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特開2023-152075サーボモータのイナーシャ比設定方法及びイナーシャ比調整装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152075
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】サーボモータのイナーシャ比設定方法及びイナーシャ比調整装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 5/747 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
H02P5/747
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062016
(22)【出願日】2022-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 健治
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 巧
【テーマコード(参考)】
5H572
【Fターム(参考)】
5H572AA14
5H572BB04
5H572EE03
5H572GG01
5H572GG08
5H572HC07
5H572JJ03
5H572JJ04
5H572JJ17
5H572LL31
(57)【要約】
【課題】イナーシャ比の調整頻度を可及的に低減する。
【解決手段】本サーボモータのイナーシャ比設定方法は、複数のサーボモータの夫々について、負荷を第1の位置に移動させた状態におけるイナーシャ比の第1の推定値と、負荷を第2の位置に移動させた状態におけるイナーシャ比の第2の推定値とを取得する取得処理と、複数のサーボモータの夫々について、取得した第1の推定値と第2の推定値との変動幅、第1の推定値及び第2の推定値を基に仮のイナーシャ比を決定する決定処理と、仮のイナーシャ比を複数のサーボモータに設定させる第1の設定処理と、仮のイナーシャ比を設定させた後に複数のサーボモータにおいてゲインの調整を実行させる調整処理と、調整処理の後に、取得した全てのサーボモータの夫々についての第1の推定値と第2の推定値の平均として算出されるイナーシャ比を、複数のサーボモータの夫々に設定させる第2の設定処理と、を含む。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のサーボモータの協働によって負荷を駆動するサーボシステムのイナーシャ比を設定する方法であって、
複数の前記サーボモータの夫々について、前記負荷を第1の位置に移動させた状態におけるイナーシャ比の第1の推定値と、前記負荷を第2の位置に移動させた状態におけるイナーシャ比の第2の推定値とを取得する取得処理と、
複数の前記サーボモータの夫々について、取得した前記第1の推定値と前記第2の推定値との変動幅、前記第1の推定値及び前記第2の推定値を基に仮のイナーシャ比を決定する決定処理と、
決定した前記仮のイナーシャ比を複数の前記サーボモータに設定させる第1の設定処理と、
前記仮のイナーシャ比を設定させた後に複数の前記サーボモータにおいてゲインの調整を実行させる調整処理と、
前記調整処理の後に、取得した全てのサーボモータの夫々についての前記第1の推定値と前記第2の推定値の平均として算出されるイナーシャ比を、複数の前記サーボモータの夫々に設定させる第2の設定処理と、を含む、
サーボモータのイナーシャ比設定方法。
【請求項2】
前記第1の位置は、前記負荷の駆動範囲内において前記負荷が前記サーボモータから最も離れた位置であり、
前記第2の位置は、前記負荷の駆動範囲内において前記負荷が前記サーボモータに最も近づく位置であり、
前記決定処理では、
複数の前記サーボモータの夫々について、取得した前記第1の推定値と前記第2の推定値の平均値を基に所定の係数が算出され、
複数の前記サーボモータの夫々について、算出された前記所定の係数と前記平均値とに基づいて、前記仮のイナーシャ比が決定される、
請求項1に記載のサーボモータのイナーシャ比設定方法。
【請求項3】
複数のサーボモータの協働によって負荷を駆動するサーボシステムのイナーシャ比を設定するイナーシャ比設定装置であって、
