(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152040
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物およびポリアミド樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20231005BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20231005BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20231005BHJP
C08G 69/04 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L1/02
C08K7/02
C08G69/04
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061968
(22)【出願日】2022-04-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】連 康一
(72)【発明者】
【氏名】友利 剛士
(72)【発明者】
【氏名】中井 美穂
【テーマコード(参考)】
4J001
4J002
【Fターム(参考)】
4J001DA01
4J001DB01
4J001EA06
4J001EA08
4J001EA15
4J001EA17
4J001EB08
4J001EC08
4J001FA03
4J001FB03
4J001GA03
4J001GA14
4J001GA15
4J001GB02
4J001GB04
4J001GB05
4J001GD07
4J001GD08
4J001JA04
4J001JA05
4J001JA07
4J001JB14
4J001JB23
4J002AB01X
4J002CL01W
4J002CL03W
4J002FA04X
4J002FD01X
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】 (修正有)
【課題】黒点異物が少なく、曲げ弾性率、引張弾性率および線膨張係数等の機械的特性が十分に向上しているポリアミド樹脂組成物、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリアミド樹脂100質量部に対してセルロース繊維0.01~200質量部を含有するポリアミド樹脂組成物であって、前記ポリアミド樹脂組成物からなるペレット100個当たりの黒点異物含有ペレットの個数が10個以下であるポリアミド樹脂組成物、および、前記ポリアミド樹脂が重合温度で液体状態のモノマーをモノマー成分として含む、ポリアミド樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂100質量部に対してセルロース繊維0.01~200質量部を含有するポリアミド樹脂組成物であって、前記ポリアミド樹脂組成物からなるペレット100個当たりの黒点異物含有ペレットの個数が10個以下であるポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂が重合温度で液体状態のモノマーをモノマー成分として含む、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
水を用いて製造される、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
ポリアミド樹脂組成物から得られる成形体の引張弾性率が3.0GPaを超える請求項1~3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記成形体の線膨張係数が40×10-6(1/℃)以下である、請求項1~4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記成形体の線膨張係数が、溶融重合法により製造されたポリアミド樹脂組成物から得られる成形体の線膨張係数を基準として、30%以上の低下率を示す、請求項5に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
前記セルロース繊維の含有量がポリアミド樹脂100質量部に対して4~100質量部である、請求項1~6のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
前記セルロース繊維の含有量がポリアミド樹脂100質量部に対して8~100質量部であり、
前記ポリアミド樹脂が重合温度で液体状態のモノマーをモノマー成分として含む、請求項1~7のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
前記セルロース繊維の含有量がポリアミド樹脂100質量部に対して22~100質量部であり、
前記ポリアミド樹脂が重合温度で液体状態のモノマーをモノマー成分として含むポリアミド6である、請求項1~8のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項10】
前記セルロース繊維(B)の平均繊維径が10μm以下である、請求項1~9のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項11】
ポリアミド樹脂の融点未満で重合反応を行う請求項1~10のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
重合温度で液体状態のモノマーおよび水を用いる、請求項11に記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
前記重合温度が、ポリアミド樹脂の融点-75(℃)以上、ポリアミド樹脂の融点未満である、請求項11または12に記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項1~10のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を製造する、請求項11~13のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項15】
請求項11~14のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法により製造される、ポリアミド樹脂組成物。
【請求項16】
請求項1~10のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物または請求項15に記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体。
【請求項17】
請求項16に記載の成形体を粉砕および/またはリペレット化した再生材。
【請求項18】
請求項1~10のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物または請求項15に記載のポリアミド樹脂組成物と、請求項17に記載の再生材の混合物。
【請求項19】
請求項18に記載の混合物を成形してなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物およびポリアミド樹脂組成物の製造方法に関する。本発明は、詳しくは、セルロース繊維とポリアミド樹脂からなり、黒点異物が少なく、機械的特性が向上し、特に引張弾性率と線膨張係数の両方に優れ、払出し性も良好なポリアミド樹脂組成物、および、セルロース繊維の含有量が多量であっても樹脂中にセルロース繊維が均一に分散されている前記ポリアミド樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂をガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレイ等の無機充填材で強化した樹脂組成物が広く知られている。しかしこれらの無機充填材などの強化材を用いる場合は、無機充填材を多量に配合しないと機械的特性や耐熱性が改善しないという問題点や、比重が高いために得られる樹脂組成物の質量が大きくなるという問題点がある。
【0003】
近年、樹脂材料の強化材としてセルロースを用いることが検討されている。セルロースには、樹木から得られるものや、稲、綿、ケナフ、バガス、アバカ、麻等の非木材資源から得られるものや、微生物が生産するバクテリアセルロース等がある。これらは、地球上に非常に多量に存在する。セルロースは機械的特性に優れており、これを樹脂中に含有させることにより、樹脂組成物の特性を向上させる効果が期待される。さらに、セルロースは、比重が無機充填材よりも小さいため、これを樹脂中に含有させて得られる樹脂組成物の質量が大きくなるという問題もない。
【0004】
例えば、特許文献1には、セルロース繊維の水分散液と、ポリアミド樹脂を構成するモノマーとを混合し、溶融重合することで、機械的特性、耐熱性が向上したポリアミド樹脂組成物が得られることが開示されている。
【0005】
また例えば、特許文献2には、相対粘度が特定の値のポリアミド樹脂組成物を、固相重合により高分子量化することで、高強度でありながらも、良好な色調を有し、また払出し性が良好な、セルロース含有ポリアミド樹脂組成物が得られることが開示されている。
【0006】
また例えば、特許文献3には、反応容器内壁の温度を粉粒体原料の重合温度よりも低く保ちながら、粉粒体原料を撹拌熱により原料を加熱し、反応容器内壁の温度よりも高温の重合温度として固相重合する技術が記載されている。
また例えば、特許文献4には、ポリアミド低次縮合物を用いて固相重合する技術が記載されている。
また例えば、特許文献5には、ポリアミドを固相重合する技術が記載されている。
また例えば、特許文献6および7には、セルロースを配合することにより補強効果が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開2011/126038号パンフレット
【特許文献2】国際公開2016/140240号パンフレット
【特許文献3】国際公開2017/208857号パンフレット
【特許文献4】特開2000-159885号公報
【特許文献5】特開2006-290978号公報
【特許文献6】特開2014-148629号公報
【特許文献7】米国特許公開公報2019/0092909号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の方法では、ポリアミド樹脂とセルロース繊維を複合化させる過程で、熱により変色したセルロース、セルロースの熱による分解物、セルロース中のヘミセルロースやリグニン等その他の成分の変色物や分解物がポリアミド樹脂組成物中に黒点異物として混入することがあった。そのような黒点異物が混入したポリアミド樹脂組成物を用いた場合、良好な外観を有する成形体を得ることができなかった。また、従来の方法では、曲げ弾性率、引張弾性率および線膨張係数のいずれにも十分に優れたポリアミド樹脂組成物を得ることはできなかった。また、従来のポリアミド樹脂組成物は十分に優れた耐熱性を得ることができないことがあった。
【0009】
詳しくは以下の通りである。
特許文献1に記載の方法では、ポリアミド樹脂組成物の溶融重合時に重合温度をポリアミド樹脂の融点以上に昇温するため、熱によって変色したセルロースや熱分解物等が黒点異物として混入することがある。また、ポリアミド樹脂組成物の引張弾性率を十分に向上させることができない。さらに、特許文献1に記載の方法では、ポリアミド樹脂組成物の線膨張係数および耐熱性を十分に向上させることができないことがある。
また、特許文献2に記載の方法では、良好な色調を有するポリアミド樹脂組成物は得られるものの、黒点異物が混入することがあった。また、ポリアミド樹脂組成物の曲げ弾性率は向上するが、引張弾性率および線膨張係数を十分に向上させることができない。さらに、特許文献2に記載の方法では、ポリアミド樹脂組成物の耐熱性を十分に向上させることができないことがある。
【0010】
また、特許文献1および2のいずれの方法でも、セルロース繊維の含有量が多量である場合(例えば、セルロース繊維の含有量がポリアミド樹脂100質量部に対して50質量部を越える場合)、セルロースが分離してしまい、セルロース繊維を樹脂組成物中に含有させることが困難であったり、得られた樹脂組成物に着色が生じたりするといった問題がある。
【0011】
