(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152071
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】監視装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/18 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
G05B19/18 W
G05B19/18 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062012
(22)【出願日】2022-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢野 慧介
(72)【発明者】
【氏名】横田 晃司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 高洋
【テーマコード(参考)】
3C269
【Fターム(参考)】
3C269AB03
3C269AB05
3C269AB06
3C269BB12
3C269EF39
3C269GG01
3C269MN07
3C269MN08
3C269MN14
3C269MN15
3C269MN21
3C269MN23
3C269MN26
3C269MN27
3C269MN29
3C269PP02
3C269QB03
(57)【要約】
【課題】加工段階の夫々に適した閾値を用いた加工装置の監視を容易に実行できる監視装置を提供する。
【解決手段】本監視装置は、加工プログラムにしたがって、加工条件の異なる複数の加工段階を含む加工を行う加工装置を監視する。本監視装置は、加工プログラムを読み込んで、加工プログラムが加工装置に実行させる複数の加工段階を取得する取得部と、加工プログラムにしたがって動作する加工装置の複数の加工段階の夫々について、監視対象データを収集する収集部と、複数の加工段階のうち、収集部によって所定数の監視対象データが収集された加工段階の閾値を、収集した所定数の監視対象データを用いて決定する決定部と、閾値が決定された加工段階における加工装置に対して、決定された閾値を用いた監視を開始する監視部と、監視部によって加工装置の異常が検出されると、検出された異常を通知する出力部と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工プログラムにしたがって、加工条件の異なる複数の加工段階を含む加工を行う加工装置を監視する監視装置であって、
前記加工プログラムを読み込んで、前記加工プログラムが前記加工装置に実行させる前記複数の加工段階を取得する取得部と、
前記加工プログラムにしたがって動作する前記加工装置の前記複数の加工段階の夫々について、監視対象データを収集する収集部と、
前記複数の加工段階のうち、前記収集部によって所定数の前記監視対象データが収集された加工段階の閾値を、収集した前記所定数の前記監視対象データを用いて決定する決定部と、
前記閾値が決定された加工段階における前記加工装置に対して、決定された前記閾値を用いた監視を開始する監視部と、
前記監視部によって前記加工装置の異常が検出されると、検出された前記異常を通知する出力部と、を備える、
監視装置。
【請求項2】
前記決定部は、前記閾値が決定されていない第1の加工段階の仮の閾値を、前記閾値が決定済みの複数の第2の加工段階の閾値を用いて推定し、
前記監視部は、前記仮の閾値を用いて、前記第1の加工段階の前記加工装置の監視を開始する、
請求項1に記載の監視装置。
【請求項3】
前記複数の加工段階夫々における前記加工条件は、使用される工具の指定と、前記工具の駆動に使用されるパラメータと、を含み、
前記決定部は、
前記工具及び前記パラメータの少なくとも一方が前記第1の加工段階と同一である前記複数の前記第2の加工段階を選択し、
選択した前記複数の第2の加工段階の閾値を用いて、前記第1の加工段階の前記仮の閾値を推定する、
請求項2に記載の監視装置。
【請求項4】
前記決定部は、前記仮の閾値を用いて監視が行われている前記第1の加工段階について前記所定数の前記監視対象データが前記収集部によって収集されると、前記第1の加工段階について収集された前記所定数の前記監視対象データを用いて前記第1の加工段階の前記閾値を決定し、
前記監視部は、決定された前記第1の加工段階の前記閾値を用いた前記第1の加工段階の前記加工装置の監視を開始する、
請求項2に記載の監視装置。
【請求項5】
前記決定部は、
前記閾値が決定されていない第1の加工段階について、前記監視対象データが前記収集部によって前記所定数より少ない第1の数だけ収集されると、収集された前記第1の数の監視対象データを記憶部に記憶させ、
前記収集部によって前記第1の加工段階についての新たな前記監視対象データが前記第1の数だけ収集されると、前記記憶部に記憶させた前記第1の数の前記監視対象データと、前記新たな前記第1の数の前記監視対象データと、に対してWelchのt検定を行い、
前記Welchのt検定の結果が所定の許容範囲内である場合に、前記新たな前記第1の数の前記監視対象データを前記記憶部に記憶させ、
前記記憶部に記憶された前記監視対象データの数が前記所定数以上となると、前記記憶部に記憶された前記所定数以上の前記監視対象データを用いて、前記第1の加工段階の前記閾値を決定する、
請求項1に記載の監視装置。
【請求項6】
前記出力部は、前記Welchのt検定の結果が前記所定の許容範囲外である場合に、前記加工装置の前記異常を通知する、
請求項5に記載の監視装置。
【請求項7】
前記決定部は、
前記閾値が決定された決定済み加工段階について、前記閾値の決定後に前記収集部によって収集された前記所定数の前記監視対象データの全てが前記閾値未満である場合、前記決定済み加工段階の閾値の決定に用いた監視対象データと、前記閾値の決定後に前記収集部によって収集された前記所定数の前記監視対象データとを用いて、前記決定済み加工段階の新たな閾値を決定する、
請求項1に記載の監視装置。
【請求項8】
前記出力部は、特定の加工段階の前記加工装置について前記監視部が異常を検出する頻度が、予め決定された所定の頻度以上である場合には、前記特定の加工段階における前記加工条件が適切ではないことを通知する、
請求項1から7のいずれか一項に記載の監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドリル等を用いて加工を行う加工装置の状態を監視する装置監視が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-082154号公報
【特許文献2】特開平3-294149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
