IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人名古屋大学の特許一覧 ▶ 村田機械株式会社の特許一覧 ▶ オークマ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-加工装置および加工方法 図1
  • 特開-加工装置および加工方法 図2
  • 特開-加工装置および加工方法 図3
  • 特開-加工装置および加工方法 図4
  • 特開-加工装置および加工方法 図5
  • 特開-加工装置および加工方法 図6
  • 特開-加工装置および加工方法 図7
  • 特開-加工装置および加工方法 図8
  • 特開-加工装置および加工方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152113
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】加工装置および加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 15/12 20060101AFI20231005BHJP
   G05B 19/4093 20060101ALI20231005BHJP
   G05B 19/416 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B23Q15/12 A
G05B19/4093 M
G05B19/416 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062061
(22)【出願日】2022-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】社本 英二
(72)【発明者】
【氏名】南 秀鉉
(72)【発明者】
【氏名】早坂 健宏
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 光典
【テーマコード(参考)】
3C001
3C269
【Fターム(参考)】
3C001KA04
3C001KA07
3C001KB01
3C001TA03
3C001TA04
3C001TA06
3C001TB02
3C001TB08
3C269AB02
3C269BB03
3C269BB11
3C269CC02
3C269EF02
3C269EF20
3C269RB01
(57)【要約】
【課題】再生びびり振動を抑制しつつ、切りくずの絡みつきを防止する切削加工技術を提供する。
【解決手段】主軸制御部21は、切削工具10または被削材6が取り付けられた主軸2aの回転を制御する。移動制御部22は、被削材6に対する切削工具10の相対的な移動を制御する。切削工具10が被削材6を切削する切削期間において、主軸制御部21は、同じ回転位置における現在の回転速度と1回転前の回転速度との比である速度変動比が、1より大きい第1閾値と1より小さい第2閾値の間の範囲から外れた値となるように、主軸2aの回転を加速または減速させる第1制御を実行する。切削工具10が被削材6を切削しない非切削期間において、主軸制御部21は、主軸2aの回転を減速または加速させる第2制御を実行する。主軸制御部21は、第1制御と第2制御とを交互に実行する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具または被削材が取り付けられた主軸の回転を制御する主軸制御部と、
被削材に対する切削工具の相対的な移動を制御する移動制御部と、を備え、
前記主軸制御部は、
切削工具が被削材を切削する切削期間において、同じ回転位置における現在の回転速度と1回転前の回転速度との比である速度変動比が、1より大きい第1閾値と1より小さい第2閾値の間の範囲から外れた値となるように、主軸の回転を加速または減速させる第1制御を実行し、
切削工具が被削材を切削しない非切削期間において、主軸の回転を減速または加速させる第2制御を実行し、
前記主軸制御部は、第1制御と第2制御とを交互に実行する、ことを特徴とする加工装置。
【請求項2】
切削期間中、前記移動制御部は、切削工具の刃先を被削材に食い込ませ、
非切削期間中、前記移動制御部は、切削断面積をゼロにする、
ことを特徴とする請求項1に記載の加工装置。
【請求項3】
切削期間中、前記移動制御部は、主軸1回転あたりの送り量が一定となるように、被削材に対する切削工具の相対的な移動を制御する、
ことを特徴とする請求項2に記載の加工装置。
【請求項4】
第1閾値は、びびり振動を生じさせる速度変動比の上限値であり、第2閾値は、びびり振動を生じさせる速度変動比の下限値である、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の加工装置。
【請求項5】
前記主軸制御部は、主軸回転速度を第1速度から第2速度まで変化させる第1制御を実行し、主軸回転速度を第2速度から第1速度まで変化させる第2制御を実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載の加工装置。
【請求項6】
前記主軸制御部は、
