(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152011
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】放射輝度算出方法、及び校正情報取得装置
(51)【国際特許分類】
G01J 1/42 20060101AFI20231005BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20231005BHJP
G01J 1/44 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01J1/42 K
G01J1/02 C
G01J1/44 D
G01J1/02 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061927
(22)【出願日】2022-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】510203566
【氏名又は名称】株式会社ビジョンセンシング
(74)【代理人】
【識別番号】100104662
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智司
(74)【代理人】
【識別番号】100184631
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 隆
(72)【発明者】
【氏名】大久保 智哉
(72)【発明者】
【氏名】水戸 康生
【テーマコード(参考)】
2G065
【Fターム(参考)】
2G065AA02
2G065AA04
2G065AB02
2G065BA34
2G065BC28
2G065BC33
2G065BC35
2G065CA21
(57)【要約】
【課題】撮像対象物の正確な放射輝度を算出することができる放射輝度算出方法等を提供する。
【解決手段】校正情報取得装置20によって校正情報を取得する校正情報取得工程と、赤外線カメラにより撮像対象物を撮像して、素子出力、素子温度、及び校正情報に基づいて、放射輝度を算出する実測工程とを含む。校正情報取得工程は、赤外線カメラにより校正用物体を撮像して、そのときの素子温度、及び素子出力を取得する基礎データ取得部22により取得する基礎データ取得工程と、素子温度Ft及び素子出力DL
nに基づいて、輝度対出力相関取得部25により放射輝度と素子出力との相関を取得する輝度対出力相関取得工程と、放射輝度と素子出力との相関に基づいて、近似係数算出部26により校正情報としての近似係数Aa
n、Ab
n、Ac
n、Ba
n、Bb
n、Bc
n、Ca
n、Cb
n及びCc
nを算出する近似係数算出工程とを含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2次元平面上に配列された複数のn個の赤外線検出素子を有する撮像部、及び前記赤外線検出素子の温度を検出する素子温度検出センサを備えた赤外線カメラを用いて、撮像対象物から放射される赤外線の放射輝度Ldnを算出する方法であって、
前記放射輝度Ldnを算出するための校正情報を取得する校正情報取得工程と、
前記赤外線カメラを用いて撮像対象物を撮像し、前記赤外線検出素子からの出力DLn、前記素子温度検出センサによって検出される素子温度Ft、及び前記校正情報取得工程で得られた校正情報に基づいて、前記撮像対象物から放射される赤外線の放射輝度Ldnを算出する実測工程と、から構成され、
前記校正情報取得工程は、
前記赤外線カメラを用いて、所定温度にある校正用物体を撮像して、前記素子温度検出センサから前記赤外線検出素子の温度Ftを取得するとともに、前記各赤外線検出素子からの出力DLnを取得する基礎データ取得工程と、
前記基礎データ取得工程において取得された温度Ft及び出力DLnに基づいて、前記赤外線検出素子の温度Ftが所定の温度であるときの、前記校正用物体から放射される放射輝度Ldnと各赤外線検出素子からの出力DLnとの相関を取得する輝度対出力相関取得工程と、
前記輝度対出力相関取得工程において取得された放射輝度Ldnと出力DLnとの相関に基づいて、近似係数Aan、Abn、Acn、Ban、Bbn、Bcn、Can、Cbn及びCcnを算出する近似係数算出工程と、から構成され、
前記実測工程は、
前記赤外線カメラを用いて撮像対象物を撮像して、前記素子温度検出センサから前記赤外線検出素子の温度Ftを取得するとともに、前記各赤外線検出素子からその出力DLnを取得する実測データ取得工程と、
前記実測データ取得工程において取得された赤外線検出素子の温度Ft、並びに前記校正情報取得工程において算出された近似係数Aan、Abn、Acn、Ban、Bbn、Bcn、Can、Cbn及びCcnに基づき、下記数式1に従って温度補正係数an、bn及びcnを算出する温度補正係数算出工程と、
前記実測データ取得工程において取得された赤外線検出素子からの出力DLn、並びに前記温度補正係数算出工程において算出された温度補正係数an、bn及びcnに基づき、下記数式2に従って、前記撮像対象物から放射される放射輝度Ldnを算出する放射輝度算出工程と、から構成されることを特徴とする放射輝度算出方法。
(数式1)
an=Aan・Ft2+Abn・Ft+Acn
bn=Ban・Ft2+Bbn・Ft+Bcn
cn=Can・Ft2+Cbn・Ft+Ccn
(数式2)
Ldn=an・DLn
2+bn・DLn+cn
但し、nは1以上の自然数であり、前記各赤外線検出素子に対応する固有値である。
【請求項2】
前記校正情報取得工程は、更に、
前記基礎データ取得工程によって取得された赤外線検出素子の温度Ft、及び出力DLnに基づいて、出力対温度の相関式を取得する出力対温度相関取得工程と、
前記出力対温度相関取得工程によって取得された出力対温度相関式に基づき、補間処理によって、赤外線検出素子の温度Ftと出力DLnとの相関データを算出する補間処理工程と、を備え、
