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特開2023-152062酸素発生電極、水の電気分解方法及び酸素発生電極の製造方法
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  • 特開-酸素発生電極、水の電気分解方法及び酸素発生電極の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152062
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】酸素発生電極、水の電気分解方法及び酸素発生電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/077 20210101AFI20231005BHJP
   C25B 11/061 20210101ALI20231005BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20231005BHJP
   B01J 23/889 20060101ALI20231005BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C25B11/077
C25B11/061
C25B11/052
B01J23/889 M
B01J37/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062000
(22)【出願日】2022-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521493765
【氏名又は名称】株式会社関兵
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】陳 萌
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】ナッタパック ギティパットピブーン
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA17
4G169BB03B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC31A
4G169BC35A
4G169BC58A
4G169BC62A
4G169BC62B
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC67A
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BD03A
4G169BD03B
4G169CC40
4G169DA06
4G169EB11
4G169FA03
4G169FB13
4G169FB30
4G169FC04
4K011AA11
4K011AA22
4K011AA63
4K011BA02
4K011BA08
4K011DA01
(57)【要約】
【課題】電解時における過電圧上昇を抑制することができ、かつ、ターフェル勾配も低くすることができる酸素発生電極及びこの酸素発生電極を利用した水の電気分解方法並びに酸素発生電極の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の酸素発生電極は、電極基材と触媒を備える酸素発生電極であって、前記触媒は、前記電極基材上に形成されており、前記触媒は、Fe及びFe以外の遷移金属元素Mの両方を含有する複合酸化物を含有し、前記複合酸化物は、ホウ素がドープされている。本発明の酸素発生電極は、水電解の電極として用いた場合に、電解時における過電圧上昇を抑制することができ、かつ、ターフェル勾配も低くすることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極基材と触媒を備える酸素発生電極であって、
前記触媒は、前記電極基材上に形成されており、
前記触媒は、Fe及びFe以外の遷移金属元素Mの両方を含有する複合酸化物を含有し、
前記複合酸化物は、ホウ素がドープされている、酸素発生電極。
【請求項2】
前記遷移金属元素Mは、Mn、Cu、Ni、Co、Zn及びCrからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の酸素発生電極。
【請求項3】
前記遷移金属元素Mは、Mnを含む、請求項2に記載の酸素発生電極。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の酸素発生電極を使用して水の電解処理を行う工程を含む、水の電気分解方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の酸素発生電極の製造方法であって、