第1制御において主軸の回転を加速させる場合には、第2制御において主軸の回転を減速させ、
第1制御において主軸の回転を減速させる場合には、第2制御において主軸の回転を加速させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の加工装置。
【請求項7】
非切削期間は、切削期間より短い、
ことを特徴とする請求項1に記載の加工装置。
【請求項8】
被削材を切削する加工方法であって、
切削工具が被削材を切削する切削期間において、同じ回転位置における現在の回転速度と1回転前の回転速度との比である速度変動比が、1より大きい第1閾値と1より小さい第2閾値の間の範囲から外れた値となるように、主軸の回転を加速または減速させる第1工程と、
切削工具が被削材を切削しない非切削期間において、主軸の回転を減速または加速させる第2工程とを、交互に実行する加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加工装置および加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「再生びびり振動」は、1回転前(多刃工具では一刃前)に切削した際に生じていた振動が加工面の起伏として残り、その振動が現在の切削時に切取り厚さの変動として再生する自励振動である。「再生びびり振動」は加工面の仕上げ精度を悪化させ、切削工具が欠損する要因になり得る。
【0003】
旋削加工における再生びびり振動を抑制するために、ある回転位置(回転角度)における1回転前の回転速度と現在の回転速度とが変化するように主軸回転速度を制御する回転速度変動法が知られている。特許文献1は、同じ回転位置における現在の回転速度と1回転前の回転速度との比である速度変動比が1より大きい第1値以上となるように主軸の回転を加速させる加速制御と、速度変動比が1より小さい第2値以下となるように主軸の回転を減速させる減速制御とを交互に実行して、びびり振動の発生を抑制する加工装置を開示する。
【0004】
切削加工では、連続して排出される切りくずが、被削材や工具に絡みつくことが問題となることも多い。切りくずの絡みつきを防止するために、一般には、切りくずを強くカールさせて分断するチップブレーカが用いられる。切りくずは大きな塑性変形を受けて脆くなっているため、チップブレーカによってカールさせられた切りくずが被削材や工具に衝突すると、その衝突後の無理な変形によって分断されやすくなる。しかしながら、被削材の延性が高い場合や、切りくず厚さが小さい場合(一般に仕上げ加工では切りくず厚さが小さい)には、切りくずは分断されにくい。
【0005】
切りくずの絡みつき問題を解消することを目的として、非特許文献1は、工具を送り方向に一定の送り量で送りながら、送り方向に振動させて、被削材を断続的に切削する振動送り切削を開示する。振動送り切削では、送り方向の振動の振幅と周期を適切に設定することで、確実に切りくずを切断でき、切りくずの絡みつき問題を解消できる。
【0006】
図1(a)は、振動送り切削の様子を示す図である。振動送り切削では、工具を送り方向に一定の送り量で送りながら送り方向に振動させて、工具が被削材から送り方向に後退して切削しない非切削期間を周期的に生成することで、確実に切りくずを切断する断続切削が実現される。
【0007】
図1(b)は、振動送り切削における主軸回転角度(Spindle angle)と工具刃先の軸方向変位(Axial displacement)との関係を示す。ラインaは1回転目の刃先位置を、ラインbは2回転目の刃先位置を、ラインcは3回転目の刃先位置を示す。"Feed"は、1回転あたりの送り量(mm/rev)を示し、"Air cutting interval"は、刃先が送り方向に後退して被削材を切削しない非切削期間を示す。振動送り切削では、工具が被削材を切削する切削期間と、工具が被削材を切削しない非切削期間とが交互に繰り返されることで、被削材を断続的に切削して切りくずを切断し、切りくずが被削材や工具に絡みつくことを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2020/31582号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】笠原英志、「振動送り切削による切りくず切断」、昭和42年度精密機械学会春季学術講演会前刷,119
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
回転速度変動(切削速度変動)を利用した再生びびり振動の抑制手法においては、同じ回転位置における現在の回転速度と1回転前の回転速度の比である「速度変動比」が重要なパラメータであり、速度変動比が1から離れるほど、びびり振動の抑制効果は大きく、逆に速度変動比が1に近いほど、びびり振動が成長しやすくなる。
【0011】
通常の連続的な旋削加工で主軸の回転を加速し続けると、加工終了前に最大回転数に達したり、過度に高速切削となることで工具摩耗が激しくなる問題が生じる。また逆に主軸の回転を減速し続けると、加工終了前に回転停止に至ったり、加工能率の低下を招く問題が生じる。そのため回転速度変動を利用した再生びびり振動の抑制手法では、回転の加速と減速とを交互に繰り返す必要があるが、回転速度の増減が切り替わるときに速度変動比が1に近くなって、びびり振動が成長しやすくなる課題がある。