読み込んだ加工プログラムにしたがって加工を行う加工装置では、加工プログラムにしたがった加工段階毎に、加工に使用するドリルの回転速度、ドリル径、加工方法等の加工に係る加工条件が変更される。加工装置で生じる振動の振動数、振幅等は、加工段階毎に異なる。そのため、複数の加工段階の全てに一律の閾値を設定して加工装置の監視が行われると、異常の発生の有無について誤検知が生じ得る。
【0005】
そのため、加工段階の夫々について閾値が設定されることで加工段階に応じた監視が行われることが好ましい。しかしながら、加工装置に対して後付けで取り付けられる監視装置は、加工装置によって実行される加工段階を把握できなかったため、加工段階に応じた閾値を用いて監視を行うことは困難であった。
【0006】
開示の技術の1つの側面は、加工段階の夫々に適した閾値を用いた加工装置の監視を容易に実行できる監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示の技術の1つの側面は、次のような監視装置によって例示される。本監視装置は、加工プログラムにしたがって、加工条件の異なる複数の加工段階を含む加工を行う加工装置を監視する監視装置である。本監視装置は、上記加工プログラムを読み込んで、上記加工プログラムが上記加工装置に実行させる上記複数の加工段階を取得する取得部と、上記加工プログラムにしたがって動作する上記加工装置の上記複数の加工段階の夫々について、監視対象データを収集する収集部と、上記複数の加工段階のうち、上記収集部によって所定数の上記監視対象データが収集された加工段階の閾値を、収集した上記所定数の上記監視対象データを用いて決定する決定部と、上記閾値が決定された加工段階における上記加工装置に対して、決定された上記閾値を用いた監視を開始する監視部と、上記監視部によって上記加工装置の異常が検出されると、検出された上記異常を通知する出力部と、を備える。
【0008】
上記監視装置によれば、上記加工装置によって実行される上記複数の加工段階を、上記加工プログラムを読み込むことで取得できる。そして、上記監視装置は、上記加工プログラムにしたがって動作する上記加工装置の上記複数の加工段階の夫々について、監視対象データを収集することができる。そして、上記監視装置は、加工段階の夫々における監視対象データを基に閾値を決定できる。そのため、上記監視装置は、例えば、加工段階に応じて上位装置から監視に用いる閾値を書き換えるようなシステムを構築しなくとも、加工
段階の夫々に適した閾値を用いて監視を実行することができる。そのため、上記監視装置は、加工段階の夫々に適した閾値を用いた加工装置の監視を容易に実行することができる。
【0009】
上記監視装置は、次の特徴を備えてもよい。上記決定部は、上記閾値が決定されていない第1の加工段階の仮の閾値を、上記閾値が決定済みの複数の第2の加工段階の閾値を用いて推定し、上記監視部は、上記仮の閾値を用いて、上記第1の加工段階の上記加工装置の監視を開始する。ここで、上記複数の加工段階夫々における上記加工条件は、使用される工具の指定と、上記工具の駆動に使用されるパラメータと、を含み、上記決定部は、上記工具及び上記パラメータの少なくとも一方が上記第1の加工段階と同一である上記複数の上記第2の加工段階を選択し、選択した上記複数の第2の加工段階の閾値を用いて、上記第1の加工段階の上記仮の閾値を推定してもよい。
【0010】
例えば、他の加工段階よりも実行時間が短い加工段階では、閾値決定に要する監視対象データがなかなか集まらず、監視の開始が遅れることが考えられる。上記監視装置は、このような特徴を備えることで、閾値未決定の加工段階に対して仮に閾値を決定できるため、閾値決定に要する監視対象データの収集が遅れている加工段階の監視を可及的に早期に開始することができる。
【0011】
上記監視装置は、次の特徴を備えてもよい。上記決定部は、上記仮の閾値を用いて監視が行われている上記第1の加工段階について上記所定数の上記監視対象データが上記収集部によって収集されると、上記第1の加工段階について収集された上記所定数の上記監視対象データを用いて上記第1の加工段階の上記閾値を決定し、上記監視部は、決定された上記第1の加工段階の上記閾値を用いた上記第1の加工段階の上記加工装置の監視を開始する。上記監視装置は、このような特徴を備えることで、仮の閾値で監視していた上記第1の加工段階の監視を、上記第1の加工段階における監視対象データを基に決定した閾値による監視に切り替えることができ、ひいてはより高い精度で上記第1の加工段階の監視を行うことができる。
【0012】
上記監視装置は、次の特徴を備えてもよい。上記決定部は、上記閾値が決定されていない第1の加工段階について、上記監視対象データが上記収集部によって上記所定数より少ない第1の数だけ収集されると、収集された上記第1の数の監視対象データを記憶部に記憶させ、上記収集部によって上記第1の加工段階についての新たな上記監視対象データが上記第1の数だけ収集されると、上記記憶部に記憶させた上記第1の数の上記監視対象データと、上記新たな上記第1の数の上記監視対象データと、に対してWelchのt検定を行い、上記Welchのt検定の結果が所定の許容範囲内である場合に、上記新たな上記第1の数の上記監視対象データを上記記憶部に記憶させ、上記記憶部に記憶された上記監視対象データの数が上記所定数以上となると、上記記憶部に記憶された上記所定数以上の上記監視対象データを用いて、上記第1の加工段階の上記閾値を決定する。
【0013】
上記監視装置は、上記特徴を備えることで、閾値決定に用いる監視対象データを収集する際に、収集済みの監視対象データと新たに収集した監視対象データとで統計的に有意な差が無い場合に、新たに収集した監視対象データを閾値決定に用いる監視対象データとして採用することができる。そして、収集済みの監視対象データと新たに収集した監視対象データとで統計的に有意な差が生じている場合には、加工装置に何らかの異常が生じている可能性がある。上記監視装置は、異常が生じている可能性がある加工装置から取得された監視対象データを閾値決定から除外することで、閾値の信頼性を高めることができる。ここで、上記監視装置の上記出力部は、上記Welchのt検定の結果が上記所定の許容範囲外である場合に、上記加工装置の上記異常を通知してもよい。
【0014】
上記監視装置は、次の特徴を備えてもよい。上記決定部は、上記閾値が決定された決定済み加工段階について、上記閾値の決定後に上記収集部によって収集された上記所定数の上記監視対象データの全てが上記閾値未満である場合、上記決定済み加工段階の閾値の決定に用いた監視対象データと、上記閾値の決定後に上記収集部によって収集された上記所定数の上記監視対象データとを用いて、上記決定済み加工段階の新たな閾値を決定する。
【0015】
