3点から縁部415aの曲率半径を算出し、曲率中心が第1部品41の外側に位置する範囲を凹湾曲領域416と定義する。同様に、第2部品42を天板421側から観察した状態で、縦壁425の縁部425a上において評価節点及びその両隣に約4mm離れた節点の3点から縁部425aの曲率半径を算出し、曲率中心が第2部品42の外側に位置する範囲を凹湾曲領域426と定義する。金属部材100の凹湾曲領域30の範囲は、第1部品41の凹湾曲領域416及び第2部品42の凹湾曲領域426の範囲と一致している。
【0034】
第2部品42の縦壁425には、1つ以上のスリット427が設けられている。本実施形態の例では、複数のスリット427が縦壁425に設けられている。複数のスリット427は、第2部品42の縦壁425と第1部品41の縦壁415との重ね合わせ部に配置されるように、第2部品42の縦壁425に設けられる。複数のスリット427は、少なくとも第2部品42の凹湾曲領域426に設けられている。
【0035】
[金属部材の製造方法]
次に、金属部材100の製造方法について、図4A図4Fを参照しつつ説明する。本実施形態に係る製造方法は、準備工程と、溶接工程とを含む。
【0036】
(準備工程)
準備工程では、第1部品41及び第2部品42を準備する。図4Aは、第1部品41及び第2部品42の部分斜視図である。図4Bは、第1部品41及び第2部品42の部分側面図である。図4A及び図4Bでは、第1部品41の凹湾曲領域416及び第2部品42の凹湾曲領域426のそれぞれについて、少なくとも一部を示している。
【0037】
図4A及び図4Bに示すように、準備された第1部品41は、凹湾曲領域416側に稜線部413及び縦壁415を有している。準備された第2部品42は、凹湾曲領域426側に稜線部423及び縦壁425を有している。第2部品42の凹湾曲領域426において、縦壁425は複数のスリット427を含んでいる。
【0038】
スリット427の各々は、縦壁425の縁部425aから天板421側に延びている。各スリット427の深さ方向の一端(基端)は、縦壁425の縁部425aに開口している。各スリット427の他端(先端)は、稜線部423の縦壁425側の端部(R止まり)には到達していない。すなわち、図4Bに示すように、稜線部423の縦壁425側の端部から縦壁425の縁部425aまでの距離を縦壁高さHとし、各スリット427の深さをスリット深さDとすると、縦壁高さHよりもスリット深さDの方が小さい。図4Bに示す例において、各スリット427の先端形状は、概ね円弧状となっている。しかしながら、各スリット427の先端形状は、これに限定されるものではない。
【0039】
図4Bを参照して、複数のスリット427は、縦壁425の縁部425aに沿って配列されている。複数のスリット427は、間隔Aを空けて配置されている。スリット427の各々は、スリット幅Wを有している。スリット幅Wは、縦壁425の縁部425aが延びる方向におけるスリット427の最大長さである。スリット427間の間隔Aは、例えば0.5mm以上、5.0mm以下とすることができる。
【0040】
縦壁425の縁部425aが延びる方向における凹湾曲領域426の長さをL、凹湾曲領域426に設けられた全てのスリット427のスリット幅Wの合計をSとすると、S/Lは、例えば0.05以上とすることができる。凹湾曲領域426においてスリット427が導入される範囲をRとすると、S/Rは、例えば0.25以上とすることができる。
【0041】
第1部品41及び第2部品42は、金属製である。第1部品41及び第2部品42は、それぞれ、金属板のプレス成形によって作製することができる。第1部品41及び第2部品42は、鋼板のプレス成形によって作製されてもよい。第1部品41及び第2部品42の素材としての鋼板は、例えば、980MPa以上の引張強度を有することができる。
【0042】
第2部品42のスリット427は、プレス成形前の金属板に形成されてもよい。スリット427は、金属板を第2部品42に成形した後に、縦壁425に形成されてもよい。スリット427は、例えば、レーザー切断によって形成することができる。スリット幅Wは、レーザー切断の加工性を考慮すると0.2mm以上である。スリット幅Wが大きい場合、打ち抜き加工等によって第2部品42にスリット427を形成することもできる。
【0043】
