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特開2023-152098ソレノイドバルブの劣化診断装置及び診断方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152098
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】ソレノイドバルブの劣化診断装置及び診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20231005BHJP
   F16K 51/00 20060101ALI20231005BHJP
   F16K 31/06 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
F16K51/00 F
F16K31/06 320A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062039
(22)【出願日】2022-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091524
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 充夫
(72)【発明者】
【氏名】鶴口 祐規
(72)【発明者】
【氏名】上内 将之
【テーマコード(参考)】
2G024
3H066
3H106
【Fターム(参考)】
2G024AA15
2G024AD21
2G024BA11
2G024CA18
3H066BA38
3H106EE28
3H106EE45
3H106FB02
(57)【要約】
【課題】異物などが詰まってソレノイドバルブが正常に動作できなくなる異常状態を検出する。
【解決手段】ソレノイドバルブの劣化診断装置は、駆動電圧をソレノイドコイルに印加して駆動するときに、ソレノイドバルブの劣化を診断する制御部を備える。制御部は、駆動電圧を印加したときに流れるコイル電流を測定し、コイル電流の波形において、駆動電圧の印加開始後に、ソレノイドコイルのインダクタンスが最大となるコイル電流の極大値の第1の時刻と、その後、インダクタンスが低下したときのコイル電流の極小値の第2の時刻とを測定し、測定された第1の時刻から第2の時刻までの経過時間を計算し、計算された経過時間がしきい値よりも大きいか否かを判断し、計算された経過時間がしきい値よりも大きいときに、ソレノイドバルブが劣化したと判断する一方、計算された経過時間がしきい値以下であるときに、ソレノイドバルブが正常に動作していると判断する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の駆動電圧をソレノイドコイルに印加して駆動するときに、ソレノイドバルブの劣化を診断する制御部を備えるソレノイドバルブの劣化診断装置であって、
前記制御部は、
(1)前記駆動電圧を前記ソレノイドコイルに印加したときの前記ソレノイドコイルに流れるコイル電流を測定し、前記コイル電流の波形において、前記駆動電圧の印加開始後に、前記ソレノイドコイルのインダクタンスが最大となる前記コイル電流の極大値の第1の時刻(t1)と、その後、前記ソレノイドコイルのインダクタンスが低下したときの前記コイル電流の極小値の第2の時刻(t2)とを測定し、
(2)前記測定された第1の時刻(t1)から第2の時刻(t2)までの経過時間(T21)を計算し、
(3)前記計算された経過時間(T21)が所定のしきい値よりも大きいか否かを判断し、前記計算された経過時間(T21)が前記しきい値よりも大きいときに、前記ソレノイドバルブが劣化したと判断する一方、前記計算された経過時間(T21)が前記しきい値以下であるときに、前記ソレノイドバルブが正常に動作していると判断する、
ソレノイドバルブの劣化診断装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記ソレノイドバルブが正常に動作している安定稼働時の経過時間(T21)を複数回測定したときの平均値(T21ave)、標準偏差(σ)又は分散(σ)を、1を超える所定数(n)倍した値を、前記所定のしきい値として計算する、
