(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152052
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20231005BHJP
H02P 27/08 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02P27/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022061981
(22)【出願日】2022-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】古川 達也
【テーマコード(参考)】
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB06
5H505CC04
5H505DD03
5H505EE49
5H505HA06
5H505HA09
5H505HB01
5H505JJ03
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL41
5H505MM03
5H770BA02
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770HA02Z
5H770HA03W
5H770HA07Z
5H770JA10X
5H770LA01X
5H770LB07
(57)【要約】
【課題】電力変換装置のスイッチング損失を悪化させることなく電動機内部の複数のコイルの各部に生じるサージ電圧を低減可能とする電力変換装置を提供する。
【解決手段】電力変換装置は、直流電源と複数のコイルを有する電動機との間に接続され、複数のスイッチング素子と制御装置とを備える。複数のスイッチング素子は、直流電源の正極側と負極側との間に直列接続された一対のスイッチング素子を複数のコイルの相毎に含む。制御装置は、複数のスイッチング素子のスイッチングを制御する。制御装置は、スイッチング時に電力変換装置の出力端子間又は上記負極と当該出力端子との間に生じる電圧の波形の周波数ゲイン特性のゲイン曲線が、上記出力端子間を入力とし複数のコイル間を出力として示される電圧周波数応答特性における共振周波数帯においてゲインの傾きが-20又は-40dB/decである近似直線を下回るように、複数のスイッチング素子を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源と複数のコイルを有する電動機との間に接続された電力変換装置であって、
前記直流電源の正極側と負極側との間に直列接続された一対のスイッチング素子を前記複数のコイルの相毎に含む複数のスイッチング素子と、
前記複数のスイッチング素子のスイッチングを制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記スイッチング時に前記電力変換装置の出力端子間又は前記負極と前記出力端子との間に生じる電圧の波形の周波数ゲイン特性のゲイン曲線が、前記出力端子間を入力とし前記複数のコイル間を出力として示される電圧周波数応答特性における共振周波数帯においてゲインの傾きが-20又は-40dB/decである近似直線を下回るように、前記複数のスイッチング素子を制御する
電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、直流電源から電動機に供給される電力を変換する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、直流電源から電動機に供給される電力を変換するインバータ装置(電力変換装置)を開示している。このインバータ装置によれば、スイッチングの途中でゲート抵抗値を切り替えることで、電動機の入力電圧が2段階で立ち上がるスイッチング波形が形成される。そして、電動機の入力端子間で生じるサージ電圧が1段階目のスイッチングと2段階目のスイッチングとの間で逆位相となるように、ゲート抵抗値とスイッチングの切り替えタイミングとが設定される。これにより、電動機の入口に生じるサージ電圧が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術は、電動機と電力変換装置との間にケーブルが介在する構成、すなわち、当該ケーブルによって電動機の入力端子の単一部分でサージ電圧が最も増大されるような構成に対して効果的である。一方で、電動機と電力変換装置とが一体となった機電一体構成のように上記ケーブルを有しない構成では、サージ電圧が電動機の入力端子間よりも電動機の内部のコイル間で大きくなり、また、電動機の各相コイルの多数の箇所でサージ電圧の位相及び電圧値が不規則に変化する。上記技術は、このような構成においては効果的でない。