前記輝度対出力相関取得工程は、前記基礎データ取得工程によって取得された温度Ft及び出力DLn、並びに前記補間処理工程によって算出された温度Ft及び出力DLnに基づいて、前記放射輝度Ldnと前記出力DLnとの相関を取得するように構成されていることを徴とする請求項1記載の放射輝度算出方法。
【請求項3】
2次元平面上に配列された複数のn個の赤外線検出素子を有する撮像部、及び前記赤外線検出素子の温度を検出する素子温度検出センサを備えた赤外線カメラを用いて、撮像対象物から放射される赤外線の放射輝度Ldnを算出する際に使用される校正情報を取得する装置であって、
所定温度にある校正用物体を前記赤外線カメラにより撮像したときの、前記素子温度検出センサから出力される前記赤外線検出素子の温度Ftを取得するとともに、前記各赤外線検出素子からの出力DLnを取得する基礎データ取得部と、
前記基礎データ取得部において取得された温度Ft及び出力DLnに基づいて、前記赤外線検出素子の温度Ftが所定の温度であるときの、前記校正用物体から放射される放射輝度Ldnと各赤外線検出素子からの出力DLnとの相関を取得する輝度対出力相関取得部と、
前記輝度対出力相関取得部において取得された放射輝度Ldnと出力DLnとの相関に基づいて、近似係数Aan、Abn、Acn、Ban、Bbn、Bcn、Can、Cbn及びCcnを算出する近似係数算出部と、から構成されることを特徴とする校正情報取得装置。
【請求項4】
前記基礎データ取得部によって取得された赤外線検出素子の温度Ft、及び出力DLnに基づいて、出力対温度の相関式を取得する出力対温度相関取得部と、
前記出力対温度相関取得部によって取得された出力対温度相関式に基づき、補間処理によって、赤外線検出素子の温度Ftと出力DLnとの相関データを算出する補間処理部と、を更に備え、
前記輝度対出力相関取得部は、前記基礎データ取得部によって取得された温度Ft及び出力DLn、並びに前記補間処理部によって算出された温度Ft及び出力DLnに基づいて、前記放射輝度Ldnと前記出力DLnとの相関を取得するように構成されていることを徴とする請求項3記載の校正情報取得装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次元平面上に複数の赤外線検出素子を配列して構成される撮像部を備えた赤外線カメラにおいて、前記赤外線検出素子によって検出される出力値から放射輝度を算出する方法、並びにこの放射輝度を算出する際に使用する校正情報を取得するための校正情報取得装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボロメータと称される熱型の非冷却赤外線検出素子によって前記撮像部を構成した赤外線カメラが提案されている(特許文献1)。この赤外線検出素子は、赤外線を吸収することによって抵抗値が変化するもので、電流を流すことにより、入射光量に応じた電圧値を出力する。撮像対象物を撮像、即ち、撮像対象物から放射される赤外線が赤外線検出素子に吸収されると、その入射エネルギーに応じた電圧値が出力され、予め取得した感度を基に、出力電圧値を較正することによって、撮像対象物の温度を算出することができる。
【0003】
この赤外線検出素子の感度は、個体差を有することが知られており、従来、一般的には、2つの異なる既知の温度T1,T2の撮像対象物、例えば黒体炉(黒体を近似した装置)を撮像して、そのときに得られる各赤外線検出素子nの出力Vnと、撮像対象物の温度Tとを基に、各赤外線検出素子nの感度を算出している。
【0004】
より具体的に説明すると、前記出力Vnと温度Tとの関係は、温度T1,T2のときの出力V1n,V2nとの2点データから、感度係数an及びオフセット係数bnを用いた1次関数である下式によって近似される。
Vn=an×T+bn
したがって、撮像対象物の温度Tは、下式によって算出することができる。
T=(Vn-bn)/an=Vn/an-bn/an=Vn×An+Bn
【0005】
そして、従来の赤外線カメラでは、演算速度を高めるために、較正用の感度係数An(=1/an)、及びオフセット係数Bn(=-bn/an)を予め算出して、データテーブルとしてメモリに保持しておき、上式に従って、各赤外線検出素子nの出力Vnに基づいて撮像対象物の温度Tを算出するようにしている。
【0006】
また、前記赤外線検出素子は、環境温度の変化により自身温度上昇することによって、その感度が変化するという特性を有する。このため、従来では、更に、各赤外線検出素子の温度に応じた前記較正感度係数An及び較正オフセット係数Bnを予め取得して、データテーブルとして保持し、撮像時の赤外線検出素子温度に応じた前記較正感度係数An及び較正オフセット係数Bnを用いて、撮像対象物の温度Tを算出するといったことが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述した従来の赤外線カメラでは、赤外線検出素子nの出力Vnと、撮像対象物から放射される赤外線の放射輝度Ldnとを、これらが線形の相関関係にあるものとして取り扱っており、このような線形関係の下、赤外線検出素子nの出力Vnに基づいて、撮像対象物から放射される赤外線の放射輝度Ldnを推定(算出)し、得られた放射輝度から撮像対象物の温度を推定(算出)するようにしている。
【0009】
ところが、赤外線カメラには、撮像対象物から放射される赤外線を赤外線検出素子nに集光させるためのレンズ等の光学機構が存在し、また、赤外線検出素子nには個体差があるため、赤外線検出素子nの出力DL
n(=V
n)と、撮像対象物から放射される赤外線の放射輝度Ld
nとの関係は、厳密な意味において、
図5において破線で示すような線形の関係にはなく、実線で示した2次以上の方程式で近似される非線形の関係となっている。
【0010】
したがって、従来の赤外線カメラのように、赤外線検出素子nの出力DLnから、線形関係に基づいて前記放射輝度Ldnを推定すると、撮像対象物の正確な放射輝度Ldnを推定することができず、ひいては、撮像対象物の正確な温度を推定することができない。