スリット427は、応力集中部位を含む範囲に設けられることが好ましい。応力集中部位は、金属部材100の使用時において、金属部材100に対して荷重が入力されたときに応力集中が生じると想定される部位である。金属部材100が自動車の車体を構成する構造部材である場合、応力集中部位は、金属部材100が車体に組み付けられた後、自動車の走行中において路面からの荷重の入力で応力集中が生じると想定される部位である。例えば、応力集中部位を中心とし、応力集中部位から縦壁415,425の縁部415a,425aが延びる方向に沿って両側に10mm以内の範囲にスリット427を設けることができる。応力集中部位は、汎用の解析用ソフトウェア(例えばダッソー・システムズ社製のAbaqusやMSC社製のNastran等)を用いて特定することが可能である。具体的には、上記ソフトウェアを用いて、参考文献(J.-L.Fayard and A.Bignonnet,“Fatigue Design of Welded Thin Sheet Structures”,European Structural Integrity Society 22,145-152(1997))で示される条件、すなわち、アーム12の先端部及び筒部20を固定し、アーム11の先端部のうちボールジョイントを介する部分に、XY平面上でX軸から45度の方向あるいはその反対となる225度の方向に負荷を与える条件、を設定して線形弾性解析を実施することにより、応力集中部位を特定することができる。このとき、X軸正方向は、筒部20の中心からアーム12の先端部の幅中心に向かう方向、Y軸正方向は、筒部20の中心からアーム11の先端部側に向かう方向であってX軸を基準として90度の方向である。
【0044】
(溶接工程)
溶接工程では、第1部品41と第2部品42とを溶接によって接合する。図4C及び図4Dを参照して、溶接工程では、まず、第1部品41の天板411と第2部品42の天板421とを対向させるとともに、第1部品41の縦壁415に第2部品42の縦壁425を内側から重ね合わせる。このとき、縦壁415,425同士の重ね合わせ部には、スリット427が配置される。本実施形態において、第2部品42の縦壁425に形成されているスリット427の一部は、縦壁415,425同士の重ね合わせ部から露出する。すなわち、スリット427の深さ方向における縦壁415,425同士の重ね合わせ部の長さを重ね代Cとすると、スリット深さDは重ね代Cよりも大きい。ただし、スリット深さDは、重ね代C以下であってもよい。
【0045】
溶接工程では、縦壁415,425同士の重ね合わせ部にスリット427が配置された状態で、第1部品41の縦壁415の縁部415aに沿って縦壁415,425同士を溶接する。すなわち、第1部品41の縦壁415及び第2部品42の縦壁425は、重ね隅肉溶接される。これにより、図4E及び図4Fに示すように、第1部品41の縦壁415の縁部415a上に線状の溶接部52が形成される。
【0046】
溶接工程後も、少なくとも縦壁415,425の重ね合わせ部にはスリット427が存在する。第2部品42の縦壁425のうち第1部品41の縦壁415から露出していた部分にスリット427の一部が残存することもある。溶接工程後は、スリット427が金属部材100の外側から視認されないように、第1部品41の縦壁415及び溶接部52によってスリット427が覆われていることが好ましい。第2部品42の縦壁425のうち金属部材100の内側から見た面には、通常、溶接工程後もスリット427の全体が残存している。
【0047】
第1部品41の縦壁415及び第2部品42の縦壁425は、例えば、アーク溶接によって接合される。第1部品41の縦壁415及び第2部品42の縦壁425は、レーザー・アークハイブリッド溶接によって接合されてもよい。溶接工程において使用される溶接材料は特に限定されない。
【0048】
詳細な説明を省略するが、第1部品41の他方の縦壁414(図2)及び第2部品42の他方の縦壁424(図2)も、縦壁415,425と同様、重ね隅肉溶接によって接合される。よって、第1部品41の縦壁414の縁部414a(図2)上には、線状の溶接部51(図2)が形成される。
【0049】
[効果]