請求項1に記載のソレノイドバルブの劣化診断装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記ソレノイドバルブが正常に動作している安定稼働時の経過時間(T21)を複数回測定したときに、複数回の測定値である経過時間(T21)のうちの最大値と最小値を除外した測定値の平均値(T21ave)、標準偏差(σ)又は分散(σ)を、1を超える所定数(n)倍した値を、前記所定のしきい値として計算する、
請求項1に記載のソレノイドバルブの劣化診断装置。
【請求項4】
前記制御部は、請求項2又は3における所定のしきい値の計算は、複数回測定したときの測定値がその平均値(T21ave)から所定の範囲内にあるときのみ有効として、前記しきい値の計算を行う、
請求項2又は3に記載のソレノイドバルブの劣化診断装置。
【請求項5】
所定の駆動電圧をソレノイドコイルに印加して駆動するときに、ソレノイドバルブの劣化を診断する制御部を備えるソレノイドバルブの劣化診断装置のための劣化診断方法であって、
(1)前記制御部が、前記駆動電圧を前記ソレノイドコイルに印加したときの前記ソレノイドコイルに流れるコイル電流を測定し、前記コイル電流の波形において、前記駆動電圧の印加開始後に、前記ソレノイドコイルのインダクタンスが最大となる前記コイル電流の極大値の第1の時刻(t1)と、その後、前記ソレノイドコイルのインダクタンスが低下したときの前記コイル電流の極小値の第2の時刻(t2)とを測定するステップと、
(2)前記制御部が、前記測定された第1の時刻(t1)から第2の時刻(t2)までの経過時間(T21)を計算するステップと、
(3)前記制御部が、前記計算された経過時間(T21)が所定のしきい値よりも大きいか否かを判断し、前記計算された経過時間(T21)が前記しきい値よりも大きいときに、前記ソレノイドバルブが劣化したと判断する一方、前記計算された経過時間(T21)が前記しきい値以下であるときに、前記ソレノイドバルブが正常に動作していると判断するステップとを含む、
ソレノイドバルブの劣化診断方法。
【請求項6】
前記制御部が、前記ソレノイドバルブが正常に動作している安定稼働時の経過時間(T21)を複数回測定したときの平均値(T21ave)、標準偏差(σ)又は分散(σ)を、1を超える所定数(n)倍した値を、前記所定のしきい値として計算するステップをさらに含む、
請求項5に記載のソレノイドバルブの劣化診断方法。
【請求項7】
前記制御部が、前記ソレノイドバルブが正常に動作している安定稼働時の経過時間(T21)を複数回測定したときに、複数回の測定値である経過時間(T21)のうちの最大値と最小値を除外した測定値の平均値(T21ave)、標準偏差(σ)又は分散(σ)を、1を超える所定数(n)倍した値を、前記所定のしきい値として計算するステップをさらに含む、
請求項5に記載のソレノイドバルブの劣化診断方法。
【請求項8】
前記制御部が、請求項6又は7における所定のしきい値を計算するステップにおいて、複数回測定したときの測定値がその平均値(T21ave)から所定の範囲内にあるときのみ有効として、前記しきい値の計算を行う、
請求項6又は7に記載のソレノイドバルブの劣化診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばDCソレノイドバルブなどのソレノイドバルブの劣化診断装置及び診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
簡単な手法で確実にプランジャの固着等の故障を検出するために、ソレノイドバルブの故障診断装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この故障診断装置では、ソレノイドバルブのプランジャが正常に作動している場合は、コイルへの電流供給を開始すると、電流の増加過程で一度減少してから再度増加する傾向を示す。また、プランジャの固着等によりソレノイドバルブ正常に作動しないときは、コイル電流は単調に増加するのみである。したがって、電流波形に減少部分があるとき正常と判定し、無いとき故障と判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-291877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来例にかかる故障診断装置では、プランジャの固着等によりソレノイドバルブ正常に作動しないときに簡単にソレノイドバルブの故障を診断することができる。