【0005】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたものであり、電力変換装置のスイッチング損失を悪化させることなく電動機内部の複数のコイルの各部に生じるサージ電圧を低減可能とする電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る電力変換装置は、直流電源と複数のコイルを有する電動機との間に接続され、複数のスイッチング素子と制御装置とを備える。複数のスイッチング素子は、直流電源の正極側と負極側との間に直列接続された一対のスイッチング素子を複数のコイルの相毎に含む。制御装置は、複数のスイッチング素子のスイッチングを制御する。制御装置は、スイッチング時に電力変換装置の出力端子間又は上記負極と当該出力端子との間に生じる電圧の波形の周波数ゲイン特性のゲイン曲線が、上記出力端子間を入力とし複数のコイル間を出力として示される電圧周波数応答特性における共振周波数帯においてゲインの傾きが-20又は-40dB/decである近似直線を下回るように、複数のスイッチング素子を制御する。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る電力変換装置によれば、スイッチング速度を維持したまま、各コイルのサージ周波数成分を差し引いたスイッチング制御を行うことができる。その結果、電力変換装置のスイッチング損失を悪化させることなく、電動機の内部の複数のコイルの各部に生じるサージ電圧を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態に係る電力変換装置を備える電気駆動システムの構成を示す回路図である。
【
図2】スイッチングを1回行った際の電圧波形を示す図(A)と、当該電圧波形の周波数ゲイン特性を示すゲイン線図(B)である。
【
図3】
図1に示す電動機の回路構成を示す図である。
【
図4】伝達関数(周波数ゲイン特性及び周波数位相特性)として表された電圧共振の特性の一例を示す図である。
【
図5】
図2(B)に示すスイッチング波形の周波数ゲイン特性に対して電圧共振の特性を反映することにより得られる周波数ゲイン特性を示す図である。
【
図6】
図5に示す周波数ゲイン特性に対応する仮想スイッチング波形WFv、及び、スイッチング制御により実現されるスイッチング波形WFrを表した図である。
【
図7】
図1に示す制御装置に含まれるゲート駆動回路の構成の一例を示す回路図である。
【
図8】
図1に示す制御装置に含まれるゲート駆動回路の構成の他の例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本開示の実施の形態について説明する。ただし、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略又は簡略する。以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る技術思想が限定されるものではない。
【0010】
1.電気駆動システムの構成
図1は、実施の形態に係る電力変換装置30を備える電気駆動システム1の構成を示す回路図である。
図1に示す電気駆動システム1は、電動車両に搭載され、当該電動車両を駆動する。電動車両は、例えば、ハイブリッド電気車両(HEV)又はバッテリ電気車両(BEV)である。
【0011】
電気駆動システム1は、直流電源10(例えば、バッテリ)と、電動機20と、電力変換装置30とを備えている。電力変換装置30は、直流電源10と電動機20との間に接続され、直流電源10から電動機20に供給される電力を変換するように構成されている。より詳細には、直流電源10と電力変換装置30との間には、平滑コンデンサ12が設けられている。平滑コンデンサ12は、直流電源10から電力変換装置30に入力される電圧を平滑化する。
【0012】
電動機20は、複数相のコイルの一例として、3相のコイル22(U相コイル22U、V相コイル22V、及びW相コイル22W;後述の