複数の前記サーボモータの夫々について、前記負荷を第1の位置に移動させた状態におけるイナーシャ比の第1の推定値と、前記負荷を第2の位置に移動させた状態におけるイナーシャ比の第2の推定値とを取得する取得部と、
前記サーボモータを制御する際のイナーシャ比を設定させる設定制御部と、を備え、
前記設定制御部は、
複数の前記サーボモータの夫々について、取得した前記第1の推定値と前記第2の推定値との変動幅、前記第1の推定値及び前記第2の推定値を基に仮のイナーシャ比を決定する決定処理と、
決定した前記仮のイナーシャ比を複数の前記サーボモータに設定させる第1の設定処理と、
前記仮のイナーシャ比を設定させた後に複数の前記サーボモータにおいてゲインの調整を実行させる調整処理と、
前記調整処理の後に、取得した全てのサーボモータの夫々についての前記第1の推定値と前記第2の推定値の平均として算出されるイナーシャ比を、複数の前記サーボモータの夫々に設定させる第2の設定処理と、を実行する、
イナーシャ比設定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボモータのイナーシャ比設定方法及びイナーシャ比調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガントリ機構やタンデム機構のように複数のサーボモータを制御するサーボシステムが利用されている。このようなサーボシステムにおいてイナーシャ比を推定し、推定したイナーシャ比を複数のサーボモータの全てに対して設定する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-141437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数のサーボモータを制御するサーボシステムにおいては、負荷の位置により各サーボモータのイナーシャ比が変化する。そのため、イナーシャ比を推定した位置から負荷の位置が移動すると振動や発振が生じうる。そのため、このような振動や発振を抑制するため、イナーシャ比の設定後もイナーシャ比やゲインの調整作業が繰り返し行われる。このような調整作業は、サーボシステムを運用する作業者の負担となっていた。
【0005】
開示の技術の1つの側面は、イナーシャ比の調整頻度を可及的に低減し得るサーボシステムのイナーシャ比設定方法及びイナーシャ比調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の技術の1つの側面は、次のようなサーボモータのイナーシャ比設定方法によって例示される。本サーボモータのイナーシャ比設定方法は、複数のサーボモータの協働によって負荷を駆動するサーボシステムのイナーシャ比を設定する方法である。本イナーシャ比を設定する方法は、複数の上記サーボモータの夫々について、上記負荷を第1の位置に移動させた状態におけるイナーシャ比の第1の推定値と、上記負荷を第2の位置に移動させた状態におけるイナーシャ比の第2の推定値とを取得する取得処理と、複数の上記サーボモータの夫々について、取得した上記第1の推定値と上記第2の推定値との変動幅、上記第1の推定値及び上記第2の推定値を基に仮のイナーシャ比を決定する決定処理と、決定した上記仮のイナーシャ比を複数の上記サーボモータに設定させる第1の設定処理と、上記仮のイナーシャ比を設定させた後に複数の上記サーボモータにおいてゲインの調整を実行させる調整処理と、上記調整処理の後に、取得した全てのサーボモータの夫々についての上記第1の推定値と上記第2の推定値の平均として算出されるイナーシャ比を、複数の上記サーボモータの夫々に設定させる第2の設定処理と、を含む。
【0007】
上記サーボモータのイナーシャ比設定方法では、推定したイナーシャ比とその変動幅を基に決定した仮のイナーシャ比を設定した上でゲイン調整が行われる。ゲイン調整後に、複数の上記サーボモータについて上記推定値の平均のイナーシャ比を設定させることで、負荷の位置変動に伴うイナーシャ比の変動が生じても振動が生じにくくなる。ひいては、上記サーボモータのイナーシャ比設定方法は、イナーシャ比の調整頻度を可及的に低減することができる。
【0008】
上記サーボモータのイナーシャ比設定方法は、次の特徴を備えてもよい。上記第1の位
置は、上記負荷の駆動範囲内において上記負荷が上記サーボモータから最も離れた位置であり、上記第2の位置は、上記負荷の駆動範囲内において上記負荷が上記サーボモータに最も近づく位置である。そして、上記決定処理では、複数の上記サーボモータの夫々について、取得した上記第1の推定値と上記第2の推定値の平均値を基に所定の係数が算出され、複数の上記サーボモータの夫々について、算出された上記所定の係数と上記平均値とに基づいて、上記仮のイナーシャ比が決定される。