また、特許文献1および2のいずれの方法でも、樹脂組成物の製造時に、ポリマーを溶融状態に保持しなければならず、重合の進行に伴い、溶融粘度が高くなって払出しが困難となり、結果的に収率が悪くなるという問題もある。
【0012】
さらに、特許文献3~5の技術では、固相重合を行うため、このような技術に対して、特許文献6および7に記載のようなセルロース繊維の配合技術を適用しても、ポリアミド樹脂組成物の機械的特性(特に引張弾性率および線膨張係数)ならびに耐熱性を十分に向上させることができない。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑み、黒点異物が少なく、曲げ弾性率、引張弾性率および線膨張係数等の機械的特性(特に引張弾性率および線膨張係数の両方)が十分に向上しているポリアミド樹脂組成物、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
本発明はまた、黒点異物が少なく、曲げ弾性率、引張弾性率および線膨張係数等の機械的特性(特に引張弾性率および線膨張係数の両方)が十分に向上しており、かつ良好な払出し性を有するポリアミド樹脂組成物、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0015】
本発明はまた、黒点異物が少なく、曲げ弾性率、引張弾性率および線膨張係数等の機械的特性(特に引張弾性率および線膨張係数の両方)が十分に向上しており、かつ良好な払出し性を有するとともに、セルロース繊維の含有量が比較的多量(例えば、ポリアミド樹脂100質量部に対して50質量部以上)であっても、セルロース繊維を均一に含有するポリアミド樹脂組成物、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0016】
本発明はまた、黒点異物が少なく、曲げ弾性率、引張弾性率および線膨張係数等の機械的特性(特に引張弾性率および線膨張係数の両方)ならびに耐熱性が十分に向上しているポリアミド樹脂組成物、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0017】
本発明はまた、黒点異物が少なく、曲げ弾性率、引張弾性率および線膨張係数等の機械的特性(特に引張弾性率および線膨張係数の両方)ならびに耐熱性が十分に向上しており、かつ良好な払出し性を有するポリアミド樹脂組成物、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0018】
本発明はまた、黒点異物が少なく、曲げ弾性率、引張弾性率および線膨張係数等の機械的特性(特に引張弾性率および線膨張係数の両方)ならびに耐熱性が十分に向上しており、かつ良好な払出し性を有するとともに、セルロース繊維の含有量が比較的多量(例えば、ポリアミド樹脂100質量部に対して50質量部以上)であっても、セルロース繊維を均一に含有するポリアミド樹脂組成物、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、本発明者らは、セルロース繊維を含有するポリアミド樹脂組成物を、ポリアミド樹脂組成物の融点未満の温度での重合により得ることで、上記目的が達成されることを見出し、本発明に到達した。
【0020】
本発明の要旨は、以下の通りである。
<1>ポリアミド樹脂100質量部に対してセルロース繊維0.01~200質量部を含有するポリアミド樹脂組成物であって、前記ポリアミド樹脂組成物からなるペレット100個当たりの黒点異物含有ペレットの個数が10個以下であるポリアミド樹脂組成物。
<2>前記ポリアミド樹脂が重合温度で液体状態のモノマーをモノマー成分として含む、<1>に記載のポリアミド樹脂組成物。
<3>水を用いて製造される、<1>または<2>に記載のポリアミド樹脂組成物。
<4>ポリアミド樹脂組成物から得られる成形体の引張弾性率が3.0GPaを超える<1>~<3>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
<5>前記成形体の線膨張係数が40×10-6(1/℃)以下である、<1>~<4>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
<6>前記成形体の線膨張係数が、溶融重合法により製造されたポリアミド樹脂組成物から得られる成形体の線膨張係数を基準として、30%以上の低下率を示す、<5>に記載のポリアミド樹脂組成物。
<7>前記セルロース繊維の含有量がポリアミド樹脂100質量部に対して4~100質量部である、<1>~<6>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
<8>前記セルロース繊維の含有量がポリアミド樹脂100質量部に対して8~100質量部であり、
前記ポリアミド樹脂が重合温度で液体状態のモノマーをモノマー成分として含む、<1>~<7>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
<9>前記セルロース繊維の含有量がポリアミド樹脂100質量部に対して22~100質量部であり、
前記ポリアミド樹脂が重合温度で液体状態のモノマーをモノマー成分として含むポリアミド6である、<1>~<8>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
<10>前記セルロース繊維(B)の平均繊維径が10μm以下である、<1>~<9>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
<11>ポリアミド樹脂の融点未満で重合反応を行う<1>~<10>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
<12>重合温度で液体状態のモノマーおよび水を用いる、<11>に記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
<13>前記重合温度が、ポリアミド樹脂の融点-75(℃)以上、ポリアミド樹脂の融点未満である、<11>または<12>に記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
<14><1>~<10>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を製造する、<11>~<13>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
<15><11>~<14>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法により製造される、ポリアミド樹脂組成物。
<16><1>~<10>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物または<15>に記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体。
<17><16>に記載の成形体を粉砕および/またはリペレット化した再生材。
<18><1>~<10>のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物または<15>に記載のポリアミド樹脂組成物と、<17>に記載の再生材の混合物。
<19><18>に記載の混合物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0021】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、黒点異物が少なく、良好な外観を有する成形体を得ることができる。
本発明のポリアミド樹脂組成物はまた、曲げ弾性率、引張弾性率および線膨張係数等の機械的特性(特に引張弾性率および線膨張係数の両方)が十分に向上している。
本発明のポリアミド樹脂組成物はまた、良好な払出し性を有する。本発明のポリアミド樹脂組成物はさらに、セルロース繊維の含有量が比較的多量(例えば、ポリアミド樹脂100質量部に対して50質量部以上)であっても、セルロース繊維を比較的均一に含有する。その結果、曲げ弾性率、引張弾性率および線膨張係数等の機械的特性(特に引張弾性率および線膨張係数の両方)が十分に向上するものと考えられる。
本発明のポリアミド樹脂組成物はまた、耐熱性が十分に向上している。
本発明のポリアミド樹脂組成物はまた、良好なリサイクル性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[ポリアミド樹脂組成物]
本発明のポリアミド樹脂組成物はポリアミド樹脂および当該ポリアミド樹脂中に分散されたセルロース繊維を含有する。
【0023】
本発明におけるポリアミド樹脂とは、アミノカルボン酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸とによって形成されるアミド結合を有する重合体をいう。
【0024】
アミノカルボン酸としては、例えば、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸が挙げられる。
【0025】
ラクタムとしては、例えば、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタムが挙げられる。
【0026】
ジアミンとしては、例えば、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジンが挙げられる。
【0027】
ジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ジグリコール酸が挙げられる。
【0028】
ポリアミド樹脂の具体例として、例えば、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリウンデカンアミド(ポリアミド11)、ポリドデカンアミド(ポリアミド12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミドTMHT)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリヘキサメチレンテレフタル/イソフタルアミド(ポリアミド6T/6I)、ポリビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド11T)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ポリアミド11T(H))が挙げられ、これらの共重合体や混合物であってもよい。なかでも、黒点異物のさらなる抑制、ならびに機械的特性(特に引張弾性率および線膨張係数)、耐熱性、払出し性およびセルロース繊維分散均一性のさらなる向上の観点から、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、またはこれらの共重合体や混合物が好ましい。上記と同様の観点から、ポリアミド6、ポリアミド66またはポリアミド12がより好ましく、ポリアミド6またはポリアミド12がさらに好ましく、ポリアミド6が特に好ましい。本明細書中、機械的特性は、曲げ弾性率、引張弾性率および線膨張係数(特に引張弾性率および線膨張係数)を包含する概念で用いるものとする。
【0029】
本発明におけるセルロース繊維としては、木材、稲、綿、ケナフ、バガス、アバカ、麻等に由来するものが挙げられる。その他に、バクテリアセルロース、バロニアセルロース、ホヤセルロース等の生物由来のものも挙げられる。また、再生セルロース、セルロース誘導体等も挙げられる。黒点異物のさらなる抑制、ならびに機械的特性(特に引張弾性率および線膨張係数)、耐熱性、払出し性およびセルロース繊維分散均一性のさらなる向上の観点から、セルロース繊維は、木材に由来するセルロース繊維であることが好ましい。
【0030】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、セルロース繊維を均一に含有することによって、機械的特性を向上することができる。機械的特性をより十分に向上させるには、セルロース繊維を凝集させることなく、樹脂中により均一に分散させることが好ましい。セルロース繊維は、ポリアミド樹脂と接するセルロース繊維表面の水酸基が多いほど分散しやすいため、全体としての表面積が大きいことが好ましい。このため、セルロース繊維は、できるだけ微細化されたものが好ましい。なお、用いるセルロース繊維としては、最終的に樹脂組成物中に均一に分散できるものであれば、化学的に未変性のものでも、化学的に変性させたものでも、特に限定されない。
