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特開2023-152135脱色されたポリエステル系繊維製品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023152135
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】脱色されたポリエステル系繊維製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06L 1/02 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
D06L1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022062106
(22)【出願日】2022-04-01
(71)【出願人】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】末定 君之
(72)【発明者】
【氏名】紙谷 洋平
(72)【発明者】
【氏名】松田 光夫
(72)【発明者】
【氏名】中山 京
(57)【要約】
【課題】脱色されたポリエステル系繊維製品の製造方法を開示する。
【解決手段】本開示の製造方法は、染料により着色されたポリエステル系繊維製品を溶剤中で加熱すること、を含む。溶剤は、一般式(1)~(2)から選ばれる少なくとも一種の化合物を含む。加熱の温度は、100℃以上160℃以下である。
OOC-X-COOR ・・・(1)
-(AO)-COR ・・・(2)
Xは炭素数2~4のアルキレン基又はアルケニレン基であり、
は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基であり、
は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基であり、
AOは炭素数2~3のアルキレンオキシ基であり、
nは1~3の整数であり、
はRO基又はRCOO基であり、
は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基であり、
は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱色されたポリエステル系繊維製品の製造方法であって、
染料により着色されたポリエステル系繊維製品を溶剤中で加熱すること、を含み、
前記溶剤が、下記一般式(1)で表される化合物、及び、下記一般式(2)で表される化合物、からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含み、
前記加熱の温度が、100℃以上160℃以下である、
製造方法。
OOC-X-COOR ・・・(1)
-(AO)-COR ・・・(2)
一般式(1)において、
Xは炭素数2~4のアルキレン基又はアルケニレン基であり、
は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基であり、
は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基であり、
一般式(2)において、
AOは炭素数2~3のアルキレンオキシ基であり、
nは1~3の整数であり、
はRO基又はRCOO基であり、
は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基であり、
は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は脱色されたポリエステル系繊維製品の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート)は、その優れた特性により、繊維、フィルム、樹脂成形品等として広く用いられている。一方で、これらの製造工程で発生するポリエステル屑(繊維屑、フィルム屑、樹脂屑)や使用済みペットボトルのようなポリエスエル廃棄物の有効利用は、コスト面のみならず、環境面からも大きな課題となっている。ポリエステル廃棄物の有効利用方法として、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクル等が検討及び提案されている。
【0003】
ポリエステル廃棄物のマテリアルリサイクルに関しては、例えば、使用済みペットボトルのようなポリエステル成形品の廃棄物を対象に積極的な再利用が実施されている。また、ポリエステル廃棄物のケミカルリサイクルに関しては、例えば、ポリエステル廃棄物を原料モノマーに再生し、この再生された原料モノマーを、再度、重縮合反応させて、新たなポリエステルを製造することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、染料により着色されたポリエステル系繊維については、そのままの状態でマテリアルリサイクルやケミカルリサイクル等を行うことは困難である。染料により着色されたポリエステル繊維について、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクル等を行うためには、当該ポリエステル繊維から染料を除去することが重要である(例えば、特許文献2~4参照)。
【0005】
特許文献2には、繊維状ポリエステルから着色成分を抽出する際、加熱したエチレングリコールを溶剤として使用することが開示されている。
【0006】