【0012】
一方、切りくずの絡みつきを防止する振動送り切削においては、加工期間中に非切削期間を周期的に設定するため、加工能率が低下しやすく、また送り速度が変動するため、仕上げ面粗さが加工箇所によって変動しやすくなる。仕上げ面粗さを許容値以下に抑えるためには1回転あたりの送り量を小さくすればよいが、1回転あたりの送り量を小さくすることは、加工能率の低下につながる。
【0013】
本開示はこうした状況に鑑みてなされており、その目的とするところは、再生びびり振動を効果的に抑制しつつ、切りくずの絡みつきを防止する切削加工技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の加工装置は、切削工具または被削材が取り付けられた主軸の回転を制御する主軸制御部と、被削材に対する切削工具の相対的な移動を制御する移動制御部と、を備える。主軸制御部は、切削工具が被削材を切削する切削期間において、同じ回転位置における現在の回転速度と1回転前の回転速度との比である速度変動比が、1より大きい第1閾値と1より小さい第2閾値の間の範囲から外れた値となるように、主軸の回転を加速または減速させる第1制御を実行し、切削工具が被削材を切削しない非切削期間において、主軸の回転を減速または加速させる第2制御を実行する。主軸制御部は、第1制御と第2制御とを交互に実行する。
【0015】
本開示の別の態様の加工方法は、被削材を切削する加工方法であって、切削工具が被削材を切削する切削期間において、同じ回転位置における現在の回転速度と1回転前の回転速度との比である速度変動比が、1より大きい第1閾値と1より小さい第2閾値の間の範囲から外れた値となるように、主軸の回転を加速または減速させる第1工程と、切削工具が被削材を切削しない非切削期間において、主軸の回転を減速または加速させる第2工程とを、交互に実行する。
【0016】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】振動送り切削を説明するための図である。
図2】実施形態の加工装置の概略構成を示す図である。
図3】従来の手法を説明するための図である。
図4】従来の手法を説明するための図である。
図5】実施形態の制御パターンを説明するための図である。
図6】実施形態の制御パターンの別の例を説明するための図である。
図7】実施形態の加工手法と従来の手法とを比較するための図である。
図8】解析結果を示す図である。
図9】実施形態の制御パターンの別の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図2は、実施形態の加工装置1の概略構成を示す。加工装置1は、被削材6に対して切削工具10の刃先を切り込ませて旋削加工する切削装置である。加工装置1はベッド5上に、被削材6を回転可能に支持する主軸台2および心押し台3と、切削工具10を支持する刃物台4とを備える。回転機構8は電動モータを有し、主軸台2の内部に設けられて、被削材6が取り付けられた主軸2aを回転させる。送り機構7は電動モータおよびボールねじ等を有し、ベッド5上に設けられて、被削材6に対して切削工具10を相対的に移動させる。この加工装置1では、送り機構7が刃物台4をX軸、Y軸、Z軸方向に移動させることで、被削材6に対して切削工具10を相対的に移動させる。ここでX軸方向は、水平方向であって且つ被削材6の軸方向に直交する切込み方向、Y軸方向は鉛直方向である切削方向、Z軸方向は、被削材6の軸方向に平行な送り方向である。
【0019】
制御部20は、回転機構8による主軸2aの回転を制御する主軸制御部21と、被削材6に対する切削工具10の相対的な移動を制御する移動制御部22とを備える。主軸2aの回転中、移動制御部22は、送り機構7を駆動して切削工具10を被削材6に切り込ませて、被削材6の加工を行わせる。加工装置1はNC工作機械であってよい。回転機構8および送り機構7は、それぞれ電動モータなどのアクチュエータを有し、主軸制御部21および移動制御部22は、それぞれアクチュエータへの供給電力を調整して、回転機構8および送り機構7のそれぞれの挙動を制御する。
【0020】
なお実施形態の加工装置1では被削材6が主軸2aに取り付けられて、回転機構8により回転させられるが、別の例では、切削工具10が主軸2aに取り付けられて、回転機構8により回転させられてもよい。また送り機構7は、被削材6に対して切削工具10を相対的に移動させればよく、切削工具10または被削材6の少なくとも一方を移動させる機構を有していればよい。
【0021】
このような加工装置1においては、主軸2aのある回転位置における現在の回転速度と1回転前の回転速度とを十分に異ならせれば、再生びびり振動が成長しないことが知られている。以下、同じ回転位置における現在の回転速度と1回転前の回転速度との比を「速度変動比」と呼ぶ。
速度変動比=(現在の回転速度/1回転前の回転速度)
【0022】