【0031】
したがって、本発明の樹脂組成物におけるセルロース繊維は、黒点異物のさらなる抑制、ならびに機械的特性(特に引張弾性率および線膨張係数)、耐熱性、払出し性およびセルロース繊維分散均一性のさらなる向上の観点から、その平均繊維径が10μm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましく、150nm以下であることが特に好ましく、120nm以下であることが最も好ましい。一方、平均繊維径の下限は特に限定するものではないが、セルロース繊維の生産性を考慮すると4nmであることが好ましい。
【0032】
本発明の樹脂組成物におけるセルロース繊維のアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は、10以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましく、40以上であることがさらに好ましく、50以上であることが特に好ましく、100以上であることが最も好ましい。アスペクト比が10以上であることにより、ポリアミド樹脂組成物の機械的特性がより向上する。
【0033】
本発明においては、樹脂組成物におけるセルロース繊維の平均繊維径および平均繊維長はそれぞれ、当該樹脂組成物を用いて得られた成形体における平均繊維径および平均繊維長を指す。詳しくは、十分に乾燥した樹脂組成物を、射出成形機(日精樹脂工業社製 NEX110-12E)を用いて射出成形して得られた、ISO規格3167に記載のダンベル試験片における平均繊維径および平均繊維長を用いている。このときの詳しい成形条件は以下の通りである。ポリアミド樹脂がポリアミド6の場合、射出成形の条件は、樹脂温度250℃、金型温度70℃、射出時間12秒、冷却時間20秒とした。ポリアミド樹脂がポリアミド66の場合、射出成形の条件は、樹脂温度290℃、金型温度80℃、射出時間12秒、冷却時間20秒とした。ポリアミド樹脂がポリアミド12の場合、射出成形の条件は、樹脂温度200℃、金型温度80℃、射出時間12秒、冷却時間20秒とした。なお樹脂組成物におけるセルロース繊維の平均繊維径および平均繊維長は、当該樹脂組成物を用いて得られた成形体における平均繊維径および平均繊維長とほとんど変わらない。
【0034】
セルロース繊維の平均繊維径を10μm以下とするためには、ポリアミド樹脂に配合するセルロース繊維として、平均繊維径が10μm以下のものを用いることが好ましい。平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維は、セルロース繊維を裂いてミクロフィブリル化することによって得ることができる。ミクロフィブリル化する手段としては、ボールミル、石臼粉砕機、高圧ホモジナイザー、ミキサー等の、各種粉砕装置を挙げることができる。ミクロフィブリル化したセルロース繊維の水分散液の市販品としては、例えば、ダイセルファインケム社製の「セリッシュ」が挙げられる。
【0035】
また、セルロース繊維として、セルロース繊維を使用した繊維製品の製造工程において、屑糸として出されたセルロース繊維の集合体を使用することもできる。繊維製品の製造工程とは紡績時、織布時、不織布製造時、そのほか繊維製品の加工時などが挙げられる。これらのセルロース繊維の集合体は、セルロース繊維がこれらの工程を経た後に屑糸となったものであるため、セルロース繊維が微細化したものとなっている。
【0036】
また、セルロース繊維として、バクテリアが産出するバクテリアセルロースを挙げることもできる。バクテリアセルロースとしては、例えば、アセトバクター属の酢酸菌を生産菌として産出されたものが挙げられる。植物のセルロースは、セルロースの分子鎖が収束したもので、非常に細いミクロフィブリルが束になって形成されている。これに対し、酢酸菌により産出されたセルロースは、もともと幅20~50nmのリボン状であり、植物のセルロースと比較すると極めて細い網目状を形成する。バクテリアセルロースは、バクテリアが前記セルロースとともに酢酸を産出するため、酢酸と併存することがある。その場合は、溶媒を水に置換することが好ましい。
【0037】
また、セルロース繊維として、微細化セルロースを挙げることもできる。微細化セルロースは、例えば、N-オキシル化合物と共酸化剤と臭化アルカリ金属とを含む水溶液中で、セルロース繊維を酸化させた後、水洗、解繊をおこなうことにより、製造することができる。N-オキシル化合物としては、2,2,6,6-Tetramethylpiperidine-1-oxylradical等が挙げられる。共酸化剤としては、次亜塩素酸ナトリウムや亜塩素酸ナトリウム等が挙げられる。
セルロース繊維の酸化反応は、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性の化合物を添加してpHを10付近としてから、pHの変化が見られなくなるまでおこなう。反応温度は、常温が好ましい。反応後、系内に残存するN - オキシル化合物や共酸化剤や臭化アルカリ金属を除去することが好ましい。水洗方法としては、ろ過や遠心分離による方法が挙げられる。解繊方法としては、上記のミクロフィブリル化する際の装置として例示された各種粉砕装置による方法が挙げられる。
【0038】
また、セルロース繊維は、セルロース由来の水酸基がいかなる置換基によっても変性されていない未変性のセルロース繊維であってもよいし、またはセルロース由来の水酸基(特にその一部)が変性(または置換)された変性セルロース繊維であってもよい。セルロース由来の水酸基に導入される置換基としては特に限定されず、例えば、親水性の置換基、疎水性の置換基が挙げられる。変性セルロース繊維において、置換基により変性(または置換)される水酸基は、セルロース由来の水酸基のうちの一部であり、その置換度は、0.05~2.0であることが好ましく、0.1~1.0であることがより好ましく、0.1~0.8であることがさらに好ましい。なお、置換度とは、セルロースを構成する単位構造(グルコピラノース環)あたりの導入された置換基の個数を表す。すなわち、「導入された置換基のモル数を、グルコピラノース環の総モル数で割った値」として定義される。純粋なセルロースは単位構造(グルコピラノース環)あたり3個の置換可能な水酸基を有しているため、本発明のセルロース繊維の置換度の理論最大値は3、理論最小値は0である。親水性の置換基としては、例えば、カルボキシル基、カルボキシメチル基、リン酸エステル基等が挙げられる。疎水性の置換基としては、例えば、シリルエーテル基、アルキルエーテル基、アルキルエステル基等が挙げられる。
【0039】
本発明のポリアミド樹脂組成物におけるセルロース繊維の含有量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して、0.01~200質量部であることが必要であり、黒点異物のさらなる抑制、ならびに機械的特性(特に引張弾性率および線膨張係数)、耐熱性、払出し性およびセルロース繊維分散均一性のさらなる向上の観点から、1~100質量部であることが好ましく、4~100質量部であることがより好ましく、8~100質量部であることがさらに好ましく、18~100質量部であることがさらに十分に好ましく、22~100質量部であることが特に好ましく、22~80質量部であることが最も好ましい。セルロース繊維の含有量がポリアミド樹脂100質量部に対して0.01質量部未満である場合は、機械的特性および耐熱性を向上する効果がない。一方、セルロース繊維の含有量がポリアミド樹脂100質量部に対して200質量部を超える場合は、セルロース繊維を樹脂組成物中に含有させることが困難であったり、得られた樹脂組成物に着色が生じたりする場合がある。
【0040】
本発明のポリアミド樹脂組成物を、後述するような本発明の製造方法で得ることにより、セルロース繊維の含有量が少量であっても、それがポリアミド樹脂中に均一に分散されるので、ポリアミド樹脂組成物には、十分な機械的特性や耐熱性の向上効果が得られる。つまり、セルロース繊維の含有量がポリアミド樹脂100質量部に対して0.01~10質量部であっても、ポリアミド樹脂組成物は、機械的特性が向上し、特に引張弾性率と線膨張係数の両方に優れたものとなる。
【0041】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物を、後述するような本発明の製造方法で得ることにより、セルロース繊維の含有量が多量であっても、セルロース繊維を分離させることなく、ポリアミド樹脂中に均一に分散させることができるので、さらなる機械的特性の向上効果が得られる。つまり、セルロース繊維の含有量がポリアミド樹脂100質量部に対して22~100質量部、好ましくは30~100質量部、より好ましくは50~100質量部、さらに好ましくは50~80質量部であっても、ポリアミド樹脂組成物の機械的特性および耐熱性は向上し、特に引張弾性率と線膨張係数に優れたものとなる。
【0042】
以上のようなポリアミド樹脂とセルロース繊維を含有する本発明のポリアミド樹脂組成物は、機械的特性および耐熱性のさらなる向上ならびに成形性の向上の観点から、ポリアミド樹脂の数平均分子量が1万~10万であることが好ましい。なお、数平均分子量は、示差屈折率検出器を備えたゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)装置を用い、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶出液として40℃でPMMA換算にて求める値である。
【0043】
本発明のポリアミド樹脂組成物の分子量は、ポリアミドの末端基濃度を調整することでも制御できる。末端基濃度の調整方法としては、公知の末端封鎖剤を添加することが挙げられる。末端封鎖剤としては、モノアミン、モノカルボン酸などが挙げられる。モノアミンとしては、ステアリルアミン、オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリンなどが挙げられる。モノカルボン酸としては酢酸、ラウリン酸、ステアリン酸、安息香酸などが挙げられる。
【0044】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、その特性を大きく損なわない限りにおいて、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、耐衝撃剤、難燃剤、相溶化剤などの添加剤を含有していてもよい。
【0045】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物は、その特性を大きく損なわない限りにおいてポリアミド樹脂以外の他の重合体を含有していてもよい。他の重合体としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリ(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)共重合体、液晶ポリマー、ポリアセタール、エラストマーなどが挙げられる。
【0046】
[ポリアミド樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリアミド樹脂組成物は、例えば、ポリアミド樹脂の重合時にセルロース繊維を添加するとともに、重合反応を「ポリアミド樹脂の融点」未満の温度で行うことにより製造することができる。本発明のポリアミド樹脂組成物は、詳しくは、ポリアミド樹脂を構成するモノマーと、セルロース繊維の水分散液とを均一に混合した混合分散液を、「ポリアミド樹脂の融点」未満の温度に加熱して重合反応することにより、製造することができる。すなわち、本発明のポリアミド樹脂組成物は、モノマーと水を用いて製造され、詳しくはモノマーと水を用いて「ポリアミド樹脂の融点」未満の温度で重合反応することにより製造することができる。本発明において、水は通常、セルロース繊維の水分散液の媒体である。本発明においては、モノマーと水を用いて「ポリアミド樹脂の融点」未満の温度で重合反応することにより、セルロース繊維の劣化を十分に抑制しつつ、当該セルロース繊維を十分に均一に分散させることができる。それらの結果として、黒点異物の発生が十分に抑制され、曲げ弾性率、引張弾性率および線膨張係数等の機械的特性(特に引張弾性率および線膨張係数の両方)ならびに耐熱性が十分に向上する。このとき、分散液を加熱する際に徐々に水蒸気を排出することにより、セルロース繊維の水分散液中の水分を排出することができる。また、重合反応は静置しておこなってもよく、攪拌しながらおこなってもよいが、黒点異物のさらなる抑制、ならびに機械的特性(特に引張弾性率および線膨張係数)、耐熱性、払出し性およびセルロース繊維分散均一性のさらなる向上の観点から、静置しておこなうことが好ましい。ポリアミド樹脂の重合時とは、ポリアミド樹脂を構成するモノマーを用いた重合時だけでなく、ポリアミド樹脂を構成し得るモノマー塩またはプレポリマーを用いた重合時も包含する。従って、重合させるモノマーは、モノマー塩またはプレポリマーであってもよい。モノマー塩とは、ポリアミド樹脂を構成し得るジアミンとジカルボン酸との塩のことである。プレポリマーとは、モノマーがポリマー化する途中の中間生成物のことである。モノマーと水を用いた重合反応によりポリアミド樹脂を製造しない場合、すなわちセルロース繊維を水分散液の形態で使用することなくポリアミド樹脂を製造する場合、セルロース繊維を均一に分散させることができないため、黒点異物が発生したり、かつ/または機械的特性(例えば引張弾性率および/または線膨張係数)が低下したり、かつ/または耐熱性が低下したりする。