電極基材上に、Fe及びFe以外の遷移金属元素Mの両方を含有する金属有機構造体を形成する工程1と、
前記金属有機構造体を焼成して複合酸化物を生成する工程2と、
前記複合酸化物とホウ素化合物とを接触させて酸素発生電極を得る工程3と、
を備える、酸素発生電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素発生電、水の電気分解方法及び酸素発生電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水電解(水の電気分解を意味する)は、環境問題及びエネルギー資源問題の解決を目指すなかで、再生可能エネルギーの電力を使用して水から水素を製造する方法として有望である。水電解を利用した水素の製造方法では電力を利用するため、製造コストを低減する必要があり、この観点から種々の水電解技術の開発が進められている。
【0003】
水電解では、負極の水素発生反応と比べて、正極の酸素発生反応の過電圧が大きいので、これが水電解反応全体の律速になることから、高活性な酸素発生電極の開発が求められている。例えば、非特許文献1には、欠陥の多いNiMn酸化物ナノシートをCu(OH)ナノワイヤの表面に電気化学的に堆積させた後、熱処理プロセスを行って、コアシェル構成のCuOxナノワイヤ@NiMnOxナノシート電極触媒が提案されている。斯かる電極触媒では、水電解時の過電圧の上昇を抑制でき、また、ターフェル勾配を低くすることができ、効率的な水電解を提供することができるものとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of Materials Chemistry A,2020,8,16463-16476
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、水電解においては、電解時における過電圧上昇を更に抑制させることができ、かつ、ターフェル勾配もさらに低下させることができる酸素発生電極が強く求められている。この観点から、電解時における過電圧上昇を効果的に抑制でき、ターフェル勾配もより一層低くすることができる酸素発生電極を開発することは、水電解のさらなる効率化、ひいては再生可能エネルギーの有効利用の観点から極めて重要であるといえる。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、電解時における過電圧上昇を抑制することができ、かつ、ターフェル勾配も低くすることができる酸素発生電極を提供することを目的とする。また、本発明は、前記酸素発生電極を利用した水の電気分解方法及び酸素発生電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ホウ素がドープされた複合酸化物を触媒の必須成分とすることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
電極基材と触媒を備える酸素発生電極であって、
前記触媒は、前記電極基材上に形成されており、
前記触媒は、Fe及びFe以外の遷移金属元素Mの両方を含有する複合酸化物を含有し、
前記複合酸化物は、ホウ素がドープされている、酸素発生電極。
項2
前記遷移金属元素Mは、Mn、Cu、Ni、Co、Zn及びCrからなる群より選ばれる少なくとも1種である、項1に記載の酸素発生電極。
項3
前記遷移金属元素Mは、Mnを含む、項2に記載の酸素発生電極。
項4
項1~3のいずれか1項に記載の酸素発生電極を使用して水の電解処理を行う工程を含む、水の電気分解方法。
項5
項1~3のいずれか1項に記載の酸素発生電極の製造方法であって、
電極基材上に、Fe及びFe以外の遷移金属元素Mの両方を含有する金属有機構造体を形成する工程1と、
前記金属有機構造体を焼成して複合酸化物を生成する工程2と、
前記複合酸化物とホウ素化合物とを接触させて酸素発生電極を得る工程3と、
を備える、酸素発生電極の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の酸素発生電極は、水電解の電極として用いた場合に、電解時における過電圧上昇を抑制することができ、かつ、ターフェル勾配も低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)、(b)は、実施例1の工程2で得られたニッケルフォーム上の複合酸化物のSEM画像、(c)、(d)は、実施例1の工程3で得られたニッケルフォーム上の複合酸化物のSEM画像である。