【0006】
昨今、ソレノイドバルブの弁において異物などが詰まってソレノイドバルブが正常に動作できなくなることが多発している。しかし、前記従来例にかかる故障診断装置では、これらの劣化などの異常状態を検出することができないという問題点があった。
【0007】
本発明の目的は以上の問題点を解決し、ソレノイドバルブにおいて、異物などが詰まってソレノイドバルブが正常に動作できなくなるなどの異常状態を検出することができる、ソレノイドバルブの劣化診断装置及び診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るソレノイドバルブの劣化診断装置は、
所定の駆動電圧をソレノイドコイルに印加して駆動するときに、ソレノイドバルブの劣化を診断する制御部を備えるソレノイドバルブの劣化診断装置であって、
前記制御部は、
(1)前記駆動電圧を前記ソレノイドコイルに印加したときの前記ソレノイドコイルに流れるコイル電流を測定し、前記コイル電流の波形において、前記駆動電圧の印加開始後に、前記ソレノイドコイルのインダクタンスが最大となる前記コイル電流の極大値の第1の時刻(t1)と、その後、前記ソレノイドコイルのインダクタンスが低下したときの前記コイル電流の極小値の第2の時刻(t2)とを測定し、
(2)前記測定された第1の時刻(t1)から第2の時刻(t2)までの経過時間(T21)を計算し、
(3)前記計算された経過時間(T21)が所定のしきい値よりも大きいか否かを判断し、前記計算された経過時間(T21)が前記しきい値よりも大きいときに、前記ソレノイドバルブが劣化したと判断する一方、前記計算された経過時間(T21)が前記しきい値以下であるときに、前記ソレノイドバルブが正常に動作していると判断する。
【発明の効果】
【0009】
従って、前記ソレノイドバルブにおいて、異物などが詰まってソレノイドバルブが正常に動作できなくなるなどの異常状態を確実に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係るソレノイドバルブの劣化診断装置の構成例を示すブロック図である。
図2図1の劣化診断装置の診断原理を示す電流特性を示す波形図である。
図3図1の制御部10により実行される異常診断しきい値時間T21thの計算設定処理を示すフローチャートである。
図4図1の制御部10により実行される異常診断処理を示すフローチャートである。
図5】ソレノイドバルブの劣化診断装置の正常時と異常時の電流の波形図である。
図6図5の電流の波形図に基づく正常時と異常時の交流電流成分の波形図である。
図7】ソレノイドバルブの動作原理を説明するためのDCソレノイドバルブの構造例を示す縦断面図である。
図8】ソレノイドバルブの動作原理を説明するためのDCソレノイドバルブに対する駆動電圧Vdと、ソレノイドコイルに流れる電流Icとを示す波形図である。
図9A】実施例1に係る正常電流波形の波形図である。
図9B】実施例2に係る正常電流波形の波形図である。
図9C】実施例3に係る正常電流波形の波形図である。
図10A】実施例4に係る異常電流波形の波形図である。
図10B】実施例5に係る異常電流波形の波形図である。
図10C】実施例6に係る異常電流波形の波形図である。
図11】実施例1~6の波形図の各測定パラメータを示すテーブルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態及び変形例について図面を参照して説明する。なお、同一又は同様の構成要素については同一の符号を付している。
【0012】
(発明者の知見等)
まず、DCソレノイドバルブ(以下、「ソレノイドバルブ」という。)の劣化診断装置の診断原理について、図面を参照して以下に説明する。
【0013】
図5はソレノイドバルブの劣化診断装置の正常時と異常時の電流の波形図である。また、図6図5の電流の波形図に基づく正常時と異常時の交流電流成分の波形図である。
【0014】
発明者らは、ソレノイドバルブの劣化診断の事前検討に当たり、バルブ内部に異物などの「詰まり」を再現した検討を実行したところ、駆動電流波形を監視することで、異常検出ができることを確認できた。具体的には、図5に示すように、電流波形で異物堆積や固着による弁の変化を捕捉し、電流の交流成分にかかる特徴量を抽出分析したところ、図6に示すように、当該電流の交流成分に顕著な差が表れていることを確認した。