【0047】
本発明の製造方法において重合温度は「ポリアミド樹脂の融点」未満の温度である。「ポリアミド樹脂の融点」とは「目的とするポリアミド樹脂の融点」のことであり、詳しくは本発明のポリアミド樹脂組成物を構成するポリアミド樹脂のモノマー(モノマー塩またはプレポリマーであってもよい)のみを用いて溶融重合法により十分に重合を行って得られるポリアミド樹脂の融点である。溶融重合法とは、溶媒を用いることなく、加熱により重合を十分に行い、溶融状態でポリアミド樹脂を得る方法である。従って、当該溶融重合法における重合温度は、得られるポリアミド樹脂(すなわち、「目的とするポリアミド樹脂」)の融点よりも高い。このような溶融重合法における重合温度は、例えば、ポリアミド6の場合、230~250℃(特に240℃)であり、また例えば、ポリアミド66の場合、250~290℃(特に280℃)であり、また例えば、ポリアミド12の場合、220~240℃(特に230℃)である。当該溶融重合法における重合時間は通常、0.5~2時間であってもよく、特に1時間である。重合温度が「ポリアミド樹脂の融点」以上の温度(特に「ポリアミド樹脂の融点」超の温度)であると、セルロース繊維の劣化が起こるため、黒点異物が発生したり、かつ/または機械的特性(例えば引張弾性率および/または線膨張係数)が低下したり、かつ/または耐熱性が低下したりする。
【0048】
従って、本発明のポリアミド樹脂組成物を製造するに際しては、まず、使用される原料としてのモノマー(モノマー塩またはプレポリマーであってもよい)のみを用いて上記した溶融重合法により十分に重合を行い、ポリアミド樹脂(詳しくは「目的とするポリアミド樹脂」)を得る。次いで、得られたポリアミド樹脂の融点を測定する。例えば、「目的とするポリアミド樹脂」がポリアミド6の場合、「目的とするポリアミド樹脂の融点」は通常、220℃である。また例えば、「目的とするポリアミド樹脂」がポリアミド66の場合、「目的とするポリアミド樹脂の融点」は通常、270℃である。また例えば、「目的とするポリアミド樹脂」がポリアミド12の場合、「目的とするポリアミド樹脂の融点」は通常、175℃である。融点の測定方法は特に限定されず、例えば、示差走査型熱量計により測定することができる。その後、モノマー(モノマー塩またはプレポリマーであってもよい)およびセルロース繊維水分散液を含む混合分散液を、当該「融点」未満の温度で重合反応に供することにより、本発明のポリアミド樹脂組成物を製造することができる。
【0049】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法においては、上記のように、従来の溶融重合法よりも低温にて重合を行うため、このような重合を「低温重合」と称することができる。低温重合により得られる本発明のポリアミド樹脂組成物は固形状態(または固相状態)で得られる。
【0050】
セルロース繊維の水分散液は、精製水とセルロース繊維とをミキサー等で攪拌することにより得ることができる。水分散液中のセルロース繊維の含有量は0.01~50質量%、特に1~30質量%であることが好ましい。
【0051】
本発明のポリアミド樹脂組成物を得るための低温重合時において、必要に応じて重合触媒を添加してもよい。重合触媒としては、ポリアミドの溶融重合に通常用いられるものであれば特に限定されない。中でも、リン系化合物が好ましく、亜リン酸または次亜リン酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0052】
本発明のポリアミド樹脂組成物を得るための低温重合時において、重合温度は、詳しくは、「目的とするポリアミド樹脂の融点」をMp(℃)としたとき、Mp-75(℃)以上、Mp未満であることが必要であり、Mp-55(℃)以上、Mp-15(℃)以下であることが好ましく、Mp-45(℃)以上、Mp-15(℃)以下であることがより好ましく、Mp-45(℃)以上、Mp-25(℃)以下であることがさらに好ましく、Mp-35(℃)以上、Mp-25(℃)以下であることが特に好ましい。重合温度がMp-75(℃)未満であると、反応速度が遅くなり、実用上必要な重合度に達するまでの時間が長くなる。一方、重合温度がMp以上では、生成したポリマーが溶融し、それに伴う粘度上昇によって操業性が低下したり、着色が生じたりする場合がある。さらには、セルロース繊維の熱劣化が起こるため、黒点異物が混入したり、かつ/または得られるポリアミド樹脂組成物の機械的特性が十分に向上しなかったりする。
【0053】
本発明のポリアミド樹脂組成物を得るための低温重合時において、重合時間は通常、ポリアミド樹脂組成物を構成するポリアミド樹脂が「目的とするポリアミド樹脂の融点」を有するようになる時間であり、例えば、2時間以上(特に2~24時間)であり、好ましくは6~20時間、より好ましくは6~14時間である。
【0054】
低温重合は、不活性ガス流通下で行われてもよいし、不活性ガスを流通させることなく、空気雰囲気下で行われてもよいし、または加圧または減圧下で行われてもよいが、黒点異物のさらなる抑制、ならびに機械的特性(特に引張弾性率および線膨張係数)、耐熱性、払出し性およびセルロース繊維分散均一性のさらなる向上の観点から不活性ガス流通下で行われることが好ましい。ポリアミド樹脂を構成するモノマーが環状構造を有するため、重合が開始され難い場合には、低温重合に際し、一時的または継続的に系内を加圧することが好ましい。
【0055】
重合させるモノマーは、黒点異物のさらなる抑制、ならびに機械的特性(特に引張弾性率および線膨張係数)、耐熱性、払出し性およびセルロース繊維分散均一性のさらなる向上の観点から、重合温度で液体状態であるモノマーを含むことが好ましい。すなわち、本発明のポリアミド樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂は重合温度で液体状態であるモノマーをモノマー成分として含むことが好ましい。重合温度で液体状態であるモノマーとは、重合温度において溶融状態であるモノマー(詳しくは重合温度以下の融点を有するモノマー)のことである。重合温度とは、本発明のポリアミド樹脂組成物を得るための低温重合時における重合温度のことである。モノマー成分とは、原料として使用される原料成分(すなわち、重合に使用される原料成分または化合物)のことである。従って、本発明においてポリアミド樹脂は重合温度で液体状態であるモノマーを原料成分として含む。本発明においては、低温重合を行うとともに、重合温度において液体状態であるモノマーを原料成分として用いることにより、セルロース繊維の劣化をより十分に抑制しつつ、当該セルロース繊維をより均一に分散させることができる。それらの結果として、黒点異物の発生が十分に抑制され、曲げ弾性率、引張弾性率および線膨張係数等の機械的特性(特に引張弾性率および線膨張係数の両方)ならびに耐熱性がより一層、十分に向上する。
【0056】
本発明においては、全てのモノマーが重合温度で液体状態であるモノマーでなければならないというわけではなく、使用される少なくとも1種類のモノマーが重合温度で液体状態であるモノマーであることが好ましい。詳しくは、本発明のポリアミド樹脂を構成するモノマーは、重合温度で液体状態であるモノマーを少なくとも1種類含むことが好ましい。本発明のポリアミド樹脂は、当該ポリアミド樹脂を構成する全モノマーに対して、重合温度で液体状態であるモノマーを好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上で含む。本発明のポリアミド樹脂を構成する全モノマーに対する、重合温度で液体状態であるモノマーの含有量は通常、100質量%以下であり、特に90質量%以下であってもよい。
【0057】
重合温度をα(℃)で表したとき、重合温度で液体状態であるモノマーの融点β(℃)は、黒点異物のさらなる抑制、ならびに機械的特性(特に引張弾性率および線膨張係数)、耐熱性、払出し性およびセルロース繊維分散均一性のさらなる向上の観点から、以下の関係式(x1)を満たすことが好ましく、以下の関係式(x2)を満たすことがより好ましく、以下の関係式(x3)を満たすことがさらに好ましく、以下の関係式(x4)を満たすことがより一層好ましく、以下の関係式(x5)を満たすことが特に好ましく、以下の関係式(x6)を満たすことが最も好ましい:
【0058】
α-160≦β≦α (x1)
α-150≦β≦α-2 (x2)
α-140≦β≦α-4 (x3)
α-130≦β≦α-6 (x4)
α-130≦β≦α-50 (x5)
α-130≦β≦α-100 (x6)
【0059】
重合温度で液体状態であるモノマーは、重合温度(特に、得ようとするポリアミド樹脂の組成)に依存するため、一概に規定できない。
例えば、ポリアミド6の場合、重合温度で液体状態であり得るモノマーとして、ε-カプロラクタム(融点約69℃)が挙げられる。
また例えば、ポリアミド66の場合、重合温度で液体状態であり得るモノマーとして、アジピン酸(融点約152℃)、ヘキサメチレンジアミン(融点約42℃)、ヘキサメチレンジアミン-アジピン酸の等モル塩(融点約200℃)が挙げられる。なお、ポリアミド66の原料としてのヘキサメチレンジアミン-アジピン酸の等モル塩は融点が約200℃であるため、重合温度で液体状態とならないことがある。
また例えば、ポリアミド12の場合、重合温度で液体状態であり得るモノマーとして、ω-ラウロラクタム(融点約153℃)が挙げられる。
【0060】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法によれば、Mp未満の温度で重合するため、生成したポリアミドは溶融せず、固相重合へと移行してもよい。なお、必要に応じて、生成したポリアミド樹脂組成物の破砕および/または精練をおこなった後に、固相重合によりさらに高分子量化してもよい。ここでいう生成したポリアミド樹脂組成物には、モノマーがポリマー化する途中の中間生成物、すなわちオリゴマーや低重合体も含む。
【0061】
したがって、本発明の製造方法によれば、ポリマーを溶融状態に保持する必要がないため、溶融重合時に起こる溶融粘度の上昇、それに伴う払出し性の低下が改善される。
【0062】
低温重合の後に行われてもよい固相重合は、本発明の製造方法により得られたポリアミド樹脂組成物、または必要に応じて破砕および/または精練した後のポリアミド樹脂組成物を、不活性ガス流通下または減圧下で、「ポリアミド樹脂組成物の融点」未満の温度で30分以上加熱することにより行うことが好ましく、1時間以上(例えば1~10時間)加熱することにより行うことが好ましい。
【0063】
「ポリアミド樹脂組成物の融点」は、ポリアミド樹脂組成物を用いること以外、上記した融点の測定方法と同様の方法により測定することができる。「ポリアミド樹脂組成物の融点」は、上記した「ポリアミド樹脂の融点」と同様の温度であってもよい。
【0064】
固相重合時の加熱温度は通常、「ポリアミド樹脂組成物の融点」をMp’(℃)としたとき、Mp’-75(℃)以上、Mp’未満であり、Mp’-55(℃)以上、Mp’-15(℃)以下であることが好ましく、Mp’-45(℃)以上、Mp’-25(℃)以下であることがさらに好ましく、Mp’-35(℃)以上、Mp’-25(℃)以下であることがさらに好ましい。当該加熱温度が、Mp’-75(℃)未満であると、反応速度が遅くなることがある。一方、加熱温度がMp’以上では、ポリアミド樹脂組成物を構成するポリマー(すなわちポリアミド)が融着したり、着色が生じたりする場合がある。
【0065】