図2】実施例1の酸素発生電極の合成手順を模式的に説明した図である。
図3】(a)は、リニアスイープボルタンメトリーの測定結果、(b)は(a)に示すリニアスイープボルタンメトリー曲線から算出したターフェル勾配)測定結果である。
図4】(a)は、50mA/cm及び100mA/cmにおける過電圧(mV)測定結果のグラフ、(b)は、電気化学インピーダンス(EIS)測定結果である。
図5】(a)は多電流ステップクロノポテンシオメトリ曲線、(b)は長期運転試験の結果である。
図6】実施例1、実施例5及び比較例3の酸素発生電極を用いたリニアスイープボルタンメトリーの測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0012】
1.酸素発生電極
本発明の酸素発生電極は、電極基材と触媒を備える。前記触媒は、前記電極基材上に形成されており、前記触媒は、Fe及びFe以外の遷移金属元素Mの両方を含有する複合酸化物を含有し、前記複合酸化物は、ホウ素がドープされている。
【0013】
本発明の酸素発生電極は、上記のように構成されることで、水電解の電極として用いた場合に、電解時における過電圧上昇を抑制することができ、かつ、ターフェル勾配も低くすることができる。従って、本発明の酸素発生電極は、水電解における酸素発生電極として好適である。
【0014】
(電極基材)
電極基材の種類は特に限定されず、例えば、公知の導電性の基材を広く採用することができる。電極基材としては、例えば、水の電気分解用の電極として使用されている基材を挙げることができ、具体例として、金属基材、炭素基材、ガラス基材等を挙げることができる。
【0015】
金属基材としては、ニッケル、チタン、鉄、銅等の金属単体の基材、あるいは、ニッケル-リン合金、ニッケル-タングステン合金、ステンレス合金等の基材又は各種金属フォーム(例えば、ニッケルフォーム、銅フォーム)等が例示される。
【0016】
炭素基材としては、カーボンペーパー、カーボンファイバーペーパー、炭素棒等が例示される。ガラス基材としては、導電ガラス等が例示される。電極基材は、例えば、フォーム等の多孔質体であってもよい。
【0017】
電極基材は、金属基材であることがより好ましく、ニッケル基材であることがより好ましく、ニッケルフォーム又は銅フォームであることがさらに好ましく、ニッケルフォームであることが特に好ましい。
【0018】
電極基材は、例えば、公知の製造方法で得ることができ、あるいは、市販品等から入手することもできる。電極基材の形状及び大きさは特に制限されず、使用目的や要求される性能により適宜選択することができる。例えば、電極基材の形状は、フォーム状、シート状、板状、棒状、メッシュ状等とすることができ、フォーム状であることが好ましい。
【0019】
(触媒)
本発明の酸素発生電極において、触媒は複合酸化物を含有する。斯かる複合酸化物は、Fe及びFe以外の遷移金属元素Mの両方を含有し、かつ、前記複合酸化物は、ホウ素がドープされている。複合酸化物において、Feは、例えば、3価であり、遷移金属元素Mは、例えば、2価になり得る。
【0020】
遷移金属元素Mは、例えば、Mn、Cu、Ni、Co、Zn及びCrからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。この場合、得られる酸素発生電極は、水電解の電極として用いた場合に、電解時における過電圧上昇をより抑制することができ、かつ、ターフェル勾配もより低くすることができる。
【0021】
遷移金属元素Mは、Mnを含むことがより好ましく、Mnであることがさらに好ましい。すなわち、複合酸化物は、Fe及びMnの複合酸化物(MnFeO)であることが特に好ましい。この場合、水電解の電極として用いた場合に、電解時における過電圧上昇を特に抑制することができ、かつ、ターフェル勾配も特に低くすることができる。
【0022】
前記複合酸化物において、Fe及び遷移金属元素Mの含有割合は特に限定されない。例えば、遷移金属元素MとFeとのモル比(遷移金属元素M:Fe)は、1:10~10:10とすることができ、1.5:10~9.5:10であることが好ましく、2:10~8:10であることがより好ましい。
【0023】
前記複合酸化物は、ホウ素がドープされている。具体的には、ホウ素は前記複合酸化物において、金属酸化物の一部の酸素原子と置き換えられ、金属に配位し得る。
【0024】
前記複合酸化物において、ホウ素の含有割合は特に限定されず、例えば、複合酸化物の全量に対して1~15モル%であることが好ましく、5~10モル%であることがより好ましい。
【0025】