【0009】
負荷の位置によるイナーシャ比の変動は、負荷の駆動範囲においてサーボモータに最も近い位置に負荷が存在する場合のイナーシャ比と、サーボモータから最も離れた位置に負荷が存在する場合のイナーシャ比であると考えられる。上記サーボモータのイナーシャ比設定方法は、上記特徴を備えることで、イナーシャ比の変動の最大幅を考慮して仮のイナーシャ比が決定されてゲイン調整が行われることで、駆動範囲内における様々な位置に負荷を移動させたときにおいても、可及的に振動の発生を抑制することができる。
【0010】
開示の技術は、上記サーボモータのイナーシャ比設定方法を実行するイナーシャ比設定装置の側面から把握することも可能である。
【発明の効果】
【0011】
開示の技術によれば、イナーシャ比の調整頻度を可及的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態に係るサーボシステムの一例を示す図である。
図2図2は、負荷機械の概略構成の一例を示す図である。
図3図3は、第3軸や精密ステージの移動によるイナーシャ比変動による速度開ループ特性への影響を例示する図である。
図4図4は、実施形態におけるサーボドライバと調整支援装置の概略構成を示すブロック図である。
図5図5は、実施形態におけるイナーシャ比設定処理の処理フローの一例を示す第1の図である。
図6図6は、実施形態におけるイナーシャ比設定処理の処理フローの一例を示す第2の図である。
図7図7は、仮のイナーシャ比算出に用いられる係数αの算出を模式的に示す図である。
図8図8は、仮のイナーシャ比算出に用いられる係数αの算出の第1の方式を模式的に示す図である。
図9図9は、仮のイナーシャ比算出に用いられる係数αの算出の第2の方式を模式的に示す図である。
図10図10は、仮のイナーシャ比を決定する処理の処理フローの一例を示す図である。
図11図11は、比較例に係るサーボシステムにおけるボード線図の一例を示す図である。
図12図12は、実施形態に係るサーボシステムにおけるボード線図の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。図1は、実施形態に係るサーボシステム1の一例を示す図である。サーボシステム1は、負荷機械2、サーボモータ3a、3b、3c、サーボドライバ4a、4b、4c、コントローラ7及び調整支援装置9を備える。サーボシステム1は、サーボドライバ4a、4b、4cの協働によって負荷機械2を駆動するシステムである。サーボシステム1は、「サーボシステム」の一例である。
【0014】
負荷機械2は、例えば、ガントリ機構やタンデム機構によって例示される軸干渉を生じ得る複数の軸を有する多軸構成の機械である。図2は、負荷機械2の概略構成の一例を示す図である。負荷機械2は、サーボモータ3aによって駆動される第1軸21と、サーボモータ3bによって駆動される第2軸22と、サーボモータ3cによって駆動される第3軸23と、を含む。第1軸21と第2軸22とは、平行に配置される。第3軸23は、平行に配置された第1軸21と第2軸22とに直交するように機械的に接続される。第3軸23には、精密ステージ24が配置される。
【0015】
負荷機械2では、第1軸21がサーボモータ3aによって駆動され、第2軸22がサーボモータ3bによって駆動されることで、第3軸23が第1軸21及び第2軸22の軸方向に沿って移動する。また、第3軸23がサーボモータ3cによって駆動されることで、精密ステージ24が第3軸23の軸方向に沿って移動する。精密ステージ24は、「負荷」の一例である。
【0016】
サーボモータ3a、3b、3cには、指令信号にしたがってサーボモータ3a、3b、3cの駆動信号を出力するサーボドライバ4a、4b、4cが夫々接続される。サーボドライバ4a、4b、4cには、ユーザ又は外部装置からの入力に応じて指令信号を出力するコントローラ7が接続される。また、コントローラ7には、サーボドライバ4a、4bによるイナーシャ比の調整を支援する調整支援装置9が設けられる。調整支援装置9は、例えば、所定のプログラムを実行するパーソナルコンピュータやPLCによって実現することができる。調整支援装置9は、「イナーシャ比設定装置」の一例である。
