(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152063
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】全固体リチウムイオン電池用固体電解質及びその製造方法並びに全固体リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0565 20100101AFI20231005BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231005BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M10/052
H01B1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062001
(22)【出願日】2022-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521493765
【氏名又は名称】株式会社関兵
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】劉 長林
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE01
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM16
5H029CJ08
5H029HJ02
(57)【要約】
【課題】全固体リチウムイオン電池に優れた電池容量とサイクル安定性を付与することができる新規な固体電解質及びその製造方法並びに全固体リチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】電解質塩と、ポリマー成分とを含む全固体リチウムイオン電池用固体電解質であって、前記電解質塩はリチウム塩を含有し、前記ポリマー成分は、ポリエーテルブロックアミド共重合体を含有する。本発明の全固体リチウムイオン電池用固体電解質は、全固体リチウムイオン電池に優れた電池容量とサイクル安定性を付与することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質塩と、ポリマー成分とを含む全固体リチウムイオン電池用固体電解質であって、
前記電解質塩はリチウム塩を含有し、
前記ポリマー成分は、ポリエーテルブロックアミド共重合体を含有する、全固体リチウムイオン電池用固体電解質。
【請求項2】
前記ポリエーテルブロックアミド共重合体は、構造単位中にポリエーテル部位及びポリアミド部位を有する、請求項1に記載の全固体リチウムイオン電池用固体電解質。
【請求項3】
前記ポリエーテルブロックアミド共重合体の前記構造単位は、下記式(1)
-(CO-PA-COO-PE-O)- (1)
(ここで、PAはポリアミド部位を示し、PEはポリエーテル部位を示す)
で表される、請求項2に記載の全固体リチウムイオン電池用固体電解質。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池用固体電解質を備える、全固体リチウムイオン電池。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池用固体電解質の製造方法であって、
前記リチウム塩と前記ポリエーテルブロックアミド共重合体とを混合する工程を具備する、全固体リチウムイオン電池用固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウムイオン電池用固体電解質及びその製造方法並びに全固体リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体リチウムイオン電池(AS-LiB)は、最も有望な次世代エネルギー貯蔵装置として大きな期待が寄せられている。AS-LiBにおける固体電解質として、ポリエチレンオキサイド(PEO)等をベース材料(ベースポリマー)とし、これに金属塩(例えば、イミド系リチウム塩であるリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、LiTFSI))を溶解させた複合固体電解質(SSE)が知られている。斯かる固体電解質は、柔軟性を有し、良好な界面性能を示すことから、全固体リチウムイオン電池用の固体電解質として広く研究が進められている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、高イオン伝導性の三次元LLZAO-PEO/LiTFSI固体電解質が開示されており、このような固体電解質によって、バッテリー性能を向上させることができることが期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Chemical Engineering Journal、2020,394:124993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、近年では、電池容量が大きく、しかも、サイクル数が増えても安定した電池容量を有する全固体リチウムイオン電池が求められているところ、斯かる全固体リチウムイオン電池を提供することができる固体電解質の開発も求められている。