本発明の酸素発生電極において、触媒は、本発明の効果が阻害されない限り、ホウ素がドープされた前記複合酸化物以外の成分を含有することができ、あるいは、ホウ素がドープされた前記複合酸化物のみで形成されていてもよい。触媒は、ホウ素がドープされた前記複合酸化物を80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましく、99質量%以上含むことが特に好ましい。
【0026】
(酸素発生電極)
本発明の酸素発生電極は、前記触媒が前記電極基材上に形成される。触媒の形状は特に限定されず、例えば、公知の電極触媒における触媒と同様の形状とすることができる。例えば、触媒は、電極基材上においてナノワイヤ状に形成される。触媒は、電極基材上において多数のナノワイヤ状に形成されていてもよい。触媒がナノワイヤ状に形成される場合、例えば、ナノワイヤの全長は、1~10μm(好ましくは2~8μm)、ワイヤの幅は100~500nmである。
【0027】
触媒は、電極基材の一部又は全部を被覆することができる。また、触媒は電極触媒において最外層に配置していることが好ましい。触媒は、例えば、電極基材上に直接(他の層等を介さずに)形成されていてもよい。
【0028】
本発明の酸素発生電極は、前記電極基材及び前記触媒のみで形成されていてもよいし、本発明の効果が阻害されない程度である限りは、他の材料が組み合わされてもよい。他の材料としては、例えば、従来の酸素発生電極に用いられる公知の部材を挙げることができる。
【0029】
本発明の電極触媒は、ホウ素がドープされた前記複合酸化物を必須成分とする触媒を備えることで、水電解用の電極として、特に酸素発生電極として好適に使用することができる。特に、本発明の酸素発生電極は、水電解の電極として使用した場合に、水電解時の過電圧の上昇が起こりにくく、ターフェル勾配も低くすることができ、しかも長期間安定に運転することができる。
【0030】
2.酸素発生電極の製造方法
本発明の酸素発生電極は種々の方法で製造することができ、特に限定されない。例えば、本発明の酸素発生電極は下記工程1、工程2及び工程3を少なくとも備える方法により、製造することができる。
工程1;電極基材上に、Fe及びFe以外の遷移金属元素Mの両方を含有する金属有機構造体を形成する工程。
工程2;前記金属有機構造体を焼成して複合酸化物を生成する工程。
工程3;前記複合酸化物とホウ素化合物とを接触させて酸素発生電極を得る。
【0031】
(工程1)
工程1は、電極基材上に、Fe及びFe以外の遷移金属元素Mの両方を含有する金属有機構造(MOF)体を形成するための工程である。金属有機構造体(MOF:Metal Organic Frameworks)は、金属と有機リガンドが相互作用することで、活性炭やゼオライトをはるかに超える高表面積を有する多孔質の配位ネットワーク構造を備えた三次元ミクロポーラス材料として知られている。
【0032】
工程1で使用する電極基材の種類は特に限定されず、前述の酸素発生電極で使用する電極基材と同様である。従って、工程1で使用する電極基材としては、例えば、金属基材、炭素基材、ガラス基材等を挙げることができ、好ましくは金属基材であり、より好ましくはニッケル基材であり、中でもニッケルフォームであることが特に好ましい。
【0033】
工程1では、電極基材上に、金属有機構造体を形成する方法は特に限定されず、例えば、公知の金属有機構造体の形成方法と同様の方法を採用することができる。例えば、Fe源、遷移金属元素M源及び有機配位子を原料として用いることで、電極基材上に、金属有機構造体を形成させることができる。
【0034】
Fe源としては、Fe単体、又は、Feを含有する化合物が例示され、Feを含有する化合物が好ましい。Feを含有する化合物としては、Feの無機酸塩、Feの有機酸塩、Feの水酸化物及びFeのハロゲン化物等を広く使用することができる。
【0035】
Feの無機酸塩としては、公知の化合物を広く採用することができ、例えば、Feの硝酸塩、塩酸塩、硫酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びリン酸水素塩等からなる群より選ばれる1種以上を挙げることができる。Feの有機酸塩としては、公知の化合物を広く採用することができ、例えば、Feの酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩、コハク酸塩等からなる群より選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0036】