上記加工装置は、長期間使用されると工具の摩耗等によって状態が変化する。そこで、上記監視装置においては、新たに収集された監視対象データを基に閾値が更新されることが好ましい。しかしながら、上記閾値以上の監視対象データも用いて閾値を更新してしまうと、閾値の信頼性が低下する虞がある。上記監視装置によれば、上記閾値以上の上記監視対象データを用いた閾値の更新が抑制されるため、上記閾値の信頼性低下が抑制される。
【0016】
上記監視装置は、次の特徴を備えてもよい。上記出力部は、特定の加工段階の上記加工装置について上記監視部が異常を検出する頻度が、予め決定された所定の頻度以上である場合には、上記特定の加工段階における上記加工条件が適切ではないことを通知する。使用する工具の選択や工具の回転数等の加工条件が適切ではない加工段階では、監視装置によって検出される異常が頻発することがある。上記監視装置は、このような特徴を備えることで、加工条件が適切ではない可能性を通知することができる。
【発明の効果】
【0017】
開示の技術によれば、加工段階の夫々に適した閾値を用いた加工装置の監視を容易に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施形態に係る監視装置の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、加工装置に読み込まれる加工プログラムを模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、加工中の加工装置から振動センサが検出する振動を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、監視装置が有する機能部の概略構成を示す図である。
【
図5】
図5は、記憶部に記憶される加工モード管理テーブルの一例を示す図である。
【
図6】
図6は、記憶部に記憶される閾値管理テーブルの一例を示す図である。
【
図7】
図7は、監視装置による閾値決定処理のフローの一例を示す第1の図である。
【
図8】
図8は、監視装置による閾値決定処理のフローの一例を示す第2の図である。
【
図9】
図9は、監視装置による監視処理のフローの一例を示す図である。
【
図10】
図10は、第1変形例における加工モード管理テーブルの一例を示す図である。
【
図11】
図11は、第1変形例における閾値管理テーブルの一例を示す図である。
【
図12】
図12は、加工プログラムから読み込んだ加工モードを使用する刃具及び刃具の回転速度で縦横に配列した図である。
【
図13】
図13は、第2変形例における仮の閾値決定を模式的に示す図である。
【
図14】
図14は、第3変形例による閾値決定に用いる検出値の収集過程を模式的に示す第1の図である。
【
図15】
図15は、第3変形例による閾値決定に用いる検出値の収集過程を模式的に示す第2の図である。
【
図16】
図16は、第4変形例における閾値の更新を模式的に示す図である。
【
図17】
図17は、第5変形例における処理フローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<実施形態>
以下、図面を参照して実施形態に係る監視装置100について説明する。
図1は、実施形態に係る監視装置100の一例を示す図である。
図1では、監視装置100の監視対象となる加工装置300及び加工装置300に取り付けられる振動センサ200も例示される。
【0020】
加工装置300は、読み込んだ加工プログラムにしたがってモータ33を駆動することで金属等のワークの加工を行う装置である。加工装置300は、PLC31、サーボドライバ32、モータ33、減速器34及び刃具35を含む。
【0021】
PLC31は、加工プログラムを読み込み、当該加工プログラムにしたがってモータ33を駆動するようにサーボドライバ32に対して指令信号を出力する。加工プログラムとしては、例えば、Numerical control(NC)プログラムを挙げることができる。
【0022】
サーボドライバ32は、PLC31から指令信号を受ける。さらにサーボドライバ32は、モータ33からフィードバック信号を受ける。サーボドライバ32においては、位置制御器、速度制御器、電流制御器等を利用したフィードバック制御を行うサーボ系が形成されており、これらの信号を利用して、サーボモータ3をサーボ制御し駆動する。
【0023】
モータ33は、例えばACサーボモータである。モータ33は、サーボドライバ32から駆動電流を給電される。モータ33は、出力軸の変位を検出する。モータ33は、検出された出力軸の変位を示すフィードバック信号をサーボドライバ32に出力する。
【0024】
モータ33によって出力されるフィードバック信号には、例えば、出力軸の回転位置(角度)についての情報、出力軸の回転速度についての情報、出力軸の回転方向についての情報等が含まれる。モータ33が出力軸の回転位置、回転方向及び回転速度等の情報を取得する方式としては、例えば、公知のインクリメンタル型またはアブソリュート型の方式を採用することができる。
【0025】
減速器34は、モータ33の出力軸と刃具35との間に介在する。減速器34は、モータ33の出力軸の回転速度及びトルクを、刃具35を用いた加工に適した回転速度及びトルクに変換する。
【0026】
刃具35は、ワークに対して加工を行う工具である。刃具35としては、穴あけ加工を行うドリルやリーマ、歯車の歯切りを行うホブ、フライス加工を行うフライス等が挙げられる。なお、刃具35は複数設けられ、加工段階に応じて適宜交換されてもよい。
【0027】
加工装置300では、PLC31からの指令にしたがってサーボドライバ32がモータ33に駆動電流を給電する。そして、給電された駆動電流に応じてモータ33が駆動され、その回転速度及びトルクが刃具35に伝えられる。そして、モータ33の回転速度及びトルクが伝えられた刃具35によってワークに対する加工が行われる。
【0028】
監視装置100は、振動センサ200によって検出されたモータ33の振動を基に、加工装置300の監視を行う。そして、監視装置100は、振動センサ200によって検出された振動を基に加工装置300の異常を検知すると、警報等の通知を行う。
【0029】
図2は、加工装置300に読み込まれる加工プログラム310を模式的に示す図である
。加工プログラム310は、ヘッダー311、第1加工モード処理ブロック312、第2加工モード処理ブロック313、第3加工モード処理ブロック314及びフッター315の各処理ブロックを含む。ヘッダー311及びフッター315は、夫々加工プログラム310の開始と終了を示す処理ブロックである。
【0030】
第1加工モード処理ブロック312、第2加工モード処理ブロック313、第3加工モード処理ブロック314の夫々の処理ブロックは、処理ブロックを識別するシーケンス番号、使用する刃具35の種類及びモータ33の回転数の設定する命令、所定位置から加工対象とする位置に刃具35を移動させる命令、モータ33回転を開始させる命令、加工を実行する命令、モータ33の回転を停止させる命令、刃具35を所定位置に移動させる命令、が含まれる。そして、加工を実行する命令では、指定された移動速度で指定された移動距離だけ刃具35を移動させる命令が含まれる。