優れた電池性能をもたらすことができる固体電解質は、全固体リチウムイオン電池の実用化を大きく前進させるものであるから、新規な固体電解質を開発することは、当該分野で極めて重要な位置づけにある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、全固体リチウムイオン電池に優れた電池容量とサイクル安定性を付与することができる新規な固体電解質及びその製造方法並びに全固体リチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリエーテルブロックアミド共重合体をポリマー成分として構成させることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
電解質塩と、ポリマー成分とを含む全固体リチウムイオン電池用固体電解質であって、
前記電解質塩はリチウム塩を含有し、
前記ポリマー成分は、ポリエーテルブロックアミド共重合体を含有する、全固体リチウムイオン電池用固体電解質。
項2
前記ポリエーテルブロックアミド共重合体は、構造単位中にポリエーテル部位及びポリアミド部位を有する、項1に記載の全固体リチウムイオン電池用固体電解質。
項3
前記ポリエーテルブロックアミド共重合体の前記構造単位は、下記式(1)
-(CO-PA-COO-PE-O)- (1)
(ここで、PAはポリアミド部位を示し、PEはポリエーテル部位を示す)
で表される、項2に記載の全固体リチウムイオン電池用固体電解質。
項4
項1~3のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池用固体電解質を備える、全固体リチウムイオン電池。
項5
項1~3のいずれか1項に記載の全固体リチウムイオン電池用固体電解質の製造方法であって、
前記リチウム塩と前記ポリエーテルブロックアミド共重合体とを混合する工程を具備する、全固体リチウムイオン電池用固体電解質の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の全固体リチウムイオン電池用固体電解質は、新規であって、全固体リチウムイオン電池に優れた電池容量とサイクル安定性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1で得られた固体電解質のSEM画像であって、(a)は断面、(b)は表面のSEM画像を示す。
【
図2】実施例1で得られた固体電解質の線形掃引ボルタンメトリー(LSV)曲線を示す。
【
図3】各実施例で得られた固体電解質のイオン伝導度と温度との関係のプロットを示す。
【
図4】全固体リチウムイオン電池の電池性能の評価結果であって、60℃における長期サイクリング特性を示している。
【
図5】全固体リチウムイオン電池の電池性能の評価結果であって、aは、電圧プロファイルで、bは、サイクル性能を示す。
【
図6】全固体リチウムイオン電池の容量保持性能の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.全固体リチウムイオン電池用固体電解質
本発明の全固体リチウムイオン電池用固体電解質(以下、「本発明の固体電解質」という)は、電解質塩と、ポリマー成分とを含む。前記電解質塩はリチウム塩を含有し、前記ポリマー成分は、ポリエーテルブロックアミド共重合体を含有する。
【0012】
本発明の固体電解質は、前記電解質塩と、前記ポリマー成分とを含むことで、全固体リチウムイオン電池用の固体電解質に適用した場合に、全固体リチウムイオン電池に優れた電池容量とサイクル安定性を付与することができる。
【0013】
(電解質塩)
電解質塩は、少なくともリチウム塩を含有する。リチウム塩の種類は特に限定されず、例えば、全固体リチウムイオン電池の電解質に用いられる公知のリチウム塩を広く挙げることができる。
【0014】
リチウム塩としては、LiPF6(六フッ化リン酸リチウム)、LiClO4、LiBF4、リチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI)、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロ(シュウ酸塩)ホウ酸塩(LiDFOB)、LiF,LiCl、LiBr、LiI、Li3N、Li3P、Li2S、LiNO3等が例示される。固体電解質に含まれるリチウム塩は1種単独又は2種以上とすることができる。
【0015】
本発明の固体電解質がリチウム塩を含むことで、全固体リチウムイオン電池において、固体電解質界面(SEI)及び電位窓の形成に重要な影響を与えることができる。
【0016】
電解質塩は、前記リチウム塩のみであってもよいし、本発明の効果が阻害されない程度であれば、リチウム塩以外の塩を含むこともできる。電解質塩は、前記リチウム塩のみであることが好ましい。