特許文献3には、大気圧下での沸点が160℃以上であるグリコールエーテル系化合物を含有する脱色剤を準備し、当該脱色剤を160~210℃に加熱し、加熱された当該脱色剤に着色されたポリエステルを接触させることで、当該ポリエステルを脱色する方法が開示されている。
【0007】
特許文献4には、染着されたポリエステル繊維に対する染料抽出工程において、キシレン及びアルキレングリコールよりなる抽出溶剤を用いて、ポリエステルのガラス転移温度以上220℃以下で染料を抽出及び除去することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-088096号公報
【特許文献2】特開2005-330444号公報
【特許文献3】国際公開第2020/213032号
【特許文献4】国際公開第2007/018161号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らの新たな知見によると、染料により着色されたポリエステル系繊維を脱色する際、特許文献2に開示されているようなエチレングリコールを抽出溶剤として使用した場合、十分な染料の抽出効果(除去効果)を得ることができない。また、特許文献3に開示されたような炭素原子数が8~15であるグリコールモノエーテルを含有する脱色剤を用いる方法では、充分な染料の除去効果を得ることができない。また、特許文献3に開示された方法においては、加熱温度が高温であり、CO排出量も多く、環境負荷が大きいため、より低温での脱色技術が望ましい。さらに、特許文献4に開示されているキシレンは、PRTR法で第1種指定化学物質に指定されており、その使用を避けることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
脱色されたポリエステル系繊維製品の製造方法であって、
染料により着色されたポリエステル系繊維製品を溶剤中で加熱すること、を含み、
前記溶剤が、下記一般式(1)で表される化合物、及び、下記一般式(2)で表される化合物、からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含み、
前記加熱の温度が、100℃以上160℃以下であるもの、
を開示する。
【0011】
OOC-X-COOR ・・・(1)
-(AO)-COR ・・・(2)
一般式(1)において、
Xは炭素数2~4のアルキレン基又はアルケニレン基であり、
は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基であり、
は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基であり、
一般式(2)において、
AOは炭素数2~3のアルキレンオキシ基であり、
nは1~3の整数であり、
はRO基又はRCOO基であり、
は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基であり、
は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基である。
【発明の効果】
【0012】
本開示の方法によれば、染料によって着色されたポリエステル系繊維製品から当該染料を低温で抽出することができ、環境負荷も小さい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本願は、脱色されたポリエステル系繊維製品の製造方法を開示する。本開示の製造方法は、染料により着色されたポリエステル系繊維製品を溶剤中で加熱すること、を含む。ここで、前記溶剤は、下記一般式(1)で表される化合物、及び、下記一般式(2)で表される化合物、からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含む。また、前記加熱の温度は、100℃以上160℃以下である。
【0014】
OOC-X-COOR ・・・(1)
-(AO)-COR ・・・(2)
一般式(1)において、
Xは炭素数2~4のアルキレン基又はアルケニレン基であり、
は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基であり、
は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基であり、
一般式(2)において、
AOは炭素数2~3のアルキレンオキシ基であり、
nは1~3の整数であり、
はRO基又はRCOO基であり、
は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基であり、
は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基である。
【0015】
1.染料により着色されたポリエステル系繊維製品
本開示の製造方法は、染料により着色されたポリエステル系繊維製品から当該染料を抜く(脱色する)ことで、脱色されたポリエステル系繊維製品を製造するものである。染料により着色されたポリエステル系繊維製品は、例えば、以下の構成を採り得る。
【0016】
1.1 ポリエステル系繊維製品の素材
ポリエステル系繊維製品の素材は、ポリエステル繊維を含むものであればよい。当該素材は、ポリエステル繊維のみからなるものであってもよいし、ポリエステル繊維とその他の繊維とからなるもの(混紡、交撚、交織、交編等)であってもよい。
【0017】
1.2 ポリエステル系繊維製品の形態
ポリエステル系繊維製品の形態にも特に制限はなく、わた、糸、紐、織物、編物、不織布といった原料製品或いは半製品の形態であってもよいし、衣料品等の最終製品の形態であってもよい。