【0031】
加工装置300では、PLC31が加工プログラム310を読み込むことで、第1加工モード処理ブロック312、第2加工モード処理ブロック313,第3加工モード処理ブロック314の夫々の加工モードにおける加工が行われる。第1加工モード処理ブロック312、第2加工モード処理ブロック313、第3加工モード処理ブロック314の夫々では、使用する刃具35の種類及びモータ33の回転数、加工時における刃具35の移動速度及び移動距離が異なる。このように、加工装置300では、様々な加工モードを経て、ワークの加工が行われる。刃具35は、「工具」の一例である。回転数は、「パラメータ」の一例である。
【0032】
図3は、加工中の加工装置300から振動センサ200が検出する振動を模式的に示す図である。
図3において、縦軸は振動の加速度を例示し、横軸は時間を例示する。また、
図3では、加工装置300が実行している加工モードについても例示される。
図3では、異常検出のために設定された閾値として、閾値(1)と閾値(2)が例示される。加工モードは、「加工段階」の一例である。
【0033】
そして、
図3の例では、各加工モードにおいて通常時(異常が発生していない状態)に生じる振動の加速度の大きさは、第2加工モード、第1加工モード、第3加工モード、の順に小さくなる。そして、加工装置300において異物の噛みこみ、刃具35の摩耗、被加工物の硬さが設計値よりも高い、刃具35の太さ(大きさ)がワークに対する加工に適していない、等の異常が生じると、振動センサ200は通常よりも加速度や振幅の大きな振動を検出することがある。例えば、
図3の例では、第3加工モードの矢印で示されるときに刃具35が異物を噛みこむ異常が発生した結果、通常よりも大きな加速度の振動が振動センサ200によって検出されている。
【0034】
閾値(1)は、第3加工モードにおける通常時の振動を基に決定された閾値の例である。
図3の矢印で例示した異物噛みこみによって生じた異常な振動は、閾値(1)以上の加速度が生じるため、閾値(1)によって検出することができる。一方、第1加工モード及び第2加工モードにおいては、通常時の振動においても閾値(1)以上の加速度が生じる。そのため、一律に閾値(1)を適用してしまうと、第1加工モード及び第2加工モードにおいて、異常が生じていないにもかかわらず、異常が生じたものと誤検知される虞がある。
【0035】
閾値(2)は、第2加工モードにおける通常時の振動を基に決定された閾値の例である。この場合、
図3の矢印で例示した異物噛みこみによって生じた異常な振動は、閾値(2)未満の加速度となっている。そのため、閾値(2)では、
図3の矢印で例示した異物噛みこみを見落とす虞がある。
【0036】
すなわち、ある加工モードでは加工装置300の異常を好適に検出できる閾値であっても、他の加工モードでは誤検知や見落としが生じ得る。そのため、加工モード毎に閾値が設定されることが好ましい。しかしながら、加工装置300に対して後付けで接続される監視装置100では、加工装置300がどのような加工モードで加工を行っているか把握することは難しい。そこで、本実施形態では、加工モード毎に好適な閾値を設定可能とするため、監視装置100として以下に説明する構成を採用する。
【0037】
図4は、監視装置100が有する機能部の概略構成を示す図である。監視装置100は、演算装置、記憶装置等を有するコンピューターとみなすことができる。
図4に示す機能部は、監視装置100において所定のプログラム等が実行されることで実現される。監視装置100は、取得部11、収集部12、閾値決定部13、監視部14、出力部15及び記憶部16を有するが、これら以外の機能部を有していても構わない。
【0038】
取得部11は、加工プログラム310を読み込んで、加工装置300の加工における加工モードの情報を取得する。取得部11は、例えば、加工モードの実行順や、夫々の加工モードが実行される継続時間を取得する。加工モードの継続時間は、例えば、刃具35の移動速度及び移動距離を基に算出することができる。加工モードの実行順及び加工モード夫々の継続時間を取得することで、監視装置100は、現時点において加工装置300がどの加工モードで動作しているかを、加工装置300が加工を開始してからの経過時間を基に判定できるようになる。取得部11は、「取得部」の一例である。
【0039】
図5は、記憶部16に記憶される加工モード管理テーブル111の一例を示す図である。取得部11は、加工プログラム310から取得した情報を加工モードに対応付けて加工モード管理テーブル111に格納する。加工モード管理テーブル111は、「加工モード」、「工具」、「回転速度」及び「時間」の各項目を含む。「加工モード」には、取得部11によって加工プログラム310から取得された加工モードを特定する情報が格納される。加工モードを特定する情報としては、例えば、加工プログラム310内で各加工モードに付されるシーケンス番号、刃具35とその回転数の組み合わせ等を挙げることができる。「工具」には、取得部11によって加工プログラム310から取得された刃具35の種類を示す情報が格納される。「回転速度」には、取得部11によって加工プログラム310から取得された刃具35の回転速度を示す情報が格納される。「回転速度」の単位は、例えば、「rpm」である。「時間」には、取得部11によって加工プログラム310から取得された加工モードの継続時間が格納される。「時間」の単位は、例えば、「秒」である。例えば、
図5の状態では、加工モードが「第1加工モード」のときには、工具として「工具1」が使用され、その回転速度は「1000」rpmであることが理解できる。そして、「第1加工モード」は、加工装置300による加工が開始されてから「T0」秒後から「T1」秒後まで継続して実行されることが理解できる。
【0040】
収集部12は、加工を行っている加工装置300から振動センサ200によって検出されるモータ33の振動を示す検出値を収集する。振動を示す検出値としては、例えば、振動の加速度や振動の振幅等を挙げることができる。ここで、収集部12は、取得部11によって取得された情報を基に、加工モードの夫々について検出値を収集する。検出値は、「監視対象データ」の一例である。
【0041】
収集部12は、例えば、加工装置300による加工が開始されてからの経過時間に応じて、加工装置300で実行されている加工モードを特定してもよい。そして、当該経過時間が特定した加工モードの実行中を示す間、検出値を収集してもよい。
【0042】
また、収集部12は、収集部12は、例えば、加工装置300のモータ33に供給される駆動電流の周波数を基にモータ33の回転数を把握し、把握した回転数を基に加工装置