以下、再生びびり振動を効果的に抑制しつつ、切りくずの絡みつきを防止する切削加工を実現する回転機構8および送り機構7の制御パターンについて説明するが、その前に、比較例として、再生びびり振動を抑制する2つの従来の手法について説明する。図3は、主軸回転速度変動法で代表的な三角波変動パターンを利用した従来の手法1を説明するための図であり、図4は、特許文献1で提案された主軸回転速度の変動パターンを利用した従来の手法2を示すための図である。
【0023】
<従来の手法1>
図3(a)は、主軸回転速度の三角波変動パターンを示す。三角波変動パターンにおいては、回転を加速する加速期間と、回転を減速する減速期間とが交互に繰り返される。主軸回転速度は、加速期間において極小値から極大値まで線形に変化し、減速期間において極大値から極小値まで線形に変化する。加速期間の長さと減速期間の長さは等しく設定される。
【0024】
図3(b)は、三角波変動パターンにおける速度変動比の時間推移を示し、図3(c)は、びびり振動の振動量の変化を示す。びびり振動は、速度変動比が1に近い「びびり振動発生領域」で発生する。三角波変動パターンを利用する従来の手法1によると、主軸回転速度の極大値付近において、速度変動比が第1閾値Th_hを下回ったタイミングで、びびり振動の変位が増加し始め、速度変動比が第2閾値Th_lを下回ったタイミングで、びびり振動が収束し始める。図3(c)には、速度変動比が第1閾値Th_hとなるタイミングから、速度変動比が第2閾値Th_lとなるタイミングの間の期間Ih-lで、びびり振動が成長している様子が示される。
【0025】
<従来の手法2>
図4(a)は、特許文献1で提案された主軸回転速度の変動パターンを示す。図4(a)に示す主軸回転速度の変動パターンにおいては、回転を加速する加速期間と、回転を減速する減速期間とが交互に繰り返される。主軸回転速度は、加速期間において極小値から極大値まで変動し、減速期間において極大値から極小値まで変動する。加速期間の長さと減速期間の長さは等しく設定される。特許文献1で提案された変動パターンは、従来の手法1における三角波変動パターンの問題を解決する。
【0026】
図4(b)は、特許文献1で提案された回転速度変動パターンにおける速度変動比の時間推移を示す。従来の手法2では、速度変動比が1より大きい第1値(V1)となるように主軸の回転を加速させる加速制御と、速度変動比が1より小さい第2値(V2)となるように主軸の回転を減速させる減速制御とが交互に繰り返し実行される。
【0027】
びびり振動は、速度変動比が1に近い「びびり振動発生領域」で発生する。この例では、びびり振動発生領域が、1より大きい第1閾値Th_h以下であって、1より小さい第2閾値Th_l以上の範囲として定義されている。第1閾値Th_h、第2閾値Th_lは、シミュレーションにより算出されてよく、または実験により導出されてよく、または経験値でもよい。特許文献1で提案された主軸回転速度の変動パターンでは、加速制御における速度変動比(V1)を第1閾値Th_hより高く設定し、減速制御における速度変動比(V2)を第2閾値Th_lより低く設定することで、再生びびり振動の成長を抑制した加工を実現している。
【0028】
しかしながら図4(b)に示されるように、特許文献1で提案された変動パターンにおいても、速度変動比がびびり振動発生領域に含まれる期間が、非常に短いとは言え、加速と減速が切り替わるタイミングの直後に発生しており、改善の余地がある。また特許文献1で提案された変動パターンは、切りくずを連続して排出する加工で利用されることを前提としており、切りくずが被削材や工具に絡みつく問題を解決するものではない。
【0029】
そこで実施形態では、再生びびり振動をさらに効果的に抑制しつつ、切りくずの絡みつきを防止できる加工手法を提案する。提案する加工手法は、主軸回転速度を変動するだけでなく、送り速度も変動することを特徴とする。この加工手法では、加速期間または減速期間のいずれか一方のみで切削を行うことで、再生びびり振動を抑制し、加工期間中に、切削工具10が被削材6を切削しない期間を設けることで、切りくずを周期的に切断する断続切削を実現する。
【0030】
図5は、実施形態の加工手法における制御パターンの例を示す。実施形態の加工手法において、切削工具10が被削材6に食い込んで、被削材6を切削する期間を「切削期間」と呼び、切削工具10の刃先が被削材6に食い込まず、被削材6を切削しない期間を「非切削期間」と呼ぶ。
【0031】
図5(a)は、送り機構7により送られる刃先位置の変位を示し、図5(b)は、主軸回転速度の変動パターンを示し、図5(c)は、切削期間における速度変動比の推移を示す。なお速度変動比は、ある回転位置における現在の回転速度と1回転前の回転速度との比であり、主軸2aの1回転目の速度変動比は算出できないため、図5(c)において最初の1回転分の速度変動比は示されていない。また図5(c)において、1より大きい第1閾値Th_hは、びびり振動を生じさせる速度変動比の上限値であり、1より小さい第2閾値Th_lは、びびり振動を生じさせる速度変動比の下限値である。上記したように、第1閾値Th_h、第2閾値Th_lは、シミュレーションにより算出されてよく、または実験により導出されてよく、または経験値でもよい。