【0017】
電解質塩は、公知の方法で製造することができ、また、市販品等から入手することもできる。
【0018】
(ポリマー成分)
ポリマー成分は、ポリエーテルブロックアミド共重合体を少なくとも含有する。ポリエーテルブロックアミド共重合体の種類は特に限定されず、例えば、公知のポリエーテルブロックアミド共重合体を本発明でも広く適用することができる。
【0019】
例えば、ポリエーテルブロックアミド共重合体は、構造単位中にポリエーテル部位(ポリエーテルセグメントともいう)及びポリアミド部位(ポリアミドセグメントともいう)を有することができる。
【0020】
ポリエーテルセグメントの種類は特に限定されず、例えば、公知のポリエーテルを広く適用することができる。ポリエーテルセグメントとしては、例えば、ポリアルキレンオキシドを挙げることができ、具体的にはポリエチレンオキシド、ポリメチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリブチレンオキシド、ポリテトラメチレンオキシド、ポリトリメチレンオキシド等を挙げることができる。ポリエーテルセグメントの数平均分子量は特に限定されない。
【0021】
ポリアミドセグメントの種類は特に限定されず、例えば、公知のポリアミドを広く適用することができる。ポリアミドセグメントとしては、例えば、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610等を挙げることができる。ポリアミドセグメントの数平均分子量は特に限定されない。
【0022】
前記ポリエーテルブロックアミド共重合体の前記構造単位は、下記式(1)
-(CO-PA-COO-PE-O)- (1)
で表される構造を有することが好ましい。
【0023】
式(1)において、PAは前記ポリアミド部位を示す。すなわち、式(1)中のPAは、前記ポリアミドセグメントと同義である。式(1)において、PEは前記ポリエーテル部位を示す。すなわち、式(1)のPEは、前記ポリエーテルセグメントと同義である。
【0024】
式(1)で表される構造単位は、例えば、PAがナイロン12、PEがポリテトラメチレンオキシドである構造単位を挙げることができる。この場合、本発明の固体電解質は、全固体リチウムイオン電池に特に優れた電池容量とサイクル安定性を付与することができる。
【0025】
前記ポリエーテルブロックアミド共重合体が式(1)で表される構造単位を備える場合、斯かるポリエーテルブロックアミド共重合体は、その構造中に、優れた動的特性を可能にする硬質ポリアミド(PA)ブロックと軟質ポリエーテル(PE)ブロックが含まれることになる点で有利である。必ずしも限定的な解釈を望むものではないが、ポリエーテルブロックアミド共重合体が有するアミド基及びエーテル基はいずれも、リチウム塩と相互作用するための豊富な化学的性質を提供できるものと推察される。
【0026】
前記ポリエーテルブロックアミド共重合体の数平均分子量は特に限定されず、例えば、従来の固体電解質に使用されるポリマー材料の数平均分子量と同様の範囲とすることができる。
【0027】
ポリマー成分に含まれるポリエーテルブロックアミド共重合体は1種単独又は2種以上とすることができる。ポリエーテルブロックアミド共重合体が2種以上含まれる場合、例えば、PAやPEの種類の異なる2種以上のポリエーテルブロックアミド共重合体をポリマー成分は含むことができる。
【0028】
前記ポリエーテルブロックアミド共重合体を製造する方法は特に限定されず、例えば、公知の製造方法により、ポリエーテルブロックアミド共重合体を製造することができる。また、ポリエーテルブロックアミド共重合体は、市販品等から入手することもでき、例えば、アルケマ社のPebax(登録商標)エラストマーを挙げることができ、具体的には、「PEBA2533」、「PEBAX」等が例示される。
【0029】
ポリマー成分は、本発明の効果が阻害されない限り、他の高分子化合物を含むことができ、例えば、公知の固体電解質に用いられるポリマーベース材料が挙げられ、具体的には、ポリエチレンオキシド、ポリビニリデンフルオライド等が挙げられる。
【0030】
(固体電解質)
本発明の固体電解質は、本発明の効果が阻害されない限り、前記電解質塩及び前記ポリマー成分以外の成分を含むことができる。他の成分としては、従来の固体電解質に含まれる各種添加剤等を挙げることができ、例えば、酸化物固体電解質、硫化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質、各種無機粒子等を挙げることができ、その他、例えば、公知の電解質添加剤等も挙げられる。本発明の固体電解質は、前記電解質塩及び前記ポリマー成分を80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましく、99質量%以上含むことが特に好ましい。本発明の固体電解質は、前記電解質塩及び前記ポリマー成分のみからなるものであってもよい。また、本発明の固体電解質は、前記リチウム塩及び前記ポリエーテルブロックアミド共重合体のみからなるものであってもよい。