300で実行されている加工モードを判定してもよい。そして、収集部12は、把握した回転数が検出値の収集対象とした加工モードにおける刃具35の回転数を示す間、検出値を収集してもよい。収集部12は、「収集部」の一例である。
【0043】
モータ33に供給される駆動電流の周波数と、刃具35の回転数とは必ずしも一致するわけではない。モータ33に供給される駆動電流の周波数と刃具35の回転数とが一致しない場合には、モータ33に供給される駆動電流の周波数と刃具35の回転数との対応関係がユーザによって記憶部16に記憶されればよい。そして、収集部12は、記憶部16に記憶された対応関係を基に駆動電流の周波数から刃具35の回転数を算出すればよい。そして、収集部12は、算出した回転数が検出値の収集対象とした加工モードにおける刃具35の回転数を示す間、検出値を収集すればよい。そして、収集部12は、振動センサ200によって検出される振動数が、モータ33の停止を示す所定の振動数になると、検出値の収集を停止してもよい。
【0044】
ところで、刃具35は、回転開始から回転終了まで加工対象のワークに接触し続けているとは限らない。刃具35は、例えば、回転開始してからワークに向けて移動し、ワークに接触して加工を行った後、ワークから離れて回転が停止される。そのため、収集部12が収集した検出値には、刃具35がワークに接触していないときの検出値も含まれることがある。そこで、収集部12は、収集した検出値のうち、振動数の大きい検出値から順に上位所定時間分(例えば、6秒分)の検出値を記憶部16に記憶させる。刃具35とワークとが接触している間に生じる振動は刃具35とワークとが離れているときの振動よりも大きいため、このような処理によって収集部12はワークと刃具35とが接触しているときの検出値を収集することができる。
【0045】
図6は、記憶部16に記憶される閾値管理テーブル161の一例を示す図である。収集部12は、収集した検出値を記憶部16に記憶させる際には、収集した検出値と加工モードとを対応付けて閾値管理テーブル161に格納する。閾値管理テーブル161は、「加工モード」、「検出値」、「検出値数」及び「閾値」の各項目を含む。「加工モード」には、検出値が収集された加工モードを示す情報が格納される。「検出値」には、収集部12によって収集された検出値が格納される。すなわち、収集部12は、収集した検出値と、検出値が収集されたときの加工モードとを対応付けて、閾値管理テーブル161に格納する。そして、記憶部16は、加工モードの夫々について収集された検出値の数を算出して閾値管理テーブル161の「検出値数」に格納する。
【0046】
閾値決定部13は、収集部12によって収集された検出値を基に、加工モードの夫々についての閾値を決定する。閾値決定部13は、閾値管理テーブル161に記憶された検出値の数が所定のデータ数に達した加工モードについて収集された検出値を基に閾値を決定する。閾値決定部13は、決定した閾値を閾値管理テーブル161の「閾値」に格納する。閾値決定部13は、「決定部」の一例である。
【0047】
監視部14は、閾値決定部13によって閾値が決定された加工モードについての監視を開始する。監視部14は、例えば、振動センサ200によって検出された検出値が閾値決定部13によって決定された閾値以上の場合に、異常が発生したと判定する。監視部14は、「監視部」の一例である。
【0048】
出力部15は、監視部14によって異常が発生したと判定されると、警報を出力する。警報の出力としては、例えば、警報音の出力、警報メッセージの表示装置への出力、警報メッセージのメール送信等を挙げることができる。出力部15は、「出力部」の一例である。
【0049】
<監視装置100の処理フロー>
図7及び
図8は、監視装置100による閾値決定処理のフローの一例を示す図である。以下、
図7及び
図8を参照して、監視装置100による閾値決定処理のフローの一例について説明する。
【0050】
S1では、監視装置100が加工装置300に接続される。例えば、モータ33に振動センサ200が取り付けられ、振動センサ200の出力が監視装置100に接続される。
【0051】
S2では、取得部11は、加工プログラム310を読み込む。取得部11は、例えば、加工装置300のPLC31に加工プログラム310を送信するパーソナルコンピュータから加工プログラム310を取得してもよい。また、例えば、取得部11は、加工装置300(または加工装置300のPLC31)から、加工プログラム310を取得してもよい。また、例えば、取得部11は、加工プログラム310が記憶されたUSBメモリから加工プログラム310を取得してもよい。取得部11は、加工プログラム310から、加工モードに係る情報を抽出する。
【0052】
S3では、取得部11は、S2で抽出された加工モードに係る情報を加工モード管理テーブル111及び閾値管理テーブル161に格納する。ここでは、例えば、加工モード管理テーブル111の「加工モード」、「工具」、「回転速度」、「時間」の各項目に情報が格納される。また、閾値管理テーブル161の「加工モード」の項目に情報が格納される。
【0053】
S4では、収集部12は、振動センサ200の検出値を収集する。収集部12は、例えば、刃具35の回転が開始されてから終了するまでの間に振動センサ200によって検出された検出値を収集する。
【0054】
S5では、収集部12は、S4で収集した振動センサ200の検出値を記憶部16に記憶させる。
【0055】
記憶部16に記憶させた検出値がモータ33の停止を示す所定の閾値以下の場合(S6でYES)、処理はS7に進められる。記憶部16に記憶させた検出値がモータ33の駆動を示す所定の閾値より大きい場合(S6でNO)、処理はS4に進められる。
【0056】
S7では、収集部12は、S4で記憶部16に記憶させた検出値のうち、振動数の大きい検出値から順に上位所定時間分の検出値を閾値管理テーブル161に格納する。収集部12は、S5において記憶部16に記憶させた検出値を記憶部16から消去する。
【0057】
閾値管理テーブル161に格納された検出値の数が閾値算出に要する所定のデータ数に達した場合(S8でYES)、処理はS9に進められる。閾値管理テーブル161に格納された検出値の数が閾値算出に要する所定のデータ数に満たない場合(S8でNO)、処理はS11に進められる。
【0058】
S9では、閾値決定部13は、閾値管理テーブル161に格納された検出値を基に、検出値が収集された加工モードに対応する閾値を決定する。閾値決定部13は、決定した閾値を閾値管理テーブル161に格納する。
【0059】
S10では、監視部14は、S9で閾値が決定された加工モードについての監視を開始する。次の加工モードがある場合(S11でYES)、加工モードを次の加工モードに切り替えた上で、処理はS4に進められる。次の加工モードが無い場合、すなわち、現在の加工モードが最後の加工モードである場合(S11でNO)、処理は終了される。
【0060】