本発明の製造方法により得られたポリアミド樹脂組成物は、払出し時にそのままの形状で採取することができる。また、前記ポリアミド樹脂組成物を破砕することにより粉末形状(またはフレーク形状)にすることができる。また、前記ポリアミド樹脂組成物を押出機に供給し、ストランドカッターによりペレット状にすることもできる。ペレット状にする場合、ハンドリングの観点や下記の精練の際の効率の観点から、直径2~5mm、長さ3~6mmとすることが好ましい。
【0066】
本発明の製造方法により得られたポリアミド樹脂組成物は、必要に応じて分級してもよい。特にポリアミド樹脂組成物が粉末形状(またはフレーク形状)である場合、分級により所定のサイズのポリアミド樹脂組成物のみを採取することができる。
【0067】
本発明の製造方法により得られたポリアミド樹脂組成物は、未反応のモノマーやオリゴマーを除去するため、90~100℃の水に浸漬して、精練することが好ましい。
【0068】
本発明のポリアミド樹脂組成物が上記した添加剤および/または他の重合体を含有する場合、当該添加剤および他の重合体は、低温重合前において、混合分散液中に混合されてもよい。また、当該添加剤および他の重合体は、低温重合後のポリアミド樹脂組成物に溶融混練等で配合されてもよい。
【0069】
本発明のポリアミド樹脂組成物はマスターバッチとして得られてもよい。例えば、セルロース繊維の含有量が比較的多い本発明のポリアミド樹脂組成物をマスターバッチとして用いてもよい。本発明のポリアミド樹脂組成物(すなわちマスターバッチ)を、セルロース繊維を含まないポリアミド樹脂とともに、希釈を目的として溶融混練することで、所望のセルロース繊維含有量に調節することができる。また、セルロース繊維の含有量が異なる2種類以上の本発明のポリアミド樹脂組成物を相互に混合および溶融混練してもよい。
【0070】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法においては、上記のように低温重合を行うため、熱によるセルロースの変色や分解を十分に抑制することができる。そのため、黒点異物の混入を十分に抑制することができ良好な外観を有する成形体を得ることができる。
【0071】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法においては、上記のように低温重合を行うため、セルロース繊維の熱劣化が十分に抑制される。このため、本発明のポリアミド樹脂組成物は、セルロース繊維がより均一に分散されているだけでなく、セルロース繊維の熱劣化がより十分に抑制されている。それらの結果として、本発明のポリアミド樹脂組成物はより高い機械的特性および耐熱性を有する。例えば、本発明のポリアミド樹脂組成物は、少なくともより高い引張弾性率を有する。より好ましい実施態様においては、本発明のポリアミド樹脂組成物は、より高い引張弾性率およびより低い線膨張係数を有する。
【0072】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ペレット100個当たりの黒点異物が混入しているペレット(黒点異物含有ペレット)の個数が10個以下であることが必要であり、5個以下であることが好ましく、1個以下であることがより好ましく、0個であることがさらに好ましい。黒点異物が11個以上であると、成形体の外観が損なわれたり、機械的物性が低下したりすることがある。
【0073】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、引張弾性率が3.0GPa超であることが必要であり、3.8GPa以上であることが好ましく、4.7GPa以上であることがより好ましい。引張弾性率の上限値は特に限定されず、通常は10GPa、特に8GPaである。
【0074】
本発明のポリアミド樹脂組成物はまた、曲げ弾性率が4.0GPa以上であることが好ましく、6.0GPa以上であることがより好ましく、8.0GPa以上であることがさらに好ましい。曲げ弾性率の上限値は特に限定されず、通常は20GPa、特に12GPaである。
【0075】
本発明のポリアミド樹脂組成物はまた、線膨張係数が40×10-6/℃以下であることが好ましく、15×10-6/℃以下であることがより好ましく、7×10-6/℃以下であることがさらに好ましい。線膨張係数の下限値は特に限定されず、通常は1×10-6/℃、特に2×10-6/℃である。
【0076】
本発明のポリアミド樹脂組成物の引張弾性率、曲げ弾性率および線膨張係数はそれぞれ、当該樹脂組成物を用いて得られた成形体における引張弾性率、曲げ弾性率および線膨張係数を指す。なお、これらの特性値を測定するための成形体は上記した平均繊維径を測定するための成形体と同様の成形体である。
【0077】
引張弾性率および曲げ弾性率はそれぞれ、ISO527およびISO178に準拠して測定された値を用いている。
【0078】
線膨張係数は、成形体の製造時における射出方向(すなわち、射出成形時の樹脂の流動方向であり、MD方向とも称される)の線膨張係数であり、JIS K7197に基づいて測定された、20~150℃の領域での平均値を用いている。
【0079】
特に、本発明のポリアミド樹脂組成物の線膨張係数は、溶融重合法により製造されたポリアミド樹脂組成物から得られる成形体の線膨張係数を基準として、30%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上の低下率を示す。低下率の上限値は特に限定されず、通常は90%、特に80%である。溶融重合法により製造されたポリアミド樹脂組成物は、溶融重合法を採用して製造されたこと以外、本発明のポリアミド樹脂組成物と同様のポリアミド樹脂組成物のことであり、例えば、本発明のポリアミド樹脂組成物と同様の組成および組成比を有する。従って、本発明のポリアミド樹脂組成物は、当該ポリアミド樹脂組成物と同様の組成および組成比を有する溶融重合法によるポリアミド樹脂組成物と比較して、線膨張係数に関する有意な低減効果を有している。溶融重合法とは、上記した溶融重合法と同様の方法であり、溶媒を用いることなく、加熱により重合を十分に行い、溶融状態でポリアミド樹脂が得られる方法である。溶融重合法により、溶融状態のポリアミド樹脂を含むポリアミド樹脂組成物が得られる。なお、溶融重合法において、セルロース繊維の水分散体の水は重合時において除去されるため、溶媒には分類されない。
【0080】
線膨張係数の低下率は、本発明のポリアミド樹脂組成物の線膨張係数および溶融重合法によるポリアミド樹脂組成物の線膨張係数をそれぞれ「X」および「Y」と表したとき、{(Y-X)/Y}×100(%)で表される割合である。
【0081】
線膨張係数の低下率は、本発明のポリアミド樹脂組成物と、セルロース繊維の含有量が同様であり、かつ溶融重合法によるポリアミド樹脂組成物との比較に基づく特性値であるので、セルロース繊維の均一分散性をよく示唆する1つの特性値である。当該低下率が大きいほど、セルロース繊維の均一分散性は優れている。
【0082】
本発明のポリアミド樹脂組成物は耐熱性にも優れる。耐熱性を示す指標として熱変形温度がある。耐熱性はポリアミド樹脂組成物の荷重1.8MPa時の熱変形温度が後述の範囲内である特性および荷重0.45MPa時の熱変形温度が後述の範囲内である特性を包含する。
【0083】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、荷重1.8MPa時の熱変形温度が50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることがさらに好ましく、130℃以上であることが特に好ましく、170℃以上であることが十分に好ましく、188℃以上であることが最も好ましい。荷重1.8MPa時の熱変形温度が50℃未満であると、十分な耐熱性を有しておらず、様々な用途に使用することが困難となる。
【0084】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物は、荷重0.45MPa時の熱変形温度が150℃以上であることが好ましく、170℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることがさらに好ましく、200℃以上であることが特に好ましく、207℃以上であることが十分に好ましく、217℃以上であることが最も好ましい。荷重0.45MPa時の熱変形温度が150℃未満であると、十分な耐熱性を有しておらず、様々な用途に使用することが困難となる。
【0085】
本発明のポリアミド樹脂組成物の熱変形温度は、当該樹脂組成物を用いて得られた成形体における熱変形温度を指す。なお、この特性値を測定するための成形体は上記した平均繊維径を測定するための成形体と同様の成形体である。
【0086】
熱変形温度はISO 75に準拠して測定された値を用いている。
【0087】
本発明のポリアミド樹脂組成物はリサイクル性にも優れる。リサイクル性とは、ポリアミド樹脂組成物を用いて得られた成形体の引張弾性率および曲げ弾性率等の物性について、粉砕および成形を繰り返して行っても、初期の値が十分に維持される特性のことである。このようなリサイクル性を示す指標としてリサイクル時の物性保持率(例えば、曲げ弾性率および引張弾性率の保持率)がある。本発明のポリアミド樹脂組成物は、リサイクル時の物性保持率が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。リサイクル時の物性保持率が85%未満であると、リサイクルにより物性が低下するため、十分なリサイクル性を有しておらず、リサイクル使用(すなわち再利用)することが困難となる。
【0088】
本発明のポリアミド樹脂組成物におけるリサイクル時の物性保持率は、当該樹脂組成物を用いて得られた成形体における物性(例えば、曲げ弾性率および引張弾性率)について、3回のリサイクル(すなわち粉砕および成形)を繰り返した後での保持率を指す。なお、この特性値を測定するための成形体は上記した平均繊維径を測定するための成形体と同様の成形体である。粉砕は、任意の100個の粉砕粒子の最大径の平均値が1~5mmになるまで行う粉砕である。曲げ弾性率および引張弾性率は上記した方法と同様の方法により測定され得る。
【0089】
[成形体]
本発明のポリアミド樹脂組成物は、公知の成形方法により、成形体とすることができる。公知の成形方法としては、例えば、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形、シート加工後の真空成形、圧空成形、真空圧空成形が挙げられる。例えば、本発明のポリアミド樹脂組成物を用いて、押出成形してなるペレットや、射出成形してなる成形体、押出成形してなるフィルムまたはシート(以下、「フィルム等」という)およびこれらのフィルム等またはこれらを延伸したフィルム等から加工してなる成形体や、ブロー成形してなる中空体、および、この中空体から加工してなる成形体や、溶融紡糸して得られるフィラメント(繊維)およびこれを延伸してなるフィラメントを3Dプリンターに介して得られる造形体や、ペレットまたは粉砕物を3Dプリンターに介して得られる造形体等を得ることができる。
【0090】
成形方法としては、上記記載の方法の中でも、射出成形が好ましい。射出成形に用いる射出成形機としては、特に限定されないが、例えばスクリューインライン式射出成形機、プランジャ式射出成形機が挙げられる。射出成形機のシリンダー内で加熱溶融されたポリアミド樹脂組成物は、ショットごとに計量され、金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化され、その後に成形体として金型から取り出される。射出成形時の樹脂温度は、ポリアミド樹脂組成物の融点以上であることが好ましく、(融点+100℃)未満であることが好ましい。射出成形に供されるポリアミド樹脂組成物は、十分に乾燥していることが好ましい。水分率が高いポリアミド樹脂組成物では、射出成形機のシリンダー内で発泡し、最適な成形体を得ることが困難となることがある。このため、射出成形に供されるポリアミド樹脂組成物の水分率は、0.3質量%未満であることが好ましく、0.1質量%未満であることがより好ましい。
【0091】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、機械的特性に優れ、特に引張弾性率と線膨張係数の両方に優れる。このため、本発明のポリアミド樹脂組成物は、自動車用途、電気電子機器用途、農業・水産用途、医療用機器用途、雑貨等に好適に供することができる。
【0092】