【0031】
本発明の固体電解質において、前記リチウム塩及び前記ポリエーテルブロックアミド共重合体の含有割合は特に限定されず、例えば、公知の固体電解質に含まれるリチウム塩の含有割合を参照することができる。例えば、前記ポリエーテルブロックアミド共重合体の全質量に対し、前記リチウム塩の含有割合は0.5質量%以上とすることができ、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましく、また、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、25質量%以下であることが特に好ましい。
【0032】
本発明の固体電解質の形状は特に限定されず、例えば、公知の固体電解質と同様である。本発明の固体電解質の形状はフィルム状、シート状、板状等が挙げられ、その他、粉末状等であっても良く、この場合は、所望の形状に成型することができる。
【0033】
本発明の固体電解質は、全固体リチウムイオン電池用の固体電解質に適用した場合に、全固体リチウムイオン電池に優れた電池容量とサイクル安定性を付与することができる。また、ポリマー成分がポリエーテルブロックアミド共重合体を含むことで、高い導電率を有することができ、しかも、リチウムデンドライトの抑制性能にも優れるものである。
【0034】
従って、本発明の固体電解質は、全固体リチウムイオン電池用の電解質として適しており、例えば、本発明の固体電解質を用いて、全固体リチウムイオン電池の固体電解質層を形成するための材料として特に好適である。本発明の固体電解質と用いて固体電解質層を形成する方法は特に限定されず、公知の方法広く採用することができる。
【0035】
本発明の固体電解質の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の固体電解質の製造方法を広く採用することができる。具体的には、リチウム塩を含む電解質塩とポリエーテルブロックアミド共重合体を含むポリマー成分とを混合することで、本発明の固体電解質を製造することができる。すなわち、本発明の固体電解質の製造方法は、前記リチウム塩と前記ポリエーテルブロックアミド共重合体とを混合する工程を具備することができる。
【0036】
本発明の固体電解質の製造方法の一実施形態として、リチウム塩を含む電解質塩とポリエーテルブロックアミド共重合体を含むポリマー成分とを溶媒中で混合して、原料液を調製し、この原料液から、揮発分を除去する方法が挙げられる。
【0037】
前記原料液を調製するための溶媒の種類は特に限定されず、例えば、リチウム塩及びポリエーテルブロックアミド共重合体を溶解させることができる溶媒を適宜選択することができる。溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルミアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、イソホロン等のケトン系溶媒;tert-ブチルアルコール、ベンジルアルコール、フェノキシエタノール、フェニルプロピレングリコール等のアルコール系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶媒;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、アニソール等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸プロピル、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のエステル系溶媒;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒等が挙げられる。中でもリチウム塩及びポリエーテルブロックアミド共重合体の溶解性に優れる点で、溶媒は、N,N-ジメチルホルミアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒であることが好ましい。
【0038】
前記原料液において、溶媒の使用量も特に限定されず、リチウム塩及びポリエーテルブロックアミド共重合体が適宜の濃度になるように調整することができる。
【0039】
上記原料液を用いたキャスト法により、本発明の固体電解質を得ることができる。キャスト法も特に限定されず、例えば、原料液を基材上や容器にキャストし、適宜の方法で乾燥処理をすることで、揮発分(例えば、溶媒)を除去することができる。これにより、例えば、フィルム状の固体電解質が得られる。
【0040】
得られたフィルム状の固体電解質は、例えば、プレス処理をすることができ、所望の厚みに調節することも可能である。
【0041】
2.全固体リチウムイオン電池
本発明の全固体リチウムイオン電池は、前述の本発明の固体電解質を備える。本発明の全固体リチウムイオン電池は、固体電解質に本発明の固体電解質が含まれる限りは、その他の構成は特に限定されず、例えば、公知と同様の構成とすることができる。例えば、全固体リチウムイオン電池は、カソード、アノード及びセパレータを備えることができる。電池の大きさ及び形状は、電池の用途に応じて適宜決定することができる。