【0017】
なお、図1では、軸干渉を生じ得る軸を第1軸21、第2軸22の二軸とし、軸干渉を生じない軸を第3軸23の一軸として構成を例示しているが、軸干渉を生じ得る軸が三軸以上である負荷機械が採用されてもよい。軸干渉を生じ得る軸が三軸以上である負荷機械が採用される場合、各軸に対してサーボモータ、サーボドライバ及びコントローラが設けられ、各サーボドライバに調整支援装置9が接続されればよい。
【0018】
多軸構成を有する負荷機械2を有するサーボシステム1においてサーボモータ3a、3bの制御に用いる制御パラメータを調整する際に、負荷機械2の各軸におけるイナーシャ比の推定が行われる。イナーシャ比の推定には、例えば、上記特許文献1に記載の技術を採用することで、可及的に正確なイナーシャ比の推定を実現できる。
【0019】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術を採用した場合でも、イナーシャ比を推定した位置から第3軸23や精密ステージ24が移動すると第1軸21及び第2軸22のイナーシャ比が変化する。図3は、第3軸23や精密ステージ24の移動によるイナーシャ比が変動した場合の第1軸21及び第2軸22への変動の影響を例示する図である。図3のL1の直線は、推定したイナーシャ比と実際のイナーシャ比とが等しい状態を例示する。また、図3のL2の直線は、推定したイナーシャ比よりも実際のイナーシャ比の方が大きい状態を例示する。図3のL3の直線は、推定したイナーシャ比よりも実際のイナーシャ比の方が小さい状態を例示する。また、図3中の「Kvp」は、速度比例ゲインである。
【0020】
図3を参照すると理解できるように、実際のイナーシャ比が変動することで速度制御帯域が変動する。速度制御帯域が変動することで振動や発振が生じることとなる。そこで、本実施形態では、イナーシャ比を推定した箇所から第3軸23や精密ステージ24が移動しても振動や発振を抑制して、イナーシャ比の再調整を可及的に抑制するために以下の構成を採用する。
【0021】
図4は、実施形態におけるサーボドライバ4a、4bと調整支援装置9の概略構成を示すブロック図である。図4では、軸干渉が生じ得る第1軸21及び第2軸22を制御するサーボドライバについて記載されている。また、図4では、コントローラ7についても記載されている。以下、図4を参照して、サーボドライバ4a、4bと調整支援装置9の概略構成について説明する。
【0022】
サーボドライバ4aは、コントローラ7から入力される指令に基づいてサーボモータ3aに駆動電流を出力する制御部41aを含む。制御部41aは、位置制御器、速度制御器、トルク制御器等を含むが、これらは公知の構成を適宜採用することができるので詳細な説明は省略する。サーボドライバ4aは、イナーシャ比を推定するための推定部42aを含む。推定部42aによるイナーシャ比の推定方法としては、例えば、特許文献1に記載の技術を採用することができる。サーボドライバ4aは、各種情報を記憶する記憶部43a及び外部と通信するための通信部44aを有する。サーボドライバ4bも同様に、制御部41b推定部42b記憶部43b及び通信部44bを含むが、各部の構成はサーボドライバ4aと同様であるので説明を省略する。
【0023】
コントローラ7は、サーボドライバ4a、4bと調整支援装置9との間での信号の送受信を中継する信号中継部71を含む。コントローラ7は、数値制御プログラム等を実行するCPUからなるプロセッサ、メモリ、通信部等を有するが、これらは公知の構成を適宜採用することができるので詳細な説明は省略する。
【0024】
調整支援装置9は、例えば、後述するイナーシャ比を調整するためのプログラムを実行するCPUや当該プログラムやデータを記憶する記憶装置を有するコンピュータにより構成される。調整支援装置9は、イナーシャ比取得部91及びイナーシャ比設定制御部92を有する。イナーシャ比取得部91は、推定部42a、42bによって推定されたイナーシャ比を、通信部44a、44b及び信号中継部71を介して、サーボドライバ4a、4bから取得する。
【0025】
イナーシャ比設定制御部92は、イナーシャ比取得部91によって取得されたイナーシャ比を基に決定した仮のイナーシャ比を、信号中継部71を介して、それぞれのサーボドライバ4a、4bに送信する。
【0026】