本発明のポリアミド樹脂組成物から得られた成形体は、当該成形体を粉砕および/またはリペレット化することで、再生材とすることができる。すなわち、本発明のポリアミド樹脂組成物を射出成形などの成形加工に用いた場合に発生するスプルー、ランナーなどの端材、規格外成形体および使用済み成形体などの粉砕物、または当該粉砕物を押出機等によりリペレット化したものと、別のポリアミド樹脂組成物(例えば本発明のポリアミド樹脂組成物および/または当該ポリアミド樹脂組成物とは異なる他のポリアミド樹脂)を混合物とし、それを再び成形加工に用いることができる。リペレット化とは、成形体または端材を粉砕、溶融および混練して、再びペレットを得ることである。再生材と別のポリアミド樹脂組成物を混合し再び成形加工に用いる場合、再生材の混合割合は特に限定されないが、再生材の割合は好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、特に好ましくは50質量%以上である。また、再生材のみを単独で再び成形加工に用いてもよい。本発明のポリアミド樹脂組成物は、黒点異物の発生が十分に抑制されているため、再生材として利用しても良好な外観を有する成形体を得ることができる。また、本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂とセルロース繊維の密着性が良好であるため、再生材として利用しても機械的物性および耐熱性の低下が抑制される。
【0093】
上記のように、本発明のポリアミド樹脂組成物を再生材とした後、再生材(もしくは再生材と別のポリアミド樹脂組成物の混合物)を再び成形加工に用いる工程は繰り返し行われてもよい。すなわち、再生材(もしくは再生材と別のポリアミド樹脂組成物の混合物)から得られた成形体は、当該成形体を粉砕および/またはリペレット化することで、再生材とすることができる。
【0094】
自動車用途としては、例えば、バンパー等のボディ、インストルメントパネル、コンソールボックス、ガーニッシュ、ドアトリム、天井、フロア、ランプリフレクター、ブラッシホルダー、フュエルポンプモジュール部品、デストリビューター、シートリードバルブ、ワイパーモーターギア、スピードメーターフレーム、ソレノイドイグニッションコイル、オルタネーター、スイッチ、センサー部品、タイロットエンドスタビライザー、ECUケーブル、排ガスコントロールバルブ、コネクター、排気ブレーキの電磁弁、エンジンバルブ、ラジエータファン、スタータ、インジェクタ、エンジン周りのパネル、エンジンカバー、モーターカバー、ドアガラスホルダー、サンルーフレール、軸受が挙げられる。
【0095】
電気電子機器用途としては、例えば、パソコン、携帯電話、音楽プレーヤー、カーナビゲーション、SMTコネクター、ICカードコネクター、光ファイバーコネクター、マイクロスイッチ、コンデンサー、チップキャリア、コイル封止、トランジスター封止、ICソケット、スイッチ、リレー部品、キャパシターハウジング、サーミスタ、各種コイルボビン、FDDメインシャーシ、テープコーダーヘッドマウント、ステッピングモーター、軸受、シェーバ刃台、液晶プロジェクションT V のランプハウジング、電子レンジ部品、電磁調理器のコイルベース、ドライヤーノズル、スチームドライヤー部品、スチームアイロン部品、DVDピックアップベース、整流子基台、回路基板、基板用マガジンラック、基板ホルダー、IC、液晶冶具、フードカッター、DATシリンダーベース、コピー機用ギア、プリンター定着ユニット部品、液晶パネル導光板、通信機器(アンテナ)、半導体用封止材料、パワーモジュール、ヒューズホルダー、ウォーターポンプインペラー、半導体製造装置のパイプ、ゲーム機用コネクター、エアコン用ドレインパン、生ごみ処理機内容器、掃除機モーターファンガイド、電子レンジ用ローラーステイ・リング、キャップスタンモーター軸受、街路灯、水中ポンプ、モーターインシュレータ、モーターブラシホルダー、ブレーカー部品、掃除機筐体、自走式電気掃除機筐体、パソコン筐体、携帯電話筐体、OA機器筐体部品、ガスメーターが挙げられる。
【0096】
農業、水産用途としては、例えば、コンテナー、栽培容器、浮きが挙げられる。
【0097】
医療用機器用途としては、例えば、注射器、点滴容器が挙げられる。
【0098】
雑貨としては、例えば、皿、コップ、スプーン、植木鉢、クーラーボックス、団扇、玩具、ボールペン、定規、クリップ、ドレーン材、フェンス、収納箱、工事用配電盤、給湯機器ポンプケーシング、インペラー、ジョイント、バルブ、水栓器具、ファスナーが挙げられる
【0099】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、Tダイ押出、インフレーション成形等の公知の製膜方法により、フィルムやシートに成形することができる。本発明のポリアミド樹脂組成物を成形してなるフィルムやシートは、例えば、フィルムコンデンサ、FPD用離形フィルム、車載モーター絶縁フィルムとして用いることができる。
【0100】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、化学発泡剤を用いた手法や、超臨界ガスや不活性ガスを用いた手法により、発泡体に成形することができる。本発明のポリアミド樹脂組成物を成形してなる発泡体は、電気・電子機器分野や、自動車分野に用いることができる。
【0101】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、溶融紡糸法、フラッシュ紡糸法、エレクトロスピニング法、メルトブロー法等の公知の紡糸方法により、各種繊維や各種不織布に成形することができる。本発明のポリアミド樹脂組成物を成形してなる繊維や不織布は、電気集塵用バグフィルター、モーター結束糸、被服用心材、乾式不織布、フエルトとして用いることができる。
【実施例0102】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0103】
ポリアミド樹脂組成物の評価は以下の方法によりおこなった。
(1)ポリアミド樹脂組成物中のセルロース繊維の平均繊維径および平均繊維長
十分に乾燥した樹脂組成物を、射出成形機(日精樹脂工業社製:NEX110-12E)を用いて射出成形し、ISO規格3167に記載のダンベル試験片(試験部80mm×10mm×4mm)を作製した。ポリアミド樹脂がポリアミド6の場合、射出成形の条件は、樹脂温度250℃、金型温度70℃、射出時間12秒、冷却時間20秒とした。ポリアミド樹脂がポリアミド66の場合、射出成形の条件は、樹脂温度290℃、金型温度80℃、射出時間12秒、冷却時間20秒とした。ポリアミド樹脂がポリアミド12の場合、射出成形の条件は、樹脂温度200℃、金型温度80℃、射出時間12秒、冷却時間20秒とした。
凍結ウルトラミクロトームを用いて射出成形片から厚さ100nmの切片を採取し、切片染色を実施後、透過型電子顕微鏡(日本電子社製JEM-1230)を用いて観察をおこなった。電子顕微鏡画像からセルロース繊維(単繊維)の長手方向に対する垂直方向の長さおよび長手方向の長さを測定した。このとき、垂直方向の長さのうち最大のものを繊維径、長手方向の長さを繊維長とした。同様にして10本のセルロース繊維(単繊維)の繊維径および繊維長を測定し、10本の平均値を算出したものを平均繊維径および平均繊維長とした。
なお、セルロース繊維の上記平均繊維径の測定で繊維径が1μmを超える大きいものについては、ミクロトームにて厚さ10μmの切片を切り出したものを、実体顕微鏡(OLYMPUS社製 SZ-40)を用いて観察をおこない、得られた画像から上記と同様にして繊維径を測定し、平均繊維径を求めた。
【0104】
(2)黒点異物含有ペレットの個数
十分に乾燥した樹脂組成物を、二軸押出機(芝浦機械社製TEM26SS、スクリュー径26m)の主ホッパーに供給した。260℃で十分に混練し、ストランド状に払出し、切断して、直径3mm×長さ3mmのペレットを得た。ペレット100個を目視で観察し、黒点異物を含むペレットの数について以下の基準に従って評価した。
◎:0~1個(最良)
○:2~5個(良);
△:6~10個(実用上問題なし);
×:11個以上(実用上問題あり)。
【0105】
(3)曲げ弾性率
(1)で得られた試験片の曲げ弾性率を、ISO178準拠の3点支持曲げ法(支点間距離:64mm、試験速度:2mm/分、試験雰囲気:23℃、50%RH、絶乾状態)にて測定した。曲げ弾性率を以下の基準に従って評価した。
◎:8.0GPa≦曲げ弾性率(最良);
○:6.0GPa≦曲げ弾性率<8.0GPa(良);
△:4.0GPa≦曲げ弾性率<6.0GPa(実用上問題なし);
×:曲げ弾性率<4.0GPa(実用上問題あり)。
【0106】
(4)引張弾性率
(1)で得られた試験片の引張弾性率を、ISO527に基づいて測定した。測定条件=支点間距離:115mm、試験速度:5mm/分、試験雰囲気:23℃、50%RH、絶乾状態。引張弾性率を以下の基準に従って評価した。
◎:4.7GPa≦引張弾性率(最良);
○:3.8GPa≦引張弾性率<4.7GPa(良);
△:3.0GPa<引張弾性率<3.8GPa(実用上問題なし);
×:引張弾性率≦3.0GPa(実用上問題あり)。
【0107】
(5)線膨張係数
(1)で得られた試験片を射出成形時の樹脂の流動方向(MD方向)が長手方向になるように、10mm×4mm×4mmtに切り出した。そのサンプルのMD方向の線膨張係数をJIS K7197に基づいて測定し、20~150℃の領域での平均値を算出した。線膨張係数を以下の基準に従って評価した。
◎:線膨張係数≦7.0×10-6(1/℃)(最良);
○:7.0×10-6(1/℃)<線膨張係数≦15.0×10-6(1/℃)(良);
△:15.0×10-6(1/℃)<線膨張係数≦40.0×10-6(1/℃)(実用上問題なし);
×:40.0×10-6(1/℃)<線膨張係数(実用上問題あり)。
【0108】
実施例1~4、6~15および18の線膨張係数(X)をそれぞれ、比較例5,7,9,11,15,17,19,21,23,25,27,29,11,31および33の線膨張係数(Y)からの低下率[={(Y-X)/Y}×100(%)]として評価した。なお、線膨張係数の低下率は、セルロース繊維の含有量が相互に同じであるポリアミド樹脂組成物を比較することが有意な特性値である。
◎:65%≦低下率(最良);
○:60%≦低下率<65%(良);
△:30%≦低下率<60%(実用上問題なし)。
【0109】
(6)耐熱性(熱変形温度)
(1)で得られた試験片の熱変形温度をISO 75に基づいて測定した。このとき、荷重は1.8MPaと0.45MPaで測定した。熱変形温度を以下の基準に従って評価した。
・熱変形温度(荷重1.8MPa)
◎:188℃≦熱変形温度(最良);
○:170℃≦熱変形温度<188℃(良);
△:130℃≦<熱変形温度<170℃(実用上問題なし);
×:熱変形温度<130℃(実用上問題あり)。
・熱変形温度(荷重0.45MPa)
◎:217℃≦熱変形温度(最良);
○:207℃≦熱変形温度<217℃(良);
△:200℃≦<熱変形温度<207℃(実用上問題なし);
×:熱変形温度<200℃(実用上問題あり)。
【0110】
(7)数平均分子量
ポリアミド5mgに10mMトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノール2mLを加えて溶解させて得られた溶解液をフィルターで濾過し、試料溶液を調製した。この試料溶液を、示差屈折率検出器を備えたゲル浸透クロマトグラフィ装置(GPC、東ソー社製)で分析した。溶離液として10mMトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノールを用いた。分析条件は流速0.4mL/min、温度40℃とした。ポリメチルメタクリレートを標準試料として作成した検量線を用いて、数平均分子量を求めた。
【0111】
(8)リサイクル時の物性保持率(曲げ弾性率および引張弾性率に関する保持率)
(1)で得られた試験片を粉砕した粉砕物を、射出成形機を用いて射出成形しダンベル試験片を得た。得られたダンベル試験片について、上記(3)および(4)の測定方法と同様にして、曲げ弾性率および引張弾性率を測定した(リサイクル1回目)。このリサイクル成形(試験片の粉砕、射出成形)をさらに2回繰り返して得られた試験片についても、上記(3)および(4)の測定方法と同様にして、曲げ弾性率および引張弾性率を測定した(リサイクル3回目)。
曲げ弾性率および引張弾性率について、初期の物性値(初期値)と3回リサイクル後の試験片の物性値(リサイクル値)を用い、次式により物性保持率を算出した。