【0042】
カソードは、例えば、金属箔に活物質が担持された構造を有することができる。金属箔は、アルミニウム、チタン、白金、モリブデン、ステンレス、銅等が挙げられる。金属箔の形状は、例えば、多孔質体、箔、板、繊維からなるメッシュ等が挙げられる。カソードの活物質は、公知の活物質を広く適用することができ、例えば、LiFePO4、LiCoO2、LiNixMnyCozO2(0.3≦x≦0.95、0.025≦y≦0.4、0.025≦y≦0.4)、LiNi1-y-zCoyAlzO2(0.05≦y≦0.15、0<z≦0.05)、LiMn2O4、LiMPO4(M=Co、Ni)、Li2FePO4F、V2O5、LiXV3O8(1.5≦x≦5.5)、Li1-XVOPO4(0.5≦x≦0.92)、Li4Ti5O12、LiFeMO4(M=Mn、Si)、S、Se、SeS2、Na3V2(PO4)3、Na2MnP2O7、NaFePO4、Na3MnZr(PO4)3等を挙げることができる。
【0043】
カソードは、その他、導電助剤及びバインダー等を含むこともできる。導電助剤としては、全固体リチウムイオン電池において使用されている公知の材料を使用することができ、例えば、導電性カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、気相成長カーボンファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素材料を挙げることができる。バインダーとしては、全固体リチウムイオン電池において使用されている公知の材料を使用することができ、例えば、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)等を挙げることができる。
【0044】
アノードは、例えば、金属箔に活物質が担持された構造を有することができる。金属箔としては、アルミニウム、チタン、白金、モリブデン、ステンレス、銅等が挙げられる。金属箔の形状は、例えば、多孔質体、箔、板、繊維からなるメッシュ等が挙げられる。アノードの活物質としては、Li、Na、K、Mg、Al、Zn等の金属;グラファイトおよび他の炭素材料;Si(C)ベース、Si(O)ベース又はSnベースの合金あるいは金属酸化物;Li4Ti5O12;等を挙げることができる。
【0045】
セパレータとしては、全固体リチウムイオン電池に適用されている公知のセパレータを使用することができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリイミド;ポリビニルアルコール;末端アミノ化ポリエチレンオキシドポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂;アクリル樹脂;ナイロン;芳香族アラミド;無機ガラス;セラミックス等の材質からなり、多孔質膜、不織布、織布等の形態の材料を用いることができる。
【0046】
二次電池を組み立てる方法も特に制限はなく、公知の二次電池の組み立て方法と同様の方法で二次電池を得ることができる。
【実施例0047】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
リチウム塩として、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)と、ペレット状のポリエーテルブロックアミド共重合体(アルケマ社製「PEBA2533」)とを、60℃に保持したN,N-ジメチルアセトアミドに加えて溶解させた。これにより原料液を調製した。この原料液の調製にあたっては、リチウム塩の含有割合がポリエーテルブロックアミド共重合体の全質量に対して20質量%となるように、両者の配合量を調整した。前記原料液を60℃のオーブンに12時間静置させて気泡を取り除き、次いで、原料液をPTFEプレートにキャストしてから、これを真空オーブンにて90℃で48時間にわたって乾燥させて溶媒を除去した。これにより、固体電解質を得た。なお、すべての手順は、空気に触れることなく操作した。
【0049】
(実施例2)
リチウム塩の含有割合がポリエーテルブロックアミド共重合体の全質量に対して15質量%となるように、両者の配合量を調整して原料液を調製したこと以外は実施例1と同様の方法で、固体電解質を得た。
【0050】
(実施例3)
リチウム塩の含有割合がポリエーテルブロックアミド共重合体の全質量に対して10質量%となるように、両者の配合量を調整して原料液を調製したこと以外は実施例1と同様の方法で、固体電解質を得た。
【0051】
(実施例4)
リチウム塩の含有割合がポリエーテルブロックアミド共重合体の全質量に対して5質量%となるように、両者の配合量を調整して原料液を調製したこと以外は実施例1と同様の方法で、固体電解質を得た。
【0052】
(固体電解質の評価)
図1は、実施例1で得られた固体電解質のSEM画像であって、(a)は断面、(b)は表面のSEM画像である。このSEM画像から、固体電解質の断面は緻密であり、表面は均一に形成されていることが確認された。