図9は、監視装置100による監視処理のフローの一例を示す図である。監視処理は、例えば、
図8のS10において実行される処理である。以下、
図9を参照して、監視装置100による監視処理のフローの一例について説明する。なお、
図9の例では、
図7のS1で監視装置100は加工装置300に接続済みであるものとする。
【0061】
S21では、監視部14は、現在実行されている加工モードに対応付けられた閾値を閾値管理テーブル161から選択する。S22では、監視部14は、振動センサ200の検出値を取得する。取得した検出値がS21で選択した閾値以上である場合(S23でYES)、処理はS26に進められる。取得した検出値がS21で選択した閾値未満である場合(S23でNO)、処理はS24に進められる。
【0062】
S22で取得された検出値がモータ33の停止を示す所定の閾値以下の場合(S24でYES)、処理はS25に進められる。S22で取得された検出値がモータ33の駆動を示す所定の閾値より大きい場合(S24でNO)、処理はS22に進められる。
【0063】
S25では、監視部14は、閾値決定済みの次の加工モードがあるか否かを判定する。次の加工モードがある場合(S25でYES)、処理はS21に進められる。次の加工モードが無い場合(S25でNO)、処理は終了される。
【0064】
S26では、出力部15は、加工装置300に異常が生じたことについて警報を出力する。
【0065】
<実施形態の作用効果>
本実施形態では、監視装置100は、加工プログラム310を読み込むことで、加工モードの夫々において使用する刃具35、刃具35の回転数、継続時間及びその実行順を取得する。そして、監視装置100は、加工プログラム310から取得した加工モードの夫々について、振動センサ200によって検出された検出値を収集し、夫々の加工モードについての閾値を決定する。そのため、本実施形態によれば、加工モードの夫々に適した閾値を用いた監視を容易に実行することができる。
【0066】
本実施形態では、閾値決定に要する検出値が揃った加工モードから監視が開始される。すなわち、本実施形態では、一部の加工モードについて閾値決定に要する検出値が収集されていない段階でも、少なくとも閾値決定に要する検出値が揃った加工モードについては監視を開始できる。そのため、本実施形態によれば、全ての加工モードについて閾値が決定されるまで監視の開始を待たなくともよい。
【0067】
<第1変形例>
以上説明した実施形態では、閾値算出に要する所定のデータ数以上の検出値が蓄積された加工モードについて閾値の決定が行われ、監視が開始される。ここで、継続時間の短い加工モードについては、1回の加工で収集される検出値が少なくなる。そのため、継続時間の短い加工モードについては、閾値決定までの時間が長時間化し、ひいては、当該加工モードの監視開始までの時間が長時間化する虞がある。そこで、第1変形例では、継続時間の短い加工モードの監視開始までの時間を可及的に短くする技術について説明する。
【0068】
図10は、第1変形例における加工モード管理テーブル111の一例を示す図である。第1変形例では、加工モード管理テーブル111において、第4加工モード、第5加工モード及び第6加工モードの夫々について、刃具35、回転速度、時間が対応付けられているものとする。
【0069】
そして、
図10の例では、第4加工モード、第5加工モード及び第6加工モードのいずれも、使用する刃具35は同一である。その一方で、第4加工モード、第5加工モード及び第6加工モードの回転速度は、互いに異なっている。
【0070】
図11は、第1変形例における閾値管理テーブル161の一例を示す図である。第1変形例では、収集された検出値の数が「500」に達した加工モードについて閾値が閾値決定部13によって決定され、監視部14による監視が開始されるものとする。第1変形例における閾値管理テーブル161では、第4加工モード及び第6加工モードについては収集された検出値が「500」以上であることから閾値が決定され、監視部14による監視が開始されている。一方、第5加工モードでは収集された検出値の数が「500」に不足しているため、閾値が決定されておらず監視部14による監視も開始されていない。
【0071】
第5加工モードの継続時間が第4加工モード及び第6加工モードよりも短時間である場合には、
図11に例示されるように、第5加工モードの監視を開始するタイミングが第4加工モード及び第6加工モードよりも遅れることがある。
【0072】
そこで、第1変形例では、閾値決定部13は、閾値が未決定の加工モード(
図11の例では第5加工モード)の閾値を、当該閾値が未決定の加工モードと同一の刃具35を使用する閾値決定済みの加工モード(
図11の例では第4加工モードと第6加工モード)の閾値及び回転数を内挿または外挿することで、第5加工モードの仮の閾値を算出する。第5加工モードの仮の閾値T
tの算出には、例えば、以下の式(1)を採用することができる。第5加工モードは、「第1の加工段階」の一例である。
【数1】
【0073】
式(1)において、T4は第4加工モードの閾値、T6は第6加工モードの閾値、R4は第4加工モードの回転数、R5は第5加工モードの回転数、R6は第6加工モードの回転数である。
【0074】
監視部14は、例えば、上記式(1)によって決定された仮の閾値を用いて、第5加工モードの監視を開始する。なお、仮の閾値を用いて監視が開始された第5加工モードについては、収集部12による検出値の収集が継続され、収集した検出値が所定のデータ数(第1変形例では「500」)に達すると、閾値決定部13によって第5加工モードの正式な閾値が決定される。監視部14は、正式な閾値が決定されると、仮の閾値を正式な閾値に代えて、第5加工モードの監視を継続する。
【0075】
第1変形例によれば、閾値未決定の加工モードに対しても、当該加工モードと同一の刃具35を使用する閾値決定済みの他の加工モードの閾値及び回転数を用いて仮の閾値を決定し、監視部14による監視を開始することができる。そのため、第1変形例によれば、継続時間が短いことから検出値の収集に時間を要する加工モードについても、早期に監視を行うことができる。
【0076】
また、第1変形例では、仮の閾値で監視していた加工モードについて、収集した検出値が所定のデータ数に達すると閾値決定部13によって閾値未決定の加工モードの正式な閾値が決定される。そして、監視部14は、仮の閾値で監視していた加工モードの監視を正式な閾値を用いて行うようになる。そのため、第1変形例によれば、検出値の収集に時間を要する加工モードの監視を早期に開始できるとともに、正式な閾値決定後には、より信
頼性の高い監視に移行することができる。
【0077】
<第2変形例>
第1変形例では、閾値未決定の加工モードと同一の刃具35を使用する閾値決定済みの加工モードの閾値を用いて、当該閾値未決定の加工モードの仮の閾値が決定された。第2変形例では、閾値決定済みの加工モードのうち、閾値未決定の加工モードと異なる刃具35を使用する加工モードの閾値も用いて、当該閾値未決定の加工モードの仮の閾値を決定する処理について説明する。