図3参照)を有する。より詳細には、各相のコイル22は、絶縁被膜に覆われた金属導線を巻き重ねて形成されている。電動機20は、各相のコイル22が円状に配置された電機子と、コイル22に流れる電流によって電機子から生じる回転磁界を利用してトルクを発生させる回転子とを有し、回転子の回転数と電流値に基づいて電力変換装置30によって駆動される。電動機20は、車両の図示しない駆動輪を駆動するためのトルクを発生させる。
【0013】
電力変換装置30は、インバータ部32と、制御装置34とを備えている。インバータ部32は、各相のコイル22の通電を切り替えることにより、平滑コンデンサ12により平滑化された直流電力を交流電力に変換するように構成されている。インバータ部32の高電位点Hは、高電位側接続線14を介して直流電源10の正極に接続されている。また、インバータ部32の低電位点Lは、低電位側接続線16を介して直流電源10の負極に接続されている。
【0014】
インバータ部32は、直流電源10の正極側と負極側との間に直列接続された一対のスイッチング素子36~46を電動機20の相毎に(すなわち、3組)備えている。具体的には、インバータ部32は、U相コイル22Uに対応して、インバータ部32の高電位点Hと接続点Uとの間に設けられたスイッチング素子36と、接続点Uと低電位点Lとの間に設けられたスイッチング素子38とを備えている。そして、接続点Uには、U相コイル22Uの一端が接続されている。また、インバータ部32は、V相コイル22Vに対応して、高電位点Hと接続点Vとの間に設けられたスイッチング素子40と、接続点Vと低電位点Lとの間に設けられたスイッチング素子42とを備えている。そして、接続点Vには、V相コイル22Vの一端が接続されている。さらに、インバータ部32は、W相コイル22Wに対応して、高電位点Hと接続点Wとの間に設けられたスイッチング素子44と、接続点Wと低電位点Lとの間に設けられたスイッチング素子46とを備えている。そして、接続点Wには、W相コイル22Wの一端が接続されている。
【0015】
このように構成されたインバータ部32によれば、上アームを構成するスイッチング素子36、40、及び44により、電動機20の相毎に高電位点Hとコイル22(
図3参照)の一端との間を開閉(オンオフ)することできる。また、下アームを構成するスイッチング素子38、42、及び46により、電動機20の相毎にコイル22の当該一端と低電位点Lとの間を開閉(オンオフ)することできる。なお、以下の説明では、これらのスイッチング素子36~46は、適宜「スイッチング素子SW」と総称される。スイッチング素子SWは、一例として、SiC(シリコンカーバイド)を素材とする金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)である。
【0016】
制御装置34は、上述のように構成されたインバータ部32を制御する。具体的には、制御装置34は、スイッチング素子SWのそれぞれが有する動作制御端子48への電圧又は電流の供給によってスイッチング素子SWのオンオフ(スイッチング)を制御する。スイッチング素子SWがオンとされると、高電位側から低電位側への通電が許容され、スイッチング素子SWがオフとされると、通電が遮断される。制御装置34は、スイッチング素子SWのスイッチングの制御により、各相に対応する一対のスイッチング素子SWの中間部(上述の各接続点U、V、及びW)のそれぞれから、電力変換装置30の出力電圧を生じさせることができる。電力変換装置30の各相の出力端子50(50U、50V、50W)は、接続点U、V、及びWにそれぞれ接続されている。
【0017】
制御装置34は、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、及び不揮発性の記憶部を含んでおり、各種の演算処理を行う。制御装置34における演算処理は、予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理で実現されてもよいし、専用の電子回路によるハードウェア処理で実現されてもよい。
【0018】
また、制御装置34は、インバータ部32だけでなく、図示省略される電流検出器、電圧検出器、及び回転角センサにも接続されている。電流検出器は、電動機20の各相のコイル22を流れる電流を検出する。電圧検出器は、電源電圧(平滑コンデンサ12の両端の直流電圧)を検出する。回転角センサは、電動機20の出力軸の回転電気角を検出する。
【0019】