【0032】
<切削期間における制御>
切削期間において、移動制御部22は、切削工具10の刃先を被削材6に食い込ませ、主軸制御部21は、速度変動比が、第1閾値Th_hと第2閾値Th_lの間の範囲(びびり振動発生領域)から外れた値となるように、主軸2aの回転を加速させる第1制御を実行する。主軸制御部21が、速度変動比が「びびり振動発生領域」から外れた値となるように主軸2aの回転を制御することで、切削期間中のびびり振動の発生を抑制できる。実施形態で主軸制御部21は、時間0~t2の切削期間において加速制御を実行し、この例では、速度変動比が、第1閾値Th_hより大きい“1.03”に維持されている。主軸制御部21が、速度変動比がびびり振動発生領域から外れた値となるように主軸2aの回転速度を第1速度(ここでは、500rpm)から第2速度(ここでは、600rpm)まで変化させることで、びびり振動を効果的に抑制することが可能となる。
【0033】
切削期間の終了間際の時間t1において、移動制御部22は、送り機構7による切削工具10の送り運動の向きを反転し、具体的には切削工具10を送り方向の逆向きに後退させる。時間t1以降、工具刃先が被削材6に接触する面積(切削方向に見た接触領域の面積であり、「切削断面積」と呼ばれる)は次第に減っていき、時間t2で切削断面積がゼロになると、切りくずが切断されて、切削期間が終了する。このように実施形態の加工手法によれば、工具刃先を送り方向に後退させて、刃先が被削材6に接触する面積(切削断面積)をゼロにすることで、切りくずを切断する。
【0034】
送り運動の向きを反転する時間t1までの切削期間中、移動制御部22は、主軸1回転あたりの送り量が一定となるように、被削材6に対する切削工具10の相対的な移動を制御して、仕上げ面粗さを一定に保つことが好ましい。つまり移動制御部22は、主軸回転速度の増加率に合わせて、送り速度の絶対値を増加させて、1回転あたりの送り量を変化させないように制御する。このように移動制御部22が送り速度を制御することで、一定の仕上げ面粗さを実現することが可能となる。
【0035】
<非切削期間における制御>
時間t2で切削期間が終了すると、非切削期間が開始する。非切削期間中、移動制御部22は、切削工具10の刃先を被削材6から送り方向に離した状態を維持し、切削工具10の刃先が被削材6を切削しないようにする。つまり移動制御部22は、非切削期間中、切削工具10の刃先を被削材6に食い込ませず、切削断面積をゼロにする。図5(a)には、非切削期間中に、切削工具10が送り方向の逆向きに動かされ、非切削期間の略中央の時間で移動向きが反転して、送り方向に再び動かされる様子が示されているが、切削工具10は動かされ続ける必要はなく、被削材6を切削しない位置で静止されていてもよい。いずれにしても非切削期間中、移動制御部22は、切削工具10の刃先が被削材6に食い込まないように、切削工具10と被削材6との相対移動を制御する。
【0036】
非切削期間中、主軸制御部21は、主軸2aの回転を減速させる第2制御を実行する。第2制御において、主軸制御部21は、主軸2aの回転速度を第2速度(600rpm)から第1速度(500rpm)まで変化させる。加工能率を向上させるために、非切削期間は可能な限り短いことが好ましく、したがって主軸制御部21は、フルパワーで減速制御を実行して、主軸2aの回転速度を切削期間開始時の500rpmまで下げることが好ましい。つまり非切削期間は、切削期間よりも十分に短く設定されて、加工能率を向上させることが好ましい。理想的に非切削期間は、主軸2aの回転速度を、切削期間終了時の第2速度(600rpm)から次の切削期間開始時の第1速度(500rpm)に変化させる最短時間に設定される。図5に示す例では、主軸2aの回転速度が第1速度に戻された時間t3で非切削期間が終了し、次の切削期間が再開している。なお時間t3において、切削が、時間t2で切削を中断した回転位置から再開されるようにしてよい。
【0037】
以上のように主軸制御部21は、切削期間において第1制御を実行し、非切削期間において第2制御を実行し、第1制御と第2制御とを交互に繰り返し実行することで、被削材6を加工する。主軸制御部21および移動制御部22が、それぞれ同期して回転機構8および送り機構7を制御することで、びびり振動を抑制しつつ、切りくずを切断する断続切削を効果的に実現する。
【0038】
なお図5(c)を参照して、時間t3から開始される切削期間においては、最初の1回転目の速度変動比が、当該1回転分の回転速度と、時間t2で終了した切削期間における最後の1回転分の回転速度との比として算出される。したがって時間t3から開始される切削期間において、最初の1回転目の速度変動比は、約0.86と算出されている。この速度変動比は、第2閾値Th_lより小さく、したがって時間t3から開始される切削期間においても、速度変動比は、びびり振動発生領域から外れた値となり、びびり振動は抑制される。
【0039】