Fe源としては、Feの無機酸塩であることが好ましく、Feの硫酸塩であることがより好ましい。例えば、Fe源としては、硫酸第一鉄を挙げることができる。Fe源は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用することもできる。Feを含む化合物は、公知の製造方法で得ることができ、あるいは、市販のFeを含有する化合物を使用することもできる。
【0037】
遷移金属元素M源としては、遷移金属元素M単体、又は、遷移金属元素Mを含有する化合物が例示され、遷移金属元素Mを含有する化合物が好ましい。
【0038】
遷移金属元素Mは、例えば、Mn、Cu、Ni、Co、Zn及びCrからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、Mnを含むことがより好ましく、Mnであることがさらに好ましい。
【0039】
遷移金属元素Mを含有する化合物としては、遷移金属元素Mの無機酸塩、遷移金属元素Mの有機酸塩、遷移金属元素Mの水酸化物及び遷移金属元素Mのハロゲン化物等を広く使用することができる。
【0040】
遷移金属元素Mの無機酸塩としては、公知の化合物を広く採用することができ、例えば、遷移金属元素Mの硝酸塩、塩酸塩、硫酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩及びリン酸水素塩等からなる群より選ばれる1種以上を挙げることができる。遷移金属元素Mの有機酸塩としては、公知の化合物を広く採用することができ、例えば、遷移金属元素Mの酢酸塩、シュウ酸塩、蟻酸塩、コハク酸塩等からなる群より選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0041】
遷移金属元素M源としては、遷移金属元素Mの無機酸塩であることが好ましく、遷移金属元素Mの硫酸塩であることがより好ましい。例えば、遷移金属元素M源としては、硫酸マンガン(II)を挙げることができる。遷移金属元素M源は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用することもできる。遷移金属元素Mを含む化合物は、公知の製造方法で得ることができ、あるいは、市販の遷移金属元素Mを含有する化合物を使用することもできる。
【0042】
有機配位子の種類は特に限定されず、遷移金属に配位することができる有機配位子を広く挙げることができる。例えば、配位子として機能することが知られている芳香族系カルボン酸化合物、イミダゾール化合物、アミノ化合物等を挙げることができる。
【0043】
具体的に有機配位子としては、p-ベンゼンジカルボン酸(H2BDC)、o-ベンゼンジカルボン酸、m-ベンゼンジカルボン酸、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸(H4DOBDC)、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸(H3BTC)、1,4-ベンゼンジカルボキシレート、2,4,6-トリス(4-カルボキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(H3TATB)、2-アミノテレフタル酸(NH2BDC)、2-メチルイミダゾール(2-MIM)、1-メチルイミダゾール(1-MIM)、1,4-ビス(イミダゾール-1-イル)ベンゼン(1,4-BIB)、4-(イミダゾール-1-イル)フタル酸(H2IPC)、4,4’-ジメチル-2,2’-ビピリジル、4,4’-オキシビス安息香酸、フマル酸、シュウ酸、コハク酸、ビフェニル-3,4’、5-トリカルボン酸(BPTC)、4,4’-ビフェニルジカルボキシレート(BPDC)、2,5-ジオキシドテレフタレート(DOT)等を挙げることができる。
【0044】
Fe源、遷移金属元素M源及び有機配位子を原料として、電極基材上に、金属有機構造体を形成する方法は特に限定されない。容易に金属有機構造体を形成することができる点で、水熱合成法により金属有機構造体を形成する方法が好ましい。具体的には、Fe源、遷移金属元素M源、有機配位子及び溶媒を含む原料液中に、電極基材を浸漬させて加熱処理することで、電極基材上に金属有機構造体を形成することができる。
【0045】
加熱処理の方法としては、例えば、容器内にて電極基材を原料液に浸漬した状態で容器を密閉し、該容器内を加熱処理することで行うことができる。原料液に含まれる溶媒は、ジメチルホルムアミド、水、ジメチルスルホキシド等を挙げることができる。
【0046】