制御装置34は、インバータ部32を制御するために、スイッチング素子SWのオンオフを制御する制御信号(PWM(Pulse Width Modulation)信号)を生成する。PWM信号は、電動機20の回転電気角、各相の電流値、及びトルク指令値に基づいて生成される各相の電圧指令値に基づいて、電動機20の相毎に生成される。そして、制御装置34は、生成したPWM信号に応じて、スイッチング素子SWのオンオフを制御するゲート信号を生成して出力する。スイッチング素子SWがPWM信号に応じてオンオフされることで、直流電源10からの直流電力が交流電力に変換され、電動機20に供給される。より詳細には、各相のコイル22に電圧が印加され、電動機20に3相電流が供給される。これにより、電動機20が駆動される。なお、制御装置34は、後述の
図7又は8に示されるゲート駆動回路52又は62を含んでいる。
【0020】
付け加えると、上述のように構成された電気駆動システム1は、電力変換装置30と電動機20とが一体となった機電一体構成を採用しており、電力変換装置30と電動機20との間の接続のためにケーブルを有していない。具体的には、電力変換装置30の3相の出力端子50(50U、50V、及び50W)と電動機20の入力端子24(24U、24V、及び24W;
図3参照)との間は、例えばバスバ26(26U、26V、及び26W;
図3参照)を介して電気的に接続されている。
【0021】
2.スイッチング制御
2-1.サージ電圧に関する課題
電力変換装置による電圧のスイッチング(オンオフ)により電動機が駆動される電気駆動システムでは、スイッチング素子のオンオフに伴い、サージ電圧が発生する。ここでいうサージ電圧は、スイッチング時に、電力変換装置、電力変換装置と電動機との間の接続ケーブル、及び電動機のそれぞれが有するインダクタンス成分及びキャパシタンス成分に起因する共振(電圧共振)によって発生する。発生したサージ電圧は、電動機に過電圧として印加される。近接するコイル間又はコイルと対地の間でサージ電圧が発生した場合、部分放電が発生し、電動機の劣化を招く恐れがある。このため、当該サージ電圧を低減する必要がある。より詳細には、例えば、電動機と電力変換装置とが数メートルといった比較的長いケーブルによって接続された構成を有する従来型のHEV用の電気駆動システムでは、ケーブルのインダクタンスに起因して数メガから数十メガHzの帯域のサージ電圧の影響が大きく、そのため電動機の入力端子で過電圧が生じていた。
【0022】
上述の課題に対し、特許文献1に記載のように、スイッチング波形(電力変換装置の出力電圧波形)の立ち上がりを高速としたまま、スイッチング素子の動作制御によってスイッチング速度を段階的に切り替え、且つその切り替えのタイミングを電動機の入力端子で生じるサージ電圧が逆位相となるよう設定することで、サージ電圧を低減する手法が提案されている。しかしながら、近年のHEV又はBEV用の電気駆動システムは、航続距離を増加させるために電力変換装置と電動機との間のケーブルを削減し、できるだけ小型化及び軽量化された構成を有することが求められる。このような構成においては、ケーブルの削減に伴い、電動機内部のコイルが有するインダクタンス、及びコイル間に生じるキャパシタンスによって生じる共振現象が支配的となる。このため、電動機の入力端子ではなく電動機内部のコイル間で生じるサージ電圧が絶縁設計上の問題となる。また、コイルの形態及び配置に関し、コイルは、電動機内部において数十メートルに及ぶ金属導線が緻密に集積し且つ巻かれることによって形成されており、サージ電圧の電圧値、位相、及び周波数の振る舞いは、電動機内のコイル位置によって様々に変化する。このように電動機内の各部で様々に振る舞いを変えるサージ電圧の低減のためには、電動機内部の多数の個所のコイルで生じる電圧を同時に低減させる必要がある。しかしながら、電動機の入力端子のような単一の箇所のサージ電圧の振る舞いに基づいてスイッチング波形を決定する上記手法では、このような要求を満たすことは困難である。さらに、例えば電力変換装置のスイッチング速度そのものを低下させ、内包される高周波成分を減少させることとすれば、電動機内部の大半のコイルでサージ電圧を低減させることができる。しかしながら、スイッチング速度を下げることは、電力変換装置のスイッチング損失の増加に繋がってしまう。
【0023】
2-2.対策
本実施形態の電気駆動システム1のように機電一体構成を有する電気駆動システムでは、上述のように、電動機のサージ電圧の挙動は、電動機内部に多数存在するコイルの箇所毎に不規則に変化し、また、電動機内部のコイル間で生じるサージ電圧が電動機の入力端子間に生じる電圧を上回る。
【0024】
このような課題に鑑み、本実施形態では、スイッチングに伴う電力変換装置30の損失悪化を招くことなく電動機20の内部の複数のコイル22間で生じるサージ電圧を低減させるために、電力変換装置30のスイッチング波形が、次のように手法に従って定められる。