【0018】
1.3 染料
染料は、ポリエステル系繊維を着色するための染料として一般的なものであればよい。例えば、染料は分散染料であってもよい。分散染料の種類に特に制限はなく、アゾ系、キノン系のいずれであってもよい。分散染料としては、例えば、C.I. Disperse Blackに分類される化合物、C.I. Disperse Blueに分類される化合物、C.I. Disperse Redに分類される化合物、C.I. Disperse Orangeに分類される化合物、C.I. Disperse Yellowに分類される化合物,C.I. Disperse Greenに分類される化合物、C.I. Disperse Violetに分類される化合物、C.I. Disperse Brownに分類される化合物等が挙げられる。ポリエステル系繊維に対する染料の付着量についても特に限定されるものではない。
【0019】
2.溶剤
本開示の方法においては、染料により着色されたポリエステル系繊維製品から当該染料を抽出するための溶剤として、上記一般式(1)で表される化合物、及び、上記一般式(2)で表される化合物、からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含むものが用いられる。
【0020】
2.1 一般式(1)で表される化合物
上記一般式(1)において、Xは炭素数2~4のアルキレン基又はアルケニレン基である。Xがこれら以外の基である場合、溶剤に抽出された染料によってポリエステル系繊維が再汚染し易い。Xは直鎖のアルキレン基又はアルケニレン基であってもよいし、分岐を有するアルキレン基又はアルケニレン基であってもよい。Xが炭素数2~4のアルケニレン基である場合、当該アルケニレン基はビニレン基であることが好ましく、また、上記一般式(1)で表される化合物はシス体であってもトランス体であってもよい。
【0021】
上記一般式(1)において、Rは炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基であり、Rは炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基である。RやRがこれら以外の基である場合、溶剤に対する染料の溶解性が低下し、脱色効果が低下する。脱色後の洗浄除去が容易となる観点からは、Rが炭素数1又は2のアルキル基であってもよく、Rが炭素数1又は2のアルキル基であってもよい。RとRとは互いに同じ基であってもよいし、互いに異なる基であってもよい。R及びRがアルキル基である場合、当該アルキル基は、直鎖のアルキル基であってもよいし、分岐を有するアルキル基であってもよい。
【0022】
上記一般式(1)で表される化合物は、二塩基酸ジエステルに相当する化学構造を有する。このような化学構造を有する化合物の具体例としては、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、グルタル酸ジメチル、グルタル酸ジエチル、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジイソブチル、2-メチルグルタル酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等が挙げられる。上記一般式(1)で表される化合物が、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジイソブチル、グルタル酸ジメチル及び2-メチルグルタル酸ジメチルから選ばれる少なくとも一種である場合、一層高い脱色効果が発揮される。
【0023】
2.2 一般式(2)で表される化合物
上記一般式(2)において、AOは炭素数2~3のアルキレンオキシ基である。すなわち、エチレンオキシ基であってもよく、プロピレンオキシ基であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。AOが炭素数4以上のアルキレンオキシ基である場合、溶剤に抽出された染料によってポリエステル系繊維が再汚染し易い。
【0024】
上記一般式(2)において、nは1~3の整数である。特に、nが小さい場合に、より脱色効果が発揮され易い。この点、nは1又は2であってもよい。
【0025】
上記一般式(2)において、YはRO基又はRCOO基であり、Rは炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基であり、Rは炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基である。Y、R及びRがこれら以外の基である場合、溶剤に対する染料の溶解性が低下し、脱色効果が低下し易い。RとRとは互いに同じ基であってもよいし、互いに異なる基であってもよい。R及び/又はRがアルキル基である場合、当該アルキル基は、直鎖のアルキル基であってもよいし、分岐を有するアルキル基であってもよい。
【0026】
2.3 その他の成分
本開示の製造方法においては、上記一般式(1)で表される化合物や上記一般式(2)で表される化合物の中から少なくとも1種が選択されて、ポリエステル系繊維製品から染料を抽出する溶剤として用いられる。本開示の製造方法においては、溶剤が上記式(1)や(2)で表される化合物のみからなるものであってもよいし、当該化合物に加えてその他の成分が含まれるものであってもよい。本開示の製造方法において、溶剤に含まれる上記式(1)及び(2)で表される化合物以外のその他の成分の含有量は、特に限定されるものではない。本開示の製造方法においては、溶剤に含まれる上記式(1)や(2)の化合物の濃度が低くても高くても、脱色効果を発揮し得る。