【0011】
本発明は、以上の実情に鑑みなされたものであって、従来に比べて、撮像対象物の正確な放射輝度Ldnを推定することができる放射輝度算出方法、及びこれを実行するための校正情報取得装置の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、
2次元平面上に配列された複数のn個の赤外線検出素子を有する撮像部、及び前記赤外線検出素子の温度を検出する素子温度検出センサを備えた赤外線カメラを用いて、撮像対象物から放射される赤外線の放射輝度Ldnを算出する方法であって、
前記放射輝度Ldnを算出するための校正情報を取得する校正情報取得工程と、
前記赤外線カメラを用いて撮像対象物を撮像し、前記赤外線検出素子からの出力DLn、前記素子温度検出センサによって検出される素子温度Ft、及び前記校正情報取得工程で得られた校正情報に基づいて、前記撮像対象物から放射される赤外線の放射輝度Ldnを算出する実測工程と、から構成され、
前記校正情報取得工程は、
前記赤外線カメラを用いて、所定温度にある校正用物体を撮像して、前記素子温度検出センサから前記赤外線検出素子の温度Ftを取得するとともに、前記各赤外線検出素子からの出力DLnを取得する基礎データ取得工程と、
前記基礎データ取得工程において取得された温度Ft及び出力DLnに基づいて、前記赤外線検出素子の温度Ftが所定の温度であるときの、前記校正用物体から放射される放射輝度Ldnと各赤外線検出素子からの出力DLnとの相関を取得する輝度対出力相関取得工程と、
前記輝度対出力相関取得工程において取得された放射輝度Ldnと出力DLnとの相関に基づいて、近似係数Aan、Abn、Acn、Ban、Bbn、Bcn、Can、Cbn及びCcnを算出する近似係数算出工程と、から構成され、
前記実測工程は、
前記赤外線カメラを用いて撮像対象物を撮像して、前記素子温度検出センサから前記赤外線検出素子の温度Ftを取得するとともに、前記各赤外線検出素子からその出力DLnを取得する実測データ取得工程と、
前記実測データ取得工程において取得された赤外線検出素子の温度Ft、並びに前記校正情報取得工程において算出された近似係数Aan、Abn、Acn、Ban、Bbn、Bcn、Can、Cbn及びCcnに基づき、下記数式1に従って温度補正係数an、bn及びcnを算出する温度補正係数算出工程と、
前記実測データ取得工程において取得された赤外線検出素子からの出力DLn、並びに前記温度補正係数算出工程において算出された温度補正係数an、bn及びcnに基づき、下記数式2に従って、前記撮像対象物から放射される放射輝度Ldnを算出する放射輝度算出工程と、から構成された放射輝度算出方法に係る。
(数式1)
an=Aan・Ft2+Abn・Ft+Acn
bn=Ban・Ft2+Bbn・Ft+Bcn
cn=Can・Ft2+Cbn・Ft+Ccn
(数式2)
Ldn=an・DLn
2+bn・DLn+cn
但し、nは1以上の自然数であり、前記各赤外線検出素子に対応する固有値である。
【0013】
この放射輝度算出方法によれば、まず、放射輝度Ldnを算出するための校正情報を取得する校正情報取得工程が実行される。
【0014】
そして、この校正情報取得工程では、まず、基礎データ取得工程が実行され、前記赤外線カメラを用いて、所定温度にある校正用物体を撮像したときの、前記素子温度検出センサから出力される前記赤外線検出素子の温度Ft、並びに前記各赤外線検出素子から出力される出力DLnが取得される。
【0015】
次に、前記輝度対出力相関取得工程が実行され、前記基礎データ取得工程において取得された温度Ft及び出力DLnに基づいて、前記赤外線検出素子の温度Ftが所定の温度であるときの、前記校正用物体から放射される放射輝度Ldnと各赤外線検出素子からの出力DLnとの相関が取得される。
【0016】
ついで、前記近似係数算出工程が実行され、前記輝度対出力相関取得工程において取得された放射輝度Ldnと出力DLnとの相関に基づいて、近似係数Aan、Abn、Acn、Ban、Bbn、Bcn、Can、Cbn及びCcnが算出される。尚、この近似係数Aan、Abn、Acn、Ban、Bbn、Bcn、Can、Cbn及びCcnが前記校正情報に該当するものである。
【0017】
このようにして、校正情報取得工程において校正情報が取得された後、前記赤外線カメラを用いた測定対象物(撮像対象物)の実測(実測工程)が可能となる。
【0018】
この実測工程では、前記赤外線カメラを用いて撮像対象物を撮像することによって実測データ取得工程が実行され、前記素子温度検出センサから出力される前記赤外線検出素子の温度Ftが取得されるとともに、前記各赤外線検出素子からその出力DLnが取得される。
【0019】
次に、温度補正係数算出工程が実行され、前記実測データ取得工程において取得された赤外線検出素子の温度Ft、並びに前記校正情報取得工程において算出された近似係数Aan、Abn、Acn、Ban、Bbn、Bcn、Can、Cbn及びCcnに基づいて、上記の数式1に従って温度補正係数an、bn及びcnが算出される。尚、数式1は、温度補正係数an、bn、cnと赤外線検出素子の温度(素子温度)Ftとの相関を定義する相関式である。
【0020】
ついで、放射輝度算出工程が実行され、前記実測データ取得工程において取得された赤外線検出素子からの出力DLn、並びに前記温度補正係数算出工程において算出された温度補正係数an、bn及びcnに基づき、上記の数式2に従って、前記撮像対象物から放射される放射輝度Ldnが算出される。尚、数式2は、放射輝度Ldnと出力DLnとの相関を定義する相関式である。
【0021】
斯くして、本発明に係る放射輝度算出方法によれば、各赤外線検出素子の出力DLnと、撮像対象物から放射される赤外線の放射輝度Ldnとの相関を、2次方程式である上記数式2により定義し、各赤外線検出素子からの出力DLnに基づき、前記数式2に従って放射輝度Ldnを算出(推定)するようにしているので、線形関係に基づいて放射輝度Ldnを算出するようにしていた従来に比べて、より現実に即した正確な放射輝度Ldnを算出することができる。