【0078】
図12は、加工プログラム310から読み込んだ加工モードを使用する刃具35及び刃具35の回転速度で縦横に配列した図である。
図12では、縦列は同一刃具35を使用する加工モードが並べられ、横列は同一回転数の加工モードが並べられる。また、
図12では、加工モードの夫々を区別するため、「〇(まる)」で囲まれた数字を加工モードの夫々に付している。例えば、「2」番の加工モードは、刃具35として「工具2」を使用し、その回転数は「1000」であることが理解できる。
【0079】
そして、
図12において、「N」は収集した検出値の数、「μ」は母平均、「σ」は標準偏差、「Th」は決定された閾値を示す。なお、
図12において、「-(ハイフン)」は、算出されていない値を示す。
【0080】
第2変形例では、閾値決定部13は、閾値決定済みの加工モードから、仮の閾値を決定する対象とした加工モードと回転数が同じ第1選択加工モード及び刃具35が同じ第2選択加工モードを選択する。ここでは、仮の閾値を決定する対象とした加工モードとして、「6」番の加工モードが選択されたものとする。そして、「6」番の加工モードと同じ回転数、かつ、閾値決定済みの加工モードとして、「5」番の加工モードが選択されたものとする。また、「6」番の加工モードと使用する刃具35が同じ、かつ、閾値決定済みの加工モードとして、「2」番の加工モードが選択されたものとする。閾値決定部13は、さらに、「5」番と使用する刃具35が同じ、かつ、「2」番と回転数が同じで、閾値決定済みの加工モードとして「1」番の加工モードを選択する。
【0081】
閾値決定部13は、例えば、「1」番の閾値が「36」、「2」番の閾値が「49」であることから、「2」番の閾値と「6」番の閾値との比は、「36:49」であると推定する。そして、閾値決定部13は、「36:49」という比と「2」番の閾値「50」とから、「6」番の仮の閾値は「68」であると決定する。
【0082】
また、閾値決定部13は、「13」番の仮の閾値を決定する場合、「13」番の加工モードと回転数が同じで閾値決定済みの「1」番の加工モード、「5」番の加工モード、「9」番の加工モード夫々の閾値を基に、「13」番の仮の閾値を決定してもよい。この場合、閾値決定部13は、「1」番の加工モード、「5」番の加工モード、「9」番の加工モード夫々の閾値に最小二乗法を適用して、「13」番の仮の閾値を決定してもよい。
【0083】
図13は、第2変形例における仮の閾値決定を模式的に示す図である。
図13は、縦軸を閾値(y)、横軸を回転数(x)としたXY座標空間を例示する。
図13では、「1」番の加工モード、「5」番の加工モード、「9」番の加工モード夫々の閾値がXY座標軸上にプロットされる。そして、これらの閾値に対する最小二乗法によって、直線L1が決定される。直線L1は、例えば、式(2)「y=0.076x-48.33」によって示される。
【0084】
閾値決定部13は、式(2)に閾値決定部13の回転数を代入することで、「13」番の加工モードの仮の閾値「141.6」を決定する。
【0085】
第2変形例によれば、閾値決定済みの加工モードのうち、仮の閾値の決定対象とした加工モードと同じ回転数の加工モードの閾値を複数用いたり、刃具35または回転数の少なくとも一方が同じ加工モードの閾値を複数用いたりすることで、閾値未決定の加工モードの仮の閾値を決定することができる。
【0086】
<第3変形例>
閾値の算出には、検出値が収集されている間、加工装置300の状態が一定であることが好ましい。しかしながら、閾値決定に向けて検出値を収集している途中で刃具35の摩耗が急速に進んだり刃具35が交換されたりすると、信頼性の高い閾値を決定することは難しい。
【0087】
第3変形例では、収集する検出値を所定数(例えば、100個)毎の検出値群に分け、収集済みの第1検出値群と、新たに収集した検出値群とで統計的に有意な差が生じているか否かが判定される。そして、有意な差が生じていない場合には新たに収集した検出値群の検出値を第1検出値群に追加する。また、有意な差が生じている場合には、加工装置300の状態が変化したものとして、閾値決定を中止する。以下、図面を参照して、第3変形例について説明する。
【0088】
図14は、第3変形例による閾値決定に用いる検出値の収集過程を模式的に示す第1の図である。
図14では、閾値決定に用いられる100個の検出値が、「検出値群(1回目)」として例示される。また、
図14では、収集部12によって、新たに収集された100個の検出値が「検出値群(2回目)」として例示される。そして、「検出値群(1回目)」の平均値は「μ1」、標準偏差は「σ1」であり、「検出値群(2回目)」の平均値は「μ2」、標準偏差は「σ2」であるものとする。100個は、「第1の数」の一例である。
【0089】
閾値決定部13は、「検出値群(1回目)」と「検出値群(2回目)」に対してWelchのt検定を適用し、「検出値群(1回目)」の平均値「μ1」と「検出値群(2回目)」の平均値「μ2」との間に有意な差がない(例えば、差が所定の許容範囲内)場合には、「検出値群(2回目)」の検出値を閾値決定に用いる検出値として採用する。一方で、「検出値群(1回目)」の平均値「μ1」と「検出値群(2回目)」の平均値「μ2」との間に有意な差がある(差が所定の閾値以上)場合には、加工装置300の状態が変化したと考えられるため、出力部15が加工装置300の状態が変化した旨の警告を出力する。
【0090】
図15は、第3変形例による閾値決定に用いる検出値の収集過程を模式的に示す第2の図である。
図15の例では、「検出値群(1回目)」の平均値「μ1」と「検出値群(2回目)」の平均値「μ2」との間に有意な差がなかった場合が例示される。
図15では、「検出値群(1回目)」と「検出値群(2回目)」の検出値が閾値決定に用いる検出値群「検出値群(1、2回目)」として例示される。そして、収集部12によって、新たに収集された100個の検出値が「検出値群(3回目)」として例示される。
【0091】
閾値決定部13は、「検出値群(1、2回目)」と「検出値群(3回目)」に対してWelchのt検定を適用し、「検出値群(1、2回目)」の平均値「μ11」と「検出値群(3回目)」の平均値「μ3」との間に有意な差がない場合には、「検出値群(3回目)」の検出値を閾値決定に用いる検出値として採用する。一方で、「検出値群(1、2回目)」の平均値「μ11」と「検出値群(3回目)」の平均値「μ3」との間に有意な差がある(差が所定の閾値以上)場合には、加工装置300の状態が変化したと考えられるため、出力部15が加工装置300の状態が変化した旨の警告を出力する。
【0092】