【0027】
3.脱色処理
本開示の製造方法においては、染料により着色されたポリエステル系繊維製品が溶剤中で加熱されることにより、ポリエステル系繊維から溶剤へと染料が抽出され、ポリエステル系繊維が脱色される。
【0028】
3.1 加熱温度
脱色処理における加熱の温度は、100℃以上160℃以下である。例えば、脱色対象であるポリエステル系繊維製品を溶剤に浸漬した状態で、当該ポリエステル系繊維製品及び溶剤を100℃以上160℃以下の温度に加熱するとよい。或いは、100℃以上160℃以下の温度に保持された溶剤中に、脱色対象であるポリエステル系繊維製品を浸漬してもよい。加熱の温度が低過ぎると、溶剤に対する染料の溶解度が低く、十分な脱色効果が得られない。加熱の温度が高過ぎると、既存の設備では対応できない虞があり、また、エネルギー負荷が高く、CO排出量も多くなり易い。加熱の温度が100℃以上160℃以下であれば、これらの問題が解消され易い。加熱の温度は、好ましくは110℃以上150℃以下であり、より好ましくは120℃以上140℃以下である。
【0029】
3.2 加熱時間
脱色処理時、上記の加熱温度に到達してからの保持時間(加熱時間)は、特に限定されるものではない。加熱時間によって脱色の度合いが変化し得ることから、目的とする脱色の度合いに応じて、加熱時間が適宜決定されればよい。加熱時間が短過ぎると、脱色の度合いが小さくなる。加熱時間が長過ぎると、ポリエステル系繊維製品から溶剤へと抽出された染料が、ポリエステル系繊維製品に再付着する虞があり、脱色効率が悪化する虞がある。加熱時間は、例えば、10秒以上120分以下であってもよい。好ましくは、10分以上100分以下である。
【0030】
3.3 浴比
脱色されるポリエステル系繊維製品と溶剤との浴比(質量比)は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエステル系繊維製品:溶剤=1:5~1:500程度であってもよい。浴比が小さ過ぎると、ポリエステル系繊維製品を溶剤中で加熱することが困難となる。一方、浴比が過剰であっても脱色効果が飽和してコスト的に不利である。
【0031】
3.4 装置
脱色に用いられる装置としては、上記の溶剤中でポリエステル系繊維製品を加熱できるものであれば特に問わないが、商業的には液流染色機、チーズ染色機、ビーム染色機、パッケージ染色機、高圧噴射式染色機などが適している。
【0032】
4.その他の工程
本開示の製造方法は、上記の溶剤を用いた加熱による脱色処理を含むものであればよく、これに加えてその他の工程を含んでいてもよい。例えば、上記の脱色処理を行った後は、任意の冷却工程を経た後で、ポリエステル系繊維製品を洗浄して、ポリエステル系繊維から溶剤等を除去したうえで、乾燥させてもよい。例えば、上記の加熱による脱色処理を経たポリエステル系繊維製品を水洗したり、上記以外の溶剤に接触させることで、ポリエステル系繊維製品に付着した溶剤等を除去可能である。
【0033】
5.効果
以上の通り、本開示の製造方法においては、溶剤として比較的安全で環境に優しい化合物が用いられ、脱色処理時にVOCや有害物質が排出され難い。この点、本開示の製造方法によれば、環境に配慮したアップサイクルシステムを構築することが可能である。また、本開示の製造方法においては、100℃以上160℃以下の低温で脱色処理が可能であり、この点からも環境負荷が小さい。さらに、本開示の製造方法において用いられる溶剤は、ポリエステル系繊維を溶解させ難いものであり、脱色後のポリエステル系繊維の収率が高い。
【実施例0034】
以下、実施例を示しつつ本開示の技術による効果についてより詳細に説明するが、本開示の技術は以下の具体例に限定されるものではない。
【0035】
1.染料により着色されたポリエステル系繊維製品(ポリエステル染色物)の作成
ポリエステルジャージニット(75d、目付50g/m)を、浴比1:15になるように、下記表1に示される組成の染色浴1又は2に投入し、この染色浴を昇温速度2℃/分で60℃から130℃に昇温(昇温時間:35分)し、130℃で30分間保持した。その後、80℃に降温して、染色浴から該ニットを取り出した。次いで、取り出したニットを、下記表2に示される組成の還元洗浄浴を用いて還元洗浄(80℃、15分、浴比1:30)した後、水洗、脱水、乾燥して、ポリエステル染色物を得た。以下、染色浴1により得られた染色物を「染色物1」、染色浴2により得られた染色物を「染色物2」と記載する。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
2.ポリエステル染色物の脱色
ミニカラー染色機(テクサム技研製)のポットに、染色物1又は2であるニット3gと下記表3に示される溶剤150gとを入れ(浴比1:50)、昇温速度2℃/分で60℃から130℃に昇温し、130℃で30分保持した。その後冷却し、80℃でニットを取り出し、アセトン150gで、常温で10分間洗浄し、その後、常温で半日風乾し、ポリエステル脱色物を得た。以下、染色物1により得られた脱色物を「脱色物1」、染色物2により得られた脱色物を「脱色物2」と記載する。
【0039】
3.脱色性の評価
脱色物の脱色性について、下記の基準によって評価した。
【0040】
<判定基準>
(1)L値の測定
コニカミノルタ製測色機(SPECTROPHOTOMETER[CM-3700A])を用いて測色を行った。
・測定方法:反射
・ジオメトリ:di:8° de:8°
・正反射光処理:SCI