【0022】
尚、上記の校正情報取得工程は、以下の校正情報取得装置によって好適に実行することができる。即ち、この校正情報取得装置は、
2次元平面上に配列された複数のn個の赤外線検出素子を有する撮像部、及び前記赤外線検出素子の温度を検出する素子温度検出センサを備えた赤外線カメラを用いて、撮像対象物から放射される赤外線の放射輝度Ldnを算出する際に使用される校正情報を取得する装置であって、
所定温度にある校正用物体を前記赤外線カメラにより撮像したときの、前記素子温度検出センサから出力される前記赤外線検出素子の温度Ftを取得するとともに、前記各赤外線検出素子からの出力DLnを取得する基礎データ取得部と、
前記基礎データ取得部において取得された温度Ft及び出力DLnに基づいて、前記赤外線検出素子の温度Ftが所定の温度であるときの、前記校正用物体から放射される放射輝度Ldnと各赤外線検出素子からの出力DLnとの相関を取得する輝度対出力相関取得部と、
前記輝度対出力相関取得部において取得された放射輝度Ldnと出力DLnとの相関に基づいて、近似係数Aan、Abn、Acn、Ban、Bbn、Bcn、Can、Cbn及びCcnを算出する近似係数算出部と、から構成される。
【0023】
また、上記放射輝度算出方法において、
前記校正情報取得工程は、更に、
前記基礎データ取得工程によって取得された赤外線検出素子の温度Ft、及び出力DLnに基づいて、出力対温度の相関式を取得する出力対温度相関取得工程と、
前記出力対温度相関取得工程によって取得された出力対温度相関式に基づき、補間処理によって、赤外線検出素子の温度Ftと出力DLnとの相関データを算出する補間処理工程と、を備え、
前記輝度対出力相関取得工程は、前記基礎データ取得工程によって取得された温度Ft及び出力DLn、並びに前記補間処理工程によって算出された温度Ft及び出力DLnに基づいて、前記放射輝度Ldnと前記出力DLnとの相関を取得するように構成された態様を採ることができる。
【0024】
同様に、上記校正情報取得装置において、
前記基礎データ取得部によって取得された赤外線検出素子の温度Ft、及び出力DLnに基づいて、出力対温度の相関式を取得する出力対温度相関取得部と、
前記出力対温度相関取得部によって取得された出力対温度相関式に基づき、補間処理によって、赤外線検出素子の温度Ftと出力DLnとの相関データを算出する補間処理部と、を更に備え、
前記輝度対出力相関取得部は、前記基礎データ取得部によって取得された温度Ft及び出力DLn、並びに前記補間処理部によって算出された温度Ft及び出力DLnに基づいて、前記放射輝度Ldnと前記出力DLnとの相関を取得するように構成された態様を採ることができる。
【0025】
これらの態様では、前記基礎データ取得工程(基礎データ取得部)により取得された赤外線検出素子の温度Ft、及び出力DLnに基づいて、出力対温度相関取得工程(出力対温度相関取得部)により、出力対温度の相関式が取得される。
【0026】
そして、前記出力対温度相関取得工程(出力対温度相関取得部)によって取得された出力対温度相関式に基づいて、補間処理工程(補間処理部)において補間処理が実行され、赤外線検出素子の温度Ftと出力DLnとの相関データの補間が行われ、このようにして精度が高められた相関データに基づいて、前記輝度対出力相関取得工程(輝度対出力相関取得部)において、前記放射輝度Ldnと前記出力DLnとの相関が取得される。
【0027】
斯くして、この態様によれば、赤外線検出素子の温度Ftと出力DLnとの精度の高い精緻な相関データを得ることができるので、前記数式1に従った温度補正係数an、bn、cnを算出するための前記近似係数Aan、Abn、Acn、Ban、Bbn、Bcn、Can、Cbn及びCcnの精度を高めることができ、ひいては、撮像対象物のより精度の高い正確な放射輝度を算出することができる。また、画素間でバラツキの少ない低ノイズの画像を得ることができる。
【発明の効果】
【0028】
以上のように、本発明に係る放射輝度算出方法によれば、各赤外線検出素子の出力DLnと、撮像対象物から放射される赤外線の放射輝度Ldnとの相関を、2次方程式である上記数式2により定義し、各赤外線検出素子からの出力DLnに基づき、前記数式2に従って放射輝度Ldnを算出(推定)するようにしているので、線形関係に基づいて放射輝度Ldnを算出するようにしていた従来に比べて、より現実に即した正確な放射輝度Ldnを算出することができる。
【0029】
そして、本発明に係る校正情報取得装置によれば、より現実に即した正確な放射輝度Ldnを算出するための校正情報を好適に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態に係る赤外線カメラ、及び校正情報取得装置を説明するための概略図である。
【
図2】本実施形態に係る赤外線カメラの構成を示したブロック図である。
【
図3】本実施形態に係る校正情報取得装置の構成を示したブロック図である。
【
図4】放射輝度と黒体温度との関係を示した説明図である。
【
図5】放射輝度と素子出力との関係を示した説明図である。
【
図6】本実施形態に係る赤外線カメラの構造を示した説明図である。
【
図7】本実施形態に係る校正情報取得装置における処理を説明するための説明図である。
【
図8】本実施形態に係る校正情報取得装置における処理を説明するための説明図である。
【
図9】本実施形態に係る校正情報取得装置における処理を説明するための説明図である。
【
図10】本実施形態に係る校正情報取得装置における処理を説明するための説明図である。
【
図11】本実施形態に係る校正情報取得装置における処理を説明するための説明図である。
【
図12】本実施形態に係る校正情報取得装置における処理を説明するための説明図である。
【
図13】本実施形態に係る校正情報取得装置における処理を説明するための説明図である。
【