【0015】
次いで、ソレノイドバルブの動作原理について以下に説明する。
【0016】
図7はソレノイドバルブの動作原理を説明するためのソレノイドバルブの構造例を示す縦断面図である。また、図8はソレノイドバルブの動作原理を説明するためのソレノイドバルブに対する駆動電圧Vdと、ソレノイドコイルに流れるコイル電流Icとを示す波形図である。
【0017】
図7において、ソレノイドバルブ1の円筒フレームケース20の円筒底面が装着面21に装着され、円筒フレームケース20の内部にソレノイドコイル2は、その円筒内孔部2Aの長手方向が円筒長手方向と平行となるように実装される。ここで、円筒内孔部2Aには、その底部に復帰スプリング23が載置され、復帰スプリング23に当接するようにプランジャ22の一部が内挿される。ここで、プランジャ22の図7の右側にはバルブ開閉機構が連結される。図7において、22dはプランジャ22の移動方向を示し、20mはソレノイドコイル2が発生する磁界による磁力線を示す。また、Lsはプランジャ22のストローク長を示す。
【0018】
図7のソレノイドコイル2に電流が流れると、プランジャ22は図示の左方向22dで引き付けられて移動する。このとき、復帰スプリング23の中心部分にも磁界が通過する。そして、時刻t1でプランジャ22の移動が開始し、プランジャ22が左方向22dに移動すると、空間部分が鉄心に置き換わるので、ソレノイドコイル2のインダクタンスLが大きくなる。
【0019】
図8のソレノイドコイル2に流れるコイル電流Icの傾きは、駆動電圧Vdを前記インダクタンスLで除算した値Vd/Lで決まり、ここで、インダクタンスLは次式で表される。
【0020】
(プランジャ22の移動後のインダクタンスL)>(プランジャ22の移動前のインダクタンスL)
【0021】
なお、プランジャ22の移動中はソレノイドバルブ1のダイナミックな特性で決まることになる。簡単に説明すれば、インダクタンスLが大きくなり、コイル電流Icの傾きが小さくなるので、一旦、コイル電流Icが小さくなると考えられる。ここで、最終的なコイル電流Icは、駆動電圧Vdをソレノイドコイル2の抵抗値Rで除算した値で決定されると考えられる。すなわち、図8に示すように、コイル電流Icは駆動電圧Vdの印加時(時刻t0)に、上昇した後、インダクタンスLの増大で時刻t1から一旦下降するが、その後、時刻t2から上昇して最終的なコイル電流Ic=Vd/Rとなる。従って、コイル電流Icは、時刻t1の極大値と、時刻t2の極小値とを有する。
【0022】
以下、コイル電流Icの極大値の時刻をt1とし、その極小値の時刻をt2とし、時刻t1から時刻t2までの時間期間の時間をT21とする。
【0023】
次いで、本発明者らは、正常電流波形と、バルブ内に異物などが詰まった異常電流波形との相違点について、以下の実験を行った。
【0024】
図9A図9B及び図9Cはそれぞれ、バルブ内の圧力Pinを図11に示すように変化させたときの、0Vから所定の電圧に立ち上がるステップ形状の駆動電圧Vdに対する、実施例1、2及び3に係る正常電流Inの波形図である。また、図10A図10B及び図10Cはそれぞれ、バルブ内の圧力Pinを図11に示すように変化させたときの、0Vから所定の電圧に立ち上がるステップ形状の駆動電圧Vdに対する、実施例4、5及び6に係る異常電流Iaの波形図である。図11は実施例1~6の波形図の各測定パラメータを示すテーブルである。
【0025】
図9A図9Cから明らかなように、バルブ内の圧力Pinを変化させても正常電流Inの波形における時間T21はほとんど変化しないことがわかる。これに対して、図10A図10Cから明らかなように、バルブ内の圧力Pinを変化させても正常電流Iaの波形における時間T21はほとんど変化しないが、正常電流Inの波形における時間T21に比較して長くなることがわかる。本発明者らはこの知見に基づいて、以下の実施形態に係るソレノイドバルブの劣化診断装置を考案した。
【0026】
(実施形態)
図1は実施形態に係るソレノイドバルブの劣化診断装置の構成例を示すブロック図である。図1において、ソレノイドバルブの劣化診断装置は、制御部10と、駆動部11と、電圧センサ12と、電流センサ13とを備えて構成される。
【0027】