仮のイナーシャ比を受信したサーボドライバ4a、4bでは、受信した仮のイナーシャ比を制御部41a、41bが記憶部43a、43bに記憶させる。記憶部43a、43b、に記憶された仮のイナーシャ比は、制御部41a、41bにおけるイナーシャ比の設定に用いられる。サーボドライバ4a、4bでは、仮のイナーシャ比が設定された状態でゲインの調整が実施される。ゲインの調整では、例えば、速度比例ゲインや位置比例ゲインが調整される。
【0027】
サーボドライバ4a、4bにおけるゲイン調整が終了すると、調整支援装置9のイナーシャ比設定制御部92は、イナーシャ比取得部91によって取得されたイナーシャ比を、信号中継部71を介して、それぞれのサーボドライバ4a、4bに送信する。
【0028】
イナーシャ比を受信したサーボドライバ4a、4bでは、受信したイナーシャ比を制御部41a、41bが記憶部43a、43bに記憶させる。記憶部43a、43bに記憶されたイナーシャ比は、制御部41a、41bにおけるイナーシャ比の設定に用いられる。
【0029】
<処理フロー>
図5及び図6は、実施形態におけるイナーシャ比設定処理の処理フローの一例を示す図である。以下、図5及び図6を参照して、実施形態におけるイナーシャ比設定処理の処理
フローの一例について説明する。
【0030】
S1では、イナーシャ比推定を行う軸を特定する変数iに対して、i=1とおく。ここでは、イナーシャ比の推定を行うべき軸、すなわち、互いに軸干渉が生じ得る複数の軸には、当該軸を特定するために1から順に一意に番号が付されており、このように特定される軸を第i軸として説明する。
【0031】
S2では、負荷機械2によって、軸干渉を生じ得る複数の軸を含む位置決め動作を試行する。S3では、変数iによって示される軸(例えば、「i=1」のときであれば第1軸21)のイナーシャ比の推定が行われる。S4では、変数iによって示される軸の推定されたイナーシャ比は、通信部44a、44bを介して、調整支援装置9に送信され、イナーシャ比取得部91に設けられた所定の記憶領域に記録される。
【0032】
S5では、イナーシャ比設定制御部92が、関連軸、すなわち互いに軸干渉を生じ得る複数の軸の全て(図2の例では第1軸21、第2軸22及び第3軸23に対応する)についてイナーシャ比が記憶されているか否かを判定する。記憶されている場合(S5でYES)、処理はS7に進められる。少なくとも一部の軸についてのイナーシャ比が記憶されていない場合(S5でNO)、処理はS6に進められる。
【0033】
S6では、iがインクリメントされる。その後、インクリメント後のiが示す軸について、S2以降の処理が実行される。
【0034】
S7では、イナーシャ比設定制御部92は、各軸に対するイナーシャ比の推定値をイナーシャ比取得部91から読み出して、仮のイナーシャ比を決定する。仮のイナーシャ比は、例えば、イナーシャ比の推定値に対して所定の係数αを乗じて決定される。仮のイナーシャ比を決定する処理の詳細については後述する。
【0035】
S8では、イナーシャ比設定制御部92は、S7で決定された仮のイナーシャ比を各軸に対応するサーボドライバ4a、4bに送信する。
【0036】
S9では、仮のイナーシャ比が各軸に設定された状態で、i=1に初期化される。S10では、変数iによって示される軸(例えば、「i=2」のときであれば第2軸22)においてゲインの調整が行われる。
【0037】
S11では、イナーシャ比設定制御部92が、関連軸、すなわち互いに軸干渉を生じ得る複数の軸の全て(図2の例であれば、第1軸21、第2軸22)についてゲインの調整が完了しているか否かを判定する。完了している場合(S11でYES)、処理はS12に進められる。少なくとも一部の軸についてゲインの調整が完了していない場合(S11でNO)、処理はS13に進められる。
【0038】
S12では、イナーシャ比設定制御部92は、S5で記録した推定されたイナーシャ比を各軸に対応するサーボドライバ4a、4bに送信する。
【0039】
<係数αの算出>
図7は、仮のイナーシャ比算出に用いられる係数αの算出を模式的に示す図である。係数αを算出する際には、負荷機械2において精密ステージ24を複数の位置に移動させ、夫々の箇所でサーボドライバ4a、4bによるイナーシャ比の推定が行われる。図7の例では、丸囲み数字「1」、「2」、「3」、「4」の位置に精密ステージ24が移動されて、サーボドライバ4a、4bによるイナーシャ比の推定が行われた状態が例示される。
【0040】