図14】本発明の他の実施形態に係る校正情報取得装置の構成を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の具体的な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る赤外線カメラ、及び校正情報取得装置を説明するための概略図であり、
図2は、本実施形態に係る赤外線カメラの構成を示したブロック図であり、
図3は、本実施形態に係る校正情報取得装置の構成を示したブロック図である。以下、各部の詳細について説明する。
【0032】
尚、本例では、
図1に示すように、まず、赤外線カメラ1を恒温ケース100内に収納した状態で、校正情報取得装置20に接続して、この校正情報取得装置20によって、校正情報を取得するとともに、得られた校正情報を前記赤外線カメラ1に格納し、この後、当該赤外線カメラ1を恒温ケース100から取り出して撮像対象物を撮像し、その表面温度に関するデータを測定する。尚、
図1において、恒温ケース100はペルチェ素子101によって調温されるようになっている。また、符号103は黒体であり、図示しない適宜温度調節器によって、所定の温度に調整される。また、黒体103と赤外線カメラ1のレンズ3との間には、シャッタ102が配置される。
【0033】
<赤外線カメラ>
本例の赤外線カメラ1は、
図1及び
図2に示すように、筐体2と、この筐体2内に配設されるレンズ3、撮像部6、素子温度検出センサ7及びデータ処理部8からなり、このデータ処理部8が前記校正情報取得装置20と接続可能に構成されている。
【0034】
前記レンズ3は、前記筐体2の開口部に、当該開口部を閉塞するように配設され、撮像対象物から放射される赤外線を、適宜間隔をあけて後方に並設される前記撮像部6に集光する。
【0035】
前記撮像部6は、2次元平面上に復行復列に配列された複数の赤外線検出素子6anを備えている。赤外線検出素子6anは、ボロメータと称される熱型の非冷却素子で、各赤外線検出素子6anは、入射光量に応じた電圧値を出力して、前記データ処理部8に入力する。また、撮像部6には、素子温度検出センサ7が付設されており、この素子温度検出センサ7から各赤外線検出素子6anの温度に係るデータがデータ処理部8に入力される。尚、この素子温度検出センサ7は、各赤外線検出素子6anの全体としての温度を検出する。また、nは1以上の自然数であって、赤外線検出素子の個数に対応しており、具体的な数値は前記各赤外線検出素子に対応する固有値である。特に断りがない限り、以下において、nは同様の意図で用いられている。
【0036】
前記データ処理部8は、A/D変換器9,10、近似係数記憶部12、温度補正係数算出部13、温度補正係数記憶部14、放射輝度算出部15、温度データ算出部16、D/A変換器17及び入出力インターフェース18などから構成される。
【0037】
尚、このデータ処理部8は、CPU、RAM、ROMなどを含むコンピュータから構成することができ、具体的には、前記A/D変換器9,10、温度補正係数算出部13、放射輝度算出部15、温度データ算出部16、D/A変換器17及び入出力インターフェース18はコンピュータプログラムによってその機能が実現される態様を採ることができる。或いは、前記A/D変換器9,10、温度補正係数算出部13、放射輝度算出部15、温度データ算出部16、D/A変換器17及び入出力インターフェース18は、それぞれ、適宜電子回路を備えた電子ディバイスによって実現することができる。また、前記近似係数記憶部12及び温度補正係数記憶部14はRAMなどの適宜記憶媒体から構成することができる。
【0038】
前記A/D変換器9は、前記素子温度検出センサ7から出力される、前記赤外線検出素子6anの温度に係るデータを入力してA/D変換し、変換後の素子温度Ftを前記温度補正係数算出部13に入力するとともに、切換スイッチ11を介して択一的に接続される入出力インターフェース18に送信する。また、前記A/D変換器10は、各赤外線検出素子6anからの出力をA/D変換して、変換後の素子出力DLnを、切換スイッチ11を介して択一的に接続される放射輝度算出部15又は入出力インターフェース18に送信する。
【0039】
前記近似係数記憶部12は、前記入出力インターフェース18を介して、前記校正情報取得装置20から入力された校正情報としての近似係数Aan、Abn、Acn、Ban、Bbn、Bcn、Can、Cbn及びCcnを格納する機能部である。
【0040】
前記近似係数Aan、Abn、Acn、Ban、Bbn、Bcn、Can、Cbn及びCcnは、各赤外線検出素子6anの出力(素子出力)DLnと、撮像対象物から放射される赤外線の放射輝度Ldnとの相関を、下記数式1の2次方程式(相関式)で定義したときの、当該相関式中の各温度補正係数an、bn、cnを算出するため係数である。
(数式1)
Ldn=an・DLn
2+bn・DLn+cn
尚、放射輝度Ldnは、赤外線検出素子6anに対応付けられる部分の撮像対象物の放射輝度である。
【0041】
具体的には、前記近似係数Aan、Abn、Acn、Ban、Bbn、Bcn、Can、Cbn及びCcnは、素子温度Ftに基づき、下記数式2の2次方程式(相関式)によって、温度補正係数an、bn、cnを算出する際に用いられる係数である。
(数式2)
an=Aan・Ft2+Abn・Ft+Acn
bn=Ban・Ft2+Bbn・Ft+Bcn
cn=Can・Ft2+Cbn・Ft+Ccn
【0042】
本発明者らの知見によれば、各赤外線検出素子6a
nの出力DL
nと、撮像対象物から放射される赤外線の放射輝度Ld
nとは、
図5において破線で示した線形の関係にはなく、実線で示した非線形の関係にある。これは、撮像対象物から放射される赤外線を赤外線検出素子6a
nに集光させるためのレンズ3等の光学機構が存在し(
図6参照)、また、赤外線検出素子6a
nには個体差があるからである。そこで、本実施形態では、2次方程式である上記数式1に従い、素子出力DL
nから、撮像対象物の放射輝度Ld
nを算出(推定)することとした。尚、この近似係数Aa
n、Ab
n、Ac
n、Ba
n、Bb
n、Bc
n、Ca