【0053】
図2は、実施例1で得られた固体電解質の線形掃引ボルタンメトリー(LSV)曲線を示す。この測定は、スキャンレートを1mVs
-1、測定温度を60℃、測定範囲を3.0~5.0Vとした。
図2から、実施例1で得られた固体電解質の電位窓は、電圧がLi/Li
+に対して4.2Vに上昇するまで安定していた。
【0054】
図3は、各実施例で得られた固体電解質のイオン伝導度と温度との関係のプロットを示す。いずれもイオン伝導度は安定しており、例えば、実施例1の固体電解質のイオン伝導率は、25℃で3.16×10
-5Scm
-1、60℃で1.66×10
-4Scm-1であった。
【0055】
(固体電解質を用いた電池評価1)
実施例1で得た固体電解質電解質を約200μmの厚みなるようにプレス処理し、直径12mmのペレット状に切断した。この固体電解質を用いて、CR2025タイプのコイン電池を組み立てた。具体的には、カソードとしてLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(宝泉社製、厚み0.05mm、1.5mAhcm-2)が形成されたアルミニウム箔(厚み0.05mm)を、アノードとして金属リチウム(宝泉社製、厚み0.1mm、1.5mAhcm-2)が形成された銅箔(厚み0.01mm)を使用し、これらの電極と、前記固体電解質により、コイン電池を形成した。このコイン電池を、LANDバッテリー試験システム「CT2001A」(Wuhan LAND electronics Co., Ltd. China)を使用して電気化学的性能(電池性能)を測定した。ここで、測定温度は60℃とした。コイン電池は、Arを充填したグローブボックス内(H2O及びO2濃度がいずれも0.1ppm以下)で構築した。このコイン電池を「Li/SE/Liバッテリー」と表記した。
【0056】
図4は、Li/SE/LiバッテリーのLANDバッテリー試験システムの結果であって、Li/SE/Liバッテリーの60℃における長期サイクリング特性を示している。なお、
図4のグラフ中の2個の挿入図は、一部領域を拡大したものである。
【0057】
図4から、Li/SE/Liバッテリーは、0.1mAcm
-2及び0.2mAcm
-2の電流密度において、Liめっき及びストリッピング中に非常に安定した電池性能を示すことがわかった。
【0058】
(固体電解質を用いた電池評価2)
実施例1で得た固体電解質電解質を約200μmの厚みなるようにプレス処理し、直径12mmのペレット状に切断した。この固体電解質を用いて、アルゴン雰囲気下、2025型のコインセル(全固体リチウムイオン電池)を組み立てた。コインセルのカソードは、正極活物質として市販のLiFePO4、導電助剤としてSuper P(カーボンブラック)、バインダーとしてPVDFを8:1:1の質量比率になるように計量し、適量のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加えて室温で12時間混練し、得られたスラリーをAl製の集電板に塗布して120℃の真空乾燥機中で12時間乾燥することで製作した。コインセルのアノードは、厚さ0.1mmのリチウム金属を使用した。カソード及びアノードはいずれも直径12mmの円片に切断して使用した。組み立てたコインセルの定電流充放電特性を、バッテリーテストシステム(LAND CT2001Aモデル、LANHEElectronic.Ltd)により評価した。測定条件は60℃、電圧範囲2.5~4.0Vとした。このコイン電池を「LFP/SE/Liバッテリー」と表記した。
【0059】
図5は、LFP/SE/Liバッテリーのフルセル性能の結果であって、aは、60℃でサイクルした様々な充放電速率でのLFP/SE/Liバッテリーの電圧プロファイルであり、bは、60℃でサイクルした様々な充放電速率でのLFP/SE/Liバッテリーのサイクル性能を示す。
【0060】
図5から、LFP/SE/Liバッテリーは、それぞれC/10及びC/5レートで非常に低い過電圧を維持することがわかった。また、LFP/SE/Liバッテリーは、C/10、C/5、C/2、及び1Cで循環させると、それぞれ151mAhg
-1、140mAhg
-1、100mAhg
-1、及び62mAhg
-1の高い比容量を実現することができた。
【0061】
図6は、60℃におけるLFP/SE/Liバッテリーの容量保持性能の結果である(第2Y軸の「CE」とはクーロン効率を意味する)。
図6から、LFP/SE/Liバッテリーは、300サイクルの間、非常に安定した電池性能を有していることがわかり、60℃及び0.5C充放電速度で最大容量(114.8mAhg
-1)の86%を維持するものであった。
【0062】
以上より、リチウム塩及びポリエーテルブロックアミド共重合体を含有する固体電解質は、全固体リチウムイオン電池に優れた電池容量とサイクル安定性を付与することができる新規な材料であることが実証され、全固体リチウムイオン電池用の固体電解質として有用であることがわかった。