係数αは、例えば、推定されたイナーシャ比を基に決定される。ここで、係数αの推定に好ましいイナーシャ比としては、例えば、精密ステージ24による荷重が第1軸21及び第2軸22のうちの一方の軸に偏っている複数の位置で推定されたイナーシャ比を挙げることができる。図7の例では、丸囲み数字「1」の位置がサーボモータ3a、3b及び3cのいずれからも離れた位置、丸囲み数字「2」の位置がサーボモータ3a、3bからは離れておりサーボモータ3cには最も近い位置、丸囲み数字「3」の位置がサーボモータ3b、3cからは離れておりサーボモータ3aには最も近い位置、丸囲み数字「4」の位置がサーボモータ3a、3cからは離れておりサーボモータ3bには最も近い位置、を例示する。丸囲み数字「1」、「2」、「3」、「4」のいずれの位置も第1軸21または第2軸22の一方に荷重が偏った位置である。
【0041】
サーボドライバ4a、4bの推定部42a、42bは、丸囲み数字「1」、「2」、「3」、「4」の夫々に精密ステージ24を移動させたときにおけるイナーシャ比を推定する。推定されたイナーシャ比は、通信部44a、44bを介して調整支援装置9に送信され、イナーシャ比取得部91に設けられた所定の記憶領域に記録される。図7を参照して説明した各軸におけるイナーシャ比の推定処理は、例えば、図5のS1からS5、S6において実行される。ここで、推定されてたイナーシャ比を用いて係数αを算出する方式としては、例えば、以下の2つの方式を挙げることができる。
【0042】
図8は、仮のイナーシャ比算出に用いられる係数αの算出の第1の方式を模式的に示す図である。図8の「位置」に記載された丸囲み数字「1」、「2」、「3」、「4」は、図7の丸囲み数字「1」、「2」、「3」、「4」に夫々対応する。図8では、第1軸21及び第2軸22の夫々について、丸囲み数字「1」、「2」、「3」、「4」の位置に精密ステージ24を移動させた状態で推定されたイナーシャ比と、第1軸21及び第2軸22の夫々について推定されたイナーシャ比の平均値が例示される。
【0043】
係数α算出の第1の方式では、イナーシャ比設定制御部92は、第1軸21、第2軸22の夫々について、丸囲み数字「1」、「2」、「3」、「4」の位置に精密ステージ24を移動させた状態で推定されたイナーシャ比の平均値を算出する。イナーシャ比設定制御部92は、第1軸21、第2軸22の夫々について、推定されたイナーシャ比の平均値と、推定されたイナーシャ比のうち最も平均値から離れた値との変化量を基に係数αを算出する。
【0044】
図9は、仮のイナーシャ比算出に用いられる係数αの算出の第2の方式を模式的に示す図である。第2の方式では、精密ステージ24が自軸上にあるときに推定されたイナーシャ比が係数αの決定に用いられる。図9の「位置」に記載された丸囲み数字「1」、「2」、「3」、「4」は、図7の丸囲み数字「1」、「2」、「3」、「4」に夫々対応する。図9の例では、丸囲み数字「1」、「3」の位置に精密ステージ24が移動されてサーボドライバ4aによるイナーシャ比の推定が行われ、丸囲み数字「2」、「4」の位置に精密ステージ24が移動されてサーボドライバ4bによるイナーシャ比の推定が行われた状態が例示される。丸囲み数字「1」、「3」の位置は精密ステージ24が第1軸21上に位置するときであり、丸囲み数字「2」、「4」の位置は精密ステージ24が第2軸22上に位置するときである。
【0045】
係数α算出の第1の方式では、イナーシャ比設定制御部92は、第1軸21については、第1軸21上に精密ステージ24が位置する状態(図7の丸囲み数字「1」、「3」の状態)の夫々において推定されたイナーシャ比の平均値を算出する。イナーシャ比設定制御部92は、第1軸21について算出された平均値と、第1軸21において推定されたイナーシャ比のうち最も平均値から離れた値との変化量を基に第1軸21に適用する係数αを算出する。
【0046】
また、イナーシャ比設定制御部92は、第2軸22については、第2軸22上に精密ステージ24が位置する状態(図7の丸囲み数字「2」、「4」の状態)の夫々において推定されたイナーシャ比の平均値を算出する。イナーシャ比設定制御部92は、第2軸22について算出された平均値と、第2軸22において推定されたイナーシャ比のうち最も平均値との差が大きい値との変化量を基に、第2軸22に適用する係数αを算出する。このように算出された係数αを用いて、例えば、図5のS7において仮のイナーシャ比が決定される。仮のイナーシャ比の算出には、例えば、以下の式(1)を用いることができる。
【数1】
【0047】