n、Cb
n及びCc
nの意義、及び算出手法については、後述の校正情報出億装置20に係る説明の際に、詳しく説明する。また、
図6における符号4は、レンズ3を保持する保持部であり、符号5は、前記保持部4に固設されて、前記撮像部6を保持する保持部である。
【0043】
前記温度補正係数算出部13は、前記素子温度検出センサ7から出力され、前記A/D変換器9を介して入力される素子温度Ft、並びに前記近似係数記憶部12に格納された前記近似係数Aan、Abn、Acn、Ban、Bbn、Bcn、Can、Cbn及びCcnに基づいて、上記数式2に従って、前記温度補正係数an、bn、cnを算出し、算出した温度補正係数an、bn、cnを前記温度補正係数記憶部14に格納する処理を行う。
【0044】
前記放射輝度算出部15は、前記各赤外線検出素子6aから出力され、前記A/D変換器10を介して入力される素子出力DLn、並びに前記温度補正係数記憶部14に格納された温度補正係数an、bn、cnに基づいて、前記数式1に従って、放射輝度Ldnを算出する処理を行う。
【0045】
また、前記温度データ算出部16は、前記放射輝度算出部15によって算出された放射輝度Ldnに基づいて、撮像対象物の各赤外線検出素子6aに対応する部位の温度を算出する処理を行う。放射輝度Ldnから温度データへの変換は、例えば、後述する数式3の逆関数を用いて算出することができる。尚、この温度データは摂氏で表されているのが好ましい。
【0046】
前記D/A変換器22は、温度データをアナログデータ(画像データ)に変換する処理部であり、このようにして変換された画像データが前記入出力インターフェース18を介して外部に出力される。尚、画像データは、グレー階調の濃淡画像であることができ、或いは、RGB成分で構成されるカラー画像であることができる。
【0047】
<校正情報取得装置>
図3に示すように、前記校正情報取得装置20は、入出力インターフェース21、基礎データ取得部22、出力対温度相関取得部23、補間処理部24、輝度対出力相関取得部25及び近似係数算出部26から構成され、校正情報として、前記近似係数Aa
n、Ab
n、Ac
n、Ba
n、Bb
n、Bc
n、Ca
n、Cb
n及びCc
nを取得するように構成された装置である。
【0048】
尚、この校正情報取得装置20は、CPU、RAM、ROMなどを含むコンピュータから構成することができ、前記入出力インターフェース21、基礎データ取得部22、出力対温度相関取得部23、補間処理部24、輝度対出力相関取得部25及び近似係数算出部26は、それぞれコンピュータプログラムによってその機能が実現される態様を採ることができる。
【0049】
上述したように、この校正情報取得装置20は、赤外線カメラ1を
図1に示した恒温ケース100内に収納した状態で、当該赤外線カメラ1に接続され、この赤外線カメラ1から
図7に示すような基礎データを取得する。
【0050】
前記基礎データ取得部22は、前記入出力インターフェース21を介して、前記赤外線カメラ1から、前記素子温度Ft、及び素子出力DL
nを取得する機能部である。前記基礎データは、
図7に示すように、前記恒温ケース100の温度を、例えば10℃から10℃間隔で4段階(Rt
1~Rt
4)に設定するとともに、黒体103の温度も10℃間隔で例えば3段階(T
1~T
3)に設定した状態で、それぞれ素子温度Ft
1~Ft
4について、それぞれ黒体103の温度がT
1~T
3のときに、前記シャッタ102を開くことで各赤外線検出素子6a
nから出力される素子出力DL
nT
1~DL
nT
3である。尚、温度間隔及び設定温度はあくまでも一例であって、これに限定されるものではない。
【0051】
前記出力対温度相関取得部23は、前記基礎データ取得部22によって取得された赤外線検出素子6a
nの素子温度Ft、及び各素子出力DL
nに基づいて、出力対温度の相関式を取得する。前記基礎データ取得部22によって取得された基礎データを、素子出力DL
nと素子温度Ftの関係で表すと、
図8に示すようになる。
【0052】
図8において、各赤外線検出素子6a
nにおける素子出力DL
nと素子温度Ftとの相関は、それぞれ、黒体103の温度がT
1、T
2及びT
3のときに、以下の近似式によって近似される。
DL
nT
1=A
n1・Ft
3+B
n1・Ft
2+ C
n1・Ft+D
n1
DL
nT
2=A
n2・Ft
3+B
n2・Ft
2+ C
n2・Ft+D
n2
DL
nT
3=A
n3・Ft
3+B
n3・Ft
2+ C
n3・Ft+D
n3
尚、各近似式における係数A
n1~A
n3、B
n1~B
n3、C
n1~C
n3、D
n1~D
n3は、それぞれ最小二乗法等の手法によって算出することができる。
但し、近似式としてはこの3次方程式に限られるものではなく、2次方程式、或いは4次以上の高次方程式によって近似するようにしても良い。
【0053】
前記補間処理部24は、前記出力対温度相関取得部23によって取得された上記各式を用いて、データを補間する処理を行う機能部である。
図9に、Ft
1~Ft
2の間のデータを補間する例を示している。
図9において、黒丸でプロットした値が実測値であり、白丸でプロットした値が補間値である。この例では、Ft
1~Ft
2の間を2.5℃毎に補間しているが、これは一例であって、これに限られるものではない。また、Ft
2~Ft
4の間についても補間するようにしても良い。
【0054】
前記輝度対出力相関取得部25は、前記基礎データ取得部22によって取得された素子温度Ft及び素子出力DLn、並びに前記補間処理部24によって算出された素子温度Ft及び素子出力DLnに基づいて、前記放射輝度Ldnと前記出力DLnとの相関を取得する機能部である。
【0055】
まず、輝度対出力相関取得部25は、黒体103の温度T1~T3毎に、以下の数式3に従って、当該黒体103の放射輝度を算出する。
(数式3)
但し、Ltは、放射輝度(W・sr-1・m-2)であり、Ldは、Ltをデジタルレベル(2のn乗)にスケール変換した値に相当する。