・測定径:LAV(25.4mm)
・UV条件:100%Full
【0041】
(2)脱色率の算出
染色物1又は2と、染色前の未染色物とのL値差から、染色の度合いを特定し、脱色物1又は2と、染色前の未染色物とのL値差から、脱色物における染色(染料残留)の度合いを特定し、その2つのL値差をもって、下記式に基づいて、脱色率(%)を算出した。算出された脱色率が70%以上である場合、脱色性が良好といえる。結果を下記表3に示す。尚、参考までにL値及び脱色率とともにb値も併記した。
脱色率(%)=100-100×[(未染色物のL値)-(脱色物のL値)]÷[(未染色物のL値)-(染色物のL値)]
【0042】
4.評価結果
下記表3に、評価結果を示す。また、下記表4に、染色前の未染色物についてのL値及びb値、並びに、染色物1及び2についてのL値及びb値を示す。
【0043】
【表3】
【0044】
表3において、「ニューソルブ RPDE」(日華化学社製)は、グルタル酸ジメチル63質量%と、コハク酸ジメチル24質量%と、アジピン酸ジメチル13質量%とからなる混合物である。
【0045】
【表4】
【0046】
実施例1及び実施例9にて用いたアジピン酸ジメチルは、下記一般式(1)で示される化合物であって、Xが炭素数4のアルキレン基であり、R及びRが炭素数1のアルキル基であるものに相当する。
実施例2、実施例8及び比較例4にて用いたアジピン酸ジイソブチルは、下記一般式(1)で示される化合物であって、Xが炭素数4のアルキレン基であり、R及びRが炭素数4のアルキル基であるものに相当する。
実施例3及び実施例9にて用いたグルタル酸ジメチルは、下記一般式(1)で示される化合物であって、Xが炭素数3のアルキレン基であり、R及びRが炭素数1のアルキル基であるものに相当する。
実施例4にて用いた2-メチルグルタル酸ジメチルは、下記一般式(1)で示される化合物であって、Xが炭素数4のアルキレン基であり、R及びRが炭素数1のアルキル基であるものに相当する。
実施例5にて用いたジプロピレングリコールジベンゾエートは、下記一般式(2)で示される化合物であって、AOが炭素数3のアルキレンオキシ基であり、nが2であり、YがRCOO基であり、Rがフェニル基であり、Rがフェニル基であるものに相当する。
実施例6にて用いたエチレングリコールジアセテートは、下記一般式(2)で示される化合物であって、AOが炭素数2のアルキレンオキシ基であり、nが1であり、YがRCOO基であり、Rが炭素数1のアルキル基であり、Rが炭素数1のアルキル基であるものに相当する。
実施例7にて用いたブチルジグリコールアセテートは、下記一般式(2)で示される化合物であって、AOが炭素数2のアルキレンオキシ基であり、nが2であり、YがRO基であり、Rが炭素数4のアルキル基であり、Rが炭素数1のアルキル基であるものに相当する。
実施例9にて用いたコハク酸ジメチルは、下記一般式(1)で示される化合物であって、Xが炭素数2のアルキレン基であり、R及びRが炭素数1のアルキル基であるものに相当する。
比較例1~3及び5にて用いた溶剤は、下記一般式(1)及び(2)で示される構造とは異なる構造を有するものであり、従来の溶剤に相当する。
【0047】
OOC-X-COOR ・・・(1)
-(AO)-COR ・・・(2)
【0048】
表3に示される結果から、以下のことが分かる。
【0049】
抽出溶剤としてエチレングリコールやポリオキシエチレン(7モル)ラウリルエーテルを使用した場合、十分な染料の抽出効果(除去効果)を得ることができず(比較例1及び4)、脱色時の加熱温度を高めたとしても染料の抽出効果は十分には高まらない(比較例3)。一方で、抽出溶剤としてキシレンを使用した場合、染料の抽出効果は高い(比較例2)。しかしながら、キシレンはPRTR法で第1種指定化学物質に指定されている化学物質であり、人体への影響や環境負荷が大きい。
【0050】
これに対し、実施例1~9のような所定の抽出溶剤を用いた場合、ポリエステル系繊維から染料を低温にて効率的に抽出することができることが分かる。ただし、抽出溶剤としてアジピン酸ジイソブチルを用いたとしても、脱色時の加熱温度があまりに低いと、十分な染料の抽出効果は得られない(比較例4)。
【0051】
以上の結果から、以下の要件(A)~(C)を満たす方法であれば、染料によって着色されたポリエステル系繊維製品から当該染料を低温で効率的に抽出及び脱色できることが分かる。
【0052】
(A)染料により着色されたポリエステル系繊維製品を溶剤中で加熱すること。
(B)前記溶剤が、下記一般式(1)で表される化合物、及び、下記一般式(2)で表される化合物、からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物を含むこと。
(C)前記加熱の温度が、100℃以上160℃以下であること。
【0053】
OOC-X-COOR ・・・(1)
-(AO)-COR ・・・(2)
一般式(1)において、
Xは炭素数2~4のアルキレン基又はアルケニレン基であり、
は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基であり、
は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基であり、
一般式(2)において、
AOは炭素数2~3のアルキレンオキシ基であり、
nは1~3の整数であり、
はRO基又はRCOO基であり、
は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基であり、
は炭素数1~4のアルキル基又はフェニル基である。