制御部10には、後述する図3及び図4の処理を実行するための所定のデータ(指示データ及び測定データなど)を格納するメモリ10mを内蔵する。また、制御部10には、ユーザが図3及び図4の処理を実行するための指示データを入力するための、キーボード及びマウスなどを含む操作部15と、図3及び図4の処理の結果等を表示する、ディスプレイなどの表示部16とが接続される。駆動部11は、制御部10からの制御信号に基づいて所定の駆動電圧Vdを発生してソレノイドコイル2に印加する。電圧センサ12はソレノイドコイル2と並列に接続されて駆動電圧Vdを測定して測定された駆動電圧Vdを示す測定信号を制御部10を出力する。また、電流センサ13はソレノイドコイル2に直列に接続されてソレノイドコイル2に流れるコイル電流Icを測定して測定されたコイル電流Icを示す測定信号を制御部10を出力する。
【0028】
制御部10は、ユーザの指示データに基づいて、図3及び図4の処理を実行することで、ソレノイドバルブ1のソレノイドコイル2を駆動制御し、かつ前記測定された駆動電圧Vd及びコイル電流Icに基づいてソレノイドバルブ1の劣化診断(上述のようにバルブ内に異物等が詰まるなどして性能が劣化する診断等をいう)を行う。
【0029】
図2は、図1の劣化診断装置の診断原理を示す電流特性を示す波形図である。図2において、Inは正常安定稼働時のコイル電流Icであり、Iaは異常時のコイル電流Icである。
【0030】
本実施形態では、ソレノイドバルブ1のソレノイドコイル2に流れるコイル電流Icの波形を監視することで、異物堆積等によるバルブの劣化を診断し、予兆保全することを特徴としている。詳細詳述した実験結果からバルブに異物が堆積すると、時間T21が正常稼働時に比較して長くなるので、それを検知することで劣化を診断する。なお、バルブにかかる圧力が変化した場合でも、時刻t1,t2は変化するが、時間T21の変化が顕著に表れるのは異物堆積の場合のみである。従って、バルブ内の圧力変化の影響を受けることなく、異物堆積によるバルブの劣化診断ができる。言い換えれば、時間T21のみを測定すれば、バルブの圧力を測定しなくても、異物堆積による劣化を判断できることが大きな作用効果である。
【0031】
ここで、異物堆積による劣化を判断するときの時間T21のしきい値は以下のように決定できる。
【0032】
(方法A)ユーザは劣化時の時間T21が分からないので、安定稼働時の時間T21を測定し、平均値Taveを算出する。そして、ユーザは、時間T21の平均値Taveの倍率nを入力することで、n倍の平均値n・Taveを劣化診断用しきい値時間T21thを決定する。なお、ここで、nは例えば1を超える数値であって、1.5、2、2.5等である。
(方法B)方法Aの平均値n・Taveに代えて、標準偏差σを用いる。ユーザは、時間T21の標準偏差σの倍率nを入力することで、n倍の標準偏差(n・σ)を劣化診断用しきい値時間T21thを決定する。ここで、nは例えば1以上の自然数であって、1、2、3、4等である。
(方法C)方法Aの平均値n・Taveに代えて、分散σを用いる。ユーザは、時間T21の分散σの倍率nを入力することで、n倍の分散(n・σ)を劣化診断用しきい値時間T21thを決定する。ここで、nは例えば1以上の自然数であって、1、2、3、4等である。
【0033】
図3及び図4の処理では、方法Aによる劣化診断用しきい値時間T21thを用いるが、本発明はこれに限らず、方法B又は方法Cによる劣化診断用しきい値時間T21thなどの他のしきい値時間T21thを用いてもよい。
【0034】
図3は、図1の制御部10により実行される前置処理(図4の異常診断処理の前に実行される処理)である、異常診断しきい値時間T21thの計算設定処理を示すフローチャートである。
【0035】
図3のステップS1において、まず、ユーザが、操作部15を用いて、しきい値時間T21thを計算するときの平均値T21aveの倍率nを入力した後、ステップS2において、ソレノイドバルブ1を所定の装着装置にセットする。次いで、ステップS3において、ユーザが操作部15の開始ボタンを押下することで、制御部10が、駆動部11からの駆動電圧Vdにソレノイドバルブ1に印加することでソレノイドバルブ1を駆動して、時刻t1と時刻t2を測定し、時間期間T21を計算してメモリ10mに記憶する。ステップS4において、ソレノイドバルブ1を所定の回数である複数N回(Nは例えば20などの数十の数値である)駆動したか否かが判断され、YESのときはステップS5に進む一方、NOのときはステップS3に戻る。