物性保持率(%)={(リサイクル値)/(初期値)}×100
3回リサイクル後の物性保持率について以下の基準に従って評価した。
◎:95%≦物性保持率(最良);
○:90%≦物性保持率<95%(良);
△:85≦物性保持率<90%(実用上問題なし);
×:物性保持率<85%(実用上問題あり)。
【0112】
原料
(1)ポリアミド樹脂モノマー成分
・ε-カプロラクタム
・6-アミノカプロン酸
・ポリアミド66塩(ポリアミド66を構成する原料モノマーの塩であり、詳しくはヘキサメチレンジアミン-アジピン酸の等モル塩)
・ω‐ラウロラクタム
・12-アミノドデカン酸
【0113】
(2)セルロース繊維
・A-1:KY110N(ダイセルファインケム社製 セリッシュKY110N、平均繊維径が125nmのセルロース繊維が15質量%含有されたもの。(未変性)。
・A-2:KY100G(ダイセルファインケム社製 セリッシュKY100G、平均繊維径が125nmのセルロース繊維が10質量%含有されたもの。(未変性)。
・A-3:KY100S(ダイセルファインケム社製 セリッシュKY100S、平均繊維径が140nmのセルロース繊維が25質量%含有されたもの。(未変性)。
【0114】
・A-4:バクテリアセルロース繊維(未変性):
0.5質量%グルコース、0.5質量%ポリペプトン、0.5質量%酵母エキス、0.1質量%硫酸マグネシウム7水和物からなる組成の培地50mLを、200mL容三角フラスコに分注し、オートクレーブで120℃、20分間蒸気滅菌した。これに試験管斜面寒天培地で生育させたGluconacetobacter xylinus(NBRC 16670)を1白金耳接種し、30℃で7日間静置培養した。7日後、培養液の上層に白色のゲル膜状のバクテリアセルロース繊維が生成した。
得られたバクテリアセルロース繊維をミキサーで破砕後、水で浸漬、洗浄を繰り返すことにより、水置換をおこない、平均繊維径が60nmのバクテリアセルロース繊維が4.1質量%含有された水分散液を調製した。
【0115】
・A-5:屑糸(未変性):
不織布の製造工程において屑糸として出されたセルロース繊維の集合体に、精製水を加えてミキサーで撹拌し、平均繊維径が120nmの未変性のセルロース繊維が3質量%含有された水分散液を調製した。
【0116】
・A-6:TEMPO触媒酸化セルロース繊維(セルロース由来の水酸基の一部が親水性の置換基で変性されたセルロース繊維):
漂白後の針葉樹由来の未叩解クラフトパルプ(白色度85%)500g(絶乾)を、TEMPO 780mgおよび臭化ナトリウム75.5gを溶解した水溶液500mLに添加し、パルプが均一に分散するまで撹拌した。そこに次亜塩素酸ナトリウム水溶液を6.0mmol/gになるように加えることで酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するため、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターにより濾過してパルプを分離し、十分に水洗することで酸化されたパルプを得た。上記の工程で得られた酸化パルプを水で1.0%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150MPa)で3回処理して、平均繊維径が10nmのTEMPO触媒酸化セルロース繊維が1.0質量%含有された水分散液を調製した。
なお、TEMPO触媒酸化セルロース繊維を1H-NMR、13C-NMR、FT-IR、中和滴定で分析したところ、セルロース由来の水酸基の一部がカルボキシル基で置換されていることを確認した。
【0117】
・A-7:エーテル変性セルロース繊維(セルロース由来の水酸基の一部が疎水性の置換基で変性されたセルロース繊維):
針葉樹漂白クラフトパルプ(王子製紙社製、固形分25%)600gに水19.94kg添加し、固形分濃度が0.75質量%の水懸濁液を調製した。得られたスラリーの機械的解繊処理を、ビーズミル(アイメックス社製 NVM-2)を用いておこない、セルロース繊維を得た(ジルコニアビーズ直径1mm、ビーズ充填量70%、回転数2000rpm、処理回数2回)。遠心分離管一本あたりに、得られたセルロース繊維水分散液100gを入れ、遠心分離(7000rpm、20分)をおこない、上澄み液を除去し、沈殿物を取り出した。遠心分離管一本あたりに、アセトン100gを加えて、よく撹拌し、アセトン中に分散させ、遠心分離をおこない、上澄み液を除去し、沈殿物を取り出した。上記の操作をさらに二回繰り返し、固形分5質量%のセルロース繊維アセトンスラリーを得た。
撹拌羽根を備えた四つ口1Lフラスコに、得られたセルロース繊維アセトンスラリーをセルロース繊維の固形分が5gになるように投入した。N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を500mL、トルエンを250mL加え、撹拌しながらセルロース繊維をNMP/トルエン中に分散させた。冷却器を取り付け、窒素雰囲気下、分散液を150℃に加熱し、分散液中に含まれるアセトン、水分をトルエンとともに留去した。その後分散液を40℃まで冷却し、ピリジン15mL、ヘキサメチルジシラザン(シリルエーテル化剤)25gを添加して窒素雰囲気下90分反応させ、エーテル変性セルロース繊維のNMP分散液を調製した。
得られたエーテル変性セルロース繊維のNMP分散液を遠心分離機によりセルロース繊維を沈殿させ水置換した。これを3回繰り返し、水で調製し、平均繊維径が100nmのエーテル変性セルロース繊維が1.0質量%含有された水分散液を調製した。
なお、エーテル変性セルロース繊維を1H-NMR、13C-NMR、FT-IRで分析したところ、セルロース由来の水酸基の一部が疎水性のシリルエーテル基で置換されていることを確認した。
【0118】
実施例1(重合法A:低温重合)
セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY110N(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が125nmのセルロース繊維が15質量%含有されたもの)を用いた。このセルロース繊維の水分散液13.3質量部とε-カプロラクタム83質量部と6-アミノカプロン酸17質量部を、均一な分散液となるまでミキサーで攪拌、混合し、ペースト状の混合分散液を得た。この混合分散液を、窒素気流下において、徐々に加熱し、加熱の途中において水蒸気を排出しながら、190℃まで温度を上げ、190℃にて12時間静置することにより重合反応をおこなった(低温重合)。このとき撹拌は行わなかった。重合温度(すなわち190℃)において、ε-カプロラクタムは液体状態(すなわち溶融状態)であり、6-アミノカプロン酸は固体状態であった。得られた重合反応物を粉砕し、フレーク状の樹脂組成物を得た。得られたフレーク状の樹脂組成物を95℃の熱水で精練した後、乾燥させた。
【0119】
実施例2~13(重合法A:低温重合)
セルロース繊維の種類、セルロース繊維の含有量を表1に記載のとおりに変更する以外は、実施例1と同様にして、ポリアミド樹脂組成物を得た。
【0120】
実施例14(重合法A:低温重合)
セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY110N(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が125nmのセルロース繊維が15質量%含有されたもの)を用いた。このセルロース繊維の水分散液167質量部とε-カプロラクタム100質量部を、均一な分散液となるまでミキサーで攪拌、混合し、ペースト状の混合分散液を得た。この混合分散液を攪拌しながら、190℃まで加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0.7MPaの圧力まで昇圧した。そののち大気圧まで放圧し、190℃で8時間重合をおこなった。重合温度(すなわち190℃)でε-カプロラクタムは液体状態(すなわち溶融状態)であった。得られた重合反応物を粉砕し、フレーク状の樹脂組成物を得た。得られたフレーク状の樹脂組成物を95℃の熱水で精練した後、乾燥させた。
【0121】
実施例15(重合法A:低温重合)
実施例1と同様にして、セルロース繊維の水分散液33質量部とポリアミド66塩100質量部とを均一な分散液となるまでミキサーで攪拌、混合し、ペースト状の混合分散液を得た。この混合分散液を、窒素気流下において、徐々に加熱し、加熱の途中において水蒸気を排出しながら、240℃まで温度を上げ、240℃にて12時間静置することにより重合反応をおこなった(低温重合)。このとき撹拌は行わなかった。重合温度(すなわち240℃)でポリアミド66塩は液体状態(すなわち溶融状態)であった。得られた重合反応物を粉砕し、フレーク状の樹脂組成物を得た。得られたフレーク状の樹脂組成物を95℃の熱水で精練した後、乾燥させた。
【0122】
実施例16、17(重合法A:低温重合)
セルロース繊維の含有量および重合温度を表1に記載のとおりに変更する以外は、実施例15と同様にして、ポリアミド樹脂組成物を得た。
実施例16において、重合温度(すなわち240℃)でポリアミド66塩は液体状態(すなわち溶融状態)であった。
実施例17において、重合温度(すなわち195℃)でポリアミド66塩は固体状態であった。
【0123】
実施例18(重合法A:低温重合)
実施例1と同様にして、セルロース繊維の水分散液33質量部とω‐ラウロラクタム83質量部と12-アミノドデカン酸17質量部を均一な分散液となるまでミキサーで攪拌、混合し、ペースト状の混合分散液を得た。この混合分散液を、窒素気流下において、徐々に加熱し、加熱の途中において水蒸気を排出しながら、160℃まで温度を上げ、160℃にて12時間静置することにより重合反応をおこなった(低温重合)。このとき撹拌は行わなかった。重合温度(すなわち160℃)でω-ラウロラクタムは液体状態(すなわち溶融状態)であり、12‐アミノドデカン酸は固体状態であった。得られた重合反応物を粉砕し、フレーク状の樹脂組成物を得た。得られたフレーク状の樹脂組成物を95℃の熱水で精練した後、乾燥させた。
【0124】
実施例19(重合法A:低温重合)
セルロース繊維の含有量を表1に記載のとおりに変更する以外は、実施例18と同様にして、ポリアミド樹脂組成物を得た。
【0125】
実施例20
比較例1において重合時間を調整することで、ポリアミド6樹脂(数平均分子量20100、分子量分布2.8)を得た。このポリアミド6樹脂50質量部および実施例6で得られた樹脂組成物50質量部をドライブレンドし、二軸押出機(芝浦機械社製TEM26SS、スクリュー径26mm)の主ホッパーに供給した。260℃で十分に溶融混練し、ストランド状に払い出し、切断して、樹脂組成物のペレットを得た。
【0126】
実施例21
比較例1において重合時間を調整することで、ポリアミド6樹脂(数平均分子量21000、分子量分布3.6)を得た。このポリアミド6樹脂50質量部および実施例6で得られた樹脂組成物50質量部をドライブレンドし、二軸押出機(実施例20と同様の二軸押出機)の主ホッパーに供給した。260℃で十分に溶融混練し、ストランド状に払い出し、切断して、樹脂組成物のペレットを得た。
【0127】
実施例22
比較例1において重合時間を調整することで、ポリアミド6樹脂(数平均分子量24200、分子量分布3.7)を得た。このポリアミド6樹脂50質量部および実施例6で得られた樹脂組成物50質量部をドライブレンドし、二軸押出機(実施例20と同様の二軸押出機)の主ホッパーに供給した。260℃で十分に溶融混練し、ストランド状に払い出し、切断して、樹脂組成物のペレットを得た。
【0128】
実施例23
実施例4で得られた樹脂組成物を、射出成形機(日精樹脂工業社製:NEX110-12E)を用いて射出成形し、ISO規格3167に記載のダンベル試験片(試験部80mm×10mm×4mm)を作製した。射出成形の条件は、樹脂温度250℃、金型温度70℃、射出時間12秒、冷却時間20秒とした。当該試験片を粉砕し、得られた粉砕物を再生材とした。
得られた再生材10質量部および実施例4で得られた樹脂組成物90質量部をドライブレンドし、二軸押出機(芝浦機械社製TEM26SS、スクリュー径26mm)の主ホッパーに供給した。260℃で十分に溶融混練し、ストランド状に払出し、切断して、樹脂組成物のペレットを得た。
【0129】
実施例24