【0025】
すなわち、制御装置34は、スイッチング時に電力変換装置30の出力端子50間又は直流電源10の負極と出力端子50との間に生じる電圧の波形の周波数ゲイン特性のゲイン曲線が、出力端子50間を入力とし複数のコイル22間を出力として示される電圧周波数応答特性(後述の
図5参照)における共振周波数帯(例えば、
図5の共振周波数fa、fb付近の帯域)においてゲインの傾きが-20又は-40dB/decである近似直線を下回るように、複数のスイッチング素子SWを制御する。このようなスイッチング素子SWの制御を実現する具体的な手法が、
図2~8を参照して次のように説明される。
【0026】
図2は、スイッチングを1回行った際の電圧波形を示す図(A)と、当該電圧波形の周波数ゲイン特性を示すゲイン線図(B)である。より詳細には、
図2(A)は、スイッチング時に電力変換装置30の出力端子50間又は直流電源10の負極と出力端子50との間に生じる電圧の波形(スイッチング波形)、換言すると、電力変換装置30からの出力電圧の波形を示している。
図2(B)に示すゲイン線図は、横軸が対数目盛りで表された周波数であり、縦軸がゲインである片対数グラフによって表されている。
【0027】
図2(A)に示すスイッチング波形における電圧の立ち上がり時間Trは、予め定められたものである。
図2(B)に示す周波数ゲイン特性は、
図2(A)に示すスイッチング波形を高速フーリエ変換(FFT)することによって得られる。このように得られた周波数ゲイン特性は、ゲインの傾きが-20dB/decと-40dB/decである2つの近似直線を有するものとなる。そして、これらの近似直線の変曲箇所は、立ち上がり時間Trに対応した周波数値(1/(π・Tr))で示される。
【0028】
図3は、
図1に示す電動機20の回路構成を示す図である。
図3に示す例では、各相のコイル22U、22V、及び22Wは、複数のコイルを直列に接続して構成されている。電動機20の各コイル22が示す電圧共振の特性は、
図3に示すように電圧Vinに対する電圧Voutの応答、すなわち増幅率Vout/Vinとして計測することができる。電圧Vinは、電動機20の入口(入力端子24)に入力された電圧(換言すると、出力端子50間の電圧)である。電圧Voutは、各コイル22の特定箇所で検出された電圧である。電圧Voutの例として、
図3には、U相のコイル22Uに含まれる複数のコイルのうちで入力端子24Uに近い側から1つ目及び2つ目のコイル間とV相のコイル22Vの入力端子24Vとの間の電圧Vout_1と、U相のコイル22Uの両端電圧Vout_1とが表されている。
図3及び後述の
図4~
図6は、U相とV相との間の電圧の関係を例に挙げて説明されるが、他の2相間の電圧の関係についても同様である。
【0029】
図4は、伝達関数(周波数ゲイン特性及び周波数位相特性)として表された電圧共振の特性の一例を示す図である。
図4には、電圧Vinに対する電圧Vout_1の応答に関するゲイン曲線と、電圧Vinに対する電圧Vout_2の応答に関するゲイン曲線とが例示されている。電圧Vout_1の例では、周波数値fbにおいてゲインが極大値をとる。すなわち、周波数値fbは共振周波数に相当する。同様に、電圧Vout_2の例では、周波数値faにおいてゲインが極大値をとる。すなわち、周波数値faは共振周波数に相当する。なお、周波数値fbは、周波数値faに対して高周波側に位置している。
【0030】
そして、電圧Vout_1の例では、ゲインの大きい共振周波数fb近傍の周波数帯(共振周波数帯)が、U相のコイル22Uに含まれる複数のコイルのうちで入力端子24Uに近い側から1つ目及び2つ目のコイル間とV相のコイル22Vの入力端子24Vとの間で生じるサージ電圧の帯域を示している。電圧Vout_2の例では、ゲインの大きい共振周波数fa近傍の周波数帯(共振周波数帯)が、コイル22Uの両端で生じるサージ電圧の帯域を示している。つまり、電動機20のコイル22で生じるサージ電圧は、電力変換装置30のスイッチングによって生じて電動機20に入力される電圧Vinと、電動機20の内部のコイル22に至るまでの上記増幅率を示す伝達関数とを周波数軸上で掛け合わせることによって表される。
【0031】
この理論に基づくことで、電動機20の内部のコイル22(より詳細には、1又は複数のコイル箇所)で生じるサージ電圧を低減するような仮想的なスイッチング波形(後述の仮想スイッチング波形WFv)の形状は、次に