加熱処理時の容器内の温度は特に制限されず、例えば、50~250℃とすることができ、70~200℃であることが好ましく、80~180℃であることがより好ましく、90~150℃であることがさらに好ましく、130~160℃であることが特に好ましい。加熱時間も特に限定されず、加熱温度に応じて適宜決定することができ、例えば、1時間~25時間とすることができる。加熱処理時の容器内の圧力も適宜設定することができる。
【0047】
原料液中の各原料の濃度は特に限定されない。例えば、原料液中のFe源及び遷移金属元素M源の濃度はいずれも、0.01~100mM(好ましくは0.05~50mM、より好ましくは0.1~30mM)とすることができる。また、原料液中の有機配位子の濃度は、10~2000mM(好ましくは20~1500mM、より好ましくは50~1000mM)とすることができる。
【0048】
上記加熱処理によって、Fe源、遷移金属元素M源及び有機配位子が反応し、金属有機構造体が電極基材上に形成される。
【0049】
工程1で形成される金属有機構造体は、Fe及び遷移金属元素Mを含む限りは、例えば、公知の金属有機構造体を広く挙げることができる。斯かる金属有機構造体の具体例として、Mn及びFeを含むMOF-74を挙げることができる。
【0050】
(工程2)
工程2では、前記工程1で得た金属有機構造体が形成された電極基材を焼成処理する。これにより、電極基材上の金属有機構造体が酸化して複合酸化物を生成する。
【0051】
工程2において、焼成処理の方法は特に限定的ではなく、公知の焼成方法を広く採用することができる。例えば、焼成処理の温度は、180℃以上とすることができる。また、焼成処理の温度は、600℃以下とすることが好ましい。好ましい焼成温度は200~400℃、より好ましい焼成温度は220~350℃である。焼成時間は、焼成温度によって適宜選択すればよく、例えば、1.5~5時間とすることができる。工程2において、焼成を行う際の昇温速度も特に限定されず、適宜設定することができ、例えば、1~10℃/分である。
【0052】
焼成処理は、空気中及び不活性ガス雰囲気中のいずれで行ってもよい。好ましくは、空気中で焼成処理を行うことである。焼成処理は、例えば、市販の加熱炉等の公知の加熱装置を使用することができる。
【0053】
工程2での焼成処理によって金属有機構造体が酸化され、また、有機配位子は分解し、Fe及び遷移金属元素Mの複合酸化物が形成される。
【0054】
(工程3)
工程3は、工程2で生成した複合酸化物とホウ素化合物とを接触させるための工程である。これにより、ホウ素がドープされた複合酸化物が形成される。
【0055】
ホウ素化合物は、複合酸化物にホウ素をもたらすことができる限り、特にその種類は制限されない。ホウ素化合物としては、還元作用を有していることが好ましく、例えば、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、KBH、LiBH等が挙げられ、NaBHが好ましい。
【0056】
工程3において、複合酸化物とホウ素化合物とを接触させる方法は特に限定されない。例えば、ホウ素化合物の水溶液中に工程2で得た複合酸化物が形成された電極基材を浸漬処理することで、複合酸化物とホウ素化合物とを接触させることができる。この場合、ホウ素化合物の水溶液の濃度は、例えば、0.5~2mol/Lとすることができる。浸漬処理の温度は、例えば、10~40℃とすることができ、好ましくは20~35℃である。浸漬処理の時間は、例えば、好ましくは10~60分、より好ましくは15~30分である。
【0057】
工程3で複合酸化物とホウ素化合物とを接触させることで、電極基材上にホウ素がドープされた複合酸化物、すなわち、触媒が形成される。斯かる触媒が形成された電極基材を酸素発生電極として得ることができる。
【0058】
3.水の電気分解方法
本発明の水の電気分解方法は、例えば、前記酸素発生電極を使用して水の電解処理を行う工程を含むことができる。斯かる水の電気分解方法により、酸素を製造することができ、あるいは、水素を製造することができる。前記水の電気分解方法では、前記酸素発生電極は、アノードとして使用される。
【0059】
一方、本発明の水の電気分解方法において、カソードとしては、一般に水の電気分解においてカソードとして用いられる電極を使用することができる。例えば、カーボンロッドや、白金ワイヤを使用することができ、また、本発明の電極触媒をカソードとして使用することも可能である。
【0060】
本発明の水の電気分解方法において、電気分解で使用する水溶液としては、一般に水の電気分解において用いられる成分を含む水溶液を使用することができる。水溶液は、ヨウ素、臭素などのハロゲン、硫酸イオンなどを含むこともできる。なお、ヨウ素を含む水溶液を用いる場合、アノードにおいてヨウ素酸イオンが生成される。水溶液は酸性領域、中性領域及びアルカリ性領域のいずれでもよい。例えば、アルカリ領域では、KOH,NaOH等の水溶液を使用することができ、酸性領域では、塩酸、硫酸等の水溶液を使用することができ、中性領域では、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)等を使用することができる。