また、λは物体から発散する放射の波長(m)であり、λ1~λ2は、赤外線検出素子6aの感度波長帯である。
また、Tは物体の絶対温度(K)であり、黒体103及び撮像対象物の温度に相当する。
また、C1,C2は放射の定数であり、
C1=c2h=5.9548×10-17(W・m2)
C1=ch/k=0.014388(m・K)
である。また、cは真空中の光の速度(c=2.99792458×108m・s-1)、hはプランク定数(h=6.6256×10-34J・s)、kはボルツマン定数(k=1.38054×10-23J・K-1)である。
【0056】
尚、上記数式3から分かるように、黒体103の放射輝度Ldnは黒体103の温度T1~T3毎に一意の値として得られる。そして、輝度対出力相関取得部25は、得られた黒体103の温度T1~T3毎の放射輝度LdT1~LdT3について、前記放射輝度Ldnと前記出力DLnとの関係を、素子温度Ftごとに取得する。
【0057】
前記放射輝度Ld
nと前記出力DL
nとの相関を、
図10に示している。
図10では、素子温度Ftが、それぞれFt
1、Ft
1+1、Ft
1+2、Ft
1+3、Ft
2であるときの前記放射輝度Ld
nと前記出力DL
nとの相関を示しており、各相関とも以下の2次方程式で近似される。尚、素子温度Ft
1+1、Ft
1+2、Ft
1+3は補間値である。
Ld
nFt1=a
nFt1・DL
nFt1
2+b
nFt1・DL
nFt1+c
nFt1
Ld
nFt1+1=a
nFt1+1・DL
nFt1+1
2+b
nFt1+1・DL
nFt1+1+c
nFt1+1
Ld
nFt1+2=a
nFt1+2・DL
nFt1+2
2+b
nFt1+2・DL
nFt1+2+c
nFt1+2
Ld
nFt1+3=a
nFt1+3・DL
nFt1+3
2+b
nFt1+3・DL
nFt1+3+c
nFt1+3
Ld
nFt2=a
nFt2・DL
nFt2
2+b
nFt2・DL
nFt2+c
nFt2
但し、近似式としてはこの2次方程式に限られるものではなく、2次以上の高次方程式によって近似するようにしても良い。
【0058】
上式において、LdnFt1は素子温度がFt1のときの放射輝度であり、同様に、LdnFt1+1は素子温度がFt1+1のときの放射輝度、LdnFt1+2は素子温度がFt1+2のときの放射輝度、LdnFt1+3は素子温度がFt1+3のときの放射輝度、LdnFt2は素子温度がFt2のときの放射輝度である。また、DLnFt1は素子温度がFt1のときの素子出力であり、同様に、DLnFt1+1は素子温度がFt1+1のときの素子出力、DLnFn1+2は素子温度がFt1+2のときの素子出力、DLnFt1+3は素子温度がFt1+3のときの素子出力、DLnFt2は素子温度がFt2のときの素子出力である。
【0059】
また、前記anFt1、anFt1+1、anFt1+2、anFt1+3、anFt2、bnFt1、bnFt1+1、bnFt1+2、bnFt1+3、bnFt2、cnFt1、cnFt1+1、cnFt1+2、cnFt1+3、+cnFt2は、素子温度FtがそれぞれFt1、Ft1+1、Ft1+2、Ft1+3、Ft2であるときの前記放射輝度Ldnと前記出力DLnとの相関を定義するための温度補正係数である。
【0060】
前記近似係数算出部26は、前記輝度対出力相関取得部25によって取得された放射輝度Ldnと前記出力DLnとの相関データに基づいて、前記各温度補正係数an、bn、cnと素子温度Ftとの相関関係を取得し、得られた相関関係から、各温度補正係数an、bn、cnを算出すための近似係数Aan、Abn、Acn、Ban、Bbn、Bcn、Can、Cbn及びCcnを算出する処理を行う。
【0061】
図11に、係数a
nと素子温度Ftとの関係を示し、
図12に、係数b
nと素子温度Ftとの関係を示し、
図13に、係数c
nと素子温度Ftとの関係を示している。これらから分かるように、係数a
n、b
n、c
nはそれぞれ、以下の数式によって近似される。
a
n=Aa
n・Ft
2+Ab
n・Ft+Ac
n
b
n=Ba
n・Ft
2+Bb
n・Ft+Bc
n
c
n=Ca
n・Ft
2+Cb
n・Ft+Cc
n
【0062】
そして、各近似式における近似係数Aan、Abn、Acn、Ban、Bbn、Bcn、Can、Cbn、Ccnは、それぞれ最小二乗法等の手法によって算出することができ、前記近似係数算出部16は、このようにして算出した近似係数Aan、Abn、Acn、Ban、Bbn、Bcn、Can、Cbn、Ccnを、入出力インターフェース21を介して前記赤外線カメラ1に送信し、赤外線カメラ1は送信された近似係数Aan、Abn、Acn、Ban、Bbn、Bcn、Can、Cbn、Ccnを、入出力インターフェース18を介して前記近似係数記憶部12に格納する。
【0063】
以上の構成を備えた本例の赤外線カメラ1、及び校正情報取得装置20によれば、まず、赤外線カメラ1を恒温ケース100内に収納した状態で、校正情報取得装置20と接続した後、以下の校正情報取得工程が実行される。
【0064】
即ち、まず、前記恒温ケース100の温度、及び黒体103の温度をそれぞれ所定の温度に設定した状態で、前記赤外線カメラ1によって黒体103を撮像し、校正情報取得装置2は、このとき得られた素子温度Ft及び素子出力DLnを、その基礎データ取得部22により、基礎データとして前記赤外線カメラ1から取得する(基礎データ取得工程)。
【0065】
次に、校正情報取得装置2は、前記基礎データ取得部22によって取得された赤外線検出素子6anの素子温度Ft、及び素子出力DLnに基づいて、出力対温度相関取得部23により、素子出力DLnと素子温度Ftとの相関式を取得した後(出力対温度相関取得工程)、得られた素子出力DLnと素子温度Ftとの相関式に基づいて、前記補間処理部24によって、素子出力DLnと素子温度Ftとの相関データを補間する処理を実行する(補間処理工程)。
【0066】