【0036】
ステップS5では、メモリ10mに記憶されたN回の時間期間T21データのうち、最大値と最小値を除外したデータを有効データとし、ステップS6において、前記有効データについて、時間期間T21の平均値T21ave及び分散T21を計算する。次いで、ステップS7において、有効データの各データ値が、平均値の±5%以内であるか否かが判断され、YESのときはステップS8に進む一方、NOのときはステップS9に進む。なお、ステップS3~S5の処理は、ソレノイドバルブ1が正常に動作している安定稼働条件での有効データの収集を行うための処理である。
【0037】
ステップS8では、ソレノイドバルブ1は安定稼働しているので、「異常診断許可」と判断し、異常診断しきい値時間を、次式を用いて計算してメモリ10mに格納して当該処理を終了する。
【0038】
T21th=n×平均値T21ave
【0039】
ステップS9においては、ソレノイドバルブ1は安定稼働していないので、「異常診断不許可」と判断し、安定稼働していない阻害要因を取り除いた後、再度、この異常診断しきい値時間T21thの計算設定処理を実行する。
【0040】
図3のステップS5では、メモリ10mに記憶されたN回の時間期間T21データのうち、最大値と最小値を除外したデータを有効データとしているが、本発明はこれに限らず、最大値と最小値を除外しないデータを有効データとしてよい。
【0041】
図3のステップS7において、有効データの各データ値(測定値)が、平均値の±5%以内であるときに、異常診断を許可しているが、本発明はこれに限らず、この処理を実行することなく、異常診断を許可してもよい。また、平均値の±5%以内は一例であり、例えば平均値の±10%以内などであってもよく、平均値からの所定の範囲内であってもよい。
【0042】
図4は、図1の制御部10により実行される異常診断処理を示すフローチャートである。
【0043】
図4のステップS11において、制御部10が、駆動部11からの駆動電圧Vdをソレノイドバルブ1に印加することで、ソレノイドバルブ1を駆動して、時刻t1と時刻t2を測定し、時間期間T21を計算する。次いで、ステップS12において、T21>T21thであるか否かが判断され、YESのときはステップS13に進む一方、NOのときはステップS14に進む。
【0044】
ステップS13では、ソレノイドバルブ1において異常状態が発生したと判断して表示部16に表示し、当該処理を終了する。これに対して、ステップS14では、ソレノイドバルブ1において異常状態が発生していないと判断して、通常の駆動処理を実行し、当該処理を終了する。
【0045】
以上説明したように、本実施形態に係るソレノイドバルブの劣化診断装置によれば、前記ソレノイドバルブにおいて、異物などが詰まってソレノイドバルブが正常に動作できなくなるなどの異常状態を確実に検出することができる。
【0046】
また、上述のように、本発明者の実験によれば、バルブにかかる圧力が変化した場合でも、時刻t1,t2は変化するが、時間T21の変化が顕著に表れるのは異物堆積の場合のみである。従って、本実施形態に係るソレノイドバルブの劣化診断装置は、バルブ内の圧力変化の影響を受けることなく、異物堆積によるバルブの劣化診断ができる。言い換えれば、時間T21のみを測定すれば、バルブの圧力を測定しなくても、異物堆積による劣化を判断できるという作用効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上詳述したように、本発明に係るソレノイドバルブの劣化診断装置によれば、前記ソレノイドバルブにおいて、異物などが詰まってソレノイドバルブが正常に動作できなくなるなどの異常状態を確実に検出することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 DCソレノイドバルブ(ソレノイドバルブ)
2 ソレノイドコイル
10 制御部
10m メモリ
11 駆動部
12 電圧センサ
13 電流センサ
15 操作部
16 表示部
20 円筒フレームケース
21 装着面
22 プランジャ
23 復帰スプリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C
図11