【実施例0061】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
大きさが2×2cmである発泡ニッケル(ニッケルフォーム)を1M塩酸、エタノール及び脱イオン水の順に超音波条件下で1時間処理した後、60℃の真空オーブンで12時間乾燥させて、電極基材の前処理を行った。一方、0.049gの2,5-ジヒドロキシテレフタル酸、0.03ミリモルの硫酸マンガン(II)及び0.1ミリモルの硫酸第一鉄を25mLのDMF溶液に分散させて原料液を調製した。次に、得られた原料液と前処理した前記ニッケルフォームをテフロン(登録商標)で裏打ちされたオートクレーブに移し、原料液中にニッケルフォームを浸漬させ、オートクレーブを密閉して、140℃で20時間反応させた。これにより、ニッケルフォーム上に有機金属構造体(以下、「MnFe-MOF-74」と略記)を得た(工程1)。
【0063】
次に、MnFe-MOF-74が形成されたニッケルフォームを250℃で2時間焼成することで、Fe及びMnの複合酸化物をニッケルフォーム上に形成させた(工程2)。この複合酸化物が形成されたニッケルフォームを1MのNaBH溶液中で20分間浸漬処理し、次いで、蒸留水ですすいだ後、オーブンで一晩乾燥させ、ホウ素がドープされた複合酸化物(ホウ素量は約6モル%)を触媒として備える酸素発生電極を得た。得られた酸素発生電極を「3/10MnFe oxide B20」と表記した。
【0064】
(実施例2)
硫酸マンガン(II)の使用量を0.01ミリモルに変更して原料液を調製したこと以外は実施例1と同様の方法で酸素発生電極を得た。得られた酸素発生電極を「1/10MnFe oxide B20」と表記した。
【0065】
(実施例3)
硫酸マンガン(II)の使用量を0.02ミリモルに変更して原料液を調製したこと以外は実施例1と同様の方法で酸素発生電極を得た。得られた酸素発生電極を「2/10MnFe oxide B20」と表記した。
【0066】
(実施例4)
硫酸マンガン(II)の使用量を0.04ミリモルに変更して原料液を調製したこと以外は実施例1と同様の方法で酸素発生電極を得た。得られた酸素発生電極を「4/10MnFe oxide B20」と表記した。
【0067】
(実施例5)
NaBH溶液中で浸漬処理の時間を40分間に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、ホウ素がドープされた複合酸化物(ホウ素量は約9モル%)を触媒として備える酸素発生電極を得た。得られた酸素発生電極を「3/10MnFe oxide B40」と表記した。
【0068】
(比較例1)
硫酸マンガン(II)の使用量を0ミリモルに変更して原料液を調製したこと以外は実施例1と同様の方法で酸素発生電極を得た。得られた酸素発生電極を「Fe oxide B20」と表記した。
【0069】
(比較例2)
Feの硫酸塩(III)の使用量を0ミリモルに変更して原料液を調製したこと以外は実施例1と同様の方法で酸素発生電極を得た。得られた酸素発生電極を「Mn oxide B20」と表記した。
【0070】
(比較例3)
の複合酸化物が形成されたニッケルフォームを1MのNaBH溶液で処理しなかったこと以外は実施例1と同様の方法で酸素発生電極を得た。得られた酸素発生電極を「3/10MnFe oxide」と表記した。
【0071】
図1(a)、(b)は、実施例1の工程2で得られたニッケルフォーム上の複合酸化物(すなわち、ホウ素化合物処理前)のSEM画像((b)は(a)中の破線部位の拡大画像)、(c)、(d)は、実施例1の工程3で得られたニッケルフォーム上の複合酸化物(すなわち、ホウ素化合物処理後)のSEM画像(d)は(c)中の破線部位の拡大画像)である。
【0072】
図1(a)、(b)から、工程2で得られたニッケルフォーム上の複合酸化物は、ニッケルフォーム上に直接成長した均一なナノワイヤアレイが形成されていることが確認された。斯かるナノワイヤは、長さが数マイクロメートル、幅が約200nmであった。
【0073】