一般に、第1部品41及び第2部品42の凹湾曲領域416,426では、第1部品41の縦壁415を第2部品の縦壁425に重ね合わせて隅肉溶接するとき、縦壁415の縁部415a及びその近傍部分が溶接線の接線方向に熱膨張する。凹湾曲領域416,426でこのような熱膨張が生じると、図5Aにおいて二点鎖線で示す溶接前の状態から、縦壁415,425のうち溶接部52に隣接する部分が部品41,42の内側に変位する。これにより、縦壁415,425が部品41,42の内側に傾倒して面外変形が発生する。縦壁415,425は、面外変形した状態で溶接部52によって接合される。
【0050】
溶接後、第1部品41及び第2部品42は自然冷却される。このとき、図5Bに示すように、第1部品41及び第2部品42の縦壁415,425のうち溶接部52に隣接する部分は、冷却によって収縮し、部品41,42の外側に変位する。これにより、面外変形していた縦壁415,425が元の状態に復帰しようとし、図5Bにおいて細線矢印で示すように、溶接部52が縦壁415,425によって部品41,42の高さ方向に引っ張られる。その結果、溶接部52に高い引張残留応力が発生する。
【0051】
しかしながら、本実施形態では、第2部品42の凹湾曲領域426において縦壁425にスリット427が設けられている。第1部品41の縦壁415と第2部品42の縦壁425とを重ね合わせて溶接する際、縦壁415,425同士の重ね合わせ部にスリット427が配置される。これにより、溶接過程における縦壁415,425の面外変形を緩和することができる。より具体的には、縦壁425がスリット427によって分断されているため、縦壁425において、各スリット427を挟んで隣り合う部分の熱膨張が互いに影響を及ぼしにくくなる。そのため、第2部品42の凹湾曲領域426全体として、縦壁425の面外変形を生じさせるような熱膨張が低減され、溶接後に金属部材100が冷却されたときの縦壁425の復帰量も小さくなる。また、第2部品42の縦壁425の面外変形が緩和されることに伴って、第2部品42の縦壁425と溶接される第1部品41の縦壁415の面外変形も緩和される。その結果、溶接部52における引張残留応力が低減され、溶接部52の疲労強度が向上する。
【0052】
本実施形態において、スリット427は、金属部材100の使用時に応力集中が生じると想定される部位を含む範囲に設けられることが好ましい。例えば、金属部材100が自動車を構成する部品として車体に組み付けられた後、自動車の走行中、路面からの荷重の入力によって応力集中が生じると想定される部位を含む範囲にスリット427が設けられる。これにより、応力集中が生じると想定される部位で特に溶接部52の引張残留応力が低減されるため、溶接部52の疲労強度を効率よく向上させることができる。
【0053】
互いに重ね合わされた縦壁415,425のうち、内側に配置された縦壁425の面外変形は、溶接部52における引張残留応力の増大に影響を及ぼしやすい。そのため、本実施形態では、第1部品41の縦壁415の内側に配置された第2部品42の縦壁425にスリット427が設けられている。これにより、溶接過程における第2部品42の縦壁425の面外変形が抑制されやすくなる。よって、溶接部52における引張残留応力がより低減されやすい。
【0054】
金属部材100の凹湾曲領域30において、第2部品42の縦壁425の外側にある第1部品41の縦壁415にスリットが存在する場合、金属部材100を用いた自動車が衝突した際に当該スリットが破断起点となる可能性がある。しかしながら、本実施形態では、第1部品41の縦壁415にスリットを設けていない。また、第2部品42の縦壁425に設けられたスリット427は、第1部品41の縦壁415及び溶接部52から露出していない。そのため、金属部材100の強度を確保することができる。
【0055】
本実施形態において、スリット427の深さDは、第1部品41の縦壁415と第2部品42の縦壁425との重ね代Cよりも大きい。これにより、溶接部52における引張残留応力がより低減されやすくなる。
【0056】
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0057】