実施例4で得られた樹脂組成物、射出成形機(日精樹脂工業社製:NEX110-12E)を用いて射出成形し、ISO規格3167に記載のダンベル試験片(試験部80mm×10mm×4mm)を作製した。射出成形の条件は、樹脂温度250℃、金型温度70℃、射出時間12秒、冷却時間20秒とした。当該試験片を粉砕し、二軸押出機(芝浦機械社製TEM26SS、スクリュー径26mm)によりリペレット化し、得られたペレットを再生材とした。
得られた再生材10質量部および実施例4で得られた樹脂組成物90質量部をドライブレンドし、二軸押出機(芝浦機械社製TEM26SS、スクリュー径26mm)の主ホッパーに供給した。260℃で十分に溶融混練し、ストランド状に払出し、切断して、樹脂組成物のペレットを得た。
【0130】
実施例25、26
実施例24と同様の操作を行って得られた再生材の混合割合を表5に記載の通りに変更する以外は、実施例24と同様の操作を行って、樹脂組成物のペレットを得た。
【0131】
比較例1(重合法A:低温重合)
セルロース繊維の水分散液を加えなかった以外は実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得た。
【0132】
比較例2(重合法A:低温重合)
セルロース繊維の水分散液を加えなかった以外は実施例15と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得た。
【0133】
比較例3(重合法A:低温重合)
セルロース繊維の水分散液を加えなかった以外は実施例18と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得た。
【0134】
比較例4(重合法B:溶融重合+固相重合)
セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY110N(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が125nmのセルロース繊維が15質量%含有されたもの)を用いた。この水分散液に精製水を加えてミキサーで攪拌することで、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調製した。このセルロース繊維の水分散液70質量部とε-カプロラクタム100質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合した。この混合分散液を攪拌しながら、240℃まで加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0.7MPaの圧力まで昇圧した。そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間溶融重合をおこなった。払出し時に得られた樹脂組成物(ペレット)を95℃の熱水で精練した後、乾燥させた。乾燥したペレットを、窒素気流下において、170℃で15時間、固相重合に供した。
【0135】
比較例5(重合法C:溶融重合)
比較例4と同様に調製したセルロース繊維水分散液70質量部とε-カプロラクタム100質量部との混合分散液を、攪拌しながら、240℃まで加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0.7MPaの圧力まで昇圧した。そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間溶融重合をおこなった。得られた樹脂組成物(ペレット)を95℃の熱水で精練した後、乾燥させた。
【0136】
比較例6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、および28(重合法B:溶融重合+固相重合)
セルロース繊維の種類、セルロース繊維の含有量、重合方法を表2または表3に記載のとおりに変更する以外は、比較例4と同様にして、ポリアミド樹脂組成物を得た。
【0137】
比較例7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27および29(重合法C:溶融重合)
セルロース繊維の種類、セルロース繊維の含有量、重合方法を表2または表3に記載のとおりに変更する以外は、比較例5と同様にして、ポリアミド樹脂組成物を得た。
【0138】
比較例30(重合法B:溶融重合+固相重合)
比較例4と同様にして調製したセルロース繊維水分散液167質量部とポリアミド66塩100質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合した。この混合分散液を230℃で攪拌しながら、内圧が1.5MPaになるまで加熱した。その圧力に到達後、徐々に水蒸気を放出しつつ、加熱を続けてその圧力を保持した。280℃に達した時点で、常圧まで放圧し、1時間溶融重合をおこなった。払出し時に得られた樹脂組成物(ペレット)を95℃の熱水で精練した後、乾燥させた。乾燥したペレットを、窒素気流下において、220℃で15時間、固相重合に供した。
【0139】
比較例31(重合法C:溶融重合)
比較例4と同様にして調製したセルロース繊維水分散液167質量部とポリアミド66塩100質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合した。この混合分散液を230℃で攪拌しながら、内圧が1.5MPaになるまで加熱した。その圧力に到達後、徐々に水蒸気を放出しつつ、加熱を続けてその圧力を保持した。280℃に達した時点で、常圧まで放圧し、1時間溶融重合をおこなった。払出し時に得られた樹脂組成物(ペレット)を95℃の熱水で精練した後、乾燥させた。
【0140】
比較例32(重合法B:溶融重合+固相重合)
比較例4と同様に調製したセルロース繊維水分散液167質量部とω-ラウロラクタム83質量部と12‐アミノドデカン酸17質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合した。この混合分散液を、窒素気流下において、徐々に加熱し、加熱の途中において水蒸気を排出しながら、200℃まで温度を上げ、230℃にて1時間攪拌し、重合反応をおこなった。払出し時に得られた樹脂組成物(ペレット)を95℃の熱水で精練した後、乾燥させた。乾燥したペレットを、窒素気流下において、150℃で15時間、固相重合に供した。
【0141】
比較例33(重合法C:溶融重合)
比較例4と同様に調製したセルロース繊維水分散液167質量部とω-ラウロラクタム83質量部と12‐アミノドデカン酸17質量部とを、均一な分散液となるまでさらにミキサーで攪拌、混合した。この混合分散液を、窒素気流下において、徐々に加熱し、加熱の途中において水蒸気を排出しながら、200℃まで温度を上げ、230℃にて1時間攪拌し、重合反応をおこなった。払出し時に得られた樹脂組成物(ペレット)を95℃の熱水で精練した後、乾燥させた。
【0142】
参考例1(重合法C:溶融重合)
セルロース繊維の水分散液を加えなかった以外は比較例5と同様にしてポリアミド樹脂(PA6)を得た。この操作を10回行い、10種類のポリアミド樹脂(PA6)を得た。10種類のポリアミド樹脂(PA6)の融点を示差走査型熱量計により測定し、これらの測定値の平均値をポリアミド樹脂(PA6)の融点として用いた。ポリアミド樹脂(PA6)の融点は220℃であった。
【0143】
参考例2(重合法C:溶融重合)
セルロース繊維の水分散液を加えなかった以外は比較例31と同様にしてポリアミド樹脂(PA66)を得た。この操作を10回行い、10種類のポリアミド樹脂(PA66)を得た。10種類のポリアミド樹脂(PA66)の融点を示差走査型熱量計により測定し、これらの測定値の平均値をポリアミド樹脂(PA66)の融点として用いた。ポリアミド樹脂(PA66)の融点は270℃であった。
【0144】
参考例3(重合法C:溶融重合)
セルロース繊維の水分散液を加えなかった以外は比較例33と同様にしてポリアミド樹脂(PA12)を得た。この操作を10回行い、10種類のポリアミド樹脂(PA12)を得た。10種類のポリアミド樹脂(PA12)の融点を示差走査型熱量計により測定し、これらの測定値の平均値をポリアミド樹脂(PA12)の融点として用いた。ポリアミド樹脂(PA12)の融点は175℃であった。
【0145】
参考例4
比較例1で得られたポリアミド樹脂100質量部を二軸押出機の主ホッパーに供給し、途中、サイドフィーダーよりガラス繊維43質量部を供給した。260℃で十分に溶融混練し、ストランド状に払い出し、切断して、樹脂組成物のペレットを得た。
【0146】
実施例1~26、比較例1~33および参考例1~4で得られたポリアミド樹脂組成物の特性値を測定した結果を表1~表5に示す。
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
表1~表5における特記事項は以下の通りである。
重合法A:低温重合;
重合法B:溶融重合+その後の固相重合;
重合法C:溶融重合。
重合法Bの重合温度は溶融重合時の温度とする。
(1)実施例1~4、6~15および18の線膨張係数の低下率はそれぞれ、比較例5,7,9,11,15,17,19,21,23,25,27,29,11,31および33の線膨張係数からの低下率を示す。
参考例1で得られたポリアミドの融点=220℃。
参考例2で得られたポリアミドの融点=270℃。
参考例3で得られたポリアミドの融点=175℃。
【0153】
実施例1~26のポリアミド樹脂組成物は、いずれも、ペレット100個当たりの黒点異物含有ペレットの個数が10個以下であった。
【0154】
実施例1~26のポリアミド樹脂組成物は、いずれも、引張弾性率が3.2GPa以上好ましくは3.8GPa以上、より好ましくは4.7GPa以上であって、MD方向における線膨張係数が40×10-6(1/℃)以下、好ましくは15.0×10-6(1/℃)以下、より好ましくは7.0×10-6(1/℃)以下であった。
【0155】
特に、低温重合法を採用した実施例(詳しくは実施例1~4、6~15および18)の線膨張係数は、低温重合法の代わりに溶融重合法を採用したこと以外、各実施例と同様の比較例(それぞれ比較例5,7,9,11,15,17,19,21,23,25,27,29,11,31および33)の線膨張係数を基準として、30%以上の低下率を示した。
なお、溶融重合法と固相重合法とを組み合わせて採用した比較例(詳しくは比較例4、6、8、10、14、16、18、20、22、24、26、28、30および32)の線膨張係数は、溶融重合法のみを採用したこと以外、各比較例と同様の比較例(それぞれ比較例5、7、9、11、15、17、19、21、23、25、27、29、31および33)の線膨張係数と同程度の値であった。
【0156】
比較例1~3のポリアミド樹脂組成物は、セルロース繊維を用いなかったため、引張弾性率がより低く、線膨張係数がより高かった。
【0157】
比較例4~11および14~33のポリアミド樹脂組成物はいずれも、重合温度がポリアミド樹脂の融点以上であったため、ペレット100個当たりの黒点異物含有ペレットの個数が11個以上であり、機械的特性、特に引張弾性率が十分に向上しなかった。比較例4~11および14~33のポリアミド樹脂組成物はいずれも、十分に低い線膨張係数を有さなかった。
【0158】
比較例12および13はいずれも、溶融重合を行おうとしたが、セルロース繊維の含有量が多量であったため、セルロースが分離して、セルロースが含有した重合物を得ることができなかった。
【0159】
実施例1~19では、ポリアミド樹脂組成物の製造時に、得られるポリアミド樹脂組成物を溶融状態で保持する必要はないため、ポリアミド樹脂組成物の取り扱いが極めて容易であり、収率は99質量%以上であった。実施例1~19における収率は、低温重合後、重合反応物を精練のために、反応容器から取り出したとき、反応容器に付着して回収困難な重合反応物の割合を100質量%から減じた値である。
比較例4~33では、ポリアミド樹脂組成物の製造時に、ポリアミド樹脂組成物を溶融状態で保持しなければならず、重合の進行に伴い、溶融粘度が高くなって払出しが困難となり、収率は70質量%以下であった。比較例4~33における収率は、溶融重合後、重合反応物を精練のために、反応容器から取り出したとき、反応容器に付着して回収困難な重合反応物の割合を100質量%から減じた値である。
【0160】
実施例1~26はいずれも、3回リサイクル後の物性保持率(曲げ弾性率および引張弾性率の保持率)が95%以上であった。一方、参考例4では、3回リサイクル後の物性保持率が低かった。参考例4では、樹脂材料の強化材として用いたガラス繊維がリサイクルにより折損したためと考えられる。