図1(c)、(d)から、実施例1で得られた酸素発生電極は、ニッケルフォーム上に直接成長した均一なナノワイヤアレイが形成されていることが確認された。斯かるナノワイヤは、表面に豊富なナノフレークが成長しており、ホウ素化合物処理によって、ナノワイヤの半径が大きくなっていることが観察された。従って、実施例1で得られた酸素発生電極において、ナノワイヤ-ナノフレークの階層構造は、大きな活性表面積を提供することができ、より多くの活性部位を露出させることができる。これにより、実施例1で得られた酸素発生電極では、電解質のイオン移動が促進され、OERプロセスの触媒性能の向上が期待される。
【0074】
図2は実施例1の酸素発生電極の合成手順を模式的に説明した図である。図1のSEMが象の結果から考えると、工程1及び工程2により、ニッケルフォーム上にナノワイヤ上の複合酸化物が形成され、さらに工程3のホウ素化合物の処理により、ナノワイヤが成長するものと推察される。
【0075】
図3(a)は、実施例及び比較例で得られた電極触媒を使用したリニアスイープボルタンメトリーの測定結果を示す。この測定では、陰極として実施例及び各比較例で準備した酸素発生電極を、陽極としてカーボン棒を、参照電極としてAg/AgCl電極を使用し、酸素発生(OER)試験を行った。また、電解液は、1MのKOH水溶液(pH=14)を用いた。本実施例においてリニアスイープボルタンメトリー曲線等の電気特性の評価においては、標準3電極セルと共に米国VersaSTAT4 ポテンションスタットガルバノスタット電気化学ワークステーションを用いた。
【0076】
図3(b)は、(a)に示すリニアスイープボルタンメトリー曲線から算出したターフェル勾配を示している。
【0077】
図4(a)は、50mA/cm及び100mA/cmにおける過電圧(mV)をグラフ化したものである(棒グラフ左が50mA/cm、右が100mA/cmである)。図4(b)は、実施例及び比較例で得られた酸素発生電極それぞれの電気化学インピーダンス(EIS)測定結果を示している。この測定は、三電極電気化学測定装置を使用した電気化学インピーダンス分光法(Electrochemical impedance spectroscopy(EIS)により、1MのKOH溶液中で行った。ここで、測定の周波数範囲は0.01Hz~0.1MHzとし、測定電圧は-0.35V vs Ag/AgClとした。この図4(b)からは、電極/電解質の界面抵抗を判断することができる。
【0078】
表1は、図3図4の結果に基づいて導き出した各酸素発生電極の100mA/cmにおける過電圧、ターフェル勾配及び電荷移動抵抗(Rct)の結果を示している。
【0079】
【表1】
【0080】
以上の結果から、実施例で得られた電極触媒は、高電流密度(100mAcm-2)であっても過電圧が低く、ターフェル勾配も良好な性能を示し、また、電荷移動抵抗も小さいものであった。特に実施例3の酸素発生電極は、実施例の中で最良の性能を示した。従って、実施例1で得られた電極触媒は、良好な触媒反応速度を示すものであって、電子伝導性の向上にも有利であるといえる。また、電荷移動抵抗が小さいので、電子移動速度が高く、電極触媒/電解質界面でのOERの動的挙動に有益である。
【0081】
図5(a)は、実施例1で得られた酸素発生電極を陽極に用いた場合の多電流ステップクロノポテンシオメトリ曲線であって、電流密度が50mA/cm~500mA/cmまでの範囲で50mA/cm間隔で測定(電解液は1MのKOH水溶液を使用)し、最後に50mA/cmに戻して得られた電位-時間グラフである。図5(b)は100mA/cmの電流密度で7日間にわたって電解を続けたときの結果を示している。測定条件はそれぞれリニアスイープボルタンメトリー曲線を得るための試験と同様の条件とし、測定装置は、2電極セルと共に米国VersaSTAT4 ポテンションスタットガルバノスタット電気化学ワークステーションを用いて測定を行った。
【0082】
図5の結果から、実施例1で得られた酸素発生電極は、7日間にわたって卓越した安定性を示し、高電流密度(100mA/cm)で電位に明らかな変化がなかった。従って、実施例1で得られた電極触媒は、高電流密度であっても長期間安定に運転することができ、機械的堅牢性にも優れ、効率的な水の電気分解を実施できる酸素発生電極に適していることが示された。
【0083】
図6は、実施例1、実施例5及び比較例3の酸素発生電極を用いたリニアスイープボルタンメトリーの測定結果を示す(図5と同じ測定条件とした)。実施例1及び5は共に優れた性能を示すことがわかり、ホウ素のドーピング量が電極性能に寄与することもわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2023-03-14
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本発明は、酸素発生電、水の電気分解方法及び酸素発生電極の製造方法に関する。