なお図5に示す制御パターンにおいて、主軸制御部21は、切削期間中、主軸2aの回転を加速させる第1制御を実行し、非切削期間中、主軸2aの回転を減速させる第2制御を実行している。変形例において主軸制御部21は、切削期間中、速度変動比がびびり振動発生領域から外れた値となるように、主軸2aの回転を減速させる第1制御を実行し、非切削期間中、主軸2aの回転を加速させる第2制御を実行してもよい。このように主軸制御部21は、第1制御において主軸2aの回転を加速させる場合には、第2制御において主軸2aの回転を減速させ、第1制御において主軸2aの回転を減速させる場合には、第2制御において主軸2aの回転を加速させてもよい。
【0040】
図6は、実施形態の加工手法における制御パターンの別の例を示す。
図6(a)は、送り機構7により送られる刃先位置の変位を示し、図6(b)は、主軸回転速度の変動パターンを示し、図6(c)は、切削期間における速度変動比の推移を示す。図6(c)において、1より大きい第1閾値Th_hは、びびり振動を生じさせる速度変動比の上限値であり、1より小さい第2閾値Th_lは、びびり振動を生じさせる速度変動比の下限値である。第1閾値Th_h、第2閾値Th_lは、シミュレーションにより算出されてよく、または実験により導出されてよく、または経験値でもよい。
【0041】
<切削期間における制御>
切削期間において、移動制御部22は、切削工具10の刃先を被削材6に食い込ませ、主軸制御部21は、速度変動比が、第1閾値Th_hと第2閾値Th_lの間の範囲(びびり振動発生領域)から外れた値となるように、主軸2aの回転を加速させる第1制御を実行する。切削期間における最初の1回転分の速度変動比は、第2閾値Th_lより小さい“0.91”に維持され、切削期間における2回転目からの速度変動比は、第1閾値Th_hより大きい“1.09”に維持されている。主軸制御部21が、速度変動比がびびり振動発生領域から外れた値となるように主軸2aの回転速度を第1速度(500rpm)から第2速度(600rpm)まで変化させることで、びびり振動を効果的に抑制することが可能となる。
【0042】
切削期間の終了間際において、移動制御部22は、送り機構7による切削工具10の送り運動の向きを反転し、切削工具10を送り方向の逆向きに後退させる。その後、工具刃先が被削材6に接触する面積(切削断面積)がゼロになると、切りくずが切断されて、切削期間が終了する。送り運動の向きを反転する時間までの切削期間中、移動制御部22は、主軸1回転あたりの送り量が一定となるように、被削材6に対する切削工具10の相対的な移動を制御して、仕上げ面粗さを一定に保つことが好ましい。
【0043】
<非切削期間における制御>
切削期間が終了すると、非切削期間が開始する。非切削期間中、移動制御部22は、切削工具10の刃先を被削材6から送り方向に離した状態を維持し、切削工具10の刃先が被削材6を切削しないようにする。
【0044】
非切削期間中、主軸制御部21は、主軸2aの回転を減速させる第2制御を実行する。第2制御において、主軸制御部21は、主軸2aの回転速度を第2速度(600rpm)から第1速度(500rpm)まで変化させる。加工能率を向上させるために、非切削期間は可能な限り短いことが好ましく、したがって主軸制御部21は、フルパワーで減速制御を実行して、主軸2aの回転速度を切削期間開始時の500rpmまで下げることが好ましい。つまり非切削期間は、切削期間よりも十分に短く設定されて、加工能率を向上させることが好ましい。
【0045】
以上のように主軸制御部21は、切削期間において第1制御を実行し、非切削期間において第2制御を実行し、第1制御と第2制御とを交互に繰り返し実行することで、被削材6を加工する。主軸制御部21および移動制御部22が、それぞれ同期して回転機構8および送り機構7を制御することで、びびり振動を抑制しつつ、切りくずを切断する断続切削を効果的に実現する。
【0046】
図5(b)に示す主軸回転速度の変動パターンと図6(b)に示す主軸回転速度の変動パターンを比べると、切削期間における速度変動比は異なっているが、非切削期間の長さ(非切削時の減速度)と、切削期間における回転速度範囲(500rpm~600rpm)は同一である。上記したように非切削期間は、加工能率を向上させるために可能な限り短いことが好ましいため、両方の変動パターンにおける非切削期間は、減速度の限界値で減速したときの期間として示されている。
【0047】
本開示者は、実施形態の加工手法(以下、「本加工手法」と呼ぶ)を、非切削時の減速度の大きさと回転速度範囲を一定とし、切削期間の速度変動比(1つの切削期間における2回転目以降の速度変動比)を変化させて時間領域解析を行った。解析に用いた比切削抵抗とモーダルパラメータの値を表1に示す。
【表1】
【0048】
なお本加工手法の解析結果と比較するために、回転速度変動を行わない通常の切削(以下、「通常切削」と呼ぶ)の解析と、三角波変動パターンを用いた回転速度変動を行う切削手法(従来の手法1として説明した手法。以下、「三角波変動切削」と呼ぶ)の解析も行った。本加工手法と三角波変動切削において、回転速度範囲は500rpm~600rmpとし、三角波変動切削における加速期間における加速度および減速期間における減速度は、本加工手法における非切削期間の減速度限界値と同じ絶対値とした。
【0049】
図7は、実施形態の加工手法と三角波変動切削の制御パターンを比較するための図である。図7においては、切削期間における2回転目以降の速度変動比が1.03になるときの実施形態の加工手法の制御パターンを示している。