図5及び6を参照して説明されるように導くことができる。
【0032】
図5は、
図2(B)に示すスイッチング波形の周波数ゲイン特性に対して電圧共振の特性を反映することにより得られる周波数ゲイン特性を示す図である。上述の
図2(B)に示す周波数ゲイン特性は、予め定められた立ち上がり時間Trを有するスイッチング波形(
図2(A)参照)に対応する周波数ゲイン特性である。この
図2(B)に示すような周波数ゲイン特性を示すゲイン曲線に含まれるゲインの傾きが-20dB/decと-40dB/decである2つの近似直線から電動機20のコイル22が示す伝達特性(電圧共振の特性)の共振周波数fa及びfbのゲインを差し引くことにより、
図5に示すような周波数ゲイン特性を示すゲイン曲線が得られる。
【0033】
次に、
図6は、
図5に示す周波数ゲイン特性に対応する仮想スイッチング波形WFv、及び、スイッチング制御により実現されるスイッチング波形WFrを表した図である。
図6中の実線で示す仮想スイッチング波形(電圧波形)WFvは、例えば高速フーリエ逆変換を利用して、
図5に示す周波数ゲイン特性から導くことができるものである。
図6に示すように、仮想スイッチング波形WFvによれば、本実施形態に係る対策を伴わない通常のスイッチング波形WFn(破線)と比較すると分かるように、電圧の立ち上がり速度を維持したまま立ち上がり後半の電圧波形形状のみが電動機の特性(より詳細には、本実施形態のスイッチング制御が適用される電動機の電圧共振の特性)に基づいて形状変更された姿となる。また、仮想スイッチング波形WFvを定める本手法によれば、
図3~5に示す例のように複数のコイル箇所のサージ電圧を想定した場合であっても、同時にサージ低減効果が得られる仮想スイッチング波形WFvを定めることができる。付け加えると、
図6に示されるような仮想スイッチング波形WFvは、サージ電圧の低減が要求される1又は複数のコイル箇所を対象として、例えば事前に求めておくことができる。
【0034】
そのうえで、制御装置34は、仮想スイッチング波形WFvを時間全域で下回るスイッチング波形WFr(一点鎖線)が実現されるように複数のスイッチング素子SWを制御する。スイッチング波形WFrを実現するためのスイッチング制御は、例えば、次の
図7又は8に示すゲート駆動回路52又は62を利用して行うことができる。
【0035】
(ゲート駆動回路の構成例)
図7は、
図1に示す制御装置34に含まれるゲート駆動回路の構成の一例を示す回路図である。
図7に示す例では、制御装置34は、ゲート駆動回路52を含んでいる。なお、
図7では、制御装置34の構成要素のうち、ゲート駆動回路52以外のCPU等の構成要素が制御部34aとして表されている。また、
図7では、スイッチング素子SWは、
図1に示す6つのスイッチング素子36~46のそれぞれに相当している。すなわち、ゲート駆動回路52は、スイッチング素子36~46のそれぞれに対して個別に備えられている。このことは、次の
図8に示す例も同様である。
【0036】
ゲート駆動回路52は、スイッチング素子SWの動作制御端子(ゲート端子)48に接続されている。ゲート駆動回路52は、抵抗値の異なる複数の抵抗器(一例として、3つの抵抗器54、56、及び58)と、これらの抵抗器54、56、及び58の何れか1つを選択して動作制御端子48と制御部34aとの間を接続する切替スイッチ60とを備える。
【0037】
ゲート駆動回路52には、制御部34aから同電位の電圧が供給される。この際、上述の構成を有するゲート駆動回路52によれば、制御部34aと動作制御端子48との間に接続される抵抗器54~58に応じて異なるゲート電圧が動作制御端子48に印加されることになる。その結果、動作制御端子48への異なるゲート電圧印加に応じて、スイッチング出力電圧(電力変換装置30の出力電圧)の立ち上がり時間Trが異なるものとなる。このため、ゲート駆動回路52によれば、動作制御端子48に接続された抵抗器54~58をスイッチング動作の過程で切り替えることにより、抵抗値の切り替え(換言すると、ゲート電流の調節)を利用して
図6に示すようなスイッチング波形WFrを実現することが可能となる。これにより、サージ電圧低減効果を維持したままスイッチングを実行することが可能となる。
【0038】
図8は、
図1に示す制御装置34に含まれるゲート駆動回路の構成の他の例を示す回路図である。
図8に示す例では、制御装置34は、ゲート駆動回路62を含んでいる。なお、