上記実施形態では、第2部品42の縦壁425に1つ以上のスリット427が設けられている。しかしながら、図6に示すように、第1部品41の縦壁415に1つ以上のスリット417が設けられてもよい。図6に示す例では、複数のスリット417が縦壁415に設けられている。これらのスリット417は、第1部品41のうち、少なくとも凹湾曲領域416に設けられている。スリット417の各々は、縦壁415の縁部415aから天板411側に延びている。溶接工程に際し、第1部品41の縦壁415が第2部品42の縦壁425に対して外側から重ねられたとき、スリット417は、縦壁415,425の重ね合わせ部に配置される。スリット417の間隔A、スリット幅W、スリット幅合計S、スリット導入範囲R等は上記実施形態と同様に設定することができる。図6に示す例であっても、上記実施形態と同様に、凹湾曲領域416,426において縦壁415,425の面外変形を緩和することができる。
【0058】
あるいは、第2部品42の縦壁425に1つ以上のスリット427が設けられるとともに、第1部品41の縦壁415に1つ以上のスリット417が設けられていてもよい。この場合、第1部品41の各スリット417の位置が第2部品42のスリット427との位置と一致していることが好ましい。
【0059】
上記実施形態では、第2部品42の凹湾曲領域426内においてのみ、縦壁425にスリット427が設けられている。しかしながら、第2部品42のうち凹湾曲領域426以外の領域においても、縦壁425にスリット427が設けられていてもよい。例えば、縦壁425の全長にわたってスリット427が配列されていてもよい。
【0060】
同様に、第1部品41の縦壁415にスリット417を設ける場合、第1部品41の凹湾曲領域416に加え、凹湾曲領域416以外の領域においてスリット417が配置されていてもよい。例えば、縦壁415の全長にわたってスリット417が配列されていてもよい。
【0061】
上記実施形態では、金属部材100のうち、アーム11,12の境界部近傍の凹湾曲領域30において、第2部品42の縦壁425にスリット427が設けられている。しかしながら、例えば、金属部材に凹湾曲領域が複数存在する場合、2つ以上の凹湾曲領域にスリット417及び/又はスリット427を設けることもできる。
【0062】
上記実施形態では、第1部品41の縦壁415の縁部415aに沿って溶接部52が線状に形成されている。しかしながら、第2部品42の縦壁425の縁部425aに沿って線状の溶接部52が形成されていてもよい。
【実施例0063】
以下、実施例によって本開示をさらに詳しく説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
本開示による効果を確認するため、上記実施形態に係る金属部材100と同様の形状を有する金属部材について、汎用のソフトウェア(Abaqus,ダッソー・システムズ社製)を用いてアーク溶接のCAE解析を実施した。本解析では、凹湾曲領域に設けるスリットの条件を変化させ、溶接止端部の複数の評価点で引張残留応力(縦壁側から見て溶接線に直角な方向(部材高さ方向)の成分)を評価した。比較のため、凹湾曲領域にスリットが設けられない金属部材についても、同様の解析を実施した。解析の条件及び評価結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示すように、第1部品及び第2部品の縦壁同士の重ね合わせ部にスリットを配置して溶接を行った実施例1~5では、比較例と比べて引張残留応力が低減した範囲が存在した。引張残留応力の低減範囲は、凹湾曲領域におけるスリット幅合計比率:S/Lが大きくなるほど増大した。
【0067】
本解析より、凹湾曲領域において縦壁同士の重ね合わせ部にスリットを配置して溶接を行うことで溶接部における引張残留応力を低減できることが確認された。溶接部における引張残留応力が低減すれば、溶接部の疲労割れを抑制することができ、溶接部の疲労強度が向上する。
【符号の説明】
【0068】
100:金属部材
30:凹湾曲領域
41:第1部品
411:天板
412,413:稜線部
414,415:縦壁
414a,415a:縁部
416:凹湾曲領域
417:スリット
42:第2部品
421:天板
422,423:稜線部
424,425:縦壁
424a,425a:縁部
426:凹湾曲領域
427:スリット
51,52:溶接部
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5A
図5B
図6