図7(a)は、刃先位置の変位を示し、図7(b)は、主軸回転速度の変動パターンを示し、図7(c)は、切削期間における速度変動比の推移を示す。図7に示す本加工手法の制御パターンは、図5に示した制御パターン(切削期間における2回転目以降の速度変動比が1.03となる制御パターン。なお切削期間における1回転目の速度変動比は、前回の切削期間における最後の1回転の速度の影響を受ける)と同一である。なお三角波変動切削では、非切削期間が存在しないため、図7(c)において、三角波変動切削における速度変動比の推移は連続的に示される。
【0050】
通常切削における回転速度は、びびり振動安定性が500~600rpmの範囲内で最も高くなる561rpmに設定した。本加工手法、通常切削、三角波変動切削のすべてにおいて、切削時の送り量(1回転あたりの送り量)を0.05(mm/rev)とした。以上の条件で、本加工手法における切削期間の速度変動比(1つの切削期間における2回転目以降の速度変動比)を変化させて時間領域解析を行い、安定限界値を算出して、三角波変動切削、通常切削の解析値と比較した。
【0051】
図8(a)は、三角波変動切削からの上昇率を示す解析結果を、図8(b)は、通常切削からの上昇率を示す解析結果を示す。横軸は、本加工手法の切削期間における速度変動比を示す。図8(a)、(b)において、プロットされた○印は、安定限界(Stability limit)の上昇率を示し、×印は、加工能率(Machining efficiency)の上昇率を示す。本加工手法の速度変動比が大きくなるほど、安定限界、加工能率ともに上昇することが示される。
【0052】
実施形態の加工手法によると、たとえば切削期間の速度変動比が1.09のとき、びびり振動安定限界が、三角波変動切削に対して30倍以上増大し、通常切削に対して約80倍増大する。また切削期間の速度変動比が1.09のとき、加工能率は、三角波変動切削に対して約20倍向上し、通常切削に対して40倍以上向上する。以上のように本加工手法は、三角波変動切削、通常切削に対して、びびり振動安定限界および加工能率を大幅に向上させる効果を奏することが確認された。なお、この加工能率の計算では、本加工手法における非切削期間の存在による能率の低下も加味しており、その低下を補って余りある大きな能率の向上が得られることを意味している。
【0053】
以上、本開示を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。実施形態では、切削期間における速度変動比を一定としているが、速度変動比は、びびり振動発生領域から外れていればよく、速度変動比は必ずしも一定でなくてもよい。
【0054】
また実施形態では、切削期間において回転速度と送り速度の比率が一定となるように制御して、仕上げ面に残る送りマークを一定にすること(仕上げ面粗さを一定に保つこと)を説明した。
図9は、実施形態の加工手法における制御パターンの別の例を示す。
図9(a)は、送り機構7により送られる刃先位置の変位を示し、図9(b)は、主軸回転速度の変動パターンを示し、図9(c)は、切削期間における速度変動比の推移を示す。この例では、回転速度範囲が、500~1200rpmに拡大されている。図9(a)には、刃先位置が線形ではなく、非線形に変位する様子が示されているが、切削期間において送り速度を、主軸回転速度の速度変動比に応じて制御することで、仕上げ面粗さを一定に保つことが可能となる。
なお仕上げ面粗さを一定に保つ必要がなければ、回転速度と送り速度の比率を一定に制御しなくてもよい。
【0055】
実施形態では、切削期間から非切削期間に切り替える際(切削を中断する際)に、移動制御部22が切削工具10を送る向きを反転する例を示したが、移動制御部22が切削工具10を送り方向において後退させると同時に、切込みを減らす方向(仕上げ面から逃がす方向)に動かして、非切削期間中に切削工具10が仕上げ面を擦過しないようにしてもよい。
【0056】
主軸回転を加速から減速に切り替える際、実際には、加速度を減少して減速に転じるまでに、わずかながら時間を要する。このような加減速を切り替える期間では、速度変動比が1に近づくため、加減速を切り替える期間を非切削期間に含ませることが好ましい。この場合、主軸制御部21は、切削期間において、びびり振動発生領域から外れた値となるように、主軸2aの回転を加速させる第1制御を実行し、非切削期間において、主軸2aの回転の加速度を減少し、それから主軸2aの回転を減速させる第2制御を実行してよい。
【0057】
主軸回転を減速から加速に切り替える際にも、実際には、減速度を減少して加速に転じるまでに、わずかながら時間を要する。この切り替え期間においても速度変動比が1に近づくが、切削期間(第1工程)の最初の1回転で、前回の切削期間の最後の1回転との比となる速度変動比が元々1から十分に離れている場合(例えば図5の場合)、多少1に近づいても十分に高いびびり振動安定性を確保できるため、この切り替え期間のすべてまたは一部を切削期間の最初の1回転に含ませることができる。なお、この切り替え期間のすべてまたは一部を非切削期間に含ませてもよい。一方、切削期間の最初の1回転での速度変動比が元々1から十分に離れていない場合(例えば図6の場合)には、切削期間の最初の速度変動比が1に近づくことで他の切削期間よりびびり振動安定性が低下することを防ぐため、加減速を切り替える期間を非切削期間に含ませることが好ましい。