図8では、制御装置34の構成要素のうち、ゲート駆動回路62以外のCPU等の構成要素が制御部34bとして表されている。ゲート駆動回路62は、動作制御端子48に接続されている。ゲート駆動回路62は、動作制御端子48に接続された複数のトランジスタ64を、定電圧電源66とともに含んでいる。定電圧電源66の出力電圧は、動作制御端子48に供給されるゲート電源電圧となる。
【0039】
上述のような構成を有するゲート駆動回路62を利用することにより、スイッチング波形WFr(
図6参照)は、抵抗器を使うことなく、オンとされるトランジスタ64の数の制御によって動作制御端子48に流入するゲート電流を調節する手法を用いて実行されてもよい。
【0040】
3.効果
以上説明した本実施形態に係るスイッチング制御によれば、スイッチング時に電力変換装置30の出力端子50間又は直流電源10の負極と出力端子50との間に生じる電圧の波形の周波数ゲイン特性のゲイン曲線が、出力端子50間を入力とし複数のコイル22間を出力として示される電圧周波数応答特性(
図5参照)における共振周波数帯(例えば、
図5の共振周波数fa、fb付近の帯域)においてゲインの傾きが-20又は-40dB/decである近似直線を下回るように、複数のスイッチング素子SWが制御される。これにより、スイッチング速度を維持したまま、各コイル22のサージ周波数成分を差し引いたスイッチング制御を行うことができる。その結果、電力変換装置30のスイッチング損失を悪化させることなく、電動機20の内部の複数のコイル22の各部に生じるサージ電圧を低減することが可能となる。
【0041】
付け加えると、本実施形態の手法によれば、コイル22毎に変化する周波数特性を任意の数のコイル箇所を対象として反映し、内包させた単一の電圧波形(仮想スイッチング波形WFv(
図6参照)))を見い出すことができる。換言すると、複数のコイル22に対するサージ低減が可能なスイッチング電圧波形を見い出すことができる。そして、当該仮想スイッチング波形WFvを時間全域で下回るスイッチング波形WFr(
図6参照)が実現されるようにスイッチング制御が実行される。これにより、電動機20の内部の複数のコイル22に対して生じるサージ電圧を低減することが可能となる。
【0042】
4.変形例
(変形例1)
上述した実施の形態に係るスイッチング制御は、駆動条件によらずに実行されてもよいし、あるいは、発生するサージ電圧の大きい駆動条件のみを対象として次のように実行されてもよい。すなわち、そのようなサージ電圧の大きい駆動条件を電動機20の回転数(回転子の回転数)とトルク指令値に基づいて予め定めておき、当該駆動条件下でのみ、上述のスイッチング制御が実行されてもよい。このように、サージ電圧の大きな駆動条件のみで上述のスイッチング制御を実行することにより、制御負荷を低減しつつサージ電圧の低減を効果的に行えるようになる。
【0043】
(変形例2)
また、
図3に示す電動機20のように各相のコイルが複数のコイルを直列に接続して構成されている電動機を対象とする例では、仮想スイッチング波形WFvは、次のように形成されてもよい。すなわち、仮想スイッチング波形WFvの形成に用いられる共振周波数fとして、電動機20の入力端子24に近い側から数えて2つ目以降のコイル22が示す共振周波数fが用いられてもよい。そして、入力端子24に近い側から数えて1つ目のコイル22が有する絶縁性能が、上記2つ目以降のコイル22が有する絶縁性能よりも高められてもよい。このような変形例2によれば、次のような効果が得られる。すなわち、機電一体構成が採用されていても、電動機の入力端子間に生じるサージ電圧が大きくなる構成も想定される。変形例2によれば、このような構成において、入力端子間に生じるサージ電圧については上述の絶縁性能の向上によって対応しつつ、電動機20の内部で生じるサージ電圧については上述の実施の形態に係るスイッチング制御によって低減できるようになる。これにより、当該構成において、電動機20の体格増加を最小限にしつつ、良好なサージ対策を実現できる。
【符号の説明】
【0044】
1 電気駆動システム
10 直流電源
12 平滑コンデンサ
20 電動機
22(22U、22V、22W) 電動機のコイル
24(24U、24V、24W) 電動機の入力端子
26(26U、26V、26W) バスバ
30 電力変換装置
32 インバータ部
34 制御装置
34a、34b 制御部
36、38、40、42、44、46 スイッチング素子
48 動作制御端子
50(50U、50V、50W) 電力変換装置の出力端子
52、62 ゲート駆動回路
54、56、58 抵抗器
60 切替スイッチ
64 トランジスタ
66 定電圧電源