次に、校正情報取得装置2は、前記基礎データ取得部22によって取得された素子温度Ft及び素子出力DLn、並びに前記補間処理部24によって算出された素子温度Ft及び素子出力DLnに基づいて、輝度対出力相関取得部25により、前記放射輝度Ldnと前記素子出力DLnとの相関を取得する(輝度対出力相関取得工程)。
【0067】
ついで、校正情報取得装置2は、取得された放射輝度Ldnと素子出力DLnとの相関に基づいて、前記近似係数算出部26により、校正情報としての前記近似係数Aan、Abn、Acn、Ban、Bbn、Bcn、Can、Cbn及びCcnを算出した後(近似係数算出工程)、算出した近似係数Aan、Abn、Acn、Ban、Bbn、Bcn、Can、Cbn及びCcnを赤外線カメラ1の近似係数記憶部12に格納する処理を行う。
【0068】
そして、以上のようにして、赤外線カメラ1及び校正情報取得装置20との協働によって、校正情報取得工程を実行した後、前記赤外線カメラ1を用いて撮像対象物を撮像することで、当該撮像対象物から放射される赤外線の放射輝度Ldnを算出する実測工程が実行される。
【0069】
即ち、まず、赤外線カメラ1を用いて、撮像対象物を撮像することで、そのときに赤外線検出センサ7によって検出される赤外線検出素子6aの素子温度Ft、及び各赤外線検出素子6aから出力される素子出力DLnが、それぞれA/D変換器9,10を経て、実測データとして取得される(実測データ取得工程)。
【0070】
取得された素子温度Ftは、前記温度補正係数算出部13に入力され、この温度補正係数算出部13において、入力された素子温度Ft、並びに前記近似係数記憶部12に格納された近似係数Aan、Abn、Acn、Ban、Bbn、Bcn、Can、Cbn及びCcnに基づいて、上記数式2に従って、前記温度補正係数an、bn、cnを算出し、算出した温度補正係数an、bn、cnを前記温度補正係数記憶部14に格納する処理が行われる(温度補正係数算出工程)。
【0071】
一方、取得された素子出力DLnは前記放射輝度算出部15に入力され、この放射輝度算出部15において、入力された素子出力DLn、並びに前記温度係数記憶部14に格納された温度係数an、bn及びcnに基づいて、上記数式1に従って、撮像対象物の放射輝度Ldnが算出される(放射輝度算出工程)。
【0072】
次に、前記温度データ算出部16において、前記放射輝度算出部15で算出された放射輝度Ldnに基づいて、撮像対象物の温度データが生成され、生成された温度データをD/A変換器17によりアナログデータに変換することにより、濃淡画像やカラー画像が生成される。
【0073】
以上のように、本例によれば、各赤外線検出素子6aの素子出力DLnと、撮像対象物から放射される赤外線の放射輝度Ldnとの相関を、2次方程式である上記数式1により定義し、各赤外線検出素子6aからの素子出力DLnに基づいて、前記数式1に従って放射輝度Ldnを算出(推定)するようにしているので、線形関係に基づいて放射輝度Ldnを算出するようにしていた従来に比べて、より現実に即した正確な放射輝度Ldnを算出することができ、ひいては、従来に比べて、撮像対象物のより正確な温度を算出することができる。
【0074】
また、本例によれば、前記出力対温度相関取得部23によって取得された出力対温度相関式に基づいて、前記補間処理部24による補間処理が実行され、赤外線検出素子6aの素子温度Ftと素子出力DLnとの相関データの補間が行われ、このようにして精度が高められた相関データに基づいて、前記輝度対出力相関取得部25により、前記放射輝度Ldnと前記出力DLnとの相関が取得される。
【0075】
このように、本例によれば、赤外線検出素子6aの素子温度Ftと素子出力DLnとの精度の高い精緻な相関データを得ることができるので、前記数式2に従った温度補正係数an、bn、cnを算出するための前記近似係数Aan、Abn、Acn、Ban、Bbn、Bcn、Can、Cbn及びCcnの精度を高めることができ、ひいては、撮像対象物のより精度の高い正確な温度を算出することができる。また、画素間でバラツキの少ない低ノイズの画像を得ることができる。
【0076】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明が採り得る具体的な態様は、何ら上例の態様に限られるものでは無い。
【0077】
例えば、上例では、校正情報取得装置20において、出力対温度相関取得部23及び補間処理部24を設けて、素子温度Ftと素子出力DL
nとの相関データを補間するようにしたが、このような態様に限られるものでは無く、ある程度正確な近似係数Aa
n、Ab
n、Ac
n、Ba
n、Bb
n、Bc
n、Ca
n、Cb
n及びCc
nを算出することができる場合には、
図14に示すように、出力対温度相関取得部23及び補間処理部24を省略した態様の校正情報取得装置20’とすることができる。
【0078】
また、上例では、赤外線カメラ1において、温度データ算出部16を設けたが、放射輝度算出部15によって算出された放射輝度Ld
nから画像データを生成する場合には、
図2に示した温度データ算出部16を省略することができる。
【0079】
また、上例の赤外線カメラ1において、放射輝度算出部15によって算出された放射輝度Ld
nをそのまま入出力インターフェース18を介して外部に出力する態様を採用する場合には、
図2に示した温度データ算出部16、及びD/A変換器17を省略することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 赤外線カメラ
2 筐体
3 レンズ
6 撮像部
6a 赤外線検出素子
7 素子温度検出センサ
8 データ処理部
9,10 A/D変換器
11 切換スイッチ
12 近似係数記憶部
13 温度補正係数算出部
14 温度補正係数記憶部
15 放射輝度算出部
16 温度データ算出部
17 D/A変換器
18 入出力インターフェース
20 校正情報取得装置
22 基礎データ取得部
23 出力対温度相関取得部
24 補間処理部
25 輝度対出力相関取得部
26 近似係数算出部