【0058】
なお主軸制御部21が、切削期間において、主軸2aの回転を減速させる第1制御を実行する場合、非切削期間において、主軸2aの回転の減速度を減少し、それから主軸2aの回転を加速させる第2制御を実行してよい。
【0059】
実施形態では旋削加工の例を示したが、本加工手法をミリングに適用してもよい。その場合、実施形態で説明したように、加速しながらミリングを行い、送り運動を反転して切削を中断し、非切削期間中に急減速した後、再び加速しながらミリングを行うことで、びびり振動安定性を大幅に向上することができる。なおミリングのように断続的な加工法では、切りくずの絡みつきが問題になることは少ないが、上記のように、非切削期間を設けることによる加工能率の低下を補って余りある能率の向上が得られるため、びびり振動安定性を向上する目的だけでも本加工手法をミリングに適用する価値が十分にある。
【0060】
実施形態の加工手法では、切削期間および非切削期間における回転速度、送り速度、切込み量の変動プロファイルと、振幅、周期など、数多くのパラメータが存在するが、それらは工作機械の性能(主軸および送り軸の最大加速度)、加工として望ましい回転速度および送り速度の範囲、さらに要求されるびびり振動安定性と切りくず分断の頻度などを考慮して決めることができる。また従来の手法との比較では、びびり振動安定性と加工能率だけを評価したが、実施形態の加工手法によると、切りくず分断による絡みつきの防止も同時に実現しており、また絡みつき防止のための振動送り切削で課題となる加工能率の低下についても、切込み量を増大してもびびり振動を生じないことで、克服することが可能となる。
【0061】
本開示の態様の概要は、次の通りである。
本開示のある態様の加工装置は、切削工具または被削材が取り付けられた主軸の回転を制御する主軸制御部と、被削材に対する切削工具の相対的な移動を制御する移動制御部と、を備える。主軸制御部は、切削工具が被削材を切削する切削期間において、同じ回転位置における現在の回転速度と1回転前の回転速度との比である速度変動比が、1より大きい第1閾値と1より小さい第2閾値の間の範囲から外れた値となるように、主軸の回転を加速または減速させる第1制御を実行し、切削工具が被削材を切削しない非切削期間において、主軸の回転を減速または加速させる第2制御を実行する。主軸制御部は、第1制御と第2制御とを交互に実行する。
【0062】
この態様によると、主軸制御部が切削期間において、速度変動比が第1閾値と第2閾値の間の範囲から外れた値となるように、主軸の回転を変動させる第1制御を実行することで、再生びびり振動の発生を効果的に抑制できる。また非切削期間を設けることで、切りくずを切断することができる。
【0063】
切削期間中、移動制御部は、切削工具の刃先を被削材に食い込ませ、非切削期間中、前記移動制御部は、切削断面積をゼロにする。切削期間中、移動制御部は、主軸1回転あたりの送り量が一定となるように、被削材に対する切削工具の相対的な移動を制御してよい。このように制御することで、仕上げ面粗さを一定に保つことが可能となる。
【0064】
第1閾値は、びびり振動を生じさせる速度変動比の上限値であり、第2閾値は、びびり振動を生じさせる速度変動比の下限値であってよい。第1閾値および第2閾値は、実験やシミュレーションにより求められてよい。主軸制御部は、主軸回転速度を第1速度から第2速度まで変化させる第1制御を実行し、主軸回転速度を第2速度から第1速度まで変化させる第2制御を実行してよい。主軸制御部は、第1制御において主軸の回転を加速させる場合には、第2制御において主軸の回転を減速させ、第1制御において主軸の回転を減速させる場合には、第2制御において主軸の回転を加速させてよい。非切削期間は、切削期間より短いことが好ましい。
【0065】
本開示の別の態様の加工方法は、被削材を切削する加工方法であって、切削工具が被削材を切削する切削期間において、同じ回転位置における現在の回転速度と1回転前の回転速度との比である速度変動比が、1より大きい第1閾値と1より小さい第2閾値の間の範囲から外れた値となるように、主軸の回転を加速または減速させる第1工程と、切削工具が被削材を切削しない非切削期間において、主軸の回転を減速または加速させる第2工程とを、交互に実行する。
【0066】
この態様によると、速度変動比が第1閾値と第2閾値の間の範囲から外れた値となるように、主軸の回転を変動させる第1工程を実行することで、再生びびり振動の発生を効果的に抑制できる。また非切削期間を設けることで、切りくずを切断することができる。
【符号の説明】
【0067】
1・・・加工装置、2a・・・主軸、6・・・被削材、7・・・送り機構、8・・・回転機構、10・・・切削工具、20・・・制御部、21・・・主軸制御部、22・・・移動制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9