式(1)において、Tは仮のイナーシャ比、Y1は第1軸21において推定されたイナーシャ比の平均値、Y2は第2軸22において推定されたイナーシャ比の平均値である。
【0048】
図10は、仮のイナーシャ比を決定する処理の処理フローの一例を示す図である。図10の処理は、図5のS7で実行される処理である。以下、図10を参照して、仮のイナーシャ比を決定する処理の処理フローの一例について説明する。
【0049】
S21では、仮のイナーシャ比を決定する軸を特定する変数iに対して、i=1とおく。ここで、仮のイナーシャ比を決定する対象となる軸は、軸干渉を生じ得る複数の軸(例えば、第1軸21、第2軸22)である。
【0050】
S22では、イナーシャ比設定制御部92は、第i軸について、推定されたイナーシャ比の平均値を算出する。S23では、イナーシャ比設定制御部92は、S22で算出した平均値と、推定されたイナーシャ比とを用いて、係数αを算出する。S22においてイナーシャ比の平均値の算出する方式及びS23において係数αを算出する方式としては、例えば、図8及び図9を参照して説明した第1の方式及び第2の方式が挙げられる。
【0051】
S24では、イナーシャ比設定制御部92は、第3軸23で決定した係数αと推定されたイナーシャ比の平均値とを用いて仮のイナーシャ比を決定する。
【0052】
S25では、イナーシャ比設定制御部92は、、関連軸、すなわち互いに軸干渉を生じ得る複数の軸の全て(図2の例では第1軸21及び第2軸22に対応する)について、仮のイナーシャ比が決定済みか否かを判定する。決定済みの場合(S25でYES)、処理は終了される。少なくとも一部の軸についての仮のイナーシャ比が決定されていない場合(S25でNO)、処理はS26に進められる。
【0053】
S26では、iがインクリメントされる。その後、インクリメント後のiが示す軸について、S22以降の処理が実行される。
【0054】
本実施形態の効果を検証するため、比較例について説明する。比較例では、仮のイナーシャ比を設定した上でのゲイン調整は行わずに、推定したイナーシャ比がそのまま設定されてゲイン調整が行われる。図11は、比較例に係るサーボシステムにおけるボード線図の一例を示す図である。また、図12は、実施形態に係るサーボシステム1におけるボード線図の一例を示す図である。図11及び図12の縦軸はゲイン(dB)であり、横軸は周波数(Hz)である。
【0055】
図11図12とを比較すると理解できるように、図11の比較例では仮のイナーシャ
比を設定した上でのゲイン調整が省略された結果、全体としては周波数が高くなるにつれてゲインが下がっているにもかかわらず、周波数10Hz付近において0dBを超えるゲインが確認され、負荷機械2で振動が生じていることが理解できる。一方、図12に例示される実施形態では、全体としては周波数が高くなるにつれてゲインが下がるとともに、一度0dBを下回ると0dB以上のゲインが生じず、負荷機械2に生じる振動が抑制されていることが理解できる。
【0056】
すなわち、本実施形態に係るサーボシステム1は、軸干渉を生じ得る複数の軸に対応するサーボドライバ(例えば、サーボドライバ4a、4b)に対して、推定したイナーシャ比よりも係数αだけ高めに設定した仮のイナーシャ比を設定してからゲイン調整を行う。そして、ゲイン調整後に、サーボモータ3a、3bの夫々について推定されたイナーシャ比の平均値をサーボドライバ4a、4bに設定することで、負荷機械2におい精密ステージ24を移動させても、振動の発生を抑制することができる。そのため、本実施形態によれば、イナーシャ比の調整頻度を可及的に低減することができる。
【0057】
精密ステージ24の位置によってイナーシャ比は変動する。本実施形態では、図7に例示したように、精密ステージ24を複数の箇所に移動させ、夫々の箇所に精密ステージ24を移動させた状態でイナーシャ比の推定が行われる。そして、推定した複数のイナーシャ比を基に、係数αが決定されて仮のイナーシャ比が決定される。このように複数の箇所に精密ステージ24を移動させた状態で推定されたイナーシャ比を用いることで、精密ステージ24の移動によるイナーシャ比の変動による係数αへの影響を抑制し、ひいては、軸上の様々な位置に精密ステージ24を移動させたときにおける振動の発生が抑制される。
【0058】