第3変形例では、閾値決定に用いられる検出値群と新たに収集した検出値群との間で、統計的に有意な差がない場合には、新たに収集した検出値群に含まれる検出値を閾値決定に用いる検出値として採用する。また、第3変形例では、収集済みの検出値群と新たに収集した検出値群との間で、統計的に有意な差がある場合には、検出値の収集を停止するとともに、加工装置300の状態が変化した旨の警告が出力される。そのため、第3変形例では、閾値の決定前においても加工装置300の異常を検出し得る。なお、閾値決定部13は、最初に収集する100個の検出値については、比較対象も無いことから、統計的な比較を行わずに閾値決定に用いる検出値として採用すればよい。
【0093】
<第4変形例>
以上説明した実施形態では、決定された閾値を用いて加工装置300の監視が実行される。第4変形例では、閾値決定後においても検出値の収集が行われ、閾値が更新される。以下、図面を参照して、第3変形例について説明する。
【0094】
図16は、第4変形例における閾値の更新を模式的に示す図である。
図16の例では、「検出値群(1回目)」によって例示される500個の検出値を用いて13によって閾値が決定され、監視部14による監視が開始されている。そして、監視が行われている間に、新たに収集された「検出値群(2回目)」によって例示される500個の検出値が、収集部12によって新たに収集されている。
【0095】
閾値決定部13は、新たに収集された「検出値群(2回目)」の検出値を収集中に、監視部14によって加工装置300の異常が検出されたか否かを判定する。換言すれば、閾値決定部13は、決定済みの閾値を超える検出値が「検出値群(2回目)」に含まれるか否かを判定する。決定済みの閾値を超える検出値が「検出値群(2回目)」に含まれない場合、閾値決定部13は、「検出値群(1回目)」及び「検出値群(2回目)」を用いて、閾値を更新する。また、決定済みの閾値以上の検出値が「検出値群(2回目)」に含まれる場合、閾値決定部13は、「検出値群(2回目)」の検出値を破棄して、閾値の更新を行わない。
【0096】
加工装置300は、長期に運用されると、刃具35の摩耗等で状態が変化する。第4変形例によれば、監視装置100は、刃具35の摩耗等によって加工装置300の状態が徐々に変化しても、監視装置100は、決定済みの閾値を状態が変化した加工装置300に好適な閾値に更新することができる。また、第4変形例では、新たに収集した検出値群に閾値以上の検出値が含まれる場合、当該新たに収集した検出値群を用いた閾値の更新は行われない。そのため、第4変形例によれば、加工装置300の異常検出に好ましくない値に閾値が更新されることが抑制される。
【0097】
<第5変形例>
監視部14による監視において、特定の加工モードで頻繁に異常が検出される場合、不適切な閾値が設定されている場合や当該特定の加工モードに設定された加工条件が不適切な場合が考えられる。第5変形例では、このような場合の処理について図面を参照して説明する。
【0098】
図17は、第5変形例における処理フローの一例を示す図である。以下、
図17を参照して、第5変形例における処理フローの一例について説明する。
【0099】
S31では、監視部14は、特定の加工モードで異常検出が頻発しているか否かを判定する。頻発しているか否かの基準としては、例えば、検出値数に対する異常が検出される頻度が0.3%以上(閾値が3σの場合)のように、検出値数に対する異常検出の頻度を
基準とすることができる。また、頻発しているか否かの基準としては、例えば、異常が検出される頻度が1週間に3回以上のように、所定期間に対して異常が検出される回数を基準とすることができる。異常検出頻発と判定された場合(S31でYES)、処理はS32に進められる。異常検出頻発と判定されなかった場合(S31でNO)、処理は終了される。頻度が0.3%以上は、「所定の頻度」の一例である。
【0100】
S32では、出力部15は、異常検出が頻発していることを、ユーザに通知する。S33では、ユーザは、異常検出が頻発している加工モードについて、使用する刃具35や回転数等の加工条件に問題がないか確認をする。加工条件に問題がある場合(S33でYES)、監視装置100は、監視を停止する操作をユーザから受け付ける。その後、処理は、S36に進められる。加工条件に問題が無い場合(S33でNO)、処理はS34に進められる。
【0101】
S34では、S31で異常検出頻発とされた特定の加工モードについても、監視部14による監視が継続して行われる。S35では、例えば、第4変形例で説明した方法によって、閾値が更新される。
【0102】
S36では、ユーザによる加工条件の見直しが行われる。見直された加工条件が加工装置300に設定された後、監視装置100による検出値の収集、閾値の決定、そして、加工装置300の監視が行われればよい。
【0103】
第5変形例によれば、異常検出頻発を契機として、ユーザに加工条件の見直しを促すことができる。
【0104】
<その他の変形>
以上説明した実施形態及び変形例では、監視装置100が異常検出に用いる検出値として監視装置100が備えるモータ33の振動を示す検出値が採用された。しかしながら、監視装置100は振動を示す検出値以外の値を異常検出に用いてもよい。監視装置100は、例えば、モータ33に供給される電流やモータ33に供給される電力であってもよい。
【0105】
以上説明した実施形態や変形例は、組み合わせることができる。
【0106】
<付記>
加工プログラム(310)にしたがって、加工条件の異なる複数の加工段階を含む加工を行う加工装置(300)を監視する監視装置(100)であって、
前記加工プログラム(310)を読み込んで、前記加工プログラム(310)が前記加工装置(300)に実行させる前記複数の加工段階を取得する取得部(11)と、
前記加工プログラム(310)にしたがって動作する前記加工装置(300)の前記複数の加工段階の夫々について、監視対象データを収集する収集部(12)と、
前記複数の加工段階のうち、前記収集部(12)によって所定数の前記監視対象データが収集された加工段階の閾値を、収集した前記所定数の前記監視対象データを用いて決定する決定部(13)と、
前記閾値が決定された加工段階における前記加工装置(300)に対して、決定された前記閾値を用いた監視を開始する監視部(14)と、
前記監視部(14)によって前記加工装置(300)の異常が検出されると、検出された前記異常を通知する出力部(15)と、を備える、
監視装置(100)。
【符号の説明】
【0107】
11・・取得部
12・・収集部
13・・閾値決定部
14・・監視部
15・・出力部
16・・記憶部
31・・PLC
32・・サーボドライバ
33・・モータ
34・・減速器
35・・刃具
100・・監視装置
111・・加工モード管理テーブル
161・・閾値管理テーブル
200・・振動センサ
300・・加工装置
310・・加工プログラム
311・・ヘッダー
312・・第1加工モード処理ブロック
313・・第2加工モード処理ブロック
314・・第3加工モード処理ブロック
315・・フッター