ここで、本実施形態では、軸干渉を生じ得る複数の軸(第1軸21及び第2軸22)の夫々について、これらの軸を駆動するサーボモータ(サーボドライバ4a、4b)から精密ステージ24が駆動される駆動範囲内において最も離れた位置(例えば、図7の丸囲み数字「1」、「2」の位置)と最も近い位置(例えば、図7の丸囲み数字「3」、「4」)に精密ステージ24を配置した状態で、イナーシャ比の推定が行われる。そして、推定されたイナーシャ比を基に、係数αが決定される。各軸において、駆動するモータから最も離れた位置と最も近い位置は、イナーシャ比の変動が最も大きい位置と考えられる。このような位置に精密ステージ24を配置した状態で推定したイナーシャ比を基に係数αを算出し、算出したαを用いて決定した仮のイナーシャ比を設定してゲイン調整が行われることで、軸上の様々な位置に精密ステージ24を移動させたときにおける振動の発生が抑制される。
【0059】
なお、イナーシャ比設定制御部92は、図6のS12における処理では、S5で記録された全てのイナーシャ比の平均値をサーボドライバ4a、4bに設定してもよい。すなわち、イナーシャ比設定制御部92は、夫々のサーボドライバ4a、4bで推定されたイナーシャ比に代えて、一律のイナーシャ比をサーボドライバ4a、4bに設定してもよい。一律のイナーシャ比が設定できることで、処理を簡略化することができる。
【0060】
<付記1>
複数のサーボモータ(3a、3b)の協働によって負荷を駆動するサーボシステムのイナーシャ比を設定する方法であって、
複数の前記サーボモータ(3a、3b)の夫々について、前記負荷(24)を第1の位置に移動させた状態におけるイナーシャ比の第1の推定値と、前記負荷を第2の位置に移動させた状態におけるイナーシャ比の第2の推定値とを取得する取得処理(S4)と、
複数の前記サーボモータの夫々について、取得した前記第1の推定値と前記第2の推定値との変動幅、前記第1の推定値及び前記第2の推定値を基に仮のイナーシャ比を決定す
る決定処理(S7)と、
決定した前記仮のイナーシャ比を複数の前記サーボモータ(3a、3b)に設定させる第1の設定処理(S8)と、
前記仮のイナーシャ比を設定させた後に複数の前記サーボモータ(3a、3b)においてゲインの調整を実行させる調整処理(S10)と、
前記調整処理の後に、取得した全てのサーボモータの夫々についての前記第1の推定値と前記第2の推定値の平均として算出されるイナーシャ比を、複数の前記サーボモータの夫々に設定させる第2の設定処理(S12)と、を含む、
サーボモータのイナーシャ比設定方法。
【0061】
<付記2>
複数のサーボモータ(3a、3b)の協働によって負荷を駆動するサーボシステム(1)のイナーシャ比を設定するイナーシャ比設定装置(9)であって、
複数の前記サーボモータ(3a、3b)の夫々について、前記負荷(24)を第1の位置に移動させた状態におけるイナーシャ比の第1の推定値と、前記負荷を第2の位置に移動させた状態におけるイナーシャ比の第2の推定値とを取得する取得部(91)と、
前記サーボモータを制御する際のイナーシャ比を設定させる設定制御部(92)と、を備え、
前記設定制御部(92)は、
複数の前記サーボモータ(3a、3b)の夫々について、取得した前記第1の推定値と前記第2の推定値との変動幅、前記第1の推定値及び前記第2の推定値を基に仮のイナーシャ比を決定する決定処理と、
決定した前記仮のイナーシャ比を複数の前記サーボモータ(3a、3b)に設定させる第1の設定処理と、
前記仮のイナーシャ比を設定させた後に複数の前記サーボモータ(3a、3b)においてゲインの調整を実行させる調整処理と、
前記調整処理の後に、取得した全てのサーボモータの夫々についての前記第1の推定値と前記第2の推定値の平均として算出されるイナーシャ比を、複数の前記サーボモータの夫々に設定させる第2の設定処理と、を実行する、
イナーシャ比設定装置(9)。
【符号の説明】
【0062】
1・・サーボシステム
2・・負荷機械
3a・・サーボモータ
3b・・サーボモータ
3c・・サーボモータ
4a・・サーボドライバ
4b・・サーボドライバ
4c・・サーボモータ
7・・コントローラ
9・・調整支援装置
21・・第1軸
22・・第2軸
23・・第3軸
24・・精密ステージ
41a・・制御部
41b・・制御部
42a・・推定部
42b・・推定部
43a・・記憶部
43b・・記憶部
44a・・通信部
61・・制御部
71・・信号中継部
91・・イナーシャ比取得部
92・・イナーシャ比設定制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12